(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155341
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】トンネルの防災設備
(51)【国際特許分類】
A62B 3/00 20060101AFI20231013BHJP
【FI】
A62B3/00 C
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023138580
(22)【出願日】2023-08-29
(62)【分割の表示】P 2019159160の分割
【原出願日】2019-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003403
【氏名又は名称】ホーチキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079359
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 進
(74)【代理人】
【識別番号】100228669
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 愛規
(72)【発明者】
【氏名】梅原 寛
(57)【要約】
【課題】トンネル長手方向で、火災側の領域と火災でない側の領域とに仕切って遮煙、遮熱、遮炎した状態で、火災でない側の領域に安全な避難経路を確保する。
【解決手段】火災時に、火源100の位置を含む火災側の領域Fの上流側及び下流側の2箇所に位置する旋回型仕切装置16を、監視員通路14略直上のトンネル長手方向に沿った初期位置からトンネル長手方向に略直交するトンネル幅方向の旋回目標位置に旋回して仕切シート16aを展開し、併せて天井用仕切装置18、監視員通路用仕切装置20及び側壁用仕切装置22の仕切シート18a,20a,22aを展開して火災仕切区画15を形成し、消火用水を消火ヘッド26から散布して火災を消火抑制する。火災でない側の領域NFに位置する旋回型仕切装置16は、旋回せずに仕切シート16aを展開して監視員通路14上に避難仕切区画25を形成し、安全な避難経路を確保する。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
火源位置を含む火災側の領域と火災でない側の領域を分断し、少なくとも火災でない側の領域に避難仕切区画を形成するアーチ型トンネルの防災設備であって、
トンネル長手方向に沿って連続して配置され、火災時に、前記火災側の領域の上流側と下流側の少なくとも2箇所をトンネル長手方向に略直交する幅方向に、当該幅方向のアーチ状断面の下側中央部を矩形状に仕切って火災仕切区画を形成すると共に、前記火災でない側の領域で監視員通路側の領域と道路側の領域とを仕切って前記監視員通路上に避難仕切区画を形成する第1の仕切手段と、
前記第1の仕切手段により前記火災仕切区画又は前記避難仕切区画を形成したときに前記矩形状を除く部位に生ずるすき間であって、当該第1の仕切手段の上方の非矩形状となる天井側、並びに当該第1の仕切手段の左右方向となる前記監視員通路側及び当該監視員通路とは反対側の側壁面側を仕切る第2の仕切手段と、
を備えたことを特徴とするトンネルの防災設備。
【請求項2】
請求項1記載のトンネルの防災設備であって、
前記第1の仕切手段は、前記火災仕切区画を形成する前記トンネル長手方向に略直交する幅に略等しい間隔で前記トンネル長手方向に沿って連続して配置されたことを特徴とするトンネルの防災設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路の路肩に監視員通路が構築されたトンネルの防災設備に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車専用のトンネル内部は、
図15に示すように、避難時にも使用できる監視員通路200がトンネル側壁に沿って設けられている。トンネル側壁には例えば数百メートル間隔で避難連絡坑扉202が設けられ、監視員通路上から避難連絡坑扉202を開いて避難連絡坑に入り、避難坑を通ってトンネル外に脱出できる。
【0003】
またトンネル内には水噴霧設備が設けられ、火災検知器204が火災を検知すると、火災場所に対応した放水区画の自動弁装置を起動してトンネル天井側の水噴霧ヘッド206から消火用水を散布し、火災によるトンネル躯体等の損傷を抑制防止し、併せて火災の消火抑制を可能としている。
【0004】
またトンネル側壁には例えば50メートル間隔で消火栓装置208が設置され、火災時に消火栓扉を開いて内部のノズル付きホースを取り出し、火災場所近傍まで引き出して火源にノズルを向けて消火用水を放水することで消火を行うことができる。更に、トンネル内には照明装置210やジェットファンを用いた換気装置212が設置されている。
【0005】
このようなトンネル防災設備は、一度火災が発生すると、トンネル内に煙が充満し、特に天井に拡散した煙が冷やされると徐々に下降して視界が遮られ、監視員通路から非常口を通って避難することは困難を伴い、安全に避難できない可能性が残る。
【0006】
この問題を解決するためトンネル長手方向にカーテン巻出し装置を配列し、火災時にカーテン巻出し装置から路面に向けて防火カーテンを下ろして監視員通路と道路側を仕切って監視員通路側に避難空間を形成し、安全に避難可能とする設備が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-035147号公報
【特許文献2】特開平10-127809号公報
【特許文献3】特開2002-35147号公報
【特許文献4】韓国登録特許第10-1289864号公報
【特許文献5】韓国公開特許第10-2010-0088440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述した従来のトンネル防災設備にあっては、監視員通路の道路側を防火カーテンにより仕切ることで安全な避難経路を確保することが可能であるが、火災場所の横に降ろした防火カーテンは、火災の規模が大きくなると火災による熱や炎を直接受け続け、限界を超えた場合にはカーテンが焼損して破れ、破れた箇所から避難経路に煙が流入して安全性が失われる可能性がある。
【0009】
この問題を解決するためには、例えば、道路上の火災場所のトンネル長手方向上流側と下流側を防火カーテン等により仕切って消火用水を散布することで火災を消火抑制し、避難経路の安全性を確保する必要がある。
【0010】
なお、「上流側」、「下流側」とは、トンネル長手方向における相対位置を便宜的に示したもので、例えば車両が進行する向きに位置する方を下流側、その反対側を上流側とする。或いは、トンネル長手方向に流れる気流の上流側を「上流側」、気流の下流側を「下流側」としても良い。
【0011】
しかし、監視員通路を防火カーテンで仕切る避難設備に加え、火災場所の上流側と下流側を防火カーテンで仕切る防火設備を設けるとトンネルの設備コストが嵩み、また火災場所の上流側と下流側を防火カーテンで仕切るためには道路を横切る方向にカーテン巻出し装置を設置する必要があり、また、道路を覆うトンネル壁面の横断面は多くの場合アーチ型(扇形)であり、従来のカーテン巻出し装置では左右及び天井側に空き領域が発生し、そのままでトンネル横断面空間をすき間なく仕切ることはできない問題がある。
【0012】
本発明は、トンネル長手方向で、火災側の領域と火災でない側の領域とに仕切って遮煙、遮熱、遮炎した状態で、火災でない側の領域に安全な避難経路を確保するトンネルの防災設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(トンネルの防災設備:火災仕切区画と避難仕切区画の形成)
本発明は、火源位置を含む火災側の領域と火災でない側の領域を分断し、少なくとも火災でない側の領域に避難仕切区画を形成するアーチ型トンネルの防災設備であって、
トンネル長手方向に沿って連続して配置され、火災時に、火災側の領域の上流側と下流側の少なくとも2箇所をトンネル長手方向に略直交する幅方向に、当該幅方向のアーチ状断面の下側中央部を矩形状に仕切って火災仕切区画を形成すると共に、火災でない側の領域で監視員通路側の領域と道路側の領域とを仕切って監視員通路上に避難仕切区画を形成する第1の仕切手段と、
第1の仕切手段により火災仕切区画又は避難仕切区画を形成したときに矩形状を除く部位に生ずるすき間であって、当該第1の仕切手段の上方の非矩形状となる天井側、並びに当該第1の仕切手段の左右方向となる監視員通路側及び当該監視員通路とは反対側の側壁面側を仕切る第2の仕切手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0014】
(第1の仕切手段の配置)
第1の仕切手段は、火災仕切区画を形成するトンネル長手方向に略直交する幅に略等しい間隔でトンネル長手方向に沿って連続して配置される。
【0015】
(消火手段)
火災仕切区画内に消火剤を散布する消火手段を設ける。
【0016】
(仕切シートを展開する仕切手段)
第1の仕切手段は、
固定端と可動端を有し、固定端と可動端の初期位置がトンネル長手方向に沿うように監視員通路直上付近に配置され、通常時は可動端を初期位置に保持し、
火災時に、火災側の領域の上流側と下流側の少なくとも2箇所に位置するときは、固定端を中心に可動端をトンネル長手方向に略直交する幅方向の所定の旋回目標位置に旋回し、当該旋回目標位置まで旋回した状態で第1の仕切シートを展開して火災仕切区画を形成し、
火災時に、火災でない側の領域に位置するときは、初期位置を維持した状態で第1の仕切シートを展開して避難仕切区画を形成し、
第2の仕切手段は、火災時に第1の仕切手段の第1の仕切シートの展開で生じた所定のすき間に第2の仕切シートを展開して仕切る。
【0017】
(避難仕切区画の出入口)
第2の仕切手段は、避難仕切区画の出入口となる監視員通路側のすき間に、人の出入りを可能とする構造を有する第2の仕切シートを展開して仕切る。
【0018】
(仕切シート)
第1及び第2の仕切シートは、防火性、耐火性、耐熱性、遮熱性、遮炎性又は遮煙性を有する布状体を用いる。
【0019】
(冷却水の散布)
第1及び第2の仕切シートに冷却剤を散布する冷却手段を設ける。
【0020】
(仕切手段の冷却剤散布)
冷却手段は、第1及び第2の仕切シートの外側、内側、又は外側と内側の両方に冷却剤を散布する。
【0021】
なお、火災仕切区画を形成する場合、第1及び第2の仕切シートは火源位置に面したシート面を内側とし、その反対側のシート面を外側とする。また、監視員通路上に避難仕切区画を形成する場合、道路に面したシート面を内側とし、その反対側の監視員通路に面したシート面を外側とする。
【発明の効果】
【0022】
(基本的な効果)
本発明によれば、トンネル内の火源位置を含む火災側の領域と火災でない側の領域の境界を仕切って両領域を分断することで、火災でない領域に形成する避難経路に対し遮煙、遮熱及び遮炎を行って安全な避難経路を確保できる。
【0023】
(火災仕切区画と避難仕切区画の形成による効果)
トンネル長手方向で、火災側の領域の上流側と下流側を仕切る火災仕切区画を形成することで、火災でない側の領域に対し遮煙、遮熱及び遮炎を行い、同時に、火災でない側の領域の監視員通路上に避難仕切区画を形成することで、安全な避難経路を確保できる。なお、「上流側と下流側を仕切る」とは、トンネル長手方向に略直交する幅方向、即ち道路を横切る方向にトンネル断面を塞ぐように仕切ることをいう。
【0024】
(消火手段の効果)
また、火災側の領域の上流側と下流側を仕切った火災仕切区画内に消火剤を散布することで、迅速且つ確実に火災を消火し、また火災の抑制を可能とし、更に、水損を抑えることを可能とする。
【0025】
ここで、火災の消火抑制とは、火災を消火する概念と火災を抑制する別の概念を併せたものである。例えば、火災の消火とは燃焼を鎮火させる概念であり、火災の抑制とは火災の延焼拡大を抑制する概念である。勿論、どちらか一方となる場合も含む。
【0026】
(仕切シートを展開する仕切手段の効果)
また、第1の仕切手段は横旋回型のクレーンとして機能し、火災時に火災側の領域の上流側と下流側の2箇所でトンネル長手方向に沿った初期位置からトンネル幅方向の旋回目標位置に旋回して第1の仕切シートを展開することで、火災側の領域を上流側と下流側の2箇所で仕切って閉鎖された火災仕切区画を簡単且つ確実に形成することができる。また、火災でない側の領域では初期位置を維持した状態で第1の仕切シートを展開することで監視員通路上に閉鎖された避難仕切区画を簡単且つ確実に形成することができる。このとき第2の仕切手段は第2の仕切シートを展開して第1の仕切シートの展開で生じた所定のすき間を確実に仕切ることができる。
【0027】
また、火災仕切区画と避難仕切区画の形成を第1の仕切手段で選択的に行うことで、設備構成を簡単にしてコストの低減を可能とする。
【0028】
また、第1の仕切手段は、通常状態(初期状態)で、トンネル長手方向に沿った監視員通路略直上の初期位置にあることから、車両の流れを妨げることがない。
【0029】
(避難仕切区画の出入口の効果)
また、例えば縦方向に複数のスリットを入れる等した第2の仕切シートで監視員通路上に形成された避難仕切区画の出入口を仕切ることで、避難経路となる避難仕切区画に対して遮煙した状態で人の出入りを容易にする。
【0030】
(仕切シートの効果)
また、布状体である仕切シートは柔軟性があるので、長めに採寸しておくとすき間の発生を抑制することができ、防火性、耐火性、耐熱性、遮熱性、遮炎性又は遮煙性等の低減度合いが向上する。また、仕切った避難仕切区画への移動(避難)も容易になる。
【0031】
(冷却剤の散布の効果)
また、火災仕切区画を形成する第1及び第2の仕切シートに冷却剤を散布することで、第1及び第2の仕切シートの防火性、耐火性、耐熱性、遮熱性、遮炎性又は遮煙性をさらに高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】トンネルの防災設備の実施形態を示した説明図
【
図2】火災時に仕切シートを展開してトンネル内に火災仕切区画及び避難仕切区画を形成した状態を示した説明図
【
図3】旋回目標位置まで旋回した旋回型仕切装置のシート展開前の状態を示した説明図
【
図6】監視員通路用仕切装置の実施形態を示した説明図
【
図8】火災仕切区画を形成する仕切シートの展開状態を示した説明図
【
図9】防災受信盤による防災設備の制御系統を示したブロック図
【
図10】通常時のトンネル内の防災設備を示した説明図
【
図11】火災時にトンネル内に火災仕切区画と避難仕切区画を形成する防災設備の制御状態を示した説明図
【
図12】旋回型仕切装置の設置間隔と火災検知器の設置間隔が異なる場合の火災仕切区画と避難仕切区画の形成を示した説明図
【
図13】火災時にトンネル内を火災側の領域と火災でない側の領域に分断する防災設備の制御状態を示した説明図
【
図14】火災時に火源が位置する区画の一つ外側の区画境界を仕切って火災仕切区画を形成する防災設備の制御状態を示した説明図
【
図15】従来のトンネル内の防災設備を示した説明図
【発明を実施するための形態】
【0033】
[防災設備の概要]
図1はトンネルの防災設備の実施形態を示した説明図、
図2は火災時に仕切シートを展開してトンネル内に火災仕切区画及び避難仕切区画を形成した状態を示した説明図である。なお、
図2の仕切シートは透過状態としている。また、トンネル10内には、火災検知器92、消火ヘッド26、消火栓装置24等が設けられるが、従来例の
図13に対し、水噴霧ヘッド、照明装置、換気装置の図示を省略している。
【0034】
図1に示すように、本実施形態の防災設備は、道路12を有するトンネル10の一方の側壁に沿って設けられた監視員通路14の直上付近のトンネル壁面、例えば監視員通路14の道路12側の略垂直な法面14aの直上付近のトンネル壁面に、第1の仕切手段として機能する旋回型仕切装置16をトンネル長手方向に沿って連続して配置し、旋回型仕切装置16は仕切シートをロール状に巻いた状態で保持している。
【0035】
旋回型仕切装置16は、トンネル壁面に一端を固定端16bとして軸支し、他端を可動端16cとし、通常状態(初期状態)で固定端16bと可動端16cを結ぶ方向即ち図示の旋回型展開装置16の長手方向とトンネル長手方向(車線方向)とが略平行になるように配置している。このとき可動端16cが位置する位置が初期位置である。
【0036】
一方、火災時には、
図2に示すように、道路12上の火源100の位置(火源位置)を含む火災側の領域(火災検知器92による火災の検知エリアに対応する領域)の上流側と下流側の2箇所の旋回型仕切装置16について、固定端16bを中心に可動端16cを所定の旋回目標位置、例えばトンネル幅方向において固定端16cに略対向するトンネル側壁面のストッパー17を配置した旋回目標位置まで旋回する。このため旋回型仕切装置16の可動端16cの旋回目標位置は、例えばトンネル幅方向において固定端16bの位置に対し道路12を挟んで対向した位置である。
【0037】
続いて旋回目標位置に旋回した旋回型仕切装置16は、仕切シートの保持を解除してシート下辺を落下させることで仕切シート16aを展開し、火源位置を含む火災側の領域を上流側と下流側の2箇所で、トンネル幅方向(道路12を横切る方向)で仕切って火災仕切区画15を形成する。
【0038】
旋回型仕切装置16(の可動端16c)を旋回目標位置に旋回して仕切シート16aを展開した場合、仕切シート16aのトンネル幅方向の両側及び上部(天井側)にすき間が発生する。
【0039】
このすき間を閉鎖するため、
図1に示すように、トンネル壁面のトンネル幅方向に沿ってトンネル天井部壁面に天井用仕切装置18、また、トンネルの両側壁面にはそれぞれ監視員通路用仕切装置20及び側壁用仕切装置22を配置し、
図2に示すように、それぞれの仕切シート18a,20a,22aを展開する。このため天井用仕切装置18、監視員通路用仕切装置20及び側壁用仕切装置22は、旋回型仕切装置16(第1の仕切手段)の仕切シート16aの展開で生じたすき間を仕切る第2の仕切手段として機能する。
【0040】
ここで、図示の2車線のトンネル10の場合、トンネル幅方向は例えば約12メートル程度となり、旋回型仕切装置16の固定端16bから可動端16cまでの長さは、監視員通路14の通路幅等を除いた約10メートル程度となる。
【0041】
一方、
図2に示すように、旋回目標位置に旋回して仕切シート16aを展開した旋回型仕切装置16以外の、火災でない側の領域に位置する旋回型仕切装置16は、旋回せずに仕切シート16aを展開して道路12側と監視員通路14側を仕切ることで、監視員通路14上に避難経路となる避難仕切区画25をトンネル長手方向に形成する。同時に、避難仕切区画25の出入口(長手方向両端)に位置した監視員通路用仕切装置20の仕切シート20aを展開し、仕切シート20aには例えばスリット58を備え、避難仕切区画25に対する人の出入りを容易にする。なお、避難仕切区画25の出口側は、必ずしも監視員通路用仕切装置20の仕切シート20aを展開しなくても良い。
【0042】
また、トンネル長手方向の監視員通路14側の壁面に沿って火災検知器92が所定間隔で設置される。火災検知器92は上流側用と下流側用の2組の火災検知部を備え、隣接して配置される他の火災検知器との検知エリアが相互補完的に重複するように、即ち1台の火災検知器92の上流側の検知エリアと、この上流側に隣接する火災検知器92の下流側の検知エリアとが重複するように、連続的に配置され、自己の検知エリア内で起きた火災炎からの赤外線を観測して火災を検知する。
【0043】
本実施形態では、説明を容易にするため、旋回型仕切装置16の設置間隔と火災検知器92の設置間隔を同じにし、隣接する火災検知器92の検知エリアの境界に対応して旋回型仕切装置16が配置されているものとする。
【0044】
[旋回型仕切装置]
図3は旋回目標位置まで旋回した旋回型仕切装置のシート展開前の状態を示した説明図、
図4は旋回型仕切装置の実施形態を示した説明図であり、
図4(A)に通常状態を示し、
図4(B)に仕切シートの展開状態を示し、
図4(C)に下側から見た平面を示す。
【0045】
(旋回型仕切装置の構造)
旋回型仕切装置16は、
図3及び
図4(A)に示すように、本体28、旋回駆動部30、仕切シート16aを備える。本体28は旋回クレーンとして動作し、トンネル壁面に固定部31により設置された旋回駆動部30により固定端16bを中心に可動端16cを旋回自在とし、可動端16cを本体28の長手方向が
図1に示したトンネル長手方向と略平行になる初期位置から、固定端16bの位置に対し道路12を挟んで対向する壁面位置に設けたストッパー17の位置となる旋回目標位置に旋回させる。
【0046】
ここで、本体28の旋回駆動部30は任意の旋回機構を備えており、例えば水圧駆動型のロータリーアクチュエータ等を使用する。また、電動型のロータリーアクチュエータを使用しても良いし、ワイヤーロープの巻き取り・巻出しによる旋回駆動機構としても良い。
【0047】
図4(A)に示すように、本体28の下部には筐体32を固定し、筐体32に仕切シート16aの一端辺をシート固定部35により固定し、仕切シート16aはロール状に巻き回された状態で筐体32の下側にワイヤ又はロープを用いたシート保持部材34により複数箇所で吊下げ状態で保持している。
【0048】
シート保持部材34は一端が筐体32に固定され、他端が仕切シート16aの下側を通して筐体32のシート展開部36に着脱自在に保持される。シート展開部36は、防災受信盤からの制御信号による例えばソレノイドの通電によりシート保持部材34の保持を解除する。
【0049】
仕切シート16aは、防火性、耐火性又は耐熱性を有する布状体であり、例えば1200℃の高熱に耐えることができ、耐火シート、耐火カーテン、耐火幕等とも呼ばれる。なお、仕切シート16aは、例えば数百度以上の耐熱性能を持つものであれば良い。また、仕切シート16aは遮熱性、遮炎性、遮煙性等を有する。
【0050】
旋回型仕切装置16は、防災受信盤からの制御信号によりシート展開部36を作動してシート保持部材34の一端の保持を解除すると、
図4(B)に示すように、仕切シート16aの一辺(上辺)が筐体32に固定された状態で反対側の他辺(下辺)側が自重により落下して上下方向に展開する。なお、仕切シート16aの下辺側には所定の重り部材を設けても良く、このようにすれば、仕切シート16aの下辺側の落下、また仕切シート16aの展開後の安定を補助することができる。
【0051】
ここで、
図4(B)のように展開した仕切シート16aの上下の長さは、旋回型仕切装置16の設置高さよりも長めに採寸する。このため道路12に車両等があっても、落下展開したときに仕切シート16aの弛みにより隙間ができにくくなる。
【0052】
なお、旋回型仕切装置16としては、他の適宜の構造を適用でき、仕切シート16aを回転軸に巻き、回転軸のラッチを解除して仕切シート16aを展開させる構造としても良いし、モータ駆動により巻出し巻き取りする構造としても良い。また、旋回型仕切装置16の仕切シート16aを蛇腹状に折り畳んだ状態で保持し、保持を解除して展開させる構造としても良い。
【0053】
(冷却剤散布ヘッド)
図4に示すように、旋回型仕切装置16には、筐体32の両側に取り出された配管に冷却手段として機能する冷却剤散布ヘッド38を接続している。冷却剤散布ヘッド38には開閉弁40を介して筐体32内を通した給水配管42を接続し、ポンプ設備からの供給を受けて、
図4(B)のように展開した仕切シート16aのシート面に冷却剤として例えば消火用水(冷却水)を散布する。
【0054】
また、仕切シート16aは布織目の表面に樹脂等をコーティングしたものとコーティングしていないものがあり、非コーティングの仕切シート16aを使用した場合、冷却剤散布ヘッド38から散布された冷却水は、展開した仕切シート16aのシート面を濡らし、散布した冷却水を布の織目構造をもつ仕切シート16aに含浸し、シート面に沿って流れ落ちる。
【0055】
このような冷却水の含浸とシート面に沿った流下により、仕切シート16aの布織目の隙間が閉鎖され、遮煙性が向上し、仕切シート16aの外側への煙の拡散がよりいっそう抑制される。また、仕切シート16aが冷却され、遮炎性と遮熱性が高められる。また、熱による仕切シート16aの損傷が抑制される。
【0056】
また、本実施形態にあっては、
図3に示すように、旋回型仕切装置16に上向きに冷却剤散布ヘッド38を設け、後述する天井用仕切装置18により展開した仕切シート18aのシート面にも冷却剤として消火用水(冷却水)を散布する。
【0057】
また、旋回型仕切装置16の両端側でトンネル側壁側へ向けて斜め下向きに冷却剤散布ヘッド38を設けており、後述する監視員通路用仕切装置20及び側壁用仕切装置22により展開した仕切シート20a,22aのシート面に冷却剤として消火用水(冷却剤)を散布する。
【0058】
なお、展開した仕切シート16a,18a,20a,22aに対し、シート面の内側又は外側に冷却水を散布しても良いし、シート面の内側と外側の両方に冷却水を散布しても良い。ここでは、火災側の領域に面したシート面を内側とし、その反対側のシート面を外側とする。
【0059】
[天井用仕切装置]
図5は天井用仕切装置の実施形態を示した説明図であり、
図5(A)はシート保持状態を示し、
図5(B)はシート展開状態を示す。なお、
図5は天井中心線a-a’の監視員通路側(図示で左側)に設けた天井用仕切装置18の構造を示している。
【0060】
図5に示すように、天井用仕切装置18は、トンネル天井側壁面のトンネル幅方向に沿って配置される。天井用仕切装置18は、天井中心線a-a’に対しトンネル幅方向両側(図示で左右両側)に分けて対称に設けられ、扇構造を利用して仕切シート18aを展開する。
【0061】
天井用仕切装置18は、監視員通路側(図示で左側)を例にとると、トンネル天井の壁面に沿って下側に開いた収納ケース44を固定し、収納ケース44の図示で左下端の軸48に、複数本の骨アーム46、例えば3本の骨アーム46の一端を回動自在に軸支している。骨アーム46は天井側の壁面アーチと略同じ湾曲形状であり、
図5(B)の展開状態に示すように、骨アーム46を仕切シート18aに固定している。
【0062】
骨アーム46を、軸48を中心に上向きに回動させると、仕切シート18aは骨アーム46の間の点線で示す折り目52で折り畳まれながら収納ケース44に収納される。
【0063】
収納ケース44内に収納された仕切シート18aの保持はラッチピン50で行う。ラッチピン50は収納ケース44の軸48を設けたのと反対側の一端に配置したソレノイド駆動部(図示せず)に出没自在に設けている。
【0064】
図5(A)に示すように、収納ケース44に収納された仕切シート18aの骨アーム46の先端下側にラッチピン50が位置し、通常状態で仕切シート18aを収納ケース44内に保持している。
【0065】
ラッチピン50は防災受信盤からの制御信号によるソレノイドの駆動によりソレノイド駆動部に引き込まれ、これにより骨アーム46の先端の保持を解除し、骨アーム46が自重により軸48を中心に下向きに回動し、
図5(B)に示すように、仕切シート18aは扇が開くように展開し、旋回型仕切装置16の仕切シート16aを展開したときに生じる(仕切れない)天井側のすき間を仕切る。
【0066】
なお、仕切シート18aを確実に展開するため、軸48に骨アーム46を展開方向に付勢するコイルバネ等の付勢手段を設けても良い。
【0067】
また、
図5(B)に示す仕切シート18aの展開状態で最下部に位置する骨アーム46の軸48側には、骨アーム46と旋回型仕切装置16との間に生ずる円弧状のすき間を仕切るシート張出部18bを設けている。
【0068】
また、監視員通路と反対側(図示で右側)の天井用仕切装置18は、
図5に示した図示で左側の扇構造を天井中心線a-a’に対し線対称とした構造となるが、図示を省略している。
【0069】
また、本実施形態は、扇構造を利用した天井用仕切装置18としているが、これに限定されず、通常時は仕切シートを天井面側に非展開で保持し、火災時に仕切シートを展開するものであれば適宜の構造を適用できる。
【0070】
[監視員通路用仕切装置]
図6は監視員通路用仕切装置の実施形態を示した説明図であり、
図6(A)にシート保持状態を示し、
図6(B)にシート展開状態を示す。
【0071】
図6(A)に示すように、監視員通路用仕切装置20は、監視員通路14側の側壁面にトンネル幅方向に沿って配置される。例えば、監視員通路用仕切装置20は、監視員通路14側のトンネル壁面に沿って道路12側に開いた収納ケース54を配置し、
図6(B)に示す展開状態にある仕切シート20aの壁面側の周縁を収納ケース54内に固定し、仕切シート20aの道路12側の周縁から畳込むことで収納ケース54に収納している。
【0072】
収納ケース54内に収納された仕切シート20aの保持は、最上端の軸53に続いて配置した複数のラッチピン56で行う。ラッチピン56はそれぞれに対応して収納ケース54に設けたソレノイド駆動部(図示せず)に出没自在に設けている。
【0073】
図6(A)に示すように、収納ケース54に収納された仕切シート20aのケース開口側(図示で右側)にラッチピン56が位置し、仕切シート20aを保持している。
【0074】
ラッチピン56は防災受信盤からの制御信号によるソレノイドの駆動によりソレノイド駆動部に引き込まれ、これにより仕切シート20aの保持が解除され、
図6(B)に示すように、仕切シート20aをトンネル幅方向に展開し、旋回型仕切装置16の仕切シート16aを展開したときに生ずる(仕切れない)監視員通路14側のすき間を仕切る。また展開した仕切シート20aにはスリット58が設けられ、人の通過を容易とする。
【0075】
また、
図6(B)の展開状態で示すように、収納ケース54の上部の軸53に付勢アーム55の一端がコイルスプリング等によりトンネル幅方向に向けて付勢された状態で軸支され、付勢アーム55には仕切シート20aの図示で右側上縁が固定され、
図6(A)のシート保持状態で付勢アーム55は一番上のラッチピン56により保持されている。
【0076】
防災受信盤からの制御信号によるソレノイドの駆動によりラッチピン56がソレノイド駆動部に引き込まれると、付勢アーム55の保持が解除されて軸53を中心にトンネル幅方向に回動し、これにより収納ケース54に畳み込まれていた仕切シート20aを、監視員通路14を仕切るように展開する。
【0077】
なお、本実施形態の監視員通路用仕切装置20としては、通常時は仕切シートを監視員通路14側の壁面に非展開で保持し、火災時に仕切シートを展開するものであれば、適宜の構造を適用できる。
【0078】
[側壁用仕切装置]
図7は側壁用仕切装置の実施形態を示した説明図であり、
図7(A)にシート保持状態を示し、
図7(B)にシート展開状態を示す。
【0079】
図7(A)に示すように、側壁用仕切装置22は、監視員通路14とは反対側の側壁面に沿って所定位置に配置される。例えば側壁用仕切装置22はトンネル側壁面に沿って道路12側に開いた収納ケース60を配置し、
図7(B)に示す展開状態にある仕切シート22aの壁面側の周縁を収納ケース60内に固定し、仕切シート22aの道路側の周縁から点線で示す折り目64で畳み込むことで収納ケース60に収納している。
【0080】
収納ケース60内の収納された仕切シート22aの保持は、最上端の軸63に続いて配置した複数のラッチピン62で行う。ラッチピン62はそれぞれに対応して収納ケース60に設けたソレノイド駆動部(図示せず)に出没自在に設けている。
【0081】
図7(A)に示すように、収納ケース60に収納された仕切シート22aのケース開口側(図示で左側)にラッチピン62が位置し、仕切シート22aを収納ケース60内に保持している。
【0082】
ラッチピン62は防災受信盤からの制御信号によるソレノイドの駆動によりソレノイド駆動部に引き込まれ、これにより仕切シート22aの保持が解除され、
図7(B)に示すように、仕切シート22aをトンネル幅方向に展開し、旋回型仕切装置16の仕切シート16aを展開したときに生ずる(仕切れない)監視員通路14側とは反対側の側壁面との間のすき間を仕切る。
【0083】
また、
図7(B)の展開状態に示すように、収納ケース60の上部の軸63に付勢アーム65の一端がコイルスプリング等によりトンネル幅方向に向けて付勢された状態で軸支され、付勢アーム65には仕切シート22aの図示で左側上縁が固定され、
図7(A)のシート保持状態で付勢アーム65は一番上のラッチピン62により保持されている。
【0084】
防災受信盤からの制御信号によるソレノイドの駆動によりラッチピン62がソレノイド駆動部に引き込まれると付勢アーム65の保持が解除されて軸63を中心にトンネル幅方向に回動し、これにより収納ケース60に収納されていた仕切シート22aを、監視員通路14側と反対側の側壁面と、展開した仕切シート16aとの間のすき間を仕切る位置に展開する。
【0085】
なお、本実施形態の側壁用仕切装置22としては、通常時は仕切シートを監視員通路14の反対側の壁面の収納ケース60に非展開で保持し、火災時に仕切シートを展開するものであれば適宜の構造を適用できる。
【0086】
[トンネル空間の仕切り]
図8は火災仕切区画を形成する仕切シートの展開状態を示した説明図である。
図8に示すように、旋回型仕切装置16は旋回状態で可動端16cが固定端16bに対向したトンネル幅方向の旋回目標位置に配置したストッパー17で係止され、仕切シート16aを展開してトンネル内を火災側の領域と火災でない側の領域に仕切る。天井用仕切装置18は仕切シート18aを展開して仕切シート16aの天井側のすき間を仕切る。
【0087】
監視員通路用仕切装置20は仕切シート20aを展開して仕切シート16aの展開で監視員通路14側に生じたすき間を仕切る。側壁用仕切装置22は仕切シート22aを展開して仕切シート16aの展開で監視員通路14とは反対側の側壁との間に生じたすき間を仕切る。
【0088】
また、展開した仕切シート16a,18a,20a,22aのシート面の内側と外側の一方又は両方には冷却剤散布ヘッド38から消火用水を冷却水として散布する。
【0089】
[防災設備の制御系統]
(制御系統の概要)
図9は防災受信盤による防災設備の制御系統を示したブロック図である。
図9に示すように、防災受信盤70からトンネル10に引き出された信号線90に複数の火災検知器92(92-1.92-2,92-3・・・)を接続している。
【0090】
火災検知器92はトンネル長手方向の壁面に沿って所定間隔で配置され、隣接して配置される火災検知器との検知エリアが相互補完的に重複するように連続的に配置され、火源位置を含む火災側の領域である検知エリア内の火災炎からの赤外線を観測して火災を検知する。火災検知器92には固有のアドレスが設定され、防災受信盤70との間で所定の伝送方式により信号を送受信する。
【0091】
また、防災受信盤70に対しては、換気設備72、警報表示板設備74、ラジオ再放送設備76、テレビ監視設備78及び照明設備80、IG子局設備82、ポンプ設備88等が設けられる。IG子局設備82は防災受信盤70と外部に設けた上位設備である遠方監視制御設備86とをネットワーク84を経由して結ぶ通信設備である。
【0092】
また、トンネル10には、非常用設備として、火災通報のために手動通報装置や非常電話が設けられ、火災の消火や延焼防止のために消火栓装置が設けられ、更にトンネル躯体やダクト内を火災から防護するために水噴霧ヘッドから消火用水を散水させる水噴霧設備等が設けられるが、図示を省略している。
【0093】
(区画防災制御の概要)
防災受信盤70からの信号線93には、旋回型仕切装置16の設置に対応した区画に分けて区画防災設備94(94-1,94-2,94-3・・・)が接続される。
【0094】
区画防災設備94-1に代表して示すように、区画防災設備94-1には中継器96を設け、中継器96に対し旋回型仕切装置16に設けたラッチ解除部36(
図4参照)、天井用仕切装置18に設けたラッチピン50(
図5参照)のソレノイド、監視員通路用仕切装置20に設けたラッチピン56(
図6参照)のソレノイド、側壁用仕切装置22に設けたラッチピン62(
図7参照)のソレノイド、消火ヘッド26の開閉弁98、及び冷却剤散布ヘッド38の開閉弁40を接続している。
【0095】
中継器96には固有のアドレスが設定され、火災検知器92と同様に、防災受信盤70との間で所定の伝送方式により信号の送受信を行う。
【0096】
(通常時の防災設備)
図10は通常時のトンネル内の防災設備を示した説明図であり、
図10(A)にトンネル横断面(
図10(B)のx-x矢視断面)を示し、
図10(B)にトンネル長手方向の縦断面を示し、
図10(C)にトンネル長手方向の平面断面を示す。
【0097】
図10に示すように、トンネル10内にはトンネル長手方向の複数の区画A(A1,A1,A3・・・・)ごとに区画の境界に対応して旋回型仕切装置16(16-1,16-2,16-3・・・・)が設けられている。また、区画A(A1,A1,A3・・・・)に対応して火災検知器92が設けられている。なお、この例では、火災検知器92の設置間隔は旋回型仕切装置16の設置間隔と同じ(旋回型旋回装置の全長とも略同じ例えば約10メートル)間隔としている。
【0098】
また、区画A(A1,A1,A3・・・・)には、旋回型仕切装置16、天井用仕切装置18、監視員通路用仕切装置20、側壁用仕切装置22、消火ヘッド26が設けられ、
図9に示した区画防災設備94を構成している。そして、これらの仕切装置は、区画の境界に対応して配置している。
【0099】
(火災時の仕切制御)
図11は火災時にトンネル内に火災仕切区画と避難仕切区画を形成する防災設備の制御状態を示した説明図あり、
図11(A)にトンネル横断面(
図11(B)のx-x矢視断面)示し、
図11(B)にトンネル長手方向の縦断面を示し、
図11(C)にトンネル長手方向の平面断面を示す。なお、
図11(A)は仕切シート16a,18a,20a,22aの展開状態を分かり易くするため、仕切シート16aは斜線で示し、仕切シート16aのすき間を仕切る仕切シート18a,20a,22aは砂地で示している。
【0100】
図11に示すように、トンネル10の例えば区画A3の道路12上での車両事故等により火源100で示す火災が発生したとすると、
図9に示した防災受信盤70は、火災検知器92からの火災検知信号により火災の検知エリアとなる区画A3の火災と判定する。
【0101】
なお、ここでは、簡単のため、各区画(区画防災設備)に対応する火災検知器92が、当該区画を検知エリアとして火災を監視しているものとし、検知エリアの重複を考えないことにする。
【0102】
また、火源100の位置を含む火災側の領域(火災の検知エリア)をFとし、火災でない上流側及び下流側の領域をNFとしており、火災側の領域(火災の検知エリア)Fは区画A3となり、火災でない側の領域NFは上流側の区画A1,A2と下流側の区画A4,A5・・・となる。
【0103】
防災受信盤70は、区画A3の火災判定に基づき、火災側の領域Fの上流側境界と下流側境界の2箇所に位置する区画A3,A4に配置した旋回型仕切装置16(16-3,16-4)、天井用仕切装置18(18-3,18-4)、監視員通路用仕切装置20(20-3,20-4)、側壁用仕切装置22(22-3,22-4)を動作する制御を行い、火災側の領域Fの上流側と下流側の2箇所、即ち区画A3の上流側と下流側の2箇所の境界で仕切シート16a,18a,20a,22aを展開して火災仕切区画15(区画A3の仕切区画)を形成して閉鎖し、火災仕切区画15の外側の火災でない側の領域NFに対する延焼を防止し、また煙の拡散を防止する。
【0104】
また、防災受信盤70は、開閉弁40を開制御し、火災仕切区画15を仕切っている仕切シート16a,18a,20a,22aのシート面の例えば内側(火災側)に消火用水を冷却水として散布し、防火性、耐火性、耐熱性、遮熱性、遮炎性及び遮煙性をさらに高める。
【0105】
また、防災受信盤70は、開閉弁98を開制御し、火災仕切区画15となる区画A3の消火ヘッド26から消火用水を散布し、火災を消火抑制する。
【0106】
また、防災受信盤70は、区画A3の火災判定に基づき、火災でない側の領域NFの上流側の区画区A1,A2及び下流側の区画A5,A6,・・・に配置した旋回型仕切装置16(16-1,16-2,16-5,16-6・・・)について、旋回せずに仕切シート16aを展開する制御を行い、道路12側の領域と監視員通路14側の領域とを仕切ることで、監視員通路14上に避難仕切区画25を形成し、トンネル出入口または避難連絡坑扉へ向かう安全な避難経路を確保する。
【0107】
また、防災受信盤70は、火災仕切区画15側に面した両側の避難仕切区画25(25-1,25-2)の出入口に位置している監視員通路用仕切装置20(20-3,20-5)の仕切シート20aを展開する制御を行い、両側の避難仕切区画25に対する人の通過を可能とする出入口を形成する。
【0108】
(旋回型仕切装置と火災検知器の設置間隔が異なる実施形態)
図12は旋回型仕切装置の設置間隔と火災検知器の設置間隔が異なる場合の火災仕切区画と避難仕切区画の形成を示した説明図であり、
図12(A)にトンネル長手方向の縦断面を示し、
図12(B)にトンネル長手方向の平面断面を示す。
【0109】
図12に示すように、本実施形態にあっては、トンネル長手方向に例えば25メートル間隔で火災検知器92を設置し、検知エリアS(S1,S2,S3,・・・)を形成している。これに対し旋回型仕切装置16(16-1,16-2,16-3・・・)、天井用仕切装置18(18-1,18-2,18-3・・・)、監視員通路用仕切装置20(20-1,20-2,20-3・・・)及び側壁用仕切装置22(22-1,22-2,22-3・・・)は約10メートル間隔で連続的に設置しており、火災検知器92と各旋回型仕切装置16の設置間隔は異なっている。
【0110】
ここで、例えば区画A4内で、火源100で示す火災が発生した場合、
図9に示した防災受信盤70は、火災検知器92からの火災検知信号に基づき検知エリアS2の火災と判定し、火災検知エリアS2(火災側の領域F)の上流側の境界に続いて位置する区画A3の旋回型仕切装置16(16-3)および火災の検知エリアS2の下流側の境界に続いて位置する区画A7の旋回型仕切装置16(16-7)の2台を、
図12(B)の矢印で示すように、トンネル幅方向の旋回目標位置まで旋回して仕切シートを展開し、併せてそれぞれの天井用仕切装置18(18-3,18-7)、監視員通路用仕切装置20(20-3,20-7)及び側壁用仕切装置22(22-3,22-7)の仕切シートを展開し、火災仕切区画15を形成する。
【0111】
また、防災受信盤70は、上流側の火災でない側の領域NFに位置する区画A1,A2の旋回型仕切装置16(16-1,16-2)及び下流側の火災でない側の領域NFに位置する区画A8,A9・・・の旋回型仕切装置16(16-8,16-9・・・)に対し、旋回せずに仕切シートを展開する制御を行い、上流側及び下流側に分けて監視員通路14上に避難仕切区画25を形成し、また避難仕切区画25の入口に位置する監視員通路用仕切装置20(20-3,20-8)の仕切シートを展開して人の出入りを可能としつつ、トンネル出入口または避難連絡坑扉に向かう安全な避難経路を確保する。
【0112】
なお、火災仕切区画15内に位置する区画A4~A6の旋回型仕切装置16(16-4,16-5,16-6)は、仕切シートを展開していなくとも良いし、仕切シートを展開して火災仕切区画15内の監視員通路14上に避難仕切区画を部分的に形成しても良く、避難安全計画に応じて選択できる。また、旋回型仕切装置16(16-4,16-5,16-6)をトンネル幅方向の旋回目標位置まで旋回して仕切シートを展開し、火災仕切区画25内を多重に仕切っても良い。
【0113】
(その他の仕切制御)
図11及び
図12の仕切制御において、手動起動装置をトンネル内の所定位置、例えば監視員通路14に沿ったトンネル側壁に区画毎に分けて設け、手動起動装置の操作で
直接又は防災受信盤70を経由して、旋回型仕切装置16、天井用仕切装置18、監視員通路用仕切装置20、側壁用仕切装置22を制御するようにしても良い。
【0114】
また、
図11及び
図12の仕切制御は、火災側の領域の上流側と下流側の2箇所の境界で仕切シート16a,18a,20a,22aを展開して火災仕切区画15を形成しているが、更に、その外側で仕切シート16a,18a,20a,22aを展開し、例えば二重に或いは多重に仕切った火災仕切区画を形成しても良い。
【0115】
また、
図13に示すように、例えば火源100が位置する区画A4の旋回型仕切装置16をトンネル幅方向の旋回目標位置まで旋回して仕切シートを展開し、一ケ所の境界(
図13の例では区画A3とA4の境界)だけを仕切ることを妨げない。
【0116】
また、
図14に示すように、火源100が位置する区画A3の上流側と下流側の境界を仕切らず、区画A2及び区画A5の旋回型仕切装置16をトンネル幅方向の旋回目標位置まで旋回して仕切シートを展開し、区画A3の両側の、区画A2及び区画A4の外側境界(区画A1とA2の境界、区画A4とA5の境界)を仕切っても良い。
【0117】
また、火災仕切区画15内に消火ヘッド26からの消火用水を散布して消火抑制しているときに消防隊が到着した場合には、防災受信盤70の操作により消防隊が入ろうとする火災仕切区画15の片側の旋回型仕切装置16を監視員通路14側に戻すように旋回することで通過空間を形成し、消防隊による消火活動を容易とする。この場合、旋回型仕切装置16の戻し旋回量を変えることで、火災状況に応じて通過空間の空き具合を調整する。
【0118】
また、旋回型仕切装置16が仕切シート16aを回転軸に巻き、回転軸のモータ駆動により仕切シート16aの巻出しと巻上げを行う構造を設けている場合には、巻出しにより展開した仕切シート16aを消防隊が通過できる程度に巻き上げても良く、またそのうえで戻し旋回を行っても良い。このようにすれば煙の拡大を抑制しながら消防隊による消火活動を効率的に行うことができる。
【0119】
[本発明の変形例]
(旋回型仕切装置の旋回動作)
上記の実施形態は、旋回型仕切装置の、可動端が旋回目標位置まで略90度旋回し、また入口側へ旋回する(
図10乃至
図14の弧状矢印で示した向きに旋回する)場合を示したが、これに限らない。例えばトンネル道路がカーブしている場合(トンネル長手方向が直線でない場合)、これにあわせて90度以外の旋回角度としても良い。
【0120】
また、旋回の向きは、例えば
図10乃至
図14とは反対の向きに旋回して良い。また、複数台の旋回型仕切装置の一部で旋回する向きが他と異なることを妨げない。
【0121】
言うまでもなく、旋回型仕切装置の必要サイズ(固定端から可動端までの長さ)も、必要に応じて適宜調整又は選定し得る。
【0122】
(旋回型仕切装置の固定端と可動端)
上記の実施形態は、旋回型仕切装置の一端に固定端を、他端に可動端を設けているが、両端に固定端と可動端を兼用する端部機構を設けても良い。これにより旋回型仕切装置の旋回の向きが選択できるようになり、例えば1台の旋回型仕切装置で区画の上流側境界を仕切る動作と下流側境界を仕切る動作との両方を選択することができるようになり、仕切パターンの選択幅が増す。
【0123】
また例えば
図11において旋回型仕切装置が旋回型仕切装置16-3と反対の向きにも旋回可能であれば、このとき旋回型仕切装置16-2は省略することができ、設置する旋回型仕切装置の台数を減らすことも可能になる。また、あわせて180度旋回可能とすれば、例えば
図14の旋回型仕切装置16-5を入口側へ180度旋回することで区画A4にも避難仕切区画を形成することが可能になる。
【0124】
(固定型の仕切装置による仕切制御)
上記の実施形態は、火災時に、火災側の領域と火災でない側の領域に分けた旋回型仕切装置16の異なる制御動作により火災仕切区画15と避難仕切区画25を選択的に形成しているが、これに限定されない。例えば、トンネル幅方向に固定した状態で仕切シートを展開する第1の固定型仕切装置をトンネル長手方向に所定間隔で配置し、また、トンネル長手方向に沿って監視員通路14直上付近に第2の固定型仕切装置を連続して固定配置し、火災時に、火災側の領域と火災でない側の領域の境界を仕切って両領域を分断するように第1の固定型仕切装置の仕切シートを展開し、少なくとも火災でない側の領域に位置する第2の固定型仕切装置の仕切シートを展開して監視員通路14上に避難仕切区画25を形成しても良い。
【0125】
この場合、第1の固定型仕切装置は、例えば
図4に示した旋回型仕切装置16から旋回機構(本体28及び旋回部30)を除いた装置、天井用仕切装置18、監視員通路用仕切装置20及び側壁用仕切装置22で構成し、第2の固定型仕切装置は
図4に示した旋回型仕切装置16から旋回機構(旋回部30)を除いた装置で構成する。
【0126】
(仕切装置)
上記の実施形態は、道路を覆うトンネル横断面がアーチ型(扇形)のトンネルを例にとっているが、トンネル横断面が略矩形型のトンネルについても、同様の考え方で実施できる。この場合、旋回型仕切装置16の仕切シートを略矩形型のトンネル横断面で展開したとき両側及び上部(天井側)にすき間が発生しない場合は、例えば天井用仕切装置18や側壁用仕切装置22を旋回型仕切装置16で兼用できる。即ち、トンネル空間に対する仕切シートを展開する領域の分割は任意であり、分割した領域に対応して仕切シートを展開する仕切装置を設ければ良い。
【0127】
(その他)
また、本発明はその目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に上記の実施形態に示した数値による限定は受けない。
【符号の説明】
【0128】
10:トンネル
12:道路
14:監視員通路
15:火災仕切区画
16:旋回型仕切装置
16a,18a,20a,22a:仕切シート
16b:固定端
16c:可動端
18:天井用仕切装置
20:監視員通路用仕切装置
22:側壁用仕切装置
24:消火栓装置
25:避難仕切区画
26:消火ヘッド
28:本体
30:旋回駆動部
32:筐体
34:シート保持部材
35:シート固定部
36:シート展開部
38:冷却剤散布ヘッド
40,98:開閉弁
42:給水配管
44,54,60:収納ケース
46:骨アーム
48,53,63:軸
50,56,62:ラッチピン
52,64:折り目
58:スリット
70:防災受信盤
88:ポンプ設備
90,93:信号線
92:火災検知器
94-1~94-3:区画防災設備
96:中継器
100:火源