(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155423
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】ベルト伝動機構
(51)【国際特許分類】
F16H 7/12 20060101AFI20231013BHJP
F16H 7/02 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
F16H7/12 A
F16H7/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023140144
(22)【出願日】2023-08-30
(62)【分割の表示】P 2023017775の分割
【原出願日】2023-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2022038993
(32)【優先日】2022-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022181730
(32)【優先日】2022-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】大石 哲史
(57)【要約】
【課題】正逆回転を伴う動作の速度が増加しても、同期伝動を確実なものとすることができるベルト伝動機構を提供する。
【解決手段】ベルト伝動機構1は、駆動プーリ2の中心と従動プーリ3の中心とを結ぶプーリ中心線PLを挟む位置で回転自在に設けられた第1テンションローラ51及び第2テンションローラ52を介して、歯付ベルト4の張力を自動的に保つオートテンショナ5を有し、オートテンショナ5は、第1テンションローラ51の中心と第2テンションローラ52の中心とを結ぶローラ中心線RLとプーリ中心線PLとの交点から駆動プーリ2側に離間した、プーリ中心線PL上の点を通り、駆動軸21と平行な揺動軸53を有し、第1テンションローラ51と第2テンションローラ52とを互いに引寄せる方向に付勢するばね54を備え、かつ第1テンションローラ51及び第2テンションローラ52を揺動軸53を中心に揺動自在にする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源によって正逆回転可能に駆動される駆動軸に固定された駆動プーリと、
回転自在に支持された従動プーリと、
前記駆動プーリと前記従動プーリとの間に巻き掛けられた歯付ベルトと、
前記駆動プーリの回転中心と前記従動プーリの回転中心とを結ぶプーリ中心線を挟む両側の位置でそれぞれの基軸部を中心に回転自在に設けられ、前記歯付ベルトに接触する2つのテンションローラを介して、前記歯付ベルトの張力を自動的に適度に保つオートテンショナと、を有するベルト伝動機構であって、
前記オートテンショナは、
前記2つのテンションローラの回転中心同士を結ぶローラ中心線と前記プーリ中心線との交点から離間した、前記プーリ中心線上の点または前記プーリ中心線の延長線上の点を通り、前記駆動プーリ及び前記従動プーリとは独立し、且つ、前記駆動軸と平行な方向に延びるように設けられた揺動軸を有し、
前記2つのテンションローラの各前記基軸部間に張設され、前記2つのテンションローラを、前記ローラ中心線に沿って、互いに引き寄せる方向又は互いに離間させる方向に付勢するばねを備え、かつ、
前記2つのテンションローラが、前記揺動軸を中心に、揺動自在に構成されていることを特徴とするベルト伝動機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用ロボットのアームなどに組込まれ、歯付ベルトを介して駆動プーリの回転力を従動プーリに伝達する際に、歯付ベルトの張力を自動的に適度に保つためのオートテンショナを備えたベルト伝動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車製造、半導体製造、スマートフォン製造等向けに、垂直多関節ロボット、水平多関節ロボット(スカラロボット)等の産業用ロボットが広く使われている。産業用ロボットにおいては、ロボットのアーム駆動及び手首部の駆動(以下、「ロボットアーム駆動」)には、小型化、高速化、軽量化等を図るべく、ギヤ駆動に代えて歯付ベルトによる駆動(以下、「ロボットアーム駆動用ベルト伝動機構」と略す)の採用が進んでいる。
【0003】
一般的にオートテンショナが付加されていないベルト伝動機構においては、歯付ベルト(以下、単に「ベルト」と略す場合あり)を取付け後、空運転(ならし走行)をする事で運転(走行)初期に生じるベルトの張力低下を調整(是正)する工程が必要になる。しかしながら、ロボットアーム駆動用ベルト伝動機構にあっては、構造上や製造工程上、ロボットアーム内のプーリに歯付ベルトを取付けただけでは空運転ができないため、ロボットが組み上がってからエージングという空運転による張力調整作業を行っている。エージングは、駆動プーリと従動プーリとの間隔(軸間距離)の調整等によるベルトの張直し(張力調整作業)、各部ボルト類の増締め作業等を経て、ロボットの正しい制御状態まで数時間に渡り行わなければならず、多大なロスコストが発生する要因となっていた。
【0004】
また、ロボットアームの駆動は頻繁な正逆回転を伴うため、(正逆回転の毎にベルトの張り側と緩み側が逆転し、)正逆切替時(正逆の起動/停止時)、ベルトの張り側で過大な張力が作用し易くなると共に、ベルトの緩み側に緩みが発生し易くなる。このようにベルトが過張力となったり、ベルトの緩みが大きくなったりすると、同期伝動が不確実(駆動プーリと従動プーリとの回転角度の差が大)になり、アームや手首部等を所定の位置に正確に動かすことができなくなる(アーム等の位置決め精度に影響する)。
【0005】
また、プーリ間の間隔が狭く、且つ、減速比(プーリ径の比)が大きいベルト伝動機構にあっては、小径側の駆動プーリにおいて、ベルトの接触角が小さくなり、ベルトの緩みが大きいと、ベルトの歯飛びが起こりやすくなる懸念がある。
【0006】
歯付ベルトによる同期(かみ合い)伝動において、上記問題に対応するためには、原則、(走行初期に生じる張力低下の調整を含め)自動的に、且つ適度に(ベルトが緩まない程度に)ベルトの張力を保つことが必要である。
【0007】
具体的には、歯付ベルトを用いたロボットアーム駆動用のベルト伝動機構にあっては、正逆回転の毎にベルトの張り側と緩み側が逆転しても、ベルトの張り側においては、(摩擦伝動の場合のように)起動時にさほど高い張力を確保する必要がないため、減衰力(ダンピング力)を作用させずに張力変動を低く抑えることが必要であり、一方、ベルトの緩み側においては、(摩擦伝動の場合と同様に)ベルトの緩みを生じさせないことが必要である。
【0008】
そのためには、駆動プーリと従動プーリの回転中心を結ぶプーリ中心線を挟む両側の位置でそれぞれ回転自在に設けられた2つのテンションローラをばね等による適度な付勢作用でベルト(の外周面または内周面)に接触させることで、正逆回転の毎にベルトの張り側と緩み側が逆転しても、(走行初期に生じる張力低下の調整を含め)自動的に、且つ適度に(ベルトが緩まない程度に)ベルトの張力を保つことができるオートテンショナが付加されたロボットアーム駆動用のベルト伝動機構を採用することが考えられる。
【0009】
(従来技術)
ロボットアーム駆動用ベルト伝動機構に備わるオートテンショナとしては、例えば、特許文献1(
図1参照)には、ベルトの両側(張り側と緩み側)を1本のばね(引張ばね又は圧縮ばね)による付勢作用で2つのテンションローラ(アイドラ)で挟む又は押し広げ、ベルトに張力を付与するようにした構成のものが開示されている。また、特許文献2(
図1参照)には、ベルトの両側(張り側と緩み側)をV字状の揺動アーム(但しばね付勢なし)で2つのテンションローラ(アイドラ)で挟み、ベルトに張力を付与するようにした構成のものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11-33971号公報
【特許文献2】特開2004-156735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、昨今では、従来と比べ、自動車製造、半導体製造、スマートフォン製造等の生産性向上要求が飛躍的に高まっている。そのため、産業用ロボットに対しても、ロボットアーム駆動部における更なる性能の向上要求として、「正逆回転を伴う動作の速度が増加しても、位置決め精度を繰り返し確保でき(つまり、駆動プーリと従動プーリとの回転角度の差の大きさを許容範囲内に常時収めることができ)、同期伝動[(走行初期に生じる張力低下の調整を含め)自動的に、且つ適度に(ベルトが緩まない程度に)ベルトの張力を保つこと]を確実なものとすること」、に関する要求が高まっている。
【0012】
ロボットアーム駆動部における上記回転角度の差は、ベルト及びプーリの仕様(ベルト歯部とプーリ歯溝とのかみ合い性)が固定された条件下では、正逆切替時(正逆の起動/停止時)に最大となること(正逆切替時にオーバーシュート及びアンダーシュートを起こすこと)がわかっている。
【0013】
このため、ロボットアーム駆動用ベルト伝動機構にあっては、正逆回転を伴う動作の速度が増加しても、位置決め精度を繰り返し確保する(同期伝動を確実なものとする)ためには、「正逆切替時(正逆の起動/停止時)の駆動に対する応答性を高い水準に確保すること(つまり正逆切替時の上記回転角度差を十分に抑制すること)」が重要となる。
【0014】
この点、上記観点に照らし詳細に検証した結果、上記開示のような、ロボットアーム駆動用ベルト伝動機構に備わるオートテンショナ(従来のオートテンショナ)では、昨今の上記要求に確実に対応するには不十分であることがわかった。
【0015】
そこで、本発明は、正逆回転を伴う動作の速度が増加しても、同期伝動を確実なものとすることができる、ベルト伝動機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、駆動源によって正逆回転可能に駆動される駆動軸に固定された駆動プーリと、
回転自在に支持された従動プーリと、
前記駆動プーリと前記従動プーリとの間に巻き掛けられた歯付ベルトと、
前記駆動プーリの回転中心と前記従動プーリの回転中心とを結ぶプーリ中心線を挟む両側の位置でそれぞれの基軸部を中心に回転自在に設けられ、前記歯付ベルトに接触する2つのテンションローラを介して、前記歯付ベルトの張力を自動的に適度に保つオートテンショナと、を有するベルト伝動機構であって、
前記オートテンショナは、
前記2つのテンションローラの回転中心同士を結ぶローラ中心線と前記プーリ中心線との交点から前記駆動プーリ側に離間した、前記プーリ中心線上の点または前記プーリ中心線の延長線上の点を通り、前記駆動軸と平行な方向に延びるように設けられた揺動軸を有し、
前記2つのテンションローラの各前記基軸部間に張設され、前記2つのテンションローラを、前記ローラ中心線に沿って、互いに引き寄せる方向又は互いに離間させる方向に付勢するばねを備え、かつ、
前記2つのテンションローラが、前記揺動軸を中心に、揺動自在に構成されていることを特徴としている。
【0017】
上記構成によれば、ベルト伝動機構において、正逆切替時(正逆の起動/停止時)の駆動に対する応答性を高い水準に確保すること(つまり正逆切替時の、駆動プーリと従動プーリとの回転角度差を十分に抑制すること)が可能となり、正逆回転を伴う動作の速度が増加しても、同期伝動[(走行初期に生じる張力低下の調整を含め)自動的に、且つ適度に(ベルトが緩まない程度に)ベルトの張力を保つこと]を確実なものとすることができる。
【0018】
また、本発明は、上記ベルト伝動機構において、
前記オートテンショナが、
一方の端部には、一方の前記テンションローラの前記基軸部が設けられるとともに、他方の端部が、前記揺動軸に対して回転自在に支持されている、第1揺動アームと、
一方の端部には、他方の前記テンションローラの前記基軸部が設けられるとともに、他方の端部が、前記揺動軸に対して回転自在に支持されている、第2揺動アームと、を有し、
前記2つのテンションローラは、前記第1揺動アームおよび前記第2揺動アームを介して、前記揺動軸を中心に揺動することを特徴としてもよい。
【0019】
上記構成によれば、ばねが張設された、2つのテンションローラのそれぞれの基軸部を一方の端部(先端部)に備えた2つの揺動アーム(第1揺動アーム及び第2揺動アーム)のそれぞれが、揺動軸(ローラ中心線とプーリ中心線との交点から駆動プーリ側に離間した、プーリ中心線上の点またはプーリ中心線の延長線上の点を通り、駆動軸と平行な方向に延びる揺動軸)を中心に回転自在となることで、2つのテンションローラがばねの付勢作用に加え、揺動軸を中心に揺動する態様を具体的に実現できる。
【0020】
また、本発明は、上記ベルト伝動機構において、
前記ばねが、引張ばねであり、
前記2つのテンションローラは、前記歯付ベルトの外周面に接触するように設けられていることを特徴としてもよい。
【0021】
上記構成によれば、ベルトの両側(張り側と緩み側)を1本のばね(引張ばね)による付勢作用で2つのテンションローラで挟む態様である。そのため、ばねが圧縮ばねであり、2つのテンションローラが歯付ベルトの内周面に接触するように設けられている構成(ベルトの両側を1本の圧縮ばねによる付勢作用で2つのテンションローラで押し広げる態様の場合)と比較し、ベルトの接触角(ベルトとプーリが接触している円弧に対する中心角)が大きくなることでベルトの歯飛びが起こるのを、抑制できる。
【0022】
また、本発明は、上記ベルト伝動機構において、
前記2つのテンションローラが、前記駆動プーリ側、または、前記駆動プーリ及び前記従動プーリのうち直径が小さい方のプーリ側に設けられていることを特徴としてもよい。
【0023】
ベルト伝動機構は、従動プーリの回転トルクを所定の水準に確保するため、駆動プーリの直径が従動プーリの直径よりも小さい場合(所謂、減速機構として機能する場合)が一般的であるが、駆動プーリ及び従動プーリの直径が同じ場合もある。例えば、プーリ間の間隔が狭く、且つ、減速比(プーリ径の比)が大きいベルト伝動機構においては、小径側の駆動プーリにおいて、ベルトの接触角が小さくなり、ベルトの緩みが大きいと、ベルトの歯飛びが起こりやすくなる懸念があるが、本構成によれば、駆動プーリ(駆動プーリ及び従動プーリが同径の場合を含む)、または、(駆動、従動に依らず)小径側のプーリにおいて、ベルトの接触角が小さくなるのを抑制できることで、ベルトの歯飛びを生じにくくすることができる。
【0024】
また、本発明は、上記ベルト伝動機構において、
前記駆動プーリの直径が、前記従動プーリの直径よりも小さいことを特徴としてもよい。
【0025】
上記構成によれば(つまり当ベルト伝動機構が減速機構である場合)、駆動プーリの直径が従動プーリの直径と同径の場合と比べ、正逆切替時に、2つのテンションローラが揺動軸を中心に揺動することにより変位する度合いが大きくなる。
そのため、本構成によれば、2つのテンションローラが揺動軸を中心に揺動不能な構成(2つのテンションローラにばねの付勢力のみが作用している構成)であって、駆動軸と平行な方向に見てプーリ中心線と直交する方向にしか2つのテンションローラが変位できない構成と比較し、ベルトの張り側において、一方のテンションローラがばねによる減衰(ばねの付勢力に抗する方向の変位)を抑えつつ、揺動軸を中心に揺動することにより素早く変位できる効果をより大きくすることができる。ひいては、ベルト伝動機構において、正逆切替時(正逆の起動/停止時)の駆動に対する応答性をより高い水準に確保することができる。
【0026】
また、本発明は、前記駆動プーリ及び前記従動プーリが、ロボットアームに固定され、当該ロボットアームを駆動させる、上記ベルト伝動機構であってもよい。
【0027】
上記構成によれば、ロボットアームを駆動させる際に、ベルト伝動機構において、正逆回転を伴う動作の速度が増加しても、ロボットアームの位置決め精度を繰り返し確保でき(つまり、駆動プーリと従動プーリとの回転角度の差の大きさを許容範囲内に常時収めることができ)、同期伝動を確実なものとすることができる。
【発明の効果】
【0028】
正逆回転を伴う動作の速度が増加しても、同期伝動を確実なものとすることができる、ベルト伝動機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】水平多関節ロボットのロボットアームに組込まれる、本実施形態に係るロボットアーム駆動用ベルト伝動機構の説明図である。
【
図2】本実施形態に係るロボットアーム駆動用ベルト伝動機構の平面図(駆動プーリが停止している状態を説明する図)である。
【
図5】本実施形態に係るロボットアーム駆動用ベルト伝動機構の平面図(正逆切替時におけるオートテンショナの作動状態を説明する図)である。
【
図6】本実施形態に係る歯付ベルトの断面斜視図である。
【
図7】実施例の評価(応答性試験)に係る応答性評価試験機の説明図である。
【
図8】実施例の評価(応答性試験)に係る応答性試験の試験パターン(サイクルパターン)の説明図である。
【
図9】比較例4に係るオートテンショナの構成図である。
【
図10】その他の実施形態に係るロボットアーム駆動用ベルト伝動機構の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(実施形態)
本実施形態は、スカラロボットと称される水平多関節ロボット10(産業用ロボット)の第2アーム11に組込まれ、歯付ベルト4を介して駆動プーリ2の回転力を従動プーリ3に伝達する際に、歯付ベルト4の張力を自動的に適度に保つためのオートテンショナ5が付加された、ロボットアーム駆動用ベルト伝動機構1(以下、単に「ベルト伝動機構1」と略する場合あり)に本発明を適用した一例である。
【0031】
例えば、本実施形態のベルト伝動機構1は、
図1に示すように、水平多関節ロボット10の第2アーム11の先端部において、上下方向に延び、下端側に着脱可能に取付けられる手首部12(詳細は不図示)とともに上下動及び同軸回転可能に設けられるボールねじスプライン軸13を、ボールねじスプライン軸13と同軸上の従動軸31を介して正逆回転駆動させるためのベルト式減速機構として組み込まれる。なお、ボールねじスプライン軸13の上下動は、上下動駆動機構14により行われる。そして、ベルト式減速機構として組み込まれた、ベルト伝動機構1は、ボールねじスプライン軸13の上下動駆動機構14による上下動を許容しつつ回り止め状態として、ボールねじスプライン軸13を正逆回転駆動させることができる。
【0032】
なお、特許文献2の
図5のロボット本体であれば、第2アームの先端部において、上下方向に延び、上下動及び同軸回転可能に設けられる上下アームを、T軸用サーボモータ(T軸用プーリ)の正逆回転駆動により、正逆方向に同軸回転させるT軸回転伝達機構(2段減速方式の2段目の機構)として、本実施形態に係るベルト伝動機構1を組み込むことができる。
【0033】
(ベルト伝動機構1)
ベルト伝動機構1は、
図1及び
図2に示すように、第2アーム11の後方側(一方側の端部)において、サーボモータ20(駆動源:2段減速方式の2段目の機構に適用した場合は、1段目のベルト式減速機構に備わるサーボモータ)の駆動力を、駆動軸21(2段減速方式の2段目の機構に適用した場合は、1段目のベルト式減速機構の従動軸(不図示)と同軸に延びる、2段目のベルト式減速機構の駆動軸)を介して伝達する駆動プーリ2と、第2アーム11の前方側(他方側の端部)において、手首部12が取り付けられたボールねじスプライン軸13に接続される従動軸31に、駆動力を伝達する従動プーリ3と、駆動プーリ2と従動プーリ3との間に無端状に巻き掛けられる歯付ベルト4と、回転自在に設けられた、第1テンションローラ51及び第2テンションローラ52を介して、歯付ベルト4の張力を自動的に適度に保つオートテンショナ5とで構成されている。
【0034】
なお、
図1において、第2アーム11における基端側(第1アーム15と接続する側)を後方側(一方側)とし、第2アーム11における先端側(手首部12が取り付けられたボールねじスプライン軸13と接続する側)を前方側(他方側)とする。
また、
図2で、左方を前方(他方)、右方を後方(一方)と定義する。また、
図3で、揺動軸53の中心軸Rを中心とした径方向を単に径方向、中心軸Rを中心とした周方向を単に周方向と定義する。また、
図3及び
図4で、上下方向を上下方向、左右方向を水平方向と定義する。
【0035】
(駆動プーリ2及び従動プーリ3)
駆動プーリ2は、サーボモータ20の駆動力によって正逆回転可能に駆動される駆動軸21に固定されている。また、従動プーリ3は、ボールねじスプライン軸13が接続される従動軸31に固定されている。
【0036】
駆動プーリ2及び従動プーリ3は、歯付プーリである。駆動プーリ2及び従動プーリ3の外周には、歯付ベルト4の歯部の歯形状(例えば一般的な直歯(スグバ)と称される歯形状)に対応した形状の溝部(不図示)が形成されている。本実施形態では、駆動プーリ2及び従動プーリ3の外周に形成された溝部は、直歯に対応した形状であり、従動軸31方向に沿って延びている。
【0037】
駆動プーリ2と従動プーリ3との軸間距離は、調整不能に固定されており、例えば80mm~300mm程度である(本実施形態は220mm)。
駆動プーリ2と従動プーリ3との間の速度比(従動プーリ3の直径/駆動プーリ2の直径)は、例えば1~4程度である。本実施形態では、速度比(減速比)が4になるように、従動プーリ3は、駆動プーリ2よりもピッチ径が4倍程度大きいものを使用している。
歯付ベルト4の静止時のベルト張力(駆動プーリ2が停止している状態でのベルト張力)は、歯付ベルト4が緩まない程度の水準で、例えば1~5N程度/ベルト1mm幅である(本実施形態は5N/ベルト1mm幅)。
駆動プーリ2と従動プーリ3との回転角度差(正逆切替時に最大)の許容範囲は、設計態様により決定される。なお、上記「回転角度差」とは、応答性を表す一指標(代用特性)であり、「駆動プーリと従動プーリとの回転角度(°)の差の大きさ」のことである。
【0038】
(歯付ベルト4)
歯付ベルト4は、
図6に示すように、心線42がベルト長手方向に沿って螺旋状に埋設された背部43と、背部43の内周面(背部43の一方の表面に相当)にベルト長手方向に沿って所定間隔で配置された複数の歯部44とを有する。本実施形態では、複数の歯部44は、背部43の内周面に一体成形されている。また、歯部44は、ベルト幅方向に沿って延びている(つまり歯部44は直歯である)。また、歯付ベルト4の内周面、即ち、歯部44の表面、および背部43の内周面の一部(歯部44が設けられていない部分)は、歯布45で構成(被覆)されている。なお、背部43の外周面(背部43の他方の表面に相当)は、布等(背布)で被覆されていない。
【0039】
ベルト長手方向に隣り合う歯部44の間隔(歯ピッチPt)は、正逆回転を伴う動作の速度が増加しても、位置決め精度を繰り返し確保する(同期伝動を確実なものとする)観点からは、比較的小さい数値とする方がよく、例えば2mm~5mm程度であることが好ましい(本実施形態は3mm)。なお、歯ピッチPtの数値は、歯部44のスケール(歯部44のベルト長手方向の長さ、及び、歯部44の歯高さHt)の大きさにも対応している。すなわち、歯ピッチPtが大きいほど、相似的に歯部44のスケールも大きくなる。
【0040】
歯付ベルト4のベルト長手方向の長さ(周長)は、例えば、200mm~800mm程度である(本実施形態は約600mm)。
歯付ベルト4のベルト幅方向の長さ(幅)は、例えば、6mm~35mm程度である(本実施形態は10mm)。
【0041】
(背部43及び歯部44)
歯付ベルト4の背部43及び歯部44は、ゴム組成物で構成され、このゴム組成物のゴム成分としては、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム(HNBR)、エチレン-プロピレン共重合体(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)、スチレン-ブタジエンゴム、ブチルゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム等が用いられる。これらのゴム成分は、単独または組み合わせて使用できる。背部43及び歯部44を構成するゴム組成物のゴム成分は、特に安価という観点では、クロロプレンゴムが好ましい(本実施形態もクロロプレンゴム)。尚、歯部44と背部43を構成するゴム組成物は、同じゴム組成物を使用しても、異なるゴム組成物を使用してもよい。背部43及び歯部44を構成するゴム組成物は、必要に応じて、慣用の各種添加剤(または配合剤)を含んでいてもよい。歯部44を構成するゴム組成物(歯ゴム)の硬さは、歯付ベルト4の伝動性能(特に耐歯飛び性)を確保する観点からは、JIS K6253(2012)に準拠し、雰囲気温度23℃(23±2℃)でタイプAデュロメータを用いて測定した硬度で、73~83°程度であることが好ましい。
【0042】
(歯部44の歯形状)
歯付ベルト4の歯部44の歯形状は同期伝動(かみ合い伝動)が可能な限りにおいて、一般的な直歯(スグバ)と称される歯形状でも、はす歯(歯面の接触角が斜めとなる歯)と称される歯形状でもよい。本実施形態のベルト伝動機構1に用いた歯付ベルト4は、直歯としている。
【0043】
直歯に属する歯形状としては、以下に挙げた公知の歯形状をはじめ、それらの変形形状、あるいは特殊形状など、適宜ベルト伝動機構の用途に適合した歯形状を選択可能である。例えば、H歯形と呼ばれる、断面が略半丸形の形状、T歯形と呼ばれる、断面が台形の形状、S歯形(STPDタイプ)と呼ばれる、それぞれ外側に膨らんだ凸状曲面(円弧面)からなる2つの側面を平坦面でつないだ形状などが挙げられる。歯付ベルト4の伝動性能(特に伝達能力及び耐歯飛び性)を確保する観点からは、歯部44の剛性をより上げた方がよく、H歯形(断面が略半丸形の形状)とするのが好ましい(本実施形態もH歯形)。
【0044】
(心線42)
心線42は、複数本のストランドを撚り合わせて形成された撚りコードで構成される。1本のストランドは、フィラメント(長繊維)を束ねて引き揃えて形成されていてよい。ベルト伝動機構1における正逆切替時の駆動に対する応答性を高める観点から、フィラメントの材質は、高強度(高弾性率)かつ低伸度なものが好ましく、例えば、無アルカリガラス繊維(Eガラス繊維)、高強度ガラス繊維または炭素繊維である。低コストの観点からは、無アルカリガラス繊維(Eガラス繊維)がより好ましい。心線42の径は、歯付ベルト4の屈曲性(歯付ベルト4を駆動プーリ2や従動プーリ3に巻き掛けた際の歯付ベルト4のしなやかさ)を良くする観点、つまり、ベルトピッチラインの上下動による歯付ベルト4の速度むらを抑え、高い位置決め精度を確保する観点から、細径であることが好ましい。心線42の径は、例えば0.15mm~0.60mm程度である(本実施形態は、心線種がEガラス繊維およびKガラス繊維で心線径が0.35mm、炭素繊維で心線径が0.53mm)。
【0045】
高強度ガラス繊維としては、例えば、引張り強度が300kg/cm2 以上のもの、特に、無アルカリガラス繊維(Eガラス繊維)よりもSi成分の多い表1に示す組成のガラス繊維を好適に使用できる。
なお、表1には比較のためEガラス繊維の組成も記載している。このような高強度ガラス繊維としては、Kガラス繊維、Uガラス繊維(共に日本硝子繊維社製)、Tガラス繊維(日東紡績社製)、Rガラス繊維(Vetrotex社製)、Sガラス繊維、S-2ガラス繊維、ZENTRONガラス繊維(すべてOwensCorning Fiberglass社製)等があげられる。
【0046】
【0047】
炭素繊維としては、例えば、ピッチ系炭素繊維、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、フェノール樹脂系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、ポリビニルアルコール系炭素繊維などが挙げられる。炭素繊維の市販品としては、例えば、東レ(株)製「トレカ(登録商標)」、東邦テナックス(株)製「テナックス(登録商標)」、三菱ケミカル(株)製「ダイアリード(登録商標)」などを利用できる。これらの炭素繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの炭素繊維のうち、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維が好ましく、PAN系炭素繊維が特に好ましい。
【0048】
心線42として用いる撚りコードには、背部43との接着性を高めるために接着処理が施されることが好ましい。接着処理としては、例えば、撚りコードを、レゾルシン-ホルマリン-ラテックス処理液(RFL処理液)に浸漬後、加熱乾燥して、表面に均一に接着層を形成する方法が採用される。RFL処理液は、レゾルシンとホルマリンとの初期縮合体をラテックスに混合したものであり、ここで使用するラテックスとしては、クロロプレン、スチレン・ブタジエン・ビニルピリジン三元共重合体(VPラテックス)、水素化ニトリル、NBR等が挙げられる。なお、接着処理としては、エポキシまたはイソシアネート化合物で前処理を行った後に、RFL処理液で処理する方法等もある。
【0049】
心線42は、背部43に、ベルト長手方向に沿って、ベルト幅方向に所定の間隔を空けて螺旋状に埋設されている。即ち、心線42は、背部43に、ベルト幅方向に所定の間隔を空けて配列されている。
【0050】
(歯布45)
歯布45は、耐摩耗性等の観点から、経糸と緯糸を一定の規則によって縦横に交錯させて織られた織布で構成されることが好ましい。歯布45としては、織布の経糸をベルト幅方向に、緯糸をベルト長手方向に延びるように配置するのが好ましい。それにより、歯布45のベルト長手方向の伸縮性を確保できる。なお、歯布45は、織布の緯糸をベルト幅方向に、経糸をベルト長手方向に延びるように配置してもよい。この場合、経糸として、伸縮性を有する弾性糸を用いてもよい。歯布45を構成する繊維の材質としては、ナイロン、アラミド、ポリエステル、ポリベンゾオキサゾール、綿等の何れかまたはこれらの組み合わせを採用できる。
歯布45として用いる織布は、背部43及び歯部44との接着性を高めるために、接着処理が施されていてもよい。接着処理としては、織布をレゾルシン-ホルマリン-ラテックス(RFL液)に浸漬後、加熱乾燥して、表面に均一に接着層を形成する方法が一般的である。
【0051】
(歯付ベルト4の製造方法)
本実施形態に係る歯付ベルト4は、例えば、以下の工法(圧入工法)で作製される。まず、歯付ベルト4の歯部44に対応する複数の溝部(凹条)を有する円筒状モールドの外周面に、歯布45を形成する繊維織物を巻き付ける。続いて、巻き付けた繊維織物の外周面に、心線42を構成する撚りコードを螺旋状に所定のピッチで(円筒状モールドの軸方向に所定のピッチを有するように)巻き付ける。さらにその外周側に、背部43及び歯部44を形成する未加硫ゴムシートを巻き付けて未加硫のベルト成形体(未加硫積層体)を形成する。
【0052】
次に、未加硫のベルト成形体が、円筒状モールドの外周に配置された状態で、更にその外側に、蒸気遮断材であるゴム製のジャケットが被せられる。続いて、ジャケットが被せられたベルト成形体および円筒状モールドは、加硫缶等の加硫装置の内部に収容される。そして、加硫装置の内部でベルト成形体を加熱加圧すると、未加硫ゴムシートのゴム組成物と繊維織物が円筒状モールドの溝部(凹条)に圧入されて、所望の形状の歯部が形成されるとともに、未加硫ゴムシートのゴム組成物が加硫されて、ゴム組成物と繊維織物と心線とが一体化したスリーブ状の加硫成形体(加硫ベルトスリーブ)が形成される。この時、繊維織物は歯部44の輪郭形状に沿った形態に伸張して、歯部44の表面に配置された歯布45となっている。そして、円筒状モールドから脱型した加硫ベルトスリーブを所定の幅に切断することにより、複数の歯付ベルト4が得られる。この工法(圧入工法)では、背部43及び歯部44を構成するゴム組成物は、同じゴム組成物を使用することになる。
【0053】
(オートテンショナ5)
オートテンショナ5は、
図2~
図4に示すように、第2アーム11の筐体に固定された揺動軸53と、先端部561(第1揺動アーム56の一方の端部に相当)に、第1テンションローラ51が回転自在に支持された第1基軸部51Aが設けられるとともに、基端部562(第1揺動アーム56の他方の端部に相当)が、揺動軸53に対して回転自在に支持された第1揺動アーム56と、先端部571(第2揺動アーム57の一方の端部に相当)に、第2テンションローラ52が回転自在に支持された第2基軸部52Aが設けられるとともに、基端部572(第2揺動アーム57の他方の端部に相当)が、揺動軸53に対して回転自在に支持された第2揺動アーム57と、第1基軸部51Aと第2基軸部52Aとを、第1テンションローラ51の回転中心51Cと第2テンションローラ52の回転中心52Cとを結ぶローラ中心線RLに沿って、互いに引き寄せる方向に付勢するばね54と、を有している。
【0054】
本実施形態では、オートテンショナ5は、2つのテンションローラ(第1テンションローラ51及び第2テンションローラ52)が、従動プーリ3側ではなく、駆動プーリ2側に設けられている。なお、オートテンショナ5は、2つのテンションローラ(第1テンションローラ51及び第2テンションローラ52)が駆動プーリ2及び従動プーリ3のうち直径が小さい方のプーリ側に設けられていてもよい。ここで、「2つのテンションローラが駆動プーリ2側に設けられている」とは、ローラ中心線RLとプーリ中心線PLとの交点が、プーリ中心線PLの中心よりも駆動プーリ2側に存在することを意味する。
【0055】
(第1テンションローラ51及び第2テンションローラ52)
第1テンションローラ51は、第1基軸部51Aに転がり軸受(不図示)を介して中心軸R2を中心に回転自在に支持された、円筒形状をしたローラ部材である。第2テンションローラ52も、第2基軸部52Aに転がり軸受(不図示)を介して中心軸R3を中心に回転自在に支持された、円筒形状をしたローラ部材である。
【0056】
第1テンションローラ51及び第2テンションローラ52は、
図2に示すように、駆動プーリ2側において、駆動プーリ2の回転中心22と従動プーリ3の回転中心32とを結ぶプーリ中心線PLを挟む両側の位置でそれぞれ第1基軸部51A及び第2基軸部52Aを中心に回転自在に設けられ、第1テンションローラ51及び第2テンションローラ52が、歯付ベルト4の外周面に接触可能とされている。
【0057】
(第1基軸部51A及び第2基軸部52A)
第1基軸部51Aは、
図3及び
図4に示すように、第1テンションローラ51を、転がり軸受(不図示)を介して中心軸R2を中心に回転自在に支持する基端部分である。
第1基軸部51Aは、後述する第1揺動アーム56の先端部561に設けられた孔(めねじ部)に挿通するためのおねじ部が下方に延びている。
同様に、第2基軸部52Aは、
図3に示すように、第2テンションローラ52を、転がり軸受(不図示)を介して中心軸R3を中心に回転自在に支持する基端部分である。
第2基軸部52Aは、後述する第2揺動アーム57の先端部571に設けられた孔(めねじ部)に挿通するためのおねじ部が下方に延びている。
そして、第1基軸部51Aと第2基軸部52Aとの間には、後述するばね54が張設されている。
【0058】
(揺動軸53)
揺動軸53は、
図3に示すように、上下方向に延在する円柱状の胴部531と、胴部531の上端から径方向外側に延びるフランジ部532と、胴部531の下方の端面(下端面)の中心部分から下方に延びる締結部533とを有し、これらが一体に形成された金属部品である。
【0059】
揺動軸53は、
図2に示すように、揺動軸53の中心軸R(揺動の中心点)が、第1テンションローラ51の回転中心51Cと第2テンションローラ52の回転中心52Cとを結ぶローラ中心線RLとプーリ中心線PLとの交点から駆動プーリ2側に離間した、プーリ中心線PL上の点(プーリ中心線PLの延長線上の点でもよい)を通り、駆動軸21と平行な方向に延びるように、水平多関節ロボット10の第2アーム11の筐体(めねじ部)に、締結部533(おねじ部)を介して固定されている。また、揺動軸53は、胴部531の外周面、及びフランジ部532の下端面が、摺動部材55(軸受)に面接触しており、この摺動部材55(軸受)を介して、第1揺動アーム56及び第2揺動アーム57を回転自在に支持している。
【0060】
(ばね54)
ばね54は、本実施形態では引張ばねを採用している。
引張ばねは、自然長よりも長くなる方向に引っ張った状態(縮む方向に自己弾性回復力が働く状態)で、第1基軸部51Aと第2基軸部52Aとの間に張設されており、第1基軸部51Aと第2基軸部52Aとを、ローラ中心線RLに沿って、互いに引き寄せる方向に付勢する。即ち、ばね54は、第1基軸部51Aに回転自在に設けられた第1テンションローラ51と第2基軸部52Aに回転自在に設けられた第2テンションローラ52とを、ローラ中心線RLに沿って、互いに引き寄せる方向に付勢する。
【0061】
引張ばねは、
図2に示すように、第1テンションローラ51及び第2テンションローラ52が、歯付ベルト4の外周面に接触する態様で使用される場合に採用される。
【0062】
なお、ばね54に圧縮ばねを採用してもよい。圧縮ばねは、自然長よりも短くなる方向に圧縮した状態(伸びる方向に自己弾性回復力が働く状態)で、第1基軸部51Aと第2基軸部52Aとの間に取り付けられ、第1基軸部51Aと第2基軸部52Aとを、ローラ中心線RLに沿って、互いに離間させる方向に付勢する場合に使用される。具体的には、圧縮ばねは、第1テンションローラ51及び第2テンションローラ52が、歯付ベルト4の内周側に配置され、第1テンションローラ51及び第2テンションローラ52が、歯付ベルト4の内周面に接触する態様で使用される場合に採用される。
【0063】
本実施形態のように、ばね54に引張ばねを使用すれば、1本のばね54(引張ばね)による付勢作用で、2つのテンションローラ(第1テンションローラ51と第2テンションローラ52)によって、歯付ベルト4の両側(張り側と緩み側)を挟む態様になる。そのため、ばね54が圧縮ばねであり、2つのテンションローラ(第1テンションローラ51と第2テンションローラ52)が歯付ベルト4の内周面に接触するように設けられている構成(1本の圧縮ばねによる付勢作用で、2つのテンションローラによって、歯付ベルト4の両側を押し広げる態様の場合)と比較し、歯付ベルト4の接触角(ベルトとプーリが接触している円弧に対する中心角)が大きくなることで、歯付ベルト4の歯飛びが起こるのを抑制できる。
【0064】
ばね54は、ベルト伝動機構1毎に所定のばね特性が繰り返し得られるよう、コイルばねとするのがよく、本実施形態においてもコイルばねを採用している。
ばね線は、JISG3560:1994に準拠した、断面円形等のばね用オイルテンパー線とするのがよく、本実施形態は上記規格に準拠した断面円形のばね用オイルテンパー線を採用している。
ばね線の直径、ならびに、ばねの巻き径及び巻き長さ(自然長)は、ベルト伝動機構1毎(特にはベルト張力の水準毎)に所定のばね特性が繰り返し得られるよう設計されて決定される。
【0065】
本実施形態では、ばね54を第1基軸部51Aと第2基軸部52Aとの間に張設し易くするため、ばね54の端末の略1巻き部分に相当するばね54の両端部(以下「ばね端部541A、541B」)を両端共同じ向きに約90°折り曲げ加工している。
【0066】
(第1揺動アーム56及び第2揺動アーム57)
第1揺動アーム56および第2揺動アーム57は、互いに独立した、アルミニウム合金鋳物(例えばADC12)等からなる金属部品である。
第1揺動アーム56の基端部562は、
図3に示すように、揺動軸53に(後述の摺動部材55(軸受)を介して)回転自在に支持されている。
同様に、第2揺動アーム57の基端部572も、
図3に示すように、揺動軸53に(後述の摺動部材55(軸受)を介して)回転自在に支持されている。
第1揺動アーム56及び第2揺動アーム57は、
図2に示すように、オートテンショナ5としてベルト伝動機構1に設けられた状態において、全体として上方から見て略C字形の形状を呈する様形成されている。
【0067】
(先端部561及び先端部571)
第1揺動アーム56の先端部561には、
図4に示すように、軸R2(第1テンションローラ51の中心軸)を中心に(先端部561と基端部562との間のアーム部分の下端面よりも)下方に円筒状に突出する凸部561Aが形成されている。この凸部561Aを含め、先端部561における、軸R2を中心に上下方向に貫通する孔に、めねじ部が形成されている。また、ばね54のばね端部541Aが下方から凸部561Aに挿通され凸部561Aの上端(根元)の外周部分に係止されている。
これにより、第1揺動アーム56の先端部561において、上方から第1基軸部51A(おねじ部主体)が蝶合により固定されることで、ばね端部541Aが凸部561Aを介して第1基軸部51Aに係止されることになる。
【0068】
第2揺動アーム57の先端部571には、
図3に示すように、軸R3(第2テンションローラ52の中心軸)を中心に(先端部571と基端部572との間のアーム部分の上端面よりも)上方に円筒状に突出する凸部571Aが形成されている。この凸部571Aを含め、先端部571における、軸R3を中心に上下方向に貫通する孔に、めねじ部が形成されている。また、ばね54のばね端部541Bが上方から凸部571Aに挿通され凸部571Aの下端(根元)の外周部分に係止されている。
これにより、第2揺動アーム57の先端部571において、上方から第2基軸部52A(おねじ部主体)が蝶合により固定されることで、ばね端部541Bが凸部571Aを介して第2基軸部52Aに係止されることになる。
【0069】
上記構成により、第1揺動アーム56の先端部561には、第1テンションローラ51が回転自在に支持された第1基軸部51Aが、移動不能に固定(蝶合)された状態になる。
同様に、第2揺動アーム57の先端部571には、第2テンションローラ52が回転自在に支持された第2基軸部52Aが移動不能に固定(蝶合)された状態になる。
そして、第1基軸部51Aには、ばね端部541Aが挿通され、第2基軸部52Aには、ばね端部541Bが挿通されることにより、ばね54は、互いのばね端部541A、541Bの係止位置が側面視で同一平面上にあり(上下方向にずれず)、且つ、互いのばね端部541A、541Bが脱落不能な態様で、第1基軸部51Aと第2基軸部52Aとの間に張設されることになる(
図3参照)。
【0070】
(基端部562及び基端部572)
第1揺動アーム56の基端部562は、上方に延びるフランジ形状をしており、上方から見て円筒状に形成されている。具体的には、
図3に示すように、基端部562の上端面が、後述する摺動部材55の上部筒状摺動部551における上下方向に延びる円筒状部分551Aの上端から径方向外側に延びる板状部分551Bの下端面に接触可能な位置まで上方に延在しており、基端部562の下端面が後述する摺動部材55の板状摺動部552の上端面に接触している。
また、基端部562は、上部筒状摺動部551における上下方向に延びる円筒状部分551Aの外周面に接触可能な位置まで径方向内側に延在している。基端部562の径方向内側端面の直径(内径)は、上部筒状摺動部551の円筒状部分551Aの外周面の直径(外径)と同じか僅かに大きい(
図3参照)。
【0071】
第2揺動アーム57の基端部572は、下方に延びるフランジ形状をしており、上方から見て円筒状に形成されている。具体的には、
図3に示すように、基端部572の下端面が、後述する摺動部材55の下部筒状摺動部553における上下方向に延びる円筒状部分553Aの下端から径方向外側に延びる板状部分553Bの上端面に接触可能な位置まで下方に延在しており、基端部572の上端面が後述する摺動部材55の板状摺動部552の下端面に接触している。
また、基端部572は、下部筒状摺動部553における上下方向に延びる円筒状部分553Aの外周面に接触可能な位置まで径方向内側に延在している。基端部572の径方向内側端面の直径(内径)は、下部筒状摺動部553の円筒状部分553Aの外周面の直径(外径)と同じか僅かに大きい(
図3参照)。
【0072】
上記構成により、第1揺動アーム56の基端部562と第2揺動アーム57の基端部572とは上下方向に独立して、後述の摺動部材55(軸受)を介して揺動軸53に回転自在に支持されている。
【0073】
(摺動部材55(軸受))
摺動部材55は、
図3に示すように、上部筒状摺動部551と、板状摺動部552と、下部筒状摺動部553とを有し、これらは別体に形成されている。上部筒状摺動部551と下部筒状摺動部553とは、同じ構成(形状、寸法)のものである。
【0074】
上部筒状摺動部551は、上下方向に延びる円筒状部分551Aと、円筒状部分551Aの上端から径方向外側に延びる板状部分551Bとを有している。
板状摺動部552は、環状の板状に形成されている板状部分552Aと、板状部分552Aの径方向内側において、上方向及び下方向に延びる円筒状部分552Bとを有している。
下部筒状摺動部553は、上下方向に延びる円筒状部分553Aと、円筒状部分553Aの下端から径方向外側に延びる板状部分553Bとを有している。
【0075】
摺動部材55は、揺動軸53の胴部531に外挿されている。詳細には、上部筒状摺動部551、基端部562、板状摺動部552、基端部572、下部筒状摺動部553の順に揺動軸53の胴部531に外挿されて、上部筒状摺動部551、板状摺動部552、および下部筒状摺動部553は、揺動軸53のフランジ部532と第2アーム11の筐体との間で上下方向に挟まれる態様で固定される。
【0076】
摺動部材55は、第1揺動アーム56に対して、上部筒状摺動部551の円筒状部分551Aおよび板状摺動部552の円筒状部分552Bが、基端部562の内周面と面接触し、上部筒状摺動部551の板状部分551Bが、基端部562の上端面と面接触し、板状摺動部552の板状部分552Aの上端面が、基端部562の下端面と面接触することで、第1揺動アーム56に対して摺動する滑り軸受として機能する。
【0077】
同様に、摺動部材55は、第2揺動アーム57に対して、下部筒状摺動部553の円筒状部分553Aおよび板状摺動部552の円筒状部分552Bが、基端部572の内周面と面接触し、下部筒状摺動部553の板状部分553Bが、基端部572の下端面と面接触し、板状摺動部552の板状部分552Aの下端面が、基端部572の上端面と面接触することで、第2揺動アーム57に対して摺動する滑り軸受として機能する。
【0078】
上記構成により、第1揺動アーム56および第2揺動アーム57は、それぞれ独立して、この摺動部材55(軸受)を介して揺動軸53に回転自在に支持される。
【0079】
本実施形態の摺動部材55(軸受)は、低摩擦摺動性や耐摩耗性等の観点から、ロックウェルRスケール(JIS K7202-2:2001に準拠)が80~130である硬質の熱可塑性樹脂(例えばポリアセタール樹脂)を射出成形により形成したものとした。
【0080】
(オートテンショナ5の動作:歯付ベルト4の張り側)
(動作)
ロボットアーム駆動用のベルト伝動機構1において、
i.駆動プーリ2が停止している状態では、駆動軸21と平行な方向に見て(以下、上方から見て)、ローラ中心線RLとプーリ中心線PLとが直交した態様で、2つのテンションローラ(第1テンションローラ51及び第2テンションローラ52)と歯付ベルト4の外周面とが互いに接触し釣り合っている(
図2参照)。
【0081】
ii. 正逆切替時(正逆の起動/停止時)(駆動プーリ2が
図5の矢印Z方向に回転した場合)
まず、歯付ベルト4の張り側において、歯付ベルト4の張力が増加し、歯付ベルト4の張り側に位置する一方のテンションローラである第1テンションローラ51が、歯付ベルト4の張力により歯付ベルト4に押されて歯付ベルト4の張り方向に変位する際、本構成では、第1揺動アーム56及び第2揺動アーム57が、それぞれ揺動軸53を中心に回転自在で、且つ、第1基軸部51Aと第2基軸部52Aとの間をばね54で接続(付勢)された、2つのテンションローラ(第1テンションローラ51及び第2テンションローラ52)が、揺動軸53を中心(中心軸R)に平面的に揺動自在な構成のため、歯付ベルト4の張力の増加とともに、第1テンションローラ51は、歯付ベルト4に押されて、歯付ベルト4の張り方向(且つ駆動プーリ2方向側)に変位しつつ、揺動軸53を中心に矢印X方向に回転される、第1揺動アーム56を介して、上方から見て、第1テンションローラ51の回転中心51Cと揺動軸53の揺動の中心点(中心軸R)との間を揺動半径r1とする軌道上を、揺動軸53を中心に矢印(1)の方向に回転を開始し、ばね54の付勢力に抗しつつも、揺動軸53を中心に矢印X方向に回転される第1揺動アーム56を介して、揺動軸53を中心に矢印(1)の方向に揺動することで、釣り合い位置、つまり歯付ベルト4の張り側で緊張状態に達するベルト位置まで、素早く変位する(
図5参照)。
【0082】
(作用)
本構成では、上方から見て、揺動の中心点(中心軸R)が、ローラ中心線RLとプーリ中心線PLとの交点から駆動プーリ2側に離間した、プーリ中心線PL上の点であるため、歯付ベルト4の張り側において、歯付ベルト4の張力が増加し、歯付ベルト4の張り側に位置する第1テンションローラ51が、歯付ベルト4の張力により歯付ベルト4に押されて歯付ベルト4の張り方向に変位する際、第1揺動アーム56及び第2揺動アーム57がそれぞれ揺動軸53を中心に回転自在で、且つ、第1基軸部51Aと第2基軸部52Aとの間をばね54で接続(付勢)された、2つのテンションローラ(第1テンションローラ51及び第2テンションローラ52)が揺動軸53を中心に揺動自在な構成であるため、第1テンションローラ51は、ばね54の付勢力に抗しつつも、第1基軸部51Aと第2基軸部52Aとの間をばね54で接続(付勢)された、2つのテンションローラ(第1テンションローラ51及び第2テンションローラ52)ごと、第1テンションローラ51の揺動半径r1及び第2テンションローラ52の揺動半径r2(第2テンションローラ52の回転中心52Cと揺動軸53の揺動の中心点(中心軸R)との間の距離)をそれぞれ揺動半径とする軌道上を歯付ベルト4の張り方向(
図5の矢印(1)(2)方向)に揺動軸53を中心に揺動することで、第1テンションローラ51が釣り合い位置まで素早く変位できる。
【0083】
そのため、2つのテンションローラ(第1テンションローラ51及び第2テンションローラ52)が揺動軸53を中心に揺動不能な構成(2つのテンションローラにばねの付勢力のみが作用している構成)であって、上方から見てプーリ中心線PLと直交する方向にしか2つのテンションローラが変位できない構成(例えば特許文献1
図1の構成)と比較し、歯付ベルト4の張り側において、第1テンションローラ51がばね54による減衰(ばね54の付勢力に抗する方向の変位)を抑えつつ、揺動軸53を中心に矢印X方向に回転される第1揺動アーム56を介して、揺動軸53を中心に揺動することで、釣り合い位置まで素早く変位できる分、正逆回転に伴い歯付ベルト4の張り側において第1テンションローラ51の応答性(動作速度)が向上するとともに、歯付ベルト4が過張力となるのを抑制できる(張力変動を低く抑えることができる)。
【0084】
(オートテンショナ5の動作:歯付ベルト4の緩み側)
(動作、作用)
iii. 次に、歯付ベルト4の緩み側において、歯付ベルト4の張力が減少し、歯付ベルト4に緩みが生じることになるが、さきの歯付ベルト4の張り側での上記動作(ii)で、張り側の第1テンションローラ51が、ばね54の付勢力に抗しつつも、第1基軸部51Aと第2基軸部52Aとの間をばね54で接続(付勢)された、2つのテンションローラ(第1テンションローラ51及び第2テンションローラ52)ごと、第1テンションローラ51の揺動半径r1及び第2テンションローラ52の揺動半径r2をそれぞれ揺動半径とする軌道上を、揺動軸53を中心に矢印(1)の方向に揺動したことに連動し、歯付ベルト4の緩み側において、他方の第2テンションローラ52は、おのずと歯付ベルト4の緩みを解消する方向(ばね54の付勢方向)にばね54で付勢されつつ、揺動軸53を中心に矢印X方向に回転される第2揺動アーム57を介して揺動軸53を中心に揺動することで、矢印(2)の方向に素早く変位することになる(
図5参照)。
【0085】
このため、歯付ベルト4の緩み側においても、第2テンションローラ52の応答性(動作速度)が向上するとともに、第2テンションローラ52を歯付ベルト4の外周面に接触させたままの状態に維持できることで、歯付ベルト4に緩みを生じさせることなく、歯付ベルト4の張力を自動的に適度に保つことができる。
【0086】
iv. また、本構成では、ばね54が2つのテンションローラ(第1テンションローラ51及び第2テンションローラ52)の第1基軸部51Aと第2基軸部52Aとの間に張設されている。
このため、2つのテンションローラ(第1テンションローラ51及び第2テンションローラ52)が揺動軸53を中心に(揺動軸53と直交する面に沿って)揺動自在な構成であっても、ばね54が2つのテンションローラの基軸部間に張設されていない構成[例えば、ばねが2つのテンションローラの各基軸部と揺動軸とを接続する各部材間(互いに独立した2つのアーム部材間)に張設されている構成(後述の比較例4及び
図9参照)]と比較し、駆動軸21と平行な方向に見て、揺動の中心点(中心軸R:歯付ベルト4の緩み側においては「支点」)と、歯付ベルト4の緩み側においてばね54の付勢力が加わる点(つまり、歯付ベルト4の緩み側においては「力点」)との離間距離が長い。その分、歯付ベルト4の緩み側において、第2テンションローラ52と緩み側の歯付ベルト4とが接触する点(つまり、歯付ベルト4の緩み側においては「作用点」)により大きな力が働くため、歯付ベルト4の緩み側において、第2テンションローラ52の応答性(動作速度)がより向上する。
【0087】
v. なお、特許文献2の構成では、そもそも2つのテンションローラ間にばね等による付勢作用が働かない。そのため、走行初期に生じる張力低下の調整に対応できない。
【0088】
(駆動プーリ2が
図5の矢印Z方向と反対の方向に回転した場合)
次に、駆動プーリ2が
図5の矢印Z方向と反対の方向に回転駆動されると、歯付ベルト4の張り側、緩み側の位置が、さきの場合(駆動プーリ2が
図5の矢印Z方向に回転駆動される場合)と逆になり、まず、歯付ベルト4の張り側において、第2テンションローラ52が、歯付ベルト4に押されて歯付ベルト4の張り方向に変位する際、ばね54の付勢力に抗しつつも、揺動軸53を中心に矢印X方向と反対の方向に回転される第2揺動アーム57を介して揺動軸53を中心に揺動することで、
図5に示す位置から釣り合い位置まで、
図5の矢印(2)の方向と反対の方向に素早く変位し、次に、これに連動し、第1テンションローラ51がおのずと歯付ベルト4の緩みを解消する方向(ばね付勢方向)にばね54に付勢されつつ、揺動軸53を中心に矢印X方向と反対の方向に回転される第1揺動アーム56を介して揺動軸53を中心に揺動することで、
図5に示す位置から
図5の矢印(1)の方向と反対の方向に素早く変位することになる。
これにより、やはり、歯付ベルト4の張り側において、第2テンションローラ52の応答性(動作速度)が向上するとともに、歯付ベルト4が過張力となるのを抑制でき(張力変動を低く抑えることができ)、且つ、歯付ベルト4の緩み側において、第1テンションローラ51の応答性(動作速度)が向上するとともに、第1テンションローラ51を歯付ベルト4の外周面に接触させたままの状態に維持できることで、歯付ベルト4に緩みを生じさせることなく、歯付ベルト4の張力を自動的に適度に保つことができる。
【0089】
以上より、本構成によれば、ロボットアーム駆動用ベルト伝動機構1において、駆動プーリ2が正逆いずれの方向に回転する場合でも、正逆切替時(正逆の起動/停止時)の駆動に対する応答性を高い水準に確保すること(つまり正逆切替時の、駆動プーリ2と従動プーリ3との回転角度差を十分に抑制すること)が可能となり、正逆回転を伴う動作の速度が増加しても、同期伝動[(走行初期に生じる張力低下の調整を含め)自動的に、且つ適度に(歯付ベルト4が緩まない程度に)歯付ベルト4の張力を保つこと]を確実なものとすることができる。
【0090】
また、2つのテンションローラ(第1テンションローラ51及び第2テンションローラ52)は、駆動プーリ2側、または、駆動プーリ2及び従動プーリ3のうち直径が小さい方のプーリ側に設けられている。
ロボットアーム駆動用ベルト伝動機構1は、従動プーリ3の回転トルクを所定の水準に確保するため、駆動プーリ2の直径が従動プーリ3の直径よりも小さい場合(所謂、減速機構として機能する場合)が一般的であるが、駆動プーリ2及び従動プーリ3の直径が同じ場合もある。例えば、駆動プーリ2と従動プーリ3との間隔が狭く、且つ、減速比(プーリ径の比)が大きいベルト伝動機構1においては、小径側の駆動プーリ2において、歯付ベルト4の接触角が小さくなり、歯付ベルト4の緩みが大きいと、歯付ベルト4の歯飛びが起こりやすくなる懸念があるが、本構成によれば、駆動プーリ2(駆動プーリ2及び従動プーリ3が同径の場合を含む)、または、(駆動、従動に依らず)小径側のプーリにおいて、歯付ベルト4の接触角が小さくなるのを抑制できることで、歯付ベルト4の歯飛びを生じにくくすることができる。
【0091】
また、ベルト伝動機構1の駆動プーリ2の直径は、従動プーリ3の直径よりも小さい場合(つまりベルト伝動機構1が減速機構である場合)、駆動プーリ2の直径が従動プーリ3の直径と同径の場合と比べ、正逆切替時に、2つのテンションローラが揺動軸53を中心に揺動することにより変位する度合いが大きくなる。
そのため、本構成によれば、2つのテンションローラ(第1テンションローラ51及び第2テンションローラ52)が揺動軸53を中心に揺動不能な構成(2つのテンションローラにばねの付勢力のみが作用している構成)であって、駆動軸と平行な方向に見てプーリ中心線と直交する方向にしか2つのテンションローラが変位できない構成と比較し、歯付ベルト4の張り側において、第1テンションローラ51がばね54による減衰(ばね54の付勢力に抗する方向の変位)を抑えつつ、揺動軸53を中心に揺動することにより素早く変位できる効果をより大きくすることができる。ひいては、ロボットアーム駆動用ベルト伝動機構1において、正逆切替時(正逆の起動/停止時)の駆動に対する応答性をより高い水準に確保することができる。
【0092】
(その他の実施形態)
上記実施形態では、揺動軸53の中心軸R(揺動の中心点)は、第1テンションローラ51の回転中心51Cと第2テンションローラ52の回転中心52Cとを結ぶローラ中心線RLとプーリ中心線PLとの交点から駆動プーリ2側に離間した、プーリ中心線PL上の点を通り、駆動軸21と平行な方向に延びた構成をしている。
しかし、揺動軸53の中心軸R(揺動の中心点)は、第1テンションローラ51の回転中心51Cと第2テンションローラ52の回転中心52Cとを結ぶローラ中心線RLとプーリ中心線PLとの交点から駆動プーリ2側に離間した、プーリ中心線PLの延長線上の点を通る構成であってもよい。
具体的には、駆動軸21が、オートテンショナ5の2つのテンションローラ(第1テンションローラ51及び第2テンションローラ52)と揺動軸53との間に配置された構成であってもよい。
また、
図10に示すように、揺動軸53の中心軸R(揺動の中心点)は、第1テンションローラ51の回転中心51Cと第2テンションローラ52の回転中心52Cとを結ぶローラ中心線RLとプーリ中心線PLとの交点から駆動プーリ2側に離間した、プーリ中心線PL上の点であって、駆動軸21の中心軸(駆動プーリ2の回転中心22)を通り、駆動軸21と平行な方向に延びた構成(つまり、駆動軸21が揺動軸53を兼ねる構成)であってもよい。この場合、第1揺動アーム56及び第2揺動アーム57が、摺動部材55(軸受:
図10では不図示)を介して、既存の駆動軸21に回転自在に支持されることになり、ベルト伝動機構1の簡素化(部品の削減、組付け性の向上)を図ることができる。
【0093】
また、上記実施形態では、本発明に係るベルト伝動機構を、ロボットアームを駆動させるロボットアーム駆動用ベルト伝動機構として説明したが、これに限らない。例えば、本発明に係るベルト伝動機構は、射出成形機(射出、計量、型開閉等の各作動部で各々独立したモータにより電動式で駆動されるベルト伝動機構部)や、その他一般産業用の機器や装置等のベルト伝動機構などに適用することができる。
【実施例0094】
本発明のベルト伝動機構においては、正逆回転を伴う動作の速度が増加しても、位置決め精度を繰り返し確保して[即ち、正逆切替時(正逆の起動/停止時)の駆動に対する応答性を高い水準に確保して(つまり正逆切替時の駆動プーリと従動プーリとの回転角度の差の大きさ(以下、「回転角度差」)を許容範囲内に常時収め)]、同期伝動[(走行初期に生じる張力低下の調整を含め)自動的に、且つ適度に(ベルトが緩まない程度に)ベルトの張力を保つこと]を確実なものとする必要がある。
【0095】
そこで、本実施例では、実施例1~3および比較例1~4に係るベルト伝動機構(以下、各供試体)を作製し、応答性試験[正逆切替時(正逆の起動/停止時)の駆動に対する応答性の評価]を行い、比較検証を行った。
なお、以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0096】
[ベルト伝動機構]
(各供試体で共通)
(歯付ベルト:
図6)
・歯部の形状:歯形状は、直歯に属するH歯形(断面が略半丸形の形状)とした。
・歯数:200
・歯ピッチ:3mm
・ベルト長さ:600mm
・ベルト幅:10mm
【0097】
[使用材料]
(心線)
・構成:各供試体の各歯付ベルトに使用する心線として、表2に示す構成のA1~A3の撚りコードを作製した。
・A1の心線(撚りコード)は、以下の手順で作成した。
JIS R 3413(2012)に記載されている呼称ECG-150のガラス繊維(Eガラス繊維)のフィラメント(9ミクロン径)を束ねて引き揃えて、3本のストランドとした。この3本のストランドを、表3に示す組成のRFL液(18~23℃)に3秒間通過させることにより浸漬した後、200~280℃で3分間加熱乾燥して、表面に均一に接着層を形成した。この接着処理の後に、3本のストランドを、撚り数12回/10cmで下撚りして、上撚りは与えず、片撚りで径が約0.35mmの撚りコードを用意した。
A2の心線(撚りコード)は、ガラス繊維をKCG150に変更した以外はA1と同様に作成した。
A3の心線(撚りコード)は、用いたストランドを、炭素繊維のフィラメント(3K)を束ねて引き揃えた1本のストランドとした以外は、A1、A2の心線と同じ手順で作成し、片撚りで径が0.53mmの撚りコードとした。
【0098】
【0099】
(心線の弾性率)
ここで、表2に示した心線(長手方向)の弾性率(引張弾性率)の測定方法について説明する。
オートグラフ((株)島津製作所製「AGS-J10kN」)の下側固定部と上側ロードセル連結部にチャック(掴み具)を取り付け、心線の両端部をチャックで掴む。
次に、心線を250mm/分の速度で切断するまで引っ張ったときに測定された応力-歪み曲線において、比較的直線関係にある領域(100~200N)の直線の傾きを心線の引張弾性率として算出した。
【0100】
(歯布)
・各供試体の歯布に用いた繊維織物の構成は次の1種類とした。
組成は、緯糸が66ナイロン、経糸が66ナイロンである。糸構成は、緯糸が44dtexのウーリー加工糸であり、経糸が44dtexである。織り構成は、綾織りである。そして、上記構成の歯布を、表3に示したRFL処理液にて、RFL処理を行った。その後、表4に示した未加硫ゴムシートと同じゴム組成物をトルエンに溶解したゴム糊にて接着処理し、更に、表4に示した組成のゴム組成物シートを積層してコート処理を行った。
【0101】
【0102】
(ゴム組成物)
・表4に示す組成[ゴム成分:クロロプレンゴム(CR)]のゴム組成物をバンバリーミキサーで混練りし、この練りゴムをカレンダーロールに通して所定厚みの圧延ゴムシートとして、各供試体の各歯付ベルトを構成する背部及び歯部形成用の未加硫ゴムシートを作製した。
・調製したゴム組成物(未加硫ゴムシート)を165°C、30分間の条件でプレス加硫することによって得られた加硫ゴムシートの硬度は、JIS K 6253(2012)に準拠し、雰囲気温度23℃(23±2℃)でタイプAデュロメータを用いて測定した硬度で、約81であった。
・なお、表4中※印の成分は下記の通りである。
【0103】
【表4】
※1 デンカ社製「PM-40」
※2 大内新興化学工業社製「ノクラックMB」
※3 大内新興化学工業社製「N-シクロヘキシル-2ベンゾチアゾールスルフェンアミド」
※4 東海カーボン社製「シースト3」
※5 正同化学工業社製「酸化亜鉛3種」
【0104】
[歯付ベルトの製造]
・上記使用材料で説明した、心線(接着処理品)、歯布(接着処理品)、ならびにゴム組成物(未加硫ゴムシート)をそれぞれ使用して、上記実施の形態に記載した通常の圧入工法にて、各供試体の各歯付ベルトを作製した。なお、加硫は、161℃で25分間行った。また、背部を所定の厚みに構成するため、加硫して得られたベルトスリーブに対して、背面を一定厚さ研磨したうえで、一定幅に切断し、各供試体の各歯付ベルトを得た。
・通常の圧入工法で歯付ベルトを作製したため、背部及び歯部は同じ組成のゴム組成物で構成されている。そのため、各歯付ベルトにおいて、背部を構成するゴム組成物の硬さと、歯部を構成するゴム組成物の硬さとは、略同じである。
【0105】
(プーリレイアウト)
・実施例1~3(
図2)、及び、比較例1~4(比較例1~3は不図示、比較例4は
図9参照)のベルト伝動機構は、いずれも、駆動プーリ及び従動プーリが直歯歯付プーリで、かつ軸間固定の2軸レイアウトとし、一方(駆動プーリ)の回転軸に接続可能な軸荷重検知器(ロードセル)を備えたものとした。
・駆動プーリの歯数/プーリ径(心線ラインを想定):21歯/20.054mm
・従動プーリの歯数/プーリ径(心線ラインを想定):84歯/80.214mm
・減速比:4(従動プーリは、駆動プーリよりもピッチ径が4倍大きい)
・ベルト取付張力:要求されるベルト取付張力の水準は、5N/mm幅(ベルト1mm幅当たり5N)程度とした。
本明細書では、実走行直前[空運転(ならし走行)を行った後]に、静止状態で測定されたベルト張力を「ベルト取付張力」として扱っている。
ベルト取付張力は、一方(駆動プーリ)の回転軸に接続した軸荷重検知器(ロードセル)によって検知される軸荷重から算出した。
・軸間距離は、220mm(基準値)とした。
【0106】
(オートテンショナ)
(実施例1~3)
・上記実施形態に記載したオートテンショナ(
図3、4参照)を、
図2に示す態様でベルト伝動機構に付与した。つまり、実施例1~3のオートテンショナは、いずれも同一の構成で、2つのテンションローラに対して、2つのテンションローラの各基軸部間に張設されたばね(引張ばね)の付勢作用と、揺動軸を中心とする揺動作用とが共に働くように構成されたオートテンショナである。
【0107】
(比較例1)
・ベルト伝動機構にオートテンショナを有しない構成(つまり、駆動プーリ、従動プーリ、歯付ベルトのみの構成)とした(不図示)。
【0108】
(比較例2:特許文献1の構成に相当)
・実施例1のオートテンショナ(
図3、4参照)をベースに、2つのテンションローラに対して、ばね(引張ばね)の付勢作用のみが働き、揺動軸を中心とする揺動作用が働かないように構成されたオートテンショナ(不図示)を、
図2に示す態様(レイアウト)でベルト伝動機構に付与した。
【0109】
(比較例3:特許文献2の構成に相当)
・実施例1のオートテンショナ(
図3、4参照)をベースに、2つのテンションローラに対して、ばねの付勢作用が働かず、揺動軸を中心とする揺動作用のみが働くように構成されたオートテンショナ(不図示)を、
図2に示す態様(レイアウト)でベルト伝動機構に付与した。
【0110】
(比較例4)
・
図9に示すように、実施例1のオートテンショナ(
図3、4参照)をベースに、2つのテンションローラに対して、ばね(引張ばね)の付勢作用と、揺動軸を中心とする揺動作用とが共に働くように構成されているが、ばねが2つのテンションローラの各基軸部間に張設されておらず、2つのテンションローラの各基軸部と揺動軸とを接続する各部材間(互いに独立した2つのアーム部材間)に張設されている構成のオートテンショナを、
図2と同じ態様(レイアウト)でベルト伝動機構に付与した。
【0111】
[ベルト伝動機構の評価:項目、方法、基準]
各供試体(実施例1~3、比較例1~4)について、本願課題を解決し得るベルト伝動機構が得られたかどうかを見極めるために、エージングの必要性[ベルト走行初期の張力低下の自動調整(是正)可否]、ならびに応答性(正逆切替時の駆動に対する応答性)を検証した。
【0112】
[エージングの必要性]
(方法、判定基準)
エージング[空運転(ならし走行)後、軸間距離の調整等によるベルトの張直し(張力調整作業)]を行わなくても、所定のベルト取付張力(5N/mm幅程度)を確保することができた場合は、ベルト走行初期の張力低下を自動的に調整(是正)することができると評価し、a判定とした。
所定のベルト取付張力(5N/mm幅程度)を確保するために、エージング[空運転(ならし走行)後、軸間距離の調整等によるベルトの張直し(張力調整作業)]が必要であった場合は、ベルト走行初期の張力低下を自動的に調整(是正)することができないと評価し、b判定とするとともに、以降の試験(応答性試験)を見送った。
本用途での実使用に対する適正(エージングの必要性)の観点から、a判定のベルト伝動機構を合格レベルとした。
【0113】
[応答性]
(試験名)
応答性試験
(試験機)
試験には応答性評価試験機を使用した(
図7参照)。
当該試験機は、2軸のプーリ間に巻き掛けられた歯付ベルトを頻繁な正逆回転を伴う試験パターン(サイクルパターン)にて走行させて、各軸に取り付けた1対のロータリーエンコーダ(回転角度検出器)が出力する回転パルス信号にて、走行中の回転角度差(駆動軸の回転角度-従動軸の回転角度)の時系列変化を検出できるように構成されている。
プーリレイアウトは、前述のベルト伝動機構(
図2)と同じである。つまり、該試験機のプーリのレイアウトは、駆動プーリと、従動プーリと、を有し、軸間距離は220mmで固定した。
また、本用途(ロボットアーム駆動用)を想定し、所定の負荷トルクを付与できるよう、従動側にフライホイールを取り付けた。
また、本用途(ロボットアーム駆動用)を想定し、駆動プーリの回転角度および従動プーリの回転角度を高精度に検出できるよう、1対のロータリーエンコーダは、ともに回転角度の分解能に優れたもの[角度分解能が0.0044°のエンコーダ(CANON社製R-1L)]を使用した。
【0114】
(試験方法)
常温下、所定のベルト取付張力(5N/mm幅程度)でプーリ間(軸間距離固定)に巻き掛けられた歯付ベルトを、表5に示す試験条件(駆動プーリの回転数のみ変量)、および
図8に示す試験パターン(サイクルパターン)にて、頻繁な正逆回転を250サイクル繰り返すように走行させた。得られた回転角度差の時系列変化のグラフ(不図示)から、変量した駆動プーリの回転数(1、2、5rps)毎に、回転角度差(絶対値の最大値)の水準を試験結果として読み取った。
なお、当該回転角度差は、時系列に見て、正逆切替時[正逆の起動(加速時)/停止時(減速時)]にオーバーシュート及びアンダーシュートを起こすため、その絶対値は、正逆切替時(頻度:1サイクル当たり4回)に最大となる。駆動プーリの各回転数に対応する、正逆切替時の加減速度は、表6に示した。
【0115】
【0116】
(判定基準)
本用途でのベルト伝動機構として最も重視される応答性(正逆切替時の駆動に対する応答性)の判定として、正逆切替時の駆動プーリと従動プーリとの回転角度差を指標(絶対値が小さいほど応答性が高く、位置決め精度を繰り返し確保でき、同期伝動を確実なものとすることができる)とし、駆動プーリの回転数毎の回転角度差(絶対値)が、常時0.2°以内であった場合をa判定、一度でも0.2°を上回った場合をb判定とした。
本用途での実使用に対する適正(応答性)の観点から、a判定のベルト伝動機構を合格レベルとした。
【0117】
[総合判定]
本課題を解決し得るベルト伝動機構としての総合的な判定(ランク付け)の基準は、上記2つの試験項目(エージングの必要性、応答性)における判定の結果から、以下の通りとした。
ランクA:上記評価(エージングの必要性、応答性)で、いずれもa判定であった場合は、本課題の解決策として充分に満足できるランク(合格)とした。
ランクB:上記評価(エージングの必要性、応答性)で、1つでもb判定があった場合は、本課題の解決策として不充分なランク(不合格)とした。
【0118】
【0119】
(オートテンショナの構成を変更した比較:実施例1、比較例1~4)
実施例1のオートテンショナ(2つのテンションローラに対して、2つのテンションローラの各基軸部間に張設されたばねの付勢作用と、揺動軸を中心とする揺動作用とが共に働くように構成)をベースに、オートテンショナの構成(オートテンショナの搭載の有無を含む)を変更し、比較した。2つのテンションローラに対して、ばねの付勢作用が働くオートテンショナをベルト伝動機構に有する場合(実施例1、比較例2、4)は、エージングが不要(a判定)であり、2つのテンションローラに対して、ばねの付勢作用のみならず、揺動軸を中心とする揺動作用も働く実施例1では、応答性もa判定(総合判定でもランクA)であったが、2つのテンションローラに対して、ばねの付勢作用のみが働き、揺動軸を中心とする揺動作用が働かない比較例2、ならびに、2つのテンションローラに対して、ばねの付勢作用のみならず、揺動軸を中心とする揺動作用も働くが、ばねが2つのテンションローラの各基軸部間に張設されていない比較例4は、応答性がb判定(総合判定でもランクB)となった。
一方、ベルト伝動機構にオートテンショナをベルト伝動機構に有しない比較例1、ならびに2つのテンションローラに対して、ばねの付勢作用が働かず、揺動軸を中心とする揺動作用のみが働くオートテンショナをベルト伝動機構に有する比較例3は、エージングが必要(b判定)となり、総合判定でランクBであった。
【0120】
(歯付ベルトの心線種を変更した比較:実施例1~3)
実施例1の歯付ベルト(Eガラス繊維:A1)をベースに、歯付ベルトの心線を構成する繊維材料(フィラメントの材質)を変更し、比較した。実施例1よりも弾性率が大きい高強度ガラス繊維(Kガラス繊維:A2)の心線を用いた実施例2、実施例2よりもさらに弾性率が大きい炭素繊維(A3)の心線を用いた実施例3と、心線(即ちベルト)がより高弾性率かつ低伸度なものになるほど、駆動プーリの回転数毎の回転角度差(絶対値の最大値)の水準が小さくなり、応答性(正逆切替時の駆動に対する応答性)が高くなる傾向が見られ、これらの条件(実施例1~3)ではランクAであった。
【0121】
(得られた効果)
以上の検証結果から、実施例1~3のベルト伝動機構をロボットアーム駆動用途等の正逆回転可能に駆動されるベルト伝動機構に適用した場合は、2つのテンションローラに対して、2つのテンションローラの各基軸部間に張設されたばね(引張ばね)の付勢作用と、揺動軸を中心とする揺動作用とが共に働くように構成されたオートテンショナを備えているため、エージング[空運転(ならし走行)後、軸間距離の調整等によるベルトの張直し(張力調整作業)]を行わなくても、所定のベルト取付張力(5N/mm幅程度)を確保して、ベルト走行初期の張力低下を自動的に調整(是正)することができるとともに、正逆切替時の駆動に対する応答性の指標となる回転角度差(絶対値)を許容範囲内(0.2°以内)に常時収めることができることから、正逆回転を伴う動作の速度が増加しても、位置決め精度を繰り返し確保して、同期伝動を確実なものとすることができることが伺えた。