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  • 特開-魚釣用スピニングリール 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155436
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】魚釣用スピニングリール
(51)【国際特許分類】
   A01K 89/01 20060101AFI20231013BHJP
【FI】
A01K89/01 F
A01K89/01 E
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023140701
(22)【出願日】2023-08-31
(62)【分割の表示】P 2022092723の分割
【原出願日】2018-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大智
(72)【発明者】
【氏名】清水 栄仁
(57)【要約】
【課題】長時間に亘ってレバーの牽引操作をしても、快適にロータの逆回転に制動力を付与できるスピニングリールを提供する。
【解決手段】本発明のスピニングリールは、釣糸案内部8bを備えたロータ8と、ロータ8の回転によって釣糸案内部を介して釣糸が巻回されるスプール10と、リール本体に回動支点14によって回動可能に支持されたレバー15の牽引操作によってロータ8の逆回転に制動力を付与するロータ制動機構と、を有し、レバー15の操作部15aの牽引力Wに対する制動力が付与されたロータの逆回転に伴って釣糸案内部から引き出される釣糸の張力Fの割合F/Wが、1.2以上となるように構成される。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リール本体に回転可能に支持された釣糸案内部を備えたロータと、リール本体に支持され且つ前記ロータの回転によって前記釣糸案内部を介して釣糸が巻回されるスプールと、前記リール本体の脚部に支軸を介して回動可能にバネ付勢支持され、前記ロータを逆転可能で非制動状態の初期位置に保持されるレバーと、前記レバーを、前記初期位置から牽引操作によって前記ロータの逆回転に制動力を付与するロータ制動機構と、を有する魚釣用スピニングリールにおいて、
前記レバーの初期位置からの操作部の牽引力Wに対する制動力が付与された前記ロータの逆回転に伴って前記釣糸案内部から引き出される釣糸の張力Fの割合F/Wが、1.2以上で3.0以下に設定されるように前記ロータ制動機構の少なくともロータの逆転時に一体回転する制動体をチタン材で構成し、
前記レバーは、合成樹脂材で形成され、リール本体の脚部の支軸から前記レバーの操作部先端までの初期位置の高さH1が38~40mmの範囲に設定されていることを特徴とする魚釣用スピニングリール。
【請求項2】
前記レバーの牽引方向の操作量Hが、2.0~4.0mmであり、
前記回動支点から前記レバーの操作部先端までのロータの回転軸方向に沿った距離Lが、79~82mmであることを特徴とする請求項1に記載の魚釣用スピニングリール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レバーの牽引操作によってロータの逆回転に制動力を付与するタイプの魚釣用スピニングリールに関する。
【背景技術】
【0002】
上記したレバータイプの魚釣用スピニングリール(以下、スピニングリールとも称する)では、実釣時に掛かった魚をトラブルなく取り込む場合、釣人は、釣竿を握持した手の人差し指でレバーの操作部を釣竿側に牽引操作して、魚のファイトによる釣糸の繰り出しで高速で逆回転するロータに制動を掛け、魚の引き具合に適応すべく釣糸の張力を調節している。
【0003】
釣竿を握持しながら人差し指の牽引操作でロータの逆回転に制動を加えるレバーは、例えば、特許文献1及び2に開示されているように、リール本体の脚部に支持されており、その一方の基部側にロータと共に一体回転する制動部材を挟み付ける、圧接する等によって制動力を付与する押圧部が形成され、他方の端部に人差し指で牽引操作可能な操作部が形成されている。すなわち、レバータイプのスピニングリールは、魚が掛かってロータが逆回転した際に、レバーを牽引して制動力を加え、釣糸に所望の引き出し張力を与えるように構成されている。
【0004】
また、このようなスピニングリールでは、釣竿を握持した手の人差し指で容易に牽引操作できること、及び、高速で逆回転するロータに対して一定距離を維持する制約上、レバーの操作部は釣竿側に近づくように配設されており、レバー自体は剛性を有する材質や形状で形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-333567号
【特許文献2】特開平7-23790号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、釣人は、実釣時において、上記した人差し指による牽引操作(制動操作)を何度も繰り返しており、人差し指でレバーを牽引する牽引力と釣糸に作用する張力との感覚は、例えば、レバーの材質、剛性、形状、レバーの支点から牽引部や押圧部分までの距離、レバーを回動付勢する引張バネの張力、制動板及びブレーキシューの材質、両者の摩擦係数、表面処理など、様々な要因(以下、構造的要因と称する)によって変わってくる。
【0007】
従来のレバータイプのスピニングリールは、単に、レバーを牽引してロータの逆回転に制動を加える、という観点で設計がされているに過ぎず、ロータと共に一体回転する制動部材に対する圧接方法の構成、制動板やブレーキシューの材質などを工夫するに留まっている。本発明者が実際に製品化されているあらゆるレバータイプのスピニングリールについて検証したところ、いずれのスピニングリールも、上記した構造的要因を考慮したレバー操作性について配慮されておらず、長時間牽引操作を続けると指が痛くなると共に、感覚も鈍くなって微妙な制動操作を行なうことが難しくなるという問題が見出された。すなわち、従来のレバータイプのスピニングリールは、釣人がレバーに対して牽引力を作用させた際、人差し指で感じる牽引力Wに対して、実際に釣糸案内部(ラインローラ)を介して引き出される釣糸の張力Fとの関係が好ましい状態になっていないことが見出され、実際に長時間に亘って使用していると、指が痛くなったり、微妙な制動調整がし辛くなったりする等の問題が生じている。
【0008】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、長時間に亘ってレバーの牽引操作をしても、快適にロータの逆回転に制動力を付与できるスピニングリールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
レバータイプのスピニングリールでは、実釣時において、釣竿を握持している手の人差し指が、常にレバーに当て付いて牽引できる(ロータの逆回転に対して所望の制動力を付与する)ようにしており、制動力の大きさ(引き出される釣糸に作用する張力)は、人差し指による牽引力の大きさによって調節される。この場合、魚が掛かると、釣人は、その引きの大きさによって牽引力を調節することから、レバーに対しては、常に、様々な制動力を作用させることとなり、釣人がレバーの操作部に作用させる牽引力Fと、そのときに作用する釣糸の張力Wについては、釣人にとっては、魚とやり取りする上で重要となる。すなわち、ある程度の牽引力Fを加えても、釣糸が引き出されてしまえば、釣人は、更に大きな張力が作用させるように、レバーを強く牽引する必要があり、このような態様が実釣時に繰り返されることで、長時間に亘って使用していると、指が痛くなったり、微妙な制動調整がし辛くなったりする等の原因となっている。
【0010】
そこで、上記した目的を達成するために、本発明に係るスピニングリールは、リール本体に回転可能に支持された釣糸案内部を備えたロータと、リール本体に支持され且つ前記ロータの回転によって前記釣糸案内部を介して釣糸が巻回されるスプールと、前記リール本体に回動支点によって回動可能に支持されたレバーの牽引操作によって前記ロータの逆回転に制動力を付与するロータ制動機構と、を有する構成において、前記レバーの操作部の牽引力Wに対する制動力が付与された前記ロータの逆回転に伴って釣糸案内部から引き出される釣糸の張力Fの割合F/Wが、1.2以上となるように構成されることを特徴とする。
【0011】
現在、市販化されているレバー式のスピニングリールは、上記したレバーの操作部の牽引力Wに対する制動力が付与された前記ロータの逆回転に伴って釣糸案内部から引き出される釣糸の張力Fの割合F/Wが、0.4~0.8に含まれるものが多く、低い設定値のものでは、0.30~0.50、最も高い設定値のものでも、0.9~1.1程度である。上記したように、この割合F/Wが低いと、それはレバーを牽引して制動を掛けようとしても、釣糸が予期せずに引きずり出されることを意味しており、これが、より強い牽引力を作用させようとして、レバーを強く引き上げようとする動作に繋がっている。本発明者の検証によれば、F/Wが最も高い1.1であったとしても、長時間に亘ってレバーを操作し続けると、人差し指が疲れる、操作感が鈍る等、操作性について改善した方が良いとの結論が見出されている。そこで、本発明は、F/Wを1.2以上に設定することで、長時間に亘ってレバーの牽引操作をしても、従来のような人差し指が疲れる等の症状が緩和され、長時間に亘って快適に使用することを可能にしている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、長時間に亘ってレバーの牽引操作をしても、快適にロータの逆回転に制動力を付与できるスピニングリールが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る魚釣用スピニングリールの一実施形態を示す一部断面側面図。
図2】レバーに対する牽引力Wと釣糸の張力Fとの割合F/Wの測定方法を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態に係るスピニングリールについて、図1を参照して説明する。
本実施形態のスピニングリールのリール本体1は、釣竿に取り付けられるリール脚1aを有している。リール本体1内には、ハンドル軸2が回転可能に支持されており、リール本体1から突出するハンドル軸2の端部には、図示しないハンドルが固定されている。前記ハンドル軸2には、ドライブギア3が取り付けられており、ドライブギア3には、ハンドル軸2に対して直交する方向に延在し且つ軸受け5を介して回転可能に支持されたピニオンギア7が歯合している。ピニオンギア7の先端には、ベール8a及び釣糸案内部(ラインローラ)8bを備えた一対の腕部8Aを有するロータ8が一体的に取り付けられている。
【0015】
前記ピニオンギア7の内部には、ハンドル軸2と直交する方向に摺動可能に支持されたスプール軸9が挿通されており、スプール軸9の先端には、釣糸が巻回されるスプール10が着脱可能に取り付けられている。また、ドライブギア3には、公知のオシレーティング機構12が連結されており、オシレーティング機構12は、ハンドル軸2の回転に連動して、スプール軸9を軸方向に沿って往復動(前後動)させる。
【0016】
このような構成において、ハンドルを回転操作すると、その回転運動は、ハンドル軸2及びドライブギア3を介してオシレーティング機構12に伝達され、スプール軸9(スプール10)を軸方向に沿って往復駆動させる。また、ハンドルの回転運動は、ドライブギア3を介してピニオンギア7に伝達され、ロータ8を回転させる。この結果、スプール10には、釣糸案内部8bを介して釣糸が均等に巻回される。
【0017】
前記リール本体1には、ロータ8の逆回転に制動力を付与するロータ制動機構と、ロータ8の逆回転を防止する逆転防止機構とが設けられている。これらの機構は、脚部1aに対して支軸(回動支点)14を介して回動可能に取り付けられた操作レバー(単にレバーとも称する)15によって操作可能となっている。前記操作レバー15の先端部には、指を引っ掛けることが可能な操作部15aが形成されており、リール本体1内に位置した操作レバー5の基端部には、ビス17によって、ロータ8の円筒部の内部に延出する押圧プレート18が取り付けられている。
【0018】
図に示す初期位置から操作レバー15を釣竿R側に牽引操作(A方向の牽引操作)すると、押圧プレート18の端部が、ロータ制動機構を構成するブレーキシュー40をスプール側に向けて押圧してロータの逆回転に制動力を付与し、前記操作レバー15を押し下げ操作(B方向の押し下げ操作)すると、逆転防止機構が作動し、ロータの逆回転が阻止(正回転のみ可能)されるようになっている。なお、押圧プレート18とリール本体1との間には、引張りバネ20が設けられており、操作レバー15を、支軸14を中心としてA方向に牽引操作し、その操作力を解除すると、操作レバー15を図に示す初期位置に戻すようにしている。
【0019】
前記ロータ8の逆回転に制動力を付与するロータ制動機構は、一方向クラッチ23を介してピニオンギア7に取り付けられたブレーキロータ(回転体)41と、このブレーキロータ41のリール本体側の表面にビス44によって取り付け固定されたリング状の制動体42とを備えている。本実施形態の制動体42は、2部品で構成されており、径方向外側が制動部、内側が逆転防止部となっている。この場合、制動体42は、単一材料で構成されていても良いし、制動部と逆転防止部が互いに異なった材料によって形成されていても良い。
また、本実施形態の制動部(制動体42)は、摩擦係数が大きく、軽量で耐蝕性に優れたチタン材(チタン系合金を含む)が用いられており、チタン材以外にも、青銅や燐青銅などを用いても良い。また、径方向内側の逆転防止部は、耐衝撃性に優れ、硬度の高い材料、例えばステンレス鋼や炭素鋼などによって形成することが可能である。
【0020】
前記リール本体には、制動体42を跨ぐように配された圧接片45が支持されている。この圧接片45には、前記ブレーキシュー40が移動して制動体42に当て付くことで、制動体42に対して制動力が作用するようになっている(挟圧方式)。
【0021】
前記一方向クラッチ23は、ピニオンギア7に対して回り止め嵌合された内輪24と、複数の転がり部材を保持した保持器の外側に配された外輪25とを有している。各転がり部材は、保持器に設けられたバネ部材によって一方向に付勢されており、外輪25の内周面には、各転動部材がフリーに回転できるフリー回転領域と、各転動部材の回転を阻止する楔領域とが形成されている。
このような構成の一方向クラッチ23は、ピニオンギア7とともに内輪24が正回転する(ロータ8が釣糸巻き取り方向に回転する)と、保持器の転動部材が外輪25のフリー回転領域に位置され、内輪の24の回転力が外輪25に伝達されない。しかし、ピニオンギア7とともに内輪24が逆回転する(ロータ8が釣糸繰り出し方向に回転する)と、保持器の転動部材が外輪25の楔領域に位置され、内輪24の回転力が外輪25に伝達される。
【0022】
前記外輪25の外周には保持体47が圧入嵌合されている。この保持体47の外周には、前記ブレーキロータ41が回転不能で、軸方向に移動できるように係合している。すなわち、ブレーキロータ41は、保持体47(外輪25)と共に、一体回転し、かつ、前記操作レバー15からブレーキシュー40を介して作用する押圧力が解除されると、図示しないバネの付勢力により保持体47に沿って軸方向に移動し、図に示す初期位置に戻るようになっている。なお、ブレーキロータ41と保持体47は、ピニオンギア7が逆回転したときのみ、一方向クラッチ23を介してピニオンギア7(したがってロータ8)と直結され、ロータ8と一体回転する。
【0023】
前記ブレーキロータ41のスプール側の周縁部には、周方向に互いに所定の間隔で配置された複数(例えば8個)の係合突部49が突出形成されている。各係合突部49間には、ロータ8が逆回転したときに、後述する係合爪51aが係合突部49間の隙間に案内され(ブレーキロータが一体回転する)、ロータ8が正回転したときは、各係合突部に形成された案内面に沿って前記隙間から退避される(ブレーキロータがフリー状態)ようになっている。一方、ロータ8のリール本体側の内面には、回動部材51がピン54を介してブレーキロータ41側に向けて回動自在に支持されている。回動部材51の一端には、係合突部49間の隙間に係合可能な係合爪51aが屈曲形成されており、回動部材51には、リーフスプリング55が抱き着くように配設されている。
【0024】
また、前記逆転防止機構は、操作レバー15の他端部に突出形成された作動体60と、支軸61に回動可能に支持され且つ作動体60によって回動される制御カム62と、リール本体のフレームに移動可能に保持され且つ制御カム62の回動によって制動体42の径方向内側の逆転防止部に向けて移動される係止爪64と、制動体42の径方向内側の逆転防止部に周方向に亘って形成され、係止爪64が嵌入可能な複数の係止溝42aとを有する。
【0025】
前記制御カム62は、リール本体との間に配設される振り分けバネ65によって振り分け保持されており、係止爪64は支軸61に巻回保持されたバネによって、制動体42に形成された複数の係止溝42a側に常時付勢されている。
【0026】
上記した構成では、操作レバー15が図に示す初期位置に位置している場合、振り分けバネ65の付勢力によって、係止爪64を制動体42から離間させた状態に保持する。また、操作レバー15が初期位置からB方向に押し下げ操作されると、作動体60が振り分けバネ65の付勢力に抗して制御カム62を図中時計回りに回動させる。振り分けバネ65がデットポイントを超えると、係止爪64が制動体42の複数の係止溝42a側に向けて移動され、いずれかの係止溝42aに係止爪64が嵌合し、係止溝42aと係止爪64の嵌合状態が保持されると共に、操作レバー15がB方向に押し下げられたロータ逆転防止位置に保持される。
【0027】
また、本実施形態のスピニングリールには、スプール10に制動力を付与しながらスプール10の釣糸繰り出し方向への回転を許容する(スプールの回転力を制御する)フロントドラグ方式のドラグ機構70が設けられている。このドラグ機構70は、公知のように、ドラグ調整ツマミ71を回転操作することで、スプール軸9とスプール10との間に設置される制動部材75に対する押圧力を調節し、ドラグ調整ツマミ71の締込み力に応じて、スプール10の回転に対して所望の制動力が付与される。
【0028】
上記した構成のスピニングリールの操作態様について説明する。
操作レバー15が図に示す初期位置に保持された状態で、ハンドルを介してピニオンギア7を正回転させると、ピニオンギア7に取り付けられたロータ8も一体で正回転(釣糸巻き取り方向の回転)する。このとき、ブレーキロータ41は、一方向クラッチ23の連結作用により回転することはない。
【0029】
また、ロータ8に支持されこれとともに正回転する回動部材51は、リーフスプリング55の作用によって逆回転方向に力を受け、係合爪51aがブレーキロータ41の係合突部49から離間するように内側に退避される。したがって、回動部材51は、ブレーキロータ41に何等規制されることなく、ロータ8とともに自由に正回転するため、操作レバー15をA方向に押し上げ操作しても、ロータ8に制動力が作用することはない。
【0030】
前記操作レバー15が初期位置に保持された状態で魚が掛かる等、ロータ8が逆回転する(糸繰り出し方向に回転する)と、一方向クラッチ23の前記連結作用によりブレーキロータ41も逆回転する。したがって、この状態で、操作レバー15をA方向に牽引操作すると、ブレーキシュー40と圧接片45との間で制動体42を挟圧し、ブレーキロータ41の回転に制動力が作用し、ブレーキロータ41と直結状態で一体に回転するロータ8にも一方向クラッチ23を介して操作レバー15の回動量に応じた制動力が作用する。
【0031】
この場合、一方向クラッチ23の許容荷重を超えた回転力が作用すると、一方向クラッチ23が滑り、ブレーキロータ41に対してロータ8が回転し始める。これにより、ロータ8と一体で逆回転している回動部材51は、リーフスプリング55の作用によって、係合爪51aがブレーキロータ41の係合突部49間に入り込んで、ロータ8とブレーキロータ41とが噛み合い、これらが一体となって逆回転する。したがって、その後、ブレーキロータ41に作用する制動力は、一方向クラッチ23を介することなく、直接にロータ8に作用する。
【0032】
一方、操作レバー15をB方向に押し下げ操作すると、作動体60を介して制御カム64が図中時計回りに回動される。これにより、係止爪64が制動体42のいずれかの係止溝42aに嵌合しブレーキロータ41の逆回転が阻止される。すなわち、この状態でハンドルを介してピニオンギア7を逆回転させようとしても、一方向クラッチ23を介してピニオンギア7に直結されたブレーキロータ41の回転が阻止されているため、ロータ8は逆回転しない(逆転防止状態)。なお、この状態において、ピニオンギア7を正回転させれば、一方向クラッチ23を介したブレーキロータ41とピニオンギア7との直結状態が解除されるため、ロータ8は正回転する。
【0033】
そして、操作レバー15をA方向に牽引して初期位置に戻すと、作動体60および振り分けバネ65によって制御カム62が図中反時計回りに回動され、係止爪64は支軸61に巻回保持されたバネの付勢力に抗して、図に示す初期位置に戻される。これにより、制動体42と係止爪64との嵌合が外れ、ブレーキロータ41の回転が可能となる。
【0034】
なお、操作レバー15がB方向に押し下げ操作されてロータ8の逆回転が防止されている状態で、急激な魚の引き込みがあった場合は、上記したドラグ機構70が機能し、糸切れを防止することが可能となる。
【0035】
次に、本発明の特徴について説明する。
上述したように、レバータイプのスピニングリールでは、実釣時において、釣竿を握持している手の人差し指が、常に操作レバー15の操作部15aに当て付いて牽引できるようにしており、ロータ8に作用する制動力の大きさ(引き出される釣糸に作用する張力)は、人差し指による牽引力の大きさによって調節される。
【0036】
本発明は、上記した操作レバー15に作用する牽引力Wと、そのときにスプール10から引き出される釣糸の引き出し張力Fについて、実釣時に釣人が快適に操作できる最適な設定条件を導き出すことを特徴としている。すなわち、現在、市販化されている公知のスピニングリールは、制動方式については様々なタイプ(ドラム押圧方式、挟圧方式など)が存在するものの、牽引力と張力の関係について何等考慮はされておらず、したがって、長時間使用していると、牽引する人差し指が痛くなったり、それに伴って微妙な牽引操作ができなくなる、といった不具合が生じており、本発明は、このような不具合を解消することを特徴とする。
【0037】
以下、本発明の実施形態について説明するが、その前に、本発明で定義する上記した牽引力Wと、そのときにスプールから引き出される釣糸の引き出し張力Fとの測定方法、及び、代表的な公知品について、その牽引力Wと、そのときにスプールから引き出される釣糸の引き出し張力Fとの関係について説明する。
【0038】
図2に示すように、牽引力Wと釣糸の引き出し張力Fは、スピニングリールのリール本体のリール脚1aを基台に固定し、この状態で操作レバー15の操作部15aに対して加重(牽引力)Wを付加することで測定される。この場合、操作部15aの加重を作用させる位置によっては、ロータ制動機構の制動力にずれが生じる可能性があるため、本試験では、リール脚1aを下側にして基台上に載置し、操作部15aに糸を掛けて錘をぶら下げることで加重(牽引力)Wを付加している。そして、このときスプール10から繰り出される釣糸Sの引張力を測定し、滑りが生じるときの引張力を牽引力Wに対する引き出し張力Fとした。
【0039】
現在、市販化されているレバータイプのスピニングリールにおいて、F/Wが最も高く設定されている公知品1(F/W=0.9~1.1)と、F/Wが低く設定されている公知品2(F/W=0.3~0.5)について測定した結果を以下の表1に示す。
公知品1は、制動板に銅合金を用いた挟圧方式であり、公知品2は、制動板にSUSを用いたドラム押圧方式である。
【0040】
【表1】
【0041】
上記の測定結果において、牽引力Wについて最小値を300gとしたのは、実際に釣竿を握持した状態の手の人差し指で牽引操作する際に、最小の制動力に調節、維持可能な実用的な牽引操作最小操作力を考慮したものである。すなわち、牽引力Wが300g未満になると、制動力が安定しない、ロータのフリー回転状態に近くなる、レバーの引張バネの付勢力が影響する領域である等、牽引力以外の影響が出ることから、300g未満については省略している。
【0042】
次に、本発明の実施例について説明する。
上記したように、本発明は、スピニングリールの構造的要因を種々変形することで、上記したF/Wの値を適切な状態に設定することを特徴としている。具体的には、下記の表の実施例1は、公知品1に用いられている操作レバーについて、その長さLを若干長く設定する(L=85mmとした)ことで、F/Wの値が1.2~1.4の範囲になるように構成したものである。また、下記の表の実施例2は、公知品1に用いられているロータ制動機構の制動板を、摩擦係数の高いチタンにすることで、F/Wの値が1.7~2.0の範囲になるように構成したものである。
なお、下記の表で示す比較例は、公知品2のロータ制動機構に用いられている制動部材をチタンにしたものであり、そのF/Wの値は、0.5~0.9の範囲となった。すなわち、本発明は、スピニングリールの構成部材(例えば、ロータ制動機構の構成材料)を単に変更するのではなく、F/Wの値が1.2以上になるように上述した各種の構造的要因を適切な状態に設定する必要がある。
【0043】
【表2】
【0044】
実際に、上記したスピニングリール(公知品1,2、比較例、実施例1,2の5つのテスト機種)を準備し、本発明者(2名のテスター)で実用テストを行なったところ、下記の表の結果が得られた。この実用テストは、本発明者が実際の磯場で複数日に亘って行ない、各人がテスト機種をランダムに選び、1機種で少なくとも半日以上使用して、下記の項目1~5について、4段階評価(◎;非常に良い、○;良い、△;普通、×;悪い)を行なったものである。
(項目1)
レバーの牽引力(任意の力で牽引したときに、思った引張力が発生するか)を評価する。
(項目2)
指の疲労感(一定時間釣りをした際に疲労感は生じないか)を評価する。
(項目3)
不安定な姿勢からの操作性(手が伸びたときなど、不安定な体制で牽引操作した際、所望の制動力が生じているか)を評価する。
(項目4)
ロッドの操作性(頻繁に人差し指で牽引操作することから、その牽引操作中に、ロッドの操作性が低下しないか否か)を評価する。
(項目5)
ブレーキのかかり具合、レスポンス(牽引時に、予期しない釣糸の繰り出しが生じないか否か)を評価する。
【0045】
【表3】
なお、上記の各項目を評価するに際して、2名の評価が分かれた項目については低く評価した方を採用している。
【0046】
上記した実用テストの評価結果から明らかなように、F/Wの値が低く設定されている(0.3~0.5)公知品2は、いずれの項目も低評価となった。また、F/Wの値が1.1以下に設定されている機種(公知品1、比較例)と、F/Wの値が1.2以上に設定されている機種(実施例1)を比較したところ、後者の方の評価が高くなることが実証できた。更に、F/Wの値を1.7以上に設定すると(実施例2)、いずれの項目も最良の評価を得ることができた。
【0047】
この結果、長時間に亘ってレバーの牽引操作をしても、快適にロータの逆回転に制動力を付与できるスピニングリールにするためには、F/Wの値が1.2以上に設定されていれば、従来品よりも好ましい結果が得られるのであり、実施例1のF/Wの上限値が1.4であったことを考慮すると、それよりも大きい1.5以上に設定することで、より好ましい作用効果を得ることが可能と考えられる。
なお、F/Wの値の上限値については、本発明では、特に限定されることはないが、あまり高く設定し過ぎると、牽引力が小さい部分での調節がシビアになってしまうので、現実的には、牽引力Wに対して生じる引張力Fについては、3倍以下になっている(F/Wは3.0以下)ことが好ましいと考えられる。
【0048】
上記したように、本発明は、F/Wの値が1.2以上になるように、各種の構成部材を適切に設定すれば良い。例えば、図1に示した構成では、ロータ制動機構の制動体42をチタンで構成することにより、F/Wの値を容易に大きく設定することが可能となる。この場合、従来のスピニングリールでは、ブレーキ音やブレーキシューの摩耗を考慮して、制動体42に銅系材料を用いていたが、チタン材にすると摩擦係数が大きくなり、F/Wを容易に1.2以上に設定することが可能になると共に、長時間に亘ってレバーの牽引操作をしても、快適にロータの逆回転に制動力を付与することが可能となる。
【0049】
また、制動体42にチタン材を用いることで、耐食性の向上が図れると共に、摩擦力が大きくなることから、制動体を小さくしても、上記した好ましいF/W値が得られ、リールの小型軽量化を達成することが可能となる。
【0050】
また、図2に示す操作レバー15の牽引方向(高さ方向)の操作量Hについては、リール本体を小型化した際、多くすることはできない(多くし過ぎると、制動を掛ける際の操作性が悪化する)。このため、F/Wを1.2以上に設定した場合において、その操作量Hは、操作に支障のない範囲2.0~4.0mmにし、更に、操作レバーの支軸(回動支点)14から操作レバーの操作部先端までのロータの回転軸方向に沿った距離Lについては、79~82mmに設定することで、操作性を悪化させることなく、疲労感を軽減することが可能となる。
【0051】
なお、上記した距離Lを長く設定すると、てこの原理で、牽引力Wが小さくても引張力Fを大きくすることができ、大きな制動力を加えることが可能となるが、あまり長く設定し過ぎると操作性が低下することから、上記したLの範囲内で、F/Wを1.2以上に設定することが好ましい。また、操作レバーの操作量Hについては、上記した表1,2のとおり、牽引力が300gを下限とした操作範囲で上記した2.0~4.0mmが満足されていれば良い。
【0052】
また、操作レバーの支軸(回動支点)14から操作レバーの操作部先端までの初期位置の高さH1については、高くし過ぎるとリールの小型化ができなくなり、低くすると、牽引操作や押し下げ操作がし難くなることから、38~40mmの範囲に設定しておくことが好ましい。さらに、操作レバー15については、合成樹脂材で形成することで、アルミ合金等の金属材と比較すると、撓み性が良くなり、牽引したときの操作感の向上が図れるようになる。この場合、ロータ制動機構の構成等によってF/Wを1.2以上に設定することで、軽く撓み易い合成樹脂による操作レバー15の更なる軽量化設計が可能となり、操作性に優れたスピニングリールを構築することが可能となる。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、レバータイプのスピニングリールにおいて、操作レバーの牽引力Wに対して生じる引張力Fとの関係であるF/Wが1.2以上を満たすように設定されていれば良い。これは、ロータ制動機構の構成(制動方式、制動体・ブレーキシューの構成材料、表面処理など)や、操作レバーの構成(長さ、材質など)によって満たすことが可能であり、更には、釣糸に対する釣糸案内部で生じる摩擦力の構成等によっても満たすことが可能である。また、これらの構成部材については、種々変形することが可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 リール本体
8 ロータ
8b 釣糸案内部
10 スプール
14 支軸(回動支点)
15 操作レバー
42 制動体
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2023-10-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リール本体に回転可能に支持された釣糸案内部を備えたロータと、
リール本体に支持され且つ前記ロータの回転によって前記釣糸案内部を介して釣糸が巻回されるスプールと、
前記リール本体の脚部に支軸を介して回動可能にバネ付勢支持され、初期位置からの牽引操作が可能で、前記支軸を中心に牽引力が付加される操作部を備えた合成樹脂製の操作レバーと、
前記操作レバーが前記初期位置から牽引操作されたときに前記ロータの逆回転に制動力を付与するロータ制動機構と、
を有する魚釣用スピニングリールであって、
前記初期位置で前記脚部を下向きにして基台に固定し、この固定状態で前記操作レバーの操作部に錘をぶら下げることで前記操作部に作用する牽引力をW、
前記操作レバーの初期位置から、前記操作部に作用する前記牽引力Wに対する前記ロータ制動機構による制動力が付与された状態で前記ロータが逆回転して前記釣糸案内部から繰り出される釣糸の引き出し張力をF、
前記リール本体の脚部の支軸の中心から、前記操作部の先端の下端までの前記初期位置の高さをH1、
前記操作レバーの初期位置から、前記ロータ制動機構による制動力を付与する際の前記操作部の牽引方向の操作量をH、
前記リール本体の脚部の支軸から、前記操作部先端までのロータの回転軸方向に沿った操作レバーの距離をL、
で定義した場合、
前記操作レバーは、前記牽引力Wの下限を300gとした操作範囲において前記操作量Hが2.0~4.0mmに設定されると共に、前記高さH1が38~40mmの範囲に設定されており、
前記操作レバーの牽引力Wと前記釣糸の張力Fの割合F/Wは、1.2~3.0の範囲に設定されていることを特徴とする魚釣用リール。
【請求項2】
前記ロータ制動機構の制動体をチタンにして、前記F/Wを1.7~2.0の範囲に設定したことを特徴とする請求項1に記載の魚釣用スピニングリール。
【請求項3】
前記操作レバーの距離Lは、79~82mmに設定されていることを特徴とする請求項1に記載の魚釣用スピニングリール。