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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155446
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】筆記具用インク組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/17 20140101AFI20231013BHJP
【FI】
C09D11/17
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023141065
(22)【出願日】2023-08-31
(62)【分割の表示】P 2019086560の分割
【原出願日】2019-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100193404
【弁理士】
【氏名又は名称】倉田 佳貴
(72)【発明者】
【氏名】佐川 弥
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 祐一
(57)【要約】
【課題】良好な発色性及び固着性を兼ね備えた、新規な筆記具用インク組成物を提供する。
【解決手段】本発明の筆記具用インク組成物は、液状媒体、及び前記液状媒体中に分散されており、かつコア部及びシェル部を有するコアシェル型ポリマー粒子を具備しており、
前記コアシェル型ポリマー粒子のレーザー回折法により測定した平均粒子径が、50nm~700nmであり、
コア部のガラス転移温度が、シェル部のガラス転移温度よりも高く、
前記コアシェル型ポリマー粒子の粒子径の変動係数が、20%未満であり、かつ
前記シェル部が、乾燥時にコアシェル型ポリマー粒子間を互いに接着可能である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状媒体、及び前記液状媒体中に分散されており、かつコア部及び前記コア部を包囲しているシェル部を有するコアシェル型ポリマー粒子を具備しており、
前記コアシェル型ポリマー粒子の動的光散乱法により測定した平均粒子径が、50nm~700nmであり、
前記コア部のガラス転移温度が、前記シェル部のガラス転移温度よりも高く、
前記コアシェル型ポリマー粒子の粒子径の変動係数が、20%未満であり、かつ
前記シェル部が、乾燥時にコアシェル型ポリマー粒子間を互いに接着可能である、
筆記具用インク組成物。
【請求項2】
前記コアシェル型ポリマー粒子の前記シェル部のガラス転移温度が、30℃以下である、請求項1記載の筆記具用インク組成物。
【請求項3】
前記コアシェル型ポリマー粒子の前記コア部のガラス転移温度が、25℃以上である、請求項1又は2に記載の筆記具用インク組成物。
【請求項4】
前記コアシェル型ポリマー粒子のシェル部が、前記コアシェル型ポリマー粒子全体の直径に対して1~30%の厚みを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の筆記具用インク組成物。
【請求項5】
コア部とシェル部の屈折率の差が、0.01以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の筆記具用インク組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具用インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、筆記具用インク等の用途において、着色材としての機能性着色樹脂微粒子が広く用いられている。
【0003】
特許文献1では、粒子表面に官能基が局在する機能性アクリル系ポリマー定形粒子において、定形粒子が、(メタ)アクリル系モノマー(A)と、分子内に少なくとも1個の官能基を有し、且つ疎水性に富む重合性モノマー(B)とが所定の割合で重合されてなる共重合物で、定形粒子中の官能基全量の少なくとも70%以上が定形粒子表面に頭出しするように局在していることを特徴とする機能性アクリル系ポリマー定形粒子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-29766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
良好な発色性及び固着性を兼ね備えた、新規な筆記具用インク組成物を提供する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討したところ、以下の手段により上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、下記のとおりである:
〈態様1〉液状媒体、及び前記液状媒体中に分散されており、かつコア部及び前記コア部を包囲しているシェル部を有するコアシェル型ポリマー粒子を具備しており、
前記コアシェル型ポリマー粒子の動的光散乱法により測定した平均粒子径が、50nm~700nmであり、
前記コア部のガラス転移温度が、前記シェル部のガラス転移温度よりも高く、
前記コアシェル型ポリマー粒子の粒子径の変動係数が、20%未満であり、かつ
前記シェル部が、乾燥時にコアシェル型ポリマー粒子間を互いに接着可能である、
筆記具用インク組成物。
〈態様2〉前記コアシェル型ポリマー粒子の前記シェル部のガラス転移温度が、30℃以下である、態様1記載の筆記具用インク組成物。
〈態様3〉前記コアシェル型ポリマー粒子の前記コア部のガラス転移温度が、25℃以上である、態様1又は2に記載の筆記具用インク組成物。
〈態様4〉前記コアシェル型ポリマー粒子のシェル部が、前記コアシェル型ポリマー粒子全体の直径に対して1~30%の厚みを有する、態様1~3のいずれか一項に記載の筆記具用インク組成物。
〈態様5〉コア部とシェル部の屈折率の差が、0.01以上である、態様1~4のいずれか一項に記載の筆記具用インク組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、良好な発色性及び固着性を兼ね備えた、新規な筆記具用インク組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
《筆記具用インク組成物》
本発明の筆記具用インク組成物は、液状媒体、及び前記液状媒体中に分散されており、かつコア部及びシェル部を有するコアシェル型ポリマー粒子を具備しており、
前記コアシェル型ポリマー粒子のレーザー回折法により測定した平均粒子径が、50nm~700nmであり、
コア部のガラス転移温度が、シェル部のガラス転移温度よりも高く、
前記コアシェル型ポリマー粒子の粒子径の変動係数が、20%未満であり、かつ
前記シェル部が、乾燥時にコアシェル型ポリマー粒子間を互いに接着可能である。
【0009】
単分散の球状粒子を含む分散液を塗布して乾燥させると、その粒子が規則的に整列し、その結果、構造発色を呈する塗膜が得られる。しかしながら、単純にかかる塗膜を作製した場合には、粒子間が接着されていないことに起因して、固着性が良好ではなかった。
【0010】
このような特許文献1の分散液に、バインダーを更に含有させた場合には、塗膜の固着性の問題は改善されることとなる。しかしながら、この場合、乾燥時に粒子の秩序構造形成を阻害することや、粒子間の空隙をバインダーが埋めることで粒子と空隙間の屈折率差が小さくなる等の理由から、発色が極端に低下することがあった。
【0011】
これに対し、本発明者らは、上記の構成により、良好な発色性及び固着性を兼ね備えた、筆記具用インク組成物となることを見出した。
【0012】
筆記具用水性インク組成物は、特に以下で言及するコア部及びシェル部に含有される可能性のある色材とは別に、色材を更に含有していてもよい。
【0013】
また、筆記具用水性インク組成物は、他の成分を更に含有していてもよい。
【0014】
以下では、本発明の各構成要素について説明する。
【0015】
〈液状媒体〉
液状媒体としては、例えば水、有機溶剤等を用いることができる。液状媒体は、単独で用いてもよく、又は混合させて用いてもよい。
【0016】
水としては、例えばイオン交換水、蒸留水等を用いることができる。
【0017】
有機溶剤としては、例えばグリセリン、ジグリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール等の多価アルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール等のグリコールエーテル等を用いることができる。
【0018】
〈コアシェル型ポリマー粒子〉
コアシェル型ポリマー粒子は、液状媒体中に分散されており、かつコア部及びシェル部を有する粒子である。
【0019】
コアシェル型ポリマー粒子は、ポリマーで実質的に構成されている。ここで、本明細書において、「実質的に構成されている」とは、含有率が、コアシェル型ポリマー粒子全体の質量を基準として、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、又は90質量%以上であり、かつ100質量%以下、98質量%以下、又は95質量%以下を占めること意味するものである。
【0020】
コアシェル型ポリマー粒子の動的光散乱法により測定した平均粒子径は、50nm~700nmである。この平均粒子径は、50nm以上、60nm以上、70nm以上、80nm以上、90nm以上、又は100nm以上であってよく、また700nm以下、500nm以下、400nm以下、370nm以下、350nm以下、330nm以下、300nm以下、270nm以下、250nm以下、230nm以下、200nm以下、又は150nm以下であってよい。本発明の筆記具用インク組成物は、かかる平均粒子径により、鮮明な構造発色をもたらすことができる。なお、ここでいう平均粒子径とは、動的光散乱法により測定した散乱強度分布によるヒストグラム平均粒子径(D50)の値である。
【0021】
コアシェル型ポリマー粒子の粒子径の変動係数は、20%未満である。この変動係数は、18%以下、15%以下、13%以下、10%以下、又は8%以下であってよく、また0%超、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、又は5%以上であってよい。本発明の筆記具用インク組成物は、かかる変動係数によってもたらされる粒子径の一様さにより、鮮明な構造発色をもたらすことができる。なお、ここでいう変動係数は、動的光散乱法により測定した散乱強度分布から導かれる粒度分布に基づいて算出したものである。
【0022】
コア部とシェル部の屈折率の差は、0.01以上であることが、鮮明な構造発色をもたらす観点から好ましい。この屈折率の差は、0.02以上、0.03以上、0.04以上、0.05以上、0.07以上、又は0.10以上、であってよく、また0.20以下、0.18以下、0.15以下、又は0.13以下であってよい。
【0023】
コア部及びシェル部の屈折率は、コア部及びシェル部を構成する各構造単位のホモポリマーの屈折率(ni)、及び、架橋樹脂を構成する構造単位の全量に対する各構造単位の質量割合(wi)を用いて、下記式(1)より算出した屈折率であってよい。
n=Σniwi (1)
【0024】
上記計算に用いるホモポリマーのガラス転移温度は、文献に記載されている値を用いることができ、例えば、POLYMER HANDBOOK、FOURTH EDITION(Johannes Brandrup,Edmund Heinz Immergut,Eric A.Grulke Wiley,2004)に記載されている値や、メーカのカタログ値を用いればよい。
【0025】
コアシェル型ポリマー粒子の含有率は、筆記具用インク組成物の質量を基準として、固形分質量で、50質量%以下、45質量%以下、40質量%以下、又は35質量%以下であってよく、また1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、7質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、又は30質量%以上であってよい。
【0026】
(コア部)
コア部は、シェル部に包囲されている部分である。
【0027】
コア部のガラス転移温度は、シェル部のガラス転移温度よりも高い。それによれば、コア部の剛性を維持しつつ、シェル部による粒子間の接着を両立することができる。コア部のガラス転移温度は、シェル部のガラス転移温度よりも、5℃以上、10℃以上、15℃以上、20℃以上、30℃以上、40℃以上、50℃以上、60℃以上、70℃以上、又は80℃以上高くてよい。
【0028】
ここで、ガラス転移温度(Tg)は、下記式(2)に示されるFOX式により求められる理論計算値である。
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・+Wn/Tgn (2)
(式中、Tgは、アクリル系樹脂のガラス転移温度であり、W1、W2、・・・、Wnは、各モノマーの重量分率であり、Tg1、Tg2、・・・、Tgnは、各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度である)
【0029】
上記計算に用いるホモポリマーのガラス転移温度は、文献に記載されている値を用いることができ、例えば、POLYMER HANDBOOK、FOURTH EDITION(Johannes Brandrup,Edmund Heinz Immergut,Eric A.Grulke Wiley,2004)に記載されている値や、メーカのカタログ値を用いればよい。
【0030】
コア部のガラス転移温度は、例えば10℃以上、15℃以上、20℃以上、25℃以上、30℃以上、40℃以上、50℃以上、60℃以上、70℃以上、80℃以上、90℃以上、又は100℃以上であることが、コアシェル粒子の形状を安定に保ち、それによって、良好な構造発色を得る観点から好ましい。このガラス転移温度は、また200℃以下、180℃以下、150℃以下、130℃以下、120℃以下、又は110℃以下であってよい。
【0031】
コア部は、ポリマーで実質的に構成されている。コア部を構成するポリマーは、(メタ)アクリル系モノマー、スチレン系モノマーからなる群より選択される少なくとも一種のモノマーで構成されていてよい。
【0032】
(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチルアクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、及び2-スルホエチル(メタ)アクリレート、及びこれらの金属塩等を用いることができる。
【0033】
スチレン系モノマーとしては、例えばスチレン及びスチレン誘導体を用いることができる。スチレン誘導体としては、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、m-フルオロスチレン、p-フルオロスチレン、p-メトキシスチレン、m-tert-ブトキシスチレン、p-tert-ブトキシスチレン、p-ビニル安息香酸、p-クロロ-α-メチルスチレン、p-tert-ブトキシ-α-メチルスチレン等を用いることができる。
【0034】
コア部は、色材を更に含有していてもよい。色材としては、染料、顔料、又は染料と顔料との混合物等、従来のインクに用いることができる種々の色材を使用することができる。これらの色材は、単独で用いてもよく、又は混合して用いてもよい。
【0035】
染料としては、例えば通常の染料インク組成物に用いられる水溶性染料、油溶性染料、及び反応性染料等を用いることができる。水溶性染料としては、例えば直接染料、酸性染料、塩基性染料、食用染料等を用いることができる。水不溶性染料としては、媒染・酸性媒染染料、酒精溶性染料、建染染料、硫化・硫化建染染料、金属錯塩染料、分散染料、油溶性染料、造塩染料、アゾイック染料等を用いることができる。これらの染料は、単独で用いてもよく、又は混合させて用いてもよい。
【0036】
顔料としては、例えばカーボンブラック、グラファイト等の無機顔科、タルク、シリカ、アルミナ、マイカ、アルミナシリケート等の体質顔科、アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、アンスラキノン顔料、キナクドリン顔料、イソインドリノン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、各種レーキ顔料等の有機顔料、蛍光顔料、パール顔料等を用いることができる。
【0037】
特に、コア部がポリマーで構成されている場合には、色材としては、水不溶性染料を用いることが、製造の観点から好ましい。
【0038】
コア部が色材を含有している場合、色材の含有率は、コア部の質量を基準として、0.1質量%以上、0.3質量%以上、又は0.5質量%以上であってよく、また20質量%以下、15質量%以下、12質量%以下、10質量%以下、8質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、又は1質量%以下であってよい。
【0039】
(シェル部)
シェル部は、コア部を包囲している部分である。シェル部は、乾燥時にコアシェル型ポリマー粒子間を互いに接着可能である。ここで、「接着可能である」とは、筆記時においては、周囲温度によりシェル部が他のコアシェル型ポリマー粒子のシェル部に固着されることができることを意味するものである。
【0040】
シェル部のガラス転移温度は、-100℃以上、-80℃以上、-60℃以上、-40℃以上、-20℃以上、-10℃以上、-5℃以上、又は0℃以上であってよい。このガラス転移温度は、30℃以下、25℃以下、20℃以下、15℃以下、10℃以下、又は5℃以下であることが、粒子間を良好に接着させる観点から好ましい。
【0041】
シェル部は、ポリマーで実質的に構成されている。シェル部を構成するポリマーは、コア部に関して挙げたモノマーで構成されていてよい。コア部のポリマーを構成するモノマーと、シェル部のポリマーを構成するモノマーとは、同質のモノマーであってもよく、又は異質のモノマーであってもよい。ここで、「同質のモノマー」とは、例えばコア部のポリマーが(メタ)アクリル系モノマーで構成されている場合には、シェル部のポリマーも(メタ)アクリル系モノマーで構成されていることを言うものであり、これらの(メタ)アクリル系モノマーが必ずしも同種のモノマーであること、すなわちコア部のポリマーを構成するモノマーとシェル部のポリマーを構成するモノマーとが同じであることは、必ずしも必要ではない。
【0042】
シェル部は、コアシェル型ポリマー粒子全体の直径に対して1~30%の厚みを有することが、鮮明な構造発色をもたらす観点から好ましい。この厚みは、1%以上、2%以上、3%以上、5%以上、7%以上、又は10%以上、であってよく、また30%以下、25%以下、20%以下、又は15%以下であってよい。シェル部の厚みは、上記のコアシェル型ポリマー粒子の平均粒子径から、コア部の動的光散乱法により測定した散乱強度分布によるヒストグラム平均粒子径(D50)の値を引いた値である。
【0043】
シェル部は、色材を含有していてもよい。色材としては、例えばコア部に関して挙げた色材を用いることができる。
【0044】
〈色材〉
コア部及びシェル部に含有される色材以外の色材、例えば液状媒体中に分散又は溶解されている色材としては、コア部に関して挙げた色材を用いることができる。特に、染料を用いる場合には、用いる液状媒体に応じて染料を選択することが好ましい。例えば、液状媒体が水である場合には、染料としては、水溶性染料を用いることが好ましい。
【0045】
色材の含有率は、筆記具用インク組成物の質量を基準として、0.1質量%以上、0.3質量%以上、又は0.5質量%以上であってよく、また20質量%以下、15質量%以下、12質量%以下、10質量%以下、8質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、又は1質量%以下であってよい。この含有率は、コア部及び/又はシェル部に含有されている色材を含まない値であってよい。
【0046】
《筆記具用インク組成物の製造方法》
本発明の筆記具用インク組成物は、コアシェル型ポリマー粒子を作製すること、及びインク組成物を作製することを含む方法により、製造することができる。
【0047】
コアシェル型ポリマー粒子の作製とインク組成物の作製との間に、コアシェル型ポリマー粒子を単離することを含んでもよい。
【0048】
〈コアシェル型ポリマー粒子の作製〉
コアシェル型ポリマー粒子は、コア部の分散液を作製すること、及びコア部にシェル部を形成することを含む方法により作製することができる。
【0049】
(コア部の作製)
コア部の分散液の作製は、例えば乳化重合により行うことができる。乳化重合は、油相を作製すること、水相を作製すること、及び油相と水相とを混合させて油相の成分を乳化した後に重合させることにより行うことができる。
【0050】
水相の質量に対する油相の質量の比は、0.10以上、0.15以上、0.20以上、又は0.25以上であってよく、また0.50以下、0.45以下、0.40以下、0.35以下、又は0.30以下であってよい。この比を調節することにより、コア部の平均粒子径を調節することができる。
【0051】
油相の添加は、攪拌しながら徐々に添加して行うことが、変動係数を上記の範囲とする観点から好ましい。この添加速度を調節することにより、変動係数を調節することができる。ここで、「徐々に添加」とは、2.0時間以上、2.5時間以上、又は3.0時間以上かけて、略一定の添加速度で、すなわち添加中に人為的に添加速度を調節することなく、油相を水相に添加することを意味するものである。
【0052】
また、攪拌による油相及び水相に印加される剪断力によっても、変動係数を調節することができる。
【0053】
(コア部:油相)
油相は、モノマー、色材、及び架橋剤を含有していてよい。この油相は、これらの物質を混合することにより作製することができる。
【0054】
モノマーとしては、コア部に関して挙げたモノマーを用いることができる。
【0055】
架橋剤としては、例えばトリアリルイソシアヌレート等を用いることができる。
【0056】
(コア部:水相)
水相は、水、界面活性剤、重合開始剤を含有していてよい。この水相は、これらの物質を混合することにより作製することができる。
【0057】
界面活性剤としては、エーテルサルフェートを用いることが、コア部の平均粒子径を過度に大きくしない観点から好ましい。水相における界面活性剤の含有率は、水相の質量全体を基準として、0質量%超、0.5質量%以上、又は1.0質量%以上であってよく、また5.0質量%以下、4.0質量%以下、3.0質量%以下、2.0質量%以下、又は1.5質量%以下であってよい。界面活性剤の種類及び量を調節することにより、コア部の平均粒子径を調節することができる。
【0058】
重合開始剤としては、例えば過硫酸アンモニウム等を用いることができる。
【0059】
(シェル部の作製)
シェル部の作製は、コア部の水分散液に、水及び界面活性剤を添加して第二の水相を作製し、ここにモノマーを添加することによる、コア部をシードとするシード重合により行うことができる。
【0060】
モノマーとしては、シェル部に関して挙げたモノマーを用いることができる。コア部において用いたモノマー質量に対する、シェル部において用いるモノマーの質量の比は、0.5以上、0.6以上、0.7以上、0.8以上、又は0.9以上であってよく、また1.5以下、1.4以下、1.3以下、1.2以下、又は1.1以下であってよい。この比を調節することにより、平均粒子径に対するシェルの厚さを調節することができる。
【0061】
界面活性剤としては、エーテルサルフェートを用いることが、シェル部の厚さを過度に大きくしない観点から好ましい。第二の水相における界面活性剤の含有率は、第二の水相の質量全体を基準として、0質量%超、0.5質量%以上、又は1.0質量%以上であってよく、また5.0質量%以下、4.0質量%以下、3.0質量%以下、2.0質量%以下、又は1.5質量%以下であってよい。界面活性剤の種類及び量を調節することにより、コア部の平均粒子径を調節することができる。
【0062】
〈インク組成物の作製〉
インク組成物は、作製したコアシェル型ポリマー粒子、及び筆記具用インク組成物を構成する他の成分をディスパー等の攪拌機器を用いて混合しながら、従来公知の方法により行うことができる。
【実施例0063】
実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0064】
《インク組成物の作製》
〈実施例1〉
(コア部の作製)
2リットルのフラスコに、撹拌機、還流冷却器、温度計、窒素ガス導入管、モノマー投入用1000ml分液漏斗を取り付け、温水槽にセットした。このフラスコに、蒸留水359部、メタクリル酸2-スルホエチルナトリウム(アクリルエステルSEM-Na、三菱ケミカル社、モノマーA)5.5部、界面活性剤としてのエーテルサルフェート(アデカリアソープSE-10N、ADEKA社)22部及び過硫酸アンモニウム0.5部を仕込んで、水相を作製した。この水相に、窒素ガスを導入しながら、内温を50℃まで昇温した。
【0065】
一方、メタクリル酸メチル(モノマーB)98.5部に、造塩染料(ValifastBlack 3830、オリエント化学社)3.5部、架橋剤としてのトリアリルイソシアヌレート(タイク(TAIC)、日本化成社)11部を混合した油相を調製した。
【0066】
この油相を、上記分液漏斗から温度50℃付近に保った上記水相内に撹拌下で3時間にわたって添加し、乳化重合を行った。更に5時間熟成して重合を終了し、着色されたコア粒子の一次分散液500部を得た。
【0067】
この分散液を用い、以下の測定を行った:
-上記のFOX式(式(2))により、コア部のガラス転移温度を測定した;
-動的光散乱法により、コア部の平均粒子径を測定した;
-上記の式(1)により、コア部の屈折率を測定した。
【0068】
(シェル部の作製)
2リットルのフラスコに、撹拌機、還流冷却器、温度計、窒素ガス導入管、モノマー投入用1000ml分液漏斗を取り付け、温水槽にセットした。このフラスコに、窒素ガス導入管、モノマー投入用1000ml分液漏斗を取り付け、温水槽にセットし、得られた一次分散液150部、蒸留水366部、界面活性剤としてのエーテルサルフェート(アデカリアソープSE-10N、ADEKA社)2部、過硫酸アンモニウム0.4部を仕込んで、窒素ガスを導入しながら、内温を50℃まで昇温した。
【0069】
一方、メタクリル酸メチルモノマー(モノマーB)15.6部、アクリル酸n-ブチルモノマー(モノマーE)15.6部を混合した液を上記分液漏斗から温度50℃付近に保った上記フラスコ内に撹拌下で3時間にわたって添加し、シード重合を行った。さらに5時間熟成して重合を終了し、コアシェル型ポリマー粒子の分散液549.6部を得た。この分散液におけるコアシェル型ポリマー粒子の含有率(固形分)は、36質量%であった。
【0070】
この分散液を用い、以下の測定を行った:
-上記のFOX式(式(2))により、シェル部のガラス転移温度を測定した;
-動的光散乱法により、コアシェル型ポリマー粒子の平均粒子径及び変動係数を測定し、平均粒子径の測定結果を用い、シェル厚みの平均粒子径に対する比率を算出した;
-上記の式(1)により、シェル部の屈折率を測定した。
【0071】
(インク組成物の作製)
作製したコアシェル型ポリマー粒子の分散液90質量部、保湿剤としてのグリセリン3質量部、防腐剤(バイオデンS、大和化学工業社)0.3質量部、及びイオン交換水6.7質量部を用い、筆記具用インク組成物100質量部を作製した。
【0072】
〈実施例2~5及び比較例2~3〉
実施例1における各物質の含有率が、表1に示す含有率となるようにして、各成分の種類及び添加量を調節したことを除き、実施例1と同様にして、実施例2~5及び比較例2~3の筆記具用インク組成物を作製した。
【0073】
〈比較例1〉
コア部を以下のようにして作製したことを除き、実施例1と同様にして、比較例1の筆記具用インク組成物を作製した。
【0074】
(コア部の作製)
2リットルのフラスコに、撹拌機、還流冷却器、温度計、窒素ガス導入管、モノマー投入用1000ml分液漏斗を取り付け、温水槽にセットした。このフラスコに、蒸留水359部、メタクリル酸2-スルホエチルナトリウム(アクリルエステルSEM-Na、三菱ケミカル社、モノマーA)5.5部、界面活性剤としてのエーテルサルフェート(アデカリアソープSE-10N、ADEKA社、界面活性剤A)22部及び過硫酸アンモニウム0.5部を仕込んで、水相を作製した。この水相に、窒素ガスを導入した。
【0075】
一方、メタクリル酸メチル(モノマーB)98.5部に、造塩染料(ValifastBlack 3830、オリエント化学社)3.5部、架橋剤としてのトリアリルイソシアヌレート(タイク(TAIC)、日本化成社)11部を混合した油相を調製した。
【0076】
この油相を、上記水相に投入し、ホモミキサーによるせん断処理後、内温を50℃まで昇温し、乳化重合を行った。更に5時間熟成して重合を終了し、着色されたコア粒子の一次分散液500部を得た。
【0077】
〈比較例4〉
コア部を以下のようにして作製したことを除き、実施例1と同様にして、比較例1の筆記具用インク組成物を作製した。
【0078】
(コア部の作製)
2リットルのフラスコに、撹拌機、還流冷却器、温度計、窒素ガス導入管、モノマー投入用1000ml分液漏斗を取り付け、温水槽にセットした。このフラスコに、蒸留水359部、メタクリル酸2-スルホエチルナトリウム(アクリルエステルSEM-Na、三菱ケミカル社、モノマーA)5.5部、界面活性剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ネオペレックス G-15、花王社、界面活性剤B)22部及び過硫酸アンモニウム0.5部を仕込んで、水相を作製した。この水相に、窒素ガスを導入しながら、内温を50℃まで昇温した。
【0079】
一方、メタクリル酸メチル(モノマーB)98.5部に、造塩染料(ValifastBlack 3830、オリエント化学社)3.5部、架橋剤としてのトリアリルイソシアヌレート(タイク(TAIC)、日本化成社)11部を混合した油相を調製した。
【0080】
この油相を、上記分液漏斗から温度50℃付近に保った上記水相内に撹拌下で3時間にわたって添加し、乳化重合を行った。更に5時間熟成して重合を終了し、着色されたコア粒子の一次分散液500部を得た。
【0081】
《評価》
〈発色性〉
各インク組成物を装填してマーキングペンを用いて、筆記用紙に手書きで長さ約25cmの線を描いた。乾燥後の筆記線を真上から見た時を90度とし、90度方向と45度方向から見た時の発色の変化を下記評価基準で評価した。
A:明瞭に色調が変化する
B:色調の変化がやや不明瞭
C:変化しない
【0082】
〈固着性〉
各インク組成物を装填してマーキングペンを用いて、筆記用紙に手書きで長さ約25cmの線を描いた。乾燥後の筆記線を筆記線直角方向に指サック(コクヨ株式会社製、事務用指サック・メク-2)を装着した指で軽く擦り、筆記線が擦りとられたり延びたりしないか下記評価基準で評価した。
A:変化なし
B:一部剥離がみられる
C:大部分が剥離する
【0083】
実施例及び比較例の構成及び評価結果を表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
表1から、平均粒子径が50nm~700nmであり、粒子径の変動係数が、20%未満であり、かつシェル部が乾燥時にコアシェル型ポリマー粒子間を互いに接着可能である、実施例1~5の筆記具用インク組成物は、良好な発色性及び固着性が得られることが理解できよう。
【0086】
これに対し、変動係数が20%超である比較例1の筆記具用インク組成物、及び平均粒子径が700nm超であった比較例4の筆記具用インク組成物は、いずれも発色性が良好ではなかったこと、シェル部を有しない比較例2の筆記具用インク組成物は、固着性が良好ではなかったことが理解できよう。また、シェル部がコア部と同種のポリマーで構成されている比較例3の筆記具用インク組成物も、比較例2と同様に、固着性が良好ではなかったことが理解できよう。
【手続補正書】
【提出日】2023-08-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状媒体、及び前記液状媒体中に分散されており、かつコア部及び前記コア部を包囲しているシェル部を有するコアシェル型ポリマー粒子を具備しており、
前記コアシェル型ポリマー粒子の動的光散乱法により測定した平均粒子径が、100nm超700nm以下であり、
前記コア部のガラス転移温度が、前記シェル部のガラス転移温度よりも高く、
前記シェル部のガラス転移温度が、30℃以下であり、
前記コアシェル型ポリマー粒子の粒子径の変動係数が、20%未満であり、かつ
前記シェル部が、乾燥時にコアシェル型ポリマー粒子間を互いに接着可能である、
筆記具用インク組成物。
【請求項2】
前記コアシェル型ポリマー粒子の前記コア部のガラス転移温度が、25℃以上である、請求項1に記載の筆記具用インク組成物。
【請求項3】
前記コアシェル型ポリマー粒子のシェル部が、前記コアシェル型ポリマー粒子全体の直径に対して1~30%の厚みを有する、請求項1又は2に記載の筆記具用インク組成物。
【請求項4】
コア部とシェル部の屈折率の差が、0.01以上である、請求項1~のいずれか一項に記載の筆記具用インク組成物。