(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023015545
(43)【公開日】2023-02-01
(54)【発明の名称】荷電粒子測定装置および荷電粒子測定装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
G01T 1/18 20060101AFI20230125BHJP
G01N 23/046 20180101ALI20230125BHJP
【FI】
G01T1/18 D
G01N23/046
G01T1/18 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021119390
(22)【出願日】2021-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久米 直人
(72)【発明者】
【氏名】宮寺 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】藤牧 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】杉田 宰
(72)【発明者】
【氏名】中居 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】須賀 昌隆
(72)【発明者】
【氏名】野部 晃平
【テーマコード(参考)】
2G001
2G188
【Fターム(参考)】
2G001AA02
2G001AA08
2G001BA14
2G001CA02
2G001CA08
2G001DA01
2G001DA06
2G001FA04
2G001FA06
2G001FA08
2G001FA22
2G001JA06
2G188AA25
2G188CC03
2G188EE16
2G188EE25
(57)【要約】
【課題】ガス検出器の劣化の種類または劣化の程度を把握し、長期間に亘り一定の測定精度を維持することができる荷電粒子測定技術を提供する。
【解決手段】荷電粒子測定装置1は、荷電粒子μの通過を検出するためのガスが封入された複数のガス検出器33と、複数のガス検出器33から出力される検出信号およびそれぞれのガス検出器33に対応付けられたパラメータに基づいて、荷電粒子μの軌跡を算出する軌跡算出部16と、荷電粒子μの軌跡に基づいて、測定対象である対象物2を測定する測定部17と、検出信号の信号強度を取得する信号強度取得部18と、それぞれのガス検出器33に対応する信号強度に基づいて、それぞれのガス検出器33の動作状態を評価する動作状態監視部22と、ガス検出器33の動作状態が変化した場合にガス検出器33に対応付けられたパラメータを更新するパラメータ更新部23を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子の通過を検出するためのガスが封入された複数のガス検出器と、
複数の前記ガス検出器から出力される検出信号およびそれぞれの前記ガス検出器に対応付けられたパラメータに基づいて、前記荷電粒子の軌跡を算出する軌跡算出部と、
前記荷電粒子の軌跡に基づいて、測定対象である対象物を測定する測定部と、
前記検出信号の信号強度を取得する信号強度取得部と、
それぞれの前記ガス検出器に対応する前記信号強度に基づいて、それぞれの前記ガス検出器の動作状態を評価する動作状態監視部と、
前記ガス検出器の前記動作状態が変化した場合に前記ガス検出器に対応付けられた前記パラメータを更新するパラメータ更新部と、
を備える、
荷電粒子測定装置。
【請求項2】
前記信号強度取得部は、前記検出信号の動作電圧特性を取得する動作電圧特性取得部を備え、
前記動作状態監視部は、前記ガス検出器に対応する前記動作電圧特性に基づいて、前記ガス検出器の前記動作状態を評価する、
請求項1に記載の荷電粒子測定装置。
【請求項3】
前記信号強度取得部は、前記検出信号の時間差分布を取得する時間差分布取得部を備え、
前記動作状態監視部は、前記ガス検出器に対応する前記時間差分布に基づいて、前記ガス検出器の前記動作状態を評価する、
請求項1または請求項2に記載の荷電粒子測定装置。
【請求項4】
前記時間差分布のヒストグラムを生成し、前記ヒストグラムの形状を基準となる基準形状と比較する形状比較部を備え、
前記動作状態監視部は、前記ヒストグラムの比較結果に基づいて、前記ガス検出器の前記動作状態を評価する、
請求項3に記載の荷電粒子測定装置。
【請求項5】
前記ガス検出器で測定可能な領域のうち、前記対象物を設置しない非測定対象領域に対応する前記検出信号を取得する非測定対象領域データ取得部を備え、
前記動作状態監視部は、前記非測定対象領域に対応して取得された前記検出信号の前記信号強度に基づいて、前記ガス検出器の前記動作状態を評価する、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の荷電粒子測定装置。
【請求項6】
前記荷電粒子は、少なくともミュオンを含み、
前記ガス検出器から出力される前記検出信号のうち、前記ミュオンの通過に起因する前記検出信号のみを抽出するミュオン信号抽出部を備え、
前記動作状態監視部は、前記ミュオンの通過に起因して出力された前記検出信号の前記信号強度に基づいて、前記ガス検出器の前記動作状態を評価する、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の荷電粒子測定装置。
【請求項7】
前記ガス検出器における前記荷電粒子の通過位置を識別する通過位置識別部を備え、
前記動作状態監視部は、前記ガス検出器の全範囲のうち、予め設定された設定範囲を前記荷電粒子が通過したときに出力された前記検出信号の前記信号強度に基づいて、前記ガス検出器の前記動作状態を評価する、
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の荷電粒子測定装置。
【請求項8】
前記動作状態監視部で評価した評価結果を記録するデータ記録部と、
過去の前記評価結果に基づいて、前記ガス検出器の性能が基準となる基準性能を満たさなくなる時期を予測する性能予測部と、
を備える、
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の荷電粒子測定装置。
【請求項9】
複数の前記対象物を順次測定するものであり、
前記動作状態監視部は、前記対象物を測定している期間および前記対象物を測定していない期間の両方で取得された前記信号強度に基づいて、前記ガス検出器の前記動作状態を評価する、
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の荷電粒子測定装置。
【請求項10】
ガスが封入された複数のガス検出器を用いて荷電粒子の通過を検出するステップと、
軌跡算出部が、複数の前記ガス検出器から出力される検出信号およびそれぞれの前記ガス検出器に対応付けられたパラメータに基づいて、前記荷電粒子の軌跡を算出するステップと、
測定部が、前記荷電粒子の軌跡に基づいて、測定対象である対象物を測定するステップと、
信号強度取得部が、前記検出信号の信号強度を取得するステップと、
動作状態監視部が、それぞれの前記ガス検出器に対応する前記信号強度に基づいて、それぞれの前記ガス検出器の動作状態を評価するステップと、
パラメータ更新部が、前記ガス検出器の前記動作状態が変化した場合に前記ガス検出器に対応付けられた前記パラメータを更新するステップと、
を含む、
荷電粒子測定装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、荷電粒子測定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象となる対象物の内部をイメージングする技術として、ミュオンなどの荷電粒子を使用した透視技術が知られている。荷電粒子は、光、X線、電磁波などとは異なり、物質中を散乱しながら透過する。そのため、電子の飛来方向およびその散乱の度合いなどから、物質の密度または平均原子番号などが推定できるという特徴がある。
【0003】
荷電粒子として宇宙線ミュオンと呼ばれる大気圏外から飛来する宇宙線に起因して発生するものがある。この宇宙線ミュオンは、非常に高いエネルギーを持ち、透過力が高い。そのため、火山またはピラミッドといった大型構造物のイメージングに用いられている。このようなイメージングを行う場合、荷電粒子の軌跡を精度良く取得することが重要である。従来技術として、プラスチックシンチレータまたはファイバーシンチレータを用いた装置がある。また、ガス検出器としてのドリフトチューブ検出器を用いた装置がある。
【0004】
例えば、複数のドリフトチューブ検出器を対象物の上下位置に並べることで、対象物の上下位置における荷電粒子の軌跡を算出し、これらの軌跡から対象物の内部の情報を得るとともに、ガンマ線の信号を取得することで、放射性物質の検出を行う検査手法が提案されている。また、このような検査手法を効率的に運用するための測定方法も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5479904号公報
【特許文献2】特許第6342399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ドリフトチューブ検出器を用いることで、宇宙線ミュオンによる対象物の測定を行うことができるが、測定を確度高く行うためには、一定した性能を維持することが重要である。しかし、ドリフトチューブ検出器は、ガスを封入しているという特性上、ガスの組成または圧力が変化することで、その性能が変化する可能性がある。また、重い対象物を載せて測定したり、温度が変化したりすることによって、ドリフトチューブ検出器の形状または位置が変化する可能性がある。これらの要因により、測定ごとに性能が異なるおそれがある。特に、ガスの組成の変化またはドリフトチューブ検出器の位置のずれは、微小な変化であるため、直に検査することが困難であり、かつリアルタイムで検査および修正することが困難である。
【0007】
本発明の実施形態は、このような事情を考慮してなされたもので、ガス検出器の劣化の種類または劣化の程度を把握し、長期間に亘り一定の測定精度を維持することができる荷電粒子測定技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態に係る荷電粒子測定装置は、荷電粒子の通過を検出するためのガスが封入された複数のガス検出器と、複数の前記ガス検出器から出力される検出信号およびそれぞれの前記ガス検出器に対応付けられたパラメータに基づいて、前記荷電粒子の軌跡を算出する軌跡算出部と、前記荷電粒子の軌跡に基づいて、測定対象である対象物を測定する測定部と、前記検出信号の信号強度を取得する信号強度取得部と、それぞれの前記ガス検出器に対応する前記信号強度に基づいて、それぞれの前記ガス検出器の動作状態を評価する動作状態監視部と、前記ガス検出器の前記動作状態が変化した場合に前記ガス検出器に対応付けられた前記パラメータを更新するパラメータ更新部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態により、ガス検出器の劣化の種類または劣化の程度を把握し、長期間に亘り一定の測定精度を維持することができる荷電粒子測定技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態のミュオントモグラフィ装置を示す図。
【
図2】第1実施形態のミュオントモグラフィ装置を示すブロック図。
【
図3】第1実施形態のメイン制御部を示すブロック図。
【
図5】ドリフトチューブ検出器の配置例を示す斜視図。
【
図6】ドリフトチューブ検出器を輪切りした状態を示す断面図。
【
図7】ドリフトチューブ検出器の長手方向の全体を示す断面図。
【
図9】ミュオントモグラフィ装置の制御処理を示すフローチャート。
【
図11】ミュオントモグラフィ装置の運用方法を示すフローチャート。
【
図12】第2実施形態のミュオントモグラフィ装置を示す図。
【
図13】第2実施形態のメイン制御部を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、図面を参照しながら、荷電粒子測定装置およびその制御方法の実施形態について詳細に説明する。まず、第1実施形態について
図1から
図11を用いて説明する。
【0012】
図1の符号1は、荷電粒子測定装置としてのミュオントモグラフィ装置である。このミュオントモグラフィ装置1は、測定の対象となる対象物を破壊することなく検査する非破壊検査システムである。測定対象である対象物としては、コンテナを輸送するトラックなどの車両2を例示する。例えば、車両2に所定の物体3が存在しているか否かについて検査するために用いられる。なお、対象物は、航空機または船舶で輸送されるコンテナ、人力で持ち運びが可能な荷物などであっても良い。
【0013】
このミュオントモグラフィ装置1は、荷電粒子としてのミュオンμを用いたミュオントモグラフィ(ミュオン検査)によって車両2の検査(イメージング)を行う。例えば、輸送される貨物中に含まれる物品が申請された明細書に記載の内容と整合しているか否かの確認、または違法な物質の有無などの確認が行われる。特に、貨物中に隠蔽されたウランなどの核物質を検出する目的で検査が行われる。多くの検査が連続的に行われるため、輸送貨物の内部を開封することなく検査が行われる。
【0014】
なお、ミュオントモグラフィ装置1は、少なくとも物質の種類を識別可能であれば良い。また、物質の種類には、物質の元素、物質の組成、物質に含まれる各元素の割合、物質の密度、物質量などが含まれる。物質毎にミュオンμの散乱角が異なるという特徴を利用して物質の種類を識別することができる。
【0015】
ミュオントモグラフィで用いるミュオンμは、主に宇宙線として存在する。ミュオンμは、宇宙から地球に入射する一次宇宙線が地球の大気と反応することにより生じる二次宇宙線の一種である。ミュオンμは、正または負の電荷を持ち、平均3~4GeVの高いエネルギーを持つため、X線などの放射線に比べて非常に高い透過力を有する。
【0016】
また、ミュオンμは、加速器を用いて人工的に発生させることもできる。本実施形態では、宇宙線のミュオンμを用いる形態を例示するが、人工的に発生させたミュオンμを用いても良い。
【0017】
なお、本実施形態は、荷電粒子測定装置としてミュオントモグラフィ装置1を例示するが、その他の態様であっても良い。例えば、電子などによる荷電粒子を用いて測定を行う装置に本実施形態を適用しても良い。
【0018】
本実施形態のミュオントモグラフィ装置1は、第1ミュオン軌跡検出器6と第2ミュオン軌跡検出器7と解析用コンピュータ8とを備える。
【0019】
第1ミュオン軌跡検出器6と第2ミュオン軌跡検出器7は、車両2を挟んで互いに向かい合う位置に設けられる。例えば、車両2を垂直方向に挟んで互いに向かい合う位置に設けられる。これら1組のミュオン軌跡検出器6,7は、自然界に存在する宇宙線であるミュオンμを検出する装置である。
【0020】
それぞれのミュオン軌跡検出器6,7は、所定の筐体4(フレーム)に収容されている。なお、上方側の第1ミュオン軌跡検出器6は、支柱5により支持されている。また、下方側の第2ミュオン軌跡検出器7は、地下に埋められている。また、車両2は、所定の台座9に載置されている。
【0021】
次に、ミュオントモグラフィ装置1のシステム構成を
図2から
図3に示すブロック図を参照して説明する。
【0022】
図2に示すように、ミュオン軌跡検出器6,7は、解析用コンピュータ8に接続され、この解析用コンピュータ8により制御される。
【0023】
解析用コンピュータ8は、入力部10と出力部11と通信部12と記憶部13とメイン制御部14とを備える。この解析用コンピュータ8は、CPU、ROM、RAM、HDDなどのハードウェア資源を有し、CPUが各種プログラムを実行することで、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて実現されるコンピュータで構成される。さらに、本実施形態のミュオントモグラフィ装置1の制御方法は、各種プログラムをコンピュータに実行させることで実現される。
【0024】
解析用コンピュータ8の各構成は、必ずしも1つのコンピュータに設ける必要はない。例えば、ネットワークで互いに接続された複数のコンピュータを用いて1つの解析用コンピュータ8を実現しても良い。例えば、ミュオン軌跡検出器6,7を制御するコンピュータと、ミュオン軌跡検出器6,7を検査するためのコンピュータとをそれぞれ個別に設けても良い。
【0025】
入力部10には、解析用コンピュータ8を使用するユーザの操作に応じて所定の情報が入力される。この入力部10には、マウスまたはキーボードなどの入力装置が含まれる。つまり、これら入力装置の操作に応じて所定の情報が入力部10に入力される。
【0026】
出力部11は、所定の情報の出力を行う。解析用コンピュータ8には、解析結果の出力を行うディスプレイなどの画像の表示を行う装置が含まれる。つまり、出力部11は、ディスプレイに表示される画像の制御を行う。なお、ディスプレイはコンピュータ本体と別体であっても良いし、一体であっても良い。
【0027】
なお、解析用コンピュータ8は、ネットワークを介して接続される他のコンピュータが備えるディスプレイに表示される画像の制御を行っても良い。その場合には、他のコンピュータが備える出力部11が、本実施形態の解析結果の出力の制御を行っても良い。
【0028】
なお、本実施形態では、画像の表示を行う装置としてディスプレイを例示するが、その他の態様であっても良い。例えば、ヘッドマウントディスプレイまたはプロジェクタを用いて情報の表示を行っても良い。さらに、紙媒体に情報を印字するプリンタをディスプレイの替りとして用いても良い。つまり、出力部11が制御する対象として、ヘッドマウントディスプレイ、プロジェクタまたはプリンタが含まれても良い。
【0029】
通信部12は、インターネットなどの通信回線を介して他のコンピュータと通信を行う。なお、本実施形態では、解析用コンピュータ8と他のコンピュータがインターネットを介して互いに接続されているが、その他の態様であっても良い。例えば、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)または携帯通信網を介して互いに接続されても良い。
【0030】
記憶部13は、ミュオン検査を行うときに必要な各種情報を記憶する。例えば、記憶部13は、ミュオン散乱の散乱角の統計値と、それぞれの統計値に対応する物質とを蓄積したデータベースを備える。このデータベースは、メモリ、HDDまたはクラウドに記憶され、検索または蓄積ができるよう整理された情報の集まりである。また、記憶部13には、ミュオントモグラフィ装置1の制御に必要な各種情報が記憶される。この記憶部13は、データ記録部15を備える。
【0031】
図3に示すように、メイン制御部14は、ミュオントモグラフィ装置1を統括的に制御する。このメイン制御部14は、軌跡算出部16と測定部17と信号強度取得部18と形状比較部19とミュオン信号抽出部20と通過位置識別部21と動作状態監視部22とパラメータ更新部23と性能予測部24とを備える。なお、信号強度取得部18は、動作電圧特性取得部25と時間差分布取得部26とを備える。これらは、メモリまたはHDDに記憶されたプログラムがCPUによって実行されることで実現される。
【0032】
ここで、
図4を参照して、第1ミュオン軌跡検出器6と第2ミュオン軌跡検出器7を用いた散乱角θの測定態様について詳述する。第1ミュオン軌跡検出器6と第2ミュオン軌跡検出器7は、それぞれが同一構成のユニットとなっている。第1ミュオン軌跡検出器6をミュオンμの入射側とし、第2ミュオン軌跡検出器7をミュオンμの出射側として説明する。なお、第2ミュオン軌跡検出器7をミュオンμの入射側とし、第1ミュオン軌跡検出器6をミュオンμの出射側であっても良い。
【0033】
軌跡算出部16(
図3)は、第1ミュオン軌跡検出器6における入射時のミュオンμの通過座標および通過角度を示す入射ベクトル28を解析する。また、第2ミュオン軌跡検出器7における出射時のミュオンμの通過座標および通過角度を示す出射ベクトル29を解析する。さらに、解析したミュオンμの通過座標および通過角度に基づいてミュオンμの軌跡を抽出する。
【0034】
ここで、軌跡算出部16は、それぞれのミュオン軌跡検出器6,7で一定の時間内(例えば、1マイクロ秒以下の範囲内)に検出されたミュオンμの軌跡を同一のミュオンμによるものとし、ミュオンμの入射時の軌跡(入射ベクトル28)および出射時の軌跡(出射ベクトル29)を1つのデータセットとして扱う。
【0035】
また、軌跡算出部16は、ミュオンμの通過座標および通過角度に基づいて、ミュオンμが通過したミュオン軌跡検出器6,7のそれぞれから延びる仮想の直線30,31を軌跡として生成する。
【0036】
例えば、入射ベクトル28の方向を延長した仮想の直線30と、出射ベクトル29の方向を延長した仮想の直線31とが交わる位置を特定する。この位置が、ミュオン散乱が生じた座標32を示している。そして、仮想の直線30,31同士がなす角度(軌跡の差分)が、ミュオンμの進行方向が変化したときの角度であり、ミュオンμの散乱角θである。散乱角θは、所謂ミュオンμの散乱の大きさである。
【0037】
測定部17(
図3)は、ミュオンμの軌跡に基づいて、ミュオン散乱の散乱角θを解析する。ここで、測定部17は、仮想の直線30,31同士の交点をミュオン散乱が生じた座標32とし、ミュオンμの散乱角θの解析を行う。
【0038】
また、測定部17は、それぞれの座標位置について、複数のミュオンμによる散乱角θの結果を蓄積して保存する。この蓄積した結果を統計した値を、ミュオンμの散乱が発生した座標32における散乱角θとして解析を行う。例えば、測定部17は、ミュオンμの軌跡に基づいて、対象物としての車両2の内部の物体3で生じたミュオン散乱の散乱角θの統計値を解析する。
【0039】
軌跡算出部16が、物体3を通過した複数のミュオンμの軌跡を抽出した場合において、測定部17は、複数のミュオンμの軌跡から、それぞれのミュオンμの散乱角θを解析するときに、散乱角θの平均値、中央値、分散、または任意の値のうちの少なくとも1つの統計値を算出する。なお、任意の値は、ユーザが任意に設定できる値である。例えば、散乱角θの60%の値、または、散乱角θの80%の値などを統計値として用いても良い。なお、散乱角θの統計値と、それぞれの統計値に対応する物質の種類とを示すデータが、記憶部13のデータベースに予め蓄積されている。
【0040】
そして、測定部17は、散乱角θに基づいて、物体3に存在する物質の種類を識別する。例えば、測定部17は、物体3に存在する物質の種類を識別する。または、物質の種類の識別結果を示す情報を生成する。この結果は、文章で示しても良いし、所定のグラフで示しても良い。さらに、所定の警告を出力しても良い。例えば、物質の種類がウランなどの核物質または爆薬などの危険物である場合に、所定の警告を出力しても良い。
【0041】
また、測定部17は、記憶部13のデータベースを参照し、統計値に対応して予め設定された物質を特定し、物体3に存在する物質の種類を識別する。このようにすれば、物質の種類の識別を自動的に行うときの精度が向上する。
【0042】
従来、荷電粒子の透過力を利用した透視技術として、透過法と呼ばれる物質中の透過率で物質の密度を評価する手法が存在する。また、散乱法と呼ばれる物質中での散乱の度合いで評価する手法が存在する。いずれの手法であっても、宇宙線のミュオンμの高い透過力を利用して、非常に大きな構造物の内部の情報を取得可能である。この内部の情報を精度よく得るためには、ミュオンμの軌跡を精度よく測定することが重要になる。しかし、ミュオンμの特性により測定対象が大きくなること、ミュオンμが地表面に到達する数に制限されることなどの理由により、検出器は、数m以上の大きなものが適用される場合が多い。
【0043】
この場合、非常に多くの検出器が必要となるが、検出器を複数配置し、それぞれの検出器のうち、ミュオンμの通過を検出した位置情報から軌跡を算出することが可能である。これらの通過位置を特定する場合および検出器の位置情報を取得する場合、大型の測定面積と高精度の位置情報の取得とを両立させる必要があり、装置の規模が非常に大きくなる。
【0044】
これに対して、ガス検出器の1種であるドリフトチューブ検出器33(
図5)というものがある。これはドリフト時間と呼ばれるドリフトチューブ検出器33の内部の電子の移動時間からその通過位置を特定するものである。ドリフトチューブ検出器33と用いると、それ自体のサイズより、はるかに小さい1mm以下の分解能を得ることが可能である。例えば、φ50mmの円筒形状のドリフトチューブ検出器33を用いた場合、0.5mm未満の精度でミュオンμの通過位置を特定することができる。
【0045】
図5に示すように、それぞれのミュオン軌跡検出器6,7は、円筒形状で軸方向に延びる複数本のドリフトチューブ検出器33で構成されている。ドリフトチューブ検出器33は、荷電粒子の通過を検出するためのガスが封入されたガス検出器となっている。それぞれのドリフトチューブ検出器33が平面的(X方向またはY方向)に並べられるとともに、この平面的に並べられたドリフトチューブ検出器33がさらに上下方向(Z方向)に積層され、1つのモジュールが形成される。
【0046】
なお、本実施形態では、ガス検出器としてドリフトチューブマルチワイヤ方式を例示しているが、ガス検出器は、荷電粒子を粒子単位で測定できるものであれば、他の態様でも良い。ガス検出器は、検出方式および検出器の外形が特に限定されるものではない。なお、1つのガス検出器でX位置とY位置を特定できる方式のものも適用可能であるが、ミュオンμの軌跡を算出するため、4層以上の構造となっていることが望ましい。
【0047】
例えば、平面的に並べられた複数本のドリフトチューブ検出器33を2層ずつ交互に直交させて積み重ねて、あわせて12層のドリフトチューブ検出器33の層が形成される。
図5の例では、X方向に並べられたドリフトチューブ検出器33が6層と、Y方向に並べられたドリフトチューブ検出器33が6層とで、Z方向に積層されている。そして、Z方向に測定対象となる車両2を配置することで、Z方向から入射してくるミュオンμのデータを取得することができる。このように、ドリフトチューブ検出器33の配列方向を直交させつつ積層することで、それぞれのミュオン軌跡検出器6,7を通過するミュオンμの軌跡を3次元的に検出することができる。
【0048】
図6から
図7に示すように、ドリフトチューブ検出器33は、円筒管34と芯線35とを備える。例えば、アルミニウム製の円筒管34の中心軸に沿って陽極ワイヤなどから成る芯線35が張られている。なお、それぞれのドリフトチューブ検出器33には、高電圧が印加される。
【0049】
それぞれのドリフトチューブ検出器33の内部には、希ガスを主成分とする電離用のガスが封入されている。荷電粒子としてのミュオンμがドリフトチューブ検出器33を通過すると、その通過位置36(
図6)でガスが電離されてイオンと電子に分離される。
【0050】
ここで、分離した電子は、ドリフトチューブ検出器33に印加された電圧によって、芯線35に向かって移動し、芯線35の近傍で電子雪崩という事象が起こる。すると、数pC~数100pCの微小な電荷が発生する。このとき、ドリフトチューブ検出器33から検出信号が出力され、ミュオンμの通過が検出される。例えば、イオンが芯線35に向かって移動したときにパルス状に電流が流れ、この電流を測定できるレベルまで増幅し、検出信号の発生時刻を測定する。
【0051】
なお、電流が最短距離を流れる性質を利用し、ドリフトチューブ検出器33の軸方向のいずれの通過位置38(
図7)で電離が発生したかを検出することができる。
【0052】
また、ガスの電離により電子が発生した時刻と、この電子が芯線35に到達した時刻とに基づいて、芯線35までの電子の移動時間が判明する。この移動時間により芯線35までの電子の移動距離を求めることで、ドリフトチューブ検出器33の内部におけるミュオンμの通過位置36が測定できる。
【0053】
ミュオンμが通過した時刻から検出信号の発生にまでにかかる時間は、ドリフト時間と呼ばれ、通過位置36から芯線35までの距離(径方向の距離)に相関がある値となる。つまり、ドリフトチューブ検出器33の径方向におけるミュオンμの通過位置36に相関がある値となる。なお、ドリフト時間とは、ミュオンμの通過位置36から芯線35まで電子が移動する時間である(
図6の矢印37参照)。このドリフト時間は、ドリフトチューブ検出器33のガスの種類、形状、動作電圧によって決まる。そのため、例えば、ドリフトチューブ検出器33の内部のガスの組成が変化したり、ドリフトチューブ検出器33の形状が変化(撓みまたは歪み)したりすると、その測定性能が変化する。
【0054】
この測定性能が変わることで、最終的に得られるミュオンμの軌跡を算出する精度も変化する。そのため、一定の測定性能で測定するためには、性能が変わっていないこと、変わっている場合は、補正または装置の交換を行うことが必要となる。
【0055】
そこで、本実施形態の解析用コンピュータ8は、ドリフトチューブ検出器33から出力される検出信号に関するデータからその動作状態を監視する。
【0056】
次に、解析用コンピュータ8が実行する制御処理について
図9のフローチャートを用いて説明する。なお、前述の図面を適宜参照する。
【0057】
まず、ステップS1において、ガス検出器としてのドリフトチューブ検出器33(
図6および
図7)は、ミュオンμの通過を検出する。ここで、ドリフトチューブ検出器33から検出信号が出力される。
【0058】
次のステップS2において、メイン制御部14(
図3)は、軌跡算出処理を実行する。この軌跡算出処理において、軌跡算出部16(
図3)は、それぞれのドリフトチューブ検出器33から出力される検出信号およびそれぞれのドリフトチューブ検出器33に対応付けられたパラメータに基づいて、ミュオンμの軌跡を算出する。
【0059】
次のステップS3において、メイン制御部14は、測定処理を実行する。この測定処理において、測定部17(
図3)は、ミュオンμの軌跡に基づいて、測定対象である車両2(
図1)の内部の状態を測定する。例えば、車両2の内部に所定の物体3の種類の識別を行う。
【0060】
次のステップS4において、メイン制御部14は、動作確認処理を実行する。この動作確認処理において、信号強度取得部18(
図3)は、検出信号の信号強度を取得する。また、動作状態監視部22(
図3)は、それぞれのドリフトチューブ検出器33に対応する信号強度に基づいて、それぞれのドリフトチューブ検出器33の動作状態を評価する。さらに、パラメータ更新部23(
図3)は、ドリフトチューブ検出器33の動作状態が変化している場合に、ドリフトチューブ検出器33に対応付けられたパラメータを更新する。なお、パラメータ更新部23は、ミュオンμの軌跡算出に必要な個別のパラメータを記憶部13の所定の記録領域に記録する。また、更新する値の算出、記録領域の値の更新などを行う。
【0061】
そして、制御処理を終了する。なお、この制御処理は、一定時間毎に繰り返される処理である。この処理が繰り返されることで、本実施形態の荷電粒子測定装置の制御方法が実行される。なお、解析用コンピュータ8が他のメイン処理を実行中に、この処理を割り込ませて実行しても良い。
【0062】
次に、動作確認処理について
図10のフローチャートを用いて説明する。なお、前述の図面を適宜参照する。
【0063】
まず、ステップS11において、ミュオン信号抽出部20(
図3)は、動作確認用の検出信号の抽出を行う。例えば、ドリフトチューブ検出器33から出力される様々な種類の検出信号のうち、ミュオンμの通過に起因する検出信号のみを抽出する。なお、動作状態監視部22は、ミュオンμの通過に起因して出力された検出信号の信号強度に基づいて、ドリフトチューブ検出器33の動作状態を評価する。このようにすれば、ミュオンμ以外のガンマ線などの通過に起因する検出信号を除外し、その影響を排除できるため、ドリフトチューブ検出器33の動作状態の評価精度を向上させることができる。
【0064】
例えば、ドリフトチューブ検出器33は、環境のガンマ線による影響も受ける。そのため、ドリフトチューブ検出器33から出力される検出信号には、ミュオンμに起因するものと、ガンマ線に起因するものが混在している。ガンマ線の場合、ガンマ線と物質の相互作用により発生する電子がガスを電離することになる。しかし、ガンマ線は、ミュオンμと比較して有しているエネルギーが異なる。例えば、単位長さあたりのエネルギー付与量(dE/dx)が異なる。また、飛来方向の角度分布が異なる。そのため、ガンマ線に起因する検出信号を除外し、実際の測定対象であるミュオンμの信号を使うことで、より確かな性能評価が可能となる。
【0065】
ミュオン信号抽出部20は、ミュオンμが高エネルギーの荷電粒子であることを利用して検出信号の抽出を行う。例えば、ミュオンμは透過力が高く、物質を通過した際に連続的にエネルギーを与えるため、複数のドリフトチューブ検出器33でほぼ同時に検出信号が発生する。一方、ガンマ線に起因する電子は、通過した物質の全てにエネルギーを与えるのではなく、確率的な反応を起こす。そのため、ガンマ線の場合は、ほぼ同時に複数のドリフトチューブ検出器33で検出信号が発生することは稀である。そこで、ミュオン信号抽出部20は、ほぼ同時に複数のドリフトチューブ検出器33で発生したイベントを、ミュオンμによるものであるとして検出信号の抽出を行う。
【0066】
なお、発生したイベント(ミュオンμの通過)には、複数のドリフトチューブ検出器33で得られたデータがセットになっている。例えば、イベントの発生時刻を基準(イベントID)として、検出信号が出力された時刻、ドリフトチューブ検出器33を個々に識別可能な識別情報(検出器ID)、動作電圧などの各種情報が記録される。これらの情報は、記憶部13(
図2)に記憶される。
【0067】
また、通過位置識別部21(
図3)は、ドリフトチューブ検出器33の軸方向におけるミュオンμの通過位置38(
図7)を識別する。なお、動作状態監視部22は、ドリフトチューブ検出器33の軸方向の全範囲40のうち、予め設定された設定範囲41(
図7)をミュオンμが通過したときに出力された検出信号の信号強度に基づいて、ドリフトチューブ検出器33の動作状態を評価する。このようにすれば、ドリフトチューブ検出器33の評価に有効な設定範囲41を予め設定して評価を行えるため、評価精度を向上させることができる。
【0068】
例えば、
図7に示すように、ドリフトチューブ検出器33の軸方向(長手方向)の全範囲40のうち、両端の所定の範囲を設定範囲41として設定する。この設定は、ユーザが予め任意に行うことができる。ドリフトチューブ検出器33の両端の設定範囲41は、筐体4(
図1)などにより強固に支持されている部分であるため、撓みまたは歪みが少なく、ドリフトチューブ検出器33が正常な形状となっている。これに対して、ドリフトチューブ検出器33の中央部の非設定範囲42は、撓みまたは歪みが発生していることが多く、ドリフトチューブ検出器33の形状が変化している場合がある。そこで、本実施形態では、ドリフトチューブ検出器33の両端を設定範囲41とし、これらの設定範囲41を通過したミュオンμに基づいて、ドリフトチューブ検出器33の動作状態の評価を行う。
【0069】
なお、本実施形態では、ドリフトチューブ検出器33の両端を設定範囲41としているが、その他の態様であっても良い。例えば、ドリフトチューブ検出器33の中央部が筐体4に強固に支持され、両端が自由端となっている場合には、ドリフトチューブ検出器33の中央部を設定範囲とし、両端を非設定範囲としても良い。
【0070】
さらに、本実施形態では、通過位置識別部21によりミュオンμの通過位置38(
図7)を識別しているが、通過位置識別部21の構成を省略しても良い。例えば、ドリフトチューブ検出器33の軸方向の全範囲40を設定範囲とし、いずれの位置でミュオンμが検出されても、動作状態の評価を行うものとしても良い。
【0071】
図10に戻り、次のステップS12において、信号強度取得部18(
図3)は、ドリフトチューブ検出器33から出力される検出信号の信号強度を取得する。
【0072】
次のステップS13において、動作電圧特性取得部25(
図3)は、それぞれのドリフトチューブ検出器33から出力される検出信号の動作電圧特性を取得する。なお、この動作電圧特性は、ドリフトチューブ検出器33の設計時に、基準となる値が予め設定されている。
【0073】
例えば、動作電圧特性取得部25は、ドリフトチューブ検出器33の動作電圧ごとの検出信号のイベントレートを取得する。ドリフトチューブ検出器33は、動作電圧を上げるほど、自身のゲインが上昇し、一定以上のゲインになると測定対象のパルス信号に対して感度が一定となる。この領域は、プラトー領域と称される。このプラトー領域でドリフトチューブ検出器33を動作させることで、多少動作電圧が変化しても一定の感度が得られる。
【0074】
プラトー領域に到達する前の動作電圧では、感度が大きく低下することが知られている。ここで、感度変化が起こる変化点は、ガスの組成の変化、または、ドリフトチューブ検出器33の形状の変化に依存する。そこで、ドリフトチューブ検出器33を、通常の動作電圧、感度変化が起こる電圧など数点で動作させ、感度を評価することで、基準値を満たすか否か、または、感度が変化する電圧が過去の測定と同等であることを確認する。
【0075】
この感度が変化する電圧が基準値内に入っている場合、動作電圧特性は正しいと判断し、外れた場合は、何らかの異常が発生していると考えられる。なお、本実施形態では、「感度変化が起こる変化点」と称したが、その他の態様でも良い。例えば、感度変化が始まる電圧、感度が一定になる電圧など、評価点はいずれでも良い。また、動作電圧特性取得部25で取得する動作電圧も、前述の事項が分かる範囲であれば、特に限定されるものではない。
【0076】
次のステップS14において、動作状態監視部22は、動作電圧特性取得部25で取得した検出信号の動作電圧が基準値を満たしているか否かを判定する。
【0077】
ここで、動作電圧が基準値を満たしている場合(ステップS14でYESの場合)は、ステップS15に進む。一方、動作電圧が基準値を満たしていない場合(ステップS14でNOの場合)は、ステップS26に進む。つまり、動作状態監視部22は、ドリフトチューブ検出器33に対応する動作電圧特性に基づいて、ドリフトチューブ検出器33の動作状態を評価する。このようにすれば、ドリフトチューブ検出器33が故障しているか否かの判定を行うことができる。例えば、動作電圧が基準値を満たしていない場合には、芯線35が断線している、またはガスがリークしているとみなせる。
【0078】
ステップS14でNOの場合に進むステップS26において、メイン制御部14は、ドリフトチューブ検出器33が故障していることを示す報知を行う。例えば、出力部11(
図2)を用いて、故障したドリフトチューブ検出器33を特定する識別情報(検出器ID)と、故障を報知する旨の表示を行う。または、故障したドリフトチューブ検出器33のデータを以後の測定で用いないようにする、データ除外処理の設定を行う。そして、動作確認処理を終了する。
【0079】
ステップS14でYESの場合に進むステップS15において、時間差分布取得部26(
図3)は、それぞれのドリフトチューブ検出器33から出力される検出信号の時間差分布を取得する。
【0080】
次のステップS16において、形状比較部19(
図3)それぞれのドリフトチューブ検出器33に対応するヒストグラムの生成を行う。このようにすれば、ドリフトチューブ検出器33のパラメータの更新に関する情報を取得することができる。なお、時間差分布取得部26がヒストグラムの生成を行っても良い。
【0081】
例えば、
図8に示すように、ドリフトチューブ検出器33で検出されるミュオンμの通過の頻度を所定期間に亘って蓄積すると、時間差分布のヒストグラムが得られる。なお、ヒストグラムは、ドリフトチューブ検出器33ごとに生成される。例えば、2万本のドリフトチューブ検出器33がある場合には、2万個のヒストグラムが生成される。
【0082】
時間差分布取得部26は、イベントの発生時刻を基準(イベントID)として、検出信号が出力された時刻の分布(時間差分布)を取得する。例えば、正常に動作しているドリフトチューブ検出器33の場合、それぞれのイベントにおいて最初に検出信号を検出したドリフトチューブ検出器33のドリフト時間DT0と、それぞれのドリフトチューブ検出器33のドリフト時間DTn(n=1以上)の差ΔT(ΔT=DTn-DT0)の分布が、時間差分布となる。
【0083】
それぞれのドリフト時間DTは、0秒から最大ドリフト時間TMAXまで分布しているため、両者の差であるΔTも同様に0秒から最大ドリフト時間TMAXまで分布する。正しいドリフト時間の分布は、実験、解析的により算出することができるため、ミュオンμの通過する位置の分布が特定できれば、理想的なΔTの分布(基準形状)を決定することができる。これに対し、理想的なΔTの分布と実測したΔTの分布との差分が、ミュオントモグラフィ装置1の時間分解能と、ドリフトチューブ検出器33の性能変化に依存するものとなる。
【0084】
具体的には、ドリフトチューブ検出器33(
図7)において、芯線35が撓む、または円筒管34の形状が歪むなどして、芯線35と円筒管34の内径の相対的な位置関係にずれが生じる場合がある。この場合、電場の歪みが生じることに加え、電子がドリフトする距離(
図6の矢印37参照)が変わる。これにより、最大ドリフト時間TMAXが、ばらつくことになる。また、ガスの組成が変わる場合、ドリフト時間の特性が変わるため、TMAXの値、つまりΔTの分布が変化する。これらの情報を得ることで、芯線35が撓む、円筒管34の形状が歪む、またはガスの組成が変化していることを評価することができる。
【0085】
芯線35または円筒管34における撓みまたは歪みは、ドリフトチューブ検出器33の軸方向の位置により程度が異なることが多い。そのため、通過位置識別部21で予め設定範囲41(
図7)を限定して評価することで、より精度よく評価を行うことができる。
【0086】
図10に戻り、次のステップS17において、動作状態監視部22は、ドリフトチューブ検出器33に対応する時間差分布に基づいて、ドリフトチューブ検出器33の動作状態を評価する。例えば、動作状態監視部22は、時間差分布(
図8)の最大値が基準値を満たすか否かを判定する。例えば、ドリフトチューブ検出器33ごとに基準値となる最大ドリフト時間TMAXが設定されている。この最大ドリフト時間TMAXよりも、時間差分布の最大値が大きいか否か、または超過量が所定の範囲43(
図8)を超えているか否かを判定する。
【0087】
ここで、時間差分布の最大値が基準値を満たす場合(ステップS17でYESの場合)は、ステップS20に進む。一方、時間差分布の最大値が基準値を満たさない場合(ステップS17でNOの場合)は、ステップS18に進む。
【0088】
例えば、時間差分布の最大値が基準値を満たさない場合には、ドリフトチューブ検出器33に封入されたガスが変質している、またはリークしているとみなせる。そのため、ドリフトチューブ検出器33のパラメータの更新を行う。
【0089】
ステップS18において、パラメータ更新部23(
図3)は、更新用R-Tカーブの算出を行う。
【0090】
次のステップS19において、パラメータ更新部23は、ドリフトチューブ検出器33のパラメータの更新を行う。ここで、ミュオンμの通過位置36(
図6)とドリフト時間の相関関数(R-Tカーブ)の更新を行う。
【0091】
仮に、ガスがリークしているが、正しい信号強度で検出信号が出力されているドリフトチューブ検出器33があるとする。この場合、ガスの組成が僅かに変化したと考えられ、ミュオンμの通過位置36とドリフト時間の相関関数を示すR-Tカーブを更新することで、正しい通過位置36を算出できるようになる。一方、ドリフトチューブ検出器33の歪みなどが発生している場合は、芯線35の位置、歪み量を修正して対応する。
【0092】
なお、前述の動作電圧特性が変わっている場合には、ガスのリーク量が多く、かつガスの組成比などが不明確になるケースが多いため、正しいR-Tカーブを推定することができない。そのため、R-Tカーブの修正で対応することができず、ドリフトチューブ検出器33の故障として扱うようにする。また、R-Tカーブは、パラメータの一例であり、他のパラメータを更新するものでも良い。
【0093】
次のステップS20において、形状比較部19(
図3)は、時間差分布のヒストグラム(
図8)の形状を基準となる基準形状と比較する。このようにすれば、ドリフトチューブ検出器33の性能の微小な変化を把握することができる。そして、動作状態監視部22は、ヒストグラムの比較結果に基づいて、ドリフトチューブ検出器33の動作状態を評価する。例えば、動作状態監視部22は、時間差分布の立ち下がり形状が、基準の範囲内であるか否かを判定する。
【0094】
ここで、時間差分布の立ち下がり形状が、基準の範囲内である場合(ステップS20でYESの場合)は、ステップS23に進む。一方、時間差分布の立ち下がり形状が、基準の範囲内でない場合(ステップS20でNOの場合)は、ステップS21に進む。
【0095】
例えば、時間差分布の立ち下がり形状が、基準の範囲内でない場合は、芯線35または円筒管34の形状が変化している、例えば、歪んでいるとみなせる。そのため、ドリフトチューブ検出器33のパラメータの更新を行う。
【0096】
ステップS21において、パラメータ更新部23(
図3)は、更新用パラメータの算出を行う。この更新用パラメータは、例えば、軌跡算出処理で用いるパラメータを更新するものである。
【0097】
なお、更新用パラメータは、更新用R-Tカーブでも良い。また、前述のステップS19で既に更新用R-Tカーブが算出されている場合には、その更新用R-Tカーブとの差分を示すものを算出し、新たな更新用R-Tカーブを取得しても良い。
【0098】
次のステップS22において、パラメータ更新部23は、ドリフトチューブ検出器33のパラメータの更新を行う。
【0099】
例えば、
図8に示すように、時間差分布の立ち下がり形状とは、ヒストグラムにおいて、最大ドリフト時間TMAXに最も近い範囲43で、グラフが下がる部分の形状を示す(
図8の実線のグラフを参照)。この立ち下がり形状は、最大ドリフト時間TMAXで急激に落ちるものが理想である。しかし、ドリフトチューブ検出器33が劣化すると、この立ち下がり形状がなだらかなものになる(
図8の点線のグラフを参照)。本実施形態では、ヒストグラムの基準形状が設定され、この基準形状を実測されたヒストグラムとの形状とを比較することで、ドリフトチューブ検出器33の劣化を評価する。
【0100】
工場における製造時には、全てのドリフトチューブ検出器33のパラメータ(R-Tカーブ)が同じものとなっている。ここで、長期間使用すると、それぞれのパラメータが更新され、異なるものとなる。なお、本実施形態の更新用パラメータとは、更新の直前に設定されていたパラメータとの差分を示すものでも良い。
【0101】
なお、動作電圧特性取得部25または時間差分布取得部26のいずれか一方で得られる情報だけでは、ガスの変化またはドリフトチューブ検出器33の形状の変化のいずれかの異常が発生したことしか特定できない。そこで、本実施形態では、動作電圧特性取得部25および時間差分布取得部26の双方で得られる情報を用いて評価を行うことで、ドリフトチューブ検出器33の動作状態を把握し、その対策を決定することができる。これにより、対策がされたドリフトチューブ検出器33は、使用継続することができる。また、故障したドリフトチューブ検出器33のデータは以後の測定で用いないようにする。
【0102】
図10に戻り、次のステップS23において、メイン制御部14は、記憶部13のデータ記録部15(
図2)に、動作状態監視部22で評価した評価結果を記録する。このようにすれば、過去に蓄積された評価結果を示すデータにより、ドリフトチューブ検出器33が将来に動作不良を起こす時期を予測することができる。
【0103】
次のステップS24において、性能予測部24(
図3)は、過去の評価結果に基づいて、ドリフトチューブ検出器33の性能が基準となる基準性能を満たさなくなる時期を予測する。例えば、数か月後、または数年後にドリフトチューブ検出器33が動作不良となるか否かを予測する。なお、性能予測部24は、過去のデータと現在のデータの比較評価を行うこともできる。
【0104】
次のステップS25において、メイン制御部14は、出力部11(
図2)を用いて、ドリフトチューブ検出器33を特定する識別情報(検出器ID)と、対応する予測結果を示す情報の表示を行う。そして、動作確認処理を終了する。
【0105】
なお、ドリフトチューブ検出器33の動作状態を評価する際に、それぞれのデータを用いて機械学習で分類または状況の判定を行っても良い。例えば、時間差分布のヒストグラムの判定を機械学習で行っても良い。
【0106】
例えば、本実施形態のミュオントモグラフィ装置1には、機械学習を行う人工知能(AI:Artificial Intelligence)を備えるコンピュータが含まれていても良い。例えば、解析用コンピュータ8には、深層学習に基づいて、複数のパターンから特定のパターンを抽出する深層学習部が含まれていても良い。
【0107】
本実施形態のコンピュータを用いた解析には、人工知能の学習に基づく解析技術を用いることができる。例えば、ニューラルネットワークによる機械学習により生成された学習モデル、その他の機械学習により生成された学習モデル、深層学習アルゴリズム、回帰分析などの数学的アルゴリズムを用いることができる。また、機械学習の形態には、クラスタリング、深層学習などの形態が含まれる。
【0108】
本実施形態のシステムは、機械学習を行う人工知能を備えるコンピュータを含む。例えば、ニューラルネットワークを備える1台のコンピュータでシステムを構成しても良いし、ニューラルネットワークを備える複数台のコンピュータでシステムを構成しても良い。
【0109】
ここで、ニューラルネットワークとは、脳機能の特性をコンピュータによるシミュレーションによって表現した数学モデルである。例えば、シナプスの結合によりネットワークを形成した人工ニューロン(ノード)が、学習によってシナプスの結合強度を変化させ、問題解決能力を持つようになるモデルを示す。さらに、ニューラルネットワークは、深層学習(Deep Learning)により問題解決能力を取得する。
【0110】
例えば、ニューラルネットワークには、6層のレイヤーを有する中間層が設けられる。この中間層の各レイヤーは、300個のユニットで構成されている。また、多層のニューラルネットワークに学習用データを用いて予め学ばせておくことで、回路またはシステムの状態の変化のパターンの中にある特徴量を自動で抽出することができる。なお、多層のニューラルネットワークは、ユーザインターフェース上で、任意の中間層数、任意のユニット数、任意の学習率、任意の学習回数、任意の活性化関数を設定することができる。
【0111】
なお、学習対象となる各種情報項目に報酬関数が設定されるとともに、報酬関数に基づいて価値が最も高い情報項目が抽出される深層強化学習をニューラルネットワークに用いても良い。
【0112】
例えば、画像認識で実績のあるCNN(Convolution Neural Network)を用いる。このCNNでは、中間層が畳み込み層とプーリング層で構成される。畳み込み層は、前の層で近くにあるノードにフィルタ処理を施すことで特徴マップを取得する。プーリング層は、畳込み層から出力された特徴マップを、さらに縮小して新たな特徴マップとする。この際に特徴マップにおいて着目する領域に含まれる画素の最大値を得ることで、特徴量の位置の多少のずれも吸収することができる。
【0113】
畳み込み層は、画像の局所的な特徴を抽出し、プーリング層は、局所的な特徴をまとめる処理を行う。これらの処理では、入力画像の特徴を維持しながら画像を縮小処理する。つまり、CNNでは、画像の持つ情報量を大幅に圧縮(抽象化)することができる。そして、ニューラルネットワークに記憶された抽象化された画像イメージを用いて、入力される画像を認識し、画像の分類を行うことができる。
【0114】
なお、深層学習には、オートエンコーダ、RNN(Recurrent Neural Network)、LSTM(Long Short-Term Memory)、GAN(Generative Adversarial Network)などの各種手法がある。これらの手法を本実施形態の深層学習に適用しても良い。
【0115】
次に、ミュオントモグラフィ装置1の運用方法について
図11のフローチャートを用いて説明する。なお、前述の図面を適宜参照する。
【0116】
本実施形態では、ミュオントモグラフィ装置1の起動後、対象物が有る期間と無い期間の少なくとも2つの期間に取得されたデータを用いて、ドリフトチューブ検出器33の動作確認を行う。
【0117】
例えば、1台のミュオントモグラフィ装置1を用いて、複数台の車両2を順次測定するものとする(
図1)。ここで、宇宙線のミュオンμを使用する場合、ミュオンμの数は宇宙から降り注ぐ成分のみに制限され、このミュオンμの数によって測定時間が決まってしまう。そのため、ドリフトチューブ検出器33の動作確認のためだけに測定時間を使うと、本来の車両2の測定時間が減らされるおそれがあり、1日に測定できる車両2の台数も少なくなってしまう。そこで、複数の車両2を順次設置して測定を行う合間に、連続してミュオンμの検出を行う。この合間のデータを複数回集積したデータを用いて、ドリフトチューブ検出器33の動作確認を行う。これにより、本来の車両2の測定時間が減らされることなく、定期的にドリフトチューブ検出器33の動作状態を監視し、常に最良の状態を保つことが可能となる。
【0118】
まず、ステップS31において、ユーザは、ミュオントモグラフィ装置1を起動する。
【0119】
次のステップS32において、ミュオントモグラフィ装置1の起動時の動作確認を行う。ここで、前述の動作確認処理(
図9および
図10)が実行され、ドリフトチューブ検出器33の動作状態の監視とパラメータの更新が行われる。
【0120】
次のステップS33において、ミュオントモグラフィ装置1に車両2が搬入される。
【0121】
次のステップS34において、ミュオントモグラフィ装置1を用いて車両2のミュオン検査が行われる。
【0122】
次のステップS35において、ミュオントモグラフィ装置1の測定時の動作確認を行う。ここで、前述の動作確認処理(
図9および
図10)が実行され、ドリフトチューブ検出器33の動作状態の監視とパラメータの更新が行われる。
【0123】
次のステップS36において、ミュオントモグラフィ装置1から車両2が搬出される。
【0124】
次のステップS37において、ミュオントモグラフィ装置1に車両2が設置されていない非測定時の動作確認を行う。ここで、前述の動作確認処理(
図9および
図10)が実行され、ドリフトチューブ検出器33の動作状態の監視とパラメータの更新が行われる。
【0125】
次のステップS38において、ユーザは、未測定の車両2が残っているか否かを判定する。ここで、未測定の車両2が残っている場合(ステップS38でYESの場合)は、前述のステップS33に戻る。一方、未測定の車両2が残っていない場合(ステップS38でNOの場合)は、ステップS39に進む。
【0126】
ステップS39において、ユーザは、ミュオントモグラフィ装置1を停止する。そして、運用方法を終了する。
【0127】
このように、動作状態監視部22は、車両2を測定している期間(測定時)および車両2を測定していない期間(非測定時)の両方で取得された信号強度に基づいて、ドリフトチューブ検出器33の動作状態を評価する。このようにすれば、ドリフトチューブ検出器33の動作状態を連続的に把握することができる。また、常にミュオントモグラフィ装置1を最良の状態に維持できる。さらに、異常が発生していることを逐次確認しながら運用することができる。
【0128】
一般的に、ミュオントモグラフィ装置1による測定時間は、充分なミュオンμを測定できる環境であれば、数分から数10分程度で一定の情報は得られる。これに対し、対象物の交換作業は、トラックなどの大きな車両2の場合、数分かかる。そのため、本実施形態では10回当たりの測定に対し、1回程度のドリフトチューブ検出器33の動作状態を監視とパラメータの更新が可能となる。
【0129】
なお、1つのドリフトチューブ検出器33から得られる情報のみでは、ミュオンμの通過位置36(
図6)が分かるのみで、その軌跡を特定することはできないが、同じミュオンμの通過に対して、複数のドリフトチューブ検出器33で得られる、通過位置36と距離の情報を軌跡算出部16で処理することで、その軌跡を算出することが可能となる。また、本実施形態では、ミュオンμが通過した時刻が明確に特定できない場合でも軌跡を算出することが可能である。また、ミュオンμの通過時刻を別のドリフトチューブ検出器33で測定し、その情報を使用して評価することも可能である。
【0130】
第1実施形態によれば、ドリフトチューブ検出器33で取得できるデータを元に、ドリフトチューブ検出器33の性能変化に加え、評価に使用できない不良品となったドリフトチューブ検出器33のデータを除外することができる。これにより、ミュオントモグラフィ装置1の分解点検などの必要がなくなり、かつドリフトチューブ検出器33の監視と診断が可能なミュオントモグラフィ装置1とすることができる。
【0131】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について
図12から
図13を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0132】
図12に示すように、第2実施形態のミュオントモグラフィ装置1では、筐体4および支柱5などの対象物以外に位置関係が予め固定されているものがある。ドリフトチューブ検出器33(
図5)の動作確認では、これらのイメージングを行うことで、正しく動作することを確認する。
【0133】
ミュオントモグラフィの技術のうち、対象物における散乱の度合いによりイメージングを行う散乱法を用いる場合には、対象物を通過したミュオンμの散乱角θのばらつきを利用する。ここで、ミュオンμの検出性能が変わってしまうと、散乱角θがばらついてしまい、測定結果が変わってしまう可能性がある。そこで、対象物が設置される領域以外に存在する構造が既知の筐体4(フレーム)、支柱5、または所定の試験片(図示略)を、ミュオンμを用いて測定する。
【0134】
例えば、ドリフトチューブ検出器33で測定可能な領域は、車両2(対象物)を設置する測定対象領域44と、車両2を設置しない非測定対象領域45に分けられる。測定対象領域44と非測定対象領域45は、車両2のサイズを考慮してユーザが予め任意に設定することができる。第2実施形態では、車両2の前後の領域が非測定対象領域45となっている。測定対象領域44をイメージングした場合には、筐体4と支柱5に加えて、車両2の像が含まれるが、非測定対象領域45をイメージングした場合には、筐体4と支柱5の像が含まれ、車両2の像が含まれない。
【0135】
図13に示すように、第2実施形態のメイン制御部14Aは、前述の通過位置識別部21(
図3)の替わりに、非測定対象領域データ取得部46を備える。この非測定対象領域データ取得部46は、非測定対象領域45に対応する検出信号を取得する。そして、動作状態監視部22は、非測定対象領域45に対応して取得された検出信号の信号強度に基づいて、ドリフトチューブ検出器33の動作状態を評価する。この動作状態には、ドリフトチューブ検出器33の位置のずれなどの情報も含まれる。
【0136】
例えば、非測定対象領域データ取得部46は、動作確認時に、非測定対象領域45を通過したミュオンμのデータを抽出する。そして、動作状態監視部22は、非測定対象領域45の散乱角分布および透過率分布を監視し、基準値と比較する。基準値を満たしていれば、ドリフトチューブ検出器33が健全性を保っていると判定する。また、基準値を満たしていない場合には、異常と判定する。
【0137】
仮に、異常である場合には、上下のミュオン軌跡検出器6,7の位置関係が、筐体4の歪み、または地震などの振動により、ずれた可能性が考えられる。その場合には、ミュオントモグラフィ装置1の全体の構造の座標系を更新することで対応する。
【0138】
また、評価結果の時間的変動を記録することで、ミュオントモグラフィ装置1の経年変化を取得することが可能である。地震などの瞬間的に発生する装置の損傷を除き、ガスのリーク、ドリフトチューブ検出器33の歪みなどは、時間的に緩やかに変化するものが多い。そのため、経年変化を測定することで、劣化の進行を予測することができる。特に、予測がドリフトチューブ検出器33の動作条件を超えて不良となる時期、不良のドリフトチューブ検出器33の割合が許容数を超える時期などを、計算することで長期的な監視または保全に生かすことが可能となる。また、予測は、機械学習などいずれの方法も適用可能であり、単純な経年劣化だけでなく、温度変化などの季節変動などの影響も考慮して行うことができる。
【0139】
第2実施形態によれば、車両2の影響を受けないミュオンμの軌跡によりドリフトチューブ検出器33の評価を行えるため、評価精度を向上させることができる。例えば、ドリフトチューブ検出器33を支持している筐体4の歪みなどを含めた監視が可能になるとともに、劣化の予測なども可能となる。これにより、詳細な分解点検の必要がなくなり、長期的な監視を行うことが可能となる。
【0140】
なお、測定対象領域44に存在する物であっても、台座9などの構造が既知のものであれば、評価の基準として用いることができる。
【0141】
荷電粒子測定装置およびその制御方法を第1実施形態から第2実施形態に基づいて説明したが、いずれか1の実施形態において適用された構成を他の実施形態に適用しても良いし、各実施形態において適用された構成を組み合わせても良い。
【0142】
なお、前述の実施形態において、基準値(基準形状、基準範囲)を用いた任意の値(電圧、時間差分布の最大値、時間差分布の立ち下り形状)の判定は、「任意の値が基準値以上か否か」の判定でも良いし、「任意の値が基準値を超えているか否か」の判定でも良い。或いは、「任意の値が基準値以下か否か」の判定でも良いし、「任意の値が基準値未満か否か」の判定でも良い。また、基準値が固定されるものでなく、変化するものであっても良い。従って、基準値の代わりに所定範囲の値を用い、任意の値が所定範囲に収まるか否かの判定を行っても良い。また、予め装置に生じる誤差を解析し、基準値を中心として誤差範囲を含めた所定範囲を判定に用いても良い。
【0143】
なお、前述の実施形態のフローチャートにおいて、各ステップが直列に実行される形態を例示しているが、必ずしも各ステップの前後関係が固定されるものでなく、一部のステップの前後関係が入れ替わっても良い。また、一部のステップが他のステップと並列に実行されても良い。
【0144】
前述の実施形態のコンピュータは、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、またはCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)またはRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスまたはキーボードなどの入力装置と、通信インターフェースとを備える。このコンピュータは、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。
【0145】
なお、前述の実施形態のコンピュータで実行されるプログラムは、ROMなどに予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)などのコンピュータで読み取り可能な非一過性の記憶媒体に記憶されて提供するようにしても良い。
【0146】
また、このコンピュータで実行されるプログラムは、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしても良い。また、このコンピュータは、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワークまたは専用線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【0147】
なお、前述の実施形態では、1組のミュオン軌跡検出器6,7が、車両2を垂直方向に挟んで互いに向かい合う位置に設けられているが、その他の態様であっても良い。例えば、2組のミュオン軌跡検出器6,7が、車両2を垂直方向と水平方向に挟んで互いに向かい合う位置にそれぞれ設けられても良い。また、ミュオン軌跡検出器は、2つで1組である必要はなく、奇数個のミュオン軌跡検出器が設けられても良い。例えば、3つ以上のミュオン軌跡検出器が設けられても良い。
【0148】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、それぞれのガス検出器に対応する信号強度に基づいて、それぞれのガス検出器の動作状態を評価する動作状態監視部を備えることにより、ガス検出器の劣化の種類または劣化の程度を把握し、長期間に亘り一定の測定精度を維持することができる。
【0149】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態またはその変形は、発明の範囲と要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0150】
1…ミュオントモグラフィ装置、2…車両、3…物体、4…筐体、5…支柱、6…第1ミュオン軌跡検出器、7…第2ミュオン軌跡検出器、8…解析用コンピュータ、9…台座、10…入力部、11…出力部、12…通信部、13…記憶部、14(14A)…メイン制御部、15…データ記録部、16…軌跡算出部、17…測定部、18…信号強度取得部、19…形状比較部、20…ミュオン信号抽出部、21…通過位置識別部、22…動作状態監視部、23…パラメータ更新部、24…性能予測部、25…動作電圧特性取得部、26…時間差分布取得部、28…入射ベクトル、29…出射ベクトル、30,31…仮想の直線、32…座標、33…ドリフトチューブ検出器、34…円筒管、35…芯線、36…通過位置、37…矢印、38…通過位置、40…全範囲、41…設定範囲、42…非設定範囲、43…所定の範囲、44…測定対象領域、45…非測定対象領域、46…非測定対象領域データ取得部、θ…散乱角、μ…ミュオン。