(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155592
(43)【公開日】2023-10-23
(54)【発明の名称】熱中症判定システム
(51)【国際特許分類】
G08B 21/02 20060101AFI20231016BHJP
A61B 5/01 20060101ALI20231016BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20231016BHJP
G08B 25/04 20060101ALI20231016BHJP
A61B 5/0507 20210101ALI20231016BHJP
F24F 11/37 20180101ALI20231016BHJP
【FI】
G08B21/02
A61B5/01 350
A61B5/00 102A
G08B25/04 K
A61B5/0507
F24F11/37
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065003
(22)【出願日】2022-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】591036457
【氏名又は名称】三菱電機エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100188514
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】阿部 則夫
【テーマコード(参考)】
3L260
4C117
4C127
5C086
5C087
【Fターム(参考)】
3L260BA26
3L260CA04
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3L260FA02
3L260GA17
4C117XA01
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4C127AA10
4C127CC04
4C127GG16
5C086AA22
5C086BA01
5C086CA01
5C086CA28
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5C087FF01
5C087FF04
5C087GG08
5C087GG18
5C087GG66
(57)【要約】
【課題】個人差による誤判定を抑制することできる熱中症判定システムを得る。
【解決手段】熱中症判定システムには、過去の定常時における被験者の就寝中での体温に関する時間推移を定常時時系列データとして記憶する体温推移保存部18と、就寝開始時における被験者の体温の検出値と定常時時系列データとから就寝中における体温の時間推移の予測値として予測時系列データを生成する体温推移予測部19と、被験者の就寝中においてサンプリング周期ごとに被験者の体温の検出値を取得して検出時時系列データを生成し、予測時系列データの時間推移を逸脱して検出値時系列データが上昇傾向を示す場合、被験者が熱中症の兆候を示すアラーム状態であると判定する熱中症判定部20とが含まれている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
過去の定常時における被験者の就寝中での体温に関する時間推移を定常時時系列データとして記憶する体温推移保存部と、
就寝開始時における前記被験者の体温の検出値と前記定常時時系列データとから就寝中における体温の時間推移の予測値として予測時系列データを生成する体温推移予測部と、
前記被験者の就寝中においてサンプリング周期ごとに前記検出値を取得して検出値時系列データを生成し、前記予測時系列データの時間推移を逸脱して前記検出値時系列データが上昇傾向を示す場合、前記被験者が熱中症の兆候を示すアラーム状態であると判定する熱中症判定部と、
を備える熱中症判定システム。
【請求項2】
前記体温推移予測部は、前記予測時系列データに対応して時系列で変動し、前記アラーム状態になったことを熱中症が重篤化する前段階で判定するために用いられる閾値時系列データを生成し、
前記熱中症判定部は、前記閾値時系列データの中から前記被験者の就寝中の現在時点での閾値を抽出し、抽出した前記閾値と前記検出値時系列データの前記現在時点における検出値とを比較し、前記検出値が前記閾値以上となった場合、前記アラーム状態であると判定する請求項1に記載の熱中症判定システム。
【請求項3】
前記被験者が置かれた環境の室温及び相対湿度を測定する環境センサと、
前記室温及び前記相対湿度に基づいて、熱中症指数を導出する指数導出部と、
を備え、
前記閾値時系列データは、前記予測時系列データに対し、裕度を有するデータであり、
前記熱中症判定部は、前記熱中症指数に応じて、前記裕度を下げて前記閾値時系列データを低く補正する
請求項2に記載の熱中症判定システム。
【請求項4】
前記体温推移予測部は、前記体温推移保存部に記憶されている複数の前記定常時時系列データのうち前記被験者における過去の就寝開始時の体温が前記被験者における現在の就寝開始時における前記被験者の体温に最も近いものを抽出し、抽出したものに対して統計処理を行うことで前記予測時系列データを生成する請求項1から請求項3の何れか一項に記載の熱中症判定システム。
【請求項5】
前記被験者を含む撮像範囲を撮像し、画像情報を生成する撮像カメラと、
前記撮像範囲の温度分布を測定し、温度分布情報を生成する温度センサと、
前記画像情報から前記被験者の頭部の位置を特定し、特定した前記頭部の位置と、前記温度分布情報とから前記頭部の体温を検出する体温検出部と、
前記画像情報から前記頭部の角度を検出する角度検出部と、
前記頭部の体温と、前記角度とから、前記頭部の体温を、前記被験者が前記温度センサに正対したときの位置の正対位置体温に補正する体温補正部と、
をさらに備え、
前記熱中症判定部は、前記正対位置体温を前記検出値として用いる請求項1から請求項3の何れか一項に記載の熱中症判定システム。
【請求項6】
前記画像情報から前記就寝開始時であると判定した場合、前記アラーム状態の判定を開始させる制御部をさらに備える請求項5に記載の熱中症判定システム。
【請求項7】
前記被験者に入射波を照射し、前記入射波の反射波を捕捉する発汗量センサと、
前記反射波の減衰量に基づいて、前記被験者の発汗量を算出する発汗量算出部と、
を備え、
前記熱中症判定部は、前記発汗量の時間推移が減少傾向に転じ、且つ、前記検出値の時間推移が前記上昇傾向に転じた場合、前記アラーム状態であると判定する請求項1に記載の熱中症判定システム。
【請求項8】
前記熱中症判定部は、前記発汗量の減少が停止し、且つ、前記検出値が予め設定された閾値体温を超えた場合、熱中症が重症に分類されると判定する請求項7に記載の熱中症判定システム。
【請求項9】
前記体温推移予測部は、前記被験者が就寝から起床までの間において前記アラーム状態であると判定されなかった場合、前記検出値時系列データを前記定常時時系列データの1つとして前記体温推移保存部に保存させる請求項1から請求項3までの何れか一項に記載の熱中症判定システム。
【請求項10】
前記体温推移予測部は、前記被験者が就寝から起床までの間において前記アラーム状態であると判定されなかった場合、前記検出値時系列データを前記定常時時系列データの1つとして前記体温推移保存部に保存させる請求項7又は請求項8に記載の熱中症判定システム。
【請求項11】
前記熱中症判定部により前記アラーム状態であると判定された場合、空気調和機に稼働指示を出す稼働指示部をさらに備える請求項1から請求項3までの何れか一項に記載の熱中症判定システム。
【請求項12】
前記熱中症判定部により前記アラーム状態であると判定された場合、空気調和機に稼働指示を出す稼働指示部をさらに備える請求項7又は請求項8に記載の熱中症判定システム。
【請求項13】
前記稼働指示部により前記空気調和機に前記稼働指示が出されてから一定時間経過後、前記熱中症判定部により前記アラーム状態であると判定される場合、前記アラーム状態であることを報知する通知部をさらに備える請求項11に記載の熱中症判定システム。
【請求項14】
前記稼働指示部により前記空気調和機に前記稼働指示が出されてから一定時間経過後、前記熱中症判定部により前記アラーム状態であると判定される場合、前記アラーム状態であることを報知する通知部をさらに備える請求項12に記載の熱中症判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱中症判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球の温暖化に伴い、熱中症の発症件数が増加している。例えば、老化に伴い皮膚の温度に対する感度が鈍くなることにより暑さを感知しにくくなるため、室内での高齢者の熱中症の発症が増加している(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
そこで、乾湿温度計及び黒球温度計で得られた測定値から算出した熱中症指標に基づいて室内環境が悪化したと判定した場合、警報を発生する技術がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】環境省、「熱中症環境保健マニュアル2018」、平成30年3月改訂
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、温湿度の体感には個人差がある。このため、特許文献1に記載の技術では、本来は熱中症であると判定すべき状態を正確に判定できず、個人差による誤判定が生じ、被験者に熱中症が発生する場合がある。
【0007】
本開示は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、個人差による誤判定を抑制することができる熱中症判定システムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る熱中症判定システムは、過去の定常時における被験者の就寝中での体温に関する時間推移を定常時時系列データとして記憶する体温推移保存部と、就寝開始時における被験者の体温の検出値と定常時時系列データとから就寝中における体温の時間推移の予測値として予測時系列データを生成する体温推移予測部と、被験者の就寝中においてサンプリング周期ごとに検出値を取得して検出値時系列データを生成し、予測時系列データの時間推移を逸脱して検出値時系列データが上昇傾向を示す場合、被験者が熱中症の兆候を示すアラーム状態であると判定する熱中症判定部とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、個人差による誤判定を抑制することできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1における熱中症判定システムの機能構成を示す図である。
【
図2】
図1の熱中症判定システムによる熱中症の兆候を示すか否かの判定条件の一例を示す図である。
【
図3】
図2の判定条件を用いた熱中症重篤化回避処理を説明するフローチャートである。
【
図4】実施の形態2における熱中症判定システムの機能構成を示す図である。
【
図5】
図4の熱中症判定システムによる熱中症の兆候を示すか否かの判定条件の一例を示す図である。
【
図6】
図5の判定条件を用いた熱中症重篤化回避処理を説明するフローチャートである。
【
図7】実施の形態3における熱中症判定システムの機能構成を示す図である。
【
図8】
図7の熱中症判定システムで利用する室温、相対湿度、及び、WBGT値のそれぞれの対応関係を示す図である。
【
図9】
図8のWBGT値に応じた日常生活における熱中症注意事項を説明する図である。
【
図10】
図7の熱中症判定システムによる熱中症の兆候を示すか否かの判定条件の一例を示す図である。
【
図11】
図10の判定条件を用いた熱中症重篤化回避処理を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における熱中症判定システム1aの機能構成を示す図である。
図1に示すように、熱中症判定システム1aは、被験者の体温を検知する構成を備えている。即ち、熱中症判定システム1aは、被験者の体温を検知する構成として、撮像カメラ11、就寝状態判定部12、角度検出部13、温度センサ14、体温検出部15、体温補正部16、及び、制御部17aを備えている。
【0012】
熱中症判定システム1aは、検知した被験者の体温に基づき、被験者の熱中症の重篤化を回避する構成を備えている。即ち、熱中症判定システム1aは、被験者の熱中症の重篤化を回避する構成として、体温推移保存部18、体温推移予測部19、熱中症判定部20a、稼働指示部21、及び、通知部22を備えている。
【0013】
まず、被験者の体温が検知される構成について説明する。撮像カメラ11は、就寝中における被験者を含む撮像範囲を撮影し、画像情報を生成する機能を有している。撮像カメラ11は、個体撮像素子を搭載する撮像装置である。個体撮像素子としては、例えば、CCD(Carge Coupled Device)イメージセンサ、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ等が用いられている。
【0014】
撮像カメラ11は、被験者が就寝中の室内で使用される。被験者が就寝中、被験者が居る室内は暗くなることが想定される。よって、撮像カメラ11には、暗所での撮影を補助する装置が設けられていることが望ましい。例えば、撮像カメラ11として、僅かな光量でも良好な撮像が得られるように高感度性能を実現する機能が設けられた撮像装置が用いられる。即ち、撮像カメラ11として、可視光を対象にした撮像装置が用いられる。また、例えば、撮像カメラ11として、赤外線等を利用した暗視カメラが用いられてもよい。即ち、撮像カメラ11として、赤外線を対象にした撮像装置が用いられてもよい。
【0015】
撮像カメラ11により生成された画像情報は、就寝状態判定部12、角度検出部13、及び、体温検出部15に供給される。
【0016】
なお、例えば、就寝状態判定部12及び角度検出部13には、可視光を対象にした撮像装置による画像情報が供給されてもよい。また、体温検出部15には、赤外線を対象にした撮像装置による画像情報が供給されてもよい。即ち、熱中症判定システム1aには、同一の撮像装置により撮像されて生成された画像情報ではなく、異なる撮像装置により撮像されて生成された画像情報が用いられてもよい。
【0017】
また、撮像カメラ11の撮像範囲に被験者の頭部を含ませる場合には、撮像カメラ11の撮像範囲は、予め広めに設定されていることが望ましい。
【0018】
就寝状態判定部12は、撮像カメラ11から供給される画像情報に基づいて、被験者の就寝状態の判別を行う機能を有している。ここで、被験者の就寝状態とは、被験者が着床した状態、被験者が睡眠している状態、及び、被験者が起床した状態の何れかを示すこととする。
【0019】
なお、被験者が就寝すると、被験者の体温が減少傾向となるため、就寝状態判定部12は、温度センサ14による被験者の体温の測定結果を用いて被験者が就寝した状態を判定してもよい。
【0020】
角度検出部13は、撮像カメラ11から供給される画像情報に基づいて、被験者の頭部の角度を検出する機能を有している。被験者の頭部の角度は、撮像カメラ11から供給される画像情報に画像処理を施すことにより抽出される。画像処理は、例えば、テンプレートマッチングが利用される。ここで、テンプレートマッチングとは、テンプレートとなる頭部画像を回転させ、回転させた角度の頭部画像と一致する画像が画像情報に含まれるか否かを探索する処理である。頭部画像と一致する画像が探索されれば、一致したときに使用した頭部画像に施した回転角度が頭部の角度として検出される。
【0021】
温度センサ14は、撮像カメラ11の撮像範囲の温度分布を測定し、温度分布情報を生成する機能を有している。温度センサ14には、例えば、サーマルカメラが用いられる。サーマルカメラは、被験者から放射される赤外線を検知する機能を有している。温度センサ14により測定された撮像カメラ11の撮像範囲における温度分布情報は、体温検出部15に供給される。
【0022】
体温検出部15は、画像情報に基づいて被験者の頭部の位置を特定する機能を有している。体温検出部15は、特定した被験者の頭部の位置と、温度センサ14により供給された温度分布情報と、に基づいて、被験者の現在の体温として被験者の頭部の体温を検出する機能を有している。
【0023】
体温補正部16は、体温検出部15により検出された被験者の頭部の体温を、角度検出部13により検出された被験者の頭部の角度に基づいて補正をする機能を有している。体温補正部16は、体温検出部15により検出された被験者の頭部の体温を正対位置体温に補正する。ここで、正対位置体温とは、被験者が温度センサ14に正対した位置のときに温度センサ14により測定された被験者の体温である。
【0024】
具体的には、体温補正部16には、被験者と温度センサ14とが正対した状態での被験者の頭部の体温と、被験者の頭部の任意の角度毎の頭部の体温と、の比率に関するデータが記憶されている。体温補正部16は、上記の比率に関するデータに基づいて、体温検出部15により検出された被験者の頭部の体温を正対位置体温に補正する。
【0025】
制御部17aは、撮像カメラ11及び温度センサ14を制御する機能を有している。さらに、制御部17aは、就寝状態判定部12、角度検出部13、体温検出部15、及び、体温補正部16を制御する機能も有している。制御部17aは、任意に設定された時間間隔で被験者の頭部の体温の測定を繰り返す処理を行う。ここで、時間間隔とは、被験者の頭部の体温が測定されるサンプリング周期である。
【0026】
制御部17aは、画像情報から被験者が就寝開始時であると判定した場合、詳細については後述するように、アラーム状態であるか否かの判定を開始させる。ここで、アラーム状態とは、被験者が熱中症の兆候を示す状態であり、熱中症が重篤化する前段階の状態である。被験者がどのような場合に熱中症の兆候を示す状態となるかについては後述する。
【0027】
なお、
図1においては、制御部17aと、就寝状態判定部12、角度検出部13、体温検出部15、及び、体温補正部16と、の間を接続する制御信号線の記載は省略されている。
【0028】
次に、被験者が熱中症の兆候を示すアラーム状態であると判定される構成について説明する。体温推移保存部18には、過去の定常時における被験者の就寝中での体温に関する時間推移が定常時時系列データとして記憶されている。ここで、定常時時系列データとは、被験者が就寝から起床までの間においてアラーム状態であると判定されなかった場合に収集された過去のデータである。よって、体温推移保存部18には、アラーム状態であるか否かを判定するための基準となるデータとして定常時時系列データが記憶されている。
【0029】
詳細については後述するが、定常時時系列データは、熱中症判定システム1aが稼働されることで生成された当日分が体温推移保存部18に追加記憶される。このような追加記憶が日々行われることにより、体温推移保存部18に記憶される定常時時系列データが拡充される。
【0030】
具体的には、定常時時系列データとは、被験者が就寝から起床までの間において予め決められたサンプリング周期ごとに測定された被験者の頭部の体温を示すデータである。即ち、定常時時系列データは、被験者が就寝から起床までの間における被験者の個体情報である。例えば、就寝開始から徐々に被験者の体温が低下するのであれば、被験者のそのような体温の減少傾向がその被験者の個体情報となり得る。詳細については後述するが、被験者の個体情報に従って被験者がアラーム状態であるか否かが判定されることにより、個人差に起因する熱中症の誤判定が抑制される。よって、定常時時系列データの蓄積処理は、予測精度の向上に寄与する処理である。
【0031】
体温推移予測部19は、体温推移保存部18に記憶されている複数の定常時時系列データのうち被験者における過去の就寝開始時の体温が被験者における現在の就寝開始時における被験者の体温に最も近いものを抽出する。
【0032】
ここで、定常時時系列データを抽出するとは、複数の定常時時系列データの中から、被験者の頭部の体温を検出したときの現在時点における時刻と同時刻における被験者の頭部の体温が予め定めた誤差の範囲内にある定常時時系列データが抽出される動作である。これにより、例えば、女性の高体温期間と低体温期間との違いが考慮された定常時時系列データが抽出される。つまり、当日の被験者の体調も考慮された定常時時系列データが抽出される。
【0033】
体温推移予測部19は、抽出した定常時時系列データに対して統計処理を行うことで、就寝中における体温の時間推移の予測値として、予測時系列データを生成する。ここで、統計処理とは、例えば、定常時時系列データに含まれる複数の体温についての移動平均の演算処理である。これにより、被験者の過去の体温の時間推移が滑らかな曲線となる。この曲線が予測時系列データとして利用される。
【0034】
体温推移予測部19は、予測時系列データに対応して時系列で変動し、アラーム状態になったことを熱中症が重篤化する前段階で判定するために用いられる閾値時系列データを生成する。
【0035】
閾値時系列データは、例えば、予測時系列データに対し、一定の裕度が加算されたデータである。また、閾値時系列データは、例えば、予測時系列データに対し、一定の比率が乗算されたデータであってもよい。即ち、閾値時系列データは、予測時系列データに対して裕度を有することで、各時刻において予測時系列データよりも高い値として設定されるデータである。また、例えば、閾値時系列データは、予測時系列データに対して任意のオフセットをかけることにより、熱中症の兆候を示すアラーム状態の判定基準として設定されたデータである。
【0036】
即ち、閾値時系列データは、予測時系列データに対応して時系列で変動しつつ、一定の裕度が加算されたデータ又は一定の比率が乗算されたデータとすることができる。
【0037】
閾値時系列データは、熱中症判定部20aに供給される。
【0038】
熱中症判定部20aは、被験者の就寝中においてサンプリング周期ごとに被験者の体温の検出値を取得して検出値時系列データを生成する機能を有している。また、熱中症判定部20aは、予測時系列データの時間推移を逸脱して検出値時系列データが上昇傾向を示す場合、被験者が熱中症の兆候を示すアラーム状態であると判定する機能を有している。
【0039】
具体的には、熱中症判定部20aは、閾値時系列データの中から被験者の就寝中の現在時点での閾値を抽出し、抽出した閾値と現在時点における検出値とを比較し、検出値が閾値以上となった場合、予測時系列データの時間推移を逸脱して検出値時系列データが上昇傾向を示したケースの1つとして、アラーム状態であると判定する。ここで、被験者の体温の検出値には、上記で説明した正対位置体温が用いられるが、正対位置体温に補正された値でなくてもよい。
【0040】
図2は、
図1の熱中症判定システム1aによる熱中症の兆候を示すアラーム状態であるか否かの判定条件の一例を示す図である。
図2において、縦軸は被験者の頭部の体温を示し、横軸は時刻を示す。また、
図2には、予測時系列データ、閾値時系列データ、及び、検出値時系列データのそれぞれが示されている。なお、検出値時系列データは、
図2においては、黒四角で示されている。また、
図2の一例では、サンプリング周期は、30分である。
【0041】
図2に示すように、22時が被験者の就寝開始の時刻となっている。22時に測定された被験者の頭部の体温は36.9℃を示している。体温推移予測部19は、体温推移保存部18に蓄積されている定常時時系列データのうち、就寝開始の時刻における被験者の頭部の体温が、予め定めた誤差の範囲内にあって、且つ36.9℃に最も近い推移情報を抽出する。体温推移予測部19は、抽出した定常時時系列データに統計処理を施し、
図2に示す予測時系列データを生成する。予測時系列データは、
図2においては、黒実線で示されている。
【0042】
体温推移予測部19は、一例として、
図2に示すように、予測時系列データに対し、裕度を持たせた閾値時系列データを生成することができる。閾値時系列データは、
図2においては、黒の一点破線で示されている。ここで、裕度は、
図2の一例では、一定の値として加算される1.0℃に設定されている。
【0043】
熱中症判定部20aは、
図2に示すように、黒四角で示す被験者の現在時点における検出値が、一点破線で示す閾値時系列データの中から抽出された現在時点における閾値以上であると判定した場合、熱中症の兆候を示すアラーム状態であると判定する。
図2の一例では、3時に被験者が熱中症の兆候を示すアラーム状態であると判定されたことになる。このように、アラーム状態の判定に用いられる閾値は、一律ではなく、時系列で変動するため、被験者固有の就寝中の頭部の体温の変動が考慮されている。
【0044】
なお、検出値が閾値以上となる前にサンプリング周期を短くしてもよい。例えば、
図2の一例では、2時半のデータから判断して、次のサンプリングを3時に行うのではなく、2時40分又は2時45分に行うと、閾値以上になったタイミングをより高精度に特定できる。
【0045】
また、被験者の体温の検出値は、被験者の頭部の体温の検出結果でなくても、被験者の体温の検出結果であればよい。さらに、被験者の頭部の角度に基づいて体温の検出値を補正することも必須ではない。
【0046】
図1の説明に戻る。稼働指示部21は、熱中症判定部20aにより被験者が熱中症の兆候を示すアラーム状態であると判定された場合、不図示の空気調和機に稼働指示を出す機能を有している。ここで、空気調和機とは、例えば、室内機と室外機とが冷媒配管を介して接続され、冷媒配管を流れる冷媒と空気とが熱交換されることにより、空気を調和する装置である。
【0047】
通知部22は、稼働指示部21により空気調和機に稼働指示が出されてから一定時間経過後、熱中症判定部20aにより被験者が依然として熱中症の兆候を示すアラーム状態であると判定される場合、被験者が熱中症の兆候を示すアラーム状態が継続していることを報知する。
【0048】
報知する対象は、被験者本人、被験者の家族、及び、医療機関のような第三者の少なくとも何れかであるが、これらに限定されない。
【0049】
上記で説明した熱中症判定システム1aは、被験者の就寝時に、被験者の頭部と正対する場所、例えば、天井に設置されることが望ましい。なお、熱中症判定システム1aの設置場所は、被験者の頭部の体温を測定できる場所であれば、被験者の寝具の近傍、空気調和機の内部等であってもよい。
【0050】
以上で説明した熱中症判定システム1aの各機能は、不図示のROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、及び、CPU(Central Processing Unit)により実現される。
【0051】
次に、熱中症判定システム1aの処理の流れについて説明する。
図3は、
図2の判定条件を用いた熱中症重篤化回避処理を説明するフローチャートである。
図3に示すように、
図2の判定条件を用いた熱中症判定処理は、被験者が着床したことを契機とする処理である。
図2の判定条件を用いた熱中症重篤化回避処理は、初期設定処理、熱中症判定処理、熱中症対策処理、終了処理を含む。
【0052】
具体的には、ステップS11において、熱中症判定システム1aは、被験者が着床したか否かを判定する。熱中症判定システム1aが被験者が着床したと判定した場合、ステップS11の処理は、ステップS12の処理に移行する。熱中症判定システム1aが被験者が着床していないと判定した場合、ステップS11の処理は継続される。
【0053】
次に、初期設定処理について説明する。初期設定処理には、ステップS12の処理と、ステップS13の処理とが含まれる。
【0054】
ステップS12において、熱中症判定システム1aは、就寝開始時の被験者の体温を取得する。即ち、制御部17aの制御により測定された撮像カメラ11及び温度センサ14のそれぞれの測定結果に基づいて、角度検出部13、体温検出部15、体温補正部16の処理が実行され、就寝開始時の被験者の体温が取得される。
【0055】
ステップS13において、熱中症判定システム1aは、就寝期間中の被験者の体温の時間推移を予測し、閾値時系列データを設定する。即ち、体温推移予測部19は、被験者の就寝開始時における被験者の体温の検出値と体温推移保存部18に蓄積されている定常時時系列データとから当日の被験者の体温の予測時系列データを生成する。体温推移予測部19は、予測時系列データに対し、裕度を有する閾値時系列データを生成し、設定する。
【0056】
次に、熱中症判定処理について説明する。ステップS14において、熱中症判定システム1aは、被験者が起床したか否かを判定する。熱中症判定システム1aが被験者が起床したと判定した場合、ステップS14の処理は、ステップS22の処理に移行する。熱中症判定システム1aが被験者が起床していないと判定した場合、ステップS14の処理はステップS15に移行する。即ち、熱中症判定処理は、被験者が起床したと判定されるまで、サンプリング周期ごとに繰り返し実行される。また、熱中症判定処理は、被験者が起床したと判定された場合、処理の繰り返しを終了し、終了処理に移行する。
【0057】
ステップS15において、熱中症判定システム1aは、被験者の体温を測定する。
【0058】
ステップS16において、熱中症判定システム1aは、被験者の体温が閾値未満であるか否かを判定する。熱中症判定システム1aが被験者の体温が閾値未満であると判定した場合、ステップS16の処理は、ステップS14の処理に戻る。熱中症判定システム1aが被験者の体温が閾値以上であると判定した場合、ステップS16の処理は、ステップS17の処理に移行する。
【0059】
ステップS17において、熱中症判定システム1aは、熱中症の兆候を示すアラーム状態であると判定する。
【0060】
なお、熱中症の兆候を示すアラーム状態であると判定された後も、被験者の体温の検出動作は、継続されることが望ましい。この際のサンプリング周期は、ステップS15で用いられるサンプリング周期よりも短く設定することで、アラーム状態における体温の時間推移を正確にデータ化することができる。これにより、継続して得られた体温の検出値時系列データは、アラームが通知された第三者に対し、被験者への対処用の情報として活用可能となる。
【0061】
次に、熱中症対策処理について説明する。ステップS18において、熱中症判定システム1aは、空気調和機を稼働させる。即ち、稼働指示部21は、赤外線リモコン等の通信手段を用いて空気調和機を稼働させ、被験者が居る室内の環境の改善を試みる。ここで、環境の改善とは、被験者が居る室内における室温及び相対湿度の少なくとも一方を空気調和機により低下させる動作である。
【0062】
ステップS19において、熱中症判定システム1aは、一定時間経過したか否かを判定する。熱中症判定システム1aが一定時間経過したと判定した場合、ステップS19の処理は、ステップS20の処理に移行する。熱中症判定システム1aが一定時間経過していないと判定した場合、ステップS19の処理は継続される。ここで、一定時間とは、空気調和機の稼働により被験者の室内の空気が調和されるのに要すると想定される時間である。一定時間は、例えば15分である。
【0063】
ステップS20において、熱中症判定システム1aは、被験者の体温が閾値未満であるか否かを判定する。熱中症判定システム1aは被験者の体温が閾値未満であると判定した場合、ステップS20の処理は、ステップS14の処理に戻る。熱中症判定システム1aは被験者の体温が閾値以上であると判定した場合、ステップS20の処理は、ステップS21の処理に移行する。
【0064】
ステップS21において、熱中症判定システム1aは、アラームを通知する。アラームの通知先、即ち、報知する対象は、上記で説明したように、被験者本人、被験者の家族、及び、医療機関のような第三者の少なくとも何れかである。
【0065】
次に、終了処理について説明する。ステップS22において、熱中症判定システム1aは、当日の検出値時系列データを定常時時系列データとして体温推移保存部18に保存する。具体的には、ステップS14において被験者が起床したと判定され、ステップS14の処理がステップS22の処理に移行された場合には、当日の検出値時系列データが定常時時系列データとして体温推移保存部18に追加格納される。また、ステップS17において熱中症の兆候を示すアラーム状態であると判定された場合には、アラーム状態である検出値時系列データを非定常時時系列データとして体温推移保存部18に追加格納が実行される。次に、ステップS22の処理は、終了する。これにより、当日における一連の処理は終了する。なお、非定常時時系列データは、上記で説明したように、第三者に対し、被験者への対処用の情報として活用される。
【0066】
以上のように、本実施の形態1に係る熱中症判定システム1aは、被験者の画像情報及び被験者の体温を測定する。これらの測定結果は、何れも被験者に非接触で測定される。よって、特別な装置を被験者に装着させる必要がない。
【0067】
また、撮像カメラ11により生成された画像情報に基づいて被験者の頭部の角度が検出される。また、検出された被験者の頭部の角度に基づいて被験者の頭部の体温が正対位置体温に補正される。熱中症判定部20aは、正対位置体温を熱中症判定時の被験者の頭部の体温として用いる。よって、寝返りのような無意識下の身体の動きが発生しても、被験者の頭部の体温を正確に求めることができる。
【0068】
また、閾値時系列データは、被験者の着床から起床までの被験者の体温の変動が考慮されて設定されている。即ち、閾値時系列データは、被験者の過去の定常時時系列データが考慮されている。よって、一律の閾値を基準として被験者が熱中症の兆候を示すアラーム状態であるか否かが判定されるのではない。従って、被験者固有の定常時時系列データに対応して時系列で変動する閾値が用いられるため、個人差に起因した熱中症の誤判定を抑制することができる。
【0069】
換言すれば、個人差による熱中症の誤判定を抑制して熱中症の重篤化を回避することができる。
【0070】
また、一律の閾値を基準として被験者が熱中症の兆候を示すアラーム状態であるか否かが判定されるのと比べ、時系列データに対応して設定された閾値が用いられるため、被験者の頭部に体温と、閾値時系列データに含まれる閾値との違いを見出しやすい。これにより、被験者が熱中症の兆候を示すアラーム状態であるか否かを早期に発見することができる。
【0071】
実施の形態2.
実施の形態2においては、以下の点が実施の形態1とは異なっている。
被験者が熱中症の兆候を示すアラーム状態であるか否かの判定として、被験者の発汗量も用いることにより、閾値を用いた判断、発汗量を用いた判断とが個別に利用できる点。
【0072】
まず、人体の発汗量と、熱中症との関係について説明する。人体の体温が上昇すると、交感神経の働きにより発汗が促される。この発汗による汗が蒸散する際に生じる気化熱により、人体の末梢に流れる血液が冷却される。冷却された血液は人体の体幹部に戻ることにより、人体の体温は低下する。これは、人体の体温調整機能と呼ばれており、一般的に知られている。
【0073】
熱中症は、重症度に応じて、軽度、中等症、及び、重症の3段階に分類されている。軽度及び中等症では、人体の体温調整機能により大量の発汗が生じる。重症では、人体の発汗は停止し、人体は高体温となる。よって、熱中症の重症度は、発汗量と密接な関係にある。
【0074】
そこで、実施の形態2においては、以下で説明するように、被験者が熱中症の兆候を示すアラーム状態であるか否かの判定に被験者の発汗量が用いられる。
【0075】
図4は、実施の形態2における熱中症判定システム1bの機能構成を示す図である。
図4に示すように、熱中症判定システム1bは、
図1に記載の熱中症判定システム1と比べ、発汗量センサ32と、発汗量算出部33と、を備えている点が主な相違点となる。なお、
図4の熱中症判定システム1bにおいて、
図1に記載の熱中症判定システム1と同様の機能を有するものについては、同様の符号を付記し、その説明を省略する。
【0076】
発汗量センサ32は、被験者に入射波を照射し、入射波の反射波を捕捉する機能を有している。発汗量センサ32としては、例えば、ドップラーセンサのような非接触のセンサが用いられている。
【0077】
制御部17bは、実施の形態1における制御に加え、発汗量センサ32によるマイクロ波の照射動作及び反射波の捕捉動作のそれぞれの動作を制御する。また、制御部17bは、発汗量センサ32の動作周期を制御する。
【0078】
発汗量算出部33は、反射波の減衰量に基づいて、発汗量を算出する機能を有している。
【0079】
ここで、動作周期とは、マイクロ波の照射動作、反射波の捕捉動作、及び、発汗量を算出する算出動作の一連の動作を行う周期である。また、マイクロ波の照射動作、反射波の捕捉動作、及び、発汗量を算出する算出動作の一連の動作が、被験者の発汗量を測定する処理に対応する。
【0080】
熱中症判定部20bは、熱中症の兆候を示すアラーム状態であるか否かの判定を2種類の方式で行う機能を有している。第1の方式は、実施の形態1で説明したように、サンプリング周期ごとに検出した現在時点における被験者の体温の検出値と、閾値時系列データの中から抽出した現在時点での閾値と、の比較により判定する処理である。
【0081】
第2の方式は、発汗量が上昇傾向から減少傾向に転じ、且つ現在の体温が減少傾向から上昇傾向に転じた場合の条件により判定する処理である。この第2の方式により、被験者の発汗量が減少しているのに体温が上昇し、熱中症が中等症から重症に遷移する過程を捉えることができる。
【0082】
熱中症判定部20bは、第1の方式及び第2の方式の何れであっても条件を満たした場合には、被験者が熱中症の兆候を示すアラーム状態であると判定する。即ち、熱中症判定部20bは、検出値と閾値時系列データとによる判定、及び、発汗量と検出値とによる判定、の何れかに基づいて被験者が熱中症の兆候を示すアラーム状態であると判定する。
【0083】
ここで、第1の方式及び第2の方式の何れにおいても、検出値とは、現在における正対位置体温に補正された体温が用いられるが、そのような補正をしていなくてもよい。
【0084】
稼働指示部21は、第1の方式及び第2の方式の何れかに基づいて被験者が熱中症の兆候を示すアラーム状態であると判定された場合、空気調和機に稼働指示を出す。
【0085】
次に、熱中症判定部20bの機能のうち上記の第2の方式について具体的に説明する。
図5は、
図4の熱中症判定システム1bによる熱中症の兆候を示すアラーム状態であるか否かの判定条件の一例を示す図である。
図5の上段において、縦軸、横軸、予測推移情報、熱中症判定閾値群、及び、当日に測定された被験者の頭部の体温は、
図2と同様である。
【0086】
一方、
図5の下段において、縦軸は被験者の発汗量比率を示し、横軸は時刻を示す。ここで、被験者の発汗量比率とは、任意の動作周期で得た発汗量を、就寝開始時における被験者の発汗量を100%とした場合に対する割合で示した比率である。
【0087】
図5に示すように、22時が被験者の就寝開始の時刻となっている。時間の経過と共に徐々に被験者の発汗量は増加し、被験者の体温の推移は1時30分から上昇傾向に転じ、被験者の発汗量の推移は2時に上昇傾向から減少傾向に転じている。即ち、
図5の2時以降では、熱中症が中等症から重症に遷移したおそれがあることが示されている。そこで、熱中症判定部20bは、被験者の発汗量が減少傾向且つ被験者の体温が上昇傾向である場合、予測時系列データの時間推移を逸脱して検出値時系列データが上昇傾向を示したケースの1つとして、被験者が熱中症の兆候を示すアラーム状態であると判定する。
図5の一例では、2時に被験者が熱中症の兆候を示すアラーム状態であると判定されたことになる。よって、
図5の一例では、
図2の一例よりも早期に被験者が熱中症の兆候を示すと判定されたことになる。
【0088】
このように、熱中症判定システム1bは、発汗量センサ32及び発汗量算出部33から算出された就寝中における発汗量を、第2の方式による被験者が熱中症の兆候を示すアラーム状態であるか否かの判定に活用可能である。
【0089】
次に、熱中症判定システム1bの処理の流れについて説明する。
図6は、
図5の判定条件を用いた熱中症重篤化回避処理を説明するフローチャートである。
図6に示すように、
図5の判定条件を用いた熱中症重篤化回避処理は、初期設定処理、熱中症判定処理、熱中症対策処理、終了処理を含む。
【0090】
ステップS31の処理は、
図3におけるステップS11の処理と同様の処理である。
【0091】
初期設定処理において、ステップS32及びステップS33の各処理は、
図3におけるステップS12及びステップS13の各処理と同様の処理である。
【0092】
熱中症判定処理において、ステップS35、ステップS37、及び、ステップS39の各処理は、
図3におけるステップS14、ステップS15、及び、ステップS16の各処理と同様の処理である。
【0093】
熱中症対策処理において、ステップS41、ステップS42、及び、ステップS44の各処理は、
図3におけるステップS18、ステップS19、及び、ステップS21の各処理と同様の処理である。
【0094】
終了処理において、ステップS45の処理は、
図3におけるステップS22の処理と同様の処理である。
【0095】
ここで、
図6における各処理において、
図3における各処理と同様の処理についての説明は省略する。
【0096】
ステップS34において、熱中症判定システム1bは、就寝開始時の被験者の発汗量を取得する。
【0097】
ステップS36において、熱中症判定システム1bは、被験者の発汗量を測定する。なお、ステップS36の処理は、マイクロ波の照射動作、反射波の捕捉動作、及び、発汗量を算出する算出動作の一連の動作に対応する。
【0098】
ステップS38において、熱中症判定システム1bは、被験者の発汗量が減少傾向且つ被験者の体温が上昇傾向であるか否かを判定する。熱中症判定システム1bは被験者の発汗量が減少傾向且つ被験者の体温が上昇傾向でない場合、ステップS38の処理はステップS35の処理に戻る。熱中症判定システム1bは被験者の発汗量が減少傾向且つ被験者の頭部の体温が上昇傾向である場合、ステップS38の処理はステップS40の処理に移行する。
【0099】
ステップS40において、熱中症判定システム1bは、ステップS39の処理、及び、ステップS38の処理、の何れかが熱中症の兆候を示すと判定される条件を満たした場合、被験者が熱中症の兆候を示すアラーム状態であると判定する。
【0100】
ステップS43において、熱中症判定システム1bは、回復したか否かを判定する。熱中症判定システム1bは回復したと判定する場合、ステップS43の処理はステップS35の処理に戻る。熱中症判定システム1bは回復していないと判定する場合、ステップS43の処理はステップS44の処理に移行する。
【0101】
ここで、回復とは、被験者の体温が閾値未満であり、且つ次の条件を満たした場合を意味する。ここで、上記の次の条件とは、被験者の頭部の体温が上昇傾向ではなく、又は、被験者の発汗量が減少傾向ではない場合を意味する。即ち、定常時であれば、被験者の発汗に伴い被験者の体温は低下する。一方、熱中症の兆候が示されていれば、被験者が発汗していても被験者の体温は低下せずに上昇し続ける。実施の形態2においては、このような被験者の生理現象を利用して熱中症の兆候を示すアラーム状態であるか否かが判定される。
【0102】
以上のように、本実施の形態2に係る熱中症判定システム1bは、実施の形態1と同様の効果だけでなく、実施の形態2の効果として次の効果をさらに奏することができる。
【0103】
即ち、就寝中の被験者における発汗量を熱中症の兆候を示すアラーム状態であるか否かの判定に活用することにより、被験者の頭部の体温だけを利用した熱中症の兆候を示すアラーム状態であるか否かの判定よりも早期の判定が可能となる。従って、熱中症の重篤化を防ぐことができる。
【0104】
実施の形態3.
実施の形態3においては、以下の点が実施の形態1、2とは異なっている。
室温及び相対湿度に応じて、裕度を下げて閾値時系列データを変更する点。
【0105】
図7は、実施の形態3における熱中症判定システム1cの機能構成を示す図である。
図7に示すように、熱中症判定システム1cは、
図1に記載の熱中症判定システム1と比べ、環境センサ42と、指数導出部43と、を備えている点が主な相違点となる。なお、
図7の熱中症判定システム1cにおいて、
図1に記載の熱中症判定システム1と同様の機能を有するものについては、同様の符号を付記し、その説明を省略する。
【0106】
環境センサ42は、被験者が置かれた環境の室温及び相対湿度を測定する機能を有している。
【0107】
制御部17cは、実施の形態1における制御に加え、環境センサ42による室温及び相対湿度の測定動作を制御する。また、制御部17cは、環境センサ42のサンプリング周期を制御する。
【0108】
指数導出部43は、室温及び相対湿度に基づいて、熱中症指数を導出する機能を有している。
【0109】
ここで、熱中症指数とは、WBGT値である。WBGT値とは、湿球黒球温度(Wet-Bulb Globe Temperature)の略称である。WBGT値の単位は、気温と同じく℃で示される。WBGT値は、室温と相対湿度とから換算可能である。
図8は、
図7の熱中症判定システム1cで利用する室温、相対湿度、及び、WBGT値のそれぞれの対応関係を示す図である。
図8の一例では、室温が30℃であり、相対湿度が70%である場合、WBGT値は29℃となる。指数導出部43は、
図8に示す対応関係に基づいて、室温及び相対湿度からWBGT値を導出する。
【0110】
また、WBGT値は、注意、警戒、厳重注意、及び、危険の4段階の熱中症警戒区分に分類される。ここで、注意は、WBGT値が25℃未満の場合の熱中症警戒区分に分類される。警戒は、WBGT値が25~28℃未満の場合の熱中症警戒区分に分類される。厳重注意は、WBGT値が28~31℃未満の場合の熱中症警戒区分に分類される。危険は、WBGT値が31℃以上の場合の熱中症警戒区分に分類される。
【0111】
図9は、
図8のWBGT値に応じた日常生活における熱中症注意事項を説明する図である。
図9においては、WBGT値毎に、注意すべき生活活動の目安と、日常生活における注意事項とが規定されている。
【0112】
WBGT値が危険及び厳重注意に分類される場合、注意すべき生活活動の目安には、「すべての生活活動でおこる危険性」と規定されている。また、WBGT値が厳重注意に分類される場合、日常生活における注意事項には、「外出時は炎天下を避け室内では室温の上昇に注意する。」と規定されている。また、WBGT値が危険に分類される場合、日常生活における注意事項には、「高齢者においては安静状態でも発生する危険性が高い。外出はなるべく避け、涼しい室内に移動する。」と規定されている。
【0113】
図7の説明に戻る。WBGT値は、熱中症判定部20c、及び、稼働指示部45に供給される。ここで、WBGT値の供給とは、指数導出部43から熱中症判定部20c及び稼働指示部45のそれぞれにWBGT値が送信される動作であるが、次の動作であってもよい。即ち、WBGT値が供給されるとは、熱中症判定部20c及び稼働指示部45のそれぞれが指数導出部43からWBGT値を取得する動作であってもよい。
【0114】
熱中症判定部20cは、WBGT値に応じて、裕度を下げて閾値時系列データを低く補正する。この結果、WBGT値による熱中症警戒区分を考慮して低く補正された閾値を用いることで、被験者が熱中症の兆候を示すアラーム状態を、補正前と比較してより早期に判断することができる。
【0115】
稼働指示部45は、WBGT値が厳重注意又は危険に分類される場合、WBGT値が注意に分類される25℃未満となるように、空気調和機の目標制御値を定める。ここで、目標制御値には、空気調和機の目標室温及び目標相対湿度が含まれる。
【0116】
次に、熱中症判定部20cの機能について具体的に説明する。
図10は、
図7の熱中症判定システム1cによる熱中症の兆候を示すアラーム状態であるか否かの判定条件の一例を示す図である。
図10において、縦軸、横軸、予測時系列データ、閾値時系列データ、及び、定常時時系列データは、
図2と同様である。ただし、縦軸の指標として、WBGT値が新たに追加されている。
【0117】
一方、
図10において、WBGT値は、破線で示されている。
図10の一例では、WBGT値が28℃未満の場合、閾値時系列データは、予測時系列データに対して裕度として1℃が加算されている。WBGT値が28℃以上の場合、閾値時系列データは、予測時系列データに対して裕度として0.5℃が加算されている。
【0118】
図10に示すように、22時が被験者の就寝開始の時刻となっている。22時の時点ではWBGT値は注意に分類される23℃である。その後、時間の経過と共に、徐々に室内環境が悪化し、24時に導出されたWBGT値は厳重注意に分類される28℃を超過する。熱中症判定部20cは、この超過を契機に、閾値時系列データの裕度を1℃から0.5℃に引き下げる。これにより、閾値時系列データは変更される。この結果、熱中症判定部20cは、2時に被験者が熱中症の兆候を示すアラーム状態であると判定する。よって、
図10の一例では、
図2の一例よりも早期に被験者が熱中症の兆候を示すアラーム状態であると判定されたことになる。
【0119】
このように、熱中症判定システム1cは、環境センサ42及び指数導出部43から導出されたWBGT値を、被験者が熱中症の兆候を示すアラーム状態であるか否かの判定に活用可能である。
【0120】
次に、熱中症判定システム1cの処理の流れについて説明する。
図11は、
図10の判定条件を用いた熱中症重篤化回避処理を説明するフローチャートである。
図11に示すように、
図10の判定条件を用いた熱中症重篤化回避処理は、初期設定処理、熱中症判定処理、熱中症対策処理、終了処理を含む。
【0121】
ステップS51の処理は、
図3におけるステップS11の処理と同様の処理である。
【0122】
初期設定処理において、ステップS52及びステップS53の各処理は、
図3におけるステップS12及びステップS13の各処理と同様の処理である。
【0123】
熱中症判定処理において、ステップS54、ステップS57、ステップS58、及び、ステップS59の各処理は、
図3におけるステップS14、ステップS15、ステップS16、及び、ステップS17の各処理と同様の処理である。
【0124】
熱中症対策処理において、ステップS61、ステップS62、ステップS63、及び、ステップS64の各処理は、
図3におけるステップS18、ステップS19、ステップS20、及び、ステップS21の各処理と同様の処理である。
【0125】
終了処理において、ステップS65の処理は、
図3におけるステップS22の処理と同様の処理である。
【0126】
ここで、
図11における各処理において、
図3における各処理と同様の処理についての説明は省略する。
【0127】
ステップS55において、熱中症判定システム1cは、熱中症指数を導出する。即ち、熱中症判定システム1cは、被験者が置かれた環境でのWBGT値を導出する。
【0128】
ステップS56において、熱中症判定システム1cは、閾値時系列データを再設定する。即ち、熱中症判定システム1cは、WBGT値が分類される熱中症警戒区分に応じて、予測時系列データに対する裕度を変更し、閾値時系列データを低く補正する。
【0129】
ステップS60において、熱中症判定システム1cは、熱中症指数を導出し、熱中症指数から空気調和機の稼働条件を設定する。即ち、熱中症判定システム1cは、被験者が置かれた環境でのWBGT値を再度導出する。次に、熱中症判定システム1cは、WBGT値が注意に分類される25℃未満になるように、空気調和機の稼働条件として空気調和機の目標制御値を定める。
【0130】
以上のように、本実施の形態3に係る熱中症判定システム1cは、実施の形態1と同様の効果だけでなく、実施の形態3の効果として次の効果をさらに奏することができる。
【0131】
即ち、被験者が置かれた環境のWBGT値を熱中症の兆候を示すアラーム状態であるか否かの判定に活用することにより、被験者の頭部の体温だけを利用した熱中症の兆候を示すアラーム状態であるか否かの判定よりも早期の判定が可能となる。
【0132】
また、WBGT値を空気調和機の稼働条件の設定に活用することにより、空気調和機の適切な稼働を可能としている。
【0133】
なお、本実施の形態1~3においては、被験者の頭部の体温を測定する一例について説明しているが、特にこれに限定されるものではない。例えば、被験者の頸部の体温であってもよい。即ち、被験者の体温の上昇が確認できる身体の部位であれば特に限定されるものではない。さらに、被験者の頭部の角度に基づいて体温の検出値を補正することも必須ではない。
【0134】
また、熱中症判定システム1a、熱中症判定システム1b、熱中症判定システム1cを総称して熱中症判定システム1と称する。また、熱中症判定部20a、熱中症判定部20b、熱中症判定部20cを総称して熱中症判定部20と称する。また、制御部17a,制御部17b,制御部17cを総称して制御部17と称する。
【0135】
換言すると、本開示に係る熱中症判定システム1は、以下の最小構成によって、個人差による熱中症の誤判定を抑制して熱中症の重篤化を回避することを実現できる。
・定常時時系列データを記憶する体温推移保存部18。
・被験者の体温の検出値を取得し、予測時系列データを生成する体温推移予測部19。
・検出値時系列データを生成し、予測時系列データの時間推移を逸脱して検出値時系列データが上昇傾向を示す場合に、被験者が熱中症の兆候を示すアラーム状態であると判定する熱中症判定部20。
【0136】
そして、実施の形態1に係る熱中症判定システム1aによれば、予測時系列データの時間推移を逸脱して検出値時系列データが上昇傾向を示す状況を、予測時系列データに対応して生成された閾値時系列データを用いて定量的に判断することが可能である。
【0137】
また、実施の形態2に係る熱中症判定システム1bは、就寝中における被験者の発汗量の時間推移をモニタしている。この結果、実施の形態2に係る熱中症判定システム1bによれば、以下のことが可能となる。即ち、予測時系列データの時間推移を逸脱して検出値時系列データが上昇傾向を示す状況を、発汗量の時間推移が減少傾向に転じ、且つ、体温の検出値の時間推移が上昇傾向に転じた場合として、定量的に判断することが可能となる。
【0138】
さらに、実施の形態3に係る熱中症判定システム1cによれば、被験者が置かれた環境のWBGT値を活用することで空気調和機の適切な稼働制御を実現でき、且つ、WBGT値に応じて裕度を下げて閾値時系列データを低く設定している。この結果、実施の形態3に係る熱中症判定システム1cによれば、以下のことが可能となる。即ち、予測時系列データの時間推移を逸脱して検出値時系列データが上昇傾向を示す状況を、WBGT値に応じた補正後の閾値時系列データを用いて定量的に判断することが可能である。
【0139】
なお、本実施の形態2において、熱中症判定部20bは、発汗量の減少が停止し、且つ、検出値が予め設定された閾値体温を超えた場合、熱中症が重症に分類されると判定するという処理をしてもよい。これにより、アラーム状態よりも危険性の高い状態を判定することができる。
【符号の説明】
【0140】
1,1a,1b,1c 熱中症判定システム、11 撮像カメラ、12 就寝状態判定部、13 角度検出部、14 温度センサ、15 体温検出部、16 体温補正部、17,17a,17b,17c 制御部、18 体温推移保存部、19 体温推移予測部、20,20a,20b,20c 熱中症判定部、21,45 稼働指示部、22 通知部、32 発汗量センサ、33 発汗量算出部、42 環境センサ、43 指数導出部。