(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155620
(43)【公開日】2023-10-23
(54)【発明の名称】人工光合成セル
(51)【国際特許分類】
C25B 9/00 20210101AFI20231016BHJP
C25B 3/07 20210101ALI20231016BHJP
C25B 3/26 20210101ALI20231016BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20231016BHJP
C25B 11/063 20210101ALI20231016BHJP
C25B 11/081 20210101ALI20231016BHJP
C25B 11/065 20210101ALI20231016BHJP
H02S 10/00 20140101ALI20231016BHJP
H10K 30/50 20230101ALI20231016BHJP
【FI】
C25B9/00 G
C25B3/07
C25B3/26
C25B11/052
C25B11/063
C25B11/081
C25B11/065
H02S10/00
H01L31/04 112Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065054
(22)【出願日】2022-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山中 健一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直彦
(72)【発明者】
【氏名】濱口 豪
(72)【発明者】
【氏名】竹田 康彦
(72)【発明者】
【氏名】塩澤 真人
(72)【発明者】
【氏名】水野 真太郎
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
5F151
5F251
【Fターム(参考)】
4K011AA21
4K011AA23
4K011AA25
4K011AA32
4K011DA10
4K021AC09
4K021BA02
4K021BA17
4K021BB01
4K021BB03
4K021CA06
4K021DB18
4K021DB19
4K021DB21
5F151AA11
5F251AA11
(57)【要約】
【課題】ペロブスカイト太陽電池を用いた人工光合成セルによって高い変換効率を実現する。
【解決手段】酸化反応用電極10と還元反応用電極12とを有し、動作電圧が1.5V以上2.0V以下である二酸化炭素還元用の化学反応セル102と、酸化反応用電極10と還元反応用電極12との間にバイアス電圧を印加する太陽電池104と、を備え、太陽電池104は、最大出力動作点における電圧が0.8V以上であるペロブスカイト太陽電池を2つ直列に接続した構成である人工光合成システム100とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化反応用電極と還元反応用電極とを有し、動作電圧が1.5V以上2.0V以下である二酸化炭素還元用の電気化学セルと、
前記酸化反応用電極と前記還元反応用電極との間にバイアス電圧を印加するバイアス電源と、
を備え、
前記バイアス電源は、最大出力動作点における電圧が0.8V以上であるペロブスカイト太陽電池を2つ直列に接続した構成であることを特徴とする人工光合成セル。
【請求項2】
請求項1に記載の人工光合成セルであって、
前記ペロブスカイト太陽電池のペロブスカイト層の組成は、Csx(FAx’MA1-x’)(1-x)(PbySn1-y)(IzBr1-z)3(ただし、FAはformamidinium、MAはmethylammonium、0≦x≦1、0≦x’≦1、0≦y≦1、0≦z≦1)であることを特徴とする人工光合成セル。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の人工光合成セルであって、
前記酸化反応用電極は、酸化イリジウム触媒を塗布した電極であり、
前記還元反応用電極は、ルテニウム錯体触媒を塗布した電極であることを特徴とする人工光合成セル。
【請求項4】
請求項3に記載の人工光合成セルであって、
前記酸化反応用電極は、Ti基板に酸化イリジウム触媒を塗布した電極であることを特徴とする人工光合成セル。
【請求項5】
請求項4に記載の人工光合成セルであって、
前記還元反応用電極は、Ti基板にカーボンシートを貼り付け、前記カーボンシートにマルチウォールカーボンナノチューブとルテニウム錯体触媒とを塗布した電極であることを特徴とする人工光合成セル。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の人工光合成セルであって、
電解液がリン酸緩衝液であり、前記電解液の濃度が0.1mol/L以上0.8mol/L以下であることを特徴とする人工光合成セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工光合成セルに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光を利用して二酸化炭素(CO2)からギ酸(HCOOH)や一酸化炭素(CO)などを合成する人工光合成の研究が活発に進められている。このような人工光合成技術は、化石燃料由来の二酸化炭素(CO2)の排出量の削減において重要な技術である。
【0003】
太陽電池と電気化学セルを用いた人工光合成セルとして、バンドギャップが1.1~2.0eV/1.8~2.4eVの2接合薄膜太陽電池と、酸化反応用電極である正極と還元反応用電極である負極とを備える構成が開示されている(特許文献1)。また、結晶系シリコン太陽電池を用いて、電気化学リアクターにおいて二酸化炭素(CO2)を還元する装置においてギ酸(HCOOH)への変換効率が10.5%となることが開示されている(非特許文献1)。また、3直列のペロブスカイト太陽電池と電気化学セルを電気的に接続し、二酸化炭素(CO2)から一酸化炭素(CO)を合成する技術が開示されている(非特許文献2)。当該技術では、二酸化炭素(CO2)から一酸化炭素(CO)の変換効率は8%とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Naohiko Kato, Yasuhiko Takeda, Yasuaki Kawai, Natsumi Nojiri, Masahito Shiozawa, Shintaro Mizuno, Ken-ichi Yamanaka, Takeshi Morikawa, and Tsuyoshi Hamaguchi, ACS Sustainable Chem. Eng, 9, 16031?16037,(2021).
【非特許文献2】Jaehoon Chung, Nam Joong, and Jun Hong Noh, Energies, 15, 270 (2022).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電気化学セルによって二酸化炭素(CO2)からギ酸(HCOOH)を生成する際のファラデー効率は既に96%にまで達している。そのため、光電変換効率15%の結晶系シリコン太陽電池を電源とした人工光合成セルの二酸化炭素(CO2)からギ酸(HCOOH)への変換効率は、ファラデー効率が100%であったとしても12.2%に留まる。
【0007】
一方、2接合のペロブスカイト太陽電池とした人工光合成セルでは、原理的には高効率を得ることができるが、実際には2接合太陽電池の電圧が低く、製造コストが高くなる及び太陽光スペクトルの変動に弱いという課題がある。
【0008】
また、3直列のペロブスカイト太陽電池を用いた人工光合成セルでは、動作電圧が高く、太陽電池を3直列にする必要があるために電流密度が低くなり、変換効率も低い。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの態様は、酸化反応用電極と還元反応用電極とを有し、動作電圧が1.5V以上2.0V以下である二酸化炭素還元用の電気化学セルと、前記酸化反応用電極と前記還元反応用電極との間にバイアス電圧を印加するバイアス電源と、を備え、前記バイアス電源は、最大出力動作点における電圧が0.8V以上であるペロブスカイト太陽電池を2つ直列に接続した構成であることを特徴とする人工光合成セルである。
【0010】
ここで、前記ペロブスカイト太陽電池のペロブスカイト層の組成は、Csx(FAx’MA1-x’)(1-x)(PbySn1-y)(IzBr1-z)3(ただし、FAはformamidinium、MAはmethylammonium、0≦x≦1、0≦x’≦1、0≦y≦1、0≦z≦1)であることが好適である。
【0011】
また、前記酸化反応用電極は、酸化イリジウム触媒を塗布した電極であり、前記還元反応用電極は、ルテニウム錯体触媒を塗布した電極であることが好適である。
【0012】
また、前記酸化反応用電極は、Ti基板に酸化イリジウム触媒を塗布した電極であることが好適である。また、前記還元反応用電極は、Ti基板にカーボンシートを貼り付け、前記カーボンシートにマルチウォールカーボンナノチューブとルテニウム錯体触媒とを塗布した電極であることが好適である。
【0013】
また、電解液がリン酸緩衝液であり、前記電解液の濃度が0.1mol/L以上0.8mol/L以下であることが好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ペロブスカイト太陽電池を用いた人工光合成セルによって高い変換効率を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態における人工光合成システムの構成を示す図である。
【
図2】実施例1におけるペロブスカイト太陽電池と化学反応セルの動作特性を示す図である。
【
図3】実施例1における太陽光からギ酸への変換効率を示す図である。
【
図4】実施例2における太陽光からギ酸への変換効率を示す図である。
【
図5】比較例における太陽光からギ酸への変換効率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態における人工光合成システム100は、
図1の模式図に示すように、化学反応セル102、太陽電池104、電解液供給手段106及び制御部108を含んで構成される。
【0017】
人工光合成システム100では、化学反応セル102において電解液供給手段106から供給される電解液に含有される二酸化炭素(CO2)からギ酸(HCOOH)を生成する反応が行われる。なお、本実施の形態では、生成物はギ酸(HCOOH)としたが、これに限定されるものではなく、他の炭化水素等としてもよい。
【0018】
化学反応セル102には、太陽電池104から電力が供給される。人工光合成システム100における各部の制御やデータの収集は制御部108によって行われる。
【0019】
化学反応セル102は、酸化反応用電極10、還元反応用電極12、セパレータ14、容器16及びオリフィス板18を含んで構成される。
【0020】
酸化反応用電極10及び還元反応用電極12は、それぞれX方向及びZ方向に拡がる板状の部材であり、Y方向に沿って互いに対向するように配置される。本実施の形態では、酸化反応用電極10及び還元反応用電極12は、セパレータ14を挟んで互いの触媒が担持されたX-Z面方向に広がった反応面が対向するように配置されている。酸化反応用電極10と還元反応用電極12を組み合わせることによって、動作電圧が1.5V以上2.0V以下である二酸化炭素還元用の電気化学セルが構成される。
【0021】
本実施の形態では、酸化反応用電極10、セパレータ14及び還元反応用電極12がY方向に沿って配置され、次に還元反応用電極12、セパレータ14及び酸化反応用電極10がY方向に沿って配置され、次に酸化反応用電極10、セパレータ14及び還元反応用電極12がY方向に沿って配置され、次に還元反応用電極12、セパレータ14及び酸化反応用電極10がY方向に沿って配置され、次に酸化反応用電極10、セパレータ14及び還元反応用電極12がY方向に沿って配置されている。すなわち、酸化反応用電極10、セパレータ14及び還元反応用電極12からなる電極の組がY方向に沿って複数スタックされている。
【0022】
還元反応用電極12は、還元反応によって物質を還元するために利用される電極である。還元反応用電極12は、基板上に形成された導電層及び還元触媒層を含んで構成される。
【0023】
基板は、還元反応用電極12を構造的に支持する部材である。基板は、特に材料が限定されるものではないが、例えば、ガラス基板等とされる。また、基板は、例えば、金属又は半導体を含んでもよい。基板として用いられる金属は、特に限定されるものではないが、チタン(Ti)、銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、カドミウム(Cd)、スズ(Sn)、パラジウム(Pd)、鉛(Pb)を含むことが好適である。特に、電気抵抗が低く、耐久性が高いチタン(Ti)を用いることが好適である。基板として用いられる半導体は、特に限定されるものではないが、酸化チタン(TiO2)、酸化スズ(SnO2)、シリコン(Si)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化タンタル(Ta2O5)等とすることが好適である。
【0024】
基板を絶縁体とした場合、基板と還元触媒層との間に導電層が設けられる。導電層は、還元反応用電極12の還元触媒層に対して電圧を印加するために設けられる。導電層は、特に限定されるものではないが、酸化インジウム錫(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、酸化亜鉛(ZnO)等の透明導電層とすることが好適である。特に、熱的及び化学的な安定性を考慮するとフッ素ドープ酸化錫(FTO)を用いることが好適である。
【0025】
還元触媒層は、還元触媒機能を有する材料から構成される。還元触媒層は、錯体触媒を含むことが好適である。還元触媒層は、例えば、ルテニウム錯体ポリマー(RuCP)とすることが好適である。錯体触媒は、例えば、[Ru{4,4’-di(1-H-1-pyrrolypropyl carbonate)-2,2’-bipyridine}(CO)(MeCN)Cl2]、[Ru{4,4’-di(1-H-1-pyrrolypropyl carbonate)-2,2’-bipyridine}(CO)2Cl2]、[Ru{4,4’-di(1-H-1-pyrrolypropyl carbonate)-2,2’-bipyridine}(CO)2]n、[Ru{4,4’-di(1-H-1-pyrrolypropyl carbonate)-2,2’-bipyridine}(CO)(CH3CN)Cl2]等とすることができる。
【0026】
錯体触媒による修飾は、錯体をアセトニトリル(MeCN)溶液に溶解した液を導電層の上に塗布することで作ることができる。また、錯体触媒による修飾は、電解重合法により行うこともできる。作用極として導電層の電極、対極にフッ素含有酸化スズ(FTO)で被覆したガラス基板、参照電極にAg/Ag+電極を用い、錯体触媒を含む電解液中においてAg/Ag+電極に対して負電圧となるようにカソード電流を流した後、Ag/Ag+電極に対して正電位となるようにアノード電流を流すことにより導電層の表面上を錯体触媒で修飾することができる。電解質の溶液には、アセトニトリル(MeCN)、電解質には、Tetrabutylammoniumperchlorate(TBAP)を用いることができる。
【0027】
また、還元触媒層は、カーボン材料(C)を含む材料から構成することができる。カーボン材料の構造体の単体の最大長部分のサイズが1nm以上1μm以下であることが好適である。カーボン材料は、例えば、カーボンナノチューブ、グラフェン及びグラファイトの少なくとも1つを含むことが好適である。グラフェン及びグラファイトであれば1つの粒子のサイズが1nm以上1μm以下であることが好適である。カーボンナノチューブであればチューブの直径が1nm以上40nm以下であることが好適である。導電体は、エタノール等の液体に混ぜ合わせたカーボン材料をスプレーで塗布し、加熱することによって形成することができる。スプレーの代わりに、スピンコートによって塗布してもよい。また、スピンコートを用いず、直接溶液を滴下して乾かして塗布してもよい。
【0028】
なお、基板の片方の面のみに導電層及び還元触媒層を形成してもよいし、基板の両方の面に導電層及び還元触媒層を形成してもよい。
【0029】
酸化反応用電極10は、酸化反応によって物質を酸化するために利用される電極である。酸化反応用電極10は、基板上に形成された導電層及び酸化触媒層を含んで構成される。
【0030】
基板は、酸化反応用電極10を構造的に支持する部材である。基板は、還元反応用電極12に用いられる基板と同様の材料とすることができる。
【0031】
導電層は、酸化反応用電極10における集電を効果的にするために設けられる。導電層は、特に限定されるものではないが、酸化インジウム錫(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、酸化亜鉛(ZnO)等とすることが好適である。特に、熱的及び化学的な安定性を考慮するとフッ素ドープ酸化錫(FTO)を用いることが好適である。
【0032】
酸化触媒層は、酸化触媒機能を有する材料を含んで構成される。酸化触媒機能を有する材料は、例えば、酸化イリジウム(IrOx)を含む材料とすることができる。酸化イリジウムは、ナノコロイド溶液として導電層の表面上に担持することができる(T.Arai et.al, Energy Environ. Sci 8, 1998 (2015))。
【0033】
例えば、酸化イリジウム(IrOx)のナノコロイドを合成する。次に、2mMの塩化イリジウム酸(IV)カリウム(K2IrCl6)水溶液50mlに10wt%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を加えてpH13に調整した黄色溶液を、ホットスターラーを用いて90℃で20分加熱する。これによって得られた青色溶液を氷水で1時間冷却する。そして、冷やした溶液(20ml)に3M硝酸(HNO3)を滴下してpH1に調整し、80分攪拌し、酸化イリジウム(IrOx)のナノコロイド水溶液を得る。さらに、この溶液に1.5wt%NaOH水溶液(1-2ml)を滴下してpH12に調整する。このようにして得られた酸化イリジウム(IrOx)のナノコロイド水溶液を、導電層上にpH12に塗布し、乾燥炉内にいて60℃で40分間保持して乾燥させる。乾燥後、析出した塩を超純水で洗浄し、酸化反応用電極10を形成することができる。なお、酸化イリジウム(IrOx)のナノコロイド水溶液の塗布及び乾燥を複数回繰り返してもよい。
【0034】
なお、基板の片方の面のみに導電層及び酸化触媒層を形成してもよいし、基板の両方の面に導電層及び酸化触媒層を形成してもよい。
【0035】
セパレータ14は、酸化反応用電極10と還元反応用電極12の間を仕切る部材である。セパレータ14は、酸化反応用電極10における水(H2O)の酸化反応によって発生した酸素(O2)が対向する還元反応用電極12に到達することを抑制する。これによって、還元反応用電極12において酸素(O2)が還元されることによるギ酸(HCOOH)の生成のファラデー効率(FE)の低下を抑制する。セパレータ14は、電解液内においてプロトンを伝達することができる多孔体である親水性多孔体フィルムによって構成することができる。セパレータ14は、例えば、レーヨン不織布、ビニロン不織布、親水化超高分子量ポリエチレン多孔体フィルム、親水化ポリプロピレンメッシュ、親水化超高分子量ポリエチレン多孔質フィルムで構成することができる。
【0036】
人工光合成システム100は、還元反応用電極12と酸化反応用電極10の間に電解液を導入することで機能する。すなわち、還元反応用電極12と酸化反応用電極10を囲むように容器16を配置し、還元反応用電極12と酸化反応用電極10の表面に反応物である二酸化炭素(CO2)が溶解された電解液を供給する。
【0037】
電解液は、リン酸緩衝水溶液やホウ酸緩衝水溶液とすることが好適である。例えば、電解液はリン酸緩衝液とし、電解液の濃度が0.1mol/L以上0.8mol/L以下であることが好適である。
【0038】
容器16は、酸化反応用電極10、還元反応用電極12及びセパレータ14を支持すると共に、電解液が流れる流路を構成する部材である。容器16は、人工光合成システム100をセルとして構成するために必要な機械的な強度を備える材料で構成される。例えば、容器16は、金属、プラスチック等によって構成することができる。容器16には、化学反応セル102における反応を観察するための観察窓を設けてもよい。
【0039】
容器16の下部には、容器16内に電解液を供給するための電解液供給口が設けられる。また、容器16の上部には電解液を排出するための電解液排出口が設けられる。すなわち、電解液供給口から反応対象の物質を含んだ電解液を容器16内に供給し、酸化反応用電極10と還元反応用電極12の間の反応領域に電解液を流通させた後、電解液排出口から電解液を容器16の外へ排出する。
【0040】
また、容器16には、反応によって生じた気体を容器16から排出させるガス排気口が設けられる。容器16において、酸化反応用電極10及び還元反応用電極12が配置された反応領域よりも鉛直方向に沿って上方にガス排気口を配置することが好適である。さらに、ガス排気口からの排出を促すために容器16内に窒素(N2)等のパージ用の気体を供給するガス供給口を設けてもよい。ガス排気口には、ガスサンプリングポートを設けて、排気された気体中に含まれる成分の濃度を測定できるようにしてもよい。
【0041】
さらに、化学反応セル102には、オリフィス板18が設けられる。オリフィス板18は、電解液供給口から容器16内へ導入される電解液の流れを制限する貫通孔であるオリフィス孔が設けられた板状部材である。オリフィス板18は、容器16において電解液供給口から酸化反応用電極10及び還元反応用電極12が設けられた領域に至る流路上に配置される。オリフィス板18は、必要な機械的な強度を備える材料で構成される。例えば、オリフィス板18は、金属、プラスチック等によって構成することができる。
【0042】
本実施の形態における人工光合成システム100では、化学反応セル102の還元反応用電極12と酸化反応用電極10との間に太陽電池104を電気的に接続し、適切なバイアス電圧を印加した状態とすることが好適である。ここで、酸化反応用電極10に正極が接続され、還元反応用電極12に負極が接続される。
【0043】
太陽電池104は、ペロブスカイト太陽電池とすることが好適である。本実施の形態では、最大出力動作点における電圧が0.8V以上であるペロブスカイト太陽電池を2つ直列に繋いだ構成とすることが好適である。また、光電変換効率が20%以上であるペロブスカイト太陽電池を適用することが好適である。ペロブスカイト太陽電池におけるペロブスカイト層の組成は、Csx(FAx’MA1-x’)(1-x)(PbySn1-y)(IzBr1-z)3(ただし、FAはformamidinium、MAはmethylammonium、0≦x≦1、0≦x’≦1、0≦y≦1、0≦z≦1)であることが好適である。
【0044】
例えば、「Z. Tang, T. Bessho, F. Awai, T. Kinoshita, M. M. Maitani, R. Jono, T. N. Murakami, H. Wang, T. Kubo, S. Uchida, and H. Segawa, Scientific Reports, 7, 12183 (2017).」に記載されたペロブスカイト太陽電池を適用することが好適である。また、例えば、「Hanul Min, Do Yoon Lee, Junu Kim, Gwisu Kim, Kyoung Su Lee, Jongbeom Kim, Min Jae Paik, Young Ki Kim, Kwang S. Kim, Min Gyu Kim, Tae Joo Shin & Sang Il Seok, Nature, 598, 444 (2021)」に記載されたペロブスカイト太陽電池を適用することが好適である。
【0045】
太陽電池104は、化学反応セル102に隣接して配置することが好適である。
【0046】
電解液供給手段106は、二酸化炭素溶解装置30、電解液タンク32、供給管34、循環ポンプ36、送液ポンプ38、回収管40、排液ポンプ42、溶存酸素センサ44、溶存二酸化炭素センサ46、フィルタ48、溶存二酸化炭素センサ50及び温度センサ52を含んで構成される。
【0047】
二酸化炭素溶解装置30は、電解液に対して反応物である二酸化炭素(CO2)を溶解させるための装置である。二酸化炭素溶解装置30は、電解液を蓄えるタンクであり、二酸化炭素(CO2)を供給するための供給口を備える。タンクに蓄えられた電解液に対して供給口から二酸化炭素(CO2)を供給することによって、電解液に二酸化炭素(CO2)に溶解させることができる。
【0048】
電解液タンク32は、化学反応セル102と二酸化炭素溶解装置30との間で循環される電解液を蓄えておくタンクである。
【0049】
二酸化炭素溶解装置30及び電解液タンク32は、供給管34によって化学反応セル102の容器16の電解液供給口に接続される。また、二酸化炭素溶解装置30及び電解液タンク32は、回収管40によって化学反応セル102の容器16の電解液排出口に接続される。循環ポンプ36は、二酸化炭素溶解装置30と電解液タンク32との間で電解液を循環させるために使用される。送液ポンプ38は、電解液タンク32から化学反応セル102の容器16へ電解液を供給するために使用される。また、排液ポンプ42は、化学反応セル102の容器16から電解液タンク32へ電解液を回収するために使用される。
【0050】
回収管40には、溶存酸素センサ44、溶存二酸化炭素センサ46及びフィルタ48が設けられる。また、電解液タンク32には、溶存二酸化炭素センサ50及び温度センサ52が設けられる。溶存酸素センサ44は、化学反応セル102から回収される電解液中に溶存する酸素(O2)の濃度を検出するセンサである。溶存酸素センサ44で検出された酸素(O2)の濃度は制御部108へ入力される。溶存二酸化炭素センサ46は、化学反応セル102から回収される電解液中に溶存する二酸化炭素(CO2)の濃度を検出するセンサである。溶存二酸化炭素センサ46で検出された二酸化炭素(CO2)の濃度は制御部108へ入力される。フィルタ48は、化学反応セル102から回収される電解液中に含まれる不純物を除去する。溶存二酸化炭素センサ50は、電解液タンク32に蓄えられている電解液に含まれる二酸化炭素(CO2)の濃度を検出するセンサである。溶存二酸化炭素センサ50で検出された二酸化炭素(CO2)の濃度は制御部108へ入力される。温度センサ52は、電解液タンク32に蓄えられている電解液の温度を検出するセンサである。温度センサ52で検出された電解液の温度は制御部108へ入力される。
【0051】
制御部108は、人工光合成システム100における電力供給やデータ取得・解析を行う。制御部108は、制御回路を備えたコンピュータとすることができる。また、制御部108は、太陽電池104から酸化反応用電極10及び還元反応用電極12へ供給される電圧及び電流のデータを取得する。また、制御部108は、溶存酸素センサ44、溶存二酸化炭素センサ46、フィルタ48、溶存二酸化炭素センサ50及び温度センサ52において検知された各種データを取得する。
【0052】
<実施例1>
酸化反応用電極10は、機械的に研磨したTi基板上に酸化イリジウム(IrOx)コロイドを6回塗布、乾燥してIrOx触媒を固定化した。4枚の当該酸化反応用電極10を1m角のTi板1枚にTi製ボルト/ナットで固定した。これを1m角の酸化反応用電極10として8枚作製した。
【0053】
還元反応用電極12のRu錯体ポリマーとして、Ru-complex polymer (RuCP,[Ru{4,4’-di(1-H-1-pyrrolypropyl carbonate)-2,2’-bipyridine}(CO)2Cl2])を適用した。25cm角のRu錯体ポリマー/マルチウォールカーボンナノチューブ/カーボンシート(厚み320μm、以下、RuCP/MWCNTs/CSと略す)を以下の手順で作製した。まず、CSをMWCNTを含むインクに浸漬し、乾燥、熱処理してMWCNTを担持した。さらに、MWCNTsを担持したCSにRuCP溶液を塗布し、真空乾燥してRuCP触媒をMWCNTs/CSに担持させた。機械的に研磨したチタン(Ti)基板の中央部にグラファイト系接着剤を用いて当該RuCP/MWCNTs/CSを4枚貼付することで還元反応用電極12を作製した。さらに、4枚の還元反応用電極12を1m角のTi板1枚にTi製ボルト/ナットで固定した。これを1m角の還元反応用電極12として8枚作製した。
【0054】
また、酸化反応用電極10にて水の酸化反応で発生した酸素が対向する還元反応用電極12に達して還元されるクロスオーバー反応が生ずるとギ酸生成のファラデー効率(FE)の低下を引き起こす。そこで、当該クロスオーバー反応を抑制するために、酸化反応用電極10及び還元反応用電極12の間に多孔質超高分子量ポリエチレンフィルムからなるセパレータ14を挿入した。
【0055】
電解液として、0.4Mのリン酸カリウム緩衝水溶液(KPi)を275L(リットル)を用いた。電解液タンク32内を電解液で満たし、電解液タンク32と容器16との間で電解液を送液ポンプ38及び排液ポンプ42を用いて循環させた。また、二酸化炭素溶解装置30において100%の二酸化炭素(CO2)を電解液に供給することにより、電解液に二酸化炭素(CO2)を飽和溶解させた。
【0056】
このような構成において、pH6.3の中性電解液に対して酸化反応用電極10での水の酸化反応と還元反応用電極12での二酸化炭素(CO2)の還元反応によるギ酸の生成を行ってファラデー効率を測定した。
【0057】
このような構成において、太陽電池104として光電変換効率が約20%であるペロブスカイト太陽電池(Z. Tang, T. Bessho, F. Awai, T. Kinoshita, M. M. Maitani, R. Jono, T. N. Murakami, H. Wang, T. Kubo, S. Uchida, and H. Segawa, Scientific Reports, 7, 12183 (2017).)を用いた場合について検討した。当該ペロブスカイト太陽電池の電流電圧特性は、「Z. Tang, T. Bessho, F. Awai, T. Kinoshita, M. M. Maitani, R. Jono, T. N. Murakami, H. Wang, T. Kubo, S. Uchida, and H. Segawa, Scientific Reports, 7, 12183 (2017).」の
図2eに記載されている。当該ペロブスカイト太陽電池を2つ直列接続した場合を実施例1とし、太陽光を照射したときのギ酸への変換効率を見積もった。
【0058】
図2は、当該ペロブスカイト太陽電池を2つ直列接続したときの動作曲線(実線)及び化学反応セル102の動作曲線(破線)示す。両者の交点がギ酸生成反応の動作点であり、当該動作点における電流密度は10.4mA/cm
2と見積もられた。
【0059】
<比較例1~3>
実施例1と同じペロブスカイト太陽電池を単体、3つ直列接続、4つ直列接続した場合をそれぞれ比較例1~3とし、太陽光を照射したときのギ酸への変換効率を見積もった。
【0060】
図3は、実施例1及び比較例1~3における動作電圧、電流密度、ファラデー効率90%、96%及び100%としたときのギ酸への変換効率を示す。ペロブスカイト太陽電池を2つ直列接続して適用した場合に太陽光からギ酸への変換効率は変換効率が最高となり、ギ酸生成のファラデー効率が90%の場合に約13.1%、ファラデー効率が96%の場合に約14.0%及びファラデー効率が100%の場合に約14.6%となった。
【0061】
なお、化学反応セル102のギ酸生成のファラデー効率に対する動作電圧依存性は、「Naohiko Kato, Shintaro Mizuno, Masahito Shiozawa, Natsumi Nojiri, Yasuaki Kawai, Kazuhiro Fukumoto, Takeshi Morikawa, and Yasuhiko Takeda, Joule, 5, 1-19 (2021)」の
図S11に示されている。動作電圧が1.9V以下のときにファラデー効率は0.96以上の高い値であるが、1.9Vを超えてくると低下する。主な原因として水素が発生するためと推察される。
【0062】
<実施例2>
実施例1と同様の構成において、太陽電池104として光電変換効率が約25.6%であるペロブスカイト太陽電池(Hanul Min, Do Yoon Lee, Junu Kim, Gwisu Kim, Kyoung Su Lee, Jongbeom Kim, Min Jae Paik, Young Ki Kim, Kwang S. Kim, Min Gyu Kim, Tae Joo Shin, and Sang Il Seok, Nature, 598, 444 (2021))を用いた場合について検討した。当該ペロブスカイト太陽電池の電流電圧特性は、「Hanul Min, Do Yoon Lee, Junu Kim, Gwisu Kim, Kyoung Su Lee, Jongbeom Kim, Min Jae Paik, Young Ki Kim, Kwang S. Kim, Min Gyu Kim, Tae Joo Shin, and Sang Il Seok, Nature, 598, 444 (2021)」の
図4cに示されている。当該ペロブスカイト太陽電池を2つ直列接続した場合を実施例1とし、太陽光を照射したときのギ酸への変換効率を見積もった。
【0063】
<比較例4~6>
実施例2と同じペロブスカイト太陽電池を単体、3つ直列接続、4つ直列接続した場合をそれぞれ比較例4~6とし、太陽光を照射したときのギ酸への変換効率を見積もった。
【0064】
図4は、実施例2及び比較例4~6における動作電圧、電流密度、ファラデー効率90%、96%及び100%としたときのギ酸への変換効率を示す。ペロブスカイト太陽電池を2つ直列接続して適用した場合に太陽光からギ酸への変換効率は変換効率が最高となり、ギ酸生成のファラデー効率が90%の場合に約15.8%、ファラデー効率が96%の場合に約16.8%及びファラデー効率が100%の場合に約17.5%となった。
【0065】
<比較例7~12>
実施例1と同様の構成において、太陽電池104としてシリコン太陽電池を用いた場合について検討した。光電変換効率15%のシリコン太陽電池を単体、2~6つ直列接続した場合をそれぞれ比較例7~12とし、太陽光を照射したときのギ酸への変換効率を見積もった。
図5は、比較例7~12における動作電圧、電流密度、ファラデー効率90%、96%及び100%としたときのギ酸への変換効率を示す。シリコン太陽電池を4つ直列接続して適用した場合に太陽光からギ酸への変換効率は変換効率が最高となり、ギ酸生成のファラデー効率が90%の場合に約11.0%、ファラデー効率が96%の場合に約11.7%及びファラデー効率が100%の場合に約12.2%となった。以上のように、実施例1及び2のいずれにおいても、比較例1に対して太陽光からギ酸への変換効率は高くなった。
【0066】
[本願発明の構成]
構成1:
酸化反応用電極と還元反応用電極とを有し、動作電圧が1.5V以上2.0V以下である二酸化炭素還元用の電気化学セルと、
前記酸化反応用電極と前記還元反応用電極との間にバイアス電圧を印加するバイアス電源と、
を備え、
前記バイアス電源は、最大出力動作点における電圧が0.8V以上であるペロブスカイト太陽電池を2つ直列に接続した構成であることを特徴とする人工光合成セル。
構成2:
構成1に記載の人工光合成セルであって、
前記ペロブスカイト太陽電池のペロブスカイト層の組成は、Csx(FAx’MA1-x’)(1-x)(PbySn1-y)(IzBr1-z)3(ただし、FAはformamidinium、MAはmethylammonium、0≦x≦1、0≦x’≦1、0≦y≦1、0≦z≦1)であることを特徴とする人工光合成セル。
構成3:
構成1又は2に記載の人工光合成セルであって、
前記酸化反応用電極は、酸化イリジウム触媒を塗布した電極であり、
前記還元反応用電極は、ルテニウム錯体触媒を塗布した電極であることを特徴とする人工光合成セル。
構成4:
構成3に記載の人工光合成セルであって、
前記酸化反応用電極は、Ti基板に酸化イリジウム触媒を塗布した電極であることを特徴とする人工光合成セル。
構成5:
構成3又は4に記載の人工光合成セルであって、
前記還元反応用電極は、Ti基板にカーボンシートを貼り付け、前記カーボンシートにマルチウォールカーボンナノチューブとルテニウム錯体触媒とを塗布した電極であることを特徴とする人工光合成セル。
構成6:
構成1~5のいずれか1つに記載の人工光合成セルであって、
電解液がリン酸緩衝液であり、前記電解液の濃度が0.1mol/L以上0.8mol/L以下であることを特徴とする人工光合成セル。
【符号の説明】
【0067】
10 酸化反応用電極、12 還元反応用電極、14 セパレータ、16 容器、18 オリフィス板、30 二酸化炭素溶解装置、32 電解液タンク、34 供給管、36 循環ポンプ、38 送液ポンプ、40 回収管、42 排液ポンプ、44 溶存酸素センサ、46 溶存二酸化炭素センサ、48 フィルタ、50 溶存二酸化炭素センサ、52 温度センサ、100 人工光合成システム、102 化学反応セル、104 太陽電池、106 電解液供給手段、108 制御部。