(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155625
(43)【公開日】2023-10-23
(54)【発明の名称】スラグ造粒物、スラグ成形体、スラグ成形体の製造方法、及び底生生物の増加方法
(51)【国際特許分類】
A01K 61/00 20170101AFI20231016BHJP
C04B 5/00 20060101ALI20231016BHJP
A01G 33/00 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
A01K61/00
C04B5/00
A01G33/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065059
(22)【出願日】2022-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】高野 元志
【テーマコード(参考)】
2B026
2B104
4G112
【Fターム(参考)】
2B026EB02
2B104EE09
2B104FA13
4G112JA03
(57)【要約】
【課題】製造し易いとともに、水環境中の生物を増加させ易いスラグ造粒物およびスラグ成形体を提供する。
【解決手段】スラグ造粒物(1)は、スラグ粉粒体(2)と、水との接触により膨張する膨潤材(3)と、スラグ粉粒体および膨潤材を一体化させるバインダー(4)と、を含み、スラグ造粒物の粒径が20mm以上50mm以下であり、膨潤材を0.5質量%以上2.0質量%以下含み、水との接触のみで開気孔増加可能な特性を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラグ造粒物であって、
製鋼スラグの粉粒体と、水との接触により膨張する膨潤材と、前記製鋼スラグの粉粒体および前記膨潤材を一体化させるバインダーと、を含み、
前記スラグ造粒物の粒径が20mm以上50mm以下であり、
前記膨潤材を0.5質量%以上2.0質量%以下含み、
水との接触のみで開気孔増加可能な特性を有することを特徴とするスラグ造粒物。
【請求項2】
前記開気孔は、外部に向かって開口して存在する気孔であるとともに、X線CTによって検出される気孔サイズが140μm以上であり、
水環境中に浸漬させて崩壊現象を進展させた場合に、崩壊率の増加が停滞した後の開気孔率が3.0体積%以上となることを特徴とする請求項1に記載のスラグ造粒物。
【請求項3】
前記バインダーは、リグニンスルホン酸、リグニンスルホン酸の金属塩、糖蜜、および澱粉からなる群より選択された1種または2種以上であることを特徴とする請求項2に記載のスラグ造粒物。
【請求項4】
水環境中に浸漬した場合における崩壊率が10%以上60%以下であることを特徴とする請求項2に記載のスラグ造粒物。
【請求項5】
スラグ成形体であって、
製鋼スラグの粉粒体と、水との接触により膨張する膨潤材と、前記製鋼スラグの粉粒体および前記膨潤材を一体化させるバインダーと、を含み、
前記膨潤材を0.5質量%以上2.0質量%以下含み、
前記スラグ成形体の粒径が10mm以上50mm以下であり、
開気孔率が3.0体積%以上であることを特徴とするスラグ成形体。
【請求項6】
スラグ成形体の製造方法であって、
製鋼スラグの粉粒体と、水との接触により膨張する膨潤材と、前記製鋼スラグの粉粒体および前記膨潤材を一体化させるバインダーと、を含むスラグ造粒物を準備する準備工程と、
前記スラグ造粒物を水と接触させて部分的に崩壊させることにより、前記スラグ造粒物よりも開気孔率の増加した、スラグ成形体を形成する形成工程と、を含み、
前記スラグ造粒物は、粒径が20mm以上50mm以下であり、前記膨潤材を0.5質量%以上2.0質量%以下含み、
前記スラグ成形体は、開気孔率が3.0体積%以上であることを特徴とするスラグ成形体の製造方法。
【請求項7】
前記準備工程は、
前記製鋼スラグの粉粒体に、前記バインダーおよび0.5質量%以上2.0質量%以下の前記膨潤材を混合する原料混合工程と、
前記原料混合工程で得られる混合物を造粒及び成形して前記スラグ造粒物を作製するスラグ造粒物成形工程と、を含むことを特徴とする請求項6に記載のスラグ成形体の製造方法。
【請求項8】
請求項1から4の何れか一項に記載のスラグ造粒物、又は請求項5に記載のスラグ成形体を水環境に敷設して用いることを特徴とする底生生物の増加方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼スラグを含むスラグ造粒物等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な要因から、沿岸部近傍の海域における水産資源の減少という問題が生じている。近海漁業において、有価な魚介類を自然界から安定的に漁獲するためには、多様な生物により構成される生態系を保全または構築することが重要である。
【0003】
一般に、製鉄工程(製鋼工程)において大量に発生する副産物である製鋼スラグは、路盤材および造成材等の陸上における用途に主にリサイクルされている。製鋼スラグは、リサイクル用途の拡大が求められており、海域での利用技術の開発が進められている(例えば特許文献1~5を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平03-004988号公報
【特許文献2】特開2000-078938号公報
【特許文献3】特開2019-170263号公報
【特許文献4】特開2000-140874号公報
【特許文献5】特開2021-080111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の水産資源の減少という問題の要因は、海域および生物の種類毎に異なる。複雑な生態系において水産資源の個体数を増加させるためには、特許文献1~5に開示された発明は、更なる改善の余地がある。
【0006】
水環境中の生物を増加させ易いスラグ造粒物およびスラグ成形体が求められる。また、実用上の観点から、スラグ造粒物およびスラグ成形体は、製造し易いことが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様におけるスラグ造粒物は、スラグ造粒物であって、製鋼スラグの粉粒体と、水との接触により膨張する膨潤材と、前記製鋼スラグの粉粒体および前記膨潤材を一体化させるバインダーと、を含み、前記スラグ造粒物の粒径が20mm以上50mm以下であり、前記膨潤材を0.5質量%以上2.0質量%以下含み、水との接触のみで開気孔増加可能な特性を有することを特徴としている。
【0008】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様におけるスラグ成形体は、スラグ成形体であって、製鋼スラグの粉粒体と、水との接触により膨張する膨潤材と、前記製鋼スラグの粉粒体および前記膨潤材を一体化させるバインダーと、を含み、前記膨潤材を0.5質量%以上2.0質量%以下含み、前記スラグ成形体の粒径が10mm以上50mm以下であり、開気孔率が3.0体積%以上であることを特徴としている。
【0009】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様におけるスラグ成形体の製造方法は、スラグ成形体の製造方法であって、製鋼スラグの粉粒体と、水との接触により膨張する膨潤材と、前記製鋼スラグの粉粒体および前記膨潤材を一体化させるバインダーと、を含むスラグ造粒物を準備する準備工程と、前記スラグ造粒物を水と接触させて部分的に崩壊させることにより、前記スラグ造粒物よりも開気孔率の増加した、スラグ成形体を形成する形成工程と、を含み、前記スラグ造粒物は、粒径が20mm以上50mm以下であり、前記膨潤材を0.5質量%以上2.0質量%以下含み、前記スラグ成形体は、開気孔率が3.0体積%以上であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、製造し易いとともに、水環境中の生物を増加させ易いスラグ造粒物およびスラグ成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態におけるスラグ造粒物の、水環境浸漬中の開気孔生成過程を示した概略図である。
【
図2】本発明の一実施形態におけるスラグ成形体の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図3】本発明の一実施形態におけるスラグ成形体の製造方法に含まれる準備工程の一例を示すフローチャートである。
【
図4】パンライト水槽浸漬後の回収サンプル(スラグ成形体)の一例を示す光学写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の記載は発明の趣旨をよりよく理解させるためのものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものでは無い。
【0013】
以下の説明においては、本実施形態におけるスラグ造粒物及びスラグ成形体についての理解を容易にするため、先ず、本発明者らの見出した新規な知見について概略的に説明する。
【0014】
<発明の知見の概略的な説明>
従来、製鋼スラグを含む浄化材として、底質からの硫化物発生を抑制することによって環境保全を可能とすることを目的とするものが提案されている。上記目的の観点から、例えば、粒状の浄化材(特許文献1、2を参照)、水環境中にて崩壊して砂状へ変化するスラグ成形体(特許文献3を参照)が知られている。また、海中に鉄(Fe)を緩やかに溶出させるスラグ成形体も知られている(特許文献5を参照)。
【0015】
本発明者らは、水産資源の個体数を増加させる、または安定化させるための重要な要素について鋭意検討を行い、以下の知見を得た。すなわち、底質には、ナマコ類、エビ類、二枚貝(アサリなど)、ゴカイ類などの底生生物が生息しており、その一部は魚類やイカなどの回遊性魚介類の餌生物となっている。底生生物のなかには、海砂の中を垂直移動する潜砂性の生物も存在する。また、底生生物の多くは、そのライフサイクルにおいて浮遊幼生を経るため、極微小なものから目視で確認できるものまで、その大きさは幅広い。潜砂性の生物も含めて多種多様かつ大小様々な生物が底質に生息していることは、水産資源の確保において重要な要素であり得る。
【0016】
本発明者らの実験によれば、底質に直径10~50mm程度の礫(れき)石を含む場合、底生生物が増加し易いという結果が得られた。これは、潜砂性生物に好適な砂状の底質は、漂砂移動によって不安定である場合、浮遊幼生の着底を妨げる可能性があり、これに対して、底質に大きい粒子が含まれることによって漂砂移動が抑制される場合、浮遊幼生の着底が促進されるためと考えられる。また、礫石が複雑な形状を有していると、気孔が増えることにより生物が付着しやすく、底生生物を増加させる効果が高くなることがわかった。
【0017】
上記のことから、本発明者らは、生物の生息可能な大小様々な空間(気孔)を有する、礫状の資材を水環境中に敷設することにより、底生生物を効果的に増加させることができ、その結果、水環境中の生物を増加させることができるという着想を得た。
【0018】
ここで、製鋼スラグは、製造プロセスにおいて破砕または粉砕されているものの、そのままでは底質用の資材として好適な形状ではなく、海域での利用目的に応じて適切に処理されて用いられる。浮遊幼生の着底や生物の潜砂に適した形状の資材については、これまで想定されていなかった。
【0019】
例えば、特許文献4には、製鋼スラグの粉末の充填槽または成形体に二酸化炭素を供給し、生成した炭酸カルシウムによって固化させることにより、開気孔率を10%以上に調整した石材について記載されている。この種の技術では、原料の粒径を調整することによって、石材の開気孔率を高めることができる。
【0020】
しかし、気孔が多くなるように原料の粒径を調整する場合、原料粒子間の空隙が多くなるため、バインダーなどを用いても成形直後の強度が極めて低い。そのため、成形直後の形状を保持することが困難であり、炭酸カルシウムの形成による固化処理の前に原料を礫状に成形することは困難である。それゆえ、大量の礫石製造を想定すると、無数の型枠または容器に原料を充填した状態で長時間の炭酸化処理を実施する必要があり、製造効率が悪い。一方、大容量の容器を用いて大きなサイズで炭酸固化し、それを礫石サイズまで細かく粉砕する方法も考えられるが、粉砕に多くのエネルギーを要するだけでなく、製造および運搬の過程で粉塵が大量に発生し、取扱性が悪化する問題がある。
【0021】
上記のような従来技術に対して、本実施形態におけるスラグ造粒物は、スラグ原料(製鋼スラグ)と膨潤材とを含み、製造し易いとともに、水との接触のみで気孔増加可能な特性を有する。そして、本実施形態におけるスラグ成形体は、上記スラグ造粒物を水と接触させること、例えば水環境中に浸漬することによって、上記スラグ造粒物が部分的に崩壊して製造される。このようなスラグ成形体は、底質において礫石のように機能するとともに、底生生物が生息場所として利用可能な開気孔を有する。本実施形態におけるスラグ造粒物またはスラグ成形体は、底質に敷設することによって、底生生物の生息場所に適した形状であるとともに底質における浮遊幼生の着底や生物の潜砂に適した形状の資材として用いることができる。
【0022】
上記膨潤材は、水と接触することによって、水を吸収して膨張する。膨潤材は、水環境中においてスラグ造粒物の崩壊現象を促進する物質である。スラグ造粒物の内部に応力が発生することにより、スラグ造粒物の内部に多数の亀裂が発生する。これにより、スラグ造粒物の崩壊が促進される。本実施形態における水環境とは、水が存在する環境であればよく、特に限定されないが、典型的には、スラグ造粒物またはスラグ成形体を投入して生物の生息場所を提供する環境であり、例えば海水、淡水、河口付近の汽水、湖水、沼水、等の水中である。
【0023】
ここで、本実施形態におけるスラグ造粒物は、水環境中において、微細な小片に分断されるように崩壊するのではなく、開気孔が形成されるように崩壊する。つまり、スラグ造粒物は、上記膨潤材の機能によって水環境中で開気孔が形成されるように徐々に崩壊し、崩壊現象が停止した後(すなわち崩壊の進行が停滞した後)、多孔質な形状を有するスラグ成形体へと変化する。
【0024】
以上のように、本発明者らは、以下のことを明らかにし、本発明を想到するに至った。すなわち、膨潤材を用いた崩壊現象を適切に利用することにより、粒径が10mm以上50mm以下であるとともに、開気孔を多く含む、底生生物の生息し易い形状を有するスラグ成形体を効率よく製造できる。例えば多数のスラグ成形体を底質に敷設することによって、水環境下において安定的かつ効率的に底生生物を増加させることができる。その結果、水環境中の生物を効果的に増加させることができる。
【0025】
<スラグ造粒物およびスラグ成形体>
本発明の一実施形態におけるスラグ造粒物およびスラグ成形体、並びにスラグ造粒物の崩壊現象の一例について、
図1を参照して説明する。
図1は、本実施形態におけるスラグ造粒物1の、水環境浸漬中の開気孔生成過程を示した概略図である。なお、スラグ造粒物およびスラグ成形体は、
図1に図示した形状(例えば略扁球の形状)に限定されず、実際上、不定形状であってよい。スラグ造粒物は、粒径が20mm以上50mm以下であり、スラグ成形体は、粒径が10mm以上50mm以下であってよい。
【0026】
本発明において「Amm以上Bmm以下の粒径」とは、目開きBmmの篩を通過し、且つ目開きAmmの篩を通過しない粒径を意味する。スラグ造粒物は、目開き50mmの篩を通過し、且つ目開き20mmの篩を通過しない粒子である。後述するスラグ成形体は目開き50mmの篩を通過し、且つ目開き10mmの篩を通過しない粒子である。
【0027】
図1に示すように、本実施形態のスラグ造粒物1は、製鋼スラグの粉粒体であるスラグ粉粒体2と、水との接触により膨張する膨潤材3と、スラグ粉粒体2および膨潤材3を一体化させるバインダー4と、を含む。
図1は模式図であって、スラグ粉粒体2および膨潤材3は、実際には不定形状であることは勿論である。スラグ造粒物1は、体積の大部分を占めるスラグ粉粒体2の間隙に膨潤材3およびバインダー4が存在していてもよい。また、
図1では、図示の平明化のために1個のスラグ造粒物1を水環境中に投入した例について示している。実際には、水環境中に多数個のスラグ造粒物1が投入されてよい。
【0028】
本実施形態におけるスラグ成形体10は、製造し易いとともにハンドリング性良好なスラグ造粒物1から形成することができる。例えば、スラグ造粒物1を水環境中に投入し、底質B上にてスラグ造粒物1が一部崩壊して亀裂Cが生じることにより、多孔質化したスラグ成形体10を得ることができる。スラグ成形体10は、本体部11と、本体部11に形成された多数の開気孔12とを有する。スラグ成形体10は、多孔質化によって複雑な形状へ変化する。そのため、スラグ成形体10は、表面積が広く、浮遊幼生の着底場所および付着生物の生息場として良好な機能を有する。本実施形態では、水環境の一例としての海水W中にスラグ造粒物1を浸漬させている。
【0029】
スラグ造粒物1の崩壊現象について以下に説明する。水環境浸漬によって、スラグ造粒物1には亀裂Cが発生する。スラグ造粒物1の崩壊現象は、スラグ造粒物1を構成していたスラグ原料の粒子間の結合がスラグ造粒物1の一部において分離する現象である。崩壊現象には、スラグ造粒物1が複数に分裂する現象も含まれる。
【0030】
水環境下のスラグ造粒物1を回収して、崩壊により発生した破片20とともに篩にかけ、篩下(破片20)の増加量から崩壊の進行状況を定量的に把握することが可能である。具体的には、篩下重量を、崩壊前のスラグ造粒物1の重量で除した値を崩壊率として求めることができる。崩壊前のスラグ造粒物1の重量とは、製造したスラグ造粒物1を、水を含む液体中に初めて浸漬させる時点よりも前におけるスラグ造粒物1の重量である。崩壊率調査に用いる篩の目開きは、例えば10mmとすることができる。水環境下での合計の浸漬期間の長さとは独立して、一週間当たりの崩壊率の変化量が3%以内である場合に、スラグ造粒物1の崩壊現象が停止した(崩壊の進行が停滞した)と判断する。例えば、水環境下への浸漬を開始してから1週間毎に崩壊率を測定し、1週間当たりの崩壊率変化が3%以内となったときの最初の崩壊率を、本実施形態におけるスラグ造粒物1の崩壊率とすることができる。
【0031】
スラグ成形体10の「開気孔」とは、スラグ成形体10に存在する気孔のうち、スラグ成形体10の外部に向かって開口して存在する気孔であり、海水Wおよび生物が浸入可能な気孔である。一方で、「閉気孔」とは、スラグ成形体10の内部に存在する気孔であり、開気孔とは異なり、海水Wおよび生物が浸入不可能な気孔である。すなわち、開気孔12は、底生生物が生息場所として利用可能であることにより、生物増加という機能を有する。底生生物増加の観点から、開気孔率は高いほど良い。より詳しい開気孔の定義については後述する。
【0032】
スラグ成形体10は、開気孔率が3.0体積%以上であることにより、効果的に底生生物を増加させることができる。スラグ成形体10の開気孔率が高すぎると、スラグ成形体10の強度が大幅に低下する。そのため、スラグ成形体10の開気孔率は、好ましくは10.0体積%未満である。
【0033】
仮に、スラグ造粒物1が崩壊し易く、複数に分裂する場合(多数の大きな破片20が生じる場合)、スラグ成形体10の開気孔率を大きくし難い。これは、亀裂Cがスラグ造粒物1の表面において閉曲線を形成することによって比較的大きな破片20を生じると、当該破片20が剥離した部分はスラグ成形体10の表面を形成するためである。なお、開気孔12としては、スラグ造粒物1の表面から内部に至る亀裂Cが、スラグ造粒物1を貫通していてもよい。但し、亀裂Cによって本体部11が完全に分断された場合には、スラグ成形体10が分裂することになる。
【0034】
スラグ成形体10の開気孔率は、例えば、X線CT(X-ray Computed Tomography)により得られた3次元画像を解析することによって測定できる。測定対象とする気孔サイズとしては、スラグ成形体10に含まれる気孔の全体のうち大部分を占める140μm以上の範囲を測定できれば十分である。気孔サイズが140μm未満の気孔は、底生生物において利用性が低い。そのため、気孔サイズが140μm未満の気孔は無視してもよい(開気孔率の算出に含めなくてもよい)。本実施形態におけるスラグ成形体10の開気孔12は、本体部11に形成されている外部と連通している空隙(気孔)のうち、X線CTで検出される気孔サイズが140μm以上のものである。なお、スラグ成形体10の開気孔率は、水環境下から陸上に引き揚げて、例えば自然乾燥させて測定することになるが、陸上に引き揚げたスラグ成形体10の開気孔率は、水環境中におけるスラグ成形体10の開気孔率から実質的に変化しない。
【0035】
スラグ造粒物1を水環境中に浸漬させて、多数に分裂することなく適度に崩壊させることによって、スラグ造粒物1よりも開気孔率の増加したスラグ成形体10を形成することができる。このため、スラグ造粒物1は、膨潤材3を0.5質量%以上含有している。また、スラグ造粒物1が水環境中において崩壊し続け、崩壊率が過剰に高くなると、スラグ造粒物1の大半が粒径の小さい砂状へ変化する。この場合、粒径が10mm以上のスラグ成形体10を効率よく製造することが困難である。そのため、スラグ造粒物1は、水環境浸漬による崩壊率を低く抑える目的から、膨潤材3を2.0質量%以下含有している。スラグ造粒物1は、水環境中に浸漬した場合における崩壊率が10%以上60%以下である。
【0036】
本実施形態のスラグ成形体10における膨潤材3の含有量は、スラグ造粒物1における膨潤材3の含有量と同等になる。そのため、スラグ成形体10は、膨潤材3を0.5質量%以上2.0質量%以下含有していてよい。
【0037】
本実施形態におけるスラグ造粒物1は、粒径が過度に大きい場合、ハンドリング性が低下し、水環境浸漬後の崩壊に時間を要する。この場合、製造効率が低下する。また、スラグ造粒物1は、粒径が過度に小さい場合、崩壊により大きさが減少する。この場合、スラグ成形体10の粒径を10mm以上に維持し難い。そのため、スラグ造粒物1は、20mm以上50mm以下の粒径を有していてよい。
【0038】
スラグ成形体10は、水環境中において礫石として機能する。そのため、スラグ成形体10は、10mm以上50mm以下の粒径を有していてよい。スラグ成形体10は、粒径が10mm未満の場合、海砂に近い粒径を有し、潮流により散逸し易いため、底生生物を効率よく増加させ難い。スラグ成形体10は、粒径が50mmを超える場合、底質Bにおいて安定的に位置するため、海藻の付着場所としては有用な機能を持ち得るが、本来の目的である底生生物の増加への寄与が小さくなる。これは、底生生物がスラグ成形体10を押しのけることが難しくなり、底質Bにおける底生生物の移動性を低下させるためである。
【0039】
以上のように、本実施形態におけるスラグ造粒物1は、水との接触のみで開気孔増加可能な特性を有する。そして、スラグ造粒物1は、水環境中に浸漬させて崩壊現象を進展させた場合に、崩壊率の増加が停滞した後の開気孔率が3.0体積%以上となる。これにより、スラグ成形体10を形成することができる。
【0040】
本実施形態におけるスラグ成形体10は、上記のような構成を有し、水環境下において、微小なものから目視可能なサイズまで大小様々な底生生物の生息場所として機能し、水産資源の増加に寄与する。スラグ造粒物1またはスラグ成形体10を、例えば水環境中に多数個投入することによって、底質に敷設物(敷設体)を構築することができる。このようにして底生生物を増加させる方法(底生生物の増加方法)についても、本願発明の範疇に含まれる。
【0041】
なお、本実施形態の例に限定されず、陸上において水槽等の水中にスラグ造粒物1を浸漬させることによってスラグ成形体10を形成してもよく、生物を増加させようとする水環境中に、予め形成したスラグ成形体10を投入してもよい。
【0042】
<スラグ造粒物およびスラグ成形体の製造方法>
本発明の一実施形態におけるスラグ造粒物1およびスラグ成形体10の製造方法の一例について説明する。
【0043】
始めに、スラグ造粒物1およびスラグ成形体10に用いられる原料および混合物について説明すれば以下のとおりである。
【0044】
(スラグ粉粒体)
スラグ粉粒体2は、製鋼スラグの粉粒体である。製鋼スラグは、スラグ造粒物1およびスラグ成形体10の原料として用いられるスラグとして好ましく、製鋼工程において大量に発生する副産物である。製鋼スラグは、例えば、転炉スラグ、電気炉スラグ、予備処理スラグ、脱炭スラグ、脱硫スラグ、脱リンスラグ、脱珪スラグ、電気炉酸化スラグ、電気炉還元スラグ、二次精錬スラグおよび造塊スラグ等である。スラグ粉粒体2は、これらのスラグの混合物の粉粒体であってもよい。
【0045】
スラグ粉粒体2は、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、珪素(Si)およびリン(P)等の元素を含有している。スラグ成形体10は、スラグ粉粒体2を含有することにより、水環境中において生物に有用な鉄を溶出させる機能を有する。スラグ造粒物1およびスラグ成形体10は、水環境改善のために、上記元素のうちの鉄以外の成分も溶出させる機能を有していてもよい。特にPは、植物プランクトンや海藻類の栄養成分として有効に寄与し得る。
【0046】
本発明の一態様におけるスラグ造粒物1およびスラグ成形体10では、原料に用いるスラグ粉粒体2は、粉粒状であることが望ましい。スラグ粉粒体2は、スラグ成形体10の強度、崩壊性、崩壊後の破片20の粒径を考慮し、適宜に粒径が調整されてよい。スラグ粉粒体2が粉末状である場合、粒径が過度に大きいとスラグ造粒物1およびスラグ成形体10の強度が低下するため、スラグ粉粒体2は、粒径が7.0mm以下に調整されていてよく、5.0mm以下に調整されていてよい。スラグ粉粒体2が粉末状である場合、スラグ粉粒体2は、粒径の下限値について特に制限はない。スラグ造粒物1が水環境中で崩壊して発生する破片20を海砂として機能させることや、スラグ造粒物1の製造プロセスの歩留まり(粉粒体の成形性)、およびスラグ造粒物1の強度を考慮すると、スラグ造粒物1は、1.0mm以下の粒径のスラグ粉粒体2を含むことが望ましい。
【0047】
また、原料に用いるスラグ粉粒体2は、粒径調整前または粒径調整後において、必要に応じてエージング処理などにより水環境中でのアルカリの溶出を抑制した状態で用いてもよい。炭酸化処理または塩酸もしくは硫酸への浸漬処理を施したスラグ粉粒体2を用いてもよい。好ましくは、粒径調整後に炭酸化処理を施したスラグ粉粒体2を用いてもよい。また、炭酸化処理はスラグ造粒物1に実施すると固化し崩壊現象の阻害となるため、スラグ造粒物1を製造する前の粉体スラグ原料に実施することが好ましい。
【0048】
(膨潤材)
膨潤材3は、水との接触により体積が膨張する性質を有し、スラグ造粒物1に崩壊性を付与する目的でスラグ粉粒体2と混合してスラグ造粒物1に含有される。
【0049】
本発明の一態様におけるスラグ造粒物1およびスラグ成形体10は、膨潤材3を0.5質量%以上2.0質量%以下含む。スラグ造粒物1およびスラグ成形体10は、一種類の膨潤材3を含んでいてよく、複数種類の膨潤材3を含んでいてもよい。
【0050】
膨潤材3の機能を評価する方法として、体積膨張比を用いることができる。膨潤材3の体積膨張比は、効率よく崩壊性を付与させる観点から4.0以上であることが望ましい。膨潤材3をスラグ粉粒体2と混合する割合を調整することにより、崩壊性を適度に付与することができる。膨潤材3の体積膨張比が高すぎると崩壊挙動の制御が困難となるため、膨潤材3の体積膨張比は10.0以下であることが好ましい。
【0051】
ここで、体積膨張比は、膨潤材3を十分量の水の中に浸漬させた場合における、膨潤材3の体積変化に基づいて算出される。具体的には、例えば以下のとおりである。浸漬前後の膨潤材3の単位容積質量をJIS A 1104(骨材の単位容積質量)に準じて測定する。膨潤材3の重量には、水分の重量も含まれる。そのため、上記単位容積質量の計算には、浸漬前において乾燥させた状態の膨潤材3(説明の便宜上、「乾燥膨潤材D」と称する)の重量(質量)が用いられる。乾燥膨潤材Dの質量を用いて、単位容積質量の逆数をとることによって、単位質量あたりの体積を算出する。体積膨張比は、下記の値Aと値Bとの比によって算出される:
値A:水に浸漬前の膨潤材3の体積÷乾燥膨潤材Dの質量
値B:水に浸漬後の膨潤材3の体積÷乾燥膨潤材Dの質量。
【0052】
なお、乾燥膨潤材Dの重量は、浸漬後の膨潤材3の重量と含水率から求めることもできる。また、体積膨張比は、乾燥膨潤材Dの質量を用いた、浸漬前後の膨潤材3の乾燥ベースの密度(単位容積質量)に基づいて算出してもよい。
【0053】
膨潤材3は、十分量の水として、膨潤材3の乾燥重量(上記乾燥膨潤材Dの重量)に対して100倍以上の重量の水に浸漬することが好ましい。膨潤材3を浸漬させる水は、スラグ造粒物1およびスラグ成形体10が使用される水環境と同じものであることが好ましい。膨潤材3を浸漬させる水は、例えば、スラグ造粒物1およびスラグ成形体10が海中で使用される場合には海水であり、河川または湖沼で使用される場合には真水であることが好ましい。また、膨潤材3を浸漬させる時間は、膨潤材3の含水率が飽和状態となるまでの時間である。
【0054】
膨潤材3を混合する際の含有量が2.0質量%を超えると、スラグ造粒物1の強度が必要以上に低下してしまう可能性があり、水環境浸漬中においてスラグ造粒物1が完全に崩壊して砂状のみの形態になってしまう可能性がある。したがって、膨潤材3の含有量は、2.0質量%以下であってよく、1.5質量%以下であってよい。
【0055】
なお、本発明において、膨潤材3の含有量は、特に説明がない場合、スラグ粉粒体2と膨潤材3(乾燥状態)との合計重量に対する膨潤材3(乾燥状態)の重量の割合である。そのため、スラグ造粒物1における膨潤材3の含有量は、例えば以下のようにして特定できる。すなわち、スラグ造粒物1からバインダー4等を除去して、スラグ粉粒体2と膨潤材3との混合物を得る。そして、当該混合物を乾燥させる。乾燥後の当該混合物の重量に対する、当該混合物中の膨潤材3(乾燥状態)の重量の割合を算出する。このことは、スラグ成形体10についても同様である。
【0056】
スラグ成形体10に含有する膨潤材3は、環境への負荷を軽減する観点から、生分解性を有することが好ましい。例えば、膨潤材3には、食品・飲料工場から発生した植物残渣、農業における廃棄農作物に加え、収穫あるいは廃棄物として回収された海洋藻類など、食物繊維を含有する物体が含まれる。入手コスト低減の観点から、食品・飲料工場から発生した植物残渣を利用することが好ましい。膨潤材3として、例えばワカメの茎、柑橘類外皮、コーヒー豆粕などを用いることができ、この場合、膨潤材3の体積膨張比は約3~6程度である。
【0057】
(バインダー)
バインダー4は、スラグ造粒物1の成形時における歩留まりの向上および成形後の強度上昇のため、スラグ造粒物1に混合される。
【0058】
バインダー4として、例えば、リグニンスルホン酸、リグニンスルホン酸の金属塩、糖蜜、および澱粉が挙げられる。リグニンスルホン酸または糖蜜を添加する場合、バインダー4の添加量は、コストおよびスラグ造粒物1の強度等を考慮して、スラグ粉粒体2および膨潤材3の合計質量に対して、2質量%以上10質量%以下の量を添加することが好ましい。
【0059】
リグニンスルホン酸およびその金属塩は、分散性および粘結性に優れることから、粘結剤として好適に用いられる。リグニンスルホン酸およびその金属塩は、鉄キレート作用を有することから、水環境下においてスラグ成形体10の原料であるスラグ粉粒体2の鉄溶出量を増加させる作用を有する。多くの生物について鉄は成長の必須元素であり、生物への鉄供給を目的にリグニンスルホン酸を使用することが好ましい。
【0060】
リグニンスルホン酸の金属塩を用いる場合、金属元素の種類は、適宜選択してもよく、例えばナトリウム(Na)、カリウム(K)、等の金属であってよく、取り扱い性およびコストを考慮すると、Mg、CaまたはNaが好ましい。
【0061】
リグニンスルホン酸およびその金属塩の形態は適宜選択でき、製造過程において、粉末または水溶液の状態にて添加することができる。
【0062】
(製造工程)
スラグ成形体10の製造工程について
図2および
図3を用いて説明する。
【0063】
図2に示すように、本実施形態におけるスラグ成形体10の製造方法の一例は、スラグ造粒物1を準備する準備工程S1と、スラグ造粒物1を水と接触させて部分的に崩壊させることによりスラグ成形体10を形成する形成工程S2と、を含む。
【0064】
準備工程S1では、スラグ造粒物1を準備することができればよく、スラグ造粒物1を準備する具体的な方法は特に限定されない。例えば、製造されたスラグ造粒物1を入手することによってスラグ造粒物1を準備してもよい。また、スラグ造粒物1を製造してもよく、この場合、本実施形態におけるスラグ成形体10の製造方法の一例は、
図3に示すように、原料を混合する原料混合工程S11と、スラグ造粒物1を作製するスラグ造粒物成形工程S12と、を含んでいてもよい。
【0065】
原料混合工程S11では、スラグ粉粒体2に膨潤材3およびバインダー4を混合する。混合に用いる機器は具体的に限定されないが、例えば、混練機、パドルミキサーなどから適宜選択して用いることができる。製造効率およびスラグ造粒物の強度を考慮すると、混練機を用いることが好ましい。
【0066】
スラグ造粒物成形工程S12では、原料混合工程S11で得られる混合物を造粒及び成形してスラグ造粒物1を作製する。成形に用いる機器は具体的に限定されないが、例えば、ブリケットマシン、パンペレタイザー、ドラムミキサー、ロータリーミキサー、圧縮成形プレス機などから適宜選択して用いることができる。製造効率とスラグ造粒物の強度を考慮すると、ブリケットマシンを用いることが好ましい。
【0067】
形成工程S2では、例えば、スラグ造粒物1を水環境中に浸漬する。なお、陸上において予めスラグ成形体10を形成して、当該スラグ成形体10を水環境中に投入してもよい。例えば、スラグ成形体10を敷設しようとする水環境と同様の成分または異なる成分の水中に予めスラグ造粒物1を浸漬してスラグ成形体10を形成し、当該スラグ成形体10を水環境中に投入してもよい。
【0068】
スラグ成形体10の生物増加の効果を向上させるため、スラグ成形体10を投入する環境と同じ環境水をスラグ成形体10にかけ流しすることで、環境水由来の浮遊幼生を予めスラグ成形体10に着底させ、育成してもよい。形成工程S2における固液比(スラグ造粒物1の体積に対する液体の体積の比)は3以上が好ましく、より好ましくは5以上である。陸上水槽での浸漬処理を実施する場合、固液比が高いと浸漬処理を実施するための膨大なスペースが必要となるため、浸漬処理の固液比は10以下であることが望ましい。
【0069】
形成工程S2におけるスラグ造粒物1の崩壊挙動を把握するため、予め室内での浸漬試験を行ってもよい。例えば投入する水環境と同様の溶媒に固液比5でスラグ造粒物1を浸漬してもよい。この浸漬試験を複数回実施し、崩壊率の変化を調査することにより、崩壊中のスラグ造粒物1が崩壊を停止するまでの時間を予め把握することができる。
【0070】
本実施形態の製造方法により、スラグ造粒物1が水との接触により部分的に崩壊して、その崩壊現象が停止した状態の成形体であるスラグ成形体10を製造することができる。スラグ成形体10は、多孔質な形状を呈する。
【0071】
〔附記事項〕
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、上記説明において開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0072】
以下、本発明の一態様におけるスラグ造粒物およびスラグ成形体の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されない。
【0073】
原料として用いた製鋼スラグ、膨潤材、およびバインダーの化学組成を表1に示す。各種の膨潤材およびバインダーについて、化学組成を乾燥状態で測定した。
【0074】
【0075】
製鋼スラグおよび膨潤材について、表2に示すように前処理を行った。製鋼スラグについては、粉砕後5mm以下に分級されたものを1時間炭酸化処理し、原料として用いた。
【0076】
【0077】
前処理後のスラグ粉粒体並びに各種の膨潤材およびバインダーを、表3に示す各試料の混合割合となるよう混合し、混練機を用いて、適宜水分を添加しながら5分間混合した。膨潤材は混合前において予め60℃にて12時間以上乾燥し、5mm以下に粉砕して5mmの篩にかけ、篩下を混合資材として用いた。
【0078】
表3において、膨潤材の「添加量[内数]」は、膨潤材の重量を、スラグ粉粒体と膨潤材との合計量で除して、100分率で表した値(質量%)である。また、バインダーの「添加比率[スラグおよび膨潤材の合計重量の外数]」は、バインダーの重量を、スラグ粉粒体と膨潤材との合計量で除して、100分率で表した値(質量%)である。例えば表3の実施例No.1では、「スラグ粉粒体+膨潤材」=100質量%とし、配合率は、(スラグ粉粒体:膨潤材):バインダー=(99:1):10である。
【0079】
混合した各試料を、ブリケットマシンを用いて粒径30mm、45mmまたは60mmに成形し、得られたスラグ造粒物を105℃で12時間乾燥させた。
【0080】
(室内浸漬試験)
得られた各実施例及び比較例のスラグ造粒物について、室内での浸漬試験を実施した。固液比が5となるよう人工海水を入れたビーカー内で4週間浸漬し、1週間経過ごとの崩壊率を調査した。崩壊率は10mmの篩分けにより、篩下重量を篩前の重量で除して求めた。試験結果を表3に示す。いずれの実施例もスラグ造粒物の崩壊率が3週目から4週目にかけて3%以内の変化に留まっており、崩壊現象が4週間以内に停止したと判断された。比較例は膨潤材の添加量が3質量%以上の条件では2週目または3週目以降に崩壊率が70%以上となり、スラグ成形体の製造量が低かった。それ以外の比較例では4週間以内に崩壊現象が停止した。
【0081】
【0082】
(パンライト水槽浸漬試験)
得られた各実施例及び比較例のスラグ造粒物を用いて、パンライト水槽浸漬試験を実施した。
【0083】
海水を満たした約1000Lのパンライト水槽を用意し、水槽内に100kgのスラグ造粒物をプラスチック容器に充填した状態で換水せずに4週間浸漬し、スラグ成形体を製造した。
【0084】
パンライト水槽浸漬後、全ての浸漬サンプルを10mmの篩にかけ、崩壊率を求めた。パンライト水槽浸漬後の崩壊率は、上述の室内浸漬試験結果の崩壊率(崩壊現象が停止した時点の崩壊率)と同様であった。パンライト水槽浸漬後において崩壊率が60%を超えた比較例は十分なスラグ成形体が得られなかった。そのため、後述のように、崩壊率が60%以下となった実施例および比較例のスラグ造粒物を用いて実海域浸漬試験を行った。
【0085】
図4は、パンライト水槽浸漬後の回収サンプル(スラグ成形体)の一例を示す光学写真である。パンライト水槽から各実施例及び比較例の浸漬サンプル(スラグ成形体)をそれぞれ200g程度採取して自然乾燥した。そして、各浸漬サンプルをそれぞれプラスチック製容器に装入してX線CT法を用いた開気孔率測定に供した。X線CT測定の装置にはヤマト科学株式会社製TDM3000H-FPを用いた。線源種類は白色X線であり、X管球の電圧を250kV、測定の焦点寸法をφ4μmに調整した。3次元画像解析ソフト(VGSTUDIO MAX、ボリュームグラフィックス株式会社製)を用いて供試材のX線CT画像を解析した。開気孔の総体積およびスラグ成形体の総体積(開気孔と閉気孔を含む)を求め、開気孔の総体積をスラグ成形体の総体積により除して開気孔率を算出した。本手法による開気孔率の粒径(気孔サイズ)下限値は140μmである。パンライト水槽浸漬試験における、スラグ造粒物のパンライト水槽浸漬後の崩壊率、パンライト水槽浸漬前のスラグ造粒物の開気孔率、パンライト水槽浸漬後のスラグ成形体の開気孔率の測定結果を表4に示す。
【0086】
(実海域浸漬試験)
得られた各実施例及び比較例のスラグ造粒物のうち、上述のパンライト水槽浸漬試験の結果において崩壊率が60%以下となった実施例No.1~5および比較例No.7、8、11、12、16のスラグ造粒物を実海域に投入し、底生生物の増加について試験した。海域は瀬戸内の潮流が緩やか且つ底質が砂状に近い海域を対象とした。スラグ造粒物40kgを上部が全面開口した矩形のポリプロピレン製容器に装入し、海底に設置した。スラグ造粒物を沿岸から沖に向かって5~10mの範囲、水深が概ね3~4mの範囲に設置し、約1年間浸漬した。
【0087】
実海域浸漬後、スラグ成形体をケースごと引き揚げ、ケース内に混入したゴミ類や回遊性の魚介類を取り除き、回収サンプルを得た。回収サンプルの嵩密度と回収サンプル重量を測定した後、スラグ成形体に付着したものも含め回収サンプル中の生物を1mmの篩にかけ、篩上の生物重量を測定した。回収サンプルの重量、嵩密度および生物重量から嵩体積あたりの生物重量(kg/m3)を求めた。
【0088】
実海域浸漬試験における、底生生物の増加の調査結果を表4に示す。
【0089】
【0090】
表4に示すように、スラグ成形体の開気孔率が3.0体積%以上かつスラグ成形体の粒径(実海域に投入したスラグ造粒物の粒径と同程度)が50mm以下である実施例では、生物重量(ベントス)が比較例よりも高く、豊富に底生生物が存在しており、底質用資材として良好であることが分かる。スラグ成形体の開気孔率が高いほど底生生物重量が高い傾向にあり、開気孔率を増加させることで底生生物を増加可能であることが示された。実施例のスラグ成形体は、効率的に底生生物を増加させることが可能であることが分かる。
【0091】
一方、スラグ成形体の開気孔率が3.0%未満または、粒径が50mmを超える比較例では、底生生物の存在は認められるものの、実施例よりも生物重量が低いことが分かる。