(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155628
(43)【公開日】2023-10-23
(54)【発明の名称】親水性付与剤および多孔質膜
(51)【国際特許分類】
C09K 3/00 20060101AFI20231016BHJP
B01D 71/34 20060101ALI20231016BHJP
B01D 71/40 20060101ALI20231016BHJP
B01D 71/38 20060101ALI20231016BHJP
C08F 220/18 20060101ALI20231016BHJP
C08F 216/14 20060101ALI20231016BHJP
C08L 27/16 20060101ALI20231016BHJP
C08L 33/04 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
C09K3/00 R
B01D71/34
B01D71/40
B01D71/38
C08F220/18
C08F216/14
C08L27/16
C08L33/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065063
(22)【出願日】2022-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(72)【発明者】
【氏名】渡部 弘康
【テーマコード(参考)】
4D006
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA06
4D006GA07
4D006HA61
4D006HA77
4D006MA01
4D006MA02
4D006MA03
4D006MA12
4D006MB02
4D006MB09
4D006MC18
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC27
4D006MC28
4D006MC29X
4D006MC30
4D006MC37X
4D006MC39
4D006MC54
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4D006MC63
4D006NA03
4D006NA64
4D006PA01
4D006PB02
4D006PB08
4D006PC02
4J002BD14X
4J002BG06W
4J002EH046
4J002FD326
4J100AL03Q
4J100AL08P
4J100BA02P
4J100BA03P
4J100CA04
4J100DA01
4J100DA22
4J100FA03
4J100FA19
4J100FA28
4J100FA30
4J100GC07
4J100GC26
4J100JA15
4J100JA18
(57)【要約】 (修正有)
【課題】耐熱性が良好で、膜材料に親水性を付与することができる親水性付与剤を提供することを目的とする。
【解決手段】下記一般式(1);
(式中、R
1は、水素原子又はメチル基を表す。R
2は、直接結合、-CH
2-、-CH
2CH
2-、又は-CO-を表す。R
3は、同一又は異なって、炭素数1~20のアルキレン基を表す。Xは、-CH
2CH(OH)CH
2(OH)、又は-CH(-CH
2OH)
2を表す。nは、オキシアルキレン基の付加モル数であり、0~100の数を表す。)で表される構造単位(I)と、アクリル酸エステルの構造単位(II)を有する重合体(A)を含む、親水性付与剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1);
【化1】
(式中、R
1は、水素原子又はメチル基を表す。R
2は、直接結合、-CH
2-、-CH
2CH
2-、又は-CO-を表す。Xは、-CH
2CH(OH)CH
2(OH)、又は-CH(-CH
2OH)
2を表す。で表される構造単位(I)と、下記一般式(2);
【化2】
(式中、R
4は、水素原子又はメチル基を表す。R
5は、水素原子又は炭素数1~20の有機残基を表す。)で表される構造単位(II)を有する重合体(A)を含む、親水性付与剤。
【請求項2】
請求項1に記載の親水性付与剤を含む多孔質膜。
【請求項3】
さらに、膜形成ポリマー(B)を含む、請求項2に記載の多孔質膜。
【請求項4】
前記膜形成ポリマー(B)にポリフッ化ビニリデンを含む、請求項3に記載の多孔質膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性付与剤に関する。より詳しくは、耐熱性が良好で、膜材料に親水性を付与することができる親水性付与剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、不純物を含む水を処理するために用いられる水処理膜は、使用によって膜の汚染(ファウリング)を抑制するために、水処理膜に親水性樹脂を接触させることが知られている。例えば、特許文献1には、逆浸透膜(RO膜)に親水性樹脂を加圧透水によって接触させ、ファウリング抑制能を付与することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2020/178892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のとおり、多孔質膜に親水性樹脂を表面処理することは知られている。例えば、長い時間の使用によって、ファウリング抑制能が低下することを防ぐには、多孔質膜全体に斑や欠損なく親水性樹脂を導入することなどが考えられるが、製膜原料と親水性樹脂を混合して多孔質膜を形成する場合には、親水性樹脂に製膜原料との相溶性が要求される。
【0005】
よって、本発明は、良好な耐熱性を有し、多孔質膜に複合化した場合でも親水性を付与可能な親水性付与剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成する為に種々検討を行ない、本発明に想到した。以下、本発明を示す。
[1]下記一般式(1);
【化1】
(式中、R
1は、水素原子又はメチル基を表す。R
2は、直接結合、-CH
2-、-CH
2CH
2-、又は-CO-を表す。R
3は、同一又は異なって、炭素数1~20のアルキレン基を表す。Xは、-CH
2CH(OH)CH
2(OH)、又は-CH(-CH
2OH)
2を表す。nは、オキシアルキレン基の付加モル数であり、0~100の数を表す。)で表される構造単位(I)と、下記一般式(2);
【化2】
(式中、R
4は、水素原子又はメチル基を表す。R
5は、水素原子又は炭素数1~20の有機残基を表す。)で表される構造単位(II)を有する重合体を含む、親水性付与剤。
[2]前記[1]に記載の親水性付与剤を含む多孔質膜。
[3]さらに、膜形成ポリマー(B)を含む、前記[2]に記載の多孔質膜。
[4]前記膜形成ポリマー(B)にポリフッ化ビニリデンを含む、前記[3]に記載の多孔質膜。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、良好な耐熱性を有し、膜材料を複合化した場合でも親水性を付与可能な親水性付与剤を提供することを目的とする。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0009】
[本開示の親水性付与剤]
本開示の親水性付与剤は、上記一般式(1)で表される構造単位(I)と、上記一般式(2)で表される構造単位(II)とを有する、重合体(A)(以下、「本発明の重合体」とも言う)を含む。
【0010】
本発明の重合体は、構造単位(I)に該当する構造単位と構造単位(II)に該当する構造単位とをそれぞれ1種有していてもよく、2種以上有していてもよい。また、それ以外にその他の単量体に由来する構造単位を1種又は2種以上有していてもよい。
【0011】
<一般式(1)で表される構造単位(I)>
本発明の重合体は、上記一般式(1)で表される構造単位(I)を有する。上記一般式(1)において、R1は、水素原子又はメチル基を表す。R2は、直接結合、-CH2-、-CH2CH2-、又は-CO-を表すが、後述する膜形成ポリマー(B)との相溶性の観点から、-CO-であることが好ましい。R3は、同一又は異なって、炭素数1~20のアルキレン基を表すが、多孔質膜への親水性の観点から、アルキレン基の炭素数は1~10であることが好ましい。より好ましくは、1~5であり、更に好ましくは、2~3である。nは、オキシアルキレン基の付加モル数であって、0~100の数を表すが、多孔質膜への親和性の観点から、0~50の数であることが好ましい。より好ましくは、0~20の数であり、更に好ましくは、0~5の数である。
【0012】
上記構造単位(I)を形成する単量体としては、下記一般式(3)の単量体が好ましい。
【0013】
【化3】
(式中、R
1、R
2、R
3、X、及び、nは、全て一般式(1)と同様である。)
【0014】
上記一般式(3)で表される単量体としては、1種であっても良く、2種以上を用いても良い。
【0015】
上記一般式(3)で表される単量体としては、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0016】
上記重合体(A)において、一般式(1)で表される構造単位(I)の含有量は、全構造単位100質量%に対し、3~90質量%が好ましい。一般式(1)で表される構造単位(I)の含有量が3質量%以上であれば、後述する膜形成ポリマー(B)に対して親水性が高められる効果が得られる。また、一般式(1)で表される構造単位(I)の含有量の下限値は5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましく15質量%以上が特に好ましい。一方、一般式(1)で表される構造単位(I)含有量の上限値は、85質量%以下がより好ましく、80質量%以下がさらに好ましい。
【0017】
<一般式(2)で表される構造単位(II)>
本発明の重合体は、上記一般式(2)で表される構造単位(II)を有する。上記一般式(2)において、R4は、水素原子又はメチル基を表す。R5は、水素原子又は炭素数1~20の有機残基を表す。好ましくは、有機残基の炭素数は1~10であり、より好ましくは、炭素数は1~8である。有機残基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などの鎖式有機残基;シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などの脂環式有機残基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ベンジル基、フェネチル基などの芳香族有機残基;などを挙げることができる。有機残基には、酸素、窒素、硫黄、リンといったその他原子を含んでいてもよい。
【0018】
上記構造単位(II)を形成する単量体としては、下記一般式(4)の単量体が好ましい。
【0019】
【化4】
(式中、R
4、及び、R
5は、全て一般式(2)と同様である。)
【0020】
上記一般式(4)で表される単量体としては、1種であっても良く、2種以上を用いても良い。
【0021】
上記(4)で表される単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。
【0022】
上記重合体(A)において、一般式(2)で表される構造単位(II)の含有量は、全構造単位100質量%に対し、10~97質量%が好ましい。一般式(2)で表される構造単位(II)の含有量が10質量%以上であれば、膜形成ポリマー(B)との相溶性が高められる効果が得られ、使用環境下における溶出の懸念が少なくなる傾向にある。また、一般式(2)で表される構造単位(II)の含有量の下限値は15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。一方、一般式(2)で表される構造単位(II)の含有量の上限値は、95質量%以下がより好ましく、90質量%以下がさらに好ましく、85質量%以下が特に好ましい。
【0023】
<その他の単量体に由来する構造単位>
その他の単量体に由来する構造単位は、これらのエチレン性不飽和単量体の炭素-炭素二重結合(C=C)が炭素-炭素単結合(C-C)に置き換わって、隣接する構成単位と結合を形成した構成単位である。ただし、このような構成単位に該当する構造であれば、実際に単量体の炭素-炭素二重結合が炭素-炭素単結合に置き換わって形成された構造でなくてもよい。
【0024】
具体的には、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、α-ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有アルキル(メタ)アクリレート類;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート及びその4級化物等のアミノ基含有アクリレート;(メタ)アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド等のアミド基含有単量体類;酢酸ビニル等のビニルエステル類;エチレン、プロピレン等のアルケン類;スチレン等の芳香族ビニル系単量体類;マレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド誘導体;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル系単量体類;(メタ)アクロレイン等のアルデヒド基含有ビニル系単量体類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、アリルアルコール、ビニルピロリドン等のその他の官能基含有単量体類;ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のポリエチレングリコール(メタ)アクリレート;エトキシ-ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ-トリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル-ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ-ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ-ジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシ-ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシ-ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;ビニルアルコール、(メタ)アリルアルコール、イソプレノール等の不飽和アルコールにアルキレンオキシドが1~300モル付加した構造を有する単量体等のポリアルキレングリコール鎖含有単量体;3-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸等のスルホン酸基を有する単量体およびその塩等が挙げられる。これらその他の単量体についても、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0025】
本発明の重合体における、その他の単量体に由来する構造単位の割合は、全構造単位100質量%に対して、25質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、20質量%以下であり、更に好ましくは、10質量%以下である。
【0026】
本発明の重合体は、重量平均分子量が、3000以上であることが好ましく、より好ましくは10000以上であり、さらに好ましくは30000以上である。一方、80万以下であることが好ましく、より好ましくは50万以下であり、さらに好ましくは30万以下である。重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0027】
本発明の重合体は、熱分解開始温度(DyTGA)は、200℃以上であることが好ましく、より好ましくは、220℃以上であり、さらに好ましくは240℃以上である。さらに好ましくは280℃以上である。熱分解開始温度は、熱安定性の指標であり、当該温度が200℃未満である場合には、多孔質膜の製造時に重合体の熱分解が起こり所望の多孔質膜が得られない虞がある。
【0028】
本実施の形態に係る重合体は、その他の添加剤を含んでいてもよい。その他の添加剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤等の安定剤;ガラス繊維、炭素繊維等の補強材;フェニルサリチレート、(2,2´-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシベンゾフェノン等の紫外線吸収剤;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモン等の難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤等の帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料等の着色剤;有機フィラーや無機フィラー;樹脂改質剤;有機充填剤や無機充填剤;可塑剤;滑剤;帯電防止剤;難燃剤;リン酸塩等のpH安定剤;次亜塩素酸ナトリウム等の抗菌成分;溶媒などが挙げられる。例えば、溶媒としては、重合体(A)が可溶であれば特に制限されないが、重合後の重合液をそのまま製膜原液に用いる場合には、膜形成ポリマー(B)を溶解できるものが好ましい。このような溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチルピロリドン(NMP)、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)、テトラメチルウレア(TMU)、トリエチルフォスフェート(TEP)、及びリン酸トリメチル(TMP)等が挙げられる。これらの中でも、取り扱いやすく、しかも、膜形成ポリマー(B)及び重合体(A)の溶解性に優れる点から、アセトン、メチルエチルケトン、DMF、DMAc、DMSO、又はNMPが好ましい。
【0029】
溶媒の脱揮を行う場合、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ダイアセトンアルコール、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤;酢酸エチル等のエステル系溶剤;等が挙げられ、これらの1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、使用する溶剤の沸点が高すぎると、最終的に得られる重合体の残存揮発分が多くなることから、沸点が50~200℃の範囲内のものが好ましい。
【0030】
本発明の親水性付与剤に、その他成分としては、1種含んでいても良く、2種以上でもよい。 その他の成分の含有量は、特に制限されないが、親水性付与剤に含まれる本発明の重合体100質量%に対して、5質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、1質量%以下である。
【0031】
[本開示の親水性付与剤の製造方法]
本発明の重合体を製造する方法は、上記一般式(3)で表される単量体、上記一般式(4)で表される単量体、及び必要に応じて使用されるその他の単量体から本発明の重合体が製造されることになる限り特に制限されず、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合のいずれの重合反応(重合工程)を用いるものであってもよい。また重合反応は光重合、熱重合のいずれであってもよい。
【0032】
本発明の重合体を製造する際の重合反応は、重合開始剤を用いて行うことが好ましく、重合開始剤はラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、アニオン重合開始剤の中から重合反応の種類に応じて用いることができる。これら重合開始剤としては、通常用いられるものを使用することができる。重合開始剤は、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物;2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルイソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)などのアゾ化合物;である。重合開始剤は、2種以上を併用してもよい。重合開始剤の使用量は、単量体群の組成および重合条件に応じて適宜設定できる。
【0033】
連鎖移動剤には、ラジカル重合に一般的に使用される連鎖移動剤を使用できる。連鎖移動剤は、例えば、ブタンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、ヘキサデカンチオール、オクタデカンチオール、シクロヘキシルメルカプタン、チオフェノール、チオグリコール酸オクチル、2-メルカプトプロピオン酸オクチル、3-メルカプトプロピオン酸オクチル、メルカプトプロピオン酸2-エチルヘキシルエステル、オクタン酸2-メルカプトエチルエステル、1,8-ジメルカプト-3,6-ジオキサオクタン、デカントリチオール、ドデシルメルカプタンなどの有機チオール化合物;四塩化炭素、四臭化炭素、塩化メチレン、ブロモホルム、ブロモトリクロロエタンなどのハロゲン化合物;α-メチルスチレンダイマー、α-テルピネン、γ-テルピネン、ジペンテン、ターピノーレンなどの不飽和炭化水素化合物である。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、炭素数3以上の炭化水素基を有する有機チオール化合物を用いることが好ましい。
【0034】
上記重合体(A)を製造する際にその他工程を含んでいてもよい、その他工程としては、ろ過工程、脱揮工程等が挙げられる脱揮工程とは、溶剤、残存単量体等の揮発分を、必要により減圧加熱条件下で、除去処理する工程をいう。除去処理によって、生成した樹脂中の残存揮発分を低減されるため、成形時の変質等による着色や泡等の成形不良が抑制される傾向にある。
【0035】
脱揮工程に使用する装置については特に限定されないが、例えば、フラッシュドラム、二軸脱揮器、薄膜蒸発器、押出機等の通常の脱揮装置を用いることができる。本発明をより効果的に行うために、熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置やベント付き押出機、また、上記脱揮装置と上記押出機とを直列に配置したものを用いることが好ましく、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置又はベント付き押出機を用いることがより好ましい。
【0036】
脱揮処理の温度は、通常、160~300℃程度であり、180~260℃がより好ましい。また脱揮処理の圧力は、通常0.13~4.0kPa程度であり、好ましくは0.13~3.0kPaであり、より好ましくは0.13~2.0kPaである。脱揮方法としては、例えば加熱下で減圧して揮発分を除去する方法、及び揮発分除去の目的に設計された押出機等を通して除去する方法が望ましい。
【0037】
[本開示の多孔質膜]
本開示の多孔質膜を形成する材料、形態、特性等について、特に限定されるものではなく、水処理を行うために一般的に求められる特性を備えていればよい。
【0038】
本開示の多孔質膜を形成する膜形成ポリマー(B)としては、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC);酢酸セルロース;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン等のポリフルオロカーボン系;ポリスルホン、ポリエーテルスルホン;ポリアミド、ポリイミド、ポリアクリロニトリル等の重合体が含まれることが好ましい。なかでも、強度の観点から、ポリフルオロカーボン系の重合体が含まれることが好ましい。ここで、膜形成ポリマー(B)は、単独重合体(ホモポリマー)であってもコポリマーであってもよい。
【0039】
本開示の膜形成ポリマー(B)は、1種類でもよいし2種類以上でもよい。
【0040】
本開示の多孔質膜を形成する膜形成ポリマー(B)には、特に限定されないが、その他成分を含んでいてもよい。例えば、分散剤、樹脂、架橋剤、酸化防止剤などが挙げられる。
【0041】
本開示の多孔質膜の形態としては、例えば、中空糸状、平膜状、スパイラル状、プリーツ状、モノリス状、チューブラー状等が挙げられる。
【0042】
本開示の多孔質膜に含まれる親水性付与剤の含有量は、多孔質膜総量に対して、1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは5質量%以上である。一方、30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは、20質量%以下であることが好ましい。
【0043】
[本開示の多孔質膜の製造方法]
本開示の製造方法としては、特に制限されないが、膜形成ポリマー(B)と重合体(A)を含む製膜原料を用いれば、製膜方法は特に限定されず、例えば、相分離法、延伸開孔法、およびトラックエッチング法などにより多孔膜化することができる。中でも、相分離は多孔膜の孔径や断面構造等の制御が容易であり、本発明の多孔膜の製造方法として好ましい。
【0044】
例えば、相分離法としては、膜形成ポリマー(B)と重合体(A)を溶解可能な溶媒に、両者を溶かし、その後、製膜原液(以下、製膜溶液という場合もある)として、スリット型や二重管型の口金から吐出し、非溶剤と接触させ、相分離を誘起する非溶剤誘起相分離法や、ポリフッ化ビニリデン樹脂を常温では溶解しないが高温で溶解する潜在溶媒に、親水性ポリマーと共に溶解した後、スリット型や二重管型の口金より製膜原液を吐出し、空気や水と接触させることにより冷却し、相分離を誘起する熱誘起相分離法などが挙げられる。熱誘起相分離法は高温で溶解したのち冷却固化させて製膜するので、特に熱可塑性樹脂が結晶性樹脂である場合、製膜時に結晶化が促進され高強度膜が得られやすいことからさらに好ましい。
【0045】
本開示の製造方法は、製膜溶液に含まれる重合体は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0046】
本開示の製造方法は、製膜溶液に含まれる溶媒としては特に限定されないが、非溶剤誘起相分離法の溶媒として、例えば、膜形成ポリマー(B)がポリフッ化ビニリデン(PVDF)である場合、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、リン酸トリメチルなどが挙げられる。
【0047】
熱誘起相分離法の製膜溶液は、本実施形態で用いる膜形成ポリマー(B)に対し、潜在的溶剤となるものを用いる。本実施形態では、潜在的溶剤とは、膜形成ポリマー(B)を室温(25℃)ではほとんど溶解しないが、室温よりも高い温度では膜形成ポリマー(B)を溶解できる溶剤を言う。膜形成ポリマー(B)との溶融混練温度にて液状であればよく、必ずしも常温で液体である必要はない。また、一部が溶剤中に溶解せずに分散している場合でも、均一性を維持できているのであれば、その分散した状態のものでもよい。
【0048】
膜形成ポリマー(B)がポリフッ化ビニリデンの場合、潜在的溶媒の例として、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)等のフタル酸エステル類;メチルベンゾエイト、エチルベンゾエイト等の安息香酸エステル類;リン酸トリフェニル、リン酸トリブチル、リン酸トリクレジル等のリン酸エステル類;;γ―ブチロラクトン、エチレンカーボネイト、プロピレンカーボネイト、シクロヘキサノン、アセトフェノン、イソホロン等のケトン類;およびこれらの混合物等を挙げることができる。
【0049】
製膜溶液に含まれる重合体(A)の濃度は、製膜溶液の総量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.2質量%以上であり、さらに好ましくは0.4質量%以上である。一方、10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは8質量%以下であり、さらに好ましくは6質量%以下である。
【0050】
製膜溶液に含まれる膜形成ポリマー(B)の濃度は、製膜溶液の総量に対して、5質量%以上であることが好ましく、より好ましくは8質量%以上であり、さらに好ましくは10質量%以上である。一方、50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは30質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下である。
【0051】
本開示の製造方法の製膜溶液には、その他成分を含んでいてもよい。
【0052】
本開示の多孔質膜は、親水性ならびに優れたファウリング抑制能を長期間に渡って発揮することができ、良好な透水性や透水保持性を有する。
【0053】
本開示の多孔質膜は、様々な水処理において用いることができる。例えば、超純水製造システム、排水回収システムをはじめとする各種水処理システムがあり、精密ろ過膜、言外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜、イオン交換膜など、その特性に応じて好適に用いることができる。
【実施例0054】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0055】
<重量平均分子量>
装置:HLC-8320GPC(東ソー株式会社製)
検出器:RI
カラム:TSKgelSuperAWM-H×2(東ソー株式会社製)
カラム温度:40℃
流速:0.3ml/min
検量線:標準ポリスチレン(東ソー株式会社製)
溶離液:10mM臭化リチウムジメチルホルムアミド溶液
【0056】
<水接触角>
接触角測定器(協和界面化学社製「FACE 接触角計 CA-X」)を用いて、JIS R3257:1999に準拠して測定した。滴下後30秒後の純水と、多孔質膜との接触角を3回測定した平均値を水接触角とした。
【0057】
<熱分解開始温度(DyTGA)>
作製した重合体のDyTGAは、これら重合体に対するダイナミックTG測定により求めた。具体的には、以下のとおりである。
差動型示差熱天秤装置(リガク製、Thermo plus2 Tg-8120)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から500℃まで昇温した。このとき、昇温中のサンプルの質量減少速度が0.005質量%/秒以下の場合は昇温速度を10℃/分として、0.005質量%/秒を超える場合は、質量減少速度が0.005質量%/秒以下を保つように階段状等温制御を併用して、昇温した。上記質量減少速度を保つために最初に階段状等温制御とした温度(階段状等温制御とした最も低い温度)を、重合体のDyTGAとした。
【0058】
<実施例1>
7.0質量部のグリセロールモノメタクリレート(GLMM)および28.0質量部のメタクリル酸メチル(MMA)65.0質量部のメチルエチルケトンおよび0.35質量部の2,2‘-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)を反応容器に収容し、容器内を窒素置換した。次に、容器を80℃のオイルバスにより6時間加熱して、GLMMとMMAとの溶液重合を進行させた。次に、形成された重合溶液を過剰のメタノールに投入して再沈殿させた後、得られた沈殿物を圧力0.13kPa、温度160℃の条件下で1時間真空乾燥して揮発成分を除去し、重合体(A)として固体状の重合体(1)を得た。重合体(1)の分子量は43,000であり、重合体(1)におけるGLMM単位の含有率は20質量%であり、MMA単位の含有率は80質量%であった。重合体(1)の熱分解開始温度は248℃であった。
【0059】
<比較例1>
GLMMの代わりにヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法にて固体状の重合体(2)を得た。重合体(2)の分子量は27,000であり、重合体(1)におけるHEMA単位の含有率は20質量%であった。重合体(2)の熱分解開始温度は199℃であった。
【0060】
【0061】
<実施例2>
重合体(A)として実施例1で得られた重合体(1)20質量部をグリセリントリアセテート(GTA)80質量部をガラス製容器に収容し、200℃のバスにより撹拌しながら加熱して重合体(1)のGTA溶液を作成した。次に膜形成ポリマー(B)としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)20質量部とグリセリントリアセテート(GTA)80質量部とをガラス製容器に収容し、200℃のバスにより撹拌しながら加熱してPVDFとGTAの混合物を作成した。その後、重合体(1)のGTA溶液10質量部とPVDFとGTAの混合物90質量部をガラス製容器に収容し、200℃のバスにより撹拌しながら加熱して重合体(1)とPVDFとGTAの混合物を作成した。
得られた重合体(1)とPVDFとGTAの混合物を150μmの厚みになるように秤量してアルミニウム板に載せたものをガラス製平底容器に静置して200℃のアルミブロックで加熱した。5分後に混合物は分散状態で溶融して膜となった。重合体(1)とPVDFとGTAの複合膜をアルミニウム板毎取り出して23℃にて放冷した後、エタノール中に1時間浸漬後溶媒を交換する操作を3回行い潜在溶媒であるGTAを除去し、圧力0.13kPa、温度23℃の条件下で4時間真空乾燥を行って、10質量%の重合体(A)と90質量%の膜形成ポリマー(B)を含む多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の水接触角を測定したところ115°であった。
【0062】
<実施例3>
重合体(A)として実施例1で得られた重合体(1)15質量部をグリセリントリアセテート(GTA)85質量部をガラス製容器に収容し、200℃のバスにより撹拌しながら加熱して重合体(1)のGTA溶液を作成した。次に膜形成ポリマー(B)としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)15質量部とグリセリントリアセテート(GTA)85質量部とをガラス製容器に収容し、200℃のバスにより撹拌しながら加熱してPVDFとGTAの混合物を作成した。その後、重合体(1)のGTA溶液10質量部とPVDFとGTAの混合物90質量部をガラス製容器に収容し、200℃のバスにより撹拌しながら加熱して重合体(1)とPVDFとGTAの混合物を作成した。
得られた重合体(1)とPVDFとGTAの混合物を150μmの厚みになるように秤量してアルミニウム板に載せたものをガラス製平底容器に静置して200℃のアルミブロックで加熱した。5分後に混合物は透明に溶融して膜となった。重合体(1)とPVDFとGTAの複合膜をアルミニウム板毎取り出して23℃にて放冷した後、エタノール中に1時間浸漬後溶媒を交換する操作を3回行い潜在溶媒であるGTAを除去し、圧力0.13kPa、温度23℃の条件下で4時間真空乾燥を行って、10質量%の重合体(A)と90質量%の膜形成ポリマー(B)を含む多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の水接触角を測定したところ116°であった。
【0063】
<比較例2>
ポリフッ化ビニリデン(PVDF)15質量部とグリセリントリアセテート(GTA)85質量部とをガラス製容器に収容し、200℃のバスにより撹拌しながら加熱してPVDFとGTAの混合物を作成した。このPVDFとGTAの混合物を150μmの厚みになるように秤量してアルミニウム板に載せたものをガラス製平底容器に静置して200℃のアルミブロックで加熱した。5分後に混合物は溶融して膜となった。このPVDFとGTAの複合膜をアルミニウム板毎取り出して23℃にて放冷した後、エタノール中に1時間浸漬後溶媒を交換する操作を3回行い潜在溶媒であるGTAを除去し、圧力0.13kPa、温度23℃の条件下で4時間真空乾燥を行って、100質量%の膜形成ポリマー(B)を含む多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の水接触角を測定したところ130°であった。
【0064】
【0065】
表1、表2の結果から、本開示の親水性付与剤は、良好な耐熱性を有し、親水性に優れることが明らかとなった。