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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155667
(43)【公開日】2023-10-23
(54)【発明の名称】熱量計
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/22 20060101AFI20231016BHJP
【FI】
G01N25/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065126
(22)【出願日】2022-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】501418498
【氏名又は名称】矢崎エナジーシステム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【弁理士】
【氏名又は名称】益頭 正一
(72)【発明者】
【氏名】小澤 尚史
(72)【発明者】
【氏名】名川 良春
(72)【発明者】
【氏名】南 辰志
(72)【発明者】
【氏名】倉橋 香那子
【テーマコード(参考)】
2G040
【Fターム(参考)】
2G040AB12
2G040BA04
2G040BA23
2G040BB09
2G040CA01
2G040DA03
2G040DA11
2G040DA21
2G040EA02
2G040EB02
2G040HA08
2G040HA16
(57)【要約】
【課題】水素を含む燃料ガスの熱量を高精度に測定できる熱量計を提供する。
【解決手段】水素を含む燃料ガスの熱量を測定する熱量計100であって、水素を常温で燃焼させるための触媒122と、触媒122における常温での燃焼による水素の上昇温度を測定する熱電対121と、燃料ガスに含まれる水素以外の可燃性ガスを加熱下で燃焼させるための触媒132と、触媒132を加熱するヒーター134と、触媒132における加熱下での燃焼による可燃性ガスの上昇温度を測定する熱電対131とを備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を含む燃料ガスの熱量を測定する熱量計であって、
前記水素を常温で燃焼させるための第1触媒と、
前記第1触媒における常温での燃焼による前記水素の上昇温度を測定する第1測温体と、
前記燃料ガスに含まれる前記水素以外の可燃性ガスを加熱下で燃焼させるための第2触媒と、
前記第2触媒を加熱する加熱部と、
前記第2触媒における加熱下での燃焼による前記可燃性ガスの上昇温度を測定する第2測温体と
を備える熱量計。
【請求項2】
前記第1測温体により測定された前記水素の上昇温度に基づいて第1熱量を算出し、前記第2測温体により測定された前記可燃性ガスの上昇温度に基づいて第2熱量を算出し、前記第1熱量と前記第2熱量との合計値を算出する算出部を備える請求項1に記載の熱量計。
【請求項3】
前記第1触媒、前記第1測温体の測温接点、前記第2触媒、前記第2測温体の測温接点を収容し、前記燃料ガスが流入する管材を備え、
前記第1触媒、及び前記第2触媒が、前記燃料ガスが前記第1触媒を通過し、前記第1触媒を通過した前記燃料ガスが前記第2触媒を通過するように、前記管材に収容されている請求項1又は2に記載の熱量計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱量計に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料ガスの熱量測定に用いられる熱量計として、燃料ガスの通路内に熱電対と触媒とを設け、通路内を通過する燃料ガスの触媒燃焼による発熱量を熱電対で測定するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の熱量計では、ヒーター用のニクロム線が触媒の周囲に巻回されており、メタン(CH)等の燃料ガスが燃焼温度に加熱される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60-44855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水素(H)を含む燃料ガスの熱量測定に、特許文献1に記載されているような従来の熱量計を用いる場合、水素とメタン等の水素以外の可燃性ガスとの燃焼温度の差を要因として測定誤差が生じることが、本願の発明者等の実験により確認された。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、水素を含む燃料ガスの熱量を高精度に測定できる熱量計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る熱量計は、水素を含む燃料ガスの熱量を測定する熱量計であって、前記水素を常温で燃焼させるための第1触媒と、前記第1触媒における常温での燃焼による前記水素の上昇温度を測定する第1測温体と、前記燃料ガスに含まれる前記水素以外の可燃性ガスを加熱下で燃焼させるための第2触媒と、前記第2触媒を加熱する加熱部と、前記第2触媒における加熱下での燃焼による前記可燃性ガスの上昇温度を測定する第2測温体とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の熱量計によれば、第1触媒における常温での燃焼による水素の上昇温度を第1測温体で測定し、第2触媒における加熱下での燃焼による水素以外の可燃性ガスの上昇温度を第2測温体で測定することにより、水素を含む燃料ガスの熱量を高精度に測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る熱量計を備える測定システムの概略を示すブロック図である。
図2図2は、図1に示す熱量計の構成を示す断面図である。
図3図3は、比較例に係る熱量計の構成を示す断面図である。
図4図4は、比較例に係る熱量計を用いてNo.11~No.15の試験ガスの熱量Q’[J]と上昇温度ΔT[℃]とを測定した結果を示すグラフである。
図5図5は、比較例に係る熱量計を用いてNo.16~No.18の試験ガスの単位体積当たり熱量Q[MJ/Nm]を測定した結果を示すグラフである。
図6図6は、本実施形態に係る熱量計にNo.1~No.4の試験ガスを連続的に供給して水素、メタンの濃度と燃焼による上昇温度ΔT[℃],ΔT[℃]との相関を確認した結果を示す表及びグラフである。
図7図7は、本実施形態に係る熱量計にNo.1~No.4の試験ガスを間欠的に供給して水素、メタンの濃度と燃焼による上昇温度ΔT[℃],ΔT[℃]との相関を確認した結果を示す表及びグラフである。
図8図8は、本発明の他の実施形態に係る熱量計の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を好適な実施形態に沿って説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す実施形態においては、一部構成の図示や説明を省略している箇所があるが、省略された技術の詳細については、以下に説明する内容と矛盾が発生しない範囲内において、適宜公知又は周知の技術が適用される。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係る熱量計100を備える測定システム1の概略を示すブロック図である。この図に示すように、測定システム1は、ガス混合装置10と、熱量計100とを備える。ガス混合装置10は、可燃性ガスと空気とを混合することにより混合ガスを燃料ガスとして熱量計100に供給する。熱量計100は、ガス混合装置10から供給された燃料ガスを燃焼させて発熱量を測定する。
【0011】
ガス混合装置10は、第1配管11と、第2配管12と、第3配管13と、第1流量計14Aと、第2流量計14Bと、第1バルブ15Aと、第2バルブ15Bと、混合器16と、第1レギュレーターR1と、第2レギュレーターR2とを備える。
【0012】
第1配管11は、第1レギュレーターR1と混合器16とを接続し、第1レギュレーターR1を通して供給される可燃性ガスを混合器16まで導く。第1流量計14Aは、第1配管11に設けられ、第1配管11を流れる可燃性ガスの流量を測定する。第1バルブ15Aは、第1配管11における第1流量計14Aより下流側に設けられ、混合器16に供給される可燃性ガスの流量を調整するニードルバルブ等の流量調整バルブである。
【0013】
第2配管12は、第2レギュレーターR2と混合器16とを接続し、第2レギュレーターR2を通して供給される空気を混合器16まで導く。第2流量計14Bは、第2配管12に設けられ、第2配管12を流れる空気の流量を測定する。第2バルブ15Bは、第2配管12における第2流量計14Bより下流側に設けられ、混合器16に供給される空気の流量を調整するニードルバルブ等の流量調整バルブである。
【0014】
混合器16は、第1配管11から供給された可燃性ガスと第2配管12から供給された空気とを混合する。この混合器16には、第3配管13が接続されている。この第3配管13は、混合器16において混合された混合ガスを燃料ガスとして熱量計100に供給する。
【0015】
熱量計100は、燃焼測温部110と、定電圧源(電圧源)102と、データロガー103と、演算装置104とを備える。燃焼測温部110には、第3配管13から燃料ガスが供給される。定電圧源102は、燃焼測温部110に電力を供給する。燃焼測温部110は、定電圧源102から供給される電力により駆動され、第3配管13から供給された燃料ガスを燃焼させて燃焼による燃料ガスの上昇温度を測定する。
【0016】
図2は、図1に示す熱量計100の構成を示す断面図である。この図に示す熱量計100は、第1燃焼測温部120と第2燃焼測温部130とを備え、水素を含む燃料ガスの熱量測定に対応する。
【0017】
第1燃焼測温部120は、燃料ガスに含まれる水素を常温で燃焼させその燃焼による水素の上昇温度ΔT[℃]を測定する。他方で、第2燃焼測温部130は、燃料ガスに含まれるメタン等の水素以外の可燃性ガスを加熱下で燃焼させその燃焼による当該可燃性ガスの上昇温度ΔT[℃]を測定する。
【0018】
燃焼測温部110は、管材111を備える。管材111は縦向きに配されており、管材111の上端に第3配管13が接続されている。管材111は、燃料ガスの燃焼時の温度に対する耐熱性と、燃焼時の燃料ガスの管材111外への放熱を抑える低い伝熱性とを有する管材である。本実施形態の管材111は、内径が4mmの円筒状のセラミックチューブである。なお、管材111の内径は、2mm以上10mm以下が好ましい。また、管材111はステンレスチューブでもよい。
【0019】
管材111には、第1燃焼測温部120と第2燃焼測温部130とが設けられている。第1燃焼測温部120と第2燃焼測温部130とは、燃料ガスの流れ方向に第1燃焼測温部120、第2燃焼測温部130の順で直列に配されている。このため、第3配管13から管材111に供給された燃料ガスは、まず、第1燃焼測温部120を通過する。この際、燃料ガスに含まれる水素が常温で燃焼されその燃焼による水素の上昇温度ΔT[℃]が測定される。そして、第1燃焼測温部120を通過した燃料ガスが、第2燃焼測温部130を通過する。この際、燃料ガスに含まれるメタン等の水素以外の可燃性ガスが、加熱下で燃焼されその燃焼による当該可燃性ガスの上昇温度ΔT[℃]が測定される。
【0020】
第1燃焼測温部120は、熱電対121と、触媒122と、ストッパー部材123とを備える。熱電対121は、熱電対素線121Aと、シース121Bとを備え、ゼーベック効果を利用して温度を測定する。熱電対素線121Aは、一端(図中の上端)に測温接点Pが設けられている。シース121Bは、直線性の高い形状を維持する硬質で細い管材であり、熱電対素線121Aを被覆している。本実施形態のシース121Bは、外径が0.5mmの金属製の管材である。シース121B内には絶縁物が充填されている。熱電対素線121Aの他端(図中の下端)には、不図示の補償導線の一端が接続されている。この補償導線は、管材111の中間部から引き出されており、データロガー103に接続されている。ここで、管材111の中間部には、補償導線が挿通される孔と、当該孔と補償導線との隙間を塞ぐ気密シール部とが形成されている(共に図示省略)。なお、本実施形態の熱電対121は、非接地型であるが、熱電対121を接地型や露出型に変えてもよい。
【0021】
触媒122は、第1燃焼測温部120の燃焼室に充填された顆粒状の触媒である。触媒122の粒径は、粉末の粒径に比して数十倍~数百倍と大きい。触媒122の粒径は、100μm未満に篩にかけて整粒するのは困難であり、1000μmより大きくすると管材111の内径と近くなって水素との接触が悪くなるという観点から、100μm以上1000μm以下が好ましく、355μm以上420μm以下がより好ましい。また、触媒122は、水素を常温(室温)で燃焼させることが可能なものであり、例えば、アルミナ担持白金触媒(Pt-Al)等の金属酸化物担持白金触媒を例示できる。ここで、0.2質量%の白金をアルミナ担体が担持した触媒(0.2%Pt-Al触媒)を用いて、1000ppmの水素を燃焼させた場合に、燃焼開始温度が室温(room temp)となることが知られている(貞森 博己、「特殊燃焼技術特集 触媒燃焼技術の現状 触媒燃焼バーターを中心として」、燃料協会誌 第58巻第626号(1979) 1979年6月発行 422~423頁)。
【0022】
第1燃焼測温部120の燃焼室に充填された触媒122の質量及び充填高さは、測温接点Pが触媒122から露出するように適宜設定すればよく、例えば、管材111の内径が4mmの場合で0.075g、約3mm等である。なお、測温接点Pが触媒122から露出することは必須ではなく、触媒122が測温接点Pを覆うように第1燃焼測温部120の燃焼室に充填されてもよい。
【0023】
シース121Bの一端側(図中の上端側)の表面には、触媒層121Sが測温接点Pを覆うように形成されている。この触媒層121Sは、アルミナ担持白金触媒等の水素を常温で燃焼させる触媒により構成された塗膜である。触媒層121Sの形成方法としては、粉末状の触媒と蒸留水等とを混合した液状の触媒をシース121Bに塗布して乾燥させる方法を例示できる。
【0024】
触媒層121Sのシース121Bの一端(先端)からの長さは例えば約1mmであり、触媒層121Sは、測温接点Pの位置を含むシース121Bの一端から約1mmの範囲を覆っている。この触媒層121Sの大部分又は全体は触媒122から露出している。なお、触媒層121Sが触媒122から露出することは必須ではなく、触媒層121Sは触媒122に覆われるように配されてもよい。また、触媒層121Sを設けることは必須ではない。
【0025】
ストッパー部材123は、第1燃焼測温部120の燃焼室の下側に配されている。このストッパー部材123は、管材111の内周面に嵌合したステンレス等の金属製の板であり、不図示の複数の通気孔が形成されている。この通気孔の直径は、触媒122の粒径(平均値)よりも小さい。これにより、燃料ガスは、通気孔は通過するが、触媒122は、通気孔を通過せずにストッパー部材123の上に堆積する。本実施形態のストッパー部材123は円板である。また、本実施形態のストッパー部材123の厚みは約1mmである。さらに、本実施形態のストッパー部材123の通気孔の直径は0.3mmである。なお、ストッパー部材123は、ガラスウールにより構成してもよい。
【0026】
第2燃焼測温部130は、熱電対131と、触媒132と、ストッパー部材133と、ヒーター134とを備える。熱電対131は、熱電対121と同様の構成であり、熱電対素線131Aと、シース131Bとを備え、ゼーベック効果を利用して温度を測定する。熱電対素線131Aは、一端(図中の上端)に測温接点Pが設けられている。熱電対素線131Aの他端(図中の下端)には、不図示の補償導線の一端が接続されている。この補償導線は、管材111の下流端(図中の下端)から引き出されており、データロガー103に接続されている。ここで、管材111の下流端には、補償導線が挿通される孔と、当該孔と補償導線との隙間を塞ぐ気密シール部とが形成されている(共に図示省略)。また、管材111の下流端には、不図示の排気孔が形成されている。なお、本実施形態の熱電対131は、非接地型であるが、熱電対131を接地型や露出型に変えてもよい。
【0027】
触媒132は、第2燃焼測温部130の燃焼室に充填された顆粒状の触媒である。触媒132の粒径は、粉末の粒径に比して数十倍~数百倍と大きい。触媒132の粒径は、100μm未満に篩にかけて整粒するのは困難であり、1000μmより大きくすると管材111の内径と近くなって可燃性ガスとの接触が悪くなるという観点から、100μm以上1000μm以下が好ましく、355μm以上420μm以下がより好ましい。また、触媒132は、メタン等の燃料ガスに含まれる水素以外の可燃性ガスを加熱下で燃焼させることが可能な触媒であり、例えば、パラジウム(Pd)や白金(Pt)等の金属や金属酸化物が担持したもの等である。
【0028】
第2燃焼測温部130の燃焼室に充填された触媒132の質量及び充填高さは、測温接点Pが触媒132から露出するように適宜設定すればよく、例えば、管材111の内径が4mmの場合で0.075g、約3mm等である。なお、測温接点Pが触媒132から露出することは必須ではなく、触媒132が測温接点Pを覆うように第2燃焼測温部130の燃焼室に充填されてもよい。
【0029】
シース131Bの一端側(図中の上端側)の表面には、触媒層131Sが測温接点Pを覆うように形成されている。この触媒層131Sは、パラジウムや白金等の触媒により構成された塗膜とすればよい。この触媒層131Sの形成方法としては、粉末状の触媒と蒸留水等とを混合した液状の触媒をシース131Bに塗布して乾燥させる方法を例示できる。
【0030】
この触媒層131Sのシース131Bの一端(先端)からの長さは例えば約1mmとすればよく、測温接点Pの位置を含むシース131Bの一端から約1mmの範囲を覆うようにすればよい。この触媒層131Sの大部分又は全体が触媒132から露出するようにしてもよく、この触媒層131Sが触媒132に覆われるようにしてもよい。なお、触媒層131Sを設けることは必須ではない。
【0031】
ストッパー部材133は、第2燃焼測温部130の燃焼室の下側に配されている。このストッパー部材133は、管材111の内周面に嵌合したステンレス等の金属製の板であり、不図示の複数の通気孔が形成されている。この通気孔の直径は、触媒132の粒径(平均値)よりも小さい。これにより、燃料ガスは、通気孔は通過するが、触媒132は、通気孔を通過せずにストッパー部材133の上に堆積する。本実施形態のストッパー部材133は円板である。また、本実施形態のストッパー部材133の厚みは約1mmである。さらに、本実施形態のストッパー部材133の通気孔の直径は0.3mmである。なお、ストッパー部材133は、ガラスウールにより構成してもよい。
【0032】
ヒーター134は、管材111が挿通されたコイル型のヒーターである。このヒーター134のコイル部134Aは、少なくとも管材111の第2燃焼測温部130の燃焼室を含む範囲の周囲に巻回されている。コイル部134Aは、リード部134Bを介して定電圧源102に接続されており、定電圧源102から電圧を印加されることにより発熱する。コイル部134Aが定電圧源102から電圧を印加されることにより発熱すると、触媒132が所定の温度に加熱される。なお、コイル部134Aは、管材111の第1燃焼測温部120の燃焼室から離間して配されており、第1燃焼測温部120の触媒122は、ヒーター134により加熱されることはなく、常温に維持される。
【0033】
燃焼測温部110は、不図示の保護容器に収容されている。この保護容器は、例えば風の影響により、熱電対121,131の測定温度が変動することを抑制している。この保護容器には、燃料ガスの燃焼で発生した排ガスを保護容器外へ排出するための排気孔が設けられている。
【0034】
データロガー103は、熱電対121から出力される信号、即ち、第1燃焼測温部120の触媒122及び触媒層121Sでの水素の燃焼による上昇温度ΔT[℃]を記録する。また、データロガー103は、熱電対131から出力される信号、即ち、第2燃焼測温部130の触媒132での水素以外の可燃性ガスの燃焼による上昇温度ΔT[℃]を記録する。
【0035】
演算装置104は、データロガー103の記録内容に基づいて燃焼測温部110に供給された燃料ガスの燃焼時の発熱量を演算する。発熱量を演算するに際し、演算装置104には、第1流量計14A及び第2流量計14B(図1参照)の測定値も入力される。演算装置104としては、例えばPC(Personal Computer)を用いることができる。
【0036】
以上のような構成の熱量計100において、演算装置104は、熱電対121,131により測定されてデータロガー103に記録された上昇温度ΔT[℃],ΔT[℃]に基づいて、燃料ガスの燃焼時の発熱量を演算する。演算装置104には、熱電対121,131の測定温度の変化と燃料ガスの燃焼時の発熱量との相関関係を示す相関データが記憶されており、演算装置104は、この相関データを利用して、燃料ガスの燃焼時の発熱量を演算する。
【0037】
具体的には、制御装置(図示省略)が、図1に示す第1バルブ15A、第2バルブ15B、及び混合器16を制御し、可燃性ガスを第1配管11に流し、空気を第2配管12に流し、可燃性ガスと空気とを混合器16にて混合する。これにより、所定濃度の可燃性ガスを含む燃料ガスを生成する。この燃料ガスは、第3配管13を通じて熱量計100に供給される。この際、第1流量計14Aは、第1配管11を流れる可燃性ガスの流量を測定して測定情報を演算装置104に出力し、第2流量計14Bは、第2配管12を流れる空気の流量を測定して測定情報を演算装置104に出力する。
【0038】
定電圧源102はヒーター134に電圧を印加しており、第2燃焼測温部130の熱電対131のベース温度は例えば250~400℃程度となる。この状態において、燃料ガスに含まれる水素以外の可燃性ガスの燃焼時の発熱によって熱電対131の測温接点Pの周囲の温度が上昇する。熱電対131は、測温接点Pの周囲の温度に応じた信号をデータロガー103に送信し、データロガー103はこれを記憶する。
【0039】
他方で、第1燃焼測温部120の熱電対121のベース温度は常温である。この状態において、燃料ガスに含まれる水素の燃焼時の発熱によって熱電対121の測温接点Pの周囲の温度が上昇する。熱電対121は、測温接点Pの周囲の温度に応じた信号をデータロガー103に送信し、データロガー103はこれを記憶する。
【0040】
演算装置104は、予め記憶している相関データと、データロガー103が記憶した熱電対121,131の測温情報と、第1流量計14A及び第2流量計14Bの流量情報とから、燃料ガスの燃焼時の発熱量を演算する。ここで、演算装置104は、熱電対121から出力されてデータロガー103に記憶された水素の燃焼による上昇温度ΔT[℃]と、第1流量計14A及び第2流量計14Bの流量情報とから、熱量Qを算出する。また、演算装置104は、熱電対131から出力されてデータロガー103に記憶された水素以外の可燃性ガスの燃焼による上昇温度ΔT[℃]と、第1流量計14A及び第2流量計14Bの流量情報とから、熱量Qを算出する。そして、演算装置104は、熱量Qと熱量Qとを合計する。
【0041】
以下、本実施形態に係る熱量計100の熱量測定の精度を確認するために実施された実験について説明する。本実験では、比較例に係る熱量計100Cを用いた試験ガスの熱量測定と、本実施形態に係る熱量計100を用いた試験ガスの熱量測定とを実施した。
【0042】
図3は、比較例に係る熱量計100Cの構成を示す断面図である。この図に示すように、比較例に係る熱量計100Cの燃焼測温部110Cは、第1燃焼測温部120(図2参照)を備えず、第2燃焼測温部130を備える。即ち、比較例の燃焼測温部110Cでは、常温での水素の燃焼及びその燃焼による水素の上昇温度ΔT[℃]の測定は行われず、相対的に高温(本実験では330℃)での試験ガスの燃焼及びその燃焼による試験ガスの上昇温度ΔT[℃]の測定が行われる。
【0043】
この比較例に係る熱量計100Cの燃焼測温部110Cに以下のNo1.~No.5の5種類の試験ガスを供給して当該試験ガスの燃焼による熱量Q’[J]と上昇温度ΔT[℃]とを測定した。
No.11:単位体積当たり発熱量=32MJ/Nm、H=0%、CH=100%
No.12:単位体積当たり発熱量=36MJ/Nm、H=0%、CH=100%
No.13:単位体積当たり発熱量=40MJ/Nm、H=0%、CH=100%
No.14:単位体積当たり発熱量=43MJ/Nm、H=0%、CH=100%
No.15:単位体積当たり発熱量=45MJ/Nm、H=0%、CH=100%
【0044】
図4は、比較例に係る熱量計100Cを用いてNo.11~No.15の試験ガスの熱量Q’[J]と上昇温度ΔT[℃]とを測定した結果を示すグラフである。このグラフに示すように、燃料ガスの熱量Q’[J]と上昇温度ΔT[℃]との決定係数R=0.998となり、上昇温度ΔT[℃]の測定誤差は最大で0.43%となった。以上により、燃料ガスが水素を含まない場合には、熱量Q’[J]と上昇温度ΔT[℃]とを高精度に測定できることが確認された。
【0045】
比較例に係る熱量計100Cの燃焼測温部110Cに以下のNo.16~No.18の3種類の試験ガスを供給して当該燃料ガスの燃焼による単位体積当たり熱量Q[MJ/Nm]を測定した。
No.16:単位体積当たり発熱量=34.5MJ/Nm、H=20%、CH=80%
No.17:単位体積当たり発熱量=37MJ/Nm、H=10%、CH=90%
No.18:単位体積当たり発熱量=45MJ/Nm、H=20%、CH=80%
【0046】
図5は、比較例に係る熱量計100Cを用いてNo.16~No.18の試験ガスの単位体積当たり熱量Q[MJ/Nm]を測定した結果を示すグラフである。このグラフに示すように、試験ガスの単位体積当たり熱量Q[MJ/Nm]の真値と算出値との間には、最大で10.0%の測定誤差が生じた。具体的には、No.16の試験ガスの単位体積当たり熱量Q[MJ/Nm]については、10.0%の誤差の分だけ真値に対して過小に評価された。また、No.17の試験ガスの単位体積当たり熱量Q[MJ/Nm]については、4.3%の誤差の分だけ真値に対して過小に評価された。さらに、No.18の試験ガスの単位体積当たり熱量Q[MJ/Nm]については、8.4%の誤差の分だけ真値に対して過小に評価された。
【0047】
本実施形態に係る熱量計100に以下のNo1.~No.4の4種類の試験ガスを連続的に供給して水素、メタンの濃度と燃焼による上昇温度ΔT[℃],ΔT[℃]との相関を確認するための実験を実施した。本実験では、3mL/minの流量の試験ガスと97mL/minの流量の空気とを連続的に熱量計100に供給し、第1燃焼測温部120による上昇温度ΔT[℃]の測定と、第2燃焼測温部130による上昇温度ΔT[℃]の測定とを連続的に行った。
No.1:単位体積当たり発熱量=39.9MJ/Nm、H=0%、CH=100%
No.2:単位体積当たり発熱量=34.7MJ/Nm、H=19.2%、CH=80.8%
No.3:単位体積当たり発熱量=26.3MJ/Nm、H=50%、CH=50%
No.4:単位体積当たり発熱量=12.8MJ/Nm、H=100%、CH=0%
【0048】
図6は、本実施形態に係る熱量計100にNo.1~No.4の試験ガスを連続的に供給して水素、メタンの濃度と燃焼による上昇温度ΔT[℃],ΔT[℃]との相関を確認した結果を示す表及びグラフである。これらの表及びグラフに示すように、水素の濃度が高くなるほど、第1燃焼測温部120により測定される上昇温度ΔT[℃]が高くなり、第2燃焼測温部130により測定される上昇温度ΔT[℃]が低くなることが確認された。他方で、メタンの濃度が高くなるほど、第2燃焼測温部130により測定される上昇温度ΔT[℃]が高くなり、第1燃焼測温部120により測定される上昇温度ΔT[℃]が低くなることが確認された。
【0049】
本実施形態に係る熱量計100に上記のNo1.~No.4の試験ガスを間欠的に供給して水素、メタンの濃度と燃焼による上昇温度ΔT[℃]との相関を確認するための実験を実施した。本実験では、85mL/minの流量の空気を連続的に熱量計100に供給しながら体積が0.36mLの燃料ガスを間欠的に熱量計100に供給し、第1燃焼測温部120による上昇温度ΔT[℃]の測定と、第2燃焼測温部130による上昇温度ΔT[℃]の測定とを間欠的に行った。
【0050】
図7は、本実施形態に係る熱量計100にNo.1~No.4の試験ガスを間欠的に供給して水素、メタンの濃度と燃焼による上昇温度ΔT[℃],ΔT[℃]との相関を確認した結果を示す表及びグラフである。これらの表及びグラフに示すように、水素の濃度が高くなるほど、第1燃焼測温部120により測定される上昇温度ΔT[℃]が高くなり、第2燃焼測温部130により測定される上昇温度ΔT[℃]が低くなることが確認された。他方で、メタンの濃度が高くなるほど、第2燃焼測温部130により測定される上昇温度ΔT[℃]が高くなり、第1燃焼測温部120により測定される上昇温度ΔT[℃]が低くなることが確認された。
【0051】
以上説明したように、本実施形態に係る熱量計100の燃焼測温部110は、燃料ガスに含まれる水素を常温で燃焼させてその燃焼による上昇温度ΔT[℃]を測定する第1燃焼測温部120と、燃料ガスに含まれる水素以外の可燃性ガスを加熱下で燃焼させてその燃焼による上昇温度ΔT[℃]を測定する第2燃焼測温部130とを備える。これにより、水素を含む燃料ガスの熱量を、水素の燃焼による上昇温度ΔT[℃]とメタン等の水素以外の可燃性ガスの燃焼による上昇温度ΔT[℃]とに基づいて算出することが可能になる。従って、燃料ガスに水素が含まれることに起因する燃料ガスの熱量測定の精度低下を抑制でき、水素を含む燃料ガスの熱量測定の高精度化を実現できる。
【0052】
また、本実施形態に係る熱量計100では、演算装置104が、第1燃焼測温部120の熱電対121により測定された水素の燃焼による上昇温度ΔT[℃]に基づいて熱量Qを算出し、第2燃焼測温部130により測定された水素以外の可燃性ガスの燃焼による上昇温度ΔT[℃]に基づいて熱量Qを算出し、熱量の合計値(Q+Q)[℃]を算出する。これによって、水素を含む燃料ガスの熱量を、当該熱量に相応した上昇温度ΔT[℃],ΔT[℃]に基づいて高精度に算出することが可能になる。
【0053】
また、本実施形態に係る熱量計100では、第1燃焼測温部120の触媒122、及び第2燃焼測温部130の触媒132が、燃料ガスが第1燃焼測温部120の触媒122を通過し、この触媒122を通過した燃料ガスが第2燃焼測温部130の触媒132を通過するように、管材111に収容されている。即ち、本実施形態に係る熱量計100では、第1燃焼測温部120と第2燃焼測温部130とが直列に接続されている。これによって、燃料ガスに含まれる水素が第1燃焼測温部120において常温で燃焼し、燃料ガスに含まれる水素以外の可燃性ガスが第2燃焼測温部130において加熱下で燃焼する。即ち、燃料ガスに含まれる水素と水素以外の可燃性ガスとが、管材111内の燃焼部を必ず通過する。従って、燃料ガスに含まれる水素と水素以外の可燃性ガスとが、燃焼することなく管材111から排気されることを防止できる。
【0054】
図8は、本発明の他の実施形態に係る熱量計200の構成を示す断面図である。この図に示すように、本実施形態に係る熱量計200は、第1燃焼測温部120と第2燃焼測温部130とが並列に配された燃焼測温部210を備える。この燃焼測温部210は、第1管材211と第2管材212とを備える。
【0055】
第1管材211の一端には、第3配管13が接続されている。また、第2管材212の一端には、第3配管13から分岐した第4配管14が接続されている。第1管材211及び第2管材212は、燃料ガスの燃焼時の温度に対する耐熱性と、燃焼時の燃料ガスの管外への放熱を抑える低い伝熱性とを有する管材である。本実施形態の第1管材211及び第2管材212は、内径が4mmの円筒状のセラミックチューブである。なお、第1管材211及び第2管材212の内径は、2mm以上10mm以下が好ましい。また、第1管材211及び第2管材212はステンレスチューブでもよい。
【0056】
上述したように、本実施形態の燃焼測温部210では、第1燃焼測温部120と第2燃焼測温部130とが燃料ガスの流れ方向に対して並列に配されている。このため、第3配管13から第1管材211に供給された燃料ガスは、第1燃焼測温部120を通過する。この際、燃料ガスに含まれる水素が常温で燃焼されその燃焼による水素の上昇温度ΔT[℃]が測定される。他方で、第4配管14から第2管材212に供給された燃料ガスは、第2燃焼測温部130を通過する。この際、燃料ガスに含まれるメタン等の水素以外の可燃性ガスが、加熱下で燃焼されその燃焼による当該可燃性ガスの上昇温度ΔT[℃]が測定される。
【0057】
以上のような構成の熱量計200において、演算装置104は、熱電対121から出力されてデータロガー103に記憶された水素の燃焼による上昇温度ΔT[℃]と、第1流量計14A及び第2流量計14Bの流量情報とから、熱量Qを算出する。また、熱電対131から出力されてデータロガー103に記憶された水素以外の可燃性ガスの燃焼による上昇温度ΔT[℃]と、第1流量計14A及び第2流量計14Bの流量情報とから、熱量Qを算出する。そして、演算装置104は、算出した熱量Qと熱量Qとを合計する。
【0058】
以上、上記実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、適宜公知や周知の技術を組み合わせてもよい。
【0059】
例えば、上記実施形態では、触媒122,132を顆粒状にしたが、触媒122,132を粉末状にしてもよい。また、管材111、第1管材211、及び第2管材212を縦向きとしたが、管材111、第1管材211、及び第2管材212を横向きにしてもよい。また、燃焼測温部110,210の構造は、上記実施形態の構成には限らず、適宜変更してもよい。
【0060】
また、上記実施形態では、測温体として熱電対121,131を用いたが、測温抵抗体等の他の測温体を用いてもよい。
【符号の説明】
【0061】
100 熱量計
104 演算装置(算出部)
111 管材
121 熱電対(第1測温体)
122 触媒(第1触媒)
131 熱電対(第2測温体)
132 触媒(第2触媒)
134 ヒーター(加熱部)
200 熱量計
P 測温接点
ΔT 上昇温度
ΔT 上昇温度
熱量(第1熱量)
熱量(第2熱量)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8