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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155698
(43)【公開日】2023-10-23
(54)【発明の名称】トランスミッション
(51)【国際特許分類】
   F16H 63/18 20060101AFI20231016BHJP
【FI】
F16H63/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065180
(22)【出願日】2022-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】安田 紀史
(72)【発明者】
【氏名】▲吉▼田 純
(72)【発明者】
【氏名】森田 悠介
(72)【発明者】
【氏名】高見 亮大
【テーマコード(参考)】
3J067
【Fターム(参考)】
3J067AA01
3J067AA21
3J067AB01
3J067AB21
3J067AC05
3J067AC23
3J067BA17
3J067DA33
3J067DA52
3J067DB31
3J067EA04
3J067FB71
3J067GA03
3J067GA05
(57)【要約】
【課題】シフタのカムピンがシフトドラムの案内溝をスムーズに動くことができる、走行車両のためのトランスミッションを提供する。
【解決手段】トランスミッションは、変速操作具19の操作に基づいて回動するとともに、ドラムの表面の周方向に沿って屈曲した案内溝90が形成されているシフトドラム9と、案内溝に挿入されたカムピン69aを有するとともに、シフトドラム9の回動によるカムピン69aの倣い動作により移動するシフタS1、S2により変速段が切り替えられるギヤ式変速装置30とが備えられ、案内溝90の屈曲部分の内側内壁が、案内溝90の延び方向に沿った第1エンドミル機械加工と、第1エンドミル機械加工によって形成された内側内壁の内側内壁曲率半径を拡大させる案内溝90の延び方向に沿った第2エンドミル機械加工とによって形成されている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車両のためのトランスミッションであって、
変速操作具と、
前記変速操作具の操作に基づいて回動するとともに、ドラムの表面の周方向に沿って屈曲した案内溝が形成されているシフトドラムと、
前記案内溝に挿入されたカムピンを有するとともに、前記シフトドラムの回動による前記カムピンの倣い動作により移動するシフタと、
前記シフタの移動により変速段が切り替えられるギヤ式変速装置と、が備えられ、
前記案内溝の屈曲部分の内側内壁が、前記案内溝の延び方向に沿った第1エンドミル機械加工と、前記第1エンドミル機械加工によって形成された内側内壁の内側内壁曲率半径を拡大させる前記案内溝の延び方向に沿った第2エンドミル機械加工とによって形成されているトランスミッション。
【請求項2】
前記屈曲部分の外側内壁の外側内壁曲率半径と前記内側内壁の前記内側内壁曲率半径との比が、2以下である請求項1に記載のトランスミッション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シフトドラムを用いて変速段を切り替えるトランスミッションに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されたトランスミッションでは、変速のための操作具の操作に連動して回転する操作軸に外嵌しているシフトドラムが備えられている。シフトドラムのボス部に設けられたガイド溝(案内溝)に、シフタの連係ピン(カムピン)が差し込まれており、変速段の切り替え時には、シフトドラムの回転によりシフタが変位し、その結果、変速段が切り替えられる。カム孔は、変速段の切り替えに適合した形状に屈曲しながら延びている。特許文献2に開示されたトランスミッションでは、変速のための操作具の操作に連動して回転する操作軸に沿って移動可能に外嵌している移動部材(シフトドラムとシフトフォークとの一体部材)が備えられている。移動部材のボス部に設けられたカム孔(案内溝)に差し込まれた連係ピン(カムピン)が操作軸に固定されているので、変速段の切り替え時には、操作軸の回転により移動部材が移動し、その結果、変速段が切り替えられる。特許文献2のカム孔も、特許文献1のガイド溝と同様に、変速段の切り替えに適合した形状に屈曲しながら延びている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-027320号公報
【特許文献2】特開2007-139170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シフタのカムピンシフトドラムの表面に形成される案内溝は、エンドミルの周方向の機械加工行程によって一定の幅で形成される。変速段の切り替え制御において、シフタの動きを素早くすることで、変速段の切り替えも素早く行われるが、それを実現するには、案内溝の屈曲部の屈曲角度を厳しくする必要がある。屈曲部の屈曲角度が厳しきなると、カムピンが案内溝に対して傾斜した際に、カムピンと案内溝の内外の周壁との接触点と、シフタの変速作用点との間でロック状態が発生し、変速段の切り替え動作が不調となる。
【0005】
上記実情に鑑み、本発明の目的は、シフタのカムピンがシフトドラムの案内溝をスムーズに動くことができる、走行車両のためのトランスミッションを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による、走行車両のためのトランスミッションは、変速操作具と、前記変速操作具の操作に基づいて回動するとともに、周方向に沿って屈曲した案内溝がその表面に形成されているシフトドラムと、前記案内溝に挿入されたカムピンを有するとともに、前記シフトドラムの回動による前記カムピンの倣い動作により移動するシフタと、前記シフタの移動により変速段が切り替えられるギヤ式変速装置と、が備えられ、
前記案内溝の屈曲部分(変曲部分)の内側内壁が、前記案内溝の延び方向に沿った第1エンドミル機械加工と、前記第1エンドミル機械加工によって形成された内側内壁の内側内壁曲率半径を拡大させる前記案内溝の延び方向に沿った第2エンドミル機械加工とによって形成されている。
【0007】
この構成によれば、カムピンと案内溝の内外の周壁とシフタの変速作用点との間でのロック状態が生じやすい案内溝の屈曲部分(変曲部分)における内側内壁の屈曲度を示す内側内壁曲率半径が拡大されるので、当該ロック状態が回避される。これにより、変速段の切り替え制御において、シフタの動きを最適化することが可能となり、良好な変速段の切り替えが実現する。
【0008】
シフトドラムの表面に形成される案内溝は、エンドミルの周方向の機械加工行程により一定の幅をもって形成されるが、案内溝の屈曲部分では、屈曲中心側の周壁である内側内壁の内側内壁曲率半径は、その外側内壁の外側内壁曲率半径より小さくなる。これにより、内側内壁が案内溝における突起部として振る舞う可能性があり、上述したロック状態の発生原因となる。このため、内側内壁曲率半径が、外側内壁曲率半径に近づくように、内側内壁のエンドミルによる機械加工が行われる。しかしながら、余分なエンドミル加工は機械加工作業の負担を大きくするだけでなく、内側内壁曲率半径が拡大され過ぎると、カムピンの案内が不十分となり、カムピンの振れを引き起こす。このことから、好適な外側内壁曲率半径と内側内壁の内側内壁曲率半径との適正な比が、実験的に求められた。つまり、本発明の好適な実施形態では、前記屈曲部分の外側内壁の外側内壁曲率半径と内側内壁の内側内壁曲率半径との比が、2以下、好ましくは1.9以下である。例えば、外側内壁の外側内壁曲率半径が11mmであれば、内側内壁曲率半径が5.5~7mm、好ましくは6mmになるように、言い換えると外側内壁曲率半径と内側内壁の内側内壁曲率半径との比が、2~1.5程度となるように、第2エンドミル機械加工が行われるとよい。このことから本発明の好適な実施形態では、前記屈曲部分の外側内壁の外側内壁曲率半径と前記内側内壁の前記内側内壁曲率半径との比が、1.9以下である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】多目的車両の全体側面図である。
図2】多目的車両のパワートレインを示す平面視の模式図である。
図3】ギヤ式変速装置を示す平面図である。
図4】シフタとシフトドラムの平面図である。
図5】シフトドラムの平面図である。
図6】シフトドラムの表面に形成された案内溝の展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
なお、本明細書では、特に断りがない限り、「前」は機体前後方向(走行方向)に関して前方を意味し、「後」は機体前後方向(走行方向)に関して後方を意味する。また、左右方向または横方向は、機体前後方向に直交する機体横断方向(機体幅方向)を意味する。「上」または「下」は、機体の鉛直方向(垂直方向)での位置関係であり、地上高さに基づく位置関係を示す。
【0011】
以下、本発明の一例である実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1に示す多目的車両(「走行車両」の一例)は、荷の運搬やレクリエーション等の多様な目的に使用可能な車両として構成されている。多目的車両には、駆動可能且つ操向操作可能な走行装置としての左右一対の前車輪11と、駆動可能な走行装置としての左右一対の後車輪12と、が備えられている。つまり、多目的車両の走行機体は、左右一対の前車輪11及び左右一対の後車輪12により走行可能に構成されている。走行機体の中央部には、操縦者が搭乗して運転操作を行う運転部13が備えられている。走行機体の後部には、荷を積載可能な荷台14が備えられている。走行機体における荷台14よりも下方には、原動部15が備えられている。
【0012】
運転部13は、枠状のロプスフレーム16で囲まれて保護されている。運転部13には、操縦者が着座する運転座席17が備えられている。また、運転部13には、左右の前車輪11の操向操作用のステアリングハンドル18、変速レバーとして構成されている変速操作用の変速操作具19、走行速度を変更操作可能なアクセルペダル20、走行機体を制動操作可能なブレーキペダル21、駐車ブレーキ操作可能なパーキングレバー22等が備えられている。原動部15には、水冷式のガソリンエンジン(「エンジン」の一例;以下、エンジン23と略称する)が備えられている。
【0013】
図2には、この多目的車両のパワートレインが示されている。パワートレインには、エンジン23、ベルト式無段変速機構29、変速装置であるノンシンクロタイプのトランスミッション24が含まれている。エンジン23からの動力は、ベルト式無段変速機構29とトランスミッション24とによって変速され、走行装置に伝達される。
【0014】
図2に示すように、エンジン23は、クランク軸が機体横向きになる姿勢で配置されている。エンジン23には、クランク軸と一体の主出力軸25及びクランク軸と一体の副出力軸26が備えられている。主出力軸25の出力は、ベルト式無段変速機構29に入力される。副出力軸26の出力は、オルタネータ等で構成される発電機28を駆動する。
【0015】
ベルト式無段変速機構29の出力を入力するトランスミッション24には、ギヤ式変速装置30、左右の後車輪12の間に速度差を作り出すことが可能な後輪差動機構31、左右の前車輪11の間に速度差を作り出すことが可能な前輪差動機構32、ギヤ式変速装置30からの出力を後輪差動機構31及び前輪差動機構32に伝達する中継伝動装置34等が備えられている。
【0016】
ベルト式無段変速機構29には、遠心クラッチを介してエンジン23の主出力軸25と連動連結可能な駆動軸36に取り付けられた駆動プーリ37と、駆動プーリ37の後方に位置する従動プーリ38と、駆動プーリ37と従動プーリ38とに亘って巻回された無端ベルト39と、が備えられている。
【0017】
ベルト式無段変速機構29は、駆動プーリ37と従動プーリ38の夫々の巻回径がエンジン23の回転速度に応じて変化して、これにより、エンジン23の動力を無段階に変速してギヤ式変速装置30に出力できるようになっている。
【0018】
ギヤ式変速装置30は、ベルト式無段変速機構29の動力を従動プーリ38と一体回転する入力軸40から入力し、入力軸40から入力した動力を変速して、後車輪12側に連動連結されるファイナルギヤ41、及び、前車輪11側に連動連結可能な動力取出軸42に出力可能となっている。
【0019】
後輪差動機構31は、ファイナルギヤ41から入力した動力を、夫々、機体左右方向に沿って延びる後輪駆動軸43を介して、左右の後車輪12に出力する。
【0020】
左右の前車輪11及び左右の後車輪12には、夫々、ディスクブレーキ機構からなるブレーキ装置50が備えられている。各ブレーキ装置50は、マスターシリンダ(図示せず)を介して、ブレーキペダル21(図1参照)に連動連結されている。
【0021】
図2図3に示すように、ギヤ式変速装置30には、動力を伝達する軸として、入力軸40、変速軸51、中継軸52、伝動軸53が備えられている。入力軸40、変速軸51、中継軸52、伝動軸53は、ミッションケース33内に回動可能に支持されている。
【0022】
入力軸40には、前進一速ギヤ機構54の前進一速駆動ギヤ55と、前進二速ギヤ機構56の前進二速駆動ギヤ57と、後進ギヤ機構58の後進駆動ギヤ59と、が入力軸40と一体回転するように固定支持されている。
【0023】
図3に示すように、変速軸51には、前進一速ギヤ機構54の変速段を構成する前進一速従動ギヤ60と、前進二速ギヤ機構56の変速段を構成する前進二速従動ギヤ61と、後進ギヤ機構58の変速段を構成する後進従動ギヤ62とが相対回転可能な状態で支持されている。前進一速従動ギヤ60は、前進一速駆動ギヤ55と常時噛み合っている。前進二速従動ギヤ61は、前進二速駆動ギヤ57と常時噛み合っている。後進従動ギヤ62は、バックギヤ63(図2参照)を介して、後進駆動ギヤ59と常時噛み合っている。
【0024】
変速軸51には、前進一速従動ギヤ60と後進従動ギヤ62との間に、円筒状の第一ボス部材64が、変速軸51と一体回転するように固定支持されている。変速軸51には、第一伝動ギヤ65が、変速軸51と一体回転するように固定支持されている。変速軸51には、第一伝動ギヤ65と前進二速従動ギヤ61との間に、円筒状の第二ボス部材66が、変速軸51と一体回転するように固定支持されている。
【0025】
第一ボス部材64の外周部には、周方向に複数の外歯を有する第一常噛スプライン67が設けられている。第二ボス部材66の外周部には、周方向に複数の外歯を有する第二常噛スプライン68が設けられている。
【0026】
変速軸51上には、複数(例えば3つ)のスプライン機構70が備えられている。スプライン機構70は、各ギヤ機構54,56,58毎に備えられている。各スプライン機構70には、夫々、外スプライン71と、外スプライン71と噛み合い可能な内スプライン72と、が備えられている。
【0027】
ギヤ式変速装置30の変速段の切り替えには、シフトスリーブ73、74とシフトフォーク69、75とからなるシフタが用いられている。シフトスリーブ73、74の周面に形成された中央溝73a、74aにシフトフォーク69、75のフォーク部69b、75bが挟み込まれ、一体的に移動可能である。この実施形態では、2つのシフタ、つまり第一シフタS1と第二シフタS2とが用いられている。第一シフタS1は、第一シフトフォーク69と第一シフトスリーブ73とからなり、第二シフタS2は、第二シフトフォーク75と第二シフトスリーブ74とからなる。
【0028】
具体的には、前進一速ギヤ機構54のスプライン機構70には、前進一速従動ギヤ60の外スプライン71と、前進一速従動ギヤ60の外スプライン71と噛み合い可能な第一シフトスリーブ73の一端側の内スプライン72と、が備えられている。後進ギヤ機構58のスプライン機構70には、後進従動ギヤ62の外スプライン71と、後進従動ギヤ62の外スプライン71と噛み合い可能な第一シフトスリーブ73の他端側の内スプライン72と、が備えられている。前進二速ギヤ機構56のスプライン機構70には、前進二速従動ギヤ61の外スプライン71と、前進二速従動ギヤ61の外スプライン71と噛み合い可能な第二シフトスリーブ74の一端側の内スプライン72と、が備えられている。
【0029】
第一ボス部材64の第一常噛スプライン67には、第一シフトスリーブ73の内スプライン72が常時噛み合っている。第一シフトスリーブ73は、変速操作具19に連動連結される第一シフトフォーク69により、変速軸51の軸方向Xに沿ってスライド移動可能となっている。これにより、第一シフトスリーブ73の内スプライン72を、前進一速従動ギヤ60の外スプライン71、または、後進従動ギヤ62の外スプライン71に噛み合わせることができる。
【0030】
第二ボス部材66の第二常噛スプライン68には、第二シフトスリーブ74の内スプライン72が常時噛み合っている。第二シフトスリーブ74は、変速操作具19に連動連結されている第二シフトフォーク75により、変速軸51の軸方向Xに沿ってスライド移動可能となっている。これにより、第二シフトスリーブ74の内スプライン72を、前進二速従動ギヤ61の外スプライン71に噛み合わせることができる。
【0031】
中継軸52には、第一伝動ギヤ65と常時噛み合う第一被伝動ギヤ76と、第二伝動ギヤ77とが、中継軸52と一体回転するように固定支持されている。
【0032】
図4に示すように、第一シフトフォーク69と第二シフトフォーク75とは、共通の摺動軸78を外嵌している。第一シフトフォーク69と第二シフトフォーク75とは、摺動軸78と変速軸51とによって、軸方向Xに沿ってスライド移動可能支持されている。変速操作具19の操作に基づいて第一シフトフォーク69と第二シフトフォーク75とが軸方向Xに沿って移動することにより、ギヤ式変速装置30の変速段が切り替えられる。
【0033】
図4には、第一シフタS1と第二シフタS2を移動させるシフトドラム9が示されている。シフトドラム9は両端に軸部9aを有し、回動軸芯PR周りで回動可能に、ミッションケース33に支持されている。シフトドラム9は、変速操作具19と、連係機構79を介して連動連結しており、変速操作具19の操作に基づいて回動し、その結果として、ギヤ式変速装置30の変速段が切り替えられる。
【0034】
図5に示すように、シフトドラム9は、円筒体であり、その表面に、2本の案内溝90、つまり第一案内溝91と第二案内溝92が、周方向に沿って形成されている。第一案内溝91には、第一シフトフォーク69のカムピン69aが挿入され、第二案内溝92には、第二シフトフォーク75のカムピン75aが挿入される。
【0035】
図6は、案内溝90の展開図である。案内溝90は、回動軸芯PRの方向で左右に偏位しながら周方向に沿って延びており、結果的に、屈曲線を描いている。その屈曲部BPの形状により、シフタ(第一シフタS1及び第二シフタS2)が軸方向Xに沿って移動する。つまり、シフトドラム9の回動角度により、シフタの位置が決定され、変速段の切り替えが行われる。
【0036】
案内溝90は、エンドミルを用いた機械加工によって、形成される。エンドミル機械加工では、形成されるべき仮想案内溝の延び方向に沿って、エンドミルとシフトドラム9との間で相対的な送りが行われる。この案内溝90を形成する機械加工では、案内溝90の幅に合わせた直径を有するエンドミルが用いられ、エンドミルの横送りとシフトドラム9の回転との組み合わせで、屈曲した案内溝90が形成される。このエンドミル機械加工(第1エンドミル機械加工)では、屈曲部BPの屈曲部分(屈曲点の周辺部分)において、屈曲中心から離れたエンドミルの外側部の加工軌跡に比べて、屈曲中心に近いエンドミルの内側部の加工軌跡は短くなるので、言い換えると、エンドミルの外側部は大回りするのに対して、エンドミルの内側部は小回りするので、屈曲中心の外側の軌跡は、屈曲中心側の周壁である内側内壁の内側内壁曲率半径(図6では「r1」で示されている)は、その外側内壁の外側内壁曲率半径(図6では「r2」で示されている)より小さくなる。このため、このままの状態では、この内側内壁が案内溝90における突起部となり、カムピン69a、75aの案内溝90におけるスムーズな通過を妨げる。これは、カムピン69a、75aと屈曲部BPの外側の周壁との接触点、カムピン69a、75aと屈曲部BPの内側の周壁との接触点、及びシフトフォーク69、75のフォーク部69b、75bとシフトスリーブ73、74の中央溝73a、74aの周壁との接触点、の間で生じるシフタのロック状態の原因となる。
【0037】
この問題を解消するため、内側内壁曲率半径が、外側内壁曲率半径に近づくように、追加的に、少なくとも屈曲部BPの屈曲部分のエンドミル機械加工(第2エンドミル機械加工)が行われる。この追加的な第2エンドミル機械加工により、屈曲部分の外側内壁の外側内壁曲率半径と内側内壁の内側内壁曲率半径との比が、ほぼ2以下、好ましくは1.9~1.5となる。例えば、外側内壁の外側内壁曲率半径が11mmであれば、内側内壁曲率半径が5.5~7mm、好ましくは6mmとする。
【0038】
次に、図3図4とを参照して、変速段切替を具体的に説明する。変速操作具19を前進一速位置に操作すると、シフトドラム9が回動し、第一シフトフォーク69により第一シフトスリーブ73が前進一速従動ギヤ60側へスライド移動され、第一シフトスリーブ73で前進一速従動ギヤ60と第一ボス部材64(変速軸51)とが連動連結される。この際、第二シフトスリーブ74は、前進二速従動ギヤ61とは連動連結されない。これにより、ギヤ式変速装置30は前進一速動力を出力する状態となる。この状態で、アクセルペダル20を踏み込み操作すると、前進一速状態で走行機体の走行が行われる。
【0039】
変速操作具19を前進二速位置に操作すると、シフトドラム9が回動し、第二シフトフォーク75により第二シフトスリーブ74が前進二速従動ギヤ61側へスライド移動され、第二シフトスリーブ74によって前進二速従動ギヤ61と第二ボス部材66(変速軸51)とが連動連結される。この際、第一シフトスリーブ73は、前進一速従動ギヤ60や後進従動ギヤ62とは連動連結されない。これにより、ギヤ式変速装置30は前進二速動力を出力可能な状態が現出される。この状態で、アクセルペダル20を踏み込み操作すると、前進二速状態で走行機体の走行が行われる。
【0040】
変速操作具19を後進位置に操作すると、シフトドラム9が回動し、第一シフトフォーク69により第一シフトスリーブ73が後進従動ギヤ62側へスライド移動され、第一シフトスリーブ73によって後進従動ギヤ62と第一ボス部材64(変速軸51)とが連動連結される。この際、第二シフトスリーブ74は、前進二速従動ギヤ61とは連動連結されない。これにより、トランスミッション24が後進動力を出力する状態となる。この状態で、アクセルペダル20を踏み込み操作すると、後進状態で走行機体の走行が行われる。
【0041】
〔別実施の形態〕
(1)上述した実施形態では、変速操作具19とギヤ式変速装置30のシフトドラム9とは、リンク機構などの連係機構79で機械的にかつ操作変位伝達可能に連結されていたが、バイ・ワイヤ方式を用いることも可能である。バイ・ワイヤ方式が用いられた場合、変速操作具19の操作量を検出する操作検出器からの検出信号に基づいて、シフトドラム9のアクチュエータに駆動信号が送られ、シフトドラム9が回動し、変速段が切り替えられる。
【0042】
(2)上述した実施形態では、シフタは、シフトスリーブ73、74の中央溝73a,74aにシフトフォーク69、75が係入連結される構成であったが、このような構成に限定されない。例えば、シフトスリーブ73、74とシフトフォーク69、75とが一体構成されてもよい。また、シフタはさらに分割された構成体であってもよい。
【0043】
(3)上述した実施形態では、ベルト式無段変速機構29が設けられていたが、油圧式無段変速機構が採用されてもよいし、無段変速機構を省略して、単なるメインクラッチ機構が採用されてもよい。
【0044】
(4)上述した実施形態では、走行装置は、左右一対の前車輪11と左右一対の後車輪12車輪とから構成されていたが、三輪タイプや二輪タイプで構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、シフトドラムを用いて変速段切替されるギヤ式変速装置を備えた走行車両に適用される。
【符号の説明】
【0046】
9 :シフトドラム
9a :軸部
19 :変速操作具
29 :ベルト式無段変速機構
30 :ギヤ式変速装置
51 :変速軸
52 :中継軸
53 :伝動軸
54 :前進一速ギヤ機構(変速段)
56 :前進二速ギヤ機構(変速段)
58 :後進ギヤ機構(変速段)
69 :第一シフトフォーク(シフトフォーク)
69a :カムピン
69b :フォーク部
79 :連係機構
90 :案内溝
91 :第一案内溝
92 :第二案内溝
BP :屈曲部
PR :回動軸芯
S1 :第一シフタ
S2 :第二シフタ
X :軸方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6