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特開2023-155756直動案内装置用のテープ及び上面カバーの設置方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155756
(43)【公開日】2023-10-23
(54)【発明の名称】直動案内装置用のテープ及び上面カバーの設置方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 29/08 20060101AFI20231016BHJP
   F16C 29/06 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
F16C29/08
F16C29/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065269
(22)【出願日】2022-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢野 吉章
【テーマコード(参考)】
3J104
【Fターム(参考)】
3J104AA03
3J104AA23
3J104AA24
3J104AA67
3J104AA69
3J104AA72
3J104AA76
3J104AA77
3J104BA63
3J104DA18
3J104EA01
(57)【要約】
【課題】案内レールにおける上面カバーの非装着部から装着部へとスライダを移動させた場合でも、サイドシールや上面カバーの損傷等を抑制できる直動案内装置用のテープ及び上面カバーの設置方法を提供する。
【解決手段】直動案内装置は、案内レールと、案内レールに対して軸方向に相対移動するように配置されたスライダと、スライダの移動方向端部に取り付けられ、案内レールの上面に当接するシールリップを備えたサイドシールと、案内レール上に設置された上面カバーと、を有する。テープは、案内レールと上面カバーとの間に跨って配置可能となっている。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直動案内装置用のテープであって、
前記直動案内装置は、案内レールと、前記案内レールに対して軸方向に相対移動するように配置されたスライダと、前記スライダの移動方向端部に取り付けられ、前記案内レールの上面に当接するシールリップを備えたサイドシールと、前記案内レール上に設置された上面カバーと、を有し、
前記テープは、前記案内レールと前記上面カバーとの間に跨って配置可能となっている、ことを特徴とする直動案内装置用のテープ。
【請求項2】
前記テープは、複数枚積層された状態で、前記案内レールの長手方向に沿って端部をずらしながら配置可能である、
ことを特徴とする請求項1に記載の直動案内装置用のテープ。
【請求項3】
前記テープは、所定量だけ前記端部をずらして積層する際に使用する位置決めマークを有する、
ことを特徴とする請求項2に記載の直動案内装置用のテープ。
【請求項4】
前記テープは、前記案内レールに対して位置決めする際に使用する位置決めマークを有する、
ことを特徴とする請求項3に記載の直動案内装置用のテープ。
【請求項5】
前記シールリップが前記テープに当接したときに、前記シールリップの当接面と前記テープの端面とのなす角が45度以上である、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の直動案内装置用のテープ。
【請求項6】
前記テープは、剥離可能な接着剤により前記案内レールと前記上面カバーに貼り付け可能である、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の直動案内装置用のテープ。
【請求項7】
直動案内装置の案内レールに第1の上面カバーを設置する工程と、
前記案内レールと前記第1の上面カバーとの間に跨ってテープを貼り付ける工程と、
前記テープを通過して、前記第1の上面カバーが設置されていない前記案内レール上から、前記第1の上面カバーが設置された前記案内レール上へと、シールリップを備えたスライダを移動させる工程と、
前記テープを剥がす工程と、
前記第1の上面カバーが設置されていない前記案内レール上に第2の上面カバーを設置する工程と、を有する、
ことを特徴とする上面カバーの設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直動案内装置用のテープ及び上面カバーの設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、テーブル等の被駆動体を駆動させる直動案内装置が、工作機械等に使用されている。一般的な直動案内装置は、軸方向に延びるレール側転動体転動溝を両側面に有するとともに取付けボルトを用いて基台に固定される案内レールと、テーブル等の被駆動体が取り付けられ案内レールへ相対移動可能に跨架されるスライダとを備えている。
【0003】
案内レールには、上下方向に貫通する複数の貫通孔が設けられ、これらの貫通孔に挿通した取付けボルトを締結することにより、案内レールが基台の上面に固定される。
【0004】
一方、スライダは、レール側転動体転動溝と対向するスライダ側転動体転動溝を有しており、レール側転動体転動溝及びスライダ側転動体転動溝から形成される負荷転動路内には、複数の転動体が転動自在に配置されている。
【0005】
直動案内装置の作動時には、負荷転動路内に装填された複数の転動体が転動することにより、スライダが案内レールと低フリクションで相対移動する。
【0006】
このような構成の直動案内装置において、案内レールの上面、特に取付けボルトが締結された状態の貫通孔内に塵や切屑等が堆積し、この堆積した塵や切屑等が負荷転動路内に侵入するという問題がある。塵や切屑等が負荷転動路内に侵入すると、転動体の円滑な転動が妨げられてしまうため、スライダの円滑な移動が妨げられるおそれがある。そこで、案内レールの上面に、貫通孔の開口部を閉塞する上面カバーを取り付けて、防塵性能を向上させている。
【0007】
直動案内装置では、使用条件に応じて長大なストロークのものが必要とされる場合に、複数本の案内レールを、スライダと案内レールとの相対移動方向に突き合わせて連結することにより、直動案内装置のストロークを延長している。このように複数本の案内レールを連結した場合、直動案内装置の防塵性能を向上させるためには、例えば、特許文献1に記載されているように、複数枚の上面カバーを凹部と凸部の係合により長手方向に連結させて長尺の上面カバーを形成し、この形成した長尺の上面カバーを案内レールの上面に取り付けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007-205490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、従来の直動案内装置において、スライダと案内レールの組合せ状態にて走り精度を確認しながら機台ベースに案内レールを固定ボルトで固定したのち、スライダを案内レールから仮軸を使って抜き取り、上面カバーを案内レールに装着したのちにもう一度スライダを案内レールに挿入することがある。
【0010】
具体的には、工作機械、特にマシニングセンタでは、XYZ軸のテーブルユニットを組んだ後、XYZ軸の組合せによる主軸の運動精度を検査することがあるが、主軸の運動精度が悪いという検査結果が出れば、リニアガイドの分解及び再組立を行う場合がある。かかる場合、上面カバー付きの直動案内装置では、
(1)XYZのテーブル部(スライダ締結状態)ごと案内レールから取り外した後に、案内レールから上面カバーを取り外すか、もしくは
(2)テーブル部を油圧シリンダなどで支えた状態でテーブル部からスライダを取り外して案内レールからスライダを抜き取った後に、案内レールから上面カバーを取り外すことが必要になる。
【0011】
さらに、上面カバー以外を再組立てした後、案内レールの走り精度を調整後、再び(1)または(2)の工程で、スライダを案内レールから抜き取って上面カバーを案内レールに装着し、その後にスライダを再度、案内レールに装着して再組立てしてから、走り精度を確認するなどの必要があった。
【0012】
このような調整を行う場合、特許文献1の直動案内装置では以下に述べる問題がある。まず、上面カバーの装着部と非装着部にできる段差が大きく、上面カバーの非装着部から装着部にスライダを移動させようとすると、サイドシールが引っかかってスライダがストップしてしまうおそれがある。このとき、無理にスライダを上面カバーの非装着部から装着部にストロークさせると、サイドシールや上面カバーが損傷してしまう恐れがある。さらに、レール上面カバーとレール上面カバーの境目に、案内レールの軸方向に対して垂直方向の直線部分があり、そこに締め代を有するサイドシールのリップ部が引っかかって損傷する恐れがある。
【0013】
本発明は上記課題に鑑みてなされたもので、案内レールにおける上面カバーの非装着部から装着部へとスライダを移動させた場合でも、サイドシールや上面カバーの損傷等を抑制できる直動案内装置用のテープ及び上面カバーの設置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題は、例えば、本発明が以下の構成を有することにより解決される。
(1) 直動案内装置用のテープであって、
前記直動案内装置は、案内レールと、前記案内レールに対して軸方向に相対移動するように配置されたスライダと、前記スライダの移動方向端部に取り付けられ、前記案内レールの上面に当接するシールリップを備えたサイドシールと、前記案内レール上に設置された上面カバーと、を有し、
前記テープは、前記案内レールと前記上面カバーとの間に跨って配置可能となっている、ことを特徴とする直動案内装置用のテープ。
(2) 前記テープは、複数枚積層された状態で、前記案内レールの長手方向に沿って端部をずらしながら配置可能である、
ことを特徴とする(1)に記載の直動案内装置用のテープ。
(3) 前記テープは、所定量だけ前記端部をずらして積層する際に使用する位置決めマークを有する、
ことを特徴とする(2)に記載の直動案内装置用のテープ。
(4) 前記テープは、前記案内レールに対して位置決めする際に使用する位置決めマークを有する、
ことを特徴とする(3)に記載の直動案内装置用のテープ。
(5) 前記シールリップが前記テープに当接したときに、前記シールリップの当接面と前記テープの端面とのなす角が45度以上である、
ことを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載の直動案内装置用のテープ。
(6) 前記テープは、剥離可能な接着剤により前記案内レールと前記上面カバーに貼り付け可能である、
ことを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載の直動案内装置用のテープ。
(7) 直動案内装置の案内レールに第1の上面カバーを設置する工程と、
前記案内レールと前記第1の上面カバーとの間に跨ってテープを貼り付ける工程と、
前記テープを通過して、前記第1の上面カバーが設置されていない前記案内レール上から、前記第1の上面カバーが設置された前記案内レール上へと、シールリップを備えたスライダを移動させる工程と、
前記テープを剥がす工程と、
前記第1の上面カバーが設置されていない前記案内レール上に第2の上面カバーを設置する工程と、を有する、
ことを特徴とする上面カバーの設置方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、案内レールにおける上面カバーの非装着部から装着部へとスライダを移動させた場合でも、サイドシールや上面カバーの損傷等を抑制できる直動案内装置用のテープ及び上面カバーの設置方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の実施形態に係る直動案内装置の斜視図である。
図2図2は、図1に示す直動案内装置のスライダの斜視図である。
図3図3は、本実施形態における、シールユニットの構成を説明するための分解図である。
図4図4は、図2のA-A線断面図である。
図5図5は、図4のB-B線断面図である。
図6図6(a)は、2つのスライダを単一の案内レール上に取り付けた状態で示す上面図であり、図6(b)は、その側面図である。
図7図7は、上面カバー及び案内レールに貼り付けられた状態を想定したテープの上面図である。
図8図8は、上面カバー及び案内レールに貼り付けられた状態でのテープの側面図である。
図9図9(a)~(c)は、シールリップとテープを拡大して側面視した概略図である。
図10図10(a)は、変形例にかかる上面カバーの一部を案内レールに組付けた状態で、Y軸方向に見た図であり、図10(b)は、変形例にかかるテープの一部を案内レールに貼り付けた状態で、Y軸方向に見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。まず、本実施形態に係る直動案内装置11の基本的構造について説明する。
【0018】
図1は、本実施形態に係る直動案内装置11の斜視図であり、図2は、図1に示す直動案内装置11のスライダ15の斜視図である。なお、互いに直交するXYZ直交座標系において、X軸方向を案内レール13の幅方向とし、Y軸方向を案内レール13の長手方向とし、Z軸方向を案内レール13及びスライダ15の高さ方向とする。
【0019】
本実施形態に係る直動案内装置11は、案内レール13と、案内レール13に対して移動するスライダ15と、不図示の転動体及び保持器、及び案内レール13とスライダ15との間の隙間を塞ぐシール部材と、を有する。複数の転動体は、案内レール13とスライダ15との間に形成される転動体転動路と、スライダ15内部に設けられる戻り孔、エンドキャップ内に形成される方向転換路と、で構成される転動体路に沿って転動自在に配置され、それにより案内レール13に対してスライダ15が軸方向に移動可能である。
【0020】
ここで、シール部材とは、スライダ15の移動方向端部に取り付けられるサイドシール41、及び図示しない底面シール、アンダーシール、インナーシールの総称である。
【0021】
案内レール13の側面部には、案内レール13の長手方向に沿って一対の案内レール側軌道面(転動体軌道面)19が形成されている。スライダ15は、スライダ本体21と、スライダ本体21の移動方向(長手方向)の両端部に設けられた一対のエンドキャップ23と、を備える。なお、案内レール13の上面の一部には、上面カバー30が貼り付けられている。
【0022】
スライダ15には、エンドキャップ23の長手方向両側にサイドシール41及び端板42がそれぞれ配置され、サイドシール41は、ネジ53によってエンドキャップ23に固定される。
【0023】
スライダ本体21、エンドキャップ23、サイドシール41及び端板42は、いずれもU字形状の断面をなして案内レール13に跨るように設置される。つまり、スライダ本体21、エンドキャップ23、サイドシール41及び端板42には、案内レール13を収容する凹溝が中央に形成されている。サイドシール41及び端板42により、シールユニット50を構成する。
【0024】
エンドキャップ23は、断面コ字形に形成されている。具体的に、エンドキャップ23は、案内レール13と対向する面が、案内レール13の上面と対向する一つの面(下面23a)と、案内レール13の側面と対向する二つの面(内側面23b)と、で形成されている。
【0025】
エンドキャップ23の材料としては、例えば、硬質材料を用いる。硬質材料としては、金属材料(鋼、ステンレス、アルミ、真鍮等)や、樹脂材料(ポリアミド、ポリアセタール等)を用いることができる。
【0026】
また、エンドキャップ23には、Y軸方向の面に4つのねじ孔23cが形成されている。
【0027】
図3は、本実施形態における、シールユニット50の構成を説明するための分解図である。図4は、図2のA-A線断面図である。図5は、図4のB-B線断面図である。
【0028】
(シールユニットの詳細な構成)
図3図5を参照しつつ、シールユニット50の詳細な構成を説明する。
シールユニット50は、サイドシール41及び端板42を備えている。
【0029】
サイドシール41は、エンドキャップ23と端板42との間に配置されており、ケース41aと、ケース41aにより保持されるシールリップ41bと、を含む。図5に示すように、シールリップ41bは、案内レール13の上面に向かって斜めに当接している。ケース41aには、Y軸方向に貫通する4つの貫通孔41cと、グリースニップルにつながる潤滑油孔41dと、が形成されている。ケース41aの材料としては、例えば、硬質材料を用いる。硬質材料としては、金属材料(鋼、ステンレス、アルミ、真鍮等)や、樹脂材料(ポリアミド、ポリアセタール等)を用いることができる。
【0030】
シールリップ41bは、ケース41aの内周に沿ってコ字状に配置され、案内レール13の外面に対し摺動自在に接触する。シールリップ41bの材料としては、例えば、軟質材料を用いる。軟質材料としては、ゴム材料(ニトリルゴム、フッ素ゴム等)や、樹脂材料(ポリエステル系エラストマ等)を用いることができる。
【0031】
端板42には、Y軸方向に貫通する4つの貫通孔42aと、グリースニップルにつながる潤滑油孔42bと、が形成されている。端板42のうち、案内レール13と対向する部分には、サイドシール41のシールリップ41bに対応する隙間(例えば、0.05[mm]~0.5[mm])が形成されている。
【0032】
端板42の材料としては、例えば、金属材料(鋼板、ステンレス板、アルミ板等)を用いる。端板42の材料として金属材料を用いることにより、高温の異物や硬い異物とシールリップ41bとの接触を防止し、シールリップ41bの損傷を抑制する。
【0033】
また、サイドシール41及び端板42は、貫通孔42a、41cを貫通するネジ53をねじ孔23cに螺合させることにより、エンドキャップ23に取り付けられている。
【0034】
図6(a)は、2つのスライダ15を単一の案内レール13上に取り付けた状態で示す上面図であり、図6(b)は、その側面図である。2つのスライダ15上には、テーブル部(不図示)が載置される。
【0035】
工作機械等において、図6(a)及び(b)に示す直動案内装置をXYZ軸のテーブルユニットに組んだ後、XYZ軸の組合せによる主軸の運動精度を検査することがある。ここで、主軸の運動精度が悪いという検査結果が出れば、リニアガイドの分解及び再組立を行う。かかる場合、上面カバー付きの直動案内装置では、
(1)XYZのテーブル部(不図示:スライダ15に締結される)ごと案内レール13から取り外した後に、案内レール13から上面カバー30を取り外すか、もしくは
(2)テーブル部を油圧シリンダなどで支えた状態でテーブル部からスライダ15を取り外して案内レール13からスライダ15を抜き取った後に、案内レール13から上面カバー30を取り外すことが必要になる。
【0036】
さらに、上面カバー30以外を再組立てした後、案内レール13の走り精度を調整後、再び(1)または(2)の工程で、スライダ15を案内レール13から抜き取って上面カバー30を案内レール13に装着し、その後にスライダ15を再度、案内レール13に装着して再組立てしてから、走り精度を確認するなどの必要がある。
【0037】
したがって、上面カバー30を案内レール13に装着した状態で、スライダ15を案内レール13の上面カバー30がない領域から上面カバー30が設置された領域へと移動させる作業が必要になる。しかし、上面カバー30は所定の厚みを有しているため、上面カバー30の端部を通過する際に、スライダ15のサイドシール41のシールリップ41bが、上面カバー30の端部に引っかかって双方を損傷する恐れがある。本実施形態の直動案内装置によれば、かかる不具合を解消できる。
【0038】
本実施形態においては、以下の図8に示すように、上面カバー30の端部から案内レール13の上面にかけて、シール損傷防止用のテープ60をずらしながら複数枚、重ねて配設している。
【0039】
図7は、上面カバー30及び案内レール13に貼り付けられた状態を想定したテープ60の上面図である。テープ60は透明または半透明な樹脂製の膜材から形成され、裏面には接着剤(剥離可能であると望ましい)が塗布されており、上面カバー30及び案内レール13に貼り付けられて用いられる。剥離可能な接着剤によってテープ60を貼り付けることで、不要になった際に容易に剥がすことができる。上面カバー30及び案内レール13に貼り付けられた時に、点線で示す部位が案内レール13の側面側に折り込まれて貼り付けられる。
【0040】
テープ60には、案内レール13の幅方向位置を示す第1位置決めマーク(直線)61と、テープ60のY軸方向の中間位置を示す第2位置決めマーク(直線)62と、テープ60のX軸方向の中間位置を示す第3位置決めマーク(直線)63と、がプリントにより形成されている。各位置決めマークは上記の形状に限られない。
【0041】
テープ60は、上面カバー30及び案内レール13に貼り付けられるとき、第1位置決めマーク61を案内レール13の側縁上に位置させるように正確に位置決めできる。これにより、テープ60が案内レール13のボール転走部に干渉することが回避されることで、ボールへのテープ60の巻き込みに起因するロックなどを抑制でき、スライダ15の損傷を回避できる。また、テープ60を重ねて貼り付けるときは、下側のテープ60の第2位置決めマーク62と、上側のテープ60のY軸方向端部が一致し、かつ双方の第3位置決めマーク63がストレートに並ぶように正確に位置決めできる。これにより、複数枚のテープ60を、上面カバー30及び案内レール13に対してY軸方向に同じ量だけシフトしつつ貼り付けることができ、これによりテープ60がレール転走面に干渉しないようにすることができる。位置決めマークの代わりに、例えばスリットを設けるなど形状を変更してもよい。
【0042】
図8は、上面カバー30及び案内レール13に貼り付けられた状態でのテープ60の側面図であり、ここでは7枚のテープ60(1)~60(7)を重ねて貼り付けた状態を示している。
【0043】
このように、7枚のテープ60(1)~60(7)の端部をY軸方向にずらしながら上面カバー30及び案内レール13に跨って貼り付けることで、上面カバー30から案内レール13に向かって1ステップの高さが小さい階段が形成される。このため、案内レール13から上面カバー30に向かってスライダ15を移動させた場合でも、シールリップ41bが上面カバー30の段差に引っかかることがなく、スムーズな移動が可能になる。ただし、上面カバー30の厚みが小さいときは、1枚のテープ60のみを貼り付けてもよい。
【0044】
テープ60の貼り付けは、以下のようにすると好ましい。
(1)上面カバー30をスライダ進行方向にみて上面カバー30のエッジが発生しないよう、テープ60を貼り付けると好ましい。
(2)レール転走面(ボールやローラなどの転動体が転がり接触する面)に干渉しないように、テープ60を貼り付けると好ましい。
(3)テープ60は、曲げ部で分割してもよく、それにより貼る回数は増えるが、これにより、しわの発生を防止できる。
(4)上面カバー30同士の境目には、案内レール13の軸方向と垂直方向となる直線部分を設ける場合は、つなぎ目にR面取りを施すことが望ましい。もしくは、上面カバー30同士の境目には、レール軸方向と垂直方向となる直線部分を設けないほうが望ましく、可能であれば、境目はすべて曲線で構成し面取りを設けることが望ましい。
【0045】
本実施形態によれば、上面カバー30の端部からカバー未装着部の案内レール13の上面(側面にもあればそれもふくむ)にまたがるように、上面カバー30をスライダ進行方向に見てエッジが発生しないようにテープ60を貼るため、つなぎ目がなだらかとなってサイドシールやインナーシールのリップ部が通過してもリップ切れなどの損傷が発生することが抑制される。
【0046】
上面カバー30同士が継ぎ合わさった部分を、締め代を有し、かつ案内レール13の軸方向と垂直方向の直線部を有する弾性リップシールが通過してもシールリップが引っかからずに損傷することが抑制される。
【0047】
一枚のテープの厚みは、シールリップ41bの先端が乗り越えられるように設定している。それを積み重ねていくことで継ぎ仕様の上面カバー30の端部を乗り越えられる。
ここで、シールリップ41bがテープ60の段差を乗り越えられる条件について考察する。図9(a)~(c)は、シールリップ41bとテープ60を拡大して側面視した概略図である。
【0048】
ここで、図9(a)に示すように、テープ60の端面Cと、それに対向するシールリップ41bの下端側傾斜面Dとのなす角αが45度を超える場合、テープ60に接近するようにシールリップ41bが相対移動したときに、シールリップ41bの下端側傾斜面Dがテープ60の上端を滑動して乗り越えやすい。
【0049】
また、図9(b)に示すように、テープ60の端面Cとシールリップ41bの下端側傾斜面Dとのなす角αが45度である場合、テープ60に接近するようにシールリップ41bが相対移動したときに、シールリップ41bの下端側傾斜面Dがテープ60の上端を滑動するが、少しの引っ掛かりで滑動が制限される。
【0050】
さらに、図9(c)に示すように、テープ60の端面Cとシールリップ41bの下端側傾斜面Dとのなす角αが45度未満である場合、テープ60に接近するようにシールリップ41bが相対移動したときに、シールリップ41bの下端側傾斜面Dがテープ60の上端に引っ掛かることで滑動が制限される。
【0051】
以上より、シールリップ41bがテープ60に当接したときに、シールリップ41bの下端側傾斜面D(当接面)とテープ60の端面Cとのなす角αが45度以上であるように、各部の寸法を決めることが望ましい。図8において、シールリップ41bの当接端の断面円弧半径R=0.08mm、該断面円弧の接線と案内レール13の上面とのなす角θ=45度としたとき、シールリップ41bの当接端の先端の高さは0.023mmとなり、厚さ0.02mmのテープ60を乗り越えることができる。
【0052】
(複数の上面カバーの設置方法)
特開2007-205490号公報に記載されているように、長手方向端部に凸部を有する第1の上面カバー30と、長手方向端部に凹部を有する第2の上面カバー30とを、該凸部と該凹部との係合により案内レール13に配置することもできる。
【0053】
複数の上面カバーを設置する場合、まずスライダ15を案内レール13の片側に寄せ、反対側の案内レール13の上面に、第1の上面カバー30を装着し、さらに第1の上面カバー30と案内レール13の上面に跨って、1枚もしくは複数枚のテープ60を貼り付ける。
【0054】
その後、上面カバーがない領域にあるスライダ15を、テープ60上を通過させて、第1の上面カバー30が装着された位置に移動させる。その後、テープ60を剥がし、最初にスライダ15が有った位置に、凸部と凹部とを係合させつつ第2の上面カバー30を装着する。これにより、案内レール13上の長い距離にわたって、上面カバー30を設置できる。
【0055】
本実施形態によれば、上面カバー30を案内レール13の任意のストローク位置に装着後、上面カバー30の端部のテープ60を介してスライダ15に装着しているサイドシールやインナーシールなどのシールを損傷させることなく、スライダ15を上面カバー30の未装着部から装着部に移動させることができ、その後にスライダ15が有った位置に上面カバー30を装着することができる。これにより、案内レール13からスライダ15を抜くことなく上面カバー30を脱着できるので、高精度なマシニングセンタでも容易に組立が可能となる。
【0056】
(変形例)
図10(a)は、変形例にかかる上面カバー30’の一部を案内レール13に組付けた状態で、Y軸方向に見た図であり、図10(b)は、変形例にかかるテープ60’の一部を案内レール13に貼り付けた状態で、Y軸方向に見た図である。
【0057】
図10(a)において、案内レール13のボール転走面13aは、矢印Fで示す領域であり、また案内レール13に取り付ける前のシールリップ41bの輪郭を点線で示している。案内レール13はX軸方向上端に、面取り部13bを形成している。
【0058】
変形例にかかる上面カバー30’は、案内レール13の側面側に回り込む側部31を有する。そこで、図10(b)に示すように、テープ60’を貼り付ける領域における面取り部13bに、Y軸方向に沿って複数枚の補助テープ65を重ねて貼り付ける。このとき、上層に向かうにつれて補助テープ65の幅を狭くすると好ましい。それにより、案内レール13の上面及び側面の形状に沿って、補助テープ65の側縁を並べることができる。
【0059】
さらに上面カバー30’と案内レール13とに跨るようにして、積層された補助テープ65の上に、複数枚のテープ60’を貼り付ける。これにより、上面カバー30’が案内レール13の側面側に回り込む側部31を有する場合でも、シールリップ41bを相対移動させた場合に、テープ60’により上面カバー30’の端部に引っかかることが抑制される。
【0060】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0061】
11 直動案内装置
13 案内レール
15 スライダ
19 案内レール側軌道面
23 エンドキャップ
41 サイドシール
41b シールリップ
42 端板
60,60’ テープ
65 補助テープ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10