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  • 特開-内燃機関用潤滑油組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155763
(43)【公開日】2023-10-23
(54)【発明の名称】内燃機関用潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20231016BHJP
   C10M 101/04 20060101ALI20231016BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20231016BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20231016BHJP
   C10N 30/02 20060101ALN20231016BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20231016BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M101/04
C10N20:00 A
C10N30:00 Z
C10N30:02
C10N40:25
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065290
(22)【出願日】2022-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】398053147
【氏名又は名称】コスモ石油ルブリカンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 源基
(72)【発明者】
【氏名】大場 亨太
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104DA06A
4H104EA03A
4H104EA04A
4H104LA01
4H104LA20
4H104PA41
(57)【要約】
【課題】潤滑油組成物の蒸発量と低温環境下における粘度の両方が低減された内燃機関用潤滑油組成物を提供すること。
【解決手段】100℃における動粘度をX、蒸留曲線における留出量20体積%での留出温度T20をYとしたときに、関係式(1):Y≧15.3X+348を満たす基油を含有する、内燃機関用潤滑油組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
100℃における動粘度をX、蒸留曲線における留出量20体積%での留出温度T20をYとしたときに、下記関係式(1)の関係を満たす基油を含有する、内燃機関用潤滑油組成物。
関係式(1):Y≧15.3X+348
【請求項2】
前記基油は、前記100℃における動粘度が、30mm/s以下である、請求項1に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項3】
前記基油は、前記蒸留曲線における留出量20体積%での留出温度T20が、400℃以上である、請求項1又は請求項2に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項4】
前記基油は、植物由来の基油及び化学合成された基油の少なくとも一方を含む、請求項1又は請求項2に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項5】
ASTM D 5800-19に準拠して、250℃、1時間の条件にて実施したNOACK蒸発量が、14質量%以下である、請求項1又は請求項2に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項6】
前記基油は、硫黄含有量が、前記基油の全質量に対して0.01質量%以下である、請求項1又は請求項2に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項7】
前記基油は、テトラヒドロフラン可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる縦軸を検出量、横軸を溶出時間(分)としたクロマトグラムにおいて、極大ピークの半値幅が0.9以下である、請求項1又は請求項2に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、内燃機関用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化などの環境問題への対応として、自動車用のエンジンについては、CO排出量削減及び排出ガス規制への対応の両方が求められている。そのため、最新の自動車用エンジンには、小型化、省燃費化といった技術が求められている。また、排出ガス規制への対応として、自動車用エンジンには、排気中の粒子状物質を捕集するためのフィルター(ディーゼルパティキュレートフィルター;DPFとも称す。)が採用されている。
【0003】
エンジン部を潤滑するために用いられる内燃機関用潤滑油組成物(以下、単に「潤滑油組成物」と称すこともある。)においては、潤滑油組成物の蒸発量を低減することが求められている。潤滑油組成物の蒸発量が多いと、油量当たりの熱負荷が相対的に高まり易く、潤滑油組成物の蒸発物が上記DPFの目詰まりの要因となりやすく、これがDPFの性能低下や交換頻度の短期化に繋がる。また、省燃費化の観点からも、潤滑油組成物の蒸発量が低減されることが好ましい。
【0004】
例えば、特許文献1には、モリブデン系摩擦調整剤を含有する内燃機関用潤滑油組成物において、エステル結合を有する摩擦調整補助剤を配合した省燃費型のエンジン用潤滑油組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-19990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、潤滑油組成物の蒸発量を低減しようとすると、低温環境下(例えば-30℃)における粘度(以下「低温粘度」とも称す。)が高くなり、両者はトレードオフの関係にある。低温粘度が高くなると、低温環境下におけるエンジン部の始動性が低下するだけでなく、これにより燃費も悪くなり易い。
このように、潤滑油組成物の蒸発量(より具体的にはNOACK蒸発量)と、低温環境下における粘度(より具体的には-30℃におけるミニロータリー粘度)の両方が低減された潤滑油組成物が望まれており、このような潤滑油組成物は、内燃機関において省燃費性を向上させる手段の一つとして有効であると考えられるものの、未だ提供されるに至っていないのが現状である。
【0007】
本発明は、このような状況下でなされたものであり、本発明の一実施形態が解決しようとする課題は、潤滑油組成物の蒸発量と低温環境下における粘度の両方が低減された内燃機関用潤滑油組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のエンジン油組組成物は、以下の実施態様を含む。
<1> 100℃における動粘度をX、蒸留曲線における留出量20体積%での留出温度T20をYとしたときに、下記関係式(1)の関係を満たす基油を含有する、内燃機関用潤滑油組成物。
関係式(1):Y≧15.3X+348
<2> 前記基油は、前記100℃における動粘度が、30mm/s以下である、前記<1>に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
<3> 前記基油は、前記蒸留曲線における留出量20体積%での留出温度T20が、400℃以上である、前記<1>又は<2>に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
<4> 前記基油は、植物由来の基油及び化学合成された基油の少なくとも一方を含む、前記<1>~<3>のいずれか1つに記載の内燃機関用潤滑油組成物。
<5> ASTM D 5800-19に準拠して、250℃、1時間の条件にて実施したNOACK蒸発量が、14質量%以下である、前記<1>~<4>のいずれか1つに記載の内燃機関用潤滑油組成物。
<6> 前記基油は、硫黄含有量が、前記基油の全質量に対して0.01質量%以下である、前記<1>~<5>のいずれか1つに記載の内燃機関用潤滑油組成物。
<7> 前記基油は、テトラヒドロフラン可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる縦軸を検出量、横軸を溶出時間(分)としたクロマトグラムにおいて、極大ピークの半値幅が0.9以下である、前記<1>~<6>のいずれか1つに記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態によれば、潤滑油組成物の蒸発量と低温環境下における粘度の両方が低減された内燃機関用潤滑油組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】各例で用いた基油における、100℃における動粘度と蒸留曲線における留出量20体積%での留出温度T20との相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示に係るに内燃機関用潤滑油組成物について詳細に説明する。以下に記載する説明は、代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示に係る内燃機関用潤滑油組成物は、そのような実施形態に何ら限定されるものではない。
【0012】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する該当する複数の物質の合計量を意味する。
本開示において、「質量%」と「重量%」とは同義である。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、「JIS」は、日本産業規格(Japanese Industrial Standards)の略称として用いる。
【0013】
<内燃機関用潤滑油組成物>
本開示に係る内燃機関用潤滑油組成物は、100℃における動粘度をX、蒸留曲線における留出量20体積%での留出温度T20をYとしたときに、下記関係式(1)の関係を満たす基油を含有する、内燃機関用潤滑油組成物である。
【0014】
関係式(1):Y≧15.3X+348
【0015】
本開示に係る内燃機関用潤滑油組成物は、潤滑油組成物の蒸発量と低温環境下(例えば-30℃)における粘度の両方が低減される。本開示に係る内燃機関用潤滑油組成物が、上記効果を奏する作用機序は必ずしも明らかではないが、100℃における動粘度と蒸留曲線における留出量20体積%での留出温度T20との関係が所定の範囲内である基油を含有することにより、低温環境下におけるエンジン部の始動性が担保され、かつ、蒸発しやすい低分子量成分の割合が少なく抑えられるためと推測している。
【0016】
(基油)
基油は、100℃における動粘度をX、蒸留曲線における留出量20体積%での留出温度T20をYとしたときに、下記関係式(1)の関係を満たす基油を含有する。基油は、本開示の効果が奏される範囲内で、下記関係式(1)の関係を満たさない基油を含有していてもよい。
関係式(1):Y≧15.3X+348
【0017】
基油は、100℃における動粘度をX、蒸留曲線における留出量20体積%での留出温度T20をYとしたときに、下記関係式(1)の関係を満たし、潤滑油組成物の蒸発量と低温環境下における粘度の両方をより低減する観点から、下記関係式(2)の関係を満たすことが好ましく、下記関係式(3)の関係を満たすことがより好ましい。
【0018】
関係式(1):Y≧15.3X+348
関係式(2):Y≧15.3X+354
関係式(3):Y≧15.3X+360
【0019】
上記関係式(1)~(3)満たす潤滑油組成物とする手法は特に制限されないが、例えば、植物由来の基油及び化学合成油の少なくとも一方を配合する手法;粘度の異なる2種以上の基油を配合する手法;蒸留により低沸点留分を予め除去した鉱物油の基油を配合する手法;粘度調整剤等の添加剤で調製する手法;など等が挙げられる。
【0020】
基油は、低温環境下における粘度をより低減する観点から、100℃における動粘度が、30mm/s以下であることが好ましく、2mm/s以上20mm/s以下であることがより好ましく、2mm/s以上15mm/s以下であることがさらに好ましい。なお、基油の動粘度についてカタログ値が確認できる場合には、カタログ値を採用する。
【0021】
上記100℃における動粘度は、JIS K-2283-2000(ASTM D445-19)に準拠した方法により測定される値である。
【0022】
上記100℃における動粘度を上記範囲内とする手法は特に制限されないが、例えば、
植物由来の基油及び化学合成油の少なくとも一方を配合する手法;粘度の異なる2種以上の基油を配合する手法;蒸留により低沸点留分を予め除去した鉱物油の基油を配合する手法;粘度調整剤等の添加剤で調製する手法;重合度等の反応条件検討により粘度を調整した化学合成油を配合する手法;などが挙げられる。
【0023】
基油は、潤滑油組成物の蒸発量をより低減する観点から、蒸留曲線における留出量20体積%での留出温度T20が、400℃以上であることが好ましく、410℃以上580℃以下であることがより好ましく、420℃以上560℃以下であることがさらに好ましい。
【0024】
上記蒸留曲線における留出量20体積%での留出温度T20は、石油製品のGC蒸留試験法、ASTM D 2887に準拠した方法により測定される値である。
【0025】
上記蒸留曲線における留出量20体積%での留出温度T20を上記範囲内とする手法は特に制限されないが、例えば、植物由来の基油及び化学合成油の少なくとも一方を配合する手法;蒸留により低沸点留分を予め除去した鉱物油の基油を配合する手法;などが挙げられる。
【0026】
基油は、NOACK蒸発量が、20質量%以下であることが好ましく、18質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。
基油のNOACK蒸発量が上記範囲以下であることで、潤滑油組成物の蒸発量がより低減される。
基油のNOACK蒸発量の下限値は特に限定されない。基油のNOACK蒸発量の下限値は、本開示に係る効果とコストとを勘案して適宜設定することができる。
【0027】
基油のNOACK蒸発量は、ASTM D 5800-19に準拠して、250℃、1時間の条件にて実施した基油の蒸発損失量(質量%)を意味する。
【0028】
上記基油のNOACK蒸発量を上記範囲内とする手法は特に制限されないが、例えば、
植物由来の基油及び化学合成油の少なくとも一方を配合する手法蒸留により低沸点留分を予め除去した鉱物油の基油を配合する手法;などが挙げられる。
【0029】
基油は、潤滑油組成物の蒸発量をより低減する観点から、テトラヒドロフラン可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による縦軸を検出量、横軸を溶出時間(分)としたクロマトグラムにおいて、極大ピークの半値幅が0.9以下であることが好ましく、0.8以下であることがより好ましく、0.3以上0.7以下であることがさらに好ましい。
【0030】
極大ピークの半値幅とは、GPCによる縦軸を検出量、横軸を溶出時間(分)としたクロマトグラムにおいて観測される極大ピークの最大ピーク値の1/2の高さにおけるピーク幅(半値全幅:Full width at half maximum)を表す。なお、溶出時間は、ポリスチレン換算したときに分子量が104に到達するまでの時間とする。
【0031】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)における測定条件は下記のとおりである。
<条件>
装置:Shodex GPC-101(昭和電工(株)製)、
カラム:Shodex GPC LF-804(昭和電工(株)製)を3本、
検出器:示差屈折検出器、移動相:THF(テトラヒドロフラン)、
流量:1ml/min、
試料濃度:約1.0mass%/vol%THF、
注入量:100μL
【0032】
上記GPCにおける極大ピークの半値幅を上記範囲内とする手法は特に制限されないが、例えば、植物由来の基油及び化学合成油の少なくとも一方を配合する手法;蒸留により低沸点留分を予め除去した鉱物油の基油を配合する手法;などが挙げられる。
【0033】
基油としては、化学合成油、植物由来の基油、鉱物油等が挙げられる。
基油は、先述の関係式(1)~(3)の関係を満たし易くする観点からは、植物由来の基油及び化学合成された基油の少なくとも一方を含むことが好ましく、植物由来の基油を含むことがより好ましい。基油は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用していてもよい。
【0034】
化学合成油としては、例えば、イソパラフィン、ポリα-オレフィン、α-オレフィンオリゴマー、脂肪酸エステル類(ジアルキルジエステル等)、ポリオール類、アルキルベンゼン類、ポリグリコール類、フェニルエーテル類、飽和又は不飽和のポリオールエステル、ポリフェニルエーテル、炭化水素等を含む基油が挙げられる。化学合成油は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用していてもよい。
【0035】
植物由来の基油とは、植物から抽出された油成分(前記油成分を安定化剤等で変性させたものも含む)を含む基油のことを指す。植物由来の基油は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用していてもよい。
植物由来の基油は、前記植物から抽出された油成分の組成に、先述の化学合成油、後述の鉱物油に含まれる成分が一部又は複数種含まれていてもよい。具体的に例えば、植物由来の基油は、植物から抽出されたイソパラフィン、α-オレフィンオリゴマー、脂肪酸エステル類(ジアルキルジエステル等)、ポリオール類、アルキルベンゼン類、ポリグリコール類、フェニルエーテル類、飽和又は不飽和のポリオールエステル、ポリフェニルエーテル、炭化水素等を含む基油であってもよい。
植物由来の基油としては、例えば、大豆油、ヒマワリ油、サフラワー油、とうもろこし油、メドウフォーム油、菜種油、ヒマシ油、米ぬか油、オリーブ油、パーム油等が挙げられる。
【0036】
鉱物油としては、例えば、原油の潤滑油留分を、溶剤精製、水素化精製、水素化分解精製、水素化脱蝋などの精製法を適宜組合せて精製したものが挙げられる。鉱物油は、水素化精製油、触媒異性化油などに溶剤脱蝋又は水素化脱蝋等の処理を施して高度に精製されたパラフィン系鉱油(即ち、高粘度指数鉱油系潤滑油基油)などであってもよい。鉱物油は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用していてもよい。
【0037】
植物由来の基油及び化学合成油の総量は、先述の関係式(1)~(3)の関係をより満たし易くし、潤滑油組成物の蒸発量と低温環境下における粘度の両方をより低減する観点から、基油の総量に対して、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましい。
植物由来の基油の含有量は、基油の総量に対して、98質量%以下であってもよく、96質量%以下であってもよく、95質量%以下であってもよい。
【0038】
(内燃機関用潤滑油組成物としての性質)
本開示の内燃機関用潤滑油組成物は、低温環境下における粘度をより低減する観点や摩耗防止性能の観点から、100℃における動粘度が、4mm/s以上26mm/s以下であることが好ましく、4mm/s以上22mm/s以下であることがより好ましく、4mm/s以上18mm/s以下であることがさらに好ましい。
【0039】
上記100℃における動粘度は、JIS K-2283-2000(ASTM D445-19)に準拠した方法により測定される値である。
【0040】
上記潤滑油組成物の100℃における動粘度を上記範囲内とする手法は特に制限されないが、例えば、植物由来の基油及び化学合成油の少なくとも一方を配合する手法;粘度の異なる2種以上の基油を配合する手法;蒸留により低沸点留分を予め除去した鉱物油の基油を配合する手法;粘度調整剤等の添加剤で調製する手法;重合度等の反応条件検討により粘度を調整した化学合成油を配合する手法;などが挙げられる。
【0041】
本開示の内燃機関用潤滑油組成物は、NOACK蒸発量が、14質量%以下であることが好ましく、12質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。
内燃機関用潤滑油組成物のNOACK蒸発量が上記範囲以下であることで、潤滑油組成物の蒸発量がより低減される。
NOACK蒸発量の下限値は特に限定されない。NOACK蒸発量の下限値は、本開示に係る効果とコストとを勘案して適宜設定することができる。
【0042】
NOACK蒸発量は、ASTM D 5800-19に準拠して測定された基油の蒸発損失量(質量%)を意味する。
【0043】
上記NOACK蒸発量を上記範囲内とする手法は特に制限されないが、例えば、植物由来の基油を含む潤滑油組成物とする方法;イソパラフィン、飽和ポリオールエステル、不飽和のポリオールエステル等の化学合成油の基油を含む潤滑油組成物とする方法;などが挙げられる。
【0044】
基油は、DPFの触媒に対する被毒を抑制する観点から、硫黄含有量が、前記基油の全質量に対して0質量%又は0.03質量%以下であることが好ましく、0.02質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることがさらに好ましい。基油の硫黄含有量は、基油の総量に対して、0質量%に近いほど好ましい。
【0045】
上記硫黄含有量は、JIS K 2541-4(JPI 5S-38-03)に準拠した方法により測定される値である。
【0046】
上記硫黄含有量を上記範囲以下とする手法は特に制限されないが、例えば、硫黄成分の割合の低い原料から合成された基油(例えば、化学合成油、GTLガスオイル等)を配合する方法;硫黄成分の割合の低い原料由来の基油(例えば、植物由来の基油等)を配合する方法;鉱物油等の硫黄成分の高い基油から、予め水素化脱硫により硫黄成分を除去してから用いる方法;などが挙げられる。
【0047】
(その他の添加剤)
本開示に係る内燃機関用潤滑油組成物は、必要に応じて、潤滑剤に一般に用いられている公知の添加剤、例えば、金属型清浄分散剤、無灰型清浄分散剤、油性剤、摩耗防止剤、極圧剤、さび止め剤、摩擦調整剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、消泡剤、着色剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤などを含んでいてもよい。
【0048】
金属型清浄分散剤としては、金属成分がカルシウムやマグネシウムである、スルホネート、フェネート、サリシレート等が挙げられる。これらの金属型清浄分散剤は特に内部が高温になる環境で使用される潤滑油組成物として好適であり、組成物全量に対する含有量としては0.1質量%~5.0質量%の範囲が好ましい。
【0049】
無灰型分散剤としては、コハク酸イミド系無灰分散剤、コハク酸アミド系無灰分散剤、又はこれらのホウ素化誘導体などが挙げられる。
コハク酸イミド系無灰分散剤としては、ビスポリプロペニルコハク酸イミド、モノプロペニルコハク酸イミド、ビスポリブテニルコハク酸イミド、モノブテニルコハク酸イミド、ビスポリペンテニルコハク酸イミド、モノペンテニルコハク酸イミドなどのポリアルケニルコハク酸イミドなどが挙げられる。
コハク酸アミド系無灰分散剤としては、ポリプロペニルコハク酸アミド、ポリブテニルコハク酸アミド、ポリペンテニルコハク酸アミドなどのポリアルケニルコハク酸アミド等が挙げられる。
【0050】
通常、これらの無灰分散剤におけるポリアルケニル基の分子量(Mw)は、70~50000程度である。また、これらのホウ素化誘導体としては、ポリアルケニルコハク酸無水物を、ホウ酸、ホウ酸エステル、ホウ酸塩などのホウ素化合物及びポリアミンなどと反応させることにより得られる無灰型分散剤が挙げられる。
【0051】
油性剤としては、オレイン酸、ステアリン酸、高級アルコール、アミン、エステル、硫化油脂、酸性リン酸エステル、酸性亜リン酸エステルなどが挙げられる。
【0052】
摩耗防止剤としては、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、各種のリン酸エステル、チオリン酸エステル、各種リン酸エステルのアミン塩などが挙げられる。
【0053】
極圧剤としては、炭化水素硫化物、硫化油脂、硫黄、リン酸エステル、亜リン酸エステル、塩素化パラフィン、塩素化ジフェニルなどが挙げられる。
【0054】
さび止め剤としては、カルボン酸やそのアミン塩、エステル、スルホン酸塩、ホウ素化合物などが挙げられる。
【0055】
摩擦調整剤としては、有機モリブテン化合物、多価アルコール部分エステル系、アミン系、アミド系、硫化エステル、リン酸エステル、酸性リン酸エステルやそのアミン塩、ジオール類などが挙げられる。
【0056】
酸化防止剤としては、アミン系、フェノール系、ジルコニウム系、硫黄系の酸化防止剤などが挙げられる。
【0057】
金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾール、チアジアゾール、アルケニルコハク酸エステルなどが挙げられる。
【0058】
消泡剤としては、ジメチルポリシロキサンなどのシリコーン化合物、フルオロシリコーン化合物、エステル系などが挙げられる。
【0059】
流動点降下剤としては、ポリアルキルメタクリレート系、塩素化パラフィン-ナフタレン縮合物、アルキル化ポリスチレンなどが挙げられる。
【0060】
粘度指数向上剤としては、ポリアルキルメタクリレート系、ポリイソブチレン系、エチレン-プロピレン共重合体系、スチレン-イソプレン共重合体系、スチレン-ブタジエン水添共重合体系、ポリイソブチレン系などが挙げられる。
粘度指数向上剤として用いられるポリマーの重量平均分子量(Mw)(ポリスチレン換算)は、1万~40万が好ましく、2万~20万が特に好ましい。このような粘度指数向上剤の添加量は、組成物全量に対して0.1質量%~10質量%が好ましい。なお、本発明における重量平均分子量(Mw)とは、下記条件にて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定された分子量算定用標準ポリスチレン換算である。
<条件>
装置:Shodex GPC-101(昭和電工社製)、カラム:Shodex GPC LF-804(昭和電工社製)を3本、検出器:示差屈折検出器、移動相:THF(テトラヒドロフラン)、流量:1ml/min、試料濃度:約1.0mass%/vol%THF、注入量:100μL
【0061】
<内燃機関用潤滑油組成物の調製方法>
本開示に係る内燃機関用潤滑油組成物の調製方法は、特に制限されず、基油と、必要に応じて添加される先述の添加剤を適宜混合すればよい。各成分の混合順序は、特に限定されるものではない。
【実施例0062】
本開示に係る内燃機関用潤滑油組成物について、実施例及び比較例により、さらに詳細に説明する。ただし、本開示に係る内燃機関用潤滑油組成物は、以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
【0063】
<基油及び添加剤の準備>
(1)基油
・鉱物油の基油6種と、化学合成油2種、植物由来の基油7種(表中「植物油」と称す)を準備した。各基油について、先述の測定法により測定された100℃における動粘度(表中「100℃動粘度」と称す)、蒸留曲線における留出量20体積%での留出温度T20(表中「T20」と称す)、基油の全質量に対する硫黄含有量(表中「硫黄含有量」と称す)、GPCにおける極大ピークの半値幅(表中「半値幅」と称す)を表1~表2に示す。
【0064】
(2)その他の添加剤
粘度指数向上剤、摩耗防止剤、分散剤、金属型清浄剤、摩擦調整剤、フェノール型酸化防止剤、流動点降下剤、シリコーン系消泡剤を含む全ての添加剤の総量をまとめて表1~表2に示す。
【0065】
<実施例1~実施例14及び比較例1~比較例3>
先述の<基油及び添加剤>の欄に示す、基油及びその他の添加剤を、表1~表2に示す配合量にて混合して、各例の内燃機関用潤滑油組成物を得た。
【0066】
各例の内燃機関用潤滑油組成物における、潤滑油組成物全体に対する硫黄の含有量を、先述の測定方法によって測定した結果を表1~表2に示す。
表中の「質量%」は、内燃機関用潤滑油組成物の全質量を基準とした質量%を意味する。表1中の組成欄に記載される「0」は、該当する成分を配合していないことを示す。
表中、項目「関係式(1)」「関係式(2)」及び「関係式(3)」では、先述の関係式(1)~(3)の関係を満たすものを「満」と表記し、満たさないものと「非」と表記した。
【0067】
各内燃機関用潤滑油組成物は、すべてSAE粘度グレードにおける10W-30の要求を満たし、かつ、国内ディーゼルエンジン油規格であるJASO DH-2規格の要求であるASTM D6278-07記載のせん断試験後油の100℃における動粘度の値が9.3mm/s以上になるよう調製されたものである。
【0068】
各実施例・比較例の調製にあたっては、省燃費性能への影響を考慮し、粘度指数向上剤の配合量は上記の条件を満たす上で最低限の量になるよう配慮した。
【0069】
<NOACK蒸発量の評価>
各例で得た内燃機関用潤滑油組成物に対して、先述の測定方法によりNOACK蒸発量を測定した。結果を表1~表2に示す。表中、NOACK蒸発量の値が14質量%以下であるものを合格とする。
【0070】
<低温粘度の評価>
各例の潤滑油組成物について、ミニロータリー粘度計による-30℃の粘度(mm/s)(表中、「低温MRV粘度」と称す。)を、ASTM D4684に準拠して測定した。結果を表1~表2に示す。表中、粘度の値が16,000(mm/s)以下であるものを合格とする。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
図1は、各例で用いた基油における、100℃における動粘度と蒸留曲線における留出量20体積%での留出温度T20との相関図である。図中、各基油のプロットには、適用した数値は表1に記載の前記100℃における動粘度及び前記T20の項目に記載された数値を採用している。
【0074】
表1~表2及び図1に示す通り、関係式(1)の関係を満たす基油を含む実施例の内燃機関用潤滑油組成物は、関係式(1)の関係を満たす基油を含まない比較例の内燃機関用潤滑油組成物に比べて、NOACK蒸発量と低温環境下における粘度の両方が低減されることがかわった。
図1