(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155768
(43)【公開日】2023-10-23
(54)【発明の名称】負荷装置の位置による特性変動を考慮したパラメータ調整装置および方法
(51)【国際特許分類】
G05D 3/12 20060101AFI20231016BHJP
H02P 31/00 20060101ALI20231016BHJP
G05B 13/02 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
G05D3/12 305V
H02P31/00
G05B13/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065296
(22)【出願日】2022-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池上 陸
【テーマコード(参考)】
5H004
5H303
5H501
【Fターム(参考)】
5H004GA09
5H004GB16
5H004HA07
5H004HB07
5H004HB12
5H004KC48
5H303AA01
5H303CC01
5H303CC08
5H303DD01
5H303JJ10
5H303KK22
5H501AA22
5H501BB11
5H501GG01
5H501JJ03
5H501JJ17
5H501JJ23
5H501JJ24
5H501JJ26
5H501LL35
5H501LL36
(57)【要約】
【課題】負荷装置の位置によって特性変動が生じた際に、異音や振動を生じさせることなく、制御性能を損なわずに、安定した高速・高精度な制御を可能とする制御器を調整する。
【解決手段】モータ入力信号と検出器の出力とから実機の周波数特性を算出する実機周波数特性測定部と、実機周波数特性測定部の算出結果と制御器の周波数特性から算出した開ループ特性と、理想的な開ループ特性との差を、規定の基準以下とする制御器のパラメータを求解し、制御器に適用するパラメータ調整部とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーボモータにより負荷装置を駆動するサーボ制御装置において、
前記サーボモータの指令値を作成する指令生成部と、
駆動する前記サーボモータまたは前記負荷装置の状態量を検出する検出器と、
前記指令値と前記検出器の出力とが一致するようモータ入力信号を制御する制御器と、
前記モータ入力信号と、前記検出器の出力と、から実機の周波数特性を算出する実機周波数特性測定部と、
前記実機周波数特性測定部の算出結果および前記制御器の周波数特性から算出した開ループ特性と、理想的な開ループ特性と、の差を、規定の基準以下とする前記制御器のパラメータを求解し、適用するパラメータ調整部と、
を備えたことを特徴とするパラメータ調整装置。
【請求項2】
請求項1に記載のパラメータ調整装置であって、
前記実機周波数特性測定部は、前記実機の周波数特性を算出する際、前記負荷装置の位置を任意に変更して、各位置に対する実機の周波数特性を算出する、ことを特徴とするパラメータ調整装置。
【請求項3】
請求項1に記載のパラメータ調整装置であって、
前記パラメータ調整部は、前記実機周波数特性測定部で算出した複数の前記実機の周波数特性を、モデル化せず測定値のまま使用し、前記制御器を組み合わせた開ループ特性を最適化問題で定式化し、前記最適化問題を求解することで、前記制御器に適用するパラメータを求める、ことを特徴とするパラメータ調整装置。
【請求項4】
サーボモータにより負荷装置を駆動するサーボ制御装置において、前記サーボモータの指令値を作成する指令生成部と、可動する前記サーボモータまたは前記負荷装置の状態量を検出する検出器と、前記指令値と前記検出器の出力とが一致するようモータ入力信号を制御する制御器を含むパラメータ調整方法であって、
前記モータ入力信号と、前記検出器の出力と、から実機の周波数特性を算出する実機周波数特性測定工程と、
前記実機周波数特性測定部の算出結果および前記制御器の周波数特性から算出した開ループ特性と、理想的な開ループ特性と、の差を、規定の基準以下とする前記制御器のパラメータを求解し、適用するパラメータ調整工程と、
を備えることを特徴とするパラメータ調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械等の制御装置、特にパラメータの調整装置、および、調整方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械などを含む産業サーボシステムにおいて、高速・高精度な位置決め動作の実現や制御パラメータの調整労力削減の観点から、調整工程自動化の需要は高まっている。
【0003】
特に、産業界で広く使われる、広帯域化のためのゲイン安定化フィルタと、共振特性相殺のための振動抑制フィルタと、を組み合わせたフィードバック制御器の調整は、加工品質のみならず制御系の安定性も左右するため、実機の共振特性や制御系の安定性を陽に考慮することができる周波数特性ベースで行うことが望ましい。
【0004】
実機の周波数特性は、機台毎の組付け誤差や部品の寸法バラつきなどの機台バラつきにより、機台間で差異が生じる。
【0005】
図3は、モータからボールねじ等を介して駆動される送り軸機構を備えた一例として、工作機械の概略を示した図である。
【0006】
床面に固定されたベース31上に立設された構造体32の前面には、モータ33、ボールねじ34、ガイド35、主軸頭36が配置されている。モータ33で発生したトルクは、ボールねじ34によって直線方向に作用する力へと変換され、ガイド35によって移動可能に支持された主軸頭36を図中の左右方向へ移動制御する。同様の機構により、主軸頭36は図中の上下方向に移動制御され、先端に取り付けられた工具を移動制御する。また、ベース31上に配置されたテーブル37は、紙面を貫く方向に移動制御され、上面に取り付けられたワーク38を移動制御する。更に、ワーク38は、主軸頭36に取り付けられた工具を回転させることによって加工される。
【0007】
また、モータ33で発生するトルクは、モータ33に取り付けられた位置検出器(回転角度検出器)39a、または主軸頭36の位置を直接検出可能となるよう構造体32に取り付けられた位置検出器(負荷位置検出器)39b、またはその両方によって検出される位置検出値が、制御装置310内で生成される位置指令信号と一致するよう、フィードバック制御器を内包した制御装置310で制御される。
【0008】
フィードバック制御器の調整に利用される実機周波数特性は、例えば、モータ33を駆動するために生成されるトルク指令値と、位置検出器(回転角度検出器)39aや位置検出器(負荷位置検出器)39bの検出値とを、それぞれ周波数解析し、両者の周波数スペクトルの差異から計算することができる。
【0009】
図4は、
図3の主軸頭36やテーブル37などモータによって駆動される負荷装置の位置により実機周波数特性が変動する一例を示す図である。
【0010】
例として、破線は、
図3の主軸頭36をモータ33側に移動させた時の位置(a点)で測定した実機周波数特性、実線は、主軸頭36をモータ33から十分に離れた位置(b点)で測定した実機周波数特性を示す。テーブルや主軸頭などの負荷装置の位置によって、特にボールねじ34部のモータ軸換算イナーシャの変動により、同一機台内においても実機周波数特性の変動が生じる。
【0011】
負荷装置がa点にある状態で測定した実機周波数特性に対して、制御パラメータを調整した場合、負荷装置をb点付近で動作させた際、特性変動により、ゲイン安定化フィルタや振動抑制フィルタが有効に働かずに、異音や振動の発生、制御性能の低下を引き起こす恐れがある。そのため、安定に高速・高精度な位置決め動作を可能とするためには、特性変動を考慮した調整が求められる。
【0012】
特許文献1には、正弦波掃引法により機械の実周波数特性を測定し、物理モデルを用いて算出した周波数特性が実周波数特性と一致するよう、物理モデルのパラメータ組を逐次的に変更することで規範周波数特性を獲得し、機械の加工物や治具・機械構成の変更等が生じた際、再度実機周波数特性を測定することで、先に求めた規範周波数特性との差分を求め、変更前と同等の制御性能となるように制御系のゲインを自動調整する技術が公開されている。これにより、機台間で生じる特性変動による制御性能の低下を解決することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1の技術では、規範周波数特性を獲得するために、予め物理モデルを設計する必要がある。そのため、機械の種類ごとに機械の質量や慣性系が異なる場合、その種類に応じた物理モデルが必要となり、実装に時間を要する。また、制御性能に影響を及ぼす機械共振特性が多分に含まれる場合、物理モデルの慣性を増やす必要があるため、DSP(DIGITAL SIGNAL PROCESSOR)の計算能力の制限の影響を受ける恐れがある。さらに、機台間の特性変動については解決可能であるが、同一機台内で生じる特性変動に対しては、1機台につき物理モデルを1つしか規定できないため、対処が困難という課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のパラメータ調整装置は、サーボモータにより負荷装置を駆動するサーボ制御装置において、前記サーボモータの指令値を作成する指令生成部と、駆動する前記サーボモータまたは前記負荷装置の状態量を検出する検出器と、前記指令値と前記検出器の出力とが一致するようモータ入力信号を制御する制御器と、前記モータ入力信号と、前記検出器の出力と、から実機の周波数特性を算出する実機周波数特性測定部と、前記実機周波数特性測定部の算出結果および前記制御器の周波数特性から算出した開ループ特性と、理想的な開ループ特性と、の差を、規定の基準以下とする前記制御器のパラメータを求解し、適用するパラメータ調整部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の制御装置によれば、負荷装置の位置によって特性変動が生じた際に、異音や振動を生じさせることなく、制御性能を損なわずに、安定した高速・高精度な制御を可能とする制御器を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の制御装置のサーボ制御部の構成を示すブロック線図である。
【
図2】本発明に係る制御装置の動作を示すフローチャートである。
【
図4】負荷装置の位置により実機周波数特性が変動する一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1は、本発明の制御装置のサーボ制御部の構成を示すブロック線図である。
【0020】
オペレータ等から与えられるプログラムに従い、指令生成部17で負荷装置16に対する移動指令を生成する。制御器13は、生成された指令と、検出器14で検出された値が一致するようモータ15が発生するトルクを制御する。また、実機周波数特性測定部11は、制御器13の出力と検出器14の出力を入力とし、周波数特性測定対象部18の周波数特性を算出し、パラメータ調整部12に出力する。パラメータ調整部12は実機周波数特性測定部11が算出した周波数特性から、制御器13の最適なパラメータを求解し、制御器13を更新する。なお、制御器13、実機周波数特性測定部11、および、パラメータ調整部12は、物理的には、プロセッサとメモリを有するコンピュータで構成される。また、検出器14は、モータ15または負荷装置16の状態量を検出するものであり、例えば、位置センサや振動センサ等である。
【0021】
図2は、本発明の制御装置の動作を示すフローチャートであり、
図2のS1は、
図1の実機周波数特性測定部11の動作を、
図2のS2は、
図1のパラメータ調整部12の動作をそれぞれ示している。
【0022】
まず、ステップS11とステップS12において、
図1の周波数特性測定対象部18の実機周波数特性を、負荷装置の位置を変更しながら測定する。ここで、nは、測定点数を意味し、特性変動の変動幅ができるだけ大きくなるように予め決定される値である。例えば、負荷装置が、
図3に示すテーブル37の場合、負荷装置が可動範囲のプラス端近傍にある場合と、マイナス端近傍にある場合とで、ボールねじ34部のモータ軸換算イナーシャの差が最大となる。また、可動範囲の中央近傍にある場合にボールねじ34部の弾性変形が最大となるため、プラス端近傍、マイナス端近傍、可動範囲の中央近傍の3点とすることが好ましい。ステップS11の処理後、ステップS12で測定回数mを0から加算し、測定回数mが測定点数n以上となった場合、ステップS21に進む。
【0023】
ステップS21では、ステップS11,S12で得た実機周波数特性をもとに、速度制御器C(s)の構造を決定する。本発明では、速度制御器C(s)の構造に含まれる補償器の要素としては、例えばPID補償器、PI補償器、PD補償器、P補償器、位相進み遅れ補償器、ノッチフィルタ、オールパスフィルタ、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタなどが挙げられる。本実施例では、PI補償器と、X段のノッチフィルタCk(s)を組み合わせた下記式(1)のような構成を例として説明する。また、Ck(s)は下記式(2)のように表すことができる。
【0024】
なお、ノッチフィルタの段数Xは、DSPの計算能力や、ノッチフィルタが広帯域化に対して有効に働く共振特性の数を考慮して予め規定すればよく、実機周波数特性の共振特性に合わせて、ステップS21の中で適宜変更することも可能である。
【0025】
【0026】
この時、Kp、Kiは、PI補償器のパラメータであり、αk、ζk、ωkはノッチフィルタのパラメータである。また、sはラプラス演算子を意味し、虚数単位jと角周波数ωの積に相当する。よって、制御器C(s)は、下記式(3)のように、複素数で表すことができる。
【0027】
【0028】
ステップS22では、ステップS11,S12で測定した実機周波数特性と、ステップS21で設計した制御器C(s)から、開ループ特性L1(jω),L2(jω),…,Ln(jω)を設計する。
【0029】
ステップS11、S12で測定した実機周波数特性をP1(jω),P2(jω),…,Pn(jω)とした時、各実機周波数特性における開ループ特性L1(jω),L2(jω),…,Ln(jω)は、下記式(4)のように表すことができる。
【0030】
【0031】
上記式(4)のように、ラプラス演算子sを用いた伝達関数表現ではなく、jωを用いた複素数表現とすることにより、実機周波数特性をモデル化することなく開ループ特性を求めることができる。
【0032】
次に、ステップS23では、上記式(4)の開ループ特性に基づき、速度制御器C(s)のパラメータを求めるための最適化問題の演算処理を行う。この時、用いる最適化アルゴリズムとしては、異音や振動を生じさせずに動作させることを目的として、ゲイン余裕・位相余裕を用いた制約条件を持たせる必要があるため、制約式を付与できるものが好ましい。また、速度制御器C(s)が求解パラメータに対して線形な形で表現される場合は、線形行列不等式(LMI:Linear Matrix Inequality)により定式化が可能である。本実施形態では、上記式(4)の開ループ特性が非線形な形で表現されているため、逐次二次計画法(SQP:Sequential Quadratic Programming)による最適化問題を定式化する場合を例に説明する。SQPにより定式化を行うと、下記式(5)が得られる。
【0033】
【0034】
ここで、Ld(s)は、理想的な開ループ特性であり、設計者が制御系に対して求める性能によって任意に決めることができる。単純に広帯域化を目的とする場合、一例として下記式(6)のような形とすればよい。この時、α、βはそれぞれ任意の係数である。また、実機周波数特性を用いた開ループ特性は測定点数nだけ存在するのに対し、理想的な開ループ特性Ld(s)は1種類でよい。
【0035】
【0036】
上記式(5)中、ωpは、位相特性が-180°となる時の角周波数であり、ゲイン余裕GMは、角周波数がωpとなる際の開ループ特性のゲイン特性を示している。ωgは、ゲイン特性が0dBとなる角周波数であり、位相余裕PMは、角周波数がωgとなる際の開ループ特性の位相特性である。また、Tは、最適化問題を定式化するために用いる周波数特性のデータ点数であり、ステップS11で測定したデータ点数以内であれば、任意の値を設定可能である。
【0037】
なお、ゲイン余裕GM、位相余裕PM、理想的な開ループ特性Ld(s)は、それぞれ上記式(5)を定式化する際に、予め決定しておく必要がある。
【0038】
上記式(5)において、理想的な開ループ特性L_d(s)と各実機周波数特性における開ループ特性L1(jω),L2(jω),…,Ln(jω)の差を、規定の基準以下とする最適化問題の決定変数は、Kp、Ki、αk、ζk、ωk(k=1,2,…,X)であり、この2+3X個の決定変数の最適解が得られれば、最適な開ループ特性および制御器パラメータを求めることができる。
【0039】
ステップS24では、速度制御器パラメータをステップS23で求解したパラメータに更新することで、最適な制御器で負荷装置16を制御することができる。
【0040】
これにより、負荷装置が任意の点に位置する場合の全ての周波数特性において、ゲイン余裕・位相余裕を満足した状態で、広帯域化が可能な制御器が設計されているため、負荷装置の位置によって実機周波数特性が変動するような場合でも、異音や振動を生じさせない安定した高速・高精度な制御が可能となる。同時に、実機周波数特性のデータをそのまま最適化問題に定式化することができるため、モデル化の労力がかからない上、全ての共振特性を考慮した制御器の設計が可能となる。
【0041】
本実施形態では、モータからボールねじを介してテーブルを駆動する軸を備えた工作機械を例に説明したが、負荷装置が主軸頭である軸や、リニアモータ駆動の工作機械にも適用可能であるし、工作機械以外の他の産業機械等にも適用可能である。また、本発明は、速度制御系を一例として上述の実施形態を説明したが、速度制御系の構成は重要ではなく、位置制御系や、位置・速度制御系を組み合わせたカスケード型制御系にも適用可能である。
【符号の説明】
【0042】
11 実機周波数特性測定部、12 パラメータ調整部、13 制御器、14 検出器、15,33 モータ、16 負荷装置、17 指令生成部、18 周波数特性測定対象部、31 ベース、32 構造体、34 ボールねじ、35 ガイド、36 主軸頭、37 テーブル、38 ワーク、39a 位置検出器(回転角度検出器)、39b 位置検出器(負荷位置検出器)、310 制御装置。