(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155774
(43)【公開日】2023-10-23
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04537 20160101AFI20231016BHJP
H01M 8/0438 20160101ALI20231016BHJP
H01M 8/04858 20160101ALI20231016BHJP
H01M 8/00 20160101ALI20231016BHJP
【FI】
H01M8/04537
H01M8/0438
H01M8/04858
H01M8/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065311
(22)【出願日】2022-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000116574
【氏名又は名称】愛三工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅沼 大作
【テーマコード(参考)】
5H127
【Fターム(参考)】
5H127AB04
5H127AB29
5H127BA02
5H127BA22
5H127BA28
5H127BA33
5H127BA58
5H127BA59
5H127BB02
5H127DB03
5H127DB82
5H127DC90
5H127DC96
(57)【要約】
【課題】 燃料電池システムに用いられるソレノイドバルブの特性を容易に学習する。
【解決手段】 燃料電池システムであって、燃料電池と、前記燃料電池に水素ガスを供給する水素ガス供給路と、前記水素ガス供給路の開度を変更するソレノイドバルブと、前記水素ガス供給路のうちの前記ソレノイドバルブから前記燃料電池までの下流側供給路内の圧力を検出する圧力センサと、制御回路を有する。前記制御回路が、前記ソレノイドバルブが閉じている状態から前記ソレノイドバルブの通電電流を増加させるときに前記圧力センサで検出される前記圧力の立ち上がりを検出するとともに前記圧力の立ち上がり時の前記通電電流である立ち上がり電流を検出するステップと、前記立ち上がり電流に基づいて前記通電電流が増加するときの前記通電電流と前記圧力の関係である増加特性を算出するステップ、を実行する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムであって、
燃料電池と、
前記燃料電池に水素ガスを供給する水素ガス供給路と、
前記水素ガス供給路の開度を変更するソレノイドバルブと、
前記水素ガス供給路のうちの前記ソレノイドバルブから前記燃料電池までの下流側供給路内の圧力を検出する圧力センサと、
前記ソレノイドバルブを制御する制御回路、
を有し、
前記制御回路が、
前記ソレノイドバルブが閉じている状態から前記ソレノイドバルブの通電電流を増加させるときに前記圧力センサで検出される前記圧力の立ち上がりを検出し、前記圧力の立ち上がり時の前記通電電流である立ち上がり電流を検出するステップと、
前記立ち上がり電流に基づいて、前記通電電流が増加するときの前記通電電流と前記圧力の関係である増加特性を算出するステップ、
を実行する燃料電池システム。
【請求項2】
前記制御回路が、前記ソレノイドバルブの標準増加特性を記憶しており、前記立ち上がり電流に基づいて前記標準増加特性を補正することによって前記増加特性を算出する、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記制御回路が、
前記ソレノイドバルブが開いている状態から前記通電電流を減少させるときに前記圧力センサで検出される前記圧力の立ち下がりを検出し、前記圧力の立ち下がり時の前記通電電流である立ち下がり電流を検出するステップと、
前記立ち下がり電流に基づいて、前記通電電流が減少するときの前記通電電流と前記圧力の関係である減少特性を算出するステップ、
を実行する、請求項1または2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記制御回路が、前記ソレノイドバルブの標準減少特性を記憶しており、前記立ち下がり電流に基づいて前記標準減少特性を補正することによって前記減少特性を算出する、請求項3に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記下流側供給路内の水素ガスを外部へ排出する排気弁をさらに有し、
前記制御回路が、前記排気弁を閉じた状態で前記立ち上がり電流を検出する前記ステップを実行する、
請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
バッテリをさらに有し、
前記立ち上がり電流を検出する前記ステップにおいて前記燃料電池で生成された電力によって前記バッテリを充電する請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記立ち上がり電流を検出する前記ステップが、第1スイープ速度で前記通電電流を増加さているときの前記立ち上がり電流である第1立ち上がり電流を検出するステップと、第2スイープ速度で前記通電電流を増加さているときの前記立ち上がり電流である第2立ち上がり電流を検出するステップ、を有し、
前記増加特性を算出する前記ステップが、前記第1スイープ速度における前記増加特性である第1増加特性を前記第1立ち上がり電流に基づいて算出するステップと、前記第2スイープ速度における前記増加特性である第2増加特性を前記第2立ち上がり電流に基づいて算出するステップ、を有する、
請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項8】
燃料電池システムであって、
燃料電池と、
前記燃料電池に水素ガスを供給する水素ガス供給路と、
前記水素ガス供給路の開度を変更するソレノイドバルブと、
前記水素ガス供給路のうちの前記ソレノイドバルブから前記燃料電池までの下流側供給路内の圧力を検出する圧力センサと、
前記ソレノイドバルブを制御する制御回路、
を有し、
前記制御回路が、
前記ソレノイドバルブが開いている状態から前記ソレノイドバルブの通電電流を減少させるときに前記圧力センサで検出される前記圧力の立ち下がりを検出し、前記圧力の立ち下がり時の前記通電電流である立ち下がり電流を検出するステップと、
前記立ち下がり電流に基づいて、前記通電電流が減少するときの前記通電電流と前記圧力の関係である減少特性を算出するステップ、
を実行する燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、燃料電池システムに関する。
【0002】
特許文献1には、車両のブレーキ液の油圧を制御するソレノイドバルブが開示されている。ソレノイドバルブを制御する制御回路は、ソレノイドバルブを駆動する電流値として初期駆動量を記憶している。制御回路は、ソレノイドバルブの上流側と下流側の差圧に応じて、初期駆動量を記憶している。ソレノイドバルブを動作させるときに、制御回路は、最初に初期駆動量の電流をソレノイドバルブに流す。
【0003】
ソレノイドバルブの特性には、個体ばらつきが存在する。また、ソレノイドバルブの特性は、温度や経時変化等によって変化する。これに対し、特許文献1では、制御回路が、初期駆動量を修正する。具体的には、制御回路は、ブレーキ圧を目標圧力に制御している状態において、ソレノイドバルブに流れる電流値を測定する。そして、測定した電流値に基づいて、記憶している初期駆動量を修正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、ブレーキ圧を目標圧力に制御している状態においてソレノイドバルブの適切な電流値を測定し、初期駆動量を修正する。適切な初期駆動量は差圧によって異なるので、差圧ごとに適切な電流値を測定して初期駆動量を修正必要がある。本明細書では、燃料電池システムに用いられるソレノイドバルブの特性をより容易に学習できる技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(形態1)
本明細書が開示する形態1の燃料電池システムは、燃料電池と、前記燃料電池に水素ガスを供給する水素ガス供給路と、前記水素ガス供給路の開度を変更するソレノイドバルブと、前記水素ガス供給路のうちの前記ソレノイドバルブから前記燃料電池までの下流側供給路内の圧力を検出する圧力センサと、前記ソレノイドバルブを制御する制御回路、を有する。前記制御回路が、前記ソレノイドバルブが閉じている状態から前記ソレノイドバルブの通電電流を増加させるときに前記圧力センサで検出される前記圧力の立ち上がりを検出するとともに前記圧力の立ち上がり時の前記通電電流である立ち上がり電流を検出するステップと、前記立ち上がり電流に基づいて前記通電電流が増加するときの前記通電電流と前記圧力の関係である増加特性を算出するステップ、を実行する。
【0007】
この燃料電池システムでは、ソレノイドバルブの立ち上がり電流を検出する。立ち上がり電流を検出すれば、ソレノイドバルブが開くときの通電電流と圧力の関係である増加特性を比較的高精度に算出することができる。このように、この燃料電池システムによれば、容易に増加特性を算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図7】スイープ速度ごとのLSVの増加特性の補正を示すグラフ。
【
図8】スイープ速度ごとのLSVの減少特性の補正を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(形態2)
形態1の燃料電池システムでは、前記制御回路が、前記ソレノイドバルブの標準増加特性を記憶しており、前記立ち上がり電流に基づいて前記標準増加特性を補正することによって前記増加特性を算出してもよい。
【0010】
この構成によれば、高い精度で増加特性を算出できる。
【0011】
(形態3)
形態1または2の燃料電池システムでは、制御回路が、前記ソレノイドバルブが開いている状態から前記通電電流を減少させるときに前記圧力センサで検出される前記圧力の立ち下がりを検出するとともに前記圧力の立ち下がり時の前記通電電流である立ち下がり電流を検出するステップと、前記立ち下がり電流に基づいて前記通電電流が減少するときの前記通電電流と前記圧力の関係である減少特性を算出するステップ、を実行してもよい。
【0012】
この構成によれば、立ち下がり電流に基づいて、容易に減少特性を算出できる。また、ソレノイドバルブはヒステリシス特性を有している場合があり、増加特性と減少特性が異なる場合がある。この構成によれば、増加特性と減少特性のそれぞれを算出することができる。
【0013】
(形態4)
形態3の燃料電池システムでは、前記制御回路が、前記ソレノイドバルブの標準減少特性を記憶しており、前記立ち下がり電流に基づいて前記標準減少特性を補正することによって前記減少特性を算出してもよい。
【0014】
この構成によれば、高い精度で減少特性を算出できる。
【0015】
(形態5)
形態1~4のいずれかの燃料電池システムでは、前記下流側供給路内の水素ガスを外部へ排出する排気弁をさらに有していてもよい。前記制御回路が、前記排気弁を閉じた状態で前記立ち上がり電流を検出する前記ステップを実行してもよい。
【0016】
この構成によれば、増加特性をより正確に算出できる。
【0017】
(形態6)
形態1~5のいずれかの燃料電池システムは、バッテリをさらに有していてもよい。この場合、前記立ち上がり電流を検出する前記ステップにおいて前記燃料電池で生成された電力によって前記バッテリを充電してもよい。
【0018】
この構成によれば、電力需要が存在しない場合でも、燃料電池に水素ガスを供給して発電を行いながら立ち上がり電流を検出することができる。
【0019】
(形態7)
形態1~6のいずれかの燃料電池システムでは、前記立ち上がり電流を検出する前記ステップが、第1スイープ速度で前記通電電流を増加さているときの前記立ち上がり電流である第1立ち上がり電流を検出するステップと、第2スイープ速度で前記通電電流を増加さているときの前記立ち上がり電流である第2立ち上がり電流を検出するステップ、を有していてもよい。この場合、前記増加特性を算出する前記ステップが、前記第1スイープ速度における前記増加特性である第1増加特性を前記第1立ち上がり電流に基づいて算出するステップと、前記第2スイープ速度における前記増加特性である第2増加特性を前記第2立ち上がり電流に基づいて算出するステップ、を有していてもよい。
【0020】
この構成によれば、通電電流を増加させるスイープ速度によって増加特性が異なる場合でも、スイープ速度ごとに増加特性を算出できる。
【0021】
図1に示す実施形態の燃料電池システム10は、電動車両に搭載されている。電動車両はモータ76を有している。モータ76は、燃料電池システム10で発電された電力を用いて動作することにより、車両の駆動輪を回転させる。
【0022】
燃料電池システム10は、燃料電池スタック20と、酸素ガス供給装置30と、水素ガス供給装置40を有している。燃料電池スタック20は、複数の燃料電池の積層体である。酸素ガス供給装置30は、燃料電池スタック20内を通過するように配設された酸素ガス供給路32を有している。酸素ガス供給路32によって燃料電池スタック20に酸素ガスが供給される。水素ガス供給装置40は、燃料電池スタック20内を通過するように配設された水素ガス供給路42を有している。水素ガス供給路42によって燃料電池スタック20に水素ガスが供給される。燃料電池スタック20内で、酸素ガス供給路32によって供給される酸素ガスと水素ガス供給路42によって供給される水素ガスが反応する。これによって、燃料電池スタック20で発電が行われる。
【0023】
燃料電池スタック20には、バッテリ70、モータ駆動回路72、及び、補機駆動回路74が電気的に接続されている。燃料電池スタック20の出力電流がバッテリ70に供給されると、バッテリ70が充電される。モータ駆動回路72は、燃料電池スタック20またはバッテリ70から電力の供給を受けて動作する。モータ駆動回路72は、燃料電池スタック20またはバッテリ70から供給される直流電圧を交流電圧に変換してモータ76に供給することによって、モータ76を動作させる。補機駆動回路74は、燃料電池スタック20またはバッテリ70から電力の供給を受けて動作する。補機駆動回路74は、燃料電池スタック20またはバッテリ70から供給される直流電圧をより低電圧に変換して補機78に供給することによって、補機78を動作させる。
【0024】
水素ガス供給装置40は、水素ガス供給源44、リニアソレノイドバルブ46(以下、LSV(Linear Solenoid Valve)46という)、制御回路48、エジェクタ50、気液分離装置52、圧力センサ54、及び、排気弁56を有している。
【0025】
水素ガス供給源44は、水素ガス供給路42の上流端に接続されている。水素ガス供給源44は、例えば、水素ガスタンク等によって構成されている。水素ガス供給源44は、水素ガス供給路42に高圧の水素ガスを供給する。
【0026】
LSV46とエジェクタ50は、水素ガス供給路42に設置されている。エジェクタ50はLSV46よりも下流側で水素ガス供給路42に設置されている。また、エジェクタ50よりも下流側では、水素ガス供給路42が燃料電池スタック20内部を通っている。水素ガス供給源44から供給される水素ガスは、LSV46、エジェクタ50、燃料電池スタック20を順に通過する。以下では、水素ガス供給路42のLSV46よりも上流側の部分を、供給路42aという。また、以下では、水素ガス供給路42のLSV46とエジェクタ50の間の部分を、供給路42bという。また、以下では、水素ガス供給路42のエジェクタ50と燃料電池スタック20の間の部分を、供給路42cという。また、以下では、水素ガス供給路42の燃料電池スタック20よりも下流側の部分を、供給路42dという。
【0027】
LSV46は、水素ガス供給路42を開閉する弁である。LSV46には、制御回路48が電気的に接続されている。制御回路48は、LSV46に流れる電流(以下、LSV電流Iという)を制御する。LSV46の開度は、LSV電流Iに応じて変化する。LSV電流Iが流れていない状態では、LSV46は閉じている。LSV電流Iが高くなるほど、LSV46の開度が大きくなる。LSV46が開いている状態では、供給路42aからLSV46を通って供給路42bへ水素ガスが流れる。
【0028】
エジェクタ50には、オフガス循環路58が接続されている。オフガス循環路58には、燃料電池スタック20を通過した後の水素ガスであるオフガスが流れる。オフガス循環路58からエジェクタ50にオフガスが供給される。エジェクタ50は、供給路42bから供給される水素ガスにオフガスを添加して供給路42cへ噴射する。
【0029】
エジェクタ50から供給路42cに噴射された水素ガスは、燃料電池スタック20内に流入する。燃料電池スタック20内で、水素ガスが酸素ガスを反応する。燃料電池スタック20を通過した水素ガス(すなわち、オフガス)は、燃料電池スタック20から供給路42dへ流れる。
【0030】
気液分離装置52は、供給路42dの下流端に接続されている。また、気液分離装置52には、オフガス循環路58と排出路60が接続されている。気液分離装置52は、供給路42dから供給されるオフガスから水分を除去する。気液分離装置52は、水分と余剰のオフガスを、排出路60を介して燃料電池システム10の外部へ排出する。また、気液分離装置52は、水分が除去されたオフガスをオフガス循環路58へ供給する。したがって、上述したように、オフガス循環路58からエジェクタ50へオフガスが供給される。
【0031】
供給路42cには、分岐路62が接続されている。分岐路62には、圧力センサ54と排気弁56が設けられている。排気弁56が開くと、分岐路62が外部(すなわち、大気)に接続される。排気弁56が閉じていると、分岐路62内の水素ガスの圧力は供給路42c内の水素ガスの圧力と等しい。圧力センサ54は、分岐路62内の圧力を検出する。排気弁56が閉じている状態では、圧力センサ54で検出される圧力は、供給路42c内の圧力と等しい。
【0032】
燃料電池システム10で発電を実行するときには、制御回路48がLSV46を所定の開度で開く。このため、水素ガス供給路42によって燃料電池スタック20に水素ガスが供給される。また、酸素ガス供給路32によって燃料電池スタック20に酸素ガスが供給される。燃料電池スタック20の内部で水素ガスと酸素ガスが反応し、電力が生成される。燃料電池スタック20で生成された電力は、バッテリ70、モータ駆動回路72、または、補機駆動回路74に必要に応じて供給される。
【0033】
図2は、LSV46の特性を示している。
図2の横軸はLSV電流Iを示しており、
図2の縦軸は供給路42c内の圧力Pを示している。なお、圧力Pは、排気弁56が閉じている状態で圧力センサ54によって検出される圧力と等しい。
図2に示すように、LSV46は、ヒステリシス特性を有する。すなわち、LSV46では、LSV電流Iが増加するときの増加特性Ci1と、LSV電流Iが減少するときの減少特性Cd1が異なる。
【0034】
まず、LSV電流Iを増加させる場合(すなわち、増加特性Ci1)について説明する。LSV電流Iがゼロの状態では、LSV46は全閉状態であり、水素ガス供給路42に水素ガスが流れない。この状態では、圧力Pは最小値PLとなる。LSV電流Iを増加させる場合において、LSV電流Iが電流Ia1未満では、LSV46が全閉状態に維持され、圧力Pは最小値PLに維持される。LSV電流Iが電流Ia1まで増加すると、LSV46が開き始め、圧力Pが上昇を開始する。以下では、圧力Pが上昇を開始するときのLSV電流Iを、立ち上がり電流という場合がある。LSV電流Iが立ち上がり電流Ia1を超えると、LSV電流Iが増加するのに従ってLSV46の開度が大きくなって圧力Pが増加する。LSV電流Iが電流Ib1まで増加すると、LSV46が全開状態となり、圧力Pが最大値PHとなる。LSV電流Iが電流Ib1より高くなっても、圧力Pは最大値PHから上昇しない。
【0035】
次に、LSV電流Iを減少させる場合(すなわち、減少特性Cd1)について説明する。LSV電流Iが電流Ib1よりも高い状態では、LSV46は全開状態であり、圧力Pは最大値PHである。LSV電流Iを減少させる場合においては、LSV電流Iが電流Ib1まで減少しても、LSV46は全開状態を維持する。LSV電流Iを減少させる場合においては、LSV電流Iが電流Ib1よりも低い電流Ic1まで減少すると、LSV46が閉じ始め、圧力Pが低下を開始する。以下では、圧力Pが低下を開始するときのLSV電流Iを、立ち下がり電流とうい場合がある。LSV電流Iが立ち下がり電流Ic1を下回ると、LSV電流Iが減少するのに従ってLSV46の開度が小さくなって圧力Pが減少する。LSV電流Iを減少させる場合においては、LSV電流Iが立ち上がり電流Ia1よりも小さい電流Id1まで減少すると、LSV46が全閉状態となり、圧力Pが最小値PLとなる。
【0036】
以上に説明したように、LSV46は、LSV電流Iが増加するときとLSV電流Iが減少するときとで異なる特性を有している。
【0037】
制御回路48は、
図3に示す標準増加特性Ci2と、
図4に示す標準減少特性Cd2を記憶している。標準増加特性Ci2はLSV46の設計上の増加特性であり、標準減少特性Cd2はLSV46の設計上の減少特性である。LSV46の実際の増加特性Ci1及び減少特性Cd1は、製造ばらつきや経時変化等の影響によって、標準増加特性Ci2及び標準減少特性Cd2からずれている。したがって、制御回路48は、標準増加特性Ci2及び標準減少特性Cd2を修正して、実際の増加特性Ci1及び減少特性Cd1により近い補正増加特性Ci3及び補正減少特性Cd3を算出する学習処理を実行する。以下に、制御回路48が実行する学習処理の実施例を説明する。なお、以下の各実施例の学習処理の実施中において、排気弁56は閉じている。したがって、各実施例の学習処理の実施中において、圧力センサ54で供給路42c内の圧力Pが検出される。
【実施例0038】
図5は、実施例1の学習処理を示している。制御回路48には、外部から必要に応じて発電要求が入力される。例えば、モータ76または補機78が動作している場合や、バッテリ70の残量が基準値を下回ったときに、制御回路48に発電要求が入力される。制御回路48は、ステップS2を定期的に実行し、発電要求が入力されているか否かをチェックする。制御回路48は、発電要求を受信すると、ステップS2でYESと判定し、ステップS4を実行する。
【0039】
ステップS4では、制御回路48は、学習処理を実施済みであるか否かを判定する。学習処理が実施されていない場合には、制御回路48は、ステップS4でNOと判定してステップS6を実行する。
【0040】
ステップS6では、制御回路48は、LSV電流Iを0Aから徐々に増加させながら、圧力センサ54で検出される圧力Pをモニタする。制御回路48は、ステップS6の実行中に、ステップS8で圧力Pが最小値PLから上昇したか否かを判定する。制御回路48は、圧力Pが最小値PLから上昇するまで、ステップS8を繰り返す。制御回路48は、圧力Pが最小値PLから上昇すると、ステップS8でYESと判定する。すると、ステップS10において、制御回路48は、圧力Pが最小値PLから上昇したタイミングにおけるLSV電流Iを立ち上がり電流Ia1として記憶する。
【0041】
例えば、ステップS6では、
図3の矢印100に示すように、制御回路48は、LSV電流Iを0Aから徐々に増加させる。LSV電流Iが低い間は、圧力センサ54で検出される圧力Pは最小値PLから上昇しない。LSV電流IがLSV46の実際の立ち上がり電流Ia1まで上昇すると、圧力Pが上昇を開始する。したがって、制御回路48は、圧力Pが上昇を開始したタイミングにおいてステップS8でYESと判定し、ステップS10で立ち上がり電流Ia1記憶する。
図3に示すように、多くの場合、ステップS10で検出される立ち上がり電流Ia1は、標準増加特性Ci2の立ち上がり電流Ia2とは一致しない。
【0042】
次に、ステップS12において、制御回路48は、検出された立ち上がり電流Ia1に基づいて標準増加特性Ci2を補正する。これによって、制御回路48は、補正増加特性Ci3を算出する。一例では、
図3に示すように、制御回路48は、立ち上がり電流Ia1と立ち上がり電流Ia2の差ΔIa(=Ia1-Ia2)を算出し、標準増加特性Ci2の各座標点のLSV電流Iの値に差ΔIaを加算することによって補正増加特性Ci3を算出する。すなわち、制御回路48は、標準増加特性Ci2をLSV電流Iの軸方向に差ΔIaだけシフトすることで、補正増加特性Ci3を算出する。このように補正増加特性Ci3を算出すると、補正増加特性Ci3における立ち上がり電流が、LSV46の実際の立ち上がり電流Ia1と一致する。また、このように補正増加特性Ci3を算出すると、補正増加特性Ci3を、LSV46の実際の増加特性Ci1に対して比較的高い精度で合わせることができる。なお、他の例では、立ち上がり電流Ia1と立ち上がり電流Ia2の比X(=Ia1/Ia2)を算出し、標準増加特性Ci2の各座標点のLSV電流Iの値に比Xを乗算することによって補正増加特性Ci3を算出してもよい。このように補正増加特性Ci3を算出する場合でも、補正増加特性Ci3を、LSV46の実際の増加特性Ci1に対して比較的高い精度で合わせることができる。
【0043】
次に、ステップS14において、制御回路48は、LSV電流Iを制御して圧力Pを目標値に制御する。ここでは、制御回路48は、補正増加特性Ci3に基づいてLSV電流Iを制御することができる。これによって、燃料電池スタック20に適切な圧力で水素ガスが供給され、燃料電池スタック20で発電が行われる。燃料電池スタック20で生成された電力は、バッテリ70、モータ駆動回路72、または、補機駆動回路74に供給される。
【0044】
燃料電池スタック20で発電が開始されると、制御回路48は、ステップS16を繰り返し実行して、外部から発電停止要求が入力されたか否かをチェックする。制御回路48は、発電停止要求を受信すると、ステップS16でYESと判定し、ステップS18を実行する。
【0045】
ステップS18では、制御回路48は、LSV電流Iを最大値から徐々に減少させながら、圧力センサ54で検出される圧力Pをモニタする。制御回路48は、ステップS18の実行中に、ステップS20で圧力Pが最大値PHから低下したか否かを判定する。制御回路48は、圧力Pが最大値PHから低下するまで、ステップS20を繰り返す。制御回路48は、圧力Pが最大値PHから低下すると、ステップS20でYESと判定する。すると、ステップS22において、制御回路48は、圧力Pが最大値PHから減少したタイミングにおけるLSV電流Iを立ち下がり電流Ic1として記憶する。
【0046】
例えば、ステップS18では、
図4の矢印102に示すように、制御回路48は、LSV電流Iを最大値から徐々に減少させる。LSV電流Iが高い間は、圧力センサ54で検出される圧力Pは最大値PHから低下しない。LSV電流IがLSV46の実際の立ち下がり電流Ic1まで低下すると、圧力Pが低下を開始する。したがって、制御回路48は、圧力Pが低下を開始したタイミングにおいてステップS20でYESと判定し、ステップS22で立ち下がり電流Ic1を記憶する。
図4に示すように、多くの場合、ステップS22で検出される立ち下がり電流Ic1は、標準減少特性Cd2の立ち下がり電流Ic2とは一致しない。
【0047】
次に、ステップS24において、制御回路48は、検出された立ち下がり電流Ic1に基づいて標準減少特性Cd2を補正する。これによって、制御回路48は、補正減少特性Cd3を算出する。一例では、
図4に示すように、制御回路48は、立ち下がり電流Ic1と立ち下がり電流Ic2の差ΔIc(=Ic1-Ic2)を算出し、標準減少特性Cd2の各座標点のLSV電流Iの値に差ΔIcを加算することによって補正減少特性Cd3を算出する。すなわち、制御回路48は、標準減少特性Cd2をLSV電流Iの軸方向に差ΔIcだけシフトすることで、補正減少特性Cd3を算出する。このように補正減少特性Cd3を算出すると、補正減少特性Cd3における立ち下がり電流が、LSV46の実際の立ち下がり電流Ic1と一致する。また、このように補正減少特性Cd3を算出すると、補正減少特性Cd3を、LSV46の実際の減少特性Cd1に対して比較的高い精度で合わせることができる。なお、他の例では、立ち下がり電流Ic1と立ち下がり電流Ic2の比X(=Ic1/Ic2)を算出し、標準減少特性Cd2の各座標点のLSV電流Iの値に比Xを乗算することによって補正減少特性Cd3を算出してもよい。このように補正減少特性Cd3を算出する場合でも、補正減少特性Cd3を、LSV46の実際の減少特性Cd1に対して比較的高い精度で合わせることができる。
【0048】
次に、ステップS26で、制御回路48は、LSV電流Iを0Aまで低下させ、LSV46を全閉する。これによって、燃料電池スタック20への水素ガスの供給が停止し、燃料電池スタック20による発電が停止する。
【0049】
以上のように、ステップS6~S24の学習処理によって、補正増加特性Ci3と補正減少特性Cd3が算出される。学習処理の実施後に発電要求が発生した場合には、制御回路48は、ステップS4でYESと判定し、ステップS30において学習処理を伴わないで発電を実施する。ここでは、制御回路48は、補正増加特性Ci3と補正減少特性Cd3に基づいてLSV電流Iを制御する。このため、圧力Pを正確に制御することができる。
【0050】
以上に説明したように、実施例1では、制御回路48が標準増加特性Ci2を記憶しており、実測した立ち上がり電流Ia1に基づいて標準増加特性Ci2を補正することで、補正増加特性Ci3を算出する。この方法によれば、LSV46の実際の増加特性Ci1に近い補正増加特性Ci3を算出することができる。また、この方法によれば、複数点でLSV電流Iと圧力Pの相関関係を実測する必要が無く、容易に補正増加特性Ci3を算出できる。
【0051】
また、実施例1では、制御回路48が標準減少特性Cd2を記憶しており、実測した立ち下がり電流Ic1に基づいて標準減少特性Cd2を補正することで、補正減少特性Cd3を算出する。この方法によれば、LSV46の実際の減少特性Cd1に近い補正減少特性Cd3を算出することができる。また、この方法によれば、複数点でLSV電流Iと圧力Pの相関関係を実測する必要がなく、容易に補正減少特性Cd3を算出できる。
【0052】
また、実施例1では、増加特性と減少特性を独立して補正する。上述したように、LSV46はヒステリシス特性を有しており、増加特性と減少特性が異なる。したがって、実施例1のように増加特性と減少特性を独立して補正することで、これらを適切に補正することができる。
次に、制御回路48は、ステップS18~26を実行する。実施例2のステップS18~26は、実施例1のステップS18~26と等しい。したがって、実施例2のステップS18~S26において、補正減少特性Cd3が算出される。すなわち、実施例1と同様にして、制御回路48は、立ち下がり電流Ic1を実測し、立ち下がり電流Ic1に基づいて標準減少特性Cd2を補正することによって補正減少特性Cd3を算出する。
以上に説明したように、実施例2の構成によれば、発電要求が無い場合でも、学習処理を実行できる。学習処理後は、制御回路48は、補正増加特性Ci3及び補正減少特性Cd3に基づいてLSV46を制御する。