IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧 ▶ 愛三工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-燃料電池システム 図1
  • 特開-燃料電池システム 図2
  • 特開-燃料電池システム 図3
  • 特開-燃料電池システム 図4
  • 特開-燃料電池システム 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155775
(43)【公開日】2023-10-23
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04537 20160101AFI20231016BHJP
   H01M 8/04858 20160101ALI20231016BHJP
   H01M 8/0438 20160101ALI20231016BHJP
【FI】
H01M8/04537
H01M8/04858
H01M8/0438
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065312
(22)【出願日】2022-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000116574
【氏名又は名称】愛三工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅沼 大作
【テーマコード(参考)】
5H127
【Fターム(参考)】
5H127AB04
5H127AB29
5H127BA02
5H127BA22
5H127BA28
5H127BA33
5H127BA58
5H127BA59
5H127BB02
5H127DB03
5H127DB82
5H127DC90
(57)【要約】
【課題】 燃料電池システムに用いられるソレノイドバルブの動的特性を学習する。
【解決手段】 燃料電池システムであって、燃料電池と、前記燃料電池に水素ガスを供給する水素ガス供給路と、前記水素ガス供給路の開度を変更するソレノイドバルブと、前記水素ガス供給路のうちの前記ソレノイドバルブから前記燃料電池までの下流側供給路内の圧力を検出する圧力センサと、前記ソレノイドバルブを制御する制御回路、を有する。前記制御回路が、前記ソレノイドバルブの通電電流を第1スイープ速度で変化させながら前記通電電流と前記圧力を複数点で検出して記憶するステップと、前記通電電流を前記第1スイープ速度とは異なる第2スイープ速度で変化させながら前記通電電流と前記圧力を複数点で検出して記憶するステップ、を実行する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムであって、
燃料電池と、
前記燃料電池に水素ガスを供給する水素ガス供給路と、
前記水素ガス供給路の開度を変更するソレノイドバルブと、
前記水素ガス供給路のうちの前記ソレノイドバルブから前記燃料電池までの下流側供給路内の圧力を検出する圧力センサと、
前記ソレノイドバルブを制御する制御回路、
を有し、
前記制御回路が、
前記ソレノイドバルブの通電電流を第1スイープ速度で変化させながら前記通電電流と前記圧力を複数点で検出して記憶するステップと、
前記通電電流を前記第1スイープ速度とは異なる第2スイープ速度で変化させながら前記通電電流と前記圧力を複数点で検出して記憶するステップ、
を実行する燃料電池システム。
【請求項2】
前記制御回路が、前記通電電流を前記第1スイープ速度で変化させるステップでは、前記ソレノイドバルブが閉じている状態から前記通電電流を前記第1スイープ速度で増加させ、
前記制御回路が、前記通電電流を前記第2スイープ速度で変化させるステップでは、前記ソレノイドバルブが閉じている状態から前記通電電流を前記第2スイープ速度で増加させる、
請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記制御回路が、前記通電電流を前記第1スイープ速度で変化させるステップでは、前記ソレノイドバルブが開いている状態から前記通電電流を前記第1スイープ速度で減少させ、
前記制御回路が、前記通電電流を前記第2スイープ速度で変化させるステップでは、前記ソレノイドバルブが開いている状態から前記通電電流を前記第2スイープ速度で減少させる、
請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記第1スイープ速度が前記通電電流を増加させる正の値であり、
前記第2スイープ速度が前記通電電流を減少させる負の値であり、
前記制御回路が、前記通電電流を前記第1スイープ速度で変化させるステップでは、前記ソレノイドバルブが閉じている状態から前記通電電流を前記第1スイープ速度で増加させ、
前記制御回路が、前記通電電流を前記第2スイープ速度で変化させるステップでは、前記ソレノイドバルブが開いている状態から前記通電電流を前記第2スイープ速度で減少させる、
請求項1に記載の燃料電池システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、燃料電池システムに関する。
【0002】
特許文献1には、車両のブレーキ液の油圧を制御するソレノイドバルブが開示されている。ソレノイドバルブを制御する制御回路は、ソレノイドバルブを駆動する電流値として初期駆動量を記憶している。制御回路は、ソレノイドバルブの上流側と下流側の差圧に応じて、初期駆動量を記憶している。ソレノイドバルブを動作させるときに、制御回路は、最初に初期駆動量の電流をソレノイドバルブに流す。
【0003】
ソレノイドバルブの特性には、個体ばらつきが存在する。また、ソレノイドバルブの特性は、温度や経時変化等によって変化する。特許文献1では、ソレノイドバルブの特性のばらつきに対して、制御回路が初期駆動量を修正する。具体的には、制御回路は、まず、ブレーキ圧を目標圧力(すなわち、一定値)に制御する。ブレーキ圧を目標圧力に制御している状態では、ソレノイドバルブに流れる電流もほぼ一定値となる。この状態において、制御回路は、ブレーキ圧の差圧とソレノイドバルブに流れる電流を測定する。そして、測定した電流に基づいて、記憶している初期駆動量を修正する。このようにソレノイドバルブの特性に応じて初期駆動量を修正することで、ブレーキ圧をより正確に制御することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-091577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、ブレーキ圧とソレノイドバルブに流れる電流を略一定に制御している状態で、ブレーキ圧の差圧と電流を検出する。しかしながら、ソレノイドバルブの特性は、ソレノイドバルブに流れる電流が変化している動的状態においては、ソレノイドバルブに流れる電流が一定である静的状態とは異なる。特許文献1の技術では、ソレノイドバルブに流れる電流が変化している状態におけるソレノイドバルブの特性(以下、動的特性という場合がある)を正確に学習することができない。本明細書では、燃料電池システムに用いられるソレノイドバルブの動的特性を学習できる技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書が開示する燃料電池システムは、燃料電池と、前記燃料電池に水素ガスを供給する水素ガス供給路と、前記水素ガス供給路の開度を変更するソレノイドバルブと、前記水素ガス供給路のうちの前記ソレノイドバルブから前記燃料電池までの下流側供給路内の圧力を検出する圧力センサと、前記ソレノイドバルブを制御する制御回路、を有する。前記制御回路が、前記ソレノイドバルブの通電電流を第1スイープ速度で変化させながら前記通電電流と前記圧力を複数点で検出して記憶するステップと、前記通電電流を前記第1スイープ速度とは異なる第2スイープ速度で変化させながら前記通電電流と前記圧力を複数点で検出して記憶するステップ、を実行する。
【0007】
なお、第1スイープ速度と第2スイープ速度は、正の値(すなわち、通電電流を増加させる値)であってもよいし、負の値(すなわち、通電電流を減少させる値)であってもよい。また、第1スイープ速度が正の値で第2スイープ速度が負の値であってもよい。この場合、第1スイープ速度の絶対値と第2スイープ速度の絶対値が同じであってもよい。
【0008】
また、前記制御回路は、「前記ソレノイドバルブの通電電流を第1スイープ速度で変化させながら前記通電電流と前記圧力を複数点で検出するステップ」と「前記通電電流を前記第1スイープ速度とは異なる第2スイープ速度で変化させながら前記通電電流と前記圧力を複数点で検出するステップ」のいずれを先に実施してもよい。
【0009】
この燃料電池システムでは、制御回路が、ソレノイドバルブの通電電流を第1スイープ速度で変化させながら通電電流と圧力を複数点で検出することで、第1スイープ速度におけるソレノイドバルブの動的特性を学習する。また、制御回路が、ソレノイドバルブの通電電流を第1スイープ速度とは異なる第2スイープ速度で変化させながら通電電流と圧力を複数点で検出することで、第2スイープ速度におけるソレノイドバルブの動的特性を学習する。このように、この燃料電池システムでは、ソレノイドバルブの動的特性をスイープ速度ごとに学習できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】燃料電池システムのブロック図。
図2】スイープ速度ごとのLSVの動的特性を示すグラフ。
図3】学習処理を示すフローチャート。
図4】LSV電流の増加時の動的特性の測定を示すグラフ。
図5】LSV電流の減少時の動的特性の測定を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書が開示する一例の燃料電池システムでは、前記制御回路が、前記通電電流を前記第1スイープ速度で変化させるステップでは、前記ソレノイドバルブが閉じている状態から前記通電電流を前記第1スイープ速度で増加させてもよい。また、前記制御回路が、前記通電電流を前記第2スイープ速度で変化させるステップでは、前記ソレノイドバルブが閉じている状態から前記通電電流を前記第2スイープ速度で増加させてもよい。
【0012】
この構成によれば、通電電流を増加させるときのソレノイドバルブの動的特性を、異なるスイープ速度で学習できる。
【0013】
本明細書が開示する一例の燃料電池システムでは、前記制御回路が、前記通電電流を前記第1スイープ速度で変化させるステップでは、前記ソレノイドバルブが開いている状態から前記通電電流を前記第1スイープ速度で減少させてもよい。また、前記制御回路が、前記通電電流を前記第2スイープ速度で変化させるステップでは、前記ソレノイドバルブが開いている状態から前記通電電流を前記第2スイープ速度で減少させてもよい。
【0014】
この構成によれば、通電電流を減少させるときのソレノイドバルブの動的特性を、異なるスイープ速度で学習できる。
【0015】
本明細書が開示する一例の燃料電池システムでは、前記第1スイープ速度が前記通電電流を増加させる正の値であってもよく、前記第2スイープ速度が前記通電電流を減少させる負の値であってもよい。前記制御回路が、前記通電電流を前記第1スイープ速度で変化させるステップでは、前記ソレノイドバルブが閉じている状態から前記通電電流を前記第1スイープ速度で増加させてもよい。前記制御回路が、前記通電電流を前記第2スイープ速度で変化させるステップでは、前記ソレノイドバルブが開いている状態から前記通電電流を前記第2スイープ速度で減少させてもよい。
【0016】
この構成によれば、通電電流を増加させるときのソレノイドバルブの動的特性と、通電電流を減少させるときのソレノイドバルブの動的特性を学習できる。
【0017】
図1に示す実施形態の燃料電池システム10は、電動車両に搭載されている。電動車両はモータ76を有している。モータ76は、燃料電池システム10で発電された電力を用いて動作することにより、車両の駆動輪を回転させる。
【0018】
燃料電池システム10は、燃料電池スタック20と、酸素ガス供給装置30と、水素ガス供給装置40を有している。燃料電池スタック20は、複数の燃料電池の積層体である。酸素ガス供給装置30は、燃料電池スタック20内を通過するように配設された酸素ガス供給路32を有している。酸素ガス供給路32によって燃料電池スタック20に酸素ガスが供給される。水素ガス供給装置40は、燃料電池スタック20内を通過するように配設された水素ガス供給路42を有している。水素ガス供給路42によって燃料電池スタック20に水素ガスが供給される。燃料電池スタック20内で、酸素ガス供給路32によって供給される酸素ガスと水素ガス供給路42によって供給される水素ガスが反応する。これによって、燃料電池スタック20で発電が行われる。
【0019】
燃料電池スタック20には、バッテリ70、モータ駆動回路72、及び、補機駆動回路74が電気的に接続されている。燃料電池スタック20の出力電流がバッテリ70に供給されると、バッテリ70が充電される。モータ駆動回路72は、燃料電池スタック20またはバッテリ70から電力の供給を受けて動作する。モータ駆動回路72は、燃料電池スタック20またはバッテリ70から供給される直流電圧を交流電圧に変換してモータ76に供給することによって、モータ76を動作させる。補機駆動回路74は、燃料電池スタック20またはバッテリ70から電力の供給を受けて動作する。補機駆動回路74は、燃料電池スタック20またはバッテリ70から供給される直流電圧をより低電圧に変換して補機78に供給することによって、補機78を動作させる。
【0020】
水素ガス供給装置40は、水素ガス供給源44、リニアソレノイドバルブ46(以下、LSV(Linear Solenoid Valve)46という)、制御回路48、エジェクタ50、気液分離装置52、圧力センサ54、及び、排気弁56を有している。
【0021】
水素ガス供給源44は、水素ガス供給路42の上流端に接続されている。水素ガス供給源44は、例えば、水素ガスタンク等によって構成されている。水素ガス供給源44は、水素ガス供給路42に高圧の水素ガスを供給する。
【0022】
LSV46とエジェクタ50は、水素ガス供給路42に設置されている。エジェクタ50はLSV46よりも下流側で水素ガス供給路42に設置されている。また、エジェクタ50よりも下流側では、水素ガス供給路42が燃料電池スタック20内部を通っている。水素ガス供給源44から供給される水素ガスは、LSV46、エジェクタ50、燃料電池スタック20を順に通過する。以下では、水素ガス供給路42のLSV46よりも上流側の部分を、供給路42aという。また、以下では、水素ガス供給路42のLSV46とエジェクタ50の間の部分を、供給路42bという。また、以下では、水素ガス供給路42のエジェクタ50と燃料電池スタック20の間の部分を、供給路42cという。また、以下では、水素ガス供給路42の燃料電池スタック20よりも下流側の部分を、供給路42dという。
【0023】
LSV46は、水素ガス供給路42を開閉する弁である。LSV46には、制御回路48が電気的に接続されている。制御回路48は、LSV46に流れる電流(以下、LSV電流Iという)を制御する。LSV46の開度は、LSV電流Iに応じて変化する。LSV電流Iが流れていない状態では、LSV46は閉じている。LSV電流Iが高くなるほど、LSV46の開度が大きくなる。LSV46が開いている状態では、供給路42aからLSV46を通って供給路42bへ水素ガスが流れる。
【0024】
エジェクタ50には、オフガス循環路58が接続されている。オフガス循環路58には、燃料電池スタック20を通過した後の水素ガスであるオフガスが流れる。オフガス循環路58からエジェクタ50にオフガスが供給される。エジェクタ50は、供給路42bから供給される水素ガスにオフガスを添加して供給路42cへ噴射する。
【0025】
エジェクタ50から供給路42cに噴射された水素ガスは、燃料電池スタック20内に流入する。燃料電池スタック20内で、水素ガスが酸素ガスを反応する。燃料電池スタック20を通過した水素ガス(すなわち、オフガス)は、燃料電池スタック20から供給路42dへ流れる。
【0026】
気液分離装置52は、供給路42dの下流端に接続されている。また、気液分離装置52には、オフガス循環路58と排出路60が接続されている。気液分離装置52は、供給路42dから供給されるオフガスから水分を除去する。気液分離装置52は、水分と余剰のオフガスを、排出路60を介して燃料電池システム10の外部へ排出する。また、気液分離装置52は、水分が除去されたオフガスをオフガス循環路58へ供給する。したがって、上述したように、オフガス循環路58からエジェクタ50へオフガスが供給される。
【0027】
供給路42cには、分岐路62が接続されている。分岐路62には、圧力センサ54と排気弁56が設けられている。排気弁56が開くと、分岐路62が外部(すなわち、大気)に接続される。排気弁56が閉じていると、分岐路62内の水素ガスの圧力は供給路42c内の水素ガスの圧力と等しい。圧力センサ54は、分岐路62内の圧力を検出する。排気弁56が閉じている状態では、圧力センサ54で検出される圧力は、供給路42c内の圧力と等しい。
【0028】
燃料電池システム10で発電を実行するときには、制御回路48がLSV46を所定の開度で開く。このため、水素ガス供給路42によって燃料電池スタック20に水素ガスが供給される。また、酸素ガス供給路32によって燃料電池スタック20に酸素ガスが供給される。燃料電池スタック20の内部で水素ガスと酸素ガスが反応し、電力が生成される。燃料電池スタック20で生成された電力は、バッテリ70、モータ駆動回路72、または、補機駆動回路74に必要に応じて供給される。
【0029】
図2は、LSV46の動的特性を示している。図2の横軸はLSV電流Iを示しており、図2の縦軸は供給路42c内の圧力Pを示している。なお、圧力Pは、排気弁56が閉じている状態で圧力センサ54によって検出される圧力と等しい。図2の動的特性Ci1は、LSV電流Iをスイープ速度V1(A/sec)で増加させるときのLSV46の動的特性を示している。図2の動的特性Cd1は、LSV電流Iをスイープ速度-V1(A/sec)で減少させるときのLSV46の動的特性を示している。なお、スイープ速度V1の絶対値とスイープ速度-V1の絶対値は等しい。図2に示すように、LSV46では、LSV電流Iが増加するときの動的特性Ci1と、LSV電流Iが減少するときの動的特性Cd1が異なる。すなわち、LSV46は、ヒステリシス特性を有する。
【0030】
まず、動的特性Ci1について説明する。LSV電流Iがゼロの状態では、LSV46は全閉状態であり、水素ガス供給路42に水素ガスが流れない。この状態では、圧力Pは最小値PLとなる。LSV電流Iを増加させる場合において、LSV電流Iが電流Ia未満では、LSV46が全閉状態に維持され、圧力Pは最小値PLに維持される。LSV電流Iが電流Iaまで増加すると、LSV46が開き始め、圧力Pが上昇を開始する。以下では、圧力Pが上昇を開始するときの電流Iaを、立ち上がり電流Iaという場合がある。LSV電流Iが立ち上がり電流Iaを超えると、LSV電流Iが増加するのに従ってLSV46の開度が大きくなって圧力Pが上昇する。LSV電流Iが電流Ibまで増加すると、LSV46が全開状態となり、圧力Pが最大値PHとなる。LSV電流Iが電流Ibより高くなっても、圧力Pは最大値PHから上昇しない。
【0031】
次に、動的特性Cd1について説明する。LSV電流Iが電流Ibよりも高い状態では、LSV46は全開状態であり、圧力Pは最大値PHである。LSV電流Iを減少させる場合においては、LSV電流Iが電流Ibまで減少しても、LSV46は全開状態を維持する。LSV電流Iを減少させる場合においては、LSV電流Iが電流Ibよりも低い電流Icまで減少すると、LSV46が閉じ始め、圧力Pが低下を開始する。以下では、圧力Pが低下を開始するときの電流Icを、立ち下がり電流Icという場合がある。LSV電流Iが立ち下がり電流Icを下回ると、LSV電流Iが減少するのに従ってLSV46の開度が小さくなって圧力Pが低下する。LSV電流Iを減少させる場合においては、LSV電流Iが立ち上がり電流Iaよりも小さい電流Idまで減少すると、LSV46が全閉状態となり、圧力Pが最小値PLとなる。
【0032】
また、図2の動的特性Ci2~Ci4は、動的特性Ci1のスイープ速度V1とは異なるスイープ速度でLSV電流Iを増加させるときのLSV46の動的特性を示している。動的特性Ci2はスイープ速度V2でLSV電流Iを増加させる場合の動的特性であり、動的特性Ci3はスイープ速度V3でLSV電流Iを増加させる場合の動的特性であり、動的特性Ci4はスイープ速度V4でLSV電流Iを増加させる場合の動的特性である。スイープ速度V1~V4は、V1<V2<V3<V4の関係を満たす。図2に示すように、スイープ速度が速くなるほど、グラフが右側にシフトし、圧力Pを上昇させるのに必要なLSV電流Iが高くなる。例えば、スイープ速度が速くなるほど、立ち上がり電流Iaが高くなる。このように、LSV電流Iが増加するときのLSV46の動的特性は、スイープ速度に応じて変化する。
【0033】
また、図2の動的特性Cd2~Cd4は、動的特性Cd1のスイープ速度-V1とは異なるスイープ速度でLSV電流Iを減少させるときのLSV46の動的特性を示している。動的特性Cd2はスイープ速度-V2でLSV電流Iを減少させる場合の動的特性であり、動的特性Cd3はスイープ速度-V3でLSV電流Iを減少させる場合の動的特性であり、動的特性Cd4はスイープ速度-V4でLSV電流Iを減少させる場合の動的特性である。スイープ速度-V1~-V4は、-V4<-V3<-V2<-V1の関係を満たす。すなわち、スイープ速度-V1はスイープ速度-V1~-V4の中で最も遅い減少速度でLSV電流Iを減少させることを意味し、スイープ速度-V4はスイープ速度-V1~-V4の中で最も速い減少速度でLSV電流Iを減少させることを意味する。図2に示すように、LSV電流Iの減少速度が速くなるほど、グラフが左側にシフトし、圧力Pを低下させるのに必要なLSV電流Iが低くなる。例えば、LSV電流Iの減少速度が速くなるほど、立ち下がり電流Icが低くなる。このように、LSV電流Iが減少するときのLSV46の動的特性は、スイープ速度に応じて変化する。
【0034】
また、LSV46の動的特性には、製造誤差や経時変化等の影響によって個体ばらつきが存在する。制御回路48は、LSV46の動的特性を測定して記憶する学習処理を実行する。以下に、制御回路48が実行する学習処理について説明する。なお、以下の学習処理の実施中において、排気弁56は閉じている。したがって、学習処理の実施中において、圧力センサ54で供給路42c内の圧力Pが検出される。
【0035】
図3は、学習処理を示している。制御回路48は、学習処理を未実施の場合に、学習処理を実施する。制御回路48が学習処理を実行することで、製造誤差によってLSV46の動的特性が設計値からずれている場合でも、LSV46の動的特性を特定することができる。また、学習処理を実施済みの場合でも、制御回路48が、図3に示す学習処理を定期的に実行してもよい。制御回路48が学習処理を定期的に実行することで、LSV46の動的特性に経時変化が生じても、LSV46の動的特性を正確に特定することができる。
【0036】
ステップS2では、制御回路48は、図4、5に示されるように、LSV電流Iの使用可能範囲を等間隔で分割することによって測定領域Rを設定する。
【0037】
次に、制御回路48は、ステップS4~S12を繰り返し実行する。ステップS4では、制御回路48は、LSV電流Iのスイープ速度Vを選択する。ここでは、制御回路48は、予め決められた複数の正のスイープ速度(例えば、スイープ速度V1~V4)の中から1つのスイープ速度を選択する。
【0038】
ステップS6では、制御回路48は、直前のステップS4で選択したスイープ速度VでLSV電流Iを増加させながら、LSV46の動的特性を測定する。より詳細には、制御回路48は、ステップS4で選択したスイープ速度VでLSV電流Iを増加させながら、圧力センサ54で検出される圧力Pをモニタする。このとき、制御回路48は、ステップS2で設定した各測定領域RにおいてLSV電流Iと圧力Pを測定して記憶する。図4は、スイープ速度VにてステップS6を実行するときのLSV電流Iと圧力Pの変化を示している。図4に示すように、LSV電流Iの使用可能範囲が等分された各範囲が、測定領域Rとして設定されている。図4に示すように、制御回路48は、LSV電流Iを0Aからスイープ速度Vで増加させる。制御回路48は、LSV電流Iが各測定領域R内の値のときに、LSV電流Iとそのときの圧力Pを測定して記憶する。例えば、制御回路48は、LSV電流Iが各測定領域Rの中央の値になったときに、そのときのLSV電流Iと圧力Pを測定して記憶してもよい。また、制御回路48が、1つの測定領域R内で複数回LSV電流Iと圧力Pを測定し、それらの平均値または中央値をその測定領域RにおけるLSV電流I及び圧力Pとして記憶してもよい。このように制御回路48が各測定領域RにおいてLSV電流Iと圧力Pを記憶することで、制御回路48が図4に示す各座標点Uを記憶する。制御回路48は、各座標点Uに基づいて、LSV電流Iを増加させるときのLSV46の動的特性Ciを特定する。例えば、制御回路48は、各座標点Uを直線または曲線で接続することで、LSV46の動的特性Ciを特定してもよい。また、制御回路48は、各座標点Uから近似曲線を算出することで、LSV46の動的特性Ciを特定してもよい。
【0039】
なお、ステップS6において圧力Pが最小値PLよりも大きい間は、燃料電池スタック20に水素が供給される。制御回路48は、ステップS6では、燃料電池スタック20へ水素が供給されるのに合わせて、酸素ガス供給装置30によって燃料電池スタック20に酸素を供給する。したがって、燃料電池スタック20で発電が行われる。燃料電池スタック20で生成された電力は、バッテリ70に供給される。したがって、バッテリ70が充電される。なお、モータ76または補機78で電力需要がある場合には、燃料電池スタック20で生成された電力をモータ76または補機78に供給してもよい。
【0040】
ステップS8では、制御回路48は、LSV電流Iのスイープ速度Vを選択する。ここでは、制御回路48は、予め決められた複数の負のスイープ速度(例えば、スイープ速度-V1~-V4)の中から1つのスイープ速度を選択する。
【0041】
ステップS10では、制御回路48は、直前のステップS8で選択したスイープ速度VでLSV電流Iを減少させながら、LSV46の動的特性を測定する。より詳細には、制御回路48は、ステップS8で選択したスイープ速度VでLSV電流Iを減少させながら、圧力センサ54で検出される圧力Pをモニタする。このとき、制御回路48は、ステップS2で設定した各測定領域RにおいてLSV電流Iと圧力Pを測定して記憶する。図5は、スイープ速度V(例えば、スイープ速度-V1、-V2、-V3、または、-V4)にてステップS10を実行するときのLSV電流Iと圧力Pの変化を示している。図5に示すように、制御回路48は、LSV電流Iを最大値からスイープ速度Vで減少させる。制御回路48は、LSV電流Iが各測定領域R内の値のときに、LSV電流Iとその時の圧力Pを測定して記憶する。このように制御回路48が各測定領域RにおけるLSV電流Iと圧力Pを記憶することで、制御回路48が図5に示す各座標点Uを記憶する。制御回路48は、各座標点Uに基づいて、LSV電流Iを減少させるときのLSV46の動的特性Cdを特定する。
【0042】
なお、ステップS10において圧力Pが最小値PLよりも大きい間は、燃料電池スタック20に水素が供給される。制御回路48は、ステップS10では、燃料電池スタック20へ水素が供給されるのに合わせて、酸素ガス供給装置30によって燃料電池スタック20に酸素を供給する。したがって、燃料電池スタック20で発電が行われる。燃料電池スタック20で生成された電力は、バッテリ70等に供給される。
【0043】
ステップS12では、制御回路48は、予め決められた複数のスイープ速度(例えば、スイープ速度V1~V4及び-V1~-V4)の全てに対してLSV電流Iの変化時の動的特性を測定したか否かを判定する。LSV電流Iの変化時の動的特性の測定を行っていないスイープ速度が残っている場合(すなわち、ステップS12でNOの場合)には、制御回路48は、ステップS4~S12を再度実行する。二回目以降のステップS4では、制御回路48は、LSV電流Iの増加時の動的特性の測定が完了していないスイープ速度の中から1つのスイープ速度を選択する。また、二回目以降のステップS8では、制御回路48は、LSV電流Iの減少時の動的特性の測定が完了していないスイープ速度の中から1つのスイープ速度を選択する。したがって、制御回路48は、ステップS4~S12を複数回繰り返すことで、予め決められた正のスイープ速度(例えば、スイープ速度V1~V4)と負のスイープ速度(例えば、スイープ速度-V1~-V4)の全てに対してLSV電流Iの変化時の動的特性を測定する。例えば、図2の動的特性Ci1~Ci4及びCd1~Cd4の実測値が、制御回路48で測定されて記憶される。
【0044】
以上の学習処理を制御回路48が実行することによって、制御回路48が、複数のスイープ速度におけるLSV電流Iの増加時の動的特性、及び、複数のスイープ速度におけるLSV電流Iの減少時の動的特性を記憶した状態となる。制御回路48は、学習処理後は、記憶している動的特性に応じてLSV46を制御する。例えば、車両の走行中に、制御回路48には、燃料電池スタック20の目標発電量に応じて、圧力Pの目標値が入力される。すると、制御回路48は、圧力Pの目標値と現在の圧力Pに応じて、スイープ速度を算出する。さらに、制御回路48は、算出したスイープ速度に基づいて、記憶している動的特性(例えば、Ci1~Ci4、Cd1~Cd4)の中から適切な1つの動的特性を選択する。例えば、算出したスイープ速度が正の値の場合には、制御回路48は、LSV電流Iを増加させるときの動的特性Ciの中からそのスイープ速度に応じた1つの動的特性を選択する。また、算出したスイープ速度が負の値の場合には、制御回路48は、LSV電流Iを減少させるときの動的特性Cdの中からそのスイープ速度に応じた1つの動的特性を選択する。制御回路48は、動的特性を選択すると、選択した動的特性と圧力Pの目標値に基づいてLSV電流Iの目標値を算出する。その後、制御回路48は、算出したスイープ速度でLSV電流Iを目標値まで変化させる。制御回路48が記憶している動的特性が学習処理で実測した動的特性であるので、上記のように制御回路48がLSV電流Iを制御することで、圧力Pを目標値に正確に制御することができる。また、学習処理において動的特性がスイープ速度ごとに測定されているので、制御回路48は、スイープ速度による動的特性の変化に追随させてLSV電流Iを制御することができる。例えば、圧力Pを上昇させるときに、スイープ速度が速い場合の動的特性とスイープ速度が遅い場合の動的特性の差の影響を受けることなく、圧力Pを正確に制御することができる。また、圧力Pを低下させるときに、スイープ速度が速い場合の動的特性とスイープ速度が遅い場合の動的特性の差の影響を受けることなく、圧力Pを正確に制御することができる。また、圧力Pを変化させるときに、圧力Pを上昇させるときの動的特性と圧力Pを低下させるときの動的特性の差の影響(すなわち、ヒステリシス特性の影響)を受けることなく、圧力Pを正確に制御することができる。このように、実施形態の燃料電池システム10によれば、燃料電池スタック20に供給される水素ガスの圧力Pを従来よりも正確に制御することができる。
【0045】
なお、上述した実施形態では、LSV電流Iを増加させるときの動的特性とLSV電流Iを減少させるときの動的特性を交互に測定した。しかしながら、LSV電流Iを増加させるときの複数の動的特性を測定した後に、LSV電流Iを減少させるときの複数の動的特性を測定してもよい。
【0046】
また、上述した実施形態では、LSV電流Iを増加させるときに複数のスイープ速度において動的特性を測定するとともにLSV電流Iを減少させるときに複数のスイープ速度において動的特性を測定した。しかしながら、他の実施形態においては、LSV電流Iを増加させるときに複数のスイープ速度において動的特性を測定し、LSV電流Iを減少させるときには動的特性を測定しなくてもよい。この構成でも、LSV電流Iを増加させるときに圧力Pを正確に制御できる。また、さらに他の実施形態においては、LSV電流Iを減少させるときに複数のスイープ速度において動的特性を測定し、LSV電流Iを増加させるときには動的特性を測定しなくてもよい。この構成でも、LSV電流Iを減少させるときに圧力Pを正確に制御できる。また、さらに他の実施形態においては、LSV電流Iを増加させるときに1つのスイープ速度において動的特性を測定するとともにLSV電流Iを減少させるとき1つのスイープ速度で動的特性を測定してもよい。この場合、LSV電流Iを増加させるときのスイープ速度(すなわち、正のスイープ速度)の絶対値とLSV電流Iを減少させるときのスイープ速度(すなわち、負のスイープ速度)の絶対値が等しくてもよい。この構成でも、ヒステリシス特性の影響を受けずに圧力Pを制御できる。
【0047】
なお、上述した実施形態では、LSV46の制御について説明したが、LSV46の代わりに他のソレノイドバルブ(例えば、ロータリーソレノイドバルブ等)を使用してもよい。
【0048】
また、上述した実施形態では、電動車両に搭載されている燃料電池システムについて説明したが、定置型等のその他の燃料電池システムに本明細書に開示の技術を適用してもよい。
【0049】
また、上述した実施形態において、動的特性の測定時にLSV電流Iと圧力Pを測定する測定点は、3つ以上であることが好ましく、5つ以上であることがより好ましい。
【0050】
LSV電流Iを増加させるときの複数の動的特性に着目した場合、実施形態のスイープ速度V1は第1スイープ速度の一例であり、実施形態のスイープ速度V2~V4は第2スイープ速度の一例である。LSV電流Iを減少させるときの複数の動的特性に着目した場合、実施形態のスイープ速度-V1は第1スイープ速度の一例であり、実施形態のスイープ速度-V2~-V4は第2スイープ速度の一例である。LSV電流Iを増加させるときの動的特性とLSV電流Iを減少させるときの動的特性に着目した場合、実施形態のスイープ速度V1は第1スイープ速度の一例であり、実施形態のスイープ速度-V1~-V4は第2スイープ速度の一例である。
【0051】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0052】
10 :燃料電池システム
20 :燃料電池スタック
32 :酸素ガス供給路
42 :水素ガス供給路
46 :リニアソレノイドバルブ
48 :制御回路
54 :圧力センサ
図1
図2
図3
図4
図5