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特開2023-155776リグノフェノール製造方法及びリグノフェノール製造システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155776
(43)【公開日】2023-10-23
(54)【発明の名称】リグノフェノール製造方法及びリグノフェノール製造システム
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/00 20060101AFI20231016BHJP
【FI】
C08B15/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065316
(22)【出願日】2022-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000192590
【氏名又は名称】株式会社神鋼環境ソリューション
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592125949
【氏名又は名称】神鋼商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】塚▲崎▼ 旭
(72)【発明者】
【氏名】瀧本 絢子
(72)【発明者】
【氏名】福元 淳
(72)【発明者】
【氏名】高橋 淳
【テーマコード(参考)】
4C090
【Fターム(参考)】
4C090AA04
4C090AA05
4C090BA34
4C090BA97
4C090CA04
4C090CA11
4C090CA31
4C090DA32
(57)【要約】
【課題】リグノセルロース系材料からリグノフェノールを製造する過程で、セルロース等からリグニンを分離させたりリグノフェノールを生成させたりする際に硫酸を必須としないリグノフェノール製造方法と、この製造方法に適したリグノフェノール製造システムとを提供する。
【解決手段】リグノセルロース系材料、フェノール類、アルカリ金属水酸化物、無機硫黄化合物、及び水を含む混合物を、該混合物の液温が130℃以上となるように加熱する工程を含み、前記無機硫黄化合物は、水溶性の亜硫酸金属塩、及び水溶性の金属硫化物から選ばれた1種以上の化合物である、リグノフェノール製造方法である。リグノセルロース系材料、フェノール類、アルカリ金属水酸化物、前記無機硫黄化合物、及び水を含む混合物が、該混合物の液温を130℃以上とするように加熱される反応容器を含む、リグノフェノール製造システムである。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグノフェノールをリグノセルロース系材料から製造する方法であって、
前記リグノセルロース系材料、フェノール類、アルカリ金属水酸化物、無機硫黄化合物、及び水を含む混合物を、該混合物の液温が130℃以上となるように加熱する工程を含み、
前記無機硫黄化合物は、水溶性の亜硫酸金属塩、及び水溶性の金属硫化物から選ばれた1種以上の化合物である、リグノフェノール製造方法。
【請求項2】
前記混合物を調製するときに、前記リグノセルロース系材料、前記フェノール類、前記アルカリ金属水酸化物、前記無機硫黄化合物、及び前記水を、前記混合物の液温が30℃以上100℃以下となるように混合する、請求項1に記載されたリグノフェノール製造方法。
【請求項3】
前記混合物を調製する工程と、該混合物の液温が130℃以上となるように加熱する工程とを連続式で行う、請求項1に記載されたリグノフェノール製造方法。
【請求項4】
前記混合物を調製する工程と、
前記混合物の液温が130℃以上となるように加熱する工程と、
前記加熱をされた後の前記混合物を気液分離する工程と、を含み、
前記混合物を調製する原料の一部として、前記気液分離で回収する水蒸気又はその凝縮水を使用する、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載されたリグノフェノール製造方法。
【請求項5】
リグノフェノールをリグノセルロース系材料から製造するシステムであって、
前記リグノセルロース系材料、フェノール類、アルカリ金属水酸化物、無機硫黄化合物、及び水を含む混合物が、該混合物の液温を130℃以上とするように加熱される反応容器を含み、
前記無機硫黄化合物は、水溶性の亜硫酸金属塩、及び水溶性の金属硫化物から選ばれた1種以上の化合物である、リグノフェノール製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグノフェノール(lignophenol:以下「LP」ともいう)をリグノセルロース系材料から製造する方法と、この方法に適したLP製造システムとに関する。
【背景技術】
【0002】
石油の枯渇や地球温暖化への危惧から、石油等の化石資源に代わる再生可能資源として、リグノセルロース系材料(例えば木質又は草本など)を有効活用することが、期待されている。植物の細胞壁を構成するリグノセルロースは、陸上に最も豊富に存在するバイオマスであり、リグニンと、水不溶性の多糖類(セルロース、ヘミセルロース)とが結合した、高次構造かつ難溶性の高分子混合物である。リグノセルロースを構成するリグニンは、フェニルプロパン単位(C6-C3単位)を基本骨格として有し、フェニルプロパン単位が酵素によりランダムに酸化重合されてなる、天然の芳香族ポリマーである。
【0003】
リグノセルロースを構成する水不溶性の多糖類については、リグニンから分離されてパルプ原料等として活用されてきた。一方、この多糖類から分離されたリグニンは、化学的に不安定なポリマーであるため、有望な用途を欠き、長年にわたり、産業廃棄物として処理されるか又は低質な燃料として使用されるに過ぎなかった。近年、多糖類から分離されたリグニンと、フェノール類(例えばクレゾール等)とを反応させ、例えば共有結合及び/又はイオン結合させることにより、化学的な安定性を付与するようにリグニンが改質されたリグノフェノール(LP)を製造可能であることが、明らかとなった。このため、LPを効率良く製造可能な方法や、LPを例えばバイオプラスチック原料又は接着剤原料などとして有効活用することが、検討されるようになってきた。
【0004】
例えば、特許文献1や特許文献2には、リグノセルロース系材料とフェノール類とからLPを製造する方法が開示されている。この製造方法では、リグノセルロース系材料、フェノール類(好ましくはp-クレゾール)及び酸(好ましくは硫酸)を含む、酸性の混合物を調製する。この混合物において、リグノセルロース系材料に含まれるセルロースやヘミセルロース(以下「セルロース等」ともいう)を酸で加水分解することにより、セルロース等からリグニンを分離させ、且つ、酸の触媒作用により、リグニンとフェノール類とを例えば共有結合及び/又はイオン結合させる反応を促進して、LPを生成する。その後、生成したLPを含む酸性の混合物を、疎水性溶媒と混合し、LPを凝集させた後、この混合物を固液分離してLP凝集物を回収する等して、LPを製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-64533号公報
【特許文献2】特開2018-24601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本願に係る発明者らが試作実験を積み重ねた結果、仮に、硫酸によりセルロース等からリグニンを分離し、且つ、硫酸によりLPの生成を促す製造方法により、LPの製造規模を拡大すれば、幾つか問題を生じることが明らかとなった。問題の一つは、LP凝集物から分離し除去する硫酸又はその塩(例えば硫酸アンモニウム)を、環境に負荷をかけないように大量に処理するために、高額な廃酸処理設備を要することであった。
【0007】
そこで、本発明の課題は、リグノセルロース系材料からリグノフェノールを製造する過程で、セルロース等からリグニンを分離させたりリグノフェノールを生成させたりする際に硫酸を必須としないリグノフェノール製造方法と、この製造方法に適したリグノフェノール製造システムとを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決するために、本発明に係るリグノフェノール製造方法は、リグノフェノールをリグノセルロース系材料から製造する方法であって、前記リグノセルロース系材料、フェノール類、アルカリ金属水酸化物、無機硫黄化合物、及び水を含む混合物を、該混合物の液温が130℃以上となるように加熱する工程を含み、前記無機硫黄化合物は、水溶性の亜硫酸金属塩、及び水溶性の金属硫化物から選ばれた1種以上の化合物であるように構成されている。
【0009】
斯かる構成の製造方法によれば、フェノール類、アルカリ金属水酸化物、無機硫黄化合物、及び水と混合されたリグノセルノース系材料を、130℃以上の温度に加熱することにより、セルロース等からリグニンを分離させ、且つ、リグニンとフェノール類とからリグノフェノールを生成させる反応が促される。また、斯かる構成によれば、使用される無機硫黄化合物は、水溶性の亜硫酸金属塩(例えば、NaSO等)、及び水溶性のアルカリ金属硫化物(例えば、NaS等)から選ばれた1種以上の化合物であるため、セルロース等からリグニンを分離させたり、リグノフェノールを生成させたりする際に、硫酸を用いることは必須でない。このことは、次に記載する、本発明に係るリグノフェノール製造システムでも同様である。
【0010】
本発明に係るリグノフェノール製造システムでは、リグノフェノールをリグノセルロース系材料から製造するシステムであって、前記リグノセルロース系材料、フェノール類、アルカリ金属水酸化物、無機硫黄化合物、及び水を含む混合物が、該混合物の液温を130℃以上とするように加熱される反応容器を含み、前記無機硫黄化合物は、水溶性の亜硫酸金属塩、及び水溶性の金属硫化物から選ばれた1種以上の化合物であるように構成されている。
【発明の効果】
【0011】
以上に説明したように本発明によれば、リグノセルロース系材料からリグノフェノールを製造する過程で、セルロース等からリグニンを分離させたりリグノフェノールを生成させたりする際に硫酸を必須としないリグノフェノール製造方法と、この製造方法に適したリグノフェノール製造システムとを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、図2と共に、本発明の一実施形態に係るリグノフェノール精製物の製造方法を説明するフロー図である。図1では、図2と比べて、反応工程と粗精製工程とを詳しく説明し、精製工程の詳しい説明を省略している。
図2図2は、図1と共に、本発明の一実施形態に係るリグノフェノール精製物の製造方法を説明するフロー図である。図2では、図1と比べて、精製工程を詳しく説明し、反応工程と粗精製工程との詳しい説明を省略している。
図3図3は、本発明の一実施形態に係るリグノフェノール精製物の製造方法について、その実施に適したリグノフェノール製造システムの構成を説明する概略図である。
図4図4は、実施例1に係るリグノフェノール含有組成物を試作した方法を説明するフロー図である。
図5図5は、実施例1に係るリグノフェノール含有組成物について、H-NMRスペクトルのチャート(上段)に示されたHシグナルのピークと、クレゾール及びリグニンに由来するリグノフェノールの構成単位の構造式(下段)に含まれるHとの対応関係を、符号a乃至hを付して説明する図である。図5上段のチャートにおいて、縦軸はHシグナル強度を示し、横軸は化学シフト値(ppm)を示す。
図6図6は、実施例1に係るリグノフェノール含有組成物について、13C-NMRスペクトルのチャート(上段)に示された13Cシグナルのピークと、クレゾール及びリグニンに由来するリグノフェノールの構成単位の構造式(下段)に含まれる13Cとの対応関係を、符号i乃至wを付して説明する図である。図6上段のチャートにおいて、縦軸は13Cシグナル強度を示し、横軸は化学シフト値(ppm)を示す。
図7図7は、メタノールによりリグノフェノールを溶解した後、晶析をする、リグノフェノール含有組成物の製造方法の一例を説明するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
リグノフェノール(LP)は、アルコールに溶けるが、純水に溶けない物質である。本願発明とは異なり硫酸の使用を必須とし、LPをリグノセルロース系材料から製造する方法として、例えば、図7に示す方法S900が考えられる。前記方法S900では、リグノセルロース系材料として木粉を準備する(S901)。フェノール類の一種であるクレゾールを添加し、木粉に含まれるリグニンにクレゾールを収着させる(S902)。リグニンに未収着であるクレゾールを、固液分離により除去する(S903)。未収着のクレゾールを除去された木粉に、72質量%硫酸水溶液を添加し、液温30℃で1時間攪拌することにより、リグニンを、加水分解され硫酸水溶液に可溶となった多糖類から分離させ、且つ、リグニンとクレゾールとを反応させてLP生成を促す(S904)。硫酸水溶液を添加された木粉にヘキサンを添加し、硫酸水溶液中に分散していたLPが凝集することにより、硫酸及び糖類の層と、LP層と、ヘキサン層とに相分離させ、LP層からLPを含む固形分を回収する(S905)。この固形分にメタノールを添加し、LPを溶解させる(S906)。LPを溶解させたメタノールは、処理S905で除去しきれず残留している硫酸により、酸性を示す。このメタノールに、例えば25質量%アンモニア水を添加して中和する。つまり、残留している硫酸から、硫酸アンモニウムを生成し析出させる(S907)。メタノールとアンモニア水との混合液から、析出した硫酸アンモニウムを含む固形分を除去する(S908)。硫酸アンモニウムを除去されたメタノール水溶液に食塩水を添加し、溶解しているLPを晶析により析出させる(S909)。メタノールと食塩水とを含む液相を除去するように分画し(S910)、析出したLPを含む固形分を得る。この固形分を乾燥させて(S911)、LP含有組成物を得ることができる。
【0014】
しかし、前記方法S900では、処理S904で混合した硫酸が処理S908までLPと混在していることや、処理S908で除去した硫酸アンモニウムの処理を要することに起因して、前述した問題を生じさせる。硫酸の使用を必須としないことにより、前述した問題の発生を回避可能である本発明の実施形態を、以下、図を用いて説明する。
【0015】
図1及び図2に示す、本発明の一実施形態に係るリグノフェノール製造方法S10は、LP精製物をリグノセルロース系材料から製造する方法である。このために、前記製造方法S10では、準備工程S11と、反応工程S15とを含む。前記反応工程S15で生成されるLPの純度を高める観点から、前記製造方法S10では、粗精製工程S20と、精製工程S30と、乾燥工程S50とを更に含むのが好ましい。
【0016】
前記準備工程S11では、前記リグノセルロース系材料を準備する。前記リグノセルロース系材料は、リグニンを含有する材質のものであれば、本発明の目的に反しない限り特に限定されず、例えば、木質材料又は草本材料などでもよい。前記木質材料として、例えば、針葉樹(マツ、スギ、ヒノキ等)、広葉樹(シイ、柿、サクラ等)、又は熱帯樹などが挙げられる。前記草本材料として、例えば、ケナフ、ラミー(苧麻)、リネン(亜麻)、アバカ(マニラ麻)、ヘネケン(サイザル麻)、ジュート(黄麻)、ヘンプ(大麻)、ヤシ、パーム、コウゾ、ワラ(稲わら、麦わら等)、バガス、又はとうもろこし等が挙げられる。前記リグノセルロース系材料は、例えば、粉状、又はチップ状(廃木材の端剤など)のような様々な状態で使用され得る。前記リグノセルロース系材料は、採取された生の植物体若しくはその断片(例えば間伐材など)でもよいし、又は乾燥処理されていてもよいし、又は例えばアセトン等で脱脂処理されていてもよい。
【0017】
前記準備工程S11では、フェノール類、アルカリ金属水酸化物、無機硫黄化合物、及び水も準備する。リグノセルロース系材料以外のこれら原料等を、それぞれ別に準備してもよく、又は2種以上が予め混合された状態で準備してもよい。例えば、前記アルカリ金属水酸化物と水とを別々に準備してもよいし、又は、前記アルカリ金属水酸化物の水溶液を準備してもよい。例えば、予め前記フェノール類を収着させた前記リグノセルロース系材料を準備しても良いが、収着の手間を省き工程を簡略化させる観点では、前記フェノール類と前記リグノセルロース系材料とを別々に準備してもよい。準備する水は、製品品質を保つ観点では、塩類や塩素や有機物等を実質的に含んでいない純水であるのが望ましい。省資源化の観点では、準備する水の少なくとも一部は、後述する気液分離工程S21で回収する水蒸気に由来する水(例えば水蒸気の凝縮水)でもよい。
【0018】
準備する前記フェノール類は、分子中にフェノール構造を有する水溶性の化合物、及びその水溶性塩から選ばれた1種以上の化合物である。立体障害を避けてリグニンと反応しLPを形成しやすい分子構造を有する観点から、前記フェノール類は、例えば、フェノール、p(パラ)-クレゾール、m(メタ)-クレゾール、o(オルト)-クレゾール、アニソール、2,4-ジメトキシフェノール、2,6-ジメトキシフェノール、2,4-ジメチルフェノール、2,6-ジメチルフェノール、n(ノルマル)-プロピルフェノール、i(イソ)-プロピルフェノール、tert(ターシャリー)-ブチルフェノール、カテコール、レゾルシノール、ピロガロール、フロログルシノール、ビスフェノール、バニリン、シリンゴール、クアイアゴール、フェルラ酸、及びクマル酸から選ばれた1種以上の化合物及び/又はその水溶性塩でもよい。同様の観点から、前記フェノール類は、p-クレゾール、m-クレゾール、及びo-クレゾールから選ばれた1種以上の化合物(単に「クレゾール」ともいう)及び/又はその水溶性塩であるのが好ましく、p-クレゾール及び/又はその水溶性塩であるのが更に好ましい。前記フェノール類として、2種以上の化合物を組み合わせて準備してもよく、例えば、p-クレゾールとo-クレゾールとの組み合わせが挙げられる。
【0019】
準備する前記アルカリ金属水酸化物として、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)、及び水酸化カリウム(KOH)から選ばれた1種以上の化合物が挙げられる。安価に入手可能で、且つ、後述する解緩反応を効率良く進める観点から、前記アルカリ金属水酸化物は、水酸化ナトリウムであるのが好ましい。前記アルカリ金属酸化物として、2種以上の化合物を組み合わせて準備してもよい。
【0020】
後述する解緩反応を効率良く進める観点から、準備する前記無機硫黄化合物は、水溶性の亜硫酸金属塩、及び水溶性の金属硫化物から選ばれた1種以上の化合物である。水溶性の亜硫酸金属塩として、例えば、亜硫酸ナトリウム(NaSO)、亜硫酸カリウム(KSO)、亜硫酸マグネシウム(MgSO)、亜硫酸カルシウム(CaSO)、又は亜硫酸バリウム(BaSO)等の化合物が挙げられる。水溶性の金属硫化物として、例えば、硫化ナトリウム(NaS)、硫化カリウム(KS)、硫化カルシウム(CaS)、又は硫化マグネシウム(MgS)等が挙げられる。同様の観点から、前記無機硫黄化合物は、亜硫酸ナトリウムであるのが好ましい。亜硫酸ナトリウムは、亜硫酸ソーダともいう。前記無機硫黄化合物として、2種以上の化合物の組み合わせ、例えば、亜硫酸ナトリウムと硫化ナトリウムとの組み合わせ、又は、亜硫酸ナトリウムと亜硫酸カリウムとの組み合わせを準備してもよい。
【0021】
前記反応工程S15では、前記無機硫黄化合物を含むアルカリ性の高温高圧環境下で前記リグノセルロース系材料を加熱することにより、セルロース等とリグニンとを分離させる反応(解緩反応)を促し、且つ、リグニンと前記フェノール類とが例えば共有結合及び/又はイオン結合するように反応させ、LPを生成させる。このために前記反応工程S15では、図1に示すように、原料等混合工程S16と、解緩工程S17とを含む。
【0022】
前記原料等混合工程S16では、前記準備工程S11で準備した原料等を混合する。つまり、前記リグノセルロース系材料と、前記フェノール類と、前記アルカリ金属水酸化物と、前記無機硫黄化合物と、水とを含むスラリー状である塩基性混合物を調製する。これらの原料等を十分に混合し、次の前記解緩工程S17を効率良く進めやすい観点から、前記塩基性混合物の液温が例えば30℃以上、好ましくは60℃以上、更に好ましくは80℃以上となるように、例えば5分以上、好ましくは30分以上、前記塩基性混合物を攪拌するのが望ましい。加熱や攪拌に必要以上の費用が生じるのを避ける観点では、前記塩基性混合物の液温が例えば100℃以下となるように、例えば2時間以下、好ましくは1時間以下、前記塩基性混合物を攪拌してもよい。
【0023】
前記塩基性混合物の配合として、100質量部の前記リグノセルロース系材料に対する前記フェノール類の純分での配合量は、LPを効率良く生成しやすい観点では、例えば9質量部以上でもよく、好ましくは15質量部以上である。一方、過剰量の前記フェノール類を配合した場合、配合した前記フェノール類の一部は、リグニンと例えば共有結合及び/又はイオン結合するように反応できないと考えられ、LP生成に寄与しない。高価な前記フェノール類を無駄にせず効率良くLP生成を促す観点では、100質量部の前記リグノセルロース系材料に対する前記フェノール類の純分での配合量は、例えば100質量部以下でもよく、好ましくは50質量部以下である。本明細書に記載された前記リグノセルロース系材料の質量部の数値は、十分に乾燥された状態になっている前記リグノフェノール系材料の重量測定値に基づく。本明細書に記載された「質量部」の数値は、質量部の対象となるものが2種以上含まれる場合には、その2種以上のものの合計の質量部の数値を意味する。例えば、前記塩基性混合物において前記フェノール類の配合量が100質量部以下であり、且つ、前記フェノール類に該当するp-クレゾールとo-クレゾールとが前記混合物に配合される場合、前記塩基性混合物ではp-クレゾールとo-クレゾールとの合計の配合量が100質量部以下であることを意味する。
【0024】
前記塩基性混合物の配合として、100質量部の前記リグノセルロース系材料に対する前記アルカリ金属水酸化物の純分での配合量は、効率良く解緩反応させる観点では、例えば0.1質量部以上でもよく、好ましくは5質量部以上であり、過剰量の使用を避ける観点では、例えば50質量部以下でもよく、好ましくは30質量部以下である。前記塩基性混合物の配合として、100質量部の前記リグノセルロース系材料に対する前記無機硫黄化合物の純分での配合量は、効率良く解緩反応させる観点では、例えば0.1質量部以上でもよく、好ましくは1質量部以上であり、過剰量の使用を避ける観点では、例えば50質量部以下でもよく、好ましくは30質量部以下である。前記塩基性混合物の配合として、100質量部の前記リグノセルロース系材料に対する水の配合量は、効率良く解緩反応させる観点から、例えば200質量部以上2,000質量部以下でもよく、好ましくは500質量部以上1,000質量部以下である。
【0025】
前記解緩工程S17では、解緩反応とLP生成とを促す観点から、前記リグノセルロース系材料を含む前記塩基性混合物を、その液温が130℃以上、好ましくは150℃以上となるように加熱する。仮に、前記塩基性混合物の液温が130℃未満であれば、解緩反応がほとんど進まない。効率良く解緩反応とLP生成とを促す観点から、前記塩基性混合物の液温が130℃以上又は150℃以上の範囲内におけるある一定温度に達したら、この一定温度を保った状態となるように、例えば1時間以上、好ましくは3時間以上、前記塩基性混合物を加熱するのがよい。つまり、前記解緩工程S17では、前記塩基性混合物を例えば圧力釜又は圧力容器などに収容し、前記塩基性混合物において130℃以上に加熱される水の飽和蒸気圧に依存し加圧される雰囲気(高温高圧の雰囲気)下で、前記塩基性混合物をある一定温度(一定圧力)に保つように加熱するのが望ましい。一方、加熱し過ぎた場合、リグニンの分解を伴い、LP生成の効率が悪化してしまう。リグニン分解を避け、加熱に要する費用の増大を避ける観点では、前記塩基性混合物の液温が例えば200℃以下、好ましくは180℃以下の範囲内におけるある一定温度(一定圧力)に保たれるように、例えば24時間以下、好ましくは5時間以下、前記塩基性混合物を加熱するのがよい。前記無機硫黄化合物の分子中に含まれる硫黄原子は、前記解緩工程S17で、解緩反応を促す触媒的作用を奏しているものと推察される。
【0026】
前記解緩工程S17で得られたLPを含む前記塩基性混合物は、LPと共に不純物や不溶物が混在している塩基性の水溶液ともいえる状態になっている。前記不純物としては、例えば、前記原料等混合工程S16で配合された前記フェノール類のうちの一部分であり前記解緩工程S17の際におそらくリグニンと例えば共有結合及び/又はイオン結合しないで残留することとなった前記フェノール類や、ヘミセルロースに由来する水溶性多糖類などが挙げられる。前記不溶物としては、例えば、解緩反応によりリグニンから分離されたセルロース等の不溶残渣が挙げられる。LPを含む前記塩基性混合物から、前記不純物や前記不溶物を大まかに除去するように粗精製する観点から、前記粗精製工程S20では、気液分離工程S21、不溶物除去工程S23、及び、無極性溶媒混合工程S24と無極性溶媒除去工程S25との組み合わせ、から選ばれた1種以上を含んでもよい。
【0027】
前記解緩工程S17を終えた直後に、LPを含む前記塩基性混合物の液温は100℃よりも高温(例えば130℃以上)になっており、続く前記気液分離工程S21では、前記塩基性混合物を気液分離して、一部の前記フェノール類を含む水蒸気と、LPを含む塩基性濃縮液とを得てもよい。前記塩基性濃縮液が有している熱量をサーマルリサイクルする観点から、前記気液分離工程S21で得られる前記塩基性濃縮液を熱媒とし、この熱媒(前記塩基性濃縮液)と、冷媒としての原料用水と、を熱交換させるのが好ましい。サーマルリサイクルとマテリアルリサイクルとを図る観点から、前記気液分離工程S21で得られる一部の前記フェノール類を含む水蒸気を、前記原料等混合工程S16で調製される前記塩基性混合物(つまり、まだ液温130℃以上に加熱されていない、前記リグノセルロース系材料を含む前記塩基性混合物)を調製するための原料の一部として、再使用するのが好ましい。これにより、水蒸気の熱量と、この水蒸気に含まれる前記フェノール類及び水とを、リサイクルできる。原料の一部として扱いやすい観点では、一部の前記フェノール類を含む水蒸気を、水(例えば、冷水(冷媒)がLPを含む前記塩基性濃縮液(熱媒)と熱交換してなる温水)と混合してから、前記塩基性混合物を調製するための原料の一部として再使用するのも好ましい。
【0028】
前記不溶物除去工程S23では、LPを含む前記塩基性濃縮液から、該塩基性濃縮液に混在している前記不溶物を除去し、LPを含む塩基性水溶液を得てもよい。このためには、例えば遠心分離機を用いて、前記塩基性濃縮液に遠心力を加えて、形成される上清(LPを含む前記塩基性水溶液)を採取することにより、沈殿物となった前記不溶物を除去してもよい。または、前記塩基性濃縮液をフィルター等でろ過し、ろ液(LPを含む前記塩基性水溶液)を得てもよい。フィルターを通過しないろ過残渣(固形分)に付着しているLPも前記塩基性水溶液へなるべく多く回収する観点から、さらに、ろ過残渣に水を加える洗浄ろ過を行い、その洗浄ろ液を回収し、LPを含む前記塩基性水溶液の少なくとも一部として扱ってもよい。前記不溶物除去工程S23で洗浄ろ過を行う場合、費用対効果の観点から、ろ過残渣(固形分)に対して、例えば20質量倍以下の水を使用してもよく、5質量倍以下の水を使用するのが好ましい。
【0029】
前記無極性溶媒混合工程S24では、LPを含む前記塩基性水溶液を無極性溶媒と混合し、前記塩基性水溶液に混在している疎水性物質を、無極性溶媒へ抽出してもよい。LPは、前記塩基性水溶液に留まる。無極性溶媒は、誘電率の値が比較的に低い疎水性化合物、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、酢酸エチル、又はクロロホルム等の化合物を含んでなる溶媒であり、好ましくは炭化水素を含んでなる溶媒である。炭化水素として例えば、ヘキサン(n-ヘキサン等)、トルエン、ペンタン(n-ペンタン等)、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、デカリン、又はベンゼン等が挙げられる。疎水性物質を効率良く抽出する観点から、無極性溶媒として好ましくは、n-ヘキサンである。本発明の目的に反しない限り、2種以上の無極性溶媒を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
疎水性物質を効率良く抽出する観点から、LPを含む前記塩基性水溶液に対して無極性溶媒を、例えば10質量倍以上の量で混合してもよく、30質量倍以上の量で混合するのが好ましい。同様の観点から、混合された無極性溶媒とLPを含む前記塩基性水溶液との液温は、例えば10℃以上でもよい。費用対効果の観点から、LPを含む前記塩基性水溶液に対して混合する無極性溶媒の量を、例えば100質量倍以下に抑えてもよく、60質量倍以下に抑えるのが好ましい。同様の観点から、混合された無極性溶媒とLPを含む前記塩基性水溶液との液温は、例えば40℃以下でもよく、好ましくは30℃以下である。
【0031】
LPと混在し得る疎水性物質を効率良く除去する観点から、前記無極性溶媒除去工程S25では、無極性溶媒を混合された混合物から、無極性溶媒の部分を除去してもよい。なお、無極性溶媒は水溶液と混合されると、相分離し無極性溶媒相を形成する。このため、LPを含む前記塩基性水溶液で形成された水相の部分を残し、無極性溶媒相の部分を除去すればよい。無極性溶媒へ抽出された疎水性物質は、無極性溶媒と共に除去される。水相のうち無極性溶媒相との界面付近にある部分も除去することにより、この部分に含まれる両親媒性物質をも除去してもよい。無極性溶媒を混合してから除去するまでの時間の長さは、疎水性物質を十分に抽出し除去する観点では、例えば5分以上でもよく、好ましくは30分以上であり、必要以上の長時間化を避ける観点では、例えば3時間以下でもよく、好ましくは2時間以下である。
【0032】
図2に示す前記精製工程S30では、前記解緩工程S17を経た(好ましくは更に前記粗精製工程S20を経た)LPを含む塩基性水溶液(以下「第一の塩基性水溶液」ともいう)を、酸と混合して中和し、溶解しているLPを酸晶析により析出させた析出液を調製し、該析出液を分画(固液分離)し、LPを含む不溶画分(以下「第一のLP含有不溶画分」ともいう)を得てもよい。さらに、前記第一のLP含有不溶画分と、塩基とを混合して、LPが再び溶解された塩基性水溶液(以下「第二の塩基性LP水溶液」ともいう)を調製し、該第二の塩基性水溶液を酸と混合して中和し、溶解しているLPを酸晶析により析出させた析出液を調製し、該析出液を分画(固液分離)することにより、純度が高められたLPを含む不溶画分(以下「第二のLP含有不溶画分」ともいう)を回収するように、LPを精製するのが好ましい。このように晶析を2回行うことにより、前記不純物(残留している前記フェノール類や前記水溶性多糖類)を効率良く除去し、LPの純度を高めることができて好ましい。このために前記精製工程S30では、第一晶析工程S35と、LP再溶解工程S40と、第二晶析工程S45とを含むのが好ましい。
【0033】
前記第一晶析工程S35では、LPの純度を効率良く高める観点から、第一の中和工程S36と、第一の中和後固液分離工程S37とを含んでもよい。前記第一の中和工程S36では、前記第一の塩基性LP水溶液を酸と混合し中和することにより、溶解しているLPを酸晶析により析出させた析出液を調製してもよい。このためには、調製される析出液が例えば液温25℃又は常温(例えば液温が5℃以上35℃以下)でpH6.0未満となるように、前記塩基性水溶液を酸と混合して中和してもよい。過剰量な酸の使用を避ける観点から、液温25℃又は常温で、例えばpH2.0以上の析出液を調製してもよく、pH4.0以上の析出液を調製するのが好ましい。LPを効率良く析出させる観点から、調製される析出液の液温が、例えば5℃以上30℃以下となるようにしてもよく、5℃以上20℃以下となるようにするのが好ましい。
【0034】
前記第一の中和工程S36で混合する酸は、調製される析出液のpHを上記した酸性域へ調整可能であれば、本発明の目的に反しない限り特に限定されず、例えば有機酸でもよい。有機酸として例えば、ギ酸、シュウ酸、クエン酸、又はシュウ酸等が挙げられる。効率良くLPを精製する観点では、前記第一の中和工程S36で混合する酸は、無機酸であるのが好ましい。無機酸として、例えば、塩酸、硝酸、リン酸、ホウ酸、フッ化水素酸、又は硫酸などが挙げられ、取り扱いやすい観点では塩酸がさらに好ましい。あるいは、2種以上の酸を組み合わせて使用してもよい。前記第一のLP水溶液に酸を混合する量は、上記したpHとなるように調整可能な量である。上記したpHに調整可能であれば、前記第一の塩基性LP水溶液と、酸を含む水溶液(酸性水溶液)とを混合するのでもよい。
【0035】
前記第一の中和後固液分離工程S37では、析出したLPを含む酸性の析出液を分画し、酸性水溶液の画分を除去し、酸晶析で析出したLPを含む不溶画分(前記第一のLP含有不溶画分)を回収してもよい。これにより、前記第一の中和工程S36で無機酸を使用した場合、無機酸に起因する水溶性塩は、酸性水溶液と共に除去される。LPとは異なり酸性水溶液に溶解する前記不純物(前記フェノール類及び前記水溶性多糖類)のうち幾らかは、酸性水溶液と共に除去される。前記第一の塩基性LP水溶液を酸と混合してから、酸性水溶液を除去するまでの時間の長さは、酸性に調整される前の時点で溶解していたLPを十分に析出させる観点では、例えば1時間以上でもよく、好ましくは2時間以上であり、必要以上の長時間化を避ける観点では、例えば24時間以下でもよく、好ましくは8時間以下である。
【0036】
前記第一晶析工程S35では、LPの純度が高まるように効率良く精製する観点から、前記第一の中和後固液分離工程S37の後に、第一の中和後洗浄工程S38と、第一の中和後排水工程S39とを更に含んでもよい。前記第一の中和後洗浄工程S38では、前記第一のLP含有不溶画分に付着し得る前記不純物(一部の前記フェノール類及び前記水溶性多糖類)を効率良く除去する観点から、前記第一のLP含有不溶画分と洗浄水とを混合してもよい。前記洗浄水にLPが溶解するのを避けつつ洗浄する観点から、前記洗浄水は、例えば水又は弱塩基性の水溶液でもよく、好ましくは水である。前記弱塩基性の水溶液は、液温25℃又は常温でのpHが8.0よりも大きく10.0未満の水溶液であり、例えば、希釈した水酸化ナトリウム水溶液などでもよい。LPと比べて、前記フェノール類や前記水溶性多糖類は、このような洗浄水に溶解しやすい。前記不純物を効率良く洗浄水に溶解させる観点から、前記第一のLP含有不溶画分と洗浄水とを混合するときに、前記第一のLP含有不溶画分に対して前記洗浄水の量が、例えば2.0質量倍以上でもよく、好ましくは3.0質量倍以上であり、過剰量な洗浄水の使用を避ける観点では、例えば20質量倍以下でもよく、好ましくは5.0質量倍以下である。
【0037】
前記第一の中和後排水工程S39では、前記第一の中和後洗浄工程S38で混合した前記洗浄水を脱水(例えばろ過)することにより、前記第一のLP含有不溶画分から、前記不純物を含む水溶液(例えば、前記フェノール類と前記水溶性多糖類とを含む洗浄ろ液)を除去してもよい。
【0038】
前記LP再溶解工程S40では、前記第一の中和後固液分離工程S37を経た(好ましくは更に前記第一の中和後洗浄工程S38及び前記第一の中和後排水工程S39を経た)前記第一のLP含有不溶画分を、塩基と混合して、LPが再び溶解された塩基性水溶液(前記第二の塩基性LP水溶液)を調製してもよい。または、前記第一のLP含有不溶画分と、塩基とを、水の存在下で混合して前記第二の塩基性LP水溶液を調製するのでもよい。前記第一のLP含有不溶画分では、前記第一の中和工程S36でLPを析出させた際に形成され得るLPの結晶中に閉じ込められた前記不純物が混在し得るが、前記LP再溶解工程S40で前記第一のLP含有不溶画分を溶解させることにより、LPの結晶中に閉じ込められていた前記不純物を、前記第二の塩基性LP水溶液の中へ解放し、前記不純物を効率良く除去する機会を得ることができる。
【0039】
前記LP再溶解工程S40で前記第二の塩基性LP水溶液を調製する際、LPを効率良く溶解させる観点では、液温25℃又は常温で例えばpH10.0以上となるように調製してもよく、pH11.0以上となるように調製するのが好ましく、過剰に強塩基性に調整した場合に生じ得る作業環境の安全性低下や製造コスト増大の問題を避ける観点では、液温25℃又は常温で例えばpH14.0以下となるように調製してもよく、pH13.0以下となるように調製するのが好ましい。調製される前記第二の塩基性LP水溶液の液温は、塩の析出を避けつつLPを効率良く溶解させる観点では、例えば5℃以上でもよく、好ましくは15℃以上であり、製造コスト増大を避ける観点では、例えば60℃以下でもよく、好ましくは40℃以下である。
【0040】
前記LP再溶解工程S40で、前記第一のLP含有不溶画分と混合する塩基は、上記した塩基性のpHに調整可能であれば、本発明の目的に反しない限り特に限定されず、例えば、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物から選ばれた1種以上の強塩基化合物でもよく、好ましくはアルカリ金属水酸化物である。つまり、前記第一のLP含有不溶画分と混合する塩基として、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、又は水酸化カルシウム(Ca(OH))等が挙げられる。安価で効率良くLPを再溶解させやすい観点から、ここでの塩基として更に好ましくは水酸化ナトリウムである。2種以上の強塩基化合物の組み合わせでもよく、例えば、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムとの組み合わせでもよい。前記LP再溶解工程S40では、前記第一のLP含有不溶画分と、予め調製された塩基を含む水溶性とを混合するのでもよい。ここで挙げた強塩基性の水溶液は、硫酸と異なり粘性が低いため、硫酸よりも取扱いが容易である。
【0041】
前記第二晶析工程S45では、前記LP再溶解工程S40で調製した前記第二の塩基性LP水溶液から、純度が高められたLPを含む不溶画分(前記第二のLP含有不溶画分)を得る観点により、第二の中和工程S46と、第二の中和後固液分離工程S47とを含んでもよい。前記第二の中和工程S46では、LPを再び酸晶析により析出させる観点から、前記第二の塩基性LP水溶液を、酸及び水と混合し、例えば液温25℃又は常温でpH6.0未満の酸性の析出液を調製してもよい。過剰量な酸の使用を避ける観点から、液温25℃又は常温で例えばpH2.0以上、好ましくはpH4.0以上の酸性の析出液を調製するのが好ましい。LPを効率良く析出させる観点から、調製する酸性の析出液の液温が、例えば5℃以上30℃以下となるようにしてもよく、5℃以上20℃以下となるようにするのが好ましい。前記第二の中和工程S46で混合する酸や、その混合量は、前述した前記第一の中和工程S36について説明した酸やその混合量と同様でもよい。
【0042】
前記第二の中和後固液分離工程S47では、析出したLPを含む酸性の析出液を分画(固液分離)し、水溶液を除去して、LPの純度が高められた不溶画分(前記第二のLP含有不溶画分)を得てもよい。これにより、前記第一の中和工程S36でLPの結晶中に閉じ込められたが、前記LP再溶解工程S40で第二の塩基性LP水溶液中に開放された前記不純物(前記フェノール類及び前記水溶性多糖類)の大半は、前記第二の中和後固液分離工程S47で、酸性水溶液と共に除去される。前記第二の塩基性LP水溶液を酸及び水と混合してから、酸性水溶液を除去するまでの時間の長さは、酸性に調整される前の時点で溶解していたLPを十分に析出させる観点では、例えば1時間以上でもよく、好ましくは2時間以上であり、必要以上の長時間化を避ける観点では、例えば24時間以下でもよく、好ましくは8時間以下である。
【0043】
第二晶析工程S45は、LPを更に効率良く精製する観点から、前記第二の中和後固液分離工程S47の後に、第二の中和後洗浄工程S48と、第二の中和後排水工程S49とを更に含んでもよい。前記第二の中和後洗浄工程S48では、析出したLPの結晶に付着している酸や塩を効率良く除去する観点から、前記第二の中和後固液分離工程S47を経た前記第二のLP含有不溶画分を、水と混合してもよい。ここで使用する水や、その使用量は、前述した前記第一の中和後洗浄工程S38で説明した前記洗浄水と同様でもよい。
【0044】
前記第二の中和後排水工程S49では、前記第二の中和後洗浄工程S48で混合した水を脱水し、前記第二のLP含有不溶画分に付着していた酸や塩を、水と共に除去してもよい。前記第二の中和後排水工程S49で、水と共に除去される酸や塩は、微量である。このため、前記第二の中和後排水工程S49で除去された水を、前記第二の中和工程S46で前記第二の塩基性LP水溶液と混合する酸及び水の一部として、再使用してもよい。
【0045】
前記製造方法S10では、前記精製工程S30において、前記第二の中和後固液分離工程S47を経た(好ましくは更に前記第二の中和後洗浄工程S48と前記第二の中和後排水工程S49とを経た)前記第二のLP含有不溶画分を、前記LP精製物として扱ってもよい。品質を更に高めた前記LP精製物を得る観点から、前記製造方法S10では、前記精製工程S30の後に、乾燥工程S50を更に含んでもよい。前記乾燥工程S50では、前記第二のLP含有不溶画分を乾燥させ、市場で流通させやすい状態に調製された前記LP精製物を得てもよい。このためには、例えば5分以上24時間以下、好ましくは5分以上2時間以下にわたり、大気圧下で、前記第二のLP含有不溶画分の温度が例えば80℃以上300℃以下、好ましくは100℃以上180℃以下となるように加熱乾燥してもよい。前記乾燥工程S50では、前記第二のLP含有不溶画分を乾燥させるだけでなく粉砕し、粉状のLP精製物を得るようにしてもよい。
【0046】
前記製造方法S10では、バッチ式で行ってもよく、又は、少なくとも一部の工程若しくは全部の工程を連続式で行ってもよい。例えば、図1に示す前記原料等混合工程S16と、前記解緩工程S17とを、連続式で行ってもよい。
【0047】
以上に説明した前記製造方法S10によれば、前記原料等混合工程S16で、前記フェノール類、前記アルカリ金属水酸化物、前記無機硫黄化合物、及び水と混合された前記リグノセルノース系材料が、前記解緩工程S17で液温130℃以上に加熱されることにより、前記リグノセルロース系材料において解緩反応を促してセルロース等からリグニンを分離させ、且つ、リグニンと前記フェノール類とが例えば共有結合及び/又はイオン結合してLPを生成する反応が促される。また、前記製造方法S10によれば、前記原料等混合工程S16や前記解緩工程S17で使用される前記無機硫黄化合物は、水溶性の亜硫酸金属塩、及び水溶性のアルカリ金属硫化物から選ばれた1種以上の化合物であるため、LP生成反応を進める際に硫酸を用いることが必須ではない。前記アルカリ金属水酸化物(例えば水酸化ナトリウム)水溶液は、硫酸のような高粘度を有していないため、硫酸と比べて取扱いは容易である。
【0048】
なお、本願に係る発明者らが試験したところ、例えば図7に示す方法S900のように、LPをアルコールに溶解させた後に析出させる処理によりLPを精製する方法では、この処理を複数回繰り返しても、得られるLPにおいて前記フェノール類の残存量を5,000ppm以下に減らすことは困難であった。前記フェノール類は、5,000ppm程度の含有量でも、通常の嗅覚を有するヒトであれば、はっきりと分かる臭気を有する(例えばクレゾールでは薬品臭がはっきり分かる)。このように、従来の方法で製造したLPでは、残留している前記フェノール類に由来する独特な臭気の問題があった。このため、従来、ヒトが日常生活で身近に関わる製品において、そのプラスチック又は接着剤などの原材料の少なくとも一部としてLPを使用することには、依然として問題があった。
【0049】
一方、前記製造方法S10において、図2に示す前記第一晶析工程S35と、前記LP再溶解工程S40と、前記第二晶析工程S45との組み合わせを行う場合には、例えば図9に示す前記方法S900と比べて、前記フェノール類を効率良く高度に除去するようにLPを精製しやすい観点から好ましい。その作用機構としては、図2に示す前記第一晶析工程S35で回収された前記第一のLP含有不溶画分において析出したLP中に前記不純物(前記フェノール類等)が幾らか閉じ込められ得るが、閉じ込められた前記不純物は、前記LP再溶解工程S40でLPを溶解させたときに塩基性のLP水溶液中に開放されるため、析出したLP中に閉じ込められた前記フェノール類等の前記不純物を前記第二晶析工程S45で効率良く除去する機会を得ることができるものと考えられる。このため、例えば、残留している前記フェノール類の含有量が例えば1,000ppm未満となるように、LPを効率良く精製可能であり、前記フェノール類に起因する独特な臭気を、不快に感じず気にならない程度に緩和させることができる。したがって、ヒトが日常生活で身近に関わる製品、例えば、家庭用品、室内用品、内装用品、車内用品、ベビー用品、衣類、装身具、寝装具、及び室内で遊ぶ玩具から選ばれた1種以上の製品において、その原材料であるプラスチック又は接着剤の少なくとも一部として使用に適した前記LP精製物を製造しやすくなっている。
【0050】
図7に示す前記方法S900と比べて、図2に示す前記製造方法S10で上記3つの工程(S35、S40及びS45)を行う場合に、前記フェノール類を効率良く除去しやすいメカニズムは、不明であるが、次のように推定される。前記反応工程S15でおそらくリグニンと例えば共有結合及び/又はイオン結合せず、LP生成後に残留し続けている前記不純物としての前記フェノール類の分子(おそらく約5,000ppm前後の量に相当する分子)は、LP分子との間で、互いに分子中に有するヒドロキシ基に起因する水素結合などの分子間力等により、水洗浄等では切り離すことができないような分子的な強い状態で結び付いているものと考えられる。このためか、図7に示す前記方法S900のように、LPをアルコールで溶解させてから晶析する精製方法では、LPの溶解と晶析とを2回以上繰り返しても、残留している前記フェノール類の含有量が約5,000ppm未満となるように精製するのが難しい。一方、図2に示す前記製造方法S10で上記3つの工程(S35、S40及びS45)を行う場合、前記LP再溶解工程S40で塩基(例えばNaOH)を用いてLPを溶解させる際、LP分子中のヒドロキシ基ではHが電離したり及び/又は塩基に由来するカチオン(例えばNa)と置換されたりして、電荷を帯びたLP及び/又はLP塩が形成されるものと考えられる。この際、前記不純物としての前記フェノール類では、カチオン(例えばNa)との塩が形成されるものと考えられる。その後、前記第二の中和工程S46で酸による晶析を行う際、電荷を帯びたLP及び/又はLP塩は、酸に由来するHと結合して再びLP分子を形成しやすいが、一方、前記不純物としての前記フェノール類はカチオンとの塩の状態を維持しやすいものと考えられる。LP分子と前記フェノール類の塩との間では、例えば水素結合などの分子間力が弱まり、両者の分子同士が分離しやすくなり、前記不純物としての前記フェノール類の多くをLPから効率良く除去するように精製可能になるものと推察される。
【0051】
前記製造方法S10は、図3に示すリグノフェノール精製物の製造システム55を用いる場合、効率良く実施できて好ましい。前記製造システム55は、LPをリグノセルロース系材料から製造するためのシステムである。解緩反応とLP生成反応とを行う際に硫酸の使用を必須としない観点から、前記製造システム55では、原料等混合装置60と、解緩反応装置70とを備える。
【0052】
前記原料等混合装置60では、前記リグノセルロース系材料、前記フェノール類、前記アルカリ金属水酸化物、前記無機硫黄化合物及び水が室内に供給される混合室61と、前記混合室61の上方に配されたモータ62と、該モータ62から前記混合室61の天井部を貫通し該混合室61内へ延在しており該モータ62の駆動により軸心周りに回転するシャフト63と、前記混合室61内で該シャフト63の先端部に固定され該シャフト63と共に軸心周りに回転する羽根64と、前記混合室61の周壁及び底部を加熱するジャケット65(例えば電熱ジャケット)と、を備えてもよい。このため、前記混合室61内に供給された前記リグノセルロース系材料、前記フェノール類、前記アルカリ金属水酸化物、前記無機硫黄化合物及び水は、例えば5分以上2時間以下にわたり、ジャケット65により加熱された周壁及び底部を介して液温30℃以上100℃以下となるように加熱されつつ、回転する前記羽根64により攪拌され混合されてもよい。このように調製された、前記リグノセルロース系材料を含む前記塩基性混合物は、前記混合室61の底部に設けられた導出管66を通じて前記混合室61外へ導出され、ポンプ56により前記解緩反応装置70へ搬送されてもよい。このように、前記原料等混合装置60は、図1に示す前記原料等混合工程S16の実施に適するように構成された容器である。
【0053】
図3に示す前記解緩反応装置70では、前記リグノセルロース系材料を含む前記塩基性混合物が室内に供給される反応室71と、前記反応室71の上方に配されたモータ72と、該モータ72から前記反応室71の天井部を貫通し該反応室71内へ延在しており該モータ72の駆動により軸心周りに回転するシャフト73と、前記反応室71内で該シャフト73の先端部に固定され該シャフト73と共に軸心周りに回転する羽根74と、前記反応室71の周壁及び底部を加熱する蒸気ジャケット75とを備えてもよい。前記蒸気ジャケット75内には、不図示のボイラーから加熱蒸気が供給されてもよい。前記反応室71内に供給された前記塩基性混合物は、前記反応室71の周壁及び底部を介して加熱蒸気と熱交換しつつ、回転する前記羽根74により攪拌されることで、例えば、1時間以上24時間以下にわたり、液温が130℃以上200℃以下のある一定温度に保たれるように加熱されてもよい。このように解緩反応とLP生成とを促された前記塩基性混合物は、前記反応室71の底部に設けられた導出管76を通じて前記反応室71外へ導出されてもよい。このように前記解緩反応装置70は、図1に示す前記解緩工程S17の実施に適するように構成された反応容器である。
【0054】
前記気液分離工程S21を実施しやすい観点から、図3に示すように前記製造システム55では、気液分離装置80を更に備えてもよい。前記解緩反応装置70の前記反応室71外に導出された前記塩基性混合物は、自圧により前記気液分離装置80へ搬送されてもよい。前記気液分離装置80では、前記反応室71外へ導出された前記塩基性混合物が供給管82を通じて室内に供給される気液分離室81と、該気液分離室81内への前記塩基性混合物の供給量を調節可能に構成された弁83と、を備えてもよい。前記気液分離室81内において、該気液分離室81内に供給された前記塩基性混合液から、前記フェノール類を含む水蒸気と、LPを含む前記塩基性濃縮液とが形成される。前記フェノール類を含む水蒸気は、前記気液分離室81内を上昇し、該気液分離室81の天井部に設けられた蒸気導出管85を通じて、前記気液分離室81外へ導出される。一方、LPを含む前記塩基性濃縮液は、前記気液分離室81の底部に設けられた液導出管86を通じて、前記気液分離室81外へ導出される。このように、前記気液分離装置80は、図1に示す前記気液分離工程S21の実施に適するように構成された気液分離器である。
【0055】
図3に示すように前記製造システム55では、前記気液分離室81外へ導出された前記フェノール類を含む水蒸気が、凝縮器77で冷却され、前記フェノール類を含む凝縮水となり、前記凝縮器77から温水槽78内へ流下するように構成されてもよい。マテリアルリサイクル促進の観点から、前記製造システム55では、この凝縮水を、例えばポンプ59により前記原料等混合装置60へ搬送し、前記混合室61内へ供給可能に構成されているのが好ましい。あるいは、サーマルリサイクル促進とマテリアルリサイクル促進とを図る観点から、前記製造システム55では、前記気液分離室81外へ導出された前記フェノール類を含む水蒸気を、水蒸気のまま前記温水槽78内へ供給して加温可能に構成されてもよい。サーマルリサイクル促進の観点から、前記製造システム55では、前記気液分離室81外へ導出されたLPを含む前記塩基性濃縮液(熱媒)と、冷媒体(例えば水)と、を熱交換させる熱交換器67を更に備えてもよい。冷媒体として冷却水を用いる場合、同様の観点から、冷却水が熱交換により温められた温水を、前記温水槽78内へ導入し、前記フェノール類を含む水蒸気又は凝縮水と混合させた後、この凝縮水と共に前記混合室61内へ供給するのが好ましい。
【0056】
前記製造システム55では、図1に示す前記不溶物除去工程S23を効率良く実施する観点から、図3に示すように、槽内にろ過膜88が設けられた不溶物除去槽87を更に備えても良い。前記気液分離室81外に導出されたLPを含む前記塩基性濃縮液は、ポンプ58により熱交換器67を通じて前記不溶物除去槽87へ直ちに搬送されてもよい。前記不溶物除去槽87では、例えば、LPを含む前記塩基性濃縮液が前記不溶物除去槽87内に供給され、前記ろ過膜88でろ過されるように構成されてもよい。前記ろ過膜88を通過する画分(前記第一の塩基性LP水溶液)では、前記ろ過膜88を通過しないセルロース等の前記不溶物が除去されている。さらに、前記不溶物除去槽87では、該不溶物除去槽87内に水が供給され、回転する羽根79により水と前記ろ過膜88上に残った前記不溶物とが攪拌され、前記ろ過膜88でろ過されるように構成されてもよい。前記ろ過膜88の代わりに、図示していないが遠心分離機で前記不溶物を除去してもよい。
【0057】
前記製造システム55では、図1に示す前記無極性溶媒混合工程S24と前記無極性溶媒除去工程S25とを効率良く実施する観点から、図3に示すように、前記第一の塩基性LP水溶液と、無極性溶媒とが槽内で混合され、比重により無極性溶媒相と水相とに相分離され、無極性溶媒相が除去され水相(前記第一の塩基性LP水溶液)が回収される比重分離槽89を、更に備えてもよい。
【0058】
前記製造システム55では、図2に示す前記第一の中和工程S36を効率良く実施する観点から、図3に示す第一中和槽90を更に備えてもよい。前記第一中和槽90は、その槽内で、前記第一の塩基性LP水溶液と、酸とが混合され、液温25℃又は常温でpH2.0以上pH6.0未満の酸性水溶液が調製されるように構成されていてもよい。この酸性水溶液では、LPが酸晶析により析出する。前記製造システム55では、図2に示す前記第一の中和後固液分離工程S37を効率良く実施する観点から、図3に示す第一ろ過器91を更に備えてもよい。前記第一ろ過器91では、析出したLPを含む酸性水溶液を分画(固液分離)し、前記不純物を含む酸性水溶液(例えば、前記フェノール類と前記水溶性多糖類とを含む酸性水溶液)を除去し、析出したLPを含む不溶画分(前記第一のLP含有不溶画分)を得るように構成されていてもよい。
【0059】
前記製造システム55では、図2に示す前記第一の中和後洗浄工程S38を効率良く実施する観点から、図3に示すように、前記第一のLP含有不溶画分を槽内で洗浄水と混合するように構成された、第一の中和後洗浄槽92を更に備えてもよい。前記製造システム55では、図2に示す前記第一の中和後排水工程S39を効率良く実施する観点から、図3に示すように、前記第一のLP含有不溶画分と前記洗浄水との混合物から、前記不純物を含む水溶液(例えば、前記フェノール類と前記水溶性多糖類とを含む洗浄ろ液)を除去するように脱水(洗浄ろ過)し、脱水された前記第一のLP含有不溶画分を回収する、第一副ろ過器93を更に備えてもよい。
【0060】
前記製造システム55では、図2に示す前記LP再溶解工程S40を効率良く実施する観点から、図3に示すようにLP再溶解槽94を更に備えてもよい。前記LP再溶解槽94では、その槽内で、前記第一のLP含有不溶画分と、塩基とが混合され、LPが再び溶解された前記塩基性水溶液(前記第二の塩基性LP水溶液)が調製されるように構成されていてもよい。LP再溶解槽94内では、前記第一のLP含有不溶画分と、塩基と、水とが混合されて、前記第二の塩基性LP水溶液が調製されるのでもよい。前記製造システム55では、図2に示す前記第二の中和工程S46を効率良く実施する観点から、図3に示す第二中和槽95を更に備えてもよい。前記第二中和槽95では、その槽内で、前記第二の塩基性LP水溶液と、酸及び水とが混合され、液温25℃又は常温でpH2.0以上pH6.0未満の酸性水溶液が調製されるように構成されていてもよい。この酸性水溶液では、LPが酸晶析により析出する。前記製造システム55では、図2に示す前記第二の中和後固液分離工程S47を効率良く実施する観点から、図3に示すように第二ろ過器96を更に備えていてもよい。前記第二ろ過器96では、析出したLPを含む酸性水溶液を分画(固液分離)し、前記不純物を含む酸性水溶液(例えば、前記フェノール類と前記水溶性多糖類とを含む酸性水溶液)を除去し、LPの純度が高められた前記不溶画分(前記第二のLP含有不溶画分)を回収するように構成されていてもよい。
【0061】
前記製造システム55では、図2に示す前記第二の中和後洗浄工程S48を効率良く実施する観点から、図3に示すように、前記第二のLP含有不溶画分を槽内で水と混合するように構成された、第二の中和後洗浄槽97を更に備えてもよい。前記製造システム55では、図2に示す前記第二の中和後排水工程S49を効率良く実施する観点から、図3に示すように、前記第二のLP含有不溶画分と水との混合物から、前記フェノール類、前記水溶性多糖類、及び/又は塩等の混在物を微量に含み得る水を除去するように脱水し、脱水され純度が高められた前記第二のLP含有不溶画分を回収するように構成された、第二副ろ過器98を更に備えてもよい。省資源化の観点から、前記製造システム55では、前記第二副ろ過器98で分離された水を、前記第二中和槽95内へ供給する水の一部として再使用するように構成されてもよい。
【0062】
前記製造システム55では、図1及び図2に示す前記乾燥工程S50を効率良く実施する観点から、前記第二のLP含有不溶画分を乾燥させる、乾燥装置99を更に備えてもよい。前記乾燥装置99は、例えば、加熱乾燥機でもよく、前記第二のLP含有不溶画分を加熱乾燥させ且つ粉砕可能な粉砕機でもよい。前記乾燥装置99により乾燥させたものを、前記LP精製物として扱ってもよい。
【0063】
本明細書により開示される事項には、以下のものが含まれる。
(1)
リグノフェノールをリグノセルロース系材料から製造する方法であって、
前記リグノセルロース系材料、フェノール類、アルカリ金属水酸化物、無機硫黄化合物、及び水を含む混合物を、該混合物の液温が130℃以上となるように加熱する工程を含み、
前記無機硫黄化合物は、水溶性の亜硫酸金属塩、及び水溶性の金属硫化物から選ばれた1種以上の化合物である、リグノフェノール製造方法。
(2)
前記混合物を調製するときに、前記リグノセルロース系材料、前記フェノール類、前記アルカリ金属水酸化物、前記無機硫黄化合物、及び前記水を、前記混合物の液温が30℃以上100℃以下となるように混合する、上記(1)に記載されたリグノフェノール製造方法。
(3)
前記混合物を調製する工程と、該混合物の液温が130℃以上となるように加熱する工程とを連続式で行う、上記(1)又は(2)に記載されたリグノフェノール製造方法。
(4)
前記混合物を調製する工程と、
前記混合物の液温が130℃以上となるように加熱する工程と、
前記加熱をされた後の前記混合物を気液分離する工程と、を含み、
前記混合物を調製する原料の一部として、前記気液分離で回収する水蒸気又はその凝縮水を使用する、上記(1)から(3)のいずれかに記載されたリグノフェノール製造方法。
(5)
リグノフェノールをリグノセルロース系材料から製造するシステムであって、
前記リグノセルロース系材料、フェノール類、アルカリ金属水酸化物、無機硫黄化合物、及び水を含む混合物が、該混合物の液温を130℃以上とするように加熱される反応容器を含み、
前記無機硫黄化合物は、水溶性の亜硫酸金属塩、及び水溶性の金属硫化物から選ばれた1種以上の化合物である、リグノフェノール製造システム。
【0064】
本発明は、以上に説明した実施形態などに限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々なる改良、修正、又は変形を加えた態様でも実施することができる。本発明は、同一の作用または効果を生じる範囲内で、いずれかの特定事項を他の技術に置換した形態で実施してもよい。
【実施例0065】
以下に実施例を挙げて説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0066】
以下に説明する実施例では、次の原料等や試薬を準備し使用した。
木粉:篩にかけられていないスギ木粉を、十分に乾燥させたもの。
クレゾール:三井化学株式会社製、メタパラクレゾール(63.1質量%のm-クレゾールと、36.4質量%のp-クレゾールとを含有(合計99.5質量%))。
亜硫酸ナトリウム:富士フイルム和光純薬株式会社製。
水酸化ナトリウム水溶液:関東化学株式会社製、48質量%水酸化ナトリウム水溶液。
塩酸水溶液:富士フイルム和光純薬株式会社性、36質量%塩酸水溶液。
【0067】
実施例1
LP含有組成物を、図4に示すように、次の手順で調製した。ビーカー内で、クレゾールと水とを均一になるまで薬さじで撹拌し、クレゾール水溶液を調製した。乾燥した33.0gの木粉をキッチンエイド(株式会社エフ・エム・アイ製ミキサー)で攪拌しながら、クレゾール水溶液を添加することにより、木粉とクレゾール水溶液とを混合し、クレゾールが収着した木粉を得た(S212)。33.0gの乾燥した木粉を100質量部相当と換算し、純分で次の表1に示す配合となるように、クレゾールが収着した木粉(33.0gの乾燥した木粉由来)と、亜硫酸ナトリウム(NaSO)とを混合して高圧マイクロリアクター(オーエムラボテック株式会社製)の容器内に投入し、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液及び水も投入することにより、木粉を含む塩基性混合物を調製した(S216)。
【0068】
【表1】
【0069】
高圧マイクロリアクターの容器の蓋とバルブとを閉め、加熱開始し、約10分の予熱時間を経て液温170℃に達した後、約120rpmで攪拌することにより、解緩反応とLP生成とを進めた(S217)。攪拌開始から180分後に攪拌を止め、スポットクーラー(トラスコ中山株式会社製、TS-25EN-1)を用いて約60分で液温40℃まで冷却した。高圧マイクロリアクターの容器内にある、LPを含む塩基性混合物を、5Cろ紙とブフナー漏斗(φ125mm)と吸引ろ過瓶(1.0L容)とを用いて吸引ろ過し、さらに、容器の壁面に付着した塩基性混合物の一部を約150gの水で洗浄し、吸引ろ過後にろ紙上に残った固形分と共に再び同様に吸引ろ過した(S222及びS223)。ろ過瓶中に、ろ紙を通過した画分(塩基性LP水溶液)を得た。ろ紙上には、木粉に由来するセルロース等の不溶物が残った。
【0070】
図示していないが、ろ紙上に残った水不溶物を、約300gのメタノールで洗浄し、5Cろ紙とブフナー漏斗と新たな吸引ろ過瓶とを用いて吸引ろ過し、セルロース等を含むろ過残渣を得た。このろ過残渣を、ろ紙ごと乾燥機内で60℃、12時間以上かけて乾燥させた。ろ紙上の乾燥物を採取して不溶残渣として扱うこととし、電子天秤(ザルトリウス社製、QUINTIX513-1SJP)で質量測定したところ、17.2gであった。つまり、もとの木粉33.0gを100質量部として換算すると、木粉に由来するセルロース等の不溶残渣は52.0質量部であり、木粉分解率は48質量%であった。
【0071】
また、前述したろ紙を通過した、図4に示す塩基性LP水溶液に、更に水を添加してpH計(株式会社堀場製作所製、LAQUAact ES-71)でpH測定(中和前pH)した後、液温40℃以下で攪拌しながら10質量%塩酸を滴下してpH5.5に調整し、溶液中でLPを酸晶析により析出させた(S236)。pH5.5に調整された酸性水溶液と、LPが析出して生じたLP粗精製物との混合物を、吸引ろ過装置を用いてろ紙(保留粒径0.45μm)で固液分離した(S237)。ろ紙上に残ったLP粗精製物を、ろ紙ごと、定温乾燥機(アズワン株式会社製、ONW-600S)内にて、60℃で12時間以上かけて乾燥させた(S250)。ろ紙上から乾燥物を採取し、実施例1に係るLP含有組成物とした。
【0072】
前述した電子天秤を用い、実施例1に係るLP含有組成物を質量測定したところ、約12.8gであった。つまり、もとの100質量部(33.0g)の乾燥木粉に対して38.8質量部相当のLP含有組成物が得られた。一般的に木粉のリグニン含有量は25質量%程度であることや、クレゾール配合量を考慮すると、LP含有組成物の収量が多すぎるため、LP含有組成物にLP以外の不純物が幾らか残存しているものと考えられる。
【0073】
実施例1に係るLP含有組成物について、核磁気共鳴装置(日本電子株式会社製、JNM-ECA400(9.4T))を用い、溶媒としてDMSO、25℃、シングルパルス、パルス幅11μ秒(90°パルス)、待ち時間5秒、積算回数128回、化学シフトの基準値としてTMS(0ppm)を用い、H-NMRを行った結果、図5上段に示すスペクトルが得られた。また、実施例1に係るLP含有組成物について、同じ装置を用い、溶媒としてDMSO、25℃、逆ゲートカップリング法、パルス幅10μ秒(90°パルス)、待ち時間30秒、積算回数5,000回、化学シフトの基準値として重DMSO(39.5ppm)を用い、13C-NMRを行った結果、図6上段に示すスペクトルが得られた。なお、図5下段及び図6下段に記載したLPの構成単位を示す構造式のうち、左上にある、メチル基及びフェノール性ヒドロキシ基を有する芳香環の部分が、クレゾールに由来する部分であり、それ以外の部分はリグニンに由来する部分である。図5上段及び図6上段に示すスペクトルにおいて、各ピークの面積を算出し比較した。その結果、LPの構成単位に含まれる官能基に起因する各ピークの合計面積に対して、この構成単位のうちクレゾールに由来する部分に含まれる官能基に起因して生じるピークの面積が、ある程度の割合を占めていた。このため、クレゾールとリグニンとの反応により生成するLPが、実施例1に係るLP含有組成物において、ある程度の濃度で含まれていることが示唆された。
【0074】
実施例2乃至実施例8
実施例1と比べて、前述した表1のように試作条件を変更した他は同様にして、実施例2乃至実施例8に係るLP含有組成物を調製した。表1で、実施例1と実施例2と実施例3との比較から、30質量部の水酸化ナトリウムを含む液温170℃の塩基性混合物では、反応時間180分程度で木質が十分に分解され、240分ではLP含有組成物の回収率が少し減少することが示唆された。反応時間が不足すれば木質を分解する余地がまだ残っており、一方、反応時間が過大であるとセルロース等から分離されたリグニンが少しずつ分解されるものと考えられる。配合や反応温度が実施例1とは幾らか異なっても、木質分解とLP生成とを効率良く促すには、適した反応時間は3時間以上5時間以下と考えられる。また、実施例1と実施例4と実施例5との比較から、100質量部の木粉に対して、27質量部程度のクレゾールを配合することが、LP含有組成物の回収率を高める観点からよいと考えられる。実施例1と実施例6との比較から、反応温度は160℃よりも170℃の方が、LP含有組成物の回収率を高める観点からよいと考えらえる。実施例1と実施例7との比較から、100質量部の木粉に対して。850質量部の水を配合するよりは、500質量部の水を配合して解緩反応させるのがよいと考えられる。実施例1と実施例8との比較から、実施例1のように塩基性混合物の調製前に予めクレゾールを木粉に収着させていてもよいが、工程簡略化の観点では、木粉とNaSOとNaOHと水とを混合させる際にクレゾールを添加するようにしても、LP含有組成物の回収率が高くなることが示唆された。
【符号の説明】
【0075】
S10:一実施形態に係るリグノフェノール精製物の製造方法、S11:準備工程、S15:反応工程、S16:原料等混合工程、S17:解緩工程、S20:粗精製工程、S21:気液分離工程、S30:精製工程、S35:第一晶析工程、S36:第一の中和工程、S37:第一の中和後固液分離工程、S40:LP再溶解工程、S45:第二晶析工程、S46:第二の中和工程、S47:第二の中和後固液分離工程、S50:乾燥工程、55:リグノフェノール精製物の製造システム、60:原料等混合装置、61:混合室、67、熱交換器、70:解緩反応装置、71:反応室、77、凝縮器、80:気液分離装置、81:気液分離室、87:不溶物除去槽、88:ろ過膜:89:比重分離槽、90:第一中和槽、91:第一ろ過器、92:第一の中和後洗浄槽、93:第一副ろ過器、94:LP再溶解槽、95:第二中和槽、96:第二ろ過器、97:第二の中和後洗浄槽、98:第二副ろ過器、99:乾燥装置、S900:LPをメタノールに溶解して晶析するLP含有組成物の製造方法
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7