IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 有限会社エムズケーシーの特許一覧

特開2023-155780光触媒用ナノ無機被膜形成方法及び光触媒用ナノ無機被膜形成装置
<>
  • 特開-光触媒用ナノ無機被膜形成方法及び光触媒用ナノ無機被膜形成装置 図1
  • 特開-光触媒用ナノ無機被膜形成方法及び光触媒用ナノ無機被膜形成装置 図2
  • 特開-光触媒用ナノ無機被膜形成方法及び光触媒用ナノ無機被膜形成装置 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155780
(43)【公開日】2023-10-23
(54)【発明の名称】光触媒用ナノ無機被膜形成方法及び光触媒用ナノ無機被膜形成装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 26/00 20060101AFI20231016BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20231016BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
C23C26/00 C
B05D7/24 302A
B05D3/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065322
(22)【出願日】2022-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】503163745
【氏名又は名称】有限会社エムズケーシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本島 誠吾
(72)【発明者】
【氏名】本島 誠一郎
【テーマコード(参考)】
4D075
4K044
【Fターム(参考)】
4D075AA01
4D075BB16X
4D075BB46X
4D075CA32
4D075CA34
4D075DA06
4D075DB02
4D075DB13
4D075DB48
4D075DC08
4D075DC12
4D075DC18
4D075EA06
4D075EB01
4D075EC02
4K044AA02
4K044AB02
4K044BA12
4K044BA13
4K044BA14
4K044BB01
4K044BC02
4K044BC09
4K044BC14
4K044CA17
(57)【要約】
【課題】本発明者らの開発した従来の無機被膜において、光触媒機能を付加し、さらに、膜厚を向上させ、かつ、潤滑機能を付加することを目的とする。
【解決手段】電解液生成槽と、被膜形成槽を含む無機被膜形成装置を用いて無機被膜を形成する方法であって電解液生成槽において、塩水を、電磁波の照射下で金属酸化物と接触させて、電解液を生成する工程と、無機被膜形成装置において、前記電解液を用いて、ワーク表面に無機被膜を形成する工程を有し、前記金属酸化物が、Fe、TiO、SiO、及びAlを含み、前記金属酸化物が、前記金属酸化物の全質量に対し、1.0質量%超のFeと、13質量%超のAlと、40質量%超のSiOを含む、光触媒用ナノ無機被膜形成方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液生成槽と、被膜形成槽を含む無機被膜形成装置を用いて無機被膜を形成する方法であって、
電解液生成槽において、塩水を、電磁波の照射下で金属酸化物と接触させて、電解液を生成する工程と、
無機被膜形成装置において、前記電解液を用いて、ワーク表面に無機被膜を形成する工程、を有し、
前記金属酸化物が、Fe、TiO、SiO、及びAlを含み、
前記金属酸化物が、前記金属酸化物の全質量に対し、1.0質量%超のFeと、13質量%超のAlと、40質量%超のSiOを含む、光触媒用ナノ無機被膜形成方法。
【請求項2】
前記塩水が、3~5質量%の塩分を含み、
前記塩分中、70~80質量%がNaClである、請求項1に記載の光触媒用ナノ無機被膜形成方法。
【請求項3】
前記塩水が、COを含む、請求項1に記載の光触媒用ナノ無機被膜形成方法。
【請求項4】
前記電磁波が、紫外線、可視光線及び赤外線を含む光である、請求項1~3の何れかに記載の光触媒用ナノ無機被膜形成方法。
【請求項5】
前記光が太陽光である、請求項4に記載の光触媒用ナノ無機被膜形成方法。
【請求項6】
前記金属酸化物が、前記金属酸化物の全質量に対し、3~10質量%のFeを含む、請求項1~5の何れかに記載の光触媒用ナノ無機被膜形成方法。
【請求項7】
Fe、TiO、SiO、及びAlを含む金属酸化物を充填した金属酸化物装填部を備える電解液生成槽と、被膜形成槽を含み、
前記金属酸化物が、前記金属酸化物の全質量に対し、1.0質量%超のFeと、13質量%超のAlと、40質量%超のSiOを含む、光触媒用ナノ無機被膜形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、鉄道車輌、船舶、航空機、家電製品などに用いられる鉄、アルミニウム、合成樹脂、ガラス、ゴムなどの表面およびそれらの塗装面を対象とした光触媒用ナノ無機被膜形成方法およびその方法に用いる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、鉄道車輌、船舶、航空機など屋外で用いられる装置の表面は、埃、煤塵、虫などが付着しやすく、常時清掃が必要であった。これら装置表面には、通常、ワックス、ポリマ加工など表面被膜で被覆、保護しているものの、それら材料は有機質精製品であるため環境汚染源となることが指摘されている。
【0003】
また、これら保護被膜は、紫外線などによって風化の影響を受けやすく、塗膜の褪色、光沢の低下など外観や機能が低下する弱点があり、さらに保護被膜自体が軟質なため加傷を受けやすく、外観の保護は十分でなかった。このため、頻繁にワックスやポリマ加工を繰り返す必要があって、材料コスト、工数を要するという問題もあった。
【0004】
このような問題に対処するものとして、出願人は、セラミック粒子と水を接触させて、前記セラミック粒子由来の成分が溶出した電荷水を得、当該電荷水を用いてワーク表面に無機被膜を形成する無機被膜形成技術を開示している(特許文献1)。当該技術により、「低コストと優れた耐久性を実現して、従来のワックスやポリマ加工を不要にし、汚染抑制、環境保全に寄与することができるという優れた効果」及び「汚染物質を分解して除去できるので、有機系の汚染抑制には特に適しているという効果」を有する無機被膜を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3948671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、本発明者らの開発した従来の無機被膜において、光触媒機能を付加し、さらに、膜厚を向上させ、かつ、潤滑機能を付加することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の[1]~[6]を提供する。
[1] 電解液生成槽と、被膜形成槽を含む無機被膜形成装置を用いて無機被膜を形成する方法であって、電解液生成槽において、塩水を、電磁波の照射下で金属酸化物と接触させて、電解液を生成する工程と、無機被膜形成装置において、前記電解液を用いて、ワーク表面に無機被膜を形成する工程を有し、前記金属酸化物が、Fe、TiO、SiO、及びAlを含み、前記金属酸化物が、前記金属酸化物の全質量に対し、1.0質量%超のFeと、13質量%超のAlと、40質量%超のSiOを含む、光触媒用ナノ無機被膜形成方法。
[2] 前記塩水が、3~5質量%の塩分を含み、前記塩分中、70~80質量%がNaClである、[1]に記載の光触媒用ナノ無機被膜形成方法。
[3] 前記塩水が、COを含む、[1]に記載の光触媒用ナノ無機被膜形成方法。
[4] 前記電磁波が、紫外線、可視光線及び赤外線を含む光である、[1]~[3]の何れかに記載の光触媒用ナノ無機被膜形成方法。
[5] 前記光が太陽光である、[4]に記載の光触媒用ナノ無機被膜形成方法。
[6] 前記金属酸化物が、前記金属酸化物の全質量に対し、3~10質量%のFeを含む、[1]~[5]の何れかに記載の光触媒用ナノ無機被膜形成方法。
[7] Fe、TiO、SiO、及びAlを含む金属酸化物を充填した金属酸化物装填部を備える電解液生成槽と、被膜形成槽を含み、前記金属酸化物が、前記金属酸化物の全質量に対し、1.0質量%超のFeと、13質量%超のAlと、40質量%超のSiOを含む、光触媒用ナノ無機被膜形成装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、本発明者らの開発した従来の無機被膜において、光触媒機能を付加し、さらに、膜厚を向上させ、かつ、潤滑機能を付加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明を説明するための主要な装置の模式的ブロック図である。
図2】実施例の膜厚測定結果を示すグラフである。
図3】比較例の膜厚測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、電解液生成槽と、被膜形成槽を含む無機被膜形成装置を用いる光触媒用ナノ無機被膜形成方法である。
図1に、本発明の一実施形態で使用される無機被膜形成装置を示す。
図1の無機被膜形成装置は、電解液を生成する電解液生成槽1と、ワーク表面に電解液を接触させ、無機被膜を形成させる被膜形成槽3とから構成される。ここで、電解液とは、電気伝導性を有する溶液を意味する。
【0011】
(電解液生成槽)
電解液生成槽1は、塩化ナトリウムの水溶液(以下、塩水)aを導入する塩水供給口11と処理後の電解液bを取り出す電解液取出し口12を備え、金属酸化物装填部13に金属酸化物が充填されている。
金属酸化物と塩水aとを十分に接触させる観点から、金属酸化物装填部13に金属酸化物の粒子14を流動可能に装填し、塩水aの水流によって金属酸化物の粒子14が流動し撹拌されるようにすることが好ましい。
【0012】
電解液生成槽1では、電磁波の照射下で、塩水を、金属酸化物と接触させて、電解液を生成する。
【0013】
電解液生成槽1で前記電解液が得られるメカニズムの詳細は明らかではないが、太陽フレアによって発生して地表に到達した電子が金属酸化物に捕捉され、当該電子を捕捉した状態の金属酸化物が、電磁波の照射下で塩水と化学反応し、スーパーオキシドアニオンと金属イオンを放出して電解液が得られるものと、発明者は推測している。また、塩分を含まない水と比べて電気伝導率の高い塩水を使用することにより、前記化学反応が促進されるものと推測している。
【0014】
前記金属酸化物は、Fe、TiO、SiO、及びAlを含み、かつ、前記金属酸化物の全質量に対し、1.0質量%超のFeと、13質量%超のAlと、40質量%超のSiOを含む。
前記金属酸化物の全質量に対するFeの含有量は、1質量%超であり、3~10質量%であることが好ましく、4~10質量%であることがより好ましく、5~10質量%であることが更に好ましい。
前記金属酸化物の全質量に対するTiOの含有量は、1~5質量%であることが好ましく、1.5~5質量%であることがより好ましく、1.7~5質量%であることが更に好ましい。
前記金属酸化物の全質量に対するSiOの含有量は、40質量%超であり、41~70質量%であることが好ましく、45~70質量%であることがより好ましく、50~70質量%であることが更に好ましい。
前記金属酸化物の全質量に対するAlの含有量は、13質量%超であり、14~28質量%であることが好ましく、15~28質量%であることがより好ましく、19~28質量%であることが更に好ましい。
前記金属酸化物中における、Fe、TiO、SiO、及びAlは、単一酸化物として存在していても良く、2種以上の金属の複合酸化物として存在していてもよく、単一酸化物と複合酸化物の両方が存在していても良い。
金属酸化物が複合酸化物を含む場合、金属酸化物中におけるFe、TiO、SiO、及びAlの含有量は、各単一酸化物に換算した含有量を意味する。
金属酸化物中におけるFe、TiO、SiO、及びAlの含有量は、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いた元素分析結果から換算することができ、具体的には実施例に記載の方法により得ることができる。
【0015】
前記金属酸化物の形状は特に限定されないが、粒状であることが好ましく、粒径3~10mmの球状であることがより好ましい。
前記金属酸化物は、前記した特定の化学組成を持つセラミック材を表層成分とする粒子、つまり表層と芯部とが成分を異なる複数の層構造の粒子であってもよい。この場合、溶出成分は表層部分から供給されることになるので、原材料コストを低減できる利点がある。なお、この表層部分は、前記の選択された鉱石50質量%以上含み、かつ前記の化学組成をもつことが要求されるのは言うまでもない。
【0016】
前記金属酸化物は、電解液の生成効率を高めるに、石英斑岩、石英安山岩、石英閃緑岩、電気石、麦飯石から選ばれた1種または2種以上の選択された鉱石を素材として50質量%以上含有させたセラミック材から構成されるのがより好ましい。前記鉱石の中でも、遠赤外線放射エネルギーが特に高い石英斑岩、石英安山岩、石英閃緑岩から選ばれた1種または2種以上を素材として50質量%以上含有させたセラミック材から構成されるのが更に好ましい。
前記石英斑岩、石英安山岩、石英閃緑岩、電気石、麦飯石は天然鉱石であり、その種類も多く存在するが代表的なものについて解説する。
先ず、石英斑岩は、火山岩である花崗岩類似の鉱物構成を持ち、石英、長石を主とし黒雲母など副成分を10質量%内外含み、その化学組成の一例は、SiO:77質量%、Al:13質量%、NaKO:8質量%、その他TiO、Fe、MgOなど1質量%以下含む。
また、電気石(トルマリン)は、一般化学式は、(Ca/Na)(Mg/Fe2+/Fe3+/Al/Li)Al(BO(Si18)(OH、F)で表されるが、(Mg/Fe2+/Fe3+/Al/Li)中の特定成分が主成分となる場合には、例えば、Mgが主の場合に「苦土電気石」、鉄が主となると「鉄電気石」と呼ばれる。
麦飯石は、花崗岩が風化したもので、その化学組成の一例は、SiO:66質量%、Al:16質量%、NaKO:6質量%、Fe:2質量%、CaO:3質量%、MgO:1質量%などからなる。
【0017】
前記金属酸化物は、は次のような手順で製作することができる。
石英斑岩、電気石、麦飯石から選択された鉱石、及び石灰石を粒径0.1mm以下に粉砕して鉱石粉砕物とし、これを調湿し、造粒機で粒径3~10mm程度で球形、柱形状など適宜な立体形状に造粒する。その造粒物を乾燥後、加熱炉で焼結する。焼結の程度は、前記電解液生成槽1に装填するなどの取り扱いで破損しない程度に焼結させるが、吸水率5質量%以上を保持する多孔質とするのがより好ましい。
前記金属酸化物は、石英斑岩、電気石、麦飯石から選択された鉱石だけで構成してもよいが、それら鉱石に適宜な成形助剤(粘土類)、増量剤(珪砂、シャモットなど)、焼結バインダ(長石、ガラス粉など)を添加してもよい。本発明の作用効果を確実ならしめるために、選択された前記鉱石が50%以上を占めることが好ましい。
前記石英斑岩、電気石、麦飯石から選択された鉱石から、前記化学組成が構成できない場合、不足する成分については、別途添加する。通常、Feが3~10質量%、TiOが1~5質量%は、選択された鉱石からは十分に得られないので、この鉱石の粉砕前または粉砕後に、酸化チタンまたは酸化鉄の形態で必要量を添加・混合することで目的の化学組成が得られる。
例えば、焼結前または焼結後の多孔質の鉱石造粒粒子に可溶性チタニウム、可溶性鉄の水溶液、例えば、硝酸チタニウム、硝酸鉄などの適宜濃度の水溶液を含浸させ、加熱、分解すれば、造粒粒子の表面から中央部分に向けてその気孔内に微細なチタニウム、鉄の酸化物を露出させて分散させて保持させることができる。この手法によれば、添加量のほぼ全量が水と接触可能な状態で分散していることから、酸化チタンまたは酸化鉄を単純に混合した場合に較べて溶出し易く、各成分に基づく被膜性能の改質に効果的を寄与することができる。
また、予め化学組成のうち特定の元素、例えば、珪素、アルミニウム、チタニウム、鉄などの含有量を変化させて焼結したセラミック粒子を適当な種類に準備し、それらを所定の化学組成になるよう、組み合せて混合するようにしてもよい。このような方法によれば、実用に供するセラミック粒子の化学組成を所望の範囲のものに、容易に設定することができる。
【0018】
塩水aは、3~5質量%の塩分を含み、前記塩分中、70~80質量%がNaClであることが好ましく、海水であることがより好ましい。
塩水aは、COを含む炭酸水であってもよく、天然の炭酸水であることが好ましい。
【0019】
電磁波は、可視光線及び赤外線を含む光であることが好ましく、紫外線、可視光線及び赤外線を含む光であることがより好ましく、紫外線を5~9%、可視光線を46~48%、赤外線を45~47%含む光であることが更に好ましく、太陽光であることが最も好ましい。
【0020】
塩水aとして海水及び/又は天然の炭酸水を使用し、電磁波として太陽光を使用することにより、環境負荷の小さい光触媒用ナノ無機被膜形成方法を実現することができる。
【0021】
(被膜形成槽)
被膜形成槽3は、前記電解液生成槽1で得られた電解液bを送り込む電解液送入口31と処理排水dを取り出す処理排水取出し口32を備え、槽内に配置したワーク33の表面に電解液bを接触させる手段として、ワーク33表面に加圧した電解液bを噴射するノズル34を備えている。
【0022】
被膜形成槽3では、ワーク33表面に電解液bが接触することにより、金属酸化物から電解液b中に溶出した金属イオンが、カソード還元析出に準じた電気化学的反応によって、ワーク33表面に無機被膜を形成する。
【0023】
被膜形成方法は特に限定されず、ワーク33を電解液b中に浸漬する方法や、電解液bをワーク33表面に噴射する方法などを用いることができるが、図1に例示するような噴射ノズルを用いて、加圧した電解液bをワーク33表面全体に噴射する方法が好ましい。当該方法により、被膜形成の効率を向上させることができる。その詳細なメカニズムは明らかではないが、発明者は、加圧した電解液bをワーク33表面全体に噴射することで、ワーク33表面に電流が発生することによるものと推測している。被膜形成時の被膜形成槽3内部の電流は、0.05~0.07mAとすることが好ましい。電流を前記範囲とすることで、耐久性にすぐれた無機被膜を形成することができる。
【実施例0024】
本発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0025】
1.金属酸化物の調製
(1)試料1(Fe、TiO、SiO、Alを含み、かつ、1.0質量%超のFeと、13質量%超のAlと、40質量%超のSiOを含む)
石英斑岩、電気石、麦飯石、及び石灰石を粒径0.1mm以下に粉砕して鉱石粉砕物とし、これを調湿し、造粒機で平均粒径5mmの球形に造粒した。その造粒物を乾燥後、加熱炉で焼結した。焼結後の吸水率は5%であることを確認した。
上記焼結後により得られた金属酸化物の全質量に対する各金属酸化物の含有量は、EMAX-5770((株)堀場製作所社製)を用いて、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いて元素分析を行うことにより測定した。測定条件は、電圧:30.0kV、電流:0.280mA、ライブタイム:300.00sec、パス:Vacとした。
各金属酸化物の含有量は、Fe:5.49質量%、TiO:1.75質量%、SiO:56.26質量%、Al:21.36質量%、その他:15.14質量%であった。
前記「その他:15.14質量%」の内訳は、NaO:4.26質量%、MgO:0.53質量%、P:3.64質量%、KO:3.67質量%、CaO:0.57質量%、ZrO:2.47質量%であった。
【0026】
(2)試料2(Fe、TiO、SiO、Alを含むが、1.0質量%超のFeを含まない)
石英斑岩、電気石、麦飯石を粒径0.1mm以下に粉砕して鉱石粉砕物とし、これを調湿し、造粒機で平均粒径5mmの球形に造粒した。その造粒物を乾燥後、加熱炉で焼結した。焼結後の吸水率は5%であることを確認した。
上記焼結後により得られた金属酸化物の全質量に対する各金属酸化物の含有量は、EMAX-5770((株)堀場製作所社製)を用いて、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いて元素分析を行うことにより測定した。測定条件は、電圧:30.0kV、電流:0.280mA、ライブタイム:300.00sec、パス:Vacとした。
各金属酸化物の含有量は、Fe:1.00質量%、TiO:5.19質量%、SiO:60.21質量%、Al:28.61質量%、その他:4.99質量%であった。
前記「その他:4.99質量%」の内訳は、NaO:0.51質量%、KO:4.48質量%であった。
【0027】
(3)試料3(Fe、TiO、SiO、Alを含むが、13質量%超のAlと、40質量%超のSiOを含まない)
石英安山岩、石英閃緑岩を調湿し、造粒機で平均粒径5mmの球形に造粒した。その造粒物を乾燥後、加熱炉で焼結した。焼結後の吸水率は5質量%であることを確認した。
上記焼結後により得られた金属酸化物の全質量に対する各金属酸化物の含有量は、EMAX-5770((株)堀場製作所社製)を用いて、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いて元素分析を行うことにより測定した。測定条件は、電圧:30.0kV、電流:0.280mA、ライブタイム:300.00sec、パス:Vacとした。
各金属酸化物の含有量は、Fe:19.11質量%、その他:80.89質量%であった。
前記「その他:80.89質量%」の内訳は、MgO:9.33質量%、Al:12.55質量%、SiO:39.86質量%、P:0.74質量%、KO:1.27質量%、CaO:11.80質量%、TiO:4.98質量%、VO:0.16質量%、MnO:0.06質量%、SrO:0.08質量%、ZrO:0.06質量%であった。
【0028】
2.膜厚評価
下記の実施例1・比較例1で形成した無機被膜の膜厚を、島津製作所社製 ESCA750を用いて測定した。
図2に実施例の測定結果を、図3に比較例の測定結果を示す。
【0029】
(1)実施例1
電解液生成槽と、被膜形成槽を含む無機被膜形成装置を用いて、ワーク上に、無機被膜の形成を行った。電解液生成槽の金属酸化物装填部13には、上記の試料1を流動可能に充填した。
ワークとして、飲料缶用鋼板(SPTE T-4 CA)を使用した。
塩水aとして海水を使用し、電磁波として太陽光を照射した。
【0030】
(2)比較例1
電解液生成槽と、被膜形成槽を含む無機被膜形成装置を用いて、ワーク上に、無機被膜の形成を行った。電解液生成槽の金属酸化物装填部13には、上記の試料2を流動可能に充填した。
ワークとして、飲料缶用鋼板(SPTE T-4 CA)を使用した。
塩水aとして海水を使用し、電磁波として太陽光を照射した。
【0031】
図2、3に示すように、比較例1では、無機被膜の膜厚が最大80nmであったのに対し、実施例1では、無機被膜の膜厚が最大100nmとなることが確認された。
【0032】
3.潤滑機能評価
下記の実施例2・比較例2で形成した無機被膜について、島津製作所社製 SPM-Nanoaを用いてフォースカーブ測定を行い、面内平均吸着力を求めた。
【0033】
(1)実施例2
電解液生成槽と、被膜形成槽を含む無機被膜形成装置を用いて、ワーク上に、無機被膜の形成を行った。電解液生成槽の金属酸化物装填部13には、上記の試料1を流動可能に充填した。
ワークとして、ポリカーボネートを使用した。
塩水aとして海水を使用し、電磁波として太陽光を照射した。
【0034】
(2)比較例2
電解液生成槽と、被膜形成槽を含む無機被膜形成装置を用いて、ワーク上に、無機被膜の形成を行った。電解液生成槽の金属酸化物装填部13には、上記の試料2を流動可能に充填した。
ワークとして、ポリカーボネートを使用した。
塩水aとして海水を使用し、電磁波として太陽光を照射した。
【0035】
面内平均吸着力は、比較例2では2.43nNであったのに対し、実施例2では1.55nNであり、本発明の方法によれば、無機被膜の表面が平滑化され、潤滑機能が向上していることが確認された。
【0036】
4.スライドガラスを用いた光触媒機能評価(ATP拭き取り検査)
下記の実施例3・比較例3~5で、スライドガラス上に形成した無機被膜に対しATP拭き取り検査を行って光触媒機能を評価した。
ATP拭き取り検査は、キッコーマンバイオケミファ(株)製のATPふき取り検査システム(ルミテスターPD-30)を利用した。培養(室内に2週間放置)後の試験体の表面を同社製の「ルシパック(登録商標)Pen/A3」でふき取り、同社製「ルミテスター(登録商標)PD-30」に挿入して、ルシフェラーゼが触媒する、ルシフェリン、酸素、およびATP・ADP・AMPの反応による発光量を測定した値(RLU値_Relative Light Unit)を下記表1に示す。
【0037】
(1)実施例3
電解液生成槽と、被膜形成槽を含む無機被膜形成装置を用いて、ワーク上に、無機被膜の形成を行った。電解液生成槽の金属酸化物装填部13には、上記の試料1を流動可能に充填した。
ワークとして、スライドガラスを使用した。
塩水aとして海水を使用し、電磁波として太陽光を照射した。
【0038】
(2)比較例3
電解液生成槽と、被膜形成槽を含む無機被膜形成装置を用いて、ワーク上に、無機被膜の形成を行った。電解液生成槽の金属酸化物装填部13には、金属酸化物の充填を行わなかった。
ワークとして、スライドガラスを使用した。
塩水aとして海水を使用し、電磁波として太陽光を照射した。
【0039】
(3)比較例4
電解液生成槽と、被膜形成槽を含む無機被膜形成装置を用いて、ワーク上に、無機被膜の形成を行った。電解液生成槽の金属酸化物装填部13には、上記の試料2を流動可能に充填した。
ワークとして、スライドガラスを使用した。
塩水aとして海水を使用し、電磁波として太陽光を照射した。
【0040】
(4)比較例5
電解液生成槽と、被膜形成槽を含む無機被膜形成装置を用いて、ワーク上に、無機被膜の形成を行った。電解液生成槽の金属酸化物装填部13には、上記の試料3を流動可能に充填した。
ワークとして、スライドガラスを使用した。
塩水aとして海水を使用し、電磁波として太陽光を照射した。
【0041】
【表1】

【0042】
ATP拭き取り検査において、RLU値が高いほど、ATP・ADP・AMP量が多い、すなわち汚れや菌が多いと判断される。本発明の方法によれば、防汚作用を奏する光触媒機能が付与されていることが確認された。
【0043】
5.不織布を用いた光触媒機能評価(ATP拭き取り検査)
下記の実施例4・比較例6~8で、不織布上に形成した無機被膜に対しATP拭き取り検査を行って光触媒機能を評価した。
ATP拭き取り検査は、キッコーマンバイオケミファ(株)製のATPふき取り検査システム(ルミテスターPD-30)を利用した。培養後(浴室内に6カ月間放置)の試験体の表面を同社製の「ルシパック(登録商標)Pen/A3」でふき取り、同社製「ルミテスター(登録商標)PD-30」に挿入して、ルシフェラーゼが触媒する、ルシフェリン、酸素、およびATP・ADP・AMPの反応による発光量を測定した値(RLU値_Relative Light Unit)を下記表2に示す。
【0044】
(1)実施例4
電解液生成槽と、被膜形成槽を含む無機被膜形成装置を用いて、ワーク上に、無機被膜の形成を行った。電解液生成槽の金属酸化物装填部13には、上記の試料1を流動可能に充填した。
ワークとして、不織布を使用した。
塩水aとして海水を使用し、電磁波として太陽光を照射した。
【0045】
(2)比較例6
電解液生成槽と、被膜形成槽を含む無機被膜形成装置を用いて、ワーク上に、無機被膜の形成を行った。電解液生成槽の金属酸化物装填部13には、金属酸化物の充填を行わなかった。
ワークとして、不織布を使用した。
塩水aとして海水を使用し、電磁波として太陽光を照射した。
【0046】
(3)比較例7
電解液生成槽と、被膜形成槽を含む無機被膜形成装置を用いて、ワーク上に、無機被膜の形成を行った。電解液生成槽の金属酸化物装填部13には、上記の試料2を流動可能に充填した。
ワークとして、不織布を使用した。
塩水aとして海水を使用し、電磁波として太陽光を照射した。
【0047】
(4)比較例8
電解液生成槽と、被膜形成槽を含む無機被膜形成装置を用いて、ワーク上に、無機被膜の形成を行った。電解液生成槽の金属酸化物装填部13には、上記の試料3を流動可能に充填した。
ワークとして、不織布を使用した。
塩水aとして海水を使用し、電磁波として太陽光を照射した。
【0048】
【表2】
【0049】
ATP拭き取り検査において、RLU値が高いほど、ATP・ADP・AMP量が多い、すなわち汚れや菌が多いと判断される。本発明の方法によれば、防汚作用を奏する光触媒機能が付与されていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の光触媒用ナノ無機被膜形成方法により無機被膜を形成する対象(ワーク)は特に限定されないが、例えば、繊維・食品工場施設・製造工場施設・医療福祉施設・太陽光パネル・ビニールハウス等の農業施設等々での使用に好適である。
ワークの表面性状は、素材露出面および樹脂塗料などの塗装面のいずれであっても、支障なく適用できるが、部材表面の保護の観点から、塗装面を対象とすることが好ましい。
【符号の説明】
【0051】
1 電解液生成槽
11 塩水供給口
12 電解液取出し口
13 金属酸化物装填部
14 粒子
3 被膜形成槽
31 電解液送入口
32 処理排水取出し口
33 ワーク
34 ノズル
a 塩水
b 電解液
d 処理排水
図1
図2
図3