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特開2023-155882耐久性及び水素イオン伝導性に優れた電解質膜及びこれを含む燃料電池
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  • 特開-耐久性及び水素イオン伝導性に優れた電解質膜及びこれを含む燃料電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155882
(43)【公開日】2023-10-23
(54)【発明の名称】耐久性及び水素イオン伝導性に優れた電解質膜及びこれを含む燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1048 20160101AFI20231016BHJP
   H01M 8/1069 20160101ALI20231016BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20231016BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20231016BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20231016BHJP
【FI】
H01M8/1048
H01M8/1069
H01M4/86 B
H01M4/88 Z
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005318
(22)【出願日】2023-01-17
(31)【優先権主張番号】10-2022-0044438
(32)【優先日】2022-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】HYUNDAI MOTOR COMPANY
【住所又は居所原語表記】12, Heolleung-ro, Seocho-gu, Seoul, Republic of Korea
(71)【出願人】
【識別番号】500518050
【氏名又は名称】起亞株式会社
【氏名又は名称原語表記】KIA CORPORATION
【住所又は居所原語表記】12, Heolleung-ro, Seocho-gu, Seoul, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100210790
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大策
(72)【発明者】
【氏名】パク、インユ
(72)【発明者】
【氏名】キム、ソンジン
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018BB08
5H018BB12
5H018DD10
5H018EE11
5H018EE17
5H018HH05
5H018HH08
5H126AA05
5H126BB06
5H126GG11
5H126GG18
5H126HH04
5H126HH08
5H126JJ00
5H126JJ05
5H126JJ08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】化学的耐久性及び水素イオン伝導度が向上した燃料電池のための、電解質膜に添加する燃料電池用抗酸化剤を提供する。
【解決手段】燃料電池用抗酸化剤は、無機粒子を含むコアと、前記コアの表面にコーティングされ、アイオノマーを含むシェルとを含み、前記アイオノマーは高分子に水素イオン伝導性作用基が結合したものである。無機粒子は下記の式1で表現される化合物を含むことができる。前記式1で、Mは、セリウム(Ce)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)及びこれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1種を含み、Xはハロゲン元素のうちの少なくとも1種を含み、aは前記Mの酸化数と同じ数である。
MXa・・・式1
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粒子を含むコアと、
前記コアの表面にコーティングされ、アイオノマーを含むシェルと、を含み、
前記アイオノマーは高分子に水素イオン伝導性作用基が結合したものである、燃料電池用抗酸化剤。
【請求項2】
前記無機粒子は下記の式1で表現される化合物を含む、請求項1に記載の燃料電池用抗酸化剤。
【化1】
前記式1で、Mは、セリウム(Ce)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)及びこれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1種を含み、
Xはハロゲン元素のうちの少なくとも1種を含み、
aは前記Mの酸化数と同じ数である。
【請求項3】
前記高分子は主鎖及び測鎖を含み、
前記水素イオン伝導性作用基は前記測鎖に結合し、
前記水素イオン伝導性作用基は前記測鎖より水素イオン伝達サイト(Proton transfer site)が多い、請求項1に記載の燃料電池用抗酸化剤。
【請求項4】
前記高分子は過フッ素スルホン酸系高分子を含む、請求項1に記載の燃料電池用抗酸化剤。
【請求項5】
前記水素イオン伝導性作用基はリン酸基(-PO)を含む、請求項1に記載の燃料電池用抗酸化剤。
【請求項6】
アイオノマーを含む分散液を準備する段階と、
前記分散液に無機粒子を含むコアを投入することで、前記コアの表面に前記アイオノマーを含むシェルをコーティングする段階と、を含み、
前記アイオノマーは高分子に水素イオン伝導性作用基が結合したものである、燃料電池用抗酸化剤の製造方法。
【請求項7】
前記分散液を準備する段階は、
前記高分子を含む溶液に水素イオン伝導性作用基の前駆体を投入して混合液を製造する段階と、
前記混合液を撹拌する段階と、を含む、請求項6に記載の燃料電池用抗酸化剤の製造方法。
【請求項8】
前記高分子は、主鎖及び測鎖を含み、
前記水素イオン伝導性作用基は前記測鎖に結合し、
前記水素イオン伝導性作用基は前記測鎖に比べて水素イオン伝達サイト(Proton transfer site)が多い、請求項6に記載の燃料電池用抗酸化剤の製造方法。
【請求項9】
前記高分子は過フッ素スルホン酸系高分子を含む、請求項6に記載の膜電極接合体用抗酸化剤の製造方法。
【請求項10】
前記水素イオン伝導性作用基はリン酸基(-PO)を含む、請求項6に記載の燃料電池用抗酸化剤の製造方法。
【請求項11】
前記混合液は、前記高分子100重量部を基準に、前記前駆体0.00188重量部~0.188重量部を投入して製造する、請求項7に記載の燃料電池用抗酸化剤の製造方法。
【請求項12】
前記混合液を30℃~140℃で撹拌する、請求項7に記載の燃料電池用抗酸化剤の製造方法。
【請求項13】
前記無機粒子は下記の式1で表現される化合物を含む、請求項6に記載の燃料電池用抗酸化剤の製造方法。
【化2】
前記式1で、Mは、セリウム(Ce)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)及びこれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1種を含み、
Xはハロゲン元素のうちの少なくとも1種を含み、
aは前記Mの酸化数と同じ数である。
【請求項14】
前記分散液に、前記アイオノマー100重量部を基準に、前記コアを10重量部~1,000重量部投入する、請求項6に記載の燃料電池用抗酸化剤の製造方法。
【請求項15】
前記コアにシェルをコーティングした後、熱処理する段階をさらに含む、請求項6に記載の燃料電池用抗酸化剤の製造方法。
【請求項16】
前記熱処理は、100℃~200℃の条件で遂行する、請求項15に記載の燃料電池用抗酸化剤の製造方法。
【請求項17】
電解質膜と、
前記電解質膜の両面に位置する一対の電極と、
前記電極上に位置するガス拡散層と、を含み、
前記電解質膜、電極及びガス拡散層のうちの少なくとも一つが請求項1~5のいずれか一項に記載の抗酸化剤を含む、燃料電池。
【請求項18】
前記電解質膜は、イオン伝達物質100重量部を基準に、前記抗酸化剤を0.1重量部~20重量部含む、請求項17に記載の燃料電池。
【請求項19】
前記イオン伝達物質は前記アイオノマーより高い当量(Equivalent weight)を有する、請求項18に記載の燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐久性及び水素イオン伝導性に優れた電解質膜及びこれを含む燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用高分子電解質膜燃料電池は、水素と空気中の酸素との電気化学反応(Electrochemical Reaction)によって電気を生産する発電装置である。高分子電解質膜燃料電池は、発電効率が高く、水以外の排出物がない、環境に優しい次世代エネルギー源として広く知られている。また、高分子電解質膜燃料電池は、一般的に95℃以下の温度で作動し、高出力密度を得ることができる。
【0003】
前記燃料電池の電気生成のための反応は過フッ素スルホン酸系アイオノマーに基づく電解質膜(Perfluorinated Sulfonic Acid Ionomer-Based Membrane)とアノード(Anode)/カソード(Cathode)の電極とから構成された膜電極組立体(MEA:Membrane-Electrode Assembly)で起こる。酸化極であるアノードに供給された水素が水素イオン(Proton)及び電子(Electron)に分離された後、水素イオンは膜を通して還元極であるカソード側に移動し、電子は外部回路を介してカソードに移動する。前記カソードで酸素分子、水素イオン及び電子が一緒に反応して電気及び熱を生成するとともに反応副産物として水(HO)を生成する。
【0004】
過フッ素スルホン酸系アイオノマー(PFSA:Perfluorinated Sulfonic Acid Ionomer)から構成された電解質膜(Membrane)は水素イオン伝導度(Proton Conductivity)が高く、多様な加湿条件で高い性能及び安全性を現すので、高分子電解質膜燃料電池(Polymer Electrolyte Membrane Fuel Cell)の分野で一番多く使われる。しかし、過フッ素スルホン酸系アイオノマーのみから構成された電解質膜は、100℃以上の高温で熱分解(Thermal Degradation)し、機械的物性及び寸法安全性が急激に低下するなどの多くの問題点がある。したがって、過フッ素スルホン酸系アイオノマーを含む電解質膜を適用した燃料電池は、通常100℃未満、より好ましくは80℃以下の温度で運転する。
【0005】
燃料電池の反応気体である水素及び酸素が電解質膜を交差移動(Crossover)して反応すると、過酸化水素(Hydrogen Peroxide:HOOH)が生成される。前記過酸化水素はヒドロキシル(Hydroxyl)ラジカル(・OH)及びヒドロペルオキシル(Hydroperoxyl)ラジカル(・OOH)などの酸素含有ラジカル(Oxygen-Containing Radicals)を生成する。前記ラジカルは過フッ素スルホン酸系アイオノマーを攻撃して電解質膜の化学的劣化(Chemical Degradation)を引き起こし、結局燃料電池の耐久性が低下する。
【0006】
従来においては、このような電解質膜の化学的劣化を緩和(Mitigation)するための技術として多様な種類の抗酸化剤(Antioxidants)を電解質膜に添加する方法が提案されて来た。
【0007】
前記抗酸化剤はラジカルスカベンジャー(Radical Scavenger)の機能を有する一次抗酸化剤(Primary Antioxidant)及び過酸化水素分解剤(Hydrogen Peroxide Decomposer)の機能を有する二次抗酸化剤(Secondary Antioxidant)などがある。
【0008】
一次抗酸化剤としては、セリウム酸化物(Cerium Oxide)、硝酸セリウム六水和物(Cerium (III) Nitrate Hexahydrate)などのセリウム系抗酸化剤、テレフタル酸系抗酸化剤などがある。二次抗酸化剤としては、マンガン酸化物(Manganese Oxide)などのマンガン系抗酸化剤がある。
【0009】
主に、硝酸セリウム六水和物(Cerium (III) Nitrate Hexahydrate)のような形態の抗酸化剤を使うが、セリウムイオンが過フッ素スルホン酸系アイオノマーのスルホン酸基の末端に結合して、水素イオン(H)が移動することができる経路を遮断するので、電解質膜の水素イオン伝導度が低下する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2011-044250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、燃料電池の化学的耐久性を向上させるとともに水素イオン伝導度を向上させることを目的とする。
【0012】
本発明の目的は以上で言及した目的に限定されない。本発明の目的は以下の説明によってより明らかになり、特許請求の範囲に記載された手段及びその組合せによって実現される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一実施例による燃料電池用抗酸化剤は、無機粒子を含むコアと、前記コアの表面にコーティングされ、アイオノマーを含むシェルとを含み、前記アイオノマーは高分子に水素イオン伝導性作用基が結合したものである。
【0014】
前記無機粒子は下記の式1で表現される化合物を含むことができる。
【化1】
【0015】
前記式1で、Mは、セリウム(Ce)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)及びこれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1種を含み、Xはハロゲン元素のうちの少なくとも1種を含み、aは前記Mの酸化数と同じ数である。
【0016】
前記高分子は主鎖及び測鎖を含み、前記水素イオン伝導性作用基は前記測鎖に結合し、前記水素イオン伝導性作用基は前記測鎖より水素イオン伝達サイト(Proton transfer site)が多くてもよい。
【0017】
前記高分子は過フッ素スルホン酸系高分子を含むことができる。
【0018】
前記水素イオン伝導性作用基はリン酸基(-PO)を含むことができる。
【0019】
前記燃料電池用抗酸化剤の製造方法は、アイオノマーを含む分散液を準備する段階と、前記分散液に無機粒子を含むコアを投入することで、前記コアの表面に前記アイオノマーを含むシェルをコーティングする段階とを含み、前記アイオノマーは高分子に水素イオン伝導性作用基が結合したものであり得る。
【0020】
前記分散液を準備する段階は、前記高分子を含む溶液に水素イオン伝導性作用基の前駆体を投入して混合液を製造する段階と、前記混合液を撹拌する段階とを含むことができる。
【0021】
前記混合液は、前記高分子100重量部を基準に、前記前駆体0.00188重量部~0.188重量部を投入して製造することができる。
【0022】
前記混合液を30℃~140℃で撹拌することができる。
【0023】
前記分散液に、前記アイオノマー100重量部を基準に、前記コアを10重量部~1,000重量部投入することができる。
【0024】
前記製造方法は、前記コアにシェルをコーティングした後、熱処理する段階をさらに含むことができる。
【0025】
前記熱処理は、100℃~200℃の条件で遂行することができる。
【0026】
本発明の一実施例による燃料電池は、電解質膜と、前記電解質膜の両面に位置する一対の電極と、前記電極上に位置するガス拡散層とを含み、前記電解質膜、電極及びガス拡散層のうちの少なくとも一つが前記抗酸化剤を含むことができる。
【0027】
前記電解質膜は、イオン伝達物質100重量部を基準に、前記抗酸化剤を0.1重量部~20重量部含むことができる。
【0028】
前記イオン伝達物質は前記アイオノマーより高い当量(Equivalent weight)を有することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、化学的耐久性に優れながら水素イオン伝導度が高い燃料電池を得ることができる。
【0030】
本発明の効果は以上で言及した効果に限定されない。本発明の効果は以下の説明から推論可能なすべての効果を含むものと理解されなければならないであろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明による膜電極組立体を示す図である。
図2】本発明による電解質膜の一実施形態を示す図である。
図3】本発明による電解質膜の他の実施形態を示す図である。
図4】本発明による抗酸化剤を示す図である。
図5】実施例、比較例1及び比較例2による電解質膜の化学的耐久性を評価した結果を示すグラフである。
図6】実施例、比較例1及び比較例2による電解質膜の水素イオン伝導性を評価した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以上の本発明の目的、他の目的、特徴及び利点は添付図面に基づく以下の好適な実施例によって易しく理解可能であろう。しかし、本発明はここで説明する実施例に限定されず、他の形態に具体化することもできる。むしろ、ここで紹介する実施例は開示の内容が徹底的で完全になるように、かつ通常の技術者に本発明の思想が充分に伝達されるようにするために提供するものである。
【0033】
各図の説明において類似の参照符号を類似の構成要素に付けた。添付図面において、構造物の寸法は本発明の明確性のために実際より拡大して示すものである。第1、第2などの用語は多様な構成要素を説明するのに使うことができるが、前記構成要素は前記用語に限定されてはいけない。前記用語は一構成要素を他の構成要素と区別する目的のみで使われる。例えば、本発明の権利範囲を逸脱しない範疇内で第1構成要素は第2構成要素と名付けることができ、同様に第2構成要素も第1構成要素と名付けることができる。単数の表現は文脈上明らかに他に指示しない限り、複数の表現を含む。
【0034】
本明細書で、“含む”又は“有する”などの用語は明細書上に記載した特徴、数字、段階、動作、構成要素、部品又はこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであり、一つ又はそれ以上の他の特徴、数字、段階、動作、構成要素、部分品又はこれらを組み合わせたものなどの存在又は付加の可能性を予め排除しないものと理解されなければならない。また、層、膜、領域、板などの部分が他の部分“上に”あると言う場合、これは他の部分の“すぐ上に”ある場合だけではなく、その中間に他の部分がある場合も含む。反対に、層、膜、領域、板などの部分が他の部分の“下に”あると言う場合、これは他の部分の“すぐ下に”ある場合だけではなく、その中間に他の部分がある場合も含む。
【0035】
他に明示しない限り、本明細書で使用した成分、反応条件、ポリマー組成物及び配合物の量を表現する全ての数字、値及び/又は表現は、このような数字が本質的に他のものの中でこのような値を得るのに発生する測定の多様な不確実性が反映された近似値であるので、全ての場合に“約”という用語で修飾されるものと理解されなければならない。また、以下の記載で数値範囲を開示する場合、このような範囲は連続的であり、他に指示しない限り、このような範囲の最小値から最大値が含まれた前記最大値までの全ての値を含む。さらに、このような範囲が整数を指示する場合、他に指示しない限り、最小値から最大値が含まれた前記最大値までを含む全ての整数が含まれる。
【0036】
図1は本発明による燃料電池に含まれる膜電極組立体を示す図である。前記膜電極組立体は、電解質膜1、前記電解質膜1の両面に位置する電極2、及び前記電極2上のガス拡散層(Gas diffusion layer)3を含むことができる。
【0037】
前記電解質膜1、電極2、及びガス拡散層3のうちの少なくとも一つは抗酸化剤を含むことができる。
【0038】
図2は本発明による電解質膜1の一実施形態を示す図である。前記電解質膜1は、イオン伝達物質10、及び抗酸化剤20を含むことができる。
【0039】
前記イオン伝達物質10は、前記電解質膜1内で水素イオンの移動を担当する構成である。
【0040】
前記イオン伝達物質10は、本発明が属する技術分野で通常に使われるものであればいずれも含むことができる。例えば、前記イオン伝達物質10は過フッ素スルホン酸系高分子を含むことができる。
【0041】
前記抗酸化剤20は前記イオン伝達物質10内に分散されていることができる。前記抗酸化剤20についての具体的な内容は後述する。
【0042】
前記電解質膜1は、前記イオン伝達物質100重量部を基準に、前記抗酸化剤20を0.1重量部~20重量部含むことができる。前記抗酸化剤20の含量が0.1重量部未満であれば、電解質膜1の化学的耐久性の向上程度が小さくなることがある。その含量が20重量部を超えると、イオン伝達物質10の含量が少なくなって電解質膜1の水素イオン伝導性が低下することがある。
【0043】
図3は本発明による電解質膜1’の他の実施形態を示す図である。前記電解質膜1’は、強化層30、前記強化層30の一面に位置する第1イオン伝達層40、及び前記強化層30の他面に位置する第2イオン伝達層50を含むことができる。ただ、本発明の実施形態がこれに限定されるものではなく、前記第1イオン伝達層40のみを含む電解質膜1’、前記第2イオン伝達層50’のみを含む電解質膜1’なども本発明の実施形態に含まれることができる。
【0044】
前記強化層30は前記電解質膜1’の機械的物性を高めるための構成である。
【0045】
前記強化層30は多孔性のものであり、その気孔内にイオン伝達物質10’が含浸されたものであってもよい。したがって、前記強化層30内でも水素イオンが伝達されることができる。
【0046】
前記強化層30は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、拡張型ポリテトラフルオロエチレン(e-PTFE)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリフェニレンオキサイド(PPO)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリイミド(PI)、ポリビニリデンフルオリド(PVdF)、ポリビニルクロライド(PVC)及びこれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1種を含むことができる。
【0047】
前記第1イオン伝達層40及び第2イオン伝達層50は前記イオン伝達物質10’を含むことができる。前記第1イオン伝達層40及び/または第2イオン伝達層50は前記抗酸化剤20’をさらに含むことができる。図3は第1イオン伝達層40に抗酸化剤20’が含まれた電解質膜1’を示す図であるが、本発明の実施形態がこれに限定されるものではなく、前記抗酸化剤20’は、前記強化層30、第1イオン伝達層40、及び第2イオン伝達層50のうちの少なくとも一つに含まれることができる。
【0048】
図4は本発明による抗酸化剤20を示す図である。前記抗酸化剤20は、無機粒子を含むコア21、及び前記コア21の表面にコーティングされたシェル22を含むことができる。
【0049】
前記コア21は、抗酸化性を有し、下記の式1で表現される無機粒子を含むことができる。
【化2】
【0050】
前記式1で、Mは、セリウム(Ce)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、及びこれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1種を含み、Xはハロゲン元素のうちの少なくとも1種を含み、aは前記Mの酸化数及び前記Xの酸化数を考慮して化合物が中性になるように決定された数、または前記Mの酸化数と同じ数であり得る。例えば、前記aは1~6の範囲に属する数であり得る。
【0051】
前記無機粒子は、CeFまたはCeFで表現されるセリウムフッ化物、CeClで表現されるセリウム塩化物、MnF、MnFまたはMnFで表現されるマンガンフッ化物、MnClで表現されるマンガン塩化物、SnFまたはSnFで表現されるスズフッ化物、SnClまたはSnClで表現されるスズ塩化物、MoF、MoF、MoFで表現されるモリブデンフッ化物、MoCl、MoCl、MoCl、MoClで表現されるモリブデン塩化物などを含むことができる。
【0052】
前記シェル22は、水素イオン伝導性を有するアイオノマーを含むことができる。
【0053】
本発明は、抗酸化性を有する無機粒子を電解質膜1に投入して化学的耐久性を高めるとともに、前記無機粒子の表面を、水素イオン伝導性を有するアイオノマーでコーティングして、前記無機粒子の投入による電解質膜1の水素イオン伝導性の低下を防止したことを特徴とする。
【0054】
一方、本発明は、前述した電解質膜1の水素イオン伝導性の低下を防止するのみならず、水素イオン伝導性を向上させるために、前記アイオノマーとして、自身が水素イオン伝導性を有する高分子に水素イオン伝導性作用基をさらに結合したものを使用する。
【0055】
具体的には、前記高分子は主鎖及び水素イオン伝導性を有する測鎖を含む。前記水素イオン伝導性作用基は前記測鎖の末端に結合することができる。ここで、前記水素イオン伝導性作用基は、前記測鎖に比べて水素イオン伝達サイト(Proton transfer site)が多いことを特徴とする。ここで、水素イオン伝達サイトは水素イオンが電気化学的に結合及び/または分離することができる部分構造を意味し、具体的には、イオン化した状態を基準にR-Oで表現される構造を有することができる。例えば、R-SO で表現されるスルホン酸基は水素イオン伝達サイトが1個であり、R-PO 2-で表現されるリン酸基は水素イオン伝達サイトが2個である。
【0056】
前記高分子は、過フッ素スルホン酸系高分子を含むことができる。例えば、ナフィオン(Nafion)を含むことができる。
【0057】
前記水素イオン伝導性作用基はリン酸基を含むことができる。水素イオンの伝導性を考慮すると、前記水素イオン伝導性作用基はリン酸基であることが好ましい。
【0058】
例示的に、前記アイオノマーは下記の式2で表現される測鎖構造を有するものであり得る。
【化3】
【0059】
前記式2で、*は主鎖と結合する部位を意味する。前記Aは水素イオン伝導性を有する高分子自体に含まれた測鎖であり、式2には測鎖末端にスルホン酸基を含む構造を示した。前記Bは前記高分子にさらに結合された水素イオン伝導性作用基であり、好ましくはリン酸基を含むことができる。
【0060】
前記リン酸基は-O-による水素イオン伝達サイトが2個であり、スルホン酸基、カルボキシル基などより多い。したがって、高分子の作用基にリン酸基を置換すれば、水素イオン伝達サイトが増加して水素イオン伝導性を高めることができる。
【0061】
また、前記イオン伝達物質10の当量(Equivalent weight)を前記アイオノマーより高めることで、前記抗酸化剤20の投入による電解質膜1の水素イオン伝導度の低下を相殺することができる。前記イオン伝達物質10の当量は特に限定されないが、1,500g/eq以下、または500g/eq~1,200g/eqであり得る。
【0062】
本発明は、このようにシェル22を構成するアイオノマーの置換基、イオン伝達物質10の当量によって電解質膜1の化学的耐久性及び水素イオン伝導度を均衡的に向上させたことを特徴とする。
【0063】
前記シェル22の厚さは特に限定されず、例えば1nm~1μmであり得る。前記シェル22は前記コア21の抗酸化性能を損なわない程度の厚さを有するように適宜形成することができる。
【0064】
本発明による前記抗酸化剤20の製造方法は、アイオノマーを含む分散液を準備する段階と、前記分散液に無機粒子を含むコアを投入することで、前記コアの表面に前記アイオノマーを含むシェルをコーティングする段階と、を含むことができる。
【0065】
前記分散液は、前記高分子を含む溶液に水素イオン伝導性作用基の前駆体を投入して混合液を製造する段階と、前記混合液を撹拌する段階とによって準備することができる。
【0066】
前記前駆体の種類は目的とする水素イオン伝導性作用基によって適宜選択することができる。例えば、前記前駆体はリン酸などを含むことができる。
【0067】
前記混合液は、前記高分子100重量部を基準に、前記前駆体0.00188重量部~0.188重量部、または0.0188重量部~0.0937重量部を投入することで製造することができる。前記前駆体の投入量が0.00188重量部未満であれば、前記アイオノマーの水素イオン伝導性の向上程度が小さいことがあり、0.188重量部を超えると、前記高分子に水素イオン伝導性作用基があまりにも多く結合して電極の被毒を引き起こすことがある。
【0068】
前記混合液を30℃~140℃、または50℃~100℃で撹拌することで、前記高分子に水素イオン伝導性作用基を結合させることができる。前記温度が30℃未満であれば、前記高分子と前記前駆体とが反応しないことがあり、140℃を超えると、前記前駆体が熱分解することがある。
【0069】
前記混合液の撹拌時間は特に限定されず、例えば約60分間撹拌することができる。
【0070】
このように準備した分散液に無機粒子を含むコアを投入することで、前記コアの表面に前記アイオノマーを含むシェルをコーティングすることができる。
【0071】
前記分散液に、前記アイオノマー100重量部を基準に、前記コアを10重量部~1,000重量部投入することができる。前記コアの投入量が1,000重量部を超えると、前記アイオノマーの量が足りないので、シェルが正常に形成されないことがある。
【0072】
前記分散液にコアを投入した後、前記分散液の液体成分が充分に除去されるまで撹拌しながら乾燥することで本発明による抗酸化剤を得ることができる。前記乾燥の条件は特に限定されず、前記無機粒子、アイオノマーが劣化しない程度の温度及び時間に調節することができる。
【0073】
前記製造方法は、前記抗酸化剤を熱処理する段階をさらに含むことができる。前記熱処理は、前記アイオノマーの結晶化度を高めることで、電解質膜を製造する過程で前記シェルが剥げることを防止するためである。
【0074】
具体的には、前記抗酸化剤を100℃~200℃、または120℃~160℃で熱処理することができる。前記熱処理の温度が100℃未満であれば、前記アイオノマーの結晶化度が充分に高くならないので、前記抗酸化剤を使って電解質膜を製造する過程で前記アイオノマーが溶けて前記シェルが剥げることがある。一方、前記熱処理の温度が200℃を超えると、前記アイオノマーが熱分解することがある。
【0075】
前記熱処理の時間は特に限定されず、例えば約10分間熱処理することができる。
【0076】
本発明による膜電極組立体の製造方法は、前記抗酸化剤及びイオン伝達物質を含む溶液を準備する段階と、前記溶液を塗布及び乾燥して電解質膜を製造する段階と、前記電解質膜の両面に電極を形成する段階と、前記電極上にガス拡散層を形成する段階とを含むことができる。
【0077】
まず、蒸留水、アルコールなどの溶媒にイオン伝達物質及び前記抗酸化剤を投入して溶液を準備することができる。
【0078】
前記溶媒にイオン伝達物質100重量部及び抗酸化剤0.1重量部~20重量部を投入することができる。
【0079】
前記溶媒にイオン伝達物質及び抗酸化剤を投入した後、10~300分間、または30~120分間撹拌することができる。撹拌時間が10分未満であれば、前記イオン伝達物質及び抗酸化剤が均一に分散されないことがあり、300分を超えると、工程性が低下することがある。
【0080】
前記溶液を基材上に塗布及び乾燥する方法は特に限定されず、本発明が属する技術分野で通常に使われる方法で塗布及び乾燥することができる。
【0081】
一方、前記電解質膜が強化層を含むものであれば、前記溶液を基材上に塗布し、その上に強化層を積層することで、前記強化層にイオン伝達物質などを含浸させた後、前記強化層に前記溶液を塗布することで電解質膜を製造することができる。
【0082】
前記電解質膜の両面に電極を付着し、前記電極上にガス拡散層を形成することで膜電極組立体を製造することができる。前記電極を付着する方法及び前記ガス拡散層を形成する方法は特に限定されず、本発明が属する技術分野で通常に使われる方法で実施することができる。
【0083】
以下、実施例に基づいて本発明の他の形態をより具体的に説明する。下記の実施例本発明の理解を手助けするための例示に過ぎず、本発明の範囲がこれに限定されるものではない。
【0084】
製造例-抗酸化剤の製造
蒸留水及びアルコールの混合溶媒100gに高分子分散液(固形分20重量%)5gを添加し、リン酸(PO)を、前記高分子分散液の固形分100重量部に対して、0.0188重量部添加することで混合液を製造した。前記高分子としては過フッ素スルホン酸系高分子を使った。前記混合液を約80℃で約60分間撹拌することで、アイオノマーを含む分散液を製造した。
【0085】
前記分散液に無機粒子としてセリウムフッ化物を投入した。前記アイオノマー100重量部を基準に、前記セリウムフッ化物を100重量部投入した。その結果物を、液体成分が充分になくなるまで、約80℃で撹拌しながら乾燥した。
【0086】
乾燥された結果物を真空オーブンによって約140℃で約10分間熱処理した。
【0087】
実施例
蒸留水及びアルコールの混合溶媒にイオン伝達物質である過フッ素スルホン酸系高分子及び前記製造例の抗酸化剤を投入してから混合することで溶液を製造した。前記溶液を基材上に塗布して電解質膜を製造した。
【0088】
比較例1
抗酸化剤としてセリウム硝酸六水和物を使ったことを除き、前記実施例と同様に電解質膜を製造した。
【0089】
比較例2
抗酸化剤としてセリウムフッ化物を使ったことを除き、前記実施例と同様に電解質膜を製造した。すなわち、比較例2はアイオノマーを含むシェルを形成しなかった抗酸化剤を使ったものである。
【0090】
実験例1
実施例、比較例1及び比較例2による電解質膜の化学的耐久性を検証するために、各電解質膜をフェントン溶液(Fenton Solution)に24時間漬けた状態で反応させ、フッ素イオン放出速度(FER:Fluorine Emission Rate)を測定した。抗酸化剤の抗酸化性が十分ではなければ、フェントン溶液と電解質膜との反応によって発生したラジカルによって前記電解質膜が劣化(Degradation)してフッ素イオン(F)が放出される。したがって、一定の時間が経った後、フェントン溶液内のフッ素イオン濃度を測定すれば、電解質膜の抗酸化性を比較及び評価することができる。その結果は図5の通りである。
【0091】
図5を参照すると、実施例の電解質膜が比較例1及び比較例2に比べてフッ素イオン排出量が少ないことが分かる。これは、実施例の電解質膜の化学的耐久性が非常に優れることを意味する。
【0092】
実験例2
実施例、比較例1及び比較例2による電解質膜の水素イオン伝導性を評価した。前記水素イオン伝導性は、40℃~80℃の温度領域で相対湿度50%の条件で評価した。その結果は図6の通りである。
【0093】
図6を参照すると、実施例の電解質膜が比較例1及び比較例2に比べて数等高い水素イオン伝導度を現すことが分かる。
【0094】
結果的に、本発明によれば、化学的耐久性に優れながら水素イオン伝導性までも優れた電解質膜を得ることができることを確認することができる。
【0095】
以上で、本発明の実験例及び実施例について詳細に説明したが、本発明の権利範囲は上述した実験例及び実施例に限定されず、次の特許請求の範囲で定義している本発明の基本概念を用いた当業者の多くの変形及び改良形態も本発明の権利範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0096】
1 電解質膜
2 電極
3 ガス拡散層
10 イオン伝達物質
20 抗酸化剤
21 コア
22 シェル
図1
図2
図3
図4
図5
図6