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特開2023-155888衝突情報提供システム、衝突判定システムおよび船舶
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155888
(43)【公開日】2023-10-23
(54)【発明の名称】衝突情報提供システム、衝突判定システムおよび船舶
(51)【国際特許分類】
   B63B 43/20 20060101AFI20231016BHJP
   B63B 43/18 20060101ALI20231016BHJP
   B63B 49/00 20060101ALI20231016BHJP
   B63B 79/10 20200101ALI20231016BHJP
   B63B 79/30 20200101ALI20231016BHJP
   B63H 21/21 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
B63B43/20
B63B43/18
B63B49/00 Z
B63B79/10
B63B79/30
B63H21/21
【審査請求】未請求
【請求項の数】38
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019830
(22)【出願日】2023-02-13
(31)【優先権主張番号】P 2022065228
(32)【優先日】2022-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】井上 宏
(72)【発明者】
【氏名】森 雄巧
(72)【発明者】
【氏名】青柳 慎太郎
(57)【要約】
【課題】船舶への衝突に関する情報を提供する。
【解決手段】制御部21は、船舶10に対する物体の衝突の有無を判定し、衝突が有ったと判定された場合は、衝突に関する情報(衝突情報)を取得し、取得された衝突情報を記憶部29に記憶させるか、サーバ装置34に対して無線で送信することで提供する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶に対する物体の衝突の有無を判定する判定部と、
前記判定部により衝突が有ったと判定された場合は、前記衝突に関する情報を取得する情報取得部と、
前記情報取得部により取得された前記情報を提供する提供部と、を有する、衝突情報提供システム。
【請求項2】
記憶部を有し、
前記提供部は、前記情報を前記記憶部に記憶させる、請求項1に記載の衝突情報提供システム。
【請求項3】
通信部を有し、
前記提供部は、前記情報を、前記通信部を介して外部へ送信する、請求項1に記載の衝突情報提供システム。
【請求項4】
動画を撮影する撮影部を有し、
前記情報取得部は、衝突が有ったと判定された時点を含む第1の所定時間の動画を、前記情報の一部として取得する、請求項1に記載の衝突情報提供システム。
【請求項5】
前記情報取得部は、衝突が有ったと判定された時点を含む第2の所定時間の前記船舶の運転状況を示す情報を、前記情報の一部として取得する、請求項1に記載の衝突情報提供システム。
【請求項6】
前記船舶は、前記船舶を推進する船舶推進機を有し、
前記船舶推進機はエンジンおよびプロペラを有し、
前記判定部は、前記エンジンの回転数に基づいて、前記船舶における前記プロペラに対する物体の衝突の有無を判定する、請求項1に記載の衝突情報提供システム。
【請求項7】
前記判定部は、前記エンジンの回転数が第3の所定時間内に第1の閾値回転数を超えて低下するという条件を満した場合は、前記プロペラに対する物体の衝突があったと判定する、請求項6に記載の衝突情報提供システム。
【請求項8】
前記船舶に作用する水平方向の加速度を取得する加速度取得部を有し、
前記判定部は、前記加速度取得部により取得された加速度に基づいて、前記船舶に対する物体の衝突の有無を判定する、請求項1に記載の衝突情報提供システム。
【請求項9】
前記判定部は、取得された前記加速度が第1の所定加速度を超えた場合は、前記船舶に対する物体の衝突が有ったと判定する、請求項8に記載の衝突情報提供システム。
【請求項10】
前記船舶は、船体と、前記船体に取り付けられた船舶推進機とを含み、
前記船舶の速度を取得する速度取得部と、
前記船体に対する前記船舶推進機の傾斜角度を取得する傾斜角度取得部と、を有し、 前記判定部は、前記速度取得部により取得された前記速度と前記傾斜角度取得部により取得された前記傾斜角度とに基づいて、前記船舶における前記船舶推進機に対する物体の衝突の有無を判定する、請求項1に記載の衝突情報提供システム。
【請求項11】
前記判定部は、取得された前記速度が第1の所定速度以上の状態で、取得された前記傾斜角度が第4の所定時間内に第1の所定量を超えて変化したことを条件として、前記船舶推進機に対する物体の衝突が有ったと判定する、請求項10に記載の衝突情報提供システム。
【請求項12】
前記判定部は、前記傾斜角度の変化速度と前記傾斜角度の変化量とに基づいて、前記船舶推進機に対する物体の衝突の程度を示す情報を取得する、請求項11に記載の衝突情報提供システム。
【請求項13】
エンジンおよびプロペラを有する船舶推進機に対する物体の衝突の有無を判定する判定部を有し、
前記判定部は、前記エンジンの回転数が第5の所定時間内に第2の閾値回転数を超えて低下するという条件を満たした場合は、前記プロペラに対する物体の衝突が有ったと判定する、衝突判定システム。
【請求項14】
前記判定部は、直近の第6の所定時間における前記エンジンの最低回転数に対して、前記エンジンの回転数が第3の閾値回転数以上低くなるという条件を満たした場合は、前記プロペラに対する物体の衝突が有ったと判定する、請求項13に記載の衝突判定システム。
【請求項15】
前記判定部は、前記エンジンの吸気圧の移動平均を求め、前記エンジンの吸気圧が前記移動平均に対して所定圧を超えて高くなるという条件を満たした場合は、前記プロペラに対する物体の衝突が有ったと判定する、請求項13に記載の衝突判定システム。
【請求項16】
前記判定部は、前記エンジンのスロットル開度が第7の所定時間に亘って所定範囲内にある状態で、第8の所定時間内に前記エンジンの回転数が第4の閾値回転数を超えて低下するという条件を満たした場合は、前記プロペラに対する物体の衝突が有ったと判定する、請求項13に記載の衝突判定システム。
【請求項17】
前記判定部は、前記条件を満たした場合であっても、最後に前記条件を満たしてから第9の所定時間以内に、最後に前記条件を満たした時点での前記エンジンの回転数に対し、前記エンジンの回転数が第5の閾値回転数以上上昇しなかった場合は、前記プロペラに対する物体の衝突が有ったと判定しない、請求項13乃至16のいずれか1項に記載の衝突判定システム。
【請求項18】
前記判定部は、前記船舶推進機によって推進する船舶に作用する上下方向の加速度を取得し、第2の所定加速度以上の加速度を取得した時点から第10の所定時間前までの期間は、前記プロペラに対する物体の衝突の有無を判定しない、請求項13乃至16のいずれか1項に記載の衝突判定システム。
【請求項19】
前記判定部は、前記エンジンのスロットル開度が第11の所定時間に亘って所定範囲内にある状態で、第12の所定時間内に前記エンジンの回転数が第6の閾値回転数を超えて上昇するという条件を満たした後、第13の所定時間内は、前記プロペラに対する物体の衝突の有無を判定しない、請求項13乃至16のいずれか1項に記載の衝突判定システム。
【請求項20】
船舶推進機のプロペラに対する物体の衝突の有無を判定する判定部を有し、
前記判定部は、現在から第20の所定時間ほど遡った期間における前記船舶推進機のエンジンのスロットル開度の第1の偏差が第3の所定量を越えず、且つ現在から第17の所定時間ほど遡った期間における前記エンジンの回転数の第1の偏差が第8の閾値回転数以内である場合、前記エンジンの吸気圧の移動平均が所定の吸気圧閾値を越え、且つ現在から第19の所定時間ほど遡った期間における前記エンジンの回転数の第2の偏差が第9の閾値回転数を越えるように前記エンジンの回転数が低下し、その後、前記エンジンの回転数の第2の偏差が第10の閾値回転数を越えるように前記エンジンの回転数が上昇したときに、前記プロペラに対する物体の衝突が有ったと判定する、衝突判定システム。
【請求項21】
前記判定部は、前記プロペラに対する物体の衝突が有ったと判定した場合、前記エンジンの吸気圧の移動平均が前記所定の吸気圧閾値を越え、且つ前記エンジンの回転数の第2の偏差が第9の閾値回転数を越えるように前記エンジンの回転数が低下したときの前記エンジンの回転数の平均値と、現在から前記第17の所定時間ほど遡った期間における最小の前記エンジンの回転数との差分である第1の回転数差分、並びに、現在から第24の所定時間ほど遡った期間における各前記エンジンの回転数の第2の偏差のうちの最大値である第2の回転数差分を取得し、前記第1の回転数差分及び前記第2の回転数差分の少なくとも1つを外部へ送信する、請求項20に記載の衝突判定システム。
【請求項22】
前記判定部は、前記プロペラに対する物体の衝突が有ったと判定したときから第22の所定時間が経過するまでに、前記エンジンの回転数の第2の偏差が再び前記第10の閾値回転数を越えるように前記エンジンの回転数が上昇しても、再度、前記プロペラに対する物体の衝突が有ったと判定しない、請求項20に記載の衝突判定システム。
【請求項23】
前記判定部は、前記船舶推進機のエンジンが停止しているときは、前記プロペラに対する物体の衝突が有ったと判定しない、請求項20に記載の衝突判定システム。
【請求項24】
前記判定部は、前記船舶推進機のシフト位置が変更されてから第25の所定時間が経過するまでは、前記プロペラに対する物体の衝突が有ったと判定しない、請求項20に記載の衝突判定システム。
【請求項25】
前記判定部は、前記船舶推進機のストップスイッチが一旦オンとなった後にオフとされてから第26の所定時間が経過するまでは、前記プロペラに対する物体の衝突が有ったと判定しない、請求項20に記載の衝突判定システム。
【請求項26】
前記判定部は、前記船舶推進機のエンジンが始動されてから第27の所定時間が経過していない場合であって、前記エンジンの壁温が所定温度を超えていない場合、前記プロペラに対する物体の衝突が有ったと判定しない、請求項20に記載の衝突判定システム。
【請求項27】
前記判定部は、船舶の急減速条件が成立してから第28の所定時間が経過するまでは、前記プロペラに対する物体の衝突が有ったと判定しない、請求項20に記載の衝突判定システム。
【請求項28】
前記判定部は、船舶がジャンプしてから第29の所定時間が経過するまでは、前記プロペラに対する物体の衝突が有ったと判定しない、請求項20に記載の衝突判定システム。
【請求項29】
前記判定部は、操船者によって前記スロットル開度が変更されて前記スロットル開度の第1の偏差が第3の所定量を越えている場合、前記プロペラに対する物体の衝突が有ったと判定しない、請求項20に記載の衝突判定システム。
【請求項30】
前記判定部は、前記船舶推進機のメインスイッチがオンとなってから第30の所定時間が経過するまでは、前記プロペラに対する物体の衝突が有ったと判定しない、請求項20に記載の衝突判定システム。
【請求項31】
船舶に作用する水平方向の加速度を取得する加速度取得部と、
前記船舶に対する物体の衝突の有無を判定する判定部と、を有し、
前記判定部は、前記加速度取得部により取得された前記加速度が第3の所定加速度を超えた場合は、前記船舶に対する物体の衝突が有ったと判定する、衝突判定システム。
【請求項32】
前記第3の所定加速度は、少なくとも船速に応じて設定される、請求項31に記載の衝突判定システム。
【請求項33】
前記第3の所定加速度は、少なくとも方向に応じて設定される、請求項31に記載の衝突判定システム。
【請求項34】
船体と前記船体に取り付けられた船舶推進機とを含む船舶の速度を取得する速度取得部と、
前記船体に対する前記船舶推進機の傾斜角度を取得する傾斜角度取得部と、
前記船舶推進機に対する物体の衝突の有無を判定する判定部と、を有し、
前記判定部は、前記速度取得部により取得された前記速度が第2の所定速度以上の状態で、前記傾斜角度取得部により取得された前記傾斜角度が第14の所定時間内に第2の所定量を超えて変化したことを条件として、前記船舶推進機に対する物体の衝突が有ったと判定する、衝突判定システム。
【請求項35】
前記判定部は、前記条件が成立しても、その後、第15の所定時間以内に前記傾斜角度が第1の所定角度を超えない場合は、前記船舶推進機に対する物体の衝突が有ったと判定しない、請求項34に記載の衝突判定システム。
【請求項36】
前記判定部は、前記条件が成立し、且つ、その後、前記第15の所定時間以内に前記傾斜角度が前記第1の所定角度を超えた場合であっても、さらにその後、第16の所定時間以内に、前記傾斜角度が、前記第1の所定角度より小さい第2の所定角度以下にならない場合は、前記船舶推進機に対する物体の衝突が有ったと判定しない、請求項35に記載の衝突判定システム。
【請求項37】
請求項1乃至12のいずれか1項に記載の衝突情報提供システムを有する、船舶。
【請求項38】
請求項13、20、31または34のいずれか1項に記載の衝突判定システムを有する、船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝突情報提供システム、衝突判定システムおよび船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶に関し、物体との衝突を検出するシステムが知られている。例えば、特許文献1の判定装置は、船体に働く加速度を検出し、検出した加速度から、船体が何かと衝突したこと及び(または)転覆したことを判定している。また、特許文献2の衝突管理装置は、船外機の上下方向の傾動角の変化率及び傾動の変化量に基づいて船外機の衝突の有無を判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-123954号公報
【特許文献2】特開2008-260413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、船舶のレンタルやシェアリングが広まっている。一般に、船舶の貸し出し者は、貸し出した船舶に対する物体の衝突の有無や状況などの情報を詳細に且つ速やかに把握したいという要望を有する。船舶に対する衝突に関する情報を船舶の貸し出し者に円滑に提供する上で改善の余地があった。
【0005】
本発明は、船舶への衝突に関する情報を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の一態様による衝突情報提供システムは、船舶に対する物体の衝突の有無を判定する判定部と、前記判定部により衝突が有ったと判定された場合は、前記衝突に関する情報を取得する情報取得部と、前記情報取得部により取得された前記情報を提供する提供部と、を有する。
【0007】
この構成によれば、船舶に対する物体の衝突が有ったと判定された場合は、衝突に関する情報が取得され、取得された情報が記憶または外部への送信等によって提供される。物体の衝突の有無は、プロペラヒット、船舶ヒット、または流木ヒットの有無によって判定される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、船舶への衝突に関する情報を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】船舶の側面図である。
図2】船舶が備える各構成要素を概略的に説明するためのブロック図である。
図3】衝突情報提供処理を示すフローチャートである。
図4】衝突判定処理を示すフローチャートである。
図5】流木ヒットレベルが規定されたレベルテーブルを示す図である。
図6】ECUがプロペラヒットの発生の判定に用いるデータを説明するための図である。
図7】ECUによるプロペラヒットの発生の判定手順の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
図1は、本発明の一実施の形態に係る衝突情報提供システム乃至衝突判定システムが適用される船舶の側面図である。この船舶10は、滑走艇であり、船体11と、船体11に搭載される船舶推進機としての複数の船外機12と、複数のトリムタブ13とを備えている。船体11の操船席付近にはステアリングホイール14が備えられる。
【0012】
各船外機12は船体11の船尾に並べて取り付けられている。船外機12は各々、対応するエンジン42(図2)の駆動力によって回転されるプロペラ18(推進翼)によって推進力を得る。船外機12の数は問わない。
【0013】
各船外機12は、取付ユニット19を介して船体11に取り付けられ、ステアリングホイール14の操作に応じて取付ユニット19における略垂直なステアリング軸まわりに回動する。これにより、船舶10が操舵される。各トリムタブ13は船体11の船尾に取り付けられ、船尾における略水平な揺動軸まわりに揺動する。これにより、船体11の船尾に発生する揚力を調整して船体11の姿勢が制御される。
【0014】
取付ユニット19は、PTT(パワートリム&チルト)ユニット15を含む。PTTユニット15は、船体11に対して船外機12をチルト軸まわりに回動させ、船体11に対する船外機12の傾斜角度(トリム角またはチルト角)を変化させる。
【0015】
図2は、船舶10が備える各構成要素を概略的に説明するためのブロック図である。船体11は、制御部21、リモコン22、ステアリング23、船速センサ24、Gセンサ25、GPS26、シフト操作位置センサ27、方位センサ28、記憶部29、設定操作部30、表示部31、撮影部32、通信I/F(インターフェース)33を有する。
【0016】
船外機12は、ECU41、エンジン42、回転数センサ43、スロットル開度センサ44、吸気圧センサ45、前後進切替機構46、シフト位置センサ47を有する。
【0017】
PTTユニット15は、チルト・トリム角センサ16を有する。傾斜角度取得部としてのチルト・トリム角センサ16は、船体11に対する船外機12の傾斜角度を検出する。傾斜角度は、チルト軸回りにおける最下点の位置を基準とした船外機12の角度である。チルト・トリム角センサ16は、例えばポテンショメータである。
【0018】
制御部21は、例えばBCU(Boat Control Unit)である。制御部21は、各種のプログラムに従って船舶10の各構成要素の動作を制御する。制御部21は、CPU、ROM、RAM、タイマ等を有し(いずれも図示せず)、CPUにより実行される制御プログラムがROMに格納されている。RAMは、CPUが制御プログラムを実行する際のワークエリアを提供する。
【0019】
リモコン22は、各船外機12に対応するレバー(不図示)を有する。操船者は、各レバーを操作することによって、対応する船外機12が発生する推力の方向を前進方向と後進方向とに切り換えると共に、対応する船外機12の出力を調整して船速を調整することができる。
【0020】
ステアリング23は、操船者が船舶10の針路を定めるための装置であり、操船者は、ステアリング23を左右に回転操作することによって船舶10の進路を左右に変更することができる。速度取得部としての船速センサ24は船舶10の速度(船速)を計測する。加速度取得部としてのGセンサ25は、船体11に作用する3軸方向の加速度を計測する。GPS26は船舶10の地球座標系における位置を計測する。なお、制御部21は、GPS信号から船速を取得してもよい。あるいは、制御部21は、船速をエンジン回転数等から予測により取得してもよい。
【0021】
シフト操作位置センサ27は、前後進切替機構46に指示するシフト操作位置を検出する。このシフト操作位置はリモコン22の操作によって発せられる。方位センサ28は、船舶10の方位を検出する。記憶部29は、不揮発メモリである。設定操作部30は、操船に関する操作をするための操作子、PTT操作スイッチのほか、各種設定を行うための設定操作子、各種指示を入力するための入力操作子を含む(いずれも図示せず)。表示部31は、各種情報を表示するディスプレイであり、操船者の入力を受け付けるタッチパネルとしても機能する。撮影部32は、動画および静止画を撮影可能なカメラである。通信I/F33はインターネット等による通信機能を有し、外部装置、例えばサーバ装置34と無線で通信する。なお、通信I/F33は、有線通信機能を有してもよい。
【0022】
ECU41は、エンジン42のコントローラであり、制御部21が発する制御信号に従ってエンジン42を制御する。回転数センサ43はエンジン42の回転数を計測する。スロットル開度センサ44は、エンジン42の不図示のスロットルバルブの開度を検出する。吸気圧センサ45はエンジン42の吸気圧を計測する。
【0023】
前後進切替機構46は、いずれも不図示のシフトリンク機構およびクラッチ機構を含み、エンジン42とクラッチ機構とがドライブシャフトで連結されている。ECU41は、リモコン22の操作によるシフト操作位置に応じて、前後進切替機構46のシフト位置を、前進状態(F)と、後進状態(R)と、中立状態(N)とに切り替える。シフト位置センサ47は、前後進切替機構46の現在のシフト位置を検出する。
【0024】
船舶10において、上述した各構成要素21~33、41~47は、バスに複数のノードが個別に接続されるネットワークであるCAN(Control Area Network)によって互いに接続される。構成要素24~28、43~45、47での検出乃至計測の結果は制御部21に送られる。なお、船舶10の各構成要素は、CANではなく、各構成要素を互いに直接、若しくはネットワーク機器を介して接続するイーサネット(登録商標)等のLAN(Local Area Network)によって接続されてもよい。
【0025】
このほか、船体11または船外機12は、各種アクチュエータを備える。各種アクチュエータは、各船外機12をステアリング軸まわりに回動させる機構、前後進切替機構46のシフト位置を切り替える機構、スロットル開度を調節する機構、トリムタブ13を駆動する機構などを含む。各種アクチュエータは自動運転を実現するためのアクチュエータも含む。
【0026】
図3は、衝突情報提供処理を示すフローチャートである。この処理は、制御部21において、ROMに格納されたプログラムをCPUがRAMに展開して実行することにより実現される。この処理は、例えば、船舶10のメインスイッチのオンにより起動される。
【0027】
ステップS101では、制御部21は初期化を実行する。この初期化では、例えば、上下左右方向を定義し、Gセンサ25に設定する。従って、この処理は、船舶10が静止した状態で実行されることが望ましい。これにより、上下左右方向の加速度を取得することができる。なお、予め、上下左右方向が既知となるようにGセンサ25を固定しておく場合は、Gセンサ25の初期化は不要となる。なお、航行開始後に、前後と左右とを定義してもよい。例えば、航行速度がある値以上となったときの進行方向を前方と定義してもよい。
【0028】
ステップS102では、制御部21は、衝突判定処理(図4で後述する)を実行する。ステップS103では、ステップS102での衝突判定処理の結果から、船舶10における衝突が有ったか否かを判別する。ここで、判別される衝突の種類には、プロペラ18に対する物体の衝突(プロペラヒットと称する)、船舶10(主に船体11)に対する物体の衝突(船舶ヒットと称する)、船外機12に対する物体の衝突(流木ヒットと称する)があり、その詳細は図4で後述する。なお、船外機12に衝突する物体は流木に限らないが、船外機12に対する物体のヒットを総称して流木ヒットと呼称する。
【0029】
ステップS103で衝突がないと判別された場合は、制御部21は、ステップS107で、その他の処理を実行して、ステップS102に戻る。ステップS107のその他の処理においては、制御部21は、例えば、ユーザ操作に応じた設定処理、設定変更処理のほか、衝突情報提供処理を終了させる処理などを実行する。
【0030】
ステップS103で衝突が有ると判別された場合は、制御部21は、ステップS104で、衝突に関する情報である「衝突情報」を取得する。この衝突情報には、衝突の種類、衝突発生時刻、発生位置情報等が含まれる。また、衝突情報には、船舶ヒット発生前後にGセンサ25により検出された加速度レベルおよび加速度の方向が含まれる。また衝突情報には、流木ヒット発生時の流木ヒットレベル(図5で後述)が含まれる。また衝突情報には、衝突発生前後の一定期間の動画情報が含まれる。撮影部32は、複数の方向を常時動画撮影し、撮影された動画は不図示のメモリに一時的に保存される。制御部21は、衝突が発生した時点の前後の一定期間の動画を抽出し、衝突情報に含める。例えば制御部21は、衝突が有ったと判定された時点を含む第1の所定時間(例えば、30秒前の時点から5秒後の時点まで)の動画を、衝突情報の一部として取得してもよい。
【0031】
このほか、衝突情報は、衝突発生時の航行情報(航行速度や方向、エンジンの運転状況等)、音声情報、天候情報、静止画などを含んでもよい。例えば制御部21は、衝突が有ったと判定された時点を含む第2の所定時間の船舶10の運転状況を示す情報を、衝突情報の一部として取得してもよい。
【0032】
ステップS105では、制御部21は、取得された衝突情報を記憶部29に記憶させる。ステップS106では、制御部21は、取得された衝突情報を外部へ送信する。例えば、制御部21は、通信部としての通信I/F33を通じて、衝突情報をサーバ装置34に対して無線で送信する。ステップS105、S106により、衝突情報が提供される。ただし、ステップS105、S106の双方が実行されることは必須でない。ステップS106の後、制御部21は、ステップS102に戻る。なお、衝突情報(例えば、衝突の種類や発生時刻)は表示部31に表示されてもよい。あるいは、衝突情報は、可能な範囲で音声によって報知されてもよい。
【0033】
図4は、ステップS102で実行される衝突判定処理を示すフローチャートである。
【0034】
ステップS201、S202では、制御部21は、エンジン42の回転数に基づいて、プロペラ18に対する物体の衝突の有無を判定する。まずステップS210では、制御部21は、プロペラヒットが発生したことを示すプロペラヒット条件が成立したか否かを判別する。ここで、プロペラヒット条件について説明する。まず、プロペラヒット条件に用いられる事象1~4を挙げる。
(事象1):エンジン42の回転数(以下、エンジン回転数)が第3の所定時間(例えば、10ms)内に第1の閾値回転数(例えば、100rpm)を超えて低下するという条件を満たすこと
(事象2):直近の第6の所定時間(例えば、1秒)におけるエンジン42の最低回転数に対して、エンジン回転数が第3の閾値回転数(例えば、100rpm)以上低くなるという条件を満たすこと
(事象3):エンジン42の吸気圧が、エンジン42の吸気圧の移動平均に対して所定圧を超えて高くなるという条件を満たすこと
(事象4):スロットル開度が第7の所定時間(例えば、5秒間)に亘って所定範囲内にある状態で、第8の所定時間(例えば、100ms)内にエンジン回転数が第4の閾値回転数(例えば、100rpm)を超えて低下するという条件を満たすこと
これらの事象は、通常の減速動作と区別できるための条件として設定されている。なお、制御部21は、エンジン42の吸気圧の移動平均を常に求めている。移動平均を求める対象となる期間の長さは問わない。
【0035】
制御部21は、事象1が発生した場合は、プロペラヒット条件が成立したと判定する。なお、制御部21は、事象1が発生し且つ、事象2~4の少なくとも1つが発生した場合に、プロペラヒット条件が成立したと判定してもよい。あるいは、制御部21は、事象1~4の少なくとも1つが発生した場合に、プロペラヒット条件が成立したと判定してもよい。
【0036】
制御部21は、プロペラヒット条件が成立しない場合は、ステップS203に進む。制御部21は、プロペラヒット条件が成立した場合は、ステップS202でプロペラヒット有り(プロペラ18に対する物体の衝突が有った)と判定し、ステップS203に進む。
【0037】
ただし、ステップS201でプロペラヒット条件が成立した場合であっても、ステップS202でプロペラ18に対する物体の衝突が有ったと判定しない例外を適用してもよい。すなわち、制御部21は、最後にプロペラヒット条件が成立してから第9の所定時間(例えば、500ms)以内に、最後に上記条件が成立した時点でのエンジン回転数に対し、エンジン回転数が第5の閾値回転数(例えば、100mrpm)以上上昇しなかった場合は、プロペラ18に対する物体の衝突が有ったと判定しない。これにより、プロペラヒットを正確に判定することができる。
【0038】
なお、次の場合は、制御部21は、ステップS201におけるプロペラヒット条件が成立したか否かの判定自体を実行しないようにしてもよい。まず、制御部21は、船舶10に作用する上下方向の加速度を取得し、第2の所定加速度(例えば、10G)以上の加速度を取得した時点から第10の所定時間(例えば、2秒)前までの期間は、プロペラヒット条件が成立したか否かの判定を実行しない。また、制御部21は、スロットル開度が第11の所定時間(例えば、5秒)に亘って所定範囲内にある状態で、第12の所定時間(例えば、100ms)内にエンジン回転数が第6の閾値回転数(例えば、100rpm)を超えて上昇するという条件を満たした後、第13の所定時間(例えば、2秒)内は、プロペラヒット条件が成立したか否かの判定を実行しない。
【0039】
これらによって、船舶10がジャンプして着水する直前は、プロペラヒットの有無が判定されない。従って、ジャンプに起因する誤判定を抑制することができる。なお、このほか、キルスイッチのオン時、エンスト発生時、シフトイン時等、プロペラヒットと類似する挙動を示す可能性がある状況では、プロペラヒット条件が成立したか否かの判定を実行しないようにしてもよい。
【0040】
ステップS203、S204では、制御部21は、船舶10に作用する水平方向の加速度を取得し、取得された加速度に基づいて、船舶10に対する物体の衝突の有無を判定する。まずステップS203では、制御部21は、船舶ヒットが発生したことを示す船舶ヒット条件が成立したか否かを判別する。
【0041】
ここで、船舶ヒット条件は、取得された水平方向の加速度が第1の所定加速度を超えることである。第1の所定加速度は、船速によって設定される。例えば、制御部21は、船速と加速度とが対応付けられた不図示のテーブルを参照して第1の所定加速度を設定する。このテーブルはROMに格納されている。このテーブルでは、速度領域ごとに加速度が対応付けられている。波を乗り越える際と衝突の際との誤認を抑制する必要がある。そのため、速度領域ごとの加速度は、波を乗り越える際に生じる加速度に対して1倍より大きい値を乗算した値を下限値とし、衝突により生じる加速度に対して1倍より小さい値を乗算した値を上限値とする値に設定されている。
【0042】
一例を挙げると、船速が10km/h以下の場合は第1の所定加速度は1Gに設定され、船速が40km/h以上の場合は第1の所定加速度は24Gに設定される。概ね、船速が速いほど第1の所定加速度は大きい値に設定される。
【0043】
なお、第1の所定加速度は、方向に応じて設定されてもよい。あるいは第1の所定加速度は、船速および方向に応じて設定されてもよい。例えば、ある速度領域に限れば、前後方向の方が左右方向よりも、第1の所定加速度が大きい値に設定される。
【0044】
制御部21は、ステップS203で船舶ヒット条件が成立しない場合は、ステップS205に進む。制御部21は、船舶ヒット条件が成立した場合は、ステップS204で船舶ヒット有り(船舶10に対する物体の衝突が有った)と判定し、ステップS205に進む。
【0045】
ステップS205、S206では、制御部21は、船速と、船体11に対する船外機12の傾斜角度とを取得し、船速と傾斜角度とに基づいて、船外機12に対する物体の衝突(流木ヒット)の有無を判定する。まず、ステップS205では、制御部21は、流木ヒットが発生したことを示す流木ヒット条件が成立したか否かを判別する。ここで、流木ヒット条件について説明する。まず、流木ヒット条件に用いられる事象a~dを挙げる。
(事象a):船速が第1の所定速度(例えば、10km/h)以上の状態で、傾斜角度が第4の所定時間(例えば、100ms)内に第1の所定量(例えば、10%)を超えて変化すること
(事象b):事象aが発生した後、第15の所定時間(例えば、1秒)以内に傾斜角度が第1の所定角度(120%相当)を超えること
(事象c):事象bが発生した後、第16の所定時間(例えば、1秒)以内に、傾斜角度が、第1の所定角度より小さい第2の所定角度(110%相当)以下になること
なお、第1の所定角度、第2の所定角度(%)は、チルト軸回りにおける最下点の位置を0%とし、トリム領域とチルト領域との境界を100%とした場合の割合である。0~100%は、角度でいえば15度程度に相当する。
【0046】
ステップS205で、制御部21は、事象a~cが全て発生した場合に、流木ヒット条件が成立したと判別する。従って、事象aが発生したとしても、その後、第15の所定時間以内に傾斜角度が第1の所定角度を超えない場合は、例外として、流木ヒット条件が成立したと判別されない。また、事象bが発生したとしても、さらにその後、第16の所定時間以内に、傾斜角度が第2の所定角度以下にならない場合は、例外として、流木ヒット条件が成立したと判別されない。
【0047】
なお、流木ヒット条件の成立の有無を事象aのみで判別してもよい。従って、船速が第1の所定速度以上の状態で、傾斜角度が第4の所定時間内に第1の所定量を超えて変化したことを条件として、流木ヒット条件が成立したと判別される。
【0048】
制御部21は、ステップS205で流木ヒット条件が成立しない場合は、図4に示す処理を終了する。制御部21は、流木ヒット条件が成立した場合は、ステップS206で流木ヒット有り(船外機12に対する物体の衝突が有った)と判定し、図4に示す処理を終了する。
【0049】
なお、上記した各所定時間、閾値回転数、所定加速度は、例示した値に限定されない。また、異なる名称で呼称した値のうち互いに同じ値となるものがあってもよい。例えば、請求項における、第3の所定時間は第5の所定時間と同じでもよい。同様に、第1の閾値回転数は第2の閾値回転数と同じでもよいし、第1の所定加速度は第3の所定加速度と同じでもよい。また、第2の所定速度、第14の所定時間、第2の所定量はそれぞれ、第1の所定速度、第4の所定時間、第1の所定量と同じ値であってもよい。
【0050】
図5は、流木ヒットレベルが規定されたレベルテーブルを示す図である。このレベルテーブルはROMに格納されている。流木ヒットレベルは、ステップS104で取得される衝突情報の一部となる。このレベルテーブルでは、傾斜角度の変化速度(%/s)と、最大角度(%)(ヒット前からの傾斜角度の変化量)と、ヒットレベルとが対応付けられている。
【0051】
制御部21は、変化速度と最大角度の両方を満たすヒットレベルのうち、最も高いレベルを流木ヒットレベルとして採用する。例えば、変化速度が300(%/s)で、最大角度が60(%)であった場合、流木ヒットレベルは3となる。また、変化速度が110(%/s)で、最大角度が121(%)であった場合、流木ヒットレベルは5となる。また、変化速度が160(%/s)で、最大角度が121(%)であった場合、流木ヒットレベルは6となる。
【0052】
なお、流木ヒットレベルの取得の手法はこのような例に限定されない。船外機12に加速度センサを設け、その加速度センサの検出結果から流木ヒットレベルを取得してもよい。
【0053】
本実施の形態によれば、判定部としての制御部21は、プロペラヒット、船舶ヒット、または流木ヒットの有無の判定によって、船舶10に対する物体の衝突の有無を判定する。そして、情報取得部としての制御部21は、衝突が有ったと判定された場合は衝突情報を取得する。そして、提供部としての制御部21は、取得された衝突情報を記憶部29に記憶させるか、サーバ装置34に対して無線で送信することで提供する。これにより、船舶10への衝突に関する情報を提供することができる。従って、例えば、船舶10をレンタルやシェアリングに用いる場合などに、貸し出し者は、貸し出した船舶10に対する物体の衝突の有無や状況などの情報を詳細に且つ速やかに把握することができる。
【0054】
また、衝突情報に、衝突が有ったと判定された時点を含む動画や、船舶の運転状況などを示す情報を含めることで、一層詳細な情報を提供することができる。
【0055】
また、判別される衝突の種類には、プロペラヒット、船舶ヒット、流木ヒットがあるので、衝突の態様を識別可能に知らせることができる。
【0056】
プロペラヒットに関しては、エンジン回転数に基づいて、プロペラ18に対する物体の衝突の有無が判定される。また、プロペラヒット条件に用いられる事象として事象1~4を設けたので、多くの態様のプロペラヒットを検出できる。また、プロペラヒット条件が成立した場合であっても、プロペラ18に対する物体の衝突が有ったと判定しない例外や、プロペラヒット条件が成立したか否かの判定自体を実行しない期間を設けたので、誤判定を抑制することができる。
【0057】
船舶ヒットに関しては、船舶10に作用する水平方向の加速度に基づいて、船舶10に対する物体の衝突の有無が判定される。特に、水平方向の加速度と比較される第1の所定加速度は、船速(あるいは、さらに方向)によって設定されるので、船舶10に対する物体の衝突の有無をより正確に判定することができる。
【0058】
流木ヒットに関しては、船速と船外機12の傾斜角度とに基づいて、船外機12に対する物体の衝突の有無が判定される。特に、原則として、事象a~cが全て発生した場合に、流木ヒット条件が成立したと判別される。なお、事象aまたは事象bが発生した場合であっても流木ヒット条件が成立したと判別されない例外を設けたことで、誤判定を一層抑制することができる。
【0059】
また、衝突情報に流木ヒットレベルを含めることで、流木ヒットの程度を知らせることができる。
【0060】
また、プロペラヒット条件に用いられる事象としては、上述した事象1~4に限られない。例えば、段階的に各事象が発生した結果、プロペラヒットが発生したと判定されてもよい。さらに、船体11の制御部21ではなく、船外機12のECU41(判定部)が、プロペラヒットの発生の判定を行ってもよい。
【0061】
図6は、ECU41がプロペラヒットの発生の判定に用いるデータを説明するための図である。図7は、ECU41によるプロペラヒットの発生の判定手順の一例を説明するための図である。
【0062】
ECU41は、回転数センサ43からエンジン回転数を取得し、スロットル開度センサ44からスロットルバルブの開度(スロットル開度)を取得し、吸気圧センサ45からエンジン42の吸気圧を取得し、シフト位置センサ47から前後進切替機構46の現在のシフト位置を取得する。そして、ECU41はシフト位置が変更されると、シフト位置タイマを起動して経過時間を計時する。
【0063】
また、ECU41は、エンジン42の吸気圧として、現在から所定の数ミリ秒ほど遡った期間における吸気圧の移動平均値であり、ほぼ現在の吸気圧の指標となる平均吸気圧と、吸気圧に一定の係数を掛けることによって鈍された値であって、平均吸気圧よりも変化が遅れる値である吸気圧フィルタ値(所定の吸気圧閾値)とを取得する。
【0064】
さらに、ECU41は、取得したエンジン回転数に基づいて、現在から第17の所定時間(例えば、1秒)ほど遡った期間における最小のエンジン回転数(回転数下限)を取得する。また、ECU41は、現況が後述のステータス2へ移行したときのエンジン回転数の平均値(平均回転数)を取得する。
【0065】
さらに、ECU41は、現在から第19の所定時間(例えば、10ミリ秒)ほど遡った期間におけるエンジン回転数の変化量をエンジン回転数の瞬時偏差(エンジンの回転数の第2の偏差)として取得する。そして、ECU41は、エンジン回転数の瞬時偏差が第7の閾値回転数を越える場合にジャンプ判定信号を取得する。さらに、ECU41は、ジャンプ判定信号を取得すると、ジャンプタイマを起動して経過時間を計時する。また、ECU41は、現在から第17の所定時間ほど遡った期間におけるエンジン回転数の偏差をエンジン回転数の1秒偏差(エンジンの回転数の第1の偏差)として取得する。
【0066】
さらに、ECU41は、取得したスロットル開度に基づいて、現在から第20の所定時間(例えば、1秒)ほど遡った期間におけるスロットル開度の偏差(スロットル開度の第1の偏差)をスロットル開度の1秒偏差として取得する。そして、ECU41は、スロットル開度の1秒偏差が第3の所定量を越えているか否かを示すスロットル開度の偏差フラグを取得する。スロットル開度の1秒偏差が第3の所定量を越えている場合、スロットル開度の偏差フラグは「0」となり、スロットル開度の1秒偏差が第3の所定量を越えていない場合、スロットル開度の偏差フラグは「1」となる。
【0067】
また、ECU41は、現在から第21の所定時間(例えば、10ミリ秒)ほど遡った期間におけるスロットル開度の変化量をスロットル開度の瞬時偏差として取得する。そして、ECU41は、スロットル開度の瞬時偏差が第4の所定量を越えて急減速条件が成立する場合に急減速信号を取得する。さらに、ECU41は、急減速信号を取得すると、急減速タイマを起動して経過時間を計時する。
【0068】
また、ECU41は、平均吸気圧が吸気圧フィルタ値を越えると、吸気圧の上昇フラグを取得する。なお、吸気圧の上昇フラグは、平均吸気圧が吸気圧フィルタ値を越えたときに「1」となる。
【0069】
さらに、ECU41は、エンジン42を停止させるためのストップスイッチがオンとなっていることを示すストップスイッチ信号(図中に「ストップSW」で示す)を取得した後にストップスイッチがオフとなった場合、ストップスイッチタイマを起動して経過時間を計時する。また、ECU41は、エンジン42を始動させるための始動信号を取得した場合、始動スイッチタイマを起動して経過時間を計時し、さらに、エンジン42の壁温を壁温センサ(不図示)から取得する。
【0070】
また、ECU41は、船外機12の各構成要素に電源を投入するメインスイッチがオンとなっていることを示すメインスイッチ信号(図中に「メインSW」で示す)を取得した場合、メインスイッチタイマを起動して経過時間を計時する。さらに、ECU41は、稼働中のエンジン42が停止したときは、エンストフラグを取得する。なお、エンストフラグは、エンジン42が停止したときに「1」となる。
【0071】
ECU41は、上述した各データに基づいて、現況が以下に挙げる4つのステータスへ移行したか否かを段階的に判定する。
(ステータス1):プロペラヒットが発生せず、プロペラ18の回転が安定している状態である
(ステータス2):プロペラ18に物体が衝突し、プロペラ18に直結するエンジン42の回転数が大きく低下している状態であり、プロペラヒットの発生を判定するための準備段階である
(ステータス3):プロペラ18から物体が離間し、プロペラ18に直結するエンジン42の回転数が回復している状態であり、プロペラヒットが発生したと判定される段階である
(ステータス4):ステータス3を第22の所定時間に亘って維持する状態である
具体的に、ECU41は、スロットル開度の偏差フラグが1であり、且つエンジン回転数の1秒偏差が第8の閾値回転数以内であれば、現況がステータス1に移行したと判定する。スロットル開度の偏差フラグが1であることは、スロットル開度の1秒偏差が第3の所定量を越えておらず、スロットルの操作量がほぼ一定に維持されてスロットル開度が安定していることを示す。また、エンジン回転数の1秒偏差が第8の閾値回転数以内であることは、エンジン回転数が安定して変動してないことを示す。
【0072】
なお、スロットル開度の偏差フラグが1である状態は、図7において、スロットル開度を示す実線が、破線で示す第3の所定量の範囲内に位置する状態で表される。また、エンジン回転数の1秒偏差が第8の閾値回転数以内である状態は、図7において、エンジン回転数を示す実線が、破線で示す第8の閾値回転数の範囲内に位置する状態で表される。
【0073】
次いで、ECU41は、吸気圧の上昇フラグが1であり、且つエンジン回転数の瞬時偏差が第9の閾値回転数を越えるようにエンジン回転数が低下したときに、現況がステータス2に移行したと判定する。エンジン回転数の瞬時偏差が第9の閾値回転数を越えるようにエンジン回転数が低下することは、プロペラ18に物体が衝突して低下したエンジン42の回転数が大きく低下したことを示す。また、吸気圧の上昇フラグが1であることは、プロペラ18に物体が衝突して大きく低下したエンジン42の回転数を回復させようとECU41がスロットル開度を大きくした結果、エンジン42が吸入する空気量が増えて平均吸気圧が吸気圧フィルタ値を越えたことを示す。
【0074】
なお、エンジン回転数は、プロペラヒット以外の要因でも変動することがあるため、本実施の形態では、ステータス1からステータス2への移行条件に、エンジン回転数の瞬時偏差が第9の閾値回転数を越えるようにエンジン回転数が低下したことだけでなく、吸気圧の上昇フラグが1であることも含めている。これにより、プロペラヒットの発生の誤検知を抑制することができる。
【0075】
次いで、ECU41は、現況がステータス2に移行してから第23の所定時間が経過する前に、エンジン回転数の瞬時偏差が第10の閾値回転数を越えるようにエンジン回転数が上昇したときに、現況がステータス3に移行したと判定し、この時点で始めて、プロペラヒットが発生したと判定する。なお、エンジン回転数の瞬時偏差が第10の閾値回転数を越えるようにエンジン回転数が上昇することは、プロペラ18から衝突した物体が離間してエンジン42の回転数が回復したことを示す。
【0076】
また、現況がステータス3に移行すると、ECU41は、平均回転数と回転数下限の差分である最大回転数差分(第1の回転数差分)と、現在から第24の所定時間(例えば、1秒)ほど遡った期間における各エンジン回転数の瞬時偏差のうちの最大値である最大回転数瞬時差分(第2の回転数差分)とを、外部のサーバ装置34に対して送信する。
【0077】
ここで、プロペラ18と物体の衝突の程度に応じてエンジン回転数の低下代は変化すると考えられる。例えば、プロペラ18と物体が激しく衝突すると、エンジン回転数の低下代は大きくなる。したがって、エンジン回転数の低下代に対応する最大回転数差分や最大回転数瞬時差分は、物体との衝突によってプロペラ18やエンジン42が被るダメージの程度(損傷度)の指標とも言える。そして、サーバ装置34は、送信された最大回転数差分や最大回転数瞬時差分に基づいて、プロペラ18やエンジン42の損傷度を推定する。これにより、貸し出し者は、貸し出した船舶10のペラヒットによるプロペラ18やエンジン42の損傷度を把握することができる。なお、ECU41は、最大回転数差分と最大回転数瞬時差分の一方のみをサーバ装置34に対して送信してもよい。
【0078】
その後、ECU41は、ステータス4に移行して、第22の所定時間が経過するまで、ステータス3を維持する。この間、例えば、エンジン回転数の瞬時偏差が再び第10の閾値回転数を越えるようにエンジン回転数が上昇しても、再度プロペラヒットが発生したとは判定せず、ステータス3を維持する。
【0079】
ところで、プロペラ18は複数のブレードを有するため、プロペラ18の回転に伴い、同じ物体と各ブレードの衝突が繰り返されることがあることから、比較的短期間において、エンジン回転数の低下や上昇が繰り返して発生しても、これらのエンジン回転数の低下や上昇は、同じ物体との衝突によってもたらされている可能性が高い。
【0080】
そこで、上述したように、ステータス4では、エンジン回転数の瞬時偏差が再び第10の閾値回転数を越えるようにエンジン回転数が上昇しても、再びプロペラヒットが発生したと判定しないことにより、同じ物体との衝突によるプロペラヒットの発生を繰り返して検知するのを防止する。
【0081】
また、ステータス4において、ECU41は、エンジン回転数の変動によって最大回転数差分や最大回転数瞬時差分が更新されると、更新された最大回転数差分や最大回転数瞬時差分をサーバ装置34に対して送信する。なお、最大回転数差分や最大回転数瞬時差分が更新されない場合、ECU41は、同じ最大回転数差分や最大回転数瞬時差分を送信し続ける。
【0082】
本実施の形態では、上述したように、主にエンジン回転数の変動に基づいて、ECU41がプロペラヒットの発生を検知するが、エンジン回転数はプロペラヒット以外の様々な要因によっても変化する。そこで、ECU41は、プロペラヒットの発生の誤検知を避けるために、後述する特定の条件を満たす場合には、プロペラヒットの発生の検知を行わない。
【0083】
例えば、エンストフラグが1の場合にはエンジン42が停止しており、プロペラ18が回転していないため、プロペラヒットが発生し得ない。したがって、エンストフラグが1の場合、ECU41はプロペラヒットの発生の検知を行わない。
【0084】
また、シフト位置の変更はスロットル開度の変更を伴うため、エンジン回転数は暫く変動する。したがって、シフト位置の変更から間もない場合に相当する、シフト位置タイマによって計時された経過時間が第25の所定時間を越えていない場合には、ECU41はプロペラヒットの発生の検知を行わない。
【0085】
さらに、操船者の肘等が意図せずにストップスイッチへ触れてストップスイッチが一瞬だけオンとなり、その後、誤操作に気付いた操船者がストップスイッチをオフにすることがあるが、このようなときにはエンジン42が一瞬停止されるため、エンジン回転数の変動が暫く継続する。したがって、ストップスイッチが一旦オンとなった後にオフとされてから間もない場合に相当する、ストップスイッチタイマによって計時された経過時間が第26の所定時間を越えていない場合には、ECU41はプロペラヒットの発生の検知を行わない。
【0086】
また、エンジン42の始動直後は暫くの間、エンジン回転数は安定せずに変動する。したがって、エンジン42の始動から間もない場合に相当する、始動スイッチタイマによって計時された経過時間が第27の所定時間を越えていない場合であって、エンジン42の壁温が所定温度を超えていない場合、ECU41はプロペラヒットの発生の検知を行わない。
【0087】
さらに、船舶10が急減速する場合、スロットル開度は急に減少するため、エンジン回転数は暫く変動する。したがって、船舶10が急減速してから間もない場合に相当する、急減速タイマによって計時された経過時間が第28の所定時間を越えていない場合には、ECU41はプロペラヒットの発生の検知を行わない。
【0088】
また、船舶10がジャンプして離水すると、プロペラ18が空転してエンジン回転数が急上昇し、エンジン回転数は暫く変動する。したがって、船舶10がジャンプしてから間もない場合に相当する、ジャンプタイマによって計時された経過時間が第29の所定時間を越えていない場合には、ECU41はプロペラヒットの発生の検知を行わない。
【0089】
さらに、操船者がリモコン22のレバーを操作してスロットル開度を意図的に変更する場合、エンジン回転数はレバーの操作量に見合った回転数に落ち着くまで暫く変動する。したがって、操船者によって意図的にスロットル開度が変更される場合に相当する、スロットル開度の偏差フラグが0の場合、ECU41はプロペラヒットの発生の検知を行わない。
【0090】
また、メインスイッチは船外機12の各構成要素に電源を投入するためのスイッチであり、メインスイッチのオンとエンジン42の始動やプロペラ18の回転とは直接関係していない。したがって、メインスイッチがオンとなってから暫くの間に相当するメインスイッチタイマによって計時された経過時間が第30の所定時間を越えていない場合、ECU41はプロペラヒットの発生の検知を行わない。
【0091】
上述したECU41によるプロペラヒットの発生の検知では、用いられるデータが全て船外機12の既存のセンサ等によって取得可能である。したがって、プロペラヒットの発生の検知を行うために、追加のセンサ等を設ける必要がなく、コストを抑制することができる。
【0092】
なお、上述したECU41によるプロペラヒットの発生の検知は、船体11の制御部21が行ってもよい。
【0093】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて詳述してきたが、本発明はこれら特定の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本発明に含まれる。
【0094】
本発明は、上記した実施形態の1以上の機能を実現するプログラムをネットワークや非一過性の記憶媒体を介してシステムや装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータの1以上のプロセッサがプログラムを読み出して実行する処理でも実現可能である。以上のプログラムおよび以上のプログラムを記憶する記憶媒体は、本発明を構成する。また、本発明は、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0095】
なお、判別される衝突の種類は、プロペラヒット、船舶ヒット、流木ヒットの少なくとも1つでもよい。従って、矛盾しない限り、船外機を有する船舶に限らず、船内機または船内外機によって推進する各種の船舶や、ジェットボートにも本発明を適用可能である。
【符号の説明】
【0096】
10 船舶、 12 船外機、 18 プロペラ、 21 制御部、 29 記憶部、 34 サーバ装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7