(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155915
(43)【公開日】2023-10-23
(54)【発明の名称】検査治具の特性インピーダンスの調整方法
(51)【国際特許分類】
G01R 1/073 20060101AFI20231016BHJP
G01R 1/067 20060101ALI20231016BHJP
G01R 31/28 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
G01R1/073 C
G01R1/067 B
G01R31/28 K
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096376
(22)【出願日】2023-06-12
(62)【分割の表示】P 2023005479の分割
【原出願日】2023-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2022065319
(32)【優先日】2022-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000230249
【氏名又は名称】日本メクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100152205
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 昌司
(72)【発明者】
【氏名】松田 文彦
(72)【発明者】
【氏名】成澤 嘉彦
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 賢司
【テーマコード(参考)】
2G011
2G132
【Fターム(参考)】
2G011AA16
2G011AC32
2G011AE01
2G011AF04
2G132AA20
2G132AF02
2G132AF05
2G132AL11
2G132AL19
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高周波信号を伝送するプリント配線板を高精度に検査可能な検査治具、および検査治具の特性インピーダンスの調整方法を提供する。
【解決手段】プリント配線板200を検査するための検査治具1であって、計測器50から出力された検査信号が伝播するための信号線11、および信号線11から絶縁されたグランド層12を有する検査基板10と、信号線11に電気的に接続された信号ピン21と、グランド層12に電気的に接続されたグランドピン22と、信号ピン21およびグランドピン22を保持する保持部30と、検査基板10に実装され、検査基板10と計測器
50を接続するためのコネクタ部40と、を備え、前記検査治具において検査信号が伝播する前記コネクタ部から前記信号ピンまでの伝播領域の全域にわたって、特性インピーダンスが、基準インピーダンスを中心として前記プリント配線板の特性インピーダンスの許容範囲よりも狭い範囲である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリント配線板を検査する検査治具の特性インピーダンスを所定の範囲内に収めるための方法であって、
前記検査治具は、
計測器から出力された検査信号が伝播するための信号線、および前記信号線から絶縁されたグランド層を有する検査基板と、
前記信号線に電気的に接続された信号ピンと、
前記グランド層に電気的に接続されたグランドピンと、
前記信号ピンおよび前記グランドピンを保持する保持部と、
前記検査基板に実装され、前記検査基板と前記計測器を接続するためのコネクタ部と、を備え、
前記所定の範囲は、50Ωを中心とし、前記プリント配線板に求められる電圧定在波比に基づく幅よりも狭い幅を有する範囲であり、
前記信号ピンの特性インピーダンスを、
前記特性インピーダンスが前記所定の範囲の上限よりも高い場合、前記信号ピンと前記グランドピンとの間の間隔を狭くし、前記特性インピーダンスが前記所定の範囲の下限よりも低い場合、前記間隔を広くすることにより、および/または
前記特性インピーダンスが前記所定の範囲の上限よりも高い場合、前記グランドピンの本数を増やし、前記特性インピーダンスが前記所定の範囲の下限よりも低い場合、前記グランドピンの本数を減らすことにより、
前記所定の範囲内に収める、方法。
【請求項2】
プリント配線板を検査する検査治具の特性インピーダンスを所定の範囲内に収めるための方法であって、
前記検査治具は、
計測器から出力された検査信号が伝播するための信号線、および前記信号線から絶縁されたグランド層を有する検査基板と、
前記信号線に電気的に接続された信号ピンと、
前記グランド層に電気的に接続されたグランドピンと、
前記信号ピンおよび前記グランドピンを保持する保持部と、
前記検査基板に実装され、前記検査基板と前記計測器を接続するためのコネクタ部と、を備え、
前記所定の範囲は、50Ωを中心とし、前記プリント配線板に求められる電圧定在波比に基づく幅よりも狭い幅を有する範囲であり、
前記信号ピンおよび前記グランドピンが挿通される貫通孔が設けられた絶縁体を有し、
前記信号ピンの特性インピーダンスを、
前記特性インピーダンスが前記所定の範囲の上限よりも高い場合、前記信号ピンと前記グランドピンのピン径を太くし、前記特性インピーダンスが前記所定の範囲の下限よりも低い場合、前記信号ピンと前記グランドピンのピン径を細くすることにより、
前記特性インピーダンスが前記所定の範囲の上限よりも高い場合、前記保持部の前記貫通孔の径を狭くし、前記特性インピーダンスが前記所定の範囲の下限よりも低い場合、前記貫通孔の径を広くすることにより、および/または
前記特性インピーダンスが前記所定の範囲の上限よりも高い場合、前記絶縁体の誘電率を高くし、前記特性インピーダンスが前記所定の範囲の下限よりも低い場合、前記誘電率を低くすることにより、
前記所定の範囲内に収める、方法。
【請求項3】
前記信号線は、前記検査基板の第1の主面に設けられ、
前記グランド層は、前記第1の主面の反対側の第2の主面に設けられ、
前記信号ピンは、前記第2の主面側に配置され、
前記検査基板は、前記信号線と前記信号ピンを電気的に接続する層間接続部をさらに有し、
前記層間接続部の特性インピーダンスを、
前記特性インピーダンスが前記所定の範囲の上限よりも高い場合、前記層間接続部の外部ランドと前記グランド層との間の間隙を狭くし、前記特性インピーダンスが前記所定の範囲の下限よりも低い場合、前記間隙を広くすることにより、
前記所定の範囲内に収める、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記層間接続部は、前記検査基板の内部に設けられた内部ランドを有し、
前記層間接続部の特性インピーダンスを、
前記特性インピーダンスが前記所定の範囲の上限よりも高い場合、前記内部ランドと、前記内部ランドと同じ面に設けられたグランド層との間の間隙を狭くし、前記特性インピーダンスが前記所定の範囲の下限よりも低い場合、前記間隙を広くすることにより、
前記所定の範囲内に収める、請求項3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査治具および検査治具の特性インピーダンスの調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン、ノートパソコン、デジタルカメラ、ゲーム機などの電子機器に
おいては、小型化および高速化の進展に伴い、情報処理量が急増している。このため、信
号速度はますます高速化する傾向にある。また、スマートフォン等の携帯通信端末は、2
019年から次世代通信規格5Gへの移行が始まっている。5Gでは、通信端末が送受信
する信号の周波数は数GHzから20~30GHzになる。さらに2023年頃には、信
号周波数は50GHz程度にまで高まる見込みである。
【0003】
このような信号の高速化に応じて、プリント配線板の信号線(高速伝送線路)には、伝
送特性に関する様々な仕様を満たすことが求められる。たとえば、信号の反射を抑制する
ために、特性インピーダンスや、反射の度合いを周波数と併せて規定した電圧定在波比(
VSWR:Voltage Standing Wave Ratio)が仕様で規定さ
れる。また、信号周波数が高くなるにつれて伝送損失が大きくなる傾向にあるため、線路
の伝送損失が仕様で規定されることがある。さらに、同一のプリント配線板に複数の信号
線が設けられる場合は、隣接する信号線同士の干渉(クロストーク/アイソレーション)
について仕様で規定されることがある。
【0004】
伝送特性に係る仕様を満足していることを確認するため、製造されたプリント配線板に
対して検査が行われる。検査には、ベクトルネットワークアナライザ等の計測器と検査対
象のプリント配線板を接続する検査治具が使用される。検査治具は、検査信号が伝播する
信号線などが設けられた検査基板と、検査基板に実装され、計測器のポートと接続するた
めの同軸コネクタ(SMAコネクタ等)と、コンタクトプローブ(信号ピンおよびグラン
ドピン)を有するプローブ部と、を備えている。検査基板には、信号線と信号ピンを電気
的に接続する層間接続部(スルーホール等)が設けられる。
【0005】
検査の際、検査治具のコンタクトプローブを検査対象のプリント配線板の信号端子およ
びグランド端子に接触させる。これら信号端子およびグランド端子の数や位置は、検査対
象のプリント配線板(たとえば、FPC等の製品)の種類ごとに異なる。このため、検査
治具は、検査対象のプリント配線板の種類ごとに専用設計される。
【0006】
なお、特許文献1には、検査治具のコンタクトプローブに関する発明が記載されている
。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、数十GHzもの高周波数の信号に対してプリント配線板の検査精度を確保す
るには、検査治具について、その特性インピーダンスが所定の範囲内に収まることが求め
られる。当然ながら、検査治具の特性インピーダンスは、プリント配線板の特性インピー
ダンスに許容される範囲よりも狭い範囲内になければならない。したがって、検査治具の
特性インピーダンスが収められるべき「所定の範囲」は、基準インピーダンスを中心とし
、検査対象のプリント配線板の特性インピーダンスの許容範囲よりも狭い範囲である。
【0009】
ここで、「許容範囲」とは、伝送特性に係る仕様を満たす条件の下、プリント配線板の
特性インピーダンスに許容される範囲のことである。たとえば、基準インピーダンスが5
0Ωの場合、プリント配線板の特性インピーダンスが50±4Ωの範囲内にあればVSW
Rが1.1以下という仕様が満たされることが信号の反射率とVSWRの算出式から分か
る。すなわち、50±4Ωが許容範囲である。よって、この場合における所定の範囲は、
50Ω±4Ωよりも狭い範囲であり、たとえば50±2Ωである。なお、仕様が緩和され
ると(VSWRが1.3以下など)許容範囲は広がる。
【0010】
従来の検査治具はオープン/ショートを検査するためのものの延長として構成されてい
るため、検査治具の特性インピーダンスは考慮されていなかった。このため、検査基板の
信号線および層間接続部、ならびに信号ピンの特性インピーダンスが所定の範囲から外れ
ることがあった。特に、層間接続部と信号ピンの特性インピーダンスについては従来注意
が払われていなかった。
【0011】
図19は、従来の検査治具の特性インピーダンスをTDR(Time Domain Reflectometr
y:時間領域反射)法により測定した結果を示している。
図19に示すように、スルーホ
ールと信号ピンにおいて特性インピーダンスが所定の範囲(50±2Ω)を大きく外れて
いる。すなわち、従来の検査治具では伝送特性が十分に確保されておらず、検査精度が低
い。したがって、検査スペック(良否判定)にマージンを持たせる必要が生じ、このマー
ジンの分だけプリント配線板に対する良否判定の基準が厳しくなる。その結果、FPC等
の製品の歩留まりが低下したり、オーバースペックで高コストな製品を製造せざるを得な
くなる。
【0012】
本発明は、上記の技術的認識に基づいてなされたものであり、高周波信号を伝送するプ
リント配線板を高精度に検査可能な検査治具、および検査治具の特性インピーダンスの調
整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る検査治具は、
プリント配線板を検査するための検査治具であって、
計測器から出力された検査信号が伝播するための信号線、および前記信号線から絶縁さ
れたグランド層を有する検査基板と、
前記信号線に電気的に接続された信号ピンと、
前記グランド層に電気的に接続されたグランドピンと、
前記信号ピンおよび前記グランドピンを保持する保持部と、
前記検査基板に実装され、前記検査基板と前記計測器を接続するためのコネクタ部と、
を備え、
前記検査治具において検査信号が伝播する前記コネクタ部から前記信号ピンまでの伝播
領域の全域にわたって特性インピーダンスが所定の範囲内に収められており、前記所定の
範囲は、基準インピーダンスを中心とし、前記プリント配線板の特性インピーダンスの許
容範囲よりも狭い範囲である。
【0014】
また、前記検査治具において、
前記許容範囲は、前記プリント配線板の電圧定在波比(VSWR)が1.1以下を満た
すための範囲であるようにしてもよい。
【0015】
また、前記検査治具において、
前記基準インピーダンスは50Ωであり、前記許容範囲は50±4Ωであるようにして
もよい。
【0016】
また、前記検査治具において、
前記グランドピンは、前記信号ピンを囲むように格子点上に8本配置されているように
してもよい。
【0017】
また、前記検査治具において、
前記グランドピンは、前記信号ピンを挟むように設けられた2本のみであるようにして
もよい。
【0018】
また、前記検査治具において、
前記信号線は、前記検査基板の第1の主面に設けられ、
前記グランド層は、前記第1の主面の反対側の第2の主面に設けられ、
前記信号ピンは、前記第2の主面側に配置され、
前記検査基板は、前記信号線と前記信号ピンを電気的に接続する層間接続部をさらに有
し、
前記層間接続部の特性インピーダンスが、前記所定の範囲内に収められていてもよい。
【0019】
また、前記検査治具において、
前記層間接続部は、中実構造を有するスルーホールであり、その端部が蓋めっきで保護
され、前記蓋めっきに前記信号ピンが当接しているようにしてもよい。
【0020】
本発明の第1態様に係る検査治具の特性インピーダンスの調整方法は、
プリント配線板を検査する検査治具の特性インピーダンスを所定の範囲内に収めるため
の方法であって、
前記検査治具は、
計測器から出力された検査信号が伝播するための信号線、および前記信号線から絶縁さ
れたグランド層を有する検査基板と、
前記信号線に電気的に接続された信号ピンと、
前記グランド層に電気的に接続されたグランドピンと、
前記信号ピンおよび前記グランドピンを保持する保持部と、
前記検査基板に実装され、前記検査基板と前記計測器を接続するためのコネクタ部と、
を備え、
前記所定の範囲は、基準インピーダンスを中心とし、前記プリント配線板の特性インピ
ーダンスの許容範囲よりも狭い範囲であり、
前記信号ピンの特性インピーダンスを、
前記特性インピーダンスが前記所定の範囲の上限よりも高い場合、前記信号ピンと前記
グランドピンとの間の間隔を狭くし、前記特性インピーダンスが前記所定の範囲の下限よ
りも低い場合、前記間隔を広くすることにより、および/または
前記特性インピーダンスが前記所定の範囲の上限よりも高い場合、前記グランドピンの
本数を増やし、前記特性インピーダンスが前記所定の範囲の下限よりも低い場合、前記グ
ランドピンの本数を減らすことにより、
前記所定の範囲内に収める。
【0021】
本発明の第2態様に係る検査治具の特性インピーダンスの調整方法は、
プリント配線板を検査する検査治具の特性インピーダンスを所定の範囲内に収めるため
の方法であって、
前記検査治具は、
計測器から出力された検査信号が伝播するための信号線、および前記信号線から絶縁さ
れたグランド層を有する検査基板と、
前記信号線に電気的に接続された信号ピンと、
前記グランド層に電気的に接続されたグランドピンと、
前記信号ピンおよび前記グランドピンを保持する保持部と、
前記検査基板に実装され、前記検査基板と前記計測器を接続するためのコネクタ部と、
を備え、
前記所定の範囲は、基準インピーダンスを中心とし、前記プリント配線板の特性インピ
ーダンスの許容範囲よりも狭い範囲であり、
前記信号ピンおよび前記グランドピンが挿通される貫通孔が設けられた絶縁体を有し、
前記信号ピンの特性インピーダンスを、
前記特性インピーダンスが前記所定の範囲の上限よりも高い場合、前記信号ピンと前記
グランドピンのピン径を太くし、前記特性インピーダンスが前記所定の範囲の下限よりも
低い場合、前記信号ピンと前記グランドピンのピン径を細くすることにより、
前記特性インピーダンスが前記所定の範囲の上限よりも高い場合、前記保持部の前記貫
通孔の径を狭くし、前記特性インピーダンスが前記所定の範囲の下限よりも低い場合、前
記貫通孔の径を広くすることにより、および/または
前記特性インピーダンスが前記所定の範囲の上限よりも高い場合、前記絶縁体の誘電率
を高くし、前記特性インピーダンスが前記所定の範囲の下限よりも低い場合、前記誘電率
を低くすることにより、
前記所定の範囲内に収める。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高周波信号を伝送するプリント配線板を高精度に検査可能な検査治具
、および検査治具の特性インピーダンスの調整方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施形態に係る検査治具を有する検査システムの概略的な構成を示す図である。
【
図2】実施形態に係る検査治具が有する検査基板の上面図である。
【
図3】実施形態に係る検査治具が有する検査基板の下面図である。
【
図5A】実施形態に係る検査基板の製造方法を説明するための工程断面図である。
【
図5B】
図5Aに続く、実施形態に係る検査基板の製造方法を説明するための工程断面図である。
【
図5C】
図5Bに続く、実施形態に係る検査基板の製造方法を説明するための工程断面図である。
【
図6】検査基板の信号線の線幅と信号線の特性インピーダンスとの間の関係を示すグラフである。
【
図7】検査基板のスルーホールのランドおよびグランド層間の間隙について説明するための平面図である。
【
図8】スルーホールのランドおよびグランド層間の間隙と、スルーホールの特性インピーダンスとの間の関係を示すグラフである。
【
図9】信号ピンとグランドピンの配置、およびグランドピンの本数について説明するための図である。
【
図10】グランドピンの本数と、信号ピンの特性インピーダンスとの間の関係を示すグラフである。
【
図11】実施形態に係る検査治具の特性インピーダンスの測定結果を示すグラフである。
【
図12】検査治具の保持部と、保持部に保持された信号ピンおよび2本のグランドピンとを示す一部断面図である。
【
図13】
図12に示すピン配置の場合における、検査治具の特性インピーダンスの測定結果を示すグラフである。
【
図14】信号ピンの特性インピーダンスを調整するためのパラメータを説明するための図である。
【
図16】2つの実施例に係る検査治具の特性インピーダンスの測定結果を示すグラフである。
【
図17】実施形態の変形例1に係る検査システムの概略的な構成を示す図である。
【
図18】実施形態の変形例2に係る検査システムの概略的な構成を示す図である。
【
図19】従来の検査治具の特性インピーダンスの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各図におい
ては、同等の機能を有する構成要素に同一の符号を付している。また、各構成要素の縮尺
比率は、図面上で認識可能な程度の大きさとするため、適宜に変えている。
【0025】
<検査システム100>
図1を参照して、実施形態に係る検査システム100について説明する。
【0026】
検査システム100は、フレキシブルプリント配線板(FPC)等のプリント配線板2
00を検査するための検査システムである。
【0027】
検査システム100は、検査治具1と、計測器50とを備えている。
【0028】
検査治具1は、検査基板10と、信号ピン21と、グランドピン22と、保持部30と
、コネクタ部40とを備えている。検査治具1の詳細は後述する。
【0029】
計測器50は、プリント配線板200の伝送特性(特性インピーダンス、VSWR、ク
ロストーク、伝送損失など)を測定する装置であり、たとえば、ベクトルネットワークア
ナライザ(VNA)、TDRオシロスコープ、直流抵抗測定器である。
【0030】
検査治具1と計測器50は、ケーブル60を介して接続されている。詳しくは、計測器
50は、ケーブル60を介して検査治具1のコネクタ部40に接続されている。本実施形
態では、コネクタ部40は同軸コネクタであり、ケーブル60は同軸ケーブルである。
【0031】
図1に示すように、検査時において、検査治具1のピン(後述の信号ピン21およびグ
ランドピン22)は、検査対象のプリント配線板200に実装されたコネクタ210の端
子(信号端子およびグランド端子)に接触する。なお、プリント配線板200にコネクタ
210が設けられていない場合は、プリント配線板200の端子にピンが直接接触しても
よい。
【0032】
ここで、検査システム100によるプリント配線板200の検査方法の一例について説
明する。
【0033】
まず、検査治具1の信号ピン21を検査対象のプリント配線板200の信号線(図示せ
ず)に接触させ、検査治具1のグランドピン22をプリント配線板200のグランド層(
図示せず)に接触させる。その後、計測器50から検査治具1に検査信号(パルス信号な
ど)を出力し、計測器50が当該検査信号の反射波を受信する。そして、計測器50は、
受信した反射波に基づいてプリント配線板200の良否判定を行う。
【0034】
なお、良否判定は、計測器50が行ってもよいし、計測器50に接続されたパソコン等
の情報処理装置が行ってもよい。また、TDR変換によるVSWRを取得し、VSWRに
基づいてプリント配線板200の良否判定を行ってもよい。
【0035】
<検査治具1>
次に、
図1~
図3を参照して、検査治具1の構成について詳しく説明する。
図1に示す
検査基板10は、
図2および
図3のI-I線に沿う断面図である。
図2および
図3は、検
査基板10の上面図および下面図をそれぞれ示している。なお、
図2および
図3では、検
査基板10の保護膜16は図示していない。
【0036】
検査治具1は、検査基板10と、信号ピン21と、グランドピン22と、保持部30と
、コネクタ部40と、を備えている。
【0037】
検査基板10は、プリプレグ等からなる絶縁基材15を含み、ソルダーレジスト等から
なる保護膜16で表面保護されたリジッドプリント配線板である。
【0038】
検査基板10は、信号線11と、グランド層12,13と、層間接続部14とを有する
。
【0039】
信号線11は、計測器50から出力された検査信号が伝播するための伝送線路である。
本実施形態では、
図1に示すように、信号線11は、検査基板10の上面に設けられ、マ
イクロストリップ線路として構成されている。
【0040】
グランド層12,13は、信号線11から絶縁された導電層である。本実施形態では、
図1に示すように、グランド層12は検査基板10の下面に設けられ、グランド層13は
検査基板の上面に設けられている。
【0041】
グランド層12,13は、
図2および
図3に示すように、検査基板10の主面の大部分
を覆うように形成されている。プレーン共振を抑制するために、複数のスルーホール17
が検査基板10に設けられている。各スルーホール17は、グランド層12とグランド層
13を電気的に接続する。
【0042】
貫通孔Hcは、コネクタ部40を検査基板10の取付領域Aにボルト等で固定するため
に使用される。
【0043】
グランド層13は信号線11を囲むように形成されている。グランド層12は層間接続
部14のランド(後述の外部ランド14a1)を囲むように形成されている。後述するよ
うに、グランド層12と外部ランド14a1との間の間隙Gは、層間接続部14の特性イ
ンピーダンスを所定の範囲に収めるように調整されている。
【0044】
層間接続部14は、信号線11と信号ピン21を電気的に接続する。層間接続部14は
、外部ランド14a1を有する。外部ランド14a1は、蓋めっき14b(後述)で覆わ
れている。なお、本実施形態では、層間接続部14は、スルーホールであるが、フィルド
ビア等の他の層間接続手段であってもよい。
【0045】
信号ピン21は、検査対象のプリント配線板200に実装されたコネクタ210の信号
端子(図示せず)に接触するピンである。なお、プリント配線板200がコネクタ210
を有しない場合、信号ピン21はプリント配線板200上の端子に接触する。
【0046】
信号ピン21は、検査基板10の信号線11に電気的に接続されている。本実施形態で
は、
図1に示すように、信号ピン21は、検査基板10の下面側に配置され、層間接続部
14の外部ランド14a1に接触している。これにより、信号ピン21は、層間接続部1
4を介して信号線11に電気的に接続されている。
【0047】
グランドピン22は、検査基板10のグランド層12に接触している。本実施形態では
、グランドピン22は、スルーホール17を介してグランド層13とも電気的に接続され
ている。本実施形態では、グランドピン22は複数設けられている。
【0048】
信号ピン21およびグランドピン22は、たとえば、市販のスプリングプローブ(いわ
ゆるポゴピン)を用いてもよい。スプリングプローブは、半導体部品やプリント配線板の
電気検査で適用されているものであり、十分な耐久性を有している。
【0049】
保持部30は、信号ピン21およびグランドピン22を保持するように構成されている
。信号ピン21、グランドピン22および保持部30はプローブを構成する。
【0050】
本実施形態では、保持部30は、樹脂等の絶縁材料からなり、検査基板10の下面側に
固定されている。保持部30の材料は、たとえば、ポリフェニレンサルファイド(PPS
)である。
【0051】
コネクタ部40は、検査基板10に実装されており、検査基板10と計測器50を接続
するためのコネクタである。コネクタ部40の信号線(図示せず)は検査基板10の信号
線11に電気的に接続されている。コネクタ部40は、たとえば、同軸ケーブルと接続す
る同軸コネクタである。
【0052】
なお、上記の検査治具1は、1本の信号線11と、それに対応する1本の信号ピン21
とを有するものであったが、これに限られない。すなわち、検査治具1は、複数本の信号
線11と、それに対応する複数本の信号ピン21を有するように構成されてもよい。
【0053】
ここで、
図4を参照して、検査基板10の一例について説明する。この検査基板10は
4層構造を有し、厚みは、たとえば約1mmである。検査基板10に十分な厚みを持たせ
ることで、保持部30やコネクタ部40を支持する強度を確保している。また、検査基板
10の信号線11の長さは、数cm程度(たとえば3~4cm)である。
【0054】
図4の検査基板10では、絶縁基材15の内部にグランド層18,19が設けられてい
る。グランド層18,19は、グランド層12と同様に、層間接続部14を囲むように設
けられている。グランド層18は、マイクロストリップ線路である信号線11のグランド
としての機能を有する。また、グランド層18,19を設けることにより検査基板10の
剛性を高めることができる。
【0055】
絶縁基材15は、3つの絶縁基材15a,15b,15cからなる。絶縁基材15aの
上面にグランド層13が設けられている。絶縁基材15aと絶縁基材15bの間にグラン
ド層18が設けられ、絶縁基材15bと絶縁基材15cの間にグランド層19が設けられ
ている。絶縁基材15cの下面にグランド層12が設けられている。
【0056】
グランド層12の一部は、グランドピン22と接触可能なように保護膜16で被覆され
ていない。なお、当該部分は、金めっきなどで表面処理されていてもよい。
【0057】
層間接続部14は、グランド層18,19と同じ面(レベル)に内部ランド14a2,
14a2を有する。層間接続部14は、検査基板10の内部に設けられた内部ランド14
a2を有する。内部ランド14a2,14a2は、グランド層18,19と同じ面に設け
られている。層間接続部14の特性インピーダンスは、内部ランド14a2と、グランド
層18(19)との間の間隙を調整することにより、所定の範囲内に収められている。
【0058】
なお、本実施形態では、内部ランド14a2とグランド層18との間の間隙、および内
部ランド14a2とグランド層19との間の間隙は、グランド層12と外部ランド14a
1との間の間隙Gと等しい。これにより、層間接続部14の特性インピーダンスをより精
度良く調整することができる。また、内部ランド14a2とグランド層18との間の間隙
のみで層間接続部14の特性インピーダンスを調整してもよい。また、各ランド(外部ラ
ンド14a1、内部ランド14a2)の間隙はそれぞれ独立に任意に変更してもよい。
【0059】
層間接続部14の外部ランド14a1は、信号ピン21との接触性を確保するために、
蓋めっき14bで覆われている。信号ピン21は蓋めっき14bに当接するように配置さ
れている。なお、蓋めっき14bは、金めっきなどで表面処理されていてもよい。
【0060】
層間接続部14(スルーホール)の内部には、補強材として樹脂14cが充填されてい
る。樹脂に代えて、導電ペーストが充填されてもよいし、あるいは、フィルドめっき処理
によりスルーホールの内部が充填されてもよい。
【0061】
このように、本実施形態では、層間接続部14としてのスルーホールを中実構造とし、
その端部を蓋めっき14bで保護することで、信号ピン21が層間接続部14に接触する
ことを可能としている。これにより、検査信号の伝播経路を短くすることができる。
【0062】
なお、
図4の例では、検査基板10は4層構造であったが、これに限られない。すなわ
ち、検査基板10は、
図1に示すような2層構造でもよいし、3層もしくは5層以上の構
造であってもよい。
【0063】
また、信号線11は検査基板10の上面に設けられる場合に限られず、検査基板10の
下面に設けられてもよい。この場合、たとえば、コネクタ部40の直下に層間接続部14
が設けられ、信号線11は層間接続部14の下端から保持部30に向かって延在するよう
に設けられる。
【0064】
また、層間接続部14は、複数のビアが接続されたものとして構成されてもよい。
【0065】
また、
図4の検査基板10において、グランド層19は必須ではなく、所要の特性に応
じて省略可能である。
【0066】
ここで、検査基板10の製造方法の一例として
図5A~
図5Cを参照して、
図4に示す
検査基板10の製造方法を説明する。
【0067】
図5A(1)に示すように、絶縁基材111の上面および下面に金属箔112および金
属箔113がそれぞれ設けられた両面金属箔張積層板を用意する。絶縁基材111は、た
とえばプリプレグ(300μm厚)であり、金属箔112,113は、たとえば銅箔(1
8μm厚)である。
【0068】
次に、
図5A(2)に示すように、公知のフォトファブリケーション手法を用いて、金
属箔112,113をパターニングする。これにより、ランド112a,113aおよび
グランド層112b,113bを形成する。ランド112a,113aは後述の工程で形
成されるスルーホール118aの内部ランドとなる。ランド112a,113aの径は、
たとえば350μmである。
【0069】
次に、
図5A(3)に示すように、絶縁基材114の片面に金属箔115が設けられた
第1の片面金属箔張積層板と、絶縁基材116の片面に金属箔117が設けられた第2の
片面金属箔張積層板とを用意する。その後、前の工程で得られた配線基材の上面および下
面に、第1の片面金属箔張積層板および第2の片面金属箔張積層板をそれぞれ積層して、
図5A(3)に示す積層体を作製する。なお、絶縁基材114,116は、たとえばプリ
プレグ(300μm厚)であり、金属箔115,117は、たとえば銅箔(18μm厚)
である。
【0070】
次に、
図5B(1)に示すように、ドリル加工により、前の工程で得られた積層体を厚
さ方向に貫通する貫通孔H1を形成する。貫通孔H1は、ランド112a,113aを貫
通するように形成される。貫通孔H1の径は、たとえば200μmである。
【0071】
次に、
図5B(2)に示すように、貫通孔H1が設けられた積層体に対してめっき処理
を施し、積層体の上面および下面、ならびに貫通孔H1の内壁にめっき層118を形成す
る。これにより、積層体上面の金属箔115と積層体下面の金属箔117を電気的に接続
するスルーホール118aが形成される。なお、めっき層118の厚みは、たとえば25
μmである。
【0072】
次に、
図5C(1)に示すように、スルーホール118aに樹脂121を充填し、その
後、めっき処理を行ってめっき層122,123を形成する。
【0073】
次に、
図5C(2)に示すように、公知のフォトファブリケーション手法により、積層
体の外層の導電層をパターニングする。これにより、信号線124、グランド層125,
126および蓋めっき127が形成される。この後、ソルダーレジスト等で外層の保護膜
を形成し、端子部分の表面処理(金めっき等)を行うことで、検査基板10が得られる。
【0074】
以上、本実施形態に係る検査治具1について説明した。各特性インピーダンスの調整に
ついては後述するが、上記の検査治具1においては、信号線11の特性インピーダンスが
所定の範囲内に収められ、かつ、信号ピン21の特性インピーダンスが当該所定の範囲内
に収められている。所定の範囲は、前述のように、基準インピーダンスを中心とし、検査
対象のプリント配線板の特性インピーダンスの許容範囲よりも狭い範囲であり、たとえば
、50±2Ωである。
【0075】
本実施形態では、層間接続部14の特性インピーダンスも当該所定の範囲内に収められ
ている。このように、信号線11、層間接続部14および信号ピン21の各特性インピー
ダンスが所定の範囲内に収められていることにより、検査信号が伝播するコネクタ部40
から信号ピン21までの伝播領域(後述の領域R1)の特性インピーダンス、すなわち、
検査治具1全体にわたる特性インピーダンスが所定の範囲内に収められている。これによ
り、高周波信号を伝送するプリント配線板の検査精度を向上させることができる。
【0076】
<特性インピーダンス所定の範囲内に収める方法>
図6~
図11を参照して、検査治具1の特性インピーダンスを所定の範囲内に収めるた
めの方法について説明する。
【0077】
なお、下記説明のシミュレーションおよび実測の条件として、検査基板10は、
図4で
説明した4層構造のものを使用した。保持部30の材料はポリフェニレンサルファイド(
誘電率Dk=3.6)、信号ピン21およびグランドピン22のピン間隔は0.35mm
とした。
【0078】
まず、信号線11の特性インピーダンスを所定の範囲内に収める方法について説明する
。
【0079】
信号線11の特性インピーダンスは、信号線11の線幅を調整することにより所定の範
囲内に収めることができる。具体的には、信号線11の特性インピーダンスは、線幅を大
きくするにつれて低くなる。
【0080】
図6は、信号線11の線幅と信号線11の特性インピーダンスとの間の関係を示すグラ
フである。グラフ中、白丸の値は、電磁界解析によるシミュレーションから得られた特性
インピーダンス値であり、黒丸は、TDR法により実測された特性インピーダンス値であ
る(
図8、
図10についても同様)。なお、
図6では、
図11の900psecの値をプ
ロットした。
【0081】
図6から、信号線11の線幅が0.55mmのとき、信号線11の特性インピーダンス
は、ほぼ50Ωとなることが分かる。信号線11の特性インピーダンスを50±2Ωの範
囲内に収めるには、線幅を0.55±0.04mmにすればよい。
【0082】
次に、層間接続部14の特性インピーダンスを所定の範囲内に収める方法について説明
する。
【0083】
層間接続部14の特性インピーダンスは、外部ランド14a1とグランド層との間の間
隙Gを調整することにより所定の範囲内に収めることができる。具体的には、
図7に示す
ように、間隙Gが大きい方が、層間接続部14の特性インピーダンスは高い。
図8は、間
隙Gと層間接続部14の特性インピーダンスとの間の関係を示すグラフである。ここでは
、グランド層18,19と内部ランド14a2との間の間隙についても調整し、当該間隙
がグランド層12と外部ランド14a1との間の間隙と同じになるようにした。なお、図
8では、
図11の1115psecの値をプロットした。
【0084】
図8から、間隙Gが0.25mmのとき、層間接続部14の特性インピーダンスは、ほ
ぼ50Ωとなることが分かる。層間接続部14の特性インピーダンスを所定の範囲である
50±2Ωの範囲内に収めるには、間隙Gを0.25±0.075mmにすればよい。
【0085】
次に、信号ピン21の特性インピーダンスを所定の範囲内に収める方法について説明す
る。
【0086】
信号ピン21の特性インピーダンスは、信号ピン21の周りに配置されたグランドピン
22の本数を調整することにより所定の範囲内に収めることができる。ここでは、
図9に
示すように、グランドピン22の本数が、2本、4本、8本の場合について評価を行った
。保持部30は、信号ピン21およびグランドピン22が挿通される複数の貫通孔Hbが
設けられたブロック状の絶縁体である。
【0087】
2本の場合は、2本のグランドピン22が信号ピン21を挟むように配置されている。
4本の場合は、4本のグランドピン22が縦方向および横方向の両方向について信号ピン
21を挟むように配置されている。8本の場合は、8本のグランドピン22が縦方向、横
方向および斜め方向の各方向について信号ピン21を挟むように配置されている。すなわ
ち、8本のグランドピン22は、信号ピン21を囲むように格子点上に配置されている。
いずれの場合も、ピン間隔(ピッチ)は一定である。
【0088】
なお、信号ピン21とグランドピン22との間の間隔、およびグランドピン22間の間
隔(ピン間隔)が大きいほど、信号ピン21の特性インピーダンスは高くなる。換言すれ
ば、ピンが高密度に配置されるほど、信号ピン21の特性インピーダンスは低くなる。
【0089】
図10は、グランドピン22の本数と、信号ピン21の特性インピーダンスとの間の関
係を示すグラフである。なお、
図10では、
図11の1170psecの値をプロットし
た。
【0090】
図10から、グランドピン22の本数が多いほど信号ピン21の特性インピーダンスは
低下し、グランドピン22が8本のときに信号ピン21の特性インピーダンスは、ほぼ5
0Ωとなることが分かる。なお、特性インピーダンスは、グランドピン22が4本の場合
に50±2Ωの範囲のほぼ上限であり、グランドピン22の本数が2本の場合に50±2
Ωの範囲を大きく外れる。したがって、信号ピン21の特性インピーダンスを50±2Ω
の範囲内に収めるには、8本のグランドピン22を信号ピン21の周囲に配置すればよい
。
【0091】
上記のように、信号線11の線幅、間隙Gおよびグランドピン22の本数をパラメータ
(制御因子)として、信号線11、層間接続部14および信号ピン21の特性インピーダ
ンスをそれぞれ所定の範囲内に収めるようにすることができる。
【0092】
図11は、TDR法を用いて検査治具1の特性インピーダンスを測定した結果を示して
いる。図中、領域R1は検査治具1の伝播領域を示し、領域R2は検査対象のプリント配
線板200の伝播領域を示している。特性インピーダンスを測定した検査治具1では、信
号線11の線幅を0.55mm、層間接続部14の間隙Gを0.25mm、グランドピン
22の本数を8本(ピッチ0.35mm)とした。
【0093】
図11から分かるように、検査治具1の伝播領域の全体を示す領域R1において、特性
インピーダンスが所定の範囲である50±2Ωの範囲内に収められている。すなわち、検
査信号が伝播するコネクタ部40から信号ピン21までの領域の全域にわたって、特性イ
ンピーダンスは所定の範囲内に収まっている。
【0094】
なお、
図11において、検査対象のプリント配線板200は、その特性インピーダンス
が46±4Ωの範囲内にある場合に正常であると判定される。この範囲は、プリント配線
板200のVSWRが1.1以下という仕様を満たすための範囲である。すなわち、この
場合、46±4Ωが許容範囲である。所定の範囲(50±2Ω)は許容範囲よりも狭い。
【0095】
図10に示したように、グランドピン22を4本以上配置する場合は、信号ピン21の
特性インピーダンスを50±2Ωの範囲内に収めることができる。しかし、検査対象のプ
リント配線板200の端子の仕様によっては、グランドピン22を2本までしか配置でき
ず、ピン間隔を変える(狭める)ことも難しい場合がある。
図12は、保持部30に保持
された信号ピン21と2本のグランドピン22を示している。
【0096】
図13は、
図12のピン配置を有する検査治具1の特性インピーダンスを、TDR法を
用いて測定した結果を示している。信号線11の線幅は0.55mm、層間接続部14の
間隙Gは0.25mmとした。
図13から分かるように、グランドピン22が2本の場合
は、信号ピン21の特性インピーダンスは約56Ωであり、上限(52Ω)を大きく超え
てしまう。また、グランドピン22が4本の場合も、特性インピーダンスはほぼ上限に達
している。
【0097】
以下では、上記のようにグランドピン22の本数が少ない場合においても、信号ピン2
1の特性インピーダンスを所定の範囲内に調整可能な方法について説明する。
【0098】
具体的には、信号ピン21およびグランドピン22の径(以下、単に「ピンの径」もし
くは「ピン径」ともいう。)、保持部30の貫通孔Hbの径(以下、単に「穴径」ともい
う。)、保持部30を構成する絶縁材料の誘電率により、信号ピン21の特性インピーダ
ンスを調整する。
【0099】
図14は、これらのパラメータと、信号ピン21の特性インピーダンスとの関係を示し
ている。ピンの径については、径を大きく(ピンを太く)するほど、信号ピン21の特性
インピーダンスは低下する。保持部30の貫通孔Hbの径については、径を狭くするほど
、信号ピン21の特性インピーダンスは低下する。保持部30を構成する絶縁材料の誘電
率については、誘電率が高いほど、信号ピン21の特性インピーダンスは低下する。
【0100】
したがって、信号ピン21の特性インピーダンスを低下させるには、ピンの径を大きく
し、貫通孔Hbの径を小さくし、保持部30の誘電率を高くすればよい。もちろん、これ
らのパラメータのうち少なくともいずれか一つを調整することで、信号ピン21の特性イ
ンピーダンスを所定の範囲内に収めてもよい。次に、このような調整により特性インピー
ダンスを制御した2つの実施例について説明する。
【0101】
図15に示すように、実施例1では、保持部30の誘電率を5.1、ピン径を0.20
mm、穴径を0.24mmとした。実施例2では、保持部30の誘電率を3.6、ピン径
を0.26mm、穴径を0.32mmとした。なお、いずれの実施例においても、グラン
ドピン22の本数は2本、ピン間隔は0.35mmとした。信号ピン21およびグランド
ピン22はいずれも、市販のスプリングプローブを用いた。上記のピン径は、スプリング
プローブのバレル部分の径である。
【0102】
実施例2では、保持部30の誘電率が実施例1よりも小さいため、太めのピンを使用し
、保持部30の穴径をピン径にあわせて適正な値とした。TDR法により信号ピン21の
特性インピーダンスを測定したところ、いずれの実施例でも49~50Ωの値が得られた
。
図16は、実施例1,2に係る検査治具1の信号ピン21の特性インピーダンスの測定
結果を示している。
【0103】
このように、グランドピン22の本数を増やしたり、ピン間隔を狭くできない場合であ
っても、保持部30を構成する絶縁材料の誘電率、信号ピン21およびグランドピン22
のピン径、保持部30の貫通孔Hbの穴径を調整することにより、信号ピン21の特性イ
ンピーダンスを所定の範囲内に収めることができる。
【0104】
次に、検査システムに係る2つの変型例を説明する。
【0105】
<検査システムの変型例1>
図17は、変型例1に係る検査システム100Aの概略的な構成を示している。本変型
例は、検査対象のプリント配線板について、伝送損失、クロストークなどの伝送特性を検
査するための検査システムに関する。
【0106】
本変型例の検査システム100Aは、検査治具として、検査対象のプリント配線板20
0の入力端子に接続される検査治具1Aと、プリント配線板200の出力端子に接続され
る検査治具1Bとを備えている。検査治具1A,1Bの構成は、前述の検査治具1と同じ
である。
【0107】
計測器50は、測定ポート51および測定ポート52を有する。測定ポート51は、ケ
ーブル60を介して検査治具1Aのコネクタ部40に接続されている。測定ポート52は
、ケーブル60を介して検査治具1Bのコネクタ部40に接続されている。
【0108】
なお、検査対象のプリント配線板200が複数の信号線を有し、クロストークなどの信
号線間の伝送特性を検査する場合には、信号線ごとに1組の検査治具1A,1Bが用いら
れる。あるいは、検査治具1A,1Bとして、複数の信号線11および複数の信号ピン2
1を有するものを用いてもよい。
【0109】
ここで、検査システム100Aによるプリント配線板200の検査方法の一例について
説明する。
【0110】
まず、検査治具1Aの信号ピン21を検査対象のプリント配線板200の信号線(図示
せず)の一端(入力端)に接触させ、検査治具1Aのグランドピン22をプリント配線板
200のグランド層(図示せず)に接触させる。検査治具1Bの信号ピン21をプリント
配線板200の信号線の他端(出力端)に接触させ、検査治具1Bのグランドピン22を
プリント配線板200のグランド層に接触させる。その後、計測器50(ベクトルネット
ワークアナライザ)の測定ポート51から検査治具1Aに検査信号を出力し、計測器50
が検査治具1Bから検査信号を測定ポート52で受信する。そして、計測器50は、送信
した検査信号と、検査治具1Bから受信した検査信号とに基づいてプリント配線板200
の良否判定を行う。
【0111】
たとえば、計測器50は、送信した検査信号と、受信した信号に基づいてSパラメータ
を取得する。この場合は、計測器50の測定ポート52から検査治具1Bに検査信号を出
力し、計測器50が検査治具1Aから検査信号を測定ポート51で受信することも行う。
そして、Sパラメータから算出されるクロストークが正常範囲内にあればプリント配線板
200を正常であると判定し、そうでなければ異常であると判定する。
【0112】
なお、良否判定は、計測器50が行ってもよいし、計測器50に接続されたパソコン等
の情報処理装置が行ってもよい。
【0113】
また、上記検査方法において、計測器50として直流抵抗測定器を用い、プリント配線
板200の信号線の伝送損失を検査してもよい。
【0114】
<検査システムの変型例2>
図18は、変型例2に係る検査システム100Bの概略的な構成を示している。本変型
例は、層間接続部14を有しない検査基板10Aを備える検査治具1Cを備える検査シス
テムに関する。
【0115】
本変型例の検査基板10Aでは、絶縁基材15の一方の主面(
図13では下面)に、信
号線11と、信号線11を囲むグランド層(図示せず)が設けられている。信号ピン21
が信号線11に接触し、グランドピン22がグランド層に接触するように、保持部30は
検査基板10Aに固定されている。このように、本変型例では、信号線11は、信号ピン
21に直接接続される。
【0116】
本変型例によれば、層間接続部14を有しない検査基板10Aを用いて検査システムを
構成することができる。
【0117】
なお、検査治具1Cを複数使用して、変型例1のように伝送損失、クロストークなどの
伝送特性を検査するための検査システムを構成してもよい。
【0118】
上記の記載に基づいて、当業者であれば、本発明の追加の効果や種々の変形を想到でき
るかもしれないが、本発明の態様は、上述した実施形態に限定されるものではない。特許
請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と
趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0119】
1,1A,1B,1C 検査治具
10 検査基板
11 信号線
12,13 グランド層
14 層間接続部
14a1 外部ランド
14a2 内部ランド
14b 蓋めっき
14c 樹脂
15,15a,15b,15c 絶縁基材
16 保護膜
17 スルーホール
18,19 (内層の)グランド層
21 信号ピン
22 グランドピン
30 保持部
40 コネクタ部
50 計測器
60 ケーブル
100,100A,100B 検査システム
111,114,116 絶縁基材
112,113,115,117 金属箔
112a,113a ランド
112b,113b グランド層
118,122,123 めっき層
118a スルーホール
121 樹脂
124 信号線
125,126 グランド層
127 蓋めっき
200 プリント配線板
210 コネクタ
A 取付領域
G 間隙
H1,Hb,Hc 貫通孔
R1,R2 領域