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特開2023-155937セルロース繊維の疎水性分散液の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155937
(43)【公開日】2023-10-24
(54)【発明の名称】セルロース繊維の疎水性分散液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/09 20060101AFI20231017BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
C08J3/09 CEP
C08L1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065462
(22)【出願日】2022-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】507117083
【氏名又は名称】堀川化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【弁理士】
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】藤本 基
(72)【発明者】
【氏名】清水 誠
(72)【発明者】
【氏名】山下 直大
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA02
4F070AC12
4F070AC32
4F070AC36
4F070AC43
4F070AC94
4F070AD02
4F070AE28
4F070CA02
4F070CA20
4F070CB05
4F070CB12
4J002AB011
4J002HA06
(57)【要約】
【課題】適用対象の物性の低下を抑制できつつ、セルロース繊維の分散性が良好である、セルロース繊維の疎水性分散液の製造方法を提供すること。
【解決手段】製造方法は、セルロース繊維が、疎水性液を含む分散媒に分散されているセルロース繊維の疎水性分散液の製造方法である。製造方法は、セルロース繊維が、親水性有機溶媒を含有する分散媒に分散されるセルロース繊維の親水性有機溶媒分散液を準備する準備工程と、セルロース繊維の親水性有機溶媒分散液に疎水性液を添加して、親水性有機溶媒と疎水性液とを混合する添加工程と、親水性有機溶媒と疎水性液との混合液を蒸発させる蒸発工程と、を含む。製造方法では、添加工程と蒸発工程とを実施して、混合液における疎水性液の含有割合を、50質量%を超過するように調整する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維が、疎水性液を含む分散媒に分散されているセルロース繊維の疎水性分散液の製造方法であって、
セルロース繊維が、親水性有機溶媒を含有する分散媒に分散されるセルロース繊維の親水性有機溶媒分散液を準備する準備工程と、
前記セルロース繊維の親水性有機溶媒分散液に前記疎水性液を添加して、前記親水性有機溶媒と前記疎水性液とを混合する添加工程と、
前記親水性有機溶媒と前記疎水性液との混合液を蒸発させる蒸発工程と、を含み、
前記添加工程と前記蒸発工程とを実施して、前記混合液における前記疎水性液の含有割合を、50質量%を超過するように調整する、セルロース繊維の疎水性分散液の製造方法。
【請求項2】
前記添加工程と前記蒸発工程とを1回ずつ実施する、請求項1に記載のセルロース繊維の疎水性分散液の製造方法。
【請求項3】
前記添加工程と前記蒸発工程とを繰り返して実施する、請求項1に記載のセルロース繊維の疎水性分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース繊維の疎水性分散液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース繊維が、疎水性液に分散されているセルロース繊維の疎水性分散液の製造方法が知られている(例えば、下記特許文献1参照。)。特許文献1に記載の方法では、セルロース繊維、界面活性剤およびナフテンオイルが配合されて、セルロース繊維の疎水性分散液が調製される。
【0003】
また、特許文献1には、疎水性分散液は、成形品の材料として用いられることが記載されている。つまり、疎水性分散液は、適用対象に配合される。適用対象は、成形品(ゴム成形品)を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-133363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
適用対象は、セルロース繊維に基づく適用対象の物性を高めることが求められる。物性は、補強性を含む。しかし、特許文献1に記載の方法によれば、疎水性分散液は、セルロース繊維の他に、界面活性剤をも含む。そうすると、適用対象は、意図しない添加物を含む。そのため、適用対象の物性を十分に高めることができない可能性があるという不具合がある。
【0006】
一方、疎水性分散液では、セルロース繊維の良好な分散性も求められる。
【0007】
本発明は、適用対象の物性を十分に高めながら、セルロース繊維の分散性が良好である、セルロース繊維の疎水性分散液の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明(1)は、セルロース繊維が、疎水性液を含む分散媒に分散されているセルロース繊維の疎水性分散液の製造方法であって、セルロース繊維が、親水性有機溶媒を含有する分散媒に分散されるセルロース繊維の親水性有機溶媒分散液を準備する準備工程と、前記セルロース繊維の親水性有機溶媒分散液に前記疎水性液を添加して、前記親水性有機溶媒と前記疎水性液とを混合する添加工程と、前記親水性有機溶媒と前記疎水性液との混合液を蒸発させる蒸発工程と、を含み、前記添加工程と前記蒸発工程とを実施して、前記混合液における前記疎水性液の含有割合を、50質量%を超過するように調整する、セルロース繊維の疎水性分散液の製造方法を含む。
【0009】
本発明(2)は、前記添加工程と前記蒸発工程とを1回ずつ実施する、(1)に記載のセルロース繊維の疎水性分散液の製造方法を含む。
【0010】
本発明(3)は、前記添加工程と前記蒸発工程とを繰り返して実施する、(1)に記載のセルロース繊維の疎水性分散液の製造方法を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、セルロース繊維の親水性有機溶媒分散液に疎水性液を添加して、親水性有機溶媒と疎水性液とを混合し、親水性有機溶媒と疎水性液との混合液を蒸発させる。そして、添加工程と蒸発工程とを実施して、分散媒における疎水性液の含有割合を、50質量%を超過するように調整する。
【0012】
そのため、疎水性分散液は、界面活性剤を含む添加物を含むことなく、セルロース繊維が疎水性液に対して良好に分散にされる。その結果、疎水性分散液を適用対象に配合すれば、適用対象の物性を十分に高めながら、適用対象におけるセルロース繊維の分散性が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】B型粘度計の回転数に対する、実施例3および実施例7のセルロース繊維の疎水性分散液(トルエン添加)の粘度のグラフである。
図2】B型粘度計の回転数に対する、実施例7のセルロース繊維の疎水性分散液(プロセスオイル添加)の粘度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1. セルロース繊維の疎水性分散液の製造方法
【0015】
本発明のセルロース繊維の疎水性分散液の製造方法は、準備工程と、添加工程と、蒸発工程と、を含む。
【0016】
1.1 準備工程
準備工程では、セルロース繊維の親水性有機溶媒分散液を準備する。準備工程では、セルロース繊維が、分散媒に分散される。具体的には、セルロース繊維を、分散媒に分散させる。分散媒は、親水性有機溶媒を含有する。
【0017】
1.1.1 セルロース繊維
セルロース繊維の種類、径および長さは、限定されない。セルロース繊維は、機械的に解繊されていても、または、機械的に解繊されていなくてもよい。
【0018】
1.1.2 セルロース繊維の濃度
セルロース繊維の親水性有機溶媒分散液におけるセルロース繊維の濃度は、例えば、0.1質量%以上、好ましくは、1質量%以上、また、例えば、20質量%以下、好ましくは、10質量%以下である。なお、セルロース繊維の親水性有機溶媒分散液におけるセルロース繊維の濃度は、セルロース繊維の親水性有機溶媒分散液における固形分濃度に相当する。
【0019】
1.1.3 分散媒
分散媒は、親水性有機溶媒を主成分として含む。
【0020】
1.1.3.1 親水性有機溶媒
親水性有機溶媒は、水に可溶である。親水性有機溶媒の溶解度パラメータδは、例えば、10.5[cal/cm(1/2)以上、好ましくは、11.0[cal/cm(1/2)以上、また、例えば、15.0[cal/cm(1/2)以下、好ましくは、13.0[cal/cm(1/2)以下である。具体的には、溶解度パラメータδは、Hildebrandの溶解度パラメータである。溶解度パラメータδは、公知の計算手段を用いる計算ソフトにより算出できる。上記の溶解度パラメータδの定義および算出方法は、後述する疎水性液のそれと同様である。
【0021】
親水性有機溶媒の1気圧(0.1MPa)における沸点は、例えば、200℃以下、好ましくは、置換の効率を高くする観点から、130℃以下、また、例えば、55℃以上、好ましくは、75℃以上である。なお、以下、「沸点」と単に称呼するときは、1気圧における沸点を意味する。
【0022】
具体的には、親水性有機溶媒は、少なくとも1つの水酸基を有する。親水性有機溶媒として、例えば、1価アルコール、および、2価アルコールが挙げられる。
【0023】
1価アルコールとして、例えば、アルキルアルコール、モノエーテルモノアルコール、および、ポリエーテルモノアルコールが挙げられる。
【0024】
アルキルアルコールは、例えば、炭素数1以上16以下のアルキル基を有する。アルキルアルコールとして、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール(IPA)、n-ブタノール、イソブタノール、s-ブタノール、t-ブタノール、および、2-エチルヘキシルアルコールが挙げられる。
【0025】
モノエーテルモノアルコールとして、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル(セロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールターシャリーブチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、および、プロピレングリコールモノブチルエーテルが挙げられる。
【0026】
ポリエーテルモノアルコールとして、例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(カルビトール)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、および、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルが挙げられる。
【0027】
2価アルコールとして、例えば、アルカンジオール、および、エーテルジオールが挙げられる。
【0028】
アルカンジオールとして、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、および、1,6-ヘキサンジオールが挙げられる。
【0029】
エーテルジオールとして、例えば、ジエチレングリコール、および、ジプロピレングリコールが挙げられる。
【0030】
親水性有機溶媒は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0031】
親水性有機溶媒として、好ましくは、1価アルコールが挙げられ、より好ましくは、アルキルアルコールが挙げられ、さらに好ましくは、エタノールおよびイソプロパノール(IPA)が挙げられる。
【0032】
分散媒における親水性有機溶媒の含有割合は、例えば、50質量%を超過し、好ましくは、90質量%以上、より好ましくは、95質量%以上、また、例えば、100質量%以下である。
【0033】
1.1.3.2 副成分
分散媒は、水を副成分として含んでもよい。分散媒における水の含有割合は、例えば、50質量%に満たず、好ましくは、10質量%以下、より好ましくは、5質量%以下、また、例えば、1質量%以上、好ましくは、2質量%以上である。
【0034】
分散媒は、後述する疎水性液を副成分として含んでもよい。
【0035】
1.1.4 セルロース繊維の親水性有機溶媒分散液の準備
セルロース繊維の親水性有機溶媒分散液を準備するには、例えば、セルロース繊維と、親水性有機溶媒とを配合して、混合する。または、セルロース繊維が、水に分散されるセルロース繊維水系分散液を準備し、次いで、セルロース繊維水系分散液に親水性有機溶媒を添加して、水と親水性有機溶媒とを混合し、次いで、水と親水性有機溶媒との混合溶媒を蒸発させる。
【0036】
1.2 添加工程
添加工程は、準備工程の後に実施される。添加工程では、セルロース繊維の親水性有機溶媒分散液に疎水性液を添加する。
【0037】
1.2.1 疎水性液
疎水性液は、例えば、25℃で液状である。疎水性液の溶解度パラメータδは、例えば、10.0[cal/cm(1/2)以下、好ましくは、9.5[cal/cm(1/2)以下、また、例えば、3.0[cal/cm(1/2)以上、好ましくは、5.0[cal/cm(1/2)以上である。
【0038】
疎水性液としては、例えば、疎水性有機溶媒、および、反応性希釈剤が挙げられる。これらは、単独使用または併用できる。
【0039】
1.2.1.1 疎水性有機溶媒
疎水性有機溶媒は、例えば、セルロース繊維を分散できながら、反応性を有しない。反応性は、重合性を含む。疎水性有機溶媒としては、低沸点有機溶媒、および、高沸点有機溶媒が挙げられる。
【0040】
低沸点有機溶媒の1気圧(0.1MPa)における沸点は、例えば、200℃以下、好ましくは、利用時の親水性有機溶媒を効率的に除去する観点から、150℃以下、また、例えば、55℃以上、好ましくは、置換を効率的に実施する観点から、75℃以上である。低沸点有機溶媒としては、例えば、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、エーテル類、および、エステル類が挙げられる。
【0041】
脂肪族炭化水素類として、例えば、n-ヘキサン、n-ヘプタン、および、オクタンが挙げられる。
【0042】
芳香族炭化水素類として、例えば、ベンゼン、トルエン、および、キシレンが挙げられる。芳香族炭化水素類として、好ましくは、トルエン、および、キシレンが挙げられる。
【0043】
エーテル類として、例えば、ジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、および、プロピレングリコールジメチルエーテルが挙げられる。
【0044】
エステル類として、例えば、酢酸エステル、および、酪酸エステルが挙げられる。酢酸エステルとしては、例えば、酢酸エチル、および、酢酸ブチルが挙げられる。酪酸エステルとしては、例えば、酪酸ブチルが挙げられる。エステル類として、好ましくは、酢酸エステル、より好ましくは、酢酸エチルが挙げられる。
【0045】
高沸点有機溶媒の1気圧(0.1MPa)における沸点は、例えば、200℃を超過し、添加工程および除去工程の回数を少なくする観点から、好ましくは、250℃以上、より好ましくは、300℃以上、例えば、500℃以下である。高沸点有機溶媒の沸点は、初留点に近似する。また、高沸点有機溶媒の沸点は、好ましくは、親水性有機溶媒の有機溶媒より高い。
【0046】
高沸点有機溶媒としては、例えば、オイル類、および、可塑剤が挙げられる。オイル類としては、例えば、石油系オイル、脂肪油、ワックス、および、長鎖脂肪酸が挙げられる。石油系オイルとしては、例えば、プロセスオイル、潤滑油、パラフィン、流動パラフィン、および、石油アスファルトが挙げられる。脂肪油としては、亜麻仁油、桐油、大豆油、胡麻油、および、鯨油が挙げられる。ワックスとしては、例えば、蜜ロウ、および、カルナバロウが挙げられる。長鎖脂肪酸としては、例えば、リノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、および、ラウリン酸が挙げられる。高沸点有機溶媒は、単独使用または併用できる。オイル類として、好ましくは、石油系オイル、より好ましくは、プロセスオイルが挙げられる。
【0047】
可塑剤としては、例えば、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、セバシン酸エステル、および、リン酸エステルが挙げられる。
【0048】
フタル酸エステルとしては、例えば、ジブチルフタレート(DBP)、および、ジオクチルフタレート(DOP)が挙げられる。アジピン酸エステルとしては、例えば、ジオクチルアジペート(DOA)が挙げられる。セバシン酸エステルとしては、例えば、ジオクチルセバケートが挙げられる。リン酸エステルとしては、例えば、トリクレジルフォスフェートが挙げられる。可塑剤として、好ましくは、フタル酸エステル、より好ましくは、DOPが挙げられる。
【0049】
反応性希釈剤は、セルロース繊維を分散できる一方、適用対象に配合される時または配合された後には、反応する。反応は、重合を含む。反応性希釈剤としては、例えば、重合性モノマーが挙げられる。重合性モノマーは、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物と重合可能である。具体的には、重合性モノマーとしては、例えば、スチレン、および、α-メチルスチレンが挙げられる。重合性モノマーとして、好ましくは、スチレンが挙げられる。なお、反応性希釈剤の1気圧(0.1MPa)における沸点は、上記した低沸点有機溶媒のそれと同様である。
【0050】
1.2.2 添加量
添加工程において、疎水性液の添加量は、親水性溶媒100質量部に対して、例えば、15質量部以上、好ましくは、25質量部以上、より好ましくは、35質量部以上、さらに好ましくは、80質量部以上、また、例えば、1100質量部以下、好ましくは、550質量部以下、より好ましくは、450質量部以下、さらに好ましくは、350質量部以下、とりわけ好ましくは、250質量部以下、特に好ましくは、200質量部以下である。
【0051】
添加工程において、疎水性液の添加量は、セルロース繊維の親水性有機溶媒分散液100質量部に対して、例えば、10質量部以上、好ましくは、20質量部以上、より好ましくは、30質量部以上、とりわけ好ましくは、75質量部以上、また、例えば、1000質量部以下、好ましくは、500質量部以下、より好ましくは、400質量部以下、さらに好ましくは、300質量部以下、とりわけ好ましくは、200質量部以下、特に好ましくは、150質量部以下である。
【0052】
疎水性液の添加量が上記下限以上であると、蒸発工程において、混合物(後述)における親水性有機溶媒の含有割合を確実に低減できる。疎水性液の添加量が上記上限以下であると、疎水性液の配合量を低減でき、後述する蒸発工程に要する時間を低減でき、セルロース繊維の疎水性分散液の製造効率を向上できる。
【0053】
1.2.3 混合
添加工程では、セルロース繊維の親水性有機溶媒分散液に疎水性液を添加し、続いて、親水性有機溶媒と疎水性液とを混合する。具体的には、セルロース繊維の親水性有機溶媒分散液に疎水性液を添加して、それらを攪拌混合する。これにより、セルロース繊維の親水性有機溶媒分散液と、疎水性液とを含む混合物が調製される。
【0054】
1.3 蒸発工程
蒸発工程は、添加工程の後に実施される。次いで、混合物から、親水性有機溶媒と疎水性液との混合液を蒸発させる。より具体的には、混合物から疎水性液を親水性有機溶媒より多くの割合で蒸発させる。蒸発工程を実施するには、例えば、ロータリーエバポレータが利用される。
【0055】
1.3.1 蒸発工程の条件
【0056】
蒸発工程における圧力は、例えば、0.1kPa以上、好ましくは、1kPa以上、また、例えば、0.1MPa(1気圧)以下、好ましくは、30kPa以下である。
【0057】
蒸発工程における温度は、例えば、40℃以上、好ましくは、45℃以上、また、例えば、150℃以下、好ましくは、100℃以下、より好ましくは、70℃以下、さらに好ましくは、60℃以下である。
【0058】
1.3.2 蒸発される混合液およびその量
【0059】
蒸発される混合液は、親水性有機溶媒と疎水性液とを含む。蒸発される混合液は、水の含有を許容する。蒸発される混合液の量は、例えば、添加した疎水性液100質量部に対して、例えば、50質量部以上、好ましくは、90質量部以上、より好ましくは、100質量部である。言い換えれば、蒸発工程では、より好ましくは、直前の添加工程で添加した疎水性液と同量の混合液を蒸発させる。これにより、蒸発工程の管理が簡便となる。
【0060】
1.3.3 疎水性液の含有割合
添加工程と蒸発工程とを実施することにより、分散媒における疎水性液の含有割合が50質量%を超過するように調整する。言い換えれば、添加工程と蒸発工程とを実施することにより、分散媒における疎水性液の含有割合が50質量%を超過する。分散媒における疎水性液の含有割合は、好ましくは、80質量%以上、より好ましくは、95質量%以上、さらに好ましくは、97質量%以上、また、例えば、100質量%以下である。分散媒における疎水性液の含有割合は、例えば、ガスクロマトグラフィを用いて求められる。なお、分散媒が水および/または親水性有機溶媒の含有を許容している場合には、それらの残部として算出される。分散媒における疎水性液の含有割合の測定方法は、後述する。
【0061】
1.4 添加工程および蒸発工程の回数
1.4.1 1回ずつの実施
【0062】
例えば、上記した添加工程および蒸発工程を少なくとも1回ずつ実施する。好ましくは、工程数を低減する観点から、上記した添加工程および蒸発工程を1回ずつ実施する。具体的には、疎水性液が高沸点有機溶媒であれば、添加工程および蒸発工程を1回ずつ実施する。これによって、分散媒における疎水性液の含有割合が50質量%を確実に超過する一方、工程数を低減できる。
【0063】
1.4.2 2回以上ずつの実施
また、好ましくは、疎水性液として低沸点有機溶媒または反応性希釈剤を使用する(使いこなす)観点から、添加工程および蒸発工程を2回以上ずつ実施する。つまり、添加工程および蒸発工程を繰り返す。
【0064】
疎水性液が低沸点有機溶媒または反応性希釈剤であれば、好ましくは、添加工程および蒸発工程を繰り返す。これによって、分散媒における疎水性液の含有割合が50質量%を確実に超過できる。
【0065】
また、添加工程を繰り返す場合には、疎水性液の総添加量は、セルロース繊維の親水性有機溶媒分散液100質量部に対して、例えば、100質量部以上、好ましくは、200質量部以上、より好ましくは、300質量部以上、また、例えば、2000質量部以下、好ましくは、1000質量部以下、より好ましくは、700質量部以下、さらに好ましくは、500質量部以下である。
【0066】
添加工程および蒸発工程を繰り返す場合には、今回蒸発される混合液の量は、直前の添加工程で添加した疎水性液100質量部に対して、例えば、50質量部以上、好ましくは、90質量部以上、より好ましくは、100質量部である。言い換えれば、蒸発工程では、より好ましくは、直前の添加工程で添加した疎水性液と同量の混合液を蒸発させる。これにより、蒸発工程の管理が簡便となる。
【0067】
添加工程と蒸発工程との繰り返し回数は、例えば、1回以上、好ましくは、2回以上、また、例えば、10回以下、好ましくは、7回以下である。添加工程と蒸発工程との繰り返し回数が上記下限以上であると、混合液における親水性有機溶媒の含有割合を高くできる。添加工程と蒸発工程との繰り返し回数が上記上限以下であると、セルロース繊維の疎水性分散液の製造効率を高めることができる。
【0068】
また、添加工程と蒸発工程とを繰り返して実施する場合、前回の蒸発工程により得られたセルロース繊維水系分散液と親水性有機溶媒との混合物に、疎水性液を上記した添加量で再度添加した後、上記した条件下で混合溶媒が再度蒸発される。
【0069】
以上によって、セルロース繊維の疎水性分散液が製造される。
【0070】
セルロース繊維の疎水性分散液における濃度は、例えば、1質量%以上、好ましくは、2質量%以上、また、例えば、90質量%以下、好ましくは、50質量%以下、より好ましくは、20質量%以下、さらに好ましくは、10質量%以下である。
【0071】
セルロース繊維の疎水性分散液における疎水性液の含有割合は、例えば、50質量%を超過し、好ましくは、80質量%以上、より好ましくは、95質量%以上、さらに好ましくは、97質量%以上、また、例えば、100質量%以下である。
【0072】
なお、セルロース繊維の疎水性分散液には、微量の親水性有機溶媒の混入、さらには、微量の水の混入が許容される。
【0073】
具体的には、セルロース繊維の疎水性分散液の混合液における親水性有機溶媒の含有割合は、例えば、0質量%以上、好ましくは、1質量%以上、また、50質量%未満、好ましくは、20質量%以下、より好ましくは、5質量%以下、さらに好ましくは、3質量%以下である。なお、親水性有機溶媒の含有割合は、ガスクロマトグラフィーにより測定できる。
【0074】
セルロース繊維の疎水性分散液の疎水性分散液の混合液における水の含有割合は、例えば、0質量%以上、好ましくは、1質量%以上、また、50質量%未満、好ましくは、20質量%以下、より好ましくは、5質量%以下、さらに好ましくは、3質量%以下である。なお、水の含有割合は、カールフィッシャー式水分測定器により測定できる。
【0075】
1.4.3 別の疎水性液
なお、次に説明する適用対象の種類および配合方法に応じて、セルロース繊維の疎水性分散液における疎水性液を別の疎水性液に交換することができる。好ましくは、セルロース繊維の疎水性分散液における疎水性有機溶媒を別の疎水性有機溶媒に交換することができる。具体的には、セルロース繊維の疎水性分散液に別の疎水性液を添加し、次いで、疎水性液と別の疎水性液との疎水性混合溶媒を蒸発させる。例えば、セルロース繊維および低沸点有機溶媒(好ましくは、芳香族炭化水素類、より好ましくは、トルエン)を含む疎水性分散液に、高沸点有機溶媒(好ましくは、オイル類)を追加し、次いで、低沸点有機溶媒および高沸点有機溶媒の疎水性混合溶媒を蒸発させる。
【0076】
1.5 適用対象への配合
【0077】
セルロース繊維の疎水性分散液は、例えば、適用対象に配合される。適用対象は、成形品を含む。成形品は、ゴム成形品を含む。
【0078】
2. 効果
【0079】
本発明のセルロース繊維の疎水性分散液の製造方法では、セルロース繊維の親水性有機溶媒分散液に疎水性液を添加して、親水性有機溶媒と疎水性液とを混合し、親水性有機溶媒と疎水性液との混合液を蒸発させる。そして、添加工程と蒸発工程とを実施して、分散媒における疎水性液の含有割合を、50質量%を超過するように調整する。
【0080】
そのため、疎水性分散液は、界面活性剤を含む添加物を含むことなく、セルロース繊維が疎水性液に対して良好に分散にされる。疎水性液に対するセルロース繊維の分散性は、粘度測定、沈降試験、および/または、顕微観察によって確認される。その結果、疎水性分散液を適用対象に配合すれば、適用対象の物性を十分に高めながら、適用対象におけるセルロース繊維の分散性が良好である。
【0081】
また、上記した添加工程および蒸発工程を1回ずつ実施すれば、工程数を低減でき、製造効率が向上する。
【0082】
一方、添加工程および蒸発工程を2回以上ずつ実施すれば、疎水性液が低沸点有機溶媒または反応性希釈剤であっても、分散媒における疎水性液の含有割合が50質量%を確実に超過できる。
【実施例0083】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、それらに限定されない。以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0084】
[セルロース繊維の疎水性分散液の製造]
[実施例1]
表1に記載の配合割合で、セルロース繊維と、親水性有機溶媒としてのエタノールと、水とを配合して、それらを攪拌混合した。これによって、セルロース繊維の親水性有機溶媒分散液を準備した(準備工程)。セルロース繊維の親水性有機溶媒分散液における分散媒は、エタノールと、水とを含む。エタノールの溶解度パラメータδは、12.9[cal/cm(1/2)である。エタノールの沸点は、78℃である。
【0085】
次いで、セルロース繊維の親水性有機溶媒分散液100質量部に、酢酸エチル(疎水性液、低沸点有機溶媒)100質量部を添加して、分散媒と酢酸エチルとを攪拌混合して、混合物を調製した(第1回目の添加工程)。酢酸エチルの溶解度パラメータδは、9.1[cal/cm(1/2)である。酢酸エチルの沸点は、77℃である。
【0086】
次いで、ロータリーエバポレータを利用して、分散媒と酢酸エチルとの混合液100質量部を、10kPaおよび50℃の条件で蒸発させた(第1回目の蒸発工程)。
【0087】
その後、上記した添加工程および蒸発工程を4回繰り返した。つまり、添加工程および蒸発工程を5回ずつ実施した。第2回目-第5回目のそれぞれの酢酸エチルの添加量は、第1回目の酢酸エチルの添加量と同量である100質量部であった。第2回目-第5回目のそれぞれの混合液の蒸発量は、第1回目の蒸発量と同量である100質量部であった。第2回目-第5回目のそれぞれの蒸発条件は、第1回目の蒸発条件と同一であった。
【0088】
これによって、セルロース繊維の疎水性分散液を製造した。セルロース繊維の疎水性分散液における濃度は、5質量%であった。混合液における疎水性液(酢酸エチル)の含有割合は、98.1質量%であった。混合液における疎水性液の含有割合は、ガスクロマトグラフィによって求めた。
【0089】
実施例1の処方と、疎水性液の含有割合と、親水性有機溶媒の溶解度パラメータδおよび沸点と、疎水性液の溶解度パラメータδおよび沸点とを表1に記載する。
【0090】
[実施例2-実施例7]
実施例1と同様にして、セルロース繊維の疎水性分散液を製造した。但し、セルロース繊維の親水性有機溶媒分散液の処方、添加工程および蒸発工程のそれぞれの回数、疎水性液の種類、疎水性液の添加量は、表2-表7に記載の通りに変更した。
【0091】
すなわち、表2および表3に記載の通り、実施例2および実施例3では、添加工程と蒸発工程とを3回ずつ繰り返した。表4および表5に記載の通り、実施例4および実施例5では、添加工程と蒸発工程とを2回ずつ繰り返した。
【0092】
一方、実施例6および実施例7は、添加工程と蒸発工程とを1回ずつ実施した。つまり、添加工程と蒸発工程とを繰り返さなかった。
【0093】
実施例6の蒸発工程の条件は、10kPaおよび60℃であった。
【0094】
実施例7の蒸発工程の条件は、0.1MPa(1気圧)および100℃であった。
【0095】
実施例2-実施例7のそれぞれの処方、親水性有機溶媒の溶解度パラメータδおよび沸点と、疎水性液の溶解度パラメータδおよび沸点(初留点)とを、表2-表7に記載する。
【0096】
[セルロース繊維の疎水性分散液の分散性の評価]
実施例3で製造されたセルロース繊維の疎水性分散液100質量部にトルエン150質量部を追加した。このセルロース繊維の疎水性分散液の粘度をB型粘度計(商品名 アナログ粘度計 LVT、Brookfield社製)を用いて測定した。粘度の測定温度は、20℃であり、ローターは、LV-3号、測定開始から5回転目の値を粘度として採用した。粘度測定における回転数および対応する粘度の結果を表8および図1に示す。
【0097】
実施例3と同様に、実施例7で製造されたセルロース繊維の疎水性分散液100質量部にトルエン150質量部を追加し、その粘度を測定した。粘度測定における回転数および対応する粘度の結果を表8および図1に示す。
【0098】
実施例7で製造されたセルロース繊維の疎水性分散液100質量部にプロセスオイル500質量部を追加し、その粘度を測定した。粘度測定における回転数および対応する粘度の結果を表8および図2に示す。
【0099】
図1図2から分かるように、実施例3および実施例7のセルロース繊維の疎水性分散液は、セルロース繊維の疎水性分散液のチクソ性(チキソトロピー)を有する。そのため、実施例3および実施例7のそれぞれのセルロース繊維の疎水性分散液においてセルロース繊維の分散性が良好であることを確認した。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【0102】
【表3】
【0103】
【表4】
【0104】
【表5】
【0105】
【表6】
【0106】
【表7】
【0107】
【表8】
図1
図2