(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155954
(43)【公開日】2023-10-24
(54)【発明の名称】磁気センサ
(51)【国際特許分類】
G01R 33/09 20060101AFI20231017BHJP
G01R 33/02 20060101ALI20231017BHJP
H10N 50/10 20230101ALI20231017BHJP
H10N 50/80 20230101ALI20231017BHJP
A61B 5/242 20210101ALI20231017BHJP
【FI】
G01R33/09
G01R33/02 V
G01R33/02 R
H01L43/08 P
H01L43/02 Z
A61B5/242
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065484
(22)【出願日】2022-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】クルカルニ プラバンジャン ディリプ
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 仁志
(72)【発明者】
【氏名】中谷 友也
【テーマコード(参考)】
2G017
4C127
5F092
【Fターム(参考)】
2G017AA01
2G017AC07
2G017AD55
2G017BA05
4C127AA10
4C127EE01
5F092AA01
5F092AB01
5F092AC08
5F092BB03
5F092BB04
5F092BB05
5F092BB09
5F092BB10
5F092BB17
5F092BB22
5F092BB31
5F092BB42
5F092BB53
5F092BC07
5F092BC13
5F092BC42
5F092FA08
(57)【要約】
【課題】微弱な磁界が検出できる磁気センサを提供すること。
【解決手段】本発明の磁気センサは、第1の磁性層102、非磁性層103及び第2の磁性層104を順次積層した多層膜を有する磁気抵抗素子10であって、通電枢軸部10bと当該通電枢軸部10bの通電方向(第1方向)と面内直交する方向(第2方向)の面内側縁に設けられ且つ前記通電方向に沿って絶縁または高抵抗の領域で隔てられた複数の側方翼部10a、10cとを備える磁気抵抗素子10と、通電枢軸部10bの面内直交する方向(第2方向)に沿った両側にそれぞれ配置した一対の磁束収束磁性体層11a、11bであって、磁束収束磁性体層11a、11bは磁気抵抗素子10の膜厚方向(第1、第2方向と直交する第3方向)に、側方翼部10a、10cと重なる部位を有するものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の磁性層、非磁性層及び第2の磁性層を順次積層した多層膜を有する磁気抵抗素子であって、通電枢軸部と、当該通電枢軸部の通電方向と面内直交する方向の面内側縁に設けられ且つ前記通電方向に沿って絶縁または高抵抗の領域で隔てられた複数の側方翼部とを備える前記磁気抵抗素子と、
前記通電枢軸部の面内直交方向に沿った両側にそれぞれ配置した一対の磁束収束磁性体層であって、前記磁束収束磁性体層は、前記磁気抵抗素子の膜厚方向に、前記側方翼部と重なる部位を有する、
磁気センサ。
【請求項2】
更に、前記磁束収束磁性体層は前記通電枢軸部とは重ならない状態の領域を有する、請求項1に記載の磁気センサ。
【請求項3】
前記側方翼部の形状について、前記側方翼部と前記通電枢軸部との接続部において通電方向に沿った長さをLf、隣接する前記側方翼部と前記通電枢軸部との接続部における通電方向に沿った間隔をLgとするとき、
Lg<Lf
なる関係式が成立する形状を有する、
請求項2に記載の磁気センサ。
【請求項4】
前記通電枢軸部と前記側方翼部の形状について、前記通電枢軸部の面内直交方向長をW、前記側方翼部の前記通電枢軸部との接続幅をLf、前記側方翼部の面内直交方向に沿った長さをWfとするとき、
Lf<W 且つ Lf<Wf
なる関係式が成立する形状を有する、
請求項1乃至3の何れかに記載の磁気センサ。
【請求項5】
前記通電枢軸部の幅をW、前記側方翼部の延伸長さをWfとするとき、
W<Wf
なる関係式が成立する形状を有する、
請求項1乃至4の何れかに記載の磁気センサ。
【請求項6】
前記磁束収束磁性体層と前記磁気抵抗素子との間の界面は、絶縁または高抵抗の領域で隔てられている、
請求項1乃至5の何れかに記載の磁気センサ。
【請求項7】
前記磁束収束磁性体層と前記磁気抵抗素子は、膜厚方向で接している請求項1乃至5の何れかに記載の磁気センサ。
【請求項8】
前記通電枢軸部の通電方向を挟んで複数設けられた一対の前記磁束収束磁性体層の間隔をg、前記通電枢軸部の幅をW、前記側方翼部の前記通電枢軸部との接続幅をLfとするとき、
W+2Lf≦g 且つWf>Lf
なる関係式が成立する形状を有する、
請求項7に記載の磁気センサ。
【請求項9】
さらに、前記通電枢軸部と膜厚方向で重なるように設けられた交流通電配線を有する、
請求項1乃至8の何れかに記載の磁気センサ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気センサに関する。
【背景技術】
【0002】
ピコテスラ(pT)級の超微小磁界を検出できる高感度磁気センサとして、検出磁界を磁気抵抗素子に収束・集中させるMFC(Magnetic Flux Concentrator)を利用したTMR、GMRセンサが着目されている。巨大磁気抵抗(GMR:Giant MagnetoResistance)素子の両側にMFCの磁束を効率よくGMR部に収束させるために、GMR素子の一部をMFCに重ねた構成が提案されている(特許文献1参照)。このような磁気センサを用いた脳磁計が特許文献2で提案されている。また、MFCは、例えば特許文献3に開示されている。
【0003】
GMR素子とMFCの重ね部は、その間に絶縁層を挟んでGMR部のみにセンス電流を通電する。GMR素子は長方形であり、GMR素子幅方向に均一な電流分布である。そのためGMRの幅方向では、どの場所でも均一な抵抗変化が発生する。その結果、GMR幅内で感度分布は均一になる。
一方、重ね部では、GMRでなくMFC部に信号磁束が集中して、重ね部GMRの信号磁束流入は少なく磁界検出には寄与しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2019/239933 段落0009、請求項4
【特許文献2】特開2018-48832号公報
【特許文献3】米国特許第7358724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された磁気センサでは、GMR幅に比べてMFCギャップ部(重ね部無のGMR領域に相当)を狭くできるのでMFCギャップ部のGMR領域に効率よく信号磁束を収束・増大できる。しかし、信号磁界が殆ど通らない重ね部にもGMR電流が流れる。そのため、ギャップ部よりも重ね部を広げて効率力よくGMR部に磁束を集めると、重ね部に流れるGMR電流分散によりMFCギャップ内のGMR感度領域の電流が低下して、抵抗変化による出力電圧(抵抗変化×電流)が低下するという課題がある。
この課題は、例えば脳磁計のような非常に微弱な磁場を検出する必要のある用途では、克服すべき課題となっている。
本発明の目的は、例えば脳磁計のような非常に微弱な磁界が検出できる磁気センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔1〕本発明の磁気センサは、例えば
図1、
図2に示すように、第1の磁性層102、非磁性層103及び第2の磁性層104を順次積層した多層膜を有する磁気抵抗素子10であって、通電枢軸部10bと当該通電枢軸部10bの通電方向(第1方向)と面内直交する方向(第2方向)の面内側縁に設けられ且つ前記通電方向に沿って絶縁または高抵抗の領域で隔てられた複数の側方翼部10a、10cとを備える磁気抵抗素子10と、
通電枢軸部10bの面内直交する方向(第2方向)に沿った両側にそれぞれ配置した一対の磁束収束磁性体層11a、11bであって、磁束収束磁性体層11a、11bは磁気抵抗素子10の膜厚方向(第1、第2方向と直交する第3方向)に、側方翼部10a、10cと重なる部位を有するものである。
【0007】
このように構成された装置においては、磁束収束磁性体層11a、11bと重なる磁気抵抗素子の領域を側方翼部10a、10cに限定して、通電枢軸部10bを磁束収束磁性体層11a、11bのギャップg内に位置させることにより、重ね部にリークする電流が低減され、通電枢軸部10bのみに電流が集中する。その結果、磁束収束磁性体層11a、11bと重なる磁気抵抗素子の領域による磁気抵抗効果低減の悪影響が抑制され、磁気センサの磁気信号検出感度が向上する。
【0008】
〔2〕本発明の磁気センサ〔1〕において、好ましくは、側方翼部10a、10cは通電枢軸部10bとは重ならない状態の領域を有するとよい。
〔3〕本発明の磁気センサ〔2〕において、好ましくは、側方翼部10a、10cの形状について、側方翼部10a、10cの通電枢軸部10bとの接続幅をLf、隣接する側方翼部10a、10cの間の間隔をLgとするとき、
Lg<Lf
なる関係式が成立する形状を有するとよい。
【0009】
〔4〕本発明の磁気センサ〔1〕乃至〔3〕において、好ましくは、通電枢軸部10bと側方翼部10a、10cの形状について、通電枢軸部10bの幅をW、側方翼部10a、10cの通電枢軸部10bとの接続幅をLf、側方翼部10a、10cの延伸長さをWfとするとき、
W>Lf 且つ Wf>Lf
なる関係式が成立する形状を有するとよい。
〔5〕本発明の磁気センサ〔1〕乃至〔4〕の何れかにおいて、好ましくは、通電枢軸部10bの幅をW、側方翼部10a、10cの延伸長さをWfとするとき、
W<Wf
なる関係式が成立する形状を有するとよい。
【0010】
〔6〕本発明の磁気センサ〔1〕乃至〔5〕の何れかにおいて、好ましくは、磁束収束磁性体層11a、11bと磁気抵抗素子10との間の界面は、絶縁または高抵抗の領域で隔てられているとよい。
〔7〕本発明の磁気センサ〔1〕乃至〔5〕の何れかにおいて、例えば
図9に示すように、好ましくは、磁束収束磁性体層911a、911bと磁気抵抗素子910は、膜厚方向で接しているとよい。
〔8〕本発明の磁気センサ〔7〕において、好ましくは、通電枢軸部910bの通電方向を挟んで複数設けられた一対の磁束収束磁性体層911a、911bの間隔をg、通電枢軸部910bの幅をW、側方翼部910a、910cの通電枢軸部910bとの接続幅をLfとするとき、
W+2Lf≦g 且つWf>Lf
なる関係式が成立する形状を有するとよい。
〔9〕本発明の磁気センサ〔1〕乃至〔8〕の何れかにおいて、好ましくは、例えば
図11に示すように、さらに、通電枢軸部10bと膜厚方向で重なるように設けられた交流通電用の配線層16を有するとよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の磁気センサによれば、磁気抵抗素子の膜厚方向に、側方翼部と重なる状態で設けられると共に、通電枢軸部とは重ならない状態で設けられた磁束収束磁性体層とを備えるので、通電枢軸部に流れるGMR電流が磁気抵抗素子と側方翼部と重なる領域に分散せず、微弱な磁界が検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1の実施形態を示す磁気センサの平面図で、左右の側方延伸部の形状が先端部で楕円形の場合を示している。
【
図2】
図1に示す切断線A-Aで切断した断面図である。
【
図3】本発明の第1の変形実施例を示す磁気センサの平面図で、左右の側方延伸部の第1方向に沿った繰り返しの位相が異なる場合を示している。
【
図4】本発明の第2の変形実施例を示す磁気センサの平面図で、左右の側方延伸部の形状が長方形の場合を示している。
【
図5】本発明の第3の変形実施例を示す磁気センサの平面図で、左右の側方延伸部の形状が先端部で楕円形であって、中央軸部との接続端での幅より先端部と中央軸部との接続端の間の領域で幅が広くなる形状の場合を示している。
【
図6】磁気抵抗素子の電流分布の計算例を示す図で、併せて感磁素子通電枢軸部10b中心からの第2方向距離と電流との関係を示してある。
【
図7】Lfをパラメータとした、感磁素子通電枢軸部10b中心からの第2方向距離と電流との関係を示す図である。
【
図8】(A)は感磁素子側方翼部10a域の電流Iwと漏れ電流Iwfの比Iwf/IwとLf/Wの関係を示す図、(B)は
図6から求めた漏れ電流Iwfと感磁素子側方翼部域電流Iwの比であるIwf/Iwと、Lg/Lfの関係を示す図である。
【
図9】本発明の第2の実施形態を示すもので、(A)は第1方向と第2方向からなる平面図、(B)は第3方向と第2方向からならB-B箇所の断面図である。
【
図10】本発明の第3の実施形態を示す、第1方向と第2方向からなる平面図である。
【
図11】本発明の第3の実施形態を示す、第3方向と第2方向からならA-A箇所の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に図面を参照して実施形態について説明する。
【実施例0014】
(第1実施例)
第1実施例による磁気センサについて
図1~
図2を参照して説明する。
図1は、本発明の第1の実施例を示す磁気センサユニットの平面図で、左右の側方延伸部の形状が先端部で楕円形の場合を示している。
図2は、
図1に示す切断線A-Aで切断した断面図である。なお、
図1は
図2に示す切断線B-Bで切断した断面から上方向を向いた平面図である。
図において、第1実施例による磁気センサは、磁気抵抗素子膜10、磁性体層11、基板12、絶縁層を備えており、これに定電流源20と信号電圧検出部22が接続される。なお、絶縁層は
図1では図示を省略し、
図2に絶縁層15a、15bとして図示している。
【0015】
磁気抵抗素子膜10は、平面方向には感磁素子通電枢軸部10b、感磁素子側方翼部10a、10cで構成されると共に、膜厚方向には下地層101、ピン層102、中間層103、自由層104、キャップ層105が基板12に積層されている。基板12には、シリコン基板やGaAs基板、アルミナ基板、ガラス基板等が用いられる。
座標系の表示に関しては、第1方向が感磁素子通電枢軸部10bの長手方向で、GMR通電方向となっている。第2方向は感磁素子通電枢軸部10bの幅方向で、感磁素子側方翼部10a、10cの長手方向にもなっている。第3方向は、磁気抵抗素子膜10の膜厚方向である。
【0016】
感磁素子通電枢軸部10bは、磁気センサの機能的中心部位であり、その第1方向両端に定電流源20と接続する電極部が設けられている。感磁素子通電枢軸部10bの長手方向の長さは、感磁素子通電枢軸部10bの幅方向よりも十分長くすることにより(例えば、10倍以上)、検出磁界が無い状態で自由層104の磁化も長手方向に安定化する。ピン層磁化を幅と方向に固着すると、検出磁界が加わると磁気センサーの抵抗は線形に変化する。その抵抗変化に応じた電圧変化を検出できる。
感磁素子側方翼部10a、10cは、感磁素子通電枢軸部10bの第2方向端から延伸した磁気抵抗素子10の部位であり、感磁素子側方翼部10aは第2方向の+方向(
図1中、上方向)、感磁素子側方翼部10cは第2方向の-方向(
図1中、下方向)に延伸する。感磁素子側方翼部10a、10cは、第1方向に沿って、絶縁領域15を挟んで複数設ける。
【0017】
Lfは、感磁素子側方翼部10aが感磁素子通電枢軸部10bと接する部位の長さである。Lgは、感磁素子側方翼部10a、10cの隣接する感磁素子側方翼部10a、10c間の間隔である。Wfは、感磁素子側方翼部10a、10cの感磁素子通電枢軸部10bとの接続部位から延伸した終点まで延伸長さである。Wは、感磁素子通電枢軸部の幅である。なお、
図1に示す実施例では、感磁素子側方翼部10cと接する部位の長さもLfとしたが、感磁素子側方翼部10aと感磁素子側方翼部10cのLfは異なってよい。
【0018】
磁気抵抗素子10は、
図2に示すように、第3方向に沿って、複数の積層体からなる。第3方向は、第1方向、第2方向と直交する。第3方向は膜厚方向である。
下地層101は基板12上に成膜される層で、ピン層102の結晶性改善(結晶粒径増大、膜面垂直方向への結晶配向)の為に用いられる層であり、例えばTa、Ru、Cu、Ni、Fe、Crなどが用いられる。
ピン層102は磁化が固定された層で、例えばIrMnなどの反強磁性膜、CoFe、Ru、CoFeの積層体である。ピン層102の十分な磁化固着は、IrMn等の反強磁性膜を中間層103との反対側に積層して、さらにピン層102は、反強磁性的な層間結合を発生させるRu層等を間に挟んで積層化することで実現できることが知られている。ピン層102には磁気抵抗効果の発現に適したCoFe合金等を用いることが好ましい。
中間層103はピン層102と自由層104の間に設けられる非磁性中間層であり、磁気抵抗効果発現に適したCu等を用いる。
自由層104は磁化が信号磁界に応じて回転する層で、CoFe合金、NiFe合金、CoFeNi合金、CoFeとNiFeの積層構成等を用いる。
キャップ層105は、自由層104を覆うように積層されるもので、例えばTa、Ruなどを用いる。
【0019】
磁気抵抗素子10の上には、絶縁層15bを挟んで、第3方向に沿って一対のMFC磁性層11a、11bを配置する。一対のMFC磁性層11a、11bは、NiFe、NiFeMoCu、アモルファス合金などからなる軟磁性膜であり、磁束収束磁性回路(MFC:magnetic flux concentrator)の一部をなす。gは第2方向に沿って一対のMFC磁性層11a、11bの間に存在する間隔で、感磁素子通電枢軸部の幅Wよりも大きいことが望ましい。一対のMFC磁性層11a、11bは、膜厚方向に沿って、磁気抵抗素子10の感磁素子側方翼部10a、10c部位と絶縁層15bを挟んで重なる領域を有する。なお、磁束収束磁性回路では、特許文献3に示されるような、図示しない磁気回路が一対のMFC磁性層11a、11bの近傍に設けられる。
感磁素子側方翼部10a、10cの部位では、MFC磁性層11a、11bと絶縁層15bを挟んで重なる領域を設ける。当該重なる領域を設けると、MFC磁性層11a、11bから感磁素子通電枢軸部10bへの信号磁界の収束効率が増大して検出感度が増大する。
【0020】
絶縁層15bは、MFC磁性層11a、11bと、感磁素子側方翼部10a、10c及び感磁素子通電枢軸部10bの間に設けられるもので、SiO2,Al2O3などよりなる。その厚みは絶縁が安定して確保できる必要最小限とする。絶縁層15aは、MFC磁性層11a、11bを覆うように設けられる。
定電流源20は、感磁素子通電枢軸部10bの両端に設けられた電極部に接続され、感磁素子通電枢軸部10bの第1方向に電流を流す。
信号電圧検出部22は、感磁素子通電枢軸部10bの両端に設けられた電極部に接続され、磁気抵抗素子10に発生する電圧を検出することで、磁気抵抗素子10の第2方向に加わる信号磁界に応じて磁気抵抗素子10の抵抗が変化することを検出する。
【0021】
このように構成された装置においては、定電流源20からの給電により、感磁素子通電枢軸部10bの第1方向に電流が流れる。磁気抵抗素子10の抵抗が、第1方向と直交する第2方向に加わる信号磁界に応じて変化すると、磁気抵抗素子10の電圧が変化する。その変化分を信号電圧検出部22により検出することで、信号磁界が測定される。
図1に示した4個の磁気センサユニットを用いて、特許文献1~2に記載さているようなホイットストーンブリッジを構成して、磁気センサとすることが好ましい。
【0022】
図3は、本発明の第1の変形実施例を示す磁気センサの平面図で、左右の側方延伸部の第1方向に沿った繰り返しの位相が異なる場合を示している。第1の変形実施例では、磁気抵抗素子膜は、感磁素子通電枢軸部310b、感磁素子側方翼部310a、310cで構成される。感磁素子側方翼部310aと感磁素子側方翼部310cは、第1方向に沿った繰り返しの位相が異なっている。
【0023】
図4は、本発明の第2の変形実施例を示す磁気センサの平面図で、左右の側方延伸部の形状が長方形の場合を示している。第2の変形実施例では、磁気抵抗素子膜は、感磁素子通電枢軸部410b、感磁素子側方翼部410a、410cで構成される。
図1に示す実施例では感磁素子側方翼部10aの先端形状は大略楕円形としたが、感磁素子側方翼部410a、410cの先端形状は
図4に示すように長方形でもよい。
【0024】
図5は、本発明の第3の変形実施例を示す磁気センサの平面図で、左右の側方延伸部の形状が先端部で楕円形であって、中央軸部との接続端での幅より先端部と中央軸部との接続端の間の領域で幅が広くなる形状の場合を示している。第3の変形実施例では、磁気抵抗素子膜は、感磁素子通電枢軸部510b、感磁素子側方翼部510a、510cで構成される。
図5に示すように、感磁素子側方翼部510a、510cは、感磁素子通電枢軸部510bとの境界から離れた位置で感磁素子側方翼部の感磁素子通電枢軸部との接続幅Lfよりも幅が少し広めの中太りの領域を有してよい。
【0025】
図6は、磁気抵抗素子10の電流分布を計算した例をしめす図で、感磁素子通電枢軸部10b中心からの第2方向距離と電流との関係を示す図でもある。磁気抵抗素子10の電流は厚み方向には均一として、感磁素子通電枢軸部10bと感磁素子側方翼部10a,10cの電流分布を計算した。
図1に示すように、感磁素子側方翼部10aと10cは同じ形状とした。感磁素子通電枢軸部10bの幅W=5μm、感磁素子側方翼部の感磁素子通電枢軸部との接続幅Lf=0.5μm,隣接する感磁素子側方翼部の間の間隔Lg=0.05μmとした。感磁素子側方翼部の延伸長さWfは1、3、10μmの3条件とした。
図中、-方向は感磁素子側方翼部10c側を、+方向は感磁素子側方翼部10a側を示している。感磁素子側方翼部の延伸長さWfを1、3、10μmと変えても感磁素子側方翼部10a、10cへの漏れ電流分布は同様であり(すべて重なっている)、感磁素子側方翼部10a境界から概ね0.5μm離れた領域に限定される。この限定域は概ね感磁素子側方翼部の感磁素子通電枢軸部との接続幅Lfと一致する。0.5μmよりも離れた箇所には電流が流れない。
【0026】
図7は、感磁素子側方翼部の感磁素子通電枢軸部との接続幅Lfをパラメータとした、感磁素子通電枢軸部10b中心からの第2方向距離と電流との関係を示す図である。感磁素子通電枢軸部10bの幅W=5μm,感磁素子側方翼部の延伸長さWf=5μm,隣接する感磁素子側方翼部の間の間隔Lg=0.05μmとした。接続幅Lfが増大するにつれて、感磁素子側方翼部10a、10c域への漏れ電流が増大する。
【0027】
図8(A)は、感磁素子側方翼部10a域の電流Iwと漏れ電流Iwfの比であるIwf/Iwと、前記接続幅Lfと感磁素子通電枢軸部の幅Wの比であるLf/Wの関係を示す図である。漏れ電流量はLf/Wに比例して増大する。感磁素子通電枢軸部の幅Wに対して十分に前記接続幅Lfを小さくすることが、電流を感磁素子通電枢軸部10b部に閉じ込めことに有効である。Lf/W~0.1とすると5%程度の漏れ電流に抑制できる。
【0028】
図8(B)は、
図6から求めた漏れ電流Iwfと感磁素子側方翼部域電流Iwの比であるIwf/Iwと、隣接する感磁素子側方翼部の間の間隔Lgと接続幅Lfの比であるLg/Lfの関係を示す図である。Lg/Lfを0.1から1まで増大すると、Iwf/Iwは若干低下するが、
図7での関係に比べると変化は小さい。MFC磁性層11a、11bと絶縁層15bを挟んで重なる領域の面積を確保して、MFC磁性層11a、11bから磁気抵抗素子10への磁界収束効率を高めるために、Lg/Lfは大きいことが望ましい。
【0029】
(第2実施例)
図9は、本発明の第2の実施例を示すもので、(A)は第1方向と第2方向からなる平面図、(B)は第3方向と第2方向からならB-B箇所の断面図である。第2の実施例では、磁気抵抗素子膜は、感磁素子通電枢軸部910b、感磁素子側方翼部910a、910cで構成されると共に、一対のMFC磁性層911a、911bを備える。
磁気抵抗素子910の感磁素子通電枢軸部910b部とMFC磁性層911aの第2方向に沿ったギャップをg1、磁気抵抗素子910の感磁素子通電枢軸部910b部とMFC磁性層911bの第2方向に沿ったギャップをg2として、g1およびg2はLfよりも大きいことを特徴とする。
図7、
図8の説明から、g1とg2がLfよりも大きいと、感磁素子通電枢軸部910b、910cへの漏れ電流はg1およびg2の範囲に限定されて、一対のMFC磁性層911a、911bとの重なる領域には漏れ電流が発生しない。MFC磁性層911a、911bの第2方向に沿ったギャップgは、g≧2Lf+Wとする。
したがって、図に示すように、MFC磁性層911a、911bと絶縁層15bを挟んで重なる領域に絶縁層を除いて直接積層しても漏れ電流を抑制できる。あるいは、ピンホールなどの絶縁不良を気にすることなく絶縁層15を薄くできる。MFC磁性層911a、911bと絶縁層15bを挟んで重なる領域でのギャップが狭まると磁気抵抗素子910の磁束収束効率をアップできる。
【0030】
(第3実施例)
図10と
図11に第3の実施例を示す。
図1、
図2と同様に、
図10は第1方向と第2方向からなる平面図、
図11は第3方向と第2方向からなるA-A箇所の断面図である。なお、
図10、
図11において、
図1、
図2と同一作用をするものには同一符号を付して、説明を省略する。
配線層16は、基板12の一対のMFC磁性層11a、11bが製膜される側の面に形成されるもので、膜厚方向に感磁素子通電枢軸部10bと重なる状態で配置されると共に、配線層16の長手方向は感磁素子通電枢軸部10bの通電方向と一致する。配線16は交流電源24に接続されて、感磁素子通電枢軸部10bの通電方向に沿って交流を通電する。
特許文献2に示すように、配線16に流れる交流により変調された信号を信号電圧検出部22により検出する。交流変調によりノイズが低減され、SN比の増大が期待され、より微弱な磁界が検出可能となる。
【0031】
本発明の磁気センサによれば、例えば脳磁計や心磁計に必要とされるピコテスラ(pT)級の非常に微弱な磁界を検出できる。このような非常に微弱な磁界を取扱う領域の技術者からは、感磁素子通電枢軸部に更に感磁素子側方翼部を設けると、感磁素子側方翼部がアンテナとして作用して磁気ノイズが増大すると予想されていたが、意外なことに、感磁素子通電枢軸部に更に感磁素子側方翼部を設けた磁気センサの実証実験では磁気ノイズが増大しないことを発見した。
また、感磁素子通電枢軸部の幅Wを狭めた磁気センサを用いても、磁気抵抗特性の急峻な傾斜や、高感度を維持することを確認した。例えば、感磁素子通電枢軸部の幅方向の両側に感磁素子側方翼部を設けて、感磁素子側方翼部を含む第2方向長(Wf+W+Wf)を10μm以上とすると、感磁素子通電枢軸部でのGMRの抵抗は一定となり、感磁素子側方翼部の電流リークは増大しないことを確認した。
【0032】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明の実施形態は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、
図1、
図2で示す実施例では、磁気抵抗素子10の膜厚方向に、絶縁体層15bを介して側方翼部10a、10cと重なる状態で設けられるものを示したが、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、磁気抵抗素子10の膜厚方向に、高抵抗層を介して側方翼部10a、10cと重なる状態で設けられるものでもよく、また磁気抵抗素子10の膜厚方向に、絶縁体層又は高抵抗層を介しすることなく、直接側方翼部10a、10cと重なる状態で設けられてもよい。
また、例えば、感磁素子通電枢軸部、感磁素子側方翼部、一対のMFC磁性層の各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することができる。また、本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
【0033】
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
その他、本発明の実施形態として上述した磁気センサを基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての磁気センサ装置、診断装置も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。