(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155970
(43)【公開日】2023-10-24
(54)【発明の名称】超硬合金結合ダイヤモンド複合材面加工工具
(51)【国際特許分類】
B24D 3/00 20060101AFI20231017BHJP
B24D 3/02 20060101ALI20231017BHJP
B24D 3/06 20060101ALI20231017BHJP
B24D 7/00 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
B24D3/00 320B
B24D3/02 310A
B24D3/00 330G
B24D3/06 A
B24D7/00 P
B24D7/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065506
(22)【出願日】2022-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000147811
【氏名又は名称】トーメイダイヤ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤野 聡
(72)【発明者】
【氏名】山中 博
【テーマコード(参考)】
3C063
【Fターム(参考)】
3C063AA02
3C063AB05
3C063BA02
3C063BA24
3C063BB02
3C063BB07
3C063BC02
3C063BD01
3C063BD04
3C063BG01
3C063BG07
3C063BG10
3C063BH03
3C063CC04
3C063CC05
3C063EE15
3C063EE16
3C063FF20
(57)【要約】
【課題】
平面状の作用層が剛性基台面に固着された、仕上げ/精密研磨を目的とする砥石において、鏡面状の微細な研磨仕上げ面の創生と、砥石の長寿命化とを同時に実現するダイヤモンド砥石構成を提供する。
【解決手段】
ダイヤモンド砥粒部分及び超硬合金質結合材とフィラーとの混合材部分からなり、平面状の作用層が剛性基台面に固着され、該作用層の端面を被加工物の加工面に当接して作用層厚さ方向の加圧下での相対運動により被加工物を加工する複合材面加工工具において、該結合材がWC-Co系であり、一方フィラーはc-BN粒子を主成分とし、ダイヤモンド砥粒と超硬合金との合計質量(基本混合量)に対する比率において超硬合金部分が70%以上90%以下とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンド砥粒部分及び超硬合金質結合材とフィラーとの混合材部分からなり、平面状の作用層が剛性基台面に固着され、該作用層の端面を被加工物の加工面に当接して作用層厚さ方向の加圧下での相対運動により被加工物を加工する複合材面加工工具において、該結合材がWC-Co系であり、一方フィラーはc-BN粒子を主成分とし、かつダイヤモンド砥粒と超硬合金との合計質量(基本混合量)に対する比率において超硬合金部分が70%以上90%以下である複合材面加工工具。
【請求項2】
ダイヤモンド砥粒部分の基本混合量に対する比率が8%以上20%以下である、請求項1に記載の面加工工具。
【請求項3】
前記フィラーが基本混合量に対し2%以上10%以下のc-BN粒子を含有する、請求項1に記載の面加工工具。
【請求項4】
前記フィラーがさらに遷移金属の炭化物、窒化物、ホウ化物から選ばれる1種以上を基本混合量に対する比率において20%以下含有する、請求 項1に記載の面加工工具。
【請求項5】
前記作用層が円環状に形成された、請求項1に記載の面加工工具。
【請求項6】
前記作用層が円板状に形成された、請求項1に記載の面加工工具。
【請求項7】
ラップ工具として作製された、請求項1に記載の面加工工具。
【請求項8】
前記ダイヤモンド砥粒の50平均粒径が1~40μmである、請求項1に記載の面加工工具。
【請求項9】
前記c-BN粒子のD50平均粒径がダイヤモンド砥粒の平均粒径の0.5乃至2.0倍である、請求項1に記載の面加工工具。
【請求項10】
前記作用層外面に、作用層端面に開口した条溝を設けて研磨屑の排出を容易にした、請求項1に記載の面加工工具。
【請求項11】
前記作用層がWC-Co系超硬合金からなる基台に固着されている、請求項1に記載の面加工工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は平坦な作用面にダイヤモンド砥粒等の超硬質物質粒子を配置した加工性の高い工具、特にラッピング等の精密表面加工に適した工具に関する。
【背景技術】
【0002】
砥粒を保持基材層中に固定し、表面に露出した砥粒を刃先として使用し、被加工物との間に相対的運動を生起して被加工物の材料除去を伴う表面加工は、様々な分野において多用されている。これらの加工に用いられる工具は、円筒/軸状や円板/円環状に構成され、砥粒保持基材層(作用層)は軸の周囲に配置されることが多いが、駆動軸に垂直な面上に配置した円板状や円環状の工具も利用されている。
【0003】
工作機械などで精密に加工された金属素材の表面をさらに平坦に仕上げる最終表面処理として、また水晶、セラミック等の硬脆材の精密表面研削法としてラッピングが広く行われている。これは遊離砥粒を用いる方式と固定砥粒を用いる方式のものとがあるが、これらは上方・下方に一対、或いは下方に位置された定盤上に被加工物を保持し、砥粒を分散したスラリーを供給しながら可動定盤を駆動して、被削材の表面の凹凸、不要層の除去を行うものである。遊離砥粒を用いる代わりに、特に下方の定盤としてダイヤモンドなどを固結したチップを多数配置した砥石乃至ホィールを使用するラップ盤も利用されている。
【0004】
上記ラッピングにおいて、遊離砥粒を用いる方式は一定粒度範囲の砥粒が含有されているスラリーを使用することにより、達成される表面精度が予測されるものの、砥粒が転動しながら被加工物を削るため加工能率が低く、またスラリー廃液の処理工程を必要とする。それ故、近年では、ダイヤモンド砥粒を結合材で保持した固定砥粒ラップホイールが用いられるようになってきている(特許文献1、2)。しかし固定砥粒を用いる砥石タイプの方式では遊離砥粒の場合の問題は発生しないものの、表面に露出させる砥粒の突き出し高さを微細に揃え、持続させることはかなりの困難を伴う。
【0005】
ダイヤモンド粒子をある組成の混合金属粉末と混合し粉末冶金的に焼結一体化した研磨要素を、台金などに固着して研磨工具や研磨材として使用することは公知である(特許文献1、2)。また超硬合金中にダイヤモンド砥粒を分散した工具材料も公知である(特許文献3、非特許文献1)。
【0006】
一方、ダイヤモンド砥石等の工具の製作において、結合材にある種の金属の炭化物、窒化物、酸化物などの粒子を充填材(フィラー)として添加して結合材の摩滅速度を制御し、同時に砥石面の面ダレ防止により、砥石性能を維持させることが広く行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015-202542号公報
【特許文献2】特開2004-243465号公報
【特許文献3】特公昭44-7818号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】NIKKEI MECHANICAL 1999.10 No. 541 58-59
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は平面状の作用層が剛性基台面に固着された、仕上げ/精密研磨を目的とする砥石において、鏡面状の微細な研磨仕上げ面の創生と、砥石の長寿命化とを同時に実現するダイヤモンド砥石構成を提供することを目的としている。
本発明の別の課題は、ガラスやセラミックス、その他の硬質被加工材の研磨加工において、良好な作業効率が継続的に得られ、かつ工具寿命の長い工具素材を提供することである。
【0010】
本発明者等はかかる研磨工具、特に被削材に当接する作用面が比較的大きい面加工工具、特にこのような硬脆材に適用される研磨工具においては砥粒の硬さ及び分布、砥粒を固定する母材層(マトリックス)の強靭さや耐摩耗性が性能を決定する重要な要素になることを知見した。
【0011】
さらに砥粒としてのダイヤモンドを超硬合金からなる母材層中に分散させ、かつフィラーとしてc-BN粒子を添加して研磨作用層を構成することによって、各ダイヤモンド砥粒が十分な研磨機能を長時間にわたって発揮することを見出し、本発明を達成した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の要旨は、ダイヤモンド砥粒部分及び超硬合金質結合材とフィラーとの混合材部分からなり、平面状の作用層が剛性基台面に固着され、該作用層の端面を被加工物の加工面に当接して作用層厚さ方向の加圧下での相対運動により被加工物を加工する複合材面加工工具において、該結合材がWC-Co系であり、一方フィラーはc-BN粒子を主成分とし、かつダイヤモンド砥粒と超硬合金との合計質量(基本混合量)に対する比率において超硬合金部分を70%以上90%以下とすることにある。フィラー主成分のc-BNの使用量は、この基本混合量を基準として調整される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、結合材として砥粒の保持強度が大きなWC-Co系超硬合金を使用しており、超硬合金が一般的な結合材である真鍮やコバルトに比して2倍近くの密度を有していることから、ダイヤモンド砥粒を基本混合量(ダイヤモンドと超硬合金との総質量)に対する比率において8%から20%、即ち砥石の「集中度」に換算してそれぞれ100~200近くの高密度のダイヤモンドを保持できる。さらにフィラーとして配合されるc-BNの含有量によってダイヤモンド砥粒の微細な突き出し高さを任意に調整できるので、微量の材料除去による仕上げ研磨加工の効果が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は本発明に従って作製された加工工具の例を示す見取り図。
【
図2】
図2は本発明に従って作製された別の加工工具の例を示す見取り図(実施例1)。
【
図3】
図3は本発明に従って作製されたさらに別の加工工具の例を示す見取り図。
【
図4】
図4は本発明に従って作製されたさらに別の加工工具の例を示す見取り図。
【発明の実施形態】
【0015】
上述のごとく本発明の作用層は砥粒としてダイヤモンド粒子と、砥粒を保持する結合材成分としてWC-Co超硬合金、及びフィラー主成分としてc-BN粒子からなる母材層とを含有する。
【0016】
本発明において砥粒として用いるダイヤモンド粒子は結晶性が高く、介在物の取り込みが少ない、いわゆるメタルボンド砥石向けの品種、例えばトーメイダイヤ(株)製のIMM-Hクラスの砥粒が特に適している。
【0017】
ダイヤモンド砥粒の粒径及び後述の超硬合金の組成は、被削材の種類や物性、特に硬さに応じて選択できるが、ガラスやセラミックスの場合、D50平均粒径1~40μmが適切である。
【0018】
結合材としての超硬合金は好適な材料として、一般的なWC-Co二元系のものが利用できるが、Co/WC比は5~20が適切である。これらの結合材は保持力が強く砥粒を高密度で保持できるが、反面摩滅しにくいので、刃先の交代が進行しにくい。従って本発明ではフィラーの配合によって以下の様に作用層母材の摩耗しやすさを調整する。
【0019】
本発明の作用層においては、ダイヤモンド砥粒と共に、微細な刃先を高密度で提供し、継続的に機能させるために結合材及びフィラーから成る母材の構成が特別な意味を持つ。
また本発明では砥粒の突き出し高さの制御をフィラーによって行うものであるが、その主成分としては特にc-BN粒子の使用が効果的である。
【0020】
c-BN粒子の添加量はダイヤモンド砥粒量の1/4以上、3/4以下が好適な範囲である。1/4以下ではフィラーとしての作用が明確でなく、3/4を超えるとダイヤモンド砥粒の突き出し高さが小さくなり、研磨速度が低下する。
【0021】
ダイヤモンド砥粒の押し込み硬さが90GPa以上とされているのに対して、c-BNの硬さは50GPa程度であることが知られている。配合量は上記基本混合量に対し2%以上10%以下が適切である。一方遷移金属の炭化物、或いは窒化物、ホウ化物は比較的硬質材料として知られているが、超硬合金に比して脆いことから、本発明における補助的なフィラーとして利用可能である。この場合、補助フィラーの量は基本混合量の20%以下とするのが好ましい。
【0022】
本発明においてはダイヤモンドの突き出し高さを小さく保つことにより、延性モードまたはそれに近い研磨条件の創出が可能になったと考えられる。ダイヤモンドの突き出し高さを制御する機能の発現のために、添加するc-BN粒子のサイズは研磨砥粒のダイヤモンド砥粒のサイズに近いことが好ましく、ダイヤモンド砥粒サイズ(D50平均粒径)の0.5倍以上2倍以下が好適な範囲である。
【0023】
なお、通常のメタルボンドまたはビトリファイドボンドのダイヤモンド砥石のフィラーとして用いられる炭化ホウ素の押し込み硬さは38GPa、炭化チタン、炭化ケイ素は30GPa程度とされていることから、ダイヤモンドに比して摩滅が早く、延性モード加工に適した突き出し高さを維持することができない。
【0024】
本発明の加工工具は平坦な研磨作用層を有する各種形状の工具、例えば円環状(カップ型)又は円板状(ディスク)型作用面を有するラップ工具やその他、各種の面加工工具の作製に適用できる。製作に当たっては仮焼きまたは焼結済みの超硬合金基板に砥石部の圧粉体を重ねて配置し、加圧焼結操作に供するのが適切である。焼結操作にはHIP、ホットプレス、放電加圧焼結など、既知の諸方法を用いることができるが、ダイヤモンドが熱力学的に安定な5GPa以上の超高圧力を付加するのが最も好ましい。
【0025】
本発明の加工工具(砥石)への適用例を示す
図1~4において、工具10、20、30、40の作用層11、21、31、41は平坦な円環状又は円板状に形成され、底面において基板乃至基台12、22、32、42に接合されている。作用層の表面には研磨屑の排出等の目的で、溝乃至条溝(スリット)23、33、43を設けるのが好ましく、スラッジの排出が促進されることで、良好な研磨性能を継続的に確保可能となる。これらの溝は中心から外周部へ延びた直線状又は曲線状に構成することが可能である。溝の形成は、砥石チップを間隔を空けて配置・ろう付けによることも可能であるが、精度の高い研磨面を確保するため、砥石をまず一体品として焼結し、後加工で切込みを入れるのがより好ましい。
【0026】
本発明の加工工具は金属製基板(台金)上に研磨砥粒含有層を固着した様々な形状のダイヤモンド砥石・工具として作製できるが、砥粒及びフィラーを固定する結合材として超硬合金を用いていることから特に、基板部分12、22、32、42も超硬合金で構成することによって強度の大きな工具が得られるのでより好ましい。超硬合金製の台金42に接合された工具(砥石)40は必要に応じてさらに軸状の支持体44に接合することも可能である。
【実施例0027】
以下の態様にて小径の6A2型カップ砥石(
図2)を製作した。砥石部分製作用として外径30mm、内径24mmのカーボン型中に、D
50平均粒径11μmのダイヤモンド砥粒(トーメイダイヤ(株)製IMM-H 8-20) 10%(全体に対する質量比、以下同様)、平均粒径9μmのc-BN砥粒(ISBN-M 8-16)4%、D
50粒径0.6μmのSiC砥粒10%、WC-8%Co超硬合金粉末76%の混合粉末を充填し、その上に、外径30mm、内径24mm、高さ15mm、脚部分長さ7mmのWC-8%Coの、カップ状焼結超硬合金製の台金を置き、全体を5.5GPa、1450℃の高圧・高温で焼結した。
【0028】
冷却後カーボン型から、リング状の混合粉末焼結層とカップ状台金とが一体化した焼結品を取り出すことができた。この焼結品の混合粉末焼結層の表面(砥石面)にワイヤーカット加工により、幅0.5mm、深さ4mmの溝を半径方向に等間隔で4本形成し、#170のレジンボンドダイヤモンド砥粒でツル―イングを施した。
【0029】
この砥石をツガミCTG-4 B型研磨盤に装着し、砥石の回転数1100rpmで光学ガラスの研磨を行い、研磨面をキーエンスのレーザー顕微鏡VK-X3000で評価し、Ra0.03μmの値を得た。
本発明の加工工具は、平面研削された被加工材の仕上げ研磨やガラス、セラミックスなど硬脆性材料の鏡面研磨加工において、継続的に高精度の研磨仕上げ面を得ることができる。