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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155979
(43)【公開日】2023-10-24
(54)【発明の名称】複合断熱シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16L 59/02 20060101AFI20231017BHJP
   D21H 13/26 20060101ALI20231017BHJP
   D04H 1/4342 20120101ALI20231017BHJP
【FI】
F16L59/02
D21H13/26
D04H1/4342
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065522
(22)【出願日】2022-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】水田 悠生
(72)【発明者】
【氏名】赤松 哲也
【テーマコード(参考)】
3H036
4L047
4L055
【Fターム(参考)】
3H036AB15
3H036AB18
3H036AB23
3H036AB24
3H036AC03
4L047AA24
4L047AB06
4L047AB08
4L047BA21
4L047CB04
4L047CB06
4L055AF35
4L055AG18
4L055CA13
4L055EA16
4L055EA21
4L055GA50
(57)【要約】
【課題】優れた断熱性、軽量性、柔軟性を確保しつつ、粉落ちが無く、成形性に優れ、且つ高温環境下でも使用可能な複合断熱シート及びその製造方法を提供する。
【解決手段】エアロゲル粒子と、エアロゲル粒子のバインダー成分として、平均繊維径が100nm以下のアラミドナノファイバーと、フィブリル構造を有するアラミドパルプと、を含有する複合断熱シートであって、アラミドナノファイバーおよびアラミドパルプによってエアロゲル粒子が保持されており、アラミドナノファイバーの含有量が、複合断熱シートを基準として、5.0~25質量%であり、アラミドパルプの含有量が複合断熱シートを基準として5.0~25質量%であり、エアロゲル粒子の含有量が複合断熱シートを基準として50.0~90.0質量%である、ことを特徴とする複合断熱シート。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアロゲル粒子と、エアロゲル粒子のバインダー成分として、平均繊維径が100nm以下のアラミドナノファイバーと、フィブリル構造を有するアラミドパルプと、を含有する複合断熱シートであって、アラミドナノファイバーおよびアラミドパルプによってエアロゲル粒子が保持されており、アラミドナノファイバーの含有量が、複合断熱シートを基準として、5~25質量%であり、アラミドパルプの含有量が複合断熱シートを基準として5~25質量%であり、エアロゲル粒子の含有量が複合断熱シートを基準として50~90質量%である、ことを特徴とする複合断熱シート。
【請求項2】
前記アラミドナノファイバーがパラ型全芳香族ポリアミドからなる請求項1記載の複合断熱シート。
【請求項3】
前記アラミドパルプがパラ型全芳香族ポリアミドからなる請求項1記載の複合断熱シート。
【請求項4】
前記エアロゲル粒子のバインダー成分が、熱重量分析において、400℃での重量減少率が10wt%未満である請求項1記載の複合断熱シート。
【請求項5】
面直方向の熱伝導率値が0.035W/(m・K)未満である請求項1記載の複合断熱シート。
【請求項6】
前記エアロゲル粒子が、金属酸化物、無機物および有機物からなる群より選ばれる少なくとも1つである請求項1記載の複合断熱シート。
【請求項7】
平均繊維径が100nm以下のアラミドナノファイバーと、フィブリル構造を有するアラミドパルプと、エアロゲル粒子と、分散剤と、を溶媒中に混合分散してスラリーとし、当該スラリーの塗工、又は、抄紙工程により面状体に成形し、その後加熱乾燥してなる請求項1~6のいずれか1項に記載の複合断熱シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合断熱シート及びその製造方法に関し、特に、エアロゲル粒子と、エアロゲル粒子のバインダー成分としてアラミドナノファイバー及びアラミドパルプと、を含有する複合断熱シートに関する。
【背景技術】
【0002】
粉末状又は粒子状エアロゲルはシート状と比べて安価であり、断熱材への利用が期待されている。特許文献1にはエアロゲル粒子と平均繊維径が1μm未満の有機繊維とを含有する水分散液を用いた断熱材の製造方法も開示されている。特許文献1では、セルロース微細繊維を含有する水分散液に疎水化エアロゲル粒子を加えディスパーで3分間攪拌を行うことによりエアロゲル粒子と有機繊維とを含有する水分散液を得たことが記載されている。しかしながら、上記先行技術文献で開示された方法でエアロゲル粒子を含む断熱材を作製したとしても、粒子自体が脆いものであるため、成形物の強度は低くなり、割れたり壊れたりしやすいものとなってしまう。
【0003】
これらの問題を抑えるために、特許文献2では、セルロースナノファイバーを含む水溶液にエアロゲル粒子を加え、その後当該分散液を乾燥することで得られる断熱材が提案されている。これにより前述した各種課題は改善され得るものの、エアロゲル粒子のバインダーとしてセルロースナノファイバーを使用しているため、断熱材自体の耐熱性は低く、使用可能な温度環境は限定される。特許文献3では、分岐構造を有するアラミドナノファイバーにてエアロゲルを把持する系が提案されているが、本系では把持対象物との構造サイズギャップが大きく、エアロゲルの経時脱落を抑制するのが困難と考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-35044号公報
【特許文献2】特開2018-43927号公報
【特許文献3】特表2019-511387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の問題を解決すべくなされたものであり、その目的は、優れた断熱性、軽量性、柔軟性を確保しつつ、粉落ちが無く、成形性に優れ、且つ高温環境下でも使用可能な複合断熱シート及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、エアロゲル粒子と、エアロゲル粒子のバインダー成分として、アラミドナノファイバー及びアラミドパルプを含有する複合断熱シートにより前記課題を解決できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明によれば、発明の課題は以下の1~7項により達成される。
1.エアロゲル粒子と、エアロゲル粒子のバインダー成分として、平均繊維径が100nm以下のアラミドナノファイバーと、フィブリル構造を有するアラミドパルプと、を含有する複合断熱シートであって、アラミドナノファイバーおよびアラミドパルプによってエアロゲル粒子が保持されており、アラミドナノファイバーの含有量が、複合断熱シートを基準として、5~25質量%であり、アラミドパルプの含有量が複合断熱シートを基準として5~25質量%であり、エアロゲル粒子の含有量が複合断熱シートを基準として50~90質量%である、ことを特徴とする複合断熱シート。
2.前記アラミドナノファイバーがパラ型全芳香族ポリアミドからなる前項1記載の複合断熱シート。
3.前記アラミドパルプがパラ型全芳香族ポリアミドからなる前項1記載の複合断熱シート。
4.前記エアロゲル粒子のバインダー成分が、熱重量分析において、400℃での重量減少率が10wt%未満である前項1記載の複合断熱シート。
5.面直方向の熱伝導率値が0.035W/(m・K)未満である前項1記載の複合断熱シート。
6.前記エアロゲル粒子が、金属酸化物、無機物および有機物からなる群より選ばれる少なくとも1つである前項1記載の複合断熱シート。
7.平均繊維径が100nm以下のアラミドナノファイバーと、フィブリル構造を有するアラミドパルプと、エアロゲル粒子と、分散剤と、を溶媒中に混合分散してスラリーとし、当該スラリーの塗工、又は、抄紙工程により面状体に成形し、その後加熱乾燥してなる前項1~6のいずれか1項に記載の複合断熱シートの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の複合断熱シートは、優れた断熱性、軽量性、柔軟性を確保しつつ、粉落ちが無く、成形性に優れ、且つ高温環境下でも使用可能であるため、その奏する工業的効果は格別である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明で使用するアラミドナノファイバーの構造観察画像を示した一例である。
図2】平均繊維径算出用に、図1を拡大した構造観察画像を示した一例である。
図3】平均繊維径の算出方法に関する説明図である。
図4】バインダーとしてアラミドパルプのみを用いた複合断熱シートの模式図である。
図5】バインダーとしてアラミドナノファイバーのみを用いた複合断熱シートの模式図である。
図6】バインダーとしてアラミドパルプとアラミドナノファイバーとを併用した複合断熱シートの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明によれば、エアロゲル粒子と、エアロゲル粒子のバインダー成分として、平均繊維径が100nm以下のアラミドナノファイバーと、フィブリル構造を有するアラミドパルプと、を含有する複合断熱シートであって、アラミドナノファイバーおよびアラミドパルプによってエアロゲル粒子が保持されており、アラミドナノファイバーの含有量が、複合断熱シートを基準として、5.0~25質量%であり、アラミドパルプの含有量が複合断熱シートを基準として5.0~25質量%であり、エアロゲル粒子の含有量が複合断熱シートを基準として50~90質量%である、複合断熱シートが提供される。
【0011】
<アラミド(全芳香族ポリアミド)>
本発明におけるアラミドは、全芳香族ポリアミドである。全芳香族ポリアミドとしては、パラ型全芳香族ポリアミド(ポリ-p-フェニレンテレフタルアミド、ポリ-p-ベンズアミド、ポリ-p-アミドヒドラジド、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミド-3,4-ジフェニルエーテルテレフタルアミドなど)、メタ型全芳香族ポリアミド(ポリ-m-フェニレンイソフタルアミドなど)が挙げられ、高弾性かつ高強度であることからパラ型全芳香族ポリアミドであることが好ましい。例えば、パラ型全芳香族ポリアミドを用いた繊維としては、ポリーp-フェニレンテレフタルアミド繊維(市販品では、帝人株式会社製「トワロン」(商標名)、東レ・デュポン株式会社製「ケブラー」(商標名)など)や、コパラフェニレン・3、4’オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(市販品では、帝人株式会社製「テクノーラ」(商標名)など)が挙げられ、メタ型全芳香族ポリアミドを用いた繊維としては、ポリ-m-フェニレンイソフタルアミド繊維(市販品では、帝人株式会社製「テイジンコーネックス」(商標名)、デュポン社製「ノーメックス」(商標名)など)が挙げられる。
【0012】
<アラミドナノファイバー>
本発明におけるアラミドナノファイバーとはその平均繊維径が100nm以下であり、好ましくは50nm以下、より好ましくは25nm以下である。平均繊維径の下限は1nm以上、好ましくは3nm以上であることが好ましい。また、アラミドナノファイバーは500nm以上の繊維径のものを有さないことが好ましい。
【0013】
本発明におけるアラミドナノファイバーは、繊維長/繊維径で表されるアスペクト比が好ましくは10以上1、000以下であり、より好ましくは10以上500以下であり、さらに好ましくは10以上100以下である。アスペクト比が10未満であると、繊維の交絡構造が発現しにくく、微細な編み目構造を形成しにくくなる。それゆえに期待される特性発現が困難になる場合がある。
【0014】
本発明におけるアラミドナノファイバーの比表面積は、50m2/g以上であることが好ましく、より好ましくは80m2/g以上である。比表面積の上限は、200m2/g以下であることが好ましく、より好ましくは150m2/g以下である。上記範囲よりも低い比表面積では、電極活物質との十分な接着面積が確保されず、少量での良好なバインダー特性発現に至らない。また、上記範囲よりも高い比表面積では、塗工液の増粘による塗工性低下や分散状態維持が困難になるなど望ましくない。
【0015】
また、本発明におけるアラミドナノファイバーは、全芳香族ポリアミドであり、パラ型全芳香族ポリアミドであることが好ましい。パラ型全芳香族ポリアミドとしては、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミド、ポリ-p-ベンズアミド、ポリ-p-アミドヒドラジド、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミド-3,4-ジフェニルエーテルテレフタルアミドなどが好ましく、配向結晶性(紡糸溶液中で液晶構造のドメインを形成)を有するポリ-p-フェニレンテレフタルアミド繊維であることが好ましい。
【0016】
<アラミドナノファイバーの製造>
本発明で使用されるアラミドナノファイバーの製造は、例えば、パラ型全芳香族ポリアミド繊維またはパラ型全芳香族ポリアミドパルプを原料とし、当該繊維を親和性の高い溶媒中にて浸漬・膨潤し、さらに強塩基性物質を添加することで水素結合部を切断し、その結果生成することが好ましい。本発明で好ましく用いることのできるパラ型全芳香族ポリアミドは、1種または2種以上の2価の芳香族基がアミド結合により連結されたポリマーであって、芳香族基には2個以上の芳香環が存在してもよく、その芳香環は直接結合していても、酸素や硫黄を介して結合していてもよい。また、2価の芳香族基の水素原子は、ハロゲン化物、低級アルキル基、フェニル基で置換されていてもよい。また、アラミドナノファイバー生成時に使用する溶媒としては、非プロトン性極性溶媒が好ましく、具体的には、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N-メチル―2-ピロリドンなどが挙げられる。アラミドナノファイバー生成時に使用する強塩基性物質としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウムなどが挙げられる。
【0017】
本発明におけるアラミドナノファイバーの製造は、具体的には、パラ型全芳香族ポリアミド(例えば、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミド)繊維またはパルプをアルカリ性に調整したジメチルスルホキシド中に浸漬することで製造することができる。
【0018】
パラ型全芳香族ポリアミド(例えば、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミド)は紡糸溶液中で液晶構造のドメインを形成し、キャピラリーより吐出した後、紡糸溶媒を水洗することにより得られる。得られた繊維を前記手法により繊維を構成する液晶ドメイン間の弱い結合をアルカリ条件により切断した後、得られた繊維を相溶性の高い溶媒中に遊離させることで、高弾性かつ高強度の切断された繊維を得ることができる。次いで、得られた切断された繊維を分散溶媒である貧溶媒(水、アルコール、アセトンなど)に投入することでアラミドナノファイバーを単離することが可能である。
【0019】
なお、直径10~20μmのパラ型全芳香族ポリアミド(例えば、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミド)繊維を数mmにカットし、水中で相互にせん断付与するリファイナー処理を行うことで得られるパラ型全芳香族ポリアミド(例えば、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミド)パルプを得ることができる。このようなリファイナー処理では、液晶界面のせん断破壊により繊維表面より微細化した繊維は完全に分離せず分岐した状態となり、該該微細化繊維の直径は100~1000nmとなり、原料繊維の中心部の直径は数μmとなる。リファイナー処理されたパルプを上記の処理により、アラミドナノファイバー化させることもできる。
【0020】
アラミド素材のその他微細化手法としては、上述したような化学処理ではなく、機械的なせん断力を付与する手法も考えられるが、当該手法ではナノオーダーの繊維径を有するフィブリル構造が部分的に得られるにとどまる。従って、フィブリル化していないマイクロオーダーの構造体も含むことになるため、ナノオーダーでの均質な交絡構造が得られずに期待されるような物性が発現しない。本発明においては、部分的なナノ化ではなく、均質にナノ化した繊維による交絡構造の形成が好ましい。
【0021】
<アラミドパルプ>
本発明におけるアラミドパルプは、フィブリル構造(フィブリッドと称する場合もある)を有する。フィブリル構造を有するアラミドパルプは、例えば、特表2014-501859号公報に記載の公知の方法によって得ることができる。具体的には、例えば、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミドの繊維を数ミリにカットし、水中に分散し、リファイナーを用いて相互にこすり合わせることでフィブリルを形成するなどの方法を用いてよい。高圧ホモジナイザーなどせん断力を加える処理を追加で実施し、フィブリル構造をさらに微細化して高比表面積化を図った微細化アラミドパルプを使用することが好適である。あるいは、パラ型全芳香族ポリアミド溶液を水などの貧溶媒中に噴射凝固した構造体を使用することも可能である。さらに、複合シート乾燥時の収縮抑制を目的として、パラ型全芳香族ポリアミドの短繊維(カット長:3~6mmが目安)を複合シート100質量部を基準に2質量部程添加することも効果的である。
【0022】
本発明におけるアラミドパルプのフィブリル構造は、部分的に繊維径が100nmを超えることが好ましく、300nm以上であることがより好ましい。なお、フィブリル構造は図4に模式的に示すように幹部2と枝部(フィブリル部)3のように構成されており、幹部2または枝部3のいずれかが上記した範囲を超える繊維径を有していればよい。また、平均繊維長が1000μm以下であることが好ましい。平均繊維長の下限は100μm以上、好ましくは500μm以上であることが好ましい。
【0023】
本発明におけるアラミドパルプの比表面積は、10m2/g以上40m2/g以下であることが好ましく、より好ましくは20m2/g以上30m2/g以下である。
このように、アラミドナノファイバーよりも大きい構造を有するアラミドパルプを使用することにより、非水系極性溶剤または電解質溶液に非溶解性の耐熱繊維バインダーにて形成されるネットワーク構造における応力伝達距離を増大させることが可能となる。
【0024】
<エアロゲルのバインダー>
本発明において、エアロゲルのバインダーとしてアラミドナノファイバーとアラミドパルプを併用することが重要である。
バインダーとしてアラミドパルプのみを使用する場合、図4に模式的に示すように、エアロゲルの把持に必要な比表面積を十分確保することが困難であり好ましくない。また、アラミドパルプを分散させた塗工液は、パルプの枝分かれ構造が溶媒を抱え込むことで液流動性が低くなり、均質に塗工することが困難である。
【0025】
バインダーとしてアラミドナノファイバーのみを使用する場合、図5に模式的に示すように、均質な塗工性及び高比表面積は確保される。一方で、粒径が数十μmオーダーであるエアロゲルの把持が困難であり、結果としてエアロゲルの脱落抑制が困難である。これは、アラミドナノファイバー4の構造サイズがエアロゲル対比小さいため、エアロゲル間を結ぶ長距離ネットワークを形成しにくいからであると推察される。また、アラミドナノファイバー4のみを分散させた塗工液は、液流動性が高くなり、均質塗工性には優れる一方で、アラミドパルプを含む塗工液と比較して液だれが生じやすく、厚塗り塗工性は低下する。
【0026】
以上を踏まえ、バインダーとしてアラミドパルプとアラミドナノファイバーとを併用することで、図6に模式的に示すように、エアロゲル間を結ぶ長距離かつ強固なネットワークをアラミドパルプの幹部2および枝部3で形成しつつ、アラミドナノファイバー4由来の高比表面積によるバインダー性能発現が期待される。また、アラミドパルプとアラミドナノファイバーの併用により均質塗工性と厚塗り塗工性の両立も期待される。
前記エアロゲル粒子のバインダー成分が、熱重量分析において、400℃での重量減少率が10wt%未満であることが好ましい。
【0027】
<エアロゲル>
本発明におけるエアロゲルは、好ましくは気孔率50体積%以上、より好ましくは気孔率70体積%以上、さらに好ましくは気孔率80体積%以上、特に好ましくは気孔率90体積%以上の気孔を有する。
【0028】
エアロゲルの粒子径は特に制限しないが、粒径が小さすぎると粒子間隙総合比が増え、断熱や吸音等エアロゲルのナノサイズ細孔の比率が少ないため好ましくない。一方、粒径が大きすぎると、粒子間隙のサイズが大きくなり大きい空隙の間に空気が対流し断熱と吸音効果が減る恐れがあるため好ましくない。200nm~10mmの粒径範囲が好ましい。好ましくは、エアロゲルの90%以上が粒径1μm~6mmの範囲内、より好ましくは2μm~3mmの範囲内、さらに好ましくは5μm~2mmの範囲内にあるエアロゲル粒子である。粒径が10mm以上のエアロゲルを使用すると粒子と粒子の間の空隙が空気の平均自由行程より大きくなる恐れがあるため好ましくない。さらに粒子の間の空隙を減らすためエアロゲル粉末の嵩密度(バルク密度)は粒子密度との差が小さいものが好ましい。嵩密度は粒子密度に近い程粒子間隙が小さいため好ましい。さらに、単一粒径より各種粒径の粒子が混ざるエアロゲルが好ましい。
【0029】
このような粒径のエアロゲルは、当該粒径範囲を有する市販品を用いてもよいし、上記範囲よりも粒径が大きいエアロゲルを適宜粉砕処理して用いてもよい。
エアロゲルは、金属酸化物、無機物および有機物からなる群より選ばれる少なくとも1つであることが好ましく、より好ましくはシリカ、カーボンおよびアルミナからなる群より選ばれる少なくとも1つであり、さらに好ましくはシリカである。
【0030】
<複合断熱シートおよびその製造>
本発明における複合断熱シートは、上述したアラミドナノファイバー、アラミドパルプ、エアロゲルからなり、エアロゲルがアラミドナノファイバーとアラミドパルプで保持されており、アラミドナノファイバー及びアラミドパルプの質量比率が複合断熱シートを基準として5~25質量%ずつであり、好ましくは7~15質量%ずつであり、さらに好ましくは7~10質量%ずつである。また、エアロゲル粒子の質量比率が複合断熱シートを基準として50~90質量%であり、好ましくは70~86質量%であり、さらに好ましくは70~80質量%である。
【0031】
アラミドナノファイバーは近接するナノファイバーとの間に、ポリマー構造であるアミド結合により相互に水素結合を生じ、エアロゲルをシート化することが可能である。
なお、アラミドナノファイバーおよびアラミドパルプがそれぞれ5質量%未満であるとシート化が困難となるため好ましくない。また、それぞれ25質量%を超えるとエアロゲルの質量%が相対的に低下し、望ましい断熱性能の発現が困難となるため好ましくない。
【0032】
上記で説明した複合断熱シートは次の方法により製造することができる。平均繊維径が100nm以下のアラミドナノファイバーと、フィブリル構造を有するアラミドパルプと、エアロゲル粒子と、分散剤と、を溶媒中に混合分散してスラリーとし、当該スラリーの塗工、又は、抄紙工程により面状体に成形し、その後加熱乾燥することで得られる。
使用する溶媒種は特に限定しない。例えば、水や非水系極性溶剤(Nメチル2ピロリドンなど)を選択することができる。また、スラリー作製時、分散状況に応じて適切な分散剤を使用することも可能である。
【0033】
シート成形方法としては、例えば、所定のクリアランスで区画された平滑面上にスラリーを流し入れ、加熱乾燥によりシートを得る方法や、適切なメッシュ生地上に固形分を積層させてシートを得る方法(湿式抄紙法など)などが可能である。これら操作により所定の厚みでかつ厚み変化のないシートが得られる。
なお、複合断熱シートは、熱伝導率が0.035W/(m・K)未満であることが好ましく、より好ましくは0.026W/(m・K)未満である。
【実施例0034】
以下、実施例および比較例により、本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲は、以下の実施例および比較例に制限されるものではない。なお、実施例中の各特性値は下記の方法で測定した。
【0035】
<平均繊維径>
走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、品盤:JSM-6330F)を用い、サンプルの構造を観察した。50,000倍の倍率設定で観察した画像から、横1,800nm~2,000nm、縦1,200nm~1,500nmの画像領域を選択し、当該画像領域をさらに縦に4分割、横に4分割して得られる計16箇所のグリッド領域A1-D4を定義し、各グリッド領域内に存在するサンプルを1点選択し、選択したサンプルの繊維径を画像上で計測した平均値を平均繊維径として採用した(図2、3参照)。
【0036】
<比表面積測定>
流動式比表面積自動測定装置(株式会社島津製作所製 フローソーブ)を使用し、対象サンプルの比表面積を測定した。サンプル表面に吸着占有面積が既知のヘリウムを液体窒素温度で吸着させ、ヘリウムガスの吸着量からサンプルの比表面積を求めた。
【0037】
<粉落ち>
作成した複合断熱シート表面を黒色のワイピングクロスにて静かにこすり、汚れにより判定した。
○:汚れ落ちなし
△:かすかに汚れあり
×:汚れあり
【0038】
<シート成形性>
作製したシートを目視で観察し、ひび割れなく均質にシート成形可能かを評価した。○:均質にシート成形可能
△:部分的なむらや微小なひび割れは存在するが、シート成形自体は可能
×:全体を通してひび割れが存在する、手での持ち上げができないなど、シート成形困難
【0039】
<熱伝導率(熱伝導率値)>
熱伝導率は、試料の厚さ方向(面直方向)の熱拡散率、比重及び比熱を全て乗じて算出した。
(熱伝導率)=(熱拡散率)×(比熱)×(比重)
熱拡散率は、幅10mm×10mm×厚み1mmの試料について、カーボンスプレーで黒色化した後にレーザーフラッシュ法により求めた。測定装置にはキセノンフラッシュアナライザ(NETZSCH社製LFA467HyperFlash)を用いた。比重は、試料の体積と質量から求めた。比熱は、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製「DSC8000」)を用いて求めた。
【0040】
<熱重量分析:400℃加熱時の重量減少率(バインダー成分のみ)>
試料として、120℃で3時間乾燥させたバインダー成分を準備し、熱重量分析装置(Rigaku TG-DTA8122)を用いて加熱時の重量減少率を測定した。昇温速度は10℃/分で設定した。400℃まで昇温した際の重量減少率を、バインダー成分の耐熱性を示す指標として採用した。
【0041】
<軸心巻き付け試験>
シート柔軟性の指標として、4mmφのSUS線に作成した電極シート(幅10mm、長さ50mm)を巻き付け、クラック、剥離の有無を評価した。
○:クラック、剥離なし
△:クラック、剥離が部分的に生じる
×:クラック、剥離が全体的に生じる
【0042】
[実施例1]
<アラミドナノファイバーの作成>
・アラミド短繊維:10g(帝人アラミド社製のトワロン1000を6mmのカットした繊維10gを沸騰水1000gで30分煮沸洗浄し、冷却後水洗、乾燥し得た)。
・東京化成工業株式会社 ジメチルスルホキシド(DMSO)>99% 80g、
・東京応化工業株式会社 水酸化カリウム(KOH) 10g
上記3種をプラネタリーミキサーに投入し70℃で2時間撹拌処理を行った。撹拌後、アラミドパルプは形状がなくなり、赤色半透明の高粘度溶液を得た。
【0043】
得られたナノファイバーを含む赤色半透明の溶液を3倍量のDMSOで希釈し、20リットルの水中に撹拌しながら徐々に投入し、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミドのナノファイバーを析出させた。この時、溶液は黄赤色のスラリーであり、ここに硫酸をKOH中和に必要量投入し、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミドナノファイバーをろ過により採取した。
【0044】
続いて、蒸留水またはイオン交換水を用い3~5回洗浄と延伸脱水を行い溶媒と塩を除去した。得られたポリ-p-フェニレンテレフタルアミドナノファイバー含有の水固形物を、固形分濃度1%となるように蒸留水を添加し、増幸産業株式会社製石臼式粉砕混錬機(スーパーマスコロイダー)を用いて、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミドナノファイバー分散水溶液を得た。得られたポリ-p-フェニレンテレフタルアミドナノファイバー分散液をイソプロピルアルコールで希釈しプレパラートに滴下、乾燥し、平均繊維径が20nmであることを確認した(図1図2参照)。
【0045】
上記のアラミドナノファイバー10質量部と、微細化アラミドパルプ(帝人株式会社製トワロン:1094パルプ(商標名))を高圧ホモジナイザー処理したもの。比表面積:21m/g)10質量部と、シリカエアロゲル(CABOT社製 品番名:MT1100)80質量部を水中で混合し、ガラス板上に所定量キャストの上乾燥によりシートを得た。得られたシートについては、粉落ち有無、シート成形性、熱伝導率、軸心巻き付けを前述した方法にて評価した。当該シートのバインダー成分に相当するアラミドナノファイバー及び微細化アラミドパルプについては、熱重量分析を実施した。
【0046】
[実施例2]
作製するシートの組成を、
・アラミドナノファイバー:5質量部
・微細化アラミドパルプ:5質量部
・シリカエアロゲル:90質量部
とした以外は、実施例1記載の手順と同様にしてシートを作製した。
【0047】
[実施例3]
作製するシートの組成を、
・アラミドナノファイバー:25質量部
・微細化アラミドパルプ:25質量部
・シリカエアロゲル:50質量部
とした以外は、実施例1記載の手順と同様にしてシートを作製した。
【0048】
[実施例4]
作製するシートの組成を、
・アラミドナノファイバー:10質量部
・アラミドパルプ(帝人アラミド社製 Twaron1094パルプ):10質量部
・シリカエアロゲル:80質量部
とした以外は、実施例1記載の手順と同様にしてシートを作製した。
【0049】
[比較例1]
作製するシートの組成を、
・アラミドナノファイバー:20質量部
・シリカエアロゲル:80質量部
とした以外は、実施例1記載の手順と同様にしてシートを作製した。
【0050】
[比較例2]
作製するシートの組成を、
・微細化アラミドパルプ:20質量部
・シリカエアロゲル:80質量部
とした以外は、実施例1記載の手順と同様にしてシートを作製した。
【0051】
[比較例3]
作製するシートの組成を、
・セルロースナノファイバー(中越パルプ社製):20質量部
・シリカエアロゲル:80質量部
とした以外は、実施例1記載の手順と同様にしてシートを作製した。
【0052】
[比較例4]
作製するシートの組成を、
・アラミドナノファイバー:50質量部
・微細化アラミドパルプ:50質量部
とした以外は、実施例1記載の手順と同様にしてシートを作製した。
【0053】
【表1】
【0054】
実施例1~3の評価結果より、含有されるシリカエアロゲルの質量部が高くなるほど熱伝導率が小さくなり、良好な断熱性を示すことがわかる。また、実施例4の評価結果より、微細化処理を施していない通常のアラミドパルプをバインダーとして使用することも可能であることがわかる。ただし、微細化アラミドパルプを使用した系のほうが、シート成形性の観点から好適であることもわかる。
【0055】
また、比較例1および2の結果から、使用するバインダー種において、アラミドナノファイバーあるいは微細化アラミドパルプを単独使用する系では粉落ちやシート成形性、柔軟性などの観点から不適であり、両成分を併用することが肝要であることが分かる。比較例3の結果から、セルロース系のバインダーを使用した場合は、シートそのものの耐熱性が劣位であり、使用可能な温度環境が限られることが分かる。比較例4の結果から、シリカエアロゲル成分を含有しなければ、シート内に空隙を形成することが難しく、断熱特性の発現が困難であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の断熱複合シートは、優れた断熱性、軽量性、柔軟性を確保しつつ、高温環境下でも使用可能であるため、例えば自動車や航空機など高温環境下での断熱が求められる用途において有効に機能すると期待される。
【符号の説明】
【0057】
1 エアロゲル粒子
2 アラミドパルプ(幹部分)
3 アラミドパルプ(フィブリル部分)
4 アラミドナノファイバー
図1
図2
図3
図4
図5
図6