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特開2023-156003熱伝導シートおよびその製造方法ならびにバッテリー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156003
(43)【公開日】2023-10-24
(54)【発明の名称】熱伝導シートおよびその製造方法ならびにバッテリー
(51)【国際特許分類】
   B32B 7/027 20190101AFI20231017BHJP
   H01M 10/6554 20140101ALI20231017BHJP
   H01M 10/6551 20140101ALI20231017BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20231017BHJP
   H01M 10/647 20140101ALI20231017BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20231017BHJP
   B32B 3/24 20060101ALI20231017BHJP
   B32B 25/08 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
B32B7/027
H01M10/6554
H01M10/6551
H01M10/613
H01M10/647
H05K7/20 F
H05K7/20 P
B32B3/24 Z
B32B25/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065565
(22)【出願日】2022-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 洋
(72)【発明者】
【氏名】許田 則栄
【テーマコード(参考)】
4F100
5E322
5H031
【Fターム(参考)】
4F100AA13A
4F100AA13B
4F100AA14B
4F100AA14C
4F100AA19B
4F100AA19C
4F100AK01B
4F100AK01C
4F100AK51A
4F100AK52A
4F100AK73A
4F100AL09A
4F100AN00A
4F100AN02A
4F100BA03
4F100BA06
4F100CA23B
4F100CA23C
4F100DC11A
4F100DC12A
4F100DC14A
4F100DC23B
4F100DC23C
4F100DC28A
4F100DJ03A
4F100GB41
4F100GB51
4F100JJ01B
4F100JJ01C
4F100JK07A
4F100JK08A
4F100JK11A
5E322AA07
5E322AA11
5E322DA04
5E322EA11
5E322FA04
5H031KK01
(57)【要約】
【課題】
熱伝導シートを弾性変形に富むものとし、かつ熱伝導特性をより高める。
【解決手段】
本発明は、少なくとも厚さ方向に弾性変形可能なゴム状弾性体のクッションシート2と、クッションシート2の厚さ方向両面それぞれに1つのアイランド状に備えられる層であって、かつクッションシート2よりも熱伝導性に優れる熱伝導層3,3と、を備え、クッションシート2は、その厚さ方向に貫通する貫通部4を1または2以上備え、熱伝導層3は、貫通部4を通じてクッションシート2の厚さ方向両面を接続して形成されている熱伝導シート1、その製造方法、および熱伝導シート1を備えるバッテリーに関する。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも厚さ方向に弾性変形可能なゴム状弾性体のクッションシートと、
前記クッションシートの厚さ方向両面それぞれに1つのアイランド状に備えられる層であって、かつ前記クッションシートよりも熱伝導性に優れる熱伝導層と、
を備え、
前記クッションシートは、その厚さ方向に貫通する貫通部を1または2以上備え、
前記熱伝導層は、前記貫通部を通じて前記クッションシートの前記厚さ方向両面を接続して形成されていることを特徴とする熱伝導シート。
【請求項2】
前記熱伝導層は、樹脂と、前記樹脂よりも熱伝導性に優れるフィラーとを含む層であることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項3】
前記貫通部は、一方に細長いスリットであることを特徴とする請求項1または2に記載の熱伝導シート。
【請求項4】
前記スリットは、前記熱伝導シートの平面視にてU字形状であることを特徴とする請求項3に記載の熱伝導シート。
【請求項5】
前記貫通部は、前記クッションシートの厚さ方向の面において、互いに隣り合う前記貫通部同士の間隔が異なる2以上の領域を形成していることを特徴とする請求項1または2に記載の熱伝導シート。
【請求項6】
請求項1または2に記載の熱伝導シートを製造する方法であって、
前記クッションシートを用意するステップと、
前記クッションシートの厚さ方向両面および前記貫通部に、前記熱伝導層の硬化前の状態の流動性を有する熱伝導性組成物を供する熱伝導性組成物供給ステップと、
前記熱伝導性組成物を硬化させて前記熱伝導層を形成する硬化ステップと、
を含むことを特徴とする熱伝導シートの製造方法。
【請求項7】
前記熱伝導性組成物供給ステップは、
前記クッションシートの厚さ方向両面に前記熱伝導性組成物を塗布するステップを含むことを特徴とする請求項6に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項8】
前記熱伝導性組成物供給ステップは、
前記クッションシートを前記熱伝導性組成物中に浸漬するステップを含むことを特徴とする請求項6に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項9】
請求項1または2に記載の熱伝導シートを備えるバッテリーであって、
熱源としてのバッテリーセルと当該バッテリーセルを入れる筐体との間に前記熱伝導シートを挟んでおり、前記熱伝導シートは、前記バッテリーセルの充電および/または放電時に、前記バッテリーセルから前記筐体への熱伝導を促進可能であることを特徴とするバッテリー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導シートおよびその製造方法ならびに当該熱伝導シートを備えるバッテリーに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、航空機、船舶あるいは家庭用若しくは業務用電子機器の制御システムは、より高精度かつ複雑化してきており、それに伴って、回路基板上の小型電子部品の集積密度が増加の一途を辿っている。この結果、回路基板周辺の発熱による電子部品の故障や短寿命化を解決することが強く望まれている。
【0003】
回路基板からの速やかな放熱を実現するには、従来から、回路基板自体を放熱性に優れた材料で構成し、ヒートシンクを取り付け、あるいは冷却ファンを駆動するといった手段を単一で若しくは複数組み合わせて行われている。これらの内、回路基板自体を放熱性に優れた材料、例えばダイヤモンド、窒化アルミニウム(AlN)、立方晶窒化ホウ素(cBN)などから構成する方法は、回路基板のコストを極めて高くしてしまう。また、冷却ファンの配置は、ファンという回転機器の故障、故障防止のためのメンテナンスの必要性や設置スペースの確保が難しいという問題を生じる。これに対して、放熱フィンは、熱伝導性の高い金属(例えば、アルミニウム)を用いた柱状あるいは平板状の突出部位を数多く形成することによって表面積を大きくして放熱性をより高めることのできる簡易な部材であるため、放熱部品として汎用的に用いられている。
【0004】
ところで、現在、世界中で、地球環境への負荷軽減を目的として、従来からのガソリン車あるいはディーゼル車を徐々に電気自動車に転換しようとする動きが活発化している。特に、フランス、オランダ、ドイツをはじめとする欧州諸国の他、中国でも、電気自動車の普及が進行してきている。電気自動車の普及には、高性能バッテリーの開発の他、多数の充電スタンドの設置などが必要となる。特に、リチウム系の自動車用バッテリーの充放電機能を高めるための技術開発は重要である。上記自動車バッテリーは、摂氏60度以上の高温下では充放電の機能を十分に発揮できないことが良く知られている。また、現在、バッテリーの高速かつ非接触での充電を実現する試験が進行しており、バッテリーの寿命を損なわないように、バッテリーの過充電に伴う発熱への対処も必要になる。このような事情から、先に説明した回路基板と同様、バッテリーにおいても、放熱性を高めることが重要視されている。
【0005】
上述した熱源からの放熱を促進するための熱伝導シートとしては、例えば、熱伝導性に優れる薄いシートを樹脂製のシートの表裏方向に交互に露出させるように備える部材が知られている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-031242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記公知の熱伝導シートは、比較的剛性が高く、厚さ方向への大きな収縮と復元が難しい。
【0008】
図8は、本出願人の発明者が先に開発した熱伝導シートの平面図および当該平面図のX-X線断面図を示す。
【0009】
本出願人の発明者が先に開発した熱伝導シート51は、クッションシート52の長さ方向にグラファイトシート53を蛇腹状に進行させたシートである。グラファイトシート53は、クッションシート52の厚さ方向の表側の面と裏側の面に交互露出している。このような熱伝導シート51を熱源と、熱源より低温の部材との間に介在させると、熱源から、グラファイトシート53を経由して低温の部材へと熱移動が生じる。加えて、上述の従来から公知の熱伝導シートと異なり、クッションシート52の大きな弾性変形を期待できるので、グラファイトシート53と、熱源および低温の部材との密着性に起因して熱抵抗を下げ、熱伝導シート51の熱伝導特性を上げることができる。
【0010】
最近では、このような熱伝導シート51の熱伝導特性をさらに向上させることが期待されている。本発明は、環境に配慮した電気自動車に搭載される二次電池に利用可能であり、「すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する」という本出願人の持続可能な開発目標の達成にも資する。また、このような熱伝導特性の向上は、バッテリーのみならず、回路基板などの他の発熱源からの除熱にも必要である。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、熱伝導シートを弾性変形に富むものとし、かつ熱伝導特性をより高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)上記目的を達成するための一実施形態に係る熱伝導シートは、少なくとも厚さ方向に弾性変形可能なゴム状弾性体のクッションシートと、前記クッションシートの厚さ方向両面それぞれに1つのアイランド状に備えられる層であって、かつ前記クッションシートよりも熱伝導性に優れる熱伝導層と、を備え、
前記クッションシートは、その厚さ方向に貫通する貫通部を1または2以上備え、
前記熱伝導層は、前記貫通部を通じて前記クッションシートの前記厚さ方向両面を接続して形成されている。
(2)別の実施形態に係る熱伝導シートにおいて、好ましくは、前記熱伝導層は、樹脂と、前記樹脂よりも熱伝導性に優れるフィラーとを含む層であっても良い。
(3)別の実施形態に係る熱伝導シートにおいて、好ましくは、前記貫通部は、一方に細長いスリットであっても良い。
(4)別の実施形態に係る熱伝導シートにおいて、好ましくは、前記スリットは、前記熱伝導シートの平面視にてU字形状であっても良い。
(5)別の実施形態に係る熱伝導シートにおいて、好ましくは、前記貫通部は、前記クッションシートの厚さ方向の面において、互いに隣り合う前記貫通部同士の間隔が異なる2以上の領域を形成していても良い。
(6)上記目的を達成するための一実施形態に係る熱伝導シートの製造方法は、上述のいずれかの熱伝導シートを製造する方法であって、
前記クッションシートを用意するステップと、
前記クッションシートの厚さ方向両面および前記貫通部に、前記熱伝導層の硬化前の状態の流動性を有する熱伝導性組成物を供する熱伝導性組成物供給ステップと、
前記熱伝導性組成物を硬化させて前記熱伝導層を形成する硬化ステップと、
を含む
(7)別の実施形態に係る熱伝導シートの製造方法において、好ましくは、前記熱伝導性組成物供給ステップは、前記クッションシートの厚さ方向両面に前記熱伝導性組成物を塗布するステップを含んでも良い。
(8)別の実施形態に係る熱伝導シートの製造方法において、好ましくは、前記熱伝導性組成物供給ステップは、前記クッションシートを前記熱伝導性組成物中に浸漬するステップを含んでも良い。
(9)上記目的を達成するための一実施形態に係るバッテリーは、上述のいずれかの熱伝導シートを備えるバッテリーであって、
熱源としてのバッテリーセルと当該バッテリーセルを入れる筐体との間に前記熱伝導シートを挟んでおり、前記熱伝導シートは、前記バッテリーセルの充電および/または放電時に、前記バッテリーセルから前記筐体への熱伝導を促進可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、熱伝導シートを弾性変形に富むものとし、かつ熱伝導特性をより高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、第1実施形態に係る熱伝導シートの斜視図を示す。
図2図2図1の熱伝導シートの平面図、当該平面図のA-A線断面図、当該断面図の領域Bの拡大図および当該拡大図の領域Cの拡大図を示す。
図3図3は、第2実施形態に係る熱伝導シートの平面図および当該平面図のD-D線断面図を示す。
図4図4は、第3実施形態に係る熱伝導シートの平面図(a)および第4実施形態に係る熱伝導シートの平面図(b)を示す。
図5図5は、本発明の熱伝導シートの製造方法の第1実施形態の製造工程を示す。
図6図6は、本発明の熱伝導シートの製造方法の第2実施形態の製造工程を示す。
図7図7は、熱伝導シートを備えるバッテリーの縦断面図を示す。
図8図8は、本出願人の発明者が先に開発した熱伝導シートの平面図および当該平面図のX-X線断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている諸要素およびその組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0016】
<熱伝導シート>
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る熱伝導シートの斜視図を示す。図2図1の熱伝導シートの平面図、当該平面図のA-A線断面図、当該断面図の領域Bの拡大図および当該拡大図の領域Cの拡大図を示す。
【0017】
第1実施形態に係る熱伝導シート1は、少なくとも厚さ方向に弾性変形可能なゴム状弾性体のクッションシート2と、クッションシート2の厚さ方向両面それぞれに1つのアイランド状に備えられる層であって、かつクッションシート2よりも熱伝導性に優れる熱伝導層3,3と、を備える。クッションシート2は、その厚さ方向のみならず、その長さ方向(長辺方向)またはその幅方向(短辺方向)にも弾性変形可能であっても良い。この実施形態では、クッションシート2は、厚さの小さな直方体の形状を有する。ただし、クッションシート2は、直方体のみならず、円板、楕円板、三角形または五角以上の多角形状の板、定型的な形状ではない不定形状の板でも良い。この実施形態では、熱伝導層3は、クッションシート2の厚さ方向の一方の面(表側の面という)および当該一方と反対側の他方の面(裏側の面という)において、当該面の全面に形成されている。ただし、熱伝導層3は、当該面の一部に形成されていても良い。その場合であっても、熱伝導層3は、後述の全ての貫通部と接触するように形成されている。
【0018】
(1)クッションシート
クッションシート2は、その厚さ方向に貫通するスリット(貫通部の一例)4を1または2以上備える。なお、貫通部は、貫通路と言い換えても良い。この実施形態では、スリット4は、一方(この例では、クッションシート2の幅方向)に細長いスリットであり、より具体的には、熱伝導シート1の平面視にてU字形状である。この実施形態では、U字形状のスリット4は、クッションシート2の長さ方向に20個形成されている。ただし、スリット4の数は、1つのみ、2~19個、または20個を超える数でも良い。例えば、スリットは、隣り合うU字形状のスリット4を連接して、クッションシート2の幅方向に往復しながら長さ方向に進行する蛇腹状の1本のスリットであっても良い。本願において、「スリット」とは、その開口幅を小さくした隙間であって、クッションシート2の厚さ方向両面に貫通した貫通部(または貫通路ともいう。)を意味する。
【0019】
クッションシート2は、ゴム状弾性体であって、好ましくは、シリコーンゴム、ウレタンゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、天然ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ニトリルゴム(NBR)あるいはスチレンブタジエンゴム(SBR)等の熱硬化性エラストマー; ウレタン系、エステル系、スチレン系、オレフィン系、ブタジエン系、フッ素系等の熱可塑性エラストマー、あるいはそれらの複合物等を含むように構成される。
【0020】
クッションシート2は、熱伝導層3を伝わる熱によって溶融あるいは分解等せずにその形態を維持できる程度の耐熱性の高い材料から構成されるのが好ましい。この実施形態では、クッションシート2は、より好ましくは、ウレタン系エラストマー中にシリコーンを含浸したもの、あるいはシリコーンゴムにより構成される。この実施形態では、クッションシート2は、シリコーンゴムシートである。また、クッションシート2は、好ましくは、その内部に多数の孔を有する発泡シート(またはスポンジシートとも称する)である。このため、より好ましいクッションシート2は、発泡シリコーンゴムシートである。
【0021】
(2)熱伝導層
熱伝導層3は、スリット4を通じてクッションシート2の厚さ方向両面を接続して形成されている(図2の領域Bの拡大図を参照。)。熱伝導層3がクッションシート2のスリット4を通じて当該シート2の両面を接続していると、熱伝導シート1の片面に接触する熱源(例えば、後述のバッテリーセル)から冷却部材(例えば、後述の筐体)へと熱が移動するのを促進し、熱源からの効果的な放熱または除熱を実現できる。
【0022】
熱伝導層3は、クッションシート2の厚さ方向の表側の面および裏側の面の各面において、複数個備えられず、1つのアイランド状(島状)に備えられている。この実施形態では、熱伝導層3は、クションシート2の上記各面の全面に四角形のアイランドに形成されている。ただし、熱伝導層3の形状は、四角形に限定されず、円形、楕円形、三角形または五角以上の多角形、定型的な形状ではない、いわゆる不定形でも良い。
【0023】
熱伝導層3は、好ましくは、樹脂11と、樹脂11よりも熱伝導性に優れるフィラー10とを含む層である(図2の領域Cの拡大図を参照)。ただし、熱伝導層3は、樹脂を含まなくとも良く、フィラー10のみまたは樹脂に代わる金属やゴムでも良い。上記の樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂の如何なる種類の樹脂でも良い。樹脂としては、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、芳香族ポリアミド(アラミド繊維)等を好適に例示できる。
【0024】
フィラー10は、金属、セラミックス、炭素(グラファイト、アモルファス、ダイヤモンドなど)の内の1または2以上を例示できる。金属製のフィラー10としては、アルミニウム、アルミニウム合金、タングステンなどを例示できる。セラミックス製のフィラー10としては、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、キュービック窒化ホウ素、六方晶窒化ホウ素などを例示できる。
【0025】
フィラー10が熱伝導層3に占める比率は、クッションシート2よりも熱伝導層3の方が高熱伝導率になるように決定できる。当該比率は、好ましくは、3体積%以上90体積%以下、より好ましくは、20体積%以上70体積%以下、さらにより好ましくは、30体積%以上60体積%以下である。当該比率は、高い程、熱伝導層3の熱伝導率が高まる反面、硬化前の流動性が低くなり取り扱いが難しくなるので、上記のような好ましい範囲を有する。
【0026】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る熱伝導シートについて説明する。第1実施形態と共通する部分については同じ符号を付して重複した説明を省略する。
【0027】
図3は、第2実施形態に係る熱伝導シートの平面図および当該平面図のD-D線断面図を示す。
【0028】
前述の第1実施形態に係る熱伝導シート1では、U字形状のスリット4は、クッションシート2の長さ方向にて略等間隔で形成されている。一方、第2実施形態に係る熱伝導シート1aでは、U状形状のスリット4,4aは、クッションシート2の長さ方向にて異なる間隔で形成されている。より具体的には、U字形状のスリット4同士の間隔と、U字形状のスリット4a同士の間隔とは異なっている。スリット4a同士の間隔は、スリット4同士の間隔よりも狭い。加えて、U字形状のスリット4aを構成する2つの平行なスリットの幅も、U字形状のスリット4を構成する2つの平行なスリットの幅よりも狭い。また、スリット4,4aは、クッションシート2の厚さ方向の面において、互いに隣り合うスリット4,4a同士の間隔が異なる3つの領域(E,F,F)を形成している。比較的スリット間隔の狭いスリット4aの集合は、クッションシート2の長さ方向の中央を含む中央領域Eに配置されている。スリット4aに比べてスリット間隔の広いスリット4の集合は、上記の中央領域Eを挟む端領域F,Fに配置されている。スリット4,4aは、熱伝導シート1aにいて、熱伝導層3を充填する領域である。このため、熱伝導シート1aの長さ方向の中央領域Eに高温の熱源が接触しているような場合、端領域F,Fに比べて放熱性を高めることができる。
【0029】
変形例として、スリット4aの集合は上記中央領域に配置されていなくとも良く、上記中央領域より端に移動した位置に配置されていても良い。また、互いに隣り合うスリット4,4aは、スリット間隔が異なる2つの領域(E,F)または4以上の領域(例えば、E,E,F,F)、(例えば、E,F,F,F)などを形成していても良い。また、クッションシート2に、スリット間隔が異なる3種以上のスリットを形成し、それらのスリットを3以上の領域に分けて配置しても良い。また、スリット4,4aの上記領域E,Fは、クッションシート2の長さ方向に分けて配置されるのではなく、幅方向、またはクッションシート2の面内に分かれて配置されていても良い。このような配置は、熱伝導シート1aの面に接触する熱源の数や温度に応じて選択可能である。
【0030】
(第3実施形態および第4実施形態)
次に、第3実施形態および第4実施形態に係る熱伝導シートについて説明する。上述の各実施形態と共通する部分については同じ符号を付して重複した説明を省略する。
【0031】
図4は、第3実施形態に係る熱伝導シートの平面図(a)および第4実施形態に係る熱伝導シートの平面図(b)を示す。
【0032】
第3実施形態に係る熱伝導シート1bは、直線状のスリット4bをクッションシート2の長さ方向に略等間隔で配置した形態を有する。第4実施形態に係る熱伝導シート1cは、第2実施形態と同様に、直線状のスリット4b,4cを、クッションシート2の厚さ方向の面において、互いに隣り合うスリット4b,4c同士の間隔が異なる3つの領域を形成するように配置している。スリット4c同士の間隔は、スリット4b同士の間隔より狭い。スリット4cの集合は、クッションシート2の長さ方向の中央を含む中央領域に配置されている。スリット4bの集合は、当該中央領域を挟む2つの端領域に配置されている。第3実施形態は、第1実施形態のU字形状のスリット4を直線状のスリット4bに変更した実施形態である。第4実施形態は、第2実施形態のU字形状のスリット4,4aを直線状のスリット4b,4cに変更した実施形態である。このように、スリットの形態を直線状に変更しても、同様の熱伝導効果を得ることができる。
【0033】
<熱伝導シートの製造方法>
(第1実施形態)
図5は、本発明の熱伝導シートの製造方法の第1実施形態の製造工程を示す。
【0034】
この製造方法は、上述の熱伝導シート1,1a,1b,1c(以後、熱伝導シートを総括するときには「熱伝導シート1等」という。)を製造する方法であって、クッションシート2を用意するステップ(ST100)と、熱伝導性組成物供給ステップ(ST200)と、硬化ステップ(ST300)と、を含む。
【0035】
熱伝導性組成物供給ステップ(ST200)は、クッションシート2の厚さ方向両面およびスリット4,4a,4b,4c(以後、スリットを総括するときには「スリット4等」という。)に、熱伝導層3の硬化前の状態の流動性を有する熱伝導性組成物を供するステップである。硬化ステップ(ST300)は、熱伝導性組成物を硬化させて熱伝導層3を形成するステップである。
【0036】
熱伝導性組成物供給ステップ(ST200)は、この実施形態では、クッションシート2の厚さ方向両面に熱伝導性組成物を塗布するステップを含む。熱伝導性組成物供給ステップ(ST200)は、クッションシート2の厚さ方向の表側の面に熱伝導性組成物を塗布するステップ(ST210)およびクッションシート2の厚さ方向の裏側の面に熱伝導性組成物を塗布するステップ(ST220)を含む。ST210とST220は、所定時間をあけて行っても良く、または同時に行っても良い。
【0037】
熱伝導性組成物は、樹脂11と、フィラー10と、好ましくは有機溶剤と、を含む。有機溶剤は、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等に代表されるアルコール類; アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等に代表されるケトン類; ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等に代表される炭化水素類; クレゾール、フェノール、キシレノール等に代表されるフェノール類; 酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等に代表されるエステル類; ギ酸、酢酸等に代表されるカルボン酸; ジオキサン、ジエチルエーテル等に代表されるエーテル化合物; エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等に代表される鎖状エーテル類; 3-メチル-2-オキサゾリジノン等に代表される複素環化合物; アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等に代表されるニトリル化合物などを好適に例示できる。これらの有機溶剤は、単独で用いても良く、あるいは2種以上を混合して用いても良い。熱伝導性組成物中に含まれる樹脂11は、上記有機溶剤に好ましくは溶解状態または分散状態で存在し、より好ましくは、溶解状態で存在する。
【0038】
U字形状のスリット4,4aをクッションシート2に形成している場合には、次のようなメリットがある。特にスリット4,4aの中に熱伝導性組成物が入りにくいときに、スリット4,4aの長さ方向の一端(U字の底部分)を持ち上げて、熱伝導性組成物を塗布すれば、スリット4,4aに熱伝導性組成物を容易に入り込むようにでき、その結果、熱流路が途切れないようにすることができる。
【0039】
硬化ステップ(ST300)は、熱伝導性組成物を硬化させて熱伝導層3を形成できれば、如何なる手段を用いたステップでも良い。硬化方法としては、加熱、冷却、室温での放置、光照射、電子線照射を例示できる。
【0040】
(第2実施形態)
図6は、本発明の熱伝導シートの製造方法の第2実施形態の製造工程を示す。第2実施形態において、第1実施形態と共通する部分についてはその記載を省略する。
【0041】
この製造方法は、上述の熱伝導シート1等を製造する方法であって、クッションシート2を用意するステップ(ST100)と、熱伝導性組成物供給ステップ(ST200)と、硬化ステップ(ST300)と、を含む。熱伝導性組成物供給ステップ(ST200)以外のステップは、第1実施形態と同様である。
【0042】
熱伝導性組成物供給ステップ(ST200)は、クッションシート2の厚さ方向両面およびスリット4等に、熱伝導性組成物を供するステップである。硬化ステップ(ST300)は、熱伝導性組成物を硬化させて熱伝導層3を形成するステップである。
【0043】
熱伝導性組成物供給ステップ(ST200)は、この実施形態では、クッションシート2を熱伝導性組成物中に浸漬するステップ(ST250)と、ST250後のクッションシート2を熱伝導性組成物から引き上げるステップ(ST260)と、を含む。ただし、ST260に代えて、例えば、熱伝導性組成物を入れた容器から、熱伝導性組成物を排出するステップを実行しても良い。
【0044】
U字形状のスリット4,4aをクッションシート2に形成している場合には、次のようなメリットがある。特にスリット4,4aの中に熱伝導性組成物が入りにくいときに、熱伝導性組成物中にてスリット4,4aの長さ方向の一端(U字の底部分)を持ち上げると、スリット4,4aに熱伝導性組成物を容易に入り込むようにでき、その結果、熱流路が途切れないようにすることができる。
【0045】
硬化ステップ(ST300)は、上述の第1実施形態と同様、熱伝導性組成物を硬化させて熱伝導層3を形成できれば、如何なる手段を用いたステップでも良い。
【0046】
<バッテリー>
次に、本実施形態に係るバッテリーについて説明する。
【0047】
図7は、熱伝導シートを備えるバッテリーの縦断面図を示す。ここで、「縦断面図」は、バッテリーの筐体内部の上方開口面から底部へと垂直に切断する図を意味する。
【0048】
この実施形態に係るバッテリー20において、熱源は1または2以上のバッテリーセル30である。また、冷却部材はバッテリーセル30を入れた筐体21である。前述の熱伝導シート1等は、バッテリーセル30と筐体21との間に介在している。以下、バッテリー20の構造について説明する。
【0049】
この実施形態において、バッテリー20は、例えば、電気自動車用のバッテリーであって、多数のバッテリーセル30を備える。バッテリー20の好適な例としては、リチウムイオンバッテリーを挙げることができる。バッテリー20は、一方に開口する有底型の筐体21を備える。筐体21は、好ましくは、アルミニウム若しくはアルミニウム基合金から成る。バッテリーセル30は、筐体21の内部24に配置される。バッテリーセル30の上方には、電極(不図示)が突出して設けられている。複数のバッテリーセル30は、好ましくは、筐体21内において、その両側からネジ等を利用して圧縮する方向に力を与えられて、互いに密着するようになっている(不図示)。筐体21の底部22には、冷却水25を流すために、1または複数の水冷パイプ23が備えられている。バッテリーセル30は、筐体21の一部を構成する底部22(冷却部材の一例)との間に、熱伝導シート1等を挟むようにして、筐体21内に配置される。
【0050】
上記構造のバッテリー20では、バッテリーセル30は、熱伝導シート1等を通じて筐体21に伝熱して、水冷によって効果的に除熱される。なお、冷却水25は、「冷却媒体」あるいは「冷却剤」と読み替えても良い。冷却水25に代えて、液体窒素、エタノール等の有機溶剤を用いても良い。
【0051】
以上のように、バッテリー20は、熱源としてのバッテリーセル30と当該バッテリーセル30を入れる筐体20との間に熱伝導シート1等を挟んでいる。このため、熱伝導シート1等は、バッテリーセル30の充電および/または放電時に、バッテリーセル30から筐体21への熱伝導を促進可能である。
【0052】
<その他実施形態>
上述のように、本発明の好適な各実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されることなく、種々変形して実施可能である。
【0053】
貫通部は、スリット4等に限定されず、貫通孔、または開口した貫通口の形態でも良い。スリット4等は、クッションシート2の幅方向、クッションシート2の面内斜め方向など、クッションシート2の長さ方向以外に並べて配置されていても良い。
【0054】
熱伝導性組成物供給ステップ(ST200)および硬化ステップ(ST300)は、1サイクルのみならず、2サイクル以上としても良い。例えば、クッションシート2の表側の面に熱伝導性組成物を塗布した後、当該組成物を硬化し(1サイクル)、続いて、クッションシート2の裏側の面に熱伝導性組成物を塗布して当該組成物を硬化させるようにしても良い(2サイクル)。
【0055】
また、熱源は、バッテリーセル30のみならず、回路基板や電子機器本体などの熱を発する対象物を全て含む。例えば、熱源は、キャパシタおよびICチップ等の電子部品であっても良い。また、熱伝導シート1等は、バッテリー20以外の構造物、例えば、電子機器、家電、発電装置等に配置されていても良い。
【0056】
また、上述の各実施形態の複数の構成要素は、互いに組み合わせ不可能な場合を除いて、自由に組み合わせ可能である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、熱源からの放熱を行う部材や機器に利用可能である。
【符号の説明】
【0058】
1,1a,1b,1c・・・熱伝導シート、2・・・クッションシート、3・・・熱伝導層、4,4a,4b,4c・・・スリット(貫通部の一例)、10・・・フィラー、11・・・樹脂、20・・・バッテリー、21・・・筐体、30・・・バッテリーセル(熱源の一例)、E,F・・・領域。

図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8