(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156011
(43)【公開日】2023-10-24
(54)【発明の名称】直流電源装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20231017BHJP
【FI】
H02M3/155 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065580
(22)【出願日】2022-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000006220
【氏名又は名称】ミツミ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】田淵 仁之
(72)【発明者】
【氏名】栃谷 浩司
(72)【発明者】
【氏名】三島 健人
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AA02
5H730AS05
5H730AS13
5H730BB13
5H730BB57
5H730CC03
5H730DD04
5H730EE49
5H730EE59
5H730FD01
5H730FG05
5H730FV07
(57)【要約】
【課題】CISPR25のクラス5のEMC規格を満たすことができる直流電源装置を提供する。
【解決手段】スイッチング電源装置(20)と、前記スイッチング電源装置の前段または後段に接続された電流安定化回路(10)とを備え、直流電源から供給される直流入力電圧を変換して異なる電位の直流電圧を出力する直流電源装置において、前記スイッチング電源装置は、スイッチング周期を与える発振信号を生成する周波数可変な発振回路と、前記発振回路の周波数を前記スイッチング周期よりも長い周期で変化させるための発振制御電圧もしくは発振制御電流を生成する発振制御回路と、を備えるようにした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング電源装置と、前記スイッチング電源装置の前段または後段に接続された電流安定化回路とを備え、直流電源から供給される直流入力電圧を変換して異なる電位の直流電圧を出力する直流電源装置であって、
前記スイッチング電源装置は、
スイッチング周期を与える発振信号を生成する周波数可変な発振回路と、
前記発振回路の周波数を前記スイッチング周期よりも長い周期で変化させるための発振制御電圧もしくは発振制御電流を生成する発振制御回路と、
を備えていることを特徴とする直流電源装置。
【請求項2】
前記発振回路は、印加される電圧に応じて発振周波数が変化可能な電圧制御発振回路であり、
前記発振制御回路は、電圧値が漸増、漸減する三角波を生成する三角波生成回路であり、
前記三角波生成回路により生成された三角波が、発振周波数を変化させる電圧として前記発振回路に印加されるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の直流電源装置。
【請求項3】
前記電流安定化回路の電流入力端子と電流出力端子との間に接続された電流バイパス経路および前記電流バイパス経路の途中に設けられた電流スイッチ素子と、
外部からの信号または電圧に応じて前記電流スイッチ素子をオン、オフ制御する信号を生成し、前記電流スイッチ素子を制御する信号を生成する動作切替え回路と、
を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の直流電源装置。
【請求項4】
前記発振制御回路は、生成する発振制御電圧を変化させる第1動作状態または固定する第2動作状態に切り替えることができるように構成され、
前記動作切替え回路は、前記発振制御回路の動作状態を切り替える信号を生成可能に構成されていることを特徴とする請求項3に記載の直流電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング電源および電流安定化回路を備えた直流電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載電子機器の分野においては、ドライブレコーダーのように、バッテリーから比較的長い電源ケーブルを介して負荷へ直流電圧を供給する場合、電圧低下を防止するとともに効率を良くするため、機器側にスイッチング電源(DC-DCコンバータ)を設けている。このように、長い電源ケーブルでバッテリーからスイッチング電源へ電流を供給するシステムにおいては、電源装置のスイッチング動作に伴い電源ケーブルに伝導ノイズが乗り、電源ケーブルから輻射ノイズが放出され、テレビ放送受信機等他の電子機器へ悪影響を及ぼすという課題がある。
【0003】
また、近年、EV(電気自動車)やPHEV(プラグインハイブリッド)などにおけるような走行駆動源の電動化、自動運転のような先進運転システムの導入等によって、EMC(電磁両立性)対策の重要性がますます大きくなっており、CISPR25と呼ばれる自動車向けEMC規格が、IEC(国際電気標準会議)により策定されている。
自動車で使用されるスイッチング電源(DC-DCコンバータ)はノイズ発生源となるため、CISPR25等の規格を満たすようにノイズを抑えることが必須の条件となっている。
【0004】
そこで、本出願人は、DC-DCコンバータでのスイッチング動作に伴い電源ケーブルを流れる電流が激しく変動することが輻射ノイズの原因となることに着目して、DC-DCコンバータの前段または後段に、電流安定化回路を接続した直流電源装置に関する発明をなし、先に出願した(特許文献1)。
また、直流電源の分野においては、車載用DC-DCコンバータに、EMC対策として、スペクトラム拡散機能を設けることがある。
【0005】
なお、スペクトラム拡散とは、電子機器が放出する電磁ノイズのエネルギーのスペクトルが狭い帯域に集中しないように、発振信号の周波数を若干変動させるような低周波のジッタを与え、放射電磁ノイズのエネルギーをある周波数の帯域幅に分散させることによってそのピーク値を抑圧する技術である。
特許文献2には、携帯電話やPDA等の電子機器用のスイッチングレギュレータにおいて、EMC対策として、スペクトラム拡散機能を設けることが記載されている。ただし、特許文献2には、電流安定化回路を設けることでノイズを低減する技術については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-191079号公報
【特許文献2】特開2011-139609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、DC-DCコンバータの前段に電流安定化回路を接続した直流電源装置と、電流安定化回路を設けない単独のDC-DCコンバータ(スイッチング周波数2MHz)について、シミュレーションによって、DC-DCコンバータの入力端子VINから上流の電源側へ伝達されるノイズの大きさを算出してみた。その結果を、
図3に示す。このうち、
図3(A)はDC-DCコンバータ単独の場合の伝導ノイズの周波数スペクトル、
図3(B)はDC-DCコンバータの前段に電流安定化回路を設けた場合の伝導ノイズの周波数スペクトルを示す。横軸はそれぞれ周波数である。
図3(A)、(B)において、ノイズに表われている複数のピークの周波数は、スイッチング周波数2MHzの高調波の周波数に相当する。
【0008】
一方、
図2には、上記0-10MHz、10-20MHz、20-30MHz、……90-100MHzの各周波数帯の中で最大ピークのノイズを代表値として選択し、5MHz、15MHz、25MHz、……95MHzのノイズとしてプロットし折れ線グラフとして表わしたものを示す。
図2において、折れ線AはDC-DCコンバータ単独の場合の伝導ノイズの変化を表わし、折れ線Bは電流安定化回路を設けたDC-DCコンバータのノイズの変化を表わしている。また、
図2において、NL1,NL2,NL3,NL4は、CISPR25のクラス5に規定されている、0.5-1.6MHz、5.9-6.2MHz、30-54MHz、76-90MHzのノイズレベルを表わしている。
図2より、DC-DCコンバータ単独、電流安定化回路を設けたDC-DCコンバータのいずれの伝導ノイズも、CISPR25のクラス5の規格を満たさないことが分かる。
【0009】
また、本発明者は、スイッチング周波数2MHzで動作するDC-DCコンバータにスペクトラム拡散機能を設けた場合について、シミュレーションによって、電源側へ伝達されるノイズの大きさ算出してみた。その結果を、
図4(A)に示す。また、
図2に、スペクトラム拡散機能を設けた場合における伝導ノイズの各周波数帯での最大ピークを折れ線Cで示した。
図2より、スペクトラム拡散機能を設けたDC-DCコンバータの所定の条件における伝導ノイズは、電流安定化回路を設けた場合の伝導ノイズと同程度であり、CISPR25のクラス5の規格を満たさないことが分かった。つまり、シミュレーション対象のDC-DCコンバータは、スペクトラム拡散機能を設けた場合と電流安定化回路を設けた場合のノイズ低減効果がほぼ同程度になる条件であった。
【0010】
この発明は上記のような背景の下になされたもので、その目的とするところは、DC-DCコンバータにスペクトラム拡散機能を設けた場合と電流安定化回路を設けた場合のノイズ低減効果がほぼ同程度になる条件下において、CISPR25のクラス5のEMC規格を満たすことができる直流電源装置を提供することにある。
本発明の他の目的は、ユーザの要求あるいはノイズの規格に応じて動作を切り替えることができる直流電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本出願に係る発明は、
スイッチング電源装置と、前記スイッチング電源装置の前段または後段に接続された電流安定化回路とを備え、直流電源から供給される直流入力電圧を変換して異なる電位の直流電圧を出力する直流電源装置において、
前記スイッチング電源装置は、
スイッチング周期を与える発振信号を生成する周波数可変な発振回路と、
前記発振回路の周波数を前記スイッチング周期よりも長い周期で変化させるための発振制御電圧もしくは発振制御電流を生成する発振制御回路と、
を備えているようにしたものである。
【0012】
上記のような構成の直流電源装置によれば、スイッチング電源装置(DC-DCコンバータ)のスイッチング周期を与える発振信号を生成する発振回路が周波数可変であり、発振制御回路によって生成される発振制御電圧もしくは発振制御電流により上記発振回路の周波数がスイッチング周期よりも長い周期で変化されるため、上記発振回路と発振制御回路によってスペクトラム拡散機能が実現される。
さらに、スイッチング電源装置の前段または後段に接続された電流安定化回路によって、スイッチング電源装置のスイッチング動作により発生したノイズが電源ラインに伝達するのを抑制することができ、それによって電源ラインの電流が大きく変動して電源ラインから輻射ノイズが放出されるのを抑制することができる。その結果、CISPR25のクラス5のEMC規格を満たすことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の直流電源装置によれば、DC-DCコンバータにスペクトラム拡散機能を設けた場合と電流安定化回路を設けた場合のノイズ低減効果がほぼ同程度になる条件下において、スイッチング動作に伴って発生するノイズをさらに低減して、CISPR25のクラス5のEMC規格を満たすことができる。また、ユーザの要求すなわちノイズ低減を優先するか電圧低下回避を優先するかに応じて、あるいはノイズの規格によって動作を切り替えることができ、柔軟性および使い勝手を向上させることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る直流電源装置の一実施形態を示す回路構成図である。
【
図2】
図3および
図4のノイズの周波数スペクトルにおける各周波数帯での最大ピークを代表値として取り出して示した折れ線グラフである。
【
図3】(A)はDC-DCコンバータ単独の場合のノイズの周波数スペクトル、(B)は電流安定化回路を設けたDC-DCコンバータのノイズの周波数スペクトルである。
【
図4】(A)はスペクトラム拡散機能を設けたDC-DCコンバータのノイズの周波数スペクトル、(B)は電流安定化回路およびスペクトラム拡散機能を設けた実施形態のDC-DCコンバータのノイズの周波数スペクトルである。
【
図5】本発明に係る直流電源装置の第2の実施形態を示す回路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明を、スイッチング電源(DC-DCコンバータ)を備えた直流電源装置に適用した場合の一実施形態の概略構成を示す。
図1の直流電源装置は、バッテリーから入力される電源電圧Vinを、負荷となる電子機器に適した電圧に変換して安定した出力電圧Voutを出力し、負荷へ電流Ioutを流す機能を有する。車載電子機器用の電源装置においては、入力電圧Vinは3V~36V、出力電圧Voutは3.3Vのような電圧とされる。
【0016】
本実施形態の直流電源装置は、電流入力端子IN1と電流出力端子OUT1を備えバッテリーから電源ケーブル等を介して電流入力端子IN1に入力される電流を制御する電流安定化回路10と、電圧入力端子IN2と電圧出力端子OUT2を備え電流安定化回路10の電流出力端子OUT1に電圧入力端子IN2が接続されたスイッチング制御方式のDC-DCコンバータ20とから構成され、DC-DCコンバータ20の電圧出力端子OUT2に負荷RLが接続される。
【0017】
特に制限されるものでないが、電流安定化回路10とDC-DCコンバータ20がプリント配線基板のような1つの基板上に実装されるIC(半導体集積回路)としてそれぞれ構成される場合、電流安定化回路10とDC-DCコンバータ20との間は、基板に形成された2本のプリント配線パターンからなる電源ライン(1つはグランドライン)によって接続される。また、電圧出力端子OUT1と接地点との間には平滑用のコンデンサC1が接続され、電圧出力端子OUT2と接地点との間には平滑用のコンデンサC2が接続されている。なお、電流安定化回路10とDC-DCコンバータ20は、1つの半導体チップ上に1個のICとして形成されても良い。
【0018】
本実施形態の直流電源装置における電流安定化回路10は、バッテリーから供給される直流電圧が印加される電流入力端子IN1と電流出力端子OUT1との間に設けられたPNPバイポーラ・トランジスタからなる電流制御用トランジスタQ1と、該トランジスタQ1のエミッタ端子と電流入力端子IN1との間に接続された抵抗R1と、トランジスタQ1を制御するオペアンプ(演算増幅回路)AMP1と、該オペアンプAMP1の非反転入力端子に印加する電圧を生成する定電圧源CVSとを備えている。抵抗R1には、抵抗値が10Ω程度の低抵抗値の素子が使用される。
【0019】
また、電流安定化回路10は、上記電流入力端子IN1と接地点との間に接続されたノイズ低減用のコンデンサC1と、上記電流出力端子OUT1と定電圧源CVSのマイナス側制御端子(-)との間に設けられたローパスフィルタLPFを備えている。
本実施形態では、オペアンプAMP2の非反転入力端子に、ローパスフィルタLPFの出力電位よりも定電圧源CVSの電圧分だけ高い電圧が印加されることとなる。
【0020】
ローパスフィルタLPFは、電流安定化回路10の電流出力端子OUT1と定電圧源CVSのマイナス側端子(-)との間に接続された抵抗R2と、定電圧源CVSのマイナス側制御端子(-)と接地点との間に接続されたコンデンサC2とからなり、電流出力端子OUT1の電圧変動成分のうち、後段のDC-DCコンバータ20のスイッチング周波数に相当する高周波成分を除去し、DC-DCコンバータ20のサーボ帯域(サーボ制御周波数)に相当する低周波成分を通過させるように時定数が設定される。
【0021】
これにより、ローパスフィルタLPFは、後段のDC-DCコンバータ20のサーボ制御に伴う電流出力端子OUT1の電圧変動のみを、定電圧源CVSを介してオペアンプAMP2へ伝え、スイッチング制御に伴う電流出力端子OUT1の電圧変動をオペアンプAMP2へ伝えないように働く。具体的には、例えばDC-DCコンバータ20のスイッチング周波数が2MHzで、サーボ制御周波数が2.4kHzである場合、抵抗R2として抵抗値が10数kΩの素子が使用され、コンデンサC2として容量値が数nFの素子が使用される。
【0022】
また、定電圧源CVSはバイポーラ・トランジスタのコレクタ・エミッタ間電圧VCEに相当する電圧(約0.2V)を発生するように構成されており、これにより電流制御用トランジスタQ1が常時動作することが可能になる。また、前記電圧が0.2V程度と小さくなるように構成することでトランジスタQ1の熱損失を抑制し、トランジスタQ1で発生する損失を最小限にすることが可能となるという利点がある。また、電圧を小さくし過ぎないことで電流制御用トランジスタQ1の寄生容量の増大を防いでいる。
上記のような構成を有する本実施形態の電流安定化回路10は、電流制御用トランジスタQ1に流れるコレクタ電流をIc、電流入力端子IN1と電流出力端子OUT1との間の電位差をΔVとおくと、Ic=(ΔV-CVS)/R1で表わされる電流を流すように動作する。
【0023】
ここで、電流入力端子IN1と電流出力端子OUT1との間の電位差ΔVは、上述したように、DC-DCコンバータ20の動作に伴う高周波成分を除去し低周波成分を維持するようにされる。そのため、DC-DCコンバータ20のスイッチング動作で激しく変動する電流出力端子OUT1側の電流変化を上流側の電源ラインへ伝えない一方、DC-DCコンバータ20のサーボ制御に伴う電流変化には追従して変化する電流Icを流すことができるようになる。
なお、電流安定化回路10は、
図1に示されているような構成の回路に限定されるものでなく、例えば前述の特許文献1の
図3、
図5、
図6に記載されているような構成のものを使用しても良い。
【0024】
次に、DC-DCコンバータ20について説明する。
本実施形態のDC-DCコンバータ20は、電圧入力端子IN2と電圧出力端子OUT2との間に直列に接続されたPチャネル形MOSFET(電界効果トランジスタ)からなるスイッチング素子としてのスイッチング・トランジスタM1およびM1と直列のインダクタL1を備える。さらに、トランジスタM1とインダクタL1との接続ノードと接地点との間に接続された同期整流トランジスタM2と、上記トランジスタM1,M2をオン、オフ制御する信号を生成するスイッチング制御回路21と、スイッチング制御回路21からの制御信号に応じてトランジスタM1,M2をオン、オフ駆動するドライバ(ゲート駆動回路)22を備える。
【0025】
また、電圧出力端子OUT2と接地点との間には、当該DC-DCコンバータ20の出力電圧Voutを分圧する直列形態のブリーダ抵抗Rb1,Rb2が接続されている。
スイッチング制御回路21は、上記ブリーダ抵抗Rb1,Rb2により分圧された電圧がフィードバック電圧VFBとして反転入力端子が接続された誤差アンプAMP2と、所定の周波数の信号を生成する発振回路OSCと、発振回路OSCの周波数を制御する制御信号を生成する発振制御回路としての波形生成回路WGと、誤差アンプAMP2の出力信号と発振回路OSCの出力信号を入力とするコンパレータ(電圧比較器)COMPとを備える。
【0026】
上記誤差アンプAMP2の非反転入力端子には参照電圧Vrefが印加されており、誤差アンプAMP2はフィードバック電圧VFBと参照電圧Vrefとの電位差に応じた電圧をコンパレータCOMPへ出力し、コンパレータCOMPは、誤差アンプAMP1の出力電圧に応じてPWM(パルス幅変調)方式でトランジスタM1,M2をオン、オフ制御するパルス信号を生成する。このパルス信号によってスイッチング・トランジスタM1のオン時間を制御する。
【0027】
具体的には、トランジスタM2をオフ、M1をオンしてインダクタL1に電流を流してエネルギーを蓄積した後、M1をオフ、M2をオンしてインダクタL1の蓄積エネルギーを放出させて電圧出力端子OUT2へ向けて電流Ioutを流すとともに、入力電圧を変換して負荷へ所定の直流電圧を供給する。また、負荷の電流が増加して出力電圧Voutが下がると、コンパレータCOMPの出力のパルス幅が広がってM1のオン時間を長くして出力電圧Voutを高くする。逆に、負荷の電流が減少して出力電圧Voutが上がると、コンパレータCOMPの出力のパルス幅が狭くなってM1のオン時間を短くして出力電圧Voutを低くする。
【0028】
本実施形態のDC-DCコンバータ20においては、発振回路OSCとして、制御端子に印加される電圧に応じて発振周波数が可変な電圧制御発振回路(VCO)が使用されている。一方、波形生成回路WGには、当該DC-DCコンバータ20のスイッチング周波数よりも充分に小さな周波数で変化する三角波を生成する三角波生成回路が使用されている。この三角波生成回路により生成された三角波がVCOの制御端子に印加されることに応じて、VCOの発振周波数が漸増と漸減を繰り返すこととなる。従って、VCOと三角波生成回路とによって、スペクトラム拡散機能が実現される。
【0029】
具体的には、例えば発振回路OSCの基本周波数として2MHz、三角波の周波数として3kHzが選択され、発振回路OSCは波形生成回路WGからの三角波の変化によって周波数が2MHzから2.4MHzまで増加した後、2MHzまで減少する動作を、0.33ミリ秒の周期(3kHz)で繰り返すように構成される。このように、スイッチング周波数を上方拡散させることによって、下方拡散によるAM帯域への干渉を避けることができる。なお、基本周波数の2MHzは一例であり、一般的には、200kHz~2.2MHzの範囲でいずれかの周波数が選択される。
また、本実施形態においては、発振回路OSCとして電圧制御発振回路(VCO)を使用しているが、制御電流によって発振周波数が変化するタイプの発振回路を使用するようにしても良い。また、三角波生成回路は鋸波(広義の三角波)を生成するものであっても良い。
【0030】
図4(B)には、電流安定化回路10とDC-DCコンバータ20とからなる本実施形態の直流電源装置(DCDC+電流安定化回路+スペクトラム拡散機能)について、上記のような周波数条件で、シミュレーションを行なって取得した伝導ノイズの周波数スペクトルを示す。また、この周波数スペクトルに基づいて、0-10MHz、10-20MHz、20-30MHz、……90-100MHzの各周波数帯の中で最大ピークのノイズを代表値として選択し、5MHz、15MHz、25MHz、……95MHzのノイズとしてプロットし点間を結んだものを、
図2に折れ線Dとして表わした。
【0031】
図2および
図4(B)より、本実施形態の直流電源装置(DCDC+電流安定化回路+スペクトラム拡散機能)は、CISPR25のクラス5のEMC規格を満たすことができることが分かる。また、この折れ線Dは、(DCDC+電流安定化回路)の直流電源装置の特性を表わす折れ線Bと、(DCDC+スペクトラム拡散機能)の直流電源装置の特性を表わす折れ線Cとから予想される結果と一致する。さらに、折れ線Dは
図4(B)に示す周波数スペクトルの各周波数帯でのノイズピーク値の平均ではなく、最大ピーク点を結んだものである。このことから、高調波のノイズ成分を、CISPR25のクラス5に規定されているノイズレベル以下に完全に抑制できることが分かる。
【0032】
次に、
図5を用いて、本発明に係る直流電源装置の第2の実施形態について説明する。
第2実施形態の直流電源装置においては、電流安定化回路10の電流入力端子IN1と電流出力端子OUT1との間に、抵抗R1および電流制御用トランジスタQ1を迂回するバイパス電流経路が設けられ、このバイパス電流経路の途中にオン/オフ・スイッチSW1が設けられている。
また、外部からの制御信号E1,E2に応じて回路の動作モードを切り替えるための動作切替え回路30が設けられ、動作切替え回路30からの信号によって、上記オン/オフ・スイッチSW1がオン/オフされるとともに、DC-DCコンバータ20の波形生成回路WGの動作が切り替えられるように構成されている。他の構成は第1の実施形態と同じであるので、重複することとなる説明は省略する。
【0033】
本実施形態の直流電源装置においては、上記スイッチSW1のオンまたはオフの状態と波形生成回路WGの2つの状態との組み合わせによって、本実施形態の直流電源装置は最大で4つの動作状態を取り得ることとなる。
具体的には、波形生成回路WGは、動作切替え回路30からの切替え信号に応じて、第1の実施形態と同様に所定の周波数の三角波を生成して出力する第1動作と、一定の電圧を出力する第2動作を行う。第2動作において出力する一定の電圧は、発振器 (VCO)を例えば2MHzの周波数で発振動作させる電圧である。
【0034】
これにより、動作切替え回路30は、(DCDC+電流安定化回路+スペクトラム拡散機能)の直流電源装置または(DCDC+スペクトラム拡散機能)の直流電源装置の他、(DCDC+電流安定化回路)の直流電源装置やDCDC単独の直流電源装置のいずれかのモードで動作するような切替え機能を有するように構成されている。ただし、上記4つの動作モードのうちいずれか2つまたは3つの動作モードの切替え機能を有するように直流電源装置を構成しても良い。
なお、上記オン/オフ・スイッチSW1がオンされると、電流安定化回路10のオペアンプAMP1が動作を停止して電流制御用トランジスタQ1をオフ状態にするように構成すると良い。これにより、スイッチSW1のオン期間中における電流安定化回路10の消費電力を低減することができる。
【0035】
第1および第2の実施形態においては、ノイズ低減のため電流安定化回路10を設けており、電流安定化回路10には出力電流値を検出するための抵抗R1が設けられているので、電流安定化回路10を設けない場合に比べて出力電圧が低くなる。一方、ユーザの中には、ノイズ低減よりも出力電圧の低下回避を優先したいと考えるユーザと、出力電圧の低下回避よりもノイズ低減を優先したいと考えるユーザがいる。
第2実施形態の直流電源装置は、電流安定化回路10のIN1-OUT1間バイパス用のスイッチSW1および動作切替え回路30を備えているため、ノイズ低減を優先した電源装置としても、出力電圧の低下回避を優先した電源装置としても動作させることが可能となる。また、CISPR25のクラス5とクラス4のように、ノイズの規格に応じて電源装置の動作を切り替えるように構成しても良い。
【0036】
また、電流安定化回路10とDC-DCコンバータ(L1,C4,Rb1,Rb2を除く)20と動作切替え回路30を1つのICとして構成する場合においては、動作切替え回路30へ制御信号E1,E2を入力するための外部端子(ピン)またはパッドを設けるようにしても良い。この場合、外部端子(ピン)またはパッドに、外付けのプルアップ抵抗またはプルダウン抵抗を接続して制御信号E1,E2の代わりとすることができる。さらに、動作切替え回路30へ入力される制御信号E1,E2の状態を保持するレジスタを設けて良い。
【0037】
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではない。例えば、前記実施形態では、連続的に変化する三角波を生成する波形生成回路WGを設けているが、波形生成回路WGの代わりに、発振器(VCO)の発振周波数を段階的(ステップ状)に変化させる電圧もしくは信号を生成する回路(発振周波数変動手段)を設けるようにしても良い。
また、前記実施形態では、DC-DCコンバータ20の前段に電流安定化回路10を設けた直流電源装置を示したが、DC-DCコンバータ20の後段に電流安定化回路10を設けた直流電源装置として構成するようにしても良い。
【0038】
また、前記実施形態では、電流安定化回路10を構成するトランジスタとしてバイポーラ・トランジスタを使用したものを示したが、バイポーラ・トランジスタの代わりにMOSトランジスタを使用しても良い。さらに、前記実施形態では、DC-DCコンバータ20として同期整流方式のDC-DCコンバータを使用した直流電源装置について説明したが、スイッチング・トランジスタM2の代わりにダイオードを使用した非同期整流方式のDC-DCコンバータを使用しても良い。
さらに、前記実施形態では、本発明を非絶縁型のDC-DCコンバータを直流電源装置とするシステムに適用した場合について説明したが、本発明は、トランスを備え一次側巻線に流す電流をスイッチング制御する絶縁型のDC-DCコンバータを直流電源装置とするシステムにも適用することができる。
【符号の説明】
【0039】
10……電流安定化回路、Q1……電流制御用トランジスタ、AMP1……アンプ、LPF……ローパスフィルタ、CVS……定電圧源、20……DC-DCコンバータ(スイッチング電源装置)、21……スイッチング制御回路、22……ドライバ(駆動回路)、30……動作切替え回路、L1……インダクタ(コイル)、AMP2……アンプ、COMP……コンパレータ(電圧比較器)、OSC……発振回路、WG……波形生成回路(発振制御回路)、SW1……オン/オフ・スイッチ(電流スイッチ素子)