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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156072
(43)【公開日】2023-10-24
(54)【発明の名称】光硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/17 20060101AFI20231017BHJP
   C08F 299/02 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
C08G59/17
C08F299/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065705
(22)【出願日】2022-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】川島 啓佑
(72)【発明者】
【氏名】名和 穂菜美
【テーマコード(参考)】
4J036
4J127
【Fターム(参考)】
4J036AD08
4J036DB16
4J036GA11
4J036GA14
4J036HA02
4J036JA01
4J036JA06
4J036JA09
4J127AA03
4J127BA151
4J127BB021
4J127BB031
4J127BB091
4J127BB221
4J127BC021
4J127BD181
4J127BF301
4J127BF30Y
4J127BG051
4J127BG05X
4J127CA01
4J127DA25
4J127FA08
4J127FA14
4J127FA37
(57)【要約】
【課題】硬化性に優れ、その硬化物が優れた耐熱性を有しつつ、かつその硬化物の金属被着体への腐食性が低減された光硬化性組成物を提供する。
【解決手段】
(A)成分:(メタ)アクリロイル基への変性割合が50~80mol%であるエポキシアクリレート樹脂と、
(B)成分:活性エネルギー線が照射されたときに塩基とラジカルを発生する光塩基は製材とを含んで成り、
前記光塩基発生剤は、
2-ニトロフェニル基を有するカルバメート化合物、
アントラキノン骨格を有するカルバメート化合物、
キサントン骨格を有するカルボン酸塩、
ケトプロフェン骨格を有するカルボン酸塩、
ボレートアニオンを含む塩、および
チオキサントン化合物
からなる群より選択される少なくとも1つの構造を含む、光硬化性組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分:(メタ)アクリロイル基への変性割合が50~80mol%であるエポキシ(メタ)アクリレート樹脂と、
(B)成分:活性エネルギー線が照射されたときに塩基およびラジカルを発生する光塩基発生剤と
を含んで成り、
前記光塩基発生剤は、
2-ニトロフェニル基を有するカルバメート化合物、
アントラキノン骨格を有するカルバメート化合物、
キサントン骨格を有するカルボン酸塩、
ケトプロフェン骨格を有するカルボン酸塩、
ボレートアニオンを含む塩、および
チオキサントン化合物
からなる群より選択される少なくとも1つの構造を含む、光硬化性組成物。
【請求項2】
前記(A)成分が、
ビスフェノールA、
ビスフェノールE、および
ビスフェノールF
からなる群より選択される少なくとも1つの構造を含むエポキシ(メタ)アクリレート樹脂である、請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項3】
前記(B)成分が、活性エネルギー線を照射したときに
アゾール類、
アミジン類、または
グアニジン類
のいずれか1つを発生する光塩基発生剤である、請求項1または2に記載の光硬化性組成物。
【請求項4】
前記(B)成分の割合が、前記(A)成分および前記(B)成分の合計質量に対して1~10質量%である、請求項1または2に記載の光硬化性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線などの活性エネルギー線の照射により液状から固体状に変化する光硬化性組成物は、熱により硬化する熱硬化性組成物と比較して、低い温度で硬化し得ることから省エネルギーの材料として、例えば、接着剤、コーティング材、およびレジスト材の用途で使用され得る。特に、耐熱性、絶縁性、および密着性などに優れるエポキシ樹脂を成分とする光硬化性組成物は、電子デバイス、電子機器の製造過程で使用される。
【0003】
例えば、特許文献1に記載のエポキシ樹脂を含む光硬化性組成物では、耐候性、耐熱性、および耐溶剤性等に優れた物性を維持させながら、アクリルモノマー/エポキシ樹脂を光ラジカル重合と光カチオン重合との併用によって硬化させる技術によって、アクリル成分にエポキシ樹脂を混合することにより、粘度が上がる傾向を抑えながら、強度を上げることが考えられている。また、この光硬化性物は常温で硬化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5243797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、金属基材に上記光硬化性組成物の塗布膜を形成した金属被着体では、金属基材の腐食が起こり得る。本発明者らが鋭意検討した結果、金属被着体に対する腐食は、硬化開始剤由来の強酸成分に起因することを見出した。つまり、上記光硬化性組成物に含まれる硬化開始剤としての光酸化剤が光カチオン重合反応で強酸成分を生成し、この強酸成分が硬化物中に残存することを見出した。
【0006】
本発明は、従来から要求されている光硬化性組成物の性質(つまり、硬化性に優れ、その硬化物が優れた耐熱性を有するとの性質)を保持しつつ、かつその硬化物の金属被着体への腐食性が低減された光硬化性組成物を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の光硬化性組成物は、上記課題を解決するために
(A)成分:(メタ)アクリロイル基への変性割合が50~80mol%であるエポキシ(メタ)アクリレート樹脂と、
(B)成分:活性エネルギー線が照射されたときに塩基とラジカルを発生する光塩基発生剤と
を含んで成り、
前記光塩基発生剤は、
2-ニトロフェニル基を有するカルバメート化合物
アントラキノン骨格を有するカルバメート化合物、
キサントン骨格を有するカルボン酸塩
ケトプロフェン骨格を有するカルボン酸塩、
ボレートアニオンを含む塩、および
チオキサントン化合物、
からなる群より選択される少なくとも1つの構造を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、硬化性に優れ、その硬化物が優れた耐熱性を有しつつ、かつその硬化物の金属被着体への腐食性が低減された光硬化性組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1~11の光硬化性組成物の組成、ならびに光硬化性組成物の硬化性、その硬化物の耐熱性および腐食性の評価結果を示す。
図2】比較例1~5の光硬化性組成物の組成、ならびに光硬化性組成物の硬化性、その硬化物の耐熱性および腐食性の評価結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、具体的に説明する。本発明はかかる実施形態に限定されるものではない。本発明は、本発明の目的の範囲で、適宜変更して実施することできる。
【0011】
本明細書で言及する数値範囲は、「未満」、「より大きい」および「より小さい」のような特段の用語が付されない限り、下限値および上限値そのものも含むことを意図している。例えば、1~10質量%といった数値範囲を例にとれば、特段の用語が付されない限り、その数値範囲は下限値「1質量%」および上限値「10質量%」を含むものとして解釈される。
【0012】
以下、光硬化性組成物について詳細に記載する。
【0013】
<光硬化性組成物>
本発明の実施形態(以下、本実施形態と称する)に係る光硬化性組成物は、
(A)成分:(メタ)アクリロイル基への変性割合が50~80mol%であるエポキシ(メタ)アクリレート樹脂と、
(B)成分:活性エネルギー線が照射されたときに塩基とラジカルを発生する光塩基発生剤と
を含んで成り、
前記光塩基発生剤は、
2-ニトロフェニル基を有するカルバメート化合物、
アントラキノン骨格を有するカルバメート化合物、
キサントン骨格を有するカルボン酸塩、
ケトプロフェン骨格を有するカルボン酸塩、
ボレートアニオンを含む塩、および
チオキサントン化合物
からなる群より選択される少なくとも1つの構造を含む。
【0014】
また、本実施形態に係る光硬化性組成物は、上記(A)成分および(B)成分に加えて、本発明の主たる効果(優れた硬化性および耐熱性、ならびに腐食性の低減)を損なわない範囲で、添加剤のようなその他の成分が配合されていてもよい。添加剤としては、例えば、樹脂、溶剤、反応性希釈剤、および酸化防止剤が挙げられる。
【0015】
本実施形態に係る光硬化性組成物は、硬化性に優れ、活性エネルギー線の照射後、比較的低温(例えば、20℃以上80℃以下の温度)で硬化物を形成することができる。その理由は以下のように考えられる。活性エネルギー線が光硬化性組成物に照射されると、(B)成分が分解して塩基と同時にラジカルが発生する。発生した前記ラジカルが、(A)成分の(メタ)アクリロイル基と反応し、この反応によって(A)成分の(メタ)アクリロイル基の連鎖重合が進行して、硬化物が得られる。この一連の反応は、比較的低温で進行する。よって、本実施形態に係る光硬化性組成物は硬化性に優れる。
【0016】
本実施形態に係る光硬化性組成物は、耐熱性に優れた硬化物を形成することができる。その理由は以下のように考えられる。活性エネルギー線が光硬化性組成物に照射されると、塩基が発生し、(A)成分が有するエポキシ基と反応し、エポキシ基がアニオン重合する。これにより、分子鎖が架橋され、架橋密度の比較的大きなエポキシ樹脂硬化物が得られる。よって、本実施形態に係る光硬化性組成物は、耐熱性に優れた硬化物を形成し得る。また、本実施形態に係る光硬化性組成物は、上記のようなエポキシ樹脂硬化物を形成し得るため、その硬化物は絶縁性および密着性にも優れる。
【0017】
本実施形態に係る光硬化性組成物は、金属被着体に対する腐食性が低減された硬化物を形成することができる。その理由は以下のように考えられる。光硬化性組成物の硬化反応における活性種は、活性エネルギー線が(B)成分に照射されたときに発生するラジカルが(A)成分の(メタ)アクリロイル基と反応し、ラジカルと同時に発生する塩基が、(A)成分のエポキシ基と反応することにより生成する。この活性種は、酸成分ではなく、酸成分となり得ない。このため、光硬化性組成物の硬化物は、金属被着体に対する腐食性が大きい酸成分(特に、強酸成分)を含み得ない。よって、本実施形態に係る光硬化性組成物は、金属被着体に対する腐食性が低減された硬化物を形成することができる。
【0018】
活性エネルギー線は、例えば、紫外線(UV)、電子線、α線、およびβ線等であり、具体的には紫外線である。
【0019】
活性エネルギー線の照射は、特に限定されないが、例えば、20℃以上30℃以下の温度で行い得る。
【0020】
活性エネルギー線照射後の硬化反応は、特に限定されないが、例えば、比較的低温(20℃以上80℃以下)、好ましくは常温付近の温度(20℃以上30℃未満)で行い得る。
【0021】
本実施形態に係る光硬化性組成物は、被接着物が加熱により劣化または変形するような、例えば樹脂材料部材同士の接着に使用できる。
本実施形態に係る光硬化性組成物は、(B)成分が光塩基発生剤であるため、活性エネルギー線を照射した際に強酸成分を発生し得ない。そのため、硬化物中に強酸成分が残存せず、金属被着体が腐食しない光硬化接着剤として有用に使用し得る。
【0022】
[(A)成分:(メタ)アクリロイル基への変性割合が50~80mol%であるエポキシ(メタ)アクリレート樹脂]
(A)成分は、(メタ)アクリロイル基への変性割合が50~80mol%であるエポキシ(メタ)アクリレート樹脂である。(A)成分のエポキシ(メタ)アクリレート樹脂は、エポキシ基と、(メタ)アクリロイル基とを有する。(A)成分の(メタ)アクリロイル基は、ラジカルによる連鎖重合反応を起こし、光硬化性組成物の低温硬化(好ましくは、常温硬化)に寄与し得る。
【0023】
ここで、エポキシ(メタ)アクリレート樹脂とは、本明細書において、(メタ)アクリル酸のエポキシ樹脂エステルであり、(メタ)アクリル酸エステルの側鎖がエポキシ樹脂の主鎖構造となる。エポキシ(メタ)アクリレート樹脂はまた、エポキシ樹脂のエポキシ基の一部が(メタ)アクリル酸のカルボキシル基の付加によって開環し、(メタ)アクリル酸のカルボキシル基とエステル結合を形成して、(メタ)アクリロイル基に変性されたエポキシ樹脂である。
【0024】
(メタ)アクリロイル基は、本明細書において、メタクリロイル基およびアクリロイル基をいう。例えば、エポキシ(メタ)アクリレート樹脂が、(メタ)アクリロイル基を有するとは、メタクリロイル基およびアクリロイル基のうち少なくとも一方の基を有することをいう。
【0025】
(A)成分のエポキシ基は、活性エネルギー線照射によって(B)成分から生じる塩基により、アニオン重合反応を起こす。これにより、分子鎖が架橋され、架橋密度の比較的大きなエポキシ樹脂硬化物が得られる。よって、(A)成分のエポキシ基は、本実施形態に係る光硬化性組成物の硬化物へ優れた耐熱性(好ましくは、優れた耐熱性、ならびに優れた絶縁性および密着性)に寄与し得る。
【0026】
本明細書において、(A)成分の(メタ)アクリロイル基への変性割合とは、変性前のエポキシ樹脂におけるエポキシ基が(メタ)アクリロイル基へ変性された割合をいい、官能基のmol数における割合である。例えば、変性割合が50mol%のエポキシ(メタ)アクリレート樹脂とは、変性前のエポキシ樹脂中のエポキシ基の全モル数の50%が(メタ)アクリロイル基に変性されたエポキシ(メタ)アクリレート樹脂をいう。また、変性割合が0mol%のエポキシ(メタ)アクリレート樹脂とは、変性前のエポキシ樹脂中のエポキシ基の全モル数の0%が(メタ)アクリロイル基に変性されたエポキシ(メタ)アクリレート樹脂をいう。すなわち、エポキシ基が(メタ)アクリロイル基によって変性されていないエポキシ樹脂をいう。また、変性割合が100mol%のエポキシ(メタ)アクリレート樹脂とは、変性前のエポキシ樹脂中のエポキシ基の全モル数の100%(つまり、すべてのエポキシ基)が(メタ)アクリロイル基に変性されたエポキシ(メタ)アクリレート樹脂をいう。
【0027】
(メタ)アクリロイル基への変性割合は、日本工業規格(JIS)K7236:2001により決定することができる。より具体的には、自動滴定装置(株式会社HIRANUMA製COM-A19)を用いて、当該方法で規定された滴定法によりエポキシ当量を測定する。この手法では、エポキシ当量の上昇(すなわち、エポキシ基の減少)をエポキシ基がアクリル基に置換したものとみなして、エポキシ基の(メタ)アクリロイル基への変性割合を算出する。
【0028】
(A)成分の(メタ)アクリロイル基は、光硬化性組成物に低温硬化性(好ましくは、常温硬化性)を付与する観点から、(A)成分の(メタ)アクリロイル基への変性割合は、50~80mol%であり、好ましくは40~50mol%である。
(A)成分の(メタ)アクリロイル基への変性割合が、50~80mol%の範囲にあることで、(A)成分がバランスよくエポキシ基および(メタ)アクリロリル基を有することで、光硬化性組成物の優れた硬化性(具体的には、(活性エネルギー線照射時に(B)成分から生じる)ラジカルにより比較的低温(好ましくは常温)における連鎖重合を進行させる性質)、ならびにその硬化物の優れた耐熱性(具体的には、(活性エネルギー線照射時に(B)成分から生じる)塩基によるエポキシ基のアニオン重合反応の進行によって比較的大きな架橋密度を有するエポキシ樹脂硬化物の形成する性質)が良好に両立し得る。好ましくは、さらに優れた密着性、および絶縁性も奏し得る。
【0029】
一方、(A)成分の(メタ)アクリロイル基への変性割合が80mol%より大きい場合、(A)成分の(メタ)アクリロイル基が過剰となり、エポキシ基の含有量が相対的に小さくなる。このため、アニオン重合反応によるエポキシ基の架橋密度が比較的小さくなり、耐熱性が悪化する。さらに、絶縁性および密着性が悪化し得る。(メタ)アクリロイル基への変性割合が50mol%より小さい場合、ラジカルと反応して連鎖重合する(メタ)アクリロイル基の含有量が相対的に小さくなるため、硬化性が低下する可能性がある。
【0030】
エポキシ(メタ)アクリレート樹脂は、硬化物の耐熱性を向上させる観点から、芳香環構造および脂環式構造を有することが好ましい。芳香環構造としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールEまたはビスフェノールF、およびフルオレンが挙げられる。脂環式構造としては、例えば、単環または多環の脂環式炭化水素環が挙げられる。単環の脂環式炭化水素環としては、シクロアルカン環が挙げられる。例えば、多環の脂環式炭化水素環としては、例えば、ビシクロアルカン環、トリシクロアルカン環(より具体的には、炭素原子数10のトリシクロデカン環等)、およびテトラシクロアルカン環が挙げられる。これらの中でもエポキシ(メタ)アクリレート樹脂は、硬化物の耐熱性をさらに向上させる観点から、芳香環構造を有することがより好ましく、ビスフェノールA、ビスフェノールEおよびビスフェノールFの構造を有することがさらに好ましい。つまり、さらに好ましくは、(A)成分が、ビスフェノールA、ビスフェノールE、およびビスフェノールFからなる群より選択される少なくとも1つの構造を含むエポキシ(メタ)アクリレート樹脂である。
【0031】
(A)成分:(メタ)アクリロイル基への変性割合が50~80mol%であるエポキシ(メタ)アクリレート樹脂の中でも、光硬化性組成物の硬化物の耐熱性をさらに向上させる観点から、メタクリロイル基への変性割合が50~80mol%であるエポキシメタクリレート樹脂が好ましい。
【0032】
[(B)成分:光塩基発生剤]
(B)成分の光塩基発生剤は、活性エネルギー線の照射により分解して塩基およびラジカルを発生させる化合物である。活性エネルギー線の照射により(B)成分が分解して発生する塩基は、(A)成分に含まれるエポキシ基と反応する。また、同時に発生する塩基は、(A)成分に含まれる(メタ)アクリロイル基と反応する。
【0033】
(B)成分は、活性エネルギー線(例えば、光、具体的には、紫外線)に対して潜在化された塩基およびラジカルを有する。すなわち、(B)成分は、活性エネルギー線を照射することによって塩基とラジカルとを発生する化合物であり、活性エネルギー線の未照射下では塩基およびラジカルが発生しにくい化合物である。本実施形態に係る光硬化性組成物は(B)成分を含んで成るため、活性エネルギー線未照射下の保管中には重合反応が進行せず、光硬化性組成物の粘度の増加が生じにくい。
【0034】
(B)成分は、2-ニトロフェニル基を有するカルバメート化合物、アントラキノン骨格を有するカルバメート化合物、キサントン骨格を有するカルボン酸塩、ケトプロフェン骨格を有するカルボン酸塩、ボレートアニオンを含む塩、およびチオキサントン化合物からなる群より選択される少なくとも1つの構造を含む。光硬化性組成物の硬化性をさらに向上させる観点、ならびに(A)成分への溶解性および光硬化性組成物の活性エネルギー線未照射時の増粘抑制の観点から、(B)成分は、好ましくは非イオン性の2-ニトロフェニル基を有するカルバメート化合物である。
【0035】
非イオン性の2-ニトロフェニル基を有するカルバメート化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば、4-(メタクリロイルオキシ)ピペリジン-1-カルボン酸(2-ニトロフェニル)メチル、4-ヒドロキシピペリジン-1-カルボン酸(2-ニトロフェニル)メチル、および2-(2-ニトロフェニル)プロピロキシカルボニル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン等が挙げられる。
【0036】
アントラキノン骨格を有するカルバメート化合物としては、例えば、イミダゾール-1-カルボン酸1-(アントラキノン-2-イル)エチルが挙げられる。
【0037】
ケトプロフェン骨格を有するカルボン酸塩としては、例えば、1,2-ジイソプロピル-3-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]グアニジウム=2-(3-ベンゾイルフェニル)プロピオナートが挙げられる。
【0038】
(B)成分は、活性エネルギー線を照射したときに、エポキシ基への求核性が高いアゾール類もしくはアミジン類、または塩基性が高いグアニジン類のいずれか1つの塩基を発生させる光塩基発生剤であることが好ましい。本実施形態に係る光硬化性組成物では、(B)成分の分解により発生する塩基によって(A)成分のエポキシ基への求核付加または水酸基からの水素引き抜きによって生成するアルコキシドイオンのエポキシ基への求核付加によってアニオン重合が進行し、エポキシ樹脂が架橋して硬化する。このため、(B)成分が求核性の高い塩基または強塩基を発生する化合物である場合、発生する塩基によって、上記反応が特に速やかに進行し得る。その結果、光硬化性組成物が特に良好に硬化し得る。
【0039】
(B)成分は、活性エネルギー線の照射により強塩基を発生し得る観点から、好ましくは2-(2-ニトロフェニル)プロピロキシカルボニル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジンである。この光塩基発生剤は、活性エネルギー線の照射によって、グアニジン類を発生する。
【0040】
本実施形態に係る光硬化性組成物は、(A)成分および(B)成分の質量合計に対して、(B)成分の割合(含有率)は、1~10質量百分率(質量%)である。(B)成分の割合が1~10質量%である場合、光硬化性組成物の硬化反応が良好に進行し得る。具体的には、(B)成分の割合が1質量%以上である場合、光照射によってラジカルおよび塩基が充分に発生して、光硬化性組成物を充分に硬化させることができる。一方、(B)成分の割合が10質量%以下である場合、光硬化性組成物中に遊離した塩基が発生しにくく、光硬化性組成物の保管安定性が低下しにくい。
【0041】
(B)成分の形態は、好ましくは常温(例えば、20℃)で液体である。かかる場合、例えば、任意の成分が光硬化性組成物に含まれる場合、当該任意の成分への(B)成分の溶解性が低下しにくいからである。
【0042】
[光硬化性組成物の製造方法]
本実施形態に係る光硬化性組成物の製造方法について一例を挙げて説明する。
本実施形態に係る光硬化性組成物は、例えば、(A)成分および(B)成分を前述した質量百分率の範囲((B)成分の割合が1~10質量%である範囲)内になるように秤量し、各成分を十分に混合することによって調製することができる。この製造方法では、さらに必要に応じてその他の成分も添加してもよい。混合方法は、特に限定されないが、例えば、当業者に公知の混合装置等を用いることができる。
【0043】
本実施形態に係る光硬化性組成物は、(B)成分の割合が(A)成分および(B)成分の質量合計に対して1~10質量%となるように、(A)成分と(B)成分とを配合させることで、光硬化性組成物を常温で硬化し得る。そのため、本実施形態に係る光硬化性組成物は、常温硬化性の光硬化接着剤として有用に使用し得る。
【実施例0044】
以下、本発明について実施例を用いてより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。また、特に明記しない限り、実施例における%は質量基準である。
図1および図2には、各実施例および比較例における(A)成分および(B)成分の配合量等の条件が表される。
【0045】
<実施例1>
[1.光硬化性組成物の調製]
実施例1について、以下詳細に説明する。
(1-1.(A)および(B)成分の準備)
(A)成分としてアクリロイル基への変性割合が50mol%であるエポキシアクリレート樹脂(ケーエスエム株式会社製「BAEA-50」)を準備した。この樹脂は、ビスフェノールA構造を含むビスフェノールA型エポキシアクリレート樹脂であった。(B)成分として非イオン性の2-ニトロフェニル基を有するカルバメート化合物である2-(2-ニトロフェニル)プロピロキシカルボニル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン(株式会社ナード研究所製「NPPOC-TMG」)を準備した。
【0046】
(1-2.光硬化性組成物の調製)
(A)成分および(B)成分の配合量の合計が20質量部となるように、まず(A)成分19.0質量部と(B)成分1.0質量部とを、自転公転脱泡撹拌機を用いて均一な溶液になるように混合し、実施例1の光硬化性組成物を作製した。図1に実施例1の光硬化性組成物の組成を示す。
【0047】
図1は、実施例1~11の光硬化性組成物の組成を示す表である。より具体的には、光硬化性組成物の(A)および(B)成分の種類、およびそれぞれ配合量(単位:質量部)等を示す。
【0048】
[2.評価方法]
(2-1.光硬化性組成物の硬化性)
光硬化性組成物の硬化性は、紫外線(UV)照射直後(具体的には照射時間完了後10秒以内)の塗布膜における硬化の程度で評価した。まず、光硬化性組成物をUV照射型レオメータ(株式会社TAインスツルメント製「DHR-2」)の透明ステージに塗布し、塗布膜を形成した。
【0049】
次いで、塗布膜の貯蔵弾性率および損失弾性率を測定した。ギャップを100μmとし、光源としてバンドパスフィルターを備えた高圧水銀ランプを用いて、塗布膜に紫外線を照射した。UV照射条件は、365nmにおけるUV照射量が6000mJ/cmであり、照度が60mW/cmであり、照射時間が100秒であった。UV照射後、塗布膜を25℃に保温した。併せて、UV照射型レオメータを用いて、塗布膜の貯蔵弾性率および損失弾性率を測定した。UV照射開始時刻から貯蔵弾性率と損失弾性率とが交わるまでの時刻までの時間を決定した貯蔵弾性率と損失弾性率との交点をゲル化のタイミングと定義し、この交点までの時間(上記決定した時間)を硬化時間とした。
【0050】
UV照射完了後(具体的には、UV照射開始から100秒後)から10秒後までのレオメータの測定結果から下記基準に基づいて、光硬化性組成物の硬化性を評価した。
(硬化性の評価基準)
◎(非常に良い):硬化時間がUV照射開始から100秒未満である
○(良い) :硬化時間がUV照射開始後100秒以上110秒未満である
×(悪い) :UV照射完了後に塗布膜が流動性を有する状態(レオメータの測定において、損失弾性率が貯蔵弾性率を上回っている状態)である、またはUV未照射であっても硬化する。
【0051】
(2-2.硬化物の金属基材に対する腐食性)
硬化物の金属基材に対する腐食性を評価した。腐食性の評価は、光硬化性組成物の硬化物をくし型電極基板(JIS(日本工業規格)C76480規格)の上に形成し、高温高湿試験後の電極外観観察で評価した。
【0052】
まず光硬化性組成物をくし型銅電極基板に膜厚が10~100μmになるように塗布し、塗布膜を形成した。次いで、卓上型ロボット(岩下エンジニアリング株式会社製「EzROBO-Ace ST4040」)に備え付けた365nmLEDUV照射機(ウシオ電機株式会社製)を用いて、塗布膜にUVを照射した。UV照射条件は、365nmにおけるUV照射量が6000mJ/cmであり、照度が300mW/cmであり、照射時間が20秒であった。UV照射後に、光硬化性組成物を塗布したくし型電極基板を150℃で1時間保温し、硬化物を電極上に形成した。次に、硬化物を形成したくし型電極基板を85℃、相対湿度85%の環境に500時間静置し、500時間静置後の電極表面の外観を目視で確認した。ただし、UV照射後に硬化しなかったものについては、硬化物の腐食性評価は実施しなかった。外観の観察結果から下記基準に基づいて腐食性を評価した。
【0053】
(腐食性の評価基準)
○(良い):高温高湿試験後において電極表面が、外観上に変化がない状態である
×(悪い):高温高湿試験後において電極表面が、変色または溶解している状態である
-(評価なし):UV照射後に硬化しなかったもの
【0054】
(2-3.硬化物の耐熱性)
硬化物の耐熱性を評価した。耐熱性の評価は、光硬化性組成物の硬化物を形成し、重量減少温度で評価した。まず光硬化性組成物をシリコンゴムシートの型(短辺5mm×長辺30mm×厚み0.5mm)に流し込み、膜を形成した。次いで、卓上型ロボット(岩下エンジニアリング社製「EzROBO-Ace ST4040」)に備え付けた365nmLEDUV照射機(ウシオ電機株式会社製)を用いて、膜にUVを照射した。UV照射条件は、365nmにおけるUV照射量が6000mJ/cmであり、照度が300mW/cmであり、照射時間が20秒であった。UV照射後に、光硬化性組成物を流し込んだシリコンゴムシートの型を150℃で1時間保温し、硬化物をシリコンゴムシートの型に形成した。次に、硬化物を型から外し、硬化物の重量が10~15mgになるように小片化した。硬化物の小片を熱重量・示差熱測定装置(株式会社日立ハイテク製「STA7200」)を用いて、初期の重量に対する5%の重量減少温度を測定した。測定条件は、200mL/分の空気気流下、30℃から400℃まで5℃/分の速度で昇温させた。初期の硬化物の重量から5%減少した温度を5%重量減少温度(Td5)とした。得られた5%重量減少温度から下記評価基準に基づいて、硬化物の耐熱性を評価した。
【0055】
(耐熱性の評価基準)
◎(非常によい:耐熱性あり):270℃≦Td5
○(良い :耐熱性あり):250℃≦Td5<270℃
×(悪い :耐熱性なし):Td5<250℃
-(評価なし):UV照射後に硬化しなかったもの
【0056】
<実施例2~11および比較例1~5>
[1.光硬化性組成物の調製]
(1-1.(A)および(B)成分の準備)
(A)および(B)成分として以下の化合物をそれぞれ準備した。
(A)成分
・メタクリロイル基への変性割合が50mol%のビスフェノールA型エポキシメタクリレート樹脂(ケーエスエム株式会社製「BAEM-50」)
・(メタ)アクリロイル基への変性割合が0mol%のビスフェノールA型エポキシ樹脂(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製「YD-8125」)
・アクリロイル基への変性割合が100mol%のビスフェノールA型エポキシアクリレート樹脂(大阪有機化学工業株式会社製「ビスコート♯540」)
(B)成分
・アントラキノン骨格を有するカルバメート化合物であるイミダゾール-1-カルボン酸1-(アントラキノン-2-イル)エチル(富士フイルム和光純薬株式会社製「WPBG-140」)
・ケトプロフェン骨格を有するカルボン酸塩である1,2-ジイソプロピル-3-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]グアニジウム=2-(3-ベンゾイルフェニル)プロピオナート(富士フイルム和光純薬株式会社製「WPBG-266」)
・アントラセン骨格を有するカルバメート化合物であるN,N-ジエチルカルバミン酸9-アントリルメチル(富士フイルム和光純薬株式会社製「WPBG-018」)
・2-ヒドロキシフェニル基を有するアミド化合物である(E)-1ーピペリジノ-3-(2-ヒドロキシフェニル)-2-プロペン-1-オン(富士フイルム和光純薬株式会社製「WPBG-027」)
・光酸発生剤としてのボレートアニオンスルホニウム塩(サンアプロ株式会社製「CPI-310B」)
【0057】
(1-2.光硬化性組成物の調製)
図1~2に示す組成に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2~11および比較例1~5の光硬化性組成物をそれぞれ調製した。
【0058】
[2.評価方法]
(2-1~2-3.光硬化性組成物の硬化性、硬化物の耐熱性および腐食性)
得られた光硬化性組成物の硬化性ならびに硬化物の腐食性および耐熱性を実施例1と同様にして評価した。評価結果を図1~2に示す。なお、比較例1、3および4では、硬化物の腐食性および耐熱性の評価結果が「-(評価なし)」であった。これは、比較例1、3および4は、UV照射下で光硬化性組成物が充分に硬化せず、硬化物の腐食性および耐熱性の評価を適切に実施できなかったからである。
【0059】
<実施例1~11および比較例1~5>
図1に示すように、実施例1~11の光硬化性組成物は、(A)成分および(B)成分を含んで成り、(A)成分は(メタ)アクリロリル基への変性割合が50~80mоl%であるエポキシ(メタ)アクリレート樹脂であった。(B)成分は、2-ニトロフェニル基を有するカルバメート化合物、アントラキノン骨格を有するカルバメート化合物、キサントン骨格を有するカルボン酸塩、ケトプロフェン骨格を有するカルボン酸塩、ボレートアニオンを含む塩、およびチオキサントン化合物からなる群より選択される少なくとも1つの構造を含む光塩基発生剤であった。つまり、実施例1~11の光硬化性組成物は、請求項1に係る発明の光硬化性組成物に包含されていた。
【0060】
また、図1に示すように、実施例1~11では、光硬化性組成物の硬化性、ならびに硬化物の腐食性および耐熱性の評価結果がいずれも◎(非常に良い)または〇(良い)であった。
【0061】
図2に示すように、比較例1~5の光硬化性組成物は、請求項1に係る発明の光硬化性組成の範囲外であった。比較例1~5では、光硬化性組成物の硬化性、ならびに硬化物の腐食性および耐熱性の評価結果の少なくとも1つが×(悪い)であった。
【0062】
より具体的には、比較例1の光硬化性組成物では、(A)成分としてのビスフェノールA型エポキシ樹脂の(メタ)アクリロイル基への変性割合が0mol%であり、50~80mol%範囲外であった。この光硬化性組成物は、ラジカルによる(メタ)アクリロイル基の重合が起こらないため、UV照射後に未硬化となった。
【0063】
比較例2の光硬化性組成物では、(A)成分としてのビスフェノールA型エポキシ樹脂の(メタ)アクリロイル基への変性割合が100mol%であり、50~80mol%の範囲外であった。この光硬化性組成物は、エポキシ基を含まず、エポキシ基のアニオン重合による架橋が起こり得ないため、硬化物の耐熱性が低くなり、耐熱性の評価においてTd5<250℃となった。
【0064】
比較例3および4の光硬化性組成物では、(B)成分が2-ニトロフェニル基を有するカルバメート化合物、アントラキノン骨格を有するカルバメート化合物、キサントン骨格を有するカルボン酸塩、ケトプロフェン骨格を有するカルボン酸塩、ボレートアニオンを含む塩、およびチオキサントン化合物からなる群より選択される少なくとも1つの構造を含む光塩基発生剤ではなかった。(B)成分がそれぞれアントラキノン骨格を有するカルバメート化合物および2-ヒドロキシフェニル骨格を有するアミド化合物であり、UV照射時にラジカルを発生しない化合物であった。このため、これらの光硬化性組成物は、光塩基発生剤がUV照射時にラジカルを発生しないため、(メタ)アクリロイル基の重合反応が起こらず、UV照射後に未硬化となった。
【0065】
比較例5の光硬化性組成物では、(B)成分である光塩基発生剤の代わりに、光酸発生剤を含む。このため、UV照射後の硬化物中に強酸成分が残存することにより、金属電極を腐食する。
【0066】
以上から、実施例1~11の光硬化性組成物が比較例1~5の光硬化性組成物に比べ、光硬化性組成物の硬化性、ならびにその硬化物の腐食性および耐熱性に優れることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の光硬化性組成物は、活性エネルギー線の照射により30℃未満で硬化するため、例えば樹脂基材のような耐熱性が低い基材同士の接着材として利用できる。また、硬化物の金属に対する腐食性が低いため、金属配線、電極を有する部材の接着、コーティング材として利用できる。
図1
図2