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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156073
(43)【公開日】2023-10-24
(54)【発明の名称】温度測定方法および熱処理システム
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/26 20060101AFI20231017BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
H01L21/26 T
H01L21/265 602B
H01L21/26 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065706
(22)【出願日】2022-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】布施 和彦
(57)【要約】
【課題】フラッシュ光照射時の基板の表面温度を正確に測定することができる温度測定方法および熱処理システムを提供する。
【解決手段】ハロゲンランプからの光照射によって予備加熱した半導体ウェハーの表面にフラッシュランプからフラッシュ光を照射して当該表面を加熱する。フラッシュ光照射時に急激に変形する半導体ウェハーの挙動を高速度カメラによって所定間隔で撮像して複数の画像を取得する。角度算定部は、それら複数の画像に画像処理を施して当該所定間隔毎の上部放射温度計と半導体ウェハーとの測定角度を算定する。放射率算定部は、測定角度に基づいて当該所定間隔毎の上部放射温度計から見た半導体ウェハーの見かけの放射率を求める。さらに、温度補正部は、求められた放射率に基づいて当該所定間隔毎に上部放射温度計が測定した半導体ウェハーの温度を補正する。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラッシュ光照射によって変化する基板の温度を測定する温度測定方法であって、
フラッシュランプから基板の表面にフラッシュ光を照射する照射工程と、
フラッシュ光の照射によって前記基板が変形したときの放射温度計と前記基板との測定角度を算定する角度算定工程と、
前記角度算定工程にて算定された前記測定角度に基づいて前記放射温度計から見た前記基板の放射率を求める放射率算定工程と、
前記放射率算定工程にて求められた前記放射率に基づいて前記放射温度計が測定した前記基板の温度を補正する補正工程と、
を備えることを特徴とする温度測定方法。
【請求項2】
請求項1記載の温度測定方法において、
前記角度算定工程では、フラッシュ光の照射時にカメラによって撮像した前記基板の画像を二値化した二値画像から前記測定角度を算定することを特徴とする温度測定方法。
【請求項3】
請求項2記載の温度測定方法において、
前記角度算定工程では、前記カメラが所定間隔で前記基板を撮像し、
前記放射率算定工程では、前記所定間隔毎に前記放射率を求め、
前記補正工程では、前記所定間隔毎に前記基板の温度を補正することを特徴とする温度測定方法。
【請求項4】
請求項1記載の温度測定方法において、
前記放射率算定工程では、測定角度と放射率との相関関係を示すテーブルより前記放射率を求めることを特徴とする温度測定方法。
【請求項5】
請求項1記載の温度測定方法において、
前記角度算定工程では、モデルに対して処理条件を入力パラメータとして設定したシミュレーションから得られた基板の反り状態に基づいて前記測定角度を算定することを特徴とする温度測定方法。
【請求項6】
基板にフラッシュ光を照射することによって該基板を加熱する熱処理システムであって、
基板を収容するチャンバーと、
前記チャンバー内にて前記基板を保持する保持部と、
前記保持部に保持された前記基板にフラッシュ光を照射するフラッシュランプと、
前記基板の温度を測定する放射温度計と、
フラッシュ光の照射によって前記基板が変形したときの前記放射温度計と前記基板との測定角度を算定する角度算定部と、
前記角度算定部にて算定された前記測定角度に基づいて前記放射温度計から見た前記基板の放射率を求める放射率算定部と、
前記放射率算定部にて求められた前記放射率に基づいて前記放射温度計が測定した前記基板の温度を補正する温度補正部と、
を備えることを特徴とする熱処理システム。
【請求項7】
請求項6記載の熱処理システムにおいて、
前記保持部に保持された前記基板を撮像するカメラをさらに備え、
前記角度算定部は、フラッシュ光の照射時に前記カメラによって撮像した前記基板の画像を二値化した二値画像から前記測定角度を算定することを特徴とする熱処理システム。
【請求項8】
請求項7記載の熱処理システムにおいて、
前記カメラはフラッシュ光の照射時に所定間隔で前記基板を撮像し、
前記放射率算定部は、前記所定間隔毎に前記放射率を求め、
前記温度補正部は、前記所定間隔毎に前記基板の温度を補正することを特徴とする熱処理システム。
【請求項9】
請求項6記載の熱処理システムにおいて、
測定角度と放射率との相関関係を示すテーブルを記憶する記憶部をさらに備え、
前記放射率算定部は、前記テーブルより前記放射率を求めることを特徴とする熱処理システム。
【請求項10】
請求項6記載の熱処理システムにおいて、
前記角度算定部は、モデルに対して処理条件を入力パラメータとして設定したシミュレーションから得られた基板の反り状態に基づいて前記測定角度を算定することを特徴とする熱処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラッシュ光照射によって変化する基板の温度を測定する温度測定法および熱処理システムに関する。処理対象となる基板には、例えば、半導体ウェハー、液晶表示装置用基板、flat panel display(FPD)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、または、太陽電池用基板などが含まれる。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスにおいて、極めて短時間で半導体ウェハーを加熱するフラッシュランプアニール(FLA)が注目されている。フラッシュランプアニールは、キセノンフラッシュランプ(以下、単に「フラッシュランプ」とするときにはキセノンフラッシュランプを意味する)を使用して半導体ウェハーの表面にフラッシュ光を照射することにより、半導体ウェハーの表面のみを極めて短時間(数ミリ秒以下)に昇温させる熱処理技術である。
【0003】
キセノンフラッシュランプの放射分光分布は紫外域から近赤外域であり、従来のハロゲンランプよりも波長が短く、シリコンの半導体ウェハーの基礎吸収帯とほぼ一致している。よって、キセノンフラッシュランプから半導体ウェハーにフラッシュ光を照射したときには、透過光が少なく半導体ウェハーを急速に昇温することが可能である。また、数ミリ秒以下の極めて短時間のフラッシュ光照射であれば、半導体ウェハーの表面近傍のみを選択的に昇温できることも判明している。
【0004】
このようなフラッシュランプアニールは、極短時間の加熱が必要とされる処理、例えば典型的には半導体ウェハーに注入された不純物の活性化に利用される。イオン注入法によって不純物が注入された半導体ウェハーの表面にフラッシュランプからフラッシュ光を照射すれば、当該半導体ウェハーの表面を極短時間だけ活性化温度にまで昇温することができ、不純物を深く拡散させることなく、不純物活性化のみを実行することができるのである。
【0005】
フラッシュランプアニールに限らず、半導体ウェハーの熱処理においては、ウェハー温度の管理が重要となる。特に、フラッシュランプアニールにおいては、半導体ウェハーの表面近傍のみが選択的に昇温されるため、フラッシュ光照射時に急激に変化する半導体ウェハーの表面温度を測定することが重要である。フラッシュ光照射後の半導体ウェハーのデバイス特性はフラッシュ光照射時におけるウェハー表面の最高到達温度(ピーク温度)によって決定されるため、少なくとも当該最高到達温度を測定することが求められている。特許文献1には、半導体ウェハーの表面の放射率を正確に求め、放射温度計によってフラッシュ光照射時の半導体ウェハーの表面温度を測定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-9450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、フラッシュランプアニールにおいては、極めて高いエネルギーを有するフラッシュ光を瞬間的に半導体ウェハーの表面に照射するため、一瞬で半導体ウェハーの表面温度が急速に上昇する一方で裏面温度はさほどには上昇せず、表面から裏面にかけて温度勾配が生じる。このため、半導体ウェハーの表面近傍のみに急激に熱膨張が生じて半導体ウェハーが上面を凸面として反るように急激に変形する。その結果、半導体ウェハーを支持するサセプタ上にて半導体ウェハーが振動する現象も確認されている。特許文献1に開示される技術によって半導体ウェハーの表面の放射率を正確に求めたとしても、温度測定の対象である半導体ウェハーが変形すると、放射温度計から見た見かけの放射率が変動し、フラッシュ光照射時の半導体ウェハーの表面温度を正確に測定することが困難となる。また、半導体ウェハーの反り状態は、処理毎に一定ではないため、温度測定の再現性を悪化させることにもなっていた。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、フラッシュ光照射時の基板の温度を正確に測定することができる温度測定方法および熱処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、フラッシュ光照射によって変化する基板の温度を測定する温度測定方法において、フラッシュランプから基板の表面にフラッシュ光を照射する照射工程と、フラッシュ光の照射によって前記基板が変形したときの放射温度計と前記基板との測定角度を算定する角度算定工程と、前記角度算定工程にて算定された前記測定角度に基づいて前記放射温度計から見た前記基板の放射率を求める放射率算定工程と、前記放射率算定工程にて求められた前記放射率に基づいて前記放射温度計が測定した前記基板の温度を補正する補正工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明に係る温度測定方法において、前記角度算定工程では、フラッシュ光の照射時にカメラによって撮像した前記基板の画像を二値化した二値画像から前記測定角度を算定することを特徴とする。
【0011】
また、請求項3の発明は、請求項2の発明に係る温度測定方法において、前記角度算定工程では、前記カメラが所定間隔で前記基板を撮像し、前記放射率算定工程では、前記所定間隔毎に前記放射率を求め、前記補正工程では、前記所定間隔毎に前記基板の温度を補正することを特徴とする。
【0012】
また、請求項4の発明は、請求項1の発明に係る温度測定方法において、前記放射率算定工程では、測定角度と放射率との相関関係を示すテーブルより前記放射率を求めることを特徴とする。
【0013】
また、請求項5の発明は、請求項1の発明に係る温度測定方法において、前記角度算定工程では、モデルに対して処理条件を入力パラメータとして設定したシミュレーションから得られた基板の反り状態に基づいて前記測定角度を算定することを特徴とする。
【0014】
また、請求項6の発明は、基板にフラッシュ光を照射することによって該基板を加熱する熱処理システムにおいて、基板を収容するチャンバーと、前記チャンバー内にて前記基板を保持する保持部と、前記保持部に保持された前記基板にフラッシュ光を照射するフラッシュランプと、前記基板の温度を測定する放射温度計と、フラッシュ光の照射によって前記基板が変形したときの前記放射温度計と前記基板との測定角度を算定する角度算定部と、前記角度算定部にて算定された前記測定角度に基づいて前記放射温度計から見た前記基板の放射率を求める放射率算定部と、前記放射率算定部にて求められた前記放射率に基づいて前記放射温度計が測定した前記基板の温度を補正する温度補正部と、を備えることを特徴とする。
【0015】
また、請求項7の発明は、請求項6の発明に係る熱処理システムにおいて、前記保持部に保持された前記基板を撮像するカメラをさらに備え、前記角度算定部は、フラッシュ光の照射時に前記カメラによって撮像した前記基板の画像を二値化した二値画像から前記測定角度を算定することを特徴とする。
【0016】
また、請求項8の発明は、請求項7の発明に係る熱処理システムにおいて、前記カメラはフラッシュ光の照射時に所定間隔で前記基板を撮像し、前記放射率算定部は、前記所定間隔毎に前記放射率を求め、前記温度補正部は、前記所定間隔毎に前記基板の温度を補正することを特徴とする。
【0017】
また、請求項9の発明は、請求項6の発明に係る熱処理システムにおいて、測定角度と放射率との相関関係を示すテーブルを記憶する記憶部をさらに備え、前記放射率算定部は、前記テーブルより前記放射率を求めることを特徴とする。
【0018】
また、請求項10の発明は、請求項6の発明に係る熱処理システムにおいて、前記角度算定部は、モデルに対して処理条件を入力パラメータとして設定したシミュレーションから得られた基板の反り状態に基づいて前記測定角度を算定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1から請求項5の発明によれば、放射温度計と基板との測定角度に対応する放射率に基づいて放射温度計が測定した基板の温度を補正するため、基板の反り状態に応じた測定角度に対応する放射率に基づいて基板の測定温度を補正することとなり、フラッシュ光照射時の基板の温度を正確に測定することができる。
【0020】
請求項6から請求項10の発明によれば、放射温度計と基板との測定角度に対応する放射率に基づいて放射温度計が測定した基板の温度を補正するため、基板の反り状態に応じた測定角度に対応する放射率に基づいて基板の測定温度を補正することとなり、フラッシュ光照射時の基板の温度を正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係る温度測定方法を実施する熱処理装置の構成を示す縦断面図である。
図2】保持部の全体外観を示す斜視図である。
図3】サセプタの平面図である。
図4】サセプタの断面図である。
図5】移載機構の平面図である。
図6】移載機構の側面図である。
図7】複数のハロゲンランプの配置を示す平面図である。
図8】制御部の構成を示すブロック図である。
図9図1の熱処理装置における処理動作の手順を示すフローチャートである。
図10】上部放射温度計と半導体ウェハーとの測定角度を示す図である。
図11】測定角度と放射率との相関関係を規定したテーブルの一例を示す図である。
図12】2台の高速度カメラによって半導体ウェハーを撮影する例を示す図である。
図13】シミュレーションを用いて反り状態を求めるプロセスの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。以下において、相対的または絶対的な位置関係を示す表現(例えば、「一方向に」、「一方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」、「同軸」、など)は、特に断らない限り、その位置関係を厳密に表すのみならず、公差もしくは同程度の機能が得られる範囲で相対的に角度または距離に関して変位された状態も表すものとする。また、等しい状態であることを示す表現(例えば、「同一」、「等しい」、「均質」、など)は、特に断らない限り、定量的に厳密に等しい状態を表すのみならず、公差もしくは同程度の機能が得られる差が存在する状態も表すものとする。また、形状を示す表現(例えば、「円形状」、「四角形状」、「円筒形状」、など)は、特に断らない限り、幾何学的に厳密にその形状を表すのみならず、同程度の効果が得られる範囲の形状を表すものとし、例えば凹凸または面取りなどを有していてもよい。また、構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、「有する」、といった各表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的表現ではない。また、「A、BおよびCのうちの少なくとも一つ」という表現には、「Aのみ」、「Bのみ」、「Cのみ」、「A、BおよびCのうち任意の2つ」、「A、BおよびCの全て」が含まれる。
【0023】
図1は、本発明に係る温度測定方法を実施する熱処理装置1の構成を示す縦断面図である。図1の熱処理装置1は、基板として円板形状の半導体ウェハーWに対してフラッシュ光照射を行うことによってその半導体ウェハーWを加熱するフラッシュランプアニール装置である。処理対象となる半導体ウェハーWのサイズは特に限定されるものではないが、例えばφ300mmやφ450mmである(本実施形態ではφ300mm)。なお、図1および以降の各図においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数を誇張または簡略化して描いている。
【0024】
熱処理装置1は、半導体ウェハーWを収容するチャンバー6と、複数のフラッシュランプFLを内蔵するフラッシュ加熱部5と、複数のハロゲンランプHLを内蔵するハロゲン加熱部4と、を備える。チャンバー6の上側にフラッシュ加熱部5が設けられるとともに、下側にハロゲン加熱部4が設けられている。また、熱処理装置1は、チャンバー6の内部に、半導体ウェハーWを水平姿勢に保持する保持部7と、保持部7と装置外部との間で半導体ウェハーWの受け渡しを行う移載機構10と、を備える。さらに、熱処理装置1は、ハロゲン加熱部4、フラッシュ加熱部5およびチャンバー6に設けられた各動作機構を制御して半導体ウェハーWの熱処理を実行させる制御部3を備える。
【0025】
チャンバー6は、筒状のチャンバー側部61の上下に石英製のチャンバー窓を装着して構成されている。チャンバー側部61は上下が開口された概略筒形状を有しており、上側開口には上側チャンバー窓63が装着されて閉塞され、下側開口には下側チャンバー窓64が装着されて閉塞されている。チャンバー6の天井部を構成する上側チャンバー窓63は、石英により形成された円板形状部材であり、フラッシュ加熱部5から出射されたフラッシュ光をチャンバー6内に透過する石英窓として機能する。また、チャンバー6の床部を構成する下側チャンバー窓64も、石英により形成された円板形状部材であり、ハロゲン加熱部4からの光をチャンバー6内に透過する石英窓として機能する。
【0026】
また、チャンバー側部61の内側の壁面の上部には反射リング68が装着され、下部には反射リング69が装着されている。反射リング68,69は、ともに円環状に形成されている。上側の反射リング68は、チャンバー側部61の上側から嵌め込むことによって装着される。一方、下側の反射リング69は、チャンバー側部61の下側から嵌め込んで図示省略のビスで留めることによって装着される。すなわち、反射リング68,69は、ともに着脱自在にチャンバー側部61に装着されるものである。チャンバー6の内側空間、すなわち上側チャンバー窓63、下側チャンバー窓64、チャンバー側部61および反射リング68,69によって囲まれる空間が熱処理空間65として規定される。
【0027】
チャンバー側部61に反射リング68,69が装着されることによって、チャンバー6の内壁面に凹部62が形成される。すなわち、チャンバー側部61の内壁面のうち反射リング68,69が装着されていない中央部分と、反射リング68の下端面と、反射リング69の上端面とで囲まれた凹部62が形成される。凹部62は、チャンバー6の内壁面に水平方向に沿って円環状に形成され、半導体ウェハーWを保持する保持部7を囲繞する。チャンバー側部61および反射リング68,69は、強度と耐熱性に優れた金属材料(例えば、ステンレススチール)にて形成されている。
【0028】
また、チャンバー側部61には、チャンバー6に対して半導体ウェハーWの搬入および搬出を行うための搬送開口部(炉口)66が形設されている。搬送開口部66は、ゲートバルブ185によって開閉可能とされている。搬送開口部66は凹部62の外周面に連通接続されている。このため、ゲートバルブ185が搬送開口部66を開放しているときには、搬送開口部66から凹部62を通過して熱処理空間65への半導体ウェハーWの搬入および熱処理空間65からの半導体ウェハーWの搬出を行うことができる。また、ゲートバルブ185が搬送開口部66を閉鎖するとチャンバー6内の熱処理空間65が密閉空間とされる。
【0029】
さらに、チャンバー側部61には、貫通孔61aおよび貫通孔61bが穿設されている。貫通孔61aは、後述するサセプタ74に保持された半導体ウェハーWの上面から放射された赤外光を上部放射温度計25の赤外線センサー29に導くための円筒状の孔である。一方、貫通孔61bは、半導体ウェハーWの下面から放射された赤外光を下部放射温度計20の赤外線センサー24に導くための円筒状の孔である。貫通孔61aおよび貫通孔61bは、それらの貫通方向の軸がサセプタ74に保持された半導体ウェハーWの主面と交わるように、水平方向に対して傾斜して設けられている。貫通孔61aの熱処理空間65に臨む側の端部には、上部放射温度計25が測定可能な波長領域の赤外光を透過させるフッ化カルシウム材料からなる透明窓26が装着されている。また、貫通孔61bの熱処理空間65に臨む側の端部には、下部放射温度計20が測定可能な波長領域の赤外光を透過させるフッ化バリウム材料からなる透明窓21が装着されている。
【0030】
また、チャンバー6の内壁上部には熱処理空間65に処理ガスを供給するガス供給孔81が形設されている。ガス供給孔81は、凹部62よりも上側位置に形設されており、反射リング68に設けられていても良い。ガス供給孔81はチャンバー6の側壁内部に円環状に形成された緩衝空間82を介してガス供給管83に連通接続されている。ガス供給管83は処理ガス供給源85に接続されている。また、ガス供給管83の経路途中にはバルブ84が介挿されている。バルブ84が開放されると、処理ガス供給源85から緩衝空間82に処理ガスが送給される。緩衝空間82に流入した処理ガスは、ガス供給孔81よりも流体抵抗の小さい緩衝空間82内を拡がるように流れてガス供給孔81から熱処理空間65内へと供給される。処理ガスとしては、例えば窒素(N)等の不活性ガス、または、水素(H)、アンモニア(NH)等の反応性ガス、或いはそれらを混合した混合ガスを用いることができる(本実施形態では窒素ガス)。
【0031】
一方、チャンバー6の内壁下部には熱処理空間65内の気体を排気するガス排気孔86が形設されている。ガス排気孔86は、凹部62よりも下側位置に形設されており、反射リング69に設けられていても良い。ガス排気孔86はチャンバー6の側壁内部に円環状に形成された緩衝空間87を介してガス排気管88に連通接続されている。ガス排気管88は排気部190に接続されている。また、ガス排気管88の経路途中にはバルブ89が介挿されている。バルブ89が開放されると、熱処理空間65の気体がガス排気孔86から緩衝空間87を経てガス排気管88へと排出される。なお、ガス供給孔81およびガス排気孔86は、チャンバー6の周方向に沿って複数設けられていても良いし、スリット状のものであっても良い。また、処理ガス供給源85および排気部190は、熱処理装置1に設けられた機構であっても良いし、熱処理装置1が設置される工場のユーティリティであっても良い。
【0032】
また、搬送開口部66の先端にも熱処理空間65内の気体を排出するガス排気管191が接続されている。ガス排気管191はバルブ192を介して排気部190に接続されている。バルブ192を開放することによって、搬送開口部66を介してチャンバー6内の気体が排気される。
【0033】
図2は、保持部7の全体外観を示す斜視図である。保持部7は、基台リング71、連結部72およびサセプタ74を備えて構成される。基台リング71、連結部72およびサセプタ74はいずれも石英にて形成されている。すなわち、保持部7の全体が石英にて形成されている。
【0034】
基台リング71は円環形状から一部が欠落した円弧形状の石英部材である。この欠落部分は、後述する移載機構10の移載アーム11と基台リング71との干渉を防ぐために設けられている。基台リング71は凹部62の底面に載置されることによって、チャンバー6の壁面に支持されることとなる(図1参照)。基台リング71の上面に、その円環形状の周方向に沿って複数の連結部72(本実施形態では4個)が立設される。連結部72も石英の部材であり、溶接によって基台リング71に固着される。
【0035】
サセプタ74は基台リング71に設けられた4個の連結部72によって支持される。図3は、サセプタ74の平面図である。また、図4は、サセプタ74の断面図である。サセプタ74は、保持プレート75、ガイドリング76および複数の基板支持ピン77を備える。保持プレート75は、石英にて形成された略円形の平板状部材である。保持プレート75の直径は半導体ウェハーWの直径よりも大きい。すなわち、保持プレート75は、半導体ウェハーWよりも大きな平面サイズを有する。
【0036】
保持プレート75の上面周縁部にガイドリング76が設置されている。ガイドリング76は、半導体ウェハーWの直径よりも大きな内径を有する円環形状の部材である。例えば、半導体ウェハーWの直径がφ300mmの場合、ガイドリング76の内径はφ320mmである。ガイドリング76の内周は、保持プレート75から上方に向けて広くなるようなテーパ面とされている。ガイドリング76は、保持プレート75と同様の石英にて形成される。ガイドリング76は、保持プレート75の上面に溶着するようにしても良いし、別途加工したピンなどによって保持プレート75に固定するようにしても良い。或いは、保持プレート75とガイドリング76とを一体の部材として加工するようにしても良い。
【0037】
保持プレート75の上面のうちガイドリング76よりも内側の領域が半導体ウェハーWを保持する平面状の保持面75aとされる。保持プレート75の保持面75aには、複数の基板支持ピン77が立設されている。本実施形態においては、保持面75aの外周円(ガイドリング76の内周円)と同心円の周上に沿って30°毎に計12個の基板支持ピン77が立設されている。12個の基板支持ピン77を配置した円の径(対向する基板支持ピン77間の距離)は半導体ウェハーWの径よりも小さく、半導体ウェハーWの径がφ300mmであればφ270mm~φ280mm(本実施形態ではφ270mm)である。それぞれの基板支持ピン77は石英にて形成されている。複数の基板支持ピン77は、保持プレート75の上面に溶接によって設けるようにしても良いし、保持プレート75と一体に加工するようにしても良い。
【0038】
図2に戻り、基台リング71に立設された4個の連結部72とサセプタ74の保持プレート75の周縁部とが溶接によって固着される。すなわち、サセプタ74と基台リング71とは連結部72によって固定的に連結されている。このような保持部7の基台リング71がチャンバー6の壁面に支持されることによって、保持部7がチャンバー6に装着される。保持部7がチャンバー6に装着された状態においては、サセプタ74の保持プレート75は水平姿勢(法線が鉛直方向と一致する姿勢)となる。すなわち、保持プレート75の保持面75aは水平面となる。
【0039】
チャンバー6に搬入された半導体ウェハーWは、チャンバー6に装着された保持部7のサセプタ74の上に水平姿勢にて載置されて保持される。このとき、半導体ウェハーWは保持プレート75上に立設された12個の基板支持ピン77によって支持されてサセプタ74に保持される。より厳密には、12個の基板支持ピン77の上端部が半導体ウェハーWの下面に接触して当該半導体ウェハーWを支持する。12個の基板支持ピン77の高さ(基板支持ピン77の上端から保持プレート75の保持面75aまでの距離)は均一であるため、12個の基板支持ピン77によって半導体ウェハーWを水平姿勢に支持することができる。
【0040】
また、半導体ウェハーWは複数の基板支持ピン77によって保持プレート75の保持面75aから所定の間隔を隔てて支持されることとなる。基板支持ピン77の高さよりもガイドリング76の厚さの方が大きい。従って、複数の基板支持ピン77によって支持された半導体ウェハーWの水平方向の位置ずれはガイドリング76によって防止される。
【0041】
また、図2および図3に示すように、サセプタ74の保持プレート75には、上下に貫通して開口部78が形成されている。開口部78は、下部放射温度計20が半導体ウェハーWの下面から放射される放射光(赤外光)を受光するために設けられている。すなわち、下部放射温度計20が開口部78およびチャンバー側部61の貫通孔61bに装着された透明窓21を介して半導体ウェハーWの下面から放射された光を受光して当該半導体ウェハーWの温度を測定する。さらに、サセプタ74の保持プレート75には、後述する移載機構10のリフトピン12が半導体ウェハーWの受け渡しのために貫通する4個の貫通孔79が穿設されている。
【0042】
図5は、移載機構10の平面図である。また、図6は、移載機構10の側面図である。移載機構10は、2本の移載アーム11を備える。移載アーム11は、概ね円環状の凹部62に沿うような円弧形状とされている。それぞれの移載アーム11には2本のリフトピン12が立設されている。移載アーム11およびリフトピン12は石英にて形成されている。各移載アーム11は水平移動機構13によって回動可能とされている。水平移動機構13は、一対の移載アーム11を保持部7に対して半導体ウェハーWの移載を行う移載動作位置(図5の実線位置)と保持部7に保持された半導体ウェハーWと平面視で重ならない退避位置(図5の二点鎖線位置)との間で水平移動させる。水平移動機構13としては、個別のモータによって各移載アーム11をそれぞれ回動させるものであっても良いし、リンク機構を用いて1個のモータによって一対の移載アーム11を連動させて回動させるものであっても良い。
【0043】
また、一対の移載アーム11は、昇降機構14によって水平移動機構13とともに昇降移動される。昇降機構14が一対の移載アーム11を移載動作位置にて上昇させると、計4本のリフトピン12がサセプタ74に穿設された貫通孔79(図2,3参照)を通過し、リフトピン12の上端がサセプタ74の上面から突き出る。一方、昇降機構14が一対の移載アーム11を移載動作位置にて下降させてリフトピン12を貫通孔79から抜き取り、水平移動機構13が一対の移載アーム11を開くように移動させると各移載アーム11が退避位置に移動する。一対の移載アーム11の退避位置は、保持部7の基台リング71の直上である。基台リング71は凹部62の底面に載置されているため、移載アーム11の退避位置は凹部62の内側となる。なお、移載機構10の駆動部(水平移動機構13および昇降機構14)が設けられている部位の近傍にも図示省略の排気機構が設けられており、移載機構10の駆動部周辺の雰囲気がチャンバー6の外部に排出されるように構成されている。
【0044】
図1に戻り、チャンバー6の上方に設けられたフラッシュ加熱部5は、筐体51の内側に、複数本(本実施形態では30本)のキセノンフラッシュランプFLからなる光源と、その光源の上方を覆うように設けられたリフレクタ52と、を備えて構成される。また、フラッシュ加熱部5の筐体51の底部にはランプ光放射窓53が装着されている。フラッシュ加熱部5の床部を構成するランプ光放射窓53は、石英により形成された板状の石英窓である。フラッシュ加熱部5がチャンバー6の上方に設置されることにより、ランプ光放射窓53が上側チャンバー窓63と相対向することとなる。フラッシュランプFLはチャンバー6の上方からランプ光放射窓53および上側チャンバー窓63を介して熱処理空間65にフラッシュ光を照射する。
【0045】
複数のフラッシュランプFLは、それぞれが長尺の円筒形状を有する棒状ランプであり、それぞれの長手方向が保持部7に保持される半導体ウェハーWの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように平面状に配列されている。よって、フラッシュランプFLの配列によって形成される平面も水平面である。
【0046】
キセノンフラッシュランプFLは、その内部にキセノンガスが封入されその両端部にコンデンサーに接続された陽極および陰極が配設された棒状のガラス管(放電管)と、該ガラス管の外周面上に付設されたトリガー電極とを備える。キセノンガスは電気的には絶縁体であることから、コンデンサーに電荷が蓄積されていたとしても通常の状態ではガラス管内に電気は流れない。しかしながら、トリガー電極に高電圧を印加して絶縁を破壊した場合には、コンデンサーに蓄えられた電気がガラス管内に瞬時に流れ、そのときのキセノンの原子あるいは分子の励起によって光が放出される。このようなキセノンフラッシュランプFLにおいては、予めコンデンサーに蓄えられていた静電エネルギーが0.1ミリ秒ないし100ミリ秒という極めて短い光パルスに変換されることから、ハロゲンランプHLの如き連続点灯の光源に比べて極めて強い光を照射し得るという特徴を有する。すなわち、フラッシュランプFLは、1秒未満の極めて短い時間で瞬間的に発光するパルス発光ランプである。なお、フラッシュランプFLの発光時間は、フラッシュランプFLに電力供給を行うランプ電源のコイル定数によって調整することができる。
【0047】
また、リフレクタ52は、複数のフラッシュランプFLの上方にそれら全体を覆うように設けられている。リフレクタ52の基本的な機能は、複数のフラッシュランプFLから出射されたフラッシュ光を熱処理空間65の側に反射するというものである。リフレクタ52はアルミニウム合金板にて形成されており、その表面(フラッシュランプFLに臨む側の面)はブラスト処理により粗面化加工が施されている。
【0048】
チャンバー6の下方に設けられたハロゲン加熱部4は、筐体41の内側に複数本(本実施形態では40本)のハロゲンランプHLを内蔵している。ハロゲン加熱部4は、複数のハロゲンランプHLによってチャンバー6の下方から下側チャンバー窓64を介して熱処理空間65への光照射を行って半導体ウェハーWを加熱する。
【0049】
図7は、複数のハロゲンランプHLの配置を示す平面図である。40本のハロゲンランプHLは上下2段に分けて配置されている。保持部7に近い上段に20本のハロゲンランプHLが配設されるとともに、上段よりも保持部7から遠い下段にも20本のハロゲンランプHLが配設されている。各ハロゲンランプHLは、長尺の円筒形状を有する棒状ランプである。上段、下段ともに20本のハロゲンランプHLは、それぞれの長手方向が保持部7に保持される半導体ウェハーWの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように配列されている。よって、上段、下段ともにハロゲンランプHLの配列によって形成される平面は水平面である。
【0050】
また、図7に示すように、上段、下段ともに保持部7に保持される半導体ウェハーWの中央部に対向する領域よりも周縁部に対向する領域におけるハロゲンランプHLの配設密度が高くなっている。すなわち、上下段ともに、ランプ配列の中央部よりも周縁部の方がハロゲンランプHLの配設ピッチが短い。このため、ハロゲン加熱部4からの光照射による加熱時に温度低下が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部により多い光量の照射を行うことができる。
【0051】
また、上段のハロゲンランプHLからなるランプ群と下段のハロゲンランプHLからなるランプ群とが格子状に交差するように配列されている。すなわち、上段に配置された20本のハロゲンランプHLの長手方向と下段に配置された20本のハロゲンランプHLの長手方向とが互いに直交するように計40本のハロゲンランプHLが配設されている。
【0052】
ハロゲンランプHLは、ガラス管内部に配設されたフィラメントに通電することでフィラメントを白熱化させて発光させるフィラメント方式の光源である。ガラス管の内部には、窒素やアルゴン等の不活性ガスにハロゲン元素(ヨウ素、臭素等)を微量導入した気体が封入されている。ハロゲン元素を導入することによって、フィラメントの折損を抑制しつつフィラメントの温度を高温に設定することが可能となる。したがって、ハロゲンランプHLは、通常の白熱電球に比べて寿命が長くかつ強い光を連続的に照射できるという特性を有する。すなわち、ハロゲンランプHLは少なくとも1秒以上連続して発光する連続点灯ランプである。また、ハロゲンランプHLは棒状ランプであるため長寿命であり、ハロゲンランプHLを水平方向に沿わせて配置することにより上方の半導体ウェハーWへの放射効率が優れたものとなる。
【0053】
また、ハロゲン加熱部4の筐体41内にも、2段のハロゲンランプHLの下側にリフレクタ43が設けられている(図1)。リフレクタ43は、複数のハロゲンランプHLから出射された光を熱処理空間65の側に反射する。
【0054】
図1に示すように、チャンバー6には、上部放射温度計25および下部放射温度計20の2つの放射温度計(本実施形態ではパイロメーター)が設けられている。上部放射温度計25は、サセプタ74に保持された半導体ウェハーWの斜め上方に設置され、その半導体ウェハーWの上面から放射された赤外光を受光して上面の温度を測定する。上部放射温度計25の赤外線センサー29は、フラッシュ光が照射された瞬間の半導体ウェハーWの上面の急激な温度変化に対応できるように、InSb(インジウムアンチモン)の光学素子を備えている。一方、下部放射温度計20は、サセプタ74に保持された半導体ウェハーWの斜め下方に設けられ、その半導体ウェハーWの下面から放射された赤外光を受光して下面の温度を測定する。
【0055】
また、チャンバー6には高速度カメラ95が設けられている。高速度カメラ95は、チャンバー6内に設置されたサセプタ74の側方に設けられており、サセプタ74に保持された半導体ウェハーWを側方から撮影する。高速度カメラ95の撮影ピッチは、10マイクロ秒(100000fps)~1000マイクロ秒(1000fps)の任意の値に設定される。なお、図1では図示の便宜上、高速度カメラ95が搬送開口部66に設けられているが、実際には高速度カメラ95は搬送開口部66ではなく半導体ウェハーWの搬出入や放射温度計による温度測定と干渉しない位置に設けられている。
【0056】
制御部3は、熱処理装置1に設けられた上記の種々の動作機構を制御する。図8は、制御部3の構成を示すブロック図である。制御部3のハードウェアとしての構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部3は、各種演算処理を行う回路であるCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMおよび制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく記憶部34(例えば、磁気ディスク)を備えている。制御部3のCPUが所定の処理プログラムを実行することによって熱処理装置1における処理が進行する。
【0057】
制御部3は、角度算定部31、放射率算定部32および温度補正部33を備える。角度算定部31、放射率算定部32および温度補正部33のそれぞれは、制御部3のCPUが所定の処理プログラムを実行することによって実現される機能処理部である。角度算定部31、放射率算定部32および温度補正部33の処理内容についてはさらに後述する。また、制御部3の記憶部34には、上部放射温度計25の測定角度と半導体ウェハーWの見かけの放射率との相関関係を示すテーブル35(図11)が記憶されている。
【0058】
制御部3には、高速度カメラ95等の要素が電気的に接続されている。制御部3は、高速度カメラ95から撮像した画像のデータを受け取って当該画像に所定の画像処理を行う。また、制御部3は、ハロゲンランプHLの出力や移載機構10の動作などを制御する。
【0059】
また、制御部3には、表示部37および入力部36が接続されている。表示部37および入力部36は、熱処理装置1のユーザーインターフェイスとして機能する。制御部3は、表示部37に種々の情報を表示する。熱処理装置1のオペレータは、表示部37に表示された情報を確認しつつ、入力部36から種々のコマンドやパラメータを入力することができる。入力部36としては、例えばキーボードやマウスを用いることができる。表示部37としては、例えば液晶ディスプレイを用いることができる。本実施形態においては、表示部37および入力部36として、熱処理装置1の外壁に設けられた液晶のタッチパネルを採用して双方の機能を併せ持たせるようにしている。
【0060】
上記の構成以外にも熱処理装置1は、半導体ウェハーWの熱処理時にハロゲンランプHLおよびフラッシュランプFLから発生する熱エネルギーによるハロゲン加熱部4、フラッシュ加熱部5およびチャンバー6の過剰な温度上昇を防止するため、様々な冷却用の構造を備えている。例えば、チャンバー6の壁体には水冷管(図示省略)が設けられている。また、ハロゲン加熱部4およびフラッシュ加熱部5は、内部に気体流を形成して排熱する空冷構造とされている。また、上側チャンバー窓63とランプ光放射窓53との間隙にも空気が供給され、フラッシュ加熱部5および上側チャンバー窓63を冷却する。
【0061】
次に、上記構成を有する熱処理装置1における処理動作について説明する。図9は、熱処理装置1における処理動作の手順を示すフローチャートである。以下に説明する熱処理装置1の処理手順は、制御部3が熱処理装置1の各動作機構を制御することにより進行する。
【0062】
まず、給気のためのバルブ84が開放されるとともに、排気用のバルブ89,192が開放されてチャンバー6内に対する給排気が開始される。バルブ84が開放されると、ガス供給孔81から熱処理空間65に窒素ガスが供給される。また、バルブ89が開放されると、ガス排気孔86からチャンバー6内の気体が排気される。これにより、チャンバー6内の熱処理空間65の上部から供給された窒素ガスが下方へと流れ、熱処理空間65の下部から排気される。
【0063】
また、バルブ192が開放されることによって、搬送開口部66からもチャンバー6内の気体が排気される。さらに、図示省略の排気機構によって移載機構10の駆動部周辺の雰囲気も排気される。なお、熱処理装置1における半導体ウェハーWの熱処理時には窒素ガスが熱処理空間65に継続的に供給されており、その供給量は処理工程に応じて適宜変更される。
【0064】
続いて、ゲートバルブ185が開いて搬送開口部66が開放され、装置外部の搬送ロボットにより搬送開口部66を介して処理対象となる半導体ウェハーWがチャンバー6内の熱処理空間65に搬入される(ステップS1)。このときには、半導体ウェハーWの搬入にともなって装置外部の雰囲気を巻き込むおそれがあるが、チャンバー6には窒素ガスが供給され続けているため、搬送開口部66から窒素ガスが流出して、そのような外部雰囲気の巻き込みを最小限に抑制することができる。
【0065】
搬送ロボットによって搬入された半導体ウェハーWは保持部7の直上位置まで進出して停止する。そして、移載機構10の一対の移載アーム11が退避位置から移載動作位置に水平移動して上昇することにより、リフトピン12が貫通孔79を通ってサセプタ74の保持プレート75の上面から突き出て半導体ウェハーWを受け取る。このとき、リフトピン12は基板支持ピン77の上端よりも上方にまで上昇する。
【0066】
半導体ウェハーWがリフトピン12に載置された後、搬送ロボットが熱処理空間65から退出し、ゲートバルブ185によって搬送開口部66が閉鎖される。そして、一対の移載アーム11が下降することにより、半導体ウェハーWは移載機構10から保持部7のサセプタ74に受け渡されて水平姿勢にて下方より保持される。半導体ウェハーWは、保持プレート75上に立設された複数の基板支持ピン77によって支持されてサセプタ74に保持される。また、半導体ウェハーWは、被処理面である表面を上面として保持部7に保持される。複数の基板支持ピン77によって支持された半導体ウェハーWの裏面(表面とは反対側の主面)と保持プレート75の保持面75aとの間には所定の間隔が形成される。サセプタ74の下方にまで下降した一対の移載アーム11は水平移動機構13によって退避位置、すなわち凹部62の内側に退避する。
【0067】
半導体ウェハーWが石英にて形成された保持部7のサセプタ74によって水平姿勢にて下方より保持された後、ハロゲン加熱部4の40本のハロゲンランプHLが一斉に点灯して予備加熱(アシスト加熱)が開始される(ステップS2)。ハロゲンランプHLから出射されたハロゲン光は、石英にて形成された下側チャンバー窓64およびサセプタ74を透過して半導体ウェハーWの下面に照射される。ハロゲンランプHLからの光照射を受けることによって半導体ウェハーWが予備加熱されて温度が上昇する。なお、移載機構10の移載アーム11は凹部62の内側に退避しているため、ハロゲンランプHLによる加熱の障害となることは無い。
【0068】
ハロゲンランプHLからの光照射によって昇温する半導体ウェハーWの温度は下部放射温度計20によって測定される。測定された半導体ウェハーWの温度は制御部3に伝達される。制御部3は、ハロゲンランプHLからの光照射によって昇温する半導体ウェハーWの温度が所定の予備加熱温度T1に到達したか否かを監視しつつ、ハロゲンランプHLの出力を制御する。すなわち、制御部3は、下部放射温度計20による測定値に基づいて、半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1となるようにハロゲンランプHLの出力をフィードバック制御する。下部放射温度計20は、ハロゲンランプHLの出力を制御するための温度センサーである。
【0069】
半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1に到達した後、制御部3は半導体ウェハーWをその予備加熱温度T1に暫時維持する。具体的には、下部放射温度計20によって測定される半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1に到達した時点にて制御部3がハロゲンランプHLの出力を調整し、半導体ウェハーWの温度をほぼ予備加熱温度T1に維持している。
【0070】
このようなハロゲンランプHLによる予備加熱を行うことによって、半導体ウェハーWの全体を予備加熱温度T1に均一に昇温している。ハロゲンランプHLによる予備加熱の段階においては、より放熱が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部の温度が中央部よりも低下する傾向にあるが、ハロゲン加熱部4におけるハロゲンランプHLの配設密度は、半導体ウェハーWの中央部に対向する領域よりも周縁部に対向する領域の方が高くなっている。このため、放熱が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部に照射される光量が多くなり、予備加熱段階における半導体ウェハーWの面内温度分布を均一なものとすることができる。
【0071】
半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1に到達して所定時間が経過した時点でフラッシュ加熱部5のフラッシュランプFLがサセプタ74に保持された半導体ウェハーWの表面にフラッシュ光照射を行う(ステップS3)。このとき、フラッシュランプFLから放射されるフラッシュ光の一部は直接にチャンバー6内へと向かい、他の一部は一旦リフレクタ52により反射されてからチャンバー6内へと向かい、これらのフラッシュ光の照射により半導体ウェハーWのフラッシュ加熱が行われる。
【0072】
フラッシュ加熱は、フラッシュランプFLからのフラッシュ光(閃光)照射により行われるため、半導体ウェハーWの表面温度を短時間で上昇することができる。すなわち、フラッシュランプFLから照射されるフラッシュ光は、予めコンデンサーに蓄えられていた静電エネルギーが極めて短い光パルスに変換された、照射時間が0.1ミリ秒以上100ミリ秒以下程度の極めて短く強い閃光である。そして、フラッシュランプFLからのフラッシュ光照射によりフラッシュ加熱される半導体ウェハーWの表面温度は、瞬間的に1000℃以上の処理温度T2まで上昇した後、急速に下降する。
【0073】
照射時間の極めて短いフラッシュ光を照射したときには、半導体ウェハーWの表面近傍の温度が急速に上昇する一方で裏面の温度は予備加熱温度T1からさほどには上昇しない。その結果、半導体ウェハーWの表面近傍のみに急激に熱膨張が生じて半導体ウェハーWが上面を凸面として反るように急激に変形する。高速度カメラ95は、フラッシュ光が照射されたときの半導体ウェハーWのそのような挙動を撮影する(ステップS4)。
【0074】
高速度カメラ95は、サセプタ74の側方から、すなわち水平方向から半導体ウェハーWの挙動を撮影する。従って、半導体ウェハーWが上面を凸面として反るように変形したときには、高速度カメラ95は半導体ウェハーWの反り状態を撮像することができる。また、高速度カメラ95は、少なくともフラッシュランプFLからフラッシュ光の照射が開始された時点以降の半導体ウェハーWの挙動を撮影する。高速度カメラ95は、それよりも以前、例えば半導体ウェハーWの予備加熱が行われているときから半導体ウェハーWを撮影するようにしても良い。また、高速度カメラ95は、10マイクロ秒~1000マイクロ秒の撮影ピッチにて半導体ウェハーWを撮影する(本実施形態では40マイクロ秒)。高速度カメラ95によって撮像された複数の画像のデータは、例えば記憶部34に格納される。
【0075】
一方、上部放射温度計25は、フラッシュ加熱される半導体ウェハーWの表面の温度を測定する(ステップS5)。上部放射温度計25は、半導体ウェハーWの斜め上方からその表面温度を測定する。上部放射温度計25は、少なくともフラッシュランプFLからフラッシュ光の照射が開始された時点以降の半導体ウェハーWの表面温度を測定する。上記の高速度カメラ95と同様に、上部放射温度計25は、それよりも以前、例えば半導体ウェハーWの予備加熱が行われているときから半導体ウェハーWの表面温度を測定するようにしても良い。すなわち、ステップS4およびステップS5は、ステップS3よりも前から行うようにしても良い。
【0076】
また、上部放射温度計25が温度測定を行うサンプリングピッチは、高速度カメラ95の撮影ピッチと同じであることが好ましい。よって、本実施形態では、上部放射温度計25のサンプリングピッチは40マイクロ秒である。この程度のサンプリングピッチであれば、上部放射温度計25は、フラッシュ光照射によって急激に変化する半導体ウェハーWの表面温度を適切に測定することができる。上部放射温度計25によって測定された温度のデータは、例えば記憶部34に蓄積される。
【0077】
フラッシュ加熱処理が終了した後、所定時間経過後にハロゲンランプHLが消灯する。これにより、半導体ウェハーWが予備加熱温度T1から急速に降温する。降温中の半導体ウェハーWの温度は下部放射温度計20によって測定され、その測定結果は制御部3に伝達される。制御部3は、下部放射温度計20の測定結果より半導体ウェハーWの温度が所定温度まで降温したか否かを監視する。そして、半導体ウェハーWの温度が所定以下にまで降温した後、移載機構10の一対の移載アーム11が再び退避位置から移載動作位置に水平移動して上昇することにより、リフトピン12がサセプタ74の上面から突き出て熱処理後の半導体ウェハーWをサセプタ74から受け取る。続いて、ゲートバルブ185により閉鎖されていた搬送開口部66が開放され、リフトピン12上に載置された半導体ウェハーWが装置外部の搬送ロボットによりチャンバー6から搬出され、半導体ウェハーWの加熱処理が完了する(ステップS6)。
【0078】
フラッシュ光照射時に急激に昇降する半導体ウェハーWの表面温度は上部放射温度計25によって測定されている。ところが、フラッシュ光照射時には、半導体ウェハーWの表面近傍のみが急激に昇温して熱膨張することに起因して半導体ウェハーWが変形する。その結果、上部放射温度計25から見た半導体ウェハーWの見かけの放射率が変動し、半導体ウェハーWの表面温度を正確に測定することが困難となる。そこで、本実施形態においては、ステップS7~ステップS9のようにしてフラッシュ光照射時の半導体ウェハーWの表面温度を正確に測定するようにしている。ステップS7~ステップS9の処理は半導体ウェハーWのフラッシュ加熱処理が終了してから後続の半導体ウェハーWがチャンバー6に搬入されるまでに行われる。
【0079】
まず、角度算定部31(図8)がフラッシュ光の照射によって半導体ウェハーWが変形したときの上部放射温度計25と半導体ウェハーWとの測定角度を算定する(ステップS7)。記憶部34には、フラッシュ光の照射時に高速度カメラ95によって撮像された半導体ウェハーWの複数の画像のデータが格納されている。角度算定部31は、記憶部34に格納されているそれぞれの画像に対して二値化処理を施して二値画像を得る。二値化処理とは、対象となる画像を白と黒との2階調に変換する画像処理である。高速度カメラ95によって半導体ウェハーWを側方から撮像した画像に対して二値化処理を施すことにより、半導体ウェハーWは線として認識される。
【0080】
角度算定部31は、得られた二値画像に対してさらなる画像処理を施して上部放射温度計25と半導体ウェハーWとの測定角度を算定する。図10は、上部放射温度計25と半導体ウェハーWとの測定角度を示す図である。図10にて二点鎖線で示すのは、フラッシュ光が照射される前にサセプタ74上に水平姿勢で保持されている半導体ウェハーWである。一方、図10にて実線で示すのは、フラッシュ光照射により変形した半導体ウェハーWである。上部放射温度計25と半導体ウェハーWとの測定角度とは、上部放射温度計25の赤外線センサー29の光軸と半導体ウェハーWの法線とがなす角度である。フラッシュ光照射前の変形していない半導体ウェハーWと上部放射温度計25との測定角度θ1よりもフラッシュ光照射により変形した半導体ウェハーWと上部放射温度計25との測定角度θ2の方が小さくなる。
【0081】
角度算定部31は、上部放射温度計25とフラッシュ光照射によって変形する半導体ウェハーWとの測定角度を画像処理により求める。角度算定部31は、上部放射温度計25の温度測定のサンプリングピッチに応じて、高速度カメラ95によって撮像された複数の画像の全てについて測定角度を算定するようにしても良いし、一部の画像を抽出して測定角度を算定するようにしても良い。例えば、本実施形態のように、上部放射温度計25のサンプリングピッチが高速度カメラ95の撮影ピッチと同じである場合には、角度算定部31は撮像された全ての画像について測定角度を算定するのが好ましい。一方、上部放射温度計25のサンプリングピッチが高速度カメラ95の撮影ピッチよりも長い場合には、角度算定部31は撮像された複数の画像から一部を抽出して測定角度を算定するのが好ましい。例えば、上部放射温度計25のサンプリングピッチが40マイクロ秒で高速度カメラ95の撮影ピッチが10ミリ秒である場合には、角度算定部31は撮像された画像の4枚につき1枚を抽出して測定角度を算定すれば良い。
【0082】
次に、放射率算定部32が角度算定部31によって算定された上記の測定角度に基づいて上部放射温度計25から見た半導体ウェハーWの見かけの放射率を求める(ステップS8)。半導体ウェハーWの表面の見かけの放射率は、上部放射温度計25と半導体ウェハーWとの測定角度によって変動するパラメータである。半導体ウェハーWの表面の見かけの放射率と、上部放射温度計25と半導体ウェハーWとの測定角度との相関関係については、予め実験またはシミュレーション等によって求められてテーブル35として記憶部34に格納されている。図11は、測定角度と放射率との相関関係を規定したテーブル35の一例を示す図である。
【0083】
放射率算定部32は、ステップS7で算定した測定角度に対応する半導体ウェハーWの放射率をテーブル35より特定する。このようにして放射率算定部32によって特定された放射率は、上記の測定角度にて上部放射温度計25から見た半導体ウェハーWの表面の見かけの放射率である。
【0084】
続いて、温度補正部33が放射率算定部32によって求められた半導体ウェハーWの見かけの放射率に基づいて上部放射温度計25が測定した半導体ウェハーWの温度を補正する(ステップS9)。ステップS5にて上部放射温度計25がフラッシュ加熱される半導体ウェハーWの表面の温度を測定するときには、上部放射温度計25に適当な値の半導体ウェハーWの放射率(例えば、半導体ウェハーWが変形していないときの放射率)が設定されている。ところが、その設定された放射率とフラッシュ光照射によって変形する半導体ウェハーWの見かけの放射率とには差異があり、その差異に起因して温度測定に誤差が生じるのである。このため、本実施形態では、変形する半導体ウェハーWの正確な見かけの放射率に基づいて上部放射温度計25の測定温度を補正する。具体的には、上部放射温度計25に設定されている放射率をステップS8で求めた半導体ウェハーWの見かけの放射率に置き換えて半導体ウェハーWの温度を求める演算処理を行うことによって上部放射温度計25の測定温度を補正する。
【0085】
本実施形態においては、フラッシュ光照射時に急激に変形する半導体ウェハーWの挙動を高速度カメラ95によって所定間隔(本実施形態では40マイクロ秒)で撮像して複数の画像を取得する。角度算定部31は、それら複数の画像から当該所定間隔毎の上部放射温度計25と半導体ウェハーWとの測定角度を算定する。そして、放射率算定部32は、測定角度に基づいてテーブル35から当該所定間隔毎の上部放射温度計25から見た半導体ウェハーWの見かけの放射率を求める。さらに、温度補正部33は、求められた放射率に基づいて当該所定間隔毎に上部放射温度計25が測定した半導体ウェハーWの温度を補正する。このようにすれば、フラッシュ光照射によって半導体ウェハーWが急激に変形したときにも、半導体ウェハーWの反り状態に応じた測定角度に対応する放射率に基づいて半導体ウェハーWの測定温度を補正することとなるため、フラッシュ光照射時の半導体ウェハーWの温度を正確に測定することができる。
【0086】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、図9のステップS4において、複数の高速度カメラによってフラッシュ光照射時の半導体ウェハーWの挙動を撮影するようにしても良い。図12は、2台の高速度カメラによって半導体ウェハーWを撮影する例を示す図である。図12の例では、第1の高速度カメラ95aと第2の高速度カメラ95bとがサセプタ74の側方から互いに90°の角度を隔てて半導体ウェハーWの挙動を撮影する。このようにすれば、より正確にフラッシュ光照射時における半導体ウェハーWの反り状態を捉えることができ、その結果上部放射温度計25と半導体ウェハーWとの測定角度をより正確に算定することが可能となる。なお、高速度カメラの台数は3台以上であっても良い。高速度カメラの台数が増えるほど、半導体ウェハーWの反り状態をより正確に捉えることができるものの、その後の画像処理が複雑になるとともに高速度カメラの設置コストも増大する。
【0087】
また、上記実施形態においては、半導体ウェハーWの反り状態を高速度カメラ95によって撮像して実測していたが、これをシミュレーションによって求めるようにしても良い。図13は、シミュレーションを用いて反り状態を求めるプロセスの一例を示す図である。シミュレーションを用いるに際しては、熱処理装置1における種々の処理条件を入力したときに半導体ウェハーWの温度分布等の結果を導き出すモデルを予め作成しておく。モデルの作成には機械学習を用いても良い。そして、当該モデルに対して処理対象となる半導体ウェハーWについての処理条件(例えば、予備加熱を行うハロゲンランプHLのランプパワー、フラッシュランプFLに電力供給を行うコンデンサーの充電電圧など)を入力パラメータとして設定することにより、フラッシュ光照射時の半導体ウェハーWの面内温度分布などが出力として得られる。半導体ウェハーWの面内温度分布が得られれば、そこからフラッシュ光照射時の半導体ウェハーWの反り状態を求めることができる。なお、半導体ウェハーWの面内温度分布を出力するモデルと反り状態を出力するモデルとは別のものであっても良いし、1つのモデルに組み込まれていても良い。
【0088】
モデルを用いたシミュレーションによってフラッシュ光照射時の半導体ウェハーWの反り状態を得ることができれば、そこから上部放射温度計25と半導体ウェハーWとの測定角度を算定することができる。続いて、上記実施形態と同様に、算定された上記の測定角度に基づいて上部放射温度計25から見た半導体ウェハーWの見かけの放射率を求める。そして、求められた半導体ウェハーWの見かけの放射率に基づいて上部放射温度計25が測定した半導体ウェハーWの温度を補正する。このようにしても、上記実施形態と同様に、半導体ウェハーWの反り状態に応じた測定角度に対応する放射率に基づいて半導体ウェハーWの測定温度を補正することとなるため、フラッシュ光照射時の半導体ウェハーWの温度を正確に測定することができる。
【0089】
上述のようなモデルを用いたシミュレーションは、熱処理装置1の制御部3で行うようにしても良いし、熱処理装置1とは別体のコンピュータシステムにて実行するようにしても良い。また、上記実施形態の角度算定部31、放射率算定部32および温度補正部33も制御部3に備えられることに限定されるものではなく、熱処理装置1とは別体のコンピュータシステム内に実現されても良い。そのコンピュータシステムと熱処理装置1とによって熱処理システムが構築される。
【0090】
また、上記実施形態においては、上部放射温度計25が測定した半導体ウェハーWの表面温度を補正していたが、これに代えて、下部放射温度計20が測定した半導体ウェハーWの裏面温度を補正するようにしても良い。この場合も、上記実施形態と同様に、フラッシュ光照射時の半導体ウェハーWの反り状態から下部放射温度計20と半導体ウェハーWとの測定角度を算定し、その測定角度に対応する放射率を求め、求めた放射率に基づいて下部放射温度計20が測定した半導体ウェハーWの裏面温度を補正する。
【0091】
また、上記実施形態においては、半導体ウェハーWのフラッシュ加熱処理が終了した後にステップS7~ステップS9の処理を行っていたが、十分に高速な演算処理を行えるのであれば、半導体ウェハーWの反り状態に応じた測定角度に対応する放射率を求め、その放射率を直ちに上部放射温度計25に設定して半導体ウェハーWの温度を測定するようにしても良い。このようにすれば、半導体ウェハーWの反り状態を考慮したリアルタイムの温度測定を行うことができ、フラッシュ光照射時の半導体ウェハーWの温度を正確に測定することができる。
【0092】
また、上記実施形態においては、フラッシュ加熱部5に30本のフラッシュランプFLを備えるようにしていたが、これに限定されるものではなく、フラッシュランプFLの本数は任意の数とすることができる。また、フラッシュランプFLはキセノンフラッシュランプに限定されるものではなく、クリプトンフラッシュランプであっても良い。また、ハロゲン加熱部4に備えるハロゲンランプHLの本数も40本に限定されるものではなく、任意の数とすることができる。
【0093】
また、上記実施形態においては、1秒以上連続して発光する連続点灯ランプとしてフィラメント方式のハロゲンランプHLを用いて半導体ウェハーWの予備加熱処理を行っていたが、これに限定されるものではなく、ハロゲンランプHLに代えて放電型のアークランプ(例えば、キセノンアークランプ)またはLEDランプを連続点灯ランプとして用いて予備加熱処理を行うようにしても良い。
【符号の説明】
【0094】
1 熱処理装置
3 制御部
4 ハロゲン加熱部
5 フラッシュ加熱部
6 チャンバー
7 保持部
10 移載機構
20 下部放射温度計
25 上部放射温度計
31 角度算定部
32 放射率算定部
33 温度補正部
34 記憶部
35 テーブル
63 上側チャンバー窓
64 下側チャンバー窓
65 熱処理空間
74 サセプタ
95 高速度カメラ
FL フラッシュランプ
HL ハロゲンランプ
W 半導体ウェハー
図1
図2
図3
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図5
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図13