(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023015610
(43)【公開日】2023-02-01
(54)【発明の名称】気体濃度測定システム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/77 20060101AFI20230125BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20230125BHJP
G01N 21/78 20060101ALN20230125BHJP
【FI】
G01N21/77 A
G01N21/27 A
G01N21/78 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021119501
(22)【出願日】2021-07-20
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】391028122
【氏名又は名称】株式会社ガステック
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】弁理士法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 四郎
(72)【発明者】
【氏名】永井 大悟
(72)【発明者】
【氏名】中村 亜衣
(72)【発明者】
【氏名】古山 彰一
(72)【発明者】
【氏名】橋場 康史
(72)【発明者】
【氏名】ツォルモン サロールトゥグス
【テーマコード(参考)】
2G054
2G059
【Fターム(参考)】
2G054AA01
2G054CE02
2G054EA06
2G054EB10
2G054FA06
2G054JA01
2G054JA08
2G059AA01
2G059AA05
2G059BB01
2G059BB08
2G059DD03
2G059DD13
2G059EE02
2G059EE13
2G059FF01
2G059HH02
2G059KK04
2G059MM01
2G059MM03
2G059MM04
2G059MM14
(57)【要約】
【課題】反応部分と非反応部分との間の境界の位置を正確に検出する。
【解決手段】重み付け取得部15は、検知管の種類に基づいて、色空間座標軸ごとの重み付けを取得する。境界算出部16は、検知管を撮影した画像を表す画像データに基づいて、検知管の長手方向における検知管の反応部分と未反応部分との間の境界の位置を算出する。濃度算出部17は、境界算出部16が算出した境界の位置に基づいて、気体の濃度を算出する。境界算出部16は、検知管の長手方向における各位置について、検知管の幅方向におけるピクセルの各色空間座標値の平均値に重み付け取得部15が取得した重み付けを乗じた積を合計した評価値を算出し、算出した評価値に基づいて、境界の位置を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知管を撮影した画像から前記検知管によって検出された気体の濃度を算出する気体濃度測定システムにおいて、
前記検知管の種類に基づいて、色空間座標軸ごとの重み付けを取得する重み付け取得部と、
前記画像を表す画像データに基づいて、前記検知管の長手方向における前記検知管の反応部分と未反応部分との間の境界の位置を算出する境界算出部と、
前記境界算出部が算出した境界の位置に基づいて、前記気体の濃度を算出する濃度算出部と
を備え、
前記境界算出部は、前記検知管の長手方向における各位置について、前記検知管の幅方向におけるピクセルの各色空間座標値の平均値に前記重み付け取得部が取得した重み付けを乗じた積を合計した評価値を算出し、算出した評価値に基づいて、前記境界の位置を算出する、
気体濃度測定システム。
【請求項2】
前記境界算出部は、
前記検知管の長手方向における所定の幅の複数の区間について、算出した前記評価値をその区間のなかで単回帰分析して近似直線の傾きを算出し、算出した傾きのうちで絶対値が最も大きい傾きを有する区間の中心位置を、前記境界の位置であると判定する、
請求項1の気体濃度測定システム。
【請求項3】
前記境界算出部は、
前記検知管の長手方向における所定の幅の複数の区間について、算出した前記評価値をその区間のなかで単回帰分析して近似直線の傾きを算出し、
算出した傾きのうちで絶対値が最も大きい傾きを有する区間の中心位置を算出して傾き最大位置とし、
前記傾き最大位置と前記境界の位置との間の関係をあらかじめ記憶し、
前記関係を使って、算出した前記傾き最大位置から前記境界の位置を算出する、
請求項1の気体濃度測定システム。
【請求項4】
前記境界算出部は、
前記複数の区間それぞれについて算出した傾きに基づいて、前記評価値の変わり方を表す指標値を算出し、
前記傾き最大位置と前記境界の位置との間の関係と、前記指標値との間の関係をあらかじめ記憶し、
前記関係を使って、算出した前記傾き最大位置及び指標値から前記境界の位置を算出する、
請求項3の気体濃度測定システム。
【請求項5】
前記関係は、校正用の気体に反応させた検知管を撮影した画像から前記境界算出部が算出した傾き最大位置と、前記校正用の気体に反応させた検知管を目視して判定した境界の位置とに基づいて、あらかじめ決定されたものである、
請求項3又は4の気体濃度測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検知管を撮影した画像から前記気体検知管によって検出された気体の濃度を算出する気体濃度測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
気体中に存在する特定の成分(例えば、酸素、二酸化炭素、塩素など。)の濃度を簡単に測定する装置として、検知管式ガス測定器が知られている。検知管式ガス測定器は、検知管と、検知管用ガス採取器とを有する。検知管は、試験用ガス中の測定成分と速やかに反応して、反応部分と未反応部分とが区別できる境界を形成する試薬を充填し、反応した変色部分の長さでガス濃度を測定する。ガス採取器は、検知管に取り付けて使用され、吸引などにより、試験用ガスを検知管に導入する。検知管の種類を変えることにより、様々な成分の濃度を測定することができる。
従来は、検知管の反応部分と未反応部分との間の境界の位置は、測定者が目視することによって判定していた。しかし、反応部分と未反応部分とは、境界を境として明確に分かれているのではなく、徐々に遷移しているため、測定者によって、境界位置の判定にばらつきが生じる場合があった。
このようなばらつきをなくすため、カメラで撮影した検知管の画像データ(例えば、特許文献1)や、光学式読取器で読み取った情報(例えば、特許文献2)に基づいて、ガスの濃度を算出する技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-002400号公報
【特許文献2】特開2016-183977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術は、境界の位置ではなく、反応部分の面積に基づいて、気体の濃度を算出している。反応部分の幅が一定であれば、反応部分の面積は、反応部分の長さに比例するが、実際の検知管は、内径が一定でない場合があるため、誤差を生じる場合がある。
特許文献2の技術は、専用の光学式読取器が必要なので、手軽に測定することができない。また、専用の検知管を使用するので、従来の検知管を使用することができない。
更に、検知管は、検出すべき気体の種類や濃度範囲によって異なる試薬を使用する。試薬の種類によって、反応部分や未反応部分の色が異なるので、境界の検出が難しい場合がある。
本発明は、例えばこのような課題を解決し、気体の濃度を正確に測定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
気体濃度測定システムは、検知管を撮影した画像から前記検知管によって検出された気体の濃度を算出する。重み付け取得部は、前記検知管の種類に基づいて、色空間座標軸ごとの重み付けを取得する。境界算出部は、前記画像を表す画像データに基づいて、前記検知管の長手方向における前記検知管の反応部分と未反応部分との間の境界の位置を算出する。濃度算出部は、前記境界算出部が算出した境界の位置に基づいて、前記気体の濃度を算出する。前記境界算出部は、前記検知管の長手方向における各位置について、前記検知管の幅方向におけるピクセルの各色空間座標値の平均値に前記重み付け取得部が取得した重み付けを乗じた積を合計した評価値を算出し、算出した評価値に基づいて、前記境界の位置を算出する。
前記境界算出部は、前記検知管の長手方向における所定の幅の複数の区間について、算出した前記評価値をその区間のなかで単回帰分析して近似直線の傾きを算出し、算出した傾きのうちで絶対値が最も大きい傾きを有する区間の中心位置を算出してもよい。
前記境界算出部は、算出した中心位置を前記境界の位置であると判定してもよい。
前記境界算出部は、算出した中心位置を傾き最大位置としてもよい。
前記境界算出部は、前記傾き最大位置と前記境界の位置との間の関係をあらかじめ記憶し、前記関係を使って、算出した前記傾き最大位置から前記境界の位置を算出してもよい。
前記境界算出部は、前記複数の区間それぞれについて算出した傾きに基づいて、前記評価値の変わり方を表す指標値を算出し、前記傾き最大位置と前記境界の位置との間の関係と、前記指標値との間の関係をあらかじめ記憶し、前記関係を使って、算出した前記傾き最大位置及び指標値から前記境界の位置を算出してもよい。
前記関係は、校正用の気体に反応させた検知管を撮影した画像から前記境界算出部が算出した傾き最大位置及び指標値と、前記校正用の気体に反応させた検知管を目視して判定した境界の位置とに基づいて、あらかじめ決定されたものであってもよい。
【発明の効果】
【0006】
前記気体濃度測定システムは、検知管の種類に基づいて色空間座標軸ごとの重み付けを取得し、取得した重み付けを色空間座標値に乗じた積を合計した評価値に基づいて境界の位置を算出するので、反応部分と非反応部分とを明瞭に区別することができ、境界の位置を正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】気体濃度判定システムの一例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1に示すように、気体濃度測定システム10は、例えば、撮像部12と、画像修正部13と、種類取得部14と、重み付け取得部15と、境界算出部16と、濃度算出部17とを有する。
【0009】
撮像部12は、例えばスマートフォンのカメラなどのデジタルカメラなどであり、カラー画像を撮影して、撮影した画像を表す画像データを生成する。撮像部12は、気体濃度測定システム10の利用者の操作により、検知管を撮影し、撮影した検知管が写った画像データを出力する。
【0010】
画像修正部13は、撮像部12が撮影した画像データを回転して傾きを修正し、画像に写っている検知管が所定の方向(例えば、縦方向)に延び、入口が例えば上、出口が例えば下になるようにする。更に、画像修正部13は、画像のなかで検知管の目盛範囲が写っている部分を抽出し、それ以外の部分をトリミングする。例えば、画像修正部13は、利用者の操作に基づいて、傾きの修正やトリミングをしてもよいし、人工知能などにより、検知管の目盛範囲が写っている部分を検出し、傾きの修正やトリミングをしてもよい。
画像修正部13は、例えば、撮像部12として検知管を撮影したカメラを内蔵するスマートフォンや、撮像部12から送信された画像データを受信するサーバ装置が、画像修正処理用のプログラムを実行することによって実現されてもよい。以下で説明する機能ブロックについても、同様である。
【0011】
種類取得部14は、撮像部12が撮影した画像に写っている検知管の種類(型番、試薬の種類、検出対象の成分、濃度範囲など)を取得する。例えば、種類取得部14は、利用者の操作に基づいて、検知管の種類を取得してもよいし、撮像部12が撮影した画像に基づいて、検知管の種類を判別してもよい。あるいは、検知管にバーコードやICタグなどを設け、これを読み取ることにより検知管の種類を取得してもよい。
【0012】
重み付け取得部15は、種類取得部14が取得した検知管の種類に基づいて、色空間座標軸ごとの重み付けを取得する。例えばRGB表色系であれば、R成分についての重み付けと、G成分についての重み付けと、B成分についての重み付けとの合計3つの重み付けを取得する。なお、色空間座標系は、RGB表色系に限らず、XYZ表色系やL*u*v*表色系など他の表色系に基づく座標系であってもよい。
例えば、株式会社ガステック製酸素検知管31B及び31E-2は、酸素(O2)と反応して、黒色から白色に変色する。この場合、例えば、R成分についての重み付けを「+1」、G成分についての重み付けを「+1」、B成分についての重み付けを「+1」とする。
例えば、株式会社ガステック製二酸化炭素検知管2LCは、二酸化炭素(CO2)と反応して、淡紅色から橙色に変色する。この場合、例えば、R成分についての重み付けを「0」、G成分についての重み付けを「+1」、B成分についての重み付けを「-1」とする。
例えば、株式会社ガステック製二酸化炭素検知管2ELは、二酸化炭素(CO2)と反応して、白色から青色に変色する。この場合、例えば、R成分についての重み付けを「-0.5」、G成分についての重み付けを「-0.5」、B成分についての重み付けを「+1」とする。
例えば、株式会社ガステック製塩素検知管8LLは、塩素(Cl2)と反応して、白色から淡緑色に変色する。この場合、例えば、R成分についての重み付けを「+1」、G成分についての重み付けを「-0.5」、B成分についての重み付けを「+0.5」とする。
このように重み付けを設定することにより、後述する評価値算出部62が算出する評価値が、未反応部分において小さくなり、反応部分において大きくなる。
重み付け取得部15は、例えば、検知管の種類ごとに、それに対応する重み付けを記憶している。記憶の形式は、例えば、表やデータベースなどである。重み付け取得部15は、種類取得部14が取得した検知管の種類を入力し、記憶した表やデータベースなどに基づいて、入力した検知管の種類に対応する重み付けを取得して、出力する。
【0013】
境界算出部16は、重み付け取得部15が取得した重み付けを使用して、画像修正部13が修正した画像データを解析し、前記検知管の反応部分と未反応部分との間の境界の位置を算出する。この詳細については、後述する。
【0014】
濃度算出部17は、境界算出部16が算出した境界の位置に基づいて、気体の濃度を算出する。画像修正部13が画像データを修正してあるので、例えば、境界の位置が画像の上端にあれば、気体の濃度は検知管の目盛範囲の最小値であることがわかる。逆に境界の位置が画像の下端にあれば、気体の濃度は検知管の目盛範囲の最大値であることがわかる。境界の位置が画像データの中間にある場合は、その位置に基づいて検知管の目盛範囲の最大値と最小値とを案分すれば、気体の濃度を算出することができる。
なお、検知管の目盛範囲は、検知管の種類によって変わるので、濃度算出部17は、種類取得部14が取得した検知管の種類に基づいて、目盛範囲の最大値及び最小値を取得してもよい。
また、温度、湿度、気圧などの条件によって気体の濃度と境界の位置との間の関係が変化する場合は、これらの条件を検出して、その影響を補正してもよい。
【0015】
次に、境界算出部16について詳述する。
図2に示すように、境界算出部16は、例えば、平均算出部61と、評価値算出部62と、傾き算出部63と、境界位置判定部66とを有する。
【0016】
平均算出部61は、検知管の長手方向における各位置について、検知管の幅方向におけるピクセルの各色空間座標値の平均値を算出する。
例えば、画像修正部13が修正した画像が横266ピクセル×縦2338ピクセルであり、その画像のなかで検知管が縦方向に延びているとすると、平均算出部61は、横一列に並んだ266ピクセルについて、R階調値の平均値と、G階調値の平均値と、B階調値の平均値との合計3つの平均値を算出する。これを縦2338列のそれぞれについて算出するので、平均算出部61は、全部で3×2338個の平均値を算出する。
【0017】
評価値算出部62は、検知管の長手方向における各位置について、平均算出部61が算出した平均値に、重み付け取得部15が取得した重み付けを乗じた積を算出する。更に、評価値算出部62は、算出した積を合計して、評価値を算出する。
例えば、評価値算出部62は、平均算出部61が横一列に並んだ266ピクセルについて算出した3つの平均値と、重み付け取得部15が取得した3つの重み付けとに基づいて、R階調値の平均値にR成分の重み付けを乗じた積と、G階調値の平均値にG成分の重み付けを乗じた積と、B階調値の平均値にB成分の重み付けを乗じた積とを算出する。評価値算出部62は、算出した3つの積を合計して、その列についての評価値を算出する。これを縦2338列のそれぞれについて算出するので、全部で2338個の評価値を算出する。
【0018】
傾き算出部63は、検知管の長手方向における所定の幅の複数の区間について、算出した前記評価値をその区間のなかで単回帰分析して近似直線の傾きを算出する。
例えば、傾き算出部63は、縦2338列のうち連続した例えば100列について、評価値算出部62が算出した評価値を単回帰分析する。すなわち、列番号を説明変数、評価値を目的変数とおいて、例えば最小二乗法により、列番号と評価値と関係を示す一次方程式の係数を求め、近似直線の傾きを算出する。これを、対象となる連続した列の開始列を少しずつずらしながら繰り返す。例えば、最初に、第1列~第100列についての傾きを算出し、次は、開始列を10列ずつずらして第11列~第110列についての傾きを算出する。その後、第21列~第210列についての傾きを算出し、…、第2231列~第2330列についての傾きを算出する。最後の区間は、第2241列から始めると区間の幅が98列になってしまうので、第2241列ではなく第2239列を開始列として、第2239列~第2338列についての傾きを算出する。このようにして、全部で224個の傾きを算出する。なお、区間の幅が所定の幅に満たない場合は、開始列をずらすのではなく、傾きを算出しないこととしてもよい。
【0019】
上述したように、反応部分で評価値が大きくなり、未反応部分で評価値が小さくなるように重み付けを設定し、列番号が小さい側が検知管の入り口側であり、列番号が大きい側が検知管の出口側であるとすると、入り口側に反応部分があるので、評価値が大きく、出口側に未反応部分があるので、評価値が小さくなる。このため、このようにして算出した傾きは、原則として負の値となる。そして、対象となる区間の中央に反応部分と未反応部分との間の境界があるとき、最小になる。逆に、反応部分で評価値が小さくなり、未反応部分で評価値が大きくなるように重み付けを設定したとすると、傾きは、原則として正の値になり、対象となる区間の中央に反応部分と未反応部分との間の境界があるとき、最大になる。いずれにしても、対象となる区間の中央に反応部分と未反応部分との間の境界があるとき、傾きの絶対値が最大になる。
【0020】
境界位置判定部66は、傾き算出部63が算出した傾きのうちで絶対値が最も大きい傾きを有する区間の中心位置を、前記境界の位置であると判定する。
例えば、傾き算出部63が算出した224個の傾きのなかで絶対値が最も大きい傾きが、第741列~第840列についての傾きだったとすると、その区間の中心位置は、第1790列である。したがって、境界位置判定部66は、第790列が境界の位置であると判定する。
【0021】
この検知管の目盛範囲上端から境界位置までの距離y[mm]と、気体濃度x[%]との間の関係が、y=1.8316x-1.7138であり、目盛範囲の長さが51mmであるとすると、y=51z/2238(zは、境界算出部16が算出した画像上における境界の位置。)であるから、x=(51z/2238+1.7138)/1.8316である。濃度算出部17は、例えばこの式に境界算出部16が算出した境界の位置を代入することにより、気体の濃度を算出する。例えば、境界の位置が第790列であれば、気体濃度は約10.8%になる。なお、距離yと気体濃度xとの間の関係は、一次式ではなく、例えば二次式などの数式で表されたものであってもよいし、数式ではなく、例えば表形式などの形式で表されたものであってもよい。また、温度、湿度、気圧などを変数として含むものであってもよい。
【0022】
次に、境界算出部16の別の例について説明する。
図3に示すように、境界算出部16は、例えば、平均算出部61と、評価値算出部62と、傾き算出部63と、傾き最大位置判定部64と、関係記憶部65と、境界位置判定部66とを有する。
このうち、平均算出部61と、評価値算出部62と、傾き算出部63とは、
図2を用いて説明した境界算出部16のものと同様であるので、説明を省略する。
【0023】
傾き最大位置判定部64は、
図2を用いて説明した境界算出部16の境界位置判定部66と同様にして、傾き算出部63が算出した傾きのうちで絶対値が最も大きい傾きを有する区間の中心位置を算出して、傾き最大位置とする。
【0024】
図2を用いて説明した境界算出部16では、算出した傾き最大位置をそのまま境界の位置であると判定していた。しかし、実験を繰り返した結果、このようにして算出した中心位置は、実際に検知管を目視して判定した境界の位置と比較してわずかにずれていることが判明した。
このずれは、比較的小さいものなので、無視してもよいが、この例では、このずれを補正することにより、測定の精度を更に高くする。
【0025】
そのため、傾き最大位置判定部64が判定する傾き最大位置と、実際に検知管を目視して判定した境界の位置との関係をあらかじめ実験などにより求めておく。
例えば、校正用の気体、すなわち、あらかじめ濃度がわかっている気体を、検知管に反応させ、それを撮影した画像に基づいて、傾き最大位置判定部64が傾き最大位置を判定する。また、同じ画像に基づいて、目視により境界位置を判定する。これを様々な濃度の校正用気体について繰り返す。得られた結果を、例えば単回帰分析することにより、傾き最大位置判定部64が算出する傾き最大位置から、実際に目視によって判定される境界位置を求めるための計算式を決定する。
【0026】
関係記憶部65は、例えば上述したようにして決定された計算式をあらかじめ記憶している。計算式は、例えば、一次式であり、その場合、関係記憶部65は、一次式の傾きと切片とを記憶する。しかし、計算式は、一次式ではなく、二次式や他の数式であってもよい。また、温度、湿度、気圧などを変数として含むものであってもよい。 あるいは、関係記憶部65は、傾き最大位置と実際の境界位置との間の関係を表す計算式やその係数ではなく、傾き最大位置と実際の境界位置との間の関係を表す表や、傾き最大位置と実際の境界位置との間の関係を人工知能に学習された学習済モデルなど、傾き最大位置から実際の境界位置を求めることが可能な他の形式のデータを記憶してもよい。
【0027】
境界位置判定部66は、関係記憶部65が記憶した関係を使って、中心位置判定部64が判定した中心位置から、境界の位置を算出する。
【0028】
なお、関係記憶部65が記憶する関係は、検知管の種類に応じて異なるものであってもよく、その場合、境界位置判定部66は、関係記憶部65が記憶した複数の関係のなかから、種類取得部14が取得した検知管の種類に対応する関係を選択して使用する。あるいは、関係記憶部65が記憶する関係は、検知管の種類にかかわらず一つだけであってもよい。
【0029】
また、傾き最大位置判定部64が算出する傾き最大位置と実際の境界の位置との間の関係は、境界付近における色の変わり方に依存する場合がある。例えば、色の変化する区間が狭く境界付近における色の変わり方が急峻であれば、両者の間のずれは小さくなるが、逆に、色の変化する区間が広く境界付近における色の変わり方がなだらかであれば、ずれは大きくなると考えられる。
そこで、境界位置判定部66は、境界付近における色の変わり方を考慮して、境界の位置を算出することが好ましい。
【0030】
例えば、境界位置判定部66は、境界付近における色の変わり方が急であるかゆっくりであるかを表す指標値を算出する。例えば、傾き算出部63が算出した傾きのうちで絶対値が最も大きい傾き(すなわち、傾き最大位置判定部64が判定した傾き最大位置に対応する傾き)を基準として、傾き算出部63が傾きを算出した複数の区間のそれぞれについて、傾き算出部63が算出した傾きの比率を算出する。この比率は、傾き最大位置判定部64が判定した傾き最大位置に対応する区間において1となり、それ以外の区間においては、1より小さくなる。そして、それぞれの区間について、この比率が所定の値(例えば、0.5)よりも大きいか否かを判定し、大きいと判定した区間の数を数えて、指標値とする。色が鋭く変わっている場合は、傾きの最大値が大きくなる分、それに対して傾きが比較的大きい区間の数は少なくなる。逆に、色が緩やかに変わっている場合は、傾きの最大値が小さくなる分、傾きが比較的大きい区間の数は多くなる。
あるいは、境界位置判定部66は、それぞれの区間について傾き算出部63が算出した傾きを重み付けとして、区間の中心位置の重み付け分散又は標準偏差を算出して、指標値としてもよい。色が鋭く変わっている場合は、重み付け分散又は標準偏差は小さくなる。逆に、色が緩やかに変わっている場合は、重み付け分散又は標準偏差は大きくなる。
なお、傾き算出部63が傾きを算出したすべての区間ではなく、傾き最大位置判定部64が算出した傾き最大位置に対応する区間の前後所定の範囲内にある区間に基づいて、指標値を算出してもよい。そうすれば、境界から遠く離れた位置における評価値の影響を取り除くことができるので、境界付近における色の変わり方をより的確に反映することができる。
【0031】
関係記憶部65は、傾き最大位置と実際の境界位置との間の関係と、前記指標値との間の関係をあらかじめ記憶しておく。この関係も、あらかじめ実験などにより求められたものである。例えば、傾きの分散又は標準偏差から、傾き最大位置に対する実際の境界位置のずれを算出するための計算式や表、学習済モデルなどによって表される。あるいは、傾き最大位置及び傾きの分散又は標準偏差から、境界の位置を算出するための計算式や表、学習済モデルなどによって表されるものであってもよい。
境界位置判定部66は、関係記憶部65が記憶した関係を使って、算出した指標値と、傾き最大位置判定部64が算出した傾き最大位置とから、境界の位置を判定する。
これにより、境界の位置を更に正確に判定することができる。
【0032】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例である。本発明は、これに限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によって定義される範囲から逸脱することなく様々に修正し、変更し、追加し、又は除去したものを含む。これは、以上の説明から当業者に容易に理解することができる。
【符号の説明】
【0033】
10 気体濃度測定システム、12 撮像部、13 画像修正部、14 種類取得部、15 重み付け取得部、16 境界算出部、17 濃度算出部、61 平均算出部、62 評価値算出部、63 傾き算出部、64 傾き最大位置判定部、65 関係記憶部、66 境界位置判定部。