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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156127
(43)【公開日】2023-10-24
(54)【発明の名称】燃料噴射装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 61/18 20060101AFI20231017BHJP
【FI】
F02M61/18 310C
F02M61/18 340C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065808
(22)【出願日】2022-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ルビィ プラスティヤ
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 真士
(72)【発明者】
【氏名】三宅 威生
【テーマコード(参考)】
3G066
【Fターム(参考)】
3G066AA02
3G066AD12
3G066BA03
3G066BA24
3G066CC24
3G066CC37
3G066CC43
3G066CE22
(57)【要約】
【課題】噴霧される燃料がピストンやシリンダの壁面に付着することを抑制し、燃焼の安定性を向上させた燃料噴射装置を提供する。
【解決手段】内燃機関のシリンダの内部に燃料を直接噴射する燃料噴射装置1であって、ノズル本体10と、弁体シート形成部材X1と、噴射孔形成部材12と、を備え、弁体シート形成部材X1の底部124には、燃料通路孔X3が設けられ、噴射孔形成部材12は、燃料流路溝X4と、旋回室X5と、噴射孔X2と、を有し、噴射孔X2は、オリフィス孔X2aと、オリフィス孔X2aよりも直径が大きいザグリ穴X2b(大径凹部)と、を含み、オリフィス孔X2aは、旋回室X5と大径凹部X2bとの間に配置され、旋回室X5、オリフィス孔及び大径凹部X2bは、燃料が旋回室X5で旋回流となり旋回流を維持した状態でオリフィス孔X2a及び大径凹部X2bを通過しシリンダの内部に噴射されるように構成されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のシリンダの内部に燃料を直接噴射する燃料噴射装置であって、
ノズル本体と、
弁体シート形成部材と、
噴射孔形成部材と、を備え、
前記弁体シート形成部材の底部には、燃料通路孔が設けられ、
前記噴射孔形成部材は、燃料流路溝と、旋回室と、噴射孔と、を有し、
前記噴射孔は、オリフィス孔と、前記オリフィス孔よりも直径が大きい大径凹部と、を含み、
前記オリフィス孔は、前記旋回室と前記大径凹部との間に配置され、
前記旋回室、前記オリフィス孔及び前記大径凹部は、前記燃料が前記旋回室で旋回流となり前記旋回流を維持した状態で前記オリフィス孔及び前記大径凹部を通過し前記シリンダの前記内部に噴射されるように構成されている、燃料噴射装置。
【請求項2】
前記噴射孔形成部材は、前記弁体シート形成部材の先端部を覆う側壁部を有する、請求項1記載の燃料噴射装置。
【請求項3】
前記噴射孔形成部材の前記側壁部は、前記ノズル本体と前記底部との間に配置され、
前記ノズル本体の先端部と前記噴射孔形成部材の先端部とが溶接により固定されている、請求項2記載の燃料噴射装置。
【請求項4】
前記旋回室及び燃料流路溝の高さは、前記オリフィス孔の直径の5倍以下である、請求項1記載の燃料噴射装置。
【請求項5】
前記噴射孔形成部材には、前記燃料流路溝、前記旋回室及び前記噴射孔の組が複数設けられている、請求項1記載の燃料噴射装置。
【請求項6】
前記燃料流路溝には、前記燃料通路孔を通過した前記燃料が流入するように構成されている、請求項1記載の燃料噴射装置。
【請求項7】
弁体を更に備え、
前記燃料通路孔は、前記弁体の移動により開閉する構成を有する、請求項1記載の燃料噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関に設けられた燃料噴射装置としては、内燃機関のシリンダ内に燃料を直接噴射する筒内噴射型のものが用いられている。
【0003】
特許文献1には、内燃機関の燃焼室に燃料を直接噴射する燃料噴射装置であって、燃料の噴射と停止を行うために開閉可能な弁体と、該弁体と密着して燃料の噴射の停止を行うことが可能なシート部と、弁体とシート部の下流に配置され、燃料を噴射する複数の燃料噴射孔を有するオリフィスプレートを備え、オリフィスプレートは、燃料を噴射する燃料噴射孔と、燃料を旋回させる旋回室と、旋回室に燃料を導入する燃料流入通路を有するものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-280981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
排気ガス規制の強化に伴い、未燃焼粒子(Particulate Matter:PM)の総量とその個数である未燃焼粒子数(Particulate Number:PN)を低減することが求められている。
【0006】
PMは、内燃機関のインジェクタから噴射された燃料が気筒内のピストンやシリンダ壁面に付着することで発生する。そのため、燃料噴射装置から噴射される噴霧の長さ(噴霧ペネトレーション)は、燃焼におけるPM排出量へ影響を及ぼす。
【0007】
また、内燃機関におけるシリンダ内に燃料を直接噴射する直噴用燃料噴射装置の作動圧力は、内燃機関の吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射用燃料噴射装置の動作圧力よりもはるかに高い。そのため、特許文献1に記載の燃料噴射装置においては、旋回室を設けたオリフィスプレートが高い動作圧力に耐えられないおそれがある点で改善の余地がある。
【0008】
本開示の目的は、噴霧される燃料がピストンやシリンダの壁面に付着することを抑制し、燃焼の安定性を向上させた燃料噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の燃料噴射装置は、内燃機関のシリンダの内部に燃料を直接噴射するものであって、ノズル本体と、弁体シート形成部材と、噴射孔形成部材と、を備え、弁体シート形成部材の底部には、燃料通路孔が設けられ、噴射孔形成部材は、燃料流路溝と、旋回室と、噴射孔と、を有し、噴射孔は、オリフィス孔と、オリフィス孔よりも直径が大きい大径凹部と、を含み、オリフィス孔は、旋回室と大径凹部との間に配置され、旋回室、オリフィス孔及び大径凹部は、燃料が旋回室で旋回流となり旋回流を維持した状態でオリフィス孔及び大径凹部を通過しシリンダの内部に噴射されるように構成されている。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、噴霧される燃料がピストンやシリンダの壁面に付着することを抑制し、燃焼の安定性を向上させた燃料噴射装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る燃料噴射装置を示す断面図である。
図2図1の燃料噴射装置1を備えた内燃機関を示す部分断面図
図3図1の燃料噴射装置1の先端部を示す拡大断面図である。
図4図3の噴射孔形成部材12を示す下面図である。
図5図3の噴射孔形成部材12を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示に係る実施形態について、図1図5を参照して説明する。なお、各図において共通の部材には、同一の符号を付している。
【0013】
1.実施形態
1-1.燃料噴射装置の構成
実施形態に係る燃料噴射装置は、吸気行程、圧縮行程、燃焼行程(膨張行程)及び排気行程の4行程を繰り返す4サイクルエンジン(内燃機関)に用いられるものである。また、燃料噴射装置は、各気筒のシリンダの中に燃料を噴射する筒内噴射型の内燃機関に適用されるものである。
【0014】
図1は、実施形態に係る燃料噴射装置を示す断面図である。
【0015】
本図に示すように、燃料噴射装置1は、ノズル本体10と、弁体20と、可動コア30と、固定コア40と、コイル50と、ハウジング70と、接続部80と、フィルタ90と、を備えている。ノズル本体10(図中下部)と固定コア40(図中上部)とが接続されている。そして、これらが接している部分は、ハウジング70で覆われている。固定コア40の外側は、大部分が接続部80で覆われている。可動コア30は、ノズル本体10と固定コア40との間に挟み込まれている。弁体20は、ノズル本体10、可動コア30及び固定コア40の連通した中空部に挿入されている。
【0016】
弁体シート形成部材X1は、ノズル本体10の第1内部空間130の内壁面に圧入される筒部122と、筒部122の軸線方向Daの先端部側から連続する底部124と、を有している。
【0017】
以下、各部の詳細について更に説明する。
【0018】
[ノズル本体]
図1に示すように、ノズル本体10は、中空の筒状に形成されている。ノズル本体10の中心軸線AX1に沿う軸線方向Da(以下、単に「軸線方向Da」という。)の一端部である先端部(図中下端部)には、第1内部空間130が形成されている。また、ノズル本体10の軸線方向Daの他端部である後端部(図中上端部)には、先端部よりも外径が大きい大径部14が形成されている。この大径部14には、第2内部空間140が形成されている。第1内部空間130と第2内部空間140とは、ノズル本体10の軸線方向Daに沿って形成された連通孔16によって連通している。
【0019】
第1内部空間130は、ノズル本体10の先端部から軸線方向Daの内側に向けて凹んだ凹部である。第1内部空間130には、弁体シート形成部材X1及び噴射孔形成部材12が挿入又は圧入により取り付けられている。弁体シート形成部材X1は、ノズル本体10の凹部に圧入され、噴射孔形成部材12によりノズル本体10に固定されている。また、噴射孔形成部材12は、ノズル本体10における先端部の開口部の内周縁において全周に亘って溶接されることで、ノズル本体10に固定されている。噴射孔形成部材12には、燃料を噴射する複数の噴射孔X2が形成されている。なお、噴射孔形成部材12及び噴射孔X2の詳細な構成については、後述する。
【0020】
また、ノズル本体10における先端部側の外周面には、溝131が形成されている。溝131は、ノズル本体10の外周面の周方向に沿って連続して形成されている。溝131には、シール部材15がはめ込まれている。シール部材15は、燃料噴射装置1が内燃機関のシリンダ301(図2参照)に取り付けられた際に、シリンダ301と燃料噴射装置1との隙間を密閉する。
【0021】
第2内部空間140は、大径部14の後端側が開口し、軸線方向Daの先端側に向けて凹んだ有底の凹部である。第2内部空間140には、可動コア30と、固定コア40の一部が配置されている。第2内部空間140における底部の中央部には、第2内部空間140と同心円状に形成されたばね収容部141とが形成されている。ばね収容部141は、第2内部空間140の底部から先端部に向けて円筒状に凹んだ凹部である。ばね収容部141には、第2ばね63の一端部が収容される。
【0022】
[弁体]
ノズル本体10の内部には、弁体20が軸線方向Daに沿って移動可能に配置されている。弁体20は、円柱状に形成されている。弁体20は、後端部21と、先端部23と、後端部21と先端部23との間に位置する中間部22と、を有している。先端部23は、弁体20の弁体シート形成部材X1側に配置されている。後端部21は、弁体20の軸線方向Daの固定コア40側に配置されている。
【0023】
先端部23は、弁体シート形成部材X1に収容されている。先端部23は、弁体20が軸線方向Daに沿って移動することで、弁体シート形成部材X1の底部124に設けられた燃料通路孔X3を開閉する。なお、先端部23の詳細な構成については、後述する。
【0024】
中間部22は、ノズル本体10の連通孔16に配置されている。中間部22の外周面221と連通孔16の内周面との間には、間隙G1が形成されている。
【0025】
後端部21は、ノズル本体10における第2内部空間140に配置されている。後端部21は、外径が中間部22よりも大きい略円柱状に形成されている。後端部21は、固定コア40の筒孔内に挿入されている。後端部21には、後端側摺動部211と、複数の流路形成部212と、係合部213と、が設けられている。
【0026】
後端側摺動部211は、後端部21の外周面である。後端側摺動部211は、固定コア40の内周面41に摺動可能に支持されている。これにより、弁体20は、固定コア40により軸線方向Daに沿って移動可能に支持されている。
【0027】
複数の流路形成部212は、後端部21の外周面を軸線方向Daに沿って複数切り欠くことで形成されている。そして、流路形成部212は、固定コア40の内周面41との間に燃料が通過する流路FCを形成している。
【0028】
係合部213は、後端部21に設けた流路形成部212よりも軸線方向Daの先端部側に設けられている。そして、係合部213は、後端部21の外周面から径方向の外側に向けて張り出している。係合部213は、弁体20の開閉動作時に可動コア30と係合する。
【0029】
また、後端部21の端面には、第1ばね61の一端部が当接されている。弁体20は、第1ばね61により軸線方向Daの先端部側(閉弁側)に向けて付勢されている。
【0030】
上述した構成を有する弁体20は、SUS等の金属材料等で形成されている。
【0031】
[可動コア]
次に、可動コア30について説明する。
【0032】
可動コア30は、ノズル本体10の第2内部空間140において、弁体20の後端部21と第2内部空間140の底部との間に配置されている。また、可動コア30の外周面と第2内部空間140の内周面との間には、微小な間隙G3が形成されている。そのため、可動コア30は、第2内部空間140内において軸線方向Daに沿って移動可能に配置されている。
【0033】
可動コア30は、円筒状に形成されている。可動コア30には、挿通孔31及び偏心貫通孔32が形成されている。挿通孔31及び偏心貫通孔32は、可動コア30における軸線方向Daの一端部から他端部にかけて貫通する貫通孔である。
【0034】
挿通孔31は、可動コア30の中心軸を中心軸とする円柱形状の貫通孔である。そして、挿通孔31には、弁体20の中間部22が挿通している。
【0035】
一方、偏心貫通孔32は、可動コア30の中心軸から偏心した位置に形成されている。偏心貫通孔32は、流路形成部212と固定コア40の内周面41とによって形成された流路FCに連通している。そして、偏心貫通孔32は、燃料が通過する流路FCを構成している。
【0036】
可動コア30の先端部側の端面には、第2ばね63の他端部が当接している。第2ばね63は、可動コア30とノズル本体10のばね収容部141との間に配置されている。また、可動コア30の後端部側の端面には、固定コア40が当接している。
【0037】
[固定コア]
固定コア40は、可動コア30を磁力によって引き付ける部材である。固定コア40は、外周面に凹凸を有する略円筒状に形成されている。固定コア40の先端部側は、ノズル本体10の大径部14の内側、すなわち第2内部空間140内に圧入されている。そして、ノズル本体10と固定コア40とは、溶接により接合されている。
【0038】
また、固定コア40の先端部側は、第2内部空間140に配置された可動コア30の後端部側の端面と対向する。固定コア40の先端部側は、硬質クロムめっきや無電解ニッケルめっき等のめっきによって被覆することが望ましい。これにより、可動コア30が衝突する固定コア40の先端部の耐久性及び信頼性を向上させることができる。
【0039】
同様に、可動コア30の後端部側も、硬質クロムめっきや無電解ニッケルめっき等のめっきによって被覆することが望ましい。これにより、可動コア30として比較的軟らかい軟磁性ステンレス鋼を適用した場合でも、可動コア30の耐久性及び信頼性を確保することができる。
【0040】
なお、固定コア40の先端部側の反対側(図中上部。以下「後端部側」という。)は、ノズル本体10の第2内部空間140から先端部側の反対方向(図中上方。以下「後端部方向」という。)に突出している。
【0041】
固定コア40には、貫通孔42が形成されている。貫通孔42は、中心軸線AX1を中心軸とする円柱形状である。そして、貫通孔42は、燃料が通過する流路FCを構成している。また、固定コア40の後端部には、貫通孔42に連通する開口部43が形成されている。この開口部43から貫通孔42に向けて燃料が導入される。また、開口部43から貫通孔42に向かってフィルタ90が挿入されている。
【0042】
さらに、貫通孔42の先端部側には、第1ばね61及び調整部材62が配置されている。第1ばね61は、調整部材62よりも貫通孔42の先端部側に配置されている。調整部材62は、貫通孔42に圧入され、固定コア40の内部に固定されている。また、貫通孔42の先端部側には、弁体20の後端部21が挿入されている。第1ばね61は、調整部材62と弁体20の後端部21との間に配置されている。そして、第1ばね61は、弁体20を弁体シート形成部材X1の底部124に向けて軸線方向Daに付勢している。
【0043】
また、調整部材62における固定コア40に対する固定位置を調整することで、第1ばね61による弁体20の付勢力を調整することができる。これにより、弁体20の先端部23から底部124にかかる付勢力を調整することができる。
【0044】
ここで、第1ばね61により弁体20に加わる付勢力は、第2ばね63から可動コア30に加わる付勢力よりも大きく設定されている。
【0045】
[コイル]
次に、コイル50について説明する。
【0046】
コイル50は、円筒状のコイルボビン51に巻回されている。そして、コイル50及びコイルボビン51は、ノズル本体10の大径部14の外周面及び固定コア40の先端部の外周面を部分的に覆うようにして配置されている。コイル50の巻き始め及び巻き終わりの端部は、不図示の配線を介して接続部80のコネクタ81に設けられた電力供給用の端子811に接続されている。コイル50及びコイルボビン51の外周部は、ハウジング70に覆われている。
【0047】
[ハウジング]
ハウジング70は、有底の円筒状に形成されている。ハウジング70の底部には、貫通孔71が形成されている。貫通孔71は、底部の中央部に形成されている。この貫通孔71には、ノズル本体10の大径部14が挿入されている。そして、貫通孔71の開口縁とノズル本体10の外周面との間は、例えば、全周にわたって溶接されている。このようにして、ノズル本体10は、ハウジング70に固定されている。
【0048】
また、ハウジング70は、固定コア40の先端部側、コイルボビン51及びコイル50の外周部を囲むようにして配置されている。そして、ハウジング70の内周面は、ノズル本体10の大径部14及びコイル50と対向し、外周ヨーク部を形成する。このように、コイル50の周りには、固定コア40、可動コア30、ノズル本体10及びハウジング70を含むトロダイル状の磁気通路が形成されている。
【0049】
[接続部]
接続部80は、樹脂により形成されている。そして、接続部80を構成する樹脂は、固定コア40、コイル50、コイルボビン51及びハウジング70との間に充填されている。また、接続部80は、ハウジング70よりも軸線方向Daの後端側において、固定コア40の後端部を除く外周面を覆っている。そして、接続部80は、電力供給用の端子811を有するコネクタ81を形成するようにモールド成形されている。端子811は、不図示のプラグの接続端子に接続される。これにより、燃料噴射装置1は、高電圧電源又はバッテリ電源に接続される。そして、不図示のエンジンコントロールユニット(ECU)によってコイル50に対する通電が制御される。
【0050】
1-2.燃料噴射装置の動作
次に、上述した構成を有する燃料噴射装置の動作について、図1及び図2を参照して説明する。
【0051】
図2は、図1の燃料噴射装置1を備えた内燃機関を示す部分断面図である。
【0052】
本図においては、内燃機関は、シリンダ301と、これに挿入されたピストン302と、を有する。シリンダ301の内部には、シリンダ301の内壁面とピストン302とで囲まれた燃焼室310が形成されている。シリンダ301の上部には、点火プラグ300が取り付けられている。また、シリンダ301の上部には、それぞれ弁を有する吸気管及び排気管が接続されている。
【0053】
燃料噴射装置1は、シリンダ301の側壁の吸気管の近傍に設置されている。そして、燃料噴射装置1のノズル本体10(図1)の先端部は、燃焼室310内に配置され、点火プラグ300の先端部近傍の点火領域300aに燃料が噴射されるように設置されている。
【0054】
燃料噴射装置1から燃焼室310内に噴射される噴霧F1は、噴射軸Faを中心軸として点火プラグ300による点火領域300aに到達する。
【0055】
上述したように、第1ばね61の付勢力は、第2ばね63の付勢力よりも大きく設定されている。そのため、コイル50が通電されていない状態では、弁体20の先端部23は、後述する弁体シート形成部材X1の弁座124a(図3参照)に押し付けられる。その結果、燃料通路孔X3及び噴射孔X2に至る流路FCは、弁体20に閉じられて閉弁状態となる。
【0056】
次に、ECUによってコイル50に通電されると、固定コア40、可動コア30、ノズル本体10及びハウジング70を含む磁気回路に磁束が流れる。そして、固定コア40には、可動コア30を吸引する磁気吸引力が発生する。固定コア40の磁気吸引力が、第1ばね61の付勢力、すなわち設定荷重を超えると、可動コア30は、固定コア40へ向けて移動する。可動コア30は、固定コア40と対向する端面、すなわち後端側端面が固定コア40の先端側端面に衝突するまで移動する。
【0057】
可動コア30が移動する際に、弁体20の後端部21に設けた係合部213と可動コア30が係合する。そのため、弁体20は、可動コア30と共に固定コア40に向けて軸線方向Daに沿って後端側に向けて移動する。
【0058】
弁体20が固定コア40へ向けて移動することで、弁体20の先端部23が弁体シート形成部材X1から離反する。そのため、燃料通路孔X3から燃料流路溝X4を介して噴射孔X2に至るまでの流路FCが開通し、噴射孔X2が開いた開弁状態となる。
【0059】
弁体20が開弁位置(開弁状態)にあるとき、フィルタ90を介して、燃料が固定コア40の開口部43に導入される。そして、燃料は、固定コア40の貫通孔42を通ってノズル本体10に向けて流れる。また、燃料は、貫通孔42に配置された調整部材62及び第1ばね61を通過し、弁体20の流路形成部212と固定コア40の内周面41との間に形成された流路FCを流れる。そして、燃料は、可動コア30の偏心貫通孔32を介して、ノズル本体10の第2内部空間140に流入する。
【0060】
第2内部空間140に流入した燃料は、弁体20とノズル本体10の連通孔16との間に形成された間隙G1を通過し、ノズル本体10の第1内部空間130に流れる。そして、燃料は、弁体20の先端部23と弁体シート形成部材X1との間に形成された流路FCを流れて、燃料通路孔X3及び噴射孔X2を介して燃焼室310内へ噴射される。
【0061】
また、ECUによってコイル50の通電が中断されると、固定コア40、可動コア30、ノズル本体10及びハウジング70を含む磁気回路を流れる磁束が消滅する。そして、可動コア30を吸引する固定コア40の磁気吸引力も消滅する。そのため、第1ばね61における弁体20をノズル本体10の噴射孔形成部材12に向けて付勢する弾性力が、第2ばね63における可動コア30を固定コア40に向けて付勢する弾性力よりも大きい初期状態に戻る。
【0062】
これにより、弁体20は、第1ばね61によってノズル本体10の弁体シート形成部材X1に向けて付勢されて、軸線方向Daに沿って先端部へ移動する。また、弁体20の係合部213と係合する可動コア30は、弁体20と共に軸線方向Daに沿って先端側に向けて移動する。これにより、弁体20の先端部23が弁体シート形成部材X1の弁座124aに押し付けられ、噴射孔X2に至る流路FCは、弁体20に閉じられて閉弁状態となる。その結果、燃料噴射装置1による燃料の噴射が停止される。
【0063】
2.噴射孔、噴射孔形成部材、及び弁体の先端部の詳細な構成
次に、噴射孔X2、弁体シート形成部材X1、噴射孔形成部材12及び弁体20の先端部23の詳細な構成について図1図3図4及び図5を参照して説明する。
【0064】
図3は、図1の燃料噴射装置1の先端部を示す拡大断面図である。
【0065】
図3に示すように、筒部122の内周面121には、弁体20の先端部23に設けた先端側摺動部231が摺動する。また、筒部122には、複数の切り欠き部123が形成されている。複数の切り欠き部123は、筒部122の内周面121の周方向に等間隔に形成されている。そして、切り欠き部123と先端側摺動部231との間には、燃料が通過する流路FCが形成される。そして、流路FCは、底部124の弁座124aに達している。
【0066】
底部124は、筒部122における軸線方向Daの先端部側の開口を塞ぐようにして筒部122に連続して形成されている。底部124は、軸線方向Daの先端側に向けて突出する略半球状の凹部である。底部124における内部には、弁体20の球面部230が接触及び離反する弁座124aが形成されている。弁座124aは、軸線方向Daの先端部側に向かうに従い縮径する円錐台形状に形成されている。
【0067】
また、底部124における軸線方向Daの先端部には、燃料通路孔X3が形成されている。燃料通路孔X3は、弁座124aにおける軸線方向Daの先端部に形成され、弁体シート形成部材X1及び噴射孔形成部材12の接触面X6までに至る孔である。また、燃料通路孔X3は、燃料噴射装置1の中心軸線AX1上に形成されている。この燃料通路孔X3には、弁体20における球面部230の凸部233の少なくとも一部が挿入される。
【0068】
弁体20の先端部23は、球面部230と、先端側摺動部231と、を有している。先端側摺動部231は、弁体シート形成部材X1における筒部122の内周面121を摺動する。先端側摺動部231よりも軸線方向Daの先端部側には、球面部230が連続して形成されている。
【0069】
球面部230は、略半球状に形成されている。球面部230は、弁体側弁座232と、凸部233と、を有している。弁体側弁座232は、底部124の弁座124aに対向し、弁座124aに対して接近及び離反する。
【0070】
そして、燃料噴射装置1には、弁体側弁座232が弁座124aに接触した際に、噴射孔X2に至る流路FCが閉じられる。なお、弁体側弁座232と弁座124aとが接触した際に、凸部233の一部は、燃料通路孔X3に挿入に挿入される。また、弁体側弁座232が弁座124aから離反すると、弁体側弁座232と弁座124aとの間に、燃料が通過する流路FCが形成され、燃料が燃料流路溝X4に流れ、噴射孔X2からシリンダ内に燃料が直接噴射される。
【0071】
なお、噴射孔X2から噴射される噴霧F1(図1)の長さは、燃焼におけるPM排出量へ影響を及ぼす。噴霧F1の長さが長すぎる場合、シリンダ301の内壁面に付着する燃料が増加するおそれがある。シリンダ301の内壁面に付着した燃料は、不完全燃焼となる可能性が高く、PM排出量が増加する原因となり得る。そのため、噴霧F1の長さを抑制し、シリンダ301の内壁面に達しないようにすることにより、燃焼におけるPM排出量を低減することができる。
【0072】
弁体シート形成部材X1の下流側には、噴射孔形成部材12が弁体シート形成部材X1と接触するように配置されている。噴射孔形成部材12には、燃料流路溝X4、旋回室X5及び噴射孔X2が形成されている。
【0073】
図4は、図3の噴射孔形成部材12を示す下面図である。
【0074】
図4においては、噴射孔形成部材12の底面部X7には、噴射孔X2が設けられている。噴射孔X2は、噴霧を形成するオリフィス孔X2aと、ザグリ穴X2b(大径凹部)と、が連通した二段構造を有する。
【0075】
図5は、図3の噴射孔形成部材12を示す上面図である。
【0076】
図5に示すように、噴射孔形成部材12の接触面X6には、燃料流路溝X4、旋回室X5及び噴射孔X2が形成されている。燃料流路溝X4、旋回室X5及び噴射孔X2は、弁体シート形成部材X1(図3)が天井部分を構成する形で流路FCとなる。これにより、燃料は、流路FCとして燃料通路孔X3、燃料流路溝X4及び旋回室X5を通過し、噴射孔X2に至るようになっている。
【0077】
なお、図3において一点鎖線で示す噴射軸Faは、噴射孔X2において燃料を噴射する方向を表している。噴射軸Faは、噴射孔形成部材12の接触面X6及び底面部X7に対して垂直の方向となっている。
【0078】
燃料の流れは、旋回室X5の壁に制約されるため、噴射孔X2が水抜き穴構造になり、流れ込めない燃料は、噴射軸Faを中心に旋回室X5の中に旋回し、渦を形成する。言い換えると、燃料流路溝X4から旋回室X5に流入した燃料は、流れの向きが変えられる。噴射孔X2に流れ込める流量が限られているため、噴射孔X2に流れ込む過程で旋回流となる。
【0079】
図5に示すように、旋回室X5の形状及び噴射孔X2の入り口の位置の調整により、渦の巻き具合及び旋回方向を調整することができる。なお、渦の発生により、噴射軸Faに対して横流入運動量(流れの回転方向の運動量)が大きくなる。そして、角運動量保存の法則により、噴射孔X2から噴射される噴霧F1(図2)に作用する遠心力が大きくなる。その結果、噴射孔X2内に流れてくる燃料の旋回速度が上がり、軸方向の速度が下がる。そのため、噴射孔X2から噴射される噴霧F1の噴射軸方向の長さを抑制することができ、シリンダ内に付着する燃料を低減することができる。
【0080】
図3に示すように、オリフィス孔X2aは、旋回室X5の底面からザグリ穴X2bに連通する流路である。
【0081】
図4に示すように、ザグリ穴X2bは、底面部X7に設けられた凹部であり、オリフィス孔X2aを囲むようにして形成されている。オリフィス孔X2aから流出した燃料は、ザグリ穴X2bを通って旋回しながら噴射されるようになっている。
【0082】
なお、上述した渦の発生が噴射孔X2から噴射される噴霧F1に及ぼす影響は、主にオリフィス孔X2aの入り口に流れ込む燃料の横方向の運動量に影響される。また、上述したように、横方向の運動量は、燃料流路溝X4から旋回室X5への流入の量、及び旋回室X5の壁の制約に影響される。燃料流路溝X4及び旋回室X5の体積が大きすぎると、非対称流入が発生しにくくなり、旋回室X5において渦が生じない場合がある。燃料流路溝X4及び旋回室X5の噴射軸Fa方向の高さを、オリフィス孔X2aの入り口の直径に対して、約5倍以下に維持すると、燃料流路溝X4及び旋回室X5の体積を低減することができ、横運動量、すなわち、渦発生が噴射孔X2から噴射される噴霧F1に及ぼす影響は保つことができる。なお。本図においては1倍、すなわち、燃料流路溝X4及び旋回室X5の当該高さは、オリフィス孔X2aの入り口の直径と等しい。
【0083】
また、噴射孔X2から噴射される噴霧F1に作用する遠心力は、オリフィス孔X2aの噴射軸Fa方向の長さに影響される。オリフィス孔X2aの入り口に横方向の運動量が大きくても、オリフィス孔X2aの噴射軸Fa方向の長さが長すぎると、燃料の流れは、オリフィス孔X2aの出口に到達する前に、横方向の運動量が減少してしまう可能性がある。すなわち、オリフィス孔X2aが長すぎると、噴射孔X2から噴射される噴霧F1に作用する遠心力が下がり、噴霧の長さは、噴射軸Fa方向に長くなるおそれがある。
【0084】
ただし、噴射孔形成部材12が高圧噴射に耐えられるようにするため、十分な噴射軸Fa方向の肉厚は必要である。より詳細には、噴射孔形成部材12の接触面X6と底面部X7との間の距離だけでなく、旋回室X5の底面とザグリ穴X2bとの間の距離が、高圧噴射で耐えられる噴射軸Fa方向の肉厚を有することが必要である。オリフィス孔X2aの長さは、ザグリ穴X2bの深さよりも短くすることが望ましい。
【0085】
図4においては、燃料流路溝X4が4つ設けられている。ただし、燃料流路溝X4の数は、これに限定されるものではなく、2つ、3つ、5つ又は6つであってもよい。
【0086】
旋回室X5及び噴射孔X2が燃料流路溝X4と同数で形成されている場合、流量の方程式により、噴射孔X2に流れ込む燃料の量を減少させることができる。これにより、噴射孔X2から噴射される噴霧F1の噴射軸Fa方向の長さが長くなることを抑制でき、シリンダ内に付着する燃料を低減できる。
【0087】
また、上述した非対称流入の流れが実現できるために、燃料通路孔X3から噴射孔X2に至る流路FCが形成される構造、すなわち噴射孔形成部材12に形成される燃料流路溝X4及び旋回室X5、並びに噴射孔形成部材12の接触面X6が燃料噴射装置1の組み立て作業中に変形しないようにしなければならない。このため、噴射孔形成部材12は、図3に示す溶接部X8で溶接して、ノズル本体10に固定することが望ましい。溶接部X8と接触面X6との距離を十分なものとし、溶接作業中における加熱による変形を防止するためである。ザグリ穴X2bを設ける利点として、当該距離を大きくすることが可能であることもある。
【0088】
噴射孔形成部材12には、弁体シート形成部材X1の側壁面を覆う側壁部X9を設けることが望ましい。これにより、シート形成部材X1の先端部側が噴射孔形成部材12の側壁部X9に食い込むようにすることができる。これにより、溶接作業中に噴射孔形成部材12が動くことを防止し、弁体シート形成部材X1と噴射孔形成部材12の接触面X6との間に隙間が発生することを防止することができる。
【0089】
以下、本開示に係る望ましい実施形態について、まとめて説明する。
【0090】
噴射孔形成部材は、弁体シート形成部材の先端部を覆う側壁部を有する。
【0091】
噴射孔形成部材の側壁部は、ノズル本体と底部との間に配置され、ノズル本体の先端部と噴射孔形成部材の先端部とが溶接により固定されている。
【0092】
旋回室及び燃料流路溝の高さは、オリフィス孔の直径の5倍以下である。
【0093】
噴射孔形成部材には、燃料流路溝、旋回室及び噴射孔の組が複数設けられている。
【0094】
燃料流路溝には、燃料通路孔を通過した燃料が流入するように構成されている。
【0095】
弁体を更に備え、燃料通路孔は、弁体の移動により開閉する構成を有する。
【0096】
なお、本開示の内容は、上述しかつ図面に示す実施の形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0097】
なお、本明細書において、方向に関する記載をしているが、これらの記載は、厳密にその方向のみを意味するものではなく、その機能を発揮し得る範囲にある方向を許容する。
【符号の説明】
【0098】
1:燃料噴射装置、10:ノズル本体、12:噴射孔形成部材、X1:弁体シート形成部、X2:噴射孔、X2a:オリフィス孔、X2b:ザグリ孔、X3:燃料通路孔、X4:燃料流路溝、X5:旋回室、X6:接触面、X7:底面部、X8:溶接部、X9:側壁部、20:弁体、23:先端部、30:可動コア、40:固定コア、50:コイル、70:ハウジング、80:接続部、120:外周面、121:内周面、122:筒部、123:切り欠き部、124:底部、124a:弁座、230:球面部、231:先端側摺動部、232:弁体側弁座、233:凸部、300:点火プラグ、300a:点火領域、301:シリンダ、302:ピストン、310:燃焼室、AX1:中心軸線、Da:軸線方向、F1:噴霧、Fa:噴射軸。
図1
図2
図3
図4
図5