(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156128
(43)【公開日】2023-10-24
(54)【発明の名称】畜舎又は家禽舎の空気換気システム、及び、換気度合いの判定方法
(51)【国際特許分類】
A01K 1/00 20060101AFI20231017BHJP
A01K 31/00 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
A01K1/00 F
A01K31/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065810
(22)【出願日】2022-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】522044250
【氏名又は名称】株式会社エヌ・ビー・エル
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】南部 邦男
【テーマコード(参考)】
2B101
【Fターム(参考)】
2B101AA04
2B101AA08
2B101BB04
2B101BB05
(57)【要約】
【課題】畜舎又は家禽舎内を家禽や家畜の生存環境に維持しつつ、畜舎又は家禽舎内に生じる空気淀みや旋回流等が長期間特定の場所に滞留することを防止した換気制御を行う。
【解決手段】畜舎又は家禽舎の空気換気システム100であって、畜舎又は家禽舎に設けられた換気設備2と、換気設備2を制御する換気設備制御部3と、畜舎又は家禽舎に設けられた空気質センサSと、換気設備制御部3による制御内容及び空気質センサSのセンサ信号に基づいて畜舎又は家禽舎の換気度合いを判定する換気判定部4とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
畜舎又は家禽舎の空気換気システムであって、
前記畜舎又は前記家禽舎に設けられた換気設備と、
前記換気設備を制御する換気設備制御部と、
前記畜舎又は前記家禽舎に設けられた空気質センサと、
前記換気設備制御部による制御内容及び前記空気質センサのセンサ信号に基づいて前記畜舎又は前記家禽舎の換気度合いを判定する換気判定部とを備える、畜舎又は家禽舎の空気換気システム。
【請求項2】
前記換気判定部により判定された換気度合いに基づいて、前記換気設備制御部に制御内容の変更指令を出力する変更指令出力部をさらに備える、請求項1に記載の畜舎又は家禽舎の空気換気システム。
【請求項3】
前記換気判定部は、前記換気設備制御部による制御内容の変化タイミングの前後における前記空気質センサのセンサ信号の変化態様に基づいて、前記畜舎又は前記家禽舎の換気度合いを判定する、請求項1又は2に記載の畜舎又は家禽舎の空気換気システム。
【請求項4】
前記空気質センサは、温度センサ又はCO2センサである、請求項1又は2に記載の畜舎又は家禽舎の空気換気システム。
【請求項5】
前記換気設備は、換気ファン、換気口の開閉装置、又は換気口の開度調整装置の少なくとも1つである、請求項1又は2に記載の畜舎又は家禽舎の空気換気システム。
【請求項6】
前記変更指令出力部は、機械学習モデルを用いて前記換気設備制御部の新しい制御内容を生成し、その新しい制御内容を含む変更指令を出力する、請求項2に記載の畜舎又は家禽舎の空気換気システム。
【請求項7】
前記畜舎又は前記家禽舎は、採卵鶏用の密閉型鶏舎である、請求項1又は2に記載の畜舎又は家禽舎の空気換気システム。
【請求項8】
換気設備及び空気質センサが設けられた畜舎又は家禽舎の換気度合いの判定方法であって、
前記空気質センサのセンサ信号の時間的な変化に基づいて、前記畜舎又は前記家禽舎の特定の場所の換気度合いを判定する、畜舎又は家禽舎の換気度合いの判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畜舎又は家禽舎の空気換気システム、及び、畜舎又は家禽舎の特定の場所における換気度合いの判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、採卵養鶏、食肉用養鶏や養豚等においては、防疫対策を行うとともに最小限のエネルギーコストで最大の生産効率を上げるべく種々の工夫がなされている。例えば、家禽や家畜を密閉型の畜舎又は家禽舎(以下、畜舎等という。)に収容し、当該畜舎等に設けられた入気口の開度を調節するとともに、換気ファンによって内部空気を排気することが行われている。
【0003】
しかしながら、家禽や家畜はそれ自体が発熱体であり、最小限のエネルギーコスト(大抵の場合は電気代)で畜舎等の内部空気を一様に換気することは極めて困難である。例えば、採卵養鶏においては、ケージを鶏舎内に多層階層構造となるように配置して鶏を飼育しているのが世界の大規模養鶏では通常である。このような鶏舎では、鶏舎内の空気をどの場所も一様に換気することは困難であるし、場合によっては何れかの場所に空気淀みが発生してしまう場合もある。そのため、鶏舎内部の空気を満遍なく換気する方法や技術は様々な出願がなされている(例えば特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-102号公報
【特許文献2】特開2008-148567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、畜舎又は家禽舎の一例として、採卵鶏の密閉型鶏舎(ウインドレス鶏舎)について説明する。
収容されている鶏自体は体温40℃程度の発熱体であり、鶏にとっての快適な環境温度が27℃であることを考えると(27℃を超えると飼料摂取量の減少や個卵重の低下が始まり、47℃が限界体温でありそれを越えると死に至る。)、鶏舎内を一様に換気して、一定の温度や空気質に維持することは極めて困難である。特に夏場は外気温が40℃近くにもなる地域があり、鶏舎内を上記環境に維持することは困難だといえる。また冬場は外気温が氷点下まで低下する地域があり、鶏舎の換気量を少なくすれば鶏の体温により鶏舎内温度を快適環境に維持することはできるものの、鶏舎内を一様に換気することが一層困難になる。すなわち、少ない換気量だと空気淀みが特定の場所に長時間発生する危険が増加する。これは鶏の健康に好ましくなく、著しくは空気中の細菌、ウイルスに起因する感染症に罹患する危険が大きくなる。
【0006】
そこで、本発明は、畜舎又は家禽舎内を家禽や家畜の生存環境に維持しつつ、畜舎又は家禽舎内に生じる空気淀みや旋回流等が長期間特定の場所に滞留することを防止した換気制御を行うことを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明に係る畜舎又は家禽舎の空気換気システムは、前記畜舎又は前記家禽舎に設けられた換気設備と、前記換気設備を制御する換気設備制御部と、前記畜舎又は前記家禽舎に設けられた空気質センサと、前記換気設備制御部による制御内容及び前記空気質センサのセンサ信号に基づいて前記畜舎又は前記家禽舎の換気度合いを判定する換気判定部とを備えることを特徴とする。
【0008】
この畜舎又は家禽舎の空気換気システムであれば、換気設備制御部による制御内容及び空気質センサのセンサ信号に基づいて換気度合いを判定するので、換気設備の換気動作に対する空気淀みや旋回流等が滞留している等の内部の状態がわかり、畜舎又は家禽舎内に生じる空気淀みや旋回流等が長期間特定の場所に滞留することを防止できるようになる。具体的には、換気度合いの判定の結果を、鶏舎内の特定の場所における空気換気を改善するためのフィードバック信号として、換気ファンや入気口等を制御する換気設備制御部等の制御装置に入力し、当該フィードバック信号を利用することにより制御装置はより最適な換気制御をすることが可能である。その結果、畜舎又は家禽舎の内部に生じる空気の淀みや旋回流等の発生場所を変動させたり解消したりすることができ、畜舎又は家禽舎内部の特定の場所にチリ、ホコリや羽毛等が集合しないようにできる。これにより、畜舎又は家禽舎内部の特定の場所に寄生虫やウイルス等の感染症ウイルスが集合することを防止できる。その結果、寄生虫やウイルスが家畜又は家禽に悪影響を及ぼす可能性を減じることができ、家畜又は家禽が感染症ウイルスに感染するリスクを低減できる。
【0009】
ここで、空気質センサは、畜舎又は家禽舎内の温度、湿度、空気中の成分(例えば二酸化炭素(CO2)、酸素(O2)等)の濃度や量、または空気中の塵埃、ダニや羽毛等の量を測定するものである。なお、空気質センサの代わりに、風の状態を計測する風向きセンサ、風速センサや風量センサ等を用いても良い。
【0010】
畜舎又は家禽舎内に生じる空気淀みや旋回流等が長期間同一の場所に滞留することを自動的に防止するためには、前記換気判定部により判定された換気度合いに基づいて、前記換気設備制御部に制御内容の変更指令を出力する変更指令出力部をさらに備えることが望ましい。
【0011】
換気設備の換気動作の変化前後において空気の淀みや旋回流等が解消したか否かの情報をリアルタイムに取得するためには、前記換気判定部は、前記換気設備制御部による制御内容の変化タイミングの前後における前記空気質センサのセンサ信号の変化態様に基づいて、前記畜舎又は前記家禽舎の換気度合いを判定することが望ましい。つまり、換気判定部は、鶏舎内に設置された空気質センサ等のセンサのセンサ信号(測定値)の時間的な変化から、空気質センサ等のセンサの設置場所における空気の換気度合いを判定する。
例えば、炭酸ガス濃度(CO2濃度)が増加すれば換気が悪いことがわかり、換気設備の制御動作の変更の結果、炭酸ガス濃度(CO2濃度)が低下すれば、換気が促進されたことが分かる。また、換気設備の制御動作の変更の結果、温度の低下が鶏など家畜や家禽の生存に不適当になれば換気しすぎ(例えば微分係数から判断)と判断し、新たな制御動作に移行することができる。さらに、炭酸ガス濃度(CO2濃度)等の濃度の上がり方や下がり方、濃度の上がり方や下がり方等のように各種センサのセンサ信号の時間的な変化を利用することで速やかに最適値に到達することが可能である。
【0012】
前記空気質センサの具体例としては、温度センサ又はCO2センサであることが考えられ、前記空気質センサの代わりに、風向きセンサ、風速センサや風量センサ等を用いても良い。これらの空気質センサ、風向きセンサ、風速センサや風量センサ等を畜舎又は家禽舎の複数箇所に設けることによって、畜舎又は家禽舎の複数箇所の換気度合いを判定することができる。
【0013】
前記換気設備は、入気ファンや排気ファン等の換気ファン、入気口や排気口等の換気口の開閉装置、又は入気口や排気口等の換気口の開度調整装置の少なくとも1つであることが望ましい。
【0014】
前記換気判定部により判定された換気度合いに基づいて、空気の淀みや旋回流等を好適に解消するための最適な換気動作を行うためには、前記変更指令出力部は、機械学習モデル(AIモデル)を用いて前記換気設備制御部の新しい制御内容を生成し、その新しい制御内容を含む変更指令を出力することが望ましい。このように、機械学習モデル(AIモデル)を利用することでより効率のよい換気制御動作を追求することが可能となる。
【0015】
前記畜舎又は前記家禽舎は、採卵鶏用の密閉型鶏舎であることが考えられる。この密閉型鶏舎では、鶏を収容する複数のケージからなるケージ列が配置されることから、空気の淀みや旋回流等が滞留しやすいことから、本発明を適用することによる効果が顕著となる。
【0016】
また、本発明に係る畜舎又は家禽舎の換気度合いの判定方法は、換気設備及び空気質センサ、風向きセンサ、風速センサや風量センサ等のセンサが設けられた畜舎又は家禽舎内の特定場所の換気度合いの判定方法であって、前記センサのセンサ信号の時間的な変化に基づいて、前記畜舎又は前記家禽舎内の特定の場所の換気度合いを判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
このように構成した本発明によれば、畜舎又は家禽舎内を家禽や家畜の生存環境に維持しつつ、畜舎又は家禽舎内に生じる空気淀みや旋回流等が長期間特定の場所に滞留することを防止した換気制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る空気換気システムの構成を模式的に示す平面図である。
【
図2】同実施形態の空気換気システムの構成を模式的に示す側面図である。
【
図3】同実施形態の制御装置の制御内容を示す模式図である。
【
図4】同実施形態の通常制御及び空気流変化制御における空気流を示すイメージ図である。
【
図5】同実施形態の換気度合いの判定結果の表示例を示す図である。
【
図6】換気度合いによる制御変更例を示す図である。
【
図7】変形実施形態の空気換気システムの構成を模式的に示す平面図である。
【
図8】変形実施形態の空気換気システムの構成を模式的に示す側面図である。
【
図9】変形実施形態の空気換気システムの構成を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明に係る畜舎又は家禽舎の空気換気システムの一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0020】
本実施形態の空気換気システム100は、採卵鶏用の密閉型鶏舎(ウインドレス鶏舎)と呼ばれる鶏舎10の換気を行うものである。
【0021】
ここで、鶏舎10は、
図1及び
図2に示すように、4つの壁10a~10dに囲まれた概略直方体の建物であり、その内部には、鶏を収容する複数のケージが一方向に沿って配置されたケージ列20が設けられている。
図1では、複数(ここでは3つ)のケージ列20が設けられた例を示している。また、各ケージ列20では、複数のケージが上下方向に積まれた多層構造としても良い。
【0022】
具体的に空気換気システム100は、
図1及び
図2に示すように、鶏舎10に設けられた換気設備2と、換気設備2を制御する換気設備制御部3とを備えている。なお、換気設備制御部3は、制御装置CONTによりその機能が発揮される。ここで、制御装置CONTは、例えばCPU、メモリ、A/D・D/Aコンバータ、入出力手段を具備するいわゆるコンピュータである。
【0023】
換気設備2は、鶏舎10の内部と外部とを仕切る仕切壁(壁10a~10dのいずれか)に設けられた開閉可能な1又は複数の換気口21と、鶏舎10の内部と外部とを仕切る仕切壁(壁10a~10dのいずれか)に設けられた1又は複数の換気ファン22を有している。
【0024】
本実施形態の換気口21は、鶏舎10におけるケージ列20に直交する壁10a、10cの一方(ここでは壁10a)及びケージ列20に沿った壁10b、10dに設けられている。複数の換気口21を設ける場合には、それら換気口21を設ける位置は、適宜設定することができ、例えば、壁10a、10b、10dにおいて上下に配置しても良いし、左右に配置しても良いし、対角線上に配置しても良い。
【0025】
また、本実施形態の換気ファン22は、鶏舎10の内部から外部に空気を排気する排気ファンであり、これにより空気換気システム100は、鶏舎10を陰圧換気するものとなる。換気ファン22は、鶏舎10におけるケージ列20に直交する壁10a、10cの他方(ここでは壁10c)に設けられている。複数の換気ファン22を設ける場合には、それら換気ファン22を設ける位置は、適宜設定することができ、例えば、壁10cにおいて上下に配置しても良いし、左右に配置しても良いし、対角線上に配置しても良い。また、換気ファン22は、鶏舎10におけるケージ列20に沿った壁10b、10dに設けても良い。
【0026】
ここで、排気ファン22を起動することにより、上記の換気口21は、鶏舎10の外部から内部に空気を導入する空気導入口(入気口)として機能することができる。なお、上記換気口21とは別に空気導入口を設けても良い。
【0027】
なお、換気ファン22は、鶏舎10の外部から内部に空気を供給する吸気ファン(入気ファン)であってもよく、この場合には、空気換気システム100は、鶏舎10を陽圧換気するものとなる。ここで、吸気ファン22を起動することにより、上記の換気口21は、鶏舎10の内部から外部に空気を導出する空気導出口(排気口)として機能することができる。なお、上記換気口21とは別に空気導出口を設けても良い。
【0028】
そして、換気設備制御部3は、換気設備2により鶏舎10の内部に形成される空気流が所定時間一定にならないように換気設備2を制御するものである。具体的に換気設備制御部3は、経過時間、鶏舎10内の空気質、鶏舎10内の風の状態(風速や風向等)の少なくとも1つに基づいて、換気設備2の制御を変更して空気流を変化させる。ここで、鶏舎内の空気質は、鶏舎10内の温度や湿度、鶏舎10内の空気に含まれるガス成分(例えば二酸化炭素(CO2)、酸素(O2)等)の濃度や量、または鶏舎10内の空気に含まれる塵埃、ダニや羽毛等である。
【0029】
また、換気設備制御部3は、換気設備2の制御を変更するトリガーとして、以下の(1)~(5)の少なくとも1つ(複数の場合はそれらの組み合わせ(AND条件であっても良いし、OR条件であっても良い。))を用いることができる。
(1)経過時間
(2)鶏舎内の温度、温度の経時変化、変化量または変化率等
この場合、鶏舎10の内部に設けられた温度センサの検出温度を用いる。
(3)鶏舎内の湿度、この湿度の経時変化、変化量または変化率等
この場合、鶏舎10の内部に設けられた湿度センサの検出湿度を用いる。
(4)鶏舎内の空気質(例えばCO2やO2等)の濃度または量、それらの経時変化、変化量または変化率等
この場合、鶏舎10の内部に設けた濃度センサ等のセンサの検出濃度(量)を用いる。
(5)鶏舎内の風速または風向、それらの経時変化、変化量または変化率等
この場合、鶏舎10の内部に設けられた風速計等のセンサの検出風速(風向)を用いる。
【0030】
このように換気設備制御部3は、経過時間に基づいて換気設備2の制御を変更して空気流を変化させる構成としても良いし、鶏舎10内の状態(例えば空気質、風速や風向等)、それらの経時変化又は変化量等に基づいて換気設備2の制御を変更して空気流を変化させる構成としても良い。
【0031】
本実施形態の換気設備制御部3は、鶏舎10の換気に関わる換気設備2の制御が所定時間同一の状態となっている場合、つまり経過時間に基づいて換気設備2の制御を変更して空気流を変化させる構成としている。
【0032】
具体的に換気設備制御部3は、換気口21を開閉する又はその開口面積を変更することにより、又は、換気ファン22の回転速度、稼働させる換気ファン22の台数、稼働させる換気ファン22の組み合わせを変更することにより、鶏舎10の内部に形成される空気流を所定時間経過する毎に変化させる。
【0033】
ここで、換気設備制御部3は、
図3に示すように、鶏舎10内の鶏が生物として求める必要換気量、及び生存に快適である均一な鶏舎内温度となるように制御する通常制御を基本とし、この通常制御の合間に予め定められたタイミングで、鶏舎10の内部に形成される空気流を変化させるべく、通常制御の制御パターンとは異なる制御パターンの空気流変化制御を行う。なお、前記タイミングは、一定周期であっても良いし、鶏舎内温度が所定の閾値を上回った場合又は下回った場合であっても良いし、その他、種々のパラメータ例えばCO
2濃度を用いて定めることができる。
【0034】
空気流変化制御を行う場合には、鶏が生物として求める必要換気量、及び生存に快適である均一な鶏舎内温度に関わらず、通常制御で制御されている換気設備2の状態を強制的に変化させる。この空気流変化制御を継続する時間は、鶏の生存に影響のない程度、又は、その後の通常制御において所望の必要換気量及び所望の鶏舎内温度に戻しやすい程度において、適宜設定することができる。また、各空気流変化制御は、互いに同じ継続時間としても良いし、互いに異なる継続時間としても良い。
【0035】
例えば、通常制御において換気口21が閉塞されている場合には、空気流変化制御において換気口21を開放し、また、通常制御において換気口21が開放されている場合には、空気流変化制御において換気口21を閉塞したり、その開度(開口面積)を変化させたりする。なお、空気流変化制御中において開度を連続的又は段階的に変化させても良い。なお、換気口の開閉は、開閉装置を制御して行い、換気口の開度は、開度調整装置を制御して行う。
【0036】
また、換気ファン22の回転速度、稼働させる換気ファン22の台数、稼働させる換気ファン22の組み合わせを通常制御と空気流変化制御とで変更する。空気流変化制御は、鶏舎10の内部に形成されるチリ、ホコリや羽毛等の集合に対する排除制御である。なお、空気流変化制御中において、換気ファン22の回転速度を連続的又は段階的に変化させても良いし、稼働させる換気ファン22の台数、稼働させる換気ファン22の組み合わせを変更しても良い。
【0037】
図4に通常制御の制御パターンにおける空気流と空気流変化制御の制御パターンにおける空気流との状態を示している。
【0038】
ここで、
図4(a)は、通常制御における空気流の定常状態のイメージ図であり、複数の換気ファン22全てを稼働した制御パターンにおける状態である。
【0039】
図4(b)は、複数の換気ファン22全てを稼働した状態で、複数の換気口21の開度を例えば全開などに大きくした空気流変化制御の制御パターンにおける空気流のイメージ図である。このとき、鶏舎10の内部の空気を入れ替えるために、複数の換気ファン22の過半数を一斉に動作させるとともに、複数の換気ファン22の回転速度を増加させる制御パターンとして、鶏舎10を通過する空気流の流量を増大しても良い。
【0040】
また、
図4(c)は、稼働する換気ファン22の組み合わせを変更した空気流変化制御の制御パターンにおける空気流のイメージ図である。このとき、複数の換気口21を例えば全開する制御パターンとしても良い。
【0041】
図4に示すように、通常制御において定常状態にある空気流が、空気流変化制御の制御パターンによる換気設備2の動作パターンの変化によって変化し、通常制御において生じている空気の淀みや旋回流を変化させたり解消させたりすることができる。
【0042】
<換気度合いに基づく制御変更>
そして、本実施形態の空気換気システム100は、鶏舎10の特定の場所に設けられた複数の空気質センサSと、換気設備制御部3による制御内容及び複数の空気質センサSのセンサ信号に基づいて、鶏舎10の換気度合いを判定する換気判定部4と、換気判定部4により判定された換気度合いに基づいて、換気設備制御部3に制御内容の変更指令を出力する変更指令出力部5とをさらに備えている。なお、本実施形態の換気判定部4及び変更指令出力部5は、制御装置CONTによりその機能が発揮される。
【0043】
複数の空気質センサSは、鶏舎10内の温度、湿度、空気中の成分(例えば二酸化炭素(CO2)、酸素(O2)等)の濃度や量、または空気中の塵埃、ダニや羽毛等の量を測定するものである。複数の空気質センサSは、複数の温度センサ、複数の湿度センサ、複数の濃度センサ(例えばCO2センサ)等の同じ種類のセンサにより構成しても良いし、異なる種類のセンサにより構成しても良い。
【0044】
これら複数の空気質センサSは、鶏舎10の内部において、空気の淀みや旋回流等が発生しやすく、換気度合いの判定がしやすい複数の場所、又は、空気の淀みや旋回流等を発生させたくない複数の場所に設けることが考えられる。
【0045】
例えば、複数の空気質センサSは、鶏舎10におけるケージ列20の近傍(例えばケージ列20の風下等)や鶏舎10の隅部等の複数の場所に設けることが考えられる。また、塵埃、ダニや羽毛等は鶏舎10の床面に溜まりやすいため、複数の空気質センサSを鶏舎10の床面の近傍に設けることが考えられる。また、複数の空気質センサSを鶏舎10の床面から離した任意の高さ位置に設けることもできる。なお、空気質センサSの代わりに、風の状態を計測する風向きセンサ、風速センサや風量センサ等を用いても良い。
【0046】
換気判定部4は、換気設備制御部3による制御内容の変化タイミング(換気設備2の動作内容に変化タイミング)の前後における空気質センサSのセンサ信号の変化態様(時間的変化)に基づいて、鶏舎10の特定の場所の換気度合いを判定する。ここで、換気判定部4は、各空気質センサSのセンサ信号により換気度合いが不十分である場所も特定する。この換気判定部4により判定された換気度合いや換気不十分な場所(その場所に設けられた空気質センサ)は、
図5に示すように、制御装置CONTのディスプレイ又は外部の表示装置に表示することができ、また、換気設備2の動作内容や各空気質センサSのセンサ信号なども制御装置CONTのディスプレイ又は外部の表示装置に表示することができる。
【0047】
ここで、換気度合いは、換気が十分に行われているか(換気により空気が入れ替わっているか)を示す予め定められた指標であり、各空気質センサSのセンサ信号に基づいて定められており、具体的には、換気設備2の各動作内容に対する各空気質センサSのセンサ信号又はその時間的変化(変化速度や変化量等)に基づいて定められている。また、換気度合いは、複数の空気質センサにおけるセンサ信号の相関関係によっても定めることができる。例えば、複数の空気質センサSのセンサ信号に対してある空気質センサSのセンサ信号が許容範囲を超えて値がずれている場合には、その空気質センサSの場所は換気度合いが不十分であると判定できる。
【0048】
例えば、上述した通常制御から空気流変化制御に切り替えたタイミングの前後における各空気質センサSのセンサ信号の変化量に基づいて定められている。このとき、空気質センサSが温度センサの場合には、通常制御時(切り替える前)の温度と空気流変化制御時(切り替える前)の温度との差分から、十分に換気がされているかがわかり、その差分に基づいて、換気度合いを数値化(例えば、0(換気不十分)~10(換気十分)等)したり、換気度合いを区分化(「換気十分(○)」、「換気まあまあ(△)」、「換気不十分(×)」等)したりできる。これらの制御の際に鶏舎内への各空気質センサSの設置に加えて鶏舎外にも空気質センサS設置することでより素早く鶏舎内空気の換気状況を把握することができるのは言うまでもない。
【0049】
変更指令出力部5は、換気判定部4により判定された換気度合いに基づいて、換気設備制御部3に制御内容の変更指令を出力するものである。ここで、換気度合いが換気不十分を示している場合には、変更指令出力部5は、換気度合いが不十分であることを示す空気質センサSの場所における換気が十分となるような最適な制御内容を生成し、その制御内容の変更指令を出力する。
【0050】
本実施形態の変更指令出力部5は、機械学習モデル(AIモデル)を用いて換気設備制御部3の新しい制御内容を生成し、その新しい制御内容を含む変更指令を出力するように構成されている。この変更指令には、複数パターンの制御内容(例えば制御パターン1と制御パターン2等)を含んでいても良い。ここで、機械学習モデルは、例えば、制御内容の変化前後における各空気質センサSのセンサ信号の時間的変化を学習用データセットとして機械学習されたモデルであり、制御装置CONTのモデル格納部6に予め格納されている。なお、学習用データセットには、外気温を測定する温度センサのセンサ信号を含めても良い。
【0051】
次に、換気度合いに基づく制御変更の一例を
図6を用いて簡単に説明する。
この例においては、空気質センサSとして6つの温度センサS1~S6を用い、鶏舎外の温度を測定する温度センサS0の温度に応じて、例えば鶏舎内を目標温度27℃に制御している。
【0052】
<外気温が20℃の場合>
まず、外気温が20℃の場合において、通常の運転状態を考える。この通常の運転状態では、例えば、入気口開度をIN1、IN2ともに50%とし、排気ファン回転数をFAN1、FAN2ともに30%とした制御指令により通常制御を行う。この通常制御における温度センサS1~S6の到達温度はそれぞれ20℃、20℃、20℃、28℃、29℃、28℃である。
【0053】
長時間の特定パターンの運転は空気淀みが固定化するので、適度なタイミングで空気流変化制御により換気運転パターンを切り替える。ここでは、入気口開度をIN1、IN2ともに100%とし、排気ファン回転数をFAN1、FAN2ともに70%とした制御指令により、空気流変化制御を1分間行っている。この空気流変化制御における温度センサS1~S6の到達温度はそれぞれ20℃、20℃、20℃、24℃、25℃、24℃である。
【0054】
上記の空気流変化制御における温度センサS1~S6の温度変化は、空気の換気が十分に行われたと判断できる所望の範囲内となっている。この空気流変化制御の後、元の通常の運転状態(元の通常制御)に切り替えて温度変化を観察する。5分後の温度センサS1~S6の到達温度が想定の範囲内なので、通常の運転状態を継続する。その後は、温度センサS1~S6の測定温度を監視するとともに、一定時間同一の制御パターンが継続しないように、上記の動作を繰り返す。
【0055】
<外気温が10℃の場合>
まず、外気温が10℃の場合において、通常の運転状態を考える。この通常の運転状態では、例えば、入気口開度をIN1、IN2ともに10%とし、排気ファン回転数をFAN1、FAN2ともに10%とした制御指令により通常制御を行う。この通常制御における温度センサS1~S6の到達温度はそれぞれ12℃、13℃、12℃、25℃、28℃、25℃である。
【0056】
長時間の特定パターンの運転は空気淀みが固定化するので、適度なタイミングで空気流変化制御により換気運転パターンを切り替える。ここでは、入気口開度をIN1、IN2ともに50%とし、排気ファン回転数をFAN1、FAN2ともに50%とした制御指令により、空気流変化制御を1分間行っている。この空気流変化制御における温度センサS1~S6の到達温度はそれぞれ11℃、11℃、11℃、20℃、28℃、20℃である。
【0057】
上記の空気流変化制御における温度センサS1~S6の温度変化において、温度センサS5の温度変化が殆どないので、当該温度センサS5付近では空気淀みの可能性が高いと判定できる。そして、温度センサS5付近の空気淀みを解消するための新しい換気指令(制御指令)に変更する。ここで、新しい換気指令は、入気口開度をIN1では70%、IN2では10%とし、排気ファン回転数をFAN1では10%、FAN2では70%とした制御指令を1分間と、入気口開度をIN1では10%、IN2では70%とし、排気ファン回転数をFAN1では70%、FAN2では10%とした制御指令を1分間とからなる。上記の新しい換気指令の後の温度センサS5の到達温度が22℃に変化していることから、温度センサS5付近の空気淀みが解消していると判定できる。この空気流変化制御(新しい換気指令含む)の後、元の通常の運転状態(元の通常制御)に切り替えて温度変化を観察する。5分後の温度センサS1~S6の到達温度が想定の範囲内なので、通常の運転状態を継続する。その後は、温度センサS1~S6の測定温度を監視するとともに、一定時間同一の制御パターンが継続しないように、上記の動作を繰り返す。
【0058】
<本実施形態の効果>
本実施形態の空気換気システム100によれば、換気設備制御部3による制御内容及び空気質センサSのセンサ信号に基づいて換気度合いを判定するので、換気設備2の換気動作に対する空気淀みや旋回流等が滞留している等の内部の状態がわかり、鶏舎10内に生じる空気淀みや旋回流等が長期間特定の場所に滞留することを防止できるようになる。具体的には、換気度合いの判定の結果を、鶏舎内の特定の場所における空気換気を改善するためのフィードバック信号として、換気ファンや入気口等を制御する換気設備制御部3等の制御装置CONTに入力し、当該フィードバック信号を利用することにより制御装置CONTはより最適な換気制御をすることが可能である。その結果、鶏舎10の内部に生じる空気の淀みや旋回流等の発生場所を変動させたり解消したりすることができ、鶏舎10の内部の特定の場所にチリ、ホコリや羽毛等が集合しないようにできる。これにより、鶏舎10の内部の特定の場所に寄生虫や鳥インフルエンザウイルス等の感染症ウイルスが集合することを防止できる。その結果、寄生虫が鶏に寄生する可能性を減じることができ、また鶏が鳥インフルエンザウイルス等の感染症ウイルスに感染するリスクを低減できる。
【0059】
特の本実施形態では、通常制御から空気流変化制御に切り替えたときに、換気判定部4によって、空気流変化制御において空気の淀みや旋回流等が解消して空気が置き換わっているか否かをリアルタイムに判定することができる。その結果、そのリアルタイムの判定結果をフィードバックして変更指令出力部5により最適な制度内容を生成することができ、より精緻な鶏舎内換気を実現することができる。
【0060】
<本発明の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0061】
例えば、
図7に示すように、換気設備2は、鶏舎10の内部に設けられ、空気流を撹拌する撹拌ファン23を有していても良い。この場合、換気設備制御部3は、撹拌ファン23を制御することにより空気流を変化させる。ここで、撹拌ファン23は、通常制御で生じる空気の淀みや旋回流等の発生部分に向けて、空気を送風して撹拌することが望ましい。また、撹拌ファン23は、首振り機能を有し、送風方向が変更可能であることが望ましい。なお、撹拌ファン23は、前記実施形態の構成に加えて、又は、前記実施形態の構成に代えて設けることができる。
【0062】
また、
図8に示すように、換気設備2は、鶏舎10の内部に設けられ、開閉可能な1又は複数の給気口又は排気口を有するダクト24を有していても良い。この場合、換気設備制御部3は、1又は複数の給気口又は排気口を開閉する又はその開口面積を変更することにより空気流を変化させる。なお、ダクト24は、前記実施形態の構成に加えて、又は、前記実施形態の構成に代えて設けることができる。
【0063】
さらに、
図9に示すように、換気設備2は、鶏舎10の内部に設けられた空気整流板25を有していても良い。この空気整流板25によって、所望の空気流を形成することができる。また、空気整流板25の角度や向き等の姿勢を変更することにより、空気流を変化させることができる。なお、空気整流板25は、前記実施形態の構成に加えて、又は、前記実施形態の構成に代えて設けることができる。
【0064】
加えて、本発明は、鶏舎内の湿度、空気質、風速、風向等さまざまな要素を計測して、換気設備の制御変更をすることが可能である。ここで、計測値の経時変化又は変化量などをその制御変更に利用することも可能である。例えば風速、風向が微細な変化しか示さない場合は、鶏舎内の空気流が定常状態であることが推測され、この場合に、前記実施形態のような空気流変化制御を行うことができる。
【0065】
また、前記実施形態の変更指令出力部5は、機械学習モデルを用いて換気設備制御部3の新しい制御内容を生成し、その新しい制御内容を含む変更指令を出力するものであったが、機械学習モデルを用いることなく、換気度合い毎に予め定められた換気設備制御部3の制御内容に基づいて変更指令を出力するものであっても良い。
【0066】
前記実施形態では、変更指令出力部5を有して制御内容を変更するものであったが、変更指令出力部5を有さず、換気度合いを判定して、その結果をディスプレイなどに表示する構成であっても良い。
【0067】
前記実施形態の空気換気システムは、通常制御と空気流変化制御とを行うものにおいて、通常制御から空気流変化制御の切り替えタイミングの前後において換気度合いに基づく制御変更を行うものであったが、通常制御中又は空気流変化制御中において換気度合いに基づく制御変更を行うものであっても良い。また、前記実施形態の空気換気システムは、通常制御のみを行うものとし、この通常制御において、換気度合いに基づく制御変更を行うものであっても良い。
【0068】
その上、本発明は、密閉型鶏舎(ウインドレス鶏舎)に限られず、例えばカーテンを自動又は手動で開閉可能な壁面を有する半密閉型鶏舎や開放型鶏舎等の他のタイプの鶏舎において、換気ファン等の換気設備を制御して鶏舎内温度の均一化等を行っている鶏舎にも適用することができる。
【0069】
また、本発明は、鶏舎に限られず、その他の畜舎又は家禽舎に適用することもできる。
【0070】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0071】
100・・・空気換気システム
10 ・・・鶏舎(畜舎又は家禽舎)
2 ・・・換気設備
3 ・・・換気設備制御部
4 ・・・換気判定部
5 ・・・変更指令出力部
21 ・・・換気口(入気口又は排気口)
22 ・・・換気ファン(入気ファン又は排気ファン)