(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156158
(43)【公開日】2023-10-24
(54)【発明の名称】ダイヤ作成装置、列車制御システム、及びダイヤ作成方法
(51)【国際特許分類】
B61L 27/12 20220101AFI20231017BHJP
【FI】
B61L27/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065852
(22)【出願日】2022-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堤 雄飛
(72)【発明者】
【氏名】前川 景示
(72)【発明者】
【氏名】木村 祥太
(72)【発明者】
【氏名】小田 篤史
(72)【発明者】
【氏名】宮内 努
(72)【発明者】
【氏名】高橋 直
【テーマコード(参考)】
5H161
【Fターム(参考)】
5H161AA01
5H161JJ22
5H161JJ29
5H161JJ32
(57)【要約】 (修正有)
【課題】列車の運行中に遅延が発生した場合でも、定時制を維持しやすい運行ダイヤを作成するダイヤ作成装置を提供する。
【解決手段】ダイヤ作成装置10は、路線に含まれる駅間ごとの余裕時分を割り当てることによって、遅延が発生した場合に遅延を回復できる効果を示す第1の制約情報を記憶する遅延回復効果記憶部12と、駅間ごとに走行する列車20が必要とするエネルギーの特性を示す、第2の制約情報を記憶するエネルギー特性記憶部11を有する。また、余裕時分配分決定部13は、各駅間に配分可能な余裕時分の総時分のうち、第1の余裕時分を第1の制約情報に基づいて各駅間に配分するとともに、余裕時分の総時分のうち、第2の余裕時分を第2の制約情報に基づいて各駅間に配分することによって、駅間ごとの余裕時分の配分を決定し、ダイヤ作成部14は、決定された駅間ごとの余裕時分に基づき、列車20の運行ダイヤを作成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
路線を走行する列車の運行ダイヤを作成するダイヤ作成装置であって、
前記路線に含まれる駅間ごとに、当該駅間に余裕時分を割り当てることによって遅延が発生した場合に当該遅延を回復できる効果を示す第1の制約情報を記憶する遅延回復効果記憶部と、
前記駅間ごとに、当該駅間を走行する列車が必要とするエネルギーの特性を示す第2の制約情報を記憶するエネルギー特性記憶部と、
各駅間に配分可能な余裕時分の総時分のうちの第1の余裕時分を前記第1の制約情報に基づいて各駅間に配分し、前記総時分のうちの第2の余裕時分を前記第2の制約情報に基づいて各駅間に配分することによって、前記駅間ごとの余裕時分の配分を決定する余裕時分配分決定部と、
前記余裕時分配分決定部で決定された駅間ごとの余裕時分に基づいて、前記列車の運行ダイヤを作成するダイヤ作成部と、
を備えることを特徴とするダイヤ作成装置。
【請求項2】
前記余裕時分配分決定部は、
所定の方法により定まる比率に応じて、前記総時分から前記第1の余裕時分と前記第2の余裕時分とを決定し、
前記第1の制約情報に基づいて、前記遅延を回復できる効果が高い駅間に多くの余裕時分が付与されるように、前記第1の余裕時分を各駅間に配分し、
前記第2の制約情報に基づいて、前記エネルギーの省エネ性が高い駅間に多くの余裕時分が付与されるように、前記第2の余裕時分を各駅間に配分する
ことを特徴とする請求項1に記載のダイヤ作成装置。
【請求項3】
前記第1の制約情報は、前記路線の終点側の駅間を、前記遅延を回復できる効果が高い駅間とする
ことを特徴とする請求項2に記載のダイヤ作成装置。
【請求項4】
前記第1の制約情報は、過去の遅延の発生頻度が高い駅間を、前記遅延を回復できる効果が高い駅間とする
ことを特徴とする請求項2に記載のダイヤ作成装置。
【請求項5】
前記第1の制約情報は、他路線への乗り換えが多い駅の手前の駅間を、前記遅延を回復できる効果が高い駅間とする
ことを特徴とする請求項2に記載のダイヤ作成装置。
【請求項6】
前記余裕時分配分決定部は、前記総時分から前記第1の余裕時分と前記第2の余裕時分とを決定する前記比率を、定時性または省エネ性の要求仕様に応じて決定する
ことを特徴とする請求項2に記載のダイヤ作成装置。
【請求項7】
前記列車の利用者数に応じた定時性の要求度合いを示す第3の制約情報をさらに有し、
前記余裕時分配分決定部は、前記第3の制約情報に基づいて、前記利用者数が多い区間内の駅間における所要時分が固定されるか増加しないように前記余裕時分を配分する
ことを特徴とする請求項1に記載のダイヤ作成装置。
【請求項8】
前記駅間ごとに、当該駅間に余裕時分を割り当てることによる後続列車への影響が生じない限界時間を示す第4の制約情報をさらに有し、
前記余裕時分配分決定部は、前記第4の制約情報に基づいて、前記限界時間の範囲内で前記駅間ごとの余裕時分の配分を決定する
ことを特徴とする請求項1に記載のダイヤ作成装置。
【請求項9】
前記列車の運行中に遅延が発生した場合、
前記余裕時分配分決定部は、現時点での前記路線の残り区間に含まれる各駅間を余裕時分の配分対象として、前記配分対象の各駅間に配分されていた余裕時分の総時分を、前記第1及び前記第2の制約情報に基づいて、当該各駅間に再配分することを決定し、
前記ダイヤ作成部は、前記再配分が決定された駅間ごとの余裕時分に基づいて、前記列車の運行ダイヤを再作成する
ことを特徴とする請求項1に記載のダイヤ作成装置。
【請求項10】
路線を走行する列車の運行ダイヤを作成するダイヤ作成装置と、
前記列車に搭載される運行制御装置と、
前記列車の運行を管理する運行管理装置と、
を備え、
前記ダイヤ作成装置は、
前記路線に含まれる駅間ごとに、当該駅間に余裕時分を割り当てることによって遅延が発生した場合に当該遅延を回復できる効果を示す第1の制約情報を記憶する遅延回復効果記憶部と、
前記駅間ごとに、当該駅間を走行する列車が必要とするエネルギーの特性を示す第2の制約情報を記憶するエネルギー特性記憶部と、
各駅間に配分可能な余裕時分の総時分のうちの第1の余裕時分を前記第1の制約情報に基づいて各駅間に配分し、前記総時分のうちの第2の余裕時分を前記第2の制約情報に基づいて各駅間に配分することによって、前記駅間ごとの余裕時分の配分を決定する余裕時分配分決定部と、
前記余裕時分配分決定部で決定された駅間ごとの余裕時分に基づいて、前記列車の運行ダイヤを作成するダイヤ作成部と、
を有し、
前記運行制御装置は、前記ダイヤ作成部で作成された運行ダイヤで指定される各駅間の目標走行時分を満たすように前記列車の走行を制御し、
前記運行管理装置は、前記ダイヤ作成部で作成された運行ダイヤに基づいて、前記列車の運行及び進路を制御する
ことを特徴とする列車制御システム。
【請求項11】
路線を走行する列車の運行ダイヤを作成するダイヤ作成装置によるダイヤ作成方法であって、
前記ダイヤ作成装置は、
前記路線に含まれる駅間ごとに、当該駅間に余裕時分を割り当てることによって遅延が発生した場合に当該遅延を回復できる効果を示す第1の制約情報を記憶する遅延回復効果記憶部と、
前記駅間ごとに、当該駅間を走行する列車が必要とするエネルギーの特性を示す第2の制約情報を記憶するエネルギー特性記憶部と、
前記駅間ごとの余裕時分の配分を決定する余裕時分配分決定部と、
前記列車の運行ダイヤを作成するダイヤ作成部と、
を有し、
前記余裕時分配分決定部が、各駅間に配分可能な余裕時分の総時分のうちの第1の余裕時分を前記第1の制約情報に基づいて各駅間に配分し、前記総時分のうちの第2の余裕時分を前記第2の制約情報に基づいて各駅間に配分することによって、前記駅間ごとの余裕時分の配分を決定する余裕時分配分ステップと、
前記ダイヤ作成部が、前記余裕時分配分ステップで決定された駅間ごとの余裕時分に基づいて、前記列車の運行ダイヤを作成するダイヤ作成ステップと、
を備えることを特徴とするダイヤ作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤ作成装置、列車制御システム、及びダイヤ作成方法に関し、路線を走行する列車の運行ダイヤを作成するダイヤ作成装置、列車制御システム、及びダイヤ作成方法に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両(列車)の運転においては、駅間の所要時間が多く付与されるほど、当該駅間を走行する列車が必要とするエネルギーが減少し、省エネ効果が高くなる。さらに、所要時間の付与による省エネ効果は、駅間によって異なるという性質がある。この性質を活用して、省エネ効果の高い駅間には多めに所要時間を配分することによって、路線全体の所要時間は変えずに省エネ性を向上させる方法が知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、運行状況が変化した際に、以降に走行する駅間の省エネ効果に基づいて余裕時分を再配分して運行ダイヤを再作成する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、省エネ効果の高い駅間に多めに所要時間を配分する従来の方法では、所要時分があまり付与されない駅間が発生することになり、遅延が発生した際の遅れの回復が難しくなる状況が発生し得るという課題があった。例えば上記の特許文献1に開示されたシステムにおいて、遅延が発生するまでの駅間に余裕時分を多く割り当てていた場合には、遅延発生後に走行する駅間に対して割当可能な余裕時分が確保されていないことから、遅延発生後に列車が最速で走行しても遅れを回復できず、定時性を維持できない可能性があった。
【0006】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、駅間を走行する列車が必要とするエネルギーの特性及び遅延の回復効果を考慮して各駅間に余裕時分を付与することにより、列車の運行中に遅延が発生した場合でも定時制を維持しやすい運行ダイヤを作成することが可能なダイヤ作成装置、列車制御システム、及びダイヤ作成方法を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するため本発明においては、路線を走行する列車の運行ダイヤを作成するダイヤ作成装置であって、前記路線に含まれる駅間ごとに、当該駅間に余裕時分を割り当てることによって遅延が発生した場合に当該遅延を回復できる効果を示す第1の制約情報を記憶する遅延回復効果記憶部と、前記駅間ごとに、当該駅間を走行する列車が必要とするエネルギーの特性を示す第2の制約情報を記憶するエネルギー特性記憶部と、各駅間に配分可能な余裕時分の総時分のうちの第1の余裕時分を前記第1の制約情報に基づいて各駅間に配分し、前記総時分のうちの第2の余裕時分を前記第2の制約情報に基づいて各駅間に配分することによって、前記駅間ごとの余裕時分の配分を決定する余裕時分配分決定部と、前記余裕時分配分決定部で決定された駅間ごとの余裕時分に基づいて、前記列車の運行ダイヤを作成するダイヤ作成部と、を備えることを特徴とするダイヤ作成装置が提供される。
【0008】
また、かかる課題を解決するため本発明においては、路線を走行する列車の運行ダイヤを作成するダイヤ作成装置と、前記列車に搭載される運行制御装置と、前記列車の運行を管理する運行管理装置と、を備え、前記ダイヤ作成装置は、前記路線に含まれる駅間ごとに、当該駅間に余裕時分を割り当てることによって遅延が発生した場合に当該遅延を回復できる効果を示す第1の制約情報を記憶する遅延回復効果記憶部と、前記駅間ごとに、当該駅間を走行する列車が必要とするエネルギーの特性を示す第2の制約情報を記憶するエネルギー特性記憶部と、各駅間に配分可能な余裕時分の総時分のうちの第1の余裕時分を前記第1の制約情報に基づいて各駅間に配分し、前記総時分のうちの第2の余裕時分を前記第2の制約情報に基づいて各駅間に配分することによって、前記駅間ごとの余裕時分の配分を決定する余裕時分配分決定部と、前記余裕時分配分決定部で決定された駅間ごとの余裕時分に基づいて、前記列車の運行ダイヤを作成するダイヤ作成部と、を有し、前記運行制御装置は、前記ダイヤ作成部で作成された運行ダイヤで指定される各駅間の目標走行時分を満たすように前記列車の走行を制御し、前記運行管理装置は、前記ダイヤ作成部で作成された運行ダイヤに基づいて、前記列車の運行及び進路を制御することを特徴とする列車制御システムが提供される。
【0009】
また、かかる課題を解決するため本発明においては、路線を走行する列車の運行ダイヤを作成するダイヤ作成装置によるダイヤ作成方法であって、前記ダイヤ作成装置は、前記路線に含まれる駅間ごとに、当該駅間に余裕時分を割り当てることによって遅延が発生した場合に当該遅延を回復できる効果を示す第1の制約情報を記憶する遅延回復効果記憶部と、前記駅間ごとに、当該駅間を走行する列車が必要とするエネルギーの特性を示す第2の制約情報を記憶するエネルギー特性記憶部と、前記駅間ごとの余裕時分の配分を決定する余裕時分配分決定部と、前記列車の運行ダイヤを作成するダイヤ作成部と、を有し、前記余裕時分配分決定部が、各駅間に配分可能な余裕時分の総時分のうちの第1の余裕時分を前記第1の制約情報に基づいて各駅間に配分し、前記総時分のうちの第2の余裕時分を前記第2の制約情報に基づいて各駅間に配分することによって、前記駅間ごとの余裕時分の配分を決定する余裕時分配分ステップと、前記ダイヤ作成部が、前記余裕時分配分ステップで決定された駅間ごとの余裕時分に基づいて、前記列車の運行ダイヤを作成するダイヤ作成ステップと、を備えることを特徴とするダイヤ作成方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、列車の運行中に遅延が発生した場合でも定時性を維持しやすい運行ダイヤを作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る列車制御システム1の構成例を示すブロック図である。
【
図4】各駅間への余裕時分の配分を説明するための図である。
【
図5】ダイヤ作成処理の処理手順例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳述する。
【0013】
以下の記載及び図面は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略及び簡略化がなされている。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。本発明が実施形態に制限されることは無く、本発明の思想に合致するあらゆる応用例が本発明の技術的範囲に含まれる。本発明は、当業者であれば本発明の範囲内で様々な追加や変更等を行うことができる。本発明は、他の種々の形態でも実施する事が可能である。特に限定しない限り、各構成要素は複数でも単数でも構わない。
【0014】
また、以下の説明では、プログラムを実行して行う処理を説明する場合があるが、プログラムは、少なくとも1以上のプロセッサ(例えばCPU)によって実行されることで、定められた処理を、適宜に記憶資源(例えばメモリ)及び/又はインターフェースデバイス(例えば通信ポート)等を用いながら行うため、処理の主体がプロセッサとされてもよい。同様に、プログラムを実行して行う処理の主体が、プロセッサを有するコントローラ、装置、システム、計算機、ノード、ストレージシステム、ストレージ装置、サーバ、管理計算機、クライアント、又は、ホストであってもよい。プログラムを実行して行う処理の主体(例えばプロセッサ)は、処理の一部又は全部を行うハードウェア回路を含んでもよい。例えば、プログラムを実行して行う処理の主体は、暗号化及び復号化、又は圧縮及び伸張を実行するハードウェア回路を含んでもよい。プロセッサは、プログラムに従って動作することによって、所定の機能を実現する機能部として動作する。プロセッサを含む装置及びシステムは、これらの機能部を含む装置及びシステムである。
【0015】
プログラムは、プログラムソースから計算機のような装置にインストールされてもよい。プログラムソースは、例えば、プログラム配布サーバ又は計算機が読み取り可能な記憶メディアであってもよい。プログラムソースがプログラム配布サーバの場合、プログラム配布サーバはプロセッサ(例えばCPU)と記憶資源を含み、記憶資源はさらに配布プログラムと配布対象であるプログラムとを記憶してよい。そして、プログラム配布サーバのプロセッサが配布プログラムを実行することで、プログラム配布サーバのプロセッサは配布対象のプログラムを他の計算機に配布してよい。また、以下の説明において、2以上のプログラムが1つのプログラムとして実現されてもよいし、1つのプログラムが2以上のプログラムとして実現されてもよい。
【0016】
また、以下の説明において、「駅間距離が長い駅間」や「制限速度が高い駅間」等のように駅間の特徴を表記することがあるが、比較対象を明示しない場合、これらの特徴は、各駅間の平均値を基準としてもよいし、予め定められた閾値、または所定の計算方法によって定められる閾値を基準としてもよい。
【0017】
まず、本発明の一実施形態に係る列車制御システム1の各構成、及び各構成が有する機能について説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る列車制御システム1の構成例を示すブロック図である。
図1に示したように、列車制御システム1は、ダイヤ作成装置10、列車20、及び運行管理装置30を備えて構成される。詳細は後述するが、列車制御システム1では、ダイヤ作成装置10が、エネルギー特性及び遅延回復効果に基づいて各駅間への所要時分を配分して運行ダイヤ(以下、ダイヤ)を作成し、作成したダイヤを列車20及び運行管理装置30に送信する。
【0019】
ダイヤ作成装置10は、エネルギー特性記憶部11、遅延回復効果記憶部12、余裕時分配分決定部13、及びダイヤ作成部14を備える。
【0020】
ダイヤ作成装置10は、例えばプロセッサ、メモリ、記憶装置、及び入出力装置を有する計算機によって実現される。この場合、余裕時分配分決定部13及びダイヤ作成部14の各機能は、プロセッサが記憶装置等に格納されたプログラムをメモリに展開して実行することによって実現される。また、エネルギー特性記憶部11及び遅延回復効果記憶部12の各機能は、記憶装置またはメモリが所定のデータを記憶することによって実現される。
【0021】
エネルギー特性記憶部11は、駅間を走行する列車20が必要とするエネルギーの特性(エネルギー特性)に関して、駅間ごとのエネルギー特性を示すエネルギー特性情報を記憶する機能を有する。
【0022】
図2は、エネルギー特性を説明するための図である。本実施形態におけるエネルギー特性は、余裕時分に対する、当該余裕時分が付与された駅間を走行する列車が必要とするエネルギー(例えば消費電力量)で表される。
図2には、一般的なエネルギー特性の一例として、横軸を余裕時分、縦軸を消費電力量として、両者の関係性が示されている。なお、
図2の横軸は、駅間に付与される余裕時分と、列車が当該駅間を最速で走行したときに要する時間(最速時分)とを合計した所要時間であってもよい。
【0023】
上記の消費電力量は、余裕時分によって異なる結果となり、また、駅間によってもその結果が異なる。そこで、ダイヤ作成装置10では、過去の実績に基づいて、あるいはシミュレーション等によって、駅間ごとに、複数の余裕時分に対するそれぞれの消費電力量を予め算出し、これらの算出結果をエネルギー特性を示す情報(エネルギー特性情報)としてエネルギー特性記憶部11に格納する。なお、ダイヤ作成装置10の外部で作成されたエネルギー特性情報がエネルギー特性記憶部11に格納される構成であってもよい。
【0024】
図2に示したように、エネルギー特性は、一般的には、余裕時分が多く付与されるほど、必要なエネルギー(消費電力量)が減少する傾向がある。言い換えれば、余裕時分に最速時分を加えた所要時分が多いほど、必要なエネルギー(消費電力量)が減少する傾向がある。必要なエネルギーが減少すれば、省エネ効果は高まる。さらに、余裕時分(所要時分と置き換えてもよい)に対する省エネ効果は、駅間によっても異なるという性質が知られている。
【0025】
上記の特性及び性質を考慮して、余裕時分配分決定部13は、駅間ごとのエネルギー特性に基づいて、省エネ性に優れる駅間に対して余裕時分を多く配分する。「省エネ性に優れる駅間」は、具体的には、下り勾配が多い駅間、カーブが少ない(直線経路が多い)駅間、駅間距離が長い駅間、制限速度が高い駅間、または、制限速度が一律であったりして複雑ではない駅間、等が想定される。
【0026】
遅延回復効果記憶部12は、ある駅間において列車20に遅延が発生した際の当該駅間における遅延の回復効果(遅延回復効果)に関して、駅間ごとの遅延回復効果を示す遅延回復効果情報を記憶する機能を有する。本実施形態において、遅延回復効果が高い駅間とは、当該駅間に余裕時分を多く割り当てることで、遅延が発生した場合に遅延を回復できる確率が高くなる駅間である。
【0027】
遅延回復効果情報には、例えば以下のような遅延回復効果が設定される。遅延が発生しやすい駅間が想定できる場合には、その駅間に余裕時分を多く割り当てておくことで遅延回復が容易になるので、当該駅間の遅延回復効果を高く設定する。遅延が発生しやすい駅間が想定できない場合は、終端側の駅間に余裕時分を多く割り当てておけば、遅延発生時に遅延回復に使える余裕時分を確保できることから、終端側の駅間の遅延回復効果を高く設定する。したがって、遅延回復効果の高い駅間の例として、路線の終点側の所定数の駅間、過去に遅れが発生する頻度が高い駅間、カーブが少ない駅間、または、他路線への乗り換えが多い駅手前の駅間等が想定される。
【0028】
そして、遅延回復効果情報における各遅延回復効果の具体駅な値は、過去の運行データや司令員の過去の経験を踏まえて決定される。なお、遅延回復効果が朝の混雑時や昼の閑散時など時間帯によって異なる場合、遅延回復効果を時間帯ごとに異なる値で設定してもよい。また、発生する遅延の程度によって遅延回復効果が異なる場合は、遅延の程度ごとに遅延回復効果を異なる値で設定してもよい。
【0029】
なお、遅延回復効果情報に設定される遅延回復効果の値は、過去の実績等に基づいて事前に算出された固定値であってもよいし、リアルタイムに算出される変動値であってもよい。リアルタイムに値を変更する場合は、運行状況や混雑状況を考慮して設定及び変更することが考えられる。また、固定値とする場合でも、乗客の利用状況や環境の変化に応じて、値を定期的に修正するようにしてもよい。
【0030】
図3は、遅延回復効果情報の一例を示す図である。
図3に示した遅延回復効果情報100は、遅延回復効果記憶部12に記憶される遅延回復効果情報の一例であって、項目101及び項目102のデータ項目を有する。
【0031】
図3において、項目101には、始発駅から終点駅までに含まれる複数の駅間が、列車20の走行順に示される。項目102は、項目101で示される駅間における遅延回復効果を示す。具体的には例えば、
図3の場合、項目101の値が「1」のレコードは、第1駅間(始発駅から1駅目までの駅間)における遅延回復効果が「10」であることを示しており、項目101の値が「2」のレコードは、第2駅間(1駅目から2駅目までの駅間)における遅延回復効果が「20」であることを示している。なお、項目102に設定される遅延回復効果の値は指標値であり、上記例の場合、第2駅間における遅延回復効果が、第1駅間における遅延回復効果の2倍であることを意味する。
【0032】
余裕時分配分決定部13は、エネルギー特性記憶部11に記憶されたエネルギー特性情報及び遅延回復効果記憶部12に記憶された遅延回復効果情報に基づいて、各駅間に配分する余裕時分を決定する機能を有する。具体的には、余裕時分配分決定部13は、エネルギー特性情報が示すエネルギー特性に基づいて、省エネ性に優れた駅間に多くの余裕時分を割り当てながら各駅間に余裕時分を配分するとともに、遅延回復効果情報が示す遅延回復効果に基づいて、遅延回復効果が高い駅間に多くの余裕時分を割り当てながら各駅間に余裕時分を配分し、各駅間におけるこれらの余裕時分の合計時分を、各駅間に配分する余裕時分として決定する。エネルギー特性に基づく余裕時分の配分では、特許文献1に開示されたような従来技術を利用することができる。
【0033】
なお、遅延回復効果に基づいて配分する余裕時分とエネルギー特性に基づいて配分する余裕時分との分割比率は、定時性や省エネ性の要求仕様に応じて決定すればよい。例えば、定時性を重視する場合は、遅延回復効果分に充てる余裕時分の比率を多くすればよく、省エネ性を重視する場合は、エネルギー特性分に充てる余裕時分の比率を多くすればよい。また、過去の実績から判断可能な「遅延や定時性に影響が出ない範囲」で、エネルギー特性分に充てる分割比率を高めるようにしてもよい。これは、遅延の実績が少ない駅間に余裕時分を過剰に付与しても、実際的な遅延回復効果は低いことを理由とする。
【0034】
図4は、各駅間への余裕時分の配分を説明するための図である。
図4に示した配分時分決定テーブル200は、余裕時分配分決定部13による各駅間への余裕時分の配分の一例を示すテーブルデータであって、項目201~項目205のデータ項目を有する。
【0035】
図4において、項目201は駅間を示し、項目202は、項目101で示される駅間における遅延回復効果を示す。項目201及び項目202の値は、
図3に示した遅延回復効果情報100の項目101及び102の値と同じである。
【0036】
項目203は、遅延回復効果に基づく余裕時分の配分時分(Time A)を示す。項目203の値は、余裕時分配分決定部13が、遅延回復効果情報に示される各駅間の遅延回復効果(項目202の値)に応じて、遅延回復効果分として割当可能な余裕時分を各駅間に配分することにより、算出される。
【0037】
項目204は、エネルギー特性に基づく余裕時分の配分時分(Time B)を示す。項目204の値は、余裕時分配分決定部13が、エネルギー特性情報に示される各駅間のエネルギー特性(
図2参照)に応じて、エネルギー特性分として割当可能な余裕時分を各駅間に配分することにより、算出される。
【0038】
なお、「遅延回復効果分で割当可能な余裕時分」及び「エネルギー特性分で割当可能な余裕時分」は、付与可能な余裕時分の総時分を、前述した「分割比率」に応じて分割することにより、算出される。
【0039】
項目205は、最終的に駅間に配分される余裕時分(Total Time)を示す。項目205の値は、余裕時分配分決定部13が、項目203の値と項目204の値とを合計することによって算出される。
【0040】
以上、
図4に示したように、余裕時分配分決定部13は、エネルギー特性及び遅延回復効果という2つの制約情報に基づいて、各駅間への余裕時分の配分を決定することができる。
【0041】
なお、本実施形態において、余裕時分配分決定部13は、エネルギー特性及び遅延回復効果という2つの制約情報に基づいて各駅間への余裕時分の配分を決定することに限定されず、別の制約情報を加えて、または別の制約情報と入れ替えて、各駅間への余裕時分の配分を決定するようにしてもよい。
【0042】
例えば、第三の制約情報として、利用者数(乗客数)に応じた定時性の要求度合いを加えてもよい。具体的には、利用者が多い乗車区間の駅間に対しては、所要時分を固定もしくは遅くしないようにする制約を加える。この場合、乗客需要が高い区間内の駅間に対して、優先的に多くの余裕時分を付与するようにすればよい。また、乗客需要が高い区間内の駅間については、当該駅間に予め余裕時分を付与しておき、余裕時分配分決定部13による余裕時分の配分対象の駅間から除外することで、所要時分を固定するようにしてもよい。
【0043】
また例えば、第四の制約情報として、余裕時分の付与による後続列車への影響の回避要求を加えてもよい。余裕時分の付与による後続列車への影響とは、余裕時分が付与された駅間を列車20が速度を落として走行した結果、後続列車も速度を落として走行せざるを得なくなるといった状況を示す。したがって、第四の制約情報を加える場合、余裕時分配分決定部13は、後続列車の定時性を確保しながら、列車20の運行における各駅間への余裕時分を配分することが必要となる。なお、後続列車への影響を回避できる余裕時分の閾値(限界時間)は、駅間ごとに、過去の実績データやシミュレーション等から事前に算出することができる。
【0044】
第四の制約情報を取り入れる場合、余裕時分配分決定部13は、後続列車に影響が出やすい駅間に対しては、付与する余裕時分を抑制することが考えられる。あるいは逆に、後続列車に影響のない範囲での遅れを許容するという条件下で、エネルギー特性に優れるよう、当該駅間に多くの余裕時分を配分するようにしてもよい。これらの結果、後続列車の定時制を維持しながら、現列車における遅延回復効果またはエネルギー特性(省エネ効果)を高めることができる。
【0045】
なお、上記した別の制約情報(第三の制約情報、第四の制約情報)に関する情報は、ダイヤ作成装置10において、エネルギー特性記憶部11または遅延回復効果記憶部12に記憶されてもよいし、別の記憶部に記憶されてもよい。
【0046】
ダイヤ作成部14は、余裕時分配分決定部13が決定した駅間ごとの余裕時分に基づいて、ダイヤを作成する機能を有する。具体的には、ダイヤ作成部14は、各駅間の最速時分に、余裕時分配分決定部13が決定した当該駅間の余裕時分を加算した値を、各駅間の目標走行時分(すなわち目標ダイヤ)に設定する。駅間ごとの目標ダイヤを設定した後のダイヤ作成処理については、従来の一般的なダイヤ作成機能を利用可能であるため、詳細な説明を省略する。
【0047】
列車20は、ダイヤ作成装置10が作成したダイヤに従って走行する鉄道車両であって、少なくとも運行制御装置21を備える。
【0048】
運行制御装置21は、ダイヤ作成部14が作成したダイヤに従って、目標走行時分を満たすように列車20の走行を制御する機能を有する。具体的には、運行制御装置21は、複数の速度目標(走行パタン)を作成し、上記ダイヤの目標走行時分に基づいて、何れかの走行パタンに追従するように列車の運行を制御する。
【0049】
運行管理装置30は、列車20の運行を管理する機能を有する。例えば、運行管理装置30は、列車20をダイヤで指定された線路に進行させるために、地上設備(例えば転轍機の方向等)を制御して、列車20の各駅の進路を制御する。また、運行管理装置30は、先行列車の遅延などによって運行状況に変動が生じ、当初作成したダイヤからの変更が必要となった場合に、ダイヤの再作成をダイヤ作成装置10に指示し、ダイヤ作成装置10で再作成されたダイヤを列車20に通知させる。あるいは、運行管理装置30が、現状に基づいてダイヤを再作成して列車20に通知するようにしてもよい。これらの場合、列車20の運行制御装置21は、再作成されたダイヤに従って列車20の走行を制御する。
【0050】
なお、列車20を走行させるための走行パタンの作成は、前述したように運行制御装置21が計算してもよいし、運行管理装置30で計算した結果を列車20(運行制御装置21)に通知するようにしてもよい。
【0051】
次に、本実施形態に係る列車制御システム1におけるダイヤの作成手順を説明する。
【0052】
図5は、ダイヤ作成処理の処理手順例を示すフローチャートである。ダイヤ作成処理は、ダイヤ作成装置10によって実行される。
図5の処理は、例えば列車20の運行開始前に実行される。
【0053】
図5によればまず、余裕時分配分決定部13が、ダイヤ作成の対象とする路線における全駅間の余裕時分の合計値を算出する(ステップS11)。
【0054】
次に、余裕時分配分決定部13は、ステップS11で算出した余裕時分の合計値を、所定の分割比率に従って、遅延回復効果分に充てる余裕時分と、エネルギー特性分に充てる余裕時分とに分割する(ステップS12)。前述したように、分割比率は、例えば定時制や省エネ性の要求仕様に応じて決定され、エネルギー特性及び遅延回復効果以外の制約情報が存在する場合には、これらの制約情報も考慮して決定される。
【0055】
次に、余裕時分配分決定部13は、ステップS12で算出した遅延回復効果分に充てる余裕時分を、遅延回復効果記憶部12に格納された遅延回復効果情報が示す各駅間の遅延回復効果に応じて、各駅間に配分する(ステップS13)。ステップS13において余裕時分配分決定部13は、全駅間に余裕時分を配分するなかで、遅延回復効果の高さに応じて各駅間に余裕時分を配分する(
図4の項目203参照)。
【0056】
次に、余裕時分配分決定部13は、ステップS12で算出したエネルギー特性分に充てる余裕時分を、エネルギー特性記憶部11に格納されたエネルギー特性情報が示す各駅間のエネルギー特性に応じて、各駅間に配分する(ステップS14)。ステップS14において余裕時分配分決定部13は、全駅間に余裕時分を配分するなかで、省エネ性の高さに応じて各駅間に余裕時分を配分する(
図4の項目204参照)。
【0057】
次に、ダイヤ作成部14が、各駅間について、ステップS13で配分された余裕時分と、ステップS14で配分された余裕時分と、当該駅間の最速時分とを合計し、その合計値を当該駅間の目標走行時分として設定して、路線の目標ダイヤを作成する(ステップS15)。作成されたダイヤは、列車20及び運行管理装置30に通知され、ダイヤ作成処理が終了する。
【0058】
以上が、本実施形態に係る列車制御システム1におけるダイヤの作成手順である。上記のようにダイヤ作成処理が列車20の運行前に実行されることにより、省エネ性を重視した所要時分の配分において、運行前のダイヤ作成時に、遅延回復効果の高い駅間に優先的に多くの余裕時分を付与することで、仮に運行中に遅れが発生した場合でも、余裕時分を使って遅延を回復できる確率を高めることができ、定時性を維持する効果に期待できる。
【0059】
また、
図5に示したダイヤ作成処理は、列車20の運行中に遅延が発生した場合に実行されてもよい。この場合、余裕時分配分決定部13は、現時点の残り区間に含まれる各駅間(すなわち、列車20の現在地点から終点駅までの各駅間)を余裕時分の付与対象として、現時点で残っている余裕時分の総時分を当該各駅間に再配分する。そして、ダイヤ作成部14は、各駅間に再配分された余裕時分及び最速時分に基づいて、ダイヤを再作成する。このようにダイヤ作成処理が列車20の運行中に実行されることにより、残っている余裕時分を集めて、省エネ性を考慮しながらも遅延回復効果の高い駅間に優先的に多くの余裕時分を付与するように再配分することで、運行状況に応じた所要時分の再配分が可能となり、以降の運行において余裕時分を使って遅延を回復できる確率を高め、定時性を維持する効果に期待できる。
【符号の説明】
【0060】
1 列車制御システム
10 ダイヤ作成装置
11 エネルギー特性記憶部
12 遅延回復効果記憶部
13 余裕時分配分決定部
14 ダイヤ作成部
20 列車
21 運行制御装置
30 運行管理装置