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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156196
(43)【公開日】2023-10-24
(54)【発明の名称】抗SARS-CoV-2抗体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20231017BHJP
   C07K 16/10 20060101ALI20231017BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20231017BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20231017BHJP
   G01N 33/569 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/10 ZNA
A61K39/395 N
A61P31/14
G01N33/569 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065933
(22)【出願日】2022-04-12
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】516255448
【氏名又は名称】株式会社Epsilon Molecular Engineering
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松村 佑太
(72)【発明者】
【氏名】稲浦 峻亮
(72)【発明者】
【氏名】西口 大貴
(72)【発明者】
【氏名】熊地 重文
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA14
4C085BB11
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】      (修正有)
【課題】SARS-CoV-2のNタンパク質に結合する抗体及びその利用法を提供する。
【解決手段】特定のアミノ酸配列からなる、CDR1~3を含む構造ドメインを1つ以上有する、SARS-CoV-2に結合する抗体を提供する。本発明の抗体は変異株のNタンパク質に対しても普遍的に結合することができることから、当該抗体を用いることにより、変異株を含むSARS-CoV-2の検出、すなわちSARS-CoV-2感染症である急性呼吸器疾患(COVID-19)の迅速な検出が可能となる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)又は(g)で示されるCDRを含む構造ドメインを1つ以上有する、SARS-CoV-2に結合する抗体。
(a)GLTFRTYTMG(配列番号1)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、AITPSGGNTA(配列番号2)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びPWGY(配列番号3)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(b)GFTFSHYFMH(配列番号4)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、TIGSSSTF(配列番号5)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びTLQYYTGLHLNIVGT(配列番号6)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(c)RSISRFNVWA(配列番号7)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、SITKSGDTN(配列番号8)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びAVFRGITLYTY(配列番号9)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(d)GRAFSSYMMG(配列番号10)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、AIGWSTY(配列番号11)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びNHRFTGRVY(配列番号12)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(e)GFTFSVYWMF(配列番号13)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、VINPDGSSTH(配列番号14)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びGISSTMDMDPWISLHY(配列番号15)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(f)ARTIHRIEMG(配列番号16)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、GIRWNNVSTY(配列番号17)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びLALSSDRLGLYAY(配列番号18)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(g)GLTFRTYTMG(配列番号1)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、AITPSGGNTA(配列番号2)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びSGTで示されるアミノ酸配列からなるCDR3
【請求項2】
N-タンパク質に結合する、請求項1記載の抗体。
【請求項3】
VHH抗体、重鎖抗体又はVHH抗体多量体である、請求項1又は2記載の抗体。
【請求項4】
VHH抗体多量体が、前記構造ドメインを複数連結した多量体である請求項3記載の抗体。
【請求項5】
VHH抗体多量体が、前記構造ドメインの1又は複数と、該構造ドメインとは抗原特異性の異なる構造ドメインの1又は複数を連結した多量体である請求項3記載の抗体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項記載の抗体をコードする核酸。
【請求項7】
以下の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)又は(g)で示されるCDRを含む構造ドメインを1つ以上有する、SARS-CoV-2に結合する抗体を被験試料に接触させる工程を含む、試料中のSARS-CoV-2の検出方法。
(a)GLTFRTYTMG(配列番号1)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、AITPSGGNTA(配列番号2)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びPWGY(配列番号3)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(b)GFTFSHYFMH(配列番号4)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、TIGSSSTF(配列番号5)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びTLQYYTGLHLNIVGT(配列番号6)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(c)RSISRFNVWA(配列番号7)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、SITKSGDTN(配列番号8)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びAVFRGITLYTY(配列番号9)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(d)GRAFSSYMMG(配列番号10)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、AIGWSTY(配列番号11)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びNHRFTGRVY(配列番号12)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(e)GFTFSVYWMF(配列番号13)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、VINPDGSSTH(配列番号14)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びGISSTMDMDPWISLHY(配列番号15)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(f)ARTIHRIEMG(配列番号16)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、GIRWNNVSTY(配列番号17)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びLALSSDRLGLYAY(配列番号18)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(g)GLTFRTYTMG(配列番号1)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、AITPSGGNTA(配列番号2)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びSGTで示されるアミノ酸配列からなるCDR3
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項記載の抗体を含有するSARS-CoV-2検出キット。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか1項記載の抗体を含有する医薬。
【請求項10】
SARS-CoV-2感染症の予防又は治療のための請求項9記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はSARS-CoV-2のヌクレオカプシドタンパク質に結合する抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
SARSコロナウイルス-2(Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2,;SARS-CoV-2)は、SARSコロナウイルス(SARS-CoV)やMERSコロナウイルス(MERS-CoV)と同様ベータコロナウイルス属に属し、急性呼吸器疾患(COVID-19)の原因となるSARS関連コロナウイルスである。2019年に中国湖北省武漢市付近で発生が初めて確認され、その後、COVID-19の世界的流行(パンデミック)を引き起こしている。
【0003】
SARS-CoV-2は、そのウイルスゲノムは29,903塩基程度で、一本鎖プラス鎖RNAウイルスである。また、ウイルス粒子(ビリオン)は、50~200nmほどの大きさである。一般的なコロナウイルスと同様に、スパイクタンパク質、ヌクレオカプシドタンパク質、内在性膜タンパク質、エンベロープタンパク質として知られる4つのタンパク質と、RNAより構成されている。このうちヌクレオカプシドタンパク質がRNAと結合してヌクレオカプシドを形成し、脂質と結合したスパイクタンパク質、内在性膜タンパク質、エンベロープタンパク質がその周りを取り囲んでエンベロープを形成する(非特許文献2、3)。
【0004】
SARS-CoV-2のヌクレオカプシドタンパク質(以下、Nタンパク質)は、SARS-CoV-2のRNAゲノムに結合するタンパク質である。ウイルスゲノムのフォールディング・ウイルスタンパク質のアセンブリ・ウイルスの出芽といったウイルス粒子形成に関与するほか、宿主細胞の応答を抑制する機能があることが報告されている(非特許文献4)。
【0005】
COVID-19のウイルス学的診断には主に遺伝子増幅法(PCR)によるSARS-CoV-2の遺伝子検出が行われている。PCR検査は、現時点で使えるウイルス検査の中では最も高感度に検出することができるとされている。また、その他の検出法として、ウイルス表面のタンパク質(例えば、スパイクタンパク質など)の断片を検出する抗原検査も存在する。抗原検査としては、イムノクロマト法やELISA法を原理とした検出キットが既に市販されており、一般的にPCR検査よりも検出感度は劣るものの、所要時間の短さや簡便性の点において優れている。
【0006】
ウイルス検査においては、偽陽性および偽陰性の無い検査法が求められる。偽陽性に関しては標的分子に対しての高い特異性をもつ測定原理であることが重要であり、また、偽陰性に関しては検査法の検出感度が重要となる。また、SARS-CoV-2感染者由来の体液(唾液や咽頭粘液など)や下水中にも、低濃度ながらウイルス構造体の一部が存在しており、これらのウイルスを検出するためには、既存のPCR検査および抗原検査の方法では充分ではない場合もある。そのため、SARS-CoV-2のPCR検査および抗原検査が既に汎用技術となっている一方、SARS-CoV-2をより特異的かつ高感度に検出するための技術開発が強く求められている。
【0007】
SARS-CoV-2のNタンパク質は、そのウイルスを構成するタンパク質の中で最も数の多いタンパク質の一つであることが報告されている(非特許文献4)。Nタンパク質の数は、SARS-CoV-2の表面に露出しているスパイクタンパク質よりも遥かに多いため、SARS-CoV-2の抗原検査では、特に検出感度の点において、標的分子として好ましいタンパク質である。さらに、Nタンパク質はヌクレオカプシドとしてSARS-CoV-2のRNAゲノムと結合した状態で存在する。そのため、例えばNタンパク質を標的とし、選択的かつ強力に結合することができる抗体を開発し、SARS-CoV-2のNタンパク質-RNAゲノム複合体を濃縮すること出来れば、PCR検査においても、より高感度にSARS-CoV-2を検出することが可能になる。また、同様にNタンパク質を濃縮する工程を抗原検査と組み合わせることにより、SARS-CoV-2の抗原検査の高感度化も可能となる。
また、SARS-CoV-2のNタンパク質は、感染細胞内で主に発現するタンパク質の一つであり、強い免疫原性を示す。2002年11月より流行したSARS-CoVのNタンパク質に対するELISA法では、高い特異性で感染初期と見られる患者も診断できたことが報告されている(非特許文献5)。
【0008】
通常の抗体(IgG抗体など)は重鎖と軽鎖の2つの可変領域で抗原と結合するが、ラクダ科動物の血清中から見いだされた重鎖抗体は1つの可変領域のみで結合活性と抗原特異性を示す。この抗体の可変領域はVHH(Variable domain of Heavy chain of Heavy chain antibody) と呼ばれ、抗原に結合できる免疫グロブリンフラグメントとしては最も低分子量(通常の抗体(IgG抗体など)の10分の1程度)とされる(非特許文献6)。VHH抗体の機能面における特徴として、1)通常の抗体同等以上の結合活性を有すること、2)通常の抗体ではアクセスできない部分に入り込めること、3)生理的構造の形成と再生の容易性が高いこと、4)一本鎖のペプチドであるため、非常にシンプルな構造をもつことが挙げられる。特に3)の理由からVHH抗体は熱や圧に対する安定性が非常に高く、また従来は困難であった機能的な抗体の原核生物(大腸菌、枯草菌、コリネ菌など)での大量生産が可能である。また4)の理由より、タンパク質工学や化学修飾による機能の改変がしやすく、抗体薬物複合体(ADC)を作製しやすいという特徴を有する。
【0009】
このように、VHH抗体は通常の抗体(IgG抗体など)と比較して性状面、生産面において多くの利点を有している。そのため、SARS-CoV-2のNタンパク質を標的とするVHH抗体を用いた検出技術は、従来のIgG抗体を用いた技術よりも性能面、価格面において有利に提供できると期待されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】A pneumonia outbreak associated with a new coronavirus of probable bat origin. Nature. 2020 Mar;579(7798):270-273.
【非特許文献2】A new coronavirus associated with human respiratory disease in China. Nature. 2020 Mar;579(7798):265-269.
【非特許文献3】The Coronavirus Nucleocapsid Is a Multifunctional Protein. Viruses. Volume 6、Issue 8、August 2014、Pages 2991-3018.
【非特許文献4】The SARS-CoV nucleocapsid protein: A protein with multifarious activities. Infection, Genetics and Evolution. Volume 8、July 2008、Pages 397-405.
【非特許文献5】Diagnosis of Severe Acute Respiratory Syndrome (SARS) by Detection of SARS Coronavirus Nucleocapsid Antibodies in an Antigen-Capturing Enzyme-Linked Immunosorbent Assay. Journal of Clinical Microbiology. Volume 41、No. 12、December 2003、Pages 5781-5782.
【非特許文献6】The Therapeutic Potential of Nanobodies. BioDrugs. Volume 34、November 2019、Pages 11-26.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、SARS-CoV-2のNタンパク質に結合する抗体及びその利用法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らはSARS-CoV-2のNタンパク質に結合するVHH抗体を得るべく検討した結果、特定のアミノ酸数を有するCDR1~3をコンストラクトに含むVHH抗体ライブラリーから、cDNAディスプレイ法によるスクリーニングにより、SARS-CoV-2のNタンパク質に対して反応性の高いクローンを得ることに成功した。
【0013】
すなわち、本発明は以下の1)~5)に係るものである。
1)以下の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)又は(g)で示されるCDRを含む構造ドメインを1つ以上有する、SARS-CoV-2に結合する抗体。
(a)GLTFRTYTMG(配列番号1)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、AITPSGGNTA(配列番号2)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びPWGY(配列番号3)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(b)GFTFSHYFMH(配列番号4)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、TIGSSSTF(配列番号5)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びTLQYYTGLHLNIVGT(配列番号6)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(c)RSISRFNVWA(配列番号7)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、SITKSGDTN(配列番号8)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びAVFRGITLYTY(配列番号9)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(d)GRAFSSYMMG(配列番号10)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、AIGWSTY(配列番号11)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びNHRFTGRVY(配列番号12)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(e)GFTFSVYWMF(配列番号13)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、VINPDGSSTH(配列番号14)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びGISSTMDMDPWISLHY(配列番号15)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(f)ARTIHRIEMG(配列番号16)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、GIRWNNVSTY(配列番号17)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びLALSSDRLGLYAY(配列番号18)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(g)GLTFRTYTMG(配列番号1)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、AITPSGGNTA(配列番号2)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びSGTで示されるアミノ酸配列からなるCDR3
2)1)の抗体をコードする核酸。
3)以下の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)又は(g)で示されるCDRを含む構造ドメインを1つ以上有する、SARS-CoV-2に結合する抗体を被験試料に接触させる工程を含む、試料中のSARS-CoV-2の検出方法。
(a)GLTFRTYTMG(配列番号1)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、AITPSGGNTA(配列番号2)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びPWGY(配列番号3)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(b)GFTFSHYFMH(配列番号4)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、TIGSSSTF(配列番号5)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びTLQYYTGLHLNIVGT(配列番号6)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(c)RSISRFNVWA(配列番号7)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、SITKSGDTN(配列番号8)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びAVFRGITLYTY(配列番号9)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(d)GRAFSSYMMG(配列番号10)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、AIGWSTY(配列番号11)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びNHRFTGRVY(配列番号12)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(e)GFTFSVYWMF(配列番号13)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、VINPDGSSTH(配列番号14)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びGISSTMDMDPWISLHY(配列番号15)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(f)ARTIHRIEMG(配列番号16)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、GIRWNNVSTY(配列番号17)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びLALSSDRLGLYAY(配列番号18)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(g)GLTFRTYTMG(配列番号1)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、AITPSGGNTA(配列番号2)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びSGTで示されるアミノ酸配列からなるCDR3
4)1)の抗体を含有するSARS-CoV-2検出キット。
5)1)の抗体を含有する医薬。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、反応性の高い抗SARS-CoV-2 Nタンパク質抗体を提供することができる。本発明の抗体は変異株のNタンパク質に対しても普遍的に結合することができることから、当該抗体を用いることにより、変異株を含むSARS-CoV-2の検出、すなわちSARS-CoV-2感染症である急性呼吸器疾患(COVID-19)の迅速な検出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】スクリーニングにより得られたEN2、EN3及びEN4のアミノ酸配列と各CDR変異体のアミノ酸配列のアライメント図。背景が灰色に示されたアミノ酸が変異したアミノ酸を示す。
図2】スクリーニングにより取得されたEN5、EN6、EN11及びEN12のアミノ酸配列と各CDR変異体のアミノ酸配列のアライメント図。背景が灰色に示されたアミノ酸が変異したアミノ酸を示す。
図3】SDS―PAGEによるHisタグ付きEN2、EN3、EN4、EN5、EN6、EN11及びEN12の検出。
図4】ELISA法によるEN2、EN3、EN4、EN5、EN6、EN11及びEN12のコロナウイルスのNタンパク質に対する結合特異性評価。
図5】ELISA法によるEN2、EN3、EN4、EN5、EN6、EN11及びEN12のSARS-CoV-2変異株コロナウイルスのNタンパク質に対する結合特異性評価。
図6】ELISA法によるEN2、EN3、EN4、EN5、EN6、EN11及びEN12のSARS-CoV-2変異株コロナウイルスのNタンパク質に対する結合特異性評価。
図7】ELISA法によるEN2、EN3、EN4、EN5、EN6、EN11及びEN12のSARS-CoV-2オミクロン株コロナウイルスのNタンパク質に対する結合特異性評価。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のSARS-CoV-2に結合する抗体(以下、「本発明の抗体」と称する)は、下記(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)又は(g)で示されるCDR1~3を含む構造ドメインを1つ以上有する、抗SARS-CoV-2抗体である。
(a)GLTFRTYTMG(配列番号1)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、AITPSGGNTA(配列番号2)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びPWGY(配列番号3)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(b)GFTFSHYFMH(配列番号4)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、TIGSSSTF(配列番号5)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びTLQYYTGLHLNIVGT(配列番号6)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(c)RSISRFNVWA(配列番号7)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、SITKSGDTN(配列番号8)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びAVFRGITLYTY(配列番号9)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(d)GRAFSSYMMG(配列番号10)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、AIGWSTY(配列番号11)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びNHRFTGRVY(配列番号12)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(e)GFTFSVYWMF(配列番号13)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、VINPDGSSTH(配列番号14)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びGISSTMDMDPWISLHY(配列番号15)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(f)ARTIHRIEMG(配列番号16)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、GIRWNNVSTY(配列番号17)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びLALSSDRLGLYAY(配列番号18)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(g)GLTFRTYTMG(配列番号1)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、AITPSGGNTA(配列番号2)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びSGTで示されるアミノ酸配列からなるCDR3
【0017】
SARS-CoV-2は、急性呼吸器疾患(COVID-19)の原因となる、SARS関連コロナウイルスであり、そのウイルスゲノムは29,903塩基程度の一本鎖プラス鎖RNAウイルスである。本発明の抗体は、SARS-CoV-2に結合する抗体であるが、詳細には、SARS-CoV-2のNタンパク質に結合する抗体である。
【0018】
本発明の抗体の構造ドメインは、CDR1、CDR2及びCDR3の3つのCDRを有する。CDR(Complementarity Determining Region;相補性決定領域)とは、配列可変な抗原認識部位又はランダム配列領域を含み、超可変領域とも云われる。本発明の抗体の構造ドメインにおいて、3つのCDRは、N末端側からCDR1、CDR2、CDR3の順で存在する。
【0019】
なお、SARS-CoV-2に対する結合能は、当業者に公知の方法により評価できる。具体的には、後述する実施例に示すように、表面プラズモン共鳴法により、平衡乖離定数KDを求めることにより評価できる。また、例えばELISA法、イムノクロマト法、等温滴定カロリメトリー法、バイオレイヤー干渉法等を用いた方法によっても評価できる。
【0020】
本発明の抗体の構造ドメインは、CDR1、CDR2、CDR3の両端にフレームワーク領域を有するものであってもよい。フレームワーク領域とは、抗体分子の可変領域において相補性決定領域を除く領域であり、保存性の高い領域を指す。
すなわち、本発明の構造ドメインは、一態様として、第1フレームワーク領域(FR1)、CDR1、第2フレームワーク領域(FR2)、CDR2、第3フレームワーク領域(FR3)、CDR3及び第4フレームワーク領域(FR4)をこの順に有するものが挙げられる。
構造ドメインにおけるフレームワーク領域のアミノ酸配列としては以下で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列が挙げられる。
FR1:
EVQLVESGGGLVQAGGSQKLSCTTS(配列番号19)
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAAS(配列番号20)
EVQLVESGGGSVQAGGSLRLSCAAS(配列番号21)
EVQLVESGGGLVTAGGSLSLSCAAS(配列番号22)
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAAS(配列番号23)
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLTCVAS(配列番号24)
FR2:
WFRQAPGKEREFVA(配列番号25)
WVRQVPGKGLEWVS(配列番号26)
WYRQAPGKQRELVA(配列番号27)
WVRQAPGKGLEAVS(配列番号28)
FR3:
YADSVKGRFTISRDNAKNTVYLQMNSLKPEDTAVYYCRH(配列番号29)、
YADSVKGRFTISRDNSKSTVYLQMNNLTPEDTAVYYCVG(配列番号30)、
YAESVKGRFTISRDSAKRTVYLQMNSLKPEDTAVYYCNA(配列番号31)、
YDESVKGRFTISRDNAKSTVYLQMNSLKPEDTAVYYCYA(配列番号32)、
YGNSVKGRFTISRDNAKNTVYLQMNSLKPEDTAVYYCIA(配列番号33)、
YGDSVKGRFTISRDHAKNTVYLQMNSLKPEDTAVYYCYA(配列番号34)
YADSVKGRFHISRDKTKNTVDLFIRSLKPEDSGVYYCRA(配列番号35)
FR4:
WGQGTQVTVSS(配列番号36)
WGQGTQVTVTS(配列番号37)
RGQGTQVTVSS(配列番号38)
WGPGTQVTVSE(配列番号39)
【0021】
配列番号19~39で示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるフレームワーク領域としては、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるフレームワーク領域が挙げられる。
【0022】
ここで、アミノ酸配列の同一性とは、2つのアミノ酸配列をアラインメントしたときに両方の配列において同一のアミノ酸残基が存在する位置の数の全長アミノ酸残基数に対する割合(%)をいう。配列の同一性は、例えばNational Center for Biotechnology Information(NCBI)のBLAST(Basic Local Alignment Search Toolを用いて解析を行なうことにより算出できる。
【0023】
本発明の抗体のうち、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4がこの順で連結され、CDR1が配列番号1で示されるアミノ酸配列、CDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列、CDR3が配列番号3で示されるアミノ酸配列であり、FR1が配列番号19で示されるアミノ酸配列、FR2が配列番号25で示されるアミノ酸配列、FR3が配列番号29で示されるアミノ酸配列、FR4が配列番号36で示されるアミノ酸配列である構造ドメイン(配列番号40)を有する抗体、及びCDR1が配列番号4で示されるアミノ酸配列、CDR2が配列番号5で示されるアミノ酸配列、CDR3が配列番号6で示されるアミノ酸配列であり、FR1が配列番号20で示されるアミノ酸配列、FR2が配列番号26で示されるアミノ酸配列、FR3が配列番号30で示されるアミノ酸配列、FR4が配列番号37で示されるアミノ酸配列である構造ドメイン(配列番号41)を有する抗体、及びCDR1が配列番号7で示されるアミノ酸配列、CDR2が配列番号8で示されるアミノ酸配列、CDR3が配列番号9で示されるアミノ酸配列であり、FR1が配列番号21で示されるアミノ酸配列、FR2が配列番号27で示されるアミノ酸配列、FR3が配列番号31で示されるアミノ酸配列、FR4が配列番号38で示されるアミノ酸配列である構造ドメイン(配列番号42)を有する抗体、及びCDR1が配列番号10で示されるアミノ酸配列、CDR2が配列番号11で示されるアミノ酸配列、CDR3が配列番号12で示されるアミノ酸配列であり、FR1が配列番号22)で示されるアミノ酸配列、FR2が配列番号25で示されるアミノ酸配列、FR3が配列番号32で示されるアミノ酸配列、FR4が配列番号36で示されるアミノ酸配列である構造ドメイン(配列番号43)を有する抗体、及びCDR1が配列番号13で示されるアミノ酸配列、CDR2が配列番号14で示されるアミノ酸配列、CDR3が配列番号15で示されるアミノ酸配列であり、FR1が配列番号23で示されるアミノ酸配列、FR2が配列番号28で示されるアミノ酸配列、FR3が配列番号33で示されるアミノ酸配列、FR4が配列番号36で示されるアミノ酸配列である構造ドメイン(配列番号44)を有する抗体、及びCDR1が配列番号16で示されるアミノ酸配列、CDR2が配列番号17で示されるアミノ酸配列、CDR3が配列番号18で示されるアミノ酸配列であり、FR1が配列番号24で示されるアミノ酸配列、FR2が配列番号25で示されるアミノ酸配列、FR3が配列番号34で示されるアミノ酸配列、FR4が配列番号36で示されるアミノ酸配列である構造ドメイン(配列番号45)を有する抗体、及びCDR1が配列番号1で示されるアミノ酸配列、CDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列、CDR3がSGTで示されるアミノ酸配列であり、FR1が配列番号19で示されるアミノ酸配列、FR2が配列番号25で示されるアミノ酸配列、FR3が配列番号35で示されるアミノ酸配列、FR4が配列番号39で示されるアミノ酸配列である構造ドメイン(配列番号46)を有する抗体は、それぞれ、後述する実施例において、cDNAディスプレイ法によるスクリーニングにより得られた、SARS-CoV-2に反応性の高いクローン(配列番号40がEN2、配列番号41がEN3、配列番号42がEN4、配列番号43がEN5、配列番号44がEN6、配列番号45がEN11、配列番号46がEN12である。)であり、好適な抗SARS-CoV-2抗体である。
【0024】
本発明の抗体は、上記の構造ドメインを少なくとも1つ有するものであればその形態は限定されず、VHH抗体のようなシングルドメイン抗体(ナノボディーとも呼ばれる)の他、一本鎖抗体、重鎖抗体、可変領域断片をペプチドリンカーなどで結合させた多量体、例えば二量体、更には、可変領域断片と抗原特異性の異なる可変領域断片の1または複数を連結した多量体であってもよい。
また、本発明の抗体はヒト化されていてもよい。ヒト化された抗体は、ヒトに投与することが可能であるため、医薬として応用することができる。
【0025】
本発明の抗体の作製方法は特に限定されず、当該技術分野における公知技術により容易に作製することができる。例えば、ペプチド固相合成法とネイティブ・ケミカル・リゲーション(Native Chemical Ligation;NCL)法を組み合わせて作製することや遺伝子工学的に作製することができるが、本発明の抗体をコードする核酸をコドン最適化などの工程を経ることにより宿主細胞における目的の抗体の発現に最適化された人工遺伝子を設計し、適当なベクターに組み込んで、これを宿主細胞に導入し、組換え抗体として産生させる方法が好ましい。
【0026】
組換え抗体として産生において使用される宿主細胞としては、例えば、大腸菌、枯草菌、カビ、動物細胞、植物細胞、バキュロウイルス/昆虫細胞または酵母細胞等が挙げられる。 抗体を発現させるための発現用ベクターは、各種宿主細胞に適したベクターを用いることができる。発現ベクターとしては、例えば、pBR322、pBR325、pUC12、pUC13等の大腸菌由来のベクター;pUB110、pTP5、pC194等の枯草菌由来のベクター;pHY300PLK等の大腸菌と枯草菌で共用することができるシャトルベクター;pSH19、pSH15等の酵母由来ベクター;λファージ等のバクテリオファージ;アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス等のウイルス;及びこれらを改変したベクター等を用いることができる。
これらの発現ベクターは、各々のベクターに適した、複製開始点、選択マーカー及びプロモーターを有しており、必要に応じて、エンハンサー、転写集結配列(ターミネーター)、リボソーム結合部位及びポリアデニル化シグナル等を有していてもよい。さらに、発現ベクターには、発現したポリペプチドの精製を容易にするため、FLAGタグ、Hisタグ、HAタグ及びGSTタグなどを融合させて発現させるための塩基配列が挿入されていてもよい。
【0027】
発現させた本発明の抗体を培養菌体または培養細胞から抽出する際には、培養後、公知の方法で菌体または培養細胞を集め、これを適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチーム及び/または凍結融解などによって菌体または細胞を破壊したのち、遠心分離や濾過により、可溶性抽出液を取得する。得られた抽出液から、公知の分離・精製法を適切に組み合わせて目的の抗体を取得することができる。
公知の分離、精製法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法、透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、SDS-PAGE等の主として分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーなどの電荷の差を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法または等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法などが用いられる。
【0028】
本発明の抗体は、SARS-CoV-2のNタンパク質に結合することから、これを、SARS-CoV-2を含有するか、または含有する可能性のある被験試料と接触させることによって、当該試料中にSARS-CoV-2が存在すること、あるいは存在しないことを確認できる。
具体的には、本発明の抗体を用いたSARS-CoV-2の検出は、本発明の抗体と、被験試料とを接触させ、本発明の抗体と前記被験試料中のSARS-CoV-2との結合体を形成させる工程と、前記結合体中のSARS-CoV-2を検出する工程、を備えてなる。
また、本発明の抗体は、血清中のウイルス特異的抗体の検出において、固定化した被験試料(血清)中に含まれる抗SARS-CoV-2抗体(例えば血清抗体)に対して、SARS-CoV-2のNタンパク質を含む抗原の一部を添加して結合させ、当該結合体状態にあるSARS-CoV-2抗原の存在を確認する抗体として使用することもできる。
【0029】
被験試料としては、気管スワブ、鼻腔拭い液,咽頭拭い液、鼻腔洗浄液、鼻腔吸引液、鼻汁鼻かみ液、唾液、痰、血液、血清、尿、糞便、組織、細胞、組織又は細胞の破砕物等の生体試料の他、ウイルスが付着している可能性のある固体表面、例えばドアノブ、便器等から採取された試料が挙げられる。被験試料は、Nタンパク質への結合の点から、被験試料中のウイルスを界面活性剤等を含む溶液で溶解し、当該溶液中で抗体と結合させるのが好ましい。抗体は固相に固定されていてもよく、固相に固定されていなくてもよい。
上記の結合体中のSARS-CoV-2を検出する工程は、例えば、上記の結合体に、結合体中の本発明の抗体とは異なるエピトープを認識する、抗SARS-CoV-2抗体を反応させることにより行うことができる。或いは、ホモジニアスアッセイにより、液相中で上記の結合体中のSARS-CoV-2を検出してもよい。
【0030】
また、本発明の抗体は、SARS-CoV-2検出用キットの構成成分となり得る。当該キットは、SARS-CoV-2感染症(COVID-19)の診断薬として、またSARS-CoV-2感染症治療薬の開発用のツールとして使用可能である。
当該検出キットは、本発明の抗SARS-CoV-2抗体の他、検出に必要な試薬及び器具、例えば本発明の抗体を認識する抗体又は本発明の抗体とは異なるエピトープを認識するNタンパク質抗体、固相担体、緩衝液、酵素反応停止液、マイクロプレートリーダー等を含むことができる。
当該検出キットにおいて、本発明の抗体は固相に固定されていてもよい。固相としては、例えば、ビーズ、膜、反応容器の側面や底面、スライドガラス等の板状基板、イムノプレート等のウェル基板等が挙げられ、本発明の抗体が直接的又は間接的に固定される。
【0031】
また、本発明の抗体は、細胞膜透過性ペプチドを導入する等して細胞内に移行させることで、SARS-CoV-2のNタンパク質に結合し、細胞内でのウイルスの複製を阻害することが考えられる。したがって、本発明の抗体は、哺乳動物に投与し、SARS-CoV-2感染症の予防又は治療するための医薬として利用することも可能である。哺乳動物としては、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、サル、ウシ、ウマ、ブタ等が挙げられるが、ヒトが好ましい。
本発明の抗体を医薬として用いる場合には、その態様は、経口、非経口のいずれでもよく、適宜、周知の薬学的に許容可能な無毒性の担体、希釈剤と組み合わせて用いることができる。非経口投与としては、典型的には注射剤が挙げられるが、噴霧剤等と共に吸入による投与も可能である。
【0032】
斯かる医薬において、その組成物中における本発明の抗体の含有量は適宜調整できる。
また、斯かる医薬は、本発明の抗体として、有効量を1週間に1~数回程度の間隔で患者に投与することにより適用することができる。この場合の投与方法としては、好適には静脈注射、点滴等が挙げられる。
【0033】
本発明においては上述した実施形態に関し、さらに以下の態様が開示される。
<1>以下の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)又は(g)で示されるCDRを含む構造ドメインを1つ以上有する、SARS-CoV-2に結合する抗体。
(a)GLTFRTYTMG(配列番号1)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、AITPSGGNTA(配列番号2)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びPWGY(配列番号3)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(b)GFTFSHYFMH(配列番号4)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、TIGSSSTF(配列番号5)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びTLQYYTGLHLNIVGT(配列番号6)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(c)RSISRFNVWA(配列番号7)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、SITKSGDTN(配列番号8)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びAVFRGITLYTY(配列番号9)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(d)GRAFSSYMMG(配列番号10)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、AIGWSTY(配列番号11)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びNHRFTGRVY(配列番号12)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(e)GFTFSVYWMF(配列番号13)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、VINPDGSSTH(配列番号14)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びGISSTMDMDPWISLHY(配列番号15)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(f)ARTIHRIEMG(配列番号16)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、GIRWNNVSTY(配列番号17)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びLALSSDRLGLYAY(配列番号18)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(g)GLTFRTYTMG(配列番号1)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、AITPSGGNTA(配列番号2)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びSGTで示されるアミノ酸配列からなるCDR3
<2>N-タンパク質に結合する、<1>の抗体。
<3>VHH抗体、重鎖抗体又はVHH抗体多量体である、<1>又は<2>の抗体。
<4>VHH抗体多量体が、前記構造ドメインを複数連結した多量体である<3>の抗体。
<5>VHH抗体多量体が、前記構造ドメインを2つ連結した二量体である<3>の抗体。
<6>VHH抗体多量体が、前記構造ドメインの1又は複数と、該構造ドメインとは抗原特異性の異なる構造ドメインの1又は複数を連結した多量体である<3>の抗体。
【0034】
<7>構造ドメインが、第1フレームワーク領域(FR1)、CDR1、第2フレームワーク領域(FR2)、CDR2、第3フレームワーク領域(FR3)、CDR3及び第4フレームワーク領域(FR4)をこの順に有するものである、<1>~<9>のいずれかの抗体。
<8>FR1~FR4が以下のアミノ酸配列からなる、<7>の抗体。
FR1:配列番号19、20、21、22、23又は24で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
FR2:配列番号25、26、27又は28で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
FR3:配列番号29、30、31、32、33、34又は35で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
FR4:配列番号36、37、38又は39で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
<9>FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4がこの順で連結され、CDR1が配列番号1で示されるアミノ酸配列、CDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列、CDR3が配列番号3で示されるアミノ酸配列であり、FR1が配列番号19で示されるアミノ酸配列、FR2が配列番号25で示されるアミノ酸配列、FR3が配列番号29で示されるアミノ酸配列、FR4が配列番号36で示されるアミノ酸配列である構造ドメイン(配列番号40)を有する、<7>の抗体。
<10>FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4がこの順で連結され、CDR1が配列番号4で示されるアミノ酸配列、CDR2が配列番号5で示されるアミノ酸配列、CDR3が配列番号6で示されるアミノ酸配列であり、FR1が配列番号20で示されるアミノ酸配列、FR2が配列番号26で示されるアミノ酸配列、FR3が配列番号30で示されるアミノ酸配列、FR4が配列番号37で示されるアミノ酸配列である構造ドメイン(配列番号41)を有する、<7>の抗体。
<11>FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4がこの順で連結され、CDR1が配列番号7で示されるアミノ酸配列、CDR2が配列番号8で示されるアミノ酸配列、CDR3が配列番号9で示されるアミノ酸配列であり、FR1が配列番号21で示されるアミノ酸配列、FR2が配列番号27で示されるアミノ酸配列、FR3が配列番号31で示されるアミノ酸配列、FR4が配列番号38で示されるアミノ酸配列である構造ドメイン(配列番号42)を有する、<7>の抗体。
<12>FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4がこの順で連結され、CDR1が配列番号10で示されるアミノ酸配列、CDR2が配列番号11で示されるアミノ酸配列、CDR3が配列番号12で示されるアミノ酸配列であり、FR1が配列番号22で示されるアミノ酸配列、FR2が配列番号25で示されるアミノ酸配列、FR3が配列番号32で示されるアミノ酸配列、FR4が配列番号36で示されるアミノ酸配列である構造ドメイン(配列番号43)を有する、<7>の抗体。
<13>FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4がこの順で連結され、CDR1が配列番号13で示されるアミノ酸配列、CDR2が配列番号14で示されるアミノ酸配列、CDR3が配列番号15で示されるアミノ酸配列であり、FR1が配列番号23で示されるアミノ酸配列、FR2が配列番号28で示されるアミノ酸配列、FR3が配列番号33で示されるアミノ酸配列、FR4が配列番号36で示されるアミノ酸配列である構造ドメイン(配列番号44)を有する、<7>の抗体。
<14>FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4がこの順で連結され、CDR1が配列番号16で示されるアミノ酸配列、CDR2が配列番号17で示されるアミノ酸配列、CDR3が配列番号18で示されるアミノ酸配列であり、FR1が配列番号24で示されるアミノ酸配列、FR2が配列番号25で示されるアミノ酸配列、FR3が配列番号34で示されるアミノ酸配列、FR4が配列番号36で示されるアミノ酸配列である構造ドメイン(配列番号45)を有する、<7>の抗体。
<15>FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4がこの順で連結され、CDR1が配列番号1で示されるアミノ酸配列、CDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列、CDR3がSGTで示されるアミノ酸配列であり、FR1が配列番号19で示されるアミノ酸配列、FR2が配列番号25で示されるアミノ酸配列、FR3が配列番号35で示されるアミノ酸配列、FR4が配列番号39で示されるアミノ酸配列である構造ドメイン(配列番号46)を有する、<7>の抗体。
<16><1>の抗体をコードする核酸。
<17>以下の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)又は(g)で示されるCDRを含む構造ドメインを1つ以上有する、SARS-CoV-2に結合する抗体を被験試料に接触させる工程を含む、試料中のSARS-CoV-2の検出方法。
(a)GLTFRTYTMG(配列番号1)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、AITPSGGNTA(配列番号2)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びPWGY(配列番号3)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(b)GFTFSHYFMH(配列番号4)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、TIGSSSTF(配列番号5)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びTLQYYTGLHLNIVGT(配列番号6)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(c)RSISRFNVWA(配列番号7)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、SITKSGDTN(配列番号8)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びAVFRGITLYTY(配列番号9)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(d)GRAFSSYMMG(配列番号10)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、AIGWSTY(配列番号11)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びNHRFTGRVY(配列番号12)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(e)GFTFSVYWMF(配列番号13)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、VINPDGSSTH(配列番号14)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びGISSTMDMDPWISLHY(配列番号15)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(f)ARTIHRIEMG(配列番号16)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、GIRWNNVSTY(配列番号17)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びLALSSDRLGLYAY(配列番号18)で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(g)GLTFRTYTMG(配列番号1)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、AITPSGGNTA(配列番号2)で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及びSGTで示されるアミノ酸配列からなるCDR3
<18><1>~<15>のいずれかの抗体を含有するSARS-CoV-2検出キット。
<19><1>~<15>のいずれかの抗体を含有する医薬。
<20>SARS-CoV-2感染症の予防又は治療のための<1>~<15>のいずれかの抗体を含有する医薬。
【実施例0035】
(実施例1)VHH提示cDNAディスプレイ調整用のcDNA作製
完全長アルパカ由来抗体の可変領域断片(single Variable domain of the Heavy chain of a Heavy-chain antibody:VHH)コード化DNAライブラリの作製
RePHAGEN社より提供されている2種類のアルパカ由来ナイーブVHHライブラリ遺伝子であるSヒンジ及びLヒンジを鋳型として、SヒンジVHH特異的プライマーペア(配列番号47、48)及びLヒンジVHH特異的プライマーペア(配列番号47、49)にてPCRで増幅した後、T7プロモーター、オメガ(ω)エンハンサー、コザックコンセンサス配列、VHH遺伝子、Hisタグ、およびリンカーハイブリダイゼーション領域(Yタグ)からなるDNA断片へと調整するため、オーバーラップPCR用プライマー(配列番号50、51)を用いて伸長PCRを行って伸長させ、全長VHHコード化DNAライブラリーを作製した。
【0036】
(実施例2)cDNAディスプレイの作製
それぞれのcDNAディスプレイを以下の(1)~(5)の手順に従い、調製した。使用するバッファーは表1に記載した。
【0037】
【表1】
【0038】
(1)転写
実施例1で作製した全長VHHコード化DNAライブラリーを、T7 RiboMAX Express Large Scale RNA Production System(Promega社製)を使用し、添付されたマニュアルに従って転写した。使用したDNA量は6.6μgとした。その後のセレクション毎のDNA量は、2ndラウンド以降は0.1~1μgとした。得られた転写産物は、RNAClean XP(Beckman Coulter社製)を使用し、添付されたマニュアルに従って精製した。精製産物はNanoPad DS-11FX(DeNovix)により濃度定量した。
【0039】
(2)ライゲーション
精製した20pmol mRNA及び20pmol ピューロマイシン・リンカーであるcnvK riboG リンカー(Epsilon Molecular Engineering社製)に、NaCl(終濃度 0.2M)及びTris-HCl(pH7.5、終濃度 0.05M)を加え、90℃で1分間インキュベートした。その後、0.1℃/秒の速度で70℃まで降温させ、70℃で1分間インキュベートした。次いで、0.1℃/秒の速度で25℃まで降温させ、2℃/秒の速度で10℃まで降温させ、cnvKリンカーをmRNAの3'末端側にハイブリダイズさせた。
その後、UVP CrossLinker(CL―3000),365nm,100―115V (Analytik Jena)を使用して、365nmのUVを4060 mJ/cm照射し、cnvKリンカーとmRNAを光架橋させ、mRNA-リンカー複合体を得た。
【0040】
(3)mRNAディスプレイの調製
6pmolのmRNA-リンカー複合体を、50μLスケールの無細胞翻訳系(Rabbit reticulocyte Lysate(nuclease-treated)、Promega社製)を用いて、30℃で30分間インキュベートした。次いで、MgCL及びKCLをそれぞれ最終濃度75mM、900mMとなるように加えて37℃で1時間インキュベートし、mRNA-リンカー上のピューロマイシンにmRNAに対応するペプチドをディスプレイした。次いで、EDTA(pH8.0)を最終濃度70mM になるように加えて、4℃で5分間インキュベートし、mRNAディスプレイを調製した。
【0041】
(4)cDNAディスプレイの調製
Protein Lobind Tubeに、Dynabeads Myone streptavidin C1(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を60μL入れ、200μLの結合バッファーで洗浄した後、上記(1)-(4)の方法で調製したmRNAディスプレイを加え、25℃で30分間撹拌した。200μLの結合バッファーで洗浄し後、表2に示す組成の反応液中にて42℃,30分間インキュベートすることで逆転写反応を行い、mRNA/cDNA―VHH連結体を調製した。200μLの結合バッファーで洗浄後、39μLのHisタグ結合/洗浄バッファーと、1μLの1,000U/μLのRNase T1とを加え37℃15分撹拌することによってmRNA/cDNA―VHH連結体(cDNAディスプレイ)をDynabeads Myone streptavidin C1から溶出した。
【0042】
【表2】
【0043】
(5)cDNAディスプレイの精製
エッペンドルフチューブにHis Mag Sepharose Ni Beads (GE Health Care)を30μL入れ、200μLのHisタグ結合/洗浄バッファーで洗浄した後、上記(1)-(5)の方法で調製したcDNAディスプレイを加え、25℃で30分間撹拌した。200μLのHisタグ結合/洗浄バッファーで洗浄後、30μLのHisタグ溶出バッファーを加え37℃15分撹拌することによってcDNAディスプレイを溶出した。
【0044】
(実施例3)VHHのセレクション
(1)試験管内淘汰実験
実施例2で取得したライブラリから調製したcDNAディスプレイを用いて、セレクションを行った。各セレクションラウンドで使用したVHH提示cDNAディスプレイライブラリの合成スケールを表3に示す。
【0045】
【表3】
【0046】
(1-1) セレクションサイクル1(R(ラウンド)1)のスクリーニング手順
SARS―CoV2(2019―nCoV) Nucleocapsid―His Recombinant Protein, BiotinyLated (SinoBioLogicaL)(以降、ビオチン化Nタンパク質と記す)をDynabeads Myone streptavidin C1に加え4℃、30分間転倒混和し、SARS―CoV2 Nucleocapsid固層化ビーズを作製した。実施例2と同様の方法で表3の合成スケールで調製したcDNAディスプレイを、5mg/mLのヘパリンナトリウムを含むPBS―Tで200μLに希釈後、100μLを50pmol分のビオチン化Nタンパク質が固層化されたビーズに加え4℃、30分間転倒混和した。
残りの100μLのcDNAディスプレイ溶液を50pmolのビオチン化Nタンパク質と混合し、4℃、30分間転倒混和した。その後、混合液をDynabeads Myone streptavidin C1に加え4℃、30分間転倒混和してcDNAディスプレイ―Nタンパク質複合体を含むビオチン化Nタンパク質をビーズに固定した。ビーズをすべて1つにまとめた後、PBS-Tで4回洗浄した。その後、結合しているcDNAディスプレイを回収し、AMpure XP(Beckman Coulter社製)を使用し、添付されたマニュアルに従って精製した。
精製した溶液はcnvK NewYtag for poly A(配列番号52)とT7 omeganew(配列番号53)をプライマーとして用いて、PrimeSTAR Max(タカラバイオ)によりアニーリング温度65℃、伸長反応10秒の条件でPCRを行った後、PCR産物を4%変性PAGEで解析した。
PCR産物をAMpure XPを使用し、添付されたマニュアルに従って精製したあと、得られた精製物R1ライブラリをセレクションの2ndラウンドに供した。
【0047】
(1-2)セレクションサイクル2(R2)のスクリーニング手順
R1ライブラリから上記と同様の方法によりcDNAディスプレイライブラリを表3の合成スケールで調製し、50μLの5mg/mLのヘパリンナトリウムを含むPBS―Tで希釈し、20μL分のDynabeads Myone streptavidin T1(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)に加え4℃、30分間転倒混和した。その上清を、10pmol分のビオチン化Nタンパク質と混合し、室温で60分間転倒混和した。混合液を20μL分のDynabeads Myone streptavidin T1に加え4℃、30分間転倒混和してcDNAディスプレイ―Nタンパク質複合体を含むビオチン化Nタンパク質をビーズに固定した。ビーズを200μLのPBS―Tで4回洗浄後、結合しているcDNAディスプレイを回収し、AMpure XP(Beckman Coulter社製)を使用し、添付されたマニュアルに従って精製した。精製液を実施例3の(1-1)と同等の条件でPCR反応させ、AMpure XPを使用し、添付されたマニュアルに従って精製しR2ライブラリとした。
【0048】
(1-3)セレクションサイクル(R3)のスクリーニング手順
R2ライブラリから上記と同様の方法によりcDNAディスプレイライブラリを表3の合成スケールで調製し、50μLの5mg/mLのヘパリンナトリウムを含むPBS―Tで希釈し、20μL分のDynabeads Myone streptavidin C1(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)に加え4℃、30分間転倒混和した。その上清の半量を、10pmol分のビオチン化Nタンパク質と混合し、室温で60分間転倒混和した。混合液を20μL分のDynabeads Myone streptavidin T1に加えcDNAディスプレイ―Nタンパク質複合体を含むビオチン化Nタンパク質を4℃、30分間転倒混和してビーズに固定した。ビーズを200μLのPBS―Tで3回洗浄後、20μLのPBSTを加え25℃、30分間転倒混和して洗浄した。その後、結合しているcDNAディスプレイを回収し、AMpure XP(Beckman Coulter社製)を使用し、添付されたマニュアルに従って精製した。精製液を実施例3の(1-1)と同等の条件でPCR反応させ、AMpure XPを使用し、添付されたマニュアルに従って精製しR3ライブラリとした。
【0049】
(1-4)セレクションサイクル4(R4)のスクリーニング手順
R3ライブラリから上記と同様の方法によりcDNAディスプレイライブラリを表3の合成スケールで調製し、50μLの5mg/mLのヘパリンナトリウムを含むPBS―Tで希釈し、20μL分のDynabeads Myone streptavidin C1(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)に加え4℃、30分間転倒混和した。その上清の半量を、5pmol分のビオチン化Nタンパク質と混合してPositine溶液、残りの半分は何も加えずにNegative溶液として、それぞれを室温で30分間転倒混和した。それぞれの混合液を20μL分のDynabeads Myone streptavidin T1に加えcDNAディスプレイ―Nタンパク質複合体を含むビオチン化Nタンパク質を4℃、30分間転倒混和してビーズに固定した。それぞれのビーズを1μMビオチンを含む200μLのPBSTで3回洗浄後、1μMのビオチン、12.5pmolビオチン化Nタンパク質を含む20μLのPBSTを加え25℃、5分間転倒混和して洗浄した。その後、12.5pmolビオチン化Nタンパク質を含む20μLのPBSTを加え、25℃、60分間転倒混和して競合溶出した。その後、結合しているcDNAディスプレイを回収し、それぞれの溶液をAMpure XP(Beckman Coulter社製)で、添付されたマニュアルに従って精製した。それぞれの精製液を実施例3の(1-1)と同等の条件でPCR反応させ、AMpure XPを使用し、添付されたマニュアルに従って精製しR4ライブラリとした。
【0050】
(2)次世代シーケンサー解析
試験管内淘汰サイクルによるDNAライブラリの収束度を詳細に確かめるために、次世代シーケンサー(NGS)を利用したシーケンス解析を行った。シーケンスサンプルの調製は、イルミナ社が提供している2-step PCR Amplicon Library Preparationの方法を参考に実施した。最初に、各セレクション後のPCR産物を鋳型として、NGS Fw 1st PCR primer(配列番号54)、NGS Rv 1st PCR primer(配列番号55)をプライマーとしてを用いて、Amplicon PCRを行った。PCR条件は、98℃で1分間の後、98℃で10秒間、62℃で5秒間、72℃で35秒を15サイクル、そして72℃で1分間の条件で行った。得られたPCR産物をAgencourt AMPure XPの説明書に従って精製した後、イルミナ社の説明書に従いIndex PCRを行った。得られたPCR産物をAgencourt AMPure XPの説明書に従って精製した後、NanoPad DS-11FX(DeNovix)により濃度定量し、イルミナ社の説明書に従いMiSeq(イルミナ社製)及びMiSeq Reagent Nano kit v2(500サイクル)を用いて配列解析を実施した。
【0051】
得られたDNA配列をVHHのアミノ酸配列に翻訳し、出現頻度で順位付けした。その結果、表4がNタンパク質との親和性が高い代表的なVHHとして選抜された。さらに、R4のセレクション工程を経たライブラリを解析した結果、EN2、EN3、EN4、EN5、EN6、EN11及びEN12のCDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列において、アミノ酸配列の変異(置換、挿入、欠損を含む)を含むVHHが選抜された(これらのVHHをCDR変異体と呼ぶ。)。EN2(配列番号40)のCDR変異体として配列番号77~98、EN3(配列番号41)のCDR変異体として配列番号99~106、EN4(配列番号42)のCDR変異体として配列番号107~119、EN5(配列番号43)のCDR変異体として配列番号120~126、EN6(配列番号44)のCDR変異体として配列番号127~134、EN11(配列番号45)のCDR変異体として配列番号135、EN12(配列番号46)のCDR変異体として配列番号136~150が選抜された(図1及び図2)。これらのCDR変異体もセレクションの工程を経て選抜されたVHHであることから、SARS-CoV-2のNタンパク質に対して結合活性を示す可能性が高いと考えられる。
【0052】
【表4】
【0053】
(実施例4) プロテアーゼ欠損組換え枯草菌によるVHHの生産
(1)遺伝子の人工合成
合成されるVHHのアミノ酸配列には、表4に記載される各VHHのアミノ酸配列のC末端側にリンカー配列を介したHisタグ配列(配列番号56)を付与した。これにより合成されるVHHをHisタグ付きEN2(配列番号57)、Hisタグ付きEN3(配列番号58)、Hisタグ付きEN4(配列番号59)、Hisタグ付きEN5(配列番号60)、Hisタグ付きEN6(配列番号61)、Hisタグ付きEN11(配列番号62)、Hisタグ付きEN12(配列番号63)と呼ぶ。尚、これら配列番号56~63で示されるVHHをHisタグ付きVHHと総称する。これらHisタグ付きVHHを合成するための人工合成遺伝子として、Hisタグ付きEN2用人工合成遺伝子(配列番号64)、Hisタグ付きEN3用人工合成遺伝子(配列番号65)、Hisタグ付きEN4用人工合成遺伝子(配列番号66)、Hisタグ付きEN5用人工合成遺伝子(配列番号67)、Hisタグ付きEN6用人工合成遺伝子(配列番号68)、Hisタグ付きEN11用人工合成遺伝子(配列番号69)、Hisタグ付きEN12用人工合成遺伝子(配列番号70)を合成し、実験に供した。
【0054】
(2)VHH発現用プラスミドの構築
pHY300PLKをベースとして作製された組換え プラスミドpHY-S237(特開2014-158430)をテンプレートとし、5’-GATCCCCGGGAATTCCTGTTATAAAAAAAGG-3’(配列番号71)と5’-ATGATGTTAAGAAAGAAAACAAAGCAG-3’(配列番号72)のプライマーセットとPrimeSTAR Max DNAポリメラーゼ(TaKaRa)を用いたPCRによりプラスミド配列を増幅した。168株のゲノムをテンプレートとし、5’-GAATTCCCGGGGATCTAAGAAAAGTGATTCTGGGAGAG-3’(配列番号73)と5’-CTTTCTTAACATCATAGTAGTTCACCACCTTTTCCC-3’(配列番号74)のプライマーセットを用いたPCRによりspoVG遺伝子由来のプロモーターDNAを増幅した。得られたプロモーターDNAを、In-Fusion HD Cloning Kit(Takara)を用いてプラスミド配列に組み込み、spoVGプロモーターと連結されたVHH発現用プラスミドを構築した。5’-TGCTGCAAGAGCTGCCGGAAATAAA-3’(配列番号75)及び5’-TCTATTAAACTAGTTATAGGG-3’(配列番号76)のプライマーセットとPrimeSTAR Max DNAポリメラーゼ(TaKaRa)を用いたPCRによりプラスミド配列を増幅した。得られたPCR断片に人工合成遺伝子を含むDNAをIn-Fusion HD Cloning Kit(Takara)を用いて組み込み、人工合成VHH遺伝子の各々を含むVHH発現用プラスミドを構築した。
【0055】
(3)組換え枯草菌の作製
Bacillus subtilis 168株(以下、168株という)から、特許第4485341号に記載されている方法に従って、細胞外プロテアーゼ遺伝子(epr、wprA、mpr、nprB、bpr、nprE、vpr、aprE、aprX)の欠損株を作製した。また、特許第4336082に記載されている方法に従い、上記9種の細胞外プロテアーゼ遺伝子を全て欠損している枯草菌株Dpr9から、胞子形成に関与するsigF遺伝子を欠損させた。得られた細胞外プロテアーゼ多重欠損株をDpr9ΔsigFと記載する。
Dpr9ΔsigF株へのプラスミド導入は以下に示すプロトプラスト法によって行った。1mLのLB液体培地にグリセロールストックした枯草菌を植菌し、30℃、210rpmで一晩振とう培養した。翌日、新たな1mLのLB液体培地にこの培養液を10μL植菌し、37℃、210rpmで約2時間振とう培養した。この培養液を1.5mLチューブに回収し、1,2000rpmで5分間遠心し、上清を除去したペレットをLysozyme(SIGMA)4mg/mLを含むSMMP(0.5Mシュークロース、20mMマレイン酸二ナトリウム、20mM塩化マグネシウム6水塩、35%(w/v)Antibiotic medium 3(Difco))500μLに懸濁し、37℃で1時間インキュベートした。次いで、3,500rpmで10分間遠心し、上清を除去したペレットをSMMP400μLに懸濁した。この懸濁液33μLを各種プラスミドと混合し、さらに40%PEGを100μL添加してボルテックスした。この液にSMMPを350μL加えて転倒混和し、30℃、210rpmで1時間振とうした後、DM3寒天培地プレートに全量塗布し、30℃で2~3日間インキュベートした。
【0056】
(4)VHH産生
(3)で作製した組換え枯草菌を1mLの50ppmテトラサイクリンを含むLB培地に植菌し、30℃で一晩往復振とうし、前培養液とした。前培養液をひだ付き三角フラスコに入れた20mLの2×L-mal培地に1%接種し、30℃で72時間振とう培養した。培養終了時に1mLの培養液をマイクロチューブにて4℃、15,000rpm、5分間遠心し、上清を回収した。Hisタグ付きVHHについてはNi-NTAアガロースビーズ(富士フィルム和光純薬)を用い、キットのプロトコルに従って精製した。精製後のタンパク質は30mM イミダゾール含有PBSに溶解した。
【0057】
(5)SDS-PAGEによる確認
(4)で回収したサンプルとLaemmli Sample Buffer(BIO-RAD)を等量混和後、99℃で5分間熱処理してサンプルを調製した。ゲルはMini-PROTEIN TGX Stain-Free(BIO-RAD)を用いた。各ウェルに5μLのサンプルをアプライし、210Vで25分間泳動した。分子量マーカーにはPrecision Plus protein Unstained standard(BIO-RAD)を用いた。ChemiDoc MP Imaging Systemでタンパク質のバンドを検出した。リゾチーム標品(Sigma-Aldrich)をもとに作成した検量線によって検出したタンパク質を定量した。その結果、目的とするHisタグ付きVHHが合成されていることが確認された(図3)。
【0058】
(実施例5)ELISA法による結合特異性の評価
F96 Cert.Maxisorp Nunc-Immuno(商標)Plate(Thermo Fisher Scientific)の各ウェルに50μLの10μg/mL SARS-CoV-2(2019-nCoV)Nucleocapsid-His Recombinant Protein(Hisタグ付きNタンパク質)、Human coronavirus(HCoV-229E)Nucleoprotein/NP Protein(His Tag)(Hisタグ付きNタンパク質)、Human coronavirus(HCoV-NL63)Nucleoprotein/NP Protein(His Tag)(Hisタグ付きNタンパク質)、Human coronavirus(HCoV-HKU1)Nucleoprotein/NP Protein(His Tag)(Hisタグ付きNタンパク質)、Human coronavirus(HCoV-OC43)Nucleoprotein/NP Protein(His Tag)(Hisタグ付きNタンパク質)(いずれもSinoBiological)、SARS Nucleocapsid protein,His Tag、MERS Nucleocapsid protein,His Tag(Hisタグ付きNタンパク質)(両者ともAcroBioSystems)を添加し、シーリング後、4℃で一晩静置した。ウェルに吸着しなかったNタンパク質分散液を取り除いた後200μLのPBST(0.05%(v/v)Tween20含有PBS)を添加し、すぐに取り除いた。この洗浄操作は3回行った。200μLのPierce(商標)Protein-Free(PBS)Blocking Buffer(Thermo Fisher Scientific)を添加し、室温で1時間インキュベートした。ブロッキング緩衝液を取り除いた後、200μLのPBST(0.05%(v/v)Tween20含有PBS)を添加し、すぐに取り除いた。この洗浄操作は3回行った。Nタンパク質を固相化した各ウェルに対して50μLの1μg/mL EN2、EN3、EN4、EN5、EN6、EN11又はEN12(いずれもHisタグ付き)/PBST(0.05%(v/v)Tween20含有PBS)を添加し、室温で1時間インキュベートした。VHH抗体を取り除いた後、200μLのPBST(0.05%(v/v)Tween20含有PBS)を添加し、すぐに取り除いた。この洗浄操作は3回行った。検出抗体にはPeroxidase-AffiniPure Goat Anti-Alpaca IgG(H+L)(min X Bov,Hu,Ms,Rb,Rat Sr Prot)(Jackson Immuno Research Laboratories)を用いた。PBST(0.05%(v/v)Tween20含有PBS)により検出抗体を1/5,000に希釈した。各ウェルに50μLの検出抗体を添加し、室温で1時間インキュベートした。検出抗体を取り除いた後、200μLのPBST(0.05%(v/v)Tween20含有PBS)を添加し、すぐに取り除いた。この洗浄操作は3回行った。
発色基質はOPDタブレット(Thermo Fisher Scientific)をStable Peroxide Substrate Buffer(Thermo Fisher Scientific)で溶解し調製した。各ウェルに100μLの発色基質を添加し,遮光下で30分間インキュベートした後、直ちにMicroplate Reader Infinite M1000 PRO(TECAN)を用いて吸光度450nmを測定した(図4)。
その結果、本実施例で使用したHisタグ付きVHHはいずれもSARS-CoV-2のNタンパク質に最も強く結合することが確認された。
【0059】
(実施例6)ELISA法による変異株Nタンパク質に対する結合活性の評価
F96 Cert.Maxisorp Nunc-Immuno(商標)Plate(Thermo Fisher Scientific)の各ウェルに50μLの10μg/mL SARS-CoV-2(2019-nCoV)Nucleocapsid-His Recombinant Protein(Hisタグ付きNタンパク質)、SARS-CoV-2(2019-nCoV) Nucleocapsid(R203K,G204R)-His Recombinant Protein、SARS-CoV-2(2019-nCoV) Nucleocapsid(P13L)-His Recombinant Protein、SARS-CoV-2(2019-nCoV) Nucleocapsid(S194L)-His Recombinant Protein、SARS-CoV-2(2019-nCoV) Nucleocapsid(I292T)-His Recombinant Protein、SARS-CoV-2(2019-nCoV) Nucleocapsid(D3L,R203K,G204R,S235F)-His Recombinant Protein、SARS-CoV-2(2019-nCoV) Nucleocapsid(D3L,S235F)-His Recombinant Protein、SARS-CoV-2(2019-nCoV) Nucleocapsid(T205I) Protein(His Tag)、SARS-CoV-2(2019-nCoV) Nucleocapsid(P80R) Protein(His Tag)、SARS-CoV-2(2019-nCoV) Nucleocapsid(D377Y) Protein(His Tag)、SARS-CoV-2 Nucleocapsid(A12G,T205I) Protein(His Tag)、SARS-CoV-2 Nucleocapsid(R203M,D377Y) Protein(His Tag)、SARS-CoV-2 Nucleocapsid(A119S,R203K,G204R,M234I) Protein(His Tag)(いずれもSinoBiological)を添加し、シーリング後、4℃で一晩静置した。
ウェルに吸着しなかったNタンパク質分散液を取り除いた後200μLのPBST(0.05%(v/v)Tween20含有PBS)を添加し、すぐに取り除いた。この洗浄操作は3回行った。200μLのPierce(商標)Protein-Free(PBS)Blocking Buffer(Thermo Fisher Scientific)を添加し、室温で1時間インキュベートした。ブロッキング緩衝液を取り除いた後、200μLのPBST(0.05%(v/v)Tween20含有PBS)を添加し、すぐに取り除いた。この洗浄操作は3回行った。Nタンパク質を固相化した各ウェルに対して50μLの1μg/mL EN2、EN3、EN4、EN5、EN6、EN11又はEN12(いずれもHisタグ付き)/PBST(0.05%(v/v)Tween20含有PBS)を添加し、室温で1時間インキュベートした。VHH抗体を取り除いた後、200μLのPBST(0.05%(v/v)Tween20含有PBS)を添加し、すぐに取り除いた。この洗浄操作は3回行った。検出抗体にはPeroxidase-AffiniPure Goat Anti-Alpaca IgG(H+L)(min X Bov,Hu,Ms,Rb,Rat Sr Prot)(Jackson Immuno Research Laboratories)を用いた。PBST(0.05%(v/v)Tween20含有PBS)により検出抗体を1/5,000に希釈した。各ウェルに50μLの検出抗体を添加し、室温で1時間インキュベートした。検出抗体を取り除いた後、200μLのPBST(0.05%(v/v)Tween20含有PBS)を添加し、すぐに取り除いた。この洗浄操作は3回行った。
発色基質はOPDタブレット(Thermo Fisher Scientific)をStable Peroxide Substrate Buffer(Thermo Fisher Scientific)で溶解し調製した。各ウェルに100μLの発色基質を添加し,遮光下で30分間インキュベートした後、直ちにMicroplate Reader Infinite M1000 PRO(TECAN)を用いて吸光度450nmを測定した(図5図6)。
その結果、本実施例で使用したHisタグ付きVHHはいずれもSARS-CoV-2の変異株のNタンパク質に対して、普遍的に結合することが確認された。
【0060】
(実施例7)バイオレイヤー干渉法による結合活性の測定
各種Hisタグ付きVHHの濃度はウシ血清アルブミン(富士フイルム和光純薬社製)を標準タンパク質とし、Pierce BCA Protein Assay Kit(Thermo Fisher社製)を用いたBCA法により定量を行った。Octet(商標)RED384(Sartorius)をもちいてStreptavidin (SA) Biosensor chip(Sartorius)に固相化したビオチン化Nタンパク質に対する各種Hisタグ付きVHHの結合活性を測定した。各測定は60μLの各測定液を384ウェルプレートに添加して測定した。測定前にSA Biosensor chipの先端を200μLのPBSTに10分間浸漬させることでセンサーチップを水和させた。まずは
1)Baseline step:PBST中で30秒間の測定
2)Association step:PBSTで希釈し調製した250nM、125nM、62.6nM、31.3nM、15.6nMおよび0nMの各種Hisタグ付きVHHで120秒間の測定
3)Dissociation step:PBS-T中で240秒間の測定
4)Regeneration step:Glycin-HCL(pH2.2)中で5秒間、PBS-T中で5秒間を3回繰り返しの測定
上記1)~4)の工程で各種Hisタグ付きVHHのSA Biosensor chipへの吸着を測定した。その後、ビオチン化Nタンパク質を含むPBS―Tで600秒測定することでSA Biosensor chipへビオチン化Nタンパク質を約6.5nmのレスポンスが出るまで固定した。ビオチン化Nタンパク質を固定したSA Biosensor chipを用いて上記1)~4)の工程を行った。Octetソフトウェアバージョン(1.2.1.5)(Molecular Devices社製)を用いて各種Hisタグ付きVHHの濃度が0nMの測定とビオチン化Nタンパク質を固定する前の結果をダブルリファレンスとしてとり、Global Fittingを行い結合及び解離速度を算出した(表5)。
【0061】
【表5】
【0062】
(実施例8)ELISA法によるオミクロン株Nタンパク質に対する結合活性の評価
F96 Cert.Maxisorp Nunc-Immuno(商標)Plate(Thermo Fisher Scientific)の各ウェルに50μLの10μg/mL SARS-CoV-2(2019-nCoV)Nucleocapsid-His Recombinant Protein(Hisタグ付きNタンパク質)、SARS-CoV-2 B.1.529(Omicron)Nucleocapsid Protein(His Tag)(いずれもSinoBiological)を添加し、シーリング後、4℃で一晩静置した。ウェルに吸着しなかったNタンパク質分散液を取り除いた後200μLのPBST(0.05%(v/v)Tween20含有PBS)を添加し、すぐに取り除いた。この洗浄操作は3回行った。200μLのPierce(商標)Protein-Free(PBS)Blocking Buffer(Thermo Fisher Scientific)を添加し、室温で1時間インキュベートした。ブロッキング緩衝液を取り除いた後、200μLのPBST(0.05%(v/v)Tween20含有PBS)を添加し、すぐに取り除いた。この洗浄操作は3回行った。Nタンパク質を固相化した各ウェルに対して50μLの1μg/mL EN2、EN3、EN4、EN5、EN6、EN11又はEN12(いずれもHisタグ付き)/PBST(0.05%(v/v)Tween20含有PBS)を添加し、室温で1時間インキュベートした。VHH抗体を取り除いた後、200μLのPBST(0.05%(v/v)Tween20含有PBS)を添加し、すぐに取り除いた。この洗浄操作は3回行った。検出抗体にはPeroxidase-AffiniPure Goat Anti-Alpaca IgG(H+L)(min X Bov,Hu,Ms,Rb,Rat Sr Prot)(Jackson Immuno Research Laboratories)(1.0mg/mL)を用いた。PBST(0.05%(v/v)Tween20含有PBS)により検出抗体を1/5,000に希釈した。各ウェルに50μLの検出抗体を添加し、室温で1時間インキュベートした。検出抗体を取り除いた後、200μLのPBST(0.05%(v/v)Tween20含有PBS)を添加し、すぐに取り除いた。この洗浄操作は3回行った。
発色基質はOPDタブレット(Thermo Fisher Scientific)をStable Peroxide Substrate Buffer(Thermo Fisher Scientific)で溶解し調製した。各ウェルに100μLの発色基質を添加し,遮光下で30分間インキュベートした後、直ちにMicroplate Reader Infinite M1000 PRO(TECAN)を用いて吸光度450nmを測定した(図7)。
その結果、本実施例で使用したHisタグ付きVHHはいずれもSARS-CoV-2のオミクロン株のNタンパク質に対しても結合することが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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