(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156208
(43)【公開日】2023-10-24
(54)【発明の名称】手術装置および手術システム
(51)【国際特許分類】
A61B 17/56 20060101AFI20231017BHJP
A61B 34/30 20160101ALI20231017BHJP
A61B 17/14 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
A61B17/56
A61B34/30
A61B17/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065953
(22)【出願日】2022-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】522148916
【氏名又は名称】丹羽 幸司
(71)【出願人】
【識別番号】522148927
【氏名又は名称】野崎 貴裕
(74)【代理人】
【識別番号】100127203
【弁理士】
【氏名又は名称】奈良 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 幸司
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160LL04
4C160LL22
(57)【要約】 (修正有)
【課題】地震などによる不測の事態時にも継続して安全に手術可能であるとともに、標的位置合わせ誤差が従来よりも小さく、経験および勘に頼らずに自動手術可能な手術装置および手術システムを提供する。
【解決手段】手術装置100は、枠部10と、移動部20と、回動部30と、を備えている。回動部30は、箱状部材であって、内部に設けられた2つのXYテーブル装置と、2つのXYテーブル装置のそれぞれに設けられた加工部と、を備えている。回動部30は、所定角度に調整可能なものである。手術装置100は、加工部の先端部41i、42iを予め設定された骨切り線1aに自動で接触させ、骨切り線1aの部分の骨を削る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の周囲に設けられる枠部と、
前記枠部を前記対象物に固定する固定具と、
前記対象物の表面に沿って移動可能な第1移動部と、
前記固定具に設けられ、前記第1移動部を案内するガイド部材と、
前記第1移動部の前記対象物側に回動可能に設けられた回動部と、
前記回動部に設けられ、前記回動部に対して遠近方向、および、前記回動部に対して水平方向のうち、少なくとも一方向に移動可能な第2移動部と、
前記第2移動部から前記遠近方向に沿って設けられ、前記対象物に先端を接触させて前記対象物を加工する加工部と、
前記回動部を回動駆動させる第1駆動部と、
前記第2移動部を駆動させる第2駆動部と、
を備える手術装置。
【請求項2】
前記加工部が動作している場合、必要に応じて前記回動部を所定角度回動させるように前記第1駆動部の制御を行うとともに、前記加工部を、前記第2移動部を介して、予め設定された初期位置から予め設定されたルートを通って予め設定された完了位置まで移動させるように前記第2駆動部の制御を行う制御部を備える請求項1に記載の手術装置。
【請求項3】
請求項2に記載の手術装置を備えた手術システムであって、
前記対象物の3D形状データに基づいて、前記初期位置と、前記ルートと、前記完了位置と、の位置データを生成する生成部と、
前記位置データを前記手術装置に送信する送信部と、
を備え、
前記手術装置は、前記位置データを受信する受信部をさらに備え、
前記制御部は、受信した前記位置データに基づいて前記第2駆動部を制御することを特徴とする手術システム。
【請求項4】
前記対象物が動物であって、
前記3D形状データには、前記動物の血管の位置情報が含まれており、
前記生成部は、前記血管のうち傷つけてはいけない血管の位置に、前記初期位置と、前記ルートと、前記完了位置と、が重複しないように、前記位置データを生成することを特徴とする請求項3に記載の手術システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手術装置および手術システムに関する。特に、骨を切る手術装置および手術システムに関する。
【背景技術】
【0002】
骨を切る手術装置および手術システムは、従来から、公知となっている。たとえば、下記特許文献1に、骨を含む硬い生体組織を成形するためのレーザ骨切り術システムであって、当該システムはレーザアブレーションを含む作業の少なくとも1つのアクションを実行するよう動作可能なレーザを備えるツールと、前記作業の少なくとも1つのアクションを実行するよう前記硬い生体組織に対して前記ツールを位置決めする位置決め手段と、入力手段と、前記生体組織及び該生体組織の周りの環境からの圧力波を測定するように動作可能な音響センサと、コントローラと、基準マーカを用いて生体組織の位置及び動きを三次元で追跡する光学式の位置センサと、を備えているものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のシステムでは、通常、患者の患部などをベッドなどに固定した状態で、当該患部に対して切断/成形ツールを位置決めし、プログラムの命令にしたがって自動的に手術を行う。このような通常時の手術の場合、患部の移動がないようにしているので当該手術に問題が発生することはないが、仮に、地震などが起きた場合、ベッド、または、切断/成形ツールを備える装置などがずれることがある。このようなずれが発生した場合、再度、当該患部に対して切断/成形ツールを位置決めする必要があるが、これは手術時間の延長を伴ってでも再度設定するか、手術自体の中止を選択せざるを得ない。しかしながら、当該手術時間の延長は、患者への肉体的負担が大きく、継続して手術を行うことが困難な場合があった。また、手術自体の中止を選択する場合、患者は、次回の手術まで、待たなければならず、精神的負担が大きい。
【0005】
また、地震などが起きなかった場合でも、上記特許文献1のシステムにおいて用いられるような光学式の位置センサでは、標的位置合わせ誤差(target registration error(TRE))が比較的大きくなる可能性があり(「洪 在成: 手術ナビゲーションの有益性と危険性. 生体医工学, 49: 656-60, 2011.」参照、「三井貴司, 藤井正純, 林雄一郎ほか:脳神経外科ナビゲーション手術におけるフィデューシャルマーカの配置条件が脳内のナビゲーション精度分布に与える影響. 医用画像情報学会雑誌, 28: 18-23, 2011.」 参照)、当該システムを用いた手術については、相当の注意が必要で、経験および勘に頼らざるを得ないことがあった。
【0006】
そこで、本発明は、地震などによる不測の事態時にも継続して安全に手術可能であるとともに、標的位置合わせ誤差が従来よりも小さく、経験および勘に頼らずに自動手術可能な手術装置および手術システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の手術装置は、対象物の周囲に設けられる枠部と、前記枠部を前記対象物に固定する固定具と、前記対象物の表面に沿って移動可能な第1移動部と、前記固定具に設けられ、前記第1移動部を案内するガイド部材と、前記第1移動部の前記対象物側に回動可能に設けられた回動部と、前記回動部に設けられ、前記回動部に対して遠近方向、および、前記回動部に対して水平方向のうち、少なくとも一方向に移動可能な第2移動部と、前記第2移動部から前記遠近方向に沿って設けられ、前記対象物に先端を接触させて前記対象物を加工する加工部と、前記回動部を回動駆動させる第1駆動部と、前記第2移動部を駆動させる第2駆動部と、を備えるものである。。
ことを特徴とする。
【0008】
(2)上記(1)の手術装置においては、前記加工部が動作している場合、必要に応じて前記回動部を所定角度回動させるように前記第1駆動部の制御を行うとともに、前記加工部を、前記第2移動部を介して、予め設定された初期位置から予め設定されたルートを通って予め設定された完了位置まで移動させるように前記第2駆動部の制御を行う制御部を備えることが好ましい。
【0009】
(3)本発明は、上記(2)に記載の手術装置を備えた手術システムであって、前記対象物の3D形状データに基づいて、前記初期位置と、前記ルートと、前記完了位置と、の位置データを生成する生成部と、前記位置データを前記手術装置に送信する送信部と、を備え、前記手術装置は、前記位置データを受信する受信部をさらに備え、前記制御部は、受信した前記位置データに基づいて前記第2駆動部を制御することを特徴とするものである。
【0010】
(4)上記(3)の手術システムにおいては、前記対象物が動物であって、前記3D形状データには、前記動物の血管の位置情報が含まれており、前記生成部は、前記血管のうち傷つけてはいけない血管の位置に、前記初期位置と、前記ルートと、前記完了位置と、が重複しないように、前記位置データを生成することが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、患部の周囲に装置自体を固定するので、地震などによる不測の事態が発生しても、位置ずれが起こりにくい手術装置を提供できる。すなわち、地震などによる不測の事態が発生しても、継続して安全に手術可能な手術装置、および、この手術装置を備えた手術システムを提供できる。また、上記構成によれば、予め設定した骨切り線を迅速に切削などの加工を行うことができるため、手術時間を従来よりも大きく減少させることができ、患者への負担を最小限にすることが可能な手術装置、および、この手術装置を備えた手術システムを提供できる。
【0012】
また、上記構成の手術装置によれば、光学式などではなく、各部位を比較的正確に動作させる構造の部品・装置を用いることができるので、標的位置合わせ誤差を従来(特に光学式の位置センサを用いた場合)よりも極力小さくすることが可能である。すなわち、上記構成によれば、標的位置合わせ誤差が従来(特に光学式の位置センサを用いた場合)よりも小さく、経験および勘に頼らずに自動手術可能な手術装置および手術システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1実施形態における手術装置を対象物に取り付けた状態を示す斜視図である。
【
図2】
図1の手術装置の移動部および回動部(一部の図示を省略)の構成を示す斜視図であって、移動部を透視して示した図である。
【
図3】
図1の回動部の構成を示す斜視図であって、回動部本体を透視して示した図である。
【
図4】
図1の手術装置における制御装置を示すブロック図である。
【
図6】本発明の第2実施形態における手術システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<第1実施形態>
図面を参照して、本発明の第1実施形態である手術装置について説明する。本発明において、下記の本実施形態に記載される事項は一例であり、これに限定されるものではない。また、本実施形態に記載されない事項は意識的に除外したものでもない。本実施形態において上位概念化して記載された事項は、本実施形態に記載されていない当業者において公知であるものも含み、出願時点において存在し得ないものも含む。
【0015】
手術装置100は、
図1に示したように、枠部10と、移動部20(第1移動部)と、回動部30と、を備えている。
【0016】
枠部10は、第1枠部11と、第2枠部12と、ガイド部材13、14と、支持部15、16と、ボルト17、18と、を備えている。
【0017】
第1枠部11は、人間の頭部1(
図1において、皮膚および肉部などは不図示)の額およびこめかみ辺りの周囲に位置させることができるように形成された略∪字型形状の部材である。第1枠部11の各先端部には、後述する支持部15が設けられている。
【0018】
第2枠部12は、人間の頭部の口元辺りに位置させることができるように形成された略扇状部分12aと、人間の頭部の耳部の上辺りに位置させることができるように形成された棒状部分12bと、略扇状部分12aの端部と棒状部分12bの端部とを接続する棒状部分12cとを備えている。なお、棒状部分12cは、人間の頭部の口の端部から耳部の上辺りに位置させることができるように構成されている。また、棒状部分12bには、後述する支持部16が設けられている。また、第2枠部12は、後述のガイド部材13、14を介して第1枠部11の下部に位置するように設けられている。
【0019】
支持部15、16と、ボルト17、18とは、人間の頭部に枠部10を固定可能な固定具である。具体的には、ボルト17、18は、支持部15、16に設けられた穴部15a、16aに対して、螺合され、かつ、人間の頭部(たとえば、頭皮切開後の頭蓋骨外板)に対して開けられた穴に直接締め付け可能に設けられている。なお、
図1において、枠部10の頭部の右側(
図1では不図示)に対応する部分にも、支持部15、16およびボルト17、18と同様の部材が設けられている。
【0020】
ガイド部材13、14は、第1枠部11の中央部分と第2枠部12の略扇状部分12aとを接続固定しているものである。
【0021】
移動部20は、ガイド部材13、14が貫通する穴部23、24を本体に備えている。これにより、移動部20は、ガイド部材13、14の延設方向および顔の表面に沿って移動可能となっている。なお、本実施形態において、移動部20の移動は手動で行うものであるが、これに限られない。たとえば、移動部20に、モータと、モータの軸の先端部に設けたピニオンギアとを設け、また、ガイド部材13、14にラックを設けることによって、ラックアンドピニオンギア方式の駆動部を構成し、外部からの命令を受けて移動部20が自動でガイド部材13、14に沿って移動するようにしてもよい。
【0022】
また、移動部20は、
図2に示したように、断面が略∪字型の箱状部材(
図2では破線で示している)の内部に、協働して回動部30(
図2では箱形状の本体のみ図示)を
図2の一点鎖線矢印に沿って回動駆動させる第1駆動部21、22と、第1駆動部21、22の電源(図示せず)と、
図4に示した制御装置50(
図1、
図2には図示せず)を備えている。なお、電源としては、リチウムイオン二次電池、乾電池など、どのような種類の電源であってもよい。
【0023】
第1駆動部21は、回転軸21aと、歯車21b、21cと、回転軸21dと、固定部材21eと、モータ部21f(駆動部)と、コネクタ接続部21gと、を備えている。また、第1駆動部22は、回転軸22aと、歯車22b、22cと、回転軸22dと、固定部材22eと、モータ部22f(駆動部)と、コネクタ接続部22gと、を備えている。なお、第1駆動部22の各部位22a~22gは、中央に対して対称的に配置されている以外、順に、第1駆動部21の各部位21a~21gと同様のものであるので、説明を省略する。
【0024】
回転軸21aは、後述する回動部30の側部30aに一端部が固定されているとともに、他端部が移動部20の本体内部に設けられた支持部材(図示せず)に回転可能に支持されているものである。
【0025】
歯車21bは、回転軸21aに設けられており、歯車21cと噛合しているものである。歯車21cは、回転軸21dの一端部に設けられている。回転軸21dの他端部は、モータ部21fに接続されており、モータ部21fの駆動によって回転軸21dが回転するようになっている。
【0026】
モータ部21fは、移動部20の本体内部に固定部材21eを介して固定されているとともに、コネクタ接続部21gと電気的に接続されている。コネクタ接続部21gには、図示しないコネクタを介して、上述の電源(図示せず)および制御装置50(
図1には図示せず)が接続されている。
【0027】
次に、移動部20の内部に設けられた制御装置50について、
図4を参照して説明する。制御装置50は、
図4に示したように、制御部51、記憶部52、入出力部53、通信ポート54を備えている。
【0028】
制御部51は、コンピュータ指示(たとえばプログラムコード)を実行するものである。当該コンピュータ指示は、たとえば、本実施形態において特別の機能を果たすためのルーチン、プログラム、オブジェット、構成要素、データ構成、順序、モジュール、ファンクションを含む。また、たとえば、制御部51は、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、縮小指示セットコンピュータ(RISC)、特定用途集積回路(ASICs)、特定応用分野向きプロセッサ(ASIP)、中央処理装置(CPU)、グラフィック処理ユニット(GPU)、物理演算ユニット(PPU)、マイクロコントローラーユニット、デジタル信号プロセッサ(DSP)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、ARMアーキテクチャ(ARM)、プログラマブル論理素子(PLD)、1つ以上の機能を実行できる任意の回路又はプロセッサなど又はそれらの組合せのような、1つ以上のハードフェアプロセッサを有しているものであればよい。
【0029】
記憶部52は、制御部51で実行されるコンピュータ指示のための情報(たとえば、プログラムコード、後述する骨切りの初期位置、移動ルート、完了位置の位置データなど)が格納されているものである。なお、記憶部52は、大容量記憶部、リムーバブル記憶部、揮発性読み書きメモリ、読み出し専用メモリ(ROM)など、またはそれらの任意の組み合わせを含んでもよい。たとえば、大容量記憶部は、磁気ディスク、光ディスク、ソリッドステートドライブ(SSD)などを含む。リムーバブル記憶部は、ラッシュドライブ、フロッピーディスク、光ディスク、メモリカード、ZIPディスク、磁気ディスクなどを含む。揮発性読み書きメモリはランダムアクセスメモリ(RAM)を含む。RAMは、ダイナミックRAM(DRAM)、ダブルデータレート同期ダイナミックRAM(DDR SDRAM)、スタティックRAM(SRAM)、サイリスタRAM(T-RAM)、ゼロコンデンサRAM(Z-RAM)などを含む。ROMは、マスクROM(MROM)、プログラマブルROM(PROM)、消去可能プログラマブルROM(EPROM)、電気的に消去可能なプログラマブルROM(EEPROM)、コンパクトディスクROM(CD-ROM)、デジタル多用途ディスクROMなどを含む。また、記憶部52は、本実施形態で説明される例示的な方法を実行するための1つ以上のプログラムおよび/または指示を格納してもよい。
【0030】
入出力部53は、信号、データ、情報などを入出力するものであって、入力装置および出力装置を有しているものである。
【0031】
通信ポート54(受信部)は、データ通信を促進するために後述のネットワーク106に接続されるものであって、有線接続、無線接続、データ送信および/または受信、および/またはこれらの接続の任意の組み合わせを可能にすることができる任意の他の通信接続を含む。ここで、有線接続は、たとえば、電気ケーブル、光ケーブル、電話線など、またはそれらの任意の組み合わせを含む。また、無線接続は、たとえば、Bluetooth(登録商標)リンク、Wi-Fi(登録商標)リンク、WiMax(登録商標)リンク、WLANリンク、ZigBee(登録商標)リンク、モバイルネットワークリンク(たとえば3G、4G、5G等) など、またはそれらの組み合わせを含む。また、通信ポート54は、RS232、RS485などの標準化された通信ポートであってもよい。また、通信ポート54は、特別に設計された通信ポートであってもよく、たとえば、医療用デジタル(DICOM)プロトコルによるデジタル撮像及び通信に基づいて設計されてもよい。
【0032】
このような構成の制御装置50は、後述する回動部30の第1駆動部21、22の回動駆動を制御する。具体的には、制御装置50は、記憶部52に記憶されたデータ(血管の位置情報を含む3D形状データなど)に基づいて、第1駆動部21、22のモータ部21f、22fの駆動を制御し、回動部30の回動角度を所望する角度に調整する。たとえば、本実施形態において顎の骨切りを行う場合、骨切り線は、人間の頭部の梨状口側縁から咬合平面に対し5°下方へ傾斜するラインとする(
図5参照)。これにより、水平の骨切り線よりも翼状突起骨折のリスク(血管の損傷)を下げられる可能性がある(「藤井 仁,黒柳範雄,金澤輝之3次元有限要素解析を用いた模擬 Le Fort I型骨切り術における翼突上顎縫合部の分離解析.日顎変形誌,27169-174,2017.」参照)。具体的には、
図1の骨切り線1a(後述する術前シミュレーションによって設定)に合わせて生成された骨切り用の位置データ(骨切りの初期位置、移動ルート、完了位置のデータ)に基づいて、回動部30の回動角度を、人間の頭部の梨状口側縁から咬合平面に対し5°下方へ傾斜するように調整する。なお、制御装置50は、回動部30に設けられているXYテーブル装置31、32(第2移動部)におけるモータ部33b、34b、35b、36b(駆動部)の駆動も制御する。
【0033】
回動部30は、
図3に示したように、側部30a、30bと、前方開口部30cと、後方開口部30dと、底部30eと、天部30fと、を有した箱状部材(
図3では一点鎖線で示している)であって、内部に設けられたXYテーブル装置31、32と、XYテーブル装置31、32のそれぞれに設けられた加工部41、42と、を備えている。
【0034】
XYテーブル装置31は、基台31aと、テーブル31bと、コネクタ接続部33a、34aと、モータ部33b、34bと、送り装置33c、34cと、を備えている。なお、XYテーブル装置32の各部位32a、32b、35a、36a、35b、36b、35c、36cは、中央に対して対称的に配置されている以外、順に、XYテーブル装置31の各部位31a、31b、33a、34a、33b、34b、33c、34cと同様のものであるので、説明を省略する。
【0035】
基台31aは、下面が底部30eに固定され、上面に送り装置34cが設けられている。
【0036】
テーブル31bは、送り装置33cによって、X軸方向(回動部30に対して遠近方向)の白抜き矢印の方向に沿ってスライド移動可能となっている。
【0037】
モータ部33bは、回動部30の内部において送り装置33cに固定されているとともに、コネクタ接続部33aと電気的に接続されている。コネクタ接続部33aには、図示しないコネクタを介して、上述の電源および制御装置50が接続されている。モータ部34bは、回動部30の内部において送り装置34cに固定されているとともに、コネクタ接続部34aと電気的に接続されている。コネクタ接続部34aには、図示しないコネクタを介して、上述の電源および制御装置50が接続されている。
【0038】
送り装置33cは、基台31aの上部において、テーブル31bとともに、送り装置34cよってY軸方向(回動部30に対して水平方向)の白抜き矢印の方向に沿ってスライド移動可能に設けられている。送り装置33c、34cの送り方式は、いわゆる研削ネジ方式、ボールネジ方式のいずれであってもよい。また、送り装置33c、34cは、これらに限られず、テーブル31bを自在に移動させることができるものであれば、どのようなものであってもよい。
【0039】
加工部41は、コネクタ接続部41aと、超音波発生部41bと、モータ部41cと、回転軸21dと、歯車41e、41gと、回転軸41fと、棒状部41hと、先端部41iと、を備えている。なお、加工部42の各部位42a~42iは、中央に対して対称的に配置されている以外、順に、加工部41の各部位41a~41iと同様のものであるので、説明を省略する。
【0040】
コネクタ接続部41aには、図示しないコネクタを介して、上述の電源および制御装置50が接続されている。
【0041】
超音波発生部41bは、コネクタ接続部41aに接続されており、コネクタ接続部41aを介して、上述の電源から電源供給を受け、制御装置50の制御により超音波を発生することができるようになっている。発生した超音波は、回転軸41fおよび棒状部41hを介して、先端部41iに伝導するようになっている。すなわち、先端部41iを骨に接触させることで、当該骨を削り切ることが可能である。また、対象物である骨について超音波による切削などの加工と同時に、モータ部41cによって回転軸41dを回転させ、歯車41e、41gを介して、回転軸41fおよび棒状部41hを回転させ、当該加工をすることも可能である。
【0042】
なお、先端部41iの大きさが直径2mm~6mmのものを用いるが、直径の大きさは、症例などに応じて選択される。また、先端部41iはドリルなどであってもよく、モータ部41cによって回転軸41dを回転させ、歯車41e、41gを介して、回転軸41fおよび棒状部41hを回転させることにより、対象物である骨について切削などの加工をすることとしてもよい。
【0043】
なお、加工部41、42は、制御装置50によるモータ部33b、34b、35b、36bの駆動の制御により移動するテーブル31b、32bを介して、
図3のXY方向に移動可能となっている。たとえば、
図1の骨切り線1a(後述する術前シミュレーションによって設定)に合わせて生成された骨切り用の位置データ(骨切りの初期位置、移動ルート、完了位置のデータ)に基づいて、骨切り線1aに沿って、骨を切削加工することが可能である。
【0044】
上記構成の手術装置100によれば、患部の周囲に装置自体を固定するので、地震などによる不測の事態が発生しても、位置ずれが起こりにくい。すなわち、上記構成の手術装置100によれば、地震などによる不測の事態が発生しても、継続して安全に手術可能である。
【0045】
また、上記構成の手術装置100によれば、予め設定した骨切り線1aを迅速に切削などの加工を行うことができるため、手術時間を従来よりも大きく減少させることができ、患者への負担を最小限にすることが可能である。
【0046】
また、上記構成の手術装置100によれば、光学式などではなく、各部位を比較的正確に動作させる構造の機械部品、装置を用いているので、標的位置合わせ誤差を従来(特に光学式の位置センサを用いた場合)よりも極力小さくすることが可能である。すなわち、手術装置100によれば、標的位置合わせ誤差が従来(特に光学式の位置センサを用いた場合)よりも小さく、経験および勘に頼らずに自動手術が可能である。
【0047】
<第2実施形態>
図6を参照して、本発明の第2実施形態である手術システムについて説明する。本発明において、下記の本実施形態に記載される事項は一例であり、これに限定されるものではない。また、本実施形態に記載されない事項は意識的に除外したものでもない。本実施形態において上位概念化して記載された事項は、本実施形態に記載されていない当業者において公知であるものも含み、出願時点において存在し得ないものも含む。また、各処理を実行する手段および手順などは、本実施形態に限定されるものではなく、適宜選択し得るものである。
【0048】
<手術システムの説明>
図6は手術システム200の構成を説明する図である。本実施形態の手術システム200は、ネットワーク106を介して相互に通信可能な上述の手術装置100、撮像装置101、処理サーバ102(生成部を含む)、データベースサーバ103、端末104(送信部を含む)、ワイヤレスリモコン105(送信部を含む)、で構成される。
【0049】
撮像装置101は、単一モダリティ撮像装置またはマルチモダリティ撮像装置を含んでもよい。単一モダリティ画像装置としては、たとえば、X線スキャナ位置決め装置、放射計算断層撮影(ECT)装置、磁気共鳴画像(MRI)装置、超音波装置、陽電子放射断層撮影法(PET)装置などまたはそれらの任意の組み合わせを含む。マルチモダリティ画像装置としては、たとえば、X線画像-磁気共鳴画像(X線-MRI)装置、陽電子放射断層撮影(PET)-X線画像(PET-X線)装置、単一光子放射コンピュータ断層撮影-磁気共鳴画像(SPECT-MRI)装置、デジタル減算血管造影-磁気共鳴画像(DSA-MRI)装置などを含む。
【0050】
処理サーバ102は、図示しないが、基本構成として、制御部と、表示部と、入力部と、記憶部と、通信部とを備えている。上記制御部は、CPU又はMPUなどの演算処理部、及びRAMなどのメモリを備えている。上記演算処理部は、各種入力に基づき、記憶部に記録されたプログラムを実行することで、各種機能部を動作させるものである。このプログラムは、CD-ROM等の記録媒体に記憶され、もしくはネットワーク106を介して配布され、サーバにインストールされるものであってもよい。上記メモリは、サーバ用プログラム(たとえば、基本的な処理プログラムの他、撮像装置101から取得したDICOMデータから、血管の位置情報を含む3D形状データを生成するプログラム、各患者に合わせた骨切り線を生成する骨切り線生成プログラムなど)、ならびに、これらのプログラムにおいて処理の実行中に、演算等に必要な各種データを、一時的に記憶するためのものである。上記入力部は、サーバの管理者からの操作を受け付けるように構成され、キーボードやマウス、タッチパネル等によって実現することができる。上記記憶部は、ハードディスク等の記憶装置によって構成され、上記制御部における処理の実行に必要な各種プログラムや、各種プログラムの実行に必要なデータ等を記録しておくものである。さらに、各サーバには、以下に説明するものが構成されている。
【0051】
データベースサーバ103は、処理サーバ102で生成された各患者個別の手術用データ(本実施形態においては、各患者個別の骨切り用の位置データ(骨切りの初期位置、移動ルート、完了位置のデータ))と、各患者のIDまたは/および名前の情報とが関連付けられた状態で格納される患者データベースを備えている。
【0052】
端末104は、手術室外に設けられており、インターネット通信などの通信回線を備え、ネットワーク106に接続することができるものである。また、端末104は、操作者(本実施形態においては、手術室外の医師または技師など)の操作に基づいて、データベースサーバ103から各患者個別の手術用データ(本実施形態においては、各患者個別の骨切り用の位置データ(骨切りの初期位置、移動ルート、完了位置のデータ))を読み出させ、手術装置100に送信する命令を発することが可能である。なお、端末104は、たとえば、電話機能を有した、携帯電話、スマートフォン、パーソナルコンピュータ(PC)、又は、タブレットPCなどであってもよい。また、端末104は、図示しないが、CPU及びメモリを含む制御部、ネットワーク106と接続するための通信部、利用者からの操作を受け付けるタッチパネル等の入力部、画面を表示する表示部、ブックマークをブラウザ上または、アプリケーション上で記録する記録部などを備えている。
【0053】
ワイヤレスリモコン105は、インターネット通信などの通信回線を備え、ネットワーク106に接続することができるものである。また、ワイヤレスリモコン105は、操作者(本実施形態においては、手術室内の医師)の操作に基づいて、データベースサーバ103から各患者個別の手術用プログラムを読み出させ、手術装置100に送信する命令を発することが可能である。また、ワイヤレスリモコン105は、緊急時に手術装置100の実行を停止できる操作も可能となっている。なお、ワイヤレスリモコン105は、たとえば、電話機能を有した、携帯電話、スマートフォン、パーソナルコンピュータ(PC)、又は、タブレットPCなどであってもよい。
【0054】
次に、手術システム200の処理について説明する。まず、撮像装置101は、患者の患部の画像データ(たとえばDICOMデータ)を取得する。次に、撮像装置101は、取得した画像データを処理サーバ102に送信する。
【0055】
当該画像データを受信した処理サーバ102は、3D形状データを生成するプログラムを制御部で実行し、当該画像データから、血管の位置情報を含む3D形状データを生成する。続いて、各患者に合わせた骨切り線を生成する骨切り線生成プログラムを制御部で実行し、当該3D形状データから、危険域(傷つけてはいけない血管がある区域)を避けて、骨切り(削骨)するための位置データ(骨切りの初期位置、移動ルート、完了位置のデータ)を生成する(たとえば、
図1に示した骨切り線1aに対応する位置データを生成する)処理(術前シミュレーション)を行う。続いて、処理サーバ102は、当該位置データをデータベースサーバ103に送信する。なお、危険域(傷つけてはいけない血管がある区域)の情報は、予め設定した情報を用いるか、もしくは、技師または医師などの専門家が患者ごとに特定し、データ化したものを用いる。
【0056】
当該位置データを受信したデータベースサーバ103は、当該位置データを各患者のIDまたは/および名前の情報と関連付けてデータベースに格納する。
【0057】
次に、端末104またはワイヤレスリモコン105は、操作者の操作に基づいて、データベースサーバ103から、該当患者の位置データを読み出し、手術装置100へ送信する。
【0058】
該当患者の位置データを受信した手術装置100は、操作者の端末104またはワイヤレスリモコン105の操作に基づいて、手術装置100を自動動作させ、患者の該当箇所の骨切り処理を実行する。
【0059】
上記構成の手術システム200によれば、容易に手術装置100の作用効果を奏することができる。特に、処理サーバ102において、骨切り(削骨)するための位置データ(骨切りの初期位置、移動ルート、完了位置のデータ)を生成し、データベースサーバ103に格納しておくことで、迅速に事前準備を整えておくことができるので、手術の準備時間も短縮化することが可能である。
【0060】
なお、手術装置100において、XYテーブル装置31、32は、回動部30の内部に設けたが、これに限られない。たとえば、回動部30の天部30fの上に設けてもよいし、底部30eの下に設けてもよい。
【0061】
また、手術装置100において、加工部41、42は、テーブル31b、32bの上に設けたものであったが、これに限られない。たとえば、加工部41、42は、テーブル31b、32bのいずれかの箇所にそれぞれ設けられた、テーブル31b、32bに倣って移動するように構成されていればよい。
【0062】
また、手術装置100においては、さらに、血管を損傷しないように、加工部の先端部に取り付けた接触センサと、当該接触センサから検出したデータが閾値を超えた場合に、手術装置100を自動停止させる自動停止装置を組み込んでもよい。
【0063】
また、手術装置100においては、さらに、血管を損傷しないように、無線が途切れたり、各装置間の電線が断線したり、各装置、各部位が正常に動作していないことを検知装置(たとえば、電圧計または電流計と、電圧計または電流計で測定された計測値に基づいて異常を検知する制御部とで構成)が検知した場合、手術装置100を自動停止させる自動停止装置を組み込んでもよい。
【0064】
また、手術装置100においては、加工部に、超音波骨切りデバイスを用いることも可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 頭部
1a 骨切り線
10 枠部
11 第1枠部
12 第2枠部
12a 扇状部分
12b、12c 棒状部分
13、14 ガイド部材
15、16 支持部
15a、16a、23、24 穴部
17、18 ボルト
20 移動部
21、22 第1駆動部
21a、21d、22a、22d、41d、41f、42d、42f 回転軸
21b、21c、22b、22c、41e、41g、42e、42g 歯車
21e、22e 固定部材
21f、22f、33b、34b、35b、36b、41c、42c モータ部
21g、22g、33a、34a、41a、42a コネクタ接続部
30 回動部
30a、30b 側部
30c 前方開口部
30d 後方開口部
30e 底部
30f 天部
31、32 XYテーブル装置
31a、32a 基台
31b、32b テーブル
33c、34c 送り装置
41、42 加工部
41b、42b 超音波発生部
41h、42h 棒状部
41i、41i 先端部
50 制御装置
51 制御部
52 記憶部
53 入出力部
54 通信ポート
100 手術装置
101 撮像装置
102 処理サーバ
103 データベースサーバ
104 端末
105 ワイヤレスリモコン
106 ネットワーク
200 手術システム