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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023015623
(43)【公開日】2023-02-01
(54)【発明の名称】失火検出方法及び失火検出装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20230125BHJP
   F02P 17/12 20060101ALI20230125BHJP
【FI】
F02D45/00 368Z
F02P17/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021119525
(22)【出願日】2021-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000174426
【氏名又は名称】日立Astemo阪神株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】助川 義寛
(72)【発明者】
【氏名】熊野 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】米谷 直樹
(72)【発明者】
【氏名】実 英男
(72)【発明者】
【氏名】内勢 義文
【テーマコード(参考)】
3G019
3G384
【Fターム(参考)】
3G019CD09
3G384AA01
3G384BA23
3G384CA03
3G384CA06
3G384DA54
3G384EB08
3G384ED04
3G384ED07
3G384FA36Z
(57)【要約】
【課題】エンジン(内燃機関)の失火を高い精度で検出する。
【解決手段】本発明の失火検出方法は、副室用点火プラグにより副室内の混合気に点火する副室点火運転時に、主室用点火装置が主室内のイオンの濃度を検出し、失火検出部が、主室用点火装置の検出結果に基づいて失火を検出する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合気が流入される主室と、前記主室に設けられた主室用点火プラグと、前記主室に連通する副室と、前記副室に設けられた副室用点火プラグと、前記主室内の混合気に点火するための電圧を前記主室用点火プラグに印加する主室用点火装置と、前記副室内の混合気に点火するための電圧を前記副室用点火プラグに印加する副室用点火装置と、を備えた内燃機関の失火検出方法において、
前記副室用点火プラグにより前記副室内の混合気に点火する副室点火運転時に、前記主室用点火装置が前記主室内のイオンの濃度を検出し、
失火検出部が、前記主室用点火装置の検出結果に基づいて失火を検出する
失火検出方法。
【請求項2】
前記副室点火運転時に、前記副室用点火装置が前記副室内のイオンの濃度を検出し、
前記失火検出部は、前記副室点火運転時に失火を検出した場合に、前記副室用点火装置の検出結果に基づいて失火パターンを判別する
請求項1に記載の失火検出方法。
【請求項3】
混合気が流入される主室と、前記主室に設けられた主室用点火プラグと、前記主室に連通する副室と、前記副室に設けられた副室用点火プラグと、前記主室内の混合気に点火するための電圧を前記主室用点火プラグに印加する主室用点火装置と、前記副室内の混合気に点火するための電圧を前記副室用点火プラグに印加する副室用点火装置と、を備えた内燃機関の失火検出方法において、
前記主室用点火プラグにより前記主室内の混合気に点火する主室点火運転時に、前記副室用点火装置が前記副室内のイオンの濃度を検出し、
失火検出部が、前記副室用点火装置の検出結果に基づいて失火を検出する
失火検出方法。
【請求項4】
前記主室点火運転時に、前記主室用点火装置が前記主室内のイオンの濃度を検出し、
前記失火検出部は、前記主室点火運転時に失火を検出した場合に、前記主室用点火装置の検出結果に基づいて失火パターンを判別する
請求項3に記載の失火検出方法。
【請求項5】
前記主室内のイオンの濃度を検出するために前記主室用点火装置に設けた蓄電部、又は前記副室内のイオンの濃度を検出するために前記副室用点火装置に設けた蓄電部は、燃焼行程の初期から圧縮行程の中期までのいずれかのタイミングで電荷を蓄積する
請求項1~4のいずれか1項に記載の失火検出方法。
【請求項6】
混合気が流入される主室と、前記主室に設けられた主室用点火プラグと、前記主室に連通する副室と、前記副室に設けられた副室用点火プラグと、前記主室内の混合気に点火するための電圧を前記主室用点火プラグに印加する主室用点火装置と、前記副室内の混合気に点火するための電圧を前記副室用点火プラグに印加する副室用点火装置と、を備え、前記主室用点火装置は、1次コイルと、前記1次コイルの通電が遮断されると、起電力が生じる2次コイルと、を有する内燃機関の失火検出装置において、
前記主室用点火装置の2次コイルに流れる電流によって電荷が蓄電される主室用蓄電部と、
前記副室用点火プラグにより前記副室内の混合気に点火する副室点火運転時に、前記主室用蓄電部が前記主室用点火プラグの電極に電圧を印加することにより前記主室内のイオンの濃度を検出する主室内イオン検出部と、
前記主室内イオン検出部で検出されたイオンの濃度と予め定められた主室用イオン閾値との大きさを比較して失火であるか否かを検出する主室内失火検出部と、備える
失火検出装置。
【請求項7】
前記副室用点火装置は、1次コイルと、前記1次コイルの通電が遮断されると、起電力が生じる2次コイルと、を有し、
前記副室用点火装置の2次コイルに流れる電流によって電荷が蓄電される副室用蓄電部と、
前記主室内の混合気に点火する主室点火運転時に、前記副室用蓄電部が前記副室用点火プラグの電極に電圧を印加することにより前記副室内のイオンの濃度を検出する副室内イオン検出部と、
前記副室内イオン検出部で検出されたイオンの濃度と予め定められた副室用イオン閾値との大きさを比較して失火であるか否かを検出する副室内失火検出部と、備える
請求項6に記載の失火検出装置。
【請求項8】
前記主室用イオン閾値を変更する主室用イオン閾値変更部を備える
請求項6に記載の失火検出装置。
【請求項9】
前記副室用イオン閾値を変更する副室用イオン閾値変更部を備える
請求項7に記載の失火検出装置。
【請求項10】
前記主室用イオン閾値変更部又は前記副室用イオン閾値変更部は、空燃比、EGR率、エンジントルクのうちの少なくとも1つに応じて、前記主室用イオン閾値又は前記副室用イオン閾値を変更する
請求項8又は9に記載の失火検出装置。
【請求項11】
前記主室用イオン閾値と前記副室用イオン閾値は、異なる大きさに設定される
請求項7又は9に記載の失火検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の失火検出方法及び失火検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エンジンの主燃焼室(「主室」と略する)と、主室に連通した副燃焼室(「副室」と略する)を設けた副室式火花点火エンジンが開示されている。副室式火花点火エンジンでは、副室で生成されたジェット火炎によって速やかに主室の混合気を燃焼させるため、高い熱効率が得られる。
【0003】
特許文献1に開示された副室式火花点火エンジンは、副室の点火プラグに高電圧を印加する点火装置に、燃焼によって生じるイオン電流を検出する回路を設けている。そして、イオン電流の大きさに基づいて失火や燃焼不良を検出している。この方式では、点火プラグと点火装置がイオンセンサとしての機能を併せ持つため、圧力センサなどを追加することなく、低コストでエンジンの燃焼状態を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-50724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、副室式火花点火エンジンでは、副室内の混合気が燃焼してジェット火炎が形成されても、主室内の混合気への着火に失敗し、失火する可能性がある。この場合、特許文献1に記載された副室式火花点火エンジンでは、副室の点火プラグに高電圧を印加する点火装置に設けたイオン電流を検出する回路が、副室内の燃焼に伴うイオン電流を検出してしまう。その結果、主室内において失火していても「正常燃焼」と判断される虞がある。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、エンジン(内燃機関)の失火を高い精度で検出する失火検出方法及び失火検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の失火検出方法は、混合気が流入される主室と、主室に設けられた主室用点火プラグと、主室に連通する副室と、副室に設けられた副室用点火プラグと、主室内の混合気に点火するための電圧を主室用点火プラグに印加する主室用点火装置と、副室内の混合気に点火するための電圧を副室用点火プラグに印加する副室用点火装置とを備えた内燃機関の失火を検出する。この失火検出方法は、副室用点火プラグにより副室内の混合気に点火する副室点火運転時に、主室用点火装置が主室内のイオンの濃度を検出し、失火検出部が、主室用点火装置の検出結果に基づいて失火を検出する。
【0008】
また、本発明の失火検出装置は、混合気が流入される主室と、主室に設けられた主室用点火プラグと、主室に連通する副室と、副室に設けられた副室用点火プラグと、主室内の混合気に点火するための電圧を主室用点火プラグに印加する主室用点火装置と、副室内の混合気に点火するための電圧を副室用点火プラグに印加する副室用点火装置とを備えた内燃機関の失火を検出する。主室用点火装置は、1次コイルと、1次コイルの通電が遮断されると、起電力が生じる2次コイルとを有する。失火検出装置は、主室用蓄電部と、主室内イオン検出部と、主室内失火検出部と備える。主室用蓄電部は、主室用点火装置の2次コイルに流れる電流によって電荷が蓄電される。主室内イオン検出部は、副室用点火プラグにより副室内の混合気に点火する副室点火運転時に、主室用蓄電部が主室用点火プラグの電極に電圧を印加することにより主室内のイオンの濃度を検出する。主室内失火検出部は、主室内イオン検出部で検出されたイオンの濃度と予め定められた主室用イオン閾値との大きさを比較して失火であるか否かを検出する。
【発明の効果】
【0009】
上記構成の失火検出方法及び失火検出装置によれば、エンジン(内燃機関)の失火を高い精度で検出することができる。
なお、上述した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1の実施形態に係るエンジンの断面の例を示す説明図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る副室用点火装置の構成例を示す説明図である。
図3】本発明の第1の実施形態に係る主室用点火装置の構成例を示す説明図である。
図4】本発明の第1の実施形態に係る副室点火モードにおける点火制御信号とイオン信号の例を示す説明図である。
図5】本発明の第1の実施形態に係る副室点火モードの失火判定処理の手順例を示すフローチャートである。
図6】本発明の第2の実施形態に係るエンジンの断面の例を示す説明図である。
図7】本発明の第2の実施形態に係る副室用点火装置の構成例を示す説明図である。
図8】本発明の第2の実施形態に係る主室点火モードにおける点火制御信号とイオン信号の例を示す説明図である。
図9】本発明の第2の実施形態に係る副室点火モードの失火判定処理の手順例を示すフローチャートである。
図10】本発明の第3の実施形態に係る副室点火モードにおける点火制御信号とイオン信号の例を示す説明図である。
図11】本発明の第3の実施形態に係る主室点火モードにおける点火制御信号とイオン信号の例を示す説明図である。
図12】本発明の第3の実施形態に係る失火パターン判定処理の手順例を示すフローチャートである。
図13】本発明の第4の実施形態に係る主室用点火装置の構成例を示す説明図である。
図14】本発明の第5の実施形態に係る主室用点火装置の構成例を示す説明図である。
図15】本発明の第5の実施形態に係る主室用点火装置の可変電圧器における、イオン閾値信号とイオン閾値との関係を示す説明図である。
図16】本発明の第5の実施形態に係るEGR率、または、空燃比に対するイオン閾値信号の変更例を示す説明図である。
図17】本発明の第5の実施形態に係るエンジントルク、または、体積効率に対するイオン閾値信号の変更例を示す説明図である。
図18】本発明の第5の実施形態に係るクーラント温度、または、吸気温度に対するイオン閾値信号の変更例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態の例について、添付図面を参照して説明する。本明細書及び添付図面において実質的に同一の機能又は構成を有する構成要素については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0012】
1.第1の実施形態
<エンジン>
まず、本発明の第1の実施形態に係るエンジンの構成例について、図1を参照して説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係るエンジンの断面の例を示す。
【0013】
図1に示すように、エンジン13は、シリンダ38と、シリンダ38内を摺動するピストン35と、吸気バルブ32と、排気バルブ34と、点火プラグ40a,40bとを備える。シリンダ38内には、ピストン35に面する主室37が形成される。主室37は、吸気マニホールド31、排気マニホールド33、及び副室42と連通している。また、シリンダ38には、点火プラグ40bが取り付けられている。
【0014】
吸気バルブ32は、吸気マニホールド31と主室37との連通を開閉する。排気バルブ34は、排気マニホールド33と主室37との連通を開閉する。吸気マニホールド31には、燃料を噴射するインジェクタ36が設けられている。インジェクタ36が噴射する燃料と、吸気マニホールド31から吸気される空気とが混合された混合気は、主室37に供給される。
【0015】
副室42は、副室形成部材45に囲まれた空間である。副室形成部材45は、中空の略円柱状に形成されている。副室形成部材45の軸方向の一端には、点火プラグ40aが取り付けられている。副室形成部材45の軸方向の他端は、シリンダ38を貫通して主室37内に配置されている。
【0016】
副室形成部材45の軸方向の他端には、複数の貫通孔43が設けられている。ピストン35が上昇する圧縮行程において、主室37内の混合気は、副室形成部材45の貫通孔43を通過して副室42内に取り込まれる。すなわち、副室42は、主室37から混合気を取り込む。
【0017】
また、エンジン13は、点火プラグ40aに高電圧を印加する副室用点火装置50aと、点火プラグ40bに高電圧を印加する主室用点火装置50bとを備える。点火プラグ40aは、副室用点火装置50aから高電圧を印加されると、火花放電を発生させて、副室42内の混合気に点火する。点火プラグ40bは、主室用点火装置50bから高電圧を印加されると、火花放電を発生させて、主室37内の混合気に点火する。
【0018】
副室用点火装置50aは、点火部51aを有する。副室用点火装置50aは、ECU(Electronic Control Unit)2に電気的に接続されている。点火部51aは、ECU2から送信される点火制御信号59aに基づいて、ハイテンションコード48aを通じて点火プラグ40aに高電圧を印加する。
【0019】
主室用点火装置50bは、点火部51bと、イオン電流検出部90bとを有する。主室用点火装置50bは、ECU2に電気的に接続されている。点火部51bは、ECU2から送信される点火制御信号59bに基づいて、ハイテンションコード48bを通じて点火プラグ40bに高電圧を印加する。イオン電流検出部90bは、主室37内の混合気が燃焼した際に主室イオン信号98bを検出する。主室用点火装置50bは、イオン電流検出部90bで検出された主室イオン信号98bをECU2に送信する。
【0020】
点火プラグ40aは、副室42内に配置された電極41a(接地電極及び中心電極)を備えている。ピストン35が上昇する圧縮行程において、主室37から副室形成部材45の貫通孔43を通過した混合気が副室42内に取り込まれる。そして、圧縮上死点近傍において、副室用点火装置50aから点火プラグ40aに高電圧が印加されると、電極41aが火花放電を発生する。
【0021】
電極41aが火花放電を発生すると、副室42内の混合気が着火し、副室42内で火炎が生じる。副室42内の火炎は、貫通孔43を通過して主室37に複数の火炎ジェットとして噴出する。これにより、主室37内の混合気は、多点着火する。主室37内で燃焼した混合気は、ピストン35を押し下げて、不図示のクランクシャフトを回転させる。その結果、エンジン13により発生させた動力が外部に取り出される。
【0022】
点火プラグ40bは、主室37内に配置された電極41b(接地電極及び中心電極)を備えている。圧縮上死点近傍において、主室用点火装置50bから点火プラグ40bに高電圧が印加されると、電極41bが火花放電を発生する。これにより、主室37内の混合気は、着火する。主室37内で燃焼した混合気は、ピストン35を押し下げて、不図示のクランクシャフトを回転させる。その結果、エンジン13により発生させた動力が外部に取り出される。
【0023】
このように、エンジン13は少なくとも、副室42に設けた点火プラグ40aによる点火(「副室点火」と略す)と、主室37に設けた点火プラグ40bによる点火(「主室点火」と略す)を行う。以下、副室点火を行う状態を副室点火モードとし、主室点火を行う状態を主室点火モードとする。
【0024】
2つの点火モードは、例えば以下のように使い分けられる。例えば、エンジン13が暖機状態であり、かつ、エンジン負荷が高い場合に、エンジン13は副室点火モードで運転される。副室点火モードでは、副室42で生成された火炎ジェットにより主室37内の混合気が多点着火されるため、短時間で主室37内の燃焼が完了する。したがって、副室点火モードでは、比較的ノックが起こりやすい高温、高負荷状態において、ノックの発生を抑制し、大きなエンジン出力を得ることができる。また、短時間で主室37内の燃焼が完了するため、等容度が高くなり、高い熱効率を得ることができる。
【0025】
例えば、エンジン13が冷機状態、もしくは、エンジン負荷が低い場合に、エンジン13は主室点火モードで運転される。一般に、副室42は比表面積(体積に対する表面積)が比較的大きい。そのため、副室42内で発生した燃焼熱の多くは、副室42の壁面を通じてエンジン13の外部へ放熱される。したがって、副室形成部材45の壁面温度やエンジン13の燃焼温度が低い場合には、混合気が燃焼を継続するための高温状態を維持できず、副室42内で点火を行っても、失火する可能性が高くなる。
【0026】
一方、主室37は比表面積が比較的小さい。そのため、シリンダ38の壁面温度やエンジン13の燃焼温度が低い場合に、主室37内で点火を行っても、失火する可能性は低くなる。そこで、エンジン13が冷機状態、もしくは、エンジン負荷が低い場合には、エンジン13を主室点火モードで運転することで、失火の少ない安定な運転が可能となる。
【0027】
主室点火モードでは、主室37内の単点で着火して、燃焼が完了するまでに火炎が長い距離を伝播する。そのため、主室点火モードは、副室点火モードに比べて燃焼期間が長くなる。これは、エンジン13の出力や熱効率を低下させる要因となる。したがって、エンジン13が暖機状態となり、かつ、エンジン負荷が高くなった場合には、速やかに主室点火モードかたら副室点火モードに移行することが望ましい。
【0028】
<副室用点火装置>
次に、副室用点火装置50aの構成について、図2を用いて説明する。
図2は、副室用点火装置50aの構成例を示す説明図である。
【0029】
図2に示すように、副室用点火装置50aは、点火部51aを備える。点火部51aは、1次コイル52aと、2次コイル53aと、イグナイタ54aとを有する。1次コイル52aの一端は、不図示のバッテリ(直流電源)に接続されている。これにより、1次コイル52aには、所定の電圧(例えば12V)が印加され、一次電流が流れる。
【0030】
1次コイル52aの他端は、イグナイタ54aのコレクタ端子に接続されており、イグナイタ54aのエミッタ端子を介して接地されている。イグナイタ54aには、トランジスタや電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor:FET)などが用いられる。イグナイタ54aのベース端子は、ECU2に接続されている。
【0031】
2次コイル53aは、1次コイル52aと磁気回路及び磁束を共有する。1次コイル52aに対する2次コイル53aの巻き数比は、例えば100程度に設定される。2次コイル53aの一端は、点火プラグ40aの電極41aに接続されている。2次コイル53aの他端は、ダイオード57aのアノードに接続されている。ダイオード57aのカソードは、抵抗58aを介して接地される。
【0032】
ECU2からイグナイタ54aのベース端子に点火制御信号59aが送信されている間、すなわち、点火制御信号59aがオンされている間、イグナイタ54aのコレクタ端子とエミッタ端子間が通電状態となる。これにより、1次電流は、1次コイル52aを経て、イグナイタ54aのコレクタ端子からエミッタ端子に出力される。
【0033】
ECU2からイグナイタ54aのベース端子への点火制御信号59aの送信が停止すると、すなわち、点火制御信号59aがオフされると、イグナイタ54aを流れる1次電流が遮断される。このとき、1次コイル52aには磁界変化が発生し、自己誘導により1次電圧が発生する。そして、2次コイル53aには、相互誘導により、巻き数比に応じた高い2次電圧が発生する。これにより、2次電圧が点火プラグ40aの電極41aに印加され、電極41aで火花放電が発生する。また、2次コイル53aに2次電圧が誘起されて発生した2次電流は、ダイオード57a、抵抗58aを流れる。
【0034】
<主室用点火装置>
次に、主室用点火装置50bの構成について、図3を用いて説明する
図3は、主室用点火装置50bの構成例を示す説明図である。
【0035】
図3に示すように、主室用点火装置50bは、点火部51bと、イオン電流検出部90bを備える。点火部51bは、1次コイル52bと、2次コイル53bと、イグナイタ54bとを有する。1次コイル52bの一端は、不図示のバッテリ(直流電源)に接続されている。これにより、1次コイル52bには、所定の電圧(例えば12V)が印加され、一次電流が流れる。
【0036】
1次コイル52bの他端は、イグナイタ54bのコレクタ端子に接続されており、イグナイタ54bのエミッタ端子を介して接地されている。イグナイタ54bには、トランジスタや電界効果トランジスタなどが用いられる。イグナイタ54bのベース端子は、ECU2に接続されている。
【0037】
2次コイル53bは、1次コイル52bと磁気回路及び磁束を共有する。1次コイル52bに対する2次コイル53bの巻き数比は、例えば100程度に設定される。2次コイル53bの一端は、点火プラグ40bの電極41bに接続されている。2次コイル53bの他端は、イオン電流検出部90bに接続されている。
【0038】
イオン電流検出部90bは、キャパシタ91bと、キャパシタ91bに並列接続された充電電圧制御用のツェナーダイオード92bと、キャパシタ91bに接続された電圧変換用抵抗93bとを備える。
【0039】
また、イオン電流検出部90bは、2次電流経路ダイオード94bと、イオン電流経路ダイオード95bを備える。2次電流経路ダイオード94bは、キャパシタ91bとツェナーダイオード92bと電圧変換用抵抗93bとの接続点と、GNDとを接続する。イオン電流経路ダイオード95bは、電圧変換用抵抗93bを介してキャパシタ91bをGNDに接続する。
【0040】
ECU2からイグナイタ54bのベース端子に点火制御信号59bが送信されている間、すなわち、点火制御信号59bがオンされている間、イグナイタ54bのコレクタ端子とエミッタ端子間が通電状態となる。これにより、1次電流は、1次コイル52bを経て、イグナイタ54bのコレクタ端子からエミッタ端子に出力される。
【0041】
ECU2からイグナイタ54bのベース端子への点火制御信号59bの送信が停止すると、すなわち、点火制御信号59bがオフされると、イグナイタ54bを流れる1次電流が遮断される。このとき、1次コイル52bには磁界変化が発生し、自己誘導により1次電圧が発生する。そして、2次コイル53bには、相互誘導により、巻き数比に応じた高い2次電圧が発生する。これにより、2次電圧が点火プラグ40bの電極41bに印加され、電極41bで火花放電が発生する。
【0042】
点火プラグ40bに放電火花が発生すると、イオン電流検出部90bには、矢印96bの方向に2次電流が流れる。そして、2次コイル53bの電圧が減少して、ツェナーダイオード92bの降伏電圧(例えば+100V)よりも低くなると、2次電流は、キャパシタ91bに流れ込む。その結果、キャパシタ91bに電荷がチャージされる。
【0043】
点火プラグ40bが取り付けられている主室37内には、燃焼過程の中間生成物として、ケミカルイオンやサーマルイオンといったイオンが存在している。点火プラグ40bの火花放電が消滅し、2次電流が流れなくなると、キャパシタ91bに蓄積されていた電荷が放出される。これにより、2次コイル53bを介して、点火プラグ40bにイオン電流検出用電圧(例えば+100V)が印加される。その結果、主室37内の陽イオン及び電子が電極41bに捕捉され、イオン電流検出部90bには、矢印97bの方向にイオン電流が流れる。
【0044】
イオン電流は、GNDを介してイオン電流経路ダイオード95bへ流れ、電圧変換用抵抗93bによって電圧変換される。これにより、イオン電流の大きさに応じた電圧が、主室イオン信号98bとしてECU2に送られる。
【0045】
<副室点火モードの点火制御信号とイオン信号>
次に、エンジン13を副室点火モードで運転した場合の点火制御信号とイオン信号の例を、図4を用いて説明する。
図4は、副室点火モードにおける点火制御信号とイオン信号の例を示す説明図である。
【0046】
図4に示すグラフの横軸は、時間経過を示す。主室イオン信号98bに関しては、主室37内の混合気が正常に燃焼した場合の主室イオン信号98bの変化123と、主室37内の混合気が失火した時の主室イオン信号98bの変化124の例を示している。
【0047】
点火制御信号59bは、キャパシタ91bに電荷をチャージするために送信される。しかし、点火制御信号59bを送信することで、主室37内の混合気が副室点火に先立って着火すると、副室42よりも先に主室37の圧力が上昇する。その結果、副室42から主室37に向けた火炎ジェットが生成されなくなる虞がある。そこで、主室37内の混合気が副室点火に先立って着火しないように、点火制御信号59bの送信タイミングを決める。
【0048】
点火制御信号59bの送信は、エンジン13の燃焼行程(副室点火の開始から排気開始までの行程)初期から、圧縮行程中期までのいずれかのタイミングで行われる。ここで、燃焼行程初期とは、例えば、副室点火タイミングから10°CA(Crank Angle)遅角したタイミングである。また、圧縮行程中期とは、例えば、圧縮上死点より60°CA程度進角したタイミングである。
【0049】
副室点火タイミングから10°CA程度遅角したタイミング以降であれば、副室点火によって生じる火炎ジェットによって、主室37内の混合気の着火が行われている。したがって、主室37の点火プラグ40bの火花放電によって、主室37内の混合気が副室点火に先立って着火することはない。また、圧縮上死点より60°CA程度進角したタイミング以前であれば、主室37内の混合気の温度は低い。したがって、主室37の点火プラグ40bの火花放電によって、主室37内の混合気が副室点火に先立って着火することはない。
【0050】
ECU2は、圧縮上死点近傍において、副室用点火装置50aに対して点火制御信号59aを送信する。その後、ECU2が点火制御信号59aの送信を停止すると、点火プラグ40aの電極41aに高電圧が印加され、火花放電が生じる。
【0051】
圧縮上死点近傍では、副室42内、及び、主室37内における可燃混合気の割合が高く、またピストン35による圧縮によって、混合気の温度が充分に高くなっている。したがって、点火プラグ40aに火花放電が発生すると、副室42内の混合気が着火する。そして、副室42内の火炎が貫通孔43を通過して主室37に複数の火炎ジェットとして噴出する。その結果、主室37内の混合気への多点着火が行われる。
【0052】
主室37内の混合気が燃焼すると、主室37内には、ケミカルイオンやサーマルイオンなどのイオンが生成される。燃焼によって生成されたイオンは、主室用点火装置50bのイオン電流検出部90bによってイオン電流として検出される。イオン電流検出部90bは、イオン電流を検出すると、主室イオン信号98bをECU2に送信する。
【0053】
イオン電流検出部90bを流れるイオン電流は、イオンの濃度が高いほど大きくなる。そして、イオン電流が大きくなると、イオン電流検出部90bが送信する主室イオン信号98bが大きくなる。混合気が正常に燃焼した場合は、生成されるイオンの濃度が高くなるため、主室イオン信号98bは比較的大きな値を示す(変化123参照)。一方、失火した場合は、主室37内で生成されるイオン濃度が低くなるため、主室イオン信号98bは正常に燃焼した時に比べて小さくなる(変化123参照)。
【0054】
そこで、ECU2は、副室点火のための点火制御信号59aがOFFになった後に増加する主室イオン信号98bの最大値ibmaxを検出して、最大値ibmaxがイオン閾値ic以下の場合に、失火したと判定する。また、ECU2は、最大値ibmaxがイオン閾値icよりも大きい場合に、正常に燃焼したと判定する。なお、イオン閾値icは、キャリブレーションなどによって予め定められる。
【0055】
失火判定は、主室イオン信号98bの最大値ibmaxではなく、主室イオン信号98bの積分値に基づいて行ってもよい。この場合に、ECU2は、副室点火のための点火制御信号59aの後に生じる主室イオン信号98bの、時刻t1からt2間の積分値Siを式(1)により算出する。
【0056】
[式1]
【0057】
式(1)において、i(t)は、主室イオン信号98bの瞬時値である。また、t1は、点火制御信号59aのOFFから主室イオン信号98bの立ち上がり間の時刻であり、t2は、t1後からイオン信号が充分に小さくなる時刻である。例えば、t1は、点火制御信号59aのOFFから1ms後の時刻、t2はt1から5ms後の時刻である。t1とt2は、キャリブレーションなどにより、予め定められる。
【0058】
ECU2は、積分値Siがイオン閾値ic以下の場合に、失火したと判定する。また、ECU2は、積分値Siがイオン閾値icよりも大きい場合に、正常に燃焼したと判定する。
【0059】
このように、主室イオン信号98bの積分値に基づいて失火判定をする場合は、主室イオン信号98bの最大値ibmaxに基づいて失火判定をする場合に比べ、ECU2における演算量が増大する。しかし、主室イオン信号98bの積分値に基づいて失火判定をする場合は、ノイズなどの要因により、主室イオン信号98bに短期間の変動が生じた場合においても、正確な失火判定を行うことができる。
【0060】
<副室点火モード時の失火判定処理>
次に、本発明の第1の実施形態における副室点火モード時に実行される失火の検出手順を、図5を用いて説明する。
図5は、第1実施形態に係る副室点火モード時の失火判定処理の手順例を示すフローチャートである。
【0061】
まず、ECU2は、燃焼行程初期から圧縮行程中期までのいずれかにおいて、主室用点火装置50bに点火制御信号59bを送信する(S201)。これにより、イオン電流検出部90bのキャパシタ91bに電荷がチャージされる。
【0062】
次に、ECU2は、圧縮上死点近傍(例えば圧縮上死点前10°CA)において、副室用点火装置50aに点火制御信号59aを送信する(S202)。その後、ECU2は、点火制御信号59aの送信を停止する。これにより、点火プラグ40aの電極41aに火花放電が発生する。
【0063】
次に、ECU2は、主室用点火装置50bのイオン電流検出部90bから主室イオン信号98bを受信する(S203)。次に、ECU2は、主室イオン信号98bの最大値ibmaxを検出する(S204)。続いて、ECU2は、主室イオン信号98bの最大値ibmaxが予め定められたイオン閾値ic以下であるか否かを判定する(S205)。
【0064】
ステップS205において、主室イオン信号98bの最大値ibmaxがイオン閾値ic以下でないと判定したとき(S205がNO判定の場合)、ECU2は、主室37内の混合気が正常に燃焼したと判定する(S206)。一方、ステップS205において、主室イオン信号98bの最大値ibmaxがイオン閾値ic以下であると判定したとき(S205がYES判定の場合)、ECU2は、失火したと判定する(S207)。
【0065】
ステップS207において失火したと判定した場合に、ECU2は、失火を回復するための回復制御を実施する(208)。ここで、回復制御とは、例えば、空燃比を小さく(燃料リッチ化)したり、副室42及び主室37のEGR(Exhaust Gas Recirculation)率を下げたり、副室用点火装置50aの点火エネルギを増大したりする、などの制御である。
【0066】
このように、本発明の第1の実施形態に係る失火検出方法は、副室点火モードにおいて主室用点火装置50bによって検出されたイオン信号に基づいて、失火及び正常燃焼を検出する。この失火検出方法によって得られるメリットを、以下で説明する。
【0067】
副室点火モードにおける失火には、完全失火と部分失火がある。完全失火は、点火プラグ40aによる副室42内の混合気への着火が失敗する場合である。部分失火は、副室42内の混合気が着火したにも関わらず、副室42で生成された火炎ジェットから主室37内の混合気への着火が失敗する場合、もしくは主室37の火炎が伝播途中で消炎する場合である。
【0068】
部分失火は、例えば、主室37内の混合気が不均一なため、適切な混合比の混合気が副室の近傍に形成されていない場合や、主室37内のガス流動が過度に強いため、初期に形成された火炎が吹き飛ばされる場合などに発生する。
【0069】
[表1]
【0070】
表1には、副室点火モードにおける失火時の、副室42と主室37のイオン濃度の一般的な傾向を示す。表1に示すように、副室点火モードにおいて完全失火した場合は、副室42と主室37のイオン濃度が共に低くなる。これは、完全失火時には、副室42内と主室37内で共に燃焼が充分に行われず、双方でのイオン生成量が少ないためである。
【0071】
一方、副室点火モードにおいて部分失火した場合は、副室42のイオン濃度は高く、主室37のイオン濃度は低くなる。これは、部分失火時において、副室42内では正常な燃焼が行われてイオンが多く生成され、主室37内では燃焼が充分に行われずにイオンの生成量が少ないためである。
【0072】
特許文献1(特開2021-50724号公報)に開示された副室式火花点火エンジンは、副室の点火プラグに高電圧を印加する点火装置にイオン電流検出回路を設け、イオン電流検出回路から得られるイオン信号に基づいて失火判定する。この場合は、部分失火時に副室内で生成された高濃度のイオンが検知されるため、失火を「正常燃焼」と誤判定する可能性がある。
【0073】
一方、上述した第1の実施形態に係る失火検出方法では、副室点火モードにおいて、主室用点火装置50bで検出された主室イオン信号98bに基づいて失火であるか否かを判定する。そして、主室用点火装置50bが完全失火時及び部分失火時に検出するイオン信号は、正常燃焼時に比べて小さくなる。その結果、失火を確実に検出することができる。
【0074】
2.第2の実施形態
<エンジン>
次に、本発明の第2の実施形態に係るエンジンの構成例について、図6を参照して説明する。
図6は、本発明の第2の実施形態に係るエンジンの断面の例を示す。
【0075】
第2の実施形態に係るエンジン13bは、第1の実施形態に係るエンジン13(図1参照)と同様の構成を有している。エンジン13bが、エンジン13と異なる点は、副室用点火装置501aである。そのため、ここでは、副室用点火装置501aについて説明し、エンジン13と共通の構成についての説明を省略する。
【0076】
副室用点火装置501aは、点火部51aと、イオン電流検出部90aを備える。副室用点火装置501aは、ECU2に電気的に接続されている。点火部51aは、ECU2から送信される点火制御信号59aに基づいて、ハイテンションコード48aを通じて点火プラグ40aに高電圧を印加する。イオン電流検出部90aは、副室42内の混合気が燃焼した際に副室イオン信号98aを検出する。副室用点火装置501aは、イオン電流検出部90aで検出された副室イオン信号98aをECU2に送信する。
【0077】
<副室用点火装置>
次に、副室用点火装置501aの構成について、図7を用いて説明する
図7は、副室用点火装置501aの構成例を示す説明図である。
【0078】
上述したように、副室用点火装置501aは、点火部51aと、イオン電流検出部90aを備える。点火部51aは、1次コイル52a、2次コイル53aと、イグナイタ54aとを有する。この点火部51aの構成は、第1の実施形態に係る主室用点火装置50bの点火部51b(図3参照)と同様であるため、詳しい説明を省略する。
【0079】
イオン電流検出部90aは、キャパシタ91bと、ツェナーダイオード92bと、電圧変換用抵抗93bと、2次電流経路ダイオード94bと、イオン電流経路ダイオード95bを備える。このイオン電流検出部90aの構成は、第1の実施形態に係る主室用点火装置50bのイオン電流検出部90b(図3参照)と同様であるため、詳しい説明を省略する。
【0080】
第2の実施形態に係る主室用点火装置50bは、イオン電流検出部90bを有している。そのため、主室用点火装置50bによって、主室37内のイオン発生量(イオンの濃度)を検知することが可能である。また、副室用点火装置501aは、イオン電流検出部90aを有している。そのため、副室用点火装置501aによって、副室42内のイオン発生量(イオンの濃度)を検知することが可能である。
【0081】
<副室点火モードの点火制御信号とイオン信号>
エンジン13bを副室点火モードで運転した場合の点火制御信号とイオン信号については、第1の実施形態(図4参照)と同様であるため、説明を省略する。
【0082】
<主室点火モードの点火制御信号とイオン信号>
次に、エンジン13bを主室点火モードで運転した場合の点火制御信号とイオン信号の例を、図8を用いて説明する。
図8は、主室点火モードにおける点火制御信号とイオン信号の例を示す説明図である。
【0083】
図8に示すグラフの横軸は、時間経過を示す。副室イオン信号98aに関しては、副室42内の混合気が正常に燃焼した場合の副室イオン信号98aの変化125と、副室42内の混合気が失火した時の副室イオン信号98aの変化126の例を示している。
【0084】
ECU2が、副室用点火装置501aに対して点火制御信号59aを送信して、所定の時間が経過後に点火制御信号59aの送信を停止する(点火制御信号59aがONからOFFになる)と、点火プラグ40aの電極41aに高電圧が印加される。これにより、点火プラグ40aに火花放電が生じる。その後、副室用点火装置501aの2次コイル53aの電圧が減少し、ツェナーダイオード92aの降伏電圧よりも低くなると、2次電流は、キャパシタ91aに流れ込む。その結果、キャパシタ91aに電荷がチャージされる。
【0085】
点火制御信号59aは、キャパシタ91aに電荷をチャージするために送信される。しかし、点火制御信号59aを送信することで、副室42内の混合気が主室点火に先立って着火すると、主室37よりも先に副室42の圧力が上昇する。その結果、主室37内の火炎伝播が阻害される虞がある。そこで、副室42内の混合気が主室点火に先立って着火しないように、点火制御信号59aの送信タイミングを決める。
【0086】
点火制御信号59aの送信は、エンジン13bの燃焼行程(主室点火開始から排気開始までの行程)の初期から、圧縮行程中期までのいずれかのタイミングで行われる。ここで燃焼行程初期とは、例えば、主室点火タイミングから10°CA遅角したタイミングである。また、圧縮行程中期とは、例えば、圧縮上死点より60°CA進角したタイミンである。
【0087】
主室点火タイミングから10°CA程度遅角したタイミング以降であれば、主室点火による燃焼ガスによって副室42内の着火が行われている。したがって、点火プラグ40aの火花放電によって、副室42内の混合気が主室点火に先立って着火することはない。また、圧縮上死点より60°CA程度進角したタイミング以前であれば、副室42内の混合気の温度は低い。したがって、点火プラグ40aの火花放電によって、副室42内の混合気が主室点火に先立って着火することはない。
【0088】
ECU2は、圧縮上死点近傍において、主室用点火装置50bに対して点火制御信号59bを送信する。その後、ECU2が点火制御信号59bの送信を停止すると、点火プラグ40bの電極41bに高電圧が印加され、火花放電が生じる。
【0089】
圧縮上死点近傍では、主室37内、及び、副室42内における可燃混合気の割合が高く、またピストン35による圧縮によって、混合気の温度が充分に高くなっている。したがって、点火プラグ40bに火花放電が発生すると、主室37内の混合気が着火する。そして、主室37内の燃焼ガスが、副室形成部材45の貫通孔43を通って副室42内に流入する。その結果、副室42内の混合気の着火が行われる。
【0090】
副室42内の混合気が燃焼すると、副室42内には、ケミカルイオンやサーマルイオンなどのイオンが生成される。燃焼によって生成されたイオンは、副室用点火装置501aのイオン電流検出部90aによってイオン電流として検出される。イオン電流検出部90aは、イオン電流を検出すると、副室イオン信号98aをECU2に送信する。
【0091】
イオン電流検出部90aを流れるイオン電流は、イオンの濃度が高いほど大きくなる。そして、イオン電流が大きくなると、イオン電流検出部90aが送信する副室イオン信号98aが大きくなる。混合気が正常に燃焼した場合は、生成されるイオンの濃度が高くなるため、副室イオン信号98aは比較的大きな値を示す(変化125参照)。一方、失火した場合は、副室42内で生成されるイオン濃度が低くなるため、副室イオン信号98aは正常に燃焼した時に比べて小さくなる(変化126参照)。
【0092】
そこで、ECU2は、主室点火のための点火制御信号59bがOFFになった後に増加する副室イオン信号98aの最大値iamaxを検出して、最大値iamaxがイオン閾値ic以下の場合に、失火したと判定する。また、ECU2は、最大値iamaxがイオン閾値icよりも大きい場合に、正常に燃焼したと判定する。
【0093】
失火判定は、第1の実施形態において説明したように、副室イオン信号98aの最大値iamaxではなく、副室イオン信号98aの積分値に基づいて行ってもよい。
【0094】
<副室点火モード時の失火判定処理>
第2の実施形態における副室点火モード時の失火判定処理については、第1の実施形態(図5参照)と同様であるため、説明を省略する。
【0095】
<主室点火モード時の失火判定処理>
次に、本発明の第2の実施形態における主室点火モード時に実行される失火の検出手順を、図9を用いて説明する。
図9は、第2実施形態に係る主室点火モード時の失火判定処理の手順例を示すフローチャートである。
【0096】
まず、ECU2は、燃焼行程初期から圧縮行程中期までのいずれかにおいて、副室用点火装置501aに点火制御信号59aを送信する(S221)。これにより、イオン電流検出部90aのキャパシタ91aに電荷がチャージされる。
【0097】
次に、ECU2は、圧縮上死点近傍(例えば圧縮上死点前10°CA)において、主室用点火装置50bに点火制御信号59bを送信する(S222)。その後、ECU2は、点火制御信号59bの送信を停止する。これにより、点火プラグ40bの電極41bに火花放電が発生する。
【0098】
次に、ECU2は、副室用点火装置501aのイオン電流検出部90aから副室イオン信号98aを受信する(S223)。次に、ECU2は、副室イオン信号98aの最大値iamaxを検出する(S224)。続いて、ECU2は、副室イオン信号98aの最大値iamaxが予め定められたイオン閾値ic以下であるか否かを判定する(S225)。
【0099】
ステップS225において、副室イオン信号98aの最大値iamaxがイオン閾値ic以下でないと判定したとき(S225がNO判定の場合)、ECU2は、主室37内の混合気が正常に燃焼したと判定する(226)。一方、ステップS225において、副室イオン信号98aの最大値iamaxがイオン閾値ic以下であると判定したとき(S225がYES判定の場合)、ECU2は、失火したと判定する(S227)。そして、ステップS227において失火したと判定した場合に、ECU2は、失火を回復するための回復制御を実施する(S228)。
【0100】
このように、本発明の第2の実施形態に係る失火検出方法は、主室点火モードにおいて副室用点火装置501aによって検出されたイオン信号に基づいて、失火及び正常燃焼を検出する。この失火検出方法によって得られるメリットを、以下で説明する。
【0101】
主室点火モードにおける失火には、完全失火と部分失火がある。完全失火は、点火プラグ40bによる主室37内の混合気への着火が失敗する場合である。部分失火は、主室37内の混合気が着火したにも関わらず、主室37で生成された燃焼ガスによる、副室42内の混合気への着火が失敗する場合である。この部分失火は、例えば、副室42内の混合気が不均一であったり、副室42内の残留ガス濃度が高すぎたりする場合などに発生する。
【0102】
[表2]
【0103】
表2には、主室点火モードにおける失火時の、副室42と主室37の一般的なイオン濃度の傾向を示す。表2に示すように、主室点火モードにおいて完全失火した場合は、副室42と主室37のイオン濃度が共に低くなる。これは、完全失火時には、副室42内と主室37内で共に燃焼が充分に行われず、双方でのイオン生成量が少ないためである。
【0104】
一方、主室点火モードにおいて部分失火した場合は、主室37のイオン濃度は高く、副室42のイオン濃度は低くなる。これは、部分失火時において、主室37内では正常な燃焼が行われてイオンが多く生成され、副室42内では燃焼が充分に行われずにイオン生成量が少ないためである。したがって、主室点火モードにおいて、主室用点火装置50bで検出されたイオン信号に基づいて失火であるか否かを判定する場合は、部分失火を「正常燃焼」と誤検知する虞がある。
【0105】
上述した第2の実施形態に係る失火検出方法では、主室点火モードにおいて、副室用点火装置501aで検出された副室イオン信号98aに基づいて失火であるか否か判定する。そして、副室用点火装置501aが、完全失火時及び部分失火時に検出するイオン信号は、正常燃焼時に比べて小さくなる。その結果、失火を確実に検出することができる。
【0106】
3.第3の実施形態
次に、第3の実施形態に係る失火パターンの判別手法について説明する。
第3の実施形態に係るエンジン、は、第2に係るエンジン13bと同じである。そのため、第3の実施形態に係るエンジンについての説明を省略する。
【0107】
第3の実施形態に係るエンジンは、上述した第2の実施形態に係るエンジン13bと同様に、主室用点火装置50bによって主室イオン信号98bを得ることができる。また、第3の実施形態に係るエンジンは、副室用点火装置501aによって副室イオン信号98aを得ることができる。
【0108】
[表3]
【0109】
表3には、副室点火モードと主室点火モードの失火パターンに対する、副室イオン信号98aと主室イオン信号98bの強度関係を示す。第1の実施形態及び第2の実施形態において説明したように、副室点火モードと主室点火モードのいずれにおいても、完全失火と部分失火の2つの失火パターンが存在する。
【0110】
表3に示すように、完全失火時には、副室点火モードと主室点火モードとのいずれにおいても、副室イオン信号98aと主室イオン信号98bの強度は小さくなる。しかし、部分失火時には、副室点火モードと主室点火モードの、副室イオン信号98aと主室イオン信号98bの強度の大小関係は逆となる。
【0111】
すなわち、副室点火モードにおいては、副室イオン信号98aの強度は大きく、主室イオン信号98bの強度は小さくなる。一方、主室点火モードにおいては、副室イオン信号98aの強度は小さく、主室イオン信号98bの強度は大きくなる。したがって、副室イオン信号98aと主室イオン信号98bの双方を取得することによって、副室点火モードと主室点火モードにおける失火パターンを判別することが可能である。
【0112】
<副室点火モードの点火制御信号とイオン信号>
次に、第3実施形態に係るエンジンを副室点火モードで運転した場合の点火制御信号とイオン信号の例を、図10を用いて説明する。
図10は、副室点火モードにおける点火制御信号とイオン信号の例を示す説明図である。
【0113】
図10に示すグラフの横軸は、時間経過を示す。副室イオン信号98aに関しては、副室42内の混合気が正常に燃焼した場合の変化127を示している。また、主室イオン信号98bに関しては、主室37内の混合気が正常に燃焼した場合の変化128を示している。
【0114】
副室点火モードにおいて、ECU2は、まず、主室用点火装置50bに対して点火制御信号59bを送信する。その後、ECU2が点火制御信号59bの送信を停止すると、点火プラグ40bの電極41bに高電圧が印加され、火花放電が生じる。そして、主室用点火装置50bの2次コイル53bの電圧が減少し、ツェナーダイオード92bの降伏電圧よりも低くなると、2次電流はキャパシタ91bに流れ込む。その結果、キャパシタ91bに電荷がチャージされる。
【0115】
上述したように、点火制御信号59bは、キャパシタ91bに電荷をチャージするために送信される。点火制御信号59bの送信は、主室37内の混合気が副室点火に先立って着火しないように、エンジン13bの燃焼行程(副室点火の開始から排気開始までの行程)初期から、圧縮行程中期までのいずれかのタイミングで行われる。燃焼行程初期とは、例えば、副室点火タイミングから10°CA(Crank Angle)遅角したタイミングである。また、圧縮行程中期とは、例えば、圧縮上死点より60°CA程度進角したタイミングである。
【0116】
次に、ECU2は、圧縮上死点近傍において、副室用点火装置501aに対して点火制御信号59aを送信する。その後、ECU2が点火制御信号59aの送信を停止すると、点火プラグ40aの電極41aに高電圧が印加され、火花放電が生じる。点火プラグ40aに火花放電が発生すると、副室42内の混合気が着火する。そして、副室42内の火炎が貫通孔43を通過して主室37に複数の火炎ジェットとして噴出する。その結果、主室37内の混合気への多点着火が行われる。
【0117】
その後、副室用点火装置501aの2次コイル53aの電圧が減少し、ツェナーダイオード92aの降伏電圧よりも低くなると、2次電流はキャパシタ91aに流れ込む。その結果、キャパシタ91aに電荷がチャージされる。
【0118】
副室42内の混合気が燃焼することによって副室42内に生じたイオンは、副室用点火装置501aのイオン電流検出部90aによって検出され、副室イオン信号98aとしてECU2に送信される。また、主室37内の混合気が燃焼することによって主室37内に生じたイオンは、主室用点火装置50bのイオン電流検出部90bによって検出され、主室イオン信号98bとしてECU2に送信される。
【0119】
<主室点火モードの点火制御信号とイオン信号>
次に、第3実施形態に係るエンジンを主室点火モードで運転した場合の点火制御信号とイオン信号の例を、図11を用いて説明する。
図11は、主室点火モードにおける点火制御信号とイオン信号の例を示す説明図である。
【0120】
図11に示すグラフの横軸は、時間経過を示す。副室イオン信号98aに関しては、副室42内の混合気が正常に燃焼した場合の変化127を示している。また、主室イオン信号98bに関しては、主室37内の混合気が正常に燃焼した場合の変化128を示している。
【0121】
主室点火モードにおいて、ECU2は、まず、副室用点火装置501aに対して点火制御信号59aを送信する。その後、ECU2が点火制御信号59aの送信を停止すると、点火プラグ40aの電極41aに高電圧が印加され、火花放電が生じる。そして、副室用点火装置501aの2次コイル53aの電圧が減少し、ツェナーダイオード92aの降伏電圧よりも低くなると、2次電流はキャパシタ91aに流れ込む。その結果、キャパシタ91aに電荷がチャージされる。
【0122】
上述したように、点火制御信号59aは、キャパシタ91aに電荷をチャージするために送信される。点火制御信号59aの送信は、副室42内の混合気が主室点火に先立って着火しないように、エンジン13bの燃焼行程(副室点火の開始から排気開始までの行程)初期から、圧縮行程中期までのいずれかのタイミングで行われる。燃焼行程初期とは、例えば、副室点火タイミングから10°CA(Crank Angle)遅角したタイミングである。また、圧縮行程中期とは、例えば、圧縮上死点より60°CA程度進角したタイミングである。
【0123】
次に、ECU2は、圧縮上死点近傍において、主室用点火装置50bに対して点火制御信号59bを送信する。その後、ECU2が点火制御信号59bの送信を停止すると、点火プラグ40bの電極41bに高電圧が印加され、火花放電が生じる。点火プラグ40bに火花放電が発生すると、主室37内の混合気が着火する。そして、主室37内の燃焼ガスが、副室形成部材45の貫通孔43を通って副室42内に流入する。その結果、副室42内の混合気の着火が行われる。
【0124】
その後、主室用点火装置50bの2次コイル53bの電圧が減少し、ツェナーダイオード92bの降伏電圧よりも低くなると、2次電流はキャパシタ91bに流れ込む。その結果、キャパシタ91bに電荷がチャージされる。
【0125】
主室37内の混合気が燃焼することによって主室37内に生じたイオンは、主室用点火装置50bのイオン電流検出部90bによって検出され、主室イオン信号98bとしてECU2に送信される。また、副室42内の混合気が燃焼することによって副室42内に生じたイオンは、副室用点火装置501aのイオン電流検出部90aによって検出され、副室イオン信号98aとしてECU2に送信される。
【0126】
<失火パターン判定処理>
次に、第3の実施形態における失火パターンの判定手順を、図12を用いて説明する。
図12は、第3の実施形態に係る失火パターン判定処理の手順例を示すフローチャートである。
【0127】
まず、ECU2は、現在の点火モードが副室点火モードであるか否かを判定する(S241)。ステップS241において、現在の点火モードが副室点火モードでないと判定したとき(S241がNO判定の場合)、ECU2は、ステップS247の処理に移行する。
【0128】
一方、ステップS241において、現在の点火モードが副室点火モードであると判定したとき(S241がYES判定の場合)、ECU2は、主室イオン信号98bの最大値ibmaxを検出する。そして、主室イオン信号98bの最大値ibmaxが予め定めたイオン閾値ibc以下であるか否かを判定する(S242)。
【0129】
ステップS242において、主室イオン信号98bの最大値ibmaxが予め定めたイオン閾値ibc以下でないと判定したとき(S242がNO判定の場合)、ECU2は、主室37内の混合気が正常に燃焼したと判定する(S243)。
【0130】
一方、ステップS242において、主室イオン信号98bの最大値ibmaxが予め定めたイオン閾値ibc以下であると判定したとき(S242がYES判定の場合)、ECU2は、副室イオン信号98aの最大値iamaxを検出する。そして、副室イオン信号98aの最大値iamaxが予め定めたイオン閾値iac以下であるか否かを判定する(S244)。
【0131】
ステップS244において、副室イオン信号98aの最大値iamaxが予め定めたイオン閾値iac以下でないと判定したとき(S244がNO判定の場合)、ECU2は、部分失火であると判定する(S245)。一方、ステップS244において、副室イオン信号98aの最大値iamaxが予め定めたイオン閾値iac以下であると判定したとき(S244がYES判定の場合)、ECU2は、完全失火であると判定する(S246)。
【0132】
ステップS241がNO判定の場合、ECU2は、副室イオン信号98aの最大値iamaxを検出する。そして、副室イオン信号98aの最大値iamaxが予め定めたイオン閾値iac以下であるか否かを判定する(S247)。ステップS247において、副室イオン信号98aの最大値iamaxが予め定めたイオン閾値iac以下でないと判定したとき(S247がNO判定の場合)、ECU2は、主室37内の混合気が正常に燃焼したと判定する(S248)。
【0133】
一方、ステップS247において、副室イオン信号98aの最大値iamaxが予め定めたイオン閾値iac以下であると判定したとき(S247がYES判定の場合)、ECU2は、主室イオン信号98bの最大値ibmaxが予め定めたイオン閾値ibc以下であるか否かを判定する(S249)。
【0134】
ステップS249において、主室イオン信号98bの最大値ibmaxが予め定めたイオン閾値ibc以下でないと判定したとき(S249がNO判定の場合)、ECU2は、部分失火であると判定する(S250)。一方、ステップS249において、主室イオン信号98bの最大値ibmaxが予め定めたイオン閾値ibc以下であると判定したとき(S249がYES判定の場合)、ECU2は、完全失火であると判定する(S251)。
【0135】
このように、本発明の第3の実施形態では、副室点火モードと主室点火モードのそれぞれにおける失火パターンを判別することが可能である。これにより、それぞれの失火パターンに適した失火回復制御が可能となる。
【0136】
副室点火モードにおいて、完全失火であると判定した場合には、例えば、副室用点火装置501aの点火エネルギを増加させて、副室42内の着火性を改善する。また、吸気バルブ32と排気バルブ34のオーバラップ量を増やす制御を実行して、副室42の掃気を促進する。一方、副室点火モードにおいて、部分失火であると判定した場合には、主室37の空燃比の燃料リッチ化や、EGR率の減少などの制御を実行する。
【0137】
主室点火モードにおいて、完全失火であると判定した場合には、例えば、主室用点火装置50bの点火エネルギを増加させて、主室37内での着火性を改善する。また、主室37の空燃比の燃料リッチ化や、EGR率の減少などの制御を実行する。一方、主室点火モードにおいて、部分失火である判定した場合には、吸気バルブ32と排気バルブ34のオーバラップ量を増やす制御を実行して、副室42の掃気を促進する。
【0138】
このように失火パターンに応じて適切な回復制御を選択することで、確実な失火回復が可能となる。これにより、エンジン13bの燃費改善やエミッション低減、失火に伴う振動や騒音の低減を図ることができる。
【0139】
4.第4の実施形態
上述した第1~第3の実施形態に係る失火検出方法では、ECUが、主室用点火装置や副室用点火装置から受信したイオン信号に基づいて失火を検出した。この場合に、ECUは、イオン信号の最大値ibmax,iamaxや積分値Siを算出したり、算出結果とイオン閾値icとを比較したりする処理を行う。そのため、ECUの演算負荷が大きくなるという課題がある。また、ECUが失火判定機能を有するため、制御ソフトウェアの開発工数が比較的大きくなるという課題もある。
【0140】
第4の実施形態に係るエンジンは、第1の実施形態に係るエンジン13(図1参照)と同様の構成を備えている。第4の実施形態に係るエンジンが第1の実施形態に係るエンジン13と異なる点は、失火判定部を有する主室用点火装置501bである。そのため、ここでは、主室用点火装置501bについて説明し、エンジン13と共通の構成についての説明を省略する。
【0141】
<主室用点火装置>
次に、第4の実施形態に係る主室用点火装置501bの構成について、図13を用いて説明する。
図13は、主室用点火装置501bの構成例を示す説明図である。
【0142】
図13に示すように、主室用点火装置501bは、点火部51bと、イオン電流検出部901bを備える。点火部51bの構成は、第1の実施形態に係る主室用点火装置50bの点火部51b(図3参照)と同じであるため、詳しい説明を省略する。
【0143】
イオン電流検出部901bは、本発明における失火検出装置の第1の例を示す。イオン電流検出部901bは、第1の実施形態に係るイオン電流検出部90b(図3参照)と同様の構成を有している。イオン電流検出部901bが第1の実施形態に係るイオン電流検出部90bと異なるところは、ピークホールド回路80bと、分圧用抵抗82b,83bと、比較器81bを備えることである。そのため、ここでは、ピークホールド回路80b、分圧用抵抗82b,83b、比較器81bについて説明し、第1の実施形態に係るイオン電流検出部90bと共通の構成についての説明を省略する。
【0144】
ピークホールド回路80b、分圧用抵抗82b,83b、及び比較器81bは、失火であるか否かを判定する失火判定部を構成する。イオン電流検出部901bにおいて、電圧変換用抵抗93bによって電圧変換された主室イオン信号98bは、ピークホールド回路80bに入力される。ピークホールド回路80bは、主室イオン信号98bの最大値ibmaxを一定期間保持した後、比較器81bの一端に出力する。
【0145】
ピークホールド回路80bが主室イオン信号98bの最大値ibmaxを保持する期間は、エンジンサイクルの1周期期間より短く、例えば、10msである。主室イオン信号98bの最大値ibmaxを保持する期間が過ぎると、ピークホールド回路80bの出力は、0になる。これにより、エンジンサイクルの1サイクル毎に主室イオン信号98bの最大値ibmaxが比較器81bに入力される。
【0146】
分圧用抵抗82b,83bには、図示しないバッテリから+12Vの電圧が供給される。分圧用抵抗82b,83bは、供給された+12Vの電圧を分圧して、イオン閾値icとして、比較器81bの残りの一端に出力する。分圧用抵抗82b,83bの抵抗値は、イオン閾値icが失火検知に対して適切な値になるように、適宜選択される。
【0147】
比較器81bは、入力された主室イオン信号98bの最大値ibmaxとイオン閾値icを比較し、主室イオン信号98bの最大値ibmaxがイオン閾値ic以下の場合に、失火判定信号88bとして「1」をECU2に送信する。また、比較器81bは、主室イオン信号98bの最大値ibmaxがイオン閾値icより大きい場合に、失火判定信号88bとして「0」をECU2に送信する。
【0148】
ECU2は、ピークホールド回路80bが主室イオン信号98bの最大値ibmaxを保持している期間内に、失火判定信号88bを受信する。ECU2は、失火判定信号88bが「1」の場合に「失火」であると判定し、失火判定信号88bが「0」の場合に「正常燃焼」であると判定する。これにより、副室点火モードにおいて、失火検出に伴うECU2の演算負荷を低減することができる。また、ECU2に組み込む制御ソフトウェアが簡素化されるため、ソフトウェアの開発工数を低減することができる。
【0149】
本実施形態においては、ピークホールド回路80bによって、主室イオン信号98bの最大値ibmaxを検出するようにした。しかし、本発明に係るイオン電流検出部としては、ピークホールド回路80bを積分回路に変更することによって、イオン積分値Siを検出るように構成してもよい。
【0150】
また、本実施形態では、失火判定部を備えた主室用点火装置の例を示した。しかし、本発明に係る失火検出装置としては、上述の主室用点火装置501bと同様に、失火判定部を備える副室用点火装置であってもよい。この場合は、主室点火モードにおいて、失火検出に伴うECU2の演算負荷を低減することができる。また、ECU2に組み込む制御ソフトウェアが簡素化されるため、ソフトウェアの開発工数を低減することができる。
【0151】
5.第5の実施形態
正常燃焼時におけるイオン生成量は、例えば、負荷が高くなるほど多くなる。また、正常燃焼時におけるイオン生成量は、例えば、空燃比が大きくなるほど少なくなる。このように、正常燃焼時のイオン生成量は、エンジンの運転条件によって種々に変わる。したがって、失火判定基準であるイオン閾値icの適正値は、運転条件によって変化すると考えられる。
【0152】
イオン閾値icの適正値とは、失火を最も精度良く検出可能なイオン閾値のことを示す。イオン閾値icが適正値から大きく外れていると、失火を「正常燃焼」と判定したり、逆に正常燃焼を「失火」と判定したりする虞がある。したがって、失火検出の精度を保つには、イオン閾値icを適正値に設定することが重要である。
【0153】
第5の実施形態に係るエンジンは、第1の実施形態に係るエンジン13と同様の構成を備えている。第5の実施形態に係るエンジンが第1の実施形態に係るエンジン13と異なる点は、エンジンの運転条件によってイオン閾値icを可変制御する主室用点火装置502bである。そのため、ここでは、主室用点火装置502bについて説明し、エンジン13と共通の構成についての説明を省略する。
【0154】
<主室用点火装置>
次に、第5の実施形態に係る主室用点火装置502bの構成について、図14を用いて説明する。
図14は、主室用点火装置502bの構成例を示す説明図である。
【0155】
主室用点火装置502bは、第4の実施形態に係る主室用点火装置501bと同様の構成を備えている。第5の実施形態に係る主室用点火装置502bが第4の実施形態に係る主室用点火装置501bと異なる点は、イオン電流検出部902bである。そのため、ここでは、イオン電流検出部902bについて説明し、主室用点火装置501bと共通の構成についての説明を省略する。
【0156】
イオン電流検出部902bは、本発明における失火検出装置の第2の例を示す。イオン電流検出部902bは、第4の実施形態に係るイオン電流検出部901b(図13参照)と同様の構成を有している。イオン電流検出部902bが第4の実施形態に係るイオン電流検出部901bと異なるところは、イオン閾値icの生成手段が、分圧用抵抗82b,83bから、可変電圧器84bに置き換わっている点である。そのため、ここでは、可変電圧器84bについて説明し、イオン電流検出部901bと共通の構成についての説明を省略する。
【0157】
図14に示すように、可変電圧器84bには、図示しないバッテリから+12Vの電圧が供給される。また、可変電圧器84bには、ECU2からイオン閾値信号55bが供給される。可変電圧器84bは、供給された+12Vの電圧を、イオン閾値信号55bの大きさに基づいて変圧して、イオン閾値icとして、比較器81bの残りの一端に出力する。
【0158】
<イオン閾値信号とイオン閾値ic>
次に、ECU2から可変電圧器84bに入力されるイオン閾値信号55bの大きさと、可変電圧器84bから出力されるイオン閾値icとの関係について、図15を用いて説明する。
図15は、主室用点火装置の可変電圧器における、イオン閾値信号とイオン閾値との関係を示す説明図である。
【0159】
図15に示すように、可変電圧器84bから出力されるイオン閾値icは、イオン閾値信号55bの大きさに比例する。また、可変電圧器84bから出力されるイオン閾値icは、イオン閾値信号55bの大きさに応じて、0Vからバッテリ電圧である+12Vの範囲で連続的に可変設定される。
【0160】
本実施形態では、失火判定部を備えた主室用点火装置502bが、イオン閾値を可変制御する構成にした。しかし、本発明に係る失火検出装置としては、上述の主室用点火装置502bと同様に、失火判定部を備える副室用点火装置であってもよい。また、その場合に、主室用点火装置502bと同様に、副室用点火装置の可変電圧器がイオン閾値を可変制御するようにしてもよい。
【0161】
<イオン閾値信号の変更>
ECU2は、第5の実施形態に係るエンジンの運転条件に応じてイオン閾値信号55bの大きさを設定する。次に、ECU2で設定されるイオン閾値信号55bの変更例を、図16図18を用いて説明する。
【0162】
図16は、主室37内のEGR率または空燃比に対するイオン閾値信号55bの変更例を示す説明図である。主室37内のEGR率または空燃比が高くなると、イオン信号の強度は低下する。そのため、図16に示すように、イオン閾値信号55bは、EGR率または空燃比が高くなるにつれて小さくなるように変更することが望ましい。
【0163】
図17は、エンジントルクまたは体積効率に対するイオン閾値信号55bの変更例を示す説明図である。エンジントルクまたは体積効率が高くなると、イオン信号の強度は上昇する。そのため、図17に示すように、イオン閾値信号55bは、エンジントルクまたは体積効率が高くなるにつれて大きくなるように変更することが望ましい。
【0164】
図18は、クーラント温度(冷却水温度)または吸気温度に対するイオン閾値信号55bの変更例を示す説明図である。クーラント温度または吸気温度が高くなると、イオン信号の強度は上昇する。そのため、図18に示すように、イオン閾値信号55bは、クーラント温度または吸気温度が高くなるにつれて大きくなるように変更することが望ましい。
【0165】
このように、第5の実施形態に係る主室用点火装置502bでは、エンジンの運転条件に応じてイオン閾値を変更することができる。これにより、失火検出の精度を高精度に保つことができる。
【0166】
本発明に係る失火検出装置としては、副室用点火装置に対するイオン閾値と、主室用点火装置に対するイオン閾値とをそれぞれ別の値に設定してもよい。例えば、正常燃焼した場合には、副室内のイオン濃度は主室内のイオン濃度よりも高くなると考えられる。したがって、副室用点火装置に対するイオン閾値を、主室用点火装置に対するイオン閾値よりも高く設定すると、より精度の高い失火検出が可能となる。
【0167】
また、本発明に係るイオン閾値信号は、上述した主室37内のEGR率、空燃比、エンジントルク、体積効率、クーラント温度、吸気温度等の運転条件の少なくとも1つに応じて決定すればよく、2つ以上の運転条件に応じて決定してもよい。
【0168】
また、第1の実施形態及び第2の実施形態で説明したように、ECU2が失火判定をする場合においても、イオン閾値を運転条件に基づいて変更してもよい。これにより、失火の検出精度を向上させることができる。
【0169】
6.まとめ
以上説明したように、上述した第1の実施形態に係る失火検出方法は、混合気が流入される主室(主室37)と、主室に設けられた主室用点火プラグ(点火プラグ40b)と、主室に連通する副室(副室42)と、副室に設けられた副室用点火プラグ(点火プラグ40a)と、主室内の混合気に点火するための電圧を主室用点火プラグに印加する主室用点火装置(主室用点火装置50b)と、副室内の混合気に点火するための電圧を副室用点火プラグに印加する副室用点火装置(副室用点火装置50a)と、を備えた内燃機関(エンジン13)の失火を検出する。この失火検出方法は、副室用点火プラグにより副室内の混合気に点火する副室点火運転(副室点火モード)時に、主室用点火装置が主室内のイオンの濃度(イオン信号の最大値ibmax)を検出する。そして、失火検出部(ECU2)が、主室用点火装置の検出結果に基づいて失火を検出する。
副室点火運転における完全失火時及び部分失火時は、正常燃焼時に比べて主室内に発生するイオンの濃度が低くなる。したがって、主室内のイオンの濃度から副室点火運転時の失火を確実に検出することができる。
【0170】
また、上述した第3の実施形態に係る失火検出方法は、副室点火運転(副室点火モード)時に、副室用点火装置(副室用点火装置501a)が副室(副室42)内のイオンの濃度(イオン信号の最大値iamax)を検出する。そして、失火検出部(ECU2)は、副室点火運転時に失火を検出した場合に、副室用点火装置の検出結果に基づいて失火パターン(完全失火と部分失火)を判別する。
これにより、副室点火運転時の失火パターンを検知することができ、失火パターンに適した失火回復制御を実行することができる。
【0171】
また、上述した第2の実施形態に係る失火検出方法は、主室用点火プラグ(点火プラグ40b)により主室(主室37)内の混合気に点火する主室点火運転(主室点火モード)時に、副室用点火装置(副室用点火装置501a)が副室(副室42)内のイオンの濃度(イオン信号の最大値iamax)を検出する。そして、失火検出部(ECU2)が、副室用点火装置の検出結果に基づいて失火を検出する。
主室点火運転における完全失火時及び部分失火時は、正常燃焼時に比べて副室内に発生するイオンの濃度が低くなる。したがって、副室内のイオンの濃度から主室点火運転時の失火を確実に検出することができる。
【0172】
また、上述した第3の実施形態に係る失火検出方法は、主室点火運転(主室点火モード)時に、主室用点火装置(主室用点火装置50b)が主室(主室37)内のイオンの濃度(イオン信号の最大値ibmax)を検出する。そして、失火検出部(ECU2)は、主室点火運転時に失火を検出した場合に、主室用点火装置の検出結果に基づいて失火パターン(完全失火と部分失火)を判別する。
これにより、主室点火運転時の失火パターンを検知することができ、失火パターンに適した失火回復制御を実行することができる。
【0173】
また、上述した第1及び第2の実施形態に係る失火検出方法は、主室(主室37)内のイオンの濃度を検出するために主室用点火装置(主室用点火装置50b)に設けた蓄電部(キャパシタ91b)、又は副室(副室42)内のイオンの濃度を検出するために副室用点火装置(副室用点火装置501a)に設けた蓄電部(キャパシタ91a)は、燃焼行程の初期から圧縮行程の中期までのいずれかのタイミングで電荷を蓄積する。
これにより、主室内の混合気が副室点火に先立って着火することを防止できる。その結果、副室点火運転(副室点火モード)時に、副室よりも先に主室の圧力が上昇することを防ぎ、副室から主室に向けた火炎ジェットの生成を妨げないようにすることができる。また、副室内の混合気が主室点火に先立って着火することを防止できる。その結果、主室点火運転(主室点火モード)時に、主室よりも先に副室の圧力が上昇することを防ぎ、主室内の火炎伝播が阻害されないようにすることができる。
【0174】
また、上述した第4の実施形態に係る失火検出装置(イオン電流検出部901b)は、混合気が流入される主室(主室37)と、主室に設けられた主室用点火プラグ(点火プラグ40b)と、主室に連通する副室(副室42)と、副室に設けられた副室用点火プラグ(点火プラグ40a)と、主室内の混合気に点火するための電圧を主室用点火プラグに印加する主室用点火装置(主室用点火装置50b)と、副室内の混合気に点火するための電圧を副室用点火プラグに印加する副室用点火装置(副室用点火装置50a)と、を備えた内燃機関(エンジン13)の失火を検出する。内燃機関の主室用点火装置は、1次コイル(1次コイル52b)と、1次コイルの通電が遮断されると、起電力が生じる2次コイル(2次コイル53b)とを有する。失火検出装置は、主室用蓄電部(キャパシタ91b)と、主室内イオン検出部(イオン電流経路ダイオード95b及び電圧変換用抵抗93b)と、主室内失火検出部(比較器81b)と備える。主室用蓄電部には、主室用点火装置の2次コイルに流れる電流によって電荷が蓄電される。主室内イオン検出部は、副室用点火プラグにより副室内の混合気に点火する副室点火運転(副室点火モード)時に、主室用蓄電部が主室用点火プラグの電極に電圧を印加することにより主室内のイオンの濃度(イオン信号の最大値ibmax)を検出する。主室内失火検出部は、主室内イオン検出部で検出されたイオンの濃度と予め定められた主室用イオン閾値(イオン閾値ic)との大きさを比較して失火であるか否かを検出する。
副室点火運転における完全失火時及び部分失火時は、正常燃焼時に比べて主室内に発生するイオンの濃度が低くなる。したがって、主室内のイオンの濃度から副室点火運転時の失火を確実に検出することができる。また、失火検出装置が副室点火運転における失火を検出するため、失火検出に伴う内燃機関の制御装置(ECU2)の演算負荷を低減することができる。また、内燃機関の制御装置に組み込む制御ソフトウェアが簡素化されるため、ソフトウェアの開発工数を低減することができる。
【0175】
また、上述した第4の実施形態に係る副室用点火装置は、1次コイルと、1次コイルの通電が遮断されると、起電力が生じる2次コイルとを有する。そして、失火検出装置は、副室用蓄電部と、副室内イオン検出部と、副室内失火検出部と備える。副室用蓄電部は、副室用点火装置の2次コイルに流れる電流によって電荷が蓄電される。副室内イオン検出部は、主室用点火プラグにより主室(主室37)内の混合気に点火する主室点火運転(主室点火モード)時に、副室用蓄電部が副室用点火プラグ(点火プラグ40a)の電極に電圧を印加することにより副室(副室42)内のイオンの濃度(イオン信号の最大値iamax)を検出する。副室内失火検出部は、副室内イオン検出部で検出されたイオンの濃度と予め定められた副室用イオン閾値との大きさを比較して失火であるか否かを検出する。
主室点火運転における完全失火時及び部分失火時は、正常燃焼時に比べて副室内に発生するイオンの濃度が低くなる。したがって、副室内のイオンの濃度から主室点火運転時の失火を確実に検出することができる。また、失火検出装置が主室点火運転における失火を検出するため、失火検出に伴う内燃機関の制御装置(ECU2)の演算負荷を低減することができる。また、内燃機関の制御装置に組み込む制御ソフトウェアが簡素化されるため、ソフトウェアの開発工数を低減することができる。
【0176】
また、上述した第5の実施形態に係る失火検出装置(イオン電流検出部902b)は、主室用イオン閾値を変更する主室用イオン閾値変更部(可変電圧器84b)を備える。
これにより、副室点火運転(副室点火モード)時に用いるイオン閾値を変更することができる。その結果、副室点火運転時における失火検出の高精度化を図ることができる。
【0177】
また、上述した第5の実施形態に係る失火検出装置は、副室用イオン閾値を変更する副室用イオン閾値変更部を備える。
これにより、主室点火運転(主室点火モード)時に用いるイオン閾値を変更することができる。その結果、主室点火運転時における失火検出の高精度化を図ることができる。
【0178】
また、上述した第4及び第5の実施形態に係る主室用イオン閾値変更部(可変電圧器84b)又は副室用イオン閾値変更部は、空燃比、EGR率、エンジントルクのうちの少なくとも1つに応じて、主室用イオン閾値(イオン閾値ic)又は副室用イオン閾値を変更する。
これにより、内燃機関(エンジン)の運転条件に応じて、イオン閾値を変更することができる。その結果、失火検出の精度を高精度に保つことができる。
【0179】
また、上述した第4及び第5の実施形態に係る主室用イオン閾値と副室用イオン閾値は、異なる大きさに設定される。
これにより、正常燃焼後の副室内のイオン濃度と主室内のイオン濃度が異なる場合であっても、精度の高い失火検出が可能となる。
【0180】
以上、本発明の失火検出方法及び失火検出装置の実施形態について、その作用効果も含めて説明した。しかしながら、本発明の失火検出方法及び失火検出装置は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0181】
また、上述した実施形態は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0182】
例えば、上述した第1~第3の実施形態では、ECU2が失火判定処理を行う構成にした。しかし、本発明に係る失火判定処理は、ECU2とは別に設けた制御部、例えば、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)としてもよい。
【符号の説明】
【0183】
2…ECU、 13,13b…エンジン、 31…吸気マニホールド、 32…吸気バルブ、 33…排気マニホールド、 34…排気バルブ、 35…ピストン、 36…インジェクタ、 37…主室、 38…シリンダ、 40a,40b…点火プラグ、 41a,41b…電極、 42…副室、 43…貫通孔、 45…副室形成部材、 48a,48b…ハイテンションコード、 50a,501a…副室用点火装置、 50b,501b,502b…主室用点火装置、 51a,51b…点火部、 52a,52b…1次コイル、 53a,53b…2次コイル、 54a,54b…イグナイタ、 55b…イオン閾値信号、 57a…ダイオード、 58a…抵抗、 59a,59b…点火制御信号、 80b…ピークホールド回路、 81b…比較器、 82b…分圧用抵抗、 84b…可変電圧器、 88b…失火判定信号、 90a,90b,901b,902b…イオン電流検出部、 91a,91b…キャパシタ、 92a,92b…ツェナーダイオード、 93b…電圧変換用抵抗、 94b…2次電流経路ダイオード、 95b…イオン電流経路ダイオード、 98a…副室イオン信号、 98b…主室イオン信号
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