(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156297
(43)【公開日】2023-10-24
(54)【発明の名称】先天性高インスリン症を処置する方法
(51)【国際特許分類】
A61M 5/172 20060101AFI20231017BHJP
A61M 5/142 20060101ALI20231017BHJP
A61K 38/26 20060101ALI20231017BHJP
A61K 31/7004 20060101ALI20231017BHJP
A61P 3/08 20060101ALI20231017BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231017BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20231017BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20231017BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20231017BHJP
A61K 38/08 20190101ALI20231017BHJP
A61K 31/549 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
A61M5/172 500
A61M5/142 520
A61K38/26
A61K31/7004
A61P3/08
A61P43/00 121
A61K47/04
A61K47/20
A61K47/26
A61K38/08
A61K31/549
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023116382
(22)【出願日】2023-07-18
(62)【分割の表示】P 2020501203の分割
【原出願日】2018-07-14
(31)【優先権主張番号】62/532,856
(32)【優先日】2017-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】511176159
【氏名又は名称】ゼリス ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】プレストレルスキ スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】キンゼル ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ニュースワンガー ブレット
(72)【発明者】
【氏名】ソーントン ポール
(72)【発明者】
【氏名】ストレンジ ポール
(72)【発明者】
【氏名】カミンズ マーティ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】対象における先天性高インスリン症を処置する方法が開示される。
【解決手段】本方法は、グルカゴン、グルカゴン類似体、またはそれらいずれかの塩形態を含む第1組成物を該対象に非経口的に投与する段階、および任意で、グルコース、グルコース類似体、またはそれらいずれかの塩形態を含む第2組成物を該対象に投与する段階を含んでよく、該第2組成物が投与されないかまたは8mg/(kg*分)未満のグルコース注入速度(GIR)で投与されるように、該第1組成物の投与によって該対象における血糖値が十分に増加する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) グルカゴン、グルカゴン類似体、またはそれらいずれかの塩形態を含む第1組成物を対象に非経口的に投与する段階;および
(b) 任意で、グルコース、グルコース類似体、またはそれらいずれかの塩形態を含む第2組成物を該対象に投与する段階
を含む、該対象における先天性高インスリン症を処置する方法であって、
該第2組成物が投与されないかまたは20mg/(kg*分) 未満のグルコース注入速度 (GIR) で投与されるように、該第1組成物の投与によって該対象における血糖値が十分に増加する、該方法。
【請求項2】
前記第2組成物が患者に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記GIRが15 mg/(kg*分) 未満または10 mg/(kg*分) 未満である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記GIRが8 mg/(kg*分) 未満である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記GIRが、前記第1組成物を投与されていない対象が必要としていたと考えられるGIRよりも少なくとも33%低い、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記第2組成物が前記対象に静脈内投与される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記対象が、段階 (a) の前に、第2 GIRでのグルコース注射により処置されているかまたは以前に処置されたことがあり、かつ該第2 GIRが前記GIRよりも高い、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
段階 (a) の前のグルコース注射が、末梢挿入中心静脈カテーテルを通じて行われているかまたは行われた、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記第2組成物が、5 w/w % ~60 w/w % d-グルコースを含む水性組成物である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第2組成物が約50 w/w % d-グルコースを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第2組成物が約10 w/w % d-グルコースを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記第1組成物がグルカゴン送達装置から投与される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記グルカゴン送達装置が、
前記第1組成物を含むリザーバー;
患者の血糖値を測定するように構成されたセンサー;および
患者の測定された血糖値に基づいて該組成物の少なくとも一部を該患者の皮内、皮下、または筋肉内に送達するように構成された電子ポンプ
を備える、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記電子ポンプの操作を制御するように構成されたプロセッサに無線で、無線周波数により、または有線接続によりデータを送信するように、前記センサーが構成されている、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記プロセッサが、前記センサーによって得られた前記データに少なくとも部分的に基づいて前記ポンプの操作を制御するように構成されている、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記センサーによって得られた前記データが規定の閾値未満のグルコースレベルを示す場合に前記組成物の少なくとも一部を皮内注射、皮下注射、または筋肉内注射するために前記ポンプの操作を制御するように、前記プロセッサが構成されている、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記患者のグルコースレベルを示す情報を伝達するように構成されたモニターをさらに含む、請求項12~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記モニターがスピーカーもしくはディスプレイ装置またはその両方を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記モニターが、前記患者のグルコースレベルが既定の閾値であると推定される場合に警告を伝達するように構成されている、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
前記装置が、前記ポンプによって皮内、皮下、または筋肉内に送達される前記組成物の送達速度および用量の少なくとも一方を手動調整できるように構成されている、請求項12~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記組成物が、前記患者における血糖値を低下させることができる薬物を含まず、かつ前記装置が、該患者における血糖値を低下させることができる薬物を含む組成物を注射することができない、請求項12~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記組成物が、前記患者における血糖値を低下させることができる薬物をさらに含み、かつ/または前記装置が、該患者における血糖値を低下させることができる薬物を含む組成物を注射することができる、請求項12~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記患者における血糖値を低下させることができる前記薬物が、インスリン、インスリン模倣ペプチド、インクレチン、またはインクレチン模倣ペプチドである、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
前記装置が、グルカゴンを前記患者に送達するためのクローズドループシステムである、請求項12~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記装置が、グルカゴンを前記患者に送達するためのオープンループシステムである、請求項12~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記装置が、グルカゴンを前記患者に送達するためのループなしシステムである、請求項12~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記第1組成物が、非水性溶媒中に溶解された前記グルカゴン、グルカゴン類似体、またはそれらいずれかの塩形態を含む単相溶液である、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記第1組成物が、非プロトン性極性溶媒中に可溶化されたグルカゴン、グルカゴン類似体、またはそれらいずれかの塩形態を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項28】
前記第1組成物がイオン化安定化賦形剤をさらに含み、(i) 前記グルカゴン、グルカゴン類似体、またはそれらの塩が、約0.1 mg/mLから該グルカゴン、グルカゴン類似体、またはそれらの塩の溶解限度までの量で前記非プロトン性溶媒中に溶解されており、かつ (ii) 該イオン化安定化賦形剤が、グルカゴンペプチドまたはその塩のイオン化を安定化する量で該非プロトン性溶媒中に溶解されている、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記イオン化安定化賦形剤が、0.1 mMから100 mM未満までの濃度で存在する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記イオン化安定化賦形剤が鉱酸である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記鉱酸が塩酸である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記非プロトン性溶媒がDMSOである、請求項28に記載の方法。
【請求項33】
前記非プロトン性溶媒が脱酸素化非プロトン性溶媒である、請求項28に記載の方法。
【請求項34】
前記イオン化安定化賦形剤がHClであり、かつ前記非プロトン性溶媒がDMSOである、請求項28に記載の方法。
【請求項35】
前記組成物が、10、5、または3 %未満の水分含量を有する、請求項28に記載の方法。
【請求項36】
前記組成物が、10、5、または3% w/v未満の保存剤をさらに含む、請求項28に記載の方法。
【請求項37】
前記保存剤がトレハロースである、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記組成物が、10、5、または3% w/v未満の糖アルコールをさらに含む、請求項28に記載の方法。
【請求項39】
前記糖アルコールがマンニトールである、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記第1組成物が、炭水化物、両性分子、および任意で酸をさらに含む、請求項27に記載の方法。
【請求項41】
前記非プロトン性極性溶媒がDMSOであり、前記炭水化物がトレハロースであり、前記両性分子がグリシンであり、かつ任意の前記酸が塩酸である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記第1組成物が、少なくとも80重量%の前記非プロトン性極性溶媒、3重量%から7重量%までの前記炭水化物、0.001重量%から0.1重量%までの前記両性分子、および0重量%から0.1重量%未満までの前記酸を含む、請求項40または41に記載の方法。
【請求項43】
前記第1組成物が、グルカゴン、グルカゴン類似体、もしくはそれらいずれかの塩形態、前記非プロトン性極性溶媒、前記両性分子、前記炭水化物、および任意で前記酸を含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなる、請求項40~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記第1組成物が、0重量%から15重量%未満まで、0重量%から3重量%未満まで、3重量%から10重量%まで、または5重量%から8重量%までの水含量を有する、請求項1~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記グルカゴン、グルカゴン類似体、またはそれらいずれかの塩形態が、緩衝液から予め乾燥されており、乾燥された該グルカゴン、グルカゴン類似体、またはそれらいずれかの塩形態が、該グルカゴン、グルカゴン類似体、またはそれらの塩形態に最適な安定性および溶解度に対応する第1イオン化プロファイルを有し、乾燥された該グルカゴン、グルカゴン類似体、またはそれらいずれかの塩形態が、非プロトン性極性溶媒中で再構成されかつ該非プロトン性極性溶媒中の第2イオン化プロファイルを有し、かつ該第1イオン化プロファイルと該第2イオン化プロファイルが互いに1 pH単位以内である、請求項1~44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記第1イオン化プロファイルもしくは前記第2イオン化プロファイルまたはその両方のイオン化プロファイルが、約1~4または約2~3のpH範囲を有する水溶液中に可溶化された場合のグルカゴンのイオン化プロファイルに対応する、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記第1組成物が、固体に対する溶媒ではない液体中に分散された粉末の2相混合物であり、該粉末が前記グルカゴン、グルカゴン類似体、またはそれらいずれかの塩形態を含み、かつ該液体が薬学的に許容される担体であり、該粉末が薬学的に許容される担体中に均一に含まれている、請求項1~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記第1組成物がペースト、スラリー、または懸濁液である、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記粉末が、10ナノメートル(0.01マイクロメートル)から約100マイクロメートルに及ぶ平均粒径を有し、約500マイクロメートルよりも大きい粒子を含まない、請求項47または48に記載の方法。
【請求項50】
前記第1組成物が、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも14、少なくとも21、少なくとも30、少なくとも45、または少なくとも60日間前記リザーバー中に貯蔵されている、請求項1~49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記第1組成物が、室温で1ヶ月間または6ヶ月間または12ヶ月間または18ヶ月間貯蔵した後に安定した状態のままである、請求項1~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
第3組成物を前記対象に投与する段階をさらに含み、該第3組成物がジアゾキシドもしくはオクトレオチドまたはそれらの組み合わせを含む、請求項1~51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
前記第1組成物の投与前に、好ましくは、該第1組成物の投与前12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1時間以内に、前記第3組成物が投与される、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記第3組成物が前記第1組成物と同時に投与される、請求項52に記載の方法。
【請求項55】
前記第1組成物の投与後に、好ましくは、該第1組成物の投与後12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1時間以内に、前記第3組成物が投与される、請求項52に記載の方法。
【請求項56】
前記対象がヒトである、請求項1~55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
前記ヒトが、20歳未満、好ましくは10歳未満、より好ましくは5歳未満、またはさらにより好ましくは、0~3歳以内もしくは生後0~12ヶ月以内である、請求項56に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、全体として参照により本明細書に組み入れられる、2017年6月14日に出願された米国仮特許出願第62/532,856号に対する優先権を主張する。
【0002】
政府支援の研究
本発明は、米国立糖尿病・消化器病・腎臓病研究所 (NIDDK)、米国立衛生研究所により付与された助成金第1 R 44 DK 105691-01号の下で、政府の支援を受けてなされたものである。政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
1. 発明の分野
本発明は、一般に、持続グルコース注入療法と併用され得るグルカゴン送達システムに関する。詳細には、本発明は、グルコース注入療法の必要性を低減または排除するために使用され得るグルカゴン送達システムの使用に関係する。
【背景技術】
【0004】
2. 関連技術の説明
先天性高インスリン症 (CHI) を有する患者は、患者の膵β細胞にインスリンを過剰発現させる遺伝子欠陥を有する。これは重篤な低血糖を引き起こし、この低血糖はけいれん発作、昏睡、および死をもたらし得る。低血糖の重篤なエピソードが処置されずに頻繁に起こると、CHを有する多くの人において、特に小児およびさらに特に新生児において、重度の神経学的障害が生じる。
【0005】
低血糖の症状は患者によって大きく変動するが、これには典型的に振戦、動悸、被刺激性、不安、神経過敏、空腹感、頻脈、頭痛、および蒼白が含まれる。症状は典型的には、血漿グルコースが正常レベルに回復すると治まる。低血糖が戻らない場合には、血漿グルコースのさらなる減少により、中枢神経系におけるグルコースの枯渇、ならびに関連する神経低糖症症状、例えば、集中困難、不明瞭発語、かすみ目、体温低下、行動変化、ならびに処置されない場合には、意識喪失、けいれん発作、および死亡の可能性などが起こり得る。
【0006】
概して、低血糖は、以下の通りに軽度から中等度の低血糖または重度低血糖として定義され得る。
軽度から中等度の低血糖:症状の重症度にかかわらず、患者が自己処置できるエピソード、または血糖値が70 mg/dL (3.9 mmol/L) 未満かつ50 mg/dL (2.8 mmol/L) 超である、任意の無症候性血糖測定値。
重度低血糖:患者が自己処置できず、したがって外部の援助が必要な低血糖のエピソードとして、操作的に定義される。典型的に、神経低糖症症状および認知障害は、約50 mg/dL (2.8 mmol/L) 以下の血糖値から始まる。
【0007】
CHIに対する現在の処置は、膵臓からのインスリン放出を遮断するためにジアゾキシドまたはオクトレオチドなどの薬物を投与することを含むが、これらには著しい副作用があり、効果があるのは全症例の半数未満である。したがって、CHIに対する好ましい処置様式は、50%デキストロース (D50)、すなわちD-グルコースの持続注入である。CHIを処置するのに必要とされるグルコース注入速度 (GIR) は高いため、D50は通常、外科的に埋め込む必要のある末梢挿入中心静脈カテーテルまたはPICCラインを介して送達される。PICCラインは患者にとっての感染源であり、また高GIRは体液過負荷を引き起こす可能性があり、体液過負荷は心不全、肺水腫、およびチアノーゼをもたらし得る。
【0008】
CHI療法の目標は、D50のより安全なIV投与を支持してPICCラインを除去できる程度まで、GIR要件を低減することである。この程度というのは一般に、8 mg/(kg*分) 未満のGIRである。残念なことに、この目標を達成するための費用対効果が高くかつ/または長期的な解決策は、現在のところ欠けている。
【0009】
先天性高インスリン症 (CHI) は、インスリン分泌の調節不全から生じ、不適切に高い血中インスリンレベルに起因する重篤な低血糖(血糖 ≦ 70 mg/dLと定義される)を特徴とする。持続性高インスリン性低血糖症に罹患した乳児は、正常血糖(血糖値70~180 mg/dL)を維持し、ひいては低血糖エピソードに付随する永久的脳損傷のリスク上昇を回避する能力の成功に応じて、長期転帰が多様である。新生児発症CHIの原因は異なり、膵臓の罹患領域の外科的切除(すなわち、膵亜全摘術またはほぼ全ての膵切除術)などの徹底的な外科的または医学的ケアを必要とし得る。しかしながら、コストがかかりかつ侵襲的であるだけではなく、膵切除術(亜全摘およびさらにはほぼ全ての両方)は、全ての患者において処置の成功を保証するものではなく、また後年にII型糖尿病および膵外分泌機能不全のリスクを大幅に高める。
【0010】
CHI患者における正常血糖の維持を試みるために、複数の薬物もまた用いられる。一例は、1960年代の半ばに導入されたジアゾキシドであるが、この薬物は、CHI患者のサブグループ、詳細にはその状態がスルホニル尿素受容体における変異から生じたCHI患者においてのみ有効である。加えて、オクトレオチドもまた膵臓からのインスリン分泌を遮断するために使用され得るが、ジアゾキシドと同様に、これもまた患者のサブグループにおいてのみ有効である。CHIに対する主な処置様式は、例えば50% (w/v) デキストロース (D50) としてのグルコースの持続注入である。50%デキストロース (D50) は典型的に、0.5 g/mLデキストロース水溶液として入手可能である。代替濃度のデキストロースもまた入手可能であり、例えばD60(60% (w/v) デキストロース水溶液)などである。CHIを処置するのに必要とされるグルコース注入速度 (GIR) は高いため、グルコース注入(例えば、D50による)は通常、外科的に埋め込む必要のある末梢挿入中心静脈カテーテルまたはPICCラインを介して送達される。PICCラインは患者にとっての感染源であり、また高GIRは体液過負荷を引き起こす可能性があり、体液過負荷は心不全、肺水腫、およびチアノーゼをもたらし得る。CHI療法の第一目標は、D50のより安全なIV投与を支持してPICCラインが除去され得る程度に、GIR要件を低減することである(例えば、<8 mg/(kg*分))。
【0011】
提案されている代替の処置は、肝グリコーゲン分解の刺激を介して血糖値を上昇させるためのグルカゴン注入である。この処置の理論的根拠は、CHI患者における高いインスリンレベルがグリコーゲン分解を阻害し、それによって体内のグリコーゲン量貯蔵を増大させるという、報告された知見に由来する。外因性グルカゴンの導入は、グリコーゲン分解を促進し、血糖値を正常血糖範囲に維持するのを助ける。さらに、低血糖のエピソード中のCHI患者においてグルカゴン血清レベルの低下が報告されており、これにより、外因性グルカゴンの導入がグリコーゲン分解を刺激するのに必要であり得ることが示される。
【0012】
しかしながら、持続注入を介して外因性グルカゴンを送達するという概念が提案されたものの、診療所におけるその実践は、安定的かつ可溶性の液体グルカゴン製剤を調製することができないことによって妨げられてきた。グルカゴン、具体的には水性グルカゴンは、小繊維化し、注入ラインを詰まらせて用量送達を妨げ得る不溶性凝集物を形成するという、広く報告されている傾向を有する。グルカゴン溶液の皮下送達を試みた公表された研究は、頻繁にカテーテル閉塞が起こり、その事故が毎日または週に2~3回起こることを報告した (Mohnike et al. 2008)。
【0013】
したがって、注入ラインを詰まらせることなく、ひいては患者への用量の完全送達を保証する、ポンプベースのシステム(例えば、パッチポンプなどのループなしシステム)を通じた持続皮下注入により投与され得る、安定したグルカゴン製剤の必要性が依然として存在する。そのような処置により、PICCラインが患者から除去され得るようにGIRを十分に下げることができ、かつ障害の有効な処置が可能になり、それによって膵亜全摘術およびほぼ全ての膵切除術に付随するコストおよび合併症が回避される。
【発明の概要】
【0014】
患者におけるCHIの処置に関連した現在の問題に対する解決策が発見された。その解決策は、D50のより安全なIV投与を支持してPICCラインを除去できる程度に、CHI患者におけるGIR要件を低減するために、安定的かつ流動性のグルカゴン製剤をポンプベースの送達システムと組み合わせて用いることを前提とする。詳細には、可溶性グルカゴン製剤は、CHIを有する小児におけるインスリンの過剰発現に対抗するために、ポンプシステム、例えばパッチポンプシステムによる持続皮下注入 (CSI) として送達され得る。血糖値が上昇し、グルコース注入療法の必要性が低減または排除されることを期待して、CSIグルカゴンを既存のグルコース注入療法(例えば、D50を用いる)に付加することができる。CSIグルカゴンの使用は、処置された対象においてGIRの33%の低下をもたらし得ると考えられる。また、CSIグルカゴンの使用は、PICCラインが安全に除去され得るように、GIRを臨界値8 mg/(kg*分) 未満に低下させ得ると考えられる。開示される本発明の状況において、CHおよびCHIは、本明細書の全体を通して先天性高インスリン症と互換的に使用され得る。
【0015】
本発明の1つの局面において、対象における先天性高インスリン症を処置する方法が開示される。本方法は、(a) グルカゴン、グルカゴン類似体、またはそれらいずれかの塩形態を含む第1組成物を対象に非経口的に投与する段階;および (b) 任意で、グルコース、グルコース類似体、またはそれらいずれかの塩形態を含む第2組成物を対象に投与する段階を含み得る。場合によっては、第2組成物が投与されないように、または第1組成物を投与されていない対象が必要としていたと考えられるグルコース注入速度 (GIR) より低いGIRで第2組成物が投与されるように、第1組成物の投与によって対象における血糖値が十分に増加する。組成物は流動性組成物であってよい。流動性組成物は、水性または非水性の溶液であってよい。ある特定の局面において、GIRは、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1 mg/(kg*分) 未満である。GIRは、それらの中の任意の範囲または数字であってよい。いくつかの局面において、GIRは、第1組成物を投与されていない対象が必要としていたと考えられるGIRよりも少なくとも33%低くてよい。第2組成物は、対象に静脈内投与され得る。対象は、段階 (a) の前に、第2 GIRで現在グルコース注射を受けているかまたは以前にグルコース注射を受けたことがあってもよく、かつこの第2 GIRは第1 GIRよりも高い。ある特定の局面において、段階 (a) の前のグルコース注射は、末梢挿入中心静脈カテーテルを通じて行われているかまたは行った。第2組成物は、5% (w/w) ~60% (w/w) d-グルコースを含む水溶液を有し得る。ある特定の局面において、第2組成物は、約50% (w/w) d-グルコースを有するかまたは約10% (w/w) d-グルコースを有する。
【0016】
グルカゴン組成物を投与するために使用され得る本発明のポンプベースのシステムは、クローズドループ、オープンループ、またはループなしのシステムであってよい。そのようなシステムと共に使用され得るグルカゴン製剤は、再構成する必要がなく(すなわち、それらはポンプ容器から患者に投与されるように既に利用可能である)ポンプ容器中に輸送または貯蔵されるように設計される。さらに、製剤は、非冷蔵温度(20~35℃)において長期間(>2ヶ月間)安定している(すなわち、製剤は、製剤中のグルカゴンの活性を実質的に消失するリスクを冒すことも、また送達を阻害し注入装置を詰まらせる不溶性凝集物を形成するリスクを冒すこともなく、ポンプ容器中に安全に貯蔵され得る)。
【0017】
前記ポンプベースのシステムは、(1) 患者に挿入されるかもしくは挿入され得、(例えば、患者の血液との接触により直接、もしくは患者の間質液との接触により間接的に)血糖値を測定することができるグルコースセンサー;(2) (例えば、無線周波数伝送により)グルコース情報をセンサーからモニターに送る送信機;(3) グルコース製剤を貯蔵し患者に送達するように設計されたポンプ;および/または (4) グルコースレベルを表示し記録するモニター(例えば、ポンプ装置に組み込まれ得るものまたは独立型モニター)を含み得る。クローズドループシステムに関して、グルコースモニターは、アルゴリズムに基づいてポンプにより、患者へのグルカゴン製剤の送達を変更する能力を有し得る。そのようなクローズドループシステムは、患者からの入力をほとんどから全く必要とせず、その代わりに血糖値を能動的にモニターし、グルカゴン製剤の必要量を患者に投与して、適切なグルコースレベルを維持し、低血糖の発生を防ぐ。オープンループシステムに関して、患者は、自身のグルコースモニターを読み取り、モニターによって提供される情報に基づいて送達速度/用量を調整することによって、能動的に関与する。ループなしシステム(例えば、パッチポンプ)に関して、ポンプは、固定された(または基礎の)用量でグルカゴン製剤を送達する。ループなしシステムは、そのように所望されるのであれば、グルコースモニターなしで、かつグルコースセンサーなしで使用され得る。
【0018】
本発明の1つの局面において、グルカゴン、グルカゴン類似体、またはそれらいずれかの塩形態を含む治療用組成物を含むリザーバー、患者の血糖値を測定するように構成されたセンサー、および患者の測定された血糖値に基づいて治療用組成物の少なくとも一部を患者の皮内、皮下、または筋肉内に送達するように構成された電子ポンプを備えるグルカゴン送達装置が開示される。センサーは、患者の血液と接触するか、もしくは患者の間質液と接触するか、またはその両方であるように、患者に位置し得る。センサーは、電子ポンプの操作を制御するように構成されたプロセッサに(例えば、無線で、無線周波数により、または有線接続により)データを送信するように構成され得る。プロセッサは、センサーによって得られたデータに少なくとも部分的に基づいてポンプの操作を制御するように構成され得る。一例では、プロセッサは、センサーによって得られたデータが、規定の閾値未満のグルコースレベル、または既定の閾値が特定の期間中に破られる徴候(例えば、差し迫った低血糖の徴候、もしくは血糖値がある特定の期間内に(例えば、30、25、20、15、10、9、8、7、6、5、4、3、2、もしくは1分以内に)70、60、もしくは50 mg/dL未満まで低下する徴候)を示す場合に、組成物の少なくとも一部を皮内注射、皮下注射、または筋肉内注射するためにポンプの操作を制御するように構成され得る。そのような徴候は、(例えば、血糖モニタリング装置による)血糖値の下降傾向、およびこの下降傾向の速度または軌跡を同定することによって、決定され得る。グルカゴン送達装置はまた、患者のグルコースレベルを示す情報を伝達するように構成されたモニターを備え得る。モニターは、スピーカーもしくはディスプレイ装置またはその両方を含み得る。モニターは、患者のグルコースレベルが既定の閾値であると推定される場合に警告を伝達するように構成され得る。なおさらに、装置は、ポンプによって皮内、皮下、または筋肉内に送達される組成物の送達速度および用量の少なくとも一方を手動調整できるように構成され得る。
【0019】
場合によっては、組成物は、患者における血糖値を低下させることができる薬物を含まず、また記載される組成物は場合によっては組み合わせて用いられない。同様に、場合によっては、装置は、患者における血糖値を低下させることができる薬物を含む組成物を注射できないように構成され得る(例えば、装置は、患者に投与されるべきそのような組成物をそのリザーバー中に含まない)。他の場合には、組成物はまた、患者における血糖値を低下させることができる薬物を含み得る。同様に、場合によっては、装置は、血糖値を低下させることができる薬物を含む組成物を注射できるように構成され得る(例えば、装置は、そのような薬物を有する第2組成物をそのリザーバー中に含む)。装置のリザーバーは、単一の容器を有してもよいか、または複数の組成物のための複数の容器を有してもよい(例えば、各容器は単一の組成物のみを含み得る)。ほんの一例として、少なくとも2つの容器を有するリザーバーは、1つの容器中に、血糖値を上昇させる1つの組成物(例えば、グルカゴン含有組成物)、および第2容器中に、血糖値を低下させる別の組成物を含み得る。これにより、完全に操作可能な人工膵臓として動作する本発明の装置が得られ得る。患者における血糖値を低下させ得る薬物の非限定的な例には、インスリン、インスリン模倣ペプチド、インクレチン、またはインクレチン模倣ペプチドが含まれる。
【0020】
本発明のある特定の局面において、装置はクローズドループシステムとなるように構成される。他の例では、装置はオープンループシステムとなるように構成される。なおさらなる例では、装置はループなしシステムとなるように構成される。
【0021】
装置のリザーバー中に含まれ得る流動性組成物は、非水性溶媒中に溶解されたグルカゴン、グルカゴン類似体、またはそれらいずれかの塩形態を含む単相溶液であってよい。場合によっては、グルカゴン、グルカゴン類似体、またはそれらいずれかの塩形態は、水性溶媒系または非水性溶媒系中に十分に可溶化され得る。特定の場合においては、グルカゴン、グルカゴン類似体、またはそれらいずれかの塩形態は、非プロトン性極性溶媒系中に十分に可溶化され得る。治療用分子は典型的に、非プロトン性極性溶媒系中に可溶化される場合、長期安定性を示すために、最適なまたは有益なイオン化プロファイルを必要とする(これは、水溶液中に溶解されたペプチドに関する最適な安定性および/または溶解度のpHと類似している)。治療用分子の最適なまたは有益なイオン化プロファイルは、特定濃度の少なくとも1種類のイオン化安定化賦形剤を含有する非プロトン性極性溶媒系中に治療用物質を直接溶解することによって得ることができる。本発明と共に用いるための非限定的な組成物は、非プロトン性極性溶媒系中に可溶化された少なくとも1種類の治療用分子を含有する安定した製剤である。ある特定の局面において、治療用分子は、非プロトン性極性溶媒系において再構成する前に、緩衝化水溶液から予め乾燥させる必要がない。ある特定の非限定的な局面において、治療用物質は、非プロトン性極性溶媒系中の治療用物質の適切なイオン化を確立するための有効量のイオン化安定化賦形剤(例えば、塩酸または硫酸などの鉱酸)と共に、直接溶解される(例えば、商業的な製造元または供給元から受領した粉末)。
【0022】
非水性非プロトン性極性溶媒(例えば、DMSO)中に可溶化された治療用物質の安定した溶液の非限定的な例は、イオン化安定化賦形剤として機能する、特定の所定量(すなわち、濃度)の化合物または化合物の組み合わせを添加することにより調製することができる。濃度は、治療用物質およびイオン化安定化賦形剤を用いる滴定試験により決定され得る。理論によって縛られることは望まないが、イオン化安定化賦形剤は、イオン化安定化賦形剤が過剰であるかまたは不足した状態で調製された製剤と比較して、治療用分子が非プロトン性極性溶媒系において改善された物理的および化学的安定性を有するイオン化プロファイルを有するように、治療用分子上のイオノゲン基をプロトン化し得る非プロトン性極性溶媒系におけるプロトン源(例えば、プロトンを治療用分子に供与し得る分子)として働き得ると考えられる。
【0023】
ある特定の態様は、治療用物質に物理的および化学的安定性をもたらす濃度の少なくとも1種類のイオン化安定化賦形剤を含む非プロトン性極性溶媒系中に、少なくとも0.1、少なくとも1、少なくとも10、少なくとも50、または少なくとも100 mg/mLから少なくとも150、少なくとも200、少なくとも300、少なくとも400、もしくは少なくとも500 mg/mLまでかまたは治療用物質の少なくとも溶解限度までの、多くとも0.1、多くとも1、多くとも10、多くとも50、または多くとも100 mg/mLから多くとも150、多くとも200、多くとも300、多くとも400、もしくは多くとも500 mg/mLまでかまたは治療用物質の多くとも溶解限度までの、または約0.1、約1、約10、約50、または約100 mg/mLから約150、200、約300、約400、もしくは約500 mg/mLまでかまたは治療用物質のほぼ溶解限度までの濃度の治療用物質を含む、治療用物質の製剤を対象とする。ある特定の局面において、治療用物質はペプチドである。製剤は、非プロトン性極性溶媒系中に、少なくとも0.01、少なくとも0.1、少なくとも0.5、少なくとも1、少なくとも10、または少なくとも50 mMから少なくとも10、少なくとも50、少なくとも75、少なくとも100、少なくとも500、少なくとも1000 mMまでかまたはイオン化安定化賦形剤の少なくとも溶解限度までの、多くとも0.01、多くとも0.1、多くとも0.5、多くとも1、多くとも10、または多くとも50 mMから多くとも10、多くとも50、多くとも75、多くとも100、多くとも500、多くとも1000 mMまでかまたはイオン化安定化賦形剤の多くとも溶解限度までの、または約0.01、約0.1、約0.5、約1、約10、または約50 mMから約10、約50、約75、約100、約500、約1000 mMまでかまたはイオン化安定化賦形剤のほぼ溶解限度までの濃度のイオン化安定化賦形剤を含み得る。ある特定の局面において、イオン化安定化賦形剤濃度は0.1 mM~100 mMである。ある特定の態様において、イオン化安定化賦形剤は、塩酸または硫酸などの適切な鉱酸であってよい。ある特定の局面において、イオン化安定化賦形剤は、有機酸、例えば、アミノ酸、アミノ酸誘導体、またはアミノ酸もしくはアミノ酸誘導体の塩(例には、グリシン、トリメチルグリシン(ベタイン)、グリシン塩酸塩、およびトリメチルグリシン(ベタイン)塩酸塩が含まれる)などであってよい。さらなる局面において、アミノ酸はグリシンまたはアミノ酸誘導体トリメチルグリシンであってよい。ある特定の局面において、ペプチドは150、100、75、50、または25アミノ酸未満である。さらなる局面において、非プロトン性溶媒系はDMSOを含む。非プロトン性溶媒は、脱酸素化され得、例えば脱酸素化DMSOであってよい。ある特定の局面において、治療用物質はグルカゴン、グルカゴン類似体、またはそれらの塩である。
【0024】
本発明と共に用いられるべき組成物は、(a) 非プロトン性極性溶媒系中で標的治療用物質(例えば、ペプチドまたは小分子)の安定化イオン化プロファイルを達成するために必要とされる適切なイオン化安定化賦形剤またはプロトン濃度を計算または決定する段階;(b) 段階 (a) で決定されたイオン化プロファイルを提供する適切なイオン化環境を達成するために、少なくとも1種類のイオン化安定化賦形剤を非プロトン性極性溶媒系と混合する段階;ならびに (c) 治療用物質を物理的および化学的に安定化させるための適切な環境を有する非プロトン性溶媒中に標的治療用物質を可溶化する段階によって作製され得る。ある特定の局面において、治療用物質の溶解およびイオン化安定化賦形剤の非プロトン性極性溶媒系への添加は、任意の順序でまたは同時に行うことができ、したがって、イオン化安定化賦形剤を最初に混合して次に治療用物質を溶解しても、または治療用物質を溶解して次にイオン化安定化賦形剤を溶液に添加しても、またはイオン化安定化賦形剤および治療用物質を非プロトン性極性溶媒系に同時に添加もしくは溶解してもよい。さらなる局面において、構成成分(例えば、治療用物質またはイオン化安定化賦形剤)の全量が、特定の時点で混合される必要はない;すなわち、1つまたは複数の構成成分の一部を1番目に、2番目に、または同時に混合することができ、別の部分を別の時点で1番目に、2番目に、または同時に混合することができる。ある特定の局面において、治療用物質はペプチドであってよく、イオン化安定化賦形剤は、塩酸または硫酸などの適切な鉱酸であってよい。ある特定の局面において、ペプチドは、150、100、75、50、または25アミノ酸未満である。溶液に添加される治療用物質および/またはイオン化安定化賦形剤の濃度は、その間の全ての値および範囲を含めて、0.01、0.1、1、10、100、1000 mMからその溶解限度まで(すべての値およびそれらの間のすべての範囲を含む)であってよい。ある特定の局面において、非プロトン性極性溶媒系は脱酸素化される。さらなる局面において、非プロトン性極性溶媒系は、DMSOまたは脱酸素化DMSOを含むか、それから本質的になるか、またはそれからなる。
【0025】
他の非限定的な局面において、流動性組成物は、炭水化物、糖アルコール、保存剤、および任意で酸をさらに含み得る。一例において、非プロトン性極性溶媒はDMSOであってよく、炭水化物はトレハロースであってよく、糖アルコールはマンニトールであってよく、保存剤はメタクレゾールであってよく、かつ任意の酸は硫酸であってよい。組成物は、少なくとも80重量%の非プロトン性極性溶媒、3重量%から7重量%までの炭水化物、1重量%から5重量%までの糖アルコール、0重量%から1重量%、および0重量%から1重量%未満までの酸を含み得る。組成物は、グルカゴン、グルカゴン類似体、もしくはそれらいずれかの塩形態、非プロトン性極性溶媒、炭水化物、糖アルコール、および任意で酸を含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなることができる。組成物は、0重量%から15重量%未満まで、0重量%から3重量%未満まで、3重量%から10重量%まで、または5重量%から8重量%までの初期水含量を有し得る。グルカゴン、グルカゴン類似体、またはそれらいずれかの塩形態は、緩衝化水溶液から予め乾燥されていてよく、乾燥されたグルカゴン、グルカゴン類似体、またはそれらいずれかの塩形態は、グルカゴン、グルカゴン類似体、またはそれらの塩形態に最適な安定性および溶解度に対応する第1イオン化プロファイルを有し、乾燥されたグルカゴン、グルカゴン類似体、またはそれらいずれかの塩形態は、非プロトン性極性溶媒中で再構成されかつ非プロトン性極性溶媒中の第2イオン化プロファイルを有し、かつ第1イオン化プロファイルと第2イオン化プロファイルは互いに1 pH単位以内である。第1イオン化プロファイルもしくは第2イオン化プロファイルまたはその両方のイオン化プロファイルは、約1~4または約2.5~3.5のpH範囲を有する水溶液中に可溶化された場合のグルカゴンのイオン化プロファイルに対応し得る。
【0026】
別の例では、流動性組成物は、固体に対する溶媒ではない液体中に分散された粉末の2相混合物として構成され得、粉末はグルカゴン、グルカゴン類似体、またはそれらいずれかの塩形態を含み、かつ液体は薬学的に許容される担体であり、粉末は薬学的に許容される担体中に均一に含まれる。流動性組成物は、ペースト、スラリー、または懸濁液であってよい。粉末は、10ナノメートル(0.01マイクロメートル)から約100マイクロメートルに及ぶ平均粒径を有してよく、約500マイクロメートルよりも大きい粒子を含まない。
【0027】
本発明の装置と共に用いられるグルカゴン製剤の安定性のために、該製剤は、リザーバー中に予め充填され貯蔵され、室温または体温に曝露された場合にある期間(例えば、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも14、少なくとも21、少なくとも30、少なくとも45、または少なくとも60日)にわたって使用され得る。これによって、装置を、患者の低血糖を予防または処置するために適切な血糖値を維持するためのクローズドループ、オープンループ、またはループなしのポンプ装置として使用することが可能となる。特定の場合において、組成物は、室温(例えば、20~25℃)で1ヶ月間または6ヶ月間または12ヶ月間または18ヶ月間貯蔵した後に、安定したかつ流動性の状態のままであり得る。
【0028】
「結合された」は、必ずしも直接的ではなく、かつ必ずしも機械的ではないが、接続されたと定義され;「結合された」2つの品物は、相互に一体型であってよい。「1つの (a)」および「1つの (an)」という用語は、本開示が明示的に別途要求しない限り、1つまたは複数と定義される。「実質的に」という用語は、当業者によって理解されるように、指定されるものの必ずしも全体ではないが大部分と定義される(かつ、指定されるものを含み;例えば、実質的に90度は90度を含み、実質的に平行は平行を含む)。
【0029】
さらに、ある特定の方法で構成された装置またはシステムは、少なくともその方法で構成されるが、具体的に記載された方法以外の方法でも構成され得る。
【0030】
ペプチドの「最適な安定性および溶解度」は、ペプチドの溶解度が高く(溶解度 対 pHプロファイルにおいて最大もしくはほぼ最大であるか、または生成物の必要条件に適している)、かつその分解が他のpH環境と比較して最小である、pH環境を指す。注目すべきことには、ペプチドは、最適な安定性および溶解度の、2つ以上のpHを有する場合もある。これはまた、ペプチドが、そのペプチドの最適な安定性のpHを有する水溶液中に可溶化された場合に有するイオン化プロファイル(例えば、プロトン化状態)を指し得る。当業者は、文献を参照することにより、またはアッセイを行うことにより、所与のペプチドの最適な安定性および溶解度を容易に確認することができる。
【0031】
本明細書で用いられる「溶解」という用語は、気体、固体、または液体状態の材料が溶媒中の気体、液体、または固体の溶液を形成する、溶媒の溶質、溶存構成成分となる過程を指す。ある特定の局面において、治療用物質または賦形剤、例えばイオン化安定化賦形剤は、その溶解限度までの量で存在するか、または完全に可溶化される。「溶解する」という用語は、気体、液体、または固体が溶媒に組み込まれて溶液を形成することを指す。
【0032】
本明細書で用いられる「賦形剤」という用語は、安定化、バルク化の目的のため、または薬物吸収の促進、粘性の低下、溶解度の増強、張度の調整、注射部位の不快感の緩和、凝固点の低下、もしくは安定性の向上など、最終剤形において活性成分に治療的増強を付与するために含まれる、医薬の活性または治療成分と一緒に製剤化される天然または合成物質を指す(すなわち、賦形剤は、活性成分ではない成分である)。賦形剤は製造プロセスにおいても有用であり得、予想される貯蔵寿命にわたる変性または凝集の防止など、インビトロ安定性を改善することに加えて、粉末流動性の促進または非粘着特性の付与などにより、懸念される活性物質の取り扱いに役立つ。
【0033】
本明細書で用いられる場合、「イオン化安定化賦形剤」は、治療用物質のための特定のイオン化状態を確立および/または維持する賦形剤である。ある特定の局面において、イオン化安定化賦形剤は、適切な条件下で少なくとも1つのプロトンを供与する分子であってよく、もしくはそれを含み、またはプロトン源である。ブレンステッド・ローリーの定義によれば、酸は、プロトンを別の分子に供与し得る分子であり、別の分子は、供与されたプロトンを受け取ることによって塩基に分類され得る。本出願で用いられる場合、および当業者によって理解されるように、「プロトン」という用語は、水素イオン、水素陽イオン、またはH+を指す。水素イオンは電子を有さず、典型的にプロトンのみからなる核から構成される。具体的には、非プロトン性極性溶媒中で完全にイオン化されるか、大部分がイオン化されるか、部分的にイオン化されるか、大部分が非イオン化されるか、または完全に非イオン化されるかにかかわらず、プロトンを治療用物質に供与し得る分子は、酸またはプロトン源と見なされる。
【0034】
本明細書で用いられる場合、「鉱酸」は、1つまたは複数の無機化合物に由来する酸である。したがって、鉱酸は「無機酸」とも称され得る。鉱酸は、一塩基酸または多塩基酸(例えば、二塩基酸、三塩基酸等)であってよい。鉱酸の例には、塩酸 (HCl)、硫酸 (H2SO4)、およびリン酸 (H3PO4) が含まれる。
【0035】
本明細書で用いられる場合、「有機酸」は、酸性特性を備えた(すなわち、プロトン源として機能し得る)有機化合物である。カルボン酸は有機酸の一例である。有機酸の他の公知の例には、アルコール、チオール、エノール、フェノール、およびスルホン酸が含まれるが、これらに限定されない。有機酸は、一塩基酸または多塩基酸(例えば、二塩基酸、三塩基酸等)であってよい。
【0036】
「電荷プロファイル」、「電荷状態」、「プロトン化状態」、「イオン化状態」、および「イオン化プロファイル」は、互換的に使用され得、ペプチドのイオノゲン基のイオン化状態(すなわち、プロトン化および/または脱プロトン化による)を指す。
【0037】
「治療用物質」は、その薬学的に許容される塩と共にペプチド化合物を包含する。有用な塩は当業者に公知であり、これには、無機酸、有機酸、無機塩基、または有機塩基との塩が含まれる。本発明において有用な治療用物質は、単独であるかまたは他の薬学的賦形剤もしくは不活性成分と組み合わせるかにかかわらず、ヒトまたは動物に投与さると、所望の効果、有益な効果、およびしばしば薬理学的な効果に影響を与えるペプチド化合物である。
【0038】
「ペプチド」、「ポリペプチド」、および「ペプチド化合物」は、アミド (CONH) 結合によって共に結合された、約100個まで、またはより好ましくは約80個までのアミノ酸残基のポリマーを指す。本明細書に開示されるペプチド化合物のいずれかのアナログ、誘導体、アゴニスト、アンタゴニスト、および薬学的に許容される塩は、これらの用語に含まれ、ペプチドを構成するアミノ酸は、タンパク質構成性および/またはタンパク質非構成性であってよい。これらの用語はまた、D-アミノ酸、D-立体配置もしくはL-立体配置における改変アミノ酸、誘導体化アミノ酸、もしくは天然アミノ酸、および/またはペプト模倣 (peptomimetic) 単位をそれらの構造の一部として有するペプチドおよびペプチド化合物を含む。
【0039】
「グルカゴン」という用語は、グルカゴンペプチド、その類似体、およびそれらいずれかの塩形態を指す。グルカゴンペプチド、その類似体、および塩形態は、合成または組換え過程に由来し得る。
【0040】
本明細書で用いられる場合、「共製剤」は、非プロトン性極性溶媒系に溶解された2つまたはそれ以上の治療用物質を含有する製剤である。治療用物質は、同じクラスに属してもよく(例えば、インスリンおよびプラムリンチドなどの2つまたはそれ以上の治療用ペプチドを含む共製剤)、または治療用物質は異なるクラスに属してもよい(例えば、GLP-1およびリソフィリンなどの1つまたは複数の治療用小分子および1つまたは複数の治療用ペプチド分子を含む共製剤)。
【0041】
「患者」、「対象」、または「個体」は、哺乳動物(例えば、ヒト、霊長類、イヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、またはモルモット)を指す。特定の局面において、患者はヒトである。本発明の好ましい局面において、患者は先天性高インスリン症 (CHI) を有し、かつ/または20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2歳未満、もしくは1歳未満である。ある特定の局面において、患者は、1歳未満または生後9ヶ月未満または6ヶ月未満または3ヶ月未満の乳児である。
【0042】
「阻害する」もしくは「低下させる」、またはこれらの用語の任意の変化形は、所望の結果を達成するための任意の測定可能な減少または完全な阻害を含む。
【0043】
「有効な」もしくは「処置する」もしくは「予防する」、またはこれらの用語の任意の変化形は、所望の、期待される、または意図される結果を達成するのに十分であることを意味する。
【0044】
本明細書で用いられる場合、「非プロトン性極性溶媒」という用語は、酸性水素を含有せず、したがって水素結合供与体として作用しない極性溶媒を指す。極性非プロトン性溶媒には、ジメチルスルホキシド (DMSO)、ジメチルホルムアミド (DMF)、酢酸エチル、n-メチルピロリドン (NMP)、ジメチルアセトアミド (DMA)、および炭酸プロピレンが含まれるが、これらに限定されない。「非プロトン性極性溶媒系」という用語は、溶媒が単一の非プロトン性極性溶媒(例えば、純粋なDMSO)、または2つもしくはそれ以上の非プロトン性極性溶媒の混合物(例えば、DMSOとNMPとの混合物)である溶液を指す。
【0045】
「単相溶液」は、溶媒または溶媒系(例えば、2つもしくはそれ以上の溶媒の混合物)中に溶解された粉末から調製された溶液を指し、ここで、粒子状物質は溶媒中に完全に溶解しており、溶液が光学的に透明であると記載され得るように、もはや粒子状物質は見えない。単相溶液は、無色または有色(例えば、淡黄色変色)であってよい。
【0046】
「緩衝剤」は、他の酸および/または塩基の添加後の溶液のpHの急速なまたは顕著な変化を防ぐ弱酸または弱塩基を指す。緩衝化剤を水に添加すると、緩衝化溶液が形成される。例えば、緩衝溶液は、弱酸およびその共役塩基の両方または弱塩基およびその共役酸の両方を含有し得る。一般的な化学的使用において、pH緩衝剤は、少量のH+イオンおよびOH-イオンの添加時に溶液がpHの大きな変化に抵抗することを可能にする物質または物質の混合物である。一般的な緩衝剤混合物は、2つの物質、共役酸(プロトン供与体)および共役塩基(プロトン受容体)を含有する。一緒になって、2つの種(共役酸および共役塩基の共役酸-塩基対)は、H+イオンおよびOH-イオンの溶液への添加を部分的に吸収することにより、溶液のpHの大きな変化に抵抗する。
【0047】
「不揮発性緩衝剤」は、緩衝剤構成成分が、乾燥中(例えば、凍結乾燥中)に組成物から除去され得るほど十分に揮発性ではない緩衝剤を指す。グリシン、クエン酸、もしくはリン酸緩衝剤、またはそれらの混合物は、不揮発性緩衝剤のいくつかの非限定的な例である。好ましい例では、グリシン緩衝剤が不揮発性緩衝剤として使用され得る。
【0048】
ペプチドの「等電点」 (pI) は、ペプチドの全正味電荷がゼロであるpH値に相当する。それらの一次構造に関するそれらの変動する組成のせいで、ペプチドは変動する等電点を有し得る。ペプチドには、多くの荷電基(例えば、プロトン化または脱プロトン化されているイオノゲン基)が存在してよく、等電点において、これら全ての電荷の正味の合計はゼロであり、すなわち負電荷の数は正電荷の数と釣り合う。等電点よりも高いpHでは、ペプチドの全正味電荷は負となり、等電点よりも低いpH値では、ペプチドの全正味電荷は正となる。等電点電気泳動などの実験的方法、および等電点が計算アルゴリズムによってペプチドのアミノ酸配列から推定され得る理論的方法を含む、ペプチドの等電点を決定するための当技術分野において公知の複数の方法が存在する。
【0049】
薬学的組成物に言及する場合の「再構成された」は、活性薬学的成分を含む固体材料への適切な非水性溶媒の添加によって形成された組成物を指す。再構成のための薬学的組成物は典型的に、許容される貯蔵寿命を有する液体組成物を生成することができない場合に適用される。再構成された薬学的組成物の例は、生体適合性の非プロトン性極性溶媒(例えば、DMSO)を凍結乾燥組成物に添加した場合に生じる溶液である。
【0050】
「一次構造」は、ペプチド/ポリペプチド鎖を構成するアミノ酸残基の直鎖状配列を指す。
【0051】
ペプチドに言及する場合の「類似体」および「アナログ」は、ペプチドの1つもしくは複数のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基によって置換されているか、またはペプチドから1つもしくは複数のアミノ酸が欠失されているか、またはペプチドに1つもしくは複数のアミノ酸残基が付加されているか、またはそのような改変の任意の組み合わせである改変ペプチドを指す。アミノ酸残基のそのような付加、欠失、または置換は、ペプチドのN末端および/またはペプチドのC末端を含む、ペプチドを構成する一次構造に沿った任意の点または複数の点で行われ得る。天然のタンパク質構成性アミノ酸は、他のタンパク質構成性アミノ酸またはタンパク質非構成性アミノ酸と置換され得る。タンパク質構成性アミノ酸残基およびタンパク質非構成性アミノ酸残基の両方を含むグルカゴン類似体の一例は、dasiglucagon (Zealand Pharma A/S) である。
【0052】
親ペプチドとの関連における「誘導体」は、少なくとも1つの置換基が親ペプチドまたはその類似体中に存在しない、化学的に修飾された親ペプチドまたはその類似体を指す。1つのそのような非限定的な例は、共有結合的に修飾された親ペプチドである。典型的な修飾は、アミド、炭水化物、アルキル基、アシル基、エステル、ペグ化、および同様のものである。
【0053】
「両性 (amphoteric) 種」は、酸および塩基として反応し得る分子またはイオンである。これらの種は、プロトンを供与または受容し得る。例には、アミンおよびカルボン酸官能基の両方を有するアミノ酸が含まれる。両性種には、少なくとも1つの水素原子を含み、プロトンを供与または受容する能力を有する両性 (amphiprotic) 分子がさらに含まれる。
【0054】
「インスリン分泌阻害薬」は、ジアゾキシド、オクトレオチド、またはインスリン分泌を阻害し得るカルシウムチャネル遮断薬などの化合物を指す。
【0055】
「非水性溶媒」は、水分含量を含まないかまたは最小限の水分含量を含む溶媒または溶媒系を指す。
【0056】
「治療的に等価な」薬物は、1つまたは複数の他の薬物と、疾患または状態の処置において本質的に同じ効果を有するものである。治療的に等価である薬物は、化学的に等価、生物学的に等価、もしくは遺伝的に等価であってもよいかまたはそうでなくてもよい。
【0057】
本発明の製剤の「水」または「水分」含量は、所与の製剤中に存在する水の全量を指す。概して、製剤中には2つのタイプの水分が存在し、これには、(1) 製剤の初期水分含量、および (2) 製剤の全水分含量が含まれる。製剤が調製された直後は、製剤の初期水分含量と全水分含量は等しい。しかしながら、貯蔵中に製剤に水分が入る場合があり、その結果として全水分含量は初期水分含量を超えて増加する。例として、最初に調製された後の製剤は1重量%の水含量を有し得るが、ある期間(例えば、1ヶ月間の貯蔵)後に、その水含量は2重量%まで増加するという点で、本発明の製剤は吸湿性であり得る。したがって、そのような製剤中の全水分含量または全水含量は、該製剤の1重量%初期水分含量を上回る2重量%となる。製剤の初期水分含量は、複数の原因によってもたらされ得る。例えば、水が共溶媒として添加される場合があり(例えば、製剤の凝固点を低下させるため)、および/またはペプチドを含有する初期水溶液の乾燥(例えば、凍結乾燥による)後に、残留水分が粉末中に存在する場合がある。乾燥中の不完全な除去に起因して残存する残留水分の量は、いくつかある要因の中でも特に、機器、バッチサイズ、処理パラメーターに応じて異なるが、典型的には10重量%未満である。
【0058】
あるいは、本発明の製剤との関連において、水は共溶媒として使用され得、該水は製剤の凝固点を低下させるために使用され得る。例えば、製剤は共溶媒として10重量%の水を含んでよく、その結果としてその最初の調製後の製剤は10重量%の水を有するが、ある期間(例えば、1ヶ月間の貯蔵)後に、その水含量は10重量%を超えて増加する(例えば、11重量%)。この例では、そのような製剤中の初期水分含量または初期水含量は10重量%であるが、全水含量または全水分含量は11重量%である。本発明の製剤は、製剤が調製された後に、15重量%未満、10重量%未満、5重量%未満、4重量%未満、3重量%未満、2重量%未満、または1重量%未満の初期水含量または初期水分含量を有し得る。具体的な態様において、組成物は、0重量%から15重量%未満まで、0重量%から3重量%未満まで、3重量%から10重量%まで、または3重量%から5重量%までの初期水含量を有し得る。
【0059】
「生物学的利用能」は、ペプチド化合物などの治療用物質が製剤から吸収される程度を指す。
【0060】
ペプチド化合物などの治療用物質の対象への送達または投与に関する「全身性」は、治療用物質が、対象の血漿中で生物学的に有意なレベルで検出可能であることを意味する。
【0061】
「制御放出」は、約1時間またはより長い期間、好ましくは12時間またはより長い期間にわたり、血中(例えば、血漿中)濃度が治療的範囲内であるが毒性濃度未満に維持されるような速度での、治療用物質の放出を指す。
【0062】
「薬学的に許容される担体」は、本発明の薬物化合物を動物またはヒトなどの哺乳動物に送達するための薬学的に許容される溶媒、懸濁剤、またはビヒクルを指す。
【0063】
「薬学的に許容される」成分、賦形剤、または構成成分は、妥当な利益/リスク比に見合いながら、過度の有害な副作用(毒性、刺激、およびアレルギー反応など)を伴うことなく、ヒトおよび/または動物による使用に適したものである。
【0064】
ペプチドまたはその塩などの治療用物質に言及する場合の「化学的安定性」は、酸化または加水分解などの化学的経路によって生じる分解産物の形成が許容可能な割合であることを指す。詳細には、生成物を意図される貯蔵温度(例えば、室温)で1年間貯蔵した後;または生成物を30℃/65%相対湿度で1年間貯蔵した後;または生成物を40℃/75%相対湿度で1ヶ月間、および好ましくは3ヶ月間貯蔵した後に、形成される分解産物が約30%以下である場合に、製剤は化学的に安定であると見なされる。いくつかの態様において、化学的に安定した製剤は、生成物を意図される貯蔵温度で長期間貯蔵した後に形成される分解産物が、20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、または1%未満である。
【0065】
ペプチドまたはその塩などの治療用物質に言及する場合の「物理的安定性」は、形成される凝集物(例えば、二量体、三量体、およびより大きな形態などの可溶性凝集物)が許容可能な割合であることを指す。詳細には、生成物を意図される貯蔵温度(例えば、室温)で1年間貯蔵した後;または生成物を30℃/65%相対湿度で1年間貯蔵した後;または生成物を40℃/75%相対湿度で1ヶ月間、好ましくは2ヶ月間、および最も好ましくは3ヶ月間貯蔵した後に、形成される凝集物が約15%以下である場合に、製剤は物理的に安定であると見なされる。いくつかの態様において、物理的に安定した製剤は、生成物を意図される貯蔵温度で長期間貯蔵した後に形成される凝集物が、15%未満、10%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、または1%未満である。
【0066】
「安定した製剤」は、室温での2ヶ月間の貯蔵後に、少なくとも約65%の化学的および物理的に安定した、ペプチドまたはその塩などの治療用物質が残存していることを指す。特に好ましい製剤は、これらの貯蔵条件下で、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%の化学的および物理的に安定した治療用物質が残存しているものである。特に好ましい安定した製剤は、滅菌放射線(例えば、γ線、β線、または電子線)照射後に分解を示さないものである。
【0067】
「哺乳動物」または「哺乳類の」には、ネズミ科(例えば、ラット、マウス)哺乳動物、ウサギ、ネコ、イヌ、ブタ、および霊長類(例えば、サル、類人猿、ヒト)が含まれる。本発明との関連における特定の局面において、哺乳動物はマウスまたはヒトであってよい。患者は、哺乳動物または哺乳類の患者であってよい。
【0068】
「非経口注射」は、ヒトなどの動物の皮膚もしくは粘膜の1つもしくは複数の層の下へのまたはそれを通じた注射による、ペプチド化合物などの治療用物質の投与を指す。標準的な非経口注射は、動物、例えばヒト患者の皮内、皮下、または筋肉領域に対して行われる。いくつかの態様では、本明細書に記載される治療用物質の注射のために、深い位置が標的化される。
【0069】
「約」または「およそ」または「実質的に変化しない」という用語は、当業者によって理解されるように、~に近いと定義され、1つの非限定的な態様において、これらの用語は、10%以内、好ましくは5%以内、より好ましくは1%以内、および最も好ましくは0.5%以内であると定義される。さらに、「実質的に非水性」は、水が重量または容積で5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満、またはそれより少ないことを指す。
【0070】
特許請求の範囲および/または本明細書において「含む」という用語と共に用いられる場合の「1つの (a)」または「1つの (an)」という単語の使用は、「1つ」を意味し得るが、それはまた、「1つまたは複数」、「少なくとも1つ」、および「1つまたは2つ以上」という意味とも一致する。
【0071】
「含む (comprising)」(ならびに「含む (comprise)」および「含む (comprises)」などの、含む (comprising) の任意の形態)、「有する (having)」(ならびに「有する (have)」および「有する (has)」などの、有する (having) の任意の形態)、「含む (including)」(ならびに「含む (includes)」および「含む (include)」などの、含む (including) の任意の形態)、または「含有する (containing)」(ならびに「含有する (contains)」および「含有する (contain)」などの、含有する (containing) の任意の形態)という単語は、包括的または非制限的であり、付加的な明記されない要素または方法段階を排除しない。
【0072】
本発明の装置、組成物、および方法は、本明細書の全体を通して開示された特許請求される要素または段階のいずれかを「含む」か、それ「から本質的になる」か、またはそれ「からなる」ことができる。1つの非限定的局面における「~から本質的になる」という移行句に関して、本明細書の装置の基本的かつ新規な特徴は、クローズドループ、オープンループ、またはループなしのポンプベースの装置を介して患者に安定したグルカゴン製剤を送達するそれらの能力である。
【0073】
1つの態様の1つまたは複数の特徴は、本開示または態様の性質によって明確に禁止されていない限り、たとえ記載または説明されていないとしても、他の態様に適用され得る。
【0074】
上記の態様およびその他のものに関連したいくつかの詳細を以下に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0075】
以下の図面は、限定ではなく一例として例証する。簡潔にかつ明瞭にするために、所与の構造の全ての特徴が、その構造が現れる全ての図において常に表示されているわけではない。同一の参照番号は、必ずしも同一の構造を示すわけではない。むしろ、同じ参照番号は、類似の特徴または類似の機能を有する特徴を示すために使用され得、同一でない参照番号も使用され得る。図は(他に指示のない限り)一定の縮尺で描かれ、これは、描写された要素のサイズが、少なくとも図中に描写される態様に関して互いに正確であることを意味する。
【
図1】本発明のグルカゴン送達装置の第1態様の斜視図である。
【
図2】患者と接続して示された、
図1のグルカゴン送達装置の様々な構成成分の断面側面図である。
【
図3】
図1のグルカゴン送達装置の様々な構成成分を描写する模式図である。
【
図4】
図4A~4Cは、本発明のグルカゴン送達装置のいくつかの態様において使用するのに適している、本開示の様々な組成物を含むリザーバーの側面図である。
図4Dは、本発明のグルカゴン送達装置のいくつかの態様において使用するのに適しているリザーバーの上面図である。
【
図5】本発明のグルカゴン送達装置の1つの態様のクローズドループ制御の一例の例示的なフローチャートを描写する。
【
図6】グルカゴンCSIと共に用いた場合とグルカゴンCSIなしで用いた場合の、患者のグルコースレベルを正常血糖範囲内に維持するために注入しなければならないグルコースの量(すなわち、グルコース注入速度 (GIR))の臨床的に有意な減少を示すデータを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0076】
例示的態様の詳細な説明
本発明より前の、CHを処置する典型的なプロセスは、膵臓からのインスリン放出を遮断するためのジアゾキシドまたはオクトレオチド含むが、これらの薬物には著しい副作用があり、効果があるのは全症例の半数未満である。他方のCH療法は、デキストロースの水溶液(例えば、以後D50と称される50% (w/v) デキストロース溶液)の持続注入である。しかしながら、D50療法は典型的に、外科的に埋め込む必要のある末梢挿入中心静脈カテーテルまたはPICCラインを介した、高いグルコース注入速度 (GIR) を必要とする。PICCラインは患者にとっての感染源であり、また高GIRは体液過負荷を引き起こす可能性があり、体液過負荷は心不全、肺水腫、およびチアノーゼをもたらし得る。
【0077】
本発明は、CHの現在のD50処置法に対する解決策を提供する。その解決策は、一部には、持続皮下注入 (CSI) として送達される安定的かつ流動性のグルカゴン製剤をD50処置の前またはその間に投与することができ、これが次いで、グルカゴンCSI使用しない場合よりも短い期間でD50のGIRを低下させ得るという発見を前提とする。1つの非限定的な態様では、パッチポンプ(例えば、OmniPod)と組み合わせて本発明のグルカゴン製剤を使用することで、外科的に埋め込まれたPICCラインとその後の何年にもわたるD50のIV注入を必要とする現在のパラダイムではなく、より簡便な皮下投与による処置が可能となり得る。理論によって縛られることは望まないが、グルカゴンCSIは、より低レベルのD50投与、またはさらにはつまるところD50投与の完全な除去/回避をもたらし得ると考えられる。
【0078】
本発明のこれらおよびその他の局面を、以下のサブセクションにおける非限定的な詳細において提供する。
【0079】
A. グルカゴン送達装置および関連する方法
ここで
図1~4を参照すると、本発明のグルカゴン送達装置の第1の非限定的態様が、その中に示され、参照数字100によって指定されている。描写された態様において、装置100はハウジング104を備え、これは一般に装置100の構成成分を互いに位置づけるおよび/または固定するように機能する。示される態様において、グルカゴン送達装置100は、グルカゴンを含む組成物を患者の皮内、皮下、または筋肉内に送達するように構成される。
【0080】
描写される態様において、装置100はリザーバー108aを備え、これは本態様において、ハウジング104内で配置され得、かつ/または使い捨てであってよい。例えば、本態様において、ハウジング104は、レセプタクル112を利用できるように規定し、かつ/または構成され、レセプタクル112は、ハウジング104内のリザーバー108aを受け入れ、かつ/またはその除去および/もしくは交換を可能にするように形成され得る。
【0081】
本態様において、リザーバー108aは、組成物(例えば、116a、116b、116c、および/または同様のもの)(まとめて「組成物116」または「組成物類116」と称されることもある)を含み得る。本発明のグルカゴン送達装置は、例えば本出願の全体を通して記載されるグルカゴン含有製剤などの、任意の適切な貯蔵安定性組成物と共に使用され得る。
【0082】
示される態様において、リザーバー108aはキャップ120を含む。本態様において、キャップ120は、穿刺可能な密封材124(例えば、リザーバー108aがレセプタクル112に挿入された場合に、装置100の外部または内部の針または他の鋭器により穿刺されて、リザーバー108aからポンプ128への組成物116の伝達を可能にし得る)を含む。このような方法で、組成物類116は使用前に貯蔵され得、このことは組成物の安定性によって促進され得る。
【0083】
本発明のグルカゴン送達装置のいくつかの態様は、患者の血糖値を低下させることができるタンパク質またはペプチドを有する組成物を含まないが、他の態様は、グルコース低下製剤(例えば、上記のようなインスリン、インスリン模倣ペプチド、インクレチン、インクレチン模倣ペプチド、および/または同様のもの)を含む組成物を含み得る。例えば、いくつかの態様は、(リザーバー108aに加えて)グルコース低下製剤を含むリザーバー108bを含んでよく、そのような態様において、ポンプ128(以下により詳細に記載される)は、グルコース低下製剤の少なくとも一部を皮内に送達するように構成され得る(そのような構成の一例は
図3に描写されており、これはリザーバー108aまたはリザーバー108bのいずれかをポンプ128と連絡するよう選択的に配置するためのバルブを含み得る)。これらおよび類似の態様において、ハウジング104は、ハウジング104内のリザーバー108bを受け入れ、かつ/またはその除去および/もしくは交換を可能にするように形成されたレセプタクル(例えば、112)を含み得る。
【0084】
示される態様において、装置100は、組成物の少なくとも一部を患者の皮内に送達するように構成された電子ポンプ128を備える。本開示のポンプは、例えば、容積移送式ポンプ(例えば、ギアポンプ、スクリューポンプ、蠕動ポンプ、ピストンポンプ、プランジャーポンプ、および/もしくは同様のもの)、遠心ポンプ、ならびに/または同様のものなどの任意の適切なポンプを含み得る。本態様において、ポンプ128は電子式である(例えば、例えばバッテリー132から電力が供給される電気モーターによって電気的に作動するように構成される)が;しかしながら、他の態様において、ポンプは、手動で作動してもよい(例えば、ユーザーが、例えばプランジャー、レバー、クランク、および/または同様のものに力を加えることによる)。本態様において、ポンプ128は(例えば、可撓性)電線管140を介して針136と連絡し、その結果としてポンプ128の作動は、組成物116をリザーバー108aから電線管140を通じて、針136(例えば、いくつかの態様では、患者の埋め込みポート内に受け取られるように構成され得る)を介して患者に伝達し得る。そのような組成物伝達の一例が
図3に描写されており、組成物伝達は破線144により示され、電気通信は点線148によって示される。
【0085】
示される態様において、装置100は、患者の間質液中のグルコースレベルを示すデータを取得する(例えば、グルコース酸化酵素 (GOx) が間質液中のグルコースと酸素との反応を触媒する際に発生する電流を測定することによる)ように構成されたセンサー152を備える。次いでこのレベルを用いて患者の血糖値を決定することができ、またはこのレベルを用いて、患者に投与するためのグルカゴン製剤の量を決定することができる。例えば、特に
図2を参照すると、本態様において、センサー152の一部(例えば、針、電極、および/または同様のものを含み得る)は、患者の皮膚156に挿入され、かつ間質液と連絡している。
【0086】
示される態様において、センサー152は、無線でデータを送信するように構成される。例えば、本態様において、センサー152は、無線周波数によりデータを送信するように構成される(例えば、リーダー160によって生じ、および/またはセンサーと電気的に連絡しているバッテリーによって促進されるシグナルに応答するかどうかを問わない)。しかしながら、他の態様において、センサー152は、有線接続によりデータを送信するように構成され得る。
【0087】
示される態様において、装置100は、患者の間質液中のグルコースレベルを示す情報を伝達するように構成されたモニター164を備える。本開示のモニター164は、任意の適切なモニターを含んでよく、聞こえるように(例えば、スピーカー164aによる)、触知できるように(例えば、振動モーターによる)、視覚的に(例えば、ディスプレイ装置164bによる)、および/または同様に、情報を伝達するように構成され得る。例えば、本態様において、モニター164はスピーカー164aおよびディスプレイ装置164bを含む。モニター164は、装置100のハウジング104に取り付けられたように描写されているが、他の態様において、モニター(またはその構成成分、例えばスピーカー164aもしくはディスプレイ装置164bなど)は、ハウジング104と物理的に分離されてもよい(例えば、かつ装置100の他の構成成分と無線および/もしくは有線で連絡してもよい)。このような方法で、モニター164によって伝達された情報を受け取ることにより、装置100を用いる患者は、血糖値に影響を及ぼす食物摂取量、身体活動、薬物療法、疾病、および/または同様のものへの洞察を得ることができる。
【0088】
示される態様において、モニター164は、任意の適切な状況(例えば、プロセッサ172と電気的に連絡しているメモリ内に格納され得る要因)下で警告を伝達するように構成され得る。説明すると、本態様において、装置100は、患者の間質液中のグルコースレベルが、閾値よりも高い(例えば、既存のまたは差し迫った低血糖状態を示す)、および閾値よりも低い(例えば、既存のまたは差し迫った高血糖状態を示す)、の少なくとも一方であると推定される場合に、モニター164が警告を伝達するように構成される。プロセッサ172は、ある期間にわたってセンサー152から受信したデータを解析することにより、差し迫った状態を検出して、将来の期間における患者の血糖値を予測し得る(例えば、継時的に患者の血糖値における傾向を判断することによる)。
【0089】
本態様において、装置100は、ポンプ128によって皮内に送達される組成物の送達速度および用量の少なくとも一方を手動で調整できるように構成される。例えば、示される態様において、装置100は、1つまたは複数のユーザー入力装置(例えば、ボタン)168を備える。ユーザー入力装置168は、ユーザーが、装置100および/もしくはポンプ128を起動および/もしくは停止する、装置100および/もしくはポンプ128の起動および/もしくは停止の時間および/もしくは期間を設定する、所望の血糖値を設定する、所望の組成物送達速度および/もしくは用量(例えば、基礎および/もしくはボーラス用量)を設定する、ならびに/または同様のことができるように、構成され得る。ユーザー入力装置168は、モニター164(またはそのディスプレイ装置164b)(例えば、情報を提供して装置100との交信においてユーザーを支援するため、メニューナビゲーションを提供するため、現在のパラメーター(例えば、目標血糖値、組成物送達速度および/もしくは用量、ならびに/または同様のもの)を表示するため、ならびに/または同様のもののため)と共に働き得る。描写される態様において、ユーザー入力装置168はボタンを含むが、他の態様において、ユーザー入力装置168は、例えばディスプレイ装置164bのタッチセンサー式表面などの任意の適切な構造を含み得る。
【0090】
示される態様において、装置100は、ポンプ128の操作を制御するように構成されたプロセッサ172を備える。示される態様において、プロセッサ172の制御は、オープンループまたはクローズドループ(例えば、センサー152によって得られたデータに少なくとも部分的に基づく)であってよい。説明すると、本態様において、プロセッサ172は、センサーによって得られたデータが、患者の間質液中の血糖値が閾値よりも低い(例えば、既存のまたは差し迫った高血糖状態を示す)ことを示す場合に、組成物116の少なくとも一部を皮内注射するためにポンプ128の操作を制御するように構成される。
図5は、そのようなクローズドループプロセッサに基づく制御の例示的なフローチャートを提供する。例えば、段階176において、プロセッサは、患者の間質液中のグルコースレベルを示すデータをセンサー152から受信し得る(例えば、リーダー160との連絡を通じて)。段階180において、本態様では、プロセッサ172は、受信したデータを、目標とする値または閾値と比較し得る。描写される態様では、段階184において、患者の間質液中の血糖値が、目標とする値または閾値よりも低いことをデータが示す場合に、プロセッサ172は、作動して組成物116を患者の皮内に送達するようにポンプ128に命令し得る。そのようなクローズドループ制御に関して構成された態様は、患者からの入力を必要としなくてよく、例えば、II型インスリン依存性糖尿病、肥満手術後反応性低血糖、低血糖関連自律神経障害、インスリノーマ、および/または同様のものを有する患者を処置するのに適していると考えられる。
【0091】
いくつかの態様(例えば、100)において、本発明の装置は、現在の血糖値を示すデータを(例えば、ディスプレイ164bにより)患者に伝達するように構成され得、これによって患者は、組成物116の送達速度、用量、および/または同様のものを調整することができる(例えば、装置100をオープンループ様式で制御する)。そのようなオープンループ制御に関して構成された態様は、例えば、I型インスリン依存性糖尿病、II型インスリン依存性糖尿病、および/または同様のものを有する患者を処置するのに適していると考えられる。
【0092】
いくつかの態様は、組成物116の皮内、皮下、または筋肉内送達をループなし様式で提供するように構成され得る。例えば、いくつかの態様は、ポンプ128が作動して組成物116の固定(例えば、基礎)用量を送達するように構成され得る。これらおよび類似の態様において、センサー152、リーダー160、モニター164、ユーザー入力装置168、プロセッサ172、および/または同様のものは、省略され得る。そのような態様は、例えば、先天性高インスリン症、肥満手術後反応性低血糖、および/または同様のものを有する患者を処置するのに適していると考えられる。
【0093】
患者におけるCHを処置するための本発明の方法のいくつかの態様は、グルカゴン送達装置(例えば、100)を用いて、組成物(例えば、116)の少なくとも一部を患者の皮内、皮下、または筋肉内に送達する段階を含む。いくつかの態様において、患者は、該組成物の送達の前に、0 mg/dLから50 mg/dL未満までの血糖値を有すると診断されているか、または差し迫った低血糖の徴候を有し、かつ患者は、該組成物の送達後1~30分以内に、50 mg/dLから180 mg/dLまでの血糖値を有する。いくつかの態様において、患者は、10 mg/dLから40 mg/dL未満までの血糖値を有すると診断されている。いくつかの態様において、患者は、該組成物の送達後1~30分以内に、50 mg/dLから180 mg/dL未満までの血糖値を有する。いくつかの態様において、患者は、該組成物の送達後1~15分以内に、50 mg/dLから180 mg/dLまでの血糖値を有する。いくつかの態様において、患者は、I型、II型、または妊娠性糖尿病と診断されている。いくつかの態様は、患者の血糖値をセンサー(例えば、152)で測定する段階を含む。
【0094】
B. 市販のグルカゴン製剤
上記で考察されたグルカゴン製剤に加えて、CHを処置し、最終的にD50 GIRレベルを低下させるか、またはさらにはD50療法の必要性を回避するために、市販のグルカゴン製剤を本発明との関連において用いることができることもまた、本発明との関連において企図される。市販のグルカゴン製剤の非限定的な例には、グルカゴンエマージェンシーキット (Eli Lilly) およびGlucaGenレスキューキット (Novo Nordisk) が含まれ、これらはいずれも、投与時に希釈剤シリンジで再構成する必要があり、貯蔵中に小繊維化およびゲル化する傾向がある粉末として販売されている。
【0095】
有効量または用量の決定は、特に本明細書において提供される詳細な開示の観点から、十分に当業者の能力の範囲内である。一般に、これらの用量を送達するための製剤は、溶液を生成するために製剤中に約0.1 mg/mLからペプチドの溶解限度までの濃度で存在するグルカゴンペプチドを含有してよく、該グルカゴンペプチドは非プロトン性極性溶媒中に十分にまたは完全に可溶化される。この濃度は、好ましくは約1 mg/mL~約100 mg/mL、例えば、約1 mg/mL、約5 mg/mL、約10 mg/mL、約15 mg/mL、約20 mg/mL、約25 mg/mL、約30 mg/mL、約35 mg/mL、約40 mg/mL、約45 mg/mL、約50 mg/mL、約55 mg/mL、約60 mg/mL、約65 mg/mL、約70 mg/mL、約75 mg/mL、約80 mg/mL、約85 mg/mL、約90 mg/mL、約95 mg/mL、または約100 mg/mLである。
【0096】
C. 先天性高インスリン症の処置
先天性高インスリン症 (CH) は、低血糖が存在する状態でインスリン分泌を抑制できないことを特徴とし、不適切に処置された場合には脳損傷または死をもたらす、膵β細胞の遺伝性障害である。CHIは比較的まれな疾患である。例えば、25,000~50,000人の赤ん坊/乳児に1人がこれに罹患し得る。いくつかの遺伝子における生殖細胞系列変異が、先天性高インスリン症と関連づけられている。これらの変異には、例えば、スルホニル尿素受容体(SUR-1、ABCC8によってコードされる)、内向き整流性カリウムチャネル(Kir6.2、KCNJl 1によってコードされる)、グルコキナーゼ (GCK)、グルタミン酸脱水素酵素 (GLUD-1)、短鎖L-3-ヒドロキシアシル-CoA(SCHAD、HADSCによってコードされる)、および/またはミトコンドリア脱共役タンパク質2 (UCP2) が含まれ得る。開示される本発明の適用の非限定的な例は、100 mg/dLの目標とする正常血糖値を維持するために20 mg/(kg*分) のグルコース注入速度 (GIR) を必要とするCHI患者を同定する段階を含み得る。5 mg/mL非水性グルカゴン製剤を含むパッチポンプを作動させて、5 mcg/(kg*時間) の持続皮下グルカゴン注入速度を遂行することができる。CHI患者のグルコースは上昇し始め、それにより、目標とする100 mg/dL血糖値を維持するために臨床医がグルカゴン注入速度を低下させることが必要となると考えられる。安定的かつ可溶性の外因性グルカゴン製剤の注入速度を上昇させて(例えば、25 mcg/(kg*時間) まで)、末梢挿入中心静脈カテーテルを患者から除去できるようにGIRを十分に低く(例えば、<8 mg/(kg*分))下げることが可能となり得る。
【実施例0097】
本開示のいくつかの態様を、具体的な実施例によってより詳細に記載する。以下の実施例は、例示目的で提供するものであり、本発明をいかようにも限定するものではない。例えば、当業者は、本質的に同じ結果をもたらすために変更または修正できる、重要でない種々のパラメーターを容易に認識するであろう。
【0098】
実施例1
イオン化安定化グルカゴン組成物
本発明との関連において使用され得る安定的かつ流動性のグルカゴン製剤の非限定的な例として、安定した非水性グルカゴン溶液の調製を記載する。本実施例では、溶解された5% (w/v) トレハロース(二水和物から)および任意でマンニトール (2.9% (w/v)) を含有する酸性化DMSO中にグルカゴンペプチド粉末 (Bachem AG) を溶解することにより、グルカゴン溶液を調製した。DMSO溶液は、3.0~3.2 mM H2SO4(1.0 N硫酸保存溶液から)で酸性化した。試料をガラスおよびCZ (Crystal Zenith) の両方のバイアル中で貯蔵し(2 mLバイアル中に0.5 mL充填容量)、40℃/75% RHでの安定性を評価した。試料の化学的安定性は、60日後に、グルカゴン安定性を示すUHPLC-MS法を用いて調べた。
【0099】
化学的安定性を評価するために用いられた逆相超高速液体クロマトグラフィー-質量分析(RP-UHPLC-MS)法は、それぞれ水中の1% (v/v) FA(ギ酸)およびアセトニトリル中の1% (v/v) FAからなる移動相AおよびBを用いた勾配法であった。C8カラム(2.1 mm I.D.×100 mm長、1.7マイクロメートル粒径)を、カラム温度60℃、流速0.55 mL/分、試料注入容量5-μL、および検出波長280-nmで用いた。表1に提供される化学的安定性データから、可溶性非水性グルカゴン製剤が、ガラスおよびCOP (CZ) の両方の容器-閉鎖系において加速条件下で長期安定性を示すことが示される。
【0100】
(表1)40℃/75% RHでの60日後の可溶性非水性5 mg/mLグルカゴン製剤に関する化学的安定性(グルカゴンピーク純度として提供される)。データは、N = 3の試料反復物についての平均値(±標準偏差)として提供される。
【0101】
実施例2
グルコースD50処置に対するグルカゴンCSIの効果に関する臨床研究データ
進行中の臨床試験は、CSI-グルカゴン(DMSO中の非水性グルカゴン製剤)が、先天性高インスリン症 (CHI) を有する乳児におけるグルコース注入要件(IV投与される)を低減または排除できるかどうかを評価するために行われている。低血糖を防ぐためにグルコース注入を必要とし、かつジアゾキシドに対して非応答性であるCHIを有する1歳未満の患者。グルカゴンとプラセボとの間でグルコース注入速度 (GIR) 応答を比較する、ランダム化盲検化48時間持続注入処置を患者に行う。この研究は、血糖を正常血糖範囲 (>70 mg/dL) 内に維持するために注入しなければならないグルコースの速度を測定することにより、パッチポンプ(例えば、OmniPod)による持続皮下注入によって投与された外因性グルカゴンの効果を評価するものである。GIRが低いほど、外因性グルカゴンの効果は高い。
【0102】
臨床試験では、D50を継続しながら、2日の盲検期中に、対象の半数にプラセボを与え、残りの半数にCSIグルカゴンを与える。盲検期後、対象は非盲検CSIグルカゴンを受ける資格がある。盲検は明らかにされていないが(2018年7月14日現在)、今日までに処置された1名の研究対象からの非盲検結果は入手可能である。この研究で投与されたCSIグルカゴンは、ジメチルスルホキシド (DMSO) 中に5% (w/v) トレハロースを溶解した、5 mg/mLのペプチド濃度の非水性グルカゴン製剤であった。
【0103】
図6に示されるように、CSIグルカゴンを受けた乳児は、盲検期の最後の12時間と非盲検処置の最後の12時間中の平均レベルを比較して、GIRの臨床的に意義のある65%低下を経験した。CSI-グルカゴン処置中に、グルカゴン注入速度 (GIR) は、長期維持のためのPICCラインを除去できるレベルである平均6.2 mg/(kg*分) まで低下した。副作用も不耐性の徴候も認められなかった。
【0104】
要約すると、データから、患者のグルコースレベルを正常血糖範囲内に維持するために注入しなければならないグルコースの量の臨床的に有意な減少が示される。
【0105】
本明細書において開示され特許請求される組成物および/または方法は全て、本開示の観点から過度の実験を行うことなく作製および実行することができる。本開示の組成物および方法をいくつかの態様に関して記載してきたが、本開示の概念、精神、および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載される組成物および方法、ならびに方法の段階または段階の順序に変更がなされ得ることは、当業者に明白であろう。より具体的には、化学的および生理学的に関連したある特定の作用物質を本明細書に記載される作用物質に対して置き換えて、同じまたは類似の結果が達成され得ることは明白であろう。当業者にとって明白であるそのような類似の置換物および修飾物は全て、添付の特許請求の範囲によって定義される任意の発明の精神、範囲、および概念の範囲内であると見なされる。
【0106】
本開示の態様は例示的な様式で記載されており、図中に描写される特定の態様および使用されている専門用語は、限定ではなくむしろ説明の語句の性質を有することが意図されることが理解されるべきである。前項において記載された成分/治療用物質のいかなる組み合わせも、添付の特許請求の範囲によって包含されると見なされることがさらに理解されるべきである。送達装置の全ての具体的な態様も、添付の特許請求の範囲によって包含されると見なされることがさらに理解されるべきである。上記の教示の観点から、本開示の多くの修正および変更が可能である。したがって、明白な修正も、添付の特許請求の範囲の範囲内に包含されると見なされることが理解されるべきである。
【0107】
上記の明細書および実施例は、例示的態様の構造および使用の完全な説明を提供する。ある特定の態様は、ある程度の具体性をもって、または1つもしくは複数の個々の態様に関して上記で説明されたが、当業者は、本開示の範囲から逸脱することなく、開示された態様に多数の変更を加えることができる。したがって、方法およびシステムの様々な例示的態様は、開示された特定の形態に限定されることを意図していない。むしろ、それらは、特許請求の範囲の範囲内に入る全ての修正物および変更物を含み、示された態様以外の態様は、描写された態様の特徴の一部または全てを含み得る。例えば、要素は省略されるかもしくは単一構造として組み合わされてもよく、かつ/または接続は置換されてもよい。さらに、適切であれば、上記のいずれかの例の局面を、記載される他の例のいずれかの局面と組み合わせて、匹敵するまたは異なる特性および/または機能を有し、かつ同じまたは異なる問題に対処するさらなる例を形成することができる。同様に、上記の利益および利点は、1つの態様に関連してもよく、またはいくつかの態様に関連してもよいことが理解されるであろう。
【0108】
ミーンズ・プラス・ファンクションまたはステップ・プラス・ファンクションの限定がそれぞれ、所与の請求項において「~ための手段」または「~ための段階」という語句を用いて明示的に記載されていない限り、特許請求の範囲は、そのような限定を含むことを意図せず、そのような限定を含むと解釈されるべきではない。