(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156364
(43)【公開日】2023-10-24
(54)【発明の名称】マクロキャリア
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20231017BHJP
C12N 11/02 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12N11/02
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023122272
(22)【出願日】2023-07-27
(62)【分割の表示】P 2020524781の分割
【原出願日】2018-11-09
(31)【優先権主張番号】1718556.2
(32)【優先日】2017-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】507226592
【氏名又は名称】オックスフォード ユニヴァーシティ イノヴェーション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】トゥイ・バ・リイン・グエン
(72)【発明者】
【氏名】ホア・イェ
(72)【発明者】
【氏名】ジャンフォン・ツァイ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】マイクロキャリアから細胞を回収する際に、回収された細胞の品質および生存能に負の影響を与えないマイクロキャリアを提供する。
【解決手段】生物細胞増殖のためのマクロキャリアであって、該マクロキャリアに細胞受入表面をもたらし、温度変化に応答して該マクロキャリアから細胞を遊離させることができる熱応答性ポリマーで被覆された基質粒子を含み、ここで、該基質粒子の少なくとも50%が少なくとも1mmの粒子径を有する、マクロキャリアを提供する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物細胞増殖のためのマクロキャリアであって、該マクロキャリアに細胞受入表面をもたらし、温度変化に応答して該マクロキャリアから細胞を遊離させることができる熱応答性ポリマーで被覆された基質粒子を含み、ここで、該基質粒子の少なくとも50%が少なくとも1mmの粒子径を有する、マクロキャリア。
【請求項2】
細胞受入表面が多孔性である、請求項1に記載のマクロキャリア。
【請求項3】
該基質粒子の少なくとも50%が1~10mmの粒子径を有する、請求項1または請求項2に記載のマクロキャリア。
【請求項4】
該基質粒子の少なくとも50%が2~6mmの粒子径を有する、請求項3に記載のマクロキャリア。
【請求項5】
基質粒子の少なくとも70%が1~10mmの粒子径を有する、請求項1~4の何れかに記載のマクロキャリア。
【請求項6】
基質粒子の少なくとも70%が2~6mmの粒子径を有する、請求項5に記載のマクロキャリア。
【請求項7】
基質粒子の少なくとも90%が1~10mmの粒子径を有する、請求項1~6の何れかに記載のマクロキャリア。
【請求項8】
基質粒子の少なくとも90%が2~6mmの粒子径を有する、請求項1~7の何れかに記載のマクロキャリア。
【請求項9】
基質粒子が熱応答性ポリマーで部分的に被覆されている、請求項1~8の何れかに記載のマクロキャリア。
【請求項10】
粒子基質がポリカプロラクトンを含む、請求項1~9の何れかに記載のマクロキャリア。
【請求項11】
熱応答性ポリマーが閾値温度より高い温度でマクロキャリアに細胞受入表面を提供し、閾値温度より低い温度でマクロキャリアから細胞を遊離させる、請求項1~10の何れかに記載のマクロキャリア。
【請求項12】
閾値温度が20~40℃の温度である、請求項11に記載のマクロキャリア。
【請求項13】
熱応答性ポリマーが、温度変化に応答して、親水性、細胞受入状態から疎水性、細胞遊離状態に変形され得る、請求項1または請求項2に記載のマクロキャリア。
【請求項14】
熱応答性ポリマーがポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAAm)を含む、請求項1~13の何れかに記載のマクロキャリア。
【請求項15】
基質粒子がポリカプロラクトンを含み、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAAm)がポリカプロラクトンにアミド結合により結合される、請求項11に記載のマクロキャリア。
【請求項16】
熱応答性ポリマーに接着した生物細胞をさらに含む、請求項1~15の何れかに記載のマクロキャリア。
【請求項17】
生物細胞が間葉性幹細胞(MSC)、ヒト皮膚線維芽細胞(HDF)、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)および神経芽腫Sy5y細胞から選択される、請求項16に記載のマクロキャリア。
【請求項18】
生物細胞の増殖のための系であって、バイオリアクターおよび請求項1~17の何れかに記載のマクロキャリアを含む、系。
【請求項19】
生物細胞の増殖のための方法であって、
a. 生物細胞と請求項1~17の何れかに記載のマクロキャリアを、細胞培養培地中で接触させ;
b. マクロキャリアを熱応答性ポリマーが細胞受入表面を呈示する温度に付すことにより該マクロキャリア上で細胞を増殖させ;そして
c. 該マクロキャリアの温度を、すべての増殖細胞がマクロキャリアから遊離されるように変える
ことを含む、方法。
【請求項20】
生物細胞をバイオリアクター中でマクロキャリアと接触させる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
マクロキャリアを、細胞増殖のために20~40℃の第一温度に付し、ここで、増殖細胞を遊離させるために、マクロキャリアの温度を第一温度未満まで下げる、請求項19または20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物細胞増殖のためのマクロキャリアに関する。本発明はまた、生物細胞の増殖のための系および生物細胞の増殖のための方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
背景
ワクチン、酵素、ホルモンおよびサイトカインの工業的生産は、細胞を大規模で産生することを必要とする。さらに、幹細胞療法および他の細胞ベースの治療的処置の最近の進歩は、しばしば、細胞を拡張性のある量で産生することを必要とする。
【0003】
細胞はバイオリアクターで増殖させることができ、そこで、細胞は培養培地中に懸濁されたマイクロキャリア上で増殖する。マイクロキャリアは、細胞が細胞培養過程中固定される支持基質として働く。マイクロキャリアは比較的小さく、一般に125~250μmサイズである。従って、それらは培養培地に容易に懸濁し、支持細胞接着および成長について比較的高い表面積対体積比を有する。培養段階後、固定された細胞は、回収のためにマイクロキャリアビーズから分離することが必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マイクロキャリアから細胞を回収するための広範な方法がある。細胞は、例えば、トリプシン、アキュターゼまたはコラゲナーゼを使用する酵素消化により回収され得る。しかしながら、このような方法は、細胞をマイクロキャリアから分離するのに有効であり得るが、処理が時々産生された細胞の生理に負の影響を有することがある。これは、回収された細胞の品質および生存能に負の影響を有し得る。
【課題を解決するための手段】
【0005】
熱応答性ポリマーは、温度を少し変えると、性質の顕著な変化を示すポリマーである。このようなポリマーの例は、ポリ-N-イソプロピルアクリルアミド(PNIPAAm)である。温度によって、PNIPAAmは、親水性の、ランダムコイル構造から疎水性の、崩壊した球状構造まで変わり得る。生物細胞は一般に疎水性表面に結合し、親水性表面とは反発する。従って、本ポリマーを使用して、例えば閾値温度を超える温度では細胞受入表面および温度が下がるに連れて、細胞反発表面を提供するように使用し得る。すなわち、細胞は分離および単離が必要であるような時間まで、閾値温度を超える温度でポリマーに固定され、そこで温度を下げ、細胞が遊離され得る。酵素処理と異なり、この遊離方法は、細胞の生理を損なう恐れを低減し得る。Cell Transplantation, Vol. 19, pp. 1123-1132, 2010において、温度感受性ポリマーであるPNIPAAmが、170~380ミクロンの直径を有するマイクロキャリアビーズにコンジュゲートされる。
【0006】
図面の簡単な説明
本発明の態様を添付する図面において、専ら例示の目的で、以下に模式的に示す。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、PCL表面に接合された熱応答性ポリマーならびに接合表面への細胞接着およびそこからの遊離の温度依存性効果の概略図である。
【0008】
【
図2a】
図2aは、PNIPAAm-NH
2のPCLビーズ表面へのコンジュゲーションを示すFTIRスペクトルを示す。
【
図2b】
図2bは、PNIPAAm-NH
2のPCLビーズ表面へのコンジュゲーションを示すXPSスペクトルを示す。
【0009】
【
図3】
図3は、マクロキャリア表面上の細胞増殖を示す。
【0010】
【
図4】
図4aおよび4bは、マクロキャリア表面からの細胞遊離および遊離した細胞の細胞生存能データを示す(すなわち細胞遊離比および生存能のトリプシン処理対温度低下比較);
【0011】
【
図5】
図5は、温度低下およびトリプシン処理により遊離された異なる細胞間の回収された細胞の増殖比較を示す。
【0012】
【
図6】
図6は、組織培養プレートおよび熱応答性マクロキャリア上で増殖させた細胞から回数したタンパク質のウェスタンブロット分析である;細胞を、トリプシン-EDTAによりおよび温度を下げることにより遊離した。
【0013】
【
図7】
図7は、PCLペレット調製を示す一連の画像を含むダイアグラムである。
【0014】
【
図8】
図8は、実施例2に記載の方法により製造したPCLビーズのSEM画像および市販のPCLビーズのSEM画像を示す。
【0015】
【
図9】
図9は、PCLビーズのSEM画像およびビーズのサイズ分布を示す一連のヒストグラムを示す。
【0016】
【
図10】
図10は、実施例2に記載の方法により製造したPCLビーズおよび市販のPCLビーズのFTIRおよびXPSスペクトルを示す。
【0017】
【
図11】
図11は、多孔性PCLビーズおよびPCL-PNIPAAmマクロキャリアのSEM画像およびEDSスペクトルである。
【0018】
【
図12】
図12は、PCL-PNIPAAmマクロキャリア表面の細孔のSEM画像である。
【0019】
【
図13】
図13は、低倍率の蛍光顕微鏡で観察されたPCLおよびPCL-PNIPAAmマクロキャリア上に播種したMSC細胞増殖を示す一連の画像である。
【0020】
【
図14】
図14は、高倍率の蛍光顕微鏡で観察されたPCLおよびPCL-PNIPAAmマクロキャリア上に播種したMSCの細胞増殖を示す一連の画像である。
【0021】
【
図15】
図15は、数日にわたる種々のマクロキャリア表面上の細胞増殖を表すヒストグラムである。
【
図16】
図16は、数日にわたる種々のマクロキャリア表面上の細胞増殖を表すヒストグラムである。
【0022】
【
図17】
図17は、PCL-PNIPAAmから遊離したMSCの画像である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
詳細な記載
本発明の一つの態様において、生物細胞増殖のためのマクロキャリアが提供される。マクロキャリアは、該マクロキャリアに細胞受入表面をもたらし、温度変化に応答して該マクロキャリアから細胞を遊離することができる熱応答性ポリマーで被覆された基質粒子を含み、ここで、該基質粒子の少なくとも50%は、少なくとも1mmの粒子径を有する。
【0024】
他の態様において、生物細胞の増殖のための系が提供される。系は、本明細書に記載のバイオリアクターおよびマクロキャリアを含む。
【0025】
さらに他の態様において、生物細胞の増殖のための方法が提供される。方法は、細胞培養培地中で生物細胞と本発明のマクロキャリアを接触させ;該マクロキャリアを、熱応答性ポリマーが細胞受入表面を呈示する温度に付し、そして該マクロキャリア上で細胞を増殖させ;その後該マクロキャリアの温度を、すべての増殖細胞がマクロキャリアから遊離されるように変えることを含む。
【0026】
有利には、基質粒子のかなりの部分は、少なくとも1mmの粒子径を有する。一般に125~250μmのサイズである先行技術バイオリアクター系で用いられるマイクロキャリアとは対照的に、大きな粒子径が、生物細胞に‘より平坦な’表面を呈示でき、そこに生物細胞が接着する。このより平坦な表面は、接着した細胞のねじり拘束またはよじれを少なくし、バイオリアクターで撹拌中に受ける剪断力または機械的ストレスを低下させると考えられる。その結果、細胞は、より穏やかで、より均一で、最適な生育環境に曝され得る。これは、産生される細胞の品質(例えば生存能および健康状態)の改善の一助となり得る。さらに、本発明のマクロキャリアが熱応答性ポリマーで覆われているため、細胞は、周囲温度の変化によりマクロキャリアから遊離され得る。これにより、細胞を、例えば、細胞損傷のリスクを高め得る酵素処理を必要とせずに回収することが可能となる。
【0027】
大きな粒子径はまたマイクロキャリアと比較して、マクロキャリアからの細胞収集および分離を助け得る。細胞は、担体の半径および表面積屈曲の差異のため、マクロキャリアと比較して、マイクロキャリアから遊離するときより多くのエネルギーを必要とする。
【0028】
マイクロキャリア上では、細胞は、バイオリアクターで培養されるとき、塊状となり、凝集して成長する傾向にある。多くの臨床的、生物工学的および組織工学的条件下において、分離した細胞を産生する必要があり、細胞塊の形成は問題となり得る。細胞をバイオリアクター中のマクロキャリア上で培養するとき、一般に、凝集しない。マクロキャリアに付着した細胞はまたマイクロキャリアに付着した細胞と比較してバイオリアクター中で損傷を受ける可能性も低い。
【0029】
前述のとおり、基質粒子の少なくとも50%は少なくとも1mmの粒子径を有する。いくつかの例では、基質粒子の少なくとも70%、好ましくは少なくとも80または90%が少なくとも1mmの粒子径を有する。基質粒子のかなりの部分が大型であることを確実にすることにより、「より平坦な」支持体表面が利用され得る。上記のとおり、これにより、細胞のより穏やかな条件下での培養が可能となり、バイオリアクター内で増殖中に曝される剪断力が低減される。これは、結果として、例えばより健康かつより生存能力のある細胞をもたらし得る。
【0030】
基質粒子が比較的狭いサイズ分布を有するのが好ましい。例えば、基質粒子は、細胞接着および増殖のために望ましい表面を呈示するのに十分大きいが、同時に、バイオリアクターの培養培地に懸濁するのに十分に小さいものであり得る。例えば、基質粒子の少なくとも50%は、1mm~10mmの粒子径を有し得る。他の例では、基質粒子の少なくとも50%は、2mm~6mmの粒子径を有する。他の例では、基質粒子の少なくとも50%は3mm~5mmの粒子径を有する。他の例では、基質粒子の少なくとも70%は1mm~10mmの粒子径を有する。他の例では、基質粒子の少なくとも70%は2mm~6mmの粒子径を有する。他の例では、基質粒子の少なくとも70%は3mm~5mmの粒子径を有する。他の例では、基質粒子の少なくとも80%または90%は1mm~10mmの粒子径を有する。他の例では、基質粒子の少なくとも80%または90%は2mm~6mmの粒子径を有する。他の例では、基質粒子の少なくとも80%または90%は3mm~5mmの粒子径を有する。好ましい実施態様において、基質粒子の95~100%は1~10mm、好ましくは2~6mm、より好ましくは3~5mmの粒子径を有する。
【0031】
任意の適当な基質粒子を本発明のマクロキャリアで使用し得る。例えば、基質粒子は、例えば、実質的に球状、楕円体、卵形または環形状を含む、任意の適当な形状であり得る。一例では、基質粒子はビーズの形をとり得る。ビーズは、任意の適当な形状、例えば、実質的に球状、楕円形、卵形または環のものであり得る。基質粒子が非球状であるとき、粒子径は、基質粒子を横切る最大直線長であり得る。例えば、基質粒子が楕円体であるとき、粒子径は、楕円体の長軸長さをいい得る。基質粒子が実質的に球状であるのが好ましい。
【0032】
基質粒子は、任意の適当な物質である形成され得る。好ましくは、物質は、生体適合性物質、例えば、生体適合性ポリマーである。いくつかの例では、物質は、ISO10993に従う生体適合性である。適当な物質は、多糖、タンパク質、ガラス、ポリスチレン、ポリエステル、ポリオレフィン、シリカ、シリコーン、ポリアクリルアミドおよびポリアクリレートを含む。適当な多糖は、デキストラン(例えばジエチルアミノエタノール(DEAE)-デキストラン)、キトサンおよびアルギン酸を含む。適当なタンパク質はコラーゲンであり得る。適当なポリアクリレートの例は、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリラート)である。好ましくは、基質粒子はポリエステルを含む。
【0033】
好ましい実施態様において、基質粒子は、ポリ乳酸(「PLA」)、ポリグリコール酸(「PGA」)、ポリカプロラクトン(「PCL」)、ポリブチロラクトン(「PBL」)、ポリバレロラクトン(「PVL」)、ポリヒドロキシ酪酸(「PHB」)、ポリ(3-ヒドロキシ吉草酸)、ポリ(エチレンスクシネート)(「PESu」)およびポリ(ブチレンスクシネート)(「PBSu」)からなる群から選択される、ポリエステルを含む。より好ましい実施態様において、ポリエステルはPCLである。
【0034】
任意の適当な熱応答性ポリマーを本発明のマクロキャリアに使用し得る。温度感受性ポリマーとも称する熱応答性ポリマーは、僅かな温度変化で、顕著な性質変化を示すポリマーである。本発明において、基質粒子の被覆に使用する熱応答性ポリマーは、細胞が接着できる細胞受入表面を有するマクロキャリアを提供できる。しかしながら、熱応答性ポリマーは、温度変化に応答して、マクロキャリアから細胞を遊離する。
【0035】
いくつかの例では、熱応答性ポリマーは、温度変化への暴露により形態を変えるものである。熱応答性ポリマーは、外部環境に疎水性表面または親水性表面を呈示するように、温度変化により性向を変える疎水性および親水性部分から成り得る。例えば、ある実施態様において、熱応答性ポリマーは、温度変化に応答して、親水性の、ランダムコイル構造から、疎水性で、崩壊した球状構造に変わる。疎水性表面が呈示されれば、例えば、細胞の固定化または接着が可能となる。他方で、親水性表面は接着細胞と反発し、ポリマー表面から遊離させる。
【0036】
いくつかの例では、閾値温度は、細胞の培養、増殖または分化に適する温度またはそれ以下である。他の例において、閾値温度は細胞の遊離に適する温度を超えるが、細胞の品質および生存能を維持する。他の例において、細胞受入表面および細胞反発表面を提供する熱応答性ポリマーの温度範囲差を、培養、増殖または分化のために細胞繋留を最大化するが、培養、増殖または分化段階が完了したら細胞遊離を最大化するように、最適化する。他の例において、細胞繋留および細胞遊離の温度差は、増殖細胞の低温ショックまたは低温ストレスの可能性を低減するために、最小にすべきである。
【0037】
いくつかの例では、熱応答性ポリマーは、閾値温度より高い温度では細胞受入(例えば疎水性)表面を有し、閾値温度未満ではマクロキャリアから(例えば親水性表面呈示により)細胞を遊離させるマクロキャリアを提供する。従って、マクロキャリアは、細胞の接着を可能とし、増殖を促進するために、閾値温度を超える温度(例えばバイオリアクター中)に維持され得る。その後、マクロキャリアから増殖細胞を遊離するために閾値温度より低い温度まで低下させ得る。これは、容易な細胞回収を可能とする。
【0038】
いくつかの例では、閾値温度は、20℃~40℃の温度であり得る。いくつかの例では、閾値温度は30℃~40℃の温度である。いくつかの例では、閾値温度は30℃~37℃の温度である。いくつかの例では、閾値温度は約32℃である。
【0039】
いくつかの例では、マクロキャリアは、マクロキャリアへの細胞接着および増殖を可能とするために、細胞増殖および成長を促進するまたは最適化する温度である閾値温度を超える温度に維持し得る。この温度は、例えば、約34~39℃、好ましくは、約37℃であり得る。その後、マクロキャリアを、例えば、熱応答性ポリマーの閾値温度より低い温度まで冷却して、細胞を遊離させ得る。このマクロキャリアは、33℃未満、例えば、32℃未満の温度まで冷却し得る。いくつかの例では、マクロキャリアは、増殖細胞を遊離させるために30℃まで冷却し得る。
【0040】
ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(「PNIPAAm」)、ポリ(ブチルメタクリラート)(「PBMA」)、ポリ(D,L-ラクチド)(「PDDLA」)、ポリ(N,N-ジエチルアクリルアミド)(「PDEAAm」)、ポリ(N-ビニルカプロラクタム)(「PNVCL」)、ポリ[2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリラート](「PDMAEMA」)、ポリ(エチレンオキシド-b-プロピレンオキシド-b-エチレンオキシド)(「PEO-PPO-PEO」)、ポリ(エチレングリコール-b-(DL-乳酸-コ-グリコール酸)-b-エチレングリコール)(「PEG-PLGA-PEG」)、ポリ(メチル2-プロピオンアミドアクリラート)(「PMPA」)、ポリ([DL-乳酸-コ-グリコール酸]-b-エチレングリコール-b-[DL-乳酸-コ-グリコール酸])(「PLGA-PEG-PLGA」)からなる群から選択されるポリマーなどの多数の熱応答性ポリマーを、マクロキャリアの被覆に使用できる。一例では、熱応答性ポリマーはPNIPAAmである。温度によって、PNIPAAmは、親水性の、ランダムコイル構造から疎水性の、崩壊した球状構造に変わり得る。
【0041】
熱応答性ポリマーは、任意の適当な方法を使用して基質粒子上に被覆され得る。基質粒子は、少なくとも部分的に熱応答性ポリマーにより被覆され得る。
【0042】
いくつかの例では、熱応答性ポリマーは、基質粒子に共有結合され得る。熱応答性ポリマーは、好適に官能化された基質粒子と共有結合を形成できる基で好適に官能化され得る。いくつかの例では、熱応答性ポリマーは、1を超えるタイプの官能基で官能化され得る。いくつかの例では、基質粒子は、1を超えるタイプの官能基で官能化され得る。いくつかの例では、1を超える熱応答性ポリマーが1基質粒子に結合する。いくつかの例では、熱応答性ポリマーはアミノ基で官能化され、基質粒子は酸基で官能化され、それにより共有結合としてアミド結合の形成が可能となる。他の例において、熱応答性ポリマーは酸基で官能化でき、基質粒子はアミノ基で官能化され、それにより共有結合として逆アミド結合合の形成が可能となる。いくつかの例では、熱応答性ポリマーはアミノ基で官能化されたPNIPAAmであり、基質粒子は酸基で官能化されたPCLである。例えばエステル、アシルハライドおよび無水物などの、アミド結合を形成できるPCLおよびPNIPAAm上の他の相補的基は、アミド結合以外の共有結合を形成できる相補的基と共に、本開示の範囲内に含まれる。基質粒子を温度感受性ポリマーにカップリングするための別の相補的官能基は、アミド結合以外を介してこれらの部分を共有結合させる手段として、当業者には明らかである。このようなカップリング基の例は、ヒドロキシル、チオール、ハロ、スルホニル、アルデヒド、エポキシなどを含む。
【0043】
一般に、基質粒子は熱応答性ポリマーを含まない。それ故に、基質粒子は熱応答性ポリマー製でなくてよい。
【0044】
基質粒子は固体または多孔性であり得る。多孔性粒子が使用されるとき、培養培地中の酸素は、粒子表面に接着したあらゆる細胞に向けて、粒子をとおって拡散され得る。多孔性粒子は、同じ体積を占める同じ物質から成る非多孔性粒子より低い密度を有し得る。基質粒子が比較的低い密度を有するとき、得られたマクロキャリアはバイオリアクター中で浮遊し得るかまたはバイオリアクター内で容易に撹拌もしくは振盪させ得る。
【0045】
基質粒子は、水に対して1未満の相対密度(例えば大気圧および20℃の温度で)、例えば<0.85、特に<0.70の相対密度を有し得る。
【0046】
基質粒子のかさ密度は、一般に基質粒子が作られる固形物の真密度より小さい。ここで使用される用語「かさ密度」は、1以上の基質粒子の質量をそれが占拠する総体積で除したものをいう。かさ密度測定は、粒子が作られる固形物および開いていても閉じていてもあらゆる細孔の体積を含む。ここで使用する用語「真密度」は、粒子が作られる固形物の密度をいう。それ故に、真密度の測定は、あらゆる開いたおよび閉じた細孔の体積は除外される。
【0047】
基質粒子は、かさ密度対真密度比<0.80:1、例えば<0.70:1、特に<0.60:1を有する。疑念を避けるため、かさ密度および真密度測定は、大気圧および20℃の温度で測定すべきである。
【0048】
基質粒子の表面は多孔性であり得る。基質粒子の多孔性表面は、熱応答性ポリマーでの被覆後も保持され得る。
【0049】
本発明のマクロキャリアは、多孔性である表面、例えば細胞受入表面を有し得る。
【0050】
マクロキャリアの表面上の細孔は、細胞成長に必要な栄養素および培地の両者を吸収および保持し得る。栄養素と培地の近接は、高品質細胞の有意数量が短時間で産生されるように、細胞の迅速な増殖を促進し得る。例えば、非多孔性および密集表面を有するマクロキャリアと比較して、多孔性表面を有するマクロキャリアを使用すれば、細胞成長の定常期により速く到達し得る。
【0051】
非多孔性表面を有するマクロキャリアと比較して、多孔性マクロキャリアの表面は比較的粗い。この比較的粗い表面は、細胞は平滑表面に接着するよりも、粗い表面に良好に接着するため、細胞増殖を助け得る。
【0052】
細胞受入表面などのマクロキャリア表面が多孔性であるならば、細孔は≦20μm、例えば≦10μm、特に≦5μmのサイズを有し得る。細孔は、一般に生育細胞のサイズより小さいサイズを有する。細孔サイズは、SEM造影により決定し得る。
【0053】
本発明のマクロキャリアを、あらゆる生物細胞の増殖に使用し得る。換言すると、細胞は、マクロキャリア表面に接着し、成長できるあらゆる細胞であり得る。例は、哺乳動物およびハイブリッド細胞株ならびに腫瘍ベースの細胞を含む。好ましくは、細胞は乳動物細胞である。哺乳動物細胞は、次の組織タイプについて培養され得る:例えば、骨髄、癌、結膜、角膜、内皮、上皮、線維芽細胞、線維肉腫、心臓、肝細胞癌、肝臓、肺、マクロファージ、黒色腫、筋肉、神経芽腫、骨肉腫、卵巣、膵臓、下垂体、横紋筋肉腫、滑液、甲状腺など。
【0054】
例として、次の細胞型が、本発明のマクロキャリア上で増殖され得る:ウシ(内皮、腎臓、筋肉)、イヌ(MDCK)、ニワトリ(胚、線維芽細胞、筋肉、筋芽細胞)、魚(RTG-2、AS、CHSE-214)、モルモット(GPK)、ハムスター(BHK、BHK21、BHK21 C13、CHO、CHO-K1、CHO-組み換え))、ヒト(腺癌、羊水、膀胱癌、乳癌、内皮、線維芽細胞、FS、FS-4、HeLa、HEL 299、IMR、K-562、KB、腎臓、リンパ芽球様、リンパ球、MCF-7、単球、MRC-5、骨肉腫、膵臓)、サル(BSC-1、CV-1、腎臓、LLC-MK、Vero)、マウス(線維芽細胞、L-929、マクロファージ、間充織)、ブタ(内皮、精巣、甲状腺)、ラット(上皮、筋芽細胞、膵臓、下垂体)およびシチメンチョウ(下垂体)。さらに、マクロキャリア上で培養する細胞は、ワクチン、ベクター、天然および組み換えタンパク質、モノクローナル抗体および他の生物学的製剤製造の基質として使用され得る。
【0055】
他の例において、マクロキャリアに繋留された複数の細胞の組成物が提供される。ある例は、間葉性幹細胞(「MSC」)、ヒト皮膚線維芽細胞(「HDF」)、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)および神経芽腫Sy5y細胞を含む。
【0056】
他の例において、生物化学工学のための系が提供され、ここで、増殖細胞は、細胞遊離前に多様な下流生産物を産生するように、さらなる培養のためにマクロキャリアに繋留されたままである。このような下流生産物は、例えば、いくつかの可能な生物製剤製造に利用するための、バイオプロセスで産生された幹細胞からの細胞療法産物、組み換えタンパク質産生、抗体およびウイルス生成ならびに遺伝子増幅を含む。細胞外マトリクスおよびコラーゲン合成のための線維芽細胞培養系の条件は、ここでの繋留された線維芽細胞マクロキャリア系で利用される。
【実施例0057】
実施例1
材料および方法
材料
全材料はSigma-Aldrich(UK)から購入し、納品されたものを使用した。材料は、ポリカプロラクトンペレット(PCL、Mn 80,000)、水酸化ナトリウム(NaOH)、1-エチル-3-[3-ジメチルアミノプロピル]カルボジイミドヒドロクロライド(EDC)、スルホ-N-ヒドロキシスクシンイミド(スルホ-NHS)、モルホリノエタンスルホン酸(MES)およびポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)アミン終端平均Mn 2500(T)(PNIPAAm-NH2)。この研究に使用した脱イオン水(DI水)は、超純水精製システム(Elix(登録商標)、Millipore)から得た。
【0058】
PCL-PNIPAAmの製造
PCLペレットを、一定の振盪をしながら1時間NaOH 1M溶液に浸漬し、カルボン酸イオンPCL-COO-を得て、次いでオートクレーブ脱イオン水(DI)で数回濯いだ。PCL-PNIPAAmマクロキャリアを、PCL-COO-ペレットとPNIPAAm-NH2をアミド化反応によりコンジュゲートさせることにより合成した。PCL-COO-ペレットを、0.05M モルホリノエタンスルホン酸(MES、0.05M) 緩衝液溶液(pH6)中、1-エチル-3-[3-ジメチルアミノプロピル]カルボジイミドヒドロクロライド(EDC、0.12M)およびスルホ-N-ヒドロキシスクシンイミド(スルホ-NHS、0.06M)で3時間、室温で活性化した。PNIPAAm-NH2を活性化PCL-COO-溶液に加え、4℃で一夜穏やかに振盪させた。PCL-PNIPAAmマクロキャリアを含む溶液を、1500rpmで10分間遠心分離し、脱イオン蒸留水で5回洗浄し、2日間凍結乾燥した。
【0059】
【0060】
特徴づけおよび測定
フーリエ変換型赤外(FTIR)スペクトルを、減衰全反射(ATR、Pike)を備えたFTIRスペクトロメーター(Bruker, Tensor 27)を使用して記録した。サンプルスペクトル取得前に、背景スペクトルをサンプルなしのスペクトロメーターの応答を測定することにより取得した。
【0061】
PCLおよびPCL-PNIPAAmについてのX線光電子スペクトロスコピー(XPS)スペクトルを、底面圧1×10-9torr、可変絞り3~10mmで得て、CasaXPSピークフィッティングソフトウェアを使用してデータ解析した。
【0062】
熱応答性マクロキャリア上の細胞培養
ヒト皮膚線維芽細胞細胞(HDF、ThermoFisher Scientific)を、10%(v/v)ウシ胎児血清(FBS; Gibco BRL)および1%(v/v)ペニシリン-ストレプトマイシン(PS; Gibco BRL)添加ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM 4.5mg/lのグルコース; Gibco BRL, Gaithersburg, MD, USA)で培養し、緑色蛍光タンパク質(GFP)を間葉性幹細胞(MSC、Department of Paediatrics and Adolescent Medicine, LKS Faculty of Medicine, The University of Hong Kongから恵与)にクローン化した。ビン壁への細胞接着を阻止するために、シリコン処理(Sigmacote(登録商標)処理)ガラスビンを、使用前に準備した。PCLおよびPCL-PNIPAAmマクロキャリアをリン酸緩衝化食塩水(PBS)で15分間洗浄し、DMEM中、37℃で、一夜インキュベートした。
【0063】
細胞生存能、細胞毒性および増殖評価
細胞生存能、細胞毒性および増殖を、CCK-8アッセイ(Sigma)により決定した。培養24時間以内のマクロキャリアへの細胞接着効率を測定するために、無マクロキャリア上清を注意深く除去し、上清の細胞数を血球計算盤で決定した。マクロキャリアに接着した細胞数を、接種時の総細胞数から上清中の細胞数を減じることにより計算した。接着収量は次のとおり計算した。
接着収量(%)=(マクロキャリアに接着した細胞数/接種時の総細胞数)×100。
【0064】
マクロキャリアからの細胞遊離
1日の懸濁液培養後、培養培地の温度を、インキュベーターを使用して37℃から30℃に下げ、2タイプのマクロキャリア上で培養したHDFを、40分間、30℃でインキュベートした。無マクロキャリア上清中の遊離した細胞数を血球計算盤で計数した。
細胞遊離比=[遊離した細胞数]/[遊離前のマクロキャリア上の総接着細胞数]×100。
【0065】
細胞外マトリクス(ECM)タンパク質発現
HDFのECMタンパク質発現をウェスタンブロット分析により分析した。遊離した細胞上のフィブロネクチン、ラミニンおよびコラーゲンIを検出するために、抗フィブロネクチン(1:200、Santa Cruz, Biotechnology, CA, USA)、抗ラミニン(1:200、Santa Cruz, Biotechnology, CA, USA)および抗コラーゲンI(1:50、Santa Cruz, Biotechnology, CA, USA)抗体を使用した。
【0066】
ウェスタンブロット分析のために、HDFを濯ぎ、溶解緩衝液(RIPA、Millipore, Milford, MA, USA)に収集し、氷上で5回、20分以内にボルテックス処理し、10分間、13,000rpmで4℃で遠心分離した。抗フィブロネクチン、抗ラミニンおよび抗コラーゲンタイプI抗体を、分析のためのタンパク質として使用した。抗ベータアクチン抗体を、ハウスキーピング対照として使用した。免疫複合体を増強化学発光を使用して可視化した。
【0067】
統計分析
全ての定量的データは平均±SDで表した。統計分析を、2元配置分散分析(ANOVA)をテューキーの正直な有意差事後検定と共に実施した。全分析を、GraphPad Prism 6で、p値<0.05を統計学的有意と見なして実施した。
【0068】
結果および考察
PNIPAAm接合PCLマクロキャリアの特徴づけ
図1は、PCL表面に接合した熱応答性ポリマーならびに接合表面への細胞接着およびそこからの遊離における温度依存性作用の概略図である。30℃程度まで温度を下げると、PNIPAAmの親水性構造により細胞遊離が引き起こされる。37℃で、PNIPAAmの構造は球状構造であり、これはPCLマクロキャリアに疎水性表面を提供する。温度が30℃まで下がったら、構造はランダム化されたコイルに変わり、表面を親水性性質とする。疎水性表面は細胞を引き付け、親水性表面は細胞と反発する。
【0069】
熱応答性ポリマーをPCL表面ビーズに接合させるために、PNIPAAm-NH
2ポリマーを、PCLビーズ表面のカルボン酸分子とPNIPAAm-NH
2のアミン末端基の間のアミド化により、PCLビーズとコンジュゲートさせた。PCLペレットをまずNaOHで処理し、これは、PCLのエステル結合の塩基加水分解を起こし、カルボン酸イオンを作った。PCLビーズ上のこのカルボキシル官能基をEDCおよびNHSにより活性化してスクシンイミドエステルを形成でき、続いてこれはPNIPAAm-NH
2上のアミン基と自然に反応する。カルボン酸とEDCの反応は、不安定反応性O-アシルイソ尿素エステルを形成する。次いで、スルホ-NHSを加えて本中間体を安定化させ、これは不安定O-アシルイソ尿素をアミン反応性NHSエステルに変換する。このエステルは、PNIPAAm-NH
2のアミノ末端と反応して、PCLビーズとPNIPAAm-NH
2の間の安定な共有アミド結合を形成する。PNIPAAm-NH
2のPCLへのコンジュゲーションのスキームを、
図1に示す。
【0070】
FTIRスペクトロスコピーを使用して、PNIPAAm-NH
2のPCLビーズ表面へのコンジュゲーションを確認した。
図2aのFTIRスペクトルは、PCL-COOHへのPNIPAAm-NH
2導入による、数個の新ピークの出現を示す。3550~3200cm
-1の広いピークは、修飾PCLビーズのN-Hストレッチングに帰属する。2940cm
-1ピーク増加は、コポリマーの脂肪族基(-CH
2-)
nの振動に帰属する。1647cm-
1の高強度ピーク増加は、PNIPAAmのC=OストレッチングおよびわずかなC-Nストレッチングにより生じる、アミドI結合の存在を示す。1565cm
-1のピークは、PNIPAAmのN-H曲げおよびC-Nストレッチングにより生じる、アミドII結合に対応する。これは、PCLビーズ上のPNIPAAmのコンジュゲーションが成功したことを示唆した。
【0071】
XPSは、表面上部数ナノメートルの化学組成を決定する。
図2bのワイドスキャンXPSスペクトルにおけるPNIPAAm接合後の400eVでの結合エネルギーを有する新規N1sシグナルの出現は、PCLマクロキャリア表面上へのPNIPAAm接合成功の指標であった。PCL-PからのN1sコアレベルスペクトルは、アミノ基(-NH
2)に起因し得る399.4eVのピークでカーブフィットさせた。C=O結合からのNおよびCの検出は、PNIPAAm-NH
2がPCLビーズ表面に存在することを示す。
【0072】
細胞生存能、細胞毒性および増殖評価
接合材料および接合植手順の他の化学反応が細胞成長および生存能に何らかの悪影響をもたらさないかを評価するために、7日間までの生存能についてCCK-8アッセイを用いた。
図3に示すとおり、対照と比較して、PCLおよびPCL-PNIPAAm両者の表面の生存能は減少したが、両表面上での細胞増殖の一定した増加がみられた。結果は、HDF細胞およびMSC両者が、PCLおよびPCL-P(PCL-PNIPAAm)両者および対照(TCP CON)表面としての組織培養プレートで、1日、3日および7日生存し、増殖したことを示す(a)。7日目に、1日目および3日目と比較してODの顕著な増加が両細胞型で観察され、両細胞はPCL表面でPCL-P表面より生存率が高かった(*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001;ns:有意差なし)。さらに、非接合PCLよりわずかに健康な増殖速度が接合表面で観察された(7日目*p<0.05)。
【0073】
全体的に、これらの結果は、PCL表面上に接合させたPNIPAAmは無リスクであり、それ故に、大規模細胞収集物回収のための価値あるツールを提供することを示唆した。
【0074】
マクロキャリアからの細胞遊離
30℃まで温度を下げることによる、細胞遊離の効率を確かめるために、温度低下条件とトリプシン処理条件下で、回収された細胞を比較した。
【0075】
図4aは、HDF細胞およびMSC両者が、温度低下条件(30℃)で、PCLのみ表面よりもPCL-PNIPAAm表面から有意に高い細胞-遊離比を示したことを示す。トリプシン処理は、これら表面間の細胞遊離の程度に有意な差は示さなかったが、この技術は、PCL表面およびPCL-PNIPAAm表面両者で、表面からの細胞のより多い遊離を示した。
図4bは、トリプシン処理より高い細胞生存率が温度依存的細胞回収技術で見られたことを示す。HDFおよびMSC両者は、トリプシン処理よりもPCL-PNIPAAmから回収されたとき高い生存を示した(*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001;ns:有意差なし)。
【0076】
図4aおよび4bは、70%を超える細胞が、単に温度を下げるだけでPNIPAAm-接合PCL表面から遊離したことを示した。対照的に、トリプシン処理は熱応答性ポリマーの温度低下技術より遊離率は高かった。これは驚くことではなく、他の研究グループも、温度低下技術より酵素消化で高い遊離率を報告した。しかしながら、トリプシンまたは他の酵素が原因の生理学的損傷が、研究者らが臨床応用における酵素消化を避けたがる主な理由である。
【0077】
PCL-PNIPAAmから遊離後の回収された細胞増殖
収集し、かつ回収された細胞の即座の細胞継代への繁殖および増殖を明らかにするために、トリプシン処理し、回収された細胞および温度低下し、回収された細胞の間の比較生存能アッセイを、1日、3日および7日の期間で実施した(
図5aおよび5b)。PCL-PNIPAAm表面からのHDF細胞(
図5a)およびMSC(
図5b)両者を回収し、集め、培養培地で1日、3日および7日間増殖させた。トリプシン-EDTAまたは温度低下を使用して細胞回収後、同じ数の細胞を増殖のために播種した。CCK-8試験は、両細胞型を温度低下を使用してPCL-PNIPAAm表面から回収したとき、細胞成長は指数関数的であり、時間比で有意であった。しかしながら、トリプシン処理により集めたとき、細胞成長は、非指数関数的であり、時間比で有意でなかった(*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001;****p<0.0001;ns:有意差なし)。結果は、温度低下にPCL-PNIPAAm表面から集めた両細胞型の、細胞数の有意な増加を伴う対数増殖を示した。この結果は、温度低下方法を伴う細胞回収方法が、トリプシン-EDTA回収方法より効率的であることを、明らかに示した。
【0078】
PCL-PNIPAAmマクロキャリアから遊離した細胞上のECM
トリプシンまたは温度低下により、PCL-PNIPAAmから遊離した細胞上のECMタンパク質の発現の運命を、免疫ブロットにより観察した。この研究において、HDFを組織培養プレートおよびPCL-PNIPAAmに播種し、7日間インキュベートし、その後トリプシン-EDTA処理または単に温度を下げることにより集めた。次いで、細胞を免疫染色するかまたはウエスタンブロットのための総タンパク質収集に付した。細胞/組織に見られる最も豊富であり、重要なECMタンパク質であるフィブロネクチン(FN)、ラミニン(LM)およびコラーゲンタイプI(Col I)などの3つの主要な構造ECMタンパク質は、胎児発達、組織修復および血管形成に種々の役割を有する。‘接着剤様’性質のため、これらのタンパク質は、通常表面上への細胞接着に役割を有する。ここで、これらのタンパク質を、細胞回収に用いた方法が発現に影響するか否かを見るために試験した。
【0079】
回収されたHDF細胞(遊離および収集後)のフィブロネクチン、ラミニンおよびコラーゲンIの発現パターンを、
図6に示すとおりウェスタンブロットにより分析した。総タンパク質をトリプシン-EDTAを使用して(対照-TE)またはスクレーパーにより細胞単層を削って(対照-スクレーパー)、総細胞を収集することにより、組織培養プレートで増殖させた細胞から集めた。細胞はまたPCL-PNIPAAmビーズで増殖させ、トリプシン-EDTA(PCL-P-TE)または温度低下(PCL-P-低下)によっても収集した。ラミニン、フィブロネクチンおよびCol 1に対する抗原を使用して、4つの異なる方法でこれら細胞を収集した後、ウェスタンブロットによるこれらタンパク質の発現を検出した。B-アクチンはハウスキーピングタンパク質である。
【0080】
温度低下によりPCL-PNIPAAmから遊離した細胞におけるフィブロネクチンおよびラミニン発現は、トリプシン処理により遊離した細胞より高かった。しかしながら、コラーゲン1はm細胞で等しく発現され、二つの異なる方法により有意な有意な影響がないことが判明した。結果は、免疫染色データと一致し、全体として、トリプシン処理は、単に構造ECMタンパク質のいくつかを同様に分解することにより、細胞構造および生理に不利に影響することを示した。
【0081】
実施例2
材料および方法
材料
ポリカプロラクトンペレット(PCL、Mn 80,000)、ポリビニルアルコール(PVA、Mw=13~23KDa、87~89%加水分解)およびジクロロメタン(DCM)はSigma-Aldrich(UK)から購入した。この研究で使用した脱イオン水(DI水)は、超純水精製システム(ElixTM、Millipore)から得た。
【0082】
PCLマクロビーズの調製
PCLマクロビーズを、確立されたエマルジョン方法を使用して調製し、続いてマクロスフェアポリマーの液化に使用した溶媒を蒸発させた。
【0083】
一定量のPCLペレットをDCMに溶解して、10、12、15および18(w/v%)有機相を得て、一方PVAをDI水に溶解して、0.5、1.0、1.5、2.0および3.0(w/v%)無機相を得た。
【0084】
針付きシリンジ(PCL溶液5ml含有)をポンプに設置し、これを固化ビーズの前駆体であるPCL/DCM溶液液滴の形成に使用した。形成したPCL/DCM液滴5mLを、PVA溶液10mLを含むペトリ皿に集めた。次いで、PVA溶液をデカントした。ドラフトチャンバー内で、3日にわたりDCM溶媒を水相を介して蒸発させ、こうして、液滴を固化させた。
【0085】
結果および考察
PCLビーズを、o/wエマルジョン溶媒蒸発方法により調製した。第一段階で、有機相を水性外部相に乳化させた。有機相はジクロロメタンであった。ジクロロメタンの蒸発温度が低いため、マクロスフェアは、クロロホルムなどの蒸発温度が高い他の溶媒より速く形成された。有機溶媒が液滴表面から蒸発するに連れて、PCL濃度は高くなり、ポリマー濃度が有機相中のその溶解度を超える臨界点に達する。この臨界点で、沈殿してマクロスフェアが形成される。PCLマクロスフェア製作に使用した方法を
図7に示す。この方法で調製したPCLペレット(「PCLペレット-Oxford」参照)も、Sigma-Aldrichから購入したPCLペレット(「PCLペレット-Sigma」)と共に
図7に示す。
【0086】
ビーズ形成に対するPCL濃度の影響
ビーズ形成に対するPCL濃度の影響を、表1に示すとおり、10、12、15および18wt/v%を使用して、探索した。
【表1】
【0087】
10、12および15wt/v%のPCL濃度で液滴は形成されたが、18wt/v%で液滴形成はなかった。固化段階後、ビーズはPCL15%wt/vからのみ得られた。それ故に、15wt/v%のPCL濃度を、さらなる実験のための最適濃度として選択した。
【0088】
ビーズサイズに対する流速の影響
表2は流速とビーズサイズの相関を示す。
【表2】
【0089】
流速を上げると、ビーズサイズは増加した。分散相で流速が速いほど、各形成された液滴についてPCL/DCM溶液が送達する体積は大きかった。この現象は、同濃度のPCL/DCM溶液から形成されるマクロビーズの大量化をもたらした。
【0090】
ビーズサイズに対するPVA濃度の影響
PVAを乳化剤として使用した。上記のとおりマクロスフェア調製後、マクロスフェアを数回DI水で濯いで、PVAを除去した。
【0091】
PVAのヒドロキシル基は水相と相互作用し、一方ポリマー鎖はジクロロメタンと相互作用し、これにより形成されたエマルジョンがより安定となる。PVA濃度および体積の変動がエマルジョン安定性に影響し得て、これが、続いてマクロスフェアサイズに影響し得る。表3に示すとおり、PVA濃度を上げると、マクロスフェアサイズが減少した。
【表3】
【0092】
PVA濃度を上げると、より多くのPVA分子が液滴表面に重層し、液滴を癒着からより保護し、これは小型エマルジョン液滴の産生をもたらした。マクロスフェアが溶媒蒸発後エマルジョン液滴から形成されるため、サイズはエマルジョン液滴サイズに依存的であった。さらに、水溶液の粘性は、低濃度と比較して高PVA濃度で高く、これが、エマルジョン中の液滴を互いに分離させることに寄与する他の因子であり得る。
【0093】
特徴づけおよび測定
走査型電子顕微鏡(SEM)およびエネルギー分散型X線分析装置(EDS)分析:PCLおよびPCL-PNIPAAmマクロキャリアの表面形態を、10kVの加速電圧のSEM(Carl Zeiss Evo LS15 VP-Scanning Electron Microscope SE, BSE, VPSE, EPSE detectors)で観察した。SEM調査前、サンプルをスパッタリングにより金で被覆した。INCA X-Act X-ray system(Oxford Instruments)、EDS分析用OIM XM 4 Hikari EBSD System(EDAX)。
【0094】
フーリエ変換型赤外(FTIR)スペクトルを、実施例1のものと同じ機器および方法を使用して記録した。
【0095】
PCLマクロビーズのサイズ分布、形態学およびFITR
図8は、上記方法を使用して調製した(「PCL-Oxford」ビーズである(A)と記した画像参照)およびSigmaから購入した(「PCL-Sigma」ビーズである(B)と記した画像参照)PCLマクロビーズの形態観察を示す。(A)に示すビーズの表面は多孔性であり、一方(B)に示すビーズの表面は非多孔性であり、密集していた。固化段階の間、低蒸発温度を有する有機溶媒(例えばDCM)の使用などによる、PCLの迅速な沈殿により、細孔が形成され得る。細孔は、ビーズの表面に栄養素および培地を吸収および保持できる。多孔性表面は、密集表面よりも良好に細胞接着および成長を支持できる。
【0096】
上記表3に示すとおり、4タイプのビーズを、PCL15wt/v%、ポンプ速度0.4ml/分および0.5~3.0wt/v%範囲の種々の濃度のPVAで、上記のとおり調製した。ビーズは0.5~3.7mm範囲の直径を有した。ビーズ1は2.7~3.7mm範囲の直径を有し、ビーズ2は1.8~2.2mm範囲の直径を有し、ビーズ3は1.2~1.5mm範囲の直径を有し、そしてビーズ4は0.5~1.0mm範囲の直径を有した。これらのビーズの形態観察およびサイズ分布を
図9に示す。PVA濃度および流速の制御により、ビーズサイズを均一サイズが得られるように制御できた。ビーズ1の平均サイズは3.09mm、ビーズ2は1.89mm、ビーズ3は1.37mm、そしてビーズ4は0.83mmであった。
【0097】
実施したPCL-OxfordおよびPCL-SigmaのFITRスペクトル結果を
図10に示す。これらの結果は、CL-Oxfordピーク全てがPCL-Sigmaピーク全てに適合し、これは、製作方法がPCLの化学構造を変えなかったことを確認した。
【0098】
PCLおよびPCL-PNIPAAmマクロビーズの形態学
多孔性PCLマクロビーズ(例えば「PCL-Oxford」ビーズ)を、実施例1に記載の方法を使用して、PNIPAAmで被覆した。PCLおよび得られたPCL-PNIPAAmマクロビーズの表面形態を、
図11に示すとおりSEMで特徴づけした(PCL-PNIPAAmマクロビーズは図では「PCL-P」と表示)。PNIPAAmの多孔性PCLビーズへの接合段階は表面形態に影響しなかった。これは、PCL-PNIPAAmマクロビーズ表面上の細孔を示す
図12によりみられ得る。
【0099】
PCL-PNIPAAmについて、EDS画像(
図11参照)における窒素ピークの出現(「PCL-P」についてのEDS画像のCピークとOピークの間を参照)は、重合が適切に実施されたことを確認した。市販のPCLビーズ(例えば「PCL Sigma」)の表面形態は、PNIPAAmコーティングの存在により影響されなかった。
【0100】
マクロキャリア上の細胞培養
緑色蛍光タンパク質(GFP)を間葉性幹細胞(MSC、Department of Paediatrics and Adolescent Medicine, LKS Faculty of Medicine, The University of Hong Kongから提供)にクローン化した。すなわち、初代間葉細胞(健常ドナーの未分画骨髄単核細胞から得た)を、2か月間培養した。細胞に、マウス幹細胞ウイルス(MSCV)末端反復配列(LTR)制御下、配列内リボソーム進入部位(IRES)により分離された、hTERTおよび緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を含むVSV-G(水胞性口炎ウイルスのG糖タンパク質発現)表現偽型レトロウイルスベクターを感染させた。次いで、GFP+およびGFP-MSCを蛍光励起セルソーター(MoFlo, Cytomation, Fort Collins, CO, USA)6で分けた。MSC-GFPを、10%(v/v)ウシ胎児血清(FBS、Gibco BRL, Gaithersburg, MD, USA)および0.1%(v/v)ペニシリン-ストレプトマイシン(PS、Gibco BRL)添加ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM 1.0mg/lのグルコース、Gibco BRL)で培養した。
【0101】
上で調製したPCLおよびPCL-PNIPAAmマクロビーズを層流フードに入れ、30分間UV照射した。次に、PCLおよびPCL-PNIPAAmビーズを70%エタノールに3時間浸漬し、リン酸緩衝化食塩水(PBS)で10分間洗浄し、DMEMで、37℃で、一夜インキュベートした。細胞播種密度は2.8×105細胞/mlであった。
【0102】
ヘキスト染色および緑色蛍光タンパク質(GFP)画像により決定した、PCLおよびPCL-PNIPAAmに播種したMSCの3日間および7日間インキュベーション後の細胞増殖を
図13および14に示す。
図13は、蛍光顕微鏡で低倍率で観察した、ヘキスト(核は青色点に染色)により染色した、PCL((A)参照)およびPCL-PNIPAAm((B)参照)に播種されたMSCの3日および7日後の細胞増殖を示す。
図14は、蛍光顕微鏡で高倍率で観察した、ヘキスト(核は青色点に染色)および緑色蛍光タンパク質により染色した、PCL((A)参照)およびPCL-PNIPAAm((B)参照))に播種されたMSCの3日および7日後の細胞増殖を示す。大きな青色点領域を含む黒色背景はビーズである。
【0103】
PCLおよびPCL-PNIPAAm両者の細胞数(青色点)は、培養が3日から7日に伸びるにつれて増加した。この作業で使用したPCLは、80kDa分子量を有した(PCL80k)。3日目および非接合PCL表面より生存能が高い極めて密集し、集団化した細胞が、7日目におよび接合表面(PCL-PNIPAAm)上で観察された。顕著なことに両群の細胞は健康であり、正常な生理および紡錘型見かけを示した。これらの結果は、PCL表面上へのPNIPAAm接合は無リスクであり、大規模細胞収集物回収のための価値あるツールを提供し得ることを示す。
【0104】
細胞増殖
検討1
細胞生存能および増殖について、CCK-8アッセイ(Sigma)を、インキュベーション1日、7日、14日および21日後に実施した。細胞播種密度は5×103細胞/mlであった。この実験について、約20gのPCLビーズを、実験室で調製した。
【0105】
この時間依存的研究において、MSC増殖は、PCL-PNIPAAm上で1~21日まで示され、成長-増殖を種々の対照と比較し、これは、組織培養プレート(TCP)、非被覆PCLビーズおよびSigmaからのPCLビーズを含んだ。結果を
図15に示す。
【0106】
1日目、細胞は、全種の表面で有意差なく成長することが判明した。7日目、細胞は、PNIPAAm被覆PCL表面および市販のPCL-ビーズ(「PCL-Sigma」)よりTCP対照で有意に高く増殖した。非被覆PCL上の細胞とPCL-PNIPAAmサンプル上の細胞の増殖に有意差はなかった。しかしながら、(a)非被覆PCL表面と市販のPCL-ビーズ(p<0.01)および(b)PCL-PNIPAAmサンプルと市販のPCL-ビーズ(p<0.05)の細胞増殖にわずかな有意差があった。
【0107】
14日目、細胞は、全サンプルおよび対照で増殖することが判明した。測定した非被覆PCL、PCL-PNIPAAmおよび市販のPCL-ビーズの増殖細胞数は、有意ではなかった。TCP上の細胞増殖は、14日目他のあらゆる表面より有意に低かった。21日目、非被覆PCL、PCL-PNIPAAmおよびPCL-Sigma上の細胞成長は、TCP上の細胞増殖と比較して、有意に高かった。
【0108】
この時間尺度にわたり、全表面上でのMSCの指数関数的増殖が見られ得る。21日目、14日目および21日目と比較して、細胞は定常期に入ったことが判明し、非指数関数的成長パターンが観察された。これは、単にMSCのコンフルエント成長であり、培養中に何らかの新規な細胞成長をする空間が残っていない。
【0109】
検討2
この検討においては、細胞播種密度が1×10
4細胞/mlであり、CCK-8アッセイ(Sigma)をインキュベーション1日、3日および7日後に実施した以外、検討1と同じ手順を使用した。結果を
図16に示す。
【0110】
3日目、多孔性PCLおよび多孔性PCL-PNIPAAm表面上で増殖した細胞は類似の行動を示した。しかしながら、市販のPCL-ビーズ(「PCL-Sigma」)と比較して、ODの有意な(p<0.0001)増加が多孔性PCLで観察された。7日目の細胞生存能は、市販のビーズ表面より多くの細胞が多孔性PCLビーズ表面で生存していた以外、3日目と同じパターンであった。PCLおよびPCL-PNIPAAm表面の細胞生存能に有意差は観察されなかった。
【0111】
この結果から、細胞が市販のPCL-ビーズより多孔性PCLビーズ上で良好に成長したことが見られ得る。
【0112】
PCL-PNIPAAmからの細胞遊離
PCL-PNIPAAm表面からのMSC遊離を、蛍光顕微鏡下観察した。GFP負荷MSCを、サンプル表面上で、一夜、37℃で成長させた。この初期接着後、インキュベーション温度を少なくとも1時間37℃から25℃まで下げた。PCL-PNIPAAmからの遊離細胞を、倒立顕微鏡(Eclipse Ti, Nilon)で観察し、撮像した。細胞からの緑色蛍光は、培養中の遊離細胞を示した。
図17は、(a)低倍率および(b)高倍率でPCL-PNIPAAmから遊離したMSCを示す。
生物細胞増殖のためのマクロキャリアであって、該マクロキャリアに細胞受入表面をもたらし、温度変化に応答して該マクロキャリアから細胞を遊離させることができる熱応答性ポリマーで被覆された基質粒子を含み、ここで、該基質粒子の少なくとも50%が少なくとも1mmの粒子径を有する、マクロキャリア。