(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156375
(43)【公開日】2023-10-24
(54)【発明の名称】付加製造された耐火金属部材、付加製造方法及び粉末
(51)【国際特許分類】
C22C 1/057 20230101AFI20231017BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20231017BHJP
C22C 1/04 20230101ALI20231017BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20231017BHJP
C22C 1/05 20230101ALI20231017BHJP
【FI】
C22C1/057
B22F1/00 P
C22C1/04 D
B22F10/28
C22C1/05 A
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023123620
(22)【出願日】2023-07-28
(62)【分割の表示】P 2021527248の分割
【原出願日】2019-10-03
(31)【優先権主張番号】GM50190/2018
(32)【優先日】2018-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
(71)【出願人】
【識別番号】390040486
【氏名又は名称】プランゼー エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】110003317
【氏名又は名称】弁理士法人山口・竹本知的財産事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100169627
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 美奈
(72)【発明者】
【氏名】ライツ,カール-ハインツ
(72)【発明者】
【氏名】ケストラー,ハインリヒ
(72)【発明者】
【氏名】ジンガー,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ライヒトフリート,ゲルハルト
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン,ヤコブ
(72)【発明者】
【氏名】カセラー,ルーカス
(72)【発明者】
【氏名】スタイコヴィッチ,ヤンコ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】低減された欠陥、特に亀裂頻度、改善された破壊靭性、改善された延性、改善された密度、及び閉孔性を有する部材の付加製造方法を提供する。
【解決手段】出発粉末を提供するステップ、及びレーザー又は電子ビームによって前記出発粉末の粒子を層状に溶け合わせるステップを有する方法。部材が、1つの合金元素又は複数の合金元素を有し、該合金元素が、モリブデン及びモリブデン基合金の場合はMoO
2及び/又はMoO
3に対して、タングステン及びタングステン基合金の場合はWO
2及び/又はWO
3に対して、並びにモリブデン-タングステン基合金の場合はMoO
2及び/又はMoO
3、WO
2及びWO
3の群の少なくとも1つの酸化物に対して、少なくとも≧1500℃の温度範囲において還元的に作用し、該合金元素又は該合金元素のうちの少なくとも1つが、少なくとも部分的な非酸化形態と酸化形態との両方で存在する、部材。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデン、モリブデン基合金、タングステン、タングステン基合金及びモリブデン-タングステン基合金を含む群から選択される少なくとも1つの材料からレーザー又は電子ビームによって付加製造方法で製造された立体構造を有する部材(8)であって、
前記部材(8)が、1つの合金元素又は複数の合金元素を有し、前記合金元素が、
- モリブデン及びモリブデン基合金の場合はMoO2及び/又はMoO3に対して、
- タングステン及びタングステン基合金の場合はWO2及び/又はWO3に対して、並びに
- モリブデン-タングステン基合金の場合はMoO2、MoO3、WO2及びWO3の群の少なくとも1つの酸化物に対して、
少なくとも≧1500℃の温度範囲において還元的に作用し、前記合金元素又は前記複数の合金元素のうちの少なくとも1つが、少なくとも部分的な非酸化形態と酸化形態との両方で存在することを特徴とする、部材。
【請求項2】
前記部材(8)中の前記合金元素又は前記複数の合金元素のうちの少なくとも1つが、部分的に溶解して、好ましくは50原子%超で溶解して、モリブデンリッチ又はタングステンリッチ相中に存在する、請求項1に記載の部材。
【請求項3】
前記合金元素又は前記複数の合金元素のうちの少なくとも1つが金属元素である、請求項1から2のいずれか一項に記載の部材。
【請求項4】
前記合金元素又は前記複数の合金元素のうちの少なくとも1つが、周期表の第2、3又は4族の元素、好ましくは、チタン、ジルコニウム又はハフニウムである、請求項1から3のいずれか一項に記載の部材。
【請求項5】
前記部材(8)が、TiO2、ZrO2又はHfO2を含有する、請求項4に記載の部材。
【請求項6】
前記部材(8)中の少なくとも1つの前記合金元素の含有率が、非酸化形態及び酸化形態で、0.05原子%~20原子%、好ましくは0.1原子%~10原子%の範囲にある、請求項1から5のいずれか一項に記載の部材。
【請求項7】
前記部材(8)中の炭素含有率が、0.05原子%~20原子%の範囲にある、請求項1から6のいずれか一項に記載の部材。
【請求項8】
前記部材(8)中の炭素が、少なくとも部分的に炭化物の形態で存在する、請求項7に記載の部材。
【請求項9】
モリブデン含有率、タングステン含有率、又はモリブデンとタングステンとの総含有率が60原子%超である、請求項1から8のいずれか一項に記載の部材。
【請求項10】
前記部材(8)が、少なくとも破壊平面において、粒内割合が破壊面積の50%超である破壊挙動を示す、請求項1から9のいずれか一項に記載の部材。
【請求項11】
前記部材(8)が、造形方向に層状に製造されており、かつ好ましくは、前記造形方向に対して平行な平面で、5未満の平均結晶粒アスペクトを有する、請求項1から10のいずれか一項に記載の部材。
【請求項12】
前記部材(8)が、10000平方マイクロメートル未満の平均結晶粒面積を有する微細な結晶粒組織を有する、請求項1から11のいずれか一項に記載の部材。
【請求項13】
前記部材(8)が、微細な炭化物粒子、窒化物粒子又はホウ化物粒子を、好ましくは1マイクロメートル未満の平均サイズで含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の部材。
【請求項14】
前記部材(8)中の前記酸化形態の少なくとも1つの前記合金元素が、5マイクロメートル未満の平均サイズを有する微細な酸化物析出物の形態で存在する、請求項1から13のいずれか一項に記載の部材。
【請求項15】
前記部材(8)中で、全ての金属合金元素の原子%での合計が、前記部材の原子%での酸素含有率より、少なくとも50%高く、好ましくは少なくとも100%高い、請求項1から14のいずれか一項に記載の部材。
【請求項16】
以下のステップ:
- モリブデン、モリブデン基合金、タングステン、タングステン基合金及びモリブデン-タングステン基合金を含む群から選択される少なくとも1つの材料からの出発粉末を提供するステップ、
- レーザー又は電子ビームによって前記出発粉末の粒子を層状に溶け合わせるステップ
を有する、部材(8)、特に、請求項1から15のいずれか一項に記載の部材(8)を製造するための付加製造の方法であって、
提供される前記出発粉末が、少なくとも1つの元素を有し、前記元素が、モリブデン及びモリブデン基合金の場合はMoO2及び/又はMoO3に対して、タングステン及びタングステン基合金の場合はWO2及び/又はWO3に対して、並びにモリブデン-タングステン基合金の場合はMoO2、MoO3、WO2及びWO3の群の少なくとも1つの酸化物に対して、少なくとも≧1500℃の温度範囲において還元的に作用し、かつ提供される前記出発粉末中に少なくとも部分的な非酸化形態で存在すること、及び製造された前記部材(8)中で、前記合金元素又は前記複数の合金元素のうちの少なくとも1つが、少なくとも部分的に酸化物として存在することを特徴とする、方法。
【請求項17】
前記出発粉末中で、全ての金属還元元素の原子%での合計が、前記出発粉末の原子%での酸素含有率より少なくとも50%高い、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
モリブデン、モリブデン基合金、タングステン、タングステン基合金及びモリブデン-タングステン基合金を含む群から選択される少なくとも1つの材料からの粒子を有し、前記粒子が、造粒及び/又は溶融相によって製造されている粉末の使用において、
前記粉末が、さらに、1つの元素又は複数の元素を有し、前記元素が、モリブデン及びモリブデン基合金の場合はMoO2及び/又はMoO3に対して、タングステン及びタングステン基合金の場合はWO2及び/又はWO3に対して、並びにモリブデン-タングステン基合金の場合はMoO2、MoO3、WO2及びWO3の群の少なくとも1つの酸化物に対して、少なくとも≧1500℃の温度範囲において還元的に作用すること、及び前記還元元素又は前記還元元素のうちの少なくとも1つが、少なくとも部分的な非酸化形態で存在することを特徴とする、付加製造方法のための、特に、請求項16から17のいずれか一項に記載の付加製造する方法のための、使用。
【請求項19】
前記粉末中の前記還元元素又は前記還元元素のうちの少なくとも1つが、モリブデンリッチ又はタングステンリッチ相に、好ましくは50原子%超で部分的に溶解している、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
前記粉末中で、全ての金属還元元素の原子%での合計が、前記粉末の原子%での酸素含有率より、少なくとも50%高く、好ましくは少なくとも100%高い、請求項18又は19に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1に記載の上位概念の特徴を有する部材、請求項16に記載の上位概念の特徴を有する部材を製造するための付加製造方法、及び付加製造方法のための粉末の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
モリブデン(Mo)、タングステン(W)及びそれらの合金は、融点が高く、熱膨張係数が低く、かつ熱伝導率が高いことを理由に、例えば、X線アノード、ヒートシンク、高温加熱ゾーン、スラスタ、押出ダイ、射出成形金型用部品、ホットランナーノズル、抵抗溶接電極又はイオン注入装置用部品のような、様々な高性能用途に使用される。さらに、これらの元素は高密度を有するので、結果的に、電磁放射線及び粒子放射線の良好な遮蔽性が保証されている。室温での延性が比較的低く、かつDBTT(延性脆性遷移温度:Ductile-Brittle-Transition-Temperature)が高いことから、切削加工及び非切削加工の方法のどちらについても、加工特性は好ましくない。さらに、モリブデン-レニウム及びタングステン-レニウムを除いて、これらの材料の溶接性は悪い。これらの材料からなる部材を製造するための大規模で工業的な方法は、対応する出発粉末が圧縮及び焼結され、通常、続いて高温(DBTTより高い温度)で再成形される、粉末冶金的な製造ルートである。
【0003】
付加製造方法によって達成可能な幾何学的な部材構成の可能性は、従来の方法の可能性をはるかに上回る。特に、モリブデン、タングステン及びそれらの合金のような材料の場合、付加製造方法は特に有利である。というのも、これらの材料は、他の金属材料と比較して、一般的な従来の製造法では加工が著しく難しいからである。金属材料の付加製造では、多くの場合、出発材料として粉末が使用され、またワイヤーも使用されるがそれほど多くはない。金属材料の場合、層状に施用された粉末がレーザービームによって局所的に焼結される選択的レーザー焼結(SLS)、層状に施用された粉末が局所的に溶融される選択的レーザービーム溶融(SLM)及び選択的電子ビーム溶融(SEBM)、並びにノズルを通して供給された粉末が溶融されるレーザー金属堆積(LMD)のような複数のプロセスが確立されている。付加製造方法では、切削工具又は成形工具が必要とされず、それによって、より少ないユニットで部材の低コスト製造が可能になる。さらに、従来の製造法では製造することができない又は多大な労力をかけてでしか製造することができない部材形状が実現される。さらに、溶け合わさっていない又は一緒に焼結されていない粉末粒子を再利用することができるので、高い資源効率が得られる。これらの方法の欠点は、現在、造形速度がまだ非常に低いことである。
【0004】
さらに、ビームに基づく付加製造方法の場合、鋳造又は焼結のような従来の固結方法と比較して、他の金属物理学的な機構が影響していることを考慮する必要がある。焼結の場合、表面拡散及び粒界拡散が緻密化を決定づけているが、SLM、SEBM及びLMDのような、局所的な溶融と高い冷却速度での凝固とを含む方法では、作用機構は、異なり、より非常に複雑であり、また未だ完全には理解されていない。ここでは、濡れ挙動、マランゴニ対流、気化による反跳効果、偏析、エピタキシャル結晶粒成長、凝固時間、熱流、熱流方向、及び凝固収縮の結果としての内部応力が言及される。従来の方法で成功を収めている材料概念では、多くの場合、ビームに基づく付加製造において、欠陥のない部材はもたらされない。
【0005】
選択的レーザービーム溶融による純タングステンの製造は、学術論文Dianzheng Wang等(Appl. Sei. 2007, 7, 430)に記載されており、選択的レーザービーム溶融によるモリブデンの製造は、学術論文D. Faidel等(Additive Manufacturing 8 (2015) 88-94)に記載されている。国際公開第2012055398号には、耐火金属用の選択的レーザー溶融プロセスが開示されており、ここでは、材料の組成が、部材の造形中に大気中に含まれる反応性ガスとの反応によって変化し得る。中国特許出願公開第103074532号明細書の公報及び関連する学術論文であるDongdong Gu等の"Selective Laser Melting Additive Manufacturing of Hard-to-Process Tungsten-Based Alloy Parts With Novel Crystalline Growth Morphology and Enhanced Performance", Journal of Manufacturing Science and Engineering, August 2016, Vol. 138, 081003には、メカニカルアロイングされたタングステン-TiC粉末のレーザービーム溶融が記載されている。
【0006】
最も広まっている付加製造方法は、選択的レーザービーム溶融法(SLM)である。この場合、スキージによって粉末層が基材に施用される。続いて、レーザービームがこの粉末層の上に誘導される。これによって、粉末粒子が局所的に溶融し、結果的に、個々の粉末粒子が、互いにかつ事前に施用された層と一緒に溶け合う。したがって、製造すべき部材の層は、粉末粒子の連続的な局所溶融と、それに続く凝固とによって形成される。続いて、さらなる粉末層が、すでに加工された粉末層に施用され、プロセスが再開される。したがって、部材は、新しい粉末層ごとにさらに造形され、造形方向は、粉末層のそれぞれの平面に対して垂直となる。付加製造方法によって特徴的な微細構造が形成されるので、当業者は、部材が従来のプロセスによって製造されているのか、又は付加製造方法によって製造されているのかを認識することができる。
【0007】
モリブデン及びタングステンは高い融点を有し、固相では高い熱伝導率を有し、また液相では高い表面張力及び粘度を有する。これらの材料は、付加製造方法によって加工するのが極めて難しい材料に分類される。高い熱伝導率に起因して溶融相である時間が短いため、高い表面張力及び高い粘度と組み合わさってボーリング効果が生じやすく、その結果、細孔が生成され、亀裂を引き起こす欠陥と低密度とをもたらす。ボーリング効果はまた、表面品質、特に表面粗さにも悪影響を及ぼす。モリブデン及びタングステンは非常に低い破壊靭性を有するので、局所的な欠陥は、プロセスに内在する内部の熱誘起応力と組み合わさって亀裂を生じさせる。
【0008】
選択的レーザー溶融又は電子ビーム溶融によってモリブデン及びタングステンから製造された部材は、柱状結晶組織を示し、平均結晶粒アスペクト比(英:Grain Aspect Ratio(GAR値);結晶粒長と結晶粒幅との比)は、造形方向において、典型的には8超である。造形方向に対して垂直な平面には、レーザービーム又は電子ビームの溶融経路を再現した、クラック(亀裂)の粒界間ネットワークが形成される。これらの亀裂は、主に粒界熱間亀裂及び冷間亀裂である。これらは、部分的に互いに連結しており、それによって、部材は、多くの場合、開放細孔を有し、気密性及び水液性が損なわれる。部材の破壊をもたらす荷重では、通常、塑性変形は生じず、主に粒界破壊挙動が観察される。粒界破壊挙動とは、主に粒界に沿った亀裂によって引き起こされる破壊であると理解される。この破壊挙動によって、そのように製造された部材は、低い破壊強度、低い破壊靭性及び低い延性を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2012055398号
【特許文献2】中国特許出願公開第103074532号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Dianzheng Wang等,Appl. Sei. 2007, 7, 430
【非特許文献2】D. Faidel等,Additive Manufacturing 8 (2015) 88-94
【非特許文献3】Dongdong Gu等"Selective Laser Melting Additive Manufacturing of Hard-to-Process Tungsten-Based Alloy Parts With Novel Crystalline Growth Morphology and Enhanced Performance", Journal of Manufacturing Science and Engineering, August 2016, Vol. 138, 0810031
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、先に論じた問題が回避される一般的な部材、前述の特性を有する部材をプロセスで確実に製造するための一般的な付加製造方法、及び付加製造方法での使用について最適化された挙動を示す粉末を提供することである。特に、本発明の課題は、以下の特性を有する部材を提供することである:
- 低減された欠陥、特に亀裂頻度
- 改善された破壊靭性
- 改善された延性
- 改善された密度
- 閉孔性
【課題を解決するための手段】
【0012】
この課題は、請求項1の特徴を有する部材、請求項16の特徴を有する付加製造方法、及び請求項18の特徴を有する粉末の使用によって解決される。本発明の有利な実施形態は、従属請求項において定義されている。
【0013】
典型的には、ビームに基づく付加製造方法によってモリブデン、タングステン、モリブデン基合金及びタングステン基合金から製造された部材は、0.25原子%と0.6原子%との間の酸素含有率を有する。メカニカルアロイングされた粉末を使用すると、2原子%以上の著しくより高い酸素含有率が生じる場合もある。酸素含有率は、例えば選択的レーザー溶融又は電子ビーム溶融のような付加製造方法では低下しない。例えば走査型電子顕微鏡法又は透過型電子顕微鏡法のような高解像度の検査方法を用いると、従来技術による部材では、酸素が主に粒界に酸化モリブデン又は酸化タングステンの形態で析出していることが示される。これらの析出物は、粒界において領域的に配置されており、粒界破壊挙動の原因となり、結果として、モリブデン、タングステン及びそれらの合金製の付加製造された部材の破壊強度及び破壊靭性が低下する。酸素含有率が高いと、熱間亀裂及び冷間亀裂の両方が生じる場合がある。熱間亀裂は、製造中に粒界強度が低下することによって生じる。このような場合、粒界強度は、溶融経路のうちの熱影響ゾーンにおいて、粒界に析出した酸化物の溶融によって悪影響を受ける。冷間亀裂は、亀裂の核として作用する欠陥(細孔、微細亀裂)と組み合わさった熱誘起応力に起因する。従来技術の場合のように、粒界強度が結晶粒内部の強度より著しく低いと、結晶間亀裂が生じる。
【0014】
さらに、酸素含有率が高いと、ボーリング効果も強くなる。酸素は溶融ゾーンのエッジ領域で濃縮され、そこで表面張力を低下させる。そうなることで、マランゴニ対流によって、エッジ領域から溶融ゾーンの中心への材料の流れが促進され、結果的に、プラトー・レイリー不安定性によって引き起こされるボーリングがさらに著しく強くなる。
【0015】
したがって、本発明による部材は、部材が1つの合金元素又は複数の合金元素を有し、該合金元素が、モリブデン及びモリブデン基合金の場合はMoO2及び/又はMoO3に対して、タングステン及びタングステン基合金の場合はWO2及び/又はWO3に対して、並びにモリブデン-タングステン基合金の場合はMoO2、MoO3、WO2及びWO3の群の少なくとも1つの酸化物に対して、少なくとも≧1500℃の温度範囲において還元的に作用し、該合金元素又は該合金元素のうちの少なくとも1つが、少なくとも部分的な非酸化形態と酸化形態との両方で存在することを特徴とする点で優れている。
【0016】
以下の文章では、単数形での合金元素という用語は、モリブデン及び/又はタングステンに対して還元的に作用する複数の合金元素も含む。
【0017】
合金元素は、元素としても化合物の成分としても存在することができる。水素のようなガスは、通常かつ本発明の文脈においても、合金元素とは呼ばれないことを明らかにしておきたい。さらに、本発明では、合金元素が少なくとも部分的な非酸化形態と酸化形態との両方で存在することが必要とされる。これによって、酸化形態の合金元素は、部材において固体状態で存在することになる。
【0018】
本発明の基本思想は、酸素に対し、還元的に作用する少なくとも1つの合金元素の形態のより誘引的な反応相手を提供することによって、特に粒界での酸化モリブデン又は酸化タングステンの形成を減少させることである。すなわち、部材の酸素含有率は低下するのではなく、酸素は、少なくとも部分的に、好ましくは大部分が、合金元素によって形成された(室温で)固体の酸化物の形態で存在する。このように結合した酸素は、もはや粒界強度に悪影響を及ぼし得ない。
【0019】
還元的に作用する適切な合金元素は、当業者であれば、表から容易に見つけることができる。例えば、ギブスエネルギー(自由エンタルピー)を用いて、又はリチャードソン-エリンガムダイアグラムを用いて、酸化モリブデン又は酸化タングステンに対して還元的に作用する元素を、それらの標準生成自由エンタルピー間の差異に基づいて見つけることができる。それによって、酸化モリブデン又は酸化タングステンに対する還元剤として適した元素を見つけることが容易に可能になる。ここで好ましくは、合金元素は、それらの化学量論に関係なく、全ての酸化モリブデン(例えば、MoO2、MoO3)又は全ての酸化タングステン(例えば、WO2、WO3)に対して還元的に作用する。合金元素が酸化物の形態で酸素を確実に結合できるように、合金元素は、少なくとも≧1500℃の温度範囲において酸化モリブデン又は酸化タングステンに対して還元的に作用する必要がある。<1500℃の温度では、反応速度が低過ぎるので、酸化モリブデン又は酸化タングステンの十分な還元はもはや起こらない。好ましくは、合金元素は、モリブデン合金又はタングステン合金の室温から液相線温度までの温度範囲で、酸化モリブデン又は酸化タングステンに対して還元的に作用する。
【0020】
合金元素が部材中で少なくとも部分的な非酸化形態と酸化形態とで存在することは、例えば、XRD、マイクロプローブ、ICP-OES、ICP-MS、XRF、SEM/EDX、TEM/EDX及びキャリアガス熱抽出(Traegergasheissextraktion)のような一般的な方法によって証明することができる。ここで、合金元素含有率の定量測定は、例えばICP-OES又はICP-MSによって行われ、酸素含有率の定量測定は、キャリアガス熱抽出又はXRFによって行われる。ここで、合金元素が酸化形態と非酸化形態との両方で存在するかどうかは、XRDによって、また含有率が低い場合は、例えば、マイクロプローブ、SEM/EDX又はTEM/EDXのような空間分解法によって行うことができる。
【0021】
本発明による付加製造方法は、提供される出発粉末が、少なくとも1つの元素を有し、該元素が、モリブデン及びモリブデン基合金の場合はMoO2及び/又はMoO3に対して、タングステン及びタングステン基合金の場合はWO2及び/又はWO3に対して、並びにモリブデン-タングステン基合金の場合はMoO2、MoO3、WO2及びWO3の群の少なくとも1つの酸化物に対して、少なくとも≧1500℃の温度範囲において還元的に作用し、かつ提供される出発粉末中に少なくとも部分的な非酸化形態で存在する点、及び製造された部材中で、該合金元素又は該合金元素のうちの少なくとも1つが、少なくとも部分的に酸化物として存在する点で優れている。少なくとも1つの合金元素は、元素としても化合物の成分としても存在することができる。
【0022】
部材を製造する使用材料は、好ましくは粉末である。従来技術によって知られている全てのビームに基づく付加製造方法、特に、多数の個々の粉末粒子が高エネルギービームによって溶け合わさって立体構造にされる付加製造方法を、本発明において使用することができる。
【0023】
出発粉末を提供するステップは、溶融相において粒子を球状化することを含み得る。溶融相で球状化すると、粒子体積が小さいことから、追加の措置を講じなくても高い冷却速度が達成される。これによって、例えば、合金元素が、Mo又はW結晶格子に強制的に溶解して存在するか、又は極めて小さな粒子の形態で析出し、合金元素の分布が非常に均一になる。したがって、還元的に作用する合金元素は、粉末粒子中に均一に分布する。分布が均一であることによって、合金元素が、部材のあらゆる箇所に存在し、かつ酸化物の形態で酸素を結合できることが確実になる。さらに、溶融相を経て球状化した粉末は、非常に良好な粉末の上昇挙動(Pulveraufzugsverhalten)を示す。したがって、均一な表面被覆を有する粉末層を達成することが可能である。
【0024】
出発粉末を提供するステップは、少なくとも1つの還元的に作用する元素(後に、完成部材中に少なくとも1つの合金元素として存在する)が添加されている原料粉末を造粒することも含み得る。造粒とは、微細に分散した一次粒子が凝集して互いに結合してより大きな粉末粒子になることと理解されている。モリブデン及び/又はタングステン並びに合金元素を含有する均質な粗粉末混合物から出発して、均質な粒状物を製造することができる。造粒された粉末粒子は、粉砕された粉末に比べて良好な流動性を有し、それによって、均一に粉末層の施用が可能になる。さらに、粉砕ユニットからの摩耗に起因する、粉末中の高い酸素含有率及び他の不純物が回避される。
【0025】
本発明による付加製造方法では、好ましくは、溶け合わさる最中に、結晶粒微細化効果を有し、それによって、加工された材料の靭性を増加させる、1マイクロメートル未満の微細な炭化物、窒化物又はホウ化物が生成されることが意図され得る。同時に、これらは強度増加をもたらす。
【0026】
付加製造方法、特に本発明による付加製造方法における本発明による使用のための粉末は、該粉末が、1つの元素又は複数の元素を有し、該元素が、モリブデン及びモリブデン基合金の場合はMoO2及び/又はMoO3に対して、タングステン及びタングステン基合金の場合はWO2及び/又はWO3に対して、並びにモリブデン-タングステン基合金の場合はMoO2、MoO3、WO2及びWO3の群の少なくとも1つの酸化物に対して、少なくとも≧1500℃の温度範囲において還元的に作用する点、及び該還元元素又は該還元元素のうちの少なくとも1つ(部材中に合金元素として存在する)が、少なくとも部分的な非酸化形態で存在する点で優れている。少なくとも1つの還元元素は、元素としても化合物の成分としても存在することができる。
【0027】
好ましくは、粉末中の該還元元素又は該還元元素のうちの少なくとも1つは、モリブデンリッチ又はタングステンリッチ相に、好ましくは50原子%超で部分的に溶解していると意図されている。
【0028】
モリブデン基合金とは、少なくとも50原子%のモリブデンを含有する合金であると理解される。特に、モリブデン基合金は、少なくとも80、90、95又は99原子%のモリブデンを有する。タングステン基合金は、少なくとも50原子%のタングステンを含有している。特に、タングステン基合金は、少なくとも80、90、95又は99原子%のタングステンを有する。モリブデン-タングステン合金とは、合計で少なくとも50原子%のモリブデン及びタングステン、特に、合計で少なくとも80、90、95又は99原子%のモリブデン及びタングステンを有する合金であると理解される。モリブデン-タングステン合金は、全ての濃度範囲において、好ましい実施形態である。
【0029】
個々の粉末粒子は、好ましくは、付加製造方法によって溶融され、その際、有利には、SLM(選択的レーザービーム溶融)又はSEBM(選択的電子ビーム溶融)が使用される。
【0030】
ここで、部材は、好ましくは層状に造形される。例えば、スキージによってベースプレートに粉末層が施用される。粉末層は、通常10~150マイクロメートルの高さを有する。
【0031】
SEBMでは、まずデフォーカスされた電子ビームを使用することによって粉末粒子を互いに焼結させ、導電性にする。続いて、(電子ビームでの)エネルギー導入によって粉末を局所的に溶融する。SLMでは、(レーザービームでの)エネルギー導入による粉末の局所的な溶融をすぐに開始することができる。
【0032】
ビームは、典型的には線幅30マイクロメートル~200マイクロメートルの線形の溶融痕跡パターンを形成する。レーザービーム又は電子ビームは、粉末層の上に誘導される。適切なビーム誘導によって、粉末層全体又は粉末層の一部のみを溶融し、その後、固化することができる。粉末層の溶融及び固化した領域は、完成部材の一部である。未溶融の粉末は、製造された部材の構成要素ではない。続いて、さらなる粉末層がスキージによって施用され、レーザービーム又は電子ビームが再びこの粉末層の上に誘導される。このようにして、層状の造形及び特徴的な部材構造が出来上がる。電子ビーム又はレーザービームを誘導することによって、各粉末層中に、いわゆる走査構造が形成される。さらに、新しい粉末層の施用によって決定される造形方向に、同様に典型的な層構造が形成される。走査構造及び個々の層の両方が、完成部材において認識可能である。
【0033】
高エネルギービーム(好ましくはレーザービーム又は電子ビーム)での付加製造方法によって溶け合わさって選択的に立体構造にされた粉末粒子の組織は、他の方法、例えば溶射によって製造された組織とは著しく異なる。例えば、溶射では、個々の溶射粒子がガス流中で加速され、コーティングすべき部材の表面に打ち付けられる。ここで、溶射粒子は、溶融若しくは部分溶融形態(プラズマ溶射)でも、固体形態(コールドガス溶射)でもよい。層の形成は、個々の溶射粒子が部材表面に衝突して平らになり、主に機械的な噛み合いによって付着し、溶射層の層状構造に影響を与えるために、生じる。こうして、シート状の層構造が形成される。このようにして形成された層は、造形方向に対して平行な平面において、造形方向に対して垂直な方向に平均結晶粒アスペクト比(英:Grain Aspect Ratio(GAR値);結晶粒長と結晶粒幅との比)が2を著しく上回る結晶粒の伸びを示すため、選択的レーザー溶融又は電子ビーム溶融によって製造された層/部材であって、造形方向に対して平行な平面において同様に平均結晶粒アスペクト比が2を著しく上回るけれども結晶粒の伸びが造形方向に対して平行である層/部材とは、著しく異なる。
【0034】
本発明による部材の一実施形態では、部材中の合金元素の少なくとも1つは、部分的に溶解して、好ましくは50原子%超で溶解して、モリブデンリッチ又はタングステンリッチ相中に存在する。したがって、造形プロセスでは、部材の全ての領域に、少なくとも1つの合金元素が、酸化物の形態で酸素を結合できるように十分な量で存在する。酸化モリブデン及び/又は酸化タングステンの形態にある酸素は、粒界を平面的に被覆しており、それによって、前述のように粒界強度を大幅に低下させるが、本発明による部材では、酸素は、少なくとも1つの合金元素によって局所的に結合された、粒界を平面的に被覆していない酸化物として存在する。
【0035】
本発明による部材の一実施形態では、合金元素のうちの少なくとも1つは、金属合金元素であることが意図されている。この合金元素は、好ましくは、モリブデン及び/又はタングステンに少なくとも部分的に可溶である。
【0036】
本発明による部材の一実施形態では、合金元素のうちの少なくとも1つは、周期表の第2、3又は4族の元素、好ましくは、チタン、ジルコニウム又はハフニウムであることが意図されている。これらの合金元素は、酸素に対する強い親和性によって特徴づけられている。
【0037】
本発明による部材の一実施形態では、部材は、1800℃超、特に2600℃超の融点を有する酸化物を含有することが意図されている。好ましい酸化物は、TiO2(融点:1843℃)、ZrO2(融点:2715℃)又はHfO2(融点:2758℃)である。これらの酸化物は、粗大化の傾向が低い。それによって、結晶粒を微細化し、靭性を増加させる効果に加えて、特に高い使用温度で、部材における強度増加効果も得られる。TiO2、ZrO2又はHfO2を含有する混合酸化物も、先に挙げた有利な効果を有する。
【0038】
本発明による部材の一実施形態では、部材中の少なくとも1つの合金元素の含有率は、非酸化形態及び酸化形態で、0.05原子%~20原子%、好ましくは0.1原子%~10原子%の範囲にあると意図されている。0.05原子%未満では、本発明による効果は十分には生じない。20原子%超になると、少なくとも1つの合金元素の強度増加効果が非常に顕著になり、結果的に、造形プロセスにおける応力の低下は、あまり低減されない。
【0039】
本発明による部材の一実施形態では、部材中の炭素含有率は、0.05原子%~20原子%の範囲にあると意図されている。炭素は、モリブデンの場合、好ましくはMo2Cとして析出形態で存在し、タングステンの場合、好ましくはW2Cとして析出形態で存在する。Mo2C及びW2Cはどちらも、付加製造方法中に製造すべき部材において生じる温度で、酸素に対する溶解性を有する。また、それによって、酸化モリブデン又は酸化タングステンによる粒界の占有と、これによって生じるその脆化も回避することができる。さらに、炭素は、モリブデン及びタングステンの両方、並びにそれらの合金において、エネルギービームによって溶融された材料が凝固する際に、組成的過冷却を通じて結晶粒の微細化を生じさせる。しかしながら、0.05原子%未満では、効果は非常に弱く、20原子%超では、熱誘発応力の低下を損なわせる顕著な硬化が記録される。
【0040】
本発明による部材の一実施形態では、モリブデン含有率、タングステン含有率、又はモリブデンとタングステンとの総含有率は、60原子%超であり、好ましくは80原子%超であり、特に好ましくは90原子%又は95原子%超である。
【0041】
本発明による部材の一実施形態では、部材は、少なくとも破壊面において、粒内割合が破壊面積の50%超、好ましくは80%超、特に好ましくは90%超である破壊挙動を示すことが意図されている。粒内破壊挙動とは、過荷重によって引き起こされる部材の破壊において、亀裂が、粒界に沿って生じるのではなく、主に結晶粒を貫通して生じることと理解される。粒内破壊率の評価は、室温で生じる破壊面を走査型電子顕微鏡で検査することによって行われる。ここで、破壊面の代表点で、粒内破壊挙動を有する面積及び粒界破壊挙動を有する面積を測定し、検査した総面積に対する粒内面積の比率から粒内破壊率を決定する。
【0042】
本発明による部材の一実施形態では、部材は、造形方向に層状に製造されており、かつ好ましくは、造形方向に対して平行な面で、5未満、好ましくは3未満の平均結晶粒アスペクトを有することが意図されている。造形方向に対して平行に結晶粒アスペクト比が高いことによって、造形方向に対して垂直な荷重がかかる場合、破壊経路が短く、したがって形成される破壊面が(粒界の経路の向きを理由に)小さいので、実質的に造形方向に延在する粒界に沿った粒界破壊経路が促進される。それとは反対に、結晶粒アスペクト比が小さいと、造形方向に対して垂直な荷重においても十分な破壊靭性が生じることが保証される。それによって、通常必要とされる使用特性とって十分な機械的特性の等方性が保証されている。
【0043】
本発明による部材の一実施形態では、部材は、10000平方マイクロメートル未満、特に1000平方マイクロメートル未満の平均結晶粒面積を有する微細な結晶粒組織を有することが意図されている。それによって、部材は、高い延性と組み合わされた高い強度及び靭性を有する。ここで、結晶粒面積は、平面測定法を用いた定量的顕微鏡検査(ステレオロジー)によって決定される。
【0044】
本発明による部材の一実施形態では、部材は、微細な炭化物粒子、窒化物粒子又はホウ化物粒子を、好ましくは1マイクロメートル未満の平均サイズで含むことが意図されている。これらの微粒子は、一方では、強化効果をもたらし、他方では、結晶粒を微細化するように作用することもでき、結果的に、破壊靭性が増加する。好ましくは、微細な粒子は、還元的に作用する合金元素の炭化物、窒化物又はホウ化物である。
【0045】
本発明による部材の一実施形態では、部材中の酸化形態の少なくとも1つの合金元素は、5マイクロメートル未満、好ましくは<1マイクロメートルの平均サイズを有する微細な酸化物析出物の形態で存在することが意図されている。酸化物は、好ましくは、付加製造方法中に少なくとも1つの合金元素と材料中の酸素との反応によって形成される。これらの酸化物は、核を形成するように作用し得て、結果的に、部材は、有利には、高い強度及び靭性を有する微細組織を有する。
【0046】
本発明による部材、本発明による付加製造方法及び本発明による使用の一実施形態では、出発粉末中で、全ての還元的に作用する合金元素の原子%での合計は、出発粉末の原子%での酸素含有率より、(出発粉末の組成を基準として)少なくとも50%高く、(出発粉末の組成を基準として)好ましくは少なくとも100%高いことが意図されている。
【0047】
本発明による部材、本発明による付加製造方法及び本発明による使用のさらなる実施形態では、部材中で、全ての金属合金元素又は還元元素の原子%での合計は、部材の原子%での酸素含有率より、少なくとも50%高く、好ましくは少なくとも100%高いことが意図されている。
【0048】
先に挙げた比率によって、少なくとも1つの合金元素の含有率が、付加製造方法において部材のあらゆる箇所で十分に高くなり、酸化モリブデン又は酸化タングステンによる粒界の不都合な被覆が防止される。
【0049】
本発明の実施例を図に基づいて論じる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図2a】造形方向に対して垂直な断面を有する、SLMによって製造された従来技術によるMoサンプルの光学顕微鏡画像である(サンプル番号1)。
【
図2b】造形方向に対して平行な断面を有する、SLMによって製造された従来技術によるMoサンプルの光学顕微鏡画像である(サンプル番号1)。
【
図3】従来技術による破壊面の走査型電子顕微鏡画像である(サンプル番号1)。
【
図4】造形方向に対して垂直な断面を有する、SLMによって製造された本発明によるサンプルの光学顕微鏡画像である(サンプル番号4)。
【発明を実施するための形態】
【0051】
従来技術のサンプル(サンプル番号1):
本発明によるものではないサンプルについては、ふるい分級<40マイクロメートルの球状化したMo粉末を使用した。
【0052】
粉末の化学的及び物理的特性は、表1に示されている。モリブデンの体積増加についての典型的なパラメータによって、この粉末を、市販のSLM設備を用いて加工し、10mm×10mm×10mmの寸法を有する組織特性評価及び密度測定用のサンプル、及び35mm×8mm×8mmの寸法を有する曲げサンプルにした。
【0053】
SLMプロセスは、
図1に概略的に示されている。制御システムは、特に、レーザー1、レーザーミラー2、スキージ3、粉末貯蔵容器6からの粉末供給物4、及び製造スペース7内のベースプレート5の位置を制御する。この設備は、製造スペース加熱装置を有する。試験のために、Moベースプレートを500℃に加熱した。スキージ3によって粉末層を供給した。レーザーミラー2によって誘導されたレーザービームは、粉末層の上を走査し、その際、部材設計によると材料が存在している箇所で、粒子及びその下にあるすでに溶融及び凝固した層の一部を溶融した(部材8)。続いて、ベースプレート5を30マイクロメートル下げ、スキージ3によってさらなる粉末層を施用し、工程を再開した。
【0054】
サンプルをワイヤー侵食によってベースプレート5から分離し、10mm×10mm×10mmのサンプルのサンプル密度を浮力法(静水力学的計量)によって測定し、その際、開放細孔を溶融パラフィンに浸漬することによって事前に閉じた。サンプルを金属組織学的に検査した。35mm×8mm×8mmのサンプル(3つの並行サンプル)を3点曲げ試験にかけた。曲げサンプルの破壊面を走査型電子顕微鏡で検査し、粒界破壊面又は粒内破壊面の割合を求めた。
【0055】
図2は、従来技術によるMoサンプルの組織を示す(サンプル番号1)。ここで、断面は、
図2aでは造形方向に対して垂直であり、
図2bでは造形方向に対して平行である。サンプルは、多くの細孔と、プロセスの走査構造を形成するタイル状の粒界亀裂とを有する。この組織は、造形方向に対して平行に、柱状結晶のように形成されている。結晶粒アスペクト比は、画像分析によって、平均結晶粒長及び平均結晶粒幅を求め、その後、平均結晶粒長を平均結晶粒幅で割ることで決定した。ここで、結晶粒アスペクト比は8であると計算された。サンプルの曲げ強度は、表2に示されている。値が低いのは、粒界強度が低いことに起因する。粒界破壊率は95%である。破壊面の走査型電子顕微鏡検査は、粒界が平面的に酸化Mo析出物によって被覆されていることを示す(
図3)。
【0056】
本発明によるサンプル:
本発明によるサンプルについては、ふるい分級40μm未満の、溶融相によって球状化した粉末を使用した(サンプル番号2、3及び4)。粉末の化学的及び物理的特性は、表1に示されている。これらの粉末の加工は、モリブデンの体積増加についての典型的なパラメータで、800℃の製造スペース温度で行った。組織特性評価及び密度測定用のサンプルは、10mm×10mm×10mmの寸法を有していた。曲げサンプルは、35mm×8mm×8mmのサイズを有していた。
【0057】
SLMプロセス及びサンプルの特性評価は、従来技術によるサンプルについて記載されているのと同じ条件下で実施した。
【0058】
サンプル番号2のサンプル(Mo-0.55原子%Hf)、サンプル番号3のサンプル(Mo-1.1原子%Zr)、及びサンプル番号4のサンプル(Mo-0.9原子%Ti-0.09原子%Zr-0.10原子%C)を金属組織学的に検査することで、
図4にサンプル番号4のサンプルについて例示的に光学顕微鏡画像(造形方向に対して垂直な断面)によって記録されているように、本発明による全てのサンプルに亀裂がないことが示される。造形方向に対して平行な平面内の組織は、3.8(サンプル番号2のサンプル)、3.9(サンプル番号3のサンプル)、2.9(サンプル番号4のサンプル)の平均結晶粒アスペクト比を有する。
【0059】
化学分析、曲げ試験及び破壊面評価の結果は、表2に示されている。
【0060】
曲げ強度は、本発明によるサンプルの場合、従来技術のサンプルより約10倍高い。主要な破壊機構は、全てのサンプルにおいて粒内破壊であった。サンプル番号2及び3のサンプルでは、わずかな割合(3%)の粒界破壊面が検出することができ、この領域では、結晶粒界が粒内破壊経路の平面に配向している。エネルギー分散型X線分光法(EDX)では、これらの領域で酸化Moを検出することができなかった。サンプル番号4のサンプルは、粒内破壊のみを示す。XRD検査によって、サンプル番号2のサンプルについてはMo及びHfO2の相、サンプル番号3のサンプルについてはMo及びZrO2の相、及びサンプル番号4のサンプルについてはMo及びTiO2の相が示される。SEM/EDX検査によって、サンプル番号2のサンプルではHfO2微粒子、サンプル番号3のサンプルではZrO2微粒子、サンプル番号4のサンプルではTiO2微粒子を検出することができた。しかしながら、大部分の体積分率の各酸化物は、粒子サイズがSEMの検出限界を下回るほど微細であった。サンプル番号4のサンプルの最初のTEM検査では、その平均サイズが30nmの範囲にある微粒子を見つけることができた。
【0061】
【0062】
【符号の説明】
【0063】
1 レーザー
2 レーザーミラー
3 スキージ
4 粉末供給物
5 ベースプレート
6 粉末貯蔵容器
7 製造スペース
8 部材
【手続補正書】
【提出日】2023-08-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップ:
- モリブデン、モリブデン基合金、タングステン、タングステン基合金及びモリブデン-タングステン基合金を含む群から選択される少なくとも1つの材料からの出発粉末を提供するステップ、
- レーザー又は電子ビームによって前記出発粉末の粒子を層状に溶け合わせるステップ
を有する部材(8)を製造するための付加製造の方法であって、
提供される前記出発粉末が、少なくとも1つの元素を有し、前記元素が、モリブデン及びモリブデン基合金の場合はMoO2及び/又はMoO3に対して、タングステン及びタングステン基合金の場合はWO2及び/又はWO3に対して、並びにモリブデン-タングステン基合金の場合はMoO2、MoO3、WO2及びWO3の群の少なくとも1つの酸化物に対して、少なくとも≧1500℃の温度範囲において還元的に作用し、かつ提供される前記出発粉末中に少なくとも部分的な非酸化形態で存在すること、及び製造された前記部材(8)中で、前記合金元素又は前記複数の合金元素のうちの少なくとも1つが、少なくとも部分的に酸化物として存在することを特徴とする、方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0063
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0063】
1 レーザー
2 レーザーミラー
3 スキージ
4 粉末供給物
5 ベースプレート
6 粉末貯蔵容器
7 製造スペース
8 部材
なお、本出願は、少なくとも以下の構成について開示している。
[1]
モリブデン、モリブデン基合金、タングステン、タングステン基合金及びモリブデン-タングステン基合金を含む群から選択される少なくとも1つの材料からレーザー又は電子ビームによって付加製造方法で製造された立体構造を有する部材(8)であって、
前記部材(8)が、1つの合金元素又は複数の合金元素を有し、前記合金元素が、
- モリブデン及びモリブデン基合金の場合はMoO2及び/又はMoO3に対して、
- タングステン及びタングステン基合金の場合はWO2及び/又はWO3に対して、並びに
- モリブデン-タングステン基合金の場合はMoO2、MoO3、WO2及びWO3の群の少なくとも1つの酸化物に対して、
少なくとも≧1500℃の温度範囲において還元的に作用し、前記合金元素又は前記複数の合金元素のうちの少なくとも1つが、少なくとも部分的な非酸化形態と酸化形態との両方で存在することを特徴とする、部材。
[2]
前記部材(8)中の前記合金元素又は前記複数の合金元素のうちの少なくとも1つが、部分的に溶解して、好ましくは50原子%超で溶解して、モリブデンリッチ又はタングステンリッチ相中に存在する、構成1に記載の部材。
[3]
前記合金元素又は前記複数の合金元素のうちの少なくとも1つが金属元素である、構成1から2のいずれか一項に記載の部材。
[4]
前記合金元素又は前記複数の合金元素のうちの少なくとも1つが、周期表の第2、3又は4族の元素、好ましくは、チタン、ジルコニウム又はハフニウムである、構成1から3のいずれか一項に記載の部材。
[5]
前記部材(8)が、TiO2、ZrO2又はHfO2を含有する、構成4に記載の部材。
[6]
前記部材(8)中の少なくとも1つの前記合金元素の含有率が、非酸化形態及び酸化形態で、0.05原子%~20原子%、好ましくは0.1原子%~10原子%の範囲にある、構成1から5のいずれか一項に記載の部材。
[7]
前記部材(8)中の炭素含有率が、0.05原子%~20原子%の範囲にある、構成1から6のいずれか一項に記載の部材。
[8]
前記部材(8)中の炭素が、少なくとも部分的に炭化物の形態で存在する、構成7に記載の部材。
[9]
モリブデン含有率、タングステン含有率、又はモリブデンとタングステンとの総含有率が60原子%超である、構成1から8のいずれか一項に記載の部材。
[10]
前記部材(8)が、少なくとも破壊平面において、粒内割合が破壊面積の50%超である破壊挙動を示す、構成1から9のいずれか一項に記載の部材。
[11]
前記部材(8)が、造形方向に層状に製造されており、かつ好ましくは、前記造形方向に対して平行な平面で、5未満の平均結晶粒アスペクトを有する、構成1から10のいずれか一項に記載の部材。
[12]
前記部材(8)が、10000平方マイクロメートル未満の平均結晶粒面積を有する微細な結晶粒組織を有する、構成1から11のいずれか一項に記載の部材。
[13]
前記部材(8)が、微細な炭化物粒子、窒化物粒子又はホウ化物粒子を、好ましくは1マイクロメートル未満の平均サイズで含む、構成1から12のいずれか一項に記載の部材。
[14]
前記部材(8)中の前記酸化形態の少なくとも1つの前記合金元素が、5マイクロメートル未満の平均サイズを有する微細な酸化物析出物の形態で存在する、構成1から13のいずれか一項に記載の部材。
[15]
前記部材(8)中で、全ての金属合金元素の原子%での合計が、前記部材の原子%での酸素含有率より、少なくとも50%高く、好ましくは少なくとも100%高い、構成1から14のいずれか一項に記載の部材。
[16]
以下のステップ:
- モリブデン、モリブデン基合金、タングステン、タングステン基合金及びモリブデン-タングステン基合金を含む群から選択される少なくとも1つの材料からの出発粉末を提供するステップ、
- レーザー又は電子ビームによって前記出発粉末の粒子を層状に溶け合わせるステップ
を有する、部材(8)、特に、構成1から15のいずれか一項に記載の部材(8)を製造するための付加製造の方法であって、
提供される前記出発粉末が、少なくとも1つの元素を有し、前記元素が、モリブデン及びモリブデン基合金の場合はMoO2及び/又はMoO3に対して、タングステン及びタングステン基合金の場合はWO2及び/又はWO3に対して、並びにモリブデン-タングステン基合金の場合はMoO2、MoO3、WO2及びWO3の群の少なくとも1つの酸化物に対して、少なくとも≧1500℃の温度範囲において還元的に作用し、かつ提供される前記出発粉末中に少なくとも部分的な非酸化形態で存在すること、及び製造された前記部材(8)中で、前記合金元素又は前記複数の合金元素のうちの少なくとも1つが、少なくとも部分的に酸化物として存在することを特徴とする、方法。
[17]
前記出発粉末中で、全ての金属還元元素の原子%での合計が、前記出発粉末の原子%での酸素含有率より少なくとも50%高い、構成16に記載の方法。
[18]
モリブデン、モリブデン基合金、タングステン、タングステン基合金及びモリブデン-タングステン基合金を含む群から選択される少なくとも1つの材料からの粒子を有し、前記粒子が、造粒及び/又は溶融相によって製造されている粉末の使用において、
前記粉末が、さらに、1つの元素又は複数の元素を有し、前記元素が、モリブデン及びモリブデン基合金の場合はMoO2及び/又はMoO3に対して、タングステン及びタングステン基合金の場合はWO2及び/又はWO3に対して、並びにモリブデン-タングステン基合金の場合はMoO2、MoO3、WO2及びWO3の群の少なくとも1つの酸化物に対して、少なくとも≧1500℃の温度範囲において還元的に作用すること、及び前記還元元素又は前記還元元素のうちの少なくとも1つが、少なくとも部分的な非酸化形態で存在することを特徴とする、付加製造方法のための、特に、構成16から17のいずれか一項に記載の付加製造する方法のための、使用。
[19]
前記粉末中の前記還元元素又は前記還元元素のうちの少なくとも1つが、モリブデンリッチ又はタングステンリッチ相に、好ましくは50原子%超で部分的に溶解している、構成18に記載の使用。
[20]
前記粉末中で、全ての金属還元元素の原子%での合計が、前記粉末の原子%での酸素含有率より、少なくとも50%高く、好ましくは少なくとも100%高い、構成18又は19に記載の使用。
【外国語明細書】