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特開2023-156411内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシート
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  • 特開-内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156411
(43)【公開日】2023-10-24
(54)【発明の名称】内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシート
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20231017BHJP
   C22C 38/44 20060101ALI20231017BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20231017BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20231017BHJP
   F01L 3/02 20060101ALI20231017BHJP
   C22C 38/12 20060101ALN20231017BHJP
   B22F 5/00 20060101ALN20231017BHJP
   C22C 33/02 20060101ALN20231017BHJP
【FI】
C22C38/00 304
C22C38/44
C22C30/00
C22C38/60
F01L3/02 F
F01L3/02 H
C22C38/12
B22F5/00 Z
C22C33/02 D
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129438
(22)【出願日】2023-08-08
(62)【分割の表示】P 2023506535の分割
【原出願日】2022-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2021119738
(32)【優先日】2021-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390022806
【氏名又は名称】日本ピストンリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105968
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】永岡 祐二
(72)【発明者】
【氏名】池見 聡史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 克明
(57)【要約】
【課題】耐摩耗性に優れた鉄基焼結合金製バルブシートを提供する。
【解決手段】ビッカース硬さで700~1300HVの硬さを有し、質量%で、Si:1.5~3.5%、Cr:7.0~9.0%、Mo:35.0~45.0%、Ni:5.0~20.0%を含み残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有するSi-Cr-Ni-Fe系Mo基金属間化合物粒子を硬質粒子として基地相中に分散させて、基地相、硬質粒子、固体潤滑剤粒子等を含む基地部が、質量%で、C:0.5~2.0%、Si:0.2~2.0%、Mn:5%以下、Cr:0.5~15%、Mo:3~20%、Ni:1~10%、を含み、さらに、V:0~5%、W:0~10%、S:0~2%、Cu:0~5%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する単層構造の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートとする。これにより、Coを含有しない組成でも、硬質粒子の割れ、欠けの発生を回避して、耐摩耗性の低下を防止でき、従来のCoを含有する組成と同等あるいはそれ以上の耐摩耗性を有するバルブシートとすることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のシリンダーヘッドに圧入されるバルブシートであって、該バルブシートが機能部材側層からなる単層構造を有し、
前記機能部材側層が、基地相と、該基地相中に面積率で10~40%の硬質粒子とさらに面積率で0~5%の固体潤滑剤粒子を分散させてなる組織を有し、前記硬質粒子が、ビッカース硬さで700~1300HVの硬さを有し、質量%で、Si:1.5~3.5%、Cr:7.0~9.0%、Mo:35.0~45.0%、Ni:5.0~20.0%を含み残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有するSi-Cr-Ni-Fe系Mo基金属間化合物粒子であり、さらに前記基地相、前記硬質粒子および前記固体潤滑剤粒子を含む基地部が、質量%で、C:0.5~2.0%、Si:0.2~2.0%、Mn:5%以下、Cr:0.5~15%、Mo:3~20%、Ni:1~10%を含み、さらに、V:0~5%、W:0~10%、S:0~2%、Cu:0~5%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成を有する鉄基焼結合金材からなり、前記バルブシートの密度が6.70~7.20g/cm3であることを特徴とする内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシート。
【請求項2】
前記機能部材側層の前記基地相が、前記硬質粒子および前記固体潤滑剤粒子を除く基地相面積を100%とする面積率で、10~90%の微細炭化物析出相と0~30%の高合金相と残部がパーライトからなる組織を有することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシート。
【請求項3】
前記機能部材側層の前記基地相が、前記硬質粒子および前記固体潤滑剤粒子を除く基地相面積を100%とする面積率で、0~15%の高合金相と残部が微細炭化物析出相からなる組織を有することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシート。
【請求項4】
前記機能部材側層の前記基地相が、前記硬質粒子および前記固体潤滑剤粒子を除く基地相面積を100%とする面積率で、0~25%の高合金相と残部がベイナイト相からなる組織を有することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシート。
【請求項5】
前記機能部材側層の前記基地相が、前記硬質粒子および前記固体潤滑剤粒子を除く基地相面積を100%とする面積率で、0~30%の高合金相と残部がパーライトからなる組織を有することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシート。
【請求項6】
前記微細炭化物析出相は、粒径10μm以下の微細炭化物が析出し、ビッカース硬さで400~600HVの硬さを有する相であることを特徴とする請求項2または3に記載の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシート。
【請求項7】
前記固体潤滑剤粒子が、硫化マンガンMnS、二硫化モリブデンMoS2のうちから選ばれた1種または2種であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の鉄基焼結合金製バルブシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用バルブシートに係り、とくに、耐摩耗性に優れた鉄基焼結合金製バルブシートに関する。
【背景技術】
【0002】
バルブシートは、内燃機関のシリンダーヘッドに圧入されて、燃焼ガスのシールとバルブを冷却する役割を担っている。バルブによる叩かれ、すべりによる摩耗、燃焼ガスによる加熱、燃焼生成物による腐食等に晒されるため、従来からバルブシートには、耐熱性、耐摩耗性に優れること、相手材であるバルブを摩耗させないように相手攻撃性が低いことなどが要求されてきた。
【0003】
このような要求に対し、例えば、特許文献1には、耐摩耗性に優れた内燃機関用焼結合金製バルブシートが記載されている。特許文献1に記載された焼結合金製バルブシートは、基地相中に硬質粒子および固体潤滑剤粒子を分散させた鉄基焼結合金製バルブシートであり、基地相が、粒径:10μm以下の微細炭化物が析出し、ビッカース硬さで550HV以上の硬さを有する微細炭化物析出相であり、ビッカース硬さで650~1200HVの硬さを有する硬質粒子を面積率で20~40%分散させ、固相潤滑剤粒子を面積率で0~5%分散させた組織を有し、拡散相が面積率で0%超え5%以下形成し、固体潤滑剤粒子を面積率で0~5%分散させ、基地相と拡散相と硬質粒子と固体潤滑剤粒子とを含む基地部が、質量%で、C:0.5~2.0%、Si:0.5~2.0%、Mn:5%以下、Cr:2~15%、Mo:5~20%、Co:2~30%を含む組成を有するとしている。これにより、厳しい摩耗環境においても、バルブシートの耐摩耗性が向上するとしている。
【0004】
また、特許文献2には、鉄基焼結合金製バルブシートが記載されている。特許文献2に記載されたバルブシートは、バルブ着座側部とヘッド着座側部とが一体で焼結された二層構造を有するバルブシートである。バルブ着座側部は、体積率で10~25%の気孔率と6.1~7.1g/cm3の焼結後密度とを有し、基地相中に硬質粒子を分散させ、硬質粒子が、C、Cr、Mo、Co、Si、Ni、S、Feのうちから選ばれた1種または2種以上の元素からなる粒子であり、面積率で5~40%分散し、基地相と硬質粒子を含む基地部の組成が、質量%で、Ni:2.0~23.0%、Cr:0.4~15.0%、Mo:3.0~15.0%、Cu:0.2~3.0%、Co:3.0~15.0%、V:0.1~0.5%、Mn:0.1~0.5%、W:0.2~6.0%、C:0.8~2.0%、Si:0.1~1.0%、S:0.1~1.0%のうちから選ばれた1種または2種以上を合計で10.0~40.0%含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鉄基焼結合金材からなるとしている。なお、特許文献2には、上記した硬質粒子として、Cr-Mo-Co系金属間化合物粒子、Ni-Cr-Mo-Co系金属間化合物粒子、Fe-Mo合金粒子、Fe-Ni-Mo-S系合金粒子、Fe-Mo-Si系合金粒子が例示されている。
【0005】
特許文献1、2に記載されたバルブシートでは、基地相の高温強度や靭性の向上や、耐摩耗性の向上に寄与するとして、基地相や硬質粒子に多量のCoを含有させることが好ましいとしている。しかし、近年、Coは産出国の政治的不安定さや、リチウムイオン電池などの他の分野におけるCo使用量の増加に関連して、価格が高騰したり、入手が困難になったりする恐れが強くなっている。そのため、Coの使用を制限することが要望されている。
【0006】
このような要望に対し、例えば、特許文献3には、鉄基焼結合金製バルブシートが提案されている。特許文献3に記載された鉄基焼結合金製バルブシートは、基地相中に硬質粒子が分散し、全体の組成が、質量%で、Cr:5.0~20.0%、Si:0.4~2.0%、Ni:2.0~6.0%、Mo:5.0~25.0%、W:0.1~5.0%、V:0.5~5.0%、Nb:1.0%以下、C:0.5~1.5%、を含み、残部Fe及び不可避的不純物からなる組成を有する鉄基焼結合金製バルブシートである。特許文献3に記載された鉄基焼結合金製バルブシートでは、硬質粒子として、質量%で、Mo:40.0~70.0%、Si:0.4~2.0%、C:0.1%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなるFe-Mo-Si合金粒子を用いることが好ましいとしている。
【0007】
また、特許文献4には、硬質粒子分散型鉄基焼結合金が提案されている。特許文献4に記載された硬質粒子分散型鉄基焼結合金は、重量百分率で、Si:0.4~2%、Ni:2~12%、Mo:3~12%、Cr:0.5~5%、V:0.6~4%、Nb:0.1~3%、C:0.5~2%、および残部Feを含む基地中に、合金全体を基準として3~20%の硬質粒子が分散されて焼結され、硬質粒子はMo:60~70%、B:0.3~1%、C:0.1%以下を含み、残部Feを含む硬質粒子分散型鉄基焼結合金である。フェロモリブデン系硬質粒子にBを添加すると、Bは、フェロモリブデンの濡れ性を向上し、硬質粒子の基地からの脱落を防止し、基地と硬質粒子との密着性が向上し、焼結合金の熱的強度、機械的強度を向上できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2018-90900号公報
【特許文献2】特開2004-232088号公報
【特許文献3】特開2015-178650号公報
【特許文献4】特開2005-325436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献3、4に記載された技術では、分散させたCoを含有しない鉄基硬質粒子が、従来のCo基硬質粒子より割れ、欠けを生じやすく、基地相から硬質粒子が脱落し、とくに、近年の厳しいバルブシート使用環境下では、所望の耐摩耗性を確保できないという問題があることを知見した。また、常用のCoを含有しないNi基硬質粒子を分散させた場合には、硬さが低く、凝着が発生しやすいという問題があった。Coは、硬質粒子に含有される場合は基地への拡散、基地に含まれる場合は、基地の焼結の進行を促進させる等の効果に寄与し、バルブシートの強度向上に大きな役割を果たしているが、特許文献3、4に記載された技術では、Coを含有しないことにより硬質粒子から基地への合金元素の拡散や、基地の焼結を促進させる効果が乏しく、バルブシートとして十分な強度が得られないためであると考えた。
【0010】
本発明は、かかる従来技術の問題に鑑み、Coを含有しない焼結体組成を有し、耐摩耗性に優れ、かつバルブシートとして十分な強度を有する内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートを提供することを目的とする。なお、ここでいう「耐摩耗性に優れた」とは、従来のCo含有焼結体組成の鉄基焼結合金製バルブシートに比べて、耐摩耗性が向上した場合をいうものとする。なお、ここでいう「バルブシートとして十分な強度」とは、圧入時等に亀裂、割れが発生しない強度をいい、JIS Z 2507の規定に準拠して求めた圧環強さを基に判断できる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記した目的を達成するため、まず、Coを含有しない組成の硬質粒子およびCoを含有しない組成の基地相の耐摩耗性に対する影響について、鋭意検討した。その結果、Coを含有しない組成の硬質粒子でも硬質粒子の割れ、欠けの発生を回避して、硬さを確保し、かつ硬質粒子および基地の凝着を回避することにより、耐摩耗性の低下を防止でき、従来のCo基硬質粒子を用いたと同等かそれ以上の耐摩耗性を確保できることを新規に知見した。
【0012】
そして、更なる検討の結果、硬質粒子としては、質量%で、1.5~3.5%Si-7.0~9.0%Cr-35.0~45.0%Mo-5.0~20.0%Niを含み残部Feおよび不可避的不純物からなる組成のSi-Cr-Ni-Fe系Mo基金属間化合物粒子とすることが好ましい、ことを見出した。
【0013】
まず、本発明の基礎となった実験結果について、説明する。
基地相形成用の鉄基粉末と、硬質粒子粉末と、合金元素粉末と、固体潤滑剤粉末と、を表1に示す配合量となるように調整し、混合して、混合粉とした。使用した基地相形成用鉄基粉末は、表2に示す組成の鉄基粉末No.a、No.bとした。また、使用した硬質粒子粉末は、表3に示す組成の硬質粒子粉末No.MA、No.MDとした。硬質粒子粉末No.MAは、常用のCo基金属間化合物粒子粉であり、硬質粒子粉末No.MDは、Coを含有しないMo基金属間化合物粒子粉である。各粒子粉のビッカース硬さHVを表3に併記した。なお、固体潤滑剤粒子粉末はMnS粒子粉末を用いた。また、混合粉には、潤滑剤として、混合粉100質量部に対し、ステアリン酸亜鉛を0.75質量部配合した。
【0014】
得られた混合粉を、ついで、金型に充填し、粉末成形機で所定のバルブシート形状の圧粉体とし、さらに脱ワックス工程を経て、還元雰囲気中で、1100℃~1200℃×0.5hrの焼結処理を施し、焼結体とした。得られた焼結体に、さらに切削、研磨等の加工を施して、所定寸法形状(外径:32.1mmφ×内径:26.1mmφ×厚さ5.5mm)の鉄基焼結合金製バルブシートとした。
【0015】
得られたバルブシート(焼結体)について、硬質粒子割れ耐性試験、摩耗試験を実施した。試験方法は次の通りとした。
(1)硬質粒子割れ耐性試験
得られたバルブシート(焼結体)について、断面を研磨し、ビッカース硬さ計(試験力:0.98N)を用いて基地相中に分散した硬質粒子(各20個)内に収まるように圧痕を付与し、圧痕を付与した各粒子における割れ発生の有無を光学顕微鏡で観察した。圧痕から外に亀裂が発生している場合を割れが発生したと判断し、割れが発生した粒子数(割れ発生個数)を調査した。バルブシートNo.S1の割れ発生個数を基準(=1.0)として、基準に対する当該バルブシートの硬質粒子の割れ発生個数比(割れ発生比)を算出した。
(2)摩耗試験
得られたバルブシートについて、図1に示すリグ試験機を用いて、下記に示す試験条件で、摩耗試験を実施した。
試験温度:200℃(シートフェース)、
試験時間:8hr、
カム回転数:3000rpm、
バルブ回転数:10rpm、
衝撃荷重(スプリング荷重):780N、
バルブ材質:NCF751相当材、
リフト量:6mm
試験後、試験片(バルブシート)の摩耗量を測定した。得られた摩耗量から、バルブシートNo.S1を基準(=1.00)として、当該バルブシートの摩耗比を算出した。
(3)圧環強さ試験
得られたバルブシート(機能部材側層のみ)について、JIS Z 2507の規定に準拠して、圧環強さを求めた。
【0016】
得られた結果を表4に示す。
【0017】
【表1】
【0018】
【表2】
【0019】
【表3】
【0020】
【表4】
【0021】
Coを含有しない組成のMo基金属間化合物粒子粉である硬質粒子粉末No.MDを用いたバルブシート(No.S4)であれば、硬質粒子の割れ等の発生もなく、Co基金属間化合物粒子を硬質粒子として使用した場合(バルブシートNo.S1)と同等以上の耐摩耗性を有するバルブシートを得ることができる。すなわち、Coを含有しない組成のSi-Cr-Ni-Fe系Mo基金属間化合物粒子を硬質粒子として基地相中に分散させることにより、耐摩耗性の低下を防止できるという知見を得た。
【0022】
また、本発明者らは、更なる耐摩耗性の向上には、上記した組成の硬質粒子を分散させることに加えて、基地相において、微細炭化物析出相の割合を増加させることにより、耐摩耗性を向上させることができることを知見した。
【0023】
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成したものである。すなわち、本発明の要旨はつぎのとおりである。
[1]内燃機関のシリンダーヘッドに圧入されるバルブシートであって、
該バルブシートが機能部材側層と支持部材側層とが一体で焼結された二層構造を有し、
前記機能部材側層が、基地相と、該基地相中に面積率で10~40%の硬質粒子とさらに面積率で0~5%の固体潤滑剤粒子を分散させてなる組織を有し、前記硬質粒子が、ビッカース硬さで700~1300HVの硬さを有し、質量%で、Si:1.5~3.5%、Cr:7.0~9.0%、Mo:35.0~45.0%、Ni:5.0~20.0%を含み残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有するSi-Cr-Ni-Fe系Mo基金属間化合物粒子であり、さらに前記基地相、前記硬質粒子および前記固体潤滑剤粒子を含む基地部が、質量%で、C:0.5~2.0%、Si:0.2~2.0%、Mn:5%以下、Cr:0.5~15%、Mo:3~20%、Ni:1~10%、を含み、さらに、V:0~5%、W:0~10%、S:0~2%、Cu:0~5%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成を有する鉄基焼結合金材からなり、
前記支持部材側層が、基地相と、該基地相中に面積率で0~5%の固体潤滑剤粒子および面積率で0~5%の硬度改善粒子を分散させてなる組織と、さらに前記基地相、前記固体潤滑剤粒子および前記硬度改善粒子を含む基地部が、質量%で、C:0.3~1.3%を含み、さらに、Ni:0~2.0%、Mo:0~2.0%、Cu:0~5.0%、Cr:0~5.0%、Mn:0~5.0%、S:0~2.0%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、を有する鉄基焼結合金材からなり、
前記バルブシートの密度が6.70~7.20g/cm3であることを特徴とする内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシート。
[2]内燃機関のシリンダーヘッドに圧入されるバルブシートであって、
該バルブシートが機能部材側層からなる単層構造を有し、
前記機能部材側層が、基地相と、該基地相中に面積率で10~40%の硬質粒子とさらに面積率で0~5%の固体潤滑剤粒子を分散させてなる組織を有し、前記硬質粒子が、ビッカース硬さで700~1300HVの硬さを有し、質量%で、Si:1.5~3.5%、Cr:7.0~9.0%、Mo:35.0~45.0%、Ni:5.0~20.0%を含み残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有するSi-Cr-Ni-Fe系Mo基金属間化合物粒子であり、さらに前記基地相、前記硬質粒子および前記固体潤滑剤粒子を含む基地部が、質量%で、C:0.5~2.0%、Si:0.2~2.0%、Mn:5%以下、Cr:0.5~15%、Mo:3~20%、Ni:1~10%、を含み、さらに、V:0~5%、W:0~10%、S:0~2%、Cu:0~5%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成を有する鉄基焼結合金材からなり、
前記バルブシートの密度が6.70~7.20g/cm3であることを特徴とする内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシート。
[3]前記機能部材側層の前記基地相が、前記硬質粒子および前記固体潤滑剤粒子を除く基地相面積を100%とする面積率で、10~90%の微細炭化物析出相と0~30%の高合金相と残部がパーライトからなる組織を有することを特徴とする[1]または[2]に記載の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシート。
[4]前記機能部材側層の前記基地相が、前記硬質粒子および前記固体潤滑剤粒子を除く基地相面積を100%とする面積率で、0~15%の高合金相と残部が微細炭化物析出相からなる組織を有することを特徴とする[1]または[2]に記載の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシート。
[5]前記機能部材側層の前記基地相が、前記硬質粒子および前記固体潤滑剤粒子を除く基地相面積を100%とする面積率で、0~25%の高合金相と残部がベイナイト相からなる組織を有することを特徴とする[1]または[2]に記載の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシート。
[6]前記機能部材側層の前記基地相が、前記硬質粒子および前記固体潤滑剤粒子を除く基地相面積を100%とする面積率で、0~30%の高合金相と残部がパーライトからなる組織を有することを特徴とする[1]または[2]に記載の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシート。
[7]前記微細炭化物析出相は、粒径10μm以下の微細炭化物が析出し、ビッカース硬さで400~600HVの硬さを有する相であることを特徴とする[3]または[4]に記載の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシート。
[8]前記固体潤滑剤粒子が、硫化マンガンMnS、二硫化モリブデンMoS2のうちから選ばれた1種または2種であることを特徴とする[1]ないし[7]のいずれかに記載の鉄基焼結合金製バルブシート。
[9]前記硬度改善粒子が、鉄―モリブデン合金粒子であることを特徴とする[1]に記載の鉄基焼結合金製バルブシート。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、厳しい摩耗環境下においても、硬質粒子の割れ、欠けの発生が少なく、また、凝着の発生もなく、優れた耐摩耗性を有するバルブシートを得ることができ、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】リグ試験機の概要を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明のバルブシートは、鉄基焼結合金製で、バルブが着座する機能部材側層とシリンダーヘッドに着座し機能部材側層を支える支持部材側層とが一体で焼結された二層構造を有するか、あるいは機能部材側層のみの単層構造を有する。
【0027】
本発明バルブシートの機能部材側層を構成する鉄基焼結合金材は、基地相中に硬質粒子、あるいは更に固体潤滑剤粒子を分散させた組織を有し、耐摩耗性に優れた特性を有する。なお、ここでいう「耐摩耗性に優れた」とは、従来のCo含有焼結体組成の鉄基焼結合金材に比べて、同等またはそれ以上に、耐摩耗性が向上した場合をいうものとする。
【0028】
本発明バルブシートの機能部材側層で、基地相中に分散させる硬質粒子は、ビッカース硬さで700~1300HVの硬さを有するSi-Cr-Ni-Fe系Mo基金属間化合物粒子とする。
【0029】
硬質粒子の硬さが、700HV未満では、硬質粒子自体に凝着が発生し、耐摩耗性の向上効果が少なく、また1300HVを超えて高くなると、硬質粒子の靭性低下および被削性の低下を招く。このようなことから、基地相中に分散させる硬質粒子の硬さをビッカース硬さで700~1300HVの範囲に限定した。
【0030】
なお、本発明で基地相中に分散させる硬質粒子は、上記硬さを有し、平均粒径:10~150μmの粒子とすることが好ましい。平均粒径が10μm未満では、焼結時に拡散しやすく、一方、150μmを超えて大きくなると、基地との結合力が低下し、耐摩耗性が低下する。このため、基地相中に分散させる硬質粒子の平均粒径は10~150μmの範囲に限定することが好ましい。なお、ここでいう「平均粒径」は、レーザ散乱法で測定した累積分布が50%となる粒径D50を意味する。
【0031】
また、本発明では、上記した硬さの硬質粒子を基地相中に面積率で10~40%分散させる。硬質粒子の分散量が10%未満では、所望の耐摩耗性を確保できない。一方、40%を超えると、基地相との結合力が低下し、耐摩耗性が低下する。このため、基地相中に分散させる硬質粒子の分散量は基地相全体に対する面積率で10~40%の範囲に限定した。
【0032】
そして、本発明で、基地相中に分散させるSi-Cr-Ni-Fe系Mo基金属間化合物粒子は、質量%で、Si:1.5~3.5%、Cr:7.0~9.0%、Mo:35.0~45.0%、Ni:5.0~20.0%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成(硬質粒子組成)を有するMo基金属間化合物粒子とする。
【0033】
上記した硬質粒子組成の硬質粒子とすることにより、焼結後、金属間化合物が析出した組織の硬質粒子を含むバルブシートを得ることができる。また、ビッカース硬さで700HV以上の硬さを有し、割れ、欠け等の発生が抑制され、硬質粒子割れ耐性が高い金属間化合物を析出させた硬質粒子とするためには、Mo含有量を35.0~45.0%と高く維持することが重要である。また、さらに靭性を有し、所望の硬さを維持する硬質粒子とするためには、Ni含有量を5.0~20.0%の範囲とすることが重要となる。
【0034】
また、本発明バルブシートの機能部材側層では、さらに基地相中に固体潤滑剤粒子を分散させてもよい。基地相中に固体潤滑剤粒子を分散させることにより、被削性、潤滑性が向上する。しかし、面積率で5%を超えて分散させると、機械的特性の低下が著しくなる。このため、固体潤滑剤粒子は面積率で0~5%の範囲に限定した。なお、固体潤滑剤粒子は、硫化マンガンMnS、二硫化モリブデンMoS2のうちから選ばれた1種または2種とすることが好ましい。
【0035】
本発明バルブシートの機能部材側層の基地相は、硬質粒子、固体潤滑剤粒子を除く基地相面積を100%とする面積率で、10~90%、より好ましくは10~85%の微細炭化物析出相と、0~30%の高合金相と残部がパーライトからなる組織を有するか、あるいは0~15%の高合金相と残部が微細炭化物析出相からなる組織を有するか、あるいは0~25%の高合金相と残部がベイナイト相からなる組織を有することが好ましい。微細炭化物析出相は、粒径10μm以下の微細炭化物が析出し、ビッカース硬さで400~600HVの硬さを有する硬質な相とする。このような硬質の微細炭化物析出相の存在により、基地が強化でき、耐摩耗性がより向上する。なお、本発明バルブシートの機能部材側層では、硬質粒子、固体潤滑剤粒子を除く基地相を、0~30%の高合金相と残部がパーライトからなる組織としてもよい。このような組織の基地相でも、Coを含有しない組成の焼結体であれば、Coを含有する組成の焼結体に比べて同一硬さレベルで比較して耐摩耗性は向上する。
【0036】
なお、高合金相は、焼結時に硬質粒子から合金元素が拡散し合金量が高くなった領域であり、硬質粒子の脱落を防止する作用を有する。機能部材側層では、硬質粒子、固体潤滑剤粒子を除く基地相面積を100%としたときの面積率で、30%まで高合金相を許容できる。
【0037】
このように、本発明バルブシートの機能部材側層は、上記した組織の基地相中に、上記した組成、組織、硬さの硬質粒子、上記した組成の固体潤滑剤粒子を所定量分散させた組織を有する。
【0038】
そして、本発明バルブシートの機能部材側層では、基地相、硬質粒子および固体潤滑剤粒子を含む基地部は、質量%で、C:0.5~2.0%、Si:0.2~2.0%、Mn:5%以下、Cr:0.5~15%、Mo:3~20%、Ni:1~10%、を含み、さらに、V:0~5%、W:0~10%、S:0~2%、Cu:0~5%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成を有する。
【0039】
つぎに、機能部材側層の基地部組成における限定理由について説明する。なお、以下、組成における質量%は、単に%で記す。
【0040】
C:0.5~2.0%
Cは、基地相を所定の硬さ、組織に調整するため、あるいは炭化物を形成するために必要な元素であり、0.5%以上含有させる。一方、2.0%を超えて含有すると、融点が低下し、焼結処理が液相焼結となる。液相焼結となると、析出炭化物量が多くなりすぎ、また、空孔の数が増加し、伸び特性、寸法精度が低下する。このため、Cは0.5~2.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.50~2.00%、より好ましくは1.00~1.50%である。
【0041】
Si:0.2~2.0%
Siは、主として硬質粒子に含まれ、金属間化合物を構成する元素で、硬質粒子の硬さを増加させるとともに、基地強度を増加させ耐摩耗性を向上させる。このためには、0.2%以上含有することが好ましい。一方、2.0%を超えて含有すると、相手攻撃性が増加する。このようなことから、Siは0.2~2.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.20~2.00%である。より好ましくは0.20~1.40%である。
【0042】
Mn:5%以下
Mnは、基地相の硬さを増加させる元素であり、またMnは固体潤滑剤粒子に起因して基地部に含まれ、被削性向上に寄与する元素であり、0.05%以上含有することが好ましい。一方、5%を超えて含有すると基地相硬さ、靭性、延性が低下する。このため、Mnは5%以下の範囲に限定した。なお、好ましくは5.00%以下、より好ましくは0.20~3.00%である。
【0043】
Cr:0.5~15%
Crは、基地相に固溶し、また炭化物を形成して基地相の硬さを増加させるとともに、Crは金属間化合物の構成元素として硬質粒子の硬さ増加に寄与する元素であり、基地部として0.5%以上含有することが好ましい。一方、15%を超えると、基地相中にCr炭化物の析出が過多となり、基地相中の炭化物を微細な炭化物とすることが難しくなる。このため、Crは0.5~15%の範囲に限定した。なお、好ましくは1.00~15.00%、より好ましくは0.70~6.00%である。
【0044】
Mo:3~20%
Moは、基地相に固溶して、また炭化物として析出して基地相硬さを増加させ、さらにMoは金属間化合物の構成元素として硬質粒子の硬さ増加に寄与する元素であり、基地部として3%以上含有することが好ましい。一方、20%を超えると、粉末成形時の密度が増加しにくく、成形性が低下する。このため、Moは3~20%の範囲に限定した。なお、好ましくは4.00~20.00%、より好ましくは4.00~19.00%である。
【0045】
Ni:1~10%
Niは、基地相の強度、靭性の向上に寄与する元素であり、また、Niは金属間化合物の構成元素として硬質粒子の硬さ増加に寄与する元素であり、1%以上含有する。一方、10%を超える含有は、粉末成形時の密度が増加しにくく、成形性を低下させる。このため、Niは1~10%の範囲に限定した。なお、好ましくは1.00~10.00%、より好ましくは2.00~9.00%である。
【0046】
上記した成分が基本の成分であるが、更に選択元素として、V:0~5%、W:0~10%、S:0~2%、Cu:0~5%を含有できる。
【0047】
V:0~5%
Vは、微細炭化物として析出し、基地相の硬さを増加させて、耐摩耗性を向上させる元素であり、必要に応じて含有できる。含有する場合には0.5%以上とすることが好ましい。一方、5%を超える含有は、成形性を低下させる。このため、Vは0~5%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは5.00%以下、さらに好ましくは2.00%以下である。
【0048】
W:0~10%
Wは、微細炭化物として析出し、基地相の硬さを増加させて、耐摩耗性を向上させる元素であり、必要に応じて含有できる。含有する場合には、0.5%以上含有することが好ましい。一方、10%を超える含有は、成形性を低下させる。このため、Wは0~10%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは10.00%以下、さらに好ましくは5.00%以下である。
【0049】
S:0~2%
Sは、固体潤滑剤粒子に含有され、基地部に含まれ、被削性向上に寄与する元素であり、必要に応じて含有できる。Sが2%を超えて含有されると、靭性、延性の低下に繋がる。このため、Sは0~2%の範囲に限定することが好ましい。より好ましくは2.00%以下である。
【0050】
Cu:0~5%
Cuは、基地相の強度、靭性の向上に寄与する元素であり、必要に応じて含有できる。Cuが、5%を超えて含有されると、耐凝着性の低下に繋がる。このため、Cuは0~5%の範囲に限定することが好ましい。より好ましくは5.00%以下である。
【0051】
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。なお、不可避的不純物としては、P:0.1%以下が許容できる。
【0052】
また、本発明バルブシートの支持部材側層を構成する鉄基焼結合金材は、基地相と、該基地相中に固体潤滑剤粒子を面積率で0~5%、硬度改善粒子を面積率で0~5%、分散させてなる組織を有する。本発明バルブシートの支持部材側層の基地相は、固体潤滑剤粒子、硬度改善粒子を除く基地相面積を100%としたときの面積率で、100%のパーライトまたは100%のベイナイト相からなる組織とすることが好ましい。なお、基地相には、固体潤滑剤粒子を除く基地相面積を100%としたときの面積率で5%までの高合金相は許容できる。なお、硬度改善粒子は、鉄―モリブデン合金(Fe-Mo合金、フェロモリブデン合金ともいう)粒子とすることが好ましい。Fe-Mo合金粒子は、例えば60質量%Moを含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成の粒子とすることが好ましい。
【0053】
そして、本発明バルブシートの支持部材側層では、基地相、固体潤滑剤粒子および硬度改善粒子を含む基地部が、質量%で、C:0.3~1.3%を含み、さらに、Ni:0~2.0%、Mo:0~2.0%、Cu:0~5.0%、Cr:0~5.0%、Mn:0~5.0%、S:0~2.0%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する。
なお、支持部材側層の基地部組成の限定理由は、以下のとおりである。
【0054】
C:0.3~1.3%
Cは、支持部材側層の基地相を所定の硬さ、組織に調整するため、あるいは炭化物を形成するために必要な元素であり、0.3%以上含有させる。一方、1.3%を超えて含有すると、融点が低下し、焼結処理が液相焼結となる。液相焼結となると、析出炭化物量が多くなりすぎ、伸び特性、寸法精度が低下する。このため、Cは0.3~1.3%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.30~1.30%、より好ましくは0.80~1.20%である。
【0055】
Ni:0~2.0%、Mo:0~2.0%、Cu:0~5.0%、Cr:0~5.0%
Ni、Mo、Cu、Crは、いずれも基地相の硬さを増加させる元素であり、必要に応じて含有できる。このような効果を得るためには、Ni:0.1%以上、Mo:0.1%以上、Cu:0.1%以上、Cr:0.1%以上含有することが望ましい。一方、Ni:2.0%、Mo:2.0%、Cu:5.0%、Cr:5.0%をそれぞれ超えて含有すると、基地相の成形性が低下する。このため、Ni:0~2.0%、Mo:0~2.0%、Cu:0~5.0%、Cr:0~5.0%の範囲に限定することが好ましい。より好ましくはNi:2.00%以下、Mo:2.00%以下、Cu:5.00%以下、Cr:5.00%以下である。
【0056】
Mn:0~5.0%、S:0~2.0%
Mn、Sは、いずれも固体潤滑剤粒子の含有に起因して基地部に含まれ、被削性向上に寄与する元素であり、必要に応じて含有できる。なお、Mnは基地相の硬さ増加にも寄与する。Sが2.0%、Mnが5.0%を超えて超えると、延性の低下が著しくなる。このため、S:0~2.0%、Mn:0~5.0%に限定することが好ましい。より好ましくはS:2.00%以下、Mn:5.00%以下である。
【0057】
支持部材側層では、上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。なお、不可避的不純物としては、P:0.1%以下が許容できる。
【0058】
次に、本発明バルブシートの好ましい製造方法について説明する。
まず、上記した基地相組成および組織、基地部組成および組織となるように、機能部材側層用の原料粉、支持部材側層用の原料粉を、それぞれ配合し混合して、機能部材側層用の混合粉および支持部材側層用混合粉とする。機能部材側層用の原料粉としては、基地相形成用の鉄基粉末に、合金元素粉末と、硬質粒子粉末と、固体潤滑剤粒子粉末とを、上記した所定の組成、組織となるように、配合する。また、支持部材側層用の原料粉としては、基地相形成用の鉄基粉末に、黒鉛粉末、あるいはさらに合金元素粉と固体潤滑剤粒子粉末と硬度改善粒子粉末を、上記した所定の組成、組織となるように、配合する。なお、原料粉として、混合粉に配合する硬質粒子粉末は、上記した硬質粒子組成を有する溶湯を、常用の溶製方法で溶製し、常用のアトマイズ法を用いて粉末(硬質粒子用粉末)とすることが好ましい。
【0059】
なお、混合粉に配合する鉄基粉末は、アトマイズ純鉄粉、還元鉄粉、合金鋼粉末のいずれか、あるいはそれらの混合とすることが好ましい。合金鋼粉末としては、基地相として、上記した硬さを有する微細炭化物析出相を形成できるように、JIS G 4403に規定される高速度工具鋼組成の粉末とすることが好ましい。高速度工具鋼としてはSKH51等のMo系とすることが好ましい。高速度工具鋼組成以外にも、上記した硬さを有し、微細炭化物析出相あるいはベイナイト相となることができる組成の合金鋼を用いてもなんら問題はない。なお、混合粉には、純鉄粉に、あるいは純鉄粉と上記した組成の合金鋼粉末に、あるいは上記した組成の合金鋼粉末に、上記した基地相組成となるように、黒鉛粉末、さらには合金元素粉末を配合することは言うまでもない。なお、混合粉には、ステアリン酸亜鉛等の潤滑剤を配合してもよい。
【0060】
ついで、得られた混合粉を、金型に充填し、粉末成形機等で成型加工を施して、所定寸法形状のバルブシート形状の圧粉体とする。なお、二層構造の場合には、支持部材側層用原料粉と機能部材側層用原料粉とを、二層となるように順次金型に充填する。一方、単層構造の場合には、機能部材側層用原料粉を金型に充填する。
【0061】
ついで、得られた圧粉体に焼結処理を施して、焼結体とする。
焼結処理は、アンモニア分解ガス、真空等の還元雰囲気中で、加熱温度:1100~1200℃の温度範囲で、0.5hr以上保持する処理とすることが好ましい。なお、粉末成形―焼結処理を1回施す工程(1P1S)としても、あるいは複数回繰返す工程(2P2S等)を施してもよいことは言うまでもない。
得られた焼結体を、切削、研削等の加工により、所望の寸法形状のバルブシートとする。
【0062】
以下、実施例に基づき、さらに本発明について説明する。
【実施例0063】
(実施例1)
まず、機能部材側層用混合粉と支持部材側層用混合粉を用意した。
機能部材側層用混合粉は、基地相形成用の鉄基粉末と、黒鉛粉末、合金元素粉末と、硬質粒子粉末と、固体潤滑剤粒子粉末(MnS粉末)と、を表7に示す配合量となるように調整し、混合して、混合粉とした。なお、使用した鉄基粉末は、表5に示す組成の純鉄粉(アトマイズ純鉄粉、還元鉄粉)、高速度鋼粉、合金鋼粉とした。また、使用した硬質粒子粉末は、表6に示す組成の硬質粒子粉末とした。なお、硬質粒子粉末No.Aは、常用のCo基金属間化合物粒子粉末であり、従来例とした。また、表6には、各硬質粒子の焼結前のビッカース硬さHV、平均粒子径D50を併記した。
【0064】
支持部材側層用混合粉は、基地相形成用の鉄基粉末と、黒鉛粉末、合金元素粉末と、硬度改善粒子粉末と、固体潤滑剤粒子粉末(MnS粉末)と、を表8に示す配合量となるように調整し、混合して、混合粉とした。なお、使用した鉄基粉末は、表5に示す組成の純鉄粉(アトマイズ純鉄粉、還元鉄粉)とした。また、使用した硬度改善粒子粉末は、Mo:60質量%を含み残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の鉄―モリブデン合金粒子粉末とした。
【0065】
なお、混合粉には、潤滑剤として、混合粉100質量部に対し、ステアリン酸亜鉛を0.75質量部配合した。
【0066】
ついで、得られた機能部材側層用混合粉と支持部材側層用混合粉を、二層となるように、順次金型に充填し、粉末成形機で所定のバルブシート形状の圧粉体を成形した。なお、バルブシートNo.17Aは機能部材側層のみの単層とした。
【0067】
ついで、得られた圧粉体に、さらに潤滑材を除去する脱脂工程と、アンモニア分解ガス中で、1100℃~1200℃×0.5hrの焼結処理とを施し、焼結体とした。
なお、一部では、粉末成形―焼結処理を2回施す工程(2P2S)とした。
【0068】
得られた焼結体に、さらに切削、研磨等の加工を施して、所定寸法形状(外径:32.1mmφ×内径:26.1mmφ×厚さ5.5mm)の鉄基焼結合金製バルブシートとした。
【0069】
得られたバルブシート(焼結体)について、焼結体各部位の基地部組成を分析し、さらに組織観察、硬さ測定、密度測定、硬質粒子割れ耐性試験、摩耗試験、圧環強さ試験を実施した。試験方法は次の通りとした。
(1)組織観察
得られたバルブシートについて、軸方向に垂直な断面を研磨し、腐食(腐食液:ナイタール液、マーブル液)して組織を現出し、光学顕微鏡(倍率:200倍)で、基地相の組織を特定した。また、走査型電子顕微鏡(倍率:2000倍)を用いて、基地相中に析出した炭化物の粒径を測定し、炭化物の粒径(長辺長さ)が最大で10μm以下であることを確認し、炭化物が析出した相が微細炭化物析出相であることを確認した。炭化物の粒径(長辺長さ)が最大で10μmを超える場合は炭化物析出相とした。
(2)硬さ試験
得られたバルブシートについて、断面を研磨し、腐食(腐食液:ナイタール液、マーブル液)して組織を現出し、ビッカース硬さ計(試験力:0.98N)を用いて基地相の硬さを測定した。なお、基地相が二相の場合にはそれぞれ別々に測定した。
(3)密度試験
得られたバルブシートについて、アルキメデス法を用いて、バルブシートの密度を測定した。
(4)硬質粒子割れ耐性試験
得られたバルブシートについて、断面を研磨し、ビッカース硬さ計(試験力:0.98N)を用いて基地相中に分散した硬質粒子(各20個)に圧痕を付与し、圧痕を付与した各粒子における割れ発生の有無を観察し、割れ発生個数を調査した。なお、倍率500倍で観察し付与した圧痕より外側に亀裂が進展していれば割れ発生と判断した。そして、従来例であるバルブシートNo.1Aの割れ発生個数を基準(=1.0)として、基準に対する当該バルブシートの硬質粒子の割れ発生個数比(割れ発生比)を算出した。得られた結果から、割れ発生比が1.0未満である場合を〇(割れ耐性あり)、1.0以上である場合を×(割れ耐性なし)と評価した。
(5)摩耗試験
得られたバルブシートについて、図1に示すリグ試験機を用いて、下記に示す試験条件で、摩耗試験を実施した。
試験温度:200℃(シートフェース)、
試験時間:8hr、
カム回転数:3000rpm、
バルブ回転数:10rpm、
衝撃荷重(スプリング荷重):780N、
バルブ材質:NCF751相当材、
リフト量:6mm
試験後、試験片(バルブシート)の摩耗量を測定した。得られた摩耗量から、従来例であるバルブシートNo.1Aを基準(=1.00)として、当該バルブシートの摩耗比を算出した。
(6)圧環強さ
得られたバルブシート(機能部材側層のみ)について、JIS Z 2507の規定に準拠して、圧環強さ(kg/mm2)を求めた。なお、圧環強さが40kg/mm2以上であれば、バルブシート圧入時に割れ、欠けの発生のない、バルブシートとして十分な強度を有することを確認している。
【0070】
なお、硬質粒子割れ耐性試験、摩耗試験で、基準としたバルブシートNo.1A(従来例)は、機能部材側層が、基地相中に硬質粒子、固体潤滑剤粒子を分散させた組織と、Co含有組成とを有する鉄基焼結合金材であり、一般的なガソリンエンジンから高性能ガソリンエンジンまで幅広い範囲の排気側向けバルブシートに使用される材料である。バルブシートは排気側と吸気側で耐摩耗性に影響を及ぼす項目(例えば、熱負荷・動弁機構の設計値など)の影響度合いが異なり、一般的には排気側の方が使用環境として厳しく、バルブシートの耐摩耗性としても吸気側以上の性能が要求される。
【0071】
得られた結果を表9、10に示す。
【0072】
【表5】
【0073】
【表6】
【0074】
【表7】
【0075】
【表8】
【0076】
【表9】
【0077】
【表10】
【0078】
本発明例(参考例)はいずれもCoを含有せずに、従来例(バルブシートNo.1A)と同等かそれ以上の優れた耐摩耗性を有し、かつバルブシートとして十分な圧環強さを有するバルブシートとなっている。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、従来例(バルブシートNo.1A)に比べて、摩耗比が高くなっている。
【0079】
(実施例2)
まず、機能部材側層用混合粉と支持部材側層用混合粉を用意した。
機能部材側層用混合粉は、基地相形成用の鉄基粉末と、黒鉛粉末、合金元素粉末と、硬質粒子粉末と、固体潤滑剤粒子粉末(MnS粉末)と、を表13に示す配合量となるように調整し、混合して、混合粉とした。使用した鉄基粉末は、表11に示す組成の純鉄粉(アトマイズ純鉄粉、還元鉄粉)、合金鉄粉(プレアロイ粉)とした。また、使用した硬質粒子粉末は、表12に示す組成の硬質粒子粉末とした。なお、硬質粒子粉末No.Aは、常用のCo基金属間化合物粒子粉末であり、硬質粒子粉末No.Aを配合した混合粉D1は従来例とした。また、表12には、各硬質粒子の焼結前のビッカース硬さHV、平均粒子径D50を併記した。
【0080】
支持部材側層用混合粉は、基地相形成用の鉄基粉末と、黒鉛粉末、合金元素粉末と、硬度改善粒子粉末と、を表14に示す配合量となるように調整し、混合して、混合粉とした。なお、使用した鉄基粉末は、表11に示す組成の純鉄粉(アトマイズ純鉄粉)No.aとした。また、使用した硬度改善粒子粉末は、Mo:60質量%を含み残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の鉄―モリブデン合金粒子粉末Fe-Moとした。また、固体潤滑剤粒子粉末(MnS粉末)は添加しなかった。
【0081】
なお、混合粉には、潤滑剤として、混合粉100質量部に対し、ステアリン酸亜鉛を0.75質量部配合した。
【0082】
ついで、得られた機能部材側層用混合粉と支持部材側層用混合粉を、二層となるように、順次金型に充填し、粉末成形機で所定のバルブシート形状の圧粉体を成形した。ついで、得られた圧粉体に、さらに潤滑材を除去する脱脂工程と、アンモニア分解ガス中で、1100~1200℃×0.5hrの焼結処理とを施す工程(1P1S)を行い、焼結体とした。
【0083】
得られた焼結体に、さらに切削、研磨等の加工を施して、所定寸法形状(外径:32.1mmφ×内径:26.1mmφ×厚さ5.5mm)の鉄基焼結合金製バルブシートとした。
【0084】
得られたバルブシート(焼結体)について、焼結体各部位の基地部組成を分析し、さらに組織観察、硬さ測定、密度測定、硬質粒子割れ耐性試験、摩耗試験、圧環強さ試験を実施した。試験方法は実施例1と同様とした。なお、硬質粒子割れ耐性試験では、バルブシートNo.1Bの割れ発生個数を基準(=1.0)として、基準に対する当該バルブシートの硬質粒子の割れ発生個数比(割れ発生比)を算出した。また、摩耗試験では、バルブシートNo.1Bを基準(=1.00)として、当該バルブシートの摩耗比を算出した。
【0085】
なお、硬質粒子割れ耐性試験、摩耗試験で、基準としたバルブシートNo.1B(従来例)は、一般的なガソリンエンジンの吸気側向けバルブシートに使用される材料であり、機能部材側層が、Co含有組成を有する鉄基焼結合金材である。吸気側で使用されるバルブシートは、排気側で使用されるバルブシートに比べ、要求される耐摩耗性は低い。
【0086】
得られた結果を表15、表16に示す。
【0087】
【表11】
【0088】
【表12】
【0089】
【表13】
【0090】
【表14】
【0091】
【表15】
【0092】
【表16】
【0093】
本発明例(参考例)は、基地相の組織が高合金相とパーライトからなる組織となっても、同一硬さレベルであるCoを含有する組成の焼結体(従来例No.1B)に比べて、同等かそれ以上の優れた耐摩耗性と、十分な圧環強さを有するバルブシートとなっている。例えば、耐摩耗性要求の比較的低い、吸気側バルブシートに十分に適用可能といえる。
【符号の説明】
【0094】
1 バルブシート
2 シリンダーブロック相当材
3 加熱手段
4 バルブ
図1