(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156433
(43)【公開日】2023-10-24
(54)【発明の名称】心電図分析装置、心電図分析方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/36 20210101AFI20231017BHJP
A61B 5/35 20210101ALI20231017BHJP
A61B 5/366 20210101ALI20231017BHJP
【FI】
A61B5/36
A61B5/35
A61B5/366
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023131953
(22)【出願日】2023-08-14
(62)【分割の表示】P 2023534044の分割
【原出願日】2023-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2022065008
(32)【優先日】2022-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】519409257
【氏名又は名称】株式会社カルディオインテリジェンス
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】波多野 薫
(72)【発明者】
【氏名】武智 峰樹
(72)【発明者】
【氏名】高田 智広
(72)【発明者】
【氏名】谷口 浩久
(72)【発明者】
【氏名】田村 雄一
(57)【要約】 (修正有)
【課題】心電図波形において所定種別の波の位置を検出する精度を向上させることを目的とする。
【解決手段】心電図分析装置3は、心電図データを1拍ごとに分離することによって生成された複数の心電図波形を取得する取得部331と、複数の心電図波形を、形状の類似性に基づいて複数のグループに分類する分類部332と、複数のグループから選択された選択グループに属する少なくとも1つの心電図波形に対応する代表波形において指定された所定種別の波の基準位置を受け付ける受付部333と、分析対象の心電図波形が属するグループの代表波形における時間軸上の複数の位置と、分析対象の心電図波形における時間軸上の複数の位置と、の対応関係を特定し、対応関係が示す、代表波形における基準位置に対応する分析対象の心電図波形における位置を、分析対象の心電図波形に含まれる所定種別の波の位置として決定する分析部335と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心電図データを1拍ごとに分離することによって生成された複数の心電図波形を取得する取得部と、
前記複数の心電図波形を、形状の類似性に基づいて複数のグループに分類する分類部と、
前記複数のグループから選択された選択グループに属する少なくとも1つの前記心電図波形に対応する代表波形において指定された所定種別の波の基準位置を受け付ける受付部と、
分析対象の前記心電図波形が属する前記グループの前記代表波形における時間軸上の複数の位置と、分析対象の前記心電図波形における時間軸上の複数の位置と、の対応関係を特定し、前記対応関係が示す、前記代表波形における前記基準位置に対応する分析対象の前記心電図波形における位置を、分析対象の前記心電図波形に含まれる前記所定種別の波の位置として決定する分析部と、
を有する、心電図分析装置。
【請求項2】
前記受付部は、前記代表波形においてQ波の前記基準位置及びT波の前記基準位置を受け付け、
前記分析部は、分析対象の前記心電図波形に含まれる前記Q波の位置及び前記T波の位置を決定する、
請求項1に記載の心電図分析装置。
【請求項3】
前記分析部は、前記Q波の位置及び前記T波の位置の間隔と、前記間隔を分析対象の前記心電図波形から特定した心拍数を用いて補正することによって算出した補正後間隔と、の少なくとも一方を算出する、
請求項2に記載の心電図分析装置。
【請求項4】
前記グループに属する前記複数の心電図波形における前記間隔又は前記補正後間隔の統計量が閾値以上であることを条件として、前記グループに属する前記複数の心電図波形のうち、前記グループの前記代表波形との類似度が最も高い前記心電図波形を出力する出力部をさらに有する、
請求項3に記載の心電図分析装置。
【請求項5】
前記分析部は、前記グループに属する前記複数の心電図波形における前記間隔又は前記補正後間隔のばらつきを示す値が閾値以上である場合に前記グループが異常であると判定し、前記ばらつきを示す値が前記閾値未満である場合に前記グループが異常でないと判定し、
前記分析部は、前記グループが異常であると判定した場合と前記グループが異常でないと判定した場合とで異なる情報を生成する、
請求項3に記載の心電図分析装置。
【請求項6】
前記受付部は、前記分析部が異常であると判定した前記グループの前記代表波形において前記基準位置の指定を再び受け付ける、
請求項5に記載の心電図分析装置。
【請求項7】
前記代表波形は、前記選択グループに属する前記複数の心電図波形のうち、前記選択グループに属する前記複数の心電図波形の統計量である波形との類似度が最も高いいずれか1つの前記心電図波形である、
請求項1から4のいずれか一項に記載の心電図分析装置。
【請求項8】
前記受付部は、前記代表波形を情報端末に表示させ、前記情報端末において前記代表波形に対して指定された位置を、前記基準位置として受け付ける、
請求項1から4のいずれか一項に記載の心電図分析装置。
【請求項9】
前記受付部は、前記情報端末において前記代表波形に対して位置の指定を複数回受け付け、指定された複数の位置の統計量に対応する位置を、前記基準位置として受け付ける、
請求項8に記載の心電図分析装置。
【請求項10】
前記グループに属する前記心電図波形と、前記グループに属する前記複数の心電図波形の統計量である波形と、の類似度が閾値以上である場合に前記心電図波形が異常でないと判定し、当該類似度が前記閾値未満である場合に前記心電図波形が異常であると判定する判定部をさらに有し、
前記分析部は、分析対象の前記心電図波形が前記判定部により異常でないと判定されたことを条件として、前記所定種別の波の位置を決定する、
請求項1から4のいずれか一項に記載の心電図分析装置。
【請求項11】
プロセッサが実行する、
心電図データを1拍ごとに分離することによって生成された複数の心電図波形を取得するステップと、
前記複数の心電図波形を、形状の類似性に基づいて複数のグループに分類するステップと、
前記複数のグループから選択された選択グループに属する少なくとも1つの前記心電図波形に対応する代表波形において指定された所定種別の波の基準位置を受け付けるステップと、
分析対象の前記心電図波形が属する前記グループの前記代表波形における時間軸上の複数の位置と、分析対象の前記心電図波形における時間軸上の複数の位置と、の対応関係を特定し、前記対応関係が示す、前記代表波形における前記基準位置に対応する分析対象の前記心電図波形における位置を、分析対象の前記心電図波形に含まれる前記所定種別の波の位置として決定するステップと、
を有する、心電図分析方法。
【請求項12】
コンピュータを、
心電図データを1拍ごとに分離することによって生成された複数の心電図波形を取得する取得部と、
前記複数の心電図波形を、形状の類似性に基づいて複数のグループに分類する分類部と、
前記複数のグループから選択された選択グループに属する少なくとも1つの前記心電図波形に対応する代表波形において指定された所定種別の波の基準位置を受け付ける受付部と、
分析対象の前記心電図波形が属する前記グループの前記代表波形における時間軸上の複数の位置と、分析対象の前記心電図波形における時間軸上の複数の位置と、の対応関係を特定し、前記対応関係が示す、前記代表波形における前記基準位置に対応する分析対象の前記心電図波形における位置を、分析対象の前記心電図波形に含まれる前記所定種別の波の位置として決定する分析部と、
として機能させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心電図を分析するための心電図分析装置、心電図分析方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、患者等の被分析者が身体に装着して長時間にわたって心電図を測定することができるホルター心電計が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
心電図波形に異常が発生しているか否かを判断するために、Q波、R波、S波、T波等の特徴的な波を観察することが行われている。例えば、副作用としてQ波とT波との間隔(以下、QT間隔)が延長する可能性のある医薬品を患者に投与する場合には、患者のQT間隔を測定することが求められる。しかしながら、T波には、例えば、通常のT波、へいていT波、陰性T波、二相性T波、T波とU波とが融合した波等の形態のバリエーションがあることが知られており、コンピュータが心電図波形から様々なバリエーションの波の位置を高精度に検出することが難しい場合があった。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、心電図波形において所定種別の波の位置を検出する精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様の心電図分析装置は、心電図データを1拍ごとに分離することによって生成された複数の心電図波形を取得する取得部と、前記複数の心電図波形を、形状の類似性に基づいて複数のグループに分類する分類部と、前記複数のグループから選択された選択グループに属する少なくとも1つの前記心電図波形に対応する代表波形において指定された所定種別の波の基準位置を受け付ける受付部と、分析対象の前記心電図波形が属する前記グループの前記代表波形における時間軸上の複数の位置と、分析対象の前記心電図波形における時間軸上の複数の位置と、の対応関係を特定し、前記対応関係が示す、前記代表波形における前記基準位置に対応する分析対象の前記心電図波形における位置を、分析対象の前記心電図波形に含まれる前記所定種別の波の位置として決定する分析部と、を有する。
【0007】
前記受付部は、前記代表波形においてQ波の前記基準位置及びT波の前記基準位置を受け付け、前記分析部は、分析対象の前記心電図波形に含まれる前記Q波の位置及び前記T波の位置を決定してもよい。
【0008】
前記分析部は、前記Q波の位置及び前記T波の位置の間隔と、前記間隔を分析対象の前記心電図波形から特定した心拍数を用いて補正することによって算出した補正後間隔と、の少なくとも一方を算出してもよい。
【0009】
前記心電図分析装置は、前記グループに属する前記複数の心電図波形における前記間隔又は前記補正後間隔の統計量が閾値以上であることを条件として、前記グループに属する前記複数の心電図波形のうち、前記グループの前記代表波形との類似度が最も高い前記心電図波形を出力する出力部をさらに有してもよい。
【0010】
前記分析部は、前記グループに属する前記複数の心電図波形における前記間隔又は前記補正後間隔のばらつきを示す値が閾値以上である場合に前記グループが異常であると判定し、前記ばらつきを示す値が前記閾値未満である場合に前記グループが異常でないと判定し、前記分析部は、前記グループが異常であると判定した場合と前記グループが異常でないと判定した場合とで異なる情報を生成してもよい。
【0011】
前記受付部は、前記分析部が異常であると判定した前記グループの前記代表波形において前記基準位置の指定を再び受け付けてもよい。
【0012】
前記代表波形は、前記選択グループに属する前記複数の心電図波形のうち、前記選択グループに属する前記複数の心電図波形の統計量である波形との類似度が最も高いいずれか1つの前記心電図波形であってもよい。
【0013】
前記受付部は、前記代表波形を情報端末に表示させ、前記情報端末において前記代表波形に対して指定された位置を、前記基準位置として受け付けてもよい。
【0014】
前記受付部は、前記情報端末において前記代表波形に対して位置の指定を複数回受け付け、指定された複数の位置の統計量に対応する位置を、前記基準位置として受け付けてもよい。
【0015】
前記心電図分析装置は、前記グループに属する前記心電図波形と、前記グループに属する前記複数の心電図波形の統計量である波形と、の類似度が閾値以上である場合に前記心電図波形が異常でないと判定し、当該類似度が前記閾値未満である場合に前記心電図波形が異常であると判定する判定部をさらに有し、前記分析部は、分析対象の前記心電図波形が前記判定部により異常でないと判定されたことを条件として、前記所定種別の波の位置を決定してもよい。
【0016】
本発明の第2の態様の心電図分析方法は、プロセッサが実行する、心電図データを1拍ごとに分離することによって生成された複数の心電図波形を取得するステップと、前記複数の心電図波形を、形状の類似性に基づいて複数のグループに分類するステップと、前記複数のグループから選択された選択グループに属する少なくとも1つの前記心電図波形に対応する代表波形において指定された所定種別の波の基準位置を受け付けるステップと、分析対象の前記心電図波形が属する前記グループの前記代表波形における時間軸上の複数の位置と、分析対象の前記心電図波形における時間軸上の複数の位置と、の対応関係を特定し、前記対応関係が示す、前記代表波形における前記基準位置に対応する分析対象の前記心電図波形における位置を、分析対象の前記心電図波形に含まれる前記所定種別の波の位置として決定するステップと、を有する。
【0017】
本発明の第3の態様のプログラムは、コンピュータを、心電図データを1拍ごとに分離することによって生成された複数の心電図波形を取得する取得部と、前記複数の心電図波形を、形状の類似性に基づいて複数のグループに分類する分類部と、前記複数のグループから選択された選択グループに属する少なくとも1つの前記心電図波形に対応する代表波形において指定された所定種別の波の基準位置を受け付ける受付部と、分析対象の前記心電図波形が属する前記グループの前記代表波形における時間軸上の複数の位置と、分析対象の前記心電図波形における時間軸上の複数の位置と、の対応関係を特定し、前記対応関係が示す、前記代表波形における前記基準位置に対応する分析対象の前記心電図波形における位置を、分析対象の前記心電図波形に含まれる前記所定種別の波の位置として決定する分析部と、として機能させる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、心電図波形において所定種別の波の位置を検出する精度を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態に係る心電図分析システムの概要を説明するための図である。
【
図2】実施形態に係る心電図分析システムのブロック図である。
【
図3】取得部が心電図データを1拍ごとに分離する方法を説明するための模式図である。
【
図4】分類部が複数の心電図波形を複数のグループに分類する方法を説明するための模式図である。
【
図5】受付部が代表波形において基準位置の指定を受け付ける方法を説明するための模式図である。
【
図6】分析部が代表波形と分析対象の心電図波形との対応関係を特定する方法を説明するための模式図である。
【
図7】1つのグループに属する複数の心電図波形に対して分析部が算出した例示的なQTcの分布を示す図である。
【
図8】出力部が情報端末に所定種別の波の位置に関する情報を表示させる方法を説明するための模式図である。
【
図9】実施形態に係る心電図分析装置が実行する心電図分析方法のフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[心電図分析システムSの概要]
図1は、本実施形態に係る心電図分析システムSの概要を説明するための図である。心電図分析システムSは、心電計1と、情報端末2と、心電図分析装置3と、を含む。心電図分析システムSは、複数の心電計1及び複数の情報端末2を含んでもよい。心電図分析システムSは、その他のサーバ、端末等の機器を含んでもよい。
【0021】
心電計1は、被分析者の心臓の心電図を測定する装置である。被分析者は、例えば、診療を受けている患者、臨床試験の被験者等である。心電計1は、例えば、被分析者の手首、手掌、胸部等に装着された状態で電位を測定することにより被分析者の心電図を測定する、12誘導心電計、ホルター心電計、埋め込み型心電計、イベント型心電計又はパッチ型心電計等である。本実施形態において、心電計1は、被分析者の胸部に貼り付けられることによって、生活中の被分析者の心電図を連続的に測定可能なパッチ型心電計である。また、心電計1は、ペースメーカー、除細動器、心内電極等、心電図を測定可能なその他の装置であってもよい。
【0022】
心電計1は、無線通信回線を含むネットワークNを介して、測定した心電図を示す心電図データを心電図分析装置3に送信する。心電計1が測定した心電図データは、ネットワークNを介することなく、例えば記憶媒体を用いて心電図分析装置3に入力されてもよい。
【0023】
情報端末2は、医師や医療従事者等の分析者が使用するコンピュータである。情報端末2は、例えば、心電図分析装置3から受信した情報を表示可能な液晶ディスプレイ等の表示部と、分析者による操作を受け付けるキーボードやマウス等の操作部と、を有する。
【0024】
心電図分析装置3は、心臓の電気的活動を分析するためのコンピュータである。心電図分析装置3は、例えば、心電計1から受信した心電図データに基づいて、Q波、T波等の所定種別の波の位置を決定し、QT間隔等の所定種別の波の位置に関する情報を出力する。
【0025】
本実施形態に係る心電図分析システムSが実行する処理の概要を以下に説明する。心電計1は、心電計1を装着している被分析者の心電図を測定する。心電計1は、測定した心電図を示す心電図データを心電図分析装置3に送信する。
【0026】
心電図分析装置3は、心電計1が送信した心電図データを受信する。心電図分析装置3は、受信した心電図データ(例えば、1人の被分析者に対して測定された24時間分の心電図データ)を1拍ごとに分離することによって、複数の心電図波形を取得する。心電図分析装置3は、例えば、受信した心電図データに含まれる複数の周期の波形から、1周期分の波形を取り出すことによって、1拍ごとの心電図波形を示すデータを生成する。心電図分析装置3は、例えば、取得した複数の心電図波形に対してクラスタリング処理を実行することにより、複数の心電図波形を形状の類似性に基づいて複数のグループに分類する。
【0027】
心電図分析装置3は、各グループに属する少なくとも1つの心電図波形である代表波形を情報端末2に表示させ、分析者から代表波形上で所定種別の波(Q波、T波等)の位置(基準位置)の指定を受け付ける。
【0028】
心電図分析装置3は、分析対象の心電図波形が属するグループの代表波形における時間軸上の複数の位置と、分析対象の心電図波形における時間軸上の複数の位置と、の対応関係を特定する。心電図分析装置3は、例えば、DTW法(Dynamic Time Warping;動的時間伸縮法)により、代表波形における点と分析対象の心電図波形における点とを対応付ける。
【0029】
心電図分析装置3は、特定した対応関係が示す、代表波形における基準位置に対応する分析対象の心電図波形における位置を、分析対象の心電図波形に含まれる所定種別の波の位置として決定する。
【0030】
心電図分析装置3は、決定した所定種別の波の位置に関する情報(例えば、QT間隔)を表示するための表示情報を、情報端末2に送信する。情報端末2は、心電図分析装置3から受信した表示情報に基づいて、所定種別の波の位置に関する情報を表示部上に表示する。
【0031】
例えば、T波には、通常のT波、へいていT波、陰性T波等の様々な形態のバリエーションがあることが知られている。心電図分析システムSは、1拍ごとの心電図波形を形状の類似性に基づいて複数のグループに分類し、グループごとの代表波形に対して分析者から所定種別の波の位置の指定を受け付けることにより、分析対象の心電図波形における所定種別の波の位置を決定する。これにより、心電図分析システムSは、波の形態のバリエーションを考慮して所定種別の波の位置を決定することができ、心電図波形において所定種別の波の位置を検出する精度を向上させることができる。
【0032】
[心電図分析システムSの構成]
図2は、本実施形態に係る心電図分析システムSのブロック図である。
図2において、矢印は主なデータの流れを示しており、
図2に示したもの以外のデータの流れがあってもよい。
図2において、各ブロックはハードウェア(装置)単位の構成ではなく、機能単位の構成を示している。そのため、
図2に示すブロックは単一の装置内に実装されてもよく、あるいは複数の装置内に分かれて実装されてもよい。ブロック間のデータの授受は、データバス、ネットワーク、可搬記憶媒体等、任意の手段を介して行われてよい。
【0033】
心電図分析装置3は、通信部31と、記憶部32と、制御部33とを有する。心電図分析装置3は、2つ以上の物理的に分離した装置が有線又は無線で接続されることにより構成されてもよい。また、心電図分析装置3は、コンピュータ資源の集合であるクラウドによって構成されてもよい。
【0034】
通信部31は、ネットワークNを介して心電計1及び情報端末2との間でデータを送受信するための通信コントローラを有する。通信部31は、心電計1及び情報端末2からネットワークNを介して受信したデータを制御部33に通知する。また、通信部31は、ネットワークNを介して、制御部33から出力されたデータを情報端末2に送信する。
【0035】
記憶部32は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ハードディスクドライブ等を含む記憶媒体である。記憶部32は、制御部33が実行するプログラムを予め記憶している。記憶部32は、心電図分析装置3の外部に設けられてもよく、その場合にネットワークを介して制御部33との間でデータの授受を行ってもよい。
【0036】
制御部33は、取得部331と、分類部332と、受付部333と、判定部334と、分析部335と、出力部336と、を有する。制御部33は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサであり、記憶部32に記憶されたプログラムを実行することにより、取得部331、分類部332、受付部333、判定部334、分析部335及び出力部336として機能する。制御部33の機能の少なくとも一部は電気回路によって実行されてもよい。また、制御部33の機能の少なくとも一部は、制御部33がネットワーク経由で実行されるプログラムを実行することによって実現されてもよい。
【0037】
以下、本実施形態に係る心電図分析システムSが実行する表示制御方法を詳細に説明する。被分析者は、心電計1を装着する。心電計1は、心電計1を装着している被分析者の心電図を測定する。心電計1は、測定した心電図を示す心電図データを心電図分析装置3に送信する。心電計1は、心電図データを心電図分析装置3に逐次送信し、又は所定期間(例えば、24時間)の心電図データをまとめて心電図分析装置3に送信する。
【0038】
心電図分析装置3において、取得部331は、心電計1が送信した心電図データを、通信部31を介して受信する。取得部331は、受信した心電図データ(すなわち、1人の患者の心電図データ)を1拍ごとに分離することによって生成された複数の心電図波形を取得する。
【0039】
図3は、取得部331が心電図データを1拍ごとに分離する方法を説明するための模式図である。取得部331は、例えば、心電図データにおいてR波のピークの位置を検出し、あるR波のピークから一定時間手前から、次のR波のピークから一定時間手前までの区間の波形を1拍の心電図波形として取得する。取得部331は、ここに示した具体的な方法に限られず、その他の方法によって心電図データを1拍ごとに分離してもよい。
【0040】
取得部331は、心電図データに対して、ノイズ除去処理を実行してもよい。取得部331は、例えば、除外対象の心電図(ノイズ又は期外収縮を含む心電図)と分析対象の心電図とを予め機械学習することによって生成された、入力された心電図が除外対象か否かを判定する機械学習モデルに、心電図データを分割することによって生成された複数の分割心電図それぞれを入力する。そして取得部331は、機械学習モデルによって除外対象でないと判定された分割心電図を1拍ごとに分離することによって、複数の心電図波形を取得する。
【0041】
また、取得部331は、例えば、心電図データから取得した複数の心電図波形のうち、単位時間あたりの心拍数が所定の閾値より大きい又は小さい心電図波形を除外してもよい。
【0042】
分類部332は、取得部331が取得した複数の心電図波形を、形状の類似性に基づいて複数のグループに分類する。
図4は、分類部332が複数の心電図波形を複数のグループに分類する方法を説明するための模式図である。
図4の左側には各グループに属する複数の心電図波形が重畳されて表されており、
図4の右側には各グループの代表波形が表されている。
【0043】
図4に示すように、心電図波形には様々な形態のバリエーションがある。
図4の例では、同一患者の心電図波形において、二相性T波の2つ目のT波の終わり近辺が平坦な場合と、二相性T波の2つ目のT波の終わり近辺が緩やかに下降し続ける場合と、T波の形状が測定中に大きく変化した場合と、がある。従来、このような形態のバリエーションを考慮せずに心電図波形において特定の種別の波の位置を自動的に検出しようとすると、例えばT波が下降した後の点をT波の終端として誤検出する場合があった。
【0044】
分類部332は、例えば、取得部331が取得した複数の心電図波形に対して、既知のクラスタリング処理を実行する。クラスタリング処理は、例えば、各クラスタ内の心電図波形の形状同士の距離が近くなるように、複数の心電図波形を複数のクラスタに分類するK-Shape法である。分類部332は、クラスタリング処理によって生成された複数のクラスタを、形状の類似性に基づいて生成された複数のグループとして決定する。
【0045】
分類部332は、ここに示した形状ベースのクラスタリング手法であるK-Shape法に限られず、その他の方法によって複数の心電図波形を複数のグループに分類してもよい。分類部332は、例えば、複数の心電図波形の間でT波の終わりの位置等の特定の位置の対応付けることが可能であれば、形状の類似性に基づいたクラスタリング処理に限らず、その他の分類手法を用いてもよい。分類部332は、その他の分類手法として、例えば、K-means法、DBSCAN法、階層クラスタリング等を用いることができる。また、分類部332は、教師あり学習、半教師あり学習の手法によって、複数の心電図波形を複数のグループに分類してもよい。
【0046】
図4の例において、複数の心電図波形は、二相性T波の2つ目のT波の終わり近辺が平坦な心電図波形を含むグループと、二相性T波の2つ目のT波の終わり近辺が緩やかに下降し続ける心電図波形を含むグループと、T波の形状が測定中に大きく変化した心電図波形を含むグループと、に分類されている。複数の心電図波形は、3つのグループに限られず、その他の数のグループに分類されてもよい。
【0047】
分類部332は、決定した複数のグループそれぞれから、当該グループに属する少なくとも1つの心電図波形に対応する代表波形を抽出する。分類部332は、例えば、1つのグループに属する複数の心電図波形の重心であるセントロイド波形を算出し、当該グループに属する複数の心電図波形のうちセントロイド波形に最も類似する心電図波形(例えば、セントロイド波形とのユークリッド距離が最も小さい心電図波形)を、代表波形として抽出する。また、分類部332は、算出したセントロイド波形を、代表波形として抽出してもよい。また、分類部332は、1つのグループに属する複数の心電図波形を、複数の代表波形として抽出してもよい。
【0048】
分類部332は、取得部331が取得した複数の心電図波形に対して、複数回のクラスタリング処理を実行し、各回において生成された複数のグループに対して代表波形を抽出してもよい。この場合に、分類部332は、複数回抽出された複数の代表波形の統計量(例えば、平均値)を、代表波形として用いてもよい。これにより、心電図分析装置3は、クラスタリング処理における局所解の影響を低減することができる。
【0049】
受付部333は、複数のグループそれぞれから抽出した代表波形において、所定種別の波の基準位置の指定を受け付ける。本実施形態において、所定種別の波は、Q波及びT波であるが、Q波若しくはT波の一方のみ、又はR波やS波等のその他の種別の波であってもよい。
【0050】
図5は、受付部333が代表波形において基準位置の指定を受け付ける方法を説明するための模式図である。受付部333は、例えば、複数のグループから選択されたいずれか1つのグループである選択グループの代表波形を示す情報を、通信部31を介して情報端末2に送信する。
【0051】
情報端末2は、心電図分析装置3から受信した情報に基づいて、代表波形を表示部上に表示する。情報端末2は、操作部において、所定種別の波(ここではQ波及びT波)の位置を指定する操作を分析者から受け付ける。情報端末2は、分析者によって指定された位置を示す情報を、心電図分析装置3に送信する。
【0052】
心電図分析装置3において、受付部333は、情報端末2から通信部31を介して受信した情報が示す位置を、所定種別の波の基準位置として受け付ける。受付部333は、複数のグループの全てに対して基準位置を受け付けていない場合に、複数のグループのうち別の選択グループの代表波形を示す情報を、通信部31を介して情報端末2に送信し、基準位置の指定を受け付ける。受付部333は、複数のグループの全てに対して基準位置を受け付けた場合に、基準位置の指定の受け付けを終了する。
【0053】
受付部333は、情報端末2において分析者から基準位置の指定を受け付けることに代えて、心電図分析装置3又はその他のコンピュータが代表波形において特定した所定種別の波の位置を、基準位置として受け付けてもよい。この場合に、心電図分析装置3又はその他のコンピュータは、例えば、代表波形に類似する波形において一又は複数の分析者が過去に指定した所定種別の波の位置の統計データに基づいて、代表波形において所定種別の波の位置を特定する。また、受付部333は、代表波形ごとに所定のアルゴリズム等を用いて仮の基準位置を算出し、算出した仮の基準位置と代表波形とを関連付けて情報端末2に表示させ、分析者が仮の基準位置の修正が必要と判断した場合に、情報端末2において分析者から基準位置の指定を受け付けてもよい。
【0054】
受付部333は、情報端末2において1つの代表波形に対して位置の指定を複数回受け付け、指定された複数の位置の統計量(例えば、平均値)を、基準位置として受け付けてもよい。また、受付部333は、情報端末2において1つのグループから抽出された複数の代表波形それぞれに対して位置の指定を受け付け、指定された複数の位置の統計量(例えば、平均値)を、基準位置として受け付けてもよい。これにより、分析者によって指定された所定種別の波のばらつきの影響を低減することができる。
【0055】
判定部334は、分析部335は所定種別の波の位置を決定する処理を行う前に、複数の心電図波形それぞれが異常(外れ値)であるか否かを判定する。判定部334は、例えば、1つのグループに属する複数の心電図波形それぞれと、当該グループに属する複数の心電図波形の統計量である波形(例えば、セントロイド波形)と、の類似度を算出する。類似度は、例えば、ユークリッド距離である。判定部334は、1つの心電図波形に対して算出した類似度が所定の閾値以上である場合に当該心電図波形が異常でないと判定し、当該類似度が当該閾値未満である場合に当該心電図波形が異常であると判定する。
【0056】
分析部335は、1つのグループに属する複数の心電図波形それぞれを分析対象の心電図波形とし、以降の処理を行う。分析部335は、分析対象の心電図波形が属するグループの代表波形における時間軸上の複数の位置と、分析対象の心電図波形における時間軸上の複数の位置と、の対応関係を特定する。
【0057】
図6は、分析部335が代表波形と分析対象の心電図波形との対応関係を特定する方法を説明するための模式図である。分析部335は、例えば、DTW法により、代表波形における所定の時間間隔で配置された複数の点(座標)と、分析対象の心電図波形における所定の時間間隔で配置された複数の点と、の距離を総当たりで算出する。分析部335は、算出した距離の合計値が最も小さくなるように、代表波形における複数の点と分析対象の心電図波形における複数の点とを順に対応付ける。
図6には、分析対象の心電図波形における点と、当該点に対応付けられた代表波形における点と、を接続した線分(ワーピングパスともいう)が表されている。
【0058】
分析部335は、分析対象の心電図波形における複数の点それぞれと、当該点に対応付けられた代表波形における点と、の組み合わせを、対応関係として特定する。分析部335は、ここに示した具体的な方法に限られず、その他の方法によって代表波形及び分析対象の間の対応関係を特定してもよい。
【0059】
分析部335は、特定した対応関係が示す、代表波形における基準位置に対応する分析対象の心電図波形における位置を、分析対象の心電図波形に含まれる所定種別の波の位置として決定する。すなわち、分析部335は、代表波形において指定された所定種別の波の基準位置が、分析対象の心電図波形のどこに対応するかを特定することによって、分析対象の心電図波形に含まれる所定種別の波の位置を決定する。
【0060】
図6の例において、分析部335は、Q波の基準位置は代表波形における6番目の点であり、代表波形における6番目の点は分析対象の心電図波形における6番目の点に対応するため、分析対象の心電図波形に含まれるQ波の位置が分析対象の心電図波形における6番目の点であると決定する。分析部335は、T波の基準位置は代表波形における57番目の点であり、代表波形における57番目の点は分析対象の心電図波形における54番目の点に対応するため、分析対象の心電図波形に含まれるT波の位置が分析対象の心電図波形における54番目の点であると決定する。
【0061】
通常のT波、へいていT波、陰性T波等の様々な種別の波はそれぞれ形態が異なるため、従来、コンピュータが心電図波形から様々な種別の波の位置を高精度に検出することが難しい場合があった。それに対して、心電図分析装置3は、形状の類似性に基づいて生成されたグループの代表波形に対して指定された位置を用いて、分析対象の心電図波形に含まれる所定種別の波の位置を決定することにより、波の形態のバリエーションを考慮し、所定種別の波の位置を検出する精度を向上させることができる。
【0062】
分析部335は、分析対象の心電図波形が判定部334により異常でないと判定されたことを条件として、所定種別の波の位置を決定してもよい。この場合に、分析部335は、複数の心電図波形のうち、判定部334が異常でないと判定した心電図波形において所定種別の波の位置を決定し、判定部334が異常であると判定した心電図波形において所定種別の波の位置を決定しない。これにより、心電図分析装置3は、例えば、あるグループに属する複数の心電図波形の統計量(セントロイド波形等)とは大幅に異なる心電図波形を外れ値として除外し、外れ値に基づいてQT間隔の延長等のアラートが発生することを抑えることができる。
【0063】
分析部335は、決定した所定種別の波の位置に関する情報を生成する。分析部335は、例えば、1つの心電図波形におけるQ波の位置及びT波の位置の間隔であるQT間隔(以下、QT)と、QTを分析対象の心電図波形から特定した心拍数を用いて補正することによって算出した補正後間隔と、の少なくとも一方を含む、所定種別の波の位置に関する情報を生成する。
【0064】
分析部335は、例えば、Bazettによって提唱された以下の式(1)を用いて補正後間隔(QTc)を算出する。式(1)によって算出されたQTcを、QTcBともいう。
【数1】
【0065】
RR(RR間隔)は、連続する2つの心電図波形におけるR波の位置の間隔であり、心拍数の逆数である。また、分析部335はFridericia補正式、Hodges補正式、Framingham補正式等、その他の既知の式を用いてQTcを算出してもよい。
【0066】
また、分析部335は、複数の心電図波形から算出した複数のQT又はQTcの統計量(例えば、平均値)を、被分析者のQT又はQTcとして算出してもよい。
【0067】
また、分析部335は、1つのグループに属する複数の心電図波形におけるQT又はQTcの統計量が所定の閾値以上であることを条件として、当該グループの代表的な心電図波形を選択してもよい。分析部335は、例えば、1つのグループにおける波の位置の算出に用いた代表波形を、当該グループの代表的な心電図波形として選択してもよい。分析部335は、例えば、1つのグループに属する各心電図波形と、当該グループに属する複数の心電図波形の統計量である波形(例えば、セントロイド波形)と、の類似度を算出し、算出した類似度が高い順に一又は複数の心電図波形を、当該グループの代表的な心電図波形として選択してもよい。また、分析部335は、1つのグループに属する複数の心電図波形におけるQT又はQTcの統計量とのQT又はQTcの差が小さい順に一又は複数の心電図波形を、当該グループの代表的な心電図波形として選択してもよい。
【0068】
分析者が複数のグループそれぞれに属する複数の心電図波形及び複数のQT又はQTcを確認するためには、大きな手間が掛かる。これに対して、分析部335は、1つのグループに属する複数の心電図波形におけるQT又はQTcの統計量に基づいて選択した心電図波形を含む、所定種別の波の位置に関する情報を生成する。これにより、心電図分析装置3は、1つのグループにおいてQT又はQTcが大きい場合(QT延長が発生している可能性がある場合)に、当該グループに属する代表的な心電図波形を分析者に提示して、分析者による分析をしやすくすることができる。
【0069】
分析部335は、1人の被分析者に対して、医薬品の投与前に算出したQT又はQTcと、医薬品の投与後に算出したQT又はQTcとの差(以下、ΔQT又はΔQTc)を算出してもよい。この場合に、記憶部32は、被分析者に所定の医薬品が投与される前に算出されたQT又はQTcと、被分析者に所定の医薬品が投与された後に算出されたQT又はQTcと、を関連付けて記憶し、所定の条件が満たされたこと(例えば、情報端末2において分析者による所定の操作が行われたこと)に応じてΔQT又はΔQTcを算出する。
【0070】
分析部335は、例えば、医薬品の投与前の所定期間(例えば、24時間)のQT又はQTcの中央値と、医薬品の投与後の所定期間(例えば、24時間)のQT又はQTcの中央値と、の差を、ΔQT又はΔQTcとして算出してもよい。
【0071】
分析部335は、算出したΔQT又はΔQTcを含む、所定種別の波の位置に関する情報を生成する。これにより、心電図分析装置3は、所定の医薬品の投与前後のQT又はQTcの変化を可視化して、分析者による分析をしやすくすることができる。
【0072】
また、分析部335は、医薬品の投与後のΔQT又はΔQTcの時間変化の傾きから、継続して同量の医薬品を投与した際にΔQT又はΔQTcが所定の閾値(例えば、450ms)を超えるタイミングを予測してもよい。被分析者に対して継続して医薬品を投与すると、ΔQT又はΔQTcが閾値を超えてしまう場合がある。それに対して、分析部335は、予測したΔQT又はΔQTcが閾値を超えるタイミングを含む、所定種別の波の位置に関する情報を生成する。これにより、心電図分析装置3は、医薬品の投与によりΔQT又はΔQTcが閾値を超えないように、分析者が被分析者に対する医薬品の投与量や投与タイミングを調整しやすくできる。
【0073】
また、分析部335は、記憶部32に記憶された医薬品ごとの特性を示す医薬品データ(例えば、医薬品の用法及び用量の添付文書)に記載に基づいて、被分析者に対する医薬品の投与量を減量又は増量するか否かを判定してもよい。分析部335は、算出したΔQT又はΔQTcが、医薬品データが示す閾値を超えている場合に、投与量を減量すると判定し、そうでない場合に投与量を増量すると判定する。分析部335は、投与量を減量又は増量するか否かの判定結果を含む、所定種別の波の位置に関する情報を生成する。これにより、心電図分析装置3は、医薬品の添付文書に応じて投与量の減量又は増量の可能性を分析者に提示して、分析者が被分析者に対する医薬品の投与量を調整しやすくできる。
【0074】
また、分析部335は、算出したQT又はQTcに基づいて、1つの心拍が異常であるか否かを判定してもよい。分析部335は、例えば、1つの心拍に対応する心電図波形から算出したQT又はQTcが所定の閾値以上である場合に当該心拍が異常であると判定し、そうでない場合に当該心拍が異常でないと判定する。
【0075】
また、分析部335は、算出したQT又はQTcとRRとの関係に基づいて、1つの心拍が異常であるか否かを判定してもよい。分析部335は、例えば、1つのグループに属する複数の心電図波形それぞれから算出したQT又はQTcと、当該心電図波形のRRと、をプロットすることによって散布図を生成し、生成した散布図においてQT又はQTcとRRとの関係を示すフィッティング曲線を算出してもよい。分析部335は、1つの心拍に対応する心電図波形の点とフィッティング曲線との距離が所定の閾値以上である場合に当該心拍が異常であると判定し、そうでない場合に当該心拍が異常でないと判定する。
【0076】
分析部335は、心拍が異常であると判定された場合と心拍が異常でないと判定された場合とで異なる情報を含む、所定種別の波の位置に関する情報を生成する。分析部335は、例えば、心拍が異常であると判定された心電図波形とともに、心拍が異常であると判定されたことを表すメッセージを表示するための情報を、所定種別の波の位置に関する情報として生成する。これにより、心電図分析装置3は、心拍が異常であるか否かの判定結果を分析者に提示して、分析者による分析をしやすくできる。
【0077】
さらに受付部333は、分析部335によって異常であると判定された心拍に対応する心電図波形を示す情報を情報端末2に送信し、情報端末2において異常であると判定された心拍を分析に含めるか否かを示す操作を受け付けてもよい。情報端末2において異常であると判定された心拍を分析に含めないことを示す操作が行われた場合に、分析部335は、異常であると判定された心拍に対応する心電図波形を用いずに、QT又はQTcを再算出して以降の処理を行う。一方、情報端末2において異常であると判定された心拍を分析に含めることを示す操作が行われた場合に、分析部335は、既に算出されたQT又はQTcを用いて以降の処理を行う。これにより、心電図分析装置3は、分析者の意向に応じて、異常であると判定された心拍に対応する心電図波形を分析に用いるか否かを切り替えることができる。
【0078】
また、分析部335は、算出したQT又はQTcのばらつきに基づいて、グループが異常であるか否かを判定してもよい。分析部335は、例えば、1つのグループに属する複数の心電図波形から算出した複数のQT又はQTcの標準偏差を算出し、算出した標準偏差が所定の閾値(15ms、20ms等)以上である場合に当該グループが異常であると判定し、そうでない場合に当該グループが異常でないと判定する。また、分析部335は、1つのグループに属する複数の心電図波形の中で、QT又はQTcに基づいて異常であると判定された心拍に対応する心電図波形の数又は割合が所定の閾値以上である場合に当該グループが異常であると判定し、そうでない場合に当該グループが異常でないと判定してもよい。
【0079】
分析部335は、グループが異常であると判定された場合とグループが異常でないと判定された場合とで異なる情報を含む、所定種別の波の位置に関する情報を生成する。分析部335は、例えば、異常であると判定されたグループ代表波形とともに、グループが異常であると判定されたことを表すメッセージを表示するための情報を、所定種別の波の位置に関する情報として生成する。分類部332が生成したグループ自体が異常であると、当該グループに属する複数の心電図波形に対する分析が正しく行われない場合がある。それに対して、心電図分析装置3は、分類部332が生成したグループに属する心電図波形のばらつきが大きい場合等に、心電図波形ではなくグループ自体が異常であると判定できる。
【0080】
さらに受付部333は、情報端末2において、分析部335によって異常であると判定されたグループに対して基準位置の指定を再度実施するか否かを示す操作を受け付けてもよい。情報端末2において基準位置の指定を再度実施することを示す操作が行われた場合に、受付部333は、分析部335によって異常であると判定されたグループの代表波形において基準位置の指定を再び受け付ける。これにより、心電図分析装置3は、分析者の意向に応じて、異常であると判定されたグループに対する基準位置の指定をやり直すか否かを切り替えることができる。
【0081】
図7は、1つのグループに属する複数の心電図波形に対して分析部335が算出した例示的なQTcの分布を示す図である。
図7において、横軸はRRを表しており、縦軸はQTcを表している。
図7の例は平坦な形状のT波であるへいていT波のグループを表しており、RRとQTcとの間に一定の相関があることがわかる。したがって、心電図分析装置3は、へいていT波のような特殊な形態の心電図波形であっても、精度よくQTcを算出できる。
【0082】
出力部336は、分析部335が生成した所定種別の波の位置に関する情報を出力する。出力部336は、所定の条件が満たされたこと(例えば、QT、QTc、QTの統計量又はQTcの統計量が所定の閾値以上であること)を条件として、所定種別の波の位置に関する情報を出力してもよい。
【0083】
出力部336は、例えば、所定種別の波の位置に関する情報を表示するための表示情報を、通信部31を介して情報端末2に送信する。出力部336は、所定種別の波の位置に関する情報を情報端末2に表示させることに代えて又は加えて、所定種別の波の位置に関する情報を印刷装置に印刷させてもよい。
【0084】
図8は、出力部336が情報端末2に所定種別の波の位置に関する情報を表示させる方法を説明するための模式図である。情報端末2は、心電図分析装置3から受信した表示情報に基づいて、所定種別の波の位置に関する情報を表示部上に表示する。
図8の例では、情報端末2は、所定種別の波の位置に関する情報として、QT又はQTcの統計量が所定の閾値以上であるグループの代表波形を、被分析者と関連付けて表示している。
【0085】
情報端末2は、ここに示した具体的な情報に限られず、所定種別の波の位置に関する情報として、上述のQT、QTc、QTの統計量、QTcの統計量、ΔQT、ΔQTc、ΔQT又はΔQTcが所定の閾値を超えるタイミング、投与量を減量又は増量するか否かの判定結果、心拍が異常であるか否かの判定結果、グループが異常であるか否かの判定結果等を表示してもよい。これにより、分析者は、被分析者の心電図データの全範囲を見る必要がないため、効率的に心電図データを分析することができる。
【0086】
[心電図分析方法のフローチャート]
図9は、本実施形態に係る心電図分析装置3が実行する心電図分析方法のフローチャートを示す図である。心電図分析装置3において、取得部331は、心電計1が送信した心電図データを、通信部31を介して受信する(S11)。取得部331は、受信した心電図データを1拍ごとに分離することによって生成された複数の心電図波形を取得する(S12)。
【0087】
分類部332は、取得部331が取得した複数の心電図波形を、形状の類似性に基づいて複数のグループに分類する(S13)。分類部332は、決定した複数のグループの中から選択されたグループから、当該グループに属する少なくとも1つの心電図波形に対応する代表波形を抽出する(S14)。
【0088】
受付部333は、選択されたグループから抽出した代表波形において、所定種別の波の基準位置の指定を受け付ける(S15)。受付部333は、例えば、情報端末2における分析者による操作に基づいて、所定種別の波の基準位置の指定を受け付ける。複数のグループ全てに対して基準位置の指定が終了していない場合に(S16のNO)、心電図分析装置3は、複数のグループの中から選択された別のグループに対してステップS14~S15を繰り返す。複数のグループ全てに対して基準位置の指定が終了した場合に(S16のYES)、心電図分析装置3はステップS17に進む。
【0089】
判定部334は、複数の心電図波形の中から選択された分析対象の心電図波形が異常(外れ値)であるか否かを判定する(S17)。分析対象の心電図波形が異常であると判定された場合に(S18のYES)、心電図分析装置3は、複数の心電図波形の中から選択された別の分析対象の心電図波形に対してステップS17を繰り返す。分析対象の心電図波形が異常でないと判定された場合に(S18のNO)、心電図分析装置3はステップS19に進む。分析部335は、分析対象の心電図波形が属するグループの代表波形における時間軸上の複数の位置と、分析対象の心電図波形における時間軸上の複数の位置と、の対応関係を特定する(S19)。
【0090】
分析部335は、特定した対応関係が示す、代表波形における基準位置に対応する分析対象の心電図波形における位置を、分析対象の心電図波形に含まれる所定種別の波の位置として決定する(S20)。複数の心電図波形全てに対して波の位置の決定が終了していない場合に(S21のNO)、心電図分析装置3は、複数の心電図波形の中から選択された別の分析対象の心電図波形に対してステップS20を繰り返す。複数の心電図波形全てに対して波の位置の決定が終了した場合に(S21のYES)、心電図分析装置3はステップS22に進む。
【0091】
分析部335は、決定した所定種別の波の位置に関する情報を生成する(S22)。出力部336は、分析部335が生成した所定種別の波の位置に関する情報を表示するための表示情報を、通信部31を介して情報端末2に送信する(S23)。情報端末2は、心電図分析装置3から受信した表示情報に基づいて、所定種別の波の位置に関する情報を表示部上に表示する。
【0092】
[実施形態の効果]
通常のT波、へいていT波、陰性T波等の様々な種別の波はそれぞれ形態が異なるため、従来、コンピュータが心電図波形から様々な種別の波の位置を高精度に検出することが難しい場合があった。それに対して、本実施形態に係る心電図分析システムSにおいて、心電図分析装置3は、1拍ごとの心電図波形を形状の類似性に基づいて複数のグループに分類し、グループごとの代表波形に対して分析者から所定種別の波の位置の指定を受け付ける。そして心電図分析装置3は、グループごとの代表波形における時間軸上の複数の位置と、分析対象の心電図波形における時間軸上の複数の位置と、の対応関係を特定することにより、分析対象の心電図波形における所定種別の波の位置を決定する。これにより、心電図分析システムSは、波の形態のバリエーションを考慮して所定種別の波の位置を決定することができ、心電図波形において所定種別の波の位置を検出する精度を向上させることができる。
【0093】
以上、実施の形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【0094】
心電図分析装置3のプロセッサは、
図9に示す心電図分析方法に含まれる各ステップ(工程)を実行する。すなわち、心電図分析装置3のプロセッサは、
図9に示す心電図分析方法を実行するためのプログラムを実行することによって、
図9に示す心電図分析方法を実行する。
図9に示す心電図分析方法に含まれるステップは一部省略されてもよく、ステップ間の順番が変更されてもよく、複数のステップが並行して行われてもよい。
【符号の説明】
【0095】
S 心電図分析システム
1 心電計
2 情報端末
3 心電図分析装置
31 通信部
32 記憶部
33 制御部
331 取得部
332 分類部
333 受付部
334 判定部
335 分析部
336 出力部