(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156486
(43)【公開日】2023-10-24
(54)【発明の名称】フラジェリンから誘導されたTLR5作用剤を有効成分として含む移植片対宿主疾患の予防または治療用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/16 20060101AFI20231017BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231017BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20231017BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231017BHJP
C07K 14/195 20060101ALN20231017BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20231017BHJP
【FI】
A61K38/16
A61P35/00 ZNA
A61P37/06
A61P43/00 111
A61P43/00 105
C07K14/195
C12N15/31
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023134162
(22)【出願日】2023-08-21
(62)【分割の表示】P 2021556768の分割
【原出願日】2020-03-26
(31)【優先権主張番号】10-2019-0035521
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】510058863
【氏名又は名称】ザ カトリック ユニバーシティ オブ コリア インダストリー-アカデミック コーオペレイション ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョ、ソック
(72)【発明者】
【氏名】イム、ゴニル
(72)【発明者】
【氏名】キム、ナヨン
(72)【発明者】
【氏名】チョン、ヨンウ
(72)【発明者】
【氏名】ナム、ヨンソン
(72)【発明者】
【氏名】ソン、ユンジン
(72)【発明者】
【氏名】イ、ジュンソク
(57)【要約】 (修正有)
【課題】白血病、骨髄腫、リンパ腫および再生不良性貧血のような血液癌の治療のために同種造血母細胞を移植する過程で発生する移植片対宿主疾患を、抗腫瘍効果を増強しながら治療するための医薬組成物を提供する。
【解決手段】フラジェリンから誘導された特定の配列を有するTLR5作用剤を有効成分として含む、移植片対宿主疾患の予防または治療用組成物、ならびに前記フラジェリンから誘導されたTLR5作用剤を有効成分として含む、移植片対宿主疾患の改善用機能性食品組成物を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移植片対宿主病を治療または予防し、さらに移植片対腫瘍効果を増大させるための医薬組成物であって、
(i)治療有効量のTLR5アゴニスト;および
(ii)薬学的に許容される担体
を含有し、
ここで、該TLR5アゴニストは、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を含む、医薬組成物。
【請求項2】
前記TLR5アゴニストがフラジェリンのD0ドメインおよびD1ドメインを含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記TLR5アゴニストが、D1ドメイン内に、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するリンカーペプチドを含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記TLR5アゴニストが、宿主由来のIL-22およびIL-23の産生を促進する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記TLR5アゴニストが、宿主の腸管幹細胞の減少を抑制する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
TLR5アゴニストを有効成分として含有する、移植片対宿主病を緩和し、かつ移植片対腫瘍効果を増強するための機能性食品組成物であって、
ここで、該TLR5アゴニストは、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を含む、機能性食品組成物。
【請求項7】
前記TLR5アゴニストがフラジェリンのD0ドメインおよびD1ドメインを含む、請求項6に記載の機能性食品組成物。
【請求項8】
前記TLR5アゴニストが、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するリンカーペプチドを含む、請求項6に記載の機能性食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラジェリンから誘導されたTLR5作用剤を有効成分として含む移植片対
宿主疾患の予防または治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
TLR5(Toll-like receptor5)は、ヒトにおけるTLR5遺伝
子によって暗号化されたタンパク質であって(PNAS.95(2):588-93)、
TLR(toll-like receptor)ファミリーの一員である。TLR5は
、侵入する運動性バクテリアのフラジェリン(flagellin)を認識できることが
知られている(Seminars in Immunopathology.29(3)
:275-88)。TLR5は、炎症性腸疾患を含めて多様な疾患の開始に関与すること
が知られている(Journal of Physiology and Pharma
cology.60Suppl4:71-5)。
【0003】
フラジェリン(Flagellin)は、運動細胞小器官である、バクテリア鞭毛のフ
ィラメントを構成する主要構造タンパク質である。数万個のフラジェリン分子が螺旋状に
重合されて長い鞭形状のフラジェラフィラメントを形成する。フラジェリンは、D0ドメ
イン(domain)、D1ドメイン、D2ドメイン、D3ドメインを含み、そのうち、
D0ドメインとD1ドメインのフィラメントの組立に必要である。フラジェリンのD0お
よびD1ドメインは、多様なバクテリア種にわたって構造および配列が高度に保存されて
おり、宿主にバクテリア感染を知らせる、鞭毛を有するバクテリアの共通分子パターンと
して機能をする。フラジェリンはTLR5によって認識されて、NF-κBシグナル伝達
メカニズムを活性化させて、先天性免疫刺激、細胞保護および放射線抵抗性を誘導すると
知られている。
【0004】
移植片対宿主疾患(Graft-Versus-Host disease、GVHD
)は、白血病、骨髄腫、リンパ腫および再生不良性貧血のような血液癌の治療のために同
種造血母細胞を移植する過程で発生するが、移植や輸血により輸血されたリンパ球が免疫
機能の低下した宿主を攻撃しながら発生する。輸血されたリンパ球は一般的に宿主の免疫
機序によって破壊されるが、宿主の免疫機能が低下した場合、宿主の免疫体系がかかる機
能を行えないことからGVHDが発生する。一方、宿主の免疫抑制の程度が高いほど、G
VHDの可能性は高まるが、移植片対宿主疾患と抗腫瘍(graft-versus-t
umor、GVT)効果は互いに密接に関連づけられており、移植後に免疫抑制の強度を
高める場合、GVHDの発生は減少するものの、GVT効果も弱くなり、結局、白血病の
再発が増加する。したがって、GVHDを抑制しながらGVT効果は極大化できる新たな
治療剤の開発が切実なのが現状である。
【0005】
本明細書で言及された特許文献および参考文献は、それぞれの文献が参照により個別的
かつ明確に特定されたものと同じ程度で本明細書に参照として取り込まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Seminars in Immunopathology. 29 (3): 275-88
【非特許文献2】Journal of Physiology and Pharmacology. 60 Suppl 4: 71-5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、移植片対宿主疾患(GVHD)を効果的に抑制しながら同時に抗腫瘍(G
raft-versus-tumor、GVT)効果は極大化できる治療剤物質を開発す
るために研究努力した。その結果、フラジェリンから誘導されたTLR5(Toll-l
ike receptor5)の新規なペプチド作用剤(agonist)を開発し、こ
のTLR5作用剤が移植片対宿主疾患を効果的に抑制することを実験的に確認して、本発
明を完成するに至った。
【0008】
したがって、本発明の目的は、フラジェリンから誘導されたTLR5作用剤の治療学的
有効量;および薬学的に許容される担体を含む、移植片対宿主疾患の治療または予防用薬
学的組成物を提供することである。
【0009】
また、本発明の他の目的は、前記フラジェリンから誘導されたTLR5作用剤を有効成
分として含む、移植片対宿主疾患の改善用機能性食品組成物を提供することである。
【0010】
本発明の他の目的および技術的特徴は以下の発明の詳細な説明、特許請求の範囲および
図面によってより具体的に提示される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様によれば、(i)フラジェリンから誘導されたTLR5作用剤(agon
ist)の治療学的有効量;および(ii)薬学的に許容される担体を含む、移植片対宿
主疾患の治療または予防用薬学的組成物を提供する。
本発明で使われる用語「フラジェリンから誘導されたTLR5作用剤」は、バクテリアの
フラジェリンタンパク質に由来するか、これを変形させたものであって、TLR5(To
ll-like receptor5)によるシグナル伝達を活性化させる活性を有する
タンパク質またはポリペプチドをすべて含む意味である。
【0012】
本発明で使われる用語「フラジェリン(flagellin)」は、バクテリア鞭毛の
フィラメントを構成する主要タンパク質を指す。フラジェリンは、D0ドメイン(dom
ain)、D1ドメイン、D2ドメイン、D3ドメインを含んでなる。フラジェリンはT
LR5によって認識されて、NF-κBシグナル伝達メカニズムを活性化させて、先天性
免疫刺激、細胞保護および放射線抵抗性を誘導することが知られている。
【0013】
本発明の一実施形態によれば、前記「フラジェリンから誘導されたTLR5作用剤」は
、ペプチド物質としてフラジェリンのD0ドメインおよびフラジェリンのD1ドメインを
含むことができる。
【0014】
本発明の他の実施形態によれば、前記「フラジェリンから誘導されたTLR5作用剤」
は、フラジェリンのD0ドメイン、フラジェリンのD1ドメイン、およびリンカーペプチ
ドを含むことができる。
【0015】
本発明の他の実施形態によれば、前記リンカーペプチドは、D1ドメインの内部に含ま
れる。
本発明の他の実施形態によれば、前記リンカーペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列
を含むことができる。
【0016】
本発明のさらに他の実施形態によれば、前記「フラジェリンから誘導されたTLR5作
用剤」は、配列番号2のアミノ酸配列を含む。
【0017】
本発明において、治療対象疾患である「移植片対宿主疾患(Graft-Versus
-Host disease、GVHD)」は、輸血されたリンパ球が免疫機能の低下し
た宿主を攻撃して現れる全身性疾患であって、供与者(donor)のT細胞が宿主(h
ost)の臓器、例えば、肝、小腸、大腸、皮膚などを損傷させる。輸血されたリンパ球
は一般的に宿主の免疫機序によって破壊されるが、宿主の免疫機能が低下した場合、宿主
の免疫体系がかかる機能を行えないことから発生する。免疫抑制を多くするほど、輸血に
よる移植片対宿主疾患の可能性が高まる。悪性血液癌(急性白血病やホジキン病など)や
先天性免疫欠乏症により不可避に造血母細胞の移植を受けなければならない患者に現れ、
合併症免疫抑制を多くするほど、移植片対宿主疾患(GVHD)の可能性は高まる。骨髄
移植後に発生する移植片対宿主疾患は急性と慢性の2種類があり、輸血後に発生する移植
片対宿主疾患は急性の形態で発生する。症状は、発熱、発疹、かゆみ症、黄疸、肝機能異
常、下痢、出血、汎血球減少症(白血球、赤血球、血小板がすべて減少した状態)などで
あり、輸血後4~30日の間に発生する。
【0018】
一方、移植片対腫瘍(graft-versus-tumor)は、移植された骨髄や
組織に存在する供与者の免疫細胞が、授与者の持っている癌組織に起こす免疫反応である
。骨髄移植などでは供与者と授与者の相性が合わない場合、移植した白血球が授与者の正
常体細胞を攻撃し、これによって移植片対宿主疾患をもたらす。免疫異常である移植片対
宿主疾患(GVHD)の抑制のために免疫抑制剤を投与するが、癌細胞を攻撃する移植片
対腫瘍効果(GVT効果)まで必然的に低下させて、白血病の再発の原因になりうる。し
たがって、移植片対宿主疾患と移植片対腫瘍(graft-versus-tumor、
GVT)効果は互いに密接に関連づけられているといえる。
【0019】
本明細書の実施例で実験結果として立証されているように、本発明のフラジェリンから
誘導されたTLR5作用剤は、GVHD誘導された動物モデルにおいて優れたGVHD治
療効果を示した。
【0020】
また、本明細書の実施例で他の実験結果として立証されているように、本発明のフラジ
ェリンから誘導されたTLR5作用剤は、宿主由来のIL(interleukin)-
22およびIL-23の生産を促進させる効果を示した。したがって、本発明のフラジェ
リンから誘導されたTLR5作用剤は、前記宿主由来のIL-22およびIL-23の生
産を促進させることにより、移植片対宿主疾患を有する宿主において腸幹細胞(inte
stinal stem cell)が減少することを抑制することができる。
【0021】
本明細書の実施例で実験結果として立証されているように、本発明のフラジェリンから
誘導されたTLR5作用剤は、GVHDおよびGVT誘導された動物モデルにおいて優れ
た移植片対腫瘍効果の増加を示した。
【0022】
本発明の組成物は、(i)フラジェリンから誘導されたTLR5作用剤の治療学的有効
量;および(ii)薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物の形態で提供される。
【0023】
本明細書において、用語「治療学的有効量」は、有効成分である「フラジェリンから誘
導されたTLR5作用剤」を対象患者に投与して移植片対宿主疾患を治療または予防する
のに適した量を意味し、具体的には、前記「治療学的有効量」は、治療される疾患または
状態の1つ以上の症状をある程度緩和させる、投与される薬剤または化合物の十分な量を
意味する。
【0024】
前記(i)フラジェリンから誘導されたTLR5作用剤の治療学的有効量;および(i
i)薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物の好ましい投与量は、適宜調節可能で
ある。前記組成物は、好ましくは、1日投与量を基準として25~100ug/kgであ
ってもよい。
【0025】
本発明の薬学的組成物は、有効成分である「フラジェリンから誘導されたTLR5作用
剤」のほかに、薬学的に許容される担体を含むことができ、このような担体は、製剤時に
通常用いられるものであって、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール
、マンニトール、デンプン、アカシアガム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン
、ケイ酸カルシウム、微細結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、
シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベン
ゾエート、滑石、ステアリン酸マグネシウム、メントールおよびミネラルオイルなどを含
むが、これらに限定されるものではない。
【0026】
本発明の薬学的組成物は、前記成分のほかに、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化
剤、懸濁剤、保存剤などを追加的に含むことができる。好適な薬学的に許容される担体お
よび製剤は、Remington’s Pharmaceutical Science
s(19th ed.,1995)に詳しく記載されている。
【0027】
本発明の薬学的組成物の好適な投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、
性別、病的状態、飲食、投与時間、投与経路、排泄速度および反応感応性のような要因に
よって多様に処方可能である。
【0028】
本発明の薬学的組成物は、経口または非経口投与することができ、非経口投与される場
合、静脈内注入、皮下注入、筋肉注入、腹腔注入、経皮投与などで投与することができる
。
【0029】
一方、本発明の薬学的組成物が移植片対宿主疾患の治療または予防のために適用される
点を勘案すれば、本発明の薬学的組成物の投与は、経口または非経口の多様な経路で投与
可能である。
本発明の薬学的組成物に含まれる有効成分の濃度は、治療目的、患者の状態、必要期間な
どを考慮して決定することができ、特定範囲の濃度に限定されない。
【0030】
本発明の薬学的組成物は、当該発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が
容易に実施できる方法により、薬学的に許容される担体および/または賦形剤を用いて製
剤化することにより、単位用量形態で製造されるか、または多用量容器内に入れて製造さ
れてもよい。この時、剤形は、オイルまたは水性媒質中の溶液、懸濁液または乳化液の形
態であるか、エキス剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤またはカプセル剤の形態であってもよいし
、分散剤または安定化剤を追加的に含むことができる。
【0031】
本発明の他の態様によれば、本発明は、フラジェリンから誘導されたTLR5作用剤を
有効成分として含む、移植片対宿主疾患の改善用機能性食品組成物を提供する。
【0032】
本発明の機能性食品組成物は、食品の製造時に通常添加される成分を含み、例えば、タ
ンパク質、炭水化物、脂肪、栄養素および調味剤を含む。例えば、有効成分としてのフラ
ジェリンから誘導されたTLR5作用剤のほかに、香味剤または天然炭水化物を追加成分
として含むことができる。例えば、天然炭水化物は、モノサッカライド(例えば、グルコ
ース、フルクトースなど);ジサッカライド(例えば、マルトース、スクロースなど);
オリゴ糖;ポリサッカライド(例えば、デキストリン、シクロデキストリンなど);およ
び糖アルコール(例えば、キシリトール、ソルビトール、エリスリトールなど)を含む。
香味剤として、天然香味剤(例えば、タウマチン、ステビア抽出物など)および合成香味
剤(例えば、サッカリン、アスパルテームなど)を用いることができる。
【0033】
本発明の利点をまとめると、次の通りである:
(i)本発明のフラジェリンから誘導されたTLR5作用剤は、優れた移植片対宿主疾患
(GVHD)の治療効果を示す。
(ii)本発明のフラジェリンから誘導されたTLR5作用剤は、移植片対宿主疾患の治
療、予防または改善用組成物の活性成分として開発できる。
【発明の効果】
【0034】
本発明は、フラジェリンから誘導されたTLR5作用剤を有効成分として含む移植片対
宿主疾患の予防または治療用組成物に関する。本発明のフラジェリンから誘導されたTL
R5作用剤は、優れた移植片対宿主疾患(GVHD)の治療効果を示すので、移植片対宿
主疾患の治療、予防または改善用組成物の活性成分として開発できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】GVHDマウス動物モデルにおいて配列番号2のアミノ酸配列のポリペプチドであるTLR5作用剤(以下、配列番号2のTLR5作用剤を「KMRC011」と称して記載する)の投与によるGVHDの抑制効果を示す実験結果の写真である。GVHDマウス動物モデルは、MHCクラス(class)が互いに異なるC57BL/6(H-2kb)マウス(供与者)とBALB/c(H-2kd)マウス(授与者)を用いて供与者の骨髄細胞と脾臓細胞を授与者の静脈に移植することによって得た。
【
図2】GVHDマウス動物モデルにおいてKMRC011によるGVHDの抑制効果を示す実験結果である。グラフでは、GVHDマウスモデルの生存率、体重およびGVHD臨床評価指標を測定した結果を示す。
【
図3】GVHDマウスモデルにおいてKMRC011の投与によるGVHDの抑制効果を示す結果であって、免疫組織化学染色による組織学的相違を示す写真である。
【
図4】GVHDマウスモデルにおいてKMRC011によるGVHDの抑制効果を示す結果であって、KMRC011の投与によるIL-22とIL-23の発現増加および腸幹細胞(intestinal stem cells)の保護効果を示す。
【
図5】TLR5遺伝子の形質感染によって生成されたHEK-Dual細胞においてKMRC011とフラジェリン(flagellin)の生物学的活性度を測定した結果であって、IL-8反応を光度計(luminometer)で確認した結果を示す図である。
【
図6】TLR5遺伝子の形質感染によって生成されたHEK-Dual細胞においてKMRC011とフラジェリンの生物学的活性度を測定した結果であって、NF-κB反応をアルカリンホスファターゼ活性(alkaline phosphatase activity、AP)反応測定方法で確認した結果を示す図である。
【
図7】GVHDおよびGVTマウスモデルにおいてKMRC011の投与によるGVHDの抑制効果を示す結果である。
【
図8】GVHDおよびGVTマウスモデルにおいてKMRC011の投与によるGVTの上昇効果を示す結果であって、生体内蛍光分光分析器(IVIS Lumina XRMS)を用いて腫瘍を追跡、観察した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本明細書で説明された具体的な実施例は、本発明の好ましい実施形態または例示を代表す
る意味であり、これによって本発明の範囲が限定されない。本発明の変形と他の用途が本
明細書の特許請求の範囲に記載された発明の範囲を逸脱しないことは当業者にとって自明
である。
【実施例0037】
実験方法
1.マウスモデルの確立
(1)GVHDマウスモデル
MHCクラス(class)が互いに異なるC57BL/6(H-2kb)とBALB/
c(H-2kd)マウス6-8週齢を用いて、授与者マウスであるBALB/c(H-2
kd)は800cGyで全身放射線を照射し、24時間以内に供与者マウスであるC57
BL/6(H-2kb)の骨髄細胞(5×106細胞)と脾臓細胞(5×106細胞)を
分離して、同種の授与者マウスの静脈に移植してGVHD動物モデルを誘導した。次いで
、GVHDマウスは体重、姿勢、活動性、毛状態および皮膚密度を各2点ずつ計10点満
点のGVHD臨床評価基準(下記表1参照)により1週間に2回ずつ観察および評価した
。下記表1は、GVHDマウスモデルの体重、姿勢、活動性、毛状態および皮膚密度の臨
床評価基準を記載した。
【0038】
【0039】
(2)GVHDおよびGVTマウスモデル
分子映像手法を導入して腫瘍細胞の移動経路、生存率、増殖率および抗腫瘍効果にKMR
C011の作用の影響を確認することにより、腫瘍患者を対象にするGVHD治療剤の有
効性を同時に検証すべく、腫瘍を保有したマウスに同種造血母細胞の移植によるGVHD
およびGVT同時誘発モデルを確立した。
分子ラベリングにより腫瘍追跡が可能な癌細胞株(A20 1x106)をマウスに静脈
注射し、7日後に放射線照射(8Gy)および同種移植を行ってGVTモデルを確立した
。luciferinを注入した動物のwhole bodyを生きている状態で生体内
蛍光分光分析器(IVIS Lumina XRMS)を用いてイメージングを実施し、
GVHD評価を進行させた。
【0040】
2.免疫組織化学染色(Immunohistochemistry)
パラフィンに包埋された組織から4μmの連続切片を得て、キシレン(xylene)
で3回処理してパラフィンを除去し、95%、90%、70%エタノール(ethano
l)で段階的に含水させた後、0.5%過酸化水素(hydrogen peroxid
e)で内因性ペルオキシダーゼ(endogenous peroxidase)を除去
した後、正常ヤギ血清(goat serum)で30分間処理し、一次抗体を3%BS
A(bovine serum albumin)が含まれたリン酸塩緩衝溶液(PBS
)で製造会社の指示通りに希釈して1時間反応させた。発現の差を示す遺伝子に対して発
現蛋白に対する一次抗体の反応後、Tris-緩衝塩水(TBS)で3回洗浄し、3%B
SAで希釈した5μg/ml biotinylated anti-mouse/an
ti-rabbit IgGに30分間反応させ、3回Tris-緩衝塩水で洗浄した後
、3μg/mlホースラディッシュペルオキシダーゼストレプトアビジン(horser
adish peroxidase streptavidin)で30分間放置させ、
ジアミノベンジジン(DAB)と過酸化水素を用いて発色した後、Meyer’s he
matoxylinや1%メチルグリーン(methyl green)で対照染色した
。
【0041】
3.HEK-DualTM hTLR5(NF/IL8)細胞培養
TLR5作用剤としては、配列番号2のアミノ酸配列のポリペプチド(「KMRC011
」)を使用した。本発明のKMRC011とフラジェリン(Flagellin)のTL
R5に反応する生物学的活性を比較するために、HEK-DualTM hTLR5(N
F/IL8)細胞を使用した。HEK-DualTM細胞は、ヒトTLR5(hTLR5
)遺伝子の安定した形質注入とTLR3およびTNFRのノックアウト(knockou
t)で他のTLRおよびサイトカインTNF-αの干渉なしにhTLR5シグナルのみを
研究できる細胞であり、InvivoGenから分譲を受けて使用した。この細胞は、T
LR5シグナルによるNF-κB/AP-1の誘導が可能なSEAP(secreted
embryonic alkaline phosphatase)レポーター構造を
安定的に発現し、内生IL-8プロモーターの制御下にあるルシアルシフェラーゼ(Lu
cia luciferase)を発現する。細胞を10%FBSと50U/mlペニシ
リン(penicillin)、50μg/mlストレプトマイシン(streptom
ycin)、100μg/mlノルモシン(Normocin)TM、100μg/ml
ハイグロマイシン(Hygromycin)B Gold、50μg/mlゼオシン(Z
eocin)TMが含まれたDMEM培地(Life Technologies)を用
いて5%CO2および37℃の条件下で培養した。本発明のTLR5作用剤(KMRC0
11)とフラジェリンを100ng/ml、10ng/ml、1ng/ml、0.1ng
/ml、0.01ng/mlで希釈して、フラットボトム96ウェルプレート(flat
-bottom 96-well plate)のウェル(well)にそれぞれ20μ
lずつ添加した。他のウェル(well)に陰性対照群である滅菌水を20μl添加した
。HEK-DualTM hTLR5(NF/IL8)細胞懸濁液を用意した後、フラッ
トボトム96ウェルプレート(flat-bottom 96-well plate)
のウェル(well)に細胞懸濁液180μl(10000cells)をそれぞれ添加
し、20~24時間5%CO2および37℃の条件下で培養した。
【0042】
4.HEK-DualTM hTLR5細胞におけるIL-8反応検出
QUANTI-LucTMはルシフェラーゼ反応に必要な安定化された基質などのすべて
の構成要素を含んでいて、ルシアルシフェラーゼ(Lucia luciferase)
の活性を定量的に測定可能な分析試薬である。ルシフェラーゼ反応で生成された発光(l
uminescence)は光度計(luminometer)を用いて定量化すること
ができる。フラットボトム96ウェルプレートのウェル(well)あたりのHEK-D
ualTM hTLR5(NF-κB/IL8)細胞培養上澄液を10μlずつそれぞれ
分注した後、50μlのQUANTI-LucTMを添加し、直ちに光度計を用いて発光
を測定した。
【0043】
5.HEK-DualTM hTLR5細胞におけるNF-κB反応検出
QUANTI-BlueTMは、細胞培養上澄液のような生物学的サンプルでアルカリン
ホスファターゼ活性(alkaline phosphatase activity、
AP)を測定するために開発された比色酵素分析試薬であり、APがある場合、桃色から
紫色-青色に変わる。フラットボトム96ウェルプレートのウェル(well)あたりの
QUANTI-BlueTM(InvivoGen)を180μlずつ分注した後、誘導
されたHEK-DualTM hTLR5(NF-κB/IL8)細胞培養上澄液を20
μlずつそれぞれ添加した後、5-30分間常温で反応させた後、620-655nmで
分光光度計を用いてSEAPレベルを測定した。
【0044】
実験結果
1.GVHDマウスモデルにおけるTLR5作用剤によるGVHDの抑制効果の検証
GVHDマウスモデルを誘導した後、本発明のTLR5作用剤(「KMRC011」)に
よるGVHDの抑制効果を観察した。薬物の詳しい投与方法としては、授与者マウスにK
MRC011 25μg/kg(▽)、KMRC011 50μg/kg(◇)、KMR
C011 100μg/kg(△)、ビヒクル(vehicle)(対照群;■)で前処
理および2日間隔で計5回腹腔内注射した。
【0045】
各グループのマウスは耳に標識を付けて、1週間に2回ずつ体重、姿勢、活動性、毛状
態および皮膚密度を評価した。評価実験の結果、
図1および
図2に示されるように、GV
HDマウスモデルのうち、ビヒクルグループは、体重が減少し、背中が曲がり、活動性が
低下し、毛の様相と皮膚強度に変化が生じた。これに対し、KMRC011投与グループ
では、前記の症状が著しく減少することを確認することができた。また、KMRC011
投与グループでは、ビヒクルグループに比べて生存率が大きく伸び、GVHD臨床評価指
標において症状が著しく減少することを確認した。
【0046】
2.GVHDマウスモデルにおけるTLR5作用剤投与後の組織学的評価
GVHDマウスモデルに、KMRC011を投与した後、動物モデルの腸、肝、皮膚、肺
組織を得て、4%ホルムアルデヒド(formaldehyde)に固定した後、パラフ
ィンブロックを作り、H&E染色で組織学的所見を分析した。その結果、
図3に示される
ように、ビヒクルグループの腸では絨毛および粘膜が破壊され、肝および皮膚では炎症性
細胞の浸潤所見が現れているのに対し、KMRC011を投与したグループでは、正常な
組織学的所見と類似することが明らかになった。
【0047】
3.GVHDマウスモデルにおけるTLR5作用剤の投与によるIL-22とIL-2
3の発現増加および腸幹細胞(intestinal stem cell)の保護効果
GVHDマウスモデルに、KMRC011を投与した後、IL-22およびIL-23の
発現レベルおよび腸幹細胞(intestinal stem cell)の保護効果を
評価した。
図4に示されるように、TLR5の発現が脾臓(spleen)と皮膚より小
腸(small intestine)で最も高く現れ、GVHDマウスモデルにKMR
C011を投与した場合、腸(intestine)でのIL-22とIL-23の発現
が大きく向上した。また、GVHD動物モデルでは、腸Lgr5+幹細胞(intest
inal Lgr5+ stem cell)の減少が見られたが、GVHD動物モデル
にKMRC011を投与したグループでは、Lgr5+幹細胞を効果的に保護することが
観察された(
図4参照)。
【0048】
4.本発明のTLR5作用剤とフラジェリンのTLR5反応活性の比較結果
TLR5遺伝子の形質感染によって生成されたHEK-Dual細胞においてKMRC0
11とフラジェリンのTLR5活性化効能を互いに比較した。HEK-293レポーター
細胞を活用して光度計(luminometer)でIL-8反応を確認した。その結果
、
図5に示されるように、低い濃度で(0.001~0.01ng/ml)、フラジェリ
ンよりKMRC011の活性化反応がはるかに高く現れた。これに対し、陰性対照群(n
egative control)であるLPSを処理した場合は、TLR5の生物学的
活性が観察されなかった(
図5)。また、同一の条件でアルカリンホスファターゼ活性(
alkaline phosphatase activity、AP)反応測定方法で
NF-κB反応を確認した。その結果、
図6に示されるように、0.01nm/mlの濃
度からフラジェリンよりKMRC011の反応性がより高くなることを確認した。
【0049】
5.GVHDおよびGVTマウスモデルにおけるTLR5作用剤によるGVHDの抑制
およびGVTの上昇効果の検証
KMRC011の投与によるGVHDの抑制と同時にGVTの上昇効果の極大化効果を
検証した。腫瘍を保有した動物モデルであるGVHDおよびGVTマウスモデルに放射線
照射3時間前にKMRC011を1回腹腔内注射(50ug/kg)した。KMRC01
1を投与しないグループ(Allogeneic BMTグループ)は、体重が減少し、
背中が曲がり、活動性が低下し、毛の様相と皮膚強度に変化が生じてGVHDが発生した
のに対し、KMRC011を投与したグループ(Allogeneic BMT+KMR
C011グループ)では、前記の症状が著しく減少することを確認することができた(図
7参照)。
【0050】
追加的に、生体内蛍光分光分析器(IVIS Lumina XRMS)を用いて腫瘍
を追跡、観察した。Allogeneic BMTグループでは、一部腫瘍が確認された
のに対し、Allogeneic BMT+KMRC011グループでは、腫瘍が確認さ
れなかった。KMRC011は、GVHDを抑制すると同時にGVT効果を上昇させるこ
とができる画期的な治療剤であることを立証した(
図8参照)。