(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156524
(43)【公開日】2023-10-24
(54)【発明の名称】6価クロム含有スラッジの処理方法及び装置
(51)【国際特許分類】
C02F 11/00 20060101AFI20231017BHJP
【FI】
C02F11/00 H
C02F11/00 J ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2023137265
(22)【出願日】2023-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】509052252
【氏名又は名称】株式会社サンクト
(74)【代理人】
【識別番号】100091502
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 正威
(72)【発明者】
【氏名】上山 隆春
(72)【発明者】
【氏名】坂本 治
(57)【要約】
【課題】
6価クロムを含有するスラッジに第一鉄イオンを添加して6価クロムを3価クロムに還元処理するに当たり、第一鉄イオンを過剰に添加することを防止するとともに、6価クロムの還元をジフェニルカルバジドによる比色検査により正確に判定できるようにする。
【解決手段】
6価クロムを含有するスラッジを濃度1~5kg/L、pH4~8のスラリーとした後、スラリーの溶存酸素量を監視しつつ第一鉄イオンを溶存酸素量が1ppmとなるまで添加することで前記還元処理を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
6価クロムを含有するスラッジに、第一鉄イオンを添加して6価クロムを3価クロムに還元処理する6価クロム含有スラッジの処理方法において、
前記スラッジを濃度1~5kg/L、pH4~8のスラリーとした後、前記スラリーの溶存酸素量を監視しつつ前記第一鉄イオンを前記溶存酸素量が1ppmとなるまで添加することで前記還元処理を行うことを特徴とする6価クロム含有スラッジの処理方法。
【請求項2】
前記スラリー中の前記溶存酸素量が1ppmとなった時点で、ジフェニルカルバジドによる比色検査で前記スラリー中の6価クロム濃度を測定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記スラッジはコバルトイオンを含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記還元処理を、アミノ酸の存在下に行う、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記アミノ酸は、アラニン、バリン、フェニルアラニンおよびグリシンから選ばれた少なくとも一つである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
6価クロムを含有するスラッジに、第一鉄イオンを添加して6価クロムを3価クロムに還元処理する、6価クロム含有スラッジの処理装置であって、
前記スラッジを濃度1~5kg/L、pH4~8のスラリーとする装置、
前記スラリーの溶存酸素量を監視する装置、
前記スラリーに前記第一鉄イオン添加する装置、及び、
前記溶存酸素量が1ppmとなった時点で前記第一鉄イオン添加を停止する装置
を備えてなることを特徴とする6価クロム含有スラッジの処理装置。
【請求項7】
前記スラリー中の前記溶存酸素量が1ppmとなった時点で、前記スラリー中の6価クロム濃度を測定するためのジフェニルカルバジドによる比色検査装置を更に備える、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記スラッジはコバルトイオンを含有する、請求項6に記載の装置。
【請求項9】
前記還元処理は、アミノ酸の存在下に行う、請求項6に記載の装置。
【請求項10】
前記アミノ酸は、アラニン、バリン、フェニルアラニンおよびグリシンから選ばれた少なくとも一つである、請求項9に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、6価クロムを含有するスラッジに第一鉄イオンを添加して6価クロムを3価クロムに還元処理する方法及び装置に係り、特に、工場から排出されるコバルトイオン及び6価クロムを含有するスラッジの6価クロムを3価クロムに還元して無毒化する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
6価クロムを含有する廃水から6価クロムを除去する方法としては、還元剤として硫酸第一鉄等の第一鉄塩を用いて、6価クロムを3価クロムに還元して無毒化する方法が用いられている。この方法は、硫酸第一鉄が安価であり、還元反応が酸性乃至アルカリ性の広いpH範囲で行える点で好都合である。しかし、6価クロムが3価クロムに還元されたかどうかを判定するためには、反応液の一部を採取してジフェニルカルバジドによる比色検査により6価クロムを定量することが必要であり、リアルタイムでの定量ができず、大量の6価クロム含有廃水を処理する場合に不向きである。
【0003】
上記問題点を解消するために、特開平3-254889号公報には、第一鉄塩を用いる6価クロム含有廃水の還元処理法において、6価クロム含有廃水のpHを4以上に調整して、溶存酸素が2mg/L以下になった時点で6価クロムの還元が終了したと判定する方法が提案されている。上記のとおり第一鉄イオンは酸性及びアルカリ性の何れの条件下でも6価クロムと瞬時に反応する一方、第一鉄イオンはpH4以上の条件下で溶存酸素で酸化され、中性以上ではこの酸化反応は急激に進行して溶存酸素の量が急激に低下する。すなわち、pH4以上の条件下では、第一鉄イオンは溶存酸素との反応に先行して6価クロムの還元に瞬時に消費され、6価クロムの還元が終了した後、溶存酸素と反応するので、系中の溶存酸素の量をモニタリングすることにより、溶存酸素の量が一定量以下になった時点で6価クロムの還元が終了したと判定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記溶存酸素の量をモニタリングする方法でも、高濃度のスラッジを大量に処理する場合には、実際の6価クロムの還元の終了と溶存酸素の量の低下との間にはタイムラグがあり、第一鉄塩を過剰に添加してしまうことがあった。また、第一鉄塩を過剰に添加すると、水酸化第二鉄が生成して反応液が赤色を帯びてくるため、6価クロムの還元をジフェニルカルバジドによる比色検査により確認することが困難になるという問題が生じる。
【0006】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、6価クロムを含有するスラッジに第一鉄イオンを添加して6価クロムを3価クロムに還元処理するに当たり、第一鉄イオンを過剰に添加することを防止するとともに、6価クロムの還元をジフェニルカルバジドによる比色検査により正確に判定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記問題を解決するために鋭意研究した結果、6価クロムを含有するスラッジを所定濃度及び所定pHのスラリーに調製し、このスラリーの溶存酸素量が1ppmとなるまで第一鉄イオンを添加することにより、第一鉄イオンの過剰添加を防止するとともに、水酸化第二鉄が生成して前記スラリーが赤色を帯びるのを防止することができ、さらには、前記スラリーをジフェニルカルバジドによる比色検査に供することで6価クロムの還元が終了したことを容易に判定できるようになることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の一局面によれば、6価クロムを含有するスラッジに、第一鉄イオンを添加して6価クロムを3価クロムに還元処理する6価クロム含有スラッジの処理方法において、
前記スラッジを濃度1~5kg/L、pH4~8のスラリーとした後、前記スラリーの溶存酸素量を監視しつつ前記第一鉄イオンを前記溶存酸素量が1ppmとなるまで添加することで前記還元処理を行うことを特徴とする6価クロム含有スラッジの処理方法が提供される。
【0009】
本発明の他の局面によれば、6価クロムを含有するスラッジに、第一鉄イオンを添加して6価クロムを3価クロムに還元処理する、6価クロム含有スラッジの処理装置であって、
前記スラッジを濃度1~5kg/L、pH4~8のスラリーとする装置、
前記スラリーの溶存酸素量を監視する装置、
前記スラリーに前記第一鉄イオン添加する装置、及び、
前記溶存酸素量が1ppmとなった時点で前記第一鉄イオン添加を停止する装置
を備えてなることを特徴とする6価クロム含有スラッジの処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、6価クロムを含有するスラッジを所定濃度の中性付近のスラリーに調製し、このスラリーの溶存酸素量が1ppmとなるまで第一鉄イオンを添加することとしたので、第一鉄イオンによるスラリー中の6価クロムの還元が終了し、かつ、スラリー中の溶存酸素の多くが第一鉄イオンとの反応に消費される前の段階で第一鉄イオンの添加を終了させることができ、第一鉄イオンの過剰添加を防止することができる。
【0011】
したがって、第一鉄イオンの過剰添加によりスラリー中に水酸化第二鉄が生成してスラリーが赤色を帯びるのを防止できるので、スラリーをジフェニルカルバジドによる比色検査に供することで6価クロムの還元が終了したことを容易に判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の6価クロムを含有するスラッジの処理装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明するが、本発明は当該実施形態のみに限定されるものではない。
【0014】
本発明で使用する6価クロムを含有するスラッジは、特に限定されるものではないが、例えば、タングステンスラッジのような6価クロム及びコバルトイオンのようなその他の金属イオンを含有するスラッジや、焼却灰、めっき工場排水等に由来するスラッジが挙げられる。
【0015】
本発明において6価クロムを3価クロムに還元処理するために第一鉄イオンが使用されるが、第一鉄イオンの供給源としては、硫酸第一鉄の他、塩化第一鉄、硫酸第一鉄アンモニウム、硝酸第一鉄、水酸化第一鉄等が使用でき、また、第一鉄イオンを含有する廃液を使用してもよい。
【0016】
本発明においては、前記スラッジを濃度1~5kg/L、pH4~8のスラリーに調製して、このスラリーに第一鉄イオン、すなわち、上記第一鉄イオンの供給源を添加して、スラッジに含まれる6価クロムを3価クロムに還元してスラッジを無毒化する。
【0017】
上記スラリーは、スラッジに水及びpH調製剤を添加することで調製できる。pH調製剤としては、硫酸、塩酸等の酸、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリを用いることができる。スラリーのpHは、好ましくは5~8であり、より好ましくは6~7.5である。スラッジの濃度は、好ましくは1.5~4kg/Lであり、より好ましくは2~3.5kg/Lである。
【0018】
本発明では、上記スラリーの溶存酸素量を監視しつつ第一鉄イオンを上記溶存酸素量が1ppmとなるまで添加することで、6価クロムの3価クロムへの還元を達成する。上記スラリーの溶存酸素量の監視は、溶存酸素計(DO計)を使用して行うことができる。スラリーの溶存酸素は第一鉄イオンの添加前は6ppm以上を示すことが通常であるが、スラリー中の6価クロムの還元が終了した後、第一鉄イオンの添加を継続すると、第一鉄イオンが溶存酸素と反応して酸化第二鉄を生成する反応が進行し、スラリー中の溶存酸素量が急速に低下し、これに伴い、スラリーが次第に赤色を呈することもある。本発明者の知見によれば、上記スラリーの溶存酸素量が1ppmとなった時点で6価クロムの3価クロムへの還元は終了しており、それ以上添加することは第一鉄イオンの過剰添加となり、場合によっては、スラリーが次第に赤色を呈し、6価クロムの還元の終了をジフェニルカルバジドによる比色検査で確認することが容易でなくなるという弊害を生じることが判明した。したがって、本発明によれば、第一鉄イオンの添加は、スラリー中の溶存酸素量が1ppmとなった時点で終了するものであり、これにより、6価クロムの還元の終了をジフェニルカルバジドによる比色検査で上記スラリー中の6価クロム(Cr(VI))濃度を測定することで容易に確認できるので好都合である。
【0019】
本発明では、上記スラリー中にアミノ酸を添加し、第一鉄イオンによる上記還元処理をアミノ酸の存在下で行うことができる。特に、スラッジがコバルト等の重金属イオンを含む場合、アミノ酸の重金属イオン捕捉作用などにより、スラリーの分散性が向上し、また、第一鉄イオンによる6価クロムの還元反応が促進されるものと推測される。
【0020】
本発明で使用するアミノ酸は、カルボキシル基からプロトンを放出するものであれば特に限定されないが、α―アミノ酸であることが好ましく、アラニン、バリン、フェニルアラニンおよびグリシンから選ばれた少なくとも一つであることが好ましい。
【0021】
図1に、本発明の6価クロムを含有するスラッジの処理装置の一例が示されている。
図1の左側にスラッジの6価クロムを3価クロムに還元する還元槽が示され、還元槽の右側には還元処理されたスラッジを無毒化スラッジと無毒化処理水に分離する沈殿槽が示されている。還元槽は撹拌機、スラッジ導入用導管、第一鉄イオン添加用導管、pH調節剤添加用導管、水添加用導管、溶存酸素計(DO計)を備えている。
【0022】
そして、まず、スラッジを還元槽に導入するとともに、水及びpH調節剤を還元槽に添加して撹拌機で攪拌することにより、濃度1~5kg/L及びpH4~8のスラリーを調製する。そして、溶存酸素計(DO計)でスラリーの溶存酸素濃度を測定してその値を監視しつつ、第一鉄イオンを還元槽に添加する。そして、溶存酸素計(DO計)の値が1ppmに達した時点で、第一鉄イオンの添加を終了する。これは、例えば、第一鉄イオン添加用導管に設けられたバルブを上記時点で閉止することで行うことができる。この時点で、通常はスラリー中の6価クロムは3価クロムに還元され、6価クロムは基準値(0.1ppm)以下になっているが、重ねて、スラリーを採取してろ過した後、ろ液をジフェニルカルバジドによる比色検査に供して、6価クロムは基準値(0.1ppm)以下であることを確認してもよい。
【0023】
その後、還元処理されたスラリーを沈殿槽に移送し、無毒化スラッジと無毒化処理水に分離して廃棄することができる。処理前のスラッジに含まれていた6価クロムは、3価クロムに還元されて沈殿し、無毒化スラッジ中に含有されて廃棄され、無毒化処理水は6価クロムの濃度が基準値(0.1ppm)以下の廃水として廃棄される。
【実施例0024】
実施例1(スラリーの調製)
超硬工具の製造過程で発生したスラッジ500gに水150~200mLを混合し、Cr(VI)測定用のスラリーを調製した。このスラリーはコバルトを主体とする金属を含む他、1ppm(1.0mg/L)のCr(VI)を含むものであった。
【0025】
実施例2(Cr(VI)の還元処理)
実施例1で得られたスラリーに硫酸を添加し、pHを7.12に調整した。また、硫酸第一鉄(II)・七水和物の10g/100mL水溶液を調製した。そして、この硫酸第一鉄(II)・七水和物水溶液10mLを前記スラリーに添加して均一に混合した後、スラリー中の溶存酸素濃度をDO計で測定するととともに、スラリーの一部を採取してADVANTEC社製No.1濾紙でろ過した後、ろ液の色を観察するとともに、ろ液中のCr(VI)濃度をジフェニルカルバジドによる比色検査装置(共立理化学研究所製パックテストCr(VI)用)を用いて測定した。結果を下記表1に示す。
【0026】
その後、さらに前記スラリーに上記硫酸第一鉄(II)・七水和物水溶液10mLを添加して均一に混合した後、上記と同様の方法で溶存酸素濃度及びCr(VI)濃度を測定した。この操作を、9回繰り返した。すなわち、最終的に前記スラリーに上記硫酸第一鉄(II)・七水和物水溶液が100mL添加されるまで行った。結果を下記表1に示す。
【0027】
【0028】
表1の結果から、硫酸第一鉄(II)・七水和物水溶液を30mL乃至40mL添加し、Cr(VI)濃度(ppm)が0.1ppmまで低下するとともに溶存酸素濃度が1ppm以下となった時点で、6価クロムの3価クロムへの還元反応は終了したと判定できる。よって、溶存酸素量が1ppmとなった時点で第一鉄イオンの添加を終了することで、第一鉄イオンの過剰添加を防止しつつ、還元反応を完了できることがわかる。また、この時点では、スラリーのろ液の色は、ほぼ無色であるため、ジフェニルカルバジドによる比色検査で前記スラリー中のCr(VI)濃度を確認することも容易に行える。これに対し、溶存酸素濃度が0.1ppmに低下するまで第一鉄イオンを添加した場合は、水酸化第二鉄の生成によりスラリーのろ液が薄い赤色を示すため、第一鉄イオンの過剰添加となり、ジフェニルカルバジドによる比色検査にも弊害が生じるものと考えられる。
本発明の6価クロムを含有するスラッジの処理方法及び装置は、6価クロムを含有するスラッジ、例えば、タングステンスラッジ等の超硬工具スラッジの他、6価クロム及びその他の金属イオンを含有する廃棄物から6価クロムを3価クロムに還元して無毒化するため利用できる。