(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156534
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】化合物、発光材料および有機発光素子
(51)【国際特許分類】
C07D 487/04 20060101AFI20231018BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20231018BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20231018BHJP
C07D 487/22 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
C07D487/04 137
H05B33/14 B
C09K11/06 650
C09K11/06 640
C07D487/22 CSP
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020135008
(22)【出願日】2020-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 徹
(72)【発明者】
【氏名】大田 航
(72)【発明者】
【氏名】平 翔太
(72)【発明者】
【氏名】上島 基之
(72)【発明者】
【氏名】藤原 絵美子
(72)【発明者】
【氏名】坂上 恵
【テーマコード(参考)】
3K107
4C050
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107CC07
3K107DD59
4C050AA01
4C050AA08
4C050BB04
4C050CC04
4C050DD02
4C050EE02
4C050FF01
4C050GG01
4C050PA20
(57)【要約】
【課題】発光スペクトルの線幅が狭い化合物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される化合物。A
1およびA
4がベンゼン環を含む縮合多環構造を表し、A
2およびA
3が環状構造ではないか、あるいは、A
2およびA
3がベンゼン環を含む縮合多環構造を表し、A
1およびA
4が環状構造ではない。縮合多環構造は、そのベンゼン環でインドロカルバゾール骨格のベンゼン環に縮合している。R
1およびR
2は水素原子または置換基を表し、R
3~R
5は置換基を表し、n3~n5は0~2の整数を表す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物。
【化1】
[一般式(1)において、A
1およびA
4が各々独立にベンゼン環を含む縮合多環構造を表し、A
2およびA
3が環状構造ではないか、あるいは、A
2およびA
3が各々独立にベンゼン環を含む縮合多環構造を表し、A
1およびA
4が環状構造ではない。前記縮合多環構造は、前記ベンゼン環でインドロカルバゾール骨格のベンゼン環に縮合している。R
1およびR
2は各々独立に水素原子または置換基を表し、R
3~R
5は各々独立に置換基を表し、n3~n5は各々独立に0~2の整数を表す。]
【請求項2】
下記一般式(2a)で表される、請求項1に記載の化合物。
【化2】
[一般式(2a)において、A
1およびA
4は各々独立にベンゼン環を含む縮合多環構造を表し、前記縮合多環構造はベンゼン環でインドロカルバゾール骨格のベンゼン環に縮合している。R
1およびR
2は各々独立に水素原子または置換基を表し、R
3~R
5は各々独立に置換基を表し、n3~n5は各々独立に0~2の整数を表す。]
【請求項3】
下記一般式(2b)で表される、請求項1に記載の化合物。
【化3】
[一般式(2b)において、A
1およびA
4は各々独立にベンゼン環を含む縮合多環構造を表し、前記縮合多環構造は前記ベンゼン環でインドロカルバゾール骨格のベンゼン環に縮合している。R
3~R
7は各々独立に置換基を表し、n3~n5は各々独立に0~2の整数を表し、n6およびn7は各々独立に0~5の整数を表す。n6が2以上であるとき2つのR
6が互いに結合して環状構造を形成してもよく、n7が2以上であるとき2つのR
7が互いに結合して環状構造を形成してもよい。]
【請求項4】
下記一般式(3a)で表される、請求項1に記載の化合物。
【化4】
[一般式(3a)において、A
2およびA
3は各々独立にベンゼン環を含む縮合多環構造を表し、前記縮合多環構造は前記ベンゼン環でインドロカルバゾール骨格のベンゼン環に縮合している。R
1およびR
2は各々独立に水素原子または置換基を表し、R
3~R
5は各々独立に置換基を表し、n3~n5は各々独立に0~2の整数を表す。]
【請求項5】
下記一般式(3b)で表される、請求項1に記載の化合物。
【化5】
[一般式(3b)において、A
2およびA
3は各々独立にベンゼン環を含む縮合多環構造を表し、前記縮合多環構造は前記ベンゼン環でインドロカルバゾール骨格のベンゼン環に縮合している。R
3~R
7は各々独立に置換基を表し、n3~n5は各々独立に0~2の整数を表し、n6およびn7は各々独立に0~5の整数を表す。n6が2以上であるとき2つのR
6が互いに結合して環状構造を形成してもよく、n7が2以上であるとき2つのR
7が互いに結合して環状構造を形成してもよい。]
【請求項6】
R1およびR2が各々独立に置換基である。請求項1、2または4に記載の化合物。
【請求項7】
A1~A4がナフタレン環である、請求項1~6のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項8】
A1~A4がカルバゾール環である、請求項1~6のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項9】
A1~A4がN-アリール置換のカルバゾール環である、請求項8に記載の化合物。
【請求項10】
n3~n5が0である、請求項1~9のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項11】
対称化合物である、請求項1~10のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項12】
位数が2以上の点群対称性を有する、請求項11に記載の化合物。
【請求項13】
水素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子およびハロゲン原子からなる群より選択される原子のみから構成される、請求項1~12のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の化合物からなる発光材料。
【請求項15】
請求項1~13のいずれか1項に記載の化合物を含む有機発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光材料として有用な化合物、および、その発光材料を用いた有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子などの有機発光素子の特性をより改善すべく、特性に優れた発光材料を提供するための研究開発が盛んに行われている。
例えば、通常の蛍光発光材料を室温下で電流励起すると、スピン統計則にしたがって一重項励起子と三重項励起子が25:75の確率で生成し、このうち一重項励起子は蛍光放射を伴って失活(輻射失活)し、基底一重項状態へ戻る。一方、三重項励起子は、基底一重項状態への遷移がスピン禁制遷移であるために、光を放射する前に、熱を放出して無輻射失活してしまう。そのため、通常の蛍光発光材料は、生成確率が高い三重項励起子のエネルギーを発光に有効利用することができず、発光効率の向上に限界があった。
そこで、近年、三重項励起子のエネルギーも発光に利用できる熱活性型の遅延蛍光材料(TADF材料)が開発されている(例えば、特許文献1、非特許文献1、2参照)。従来の遅延蛍光材料は、最低励起一重項エネルギー準位ES1と最低励起三重項エネルギー準位ET1のエネルギー差ΔESTが小さくなるように設計されており、これにより、熱エネルギーを吸収して最低励起三重項状態から最低励起一重項状態へ容易に逆項間交差し、その最低励起一重項状態からの輻射失活により蛍光を放射する。この逆項間交差を介した経路により、遅延蛍光材料では、生成確率が高い三重項励起子のエネルギーも間接的に蛍光発光に利用することができるため、通常の蛍光発光材料に比べて格段に高い発光効率を発揮することになる。
こうした遅延蛍光材料としては、電子供与性のドナー部と電子受容性のアクセプター部を有する、ドナー・アクセプター型化合物が一般的である。ドナー・アクセプター型分子では、HOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)とLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)が空間的に分離していることにより、HOMOとLUMOの交換相互作用が小さくなり、最低励起三重項エネルギー準位ET1と最低励起一重項エネルギー準位ES1とのエネルギー差ΔESTが小さくなる。そのため、ドナー・アクセプター型化合物は逆項間交差を起こし易く、遅延蛍光材料として有用であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】中国特許出願公開第第108342192号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】C. Adachi, Jpn. J. Appl. Phys. 53, 060101 (2014).
【非特許文献2】A. Endo et al., Adv. Mater., 21, 4802 (2009).
【非特許文献3】Y. Shigemitsu et al., J. Phys. Chem. A, 116, 9100 (2012).
【非特許文献4】M. Uejimaet al., Chem. Phys. Lett, 602, 80 (2014).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、遅延蛍光材料としては、HOMOとLUMOが空間的に分離したドナー・アクセプター型化合物が一般的である。しかし、HOMOとLUMOを空間的に分離することは、言い換えればHOMOとLUMOの重なりが小さくなることを意味している。そうすると、今度は振電相互作用定数が大きくなって振動緩和が大きくなり、発光スペクトルの線幅が広くなる結果、低い色純度の発光特性を示すという不都合が生じる。したがって、ドナー・アクセプター化合物は、原理的に振動緩和を抑制して発光の色純度を改善することが難しいという、課題がある。そのため、ドナー・アクセプター型化合物は、蛍光スペクトルの線幅が広くて、特に深青色発光が困難であるという制約がある。
【0006】
そこで本発明者らは、これらの課題に対処できる新たな発光材料を提供することを目的として鋭意検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明者らが様々な化合物について分子の振電相互作用解析を行った結果、インドロ[3,2-b]カルバゾール骨格の特定の2辺に縮合環が縮合した化合物群において、再配列エネルギーが極めて小さく、線幅が狭い蛍光スペクトルを示す傾向があることを見出した。本発明は、こうした知見に基づいて提案されたものであり、具体的に以下の構成を有する。
【0008】
[1] 下記一般式(1)で表される化合物。
【化1】
[一般式(1)において、A
1およびA
4が各々独立にベンゼン環を含む縮合多環構造を表し、A
2およびA
3が環状構造ではないか、あるいは、A
2およびA
3が各々独立にベンゼン環を含む縮合多環構造を表し、A
1およびA
4が環状構造ではない。前記縮合多環構造は、前記ベンゼン環でインドロカルバゾール骨格のベンゼン環に縮合している。R
1およびR
2は各々独立に水素原子または置換基を表し、R
3~R
5は各々独立に置換基を表し、n3~n5は各々独立に0~2の整数を表す。]
[2] 下記一般式(2a)で表される、[1]に記載の化合物。
【化2】
[一般式(2a)において、A
1およびA
4は各々独立にベンゼン環を含む縮合多環構造を表し、前記縮合多環構造は前記ベンゼン環でインドロカルバゾール骨格のベンゼン環に縮合している。R
1およびR
2は各々独立に水素原子または置換基を表し、R
3~R
5は各々独立に置換基を表し、n3~n5は各々独立に0~2の整数を表す。]
[3] 下記一般式(2b)で表される、[1]に記載の化合物。
【化3】
[一般式(2b)において、A
1およびA
4は各々独立にベンゼン環を含む縮合多環構造を表し、前記縮合多環構造は前記ベンゼン環でインドロカルバゾール骨格のベンゼン環に縮合している。R
3~R
7は各々独立に置換基を表し、n3~n5は各々独立に0~2の整数を表し、n6およびn7は各々独立に0~5の整数を表す。n6が2以上であるとき2つのR
6が互いに結合して環状構造を形成してもよく、n7が2以上であるとき2つのR
7が互いに結合して環状構造を形成してもよい。]
[4] 下記一般式(3a)で表される、[1]に記載の化合物。
【化4】
[一般式(3a)において、A
2およびA
3は各々独立にベンゼン環を含む縮合多環構造を表し、前記縮合多環構造は前記ベンゼン環でインドロカルバゾール骨格のベンゼン環に縮合している。R
1およびR
2は各々独立に水素原子または置換基を表し、R
3~R
5は各々独立に置換基を表し、n3~n5は各々独立に0~2の整数を表す。]
[5] 下記一般式(3b)で表される、[1]に記載の化合物。
【化5】
[一般式(3b)において、A
2およびA
3は各々独立にベンゼン環を含む縮合多環構造を表し、前記縮合多環構造は前記ベンゼン環でインドロカルバゾール骨格のベンゼン環に縮合している。R
3~R
7は各々独立に置換基を表し、n3~n5は各々独立に0~2の整数を表し、n6およびn7は各々独立に0~5の整数を表す。n6が2以上であるとき2つのR
6が互いに結合して環状構造を形成してもよく、n7が2以上であるとき2つのR
7が互いに結合して環状構造を形成してもよい。]
[6] R
1およびR
2が各々独立に置換基である。[1]、[2]または[4]に記載の化合物。
[7] A
1~A
4がナフタレン環である、[1]~[6]のいずれか1項に記載の化合物。
[8] A
1~A
4がカルバゾール環である、[1]~[6]のいずれか1項に記載の化合物。
[9] A
1~A
4がN-アリール置換のカルバゾール環である、[8]に記載の化合物。
[10] n3~n5が0である、[1]~[9]のいずれか1項に記載の化合物。
[11] 対称化合物である、[1]~[10]のいずれか1項に記載の化合物。
[12] 位数が2以上の点群対称性を有する、[11]に記載の化合物。
[13] 水素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子およびハロゲン原子からなる群より選択される原子のみから構成される、[1]~[12]のいずれか1項に記載の化合物。
[14] [1]~[13]のいずれか1項に記載の化合物からなる発光材料。
[15] [1]~[13]のいずれか1項に記載の化合物を含む有機発光素子。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、発光材料として有用な化合物を提供することができる。本発明の化合物を発光層に含む有機発光素子は、良好な発光特性を実現しうる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。また、本発明に用いられる化合物の分子内に存在する水素原子の同位体種は特に限定されず、例えば分子内の水素原子がすべて1Hであってもよいし、一部または全部が2H(デューテリウムD)であってもよい。
【0011】
<一般式(1)で表される化合物>
本発明の化合物は、下記一般式(1)で表される構造を有する化合物である。
【0012】
【0013】
一般式(1)において、A1およびA4が各々独立にベンゼン環を含む縮合多環構造を表し、A2およびA3が環状構造ではないか、あるいは、A2およびA3が各々独立にベンゼン環を含む縮合多環構造を表し、A1およびA4が環状構造ではない。ここで、「ベンゼン環を含む縮合多環構造」とは、ベンゼン環に他の環が縮合して構成された構成環数2以上の縮合環を有する構造を意味する。A1およびA4がそれぞれベンゼン環を含む縮合多環構造であって、A2およびA3が環状構造ではないとき、A1が表す縮合多環構造とA4が表す縮合多環構造は互いに同一であっても異なっていてもよい。A2およびA3がそれぞれベンゼン環を含む縮合多環構造であって、A1およびA4が環状構造ではないとき、A2が表す縮合多環構造とA3が表す縮合多環構造は互いに同一であっても異なっていてもよい。
A1~A4の縮合多環構造を構成する縮合環は、ベンゼン環を含む縮合炭化水素環であってもよいし、ベンゼン環を含む縮合複素環であってもよい。
【0014】
A1~A4における縮合炭化水素環は、ベンゼン環と1以上の芳香族炭化水素環が縮合した縮合環であっても、ベンゼン環と1以上の脂環式炭化水素環が縮合した縮合環であっても、ベンゼン環と1以上の芳香族炭化水素環と1以上の脂環式炭化水素環が縮合した縮合環であってもよい。縮合炭化水素環の炭素数(インドロカルバゾールのベンゼン環と縮合する炭素も含む)は、9~20であり、好ましくは9~18であり、より好ましくは9~14であり、さらに好ましくは9~10である。ベンゼン環と1以上の芳香族炭化水素環が縮合した縮合環の例としてナフタレン環を挙げることができる。ナフタレン環がインドロカルバゾール骨格に縮合する辺は特に限定されないが、ナフタレン環がA1およびA4の縮合多環構造を構成するとき、1,2-位の辺でインドロカルバゾール骨格のベンゼン環に縮合することが好ましく、ナフタレン環がA2およびA3の縮合多環構造を構成するとき、3,4-位の辺でインドロカルバゾール骨格のベンゼン環に縮合することが好ましい。また、ナフタレン環には他の環が縮合してもよい。ナフタレン環に縮合する他の環はベンゼン環等の芳香環であってもよいし、脂環式炭化水素環であってもよい。ナフタレン環に縮合する他の環がベンゼン環であるとき、縮合するベンゼン環の数は1つまでであること、すなわち、縮合環を構成するベンゼン環の数が3つまでであることが好ましい。また、ベンゼン環と脂環式炭化水素環が縮合した縮合環の例としては、インデン、インダンを挙げることができる。
【0015】
A1~A4における縮合複素環は、ベンゼン環と1以上の複素環が縮合した縮合環であってもよいし、ベンゼン環と1以上の複素環と1以上の芳香環が縮合した縮合環であってもよい。縮合複素環の環骨格構成原子数(インドロカルバゾールのベンゼン環と縮合する炭素原子も含む)は9~20であり、好ましくは9~18であり、より好ましくは9~14であり、さらに好ましくは9~10である。縮合複素環を構成する複素原子として、窒素原子、酸素原子、硫黄原子を挙げることができ、窒素原子であることが好ましい。縮合複素環は、1つ以上のベンゼン環と環構成原子数が5または6の複素環が縮合した縮合環であることがより好ましい。複素芳香環の具体例として、インドール環、イソインドリン環、フタルイミド環、キノキサリン環、ベンゾフラン環、1,3-ジヒドロイソベンゾフラン環、1,3-ベンゾジオキソール環、ベンゾチオフェン環、カルバゾール環を挙げることができ、カルバゾール環が好ましく、N-アリール置換のカルバゾール環がより好ましい。アリール基の説明と好ましい範囲、具体例については、R1~R5におけるアリール基についての記載を参照することができる。カルバゾール環がインドロカルバゾール骨格に縮合する辺は特に限定されないが、カルバゾール環がA1およびA4の縮合多環構造を構成するとき、1,2-位の辺でインドロカルバゾール骨格のベンゼン環に縮合することが好ましく、カルバゾール環がA2およびA3の縮合多環構造を構成するとき、3,4-位の辺でインドロカルバゾール骨格のベンゼン環に縮合することが好ましい。
【0016】
A1~A4が表す縮合多環構造は置換基で置換されていてもよい。置換基の好ましい例については、下記のR1~R5における置換基の好ましい例を参照することができる。
【0017】
一般式(1)において、R1およびR2は各々独立に水素原子または置換基を表す。R1およびR2は共に、置換基であるのが好ましく、芳香族基であるのがより好ましい。R1とR2は互いに同一であっても異なっていてもよい。R3~R5は各々独立に置換基を表す。R3~R5の結合手は、該結合手が重なるベンゼン環の置換可能な位置のいずれかに結合する。R3~R5は互いに同一であっても異なっていてもよい。
n3~n5は各々独立に0~2の整数を表し、0であることが好ましい。n3~n5は互いに同一であっても異なっていてもよい。n3が2であるとき、2つのR3は互いに同一であっても異なっていてもよく、これと同様に、n4、n5が2であるとき、2つのR4、2つのR5は、それぞれ互いに同一であっても異なっていてもよい。
また、R3~R5は他の基と連結して環状構造を形成していない。ここで他の基とは、他の記号で表される基の他、同じ記号で表される基も含むこととする。すなわち、例えばn3が2であるとき、2つのR3は互いに結合して環状構造を形成しておらず、これと同様に、n4、n5が2であるとき、2つのR4、2つのR5は互いに結合して環状構造を形成していない。
【0018】
R1~R5における置換基の好ましい例として、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、メルカプト基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアルキルチオ基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、置換もしくは無置換のアリールチオ基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリールオキシ基、置換もしくは無置換のヘテロアリールチオ基、置換もしくは無置換のアミノ基、ニトロ基またはシアノ基を挙げることができる。なお、R1~R5における置換基のより好ましい例として、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルキル基、シアノ基を挙げることができる。
R1~R5において、アルキル基は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよい。アルキル基の炭素数は、好ましくは1~20であり、より好ましくは1~10であり、さらに好ましくは1~6である。例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基などを例示することができる。アルキル基は置換基で置換されていてもよい。アルキル基の置換基の好ましい例として、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、メルカプト基、シアノ基、炭素数6~20のアリール基、炭素数2~20のヘテロアリール基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のアルキルチオ基、炭素数6~20のアリールオキシ基、炭素数2~20のヘテロアリールオキシ基、およびアミノ基を挙げることができる。アルキル基の置換基のより好ましい例として、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、メルカプト基、シアノ基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のアルキルチオ基、およびアミノ基を挙げることができる。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができる。ハロゲン原子で置換されたアルキル基の具体例として、例えばトリフルオロメチル基、ヘキサフルオロエチル基などのパーフルオロアルキル基、トリクロロメチル基、ヘキサクロロエチル基などのパークロロアルキル基を例示することができる。
アルコキシ基は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよい。アルコキシ基の炭素数は1~20であり、好ましくは1~10であり、より好ましくは1~6である。例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ヘキソキシ基などを例示することができる。
アルキルチオ基は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよい。アルキルチオ基の炭素数は1~20であり、好ましくは1~10であり、より好ましくは1~6である。例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、n-プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、n-ブチルチオ基、イソブチルチオ基、sec-ブチルチオ基、tert-ブチルチオ基、n-ヘキシルチオ基などを例示することができる。
アミノ基は、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基のいずれであってもよく、3級アミノ基であることが好ましい。3級アミノ基として、例えばジアリールアミノ基、ジアルキルアミノ基、アルキルアリールアミノ基を挙げることができる。ここでいうジアリールアミノ基の2つのアリール基は同一であっても異なっていてもよく、また、ジアルキルアミノ基の2つのアルキル基は同一であっても異なっていてもよい。ジアルキルアミノ基とアルキルアリールアミノ基を構成するアルキル基の説明と好ましい範囲、具体例については、上記のR1~R5におけるアルキル基についての説明と好ましい範囲、具体例を参照することができる。ジアリールアミノ基、ジアルキルアミノ基、アルキルアリールアミノ基を構成するアリール基とアルキル基は、それぞれ置換されていてもよい。
アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、ジアリールアミノ基およびアルキルアリールアミノ基におけるアリール基、並びに、ヘテロアリール基、ヘテロアリールオキシ基およびヘテロアリールチオ基におけるヘテロアリール基の好ましい範囲と具体例を以下に説明する。
アリール基を構成する芳香環は、単環であっても、2以上の芳香環が縮合した縮合環であってもよい。芳香環の炭素数は、6~20であり、好ましくは6~18であり、より好ましくは6~14であり、さらに好ましくは6~10である。アリール基の具体例として、フェニル基、ナフタレニル基、ビフェニル基を挙げることができる。アリールオキシ基の具体例として、フェノキシ基、ナフトキシ基、ビフェニルオキシ基を挙げることができる。アリールチオ基の具体例として、フェニルチオ基、ナフチルチオ基、ビフェニルチオ基を挙げることができる。
ヘテロアリール基を構成する複素芳香環は、単環であっても、1以上の複素環と1以上の芳香環または複素環が縮合した縮合環であってもよい。複素芳香環の炭素数は2~20であり、2~18であることが好ましく、2~14であることがより好ましく、2~10であることがさらに好ましい。複素芳香環を構成する複素原子として、窒素原子、酸素原子、硫黄原子を挙げることができ、窒素原子であることが好ましい。ヘテロアリール基を構成する複素芳香環の具体例として、ピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラン環、チオフェン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアゾール環、トリアジン環、ベンゾトリアゾール環を挙げることができる。ヘテロアリールオキシ基の具体例として、これらの列挙した環をRとしたとき、R-O-で表される基を挙げることができる。ヘテロアリールチオ基の具体例として、これらの列挙した環をRとしたとき、R-S-で表される基を挙げることができる。
【0019】
一般式(1)で表される化合物は、対称化合物であることが好ましく、位数が2以上の点群対称性を有する化合物であることがより好ましく、Ci対称性を有する化合物であることがさらに好ましい。こうした対称性を付与する点から、一般式(1)において、A1およびA4がそれぞれ縮合多環構造であって、A2およびA3が環状構造ではないとき、A1が表す縮合多環構造とA4が表す縮合多環構造は同一であることが好ましく、それらのCi対称の対応する位置は同一の基になっていることがより好ましい。また、A2およびA3が縮合多環構造であって、A1およびA4が環状構造ではないとき、A2が表す縮合多環構造とA3が表す縮合多環構造は同一であることが好ましく、それらのCi対称の対応する位置は同一の基になっていることがより好ましい。そして、いずれの場合にも、R1とR2は同一の基であることが好ましく、(R3)n3と(R4)n4は同一であることが好ましく、n3およびn4が1または2であるとき、Ci対称の対応する位置のR3とR4は同一の基であることがより好ましい。さらに、n5は0または2であることが好ましく、n5が2であるとき、2つのR5は同一の基であることがより好ましい。
【0020】
一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(2a)で表される化合物であることが好ましい。
【0021】
【0022】
一般式(2a)において、A1およびA4は各々独立にベンゼン環を含む縮合多環構造を表し、縮合多環構造は、そのベンゼン環でインドロカルバゾール骨格のベンゼン環に縮合している。R1およびR2は各々独立に水素原子または置換基を表し、R3~R5は各々独立に置換基を表し、n3~n5は各々独立に0~2の整数を表す。R3~R5の結合手は、該結合手が重なるベンゼン環の置換可能な位置のいずれかに結合する。
A1およびA4、R1~R5、n3~n5の説明と好ましい範囲、具体例については、一般式(1)における対応する記載を参照することができる。
【0023】
一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(2b)で表される化合物であることがより好ましい。
【0024】
【0025】
一般式(2b)において、A1およびA4は各々独立にベンゼン環を含む縮合多環構造を表し、縮合多環構造は、そのベンゼン環でインドロカルバゾール骨格のベンゼン環に縮合している。R3~R7は各々独立に置換基を表す。R3~R7の結合手は、該結合手と重なるベンゼン環の置換可能な位置のいずれかに結合する。n3~n5は各々独立に0~2の整数を表し、n6およびn7は各々独立に0~5の整数を表す。
A1およびA4、R3~R5、n3~n5の説明と好ましい範囲、具体例については、一般式(1)の対応する記載を参照することができる。
R3~R7は互いに同一であっても異なっていてもよく、n6およびn7は互いに同一であっても異なっていてもよい。n6が2以上であるとき、n6個のR6は互いに同一であっても異なっていてもよく、n7が2以上であるとき、n7個のR7は互いに同一であっても異なっていてもよい。また、n6が2以上であるとき、2つのR6が互いに結合して環状構造を形成してもよく、n7が2以上であるとき、2つのR7が互いに結合して環状構造を形成してもよい。
R6およびR7が表す置換基の好ましい例については、上記のR1~R5における置換基の好ましい例を参照することができる。2つのR6が互いに結合して形成する環状構造、および、2つのR7が互いに結合して形成する環状構造の例として、ナフタレン、アントラセン、ベンゾイミダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチオフェン、カルバゾール等を挙げることができる。
一般式(2b)で表される化合物に対称性を付与する点から、(R6)n6および(R7)n7は同一であることが好ましく、n6およびn7が1~5であるとき、Ci対称の対応する位置のR6とR7は同一の基であることがより好ましい。
【0026】
一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(3a)で表される化合物であることも好ましい。
【0027】
【0028】
一般式(3a)において、A2およびA3は各々独立にベンゼン環を含む縮合多環構造を表し、縮合多環構造は、そのベンゼン環でインドロカルバゾール骨格のベンゼン環に縮合している。R1およびR2は各々独立に水素原子または置換基を表し、R3~R5は各々独立に置換基を表し、n3~n5は各々独立に0~2の整数を表す。R3~R5の結合手は、該結合手が重なるベンゼン環の置換可能な位置のいずれかに結合する。
A2およびA3、R1~R5、n3~n5の説明と好ましい範囲、具体例については、一般式(1)における対応する記載を参照することができる。
【0029】
一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(3b)で表される化合物であることもより好ましい。
【0030】
【0031】
一般式(3b)において、A2およびA3は各々独立にベンゼン環を含む縮合多環構造を表し、縮合多環構造は、そのベンゼン環でインドロカルバゾール骨格のベンゼン環に縮合している。R3~R7は各々独立に置換基を表す。R3~R7の結合手は、該結合手と重なるベンゼン環の置換可能な位置のいずれかに結合する。n3~n5は各々独立に0~2の整数を表し、n6およびn7は各々独立に0~5の整数を表す。
A2およびA3、R3~R5、n3~n5の説明と好ましい範囲、具体例については、一般式(1)の対応する記載を参照することができる。
R3~R7は互いに同一であっても異なっていてもよく、n6およびn7は互いに同一であっても異なっていてもよい。n6が2以上であるとき、n6個のR6は互いに同一であっても異なっていてもよく、n7が2以上であるとき、n7個のR7は互いに同一であっても異なっていてもよい。また、n6が2以上であるとき、2つのR6が互いに結合して環状構造を形成してもよく、n7が2以上であるとき、2つのR7が互いに結合して環状構造を形成してもよい。
R6およびR7が表す置換基の好ましい例については、上記のR1~R5における置換基の好ましい例を参照することができる。2つのR6が互いに結合して形成する環状構造、および、2つのR7が互いに結合して形成する環状構造の例として、ナフタレン、アントラセン、ベンゾイミダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチオフェン、カルバゾール等を挙げることができる。
また、一般式(3b)で表される化合物に対称性を付与する点から、(R6)n6および(R7)n7は同一であることが好ましく、n6およびn7が1~5であるとき、Ci対称の対応する位置のR6とR7は同一の基であることがより好ましい。
【0032】
一般式(1)で表される化合物は、水素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子およびハロゲン原子からなる群より選択される原子のみから構成されること、水素原子、炭素原子、窒素原子および酸素原子からなる群より選択される原子のみから構成されること、水素原子、炭素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群より選択される原子のみから構成されること、水素原子、炭素原子、窒素原子およびハロゲン原子からなる群より選択される原子のみから構成されること、または、水素原子、炭素原子および窒素原子からなる群より選択される原子のみから構成されることが好ましい。これにより、良好な発光特性を示す蛍光発光化合物を安価に提供することができる。
【0033】
以下において、一般式(1)で表される化合物の具体例を挙げる。ただし、本発明において用いることができる発光材料はこれらの具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。
【化11】
さらに、下記の化合物も具体例として挙げることができる。
【化12】
【0034】
<一般式(1)で表される化合物の合成方法>
一般式(1)で表される化合物は、既知の反応を組み合わせることによって合成することができる。例えば、一般式(2b)で表され、A
1とA
4が互いに同一であり、n3およびn4が0である化合物は、以下の反応スキームに示すように、2つの化合物を反応させて得た中間体aを脱水素、脱保護して中間体bを合成し、この中間体bとハロゲン化ベンゼンとをカップリング反応(例えばゴールドバーグアミノ化反応)させることにより合成することが可能である。
【化13】
【0035】
上記の反応式におけるA1、R5、R6、n5、n6の説明については、一般式(1)における対応する記載を参照することができる。Xはハロゲン原子を表す。ハロゲン原子として、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができ、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が好ましく、ヨウ素原子がより好ましい。Cbzはベンジルオキシカルボニル基を表す。
上記の反応は、例えばAdv. Mater. 2013, 25, 3351-3356、Adv. Funct. Mater. 2014, 24, 1109-1116国際公開第2010/151011号に記載される方法および条件を用いて行うことができる。上記の反応の詳細については、後述の合成例を参考にすることができる。
【0036】
<発光材料>
一般式(1)で表される化合物は、良好な発光特性を示すため、発光材料として有用であり、例えば色純度の高い青色蛍光材料として効果的に用いることができる。また、一般式(1)で表される化合物の中には、青色以外の発光色の色純度が高い蛍光材料も含まれている。一般に、一般式(1)のA1およびA2を含む共役系や、A3およびA4を含む共役系の共役を広げることにより、発光波長を長波長側へシフトすることができる。このため、これらの共役系を調節することにより、純度が高い所望の色を発光する蛍光材料を提供することができる。なお、本明細書において青色蛍光材料とは、発光スペクトルの発光ピーク波長が380~500nmの範囲内にある発光材料である。
一般式(1)で表される化合物が良好な発光特性を示すのは、ドナー・アクセプター型構造を有していないために振動緩和が抑制されるためであると推測される。
ここで、一般式(1)の全体にわたって、良好な発光特性が得られることは、計算による分子の振電相互作用解析により裏付けられている。
【0037】
本発明の化合物は、蛍光を発する断熱一重項励起状態において再配列エネルギーが小さいこと、具体的には0.20eV以下であることが好ましく、0.15eV以下であることがより好ましく、0.12eV以下であることがさらに好ましく、0.10eV以下であることがさらにより好ましく、0.08eV以下であることがなおより好ましく、0.07eV以下であることが特に好ましい。これにより振動緩和が抑制され線幅が狭い発光スペクトルを得ることができる。
ここで断熱励起一重項状態とは対応する励起一重項状態の安定構造における励起一重項状態を意味する。また、振電相互作用定数VCCは下記数式1で定義されるVαであり、再配列エネルギーはVαを用いて下記数式2で定義されるΔEである。
【0038】
【0039】
数式1において、Ψは電子波動関数を表し、rは分子に含まれるN個の電子の空間座標を表し、Rは分子に含まれるM個の核の空間座標を表し、Hは分子ハミルトニアンを表し、R0は参照核配置を表し、Qαは基準振動モードαの質量加重基準振動座標を表す。
xは、具体的には座標(r1,s1,・・・,ri,si,・・・rN,sN)であり、ここでriは電子iの空間座標であり、siは電子iのスピン座標である。
数式2において、ωαは基準振動モードαの振動数を表す。
数式1および数式2におけるΨ、R0、Qα、ωαは、分子ハミルトニアンH(r,R)が与えられたとき、次のようにして求めることができる。参照核配置R0は、分子ハミルトニアンH(r,R)の電子状態の構造最適化により求められる。基準振動モードαの質量加重基準振動座標Qαは、参照核配置R0での振動解析により定められる。Ψは参照核配置R0における電子状態の電子状態計算により求められる。
またVCCには選択則があるのでΔEを小さくするためにはより高い点群対称性を有する分子構造が望ましい。ここでいう分子構造は各々の電子状態の安定構造であり、高い点群対称性とはその点群の位数が大きいことを意味する。位数が1である点群C1よりも、例えば位数が2である点群C2、Cs、Ciが好ましい。
さらに蛍光スペクトルは振電相互作用定数Vαと振動数ωαから計算によって求められる(例えば、非特許文献3、非特許文献4参照)。蛍光スペクトルの半値全幅FWHMは再配列エネルギーΔEに依存しており、ΔEが小さければ線幅の狭い蛍光スペクトルすなわち小さなFWHMが得られる。
【0040】
<有機発光素子>
次に、本発明の有機発光素子について説明する。
本発明の有機発光素子は、本発明の化合物を含むことを特徴とする。
本発明の化合物の説明と好ましい範囲、具体例については、<一般式(1)で表される化合物>の欄の記載を参照することができる。本発明の化合物は、蛍光スペクトルの線幅が狭く、良好な発光特性を示すため、この化合物を含む有機発光素子は、優れた発光特性を発揮する。有機発光素子は、本発明の化合物を発光層に含むことが好ましい。
本発明の有機発光素子は、有機フォトルミネッセンス素子であっても有機エレクトロルミネッセンス素子であってもよい。有機フォトルミネッセンス素子は、少なくとも基板と発光層を有して構成される。基板と発光層の説明については、下記の有機エレクトロルミネッセンス素子で用いる基板、発光層についての説明を参照することができる。
有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極および陰極と、陽極と陰極との間に設けられた有機層を有して構成され、これら各部を支持する基板を有することが好ましい。有機層は少なくとも発光層を含み、発光層以外の有機機能層を含んでいてもよい。発光層以外の有機機能層として、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層などを挙げることができる。ここで、正孔輸送層は正孔注入層を兼ねていてもよいし、電子輸送層は電子注入層を兼ねていてもよい。
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子において、発光層の材料には、本発明の化合物が用いられる。本発明の化合物は一般式(1)で表される構造を有する。発光層に用いる一般式(1)で表される化合物は、1種類であっても、2種類以上の組み合わせであってもよい。発光層に用いる一般式(1)で表される化合物のFWHMは、45nm以下であるのが好ましく、40nm以下であるのがより好ましく、35nm以下であるのがさらに好ましく、25nm以下であるのがさらにより好ましく、20nm以下であるのが特に好ましい。また、発光層は、本発明の化合物のみから構成されていてもよいし、本発明の化合物以外の材料(その他の材料)を含んでいてもよい。その他の材料としてホスト材料を挙げることができる。ホスト材料には、本発明の化合物よりも励起一重項エネルギー準位ES1が高い有機化合物を用いることが好ましい。また、ホスト材料は、正孔輸送能、電子輸送能を有し、高いガラス転移温度を示す有機化合物であることがより好ましい。発光層が、その他の材料も含むとき、発光層からの発光は、本発明の化合物に由来する発光とともに、その他の材料に由来する発光を含んでいてもよいが、発光層に含まれる材料の中では、本発明の化合物からの発光量が最大であることが好ましい。
発光層以外の有機層の材料には、公知の材料から選択して用いることができる。
例えば、基板には、ガラス、透明樹脂材料、石英などからなるものを用いることができる。
陽極には、仕事関数が大きい導電性材料を用いることでき、透明な材料であることが好ましい。陽極材料として、ITO(インジウムスズオキサイド)、SnO2、Sb含有SnO2、Al含有ZnO等の酸化物、Au、Pt、Ag、Cuやこれらの合金等を挙げることができる。
陰極には、仕事関数が小さい材料からなるものを用いることができる。陰極材料として、Ag,Al,Cu等の金属、これらの金属を含む合金などを挙げることができる。
正孔注入材料には、銅フタロシアニン(CuPc)、ポリ(4-スチレンスルホン酸)をドープしたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT/PSS)や4,4’,4’’-トリス[フェニル(m-トリル)アミノ]トリフェニルアミン(m-MTDATA)等の芳香族第3級アミン化合物などを用いることができる。正孔輸送材料には、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-1,1-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD)、N,N’-ジ-1-ナフチル-N,N’-ジフェニルベンジジン(α-NPD)、トリス(4-カルバゾイル-9-イルフェニル)アミン(TCTA)等の芳香族第3級アミン化合物などを挙げることができる。
電子輸送材料には、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(Alq3)、2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(BCP)、t-ブチルビフェニリルフェニルオキサジアゾール(t-Bu-PBD)、シロール誘導体などを挙げることができる。
また、有機層は、電子阻止層や正孔阻止層など、その他の有機機能層を含んでいてもよい。
これらの有機層は、真空蒸着法等のドライプロセスで形成してもよいし、ウェットプロセスで形成してもよい。
【実施例0041】
以下に合成例と実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。なお、振電相互作用定数VCCおよび振電相互作用密度VCDは、基底状態および励起状態の最適化構造での振電相互作用解析結果に基づいて計算した。基底状態および励起状態の構造最適化と、エネルギー準位および蛍光スペクトルの計算は、密度汎関数(DFT)法および時間依存密度汎関数(TD-DFT)法により、プログラムパッケージGaussian16 Rev. B 01にてB3LYP/6-31G(d,p)、TD-B3LYP/6-31G(d,p)の計算方法を用いて行った。
また、下記合成例1~4における合成条件は、当業者に既知の条件を適宜選択して採用することができる。
【0042】
【0043】
1,4-ジヨードベンゼンに、ベンジルカルバゼート、ヨウ化銅、炭酸セシウム、1,10-フェナントロリンおよびN,N-ジメチルホルムアミドを加えて反応させることにより、中間体1を得る。
【0044】
【0045】
ナフタレンに、無水コハク酸と塩化アルミニウムを加えて反応させることにより、中間体2を得る。この中間体2にウォルフ・キシュナー還元を行った後、塩化チオニルと塩化スズ(IV)を加えて環化反応させることにより中間体3を得る。この反応は、 J. Chem. Soc., 1941, 320, 376, Arch. Pharm., 1987, 320, 1110に記載の方法に準じて行う。
【0046】
【0047】
次に、中間体1に、中間体3、硫酸(0.4M)および酢酸エチルを加えて反応させることにより、中間体4を得る。
【0048】
【0049】
中間体4に、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノンとベンゼンを加え、室温で1日間反応させることにより、中間体5を得る。
【0050】
【0051】
中間体5に、フッ化テトラ-n-ブチルアンモニウムとテトラヒドロフランを加えて反応させることにより中間体6を得る。
以上の中間体1から中間体6を合成する一連の反応は、Adv. Mater. 2013, 25, 3351-3356、Adv. Funct. Mater. 2014, 24, 1109-1116に記載の方法に準じて行う。
【0052】
【0053】
次に、中間体6に、ヨウ化ベンゼン、ヨウ化銅、炭酸カリウムおよび1,2-ジクロロベンゼンを加え、190℃で24時間撹拌してゴールドバーグアミノ化反応を行うことにより、目的の化合物1を合成する。この反応は、国際公開第2010/151011号に記載の方法に準じて行う。
【0054】
【0055】
1-ナフトアルデヒドと亜鉛をテトラヒドロフランに溶解し10分撹拌後、プロパルギルブロミドを加え室温で5時間反応させることにより中間体7を合成する。この反応は、J. Org. Chem. 2017, 82, 9012-9022-7076に記載の方法に準じて行う。次に、中間体7のジクロロメタン溶液に0℃下、トリエチルシリルヒドリドを加え30分撹拌後、トリフルオロ酢酸、またはトリフルオロボラン -ジエチルエーテル錯体を加え室温までゆっくり昇温することで、中間体8を合成する。さらに、塩化メチレンに、中間体8、2,6-ジクロロピリジン-1-オキシド、金錯体Me4
tButylXphosAuClおよびホウ素化合物NaBArF4を加え、50℃で撹拌することにより、中間体9を合成する。中間体8と9を合成する反応は、J. Org. Chem. 2017, 82, 7070-7076に記載の方法に準じて行う。
【0056】
【0057】
6-ブロモ-3,4-ジヒドロ-1-ナフタレノンとo-ニトロフェニルボロン酸、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム、炭酸カリウム水溶液をトルエンおよびエタノール混合溶液に加え、10時間還流することにより、中間体10を合成する。次に、中間体10を亜リン酸トリエチルに加え、20時間還流することにより、中間体11を合成する。さらに、中間体11に、ヨウ化ベンゼン、ヨウ化銅、炭酸カリウムおよび1,2-ジクロロベンゼンを加え、190℃で24時間撹拌してゴールドバーグアミノ化反応を行うことにより、中間体12を合成する。中間体10から中間体12を合成する一連の反応は、国際公開第2010/151011号に記載の方法に準じて行う。
【0058】
【0059】
5-ブロモ-3,4-ジヒドロ-2-ナフタレノンとo-ニトロフェニルボロン酸、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム、炭酸カリウム水溶液をトルエンおよびエタノール混合溶液に加え、10時間還流することにより、中間体13を合成する。次に、中間体13を亜リン酸トリエチルに加え、20時間還流することにより、中間体14を合成する。さらに、中間体14に、ヨウ化ベンゼン、ヨウ化銅、炭酸カリウムおよび1,2-ジクロロベンゼンを加え、190℃で24時間撹拌してゴールドバーグアミノ化反応を行うことにより、中間体15を合成する。中間体13から中間体15を合成する一連の反応は、国際公開第2010/151011号に記載の方法に準じて行う。
【0060】
【0061】
中間体3の代わりに中間体9、12、15を用い、中間体1から化合物1を合成する反応と同様の反応を行うことにより化合物2~4を合成する。
【0062】
(比較例1、2)
比較のため下記比較化合物1、2を使用した。
【化24】
【0063】
(計算例)
合成した化合物1~4および比較化合物1、2について、計算により得られた断熱第一励起状態の分子構造の点群対称性、垂直励起一重項エネルギー、再配列エネルギー、蛍光スペクトルの半値全幅FWHM、最大ピーク波長の計算結果を表1に示す。ここで垂直励起一重項エネルギーとは基底状態の安定構造での対応する励起一重項状態への励起エネルギーを意味する。
【0064】
【表1】
表中、「-」は計算値を得ていないことを示す。
【0065】
表1に示すように、化合物1~4は比較化合物1、2に比べて再配列エネルギーΔEが顕著に小さい。また化合物1~4の計算で求めた色度座標のy値は、0.030~0.043の範囲にある。このことから、化合物1~4は、色純度が高い深青色発光を示すと推測される。なお、色度座標のy値とは、XYZ表色系に基づくy成分の値を意味する。
本発明によれば、色純度が高くて発光材料として有用な化合物を提供することができる。本発明の化合物を用いれば、有機エレクトロルミネッセンス素子等の有機発光素子の発光特性を改善することができる。このため、本発明は産業上の利用可能性が高い。