IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社カネカの特許一覧

<>
  • 特開-チューブ体 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156542
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】チューブ体
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/94 20130101AFI20231018BHJP
   A61F 2/848 20130101ALI20231018BHJP
【FI】
A61F2/94
A61F2/848
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020150581
(22)【出願日】2020-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】劉 嘉穎
(72)【発明者】
【氏名】黒田 慶太
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA45
4C267AA49
4C267CC22
4C267GG05
4C267GG34
4C267HH04
4C267HH17
(57)【要約】      (修正有)
【課題】挿入時には適度の剛性を保ちつつ、留置後は胆管に追従するような柔軟性を有する生体内留置チューブを提供する。
【解決手段】デリバリーシステムと組み合わせ、生体内へ挿入するチューブ体1であって、前記チューブ体は長手軸を有し、該長手軸に沿って樹脂材料で略管状に形成されており、前記チューブ体は、室温下、径方向への圧縮力に対する剛性である第1剛性を有し、37度温水にて2時間浸した後の、径方向への圧縮力にする剛性である第2剛性とを有し、前記第2剛性が前記第1剛性より柔軟であり、剛性変化率が50%以上であるチューブ体である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デリバリーシステムと組み合わせ生体内へ挿入するチューブ体であって、
前記チューブ体は長手軸を有し、該長手軸に沿って樹脂材料で略管状に形成されており、
前記チューブ体は、
室温下、径方向への圧縮力に対する剛性である第1剛性を有し、
37度温水にて2時間浸した後の、径方向への圧縮力にする剛性である第2剛性とを有し、
前記第2剛性が前記第1剛性より柔軟であり、剛性変化率が50%以上であるチューブ体。
【請求項2】
前記第2剛性は前記第1剛性と比較し、剛性変化率が60%以上、75%以内である請求項1に記載のチューブ体。
【請求項3】
前記第2剛性は5N以下である請求項1または請求項2のいずれか1項に記載のチューブ体。
【請求項4】
前記チューブ体は、湾曲形状を有し、
37度温水に2時間浸した後において、湾曲の曲率半径が、浸す前よりも小さい請求項1から3のいずれか1項に記載のチューブ体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内留置するチューブ体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ステントに代表される生体内留置チューブ、特に、胆管用または膵管用のステントは、胆管や膵管等の生体内管腔が狭窄または閉塞することにより生じる胆道閉塞症、黄胆、胆道がん等の様々な疾患を治療するための医療器具である。生体内留置チューブステントは、胆汁の胆管内から十二指腸側への排出や、狭窄または閉塞部位の病変部を内側から拡張することによる管腔内腔の維持を目的として生体管腔に留置される。
【0003】
生体内留置チューブステントは金属材料から構成されているものと、樹脂材料から構成されているものがある。上述のような治療において、樹脂材料から構成されている生体内留置チューブステントが使用されることがある。
【0004】
従来の生体内留置チューブステントは、樹脂材料から構成されて、近位端と遠位端を有し、遠近方向に延在している。通常、内視鏡からチューブステントを挿入し、十二指腸の乳頭から胆管に挿入する。生体内留置チューブの内腔にがん細胞等の病変部の組織が入り込んでチューブステントの内腔が閉塞または狭窄すると、チューブステントを内視鏡を通して体外に引き抜いて交換する必要がある。
【0005】
この種の生体内留置チューブステントは、内視鏡挿入性を維持するための硬さと、留置後内腔を維持しつつ、胆管の形状または体の動きに追従するための柔軟さが求められる。
【0006】
特許文献1は、先端チップを設けたカテーテルであって、挿入前は適度の剛性が保たれ、体内挿入性が良く、挿入後は体温による加温によって柔軟性が増すようにするために、ガラス転移温度が体温乃至その近傍にあるポリマーを主成分としてなる先端チップを開示している。特許文献2は、主に血管内に配置されるステントであって、超弾性材料を用い、体温にさらされると部分的に硬さが変化するものを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平04-108554
【特許文献2】特表2004-501680
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1および特許文献2に記載されたカテーテルやステントなどの生体チューブは、室温の環境下において、適度の剛性を有するので挿入容易である。体内挿入後は、体温により温められ、柔軟性が良好になり、組織を傷つきにくい仕様となっている。しかし、生体内留置チューブが体内で柔軟になりすぎると、閉塞や狭窄などに圧迫され、内腔がつぶれてしまい、十分なドレナージ効果が発揮できなくなる問題がある。また、生体内留置チューブが体内で柔軟になるのが速すぎると、挿入時に必要な剛性が得られなくなり、挿入に支障をきたす問題がある。また、チューブの硬さが部分的に異なるため、チューブ全体として挿入時の性質が一定せず、挿入に支障をきたす問題がある。
【0009】
本発明は、前記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、挿入時には適度の剛性を保ちつつ、留置後は胆管に追従するような柔軟性を有し、かつ内腔が維持できるような生体内留置チューブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決することができたチューブ体は、デリバリーシステムと組み合わせ生体内へ挿入するチューブ体であって、前記チューブ体は長手軸を有し、該長手軸に沿って樹脂材料で略管状に形成されており、前記チューブ体は、室温下、径方向への圧縮力に対する所定の剛性である第1剛性を有し、37度温水にて2時間浸した後の、径方向への圧縮力にする所定の剛性である第2剛性とを有し、前記第2剛性が前記第1剛性より柔軟であり、剛性変化率が50%以上であるチューブ体である。
【0011】
上記のチューブ体において、第2剛性は前記第1剛性と比較し、剛性変化率が60%以上、75%以内であることが好ましい。
【0012】
上記のチューブ体において、第2剛性は5N以下であるであることが好ましい。
【0013】
上記のチューブ体において、湾曲形状を有し、37度の水に2時間浸した後において、湾曲の曲率半径が、浸す前よりも小さいことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、チューブ体は温度環境に応じて剛性が変化し、挿入性と柔軟性を兼ね備え、その後は内腔のつぶれも防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態におけるチューブ体の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のチューブ体は、治療において狭窄または閉塞した胆管または膵管等の生体管腔内へ送達し、留置するために用いられる。送達するために、チューブ体を設置する部位を有するカテーテル等のデリバリーシステムに取り付けて使用する場合がある。
【0017】
デリバリーシステムは、遠位端と近位端を有するチューブ体搬送デバイスである。デリバリーシステムに含まれるカテーテルにチューブ体が取り付けられる。デリバリーシステムを留置箇所に挿入し、チューブ体を取りはずし、デリバリーシステムを体外へ引き出すことによって、チューブ体が留置される。
【0018】
本発明のチューブ体において、近位側とはチューブ体の延在方向に対して使用者(術者)の手元側の方向を指し、遠位側とは近位側の反対方向(すなわち処置対象側の方向)を指す。チューブ体の内腔の中心を通る軸を長手軸という。また、チューブ体の近位側から遠位側への方向を軸方向と称する。径方向とは筒状部材の半径方向を指す。
【0019】
図1はチューブ体1の側面図を表す。図1に示すように、チューブ体1の両側に開口部10a、10bを有する略管状体である。チューブ体1を中空の略管状とし、遠位側開口部10a、近位側開口部10bを設けることにより、チューブ体1内を閉塞部に留置した後に、チューブ体1内を体液が通過することができる。チューブ体1の中空部は、遠位端から近位端を貫く中空部であってもよく、チューブ体1の側面など、端部でない部分に開口部があってもよい。
【0020】
近位側と遠位側にそれぞれフラップ21、22を有する場合がある。遠位端チューブ体1にフラップを設けることにより、フラップを体腔内に引っ掛けることによって、チューブ体の体腔内の位置を固定することができる。
【0021】
また、チューブ体1は、1または複数のマーカー31、32、33、34を有していてもよい。チューブ体1にマーカーを設けることにより、内視鏡下または放射線透視下でフラップの位置を確認することが容易となる。
【0022】
チューブ体1は、樹脂材料で形成される。樹脂材料は特に限定されないが、本発明のチューブ体は周囲環境の温度によって剛性が変化する特性を有するため、この特性を満たす材料が必要である。上記剛性特性を有するチューブ体の材料には、熱可塑性ポリウレタン樹脂が挙げられる。このような熱可塑性ポリウレタン樹脂を溶融成形することにより、ポリウレタン樹脂からなる成形品を得ることができる。
【0023】
熱可塑性ポリウレタン樹脂は、一般に、ポリイソシアネート、ポリオールの反応により得られるゴム弾性体である。ポリイソシアネートはハードセグメントからなり、ポリオールはソフトセグメントからなる。ポリイソシアネートは脂肪族および芳香族の2種類に大別されている。ポリオールはジオール、ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネートを含む。ポリウレタン樹脂を形成するポリイソシアネートは脂肪族を用いてもよく、芳香族を用いてもよい。また、ポリウレタン樹脂のポリオールの配合は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、ポリウレタン樹脂と、その他の熱可塑性樹脂や造影剤と組み合わせて配合してもよい。造影剤としては、公知のものを使用することができ、例えば、硫酸バリウム、酸化チタン、タングステン等が挙げられる。造影剤としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0024】
チューブ体1は、層構造を有していてもよい。例えば2層構造とし、外層を熱変形温度が高いもの、内層を熱変形温度が外層より低いものとすることができる。
チューブ体は、室温下において、径方向への圧縮力に対する剛性を第1剛性とする。チューブ体を37度温水中にて2時間浸し、37℃条件下において、径方向への圧縮力に対する剛性を第2剛性とする。
【0025】
ここで、径方向への圧縮力に対する剛性を測定するための曲げ試験について説明する。一対の支持台B1、B2を、水平面に沿って互いに離れた状態で配置する。支持台B1、B2間の距離は15mmとする。チューブ体が支持台から離脱しないような長さに設定し、配置する。チューブ体を押込む治具で下方に押し込み、押込み速度は50mm/min(分)で、押込み距離は5mmである。チューブ体に押し込み治具が接触してから下方に押込み距離が1mmとなるまで受ける最大反力を測定し、チューブ体の剛性とする。
【0026】
チューブ体の第2剛性は第1剛性より柔軟であり、第2剛性は第1剛性と比較し、剛性変化率が50%以上である。剛性変化率とは、第1剛性と第2剛性の剛性差であり、第2剛性の第1剛性との比率と定義する。例えば、第1剛性が10Nであり、第2剛性が5Nであった場合、第2剛性は第1剛性より柔軟であり、第1剛性から第2剛性への剛性の変化率は50%である。
【0027】
室温下と37度温水で2時間浸した後の剛性を、上述のように設定することにより、チューブ体は温度環境に応じて剛性が変化し、挿入性と柔軟性を兼ね備え、その後は内腔のつぶれも防止することができるチューブ体を提供することができる。挿入直後は、チューブ体は第1剛性を有し、挿入性が優れる。チューブ体を体腔内に留置した後に体温による加熱によって、チューブ体は第二剛性となり、柔軟性が増すため体腔の形状または体の動きに追従することができる。
【0028】
チューブ体の第1剛性から第2剛性への剛性変化率が60%以上であることがより好ましい。これにより、体温の加熱によりチューブ体が十分柔軟になり、生体追従性がよくなる。
【0029】
第1剛性から第2剛性への変化率は、75%以下であることが好ましい。剛性変化率の上限を75%以下とすることにより、チューブ体が体内で柔軟になりすぎないように制御し、患部の狭窄などによりチューブ体の内腔のつぶれを防止することができる。
【0030】
比較的硬いチューブ体を用いる場合、第2剛性は5N以下であることが好ましい。チューブ体を37度温水で2時間浸した後の剛性を、5N以下とすることにより、チューブ体の追随性能が向上する。また、比較的柔らかいチューブ体を用いる場合、第2剛性は0.5N以上であることが好ましい。これにより、留置した後のチューブ体の内腔つぶれを防止することができる。径方向への圧縮力に対する剛性が5Nとは、例えば、直径5mm、肉厚1mmの樹脂チューブを指で押しつぶしたときに、内腔はつぶれずに変形する状態となる程度の硬さである。
【0031】
このような剛性を実現するために、チューブ体を構成する樹脂はウレタン樹脂を用いることが好ましい。中でも、ウレタン樹脂は、ジイソシアネートとポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネートの一つ、またはこれらの組合せを含む、ポリオール成分から製造された熱可塑性ポリウレタン組成物であることが好ましい。
【0032】
さらにチューブ体は、室温下および37度温水に2時間浸した後において、湾曲形状を有することが好ましいましい。温水浸漬後の湾曲の曲率半径が、浸す前よりも小さいことが好ましい。これにより、柔軟になったチューブ体がさらに体腔の形状を沿うようになる。
【0033】
浸漬後の湾曲の曲率半径を小さくするために、加熱前においてもチューブ体の形状がカーブ形状であることが好ましい。カーブ形状を付与するために、事前にチューブの熱処理工程を取り入れることが好ましい。
【符号の説明】
【0034】
1:チューブ体
10a:遠位側開口部、10b:近位側開口部
21、22:フラップ
31、32、33、34:マーカー

図1