(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156630
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】カムクラッチ
(51)【国際特許分類】
F16D 41/08 20060101AFI20231018BHJP
F16D 41/07 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
F16D41/08 A
F16D41/07 B
F16D41/07 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066109
(22)【出願日】2022-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(72)【発明者】
【氏名】楠 颯太
(57)【要約】
【課題】 カムの噛み込みの発生が防止されて長寿命化を図ることができると共に微小な力で動作モードの切り替えを行うことができて小型化を実現可能なカムクラッチの提供。
【解決手段】 内輪及び外輪と、複数のカムと、複数のカムの各々を内輪及び外輪に接触するように付勢する付勢手段とを備え、複数のカムは、噛み合い方向が互いに異なる第1カム及び第2カムを含み、動作モード切替機構による動作モードの切り替え時において、第1カム及び第2カムが内輪の軌道面及び/または外輪の軌道面から同時に離間された両浮上状態とされたときに、第1カムまたは第2カムを噛み合い方向に傾倒させることができる部材と当該内輪及び/または外輪との間に摺動抵抗を発生させる摺動抵抗発生手段を備える。
【選択図】
図14
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の回転軸上に相対回転可能に設けられている内輪及び外輪と、前記内輪と前記外輪との間において周方向に配列された複数のカムと、前記複数のカムの各々を前記内輪及び前記外輪に接触するように付勢する付勢手段とを備えたカムクラッチであって、
前記複数のカムは、前記内輪及び前記外輪に対する噛み合い方向が互いに異なる第1カム及び第2カムを含み、
前記カムクラッチの動作モードを切り替える動作モード切替機構を備え、
前記動作モード切替機構により切り替え可能な前記動作モードには、正転方向及び逆転方向の両方向における前記内輪及び前記外輪の相対回転を禁止する両方向ロックモードを含み、
前記両方向ロックモードにおいて前記第1カム及び前記第2カムが同時に内輪の軌道面及び/または外輪の軌道面から各々微小な隙間を介して離間された両浮上状態とされたときに、前記第1カムまたは前記第2カムを噛み合い方向に傾倒させることができる部材と前記第1カム及び前記第2カムが離間された当該内輪及び/または外輪との間に摺動抵抗を発生させる摺動抵抗発生手段を備えることを特徴とするカムクラッチ。
【請求項2】
前記動作モード切替機構は、前記外輪及び前記内輪の回転動作とは独立して軸方向に移動可能に設けられ前記第1カムの姿勢を変更可能に構成された外輪側ケージリングと、前記外輪及び前記内輪の回転動作とは独立して軸方向に移動可能に設けられ前記第2カムの姿勢を変更可能に構成された内輪側ケージリングと、前記外輪側ケージリングと前記内輪側ケージリングとの間に設けられ前記外輪側ケージリング及び前記内輪側ケージリングの周方向の移動の自由度を規制する位置規制用ケージリングとを備え、
前記第1カムまたは前記第2カムを噛み合い方向に傾倒させることができる部材が、前記外輪側ケージリング及び/または前記内輪側ケージリングであることを特徴とする請求項1に記載のカムクラッチ。
【請求項3】
前記外輪側ケージリング及び前記内輪側ケージリングは、それぞれ前記第1カムを保持する第1カム保持部と、前記第2カムを保持する第2カム保持部とを有し、
前記外輪側ケージリングにおける第2カム保持部及び前記内輪側ケージリングにおける第1カム保持部は、軸方向において開口幅が一定となるように構成され、
前記外輪側ケージリングにおける第1カム保持部及び前記内輪側ケージリングにおける第2カム保持部は、軸方向において開口幅が連続的に変化する開口幅変動部を有するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のカムクラッチ。
【請求項4】
前記摺動抵抗発生手段は、前記内輪側ケージリングの内周面上及び/または前記外輪側ケージリングの外周面上に、前記第1カム及び前記第2カムが離間された前記内輪の軌道面及び/または外輪の軌道面に接触することにより摺動抵抗を発生させるよう固定的に設けられた板スプリング部材を有することを特徴とする請求項2に記載のカムクラッチ。
【請求項5】
前記板スプリング部材は、断面U字状の形状を有し、
前記内輪側ケージリングの内周面上及び/または前記外輪側ケージリングの外周面上における、前記第1カム及び前記第2カムが両浮上状態とされたときに前記内輪の軌道面及び/または外輪の軌道面と対向する一端部において、頂部が前記一端部と反対の他端部側に向いた状態に配置されていることを特徴とする請求項4に記載のカムクラッチ。
【請求項6】
前記摺動抵抗発生手段は、前記第1カム及び前記第2カムが離間される前記内輪の軌道面上及び/または前記外輪の軌道面上に、前記内輪側ケージリングの内周面及び/または前記外輪側ケージリングの外周面に接触することにより摺動抵抗を発生させるよう固定的に設けられたo-リングを有することを特徴とする請求項2に記載のカムクラッチ。
【請求項7】
前記o-リングは、前記内輪の軌道面上及び/または前記外輪の軌道面上における、前記第1カム及び前記第2カムが両浮上状態とされたときに前記内輪側ケージリングの内周面及び/または前記外輪側ケージリングの外周面と対向する一端部に設けられることを特徴とする請求項6に記載のカムクラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動作モードを切り替え可能に構成されたカムクラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
回転力の伝達と遮断を制御するクラッチとして、正転方向及び逆転方向の両方向に駆動と空転が切り替え可能な2方向クラッチが知られている。
例えば、特許文献1には、付勢手段によって回転ロック方向が逆方向になるように付勢された第1スプラグ及び第2スプラグをともに保持する保持器を制御して、正転方向及び逆転方向の両方向の回転を許容する両方向フリーモード、正転方向に対してのみ回転を許容し逆転方向の回転を禁止する一方向ロックモードおよび逆転方向に対してのみ回転を許容し正転方向の回転を禁止する一方向ロックモードの3つの動作モードの切り替えが可能に構成されたクラッチが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
而して、上述の2方向クラッチにおいては、動作モードの変更に際して保持器を制御することで第1スプラグ及び第2スプラグのすべてのものが強制的に傾倒されるものであるため、外輪及び内輪の正転方向及び逆転方向の両方向の相対的な回転を禁止する両方向ロックモードを実現することはできない。
【0005】
また、上述の2方向クラッチにおいては、第1スプラグおよび第2スプラグは外輪及び内輪に接触するように付勢されており、外輪または内輪にトルクが働くと、一方のスプラグが外輪及び内輪に直ちに噛み合いを開始するように傾倒するが、他方のスプラグは外輪及び内輪と摺動しながら接触を続け、噛み合い待機の状態を維持する。
トルクが除荷されることで一方のスプラグが噛み合い解除方向に傾倒して空転状態に移行されることになるが、このとき、一方のスプラグの噛み合いが解除されるまでの間に、他方のスプラグが噛み合い方向に傾倒して外輪及び内輪に対し噛み合いを開始し、すべてのカムが同時に噛み合う「噛み込み」が生ずるおそれがある。
このような状態にあっては、すべてのスプラグが高い面圧をもって噛み合っているため、クラッチの動作モードを外輪及び内輪の正逆いずれか一方向または両方向の相対的な回転動作を禁止するロックモードから外輪及び内輪の両方向の相対的な回転動作を許容するフリーモードに切り替えるときに、スプラグの姿勢を変更するのに大きな力が必要となり、スプラグの外輪及び内輪に対する係合面や、外輪の軌道面及び内輪の軌道面を痛め、クラッチを短命化させてしまうおそれがあった。さらに、スプラグの姿勢を変更するための姿勢変更部材に、高い剛性が必要となる、という問題もある。
【0006】
一方、セレクタブルクラッチの或る種のものとして、外輪及び内輪の正転方向及び逆転方向の両方向の相対的な回転を禁止する両方向ロックモードを実現するために、一方のカム及び他方のカムを噛み合い方向が反対となるように互いに逆向きに配置させたカムクラッチがある。このようなカムクラッチにおいては、トルクが除荷された状態のときに両方のカムにわずかな噛み込みの状態を意図的に生じさせることにより、正転方向と逆転方向の方向転換を可能としている。これは、トルクが除荷された状態で一方のカム及び他方のカムが同時に噛み合い解除された状態となって一方のカム及び他方のカムが共に内輪の軌道面または外輪の軌道面から浮上したままとなると、次のトルクを伝達することができずに内輪または外輪の空転が生じてしまってカムの噛み合い方向の反転を正常に行うことができないことがあるため、方向転換時に一方のカム及び他方のカムにわずかな噛み込みの状態を生じさせることにより、意図しない空転状態の発生を回避している。
しかしながら、意図的に残したわずかな噛み込みの状態であっても、噛み込みトルクが抵抗力として残存して動作モードの切り替え時にある程度大きな力が必要になることに加え、この噛み込みトルクの大きさはカムの姿勢変更部材の公差に大きく影響を受けてしまうため、公差の出来次第では動作モードの切り替え時に必要とされる力が問題になるレベルで大きくなってしまうおそれがある。そうすると、やはりこのような構成のカムクラッチにおいても、動作モードの切り替え時に、カムの噛み込み状態からこれらの姿勢を変更するのに大きな力が必要となり、依然として、カムの外周面や内輪の軌道面及び外輪の軌道面の損傷によるクラッチの短命化、並びに、カムの姿勢を変更するための姿勢変更部材に高い剛性が必要となってしまうという問題がある。
【0007】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、簡単な構造で、カムの噛み込みの発生が防止されて長寿命化を図ることができると共に微小な力で動作モードの切り替えを行うことができて小型化を実現可能なカムクラッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、同一の回転軸上に相対回転可能に設けられている内輪及び外輪と、前記内輪と前記外輪との間において周方向に配列された複数のカムと、前記複数のカムの各々を前記内輪及び前記外輪に接触するように付勢する付勢手段とを備えたカムクラッチであって、
前記複数のカムは、前記内輪及び前記外輪に対する噛み合い方向が互いに異なる第1カム及び第2カムを含み、
前記カムクラッチの動作モードを切り替える動作モード切替機構を備え、
前記動作モード切替機構により切り替え可能な前記動作モードには、正転方向及び逆転方向の両方向における前記内輪及び前記外輪の相対回転を禁止する両方向ロックモードを含み、
前記両方向ロックモードにおいて前記第1カム及び前記第2カムが同時に内輪の軌道面及び/または外輪の軌道面から各々微小な隙間を介して離間された両浮上状態とされたときに、前記第1カムまたは前記第2カムを噛み合い方向に傾倒させることができる部材と前記第1カム及び前記第2カムが離間された当該内輪及び/または外輪との間に摺動抵抗を発生させる摺動抵抗発生手段を備えることにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のカムクラッチによれば、両方向ロックモードの噛み合い方向の反転時、トルクが除荷された状態で第1カム及び第2カムが基本的に内輪の軌道面及び/または外輪の軌道面から各々微小な隙間を介して同時に離間された両浮上状態となるので、第1カム及び第2カムが同時に内輪及び外輪に対し噛み合うことを回避することができる。しかも、第1カム及び第2カムを傾倒させることができる部材と第1カム及び第2カムが離間された内輪及び/または外輪との間に摺動抵抗を発生させる摺動抵抗発生手段を備えることにより、両浮上状態となったときでも内輪または外輪に働くトルクが摺動抵抗発生手段によって次に噛み合うべき第1カムまたは第2カムに伝達され、当該カムを噛み合い方向に傾倒させて内輪の軌道面及び/または外輪の軌道面に接触させることができるので、内輪または外輪に働くトルクが第1カム及び第2カムのいずれにも伝達されない意図しない空転状態が生じることを回避して、両方向ロックモードを実現することができる。従って、第1カム及び第2カムの噛み合い方向の反転時の噛み込み残りが全く生じないので、他の動作モードへの切り替えに必要とされる推力を大幅に小さくすることができて切り替え装置の小型化を図ることができると共に、高頻度で動作モードの切り替えを行ったとしても内輪や外輪の軌道面の損傷を極めて抑制することができてカムクラッチの長寿命化を図ることができる。
【0010】
また、外輪側ケージリング及び内輪側ケージリングと、これらの周方向の移動の自由度を規制する位置規制用ケージリングとを備えた構成によれば、外輪側ケージリングに第1カムの姿勢制御機能を持たせると共に内輪側ケージリングに第2カムの姿勢制御機能を持たせ、さらに、位置規制用ケージリングによって外輪側ケージリング及び内輪側ケージリングの周方向の移動の自由度を規制することで、外輪側ケージリング及び内輪側ケージリングの一方または両方を軸方向に移動させるだけで、カムを傾倒させることができると共に変更されたカムの姿勢を保持することができ、従って、カムクラッチを簡単な構成で4つの動作モードに対応可能な高機能を有するものとして構成することが可能である。
また、外輪側ケージリング及び内輪側ケージリングの周方向の移動の自由度を規制することで、カムの姿勢変更に際して、第1カム及び第2カムが共に外輪及び内輪に噛み合う噛み込みが生ずることが回避され、円滑な動作を実現することができて高い応答性を得ることができる。
さらに、第1カムまたは第2カムを噛み合い方向に傾倒させることができる部材が外輪側ケージリング及び/または内輪側ケージリングであることにより、外輪側ケージリング及び/または内輪側ケージリングと、第1カム及び第2カムが離間された外輪及び/または内輪との間に摺動抵抗を発生させることができる結果、外輪側ケージリング及び/または内輪側ケージリングを外輪及び/または内輪に連れ回りさせて周方向に相対的に移動させることにより第1カムまたは第2カムを噛み合い方向に傾倒させて内輪の軌道面及び/または外輪の軌道面に接触させることができるので、第1カム及び第2カムが両浮上状態とされたときに、確実に内輪または外輪に働くトルクを次に噛み合うべき第1カムまたは第2カムに伝達させることができる。
【0011】
また、外輪側ケージリング及び内輪側ケージリングが、それぞれ互いに開口形状の異なる第1カム保持部と第2カム保持部とを有する構成によれば、内輪側ケージリング及び外輪側ケージリングの対応するカム保持部の周方向位置の位相を、容易に第1カム及び第2カムが両浮上状態とされるように設計することができるので、第1カム及び第2カムが同時に内輪及び外輪に対し期せずして噛み合うことを確実に防止することができる。また、動作モード切替機構としての外輪側ケージリング及び内輪側ケージリングの各々の第1カム保持部及び第2カム保持部の開口形状を変えることで、第1カム及び第2カムの一方のみを傾倒させることができる。すなわち、外輪側ケージリング及び内輪側ケージリングの各々にカムの姿勢を変更させる機構が一体に構成されることで、構造の簡素化、小型化、部品点数の削減及び保持トルクの増大を図ることができる。また、外輪側ケージリングにおける第1カム保持部及び内輪側ケージリングにおける第2カム保持部の開口形状を単純な矩形状ではなく、開口幅が連続的に変化する開口幅変動部を有するような異形状にすることで、製造誤差などで発生するわずかな噛み込みの解除を小さな推力で実行可能となっている。さらに、外輪側ケージリング及び内輪側ケージリングの第1カム保持部及び第2カム保持部の開口形状を適宜変更することで、より多くの動作モード及びその切り替えを実現することが可能となる。
【0012】
また、摺動抵抗発生手段が内輪側ケージリングの内周面上及び/または外輪側ケージリングの外周面上に固定的に設けられた板スプリング部材を有する構成によれば、第1カム及び第2カムが両浮上状態であるときであっても、板スプリング部材が摺動抵抗により回転する外輪または内輪と連れ回りされる力によって外輪側ケージリングまたは内輪側ケージリングが共に周方向に移動されることによって次に噛み合うべきカムを噛み合い方向に傾倒させることができ、従って、板スプリング部材を固定的に設けるのみの簡単な構造でカムの噛み合い方向の反転を行うことができる。
また、断面U字状の板スプリング部材が、内輪側ケージリングの内周面上及び/または外輪側ケージリングの外周面上の特定の一端部に頂部が他端部側を向いた状態で配置される構成によれば、両方向ロックモード時には板スプリング部材を摺動抵抗により回転する外輪または内輪と連れ回りさせる作用が得られながら、正転方向及び逆転方向の両方向の回転を許容する両方向フリーモード時には板スプリング部材が内輪または外輪に非接触とされるので摺動抵抗を発生させることがなく、摩耗を抑制することができると共にドラッグトルクの発生を抑止することができる。また、板スプリング部材は、動作モードの切り替え時の内輪側ケージリングまたは外輪側ケージリングの軸方向への移動に伴って内輪または外輪に接触し始めるが、頂部が他端部側を向いた状態とされていることにより、板スプリング部材が頂部を先頭として移動されることになるので、板スプリング部材に無理な姿勢が強いられることがなく、損傷を伴わずに内輪または外輪との間に板スプリング部材を挿入することができ、その結果、上記作用を確実に得ることができる。
【0013】
また、摺動抵抗発生手段が内輪の軌道面上及び/または外輪の軌道面上に固定的に設けられたo-リングを有する構成によれば、板スプリング部材を有する構成の場合と同様に、第1カム及び第2カムが両浮上状態であるときであっても、回転する外輪または内輪とo-リングを介して摺動抵抗により外輪側ケージリングまたは内輪側ケージリングが連れ回りされることによって共に周方向に移動されることによって次に噛み合うべきカムを噛み合い方向に傾倒させることができ、従って、o-リングを固定的に設けるのみの簡単な構造でカムの噛み合い方向の反転を行うことができる。
また、o-リングが内輪の軌道面上及び/または外輪の軌道面上の特定の一端部に配置される構成によれば、両方向ロックモード時には回転する外輪または内輪とo-リング介して摺動抵抗により外輪側ケージリングまたは内輪側ケージリングを連れ回りさせる作用が得られながら、正転方向及び逆転方向の両方向の回転を許容する両方向フリーモード時にはo-リングが外輪側ケージリングまたは内輪側ケージリングに非接触とされるので摺動抵抗を発生させることがなく、摩耗を抑制することができると共にドラッグトルクの発生を抑止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るカムクラッチの軸方向前方側から見た斜視図である。
【
図2】
図1に示すカムクラッチの回転軸心を含む平面で切った断面斜視図である。
【
図3】
図1に示すカムクラッチの回転軸心を含む平面で切った断面の一部を示す軸方向断面図である。
【
図4】
図1に示すカムクラッチの回転軸心と直交する平面で切った、軸方向前方側から見た径方向断面図である。
【
図6】
図1に示すカムクラッチにおける付勢手段の構成を示す、軸方向後方側から見た斜視図である。
【
図7A】外輪側ケージリングの構成を示す、軸方向後方側から見た斜視図である。
【
図7B】
図7Aに示す外輪側ケージリングの一部展開図である。
【
図8A】内輪側ケージリングの構成を示す、軸方向後方側から見た斜視図である。
【
図8B】
図8Aに示す内輪側ケージリングの一部展開図である。
【
図9】
図7Aに示す外輪側ケージリング及び
図8Aに示す内輪側ケージリングを重ねた状態における一部展開図である。
【
図10】摺動抵抗発生手段の構成を示す、軸方向前方側から見た斜視図である。
【
図11】板スプリング部材の配置関係を示す軸方向断面図である。
【
図12A】位置規制用ケージリングの構成を示す、軸方向後方側から見た斜視図である。
【
図13】
図1に示すカムクラッチの、正転方向ロックモードから両方向ロックモードへの動作モードの切り替え動作を示す側面図である。
【
図14】両方向ロックモードの両浮上状態、正転方向禁止状態及び逆転方禁止状態を説明するための模式図である。
【
図15】
図1に示すカムクラッチの、正転方向ロックモードから両方向フリーモードへの動作モードの切り替え動作を示す側面図である。
【
図16】
図1に示すカムクラッチの、正転方向ロックモードから逆転方向ロックモードへの動作モードの切り替え動作を示す側面図である。
【
図17】本発明の第2の実施形態に係るカムクラッチの回転軸心を含む平面で切った断面の一部を示す軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
【実施例0016】
本発明の第1実施形態に係るカムクラッチ100は、
図1~
図4に示すように、同一軸上に相対回転可能に設けられた外輪110及び内輪120と、外輪110の軌道面111と内輪120の軌道面121との間の環状空間において周方向に間隔を空けて配列され外輪110と内輪120との間でトルクの伝達及び遮断を行う係合子としての複数のカムと、複数のカムの各々を外輪110及び内輪120に接触するように噛み合い方向に付勢する付勢手段140と、外輪110と内輪120との間において同一軸上に外輪110または内輪120と共に回転可能に設けられ複数のカムの各々を保持する外輪側ケージリング160及び内輪側ケージリング170と、外輪側ケージリング160と内輪側ケージリング170との間に設けられ外輪側ケージリング160及び内輪側ケージリング170の周方向の移動の自由度を規制する位置規制用ケージリング180とを備える。
図4におけるCは、回転軸心である。
【0017】
外輪110には、複数のカムの各々の軸方向の移動を規制する位置規制部115が設けられている。本実施例では、位置規制部115は、外輪110の内周面における軸方向両端部の各々に、周方向の全周にわたって径方向内方に突出するように設けられた内方リブ部116によって構成され、複数のカムの各々が内方リブ部116間に位置されることで複数のカムの各々の軸方向の移動が規制されるようになっている。
【0018】
複数のカムの各々は、外輪110及び内輪120に対する噛み合い方向が互いに異なる第1カム130a及び第2カム130bを含む。
本実施例においては、第1カム130a及び第2カム130bは、例えば互いに同一の外形形状を有するものであって、第1カム130aを表裏反転させたものを第2カム130bとして用いている。
【0019】
第1カム130a及び第2カム130bは、例えば、周方向に等間隔で交互に並ぶよう配置されている。
第1カム130a及び第2カム130bの配列は、特に限定されるものではなく、第1カム130a及び第2カム130bは周方向に交互に並ぶよう配置されていなくてもよく、また、第1カム130aの数と第2カム130bの数とが異なっていてもよい。
【0020】
第1カム130aの噛み合い方向は、
図4における時計方向(以下、「正転方向」という。)であって、第1カム130aは、外輪110が正転方向に回転されることで、もしくは、内輪120が
図4における反時計方向(以下、「逆転方向」という。)に回転されることで外輪110及び内輪120に対し噛み合うように構成されている。
第2カム130bの噛み合い方向は、逆転方向であって、第2カム130bは、外輪110が逆転方向に回転されることで、もしくは、内輪110が正転方向に回転されることで外輪110及び内輪120に対し噛み合うように構成されている。
【0021】
第1カム130a及び第2カム130bは、軸方向平面視において、インボリュート曲線に沿った曲線部分を含む外周輪郭形状を有する。第1カム130aの一構成例を
図5に示す。
図5において、塗りつぶした矢印は、第1カム130aの噛み合い方向を示し、白抜きの矢印は、第1カム130aの噛み合い解除方向を示す。なお、上述のように、第2カム130bは、第1カム130aを表裏反転させたものであって、第1カム130aと同一形状を有するものであるので説明を省略する。
【0022】
この第1カム130aは、径方向中央部にくびれ部131を有し、略ひょうたん形形状をなすよう構成されている。
この第1カム130aにおけるくびれ部131に対し径方向外方側の頭部部分132は、外輪側係合面133を有し、外輪側係合面133に滑らかに連続し外輪側ケージリング160に接する両側面134a,134bが、頭部部分132の幅寸法が第1カム130aの姿勢に拘わらず一定となるように構成された曲面により構成されている。具体的には、頭部部分132の両側面134a,134bは、軸方向平面視にて、共通の基礎円を有するインボリュート曲線に沿った曲線により構成されている。
また、第1カム130aにおけるくびれ部131に対し径方向内方側の脚部部分135は、内輪側係合面136を有し、内輪側係合面136に滑らかに連続し内輪側ケージリング170に接する両側面137a,137bが脚部部分135の幅寸法が第1カム130aの姿勢に拘わらず一定となるように構成された曲面により構成されている。具体的には、脚部部分135の両側面137a,137bは、軸方向平面視にて、共通の基礎円を有するインボリュート曲線に沿った曲線により構成されている。
第1カム130a及び第2カム130bが、このような外周輪郭形状を有することにより、小さなカムに対して大きな回転角度を持たせつつ、外輪側ケージリング160及び内輪側ケージリング170に対して高い連動性を維持することが可能となるため、カムサイズを小型化してカムクラッチ100の小型化を図ることができるようになっている。しかも小さいトルクでカムを傾倒させることが可能となるため、噛み込みトルクを小さく抑制することができるようになっている。
【0023】
付勢手段140は、例えばリボンスプリングにより構成されている。付勢手段140は、第1カム130aの各々及び第2カム130bの各々を噛み合い方向に付勢可能な弾性体であればよく、例えば複数の板バネ又はねじりバネなどを用いてもよい。
【0024】
付勢手段140としてのリボンスプリングは、例えば
図6に示すように、周方向に互いに平行に延在する一対の円環部141と、円環部141を所定間隔で軸方向に連結する複数の連結部142とからなり、隣接する連結部142間の空間により第1カム130a及び第2カム130bをそれぞれ一つずつ収容可能なポケット部145が構成されている。ポケット部145は、周方向に沿って等間隔に設けられている。
連結部142は、径方向内方に向けて凸となるよう形成された弧状湾曲部143と、径方向外方に向けて凸となるよう形成され弧状湾曲部143の両端の各々に連続する押圧腕部144とを有し、これらの押圧腕部144によって第1カム130a及び第2カム130bを外輪110及び内輪120に対する噛み合い方向に付勢するよう構成されている。
【0025】
本実施例におけるカムクラッチ100は、動作モード切替機構150によって、正転方向における外輪110及び内輪120の相対回転を禁止する正転方向ロックモード、逆転方向における外輪110及び内輪120の相対回転を禁止する逆転方向ロックモード、正転方向及び逆転方向の両方向における外輪110及び内輪120の相対回転を禁止する両方向ロックモード、及び、正転方向及び逆転方向の両方向における外輪110及び内輪120の相対回転を許容する両方向フリーモードの4つの動作モードが切り替え可能となっている。
【0026】
本実施例においては、外輪側ケージリング160及び内輪側ケージリング170と、位置規制用ケージリング180とによって、動作モード切替機構150が構成される。
【0027】
外輪側ケージリング160の第1カム保持部162は、軸方向において開口幅が連続的に変化する開口幅変動部を有するように構成されている。
具体的には、第1カム保持部162は、軸方向において開口幅が一定となるよう構成されたガイド空間部163aと、ガイド空間部163aより開口幅が小さくなるよう構成されガイド空間部163aの軸方向前方側(
図7Bにおいて上方側)に連続する第1姿勢固定用空間部163bと、ガイド空間部163aより開口幅が小さくなるよう構成されガイド空間部163aの軸方向後方側(
図7Bにおいて下方側)に連続する第2姿勢固定用空間部163cとを有する。第1姿勢固定用空間部163bは、開口幅が軸方向前方に向かうに従って連続的に小さくなるよう形成された第1開口幅変動部164aを介してガイド空間部163aに連続し、第2姿勢固定用空間部163cは、開口幅が軸方向後方に向かうに従って連続的に小さくなるよう形成された第2開口幅変動部164bを介してガイド空間部163aに連続する。第1開口幅変動部164aは、第1カム130aの噛み合い解除方向(
図7Bにおいて左方向)側の開口縁が内方に突出するように形成されることで構成され、第2開口幅変動部164bは、第1カム130aの噛み合い方向(
図7Bにおいて右方向)側の開口縁が内方に突出するように形成されることで構成される。
外輪側ケージリング160の第2カム保持部165は矩形状であって、軸方向において開口幅が一定となるように構成されている。
【0028】
外輪側ケージリング160は、外輪110及び内輪120の回転動作とは独立して軸方向に移動可能に設けられており、これにより、第2カム130bの姿勢を保持したまま、第1カム130aを傾倒させて第1カム130aの姿勢を変更することが可能となっている。
このように、外輪側ケージリング160の第1カム保持部162が、単純な矩形状の開口部ではなく、軸方向両端部において開口幅が狭まる異形状の開口窓により構成されることで、製造誤差などで発生するわずかな噛み込みの解除を小さな推力で実行可能となっていると共に、第1カム保持部162の開口形状を適宜変更することで、より多くの動作モード及びその切り替えを実現することが可能となっている。
【0029】
外輪側ケージリング160における本体部161の内面には、第1カム保持部162と、該第1カム保持部162と第1カム130aの噛み合い方向に隣接する第2カム保持部165との間において、軸方向に延びる内面溝部166が形成されている。
内面溝部166は、本体部161の軸方向後端縁から軸方向前端縁まで直線状に延びるガイド溝部167と、ガイド溝部167の軸方向前端部に連続するスライド溝部168とを有する。スライド溝部168は、周方向において第1カム130aの噛み合い方向に延びるように形成されており、外輪側ケージリング160が第1カム130aを噛合状態とする位置にあるときに、後述する位置規制用ケージリング180の外方突起部185の周方向移動が許容されるように構成されている。
【0030】
内輪側ケージリング170は、
図8A及び
図8Bに示すように、軸方向に延びる円筒状の本体部171を備える。本体部171には、第1カム130aの脚部部分135を受容して第1カム130aを保持する第1カム保持部172と、第2カム130bの脚部部分を受容して第2カム130bを保持する第2カム保持部173とが、周方向に交互に並ぶように設けられている。
【0031】
内輪側ケージリング170の第1カム保持部172は矩形状であって、軸方向において開口幅が一定となるように構成されている。
内輪側ケージリング170の第2カム保持部173は、軸方向において開口幅が連続的に変化する開口幅変動部を有するように構成されている。
具体的には、第2カム保持部173は、軸方向において開口幅が一定となるよう構成されたガイド空間部174aと、ガイド空間部174aより開口幅が小さくなるよう構成されガイド空間部174aの軸方向前方側(
図8Bにおいて上方側)に連続する第1姿勢固定用空間部174bと、ガイド空間部174aより開口幅が小さくなるよう構成されガイド空間部174aの軸方向後方側(
図8Bにおいて下方側)に連続する第2姿勢固定用空間部174cとを有する。第1姿勢固定用空間部174bは、開口幅が軸方向前方に向かうに従って連続的に小さくなるよう形成された第1開口幅変動部175aを介してガイド空間部174aに連続し、第2姿勢固定用空間部174cは、開口幅が軸方向後方に向かうに従って連続的に小さくなるよう形成された第2開口幅変動部175bを介してガイド空間部174aに連続する。第1開口幅変動部175aは、第2カム130bの噛み合い解除方向(
図8Bにおいて右方向)側の開口縁が内方に突出するように形成されることで構成され、第2開口幅変動部175bは、第2カム130bの噛み合い方向(
図8Bにおいて左方向)側の開口縁が内方に突出するように形成されることで構成されている。
【0032】
内輪側ケージリング170は、外輪110及び内輪120の回転動作とは独立して軸方向に移動可能に設けられており、これにより、第1カム130aの姿勢を保持したまま、第2カム130bを傾倒させて第2カム130bの姿勢を変更することが可能となっている。
このように、内輪側ケージリング170の第2カム保持部173が、単純な矩形状の開口部ではなく、軸方向両端部において開口幅が狭まる異形状の開口窓により構成されることで、製造誤差などで発生するわずかな噛み込みの解除を小さな推力で実行可能となっていると共に、第2カム保持部173の開口形状を適宜変更することで、より多くの動作モード及びその切り替えを実現することが可能となっている。
【0033】
内輪側ケージリング170における本体部171の外面には、第2カム保持部173と、この第2カム保持部173と第2カム130bの噛み合い解除方向に隣接する第1カム保持部172との間において、軸方向に延びる外面溝部176が形成されている。
外面溝部176は、本体部171の軸方向前端縁から軸方向後端縁まで直線状に延びるガイド溝部177と、ガイド溝部177の軸方向後端部に連続するスライド溝部178とを有する。スライド溝部178は、周方向において第2カム130bの噛み合い方向に延びるように形成されており、内輪側ケージリング170が第2カム130bを噛合状態とする位置にあるときに、後述する位置規制用ケージリング180の内方突起部186の周方向移動が許容されるように構成されている。
【0034】
そして、本発明のカムクラッチ100においては、後記に詳述する正転方向及び逆転方向の両方向における外輪110及び内輪120の相対回転を禁止する両方向ロックモード時に、トルクが除荷された無負荷状態で
図9に示すように外輪側ケージリング160および内輪側ケージリング170のカム保持部の位相がそろう。具体的には、外輪側ケージリング160の第1カム保持部162のガイド空間部163aと内輪側ケージリング170の第1カム保持部172とが径方向に重なるとともに、外輪側ケージリング160の第2カム保持部165と内輪側ケージリング170の第2カム保持部173のガイド空間部174aとが径方向に重なる。このとき、外輪側ケージリング160の第1カム保持部162のガイド空間部163a、外輪側ケージリング160の第2カム保持部165、内輪側ケージリング170の第1カム保持部172および内輪側ケージリング170の第2カム保持部173のガイド空間部174aの寸法は、それぞれ、第1カム130a及び第2カム130bが同時に内輪120の軌道面121から各々微小な隙間を介して離間された両浮上状態が保持されるよう、すなわち噛み込みが全く生じない大きさに設計されていればよい。
【0035】
本実施例のカムクラッチ100においては、両方向ロックモードの噛み合い方向の反転時、トルクが除荷された無負荷状態で第1カム130a及び第2カム130bが両浮上状態とされたときに、第1カム130aまたは第2カム130bを噛み合い方向に傾倒させることができる部材である内輪側ケージリング170と第1カム130a及び第2カム130bが離間された内輪120の軌道面121との間に摺動抵抗を発生させる摺動抵抗発生手段190が備えられている。
摺動抵抗発生手段190は、外輪側ケージリング160および内輪側ケージリング170の各カム保持部の位相がそろった状態から、内輪側ケージリング170と内輪120の軌道面121との間に摺動抵抗を発生させ、内輪側ケージリング170を外輪側ケージリング160に対して相対的に周方向に移動することにより意図的にその位相をずらし、第1カム130a及び第2カム130bのいずれかを内輪120の軌道面121に接触させて両浮上状態から第1カム130a及び第2カム130bのうち内輪120の軌道面121に接触された方を噛み合い方向に傾倒させることにより、噛み合い方向を反転可能にするものである。
摺動抵抗発生手段190は、例えば
図10に示すように、内輪側ケージリング170の内周側に嵌合して固定された支持リング部191と、支持リング部191上に固定して設けられた板スプリング部材192とからなる。また、板スプリング部材192は、
図14(a)~
図14(c)に示すように、支持リング部191上において、互いに噛み合い解除方向に隣接する第1カム130a及び第2カム130bの間に位置するよう周方向に沿って等間隔に設けられている。
板スプリング部材192は、
図11に示すように、2つの平行に設けられた平板部192aが半円筒状の頂部192bによって連続された、断面U字状の形状を有し、内輪側ケージリング170の内周面上における、両浮上状態において内輪120の軌道面121と対向する軸方向の一端部であるケージリング移動方向後方の周端部(
図11において右端部)において、頂部192bが内輪側ケージリング170の他端部側すなわちケージリング移動方向前方側(
図11において右方)に向くと共に平板部192aがケージリング移動方向後方側に向く姿勢で配置されている。なお、ケージリング移動方向とは、内輪側ケージリング170の軸方向の他端側が内輪120の軌道面121と対向する或る動作モードから、内輪側ケージリング170の軸方向の一端側が内輪120の軌道面121と対向する次の動作モードに移行するときの移動方向をいう。
【0036】
また、本実施例におけるカムクラッチ100の動作モード切替機構150は、上述のように、外輪側ケージリング160及び内輪側ケージリング170の周方向の移動の自由度を規制する位置規制用ケージリング180を備えた構成とされる。これにより、外輪側ケージリング160及び内輪側ケージリング170の、位置規制用ケージリング180に対する周方向の移動の自由度が各動作モードに応じた適正な自由度に調整可能となり、第1カム130a及び第2カム130bを適正な姿勢に保持すること可能となっている。
【0037】
位置規制用ケージリング180は、
図12A及び
図12Bに示すように、周方向に互いに平行に延在する一対の円環部181と、円環部181を所定間隔で軸方向に連結する複数の連結部182とからなり、隣接する連結部182間の空間により第1カム130a及び第2カム130bをそれぞれ一つずつ収容可能なポケット部183が構成されている。ポケット部183は、周方向に沿って等間隔に設けられている。
【0038】
位置規制用ケージリング180は、軸方向前端部に径方向外方に突出するよう設けられ外輪側ケージリング160の内面溝部166に摺動可能に係合される外方突起部185を有するとともに、軸方向後端部に径方向内方に突出するよう設けられ内輪側ケージリング170の外面溝部176に摺動可能に係合される内方突起部186を有する。
【0039】
以下、本実施例のカムクラッチ100の動作について説明する。
先ず、
図13(a)に示すように、外輪側ケージリング160及び内輪側ケージリング170が共に軸方向後方側に位置にされているときには、外輪110または内輪120にトルクが働くことで第1カム130aが外輪110及び内輪120に対する噛み合いが直ちに開始されるように噛み合い待機の状態を維持している。一方、第2カム130bは、内輪側係合面136が内輪120の軌道面121から離間した状態を維持しており、従って、カムクラッチ100は、外輪110及び内輪120の正転方向の相対回転を禁止する正転方向ロックモードとされている。
【0040】
カムクラッチ100の動作モードが
図13(a)に示す正転方向ロックモードとされている状態において、
図13(b)に示すように、内輪側ケージリング170を軸方向前方側(ケージリング移動方向前方側)に移動させると、カムクラッチ100の動作モードが、正転方向ロックモードから外輪110及び内輪120の正転方向及び逆転方向の両方向の相対回転を禁止する両方向ロックモードに切り替えられる。
正転方向ロックモードから両方向ロックモードへの切り替えにおいて、内輪側ケージリング170を軸方向前方側に移動させると、内輪側ケージリング170の軸方向後方側の一端部に設けられた板スプリング部材192が、頂部192bから先行して内輪120の軌道面121と径方向に対向する位置に移動されて軌道面121と接触し始める。両方向ロックモードにおいては、内輪側ケージリング170が軸方向前方側に位置されるので、内輪側ケージリング170の軸方向後方側の一端部に設けられた板スプリング部材192と、内輪120の軌道面121における軸方向後端側の一端部とが互いに径方向(
図14(b)における上下方向)に対向し、板スプリング部材192と内輪120の軌道面121との間に摺動抵抗が発生される。
【0041】
両方向ロックモード時の第1カム130a及び第2カム130bは、基本的にトルクが除荷された無負荷状態において同時に内輪120の軌道面121から各々微小な隙間を介して離間した状態を維持する両浮上状態となっている。そして、外輪110または内輪120にトルクが働くことで第1カム130a及び第2カム130bのいずれかを内輪120の軌道面121に接触させ、第1カム130a及び第2カム130bのうち内輪120の軌道面121に接触された方を噛み合い方向に傾倒させて正転方向禁止状態または逆転方向禁止状態に遷移させることができる。
具体的に説明すると、
図14(a)に示すように、第1カム130a及び第2カム130bが同時に内輪120の軌道面121から各々微小な隙間を介して離間した状態を維持する両浮上状態と、
図14(b)に示すように、第1カム130aが外輪110及び内輪120に対する噛み合い状態を維持すると共に、第2カム130bが内輪120の軌道面121から微小な隙間を介して離間した状態を維持する正転方向の相対的な回転が禁止される正転方向禁止状態とが互いに遷移可能とされている。また、両浮上状態と、
図14(c)に示すように、第1カム130aが内輪120の軌道面121から微小な隙間を介して離間した状態を維持すると共に、第2カム130bが外輪110及び内輪120に対する噛み合い状態を維持する逆転方向の相対的な回転が禁止される逆転方向禁止状態とが互いに遷移可能とされている。すなわち、両方向ロックモードにおいては、両浮上状態を介して正転方向禁止状態と逆転方向禁止状態とが遷移可能であって、これにより両浮上状態を介して噛み合い方向の反転を実現することができる。
両浮上状態においては、第1カム130aの頭部部分132が外輪側ケージリング160の第1カム保持部162における第1姿勢固定用空間部163bに保持されると共に第1カム130aの脚部部分135が内輪側ケージリング170の第1カム保持部172に保持されることによって第1カム130aが噛み合い解除方向に傾倒され、内輪120の軌道面121から微小な隙間を介して離間した状態に保持される。また、第2カム130bの頭部部分が外輪側ケージリング160の第2カム保持部163に保持されると共に第2カム130bの脚部部分が内輪側ケージリング170の第2カム保持部173における第2姿勢固定用空間部174cに保持されることによって第2カム130bが噛み合い解除方向に傾倒され、内輪120の軌道面121から微小な隙間を介して離間した状態に保持される。
両浮上状態から正転方向禁止状態への遷移においては、外輪側ケージリング160の第1カム保持部162における第1開口幅変動部164aの作用によって第1カム130aの頭部部分132が押圧され、第1カム130aが噛み合い方向に傾倒される。
両浮上状態から逆転方向禁止状態への遷移においては、内輪側ケージリング170の第2カム保持部173における第2開口幅変動部175bの作用によって第2カム130bの脚部部分135が押圧されることにより、第2カム130bが噛み合い方向に傾倒される。
なお、
図14(a)~
図14(c)においては、便宜上、外輪110の軌道面111と内輪120の軌道面121を平行平面で示してある。また、
図14(a)~
図14(c)は、各状態を説明するための模式図であり、実際の各部材の寸法を正確に反映しているものではない。例えば、第1カム130aおよび第2カム130bの傾きや内輪120の軌道面121からの離間状態は誇張して示されている。実際は、内輪120の軌道面121から極めて僅か(例えば数十~百μm程度)離間するにすぎず、後述する両方向フリーモードにおける第1カム130aおよび第2カム130bの内輪120の軌道面121からの離間距離と比べると接近した状態にある。
【0042】
両方向ロックモード中には、外輪側ケージリング160及び内輪側ケージリング170は軸方向に移動することはなく、板スプリング部材192による摺動抵抗は常時発生することになる。
両方向ロックモードの両浮上状態においては、トルクが除荷されており、外輪側ケージリング160の第1カム保持部162及び内輪側ケージリング170の第1カム保持部172、並びに、外輪側ケージリング160の第2カム保持部163及び内輪側ケージリング170の第2カム保持部173の位相がそろっている状態である。
例えば正転方向禁止状態から両浮上状態を介して逆転方向禁止状態に遷移するときは、第1カム130aに対する噛み合いトルクが除荷されて行き、完全に除荷されたときに第1カム130aが噛み合い解除方向に傾倒されて第1カム130aおよび第2カム130bが両浮上状態となる。次いで、逆方向の噛み合いトルクが内輪120に働くことにより、内輪120の軌道面121と板スプリング部材192との間に発生する摺動抵抗によって内輪側ケージリング170が連れ回りされて内輪120の回転と共に周方向に外輪側ケージリング160に対して相対的に移動される。これにより外輪側ケージリング160および内輪側ケージリング170の各カム保持部の位相がずれて、次に噛み合うべき第2カム130bが噛み合い方向に傾倒されて内輪120の軌道面121に接触し、逆転方向禁止状態となる。一方、逆転方向禁止状態から両浮上状態を介して正転方向禁止状態に遷移するときは、第2カム130bに対する噛み合いトルクが除荷されて行き、完全に除荷されたときに第2カム130bが噛み合い解除方向に傾倒されて第1カム130aおよび第2カム130bが両浮上状態となる。次いで、逆方向の噛み合いトルクが内輪120に働くことにより、内輪120の軌道面121と板スプリング部材192との間に発生する摺動抵抗によって内輪側ケージリング170が連れ回りされて内輪120の回転と共に周方向に外輪側ケージリング160に対して相対的に移動される。これにより外輪側ケージリング160および内輪側ケージリング170の各カム保持部の位相がずれて、次に噛み合うべき第1カム130aが噛み合い方向に傾倒されて内輪120の軌道面121に接触し、正転方向禁止状態となる。
このように、トルクが除荷された両浮上状態においては第1カム130a及び第2カム130bの噛み合い方向の制御を摺動抵抗発生手段190が担い、内輪側ケージリング170が内輪120と連れ回りする力によってカムの噛み合い方向を反転させて正転方向禁止状態または逆転方向禁止状態に遷移させることにより、噛み込みが全く生じないにもかかわらず両方向ロックモードを達成することができる。
【0043】
逆に、カムクラッチ100の動作モードを両方向ロックモードから正転方向ロックモードに切り替えるときには、内輪側ケージリング170を軸方向後方側に移動させる。これにより、内輪側ケージリング170の第2カム保持部173における第1開口幅変動部175aの作用によって第2カム130bの脚部部分135が押圧され、第2カム130bが噛み合い解除方向に傾倒されると共に第2カム130bの姿勢が第2カム130bの内輪側係合面136が内輪120の軌道面121から離間する状態に保持される。
一方、第1カム130aの姿勢は、上述のように、外輪110または内輪120にトルクが働くことで第1カム130aが外輪110及び内輪120に対する噛み合いが直ちに開始されるように噛み合い待機の状態に保持される。
これにより、カムクラッチ100の動作モードが、両方向ロックモードから正転方向ロックモードに切り替えられる。
【0044】
また、カムクラッチ100の動作モードが
図15(a)に示す正転方向ロックモードとされている状態において、
図15(b)に示すように、外輪側ケージリング160を軸方向前方側に移動させると、カムクラッチ100の動作モードが、正転方向ロックモードから外輪110及び内輪120の正転方向及び逆転方向の両方向の相対回転を許容する両方向フリーモードに切り替えられる。
具体的には、外輪側ケージリング160を軸方向前方側に移動させると、外輪側ケージリング160の第1カム保持部162における第2開口幅変動部164bの作用によって第1カム130aの頭部部分132が押圧される。これにより、第1カム130aが噛み合い解除方向に傾倒されると共に第1カム130aの姿勢が第1カム130aの内輪側係合面136が内輪120の軌道面121から離間する状態に保持される。
一方、外輪側ケージリング160における第2カム保持部165は軸方向において開口幅が一定の矩形状に形成されており、また外輪側ケージリング160及び内輪側ケージリング170の周方向の自由度が位置規制用ケージリング180によって規制されていることから、第2カム130bの姿勢は、内輪側係合面136が内輪120の軌道面121から離間する状態に保持される。
この正転方向ロックモードおよび両方向フリーモードにおいては、いずれも内輪側ケージリング170が軸方向後方側に位置されているので、内輪側ケージリング170の軸方向後方側の一端部に設けられた板スプリング部材192は、内輪120と径方向に対向していない状態とされる。従って、板スプリング部材192と内輪120の軌道面121との間に摺動抵抗は発生されない。
【0045】
逆に、カムクラッチ100の動作モードを両方向フリーモードから正転方向ロックモードに切り替えるときには、外輪側ケージリング160を軸方向後方側に移動させる。これにより、外輪側ケージリング160の第1カム保持部162における第1開口幅変動部164aの作用によって第1カム130aの頭部部分132が押圧され、第1カム130aが噛み合い方向に傾倒されると共に、外輪110または内輪120にトルクが働くことで第1カム130aが外輪110及び内輪120に対する噛み合いが直ちに開始されるように噛み合い待機の状態に保持される。このとき、外輪側ケージリング160の内面溝部166がスライド溝部168を有することで、位置規制用ケージリング180の外方突起部185の周方向の移動が許容される。このため、外輪側ケージリング160の位置規制用ケージリング180に対する周方向の移動の自由度が適正に調整され、第1カム130aが適正な姿勢で保持される。
一方、第2カム130bの姿勢は、上述のように、内輪側係合面136が内輪120の軌道面121から離間する状態に保持される。
【0046】
さらにまた、カムクラッチ100の動作モードが
図16(a)に示す正転方向ロックモードとされている状態において、
図16(b)に示すように、外輪側ケージリング160及び内輪側ケージリング170を共に軸方向前方側に移動させると、カムクラッチ100の動作モードが、正転方向ロックモードから外輪110及び内輪120の逆転方向の相対回転を禁止する逆転方向ロックモードに切り替えられる。
具体的には、外輪側ケージリング160及び内輪側ケージリング170を共に軸方向前方側に移動させると、外輪側ケージリング160の第1カム保持部162における第2開口幅変動部164bの作用によって第1カム130aの頭部部分132が押圧される。これにより、第1カム130aが噛み合い解除方向に傾倒されると共に第1カム130aの姿勢が第1カム130aの内輪側係合面136が内輪120の軌道面121から離間する状態に保持される。
一方、内輪側ケージリング170の第2カム保持部173における第2開口幅変動部175bの作用によって第2カム130bの脚部部分135が押圧される。これにより、第2カム130bが噛み合い方向に傾倒されると共に、外輪110または内輪120にトルクが働くことで第2カム130bが外輪110及び内輪120に対する噛み合いが直ちに開始されるように噛み合い待機の状態に保持される。このとき、内輪側ケージリング170の外面溝部176がスライド溝部178を有することで、位置規制用ケージリング180の内方突起部186の周方向の移動が許容される。このため、内輪側ケージリング170の位置規制用ケージリング180に対する周方向の移動の自由度が適正に調整され、第2カム130bが適正な姿勢で保持される。
【0047】
逆に、カムクラッチ100の動作モードを逆転方向ロックモードから正転方向ロックモードに切り替えるときには、外輪側ケージリング160及び内輪側ケージリング170を共に軸方向後方側に移動させる。これにより、外輪側ケージリング160の第1カム保持部162における第1開口幅変動部164aの作用によって第1カム130aの頭部部分132が押圧され、第1カム130aが噛み合い方向に傾倒されると共に、外輪110または内輪120にトルクが働くことで第1カム130aが外輪110及び内輪120に対する噛み合いが直ちに開始されるように噛み合い待機の状態に保持される。このとき、上述したように、外輪側ケージリング160の位置規制用ケージリング180に対する周方向の移動の自由度が適正に調整され、第1カム130aが適正な姿勢で保持される。
一方、内輪側ケージリング170の第2カム保持部173における第1開口幅変動部175aの作用によって第2カム130bの脚部部分135が押圧され、第2カム130bが噛み合い解除方向に傾倒されると共に第2カム130bの姿勢が第2カム130bの内輪側係合面136が内輪120の軌道面121から離間する状態に保持される。
これにより、カムクラッチ100の動作モードが、逆転方向ロックモードから正転方向ロックモードに切り替えられる。
【0048】
以上のように、本実施例のカムクラッチ100においては、動作モード切替機構による動作モードの切り替え時において、第1カム130a及び第2カム130bが内輪120の軌道面121から同時に離間された両浮上状態を経るので、基本的にトルクが除荷されたときに第1カム130a及び第2カム130bが同時に内輪120及び外輪110に対し噛み合うことを回避することができる。しかも、両浮上状態とされたときに内輪側ケージリング170と第1カム130a及び第2カム130bが離間された内輪120との間に摺動抵抗を発生させる摺動抵抗発生手段190を備えることにより、両浮上状態であるときに内輪120または外輪110に働くトルクが摺動抵抗発生手段190によって次に噛み合うべき第1カム130aまたは第2カム130bに伝達され、当該カムを噛み合い方向に傾倒させることができるので、内輪120または外輪110に働くトルクが第1カム130a及び第2カム130bのいずれにも伝達されない意図しない空転状態を回避して、両方向ロックモードを実現することができる。従って、第1カム130a及び第2カム130bの噛み合い方向の反転時の噛み込み残りが全く生じないので、他の動作モードへの切り替えに必要とされる推力を大幅に小さくすることができて切り替え装置の小型化を図ることができると共に、高頻度で動作モードの切り替えを行ったとしても内輪や外輪の軌道面の損傷を極めて抑制することができてカムクラッチの長寿命化を図ることができる。
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行なうことが可能である。
例えば、摺動抵抗発生手段の具体的構成は、第1カムおよび第2カムの両浮上状態において、少なくとも内輪または外輪と、第1カムまたは第2カムの傾倒状態を制御可能な部材との間に摺動抵抗を発生させて、第1カムまたは第2カムを内輪または外輪に接触させることができる構成であればよく、上述の実施例に限定されるものではない。
また、上記実施例においては、外輪側ケージリング及び内輪側ケージリングが軸方向後方側に位置されているときに、カムクラッチの動作モードが正転方向ロックモードとされる構成について説明したが、カムクラッチの動作モードと、外輪側ケージリング及び内輪側ケージリングの軸方向位置との関係は特に限定されるものではない。例えば、外輪側ケージリング及び内輪側ケージリングが軸方向後方側に位置されているときに、カムクラッチの動作モードが両方向ロックモード、両方向ロックモードあるいは逆転方向ロックモードとされるように構成されていてもよい。
また、上記実施例においては、各動作モードにおいて、第1カム及び第2カムの一方または両方が内輪から離間する構成のものについて説明したが、カムを外輪から離間するように構成されていてもよい。