(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156643
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】複合菱形金網
(51)【国際特許分類】
E01F 7/04 20060101AFI20231018BHJP
E04H 17/04 20060101ALI20231018BHJP
B21F 27/02 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
E01F7/04
E04H17/04 A
B21F27/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066131
(22)【出願日】2022-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】390019323
【氏名又は名称】小岩金網株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】阿部 剛
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一典
【テーマコード(参考)】
2D001
2E142
4E070
【Fターム(参考)】
2D001PA06
2D001PB04
2D001PD11
2E142CC01
4E070AA01
4E070AA02
4E070AB03
4E070AC03
4E070BA02
(57)【要約】
【課題】2枚の菱形金網を摺動自在に一体化してなる軽量で衝撃吸収性能に優れた複合菱形金網を提供すること。
【解決手段】本発明の複合菱形金網1は、各段において、同一形状の第1列線10と第2列線20をX方向にずらして並列し、上段の第1下突出部12が下段の第2上突出部21と係合せず下段の第1上突出部11に係合して第1係合部14を構成し、上段の第2下突出部22が下段の第1上突出部11と係合せず下段の第2上突出部21に係合して第2係合部24を構成し、X方向に隣り合う2つの第1係合部14の間に第2係合部24をX方向に摺動自在に拘束したことを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X方向に延在する複数の波型の列線を、X方向と直交するY方向に接続してなる、菱形金網において、
各段において、同一形状の第1列線と第2列線をX方向にずらして並列し、
各前記第1列線は、Y方向の上方に突起する第1上突出部と、Y方向の下方に突起する第1下突出部と、前記第1上突出部と前記第1下突出部を連結する第1線状部と、からなり、
各前記第2列線は、Y方向の上方に突起する第2上突出部と、Y方向の下方に突起する第2下突出部と、前記第2上突出部と前記第2下突出部を連結する第2線状部と、からなり、
上段の前記第1下突出部が、下段の前記第2上突出部と係合せず、下段の前記第1上突出部に係合して、第1係合部を構成し、
上段の前記第2下突出部が、下段の前記第1上突出部と係合せず、下段の前記第2上突出部に係合して、第2係合部を構成し、
X方向に隣り合う2つの前記第1係合部の間に、前記第2係合部をX方向に摺動自在に拘束したことを特徴とする、
複合菱形金網。
【請求項2】
前記第2係合部が、X方向に隣り合う2つの前記第1係合部の略中央に配置することを特徴とする、請求項1に記載の複合菱形金網。
【請求項3】
前記第1列線の色彩が、前記第2列線の色彩と異なることを特徴とすることを特徴とする、請求項1又は2に記載の複合菱形金網。
【請求項4】
各段において、前記第1列線及び前記第2列線と同一形状の追加列線をX方向にずらして並列し、各前記追加列線は、Y方向の上方に突起する上突出部と、Y方向の下方に突起する下突出部と、前記上突出部と前記下突出部を連結する線状部と、からなり、上段の前記追加列線の下突出部が、下段の前記第1上突出部及び下段の前記第2上突出部と係合せず、下段の前記追加列線の上突出部に係合して、係合部を構成したことを特徴とする、請求項1に記載の複合菱形金網。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は菱形金網に関し、特に2枚の菱形金網を摺動自在に一体化してなる、軽量で衝撃吸収性能に優れた複合菱形金網に関する。
【背景技術】
【0002】
菱形金網は、波型に加工した線材を編み合わせて平行四辺形の網目を連続して形成した金網である。詳細にはX方向に延在する波型の線材を、上下の突出部を介してX方向と直交するY方向に連結してなる。
菱形金網は、網目の接合点が固定されていないため柔軟性に優れる、折り畳みできるため搬送が容易である、線材を入れ替えることで部分的な補修が可能である等の有利な機能を備えるため、様々な用途に広く使用されている。
例えば、菱形金網を用いたフェンスは、地盤に立設した2本の支柱の間に菱形金網を展張し、菱形金網の上下を胴縁に固定して構成する。また、菱形金網を用いた落石防護網は、急峻な斜面の上部に支柱を立設し、支柱間にワイヤロープを展張し、菱形金網をワイヤロープからカーテン状に吊り下ろして構成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「JIS G3552 ひし形金網」(日本工業規格:2007年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術の菱形金網は、隣り合う波型の線材を全ての交点で相互に係合しているため、落石や車両の衝突によって金網面が受撃する際、受撃エネルギーを分散して吸収することができない。このため、金網面の受撃部に応力が集中して破損しやすい。
また、金網面への受撃エネルギーが、フェンスの支柱や落石防護網の固定ワイヤ等の固定部材に直接伝達するため、固定部材を変形させやすい。特に固定部材の変形や破損の場合、金網面を張り替えるのに比較して修理に手間がかかり、修繕コストが嵩む。
【0006】
本発明の目的は、以上のような問題点を解決するための複合菱形金網を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の複合菱形金網は、X方向に延在する複数の波型の列線を、X方向と直交するY方向に接続してなる、菱形金網において、各段において、同一形状の第1列線と第2列線をX方向にずらして並列し、各第1列線は、Y方向の上方に突起する第1上突出部と、Y方向の下方に突起する第1下突出部と、第1上突出部と第1下突出部を連結する第1線状部と、からなり、各第2列線は、Y方向の上方に突起する第2上突出部と、Y方向の下方に突起する第2下突出部と、第2上突出部と第2下突出部を連結する第2線状部と、からなり、上段の第1下突出部が、下段の第2上突出部と係合せず、下段の第1上突出部に係合して、第1係合部を構成し、上段の第2下突出部が、下段の第1上突出部と係合せず、下段の第2上突出部に係合して、第2係合部を構成し、X方向に隣り合う2つの第1係合部の間に、第2係合部をX方向に摺動自在に拘束したことを特徴とする。
【0008】
本発明の複合菱形金網は、第2係合部が、X方向に隣り合う2つの第1係合部の略中央に配置していてもよい。
【0009】
本発明の複合菱形金網は、第1列線の色彩が、第2列線の色彩と異なっていてもよい。
【0010】
本発明の複合菱形金網は、各段において、第1列線及び第2列線と同一形状の追加列線をX方向にずらして並列し、各追加列線は、Y方向の上方に突起する上突出部と、Y方向の下方に突起する下突出部と、上突出部と下突出部を連結する線状部と、からなり、上段の追加列線の下突出部が、下段の第1上突出部及び下段の第2上突出部と係合せず、下段の追加列線の上突出部に係合して、係合部を構成していてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の複合菱形金網は以上の構成を備えるため、次の効果のうち少なくとも一つを備える。
<1>2枚の菱形金網を摺動自在に一体化した構造であるため、落石や車両の衝突による受撃時に、菱形金網の摺動により受撃エネルギーを分散して吸収できる。このため、衝撃吸収性能に優れ、金網面が破損しにくい。また、金網面への受撃エネルギーを金網面内で吸収することで、フェンスの支柱や落石防護網の固定ワイヤ等の変形や破損を防ぐことができる。
<2>従来技術の菱形金網と比較して、同一の網目寸法に対して列線の係合部の数が半分であるため、軽量で柔軟性が高い。このため、搬送や展開が容易で施工性が高い。
<3>2枚の菱形金網の相対位置を変更することで、網目寸法を任意に設定することができるため、汎用性が高い。
<4>2枚の菱形金網の相対位置を変更することで、網目形状を任意に変形することができるため、デザイン性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の複合菱形金網について詳細に説明する。
本明細書等において「X方向」とは、列線の延在方向、すなわち
図1における左右方向である。「Y方向」とは、X方向に直交する方向、すなわち
図1における上下方向である。
【実施例0014】
[複合菱形金網]
<1>全体の構成(
図1、2)
本発明の複合菱形金網1は、2枚の菱形金網を摺動自在に一体化した金網である。
複合菱形金網1は、第1菱形金網1Aと第2菱形金網1Bの組み合わせからなる。詳細には、第1菱形金網1Aの網目M内に、第2菱形金網1Bの第2係合部24を保持し、第2菱形金網1Bの網目M内に、第1菱形金網1Aの第1係合部14を保持して一体化する。一方で、第1菱形金網1Aと第2菱形金網1Bの交点は係合しない。
この構造によって、第1菱形金網1Aと第2菱形金網1Bが、X方向及びY方向に対し、相互に摺動自在に連結する。
本例では、第2菱形金網1Bの第2係合部24を、第1菱形金網1Aの網目の中心に配置する。このように配置することで、網目Mの網目寸法を、第1菱形金網1Aと第2菱形金網1Bの1/2とすることができる。
本例では、第1菱形金網1Aを無着色とし、第2菱形金網1Bを黒色系に着色する。これによって、独特の構造と相まって高いデザイン性を発揮することができる。
【0015】
<2>第1菱形金網(
図3)
第1菱形金網1Aは、X方向に延在する複数の第1列線10をY方向に接続してなる。
本例では、第1菱形金網1Aの網目寸法を40mmとする。
第1列線10は、X方向に延在し、Y方向に突起する略波型の金属線からなる。
本例では第1列線10として、表面を樹脂被覆した線径4.0mmの亜鉛めっき鉄線を採用する。ただし第1列線10はこれに限らず、任意の線径と素材の組み合わせを採用することができる。
第1列線10は、Y方向の上方に突起する第1上突出部11と、Y方向の下方に突起する第1下突出部12と、第1上突出部11と第1下突出部12を連結する第1線状部13と、を備える。
Y方向に並列する2本の第1列線10は、第1上突出部11と第1下突出部12が係合して、第1係合部14を構成する。
【0016】
<3>第2菱形金網(
図3)
第2菱形金網1Bは、X方向に延在する複数の第2列線20をY方向に接続してなる。
第2菱形金網1Bの網目寸法は第1菱形金網1Aと同じ40mmである。
第2列線20は、X方向に延在し、Y方向に突起する略波型の金属線からなる。
本例では第2列線20として、表面を樹脂被覆した線径4.0mmの亜鉛めっき鉄線を採用する。ただし第2列線20はこれに限らず、任意の線径と素材の組み合わせを採用することができる。
第2列線20は、Y方向の上方に突起する第2上突出部21と、Y方向の下方に突起する第2下突出部22と、第2上突出部21と第2下突出部22を連結する第2線状部23と、を備える。
Y方向に並列する2本の第2列線20は、第2上突出部21と第2下突出部22が係合して、第2係合部24を構成する。
【0017】
<4>第1菱形金網と第2菱形金網の係合構造(
図1、2)
第1菱形金網1Aと第2菱形金網1Bは、相互に摺動自在に連結する。
複合菱形金網1の各段において、第1列線10と第2列線20がX方向にずれた状態で並列する。
上段の第1下突出部12は、下段の第1上突出部11に係合して、第1係合部14を構成し、上段の第2下突出部22は、下段の第2上突出部21に係合して、第2係合部24を構成する。
一方で、上段の第1下突出部12は、下段の第2上突出部21と係合せず、上段の第2下突出部22は、下段の第1上突出部11と係合しない。すなわち、第1菱形金網1Aと第2菱形金網1Bは、交点(係合部)を有さない。
以上の構造により、第1係合部14を第2菱形金網1Bの網目M内に、第2係合部24を第1菱形金網1Aの網目M内に、相互に拘束する。
【0018】
<5>網目形状の変形(
図4~6)
第1菱形金網1Aと第2菱形金網1BをX方向の両側へ摺動させると、複合菱形金網1の網目Mの形状が変わる。
詳細には、第1菱形金網1Aの第1係合部14を、X軸方向に移動させて第2菱形金網1Bの第2係合部24に近接させることで、一部の網目Mの網目寸法が縮小すると共に、他の網目Mの網目寸法が拡大する(
図4)。これによって、第1線状部13と第2線状部23が近接し、斜め方向のラインが強調された独自の形状を構成することができる(
図5、6)。
【0019】
<6>複合菱形金網の機能
複合菱形金網1は、第1菱形金網1A(第2菱形金網1B)の第1係合部14(第2係合部24)を、第2菱形金網1B(第1菱形金網1A)の網目M内に拘束した構造である。このため、2枚の菱形金網が相対的にX/Y両方向へ摺動することができる。
本例では、第1菱形金網1Aの第1係合部14を、第2菱形金網1Bの網目の中心に配置している(
図4(A))。
フェンスや落石防護網の用途において、金網面に落石や車両が衝突した場合、第1菱形金網1Aと第2菱形金網1Bの交点が係合されていないため、第1菱形金網1Aと第2菱形金網1Bが、X方向に相対的に摺動する(
図4(B))。この際、第1線状部13と第2線状部23が摩擦することで、受撃エネルギーを熱エネルギーに変換して、金網面全体に分散して吸収することができる。
また本例の場合、第1菱形金網1Aと第2菱形金網1Bで区画する網目Mの網目寸法が、第1菱形金網1Aの網目寸法40mmの半分の20mmとなるが、第1菱形金網1Aの交点と第2菱形金網1Bの交点が係合していないため、係合部の数が、従来技術の20mm目の菱形金網の半分である(
図4(A))。
金網の技術分野では「小が大を兼ねる」、すなわち網目寸法が小さい金網は大きい金網の機能を兼ね備えるがその逆はないという性質を有するところ、同じ網目寸法を確保しながら、従来技術の菱形金網と比較して重量を軽量化でき、使用する鉄量を減らして原料コストを低減することができる。