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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156649
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】超電導装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 6/02 20060101AFI20231018BHJP
   H10N 60/81 20230101ALI20231018BHJP
【FI】
H01F6/02
H01L39/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066144
(22)【出願日】2022-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 楓
(72)【発明者】
【氏名】高見 正平
【テーマコード(参考)】
4M114
【Fターム(参考)】
4M114AA14
4M114CC03
4M114DA02
4M114DA12
(57)【要約】
【課題】クエンチが生じたときに超電導コイルを保護するためのダイオードの損傷を防止することができる超電導装置を提供する。
【解決手段】超電導装置1は、超電導状態を維持するための極低温領域9に設けられた超電導コイル5と、超電導コイル5とともに並列に電源4に接続され、超電導コイル5でクエンチが生じたときに超電導コイル5に流れる電流を迂回させるダイオード6と、ダイオード6の温度を調整する温度調整部7,8とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導状態を維持するための極低温領域に設けられた超電導コイルと、
前記超電導コイルとともに並列に電源に接続され、前記超電導コイルでクエンチが生じたときに前記超電導コイルに流れる電流を迂回させるダイオードと、
前記ダイオードの温度を調整する温度調整部と、
を備える、
超電導装置。
【請求項2】
前記温度調整部は、前記クエンチが生じる前に予め前記ダイオードの温度を前記極低温領域の温度よりも高くしておくものである、
請求項1に記載の超電導装置。
【請求項3】
前記温度調整部の少なくとも1つは、前記極低温領域から前記ダイオードを断熱する断熱部である、
請求項1または請求項2に記載の超電導装置。
【請求項4】
前記温度調整部の少なくとも1つは、前記ダイオードを昇温するヒーターである、
請求項1または請求項2に記載の超電導装置。
【請求項5】
前記温度調整部の少なくとも1つは、前記極低温領域の外部から熱を前記ダイオードに伝える熱アンカーである、
請求項1または請求項2に記載の超電導装置。
【請求項6】
前記電源と前記超電導コイルとを接続する電力線に対して、前記ダイオードの導線が接続されており、
前記導線を介して前記ダイオードから前記極低温領域に伝わる熱の入熱量が、特定の量以下となるように、前記導線の材質と線材径が設計されている、
請求項1または請求項2に記載の超電導装置。
【請求項7】
前記導線は、高温超電導体で形成されている、
請求項6に記載の超電導装置。
【請求項8】
前記温度調整部の少なくとも1つは、高温部からの熱輻射を低減し、前記ダイオードが設けられ、かつ内部に前記極低温領域が設けられるシールドである、
請求項1または請求項2に記載の超電導装置。
【請求項9】
高温部からの熱輻射を低減し、前記ダイオードが設けられ、かつ内部に前記極低温領域が設けられるシールドを備え、
前記温度調整部の少なくとも1つは、前記シールドから前記ダイオードを断熱する断熱部である、
請求項1または請求項2に記載の超電導装置。
【請求項10】
高温部からの熱輻射を低減し、前記ダイオードが設けられ、かつ内部に前記極低温領域が設けられるシールドを備え、
前記温度調整部の少なくとも1つは、前記ダイオードを昇温するヒーターである、
請求項1または請求項2に記載の超電導装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、超電導装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、超電導装置は、励磁中の超電導コイルが常電導に転移したときに、超電導コイルを保護するためダイオードを備える。超電導コイルが常電導に転移する現象は、クエンチと呼ばれている。極低温下でのダイオードの順方向電流が急激に上昇するときの電圧、いわゆる順方向電圧Vfは、10~20Vであり、常温下と比べて非常に高い。従来、この性質を利用し、ダイオードを極低温領域に設置することで、超電導コイルがクエンチした際の保護と励消磁時の抵抗による発熱の抑制とを両立させている。
【0003】
励磁中は、超電導コイルの励磁電圧をダイオードの順方向電圧Vfより小さく設定することで、超電導コイルに電流が流れる。一方、超電導コイルがクエンチし、超電導コイルの両端の電圧が順方向電圧Vfに達すると、ダイオードに電流が流れるようになり、超電導コイルの電圧が抑制され、超電導コイルが保護される。
【0004】
なお、極低温に冷却されたダイオードは、キャリアが極端に少なく、ダイオードの順方向電流があまり増加しない。また、ダイオードに或る程度の電流が流れると、ダイオード自体の発熱によってキャリアの急激な増加をもたらす。このことに起因して、極低温で順方向電圧Vfが高くなるものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60-130107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の超電導装置は、超電導コイルでクエンチが生じ、ダイオードに電流が流れるときに、順方向電圧Vfが高いことによってダイオードに高負荷が加わってしまい、ダイオードが損傷してしまう虞がある。
【0007】
本発明の実施形態は、このような事情を考慮してなされたもので、クエンチが生じたときに超電導コイルを保護するためのダイオードの損傷を防止することができる超電導装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態に係る超電導装置は、超電導状態を維持するための極低温領域に設けられた超電導コイルと、前記超電導コイルとともに並列に電源に接続され、前記超電導コイルでクエンチが生じたときに前記超電導コイルに流れる電流を迂回させるダイオードと、前記ダイオードの温度を調整する温度調整部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態により、クエンチが生じたときに超電導コイルを保護するためのダイオードの損傷を防止することができる超電導装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態の超電導装置を示す断面図。
図2】ダイオードの順方向電圧と温度との関係を示すグラフ。
図3】第2実施形態の超電導装置を示す断面図。
図4】第3実施形態の超電導装置を示す断面図。
図5】第4実施形態の超電導装置を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、図面を参照しながら、超電導装置の実施形態について詳細に説明する。まず、第1実施形態について図1から図2を用いて説明する。
【0012】
図1の符号1は、第1実施形態の超電導装置である。この超電導装置1は、真空容器2とシールド3と電源4と超電導コイル5とダイオード6と断熱部7とヒーター8とを備える。なお、断熱部7とヒーター8が、第1実施形態の温度調整部を構成する。
【0013】
真空容器2は、内部が真空にされ、外部と断熱するための容器である。この真空容器2の内部にシールド3が収容されている。このシールド3の内部に超電導コイル5が収容されている。
【0014】
シールド3は、外部(高温部)からの熱輻射を低減し、その内部に、超電導コイル5の超電導状態を維持するための極低温領域9が設けられている。なお、この極低温領域9には、超電導コイル5とダイオード6とが設けられている。
【0015】
電源4は、超電導コイル5に電力を供給する。この電源4は、真空容器2の外部に設けられている。電源4から真空容器2の内部に延びる電力線11は、高温超電導リード12を介して極低温領域9まで導かれる。この高温超電導リード12は、高温超電導体で形成されている。
【0016】
ダイオード6は、超電導コイル5とともに並列に電源4に接続され、超電導コイル5でクエンチが生じたときに超電導コイル5に流れる電流を迂回させる保護回路である。なお、電源4と超電導コイル5とを接続する電力線11に対して、ダイオード6の導線13が接続されている。
【0017】
第1実施形態では、極低温領域9から断熱されている断熱部7に、ダイオード6が設けられている。つまり、断熱部7は、極低温領域9からダイオード6を断熱するものである。このようにすれば、超電導コイル5が設けられている極低温領域9からダイオード6が断熱され、ダイオード6を極低温領域9と異なる温度にすることができる。
【0018】
さらに、断熱部7には、ダイオード6を昇温するヒーター8が設けられている。このようにすれば、ダイオード6の温度が極低温領域9よりも高められる。なお、ヒーター8は、図示しない制御装置により制御されている。この制御装置は、ダイオード6が常に一定の温度になるように、ヒーター8の出力を制御する。
【0019】
断熱部7とヒーター8とで構成される温度調整部は、ダイオード6の温度を調整するものである。また、温度調整部は、超電導コイル5にクエンチが生じる前に、予めダイオード6の温度を極低温領域9の温度よりも高くしておくものである。このようにすれば、クエンチが生じたときに即座にダイオード6に電流を流すことができ、超電導コイル5に流れる電流が迂回されるため、超電導コイル5を保護することができる。特に、ヒーター8を制御することにより、ダイオード6の温度調整を行い、順方向電圧Vfを任意に設定することができる。
【0020】
ダイオード6にかかる負荷は、Vf×I(順方向電圧×電源電流)で表され、順方向電圧Vfが上昇するほど負荷が高くなる。図2のグラフに示すように、ダイオード6の順方向電圧Vfは、温度特性を持ち、ダイオード6の温度が上がるとキャリア密度が増加し、順方向電圧Vfが低下することが分かっている。
【0021】
ダイオード6の温度を上げ、順方向電圧Vfを低下させることで、ダイオード6にかかるピーク負荷を低減させ、ダイオード6の損傷を防止することができる。また、順方向電圧Vfが、超電導コイル5の励磁電圧未満(以下)の場合、励磁不可となるため、超電導コイル5の励磁電圧以上(を超えるよう)に設計する必要がある。そこで、本実施形態では、ダイオード6の温度を調整し、順方向電圧Vfを任意に設定することで、ダイオード6の健全性を確保する。例えば、極低温領域9の温度が4Kの場合に、ダイオード6の温度が20K以上になるように温度調整が行われる。
【0022】
第1実施形態では、ヒーター8が、ダイオード6の温度を調整し、ダイオード6の順方向電圧Vfを制御するようにしている。そのため、超電導コイル5がクエンチしたときに、その電流がダイオード6を迂回するときのピーク負荷が低減されるようになり、ダイオード6の損傷を防止することができる。
【0023】
導線13の材質には、ステンレス鋼、銅ニッケル合金、黄銅などの金属、または高温超電導体などが適用される。特に、導線13を介してダイオード6から極低温領域9に伝わる熱の入熱量が、特定の量以下となるように、導線13の材質と線材径が設計されている。
【0024】
言い換えると、導線13を介してダイオード6から極低温領域9に伝わる熱の入熱量を含む極低温領域9全体の入熱量が、超電導コイル5を超電導状態に保つことができる入熱量以下となるように、導線13の材質と線材径が設計されている。例えば、導線13を介してダイオード6から極低温領域9に伝わる熱の入熱量が、極低温領域9全体の入熱量の1/10以下となっている。
【0025】
このようにすれば、導線13を介してダイオード6から極低温領域9に熱が伝わり難くなり、超電導コイル5を超電導状態に保つことができる。例えば、ダイオード6と断熱部7から超電導コイル5への入熱量が絞られることで、超電導コイル5への熱伝導の影響を抑えながら、ダイオード6の温度を調整することができる。
【0026】
また、導線13が高温超電導体で形成されることで、ダイオード6の温度が高められ、その熱で導線13の温度が高められていても、導線13の電気抵抗を抑えることができ、超電導コイル5にクエンチが生じたときに即座にダイオード6に電流を流すことができる。
【0027】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について図3を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0028】
第2実施形態の超電導装置1Aは、真空容器2とシールド3と電源4と超電導コイル5とダイオード6と断熱部7と熱アンカー14を備える。なお、断熱部7と熱アンカー14が、第2実施形態の温度調整部を構成する。
【0029】
熱アンカー14は、アルミニウム、銅などの所定の金属で形成された部品である。この熱アンカー14は、極低温領域9の外部から熱をダイオード6に伝えるものである。なお、熱アンカー14は、例えば、所定の線材、シート状の部材、フレーム部材などで構成されている。
【0030】
ダイオード6と断熱部7は、極低温領域9に設けられている。ここで、熱アンカー14の一端が断熱部7に接続され、他端がシールド3に接続されている。そして、シールド3の熱が、熱アンカー14を介してダイオード6まで伝わる。このようにすれば、極低温領域9の外部から伝導される熱により、ダイオード6の温度を極低温領域9よりも高めることができる。
【0031】
第2実施形態では、熱アンカー14を設けることで、ダイオード6の温度を調整し、順方向電圧Vfを任意に設定することができる。例えば、熱アンカー14の材質と線材径を調整することで、ダイオード6の温度調整を行い、順方向電圧Vfを任意に設定することができる。そして、ダイオード6のピーク負荷を低減してダイオード6の損傷を防止することができる。
【0032】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について図4を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0033】
第3実施形態の超電導装置1Bは、真空容器2とシールド3と電源4と超電導コイル5とダイオード6とを備える。なお、シールド3が、第3実施形態の温度調整部を構成する。
【0034】
ダイオード6は、シールド3に設けられている。このようにすれば、ダイオード6が、極低温領域9の外部に設けられることで、ダイオード6の温度を極低温領域9よりも高くすることができる。
【0035】
第3実施形態では、シールド3にダイオード6を設けることで、ダイオード6の温度を高め、順方向電圧Vfを制御することができる。そして、ダイオード6のピーク負荷を低減してダイオード6の損傷を防止することができる。
【0036】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について図5を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0037】
第4実施形態の超電導装置1Cは、真空容器2とシールド3と電源4と超電導コイル5とダイオード6と断熱部7とヒーター8とを備える。なお、シールド3と断熱部7とヒーター8が、第4実施形態の温度調整部を構成する。
【0038】
ダイオード6と断熱部7とヒーター8は、シールド3に設けられている。断熱部7は、シールド3からダイオード6を断熱する。このようにすれば、ダイオード6をシールド3よりも高い温度にすることができる。
【0039】
また、ヒーター8は、ダイオード6を昇温する。このようにすれば、シールド3に設けられたダイオード6の温度を高めることができる。
【0040】
第4実施形態では、シールド3にダイオード6を設け、さらに断熱部7とヒーター8を設けることで、ダイオード6の温度を高め、順方向電圧Vfを制御することができる。そして、ダイオード6のピーク負荷を低減してダイオード6の損傷を防止することができる。
【0041】
なお、超電導装置1(1A,1B,1C)が第1実施形態から第4実施形態に基づいて説明されているが、いずれかの実施形態において適用された構成が他の実施形態に適用されても良いし、各実施形態において適用された構成が組み合わされても良い。
【0042】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、ダイオード6の温度を調整する温度調整部を備えることにより、クエンチが生じたときに超電導コイル5を保護するためのダイオード6の損傷を防止することができる。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態またはその変形は、発明の範囲と要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0044】
1(1A,1B,1C)…超電導装置、2…真空容器、3…シールド、4…電源、5…超電導コイル、6…ダイオード、7…断熱部、8…ヒーター、9…極低温領域、11…電力線、12…高温超電導リード、13…導線、14…熱アンカー。
図1
図2
図3
図4
図5