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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156657
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】二次電池及び二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/28 20060101AFI20231018BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20231018BHJP
   H01M 4/70 20060101ALI20231018BHJP
   H01M 10/30 20060101ALI20231018BHJP
   H01M 4/02 20060101ALI20231018BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20231018BHJP
   H01M 4/80 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
H01M10/28 Z
H01M4/66 A
H01M4/70 A
H01M10/30 Z
H01M4/02 Z
H01M4/04 A
H01M4/80 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066154
(22)【出願日】2022-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】岡田 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】篠原 大亮
【テーマコード(参考)】
5H017
5H028
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA02
5H017AS02
5H017CC03
5H017CC28
5H017EE04
5H017HH01
5H017HH03
5H028AA01
5H028CC07
5H028HH05
5H050AA19
5H050BA08
5H050BA14
5H050CA03
5H050CB16
5H050DA02
5H050DA04
5H050DA06
5H050FA09
5H050FA13
5H050GA22
5H050HA04
5H050HA06
5H050HA08
5H050HA10
(57)【要約】
【課題】電解液の注液時に電極板に電解液を浸透し易くすること。
【解決手段】正極板2は、正極集電体21に充填された正極合材層の塗工側表面22aを上下方向に上側領域Wt1と下側領域Wt3とを含む複数の領域に分割したとき、正極合材層の端部22dにおいて、上側領域Wt1の正極合材層の端部22dの平均凹凸幅を凹凸幅ΔW1、下側領域Wt3の正極合材層の端部22dの平均凹凸幅を凹凸幅ΔW3とした場合に、凹凸幅ΔW1≦凹凸幅ΔW3になるように構成した。電解液の注液時に電極群の下方に滞留した電解液が、下側領域Wt3の端部22dから浸透し易くなる。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の多孔性金属からなる正極集電体と正極活物質を含有し前記正極集電体に充填される正極合材層とを有する正極板と、負極板と、セパレータとを積層した電極群を備え、
前記電極群は電槽に収容されるとともに電解液が注液されており、
前記電極群に、前記充填された正極合材層を上下方向に上側領域と下側領域とを含む複数の領域に分割したとき、前記正極合材層の幅方向の端部において、前記上側領域の正極合材層の端部の平均凹凸幅を凹凸幅ΔW1、前記下側領域の正極合材層の端部の平均凹凸幅を凹凸幅ΔW3とした場合に、凹凸幅ΔW1≦凹凸幅ΔW3になるように構成された正極板を備えたことを特徴とする二次電池。
【請求項2】
前記凹凸幅ΔW1と前記凹凸幅ΔW3において、凹凸幅ΔW3/凹凸幅ΔW1≧5であることを特徴とする請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記上側領域と下側領域との間に中間領域を設け、当該中間領域の平均凹凸幅をΔW2としたとき、
凹凸幅ΔW1≦凹凸幅ΔW2≦凹凸幅ΔW3であることを特徴とする請求項1に記載の二次電池。
【請求項4】
前記下側領域Wt3において前記凹凸幅ΔW3と、水平方向の塗工幅Wpの関係が
ΔW3/Wp≧0.015
となるようにした請求項1に記載の二次電池。
【請求項5】
前記下側領域Wt3において前記凹凸幅ΔW3と、水平方向の塗工幅Wpの関係が
ΔW3/Wp≦0.025
となるようにした請求項1に記載の二次電池。
【請求項6】
前記上側領域Wt1において前記凹凸幅ΔW1と、水平方向の塗工幅Wpの関係が
ΔW1/Wp≦0.01
となるようにした請求項1に記載の二次電池。
【請求項7】
前記電極群において、正極板の全枚数の内、1/4以上が、請求項1に記載された二次電池の正極板であることを特徴とする二次電池。
【請求項8】
前記正極集電体は、ニッケル又はニッケル合金からなる発泡体により構成されたことを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項9】
前記発泡体は、目付が200[g/m]以上、400[g/m]以下であり、かつ孔径300[μm]以上、600[μm]以下であることを特徴とする請求項8に記載の二次電池。
【請求項10】
前記上側領域Wt1、前記中間領域Wt2、前記下側領域Wt3が、上下方向に3等分されたことを特徴とする請求項3に記載の二次電池。
【請求項11】
前記中間領域Wt2を複数設け、前記上側領域Wt1、前記複数の中間領域Wt2、前記下側領域Wt3が、上下方向にそれぞれ等分されたことを特徴とする請求項3に記載の二次電池。
【請求項12】
板状の多孔性金属からなる正極集電体と正極活物質を含有し前記正極集電体に充填される正極合材層とを有する正極板と、負極板と、セパレータとを積層した電極群を備え、
前記電極群は電槽に収容されるとともに電解液が注液された二次電池の製造方法であって、
前記正極合材層を形成する溶媒を含む正極合材ペーストを、前記正極集電体の一方の表面から間欠的に前記正極集電体を塗工する塗工工程を備え、
前記塗工工程では、前記正極合材ペーストが、重力により前記正極集電体から脱落せず、かつ、
前記塗工する前記正極合材層を上下方向に上側領域と下側領域とを含む複数の領域に分割し、前記正極合材層の幅方向の端部において、前記上側領域の正極合材層の平均凹凸幅を凹凸幅ΔW1、前記下側領域の正極合材層の平均凹凸幅を凹凸幅ΔW3とした場合に、凹凸幅ΔW1≦凹凸幅ΔW3になるように調整することを特徴とする二次電池の製造方法。
【請求項13】
前記調整が、前記正極合材ペーストのせん断速度が10[s-1]のとき、粘度が50m[Pa・s]以上、2000[mPa・s]以下とすることを特徴とする請求項12に記載の二次電池の製造方法。
【請求項14】
前記調整が、前記領域Wt3の吐出量を、前記領域Wt1の102%以上とすることを特徴とする請求項12又は13に記載の二次電池の製造方法。
【請求項15】
前記調整が、塗工工程における正極合材ペーストを吐出するノズルと、前記正極集電体とのクリアランスであるギャップGの調整によることを特徴とする請求項12に記載の二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
二次電池及び二次電池の製造方法に係り、詳しくは、製造時の電極板への電解液の浸透が良好な二次電池及び二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機を搭載した電気自動車(ハイブリッド自動車等も含む)は、二次電池に蓄えられた電力により、電動機を駆動している。このような二次電池において例えばニッケル水素蓄電池のようなアルカリ二次電池は、安全で大電流の充放電が可能であることから車両用として広く普及している。ここで、図1は、このようなニッケル水素蓄電池の外観構造を示す斜視図である。また、図2は、このようなニッケル水素蓄電池1の電池モジュールの一部について部分断面構造を含む斜視図である。図3は、このようなニッケル水素蓄電池1に設けられる電極群6の断面図である。このような車載用のニッケル水素蓄電池1の電池モジュールでは、集電体に活物質を含有した合材層を塗工して電極板を製造し、図3に示すように正極板2と負極板3とをセパレータ4を介して多数積層した電極群6を、図2に示す電槽15にそれぞれ収容する。電極群6が収容された電槽15に電解液5を上部から注液している。このように構成した電池セル12が図1に示すように複数(例えば6個)直列に接続されている。
【0003】
このような二次電池の製造工程において、活物質を含有した合材層を集電体に塗工する過程においては、合材層の端部に一定の高さが生じることがある。そのような電極を用いると二次電池の生産性および諸性能に影響を与えることがある。
【0004】
そこで特許文献1に開示された発明では、活物質層を形成した塗工領域と活物質層を形成していない未塗工領域とを有し、塗工領域の未塗工領域との境界に、平面視で非直線の凹凸形状を有する第一の緩衝領域を設けた構成の電極板とした。そのため、正極板と負極板とを積層した大型の電極群を備える二次電池において、活物質層の剥離や割れ、集電体の摩耗や亀裂などの不具合が生じ難い電極板とすることができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2014/034708号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このような二次電池では、一般的に製造工程で、極板群を電槽に挿入してから、上部から電解液を注液する。車載用のニッケル水素蓄電池1では、図2に示すように電極群6は電槽15に挿入される。その後電解液5が上方から注液されるが、電解液5は、直ちに電極群6に浸透することがない。このため、電解液5は、その注液時に、電極群6の上部にはあまり溜まらず、電極群6の上部から十分に浸透せず下方に移動し、電槽15の下部に溜まってしまう。このため、電解液5がなかなか電極群6の電極板である正極板2に浸透しにくいという問題があった。
【0007】
本発明の二次電池及びその製造方法が解決しようとする課題は、電解液の注液時に電極板に電解液を浸透し易くすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の二次電池では、板状の多孔性金属からなる正極集電体と正極活物質を含有し前記正極集電体に充填される正極合材層とを有する正極板と、負極板と、セパレータとを積層した電極群を備え、前記電極群は電槽に収容されるとともに電解液が注液されており、前記電極群に、前記充填された正極合材層を上下方向に上側領域と下側領域とを含む複数の領域に分割したとき、前記正極合材層の幅方向の端部において、前記上側領域の正極合材層の端部の平均凹凸幅を凹凸幅ΔW1、前記下側領域の正極合材層の端部の平均凹凸幅を凹凸幅ΔW3とした場合に、凹凸幅ΔW1≦凹凸幅ΔW3になるように構成された正極板を備えたことを特徴とする。
【0009】
すなわち、ΔW1、ΔW2、ΔW3は、それぞれ分割された領域内での平均値を示す。平均とは、例えば、算術平均であるが、最小二乗平均や、重み付きの平均などでもいい。なお、塗工幅Wpや基準塗工幅Wsについても、同様に平均値を示す。
【0010】
前記凹凸幅ΔW1と前記凹凸幅ΔW3において、凹凸幅ΔW3/凹凸幅ΔW1≧5であることが好ましい。
前記上側領域と下側領域との間に中間領域を設け、当該中間領域の平均凹凸幅をΔW2としたとき、凹凸幅ΔW1≦凹凸幅ΔW2≦凹凸幅ΔW3としてもよい。
【0011】
前記下側領域Wt3において前記凹凸幅ΔW3と、水平方向の塗工幅Wpの関係がΔW3/Wp≧0.015となるようにすることが好ましい。さらに、ΔW3/Wp≦0.025となるようにすることもさらに好ましい。
【0012】
前記上側領域Wt1において前記凹凸幅ΔW1と、水平方向の塗工幅Wpの関係がΔW1/Wp≦0.01となるようにすることが好ましい。
前記電極群において、正極板の全枚数の内、1/4以上が、上記構成の二次電池の正極板とすることができる。
【0013】
前記正極集電体は、ニッケル又はニッケル合金からなる発泡体において好適に実施できる。また前記発泡体は、目付が200[g/m]以上、400[g/m]以下であり、かつ孔径300[μm]以上、600[μm]以下とすることが好ましい。
【0014】
なお、前記上側領域Wt1、前記中間領域Wt2、前記下側領域Wt3が、上下方向に3等分したものであってもよく、前記中間領域Wt2を複数設け、前記上側領域Wt1、前記複数の中間領域Wt2、前記下側領域Wt3が、上下方向にそれぞれ等分されたものであってもよい。
【0015】
また、本発明の二次電池の製造方法では、板状の多孔性金属からなる正極集電体と正極活物質を含有し前記正極集電体に充填される正極合材層とを有する正極板と、負極板と、セパレータとを積層した電極群を備え、前記電極群は電槽に収容されるとともに電解液が注液された二次電池の製造方法であって、正極合材層を形成する溶媒を含む正極合材ペーストを、前記正極集電体の一方の表面から間欠的に前記正極集電体を塗工する塗工工程を備え、前記塗工工程では、正極合材ペーストが、重力により前記正極集電体から脱落せず、かつ、前記塗工する正極合材層を上下方向に上側領域と下側領域とを含む複数の領域に分割し、前記正極合材層の幅方向の端部において、前記上側領域Wt1の正極合材層の平均凹凸幅を凹凸幅ΔW1、前記下側領域Wt3の正極合材層の平均凹凸幅を凹凸幅ΔW3とした場合に、凹凸幅ΔW1≦凹凸幅ΔW3になるように調整することを特徴とする。
【0016】
前記調整が、前記正極合材ペーストのせん断速度が10[s-1]のとき、粘度が50m[Pa・s]以上、2000[mPa・s]以下としてすることができる。また、前記調整は、前記領域Wt3の吐出量を、前記領域Wt1の102%以上とすることでできる。
【0017】
また、前記調整が、塗工工程における正極合材ペーストを吐出するノズルと、前記正極集電体とのクリアランスであるギャップGの調整によることでできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の二次電池及びその製造方法によれば、電解液の注液時に電極板に電解液を浸透し易くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態のニッケル水素蓄電池の外観構造を示す斜視図である。
図2】本実施形態のニッケル水素蓄電池の電池モジュールの一部について部分断面構造を含む斜視図である。
図3】本実施形態のニッケル水素蓄電池に設けられる電極群の断面図である。
図4】本実施形態のニッケル水素蓄電池の製造工程を示すフローチャートである。
図5】本実施形態のニッケル水素蓄電池の正極板の製造工程を示すフローチャートである。
図6】本実施形態のニッケル水素蓄電池の正極板の幅方向Wの断面を示す模式図である。
図7】本実施形態のニッケル水素蓄電池の正極板の塗工側の表面を示す模式図である。
図8】本実施形態のニッケル水素蓄電池の正極板の塗工側と反対の表面を示す模式図である。
図9】本実施形態のニッケル水素蓄電池の正極板の別例を示す模式図である。
図10】本実施形態のニッケル水素蓄電池の注液時の電解液の浸透の状態を示す模式図である。
図11】従来の正極合材ペーストの組成の一例と、本実施形態の正極合材ペーストの組成の一例の比較表である。
図12】本実施形態における塗工機を示す斜視図である。
図13】(a)本実施形態における塗工工程を示す斜視図である。(b)ダイノズルが正極集電体に対して正極合材ペーストを塗布する位置を拡大した断面図である。
図14】(a)はニッケル基材と第1支持部と第2支持部との位置関係を示す平面図である。(b)はペーストが塗布される前のニッケル基材が第1支持部および第2支持部に支持された状態を示す断面図である。(c)は(b)の拡大断面図である。
図15】従来技術のニッケル水素蓄電池の正極板の一面を示す模式図である。
図16】従来技術のニッケル水素蓄電池の正極板の他の一面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の二次電池及びその製造方法を、ニッケル水素蓄電池及びその製造方法の一実施形態を用いて図1~14を参照して説明する。本願においては、図1において上方向を「上」としてニッケル水素蓄電池1の説明をする。
【0021】
(本実施形態の構成)
<本実施形態の概略>
本実施形態のニッケル水素蓄電池1は、図3に示すように正極集電体21とここに充填された正極合材層22(図6参照)とを備えた正極板2と、負極板3と、セパレータ4とからなる電極群6を備える。
【0022】
図15は、従来技術のニッケル水素蓄電池1の正極板2の一面を示す模式図である。図16は、従来技術のニッケル水素蓄電池1の正極板2の他の一面を示す模式図である。従来は、両面塗工であった。また、正極合材層22が負極合材層に対して、対向する面積を大きく取ることで電池性能を高めることができる。そのため、正極合材層22をできるだけ正極集電体21に隙間なく塗布するものと考えられていた。さらに正極合材層22の端部22dに凹凸があると、正極合材層22の脱落などが生じやすいため、正極合材層22の端部22dには凹凸が形成されないようにするものと考えられていた。
【0023】
このため、図15図16に示す従来技術の正極板2では、正極合材層22の端部22dは、正極集電体21の周縁部内面21mに近接し、未塗装部分の幅Wv0は狭くなっていた。また、正極合材層22の端部22dの凹凸幅ΔWも均一で小さなものとなっていた。
【0024】
そのため、電解液5は、その注液時に、電極群6の上部にあまり溜まることなく、電極群6の上部から十分に浸透せず下方に移動し、電槽15の下部に溜まってしまう。このため、電解液5がなかなか電極群6の電極板である正極板2に浸透しにくいという問題があった。
【0025】
図7は、本実施形態のニッケル水素蓄電池1の正極板2の塗工側の表面22aを示す模式図である。また、図8は、本実施形態のニッケル水素蓄電池1の正極板2の塗工側と反対の表面22cを示す模式図である。
【0026】
本実施形態では、正極集電体21に充填された正極合材層22において形成された正極合材層22を上下方向に等分に上側領域Wt1、中間領域Wt2、下側領域Wt3に3分割する。そして、正極合材層22の幅方向W(水平方向)の端部22dにおいて、上側領域Wt1の正極集電体の平均凹凸幅を凹凸幅ΔW1とする。また、前記中間領域Wt2の正極集電体の平均凹凸幅を凹凸幅ΔW2とする。また、前記下側領域Wt3の正極集電体の平均凹凸幅を凹凸幅ΔW3とする。この場合凹凸幅ΔW1≦凹凸幅ΔW3になるように構成した。また、凹凸幅ΔW1≦凹凸幅ΔW2≦凹凸幅ΔW3となっている。
【0027】
<本実施形態の主な作用>
図10は、本実施形態のニッケル水素蓄電池1の注液時の電解液5の浸透の状態を示す模式図である。
【0028】
本実施形態では、正極板2を上述のように構成した。このため、下側領域Wt3の平均凹凸幅である凹凸幅ΔW3では、上側領域Wt1の平均凹凸幅である凹凸幅ΔW1より大きい。凹凸幅ΔW3が凹凸幅ΔW1より大きいということは、下側領域Wt3における正極合材層22の端部22dを延長した長さが長いということになる。端部22dの長さが長いということは、下側領域Wt3の正極合材層22と上側領域Wt1の電解液5との臨界面は、下側領域Wt3の正極合材層22の方が広いということになる。ここで、同じ正極合材層22の構成で電解液5に対する浸透率も同じであれば、電解液5との臨界面積が大きいほど電解液5が浸透し易いことになる。
【0029】
図10に示すように、本実施形態ではニッケル水素蓄電池の上方の注液口から、電極群6の上方に注液された電解液5は、下方に流れ落ち、電槽15の下部に貯留される。
上述のとおり、下側領域Wt3の正極合材層22の端部22dと電解液5と接している臨界面積は、上側領域Wt1の正極合材層22の端部22dと電解液5との臨界面積より大きい。
【0030】
しかしながら、電解液5は、その注液時に、電極群6の上部に一旦溜まることがあっても、十分に電極群6の上部に浸透することなく、その後下方に移動し、電槽15の下部に溜まってしまう。
【0031】
このとき、従来技術の電極群では、下側領域Wt3の正極合材層22の端部22dと電解液5と接している臨界面積は、上側領域Wt1の正極合材層22の端部22dと電解液5との臨界面積と変わらない。
【0032】
一方、本実施形態の電極群では、下側領域Wt3の正極合材層22の端部22dと電解液5と接している臨界面積は、上側領域Wt1の正極合材層22の端部22dと電解液5との臨界面積より大きい。すなわち下側領域Wt3の正極合材層22の端部22dから電解液5が浸透し易くなっている。
【0033】
さらに時間が経過すると、下側領域Wt3の正極合材層22の端部22dから浸透した電解液5は、徐々に正極合材層22の上部に浸透していく。
その結果、本実施形態の電極群6では、従来技術の電極群6よりも短い時間で、正極合材層22全体に電解液5を浸透させることができる。
【0034】
<本実施形態の主な効果>
本実施形態のニッケル水素蓄電池1では、このような構成を備えるため、ニッケル水素蓄電池1の製造工程において電解液5を注液した場合に下側領域Wt3の正極合材層22の端部22dでは電解液5の浸透が効率的にできる。
【0035】
以下、本実施形態のニッケル水素蓄電池1及びその製造方法を詳細に説明する。
<ニッケル水素蓄電池1の構成>
図1は、本実施形態のニッケル水素蓄電池1の外観構造を示す斜視図である。
【0036】
<電池モジュール>
図1に示すように、ニッケル水素蓄電池1は、複数の電池セル12を備えた電池モジュールとして構成される。ニッケル水素蓄電池1は、その外観が角形板状の密閉式電池である。複数(ここでは6個)の電池セル12を収容可能な一体電槽を構成する電池ケース13と、電池ケース13の開口部を封止する蓋体14とを備えている。電池ケース13には、電気的に直列に接続された6個の電池セル12が電槽15(図2参照)に収容されている。これらの電池セル12の電力は、電池ケース13に設けられた正極接続端子13a及び負極接続端子13bから取り出される。
【0037】
<ニッケル水素蓄電池の内部構造>
図2は、ニッケル水素蓄電池1の電池モジュールについて、断面構造を含む部分斜視図である。図2に示すように、電池ケース13及び蓋体14は、アルカリ性の電解液5に対して耐性を有する樹脂材料であるポリプロピレン(PP)及びポリフェニレンエーテル(PPE)を含んで構成されている。そして電池ケース13の内部には、複数の電池セル12を区画する隔壁18が形成されており、この隔壁18によって区画された部分が、電池セル12毎の電槽15となる。こうして区画された電槽15内には、電極群6が収容されるとともに、水酸化カリウム(KOH)を主成分とする水系電解質であるアルカリの電解液5が充填される。
【0038】
隔壁18の上部には各電池セル12の接続に用いられる貫通孔17が形成されている。貫通孔17は、正極集電板27の上部に突設されている接続突部、及び負極集電板37の上部に突設されている接続突部の2つの接続突部同士が貫通孔17を介してスポット溶接等により溶接接続される。このことで、各々隣接する電池セル12の電極群6を電気的に直列接続させる。貫通孔17のうち、両端の電池セル12の各々外側に位置する貫通孔17は、電池ケース13の長手方向の端部上方で正極接続端子13a又は負極接続端子13b(図1参照)が装着される。正極接続端子13aは、正極集電板27の接続突部と溶接接続される。負極接続端子13bは、負極集電板37の接続突部と溶接接続される。こうして直列接続された電極群6、すなわち複数の電池セル12の総出力が正極接続端子13a及び負極接続端子13bから取り出される。
【0039】
<電極群6>
図3は、本実施形態のニッケル水素蓄電池1に設けられる電極群6の幅方向Wの断面図である。図3に示すように、電極群6は、矩形状の正極板2及び負極板3がセパレータ4を介して積層して構成されている。このとき、正極板2、負極板3及びセパレータ4が積層された方向が厚み方向Dである。
【0040】
電極群6の正極板2及び負極板3は、極板の面方向であって互いに反対側の側部に突出されることで構成されるリード部を備える。正極板2のリード部21l(図6図7参照)の側端縁に正極集電板27がスポット溶接等により接合される。また、負極板3のリード部(不図示)の側端縁に負極集電板37がスポット溶接等により接合されている。
【0041】
<正極板2の構成>
図6は、本実施形態のニッケル水素蓄電池1の正極板2の幅方向Wの断面を示す模式図である。正極板2は、正極集電体21と、正極集電体21に充填された正極合材層22を有する。正極合材層22は、正極活物質、添加物(導電材、結着材、増粘剤等)を有する。
【0042】
<正極集電体21>
正極集電体21は、基板となる3次元多孔性金属であるニッケル若しくはニッケル合金の発泡体からなる長方形の板状に形成される。正極集電体21の周縁部は押しつぶされて密度が高くなっており、正極集電体21の形状を維持する枠としての機能を有する。また、周縁部は、多孔性の構造が潰れて通気性が低下しているため、中央部に比べて表面からの電解液5の吸収が悪くなっている。正極集電体21は、その3次元の網状に構成された骨部により形成される空間に正極合材層22を担持する担体の機能と、正極合材層22中の正極活物質から電流を集める集電体の機能とを有する。
【0043】
正極集電体21は、発泡金属の一つである発泡ニッケルを用いている。発泡ニッケルは、内部に多数の細孔を有し、容易に圧縮することが可能である。発泡ニッケルの製造方法は特に限定されないが、例えば、発泡ウレタンの骨格表面にニッケルメッキを施した後、発泡ウレタンを焼失させることによって製造される。
【0044】
図7は、本実施形態のニッケル水素蓄電池の正極板の塗工側表面22aを示す模式図である。図6及び図7に示すように、リード部21lは、長方形の正極集電体21の一方の長辺において、その長さ方向Lの中央部に鉄材等の金属材が溶接されることによって形成されている。このリード部21lは、正極集電体21の厚み方向Dの中央部に設けられている。
【0045】
リード部21lは、正極集電体21の一方の長辺において圧縮され密度が高くなって強度が高い枠部に鉄材等の金属部材が溶接される。この金属部材の一方の表面に接続面が形成されている。リード部21lは、その上部に突設されている接続突部で隣接する電池セル12の正極接続端子13aに接続される。
【0046】
本実施形態においては、正極集電体21の塗工工程(S13)の前の厚みを、0.5mm以上、1.0mm以下とすることが望まれる。発泡ニッケルは、細孔の大きさの平均孔径が300μm以上、6000μm以下のものを用いることが望まれる。また、この正極集電体21の充填される正極合材層22の目付が200[g/m]以上、400[g/m]以下のものを用いることが望まれる。
【0047】
<正極合材ペースト25>
正極合材層22となる正極合材ペースト25は、水酸化ニッケルを主成分とする正極活物質粒子、コバルト(Co)からなる導電材、増粘剤、及び結着材等及び水などの溶媒を含有している。
【0048】
図11は、従来の正極合材ペーストの組成の一例と、本実施形態の正極合材ペースト25の組成の一例の比較表である。
図11に示すように、本実施形態の正極合材ペースト25は、溶媒である水を除いた組成(wt%)は、正極活物質としての水酸化ニッケルが、85(wt%)以上、95(wt%)以下が望まれる。導電材としてのコバルト(Co)が、5(wt%)以上、10(wt%)以下が望まれる。また、電位の調整のために酸化亜鉛が、0.5(wt%)以上、1.5(wt%)以下が望まれる。また、酸化イットリウムが、0.5(wt%)以上、1.5(wt%)以下が望まれる。増粘剤としての、カルボキシメチルセルロース(CMC)が、0.01(wt%)以上、0.2(wt%)以下が望まれる。増粘剤として、アルギン酸ナトリウムが、0.01(wt%)以上、0.2(wt%)以下が望まれる。そして、結着材として、フッ素系結着材が、0.05(wt%)以上、0.3(wt%)以下が望まれる。
【0049】
ここで「フッ素系結着材」は、結着材として好ましい性能を発揮するが、乾燥時に極板表面に偏析するという問題がある。本実施形態では、このような問題を解決することで、フッ素系結着材を用いることができるようにしている。詳しくは後述する。
【0050】
本実施形態の正極合材ペースト25は、正極活物質、導電材、結着材、増粘材等を水などの溶媒によりペースト状としたものである。
溶媒及び増粘剤により粘度V[mPa・s]が調整され、本実施形態では、50~2000[mPa・s]が望ましく、例えば500[mPa・s]に調整される。なお、当該の値は、せん断速度10[s-1]の場合の値を示している。
【0051】
<本実施形態の正極合材ペースト25の特徴>
図11に示すように、従来技術の正極合材ペーストでは、増粘剤としてアルギン酸ナトリウムが含まれていない。この点で、粘度[mPa・s]が調整されていない。また、結着材としてフッ素系結着材であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)が含まれていない点で相違する。この点で、結着力が低い。
【0052】
<正極活物質>
正極活物質としては、水酸化ニッケル、オキシ水酸化ニッケル等のニッケル酸化物を主成分とする粒子状のものが挙げられる。
【0053】
<導電材>
導電材は、金属または金属化合物であり、例えば、金属コバルト(Co)、一酸化コバルト(CoO)、オキシ水酸化コバルト(CoOOH)等のコバルト化合物であってニッケル酸化物の表面を被覆している。導電性の高いオキシ水酸化コバルトは、正極内において導電性ネットワークを形成し、正極の利用率を高めることから好ましい。
【0054】
<増粘剤>
増粘剤としては、キサンタンガムなどのグルコース系のものや、アクリル酸ナトリウム等のアクリル系のものが例として挙げられる。
【0055】
<結着材>
結着材として、フッ素系結着材を含有している。なお、フッ素系結着材としては、例えば、有機溶剤系のポリフッ化ビニリデン(PVDF)や、水性ディスパージが挙げられる。フッ素系結着材は、結着作用が良好である反面、正極合材層22の表面において偏析するという性質がある。本実施形態では、そのような偏析をした場合でも、正極合材層22への電解液5の浸透を容易にする構成である。そのため、本実施形態では、偏析しやすいフッ素系結着材についても有効に利用することができる。
【0056】
さらに結着材としては、ルブロン(ダイキン工業株式会社の登録商標)等のラテックス系や、ポリエチレンオキサイド(PEO)も例として挙げられる。
<溶媒>
本実施形態では、溶媒として水(HO)を用いている。溶媒は、増粘剤とともに、正極合材ペースト25の粘度調整に用いられる。添加量は、凹凸幅ΔW1や、関係ΔW1/Wpの数値を勘案しながら調整する。
【0057】
<正極合材層22>
上述した正極合材ペースト25が、正極集電体21に塗工、充填され、乾燥、整形プレスを経て正極合材層22が形成される。詳細は後述する。
【0058】
<負極板3>
負極板3は、長方形のパンチングメタルなどからなる板状の負極集電体31を備える。負極集電体31は、機械的な基板であるとともに、負極活物質からの電流を集電する集電体として機能する。また、負極集電体31に塗布された水素吸蔵合金(MH)を備える。水素吸蔵合金の種類は特に限定されないが、例えば、希土類元素の混合物であるミッシュメタルとニッケルとの合金や、当該合金の一部を、アルミニウム、コバルト、マンガン等の金属に置換したものである。この負極板3は、負極合材ペーストが塗工される。負極合材ペーストは、水素吸蔵合金に、カーボンブラック等の増粘材、スチレン‐ブタジエン共重合体等の結着材を添加して、負極合材ペースト状に加工したものである。負極板3は、負極合材ペーストを、パンチングメタル等の芯材からなる負極集電体31に充填した後、乾燥、圧延、切断することによって製造される。
【0059】
<セパレータ4>
セパレータ4は、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の不織布、もしくは必要に応じてこれにスルホン化などの親水処理を施したものである。
【0060】
こうした正極板2及び負極板3及びセパレータ4が使用されて電池モジュールが製造される。
<電解液5>
電解液5は、セパレータ4の中に保持され、正極板2と負極板3との間でイオンを伝導させる。電解液5は、例えば、水酸化カリウム(KOH)を溶質の主成分とするアルカリ性水溶液である。また、電解液5は、正極合材層22に浸透して、正極合材層22の中の正極活物質と反応する。したがって、電解液5が、正極合材層22に浸透することは、電池の性能を左右する要素となる。
【0061】
<ニッケル水素蓄電池1の製造工程>
図4は、本実施形態のニッケル水素蓄電池1の製造工程を示すフローチャートである。次に、上述のような構成の本実施形態のニッケル水素蓄電池1の製造方法について図4を参照して説明する。ニッケル水素蓄電池1の製造工程は、源泉工程(S1)、電極群製造工程(S2)、電極群組付け工程(S3)、注液工程(S4)、封止工程(S5)、検査工程(S6)からなる。
【0062】
源泉工程(S1)では、電池要素である正極板2、負極板3、セパレータ4をそれぞれ作成する。電極群製造工程(S2)では、源泉工程(S1)で製造した正極板2、負極板3、セパレータ4を積層し、正極集電板27、負極集電板37を溶接して図3に示すような電極群6を製造する。電極群組付け工程(S3)では、電極群製造工程(S2)で製造した電極群6を、図2に示すように一体電槽である電池ケース13の各電槽15に収容する。そして、各電槽15にそれぞれ収容された電極群6を溶接等により電気的に接続し、正極接続端子13a、負極接続端子13b(図1参照)を取り付ける。注液工程(S4)では、電池ケース13の各電槽15に上方から電解液5を注液する。封止工程(S5)では、注液工程(S4)で注液が完了した電池ケース13に蓋体14を装着し、封止する。以上で、本実施形態の電池モジュールであるニッケル水素蓄電池1の組み立てが終了する。検査工程(S6)では、このように組立が終了したニッケル水素蓄電池1の初充電、エージング、内部抵抗(DC-IR)検査、OCV検査、自己放電検査等を行う。そして、これらに合格したものが製品としてのニッケル水素蓄電池1の電池モジュールとなる。
【0063】
<正極板2の製造工程>
図5は、本実施形態のニッケル水素蓄電池の正極板の製造工程を示すフローチャートである。次に、正極板2の製造工程について図5を参照して詳細に説明する。この正極板2の製造工程は、ニッケル水素蓄電池1の源泉工程(S1)の一部をなす工程である。
【0064】
正極板の製造工程は、正極集電体製造工程(S11)、正極合材ペースト製造工程(S12)、塗工工程(S13)、乾燥工程(S15)、整形・プレス工程(S16)からなる。
【0065】
<正極集電体製造工程(S11)>
正極集電体製造工程(S11)は、正極集電体21を製造する工程である。まず、長尺の発泡ニッケルの薄板から、所定のサイズの正極集電体21が切断工程により切り取られる。続いて、整形・プレス工程で所定厚に整形された正極集電体21の周縁部を圧縮して、所定の長さ、幅に整形する。整形された正極集電体21の周縁部は、圧縮されて潰されて、密度が高くなる。密度が高くなると機械的な強度が上がり、正極集電体21の枠として、形状を維持する。なおこの周縁部は圧縮されて潰されて、多孔性の発泡ニッケルの空間が潰れて通気性が下がり、電解液5が吸収されにくくなっている。
【0066】
この正極集電体21の周縁部の一方の長辺の中央部分に、図6図7に示すようなリード部21lを溶接する。
<正極合材ペースト製造工程(S12)>
正極合材ペースト製造工程(S12)では、前述したような正極合材ペースト25を製造する。正極合材ペースト25は、正極活物質粒子、導電材、結着材、増粘剤等に、溶媒などを混合して、所定の粘度V[mPa・s]のペースト状とする。
【0067】
<塗工工程(S13)>
塗工工程(S13)では、正極合材ペースト製造工程(S12)で製造した正極合材ペースト25を、正極集電体製造工程(S11)で製造した正極集電体21に塗工して、充填する。
【0068】
図12は、本実施形態における塗工装置の一例である塗工機8を示す斜視図である。図13(a)は、本実施形態における塗工工程(S13)を示す斜視図である。
<塗工機8>
図12に示すように、正極集電体21に対して正極合材ペースト25を塗布する塗工機8は、正極集電体21に対して正極合材ペースト25を塗布するダイノズル81と、支持部材85と、ステージ86とを備えている。
【0069】
<ダイノズル81>
図13(b)に示すように、ダイノズル81は、ダイ82と、ノズル83とを備える。ダイ82は、タンクなどの供給部(不図示)より供給配管を通じて供給される正極合材ペースト25を高圧で貯留する。ノズル83は、正極集電体21の上面21jに対して対向する先端部に吐出口を備えている。なお、ここで上面21jは、図1図2とは異なり塗工工程(S13)において上となる面をいい、正極合材層22の塗工側表面22a側の面をいう。下面21kも同様である。吐出口は、上面21jに対して所定のクリアランスであるギャップGを持って離間している。ノズル83は、第2方向Y(正極集電体21の幅方向W)に延び、塗布領域21a~21dと対応するように吐出口が区画されており、塗布領域21a~21dの上面21jに対して正極合材ペースト25を間欠的に吐出する。吐出口から吐出された正極合材ペースト25は、上面21jに至るまで流下する。
【0070】
ダイノズル81は、正極集電体21の上面21jに対して正極合材ペースト25を吐出するにあたって、ノズル83に対して正極合材ペースト25の未塗布側となる領域に、押さえローラ84を備えている。押さえローラ84は、ノズル83によって上面21jに正極合材ペースト25が塗布される直前において、上面21jに接触し、正極集電体21を支持部材85の方向へ押さえ付ける。これにより、押さえローラ84は、正極集電体21のうねりを取り除き、ノズル83と上面21jとの間隔を一定にする。
【0071】
<支持部材85>
支持部材85は、ノズル83によって正極合材ペースト25が正極集電体21の上面21jに塗布されるまで塗布領域21a~21dを下面21k側から支持する。
【0072】
図14(a)は、ニッケル基材と第1支持部と第2支持部との位置関係を示す平面図である。図14(b)はペーストが塗布される前のニッケル基材が第1支持部および第2支持部に支持された状態を示す断面図である。図14(c)は、(b)の拡大断面図である。
【0073】
図14(a)~(c)に示すように、支持部材85は、第1支持部85aと、挿通部85bと、連結部85cを備えている。第1支持部85aは、塗布領域21a~21dの各々を下面21k側から接触して支持する。挿通部85bは、互いに隣り合う第1支持部85aの間に設けられる。連結部85c(図13(a)参照)は、第2方向Yにおいて挿通部85bによって互いに離間した第1支持部85aを連結する(図12参照)。そして、支持部材85は、全体がくし型形状を有している。
【0074】
<第1支持部85a>
第1支持部85aは、塗布領域21a~21dに対応して4つ設けられており、各第1支持部85aは、第1方向Xに延び、互いに平行に離間している。各第1支持部85aにおいて、塗布領域21a~21dを支持する支持面は、一例として、安定して支持でき、さらに、塗布領域21a~21dの下面21kに対して滑り易い平坦面で構成されているとよい。これにより、第1支持部85aが塗布領域21a~21dの下方から抜け易くする。
【0075】
各第1支持部85aを連結する連結部85cと反対側の先端部は、少なくとも押さえローラ84の下方に位置している。これにより、各第1支持部85aは、押さえローラ84と協働してしっかりと正極集電体21を挟持できる。さらに好ましくは、第1支持部85aの先端部は、ノズル83の下方にも位置する長さを備えていてもよい。すなわち、正極合材ペースト25が正極集電体21の上面21jから下面21kに浸透するまでの間は、第1支持部85aが塗布領域21a~21dの下面21kを接触して支持している構成としてもよい。これにより、第1支持部85aは、塗布領域21a~21dの下面21kを、浸透した正極合材ペースト25と接触する直前まで支持することができる。
【0076】
<挿通部85b>
互いに隣り合う第1支持部85aの間に位置する挿通部85bは、厚み方向Dに貫通したスリットであって、第1方向Xに延び、ノズル83の下方が開口端となっている。
【0077】
<ステージ86>
ステージ86は、支持部材85および支持部材85と同期するダイノズル81が第1方向Xに移動可能に配置される。ステージ86は、支持部材85の支持面に第2支持部85dを備えている。
【0078】
<第2支持部85d>
図14(c)に示すように、支持部材85は、ダイノズル81とステージ86との間に配置する部材である。この支持部材85は、挿通部85bは、ステージ86が備えた第2支持部85dが挿通され、第2支持部85dが正極集電体21の非塗布領域21e~21iの下面21kを支持できるようにする。すなわち、各挿通部85bの幅(互いに隣り合う第1支持部85aの間の間隔)は、一例として、第2支持部85dが挿通可能な幅であって、第2支持部85dの幅より若干広い。
【0079】
ダイノズル81と支持部材85とは、連結部材などを備えた連結機構(図示を省略)を介して連結されており、同期して、正極集電体21に対して第1方向Xのうちの1つである矢印で示す移動方向に移動する。すなわち、正極集電体21およびステージ86は、移動することなく、ダイノズル81と支持部材85とが正極集電体21およびステージ86に対して矢印で示す移動方向に移動する。
【0080】
第2支持部85dは、支持部材85の挿通部85bに挿通され、先端面で正極集電体21の下面21kを支持する。一例として、第2支持部85dは、載置される正極集電体21の第1方向Xに相当する長さ(非塗布領域21e~21iの第1方向Xの長さ)を有している。第2支持部85dにおいて、非塗布領域21e~21iを支持する支持面は、一例として、非塗布領域21e~21iの下面21kに対して滑りにくい平坦面で構成されているとよい。これにより、正極集電体21が支持部材85の矢印で示す移動方向への移動に引き摺られて同方向に移動してしまうことを抑える。
【0081】
<塗工機8の作用>
具体的には、正極集電体21の上面21jに対して正極合材ペースト25が塗布される前は、塗布領域21a~21dの下面21kが第1支持部85aによって支持され、非塗布領域21e~21iの下面21kが第2支持部85dによって支持される。そして、ダイノズル81および支持部材85が正極集電体21およびステージ86に対して矢印で示す移動方向に移動する。そうすると、正極集電体21の正極合材ペースト25が塗布された部分では、非塗布領域21e~21iの下面21kが第2支持部85dによって支持されるだけとなる。塗布領域21a~21dの下面21kとステージ86との間は、第1支持部85aが抜けることによって空隙部となり、正極集電体21の下面21kにまで浸透した正極合材ペースト25がステージ86と接触することを防ぐ。また、挿通部85bに対して第2支持部85dが挿入されることで、第2支持部85dは、ステージ86に対して移動する支持部材85のガイドレールとしても機能し、挿通部85bは、ガイドレールが挿入されるガイド溝としても機能する。なお、ステージ86に対する支持部材85のガイド機構は、挿通部85bおよび挿通部85b以外にも設けることもできる。
【0082】
正極合材ペースト25を正極集電体21の上面21jに対して塗布するとき、支持部材85は、正極集電体21に対して矢印で示す移動方向に移動する。したがって、正極集電体21は、支持部材85の矢印で示す移動方向への移動に引き摺られて移動してしまうおそれがある。そこで、第2支持部85dは、正極集電体21を矢印で示す移動方向に移動しないように保持する保持手段を備えている。保持手段は、真空吸着パットや磁気吸着パットであって、正極集電体21を第2支持部85d上に保持する。
【0083】
<塗工の手順>
図13(b)は、ダイノズル81が正極集電体21に対して正極合材ペースト25を塗布する位置を拡大した断面図である。以上のような塗工機8を用いて塗工工程(S13)が、実施される。図13を参照して、塗工の手順を説明する。
【0084】
図13(a)、図13(b)に示すように、ダイノズル81および支持部材85は、同期して順次矢印で示す移動方向に移動する。すると、支持部材85の第1支持部85aは、順次、塗布領域21a~21dの上面21jの下方から退避し、この後、下面21kには、上面21jから下面21kに正極合材ペースト25が浸透してくる。これにより、下面21kの正極合材ペースト25と第1支持部85aとが接触することが抑えられる。すなわち、正極合材ペースト25が塗布された後、正極集電体21は、ステージ86の第2支持部85dによって非塗布領域21e~21iのみが支持されることになる。
【0085】
正極集電体21は、以上のような工程を経て正極合材ペースト25が塗布される。
<塗工工程(S13)における正極合材ペースト25>
塗工工程(S13)では、上述のように、ダイノズル81が正極集電体21に対して正極合材ペースト25を塗布する。
【0086】
図13(b)に示すように、正極集電体21の上面21jから、正極合材ペースト25が吐出されると、図6図7に示すように、正極集電体21の上面21jでは、塗工幅Wpで正極合材ペースト25が塗工される。塗工された正極合材ペースト25は、正極集電体21の内部に浸透して充填していく。このとき、正極合材ペースト25は、その粘度V[mPa・s]と、表面張力と、濡れ性により、図6に示すように、塗工幅Wpより重力により下方へ浸透するにつれて徐々に幅方向Wの幅が小さくなる。そして、下面21kでは、塗工幅Wsになる。
【0087】
図7に示すように、塗工された正極合材ペースト25は塗工幅Wpに塗工されるが、このとき、幅方向Wの端部22dは、長さ方向Lに沿った直線にはならず、幅方向Wに波状にランダムな凹凸が生じる。これは、正極集電体21の骨格構造や、ここに吸収される正極合材ペースト25のムラなどにより生じる。このため塗工幅Wpや塗工幅Wsは、これらの凹凸を平均したものとなる。この平均化は、例えば算術平均でもよいし、他の平均化でもよい。
【0088】
このときの平均的な凹凸の幅を凹凸幅ΔWとする。本実施形態では、この凹凸幅ΔWを制御、調整することで、電解液5の正極合材層22への浸透を改善する。
ここで、本実施形態において「塗工幅Wp」や、「塗工幅Ws」は、上側領域Wt1、中間領域Wt2、下側領域Wt3毎に、このような「凹凸幅ΔW」を平均した直線の軌跡となる。
【0089】
次に、図8は、本実施形態のニッケル水素蓄電池1の正極板2の正極合材層22の塗工側と反対の表面22cを示す模式図である。図6に示すように、塗工され正極集電体21に浸透する正極合材ペースト25は、下面21kに到達する頃には、その幅が狭くなる。そのため、図8に示す塗工側と反対の表面22cでは、正極合材層22の幅は塗工幅Wsとなっている。
【0090】
<正極合材ペースト25の塗工量[g/s]>
本実施形態における塗工量は、以下のように設定される。
本実施形態では、上述のとおり、下側領域Wt3における凹凸幅ΔW3を上側領域Wt1における凹凸幅ΔW1より大きくするように構成した。
【0091】
そこで本発明者らは、下側領域Wt3における凹凸幅ΔW3を制御する方法の一つとして、正極合材ペースト25の粘度V[mPa・s]が所定の範囲で、かつ、その一定の範囲で塗工量[g/s]が多いほど、凹凸幅ΔWが大きくなることを見出した。
【0092】
そこで、上側領域Wt1の平均の塗工量Q1[g/s]を100%としたとき、下側領域Wt3の平均の塗工量Q3[g/s]は102.4%と過剰にした。なお、このとき、中間領域Wt2の平均の塗工量Q2[g/s]は、Q3に対して101.2%と、その中間値とした。
【0093】
その結果、上側領域Wt1の凹凸幅ΔW1は、0.1[mm]であるのに対して、中間領域Wt2の凹凸幅ΔW2では、0.3[mm]となり、下側領域Wt3の凹凸幅ΔW3は、0.5[mm]と大きくなった。
【0094】
本実施形態では、上側領域Wt1の塗工量Q1に対して、下側領域Wt3の塗工量Q3が、Q3/Q1≧1.02の範囲で、所望のΔW3を得られることが分かった。
本実施形態では、塗工量[g/s]は、正極合材ペースト25の吐出圧によって調整している。
【0095】
<塗工量Qの別例>
本実施形態では、塗工量[g/s]は、正極合材ペースト25の吐出圧によって調整している。しかし、正極集電体21の構成や、正極合材ペースト25の構成、粘度V[mPa・s]によっては、一定の吐出圧により吐出することでも、下側領域Wt3における凹凸幅ΔW3の値を大きくすることができることを見出した。
【0096】
そこで、下側領域Wt3における凹凸幅ΔW3の値を制御する方法としては、吐出圧以外に、粘度V[mPa・s]によっても制御、調整することができることを見出した。
具体的には、正極合材ペースト25が、比較的低粘度の場合は、吐出の最初は、ペーストの流れが乱れ、凹凸幅ΔW3が大きくなる。しかしながら、その後、正極集電体21に吐出する正極合材ペースト25が、凹凸幅ΔW2や凹凸幅ΔW1となるにしたがって安定してΔWが小さくなってくる。そうすると、同じ吐出圧でも、上側領域Wt1の凹凸幅ΔW1は、下側領域Wt3の凹凸幅ΔW3より小さくなる。
【0097】
<ギャップG>
さらに、本発明者らは、ギャップGによっても、下側領域Wt3の凹凸幅ΔW3を制御、調整することができることを見出した。
【0098】
図13(b)に示すように、ダイノズル81のノズル83の下端の吐出部と、正極集電体21との間には、所定のクリアランスであるギャップGが設定されている。このギャップGを小さく取った場合では、同じ吐出量[g/s]でも、吐出された正極合材ペースト25の吐出圧が正極集電体21の表面にまで伝達されやすい。その結果、正極集電体21の表面での正極合材ペースト25の乱れが生じやすく、凹凸幅ΔW3が大きくなる。
【0099】
その一方、ギャップGを大きく取った場合では、同じ吐出量[g/s]でも、吐出された正極合材ペースト25の吐出圧が正極集電体21の表面にまで伝達されにくく、正極合材ペースト25は重力により正極集電体21に塗工される。その結果、正極集電体21の表面での正極合材ペースト25の乱れは少なく、凹凸幅ΔW1が小さくなる。
【0100】
このように、ダイノズル81のノズル83の下端の吐出部と、正極集電体21との間のクリアランスであるギャップGは、凹凸幅ΔWが形成される大きさに影響を与える。
<凹凸幅ΔWと塗工幅Wp>
上述のとおり、下側領域Wt3の凹凸幅ΔW3の値の制御と調整は、上記のように行われる。なお、凹凸幅ΔW3の値は、以下のように塗工幅Wpも考慮される。
【0101】
下側領域Wt3における正極集電体21の正極合材ペースト25が塗工された側の正極合材層22の幅を塗工幅Wpとしたとき、そのときの正極合材層22の端部22dの凹凸幅ΔW3との関係は、以下のような関係がある。ここで、塗工幅Wpは、下側領域Wt3における平均された幅となる。関係ΔW3/Wpは、その値が十分に大きければ、正極合材層22の端部22dと電解液5との臨界面が十分に大きく取れる。このため、臨界面は十分な電解液5を浸透させることができる。
【0102】
具体的には、本実施形態では、「ΔW3/Wp≧0.015」という関係に設定される。さらに望ましくは、ΔW3/Wp≧0.016である。
一方、関係ΔW3/Wpは、その値が大きすぎれば、凹凸の乱れが大きくなり正極合材層22の端部22dがリード部21lに被ったりすることがある。また、凹凸の乱れが大きくなると、正極合材層22の端部22dが脱落する原因にもなる。
【0103】
このため、具体的に本実施形態では、関係ΔW3/Wpの好ましい値として、ΔW3/Wp≦0.025に設定されている。
また、上側領域Wt1における関係ΔW1/Wpは、電解液5の浸透への寄与は少ないため比較的小さな値でもよい。逆に、凹凸幅ΔW1を大きくすることで、上側領域Wt1においても電解液5の浸透を促進することも考えられる。しかしながら上側領域Wt1においても、電槽15に挿入するときに、その内面に接触するため電槽15の内面への接触を起因とする正極合材層22の端部22dの脱落を生じやすい。そこで、上側領域Wt1においては、凹凸幅ΔW1は小さい方が好ましい。
【0104】
このため、具体的に本実施形態では、関係ΔW1/Wpの好ましい値として、ΔW1/W≦0.01としている。より好ましくはΔW1/Wp≦0.005である。
<塗工側と反対の正極合材層22の凹凸幅ΔW>
以上、塗工側表面22aにおける正極合材層22の凹凸幅ΔWについて説明したが、塗工側と反対の正極合材層22においても、同様の対応が考えられる。つまり、下側領域Wt3の凹凸幅ΔW3は大きく、上側領域Wt1の凹凸幅ΔW1は小さく設定されることは共通する。ここでは、詳しい説明は省略し、具体的な数値は挙げないが、当業者により、そのニッケル水素蓄電池1において、最適化された設定がなされる。
【0105】
<正極合材ペースト25の調整(S14)>
塗工工程(S13)では、上述したように、目標とする塗工側表面22aにおける正極合材層22の下側領域Wt3の端部22dの凹凸幅ΔW3及び塗工幅Wpとの所定の関係ΔW3/Wpを規定する。そこで、塗工工程(S13)後に、正極合材層22が適切に構成されているかを検査する。検査の結果、正極合材層22が適切ではない場合(S14:NO)は、再度正極合材ペースト製造工程(S11)に戻る。そして、正極合材ペースト25の吐出量[g/s]、粘度V[mPa・s]やせん断速度[s-1]、ギャップGなどを調整する。正極合材層22が適切である場合(S14:YES)は、乾燥工程(S15)に移行する。
【0106】
このように、本実施形態では、凹凸幅ΔW3や関係ΔW3/Wpを監視しながら、条件を再設定し、常に所定の凹凸幅ΔW3や関係ΔW3/Wpの正極板2を製造することができる。
【0107】
なお、正極合材ペースト25の調整(S14)に関しては、必ずしも常時行わなくても、例えば組成が変わる生産ロットごとに行うようにすることができる。
<乾燥工程(S15)>
乾燥工程(S15)では、塗工工程(S13)において正極集電体21に塗工された正極合材ペースト25を、例えば、熱風や冷風、赤外線照射等の方法で乾燥させて、溶媒を蒸発させ、正極合材ペースト25を硬化させて、正極合材層22を形成する。
【0108】
<整形・プレス工程(S16)>
乾燥工程(S15)で、正極合材ペースト25を硬化させて、正極合材層22を形成したら、ローラプレス機(図示略)により、正極板2を所定の厚みにプレスするとともに、その表面形状を整える。
【0109】
以上で、正極板2の製造工程が完了する。その後は、電極群製造工程(S2)に進み、源泉工程(S1)で製造した負極板3、セパレータ4を積層し、正極集電板27、負極集電板37を溶接して電極群6を製造する。
【0110】
(本実施形態の作用)
<実験例と比較例>
次に、本実施形態のニッケル水素蓄電池1及びその製造方法の作用について説明する。本実施形態では、以下のような比較実験を行った。実験に用いた電極群6は、12枚の正極板2と13枚の負極板3を備えている。
【0111】
比較例である従来技術のニッケル水素蓄電池1では、図15図16に示すように、従来技術の凹凸幅ΔWは、図7図8に示す本実施形態の上側領域Wt1の凹凸幅ΔW1と等しい。言い換えれば、従来技術のニッケル水素蓄電池1の凹凸幅ΔWは、すべてΔW1と等しくなっている。
【0112】
一方、実験例の正極板2は、比較例の12枚の正極板2のうち、1/4に相当する3枚を図7図8に示す上側領域Wt1、中間領域Wt2、下側領域Wt3の凹凸幅ΔW1~3と同じ正極板2と取り換えた。
【0113】
なお、負極板3は、実験例と比較例共通のAB5系水素吸蔵合金からなる負極13枚からなるものである。また、実験例と比較例は、交換した正極板2以外の相違はない。
このような実験例と比較例で、ニッケル水素蓄電池1を製作し、その直流内部抵抗(DC-IR)を比較した。なお、交換する3枚の正極板2の位置は、ランダムに変更し、複数回DC-IRを測定した。
【0114】
その結果、実験例のニッケル水素蓄電池1の直流内部抵抗(DC-IR)は、比較例のニッケル水素蓄電池1の内部抵抗(DC-IR)と比較して、およそ1%低下した。
<実験例の作用>
上記のとおり、実験例のニッケル水素蓄電池1の直流内部抵抗(DC-IR)は、比較例のニッケル水素蓄電池1の内部抵抗(DC-IR)と比較して、およそ1%低下した。その要因としては、正極板2の構成の相違に起因することは明らかである。具体的には、実験例の交換した3枚の正極板2では、下側領域Wt3の凹凸幅ΔW3が、比較例の上側領域Wt1の凹凸幅ΔWがと比較して大きくなっていることである。そのため、注液時に電池ケース13の上方から注液された電解液5が、電極群6の上方に滞留するが、十分に正極板2に浸透することなく、下方に移動し、電槽15の下部に溜まってしまう。この下側領域Wt3の凹凸幅ΔW3の部分から、正極合材層22の端部22dに接する部分に電解液5が浸透し易いことが原因の1つだと考えられる。
【0115】
実験例の正極合材層22の端部22dが、下側領域Wt3の凹凸幅ΔW3の部分は、電解液5と接する臨界面が広い。このため、実験例で交換した正極板2では、比較例の正極板2よりも電槽15の下部に貯留された電解液5を正極合材層22に浸透させやすい。また、一旦下側領域Wt3の正極合材層22に浸透した電解液5は、漸次正極板2全体に拡散するものと考えられる。
【0116】
以上のような理由から、実験例のニッケル水素蓄電池1の直流内部抵抗(DC-IR)は、比較例のニッケル水素蓄電池1の内部抵抗(DC-IR)と比較して、およそ1%低下したものと考えられる。
【0117】
(本実施形態の効果)
(1)本実施形態のニッケル水素蓄電池1及びその製造方法では、電解液5の注液時に正極板2に電解液5を浸透し易くすることができる。
【0118】
(2)正極集電体21に対して、正極合材層22が形成されるとともに、形成された正極合材層22を上下方向に等分に上側領域Wt1、中間領域Wt2、下側領域Wt3に3分割する。そして、正極合材層22の幅方向Wの端部22dにおいて、上側領域Wt1の正極合材層22の端部22dの平均凹凸幅を凹凸幅ΔW1とする。同様に中間領域Wt2の正極合材層22の端部22dの平均凹凸幅を凹凸幅ΔW2とする。また、下側領域Wt3の正極合材層の端部22dの平均凹凸幅を凹凸幅ΔW3とする。この場合に、凹凸幅ΔW1≦凹凸幅ΔW3になるように構成した。
【0119】
このため、下側領域Wt3の正極合材層22の端部22dの表面積が大きくなり、電解液5との臨界面での吸収が良好となる。その結果、電槽15の下部に電解液5が滞留した場合に、正極板2に電解液5が浸透し易くなる。
【0120】
(3)凹凸幅ΔW1と凹凸幅ΔW3において、凹凸幅ΔW3/凹凸幅ΔW1≧5とした。そのため、下側領域Wt3での電解液5の浸透を高めると同時に、上側領域Wt1の正極合材層22の端部22dの脱落を抑制することができる。
【0121】
(4)下側領域Wt3において凹凸幅ΔW3と、塗工側表面22aの塗工幅Wpの関係をΔW3/Wp≧0.015となるようにしたため、下側領域Wt3において、電解液5の浸透を向上させることができる。ΔW3/Wp≧0.016とすれば、さらに電解液5の浸透を向上させることができる。また、ΔW3/Wp≦0.025とすれば正極活物質の脱落や正極合材ペースト25のはみだしなどを抑制することができる。
【0122】
(5)上側領域Wt1において凹凸幅ΔW1と、水平方向の塗工幅Wpの関係をΔW1/Wp≦0.01となるようにしたため、上側領域Wt1における正極合材層22の端部22dの脱落を抑制することができる。ΔW1/Wp≦0.005とすれば、さらに抑制することができる。
【0123】
(6)電極群6において、正極板2の全枚数の内、1/4以上を本実施形態の正極板2の構成とすれば、電解液5の浸透を改善し、内部抵抗を有意に改善することができる。
(7)正極集電体21の目付を200[g/m]以上、400[g/m]以下とし、かつ孔径300[μm]以上、600[μm]以下としたため、所望の正極合材層22を形成することができる。
【0124】
(8)本実施形態のニッケル水素蓄電池1の製造方法では、正極合材ペースト25のせん断速度が10[s-1]以下であり、かつ粘度が50m[Pa・s]以上、2000[mPa・s]以下とした。このように正極合材ペースト25の粘度を制御することで、所望の凹凸幅ΔW3を達成する達成することができる。
【0125】
(9)下側領域Wt3の正極合材ペースト25の吐出量を、上側領域Wt1の102%以上とした。このように正極合材ペースト25の吐出量を制御することで、所望の凹凸幅ΔW3を達成することができる。
【0126】
(10)塗工工程(S13)における正極合材ペースト25を吐出するノズル83と、正極集電体21とのクリアランスであるギャップGを調整する。このように、ギャップGを制御することで、所望の凹凸幅ΔW3を達成することができる。
【0127】
(別例)
本発明は、上記実施形態に拘わらず、以下のようにして実施することができる。
図9は、本実施形態のニッケル水素蓄電池1の正極板2の別例を示す模式図である。本実施形態では、説明の単純化のため、図7及び図8では、上側領域Wt1、中間領域Wt2、下側領域Wt3の3つに等分して説明した。しかしながら、例えば図9の右側に示すように、上側領域Wt1と下側領域Wt3と、中間領域Wt21、中間領域Wt22、中間領域23と、全部で5つの領域に等分して凹凸幅ΔWを管理するようにしてもよい。
【0128】
○また、図示は省略するが、例えば、上側領域Wt1を上から25%の領域とし、下側領域Wt3を下から25%の領域とし、残る50%の領域を中間領域Wt2とすることもできる。すなわち本実施形態においては、領域の分割は、特に、上部における凹凸幅ΔWを管理、制御、調整するためのものであるので、任意の不等分の分割をすることができる。
【0129】
○さらに、図9の左側に示すように、中間領域Wt2を省略して、上側の20%を上側領域Wt1とし、残り80%を下側領域Wt3とすることもできる。
○本実施形態では、溶媒である水や増粘剤の配合により正極合材ペースト25の粘度V[mPa・s]を調整して、所望の凹凸幅ΔW3、及び所望の関係ΔW3/Wpを有した正極合材層22を形成している。しかし粘度V[mPa・s]の調整に限定されず、所望の凹凸幅ΔW3、及び所望の関係ΔW3/Wpを達成できるものであればよい。要は、設定した凹凸幅ΔW、関係ΔW/Wpとなるように、凹凸幅ΔW、及び関係ΔW/Wpを指標として、これらに関係する手段で、これらを調整できればよい。
【0130】
○それには、例えば、吐出量[g/s]や、ギャップGを例示した。さらに、正極集電体21の構成が挙げられる。具体的には、正極集電体21の網目構造の大きさや形状、素材等を変更することで、所望の凹凸幅ΔW3、及び所望の関係ΔW3/Wpを達成してもよい。
【0131】
○また、その他の方法として正極合材ペースト25の粘度以外の組成、正極活物質を変更してもよい。例えば、正極合材ペースト25中の正極活物質の種類、径を変えることで、正極活物質粒子の沈降速度などを制御するようにすることもできる。また、正極合材ペースト25と正極集電体21の骨部との濡れ性(撥水性)を調整して、正極合材ペースト25の広がりや乱れを調整することもできる。
【0132】
○正極合材ペースト25の温度[°C]を変更することで、粘度を変更することもできる。また、せん断速度[s-1]を制御することで、間接的に粘度を調節することもできる。
【0133】
また、塗工機8からの吐出速度、吐出圧、吐出口の形状、搬送速度などの変更により、所望の凹凸幅ΔW3、及び所望の関係ΔW3/Wpを達成してもよい。
○もちろん、これらを組み合わせて所望の凹凸幅ΔW3、及び所望の関係ΔW3/Wpを達成してもよい。
【0134】
○実験例では、12枚の正極板2の内、3枚のみを所定の凹凸幅ΔW3、関係ΔW3/Wpのものを用いたが、3枚に限らず、全数を交換したものでも実施できる。
○本実施形態のニッケル水素蓄電池1は、車両の駆動用の電池を例に説明したが、電池の用途は限定されず、航空機や船舶のほか、定置用にも使用することができる。さらに、本発明が実施できる限り、ニッケル水素蓄電池に限定せず、他の二次電池で実施できる。
【0135】
○各図面は、本実施形態のニッケル水素蓄電池1を説明するために模式的に示す図もあり、必ずしも構成要素の数量、寸法のバランスは、誇張されたものもあり正確ではない場合がある。
【0136】
図4図5に示すフローチャートは例示であり、その手順を付加し削除し入れ替え、又は変更することができる。例えば、正極集電体製造工程(S11)、正極合材ペースト製造工程(S12)などは、順序を問わない。
【0137】
○正極合材ペーストの粘度V[mPa・s]などの数値は、実施形態における例示であり、本発明がこれらの数値や範囲に限定されることを意図するものではない。当業者によりニッケル水素蓄電池1の構成に合わせて最適化ができる。
【0138】
○本発明は、特許請求の範囲の記載を逸脱しない限り、当業者により、その構成を付加し削除し又は変更して実施できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0139】
1…ニッケル水素蓄電池
2…正極板
3…負極板
4…セパレータ
5…電解液
6…電極群
8…塗工機
9…真空吸着装置
12…電池セル
13…電池ケース(一体電槽)
13a…正極接続端子
13b…負極接続端子
14…蓋体
15…電槽
16…開口部
17…貫通孔
18…隔壁
21…正極集電体
21a~21d…塗布領域
21e~21i…非塗布領域
21j…上面
21k…下面
21l…リード部
21m…周縁部内面
22…正極合材層
22a…塗工側表面
22b…(正極合材層の)内部
22c…塗工側と反対の表面
22d…幅方向Wの端部
25…正極合材ペースト
25e…上面
25f…下面
27…正極集電板
31…負極集電体
37…負極集電板
81…ダイノズル
82…ダイ
83…ノズル
84…押さえローラ
85…支持部材
85a…第1支持部
85b…挿通部
85c…連結部
85d…第2支持部
86…ステージ
91…吸着パッド
L…長さ方向(塗工方向)
W…幅方向(短辺方向)
D…厚み方向
Wp…(塗工側の)塗工幅
Ws…(塗工側と反対の)塗工幅
Wo…(従来技術の)塗工幅
ΔW…(幅方向Wの正極合材層の端部の)凹凸幅
ΔW1…(上側領域の)凹凸幅
ΔW2…(中間領域の)凹凸幅
ΔW3…(下側領域の)凹凸幅
ΔW/Wp…関係
Wt1…上側領域
Wt2…中間領域
Wt3…下側領域
Wv1…(上側領域の未塗工部分の)幅
Wv2…(中間領域の未塗工部分の)幅
Wv3…(下側領域の未塗工部分の)幅
Wv0…(従来技術の未塗工部分の)幅
V…粘度[mPa・s]
Q…塗工量[cm/s]
Q0…従来の塗工量[cm/s]
Q1…(上側領域Wt1の平均の)塗工量[g/s]
Q2…(中間領域Wt2の平均の)塗工量[g/s]
Q3…(下側領域Wt3の平均の)塗工量[g/s]
G…ギャップ
P1…ポイント
P2…ポイント
P3…ポイント
P4…ポイント
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16