(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156663
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】浮体式原子炉の出力制御装置及び運転方法
(51)【国際特許分類】
G21D 3/00 20060101AFI20231018BHJP
G21C 1/00 20180101ALI20231018BHJP
G21D 3/10 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
G21D3/00 A
G21C1/00 200
G21D3/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066163
(22)【出願日】2022-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ポボルニー アントニーン
(72)【発明者】
【氏名】安田 賢一
(57)【要約】
【課題】浮体式原子炉を安定的に運転する。
【解決手段】浮体式原子炉の出力制御装置(プラント制御装置17)は、浮体式原子炉の揺動傾斜量を計測する計測部(揺動傾斜センサ9)と、計測部で計測された浮体式原子炉の揺動傾斜量に応じて浮体式原子炉の出力を調整する出力制御部23と、を備える。出力制御部は、炉心の内側と外側の静圧差異を算出し、計測部で計測された浮体式原子炉の揺動傾斜量に基づいて、静圧差異と二相流の圧力損失の変化量を算出し、炉心再循環流路の圧力損失特性の変化量を評価する第1評価手段41aと、第1評価手段で予測された炉心再循環流路圧力損失の変化量に基づいて、炉心再循環ポンプ回転速度を調整する第1調整手段42aと、浮体式原子炉の揺動傾斜量に応じて炉心流量変化量に依存しない反応度挿入を評価する第2評価手段41bと、反応度挿入に基づいて、反応度挿入指令を調整する第2調整手段42bと、を有するとよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮体式原子炉の揺動傾斜量を計測する計測部と、
前記計測部で計測された前記浮体式原子炉の揺動傾斜量に応じて前記浮体式原子炉の出力を調整する出力制御部と、を備える
ことを特徴とする浮体式原子炉の出力制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の浮体式原子炉の出力制御装置において、
前記出力制御部は、
炉心の内側と外側の静圧差異を算出し、前記計測部で計測された前記浮体式原子炉の揺動傾斜量に基づいて、当該静圧差異の変化量を算出し、炉心再循環流路の圧力損失特性の変化量を評価する第1評価手段と、
前記第1評価手段で評価された炉心再循環流路の圧力損失特性と前記出力制御部で生成された炉心流量調整指令に基づいて、再循環ポンプ回転速度を調整する第1調整手段と、を有する
ことを特徴とする浮体式原子炉の出力制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の浮体式原子炉の出力制御装置において、
前記出力制御部は、
前記計測部で計測された前記浮体式原子炉の揺動傾斜量に基づいて、炉心燃料内の沸騰特性、蒸気体積率、蒸気体積率分布を含む各種のパラメータの変化による反応度の変化量を評価するとともに反応度の変化量を予測する第2評価手段と、
前記第2評価手段で評価された反応度の変化量に基づいて、反応度変化量指令を調整する第2調整手段と、を有する
ことを特徴とする浮体式原子炉の出力制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の浮体式原子炉の出力制御装置において、
前記出力制御部は、
前記第1評価手段で予測された炉心再循環流路の圧力損失特性の変化量と前記第2評価手段で評価された反応度の変化量を相互にフィードバックし、反応度変化量指令と炉心流量変化量指令を調整する
ことを特徴とする浮体式原子炉の出力制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載の浮体式原子炉の出力制御装置において、
前記出力制御部は、
前記計測部で計測された前記浮体式原子炉の揺動傾斜量に基づいて、沸騰遷移が発生する限界出力の変化量を評価するとともに限界出力に対する余裕度を予測する第3評価手段と、
前記第3評価手段で予測された限界出力に対する余裕度が予め設定された閾値よりも小さくなった場合に出力を抑制する第3調整手段と、を有する
ことを特徴とする浮体式原子炉の出力制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載の浮体式原子炉の出力制御装置において、
前記出力制御部は、
炉心の内側と外側の静圧差異を算出し、前記計測部で計測された前記浮体式原子炉の揺動傾斜量に基づいて、当該静圧差異の変化量を算出し、炉心再循環流路の圧力損失特性の変化量を評価する第1評価手段と、
前記第1評価手段で評価された炉心再循環流路の圧力損失特性に基づいて、再循環ポンプなし自然循環原子炉の炉心流量変化量を予測する第4評価手段と、
前記第4評価手段で予測された炉心流量変化量に基づいて、反応度変化量指令を調整する第4調整手段と、を有する
ことを特徴とする浮体式原子炉の出力制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の浮体式原子炉の出力制御装置において、
前記出力制御部は、
前記計測部で計測された前記浮体式原子炉の揺動傾斜量に基づいて、炉心燃料内の沸騰特性、蒸気体積率、蒸気体積率分布を含む各種のパラメータの変化による反応度の変化量を評価するとともに反応度の変化量を予測する第2評価手段と、
前記第2評価手段で評価された反応度の変化量に基づいて、反応度変化量指令を調整する第2調整手段と、を有する
ことを特徴とする浮体式原子炉の出力制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載の浮体式原子炉の出力制御装置において、
前記出力制御部は、
反応度挿入指令に応じて算出した炉心流量指令と前記計測部で計測された前記浮体式原子炉の揺動傾斜量に基づいて、炉心水位指令を算出し、給水流量指令を調整すると、実際給水流量に応じて炉心水位変化量を予測し、炉心水位変化量と前記計測部で計測された前記浮体式原子炉の揺動傾斜量とに応じて炉心流量変化量を予測する給水流量設定器と、を有する
ことを特徴とする浮体式原子炉の出力制御装置。
【請求項9】
計測された浮体式原子炉の揺動傾斜量に応じて前記浮体式原子炉の出力を調整する出力制御工程を含む
ことを特徴とする浮体式原子炉の運転方法。
【請求項10】
請求項9に記載の浮体式原子炉の運転方法において、
炉心の内側と外側の静圧差異の変化量に応じて再循環ポンプの回転速度を調整する再循環ポンプ回転速度調整工程をさらに含む
ことを特徴とする浮体式原子炉の運転方法。
【請求項11】
請求項9に記載の浮体式原子炉の運転方法において、
炉心流量の変化量を予測する炉心流量の変化量予測工程と、
炉心流量の変化量の変化量に応じて制御棒位置を調整する制御棒位置調整工程と、をさらに含む
ことを特徴とする浮体式原子炉の運転方法。
【請求項12】
請求項9に記載の浮体式原子炉の運転方法において、
沸騰遷移が発生する限界出力の変化量を評価する限界出力の変化評価工程と、
限界出力に対する余裕度が予め設定された閾値よりも小さくなった場合に出力を抑制する出力抑制制御工程と、をさらに含む
ことを特徴とする浮体式原子炉の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮体式原子炉の出力制御装置及び運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラントでは安定に運転し所望の発電機出力を得るため、例えば、特許文献1に記載された構成のものがある。特許文献1に記載された原子力発電プラントは、発電機の出力目標値と発電機の実出力との差である第1の発電機出力偏差信号に基づき蒸気の抽気量を設定する抽気制御装置と、発電機の実出力から抽気制御装置の抽気量の制御による発電機の出力への寄与分を減算した補正発電機出力と、発電機の出力目標値と補正発電機出力との差である第2の発電機出力偏差信号を出力する出力制御装置と、出力制御装置からの第2の発電機出力偏差信号に応じて、再循環ポンプの再循環流量を調整する再循環流量制御装置と、第2の発電機出力偏差信号に応じて、制御棒の位置を変更する制御棒制御装置とを備えるものである。
【0003】
また、原子力発電プラントでは、浮体式原子炉を備えるものが開発されつつある(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に記載された原子力発電プラントは、各々独立して全方向に回転可能な複数基の推進器が底部に搭載された複数の水中フロート、複数本のコラム及びプラットホームを備えたセミサブ型の浮体構造物、又は同様の複数基の推進器が底部に搭載された台船を備えた台船型の浮体構造物と、この箱型プラットホーム又は台船に載置され、ケーブルによって陸上施設と接続される原子力発電設備と、自動船位保持システムとを備えるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許6608324号公報
【特許文献2】特許4324640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された原子力発電プラントは、浮体式原子炉を備えない、陸上に設置されたものである。そのため、特許文献1に記載された原子力発電プラントは、浮体式原子炉で発生する揺動及び傾斜、並びにこの揺動及び傾斜による原子力発電プラントへの影響について、検討されていない。
【0006】
例えば、浮体式原子炉の揺動により慣性力の振動が発生し、傾斜による炉心軸方向重力が減少する。この現象が流体に影響し、沸騰水型原子炉の場合では、炉心蒸気体積率と蒸気体積率分布、炉心圧力損失と沸騰特性等が変化し、炉心出力が変化又は振動する。また、揺動及び傾斜により、沸騰遷移が発生する限界出力が変化する可能性がある。特許文献1に記載された原子力発電プラントは、揺動及び傾斜による炉心出力の変化と振動には対応しておらず、限界出力に対する揺動及び傾斜の影響を考慮していないため、浮体式原子炉において、安定な運転が出来ない可能性がある。
【0007】
一方、特許文献2に記載された原子力発電プラントは、浮体式原子炉を備えるものである。特許文献2には、浮体式原子炉の揺動及び傾斜自体を緩和する構成については記載されているが、浮体式原子炉の揺動及び傾斜が発生した場合に、揺動及び傾斜により原子炉内で発生する影響を緩和する出力制御装置や運転方法等については記載されていない。そのため、浮体式原子炉の揺動及び傾斜が発生した場合に、揺動及び傾斜による影響を緩和して、浮体式原子炉を安定的に運転する出力制御装置及び運転方法の提供が要望されている。
【0008】
本発明は、前記した課題を解決するためになされたものであり、浮体式原子炉を安定的に運転する出力制御装置及び運転方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は、浮体式原子炉の出力制御装置であって、浮体式原子炉の揺動傾斜量を計測する計測部と、前記計測部で計測された前記浮体式原子炉の揺動傾斜量に応じて前記浮体式原子炉の出力を調整する出力制御部と、を備える構成とする。
その他の手段は、後記する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、浮体式原子炉を安定的に運転することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係る原子力発電プラントの全体構成図である。
【
図2】第1実施形態に係る出力制御装置の動作説明図である。
【
図3】第1実施形態に係る原子力発電プラントの状態説明図である。
【
図4】第2実施形態に係る原子力発電プラントの全体構成図である。
【
図5】第2実施形態に係る出力制御装置の動作説明図である。
【
図6】第3実施形態に係る原子力発電プラントの全体構成図である。
【
図7】第3実施形態に係る出力制御装置の動作説明図である。
【
図8】変形例の原子力発電プラントの全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」と称する)について詳細に説明する。各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示しているに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。また、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0013】
[第1実施形態]
<原子力発電プラントの構成>
以下、
図1を参照して、本第1実施形態に係る原子力発電プラント100の構成について説明する。
図1は、本第1実施形態に係る原子力発電プラント100の全体構成図である。本第1実施形態に係る原子力発電プラント100は、浮体式原子炉として構成された後記する原子炉1と、後記する揺動傾斜センサ9と、後記する出力制御部23と、を備えるものである。
【0014】
図1に示すように、第1実施形態に係る原子力発電プラント100は、原子炉1を水(水面)に浮かべるための浮体式プラットフォーム31と、原子力発電プラント100の動作を制御するプラント制御装置17と、プラント制御装置17に各種の指示を入力するための指示装置50と、を備えている。
【0015】
浮体式プラットフォーム31には、原子炉1、再循環ポンプ7、蒸気加減弁10、タービン11、発電機12、復水器14、給水ポンプ15、抽気弁16、制御室24等の設備が設けられている。制御室24には、手動調整のための装置が設けられている。
【0016】
プラント制御装置17は、再循環ポンプ制御装置18と、制御棒制御装置19と、圧力制御装置20と、抽気制御装置21と、給水流量制御装置22と、出力制御部23と、を有している。
【0017】
再循環ポンプ制御装置18は、再循環ポンプ7へ流量制御指令を出力して、再循環ポンプ7を制御することで、原子炉1の再循環流量を制御する。再循環ポンプ制御装置18は、出力制御部23のポンプ回転速度設定器25からポンプ回転速度信号を入力する。
【0018】
制御棒制御装置19は、制御棒8へ挿入または引き抜き指令を出力して、原子炉1の内部に配置された制御棒8の挿入位置を制御する。制御棒制御装置19は、出力制御部23の制御棒位置設定器26と図示しない出力制御装置から位置信号を入力する。
【0019】
圧力制御装置20は、蒸気加減弁10へ開度指令を出力して、原子炉1の圧力を設定値に調整する。圧力制御装置20は、出力制御部23の加減弁開度設定器27から蒸気加減弁開度信号を入力する。
【0020】
抽気制御装置21は、抽気弁16へ開度指令を出力して、原子炉1へ流れる給水の温度を設定値となるように調整する。抽気制御装置21は、出力制御部23の抽気量設定器28から抽気量信号を入力する。
【0021】
給水流量制御装置22は、給水ポンプ15へ流量指令を出力して、原子炉1の水位を設定値となるように調整する。給水流量制御装置22は、出力制御部23の給水流量設定器29から給水流量信号を入力する。
【0022】
出力制御部23は、炉心2の出力を制御する。出力制御部23の構成については後記する。
【0023】
プラント制御装置17は、炉心出力モニタ3、圧力センサ4、流量センサ5、水位センサ6、揺動傾斜センサ9、発電機出力センサ13と接続されている。
炉心出力モニタ3は、炉心2での連鎖反応の速度を検知する。
圧力センサ4は、原子炉1の圧力を検知する。
流量センサ5は、炉心2の冷却水の流量を検知する。
水位センサ6は、原子炉1内の冷却水の水位を検知する。
揺動傾斜センサ9は、原子炉1の揺動と傾斜を検知する。
発電機出力センサ13は、発電機12の出力を検知する。
【0024】
これらの中で、揺動傾斜センサ9は、原子炉1(浮体式原子炉)の揺動傾斜量を計測する計測部として機能する。ここで、「揺動傾斜量」とは、原子炉1の揺動(上下方向の振動の加速度)と原子炉1の傾斜量(水面に対する原子炉1の上下方向の軸の傾き角度)の双方を意味しているものとして説明する。揺動傾斜センサ9は、原子炉1の揺動(上下方向の振動の加速度及び水平方向の振動の加速度)を検知する揺動センサと原子炉1の傾斜量(水面に対する原子炉1の上下方向の軸の傾き角度)を検知する傾斜センサとを有している。揺動センサと傾斜センサとは、別体で構成されていてもよいし、一つに統合して構成されていてもよい。揺動傾斜センサ9は、揺動による加速度及び原子炉1の傾斜を計測し、揺動による慣性と重力による加速度を原子炉1と連動した座標系に線型変換し、原子炉1の軸方向と軸に垂直な平面方向の加速度を出力する。
【0025】
出力制御部23は、ポンプ回転速度設定器25と、制御棒位置設定器26と、加減弁開度設定器27と、抽気量設定器28と、給水流量設定器29と、第1評価手段41aと、第1調整手段42aと、第2評価手段41bと、第2調整手段42bと、第3評価手段41cと、第3調整手段42cとを有している。
【0026】
ポンプ回転速度設定器25は、再循環ポンプ7の回転速度を設定することで原子炉1の再循環流量を制御する。
制御棒位置設定器26は、制御棒8の挿入位置を設定する。
加減弁開度設定器27は、蒸気加減弁10の開度を設定することで原子炉1の圧力を設定値に調整する。
抽気量設定器28は、抽気弁16の開度を設定することで原子炉1へ流れる給水の温度を設定値となるように調整する。
給水流量設定器29は、給水ポンプ15による給水流量を設定することで原子炉1の水位を設定値となるように調整する。
【0027】
第1評価手段41aは、炉心再循環流路の圧力損失特性の変化量を評価する。第1評価手段41aは、炉心(図示せぬ炉心シュラウド)の内側と外側の静圧差異を算出し、揺動傾斜センサ9(計測部)で計測された原子炉1の揺動傾斜量に基づいて、静圧差異の変化量と二相流圧力損失の変化量を算出し、炉心再循環流路の圧力損失特性の変化量を評価する。
【0028】
第1調整手段42aは、原子炉1の揺動及び傾斜の影響による再循環流量への影響を緩和するために、第1評価手段で予測された炉心再循環流路の圧力損失特性の変化量と炉心流量指令とに基づいて、再循環ポンプ7のヘッド指令を評価し、再循環ポンプ7回転速度を調整する。
【0029】
第2評価手段41bは、炉心での反応度の揺動及び傾斜による変化量を評価するとともに反応度の変化量を評価する手段である。第2評価手段41bは、揺動傾斜センサ9(計測部)で計測された原子炉1の揺動傾斜量に基づいて、炉心燃料内の沸騰特性、蒸気体積率、蒸気体積率分布を含む各種のパラメータの変化による反応度の変化量を評価するとともに反応度の変化量を予測する。
【0030】
第2調整手段42bは、炉心での反応度を変化させるための指令(反応度挿入指令)を調整する手段である。第2調整手段42bは、第2評価手段41bで評価された反応度の変化量に基づいて、反応度変化量指令を調整する。
【0031】
第3評価手段41cは、揺動傾斜センサ9(計測部)で計測された原子炉1の揺動傾斜量に基づいて、沸騰遷移が発生する限界出力の変化量を評価するとともに限界出力に対する余裕度を予測する手段である。
【0032】
第3調整手段42cは、第3評価手段41cで予測された限界出力に対する余裕度が予め設定された閾値よりも小さくなった場合に出力を抑制する手段である。
【0033】
原子炉1の内部には、炉心2が設置されており、さらに、炉心2の内部には、燃料(炉心燃料)と、燃料の連鎖反応を制御する制御棒8と、連鎖反応を維持する減速材として利用する冷却材(冷却水)とが収納されている。原子力発電プラント100は、燃料の連鎖反応を維持しながら、冷却材を沸騰させることで、蒸気を生成する。蒸気が生成されると減速材の密度が減少し、連鎖反応速度が減少し、発熱と蒸発量も減少しというフィードバック過程による、蒸気体積率と反応度の均衡が確立される。また、原子炉1の周囲には、冷却材を再循環させる再循環ポンプ7が設けられている。原子力発電プラント100は、再循環ポンプ7による冷却水の再循環流量を調整し、蒸気体積率と蒸気体積率による反応度を制御するとともに、原子炉1内の制御棒8の挿入位置を設定することで、炉心2の出力を調整して原子炉1で発生する(生成される)蒸気量を制御する。
【0034】
原子炉1で発生した(生成された)蒸気は、蒸気配管と蒸気配管に設けられた蒸気加減弁10を通じてタービン11に導かれる。蒸気加減弁10は、原子炉1からタービン11へ流れる蒸気流量を調整する。タービン11には発電機12が連結されており、発電機12が発電することで、蒸気のエネルギーを電力に変換する。発電機12の近傍には発電機出力センサ13が設けられており、発電機出力センサ13で発電機出力を検出する。
【0035】
タービン11を駆動した後の蒸気は、復水器14の図示しない熱交換器によって熱交換されることで凝縮され冷却水に戻る。冷却水は、給水ポンプ15によって原子炉1内と同程度の圧力まで加圧され、図示しない給水加熱器によって加熱された後に、抽気弁16を通ったタービン抽気とともに原子炉1に給水される。給水ポンプ15(又は図示しない弁)は、給水流量を調整する。抽気弁16は、給水温度を調整する。
【0036】
<原子力発電プラントの動作>
以下、
図2及び
図3を参照して、原子力発電プラント100の動作について説明する。
図2は、原子力発電プラント100の出力制御部23の動作説明図である。
図3は、原子力発電プラント100の状態説明図である。原子力発電プラント100は水面に浮かべられることから、本実施形態では、原子炉1の揺動及び傾斜が発生する場合であっても、特にポンプ回転速度設定器25によって再循環ポンプ7の回転速度を制御して冷却水の炉心流量を調整することで、揺動及び傾斜による影響を緩和し、原子炉1を安定的に運転するものである。
【0037】
図2に示すように、原子力発電プラント100において、出力制御部23には、指示装置50から発電機12の発電機出力設定値I50が入力され、発電機出力センサ13から発電機12の発電機出力I13が入力され、圧力センサ4から炉心の圧力である炉心圧力I4が入力される。
【0038】
出力制御部23は、発電機出力設定値I50と発電機出力I13との差分値と炉心圧力I4とに基づいて、差分値がゼロに近似するように、圧力に応じた出力の調整を開始する(ステップS10)。そして、出力制御部23は、PID制御(比例積分微分制御)を行い(ステップS15)、炉心出力を調整するための炉心出力指令を生成する(ステップS20)。
【0039】
また、出力制御部23には、炉心出力モニタ3から炉心出力I3が入力され、流量センサ5から炉心を流れる冷却水の流量である炉心流量I5が入力され、水位センサ6から炉心内の冷却水の水位I6が入力され、揺動傾斜センサ9から浮体式プラットフォーム31の揺動傾斜量I9が入力される。
【0040】
出力制御部23は、ステップS20で生成された炉心出力指令と炉心出力I3との差分値に基づいて、反応度挿入指令を生成する(ステップS25)。次に、出力制御部23は、ステップS25で生成された反応度挿入指令と揺動傾斜量I9とに基づいて、浮体式プラットフォーム31の揺動傾斜量に応じた反応度挿入指令の調整を開始する(ステップS30)。そして、出力制御部23は、反応度を調整するための炉心流量調整指令を生成する(ステップS35)。
【0041】
また、出力制御部23は、炉心流量I5と水位I6と炉心出力I3に基づいて、炉心(図示せぬ炉心シュラウド)の内側と外側の静圧差異を算出し(ステップS40)、揺動傾斜量I9に応じた静圧差異の変化量を評価する(ステップS42)。そして、出力制御部23は、静圧差異の変化量と炉心流量I5と揺動傾斜量I9と炉心出力I3とに基づいて、炉心再循環流路の圧力損失特性の変化量を評価する(ステップS44)。ステップS40の炉心の内側と外側の静圧差異、ステップS42の揺動傾斜量I9に応じた静圧差異の変化量、ステップS44の炉心再循環流路の圧力損失特性の変化量は、
図3に示すような関係になっている。
図3は、横軸を炉心流量とし、縦軸を圧力損失及びポンプヘッドを表す圧力量とし、原子力発電プラント100の状態の変化を示している。
図3中、実線は変化させる前の圧力損失特性を示しており、破線は揺動と傾斜により変化した後の圧力損失特性を示している。
【0042】
また、出力制御部23は、炉心流量I5とステップS35で生成された炉心流量調整指令とステップS44で評価された炉心再循環流路の圧力損失特性の変化量とに基づいて、再循環ポンプ7のヘッドを評価する(ステップS48)。
【0043】
次に、出力制御部23は、ステップS48で評価された再循環ポンプ7のヘッドとステップS35で生成された炉心流量調整指令に基づいて、再循環ポンプ7の回転速度の調整を開始する(ステップS50)。そして、出力制御部23は、ポンプ回転速度設定器25(
図1参照)で、再循環ポンプ回転速度変化指令を生成する(ステップS55)。出力制御部23は、ステップS55で生成された再循環ポンプ回転速度変化指令を再循環ポンプ制御装置18(
図1参照)に出力して、再循環ポンプ制御装置18(
図1参照)に再循環ポンプ7の回転速度を調整させる。これにより、
図3に示すように、変化させる前の実線の圧力損失特性とポンプ特性とが交差する状態点から、変化させる後の破線の圧力損失特性と回転速度変更後ポンプ特性とが交差する状態指令点に、原子力発電プラント100の状態が変化する。
【0044】
ここで
図2に示す出力制御部23の動作について補足する。出力制御部23は、炉心出力モニタ3、圧力センサ4、流量センサ5、水位センサ6、揺動傾斜センサ9、並びに発電機出力センサ13から信号を入力する。また出力制御部23は、制御室24から発電機出力設定値を入力する。
【0045】
出力制御部23は、発電機出力センサ13から入力した発電機出力から発電機出力設定値を引いて、発電機出力変更指令を計算する。出力制御部23は、圧力センサ4から入力した圧力による調整し、PID制御(比例積分微分制御)を実施し、炉心出力指令を計算する。出力制御部23は、炉心出力指令と炉心出力モニタ3から入力した炉心出力の差異から反応度挿入指令を計算する。出力制御部23は、揺動傾斜センサ9から入力した原子炉1の軸方向と軸に垂直な平面方向の加速度、及び傾斜の変化量と炉心流量が変化しない条件で反応度変化量との関係をテーブル化しておき、反応度挿入指令を調整し、この反応度挿入指令から蒸気体積率変化の指令を計算し、流量センサ5から入力した炉心流量と炉心出力モニタ3から入力した炉心出力とに基づいて、炉心流量の指令を計算する。出力制御部23は、炉心出力モニタ3から入力した炉心出力と流量センサ5から入力した炉心流量と水位センサ6から入力した原子炉1の水位と揺動傾斜センサ9から入力した炉心2(原子炉1)の軸方向加速度とを使用し、炉心(図示しない炉心シュラウド)の外側と内側の静圧差異の変化量を計算する。出力制御部23は、静圧差異の変化量と流量センサ5から入力した炉心流量と炉心出力モニタ3から入力した炉心出力と揺動傾斜センサ9から入力した原子炉1の軸方向と軸に垂直な平面方向の加速度、及び傾斜の変化量から再循環流路の圧力損失特性の変化量を計算する。出力制御部23は、再循環ポンプ特性データをテーブル化しておき、炉心流量変化指令と再循環流路の圧力損失特性の変化量から再循環ポンプヘッドを計算し、再循環ポンプ回転数変化指令を計算する。出力制御部23は、再循環ポンプ回転数変化指令を出力する。
【0046】
制御棒位置設定器26は、制御棒制御装置19への位置信号を出力して、制御室24と
図1で図示しない運転監視機能とから信号を入力する。
【0047】
加減弁開度設定器27は、圧力制御装置20へ蒸気加減弁開度信号を出力して、圧力センサ4から入力した炉心2の圧力と発電機出力センサ13から入力した発電機出力と図示しない主蒸気管流量センサから入力した主蒸気管流量と図示しない主蒸気管圧力センサから入力した主蒸気管圧力を入力して、原子炉1の圧力が設定値となるように調整する。その際に、出力制御部23は、蒸気加減弁流量を計算して、蒸気加減弁開度を計算する。
【0048】
抽気量設定器28は、抽気制御装置21へ抽気量信号を出力して、給水ポンプ15の給水流量を入力して、給水温度を設定値となるように調整する。その際に、出力制御部23は、抽気量を計算する。
【0049】
給水流量設定器29は、給水流量制御装置22へ給水流量信号を出力して、水位センサが計測した原子炉1の水位と主蒸気流量と給水流量とを入力して、原子炉1の水位が設定値となるように調整する上で、給水流量と主蒸気流量のミスマッチによる炉心2の水位の変化量を予測し、給水流量指令を調整する。
【0050】
次に、運転監視機能を説明する。炉心流量と炉心出力の運転マップで運転許可の領域の境界(領域境界)をテーブル化しておき、揺動及び傾斜による運転許可の領域境界に対する影響もテーブル化しておき、揺動傾斜センサ9から入力する揺動による速度及び傾斜度とを入力して、通常運転時の運転領域境界を計算する。炉心出力モニタ3から入力する炉心出力と流量センサ5から入力する炉心流量と計算した運転領域境界(通常運転時の運転領域境界)とを比較し、炉心流量が運転領域境界を超えた場合、制御棒位置設定器26へ信号を出力する。
【0051】
上述したように、本第1実施形態によれば、揺動及び傾斜の計測、及び計測による出力制御部23が実施する調整により、浮体式原子炉とした沸騰水型原子炉の安定な運転ができる。また、揺動及び傾斜の計測値による運転領域の調整により、浮体式原子炉とした沸騰水型原子炉の適切な運転監視ができる。
【0052】
係る構成において、原子力発電プラント100では、浮体式プラットフォーム31の上下方向及び水平方向の移動と傾斜とに伴って、浮体式プラットフォーム31に上下方向及び水平方向の加速度が加わる。そのため、炉心2の蒸気体積率と再循環流路の圧力損失が変化し、冷却水の流量と炉心1の出力が変化する。そこで、本実施形態では、出力制御部23のポンプ回転速度設定器25(
図1参照)が、ステップS55で、出力の変化が小さくなるように、再循環ポンプ7の回転速度を変更するためのポンプ回転速度変更指令を生成し、再循環ポンプ制御装置18に出力することで、再循環ポンプ7の回転速度を調整する。
【0053】
本第1実施形態に係る原子力発電プラント100は、浮体式原子炉の出力制御装置で揺動及び傾斜の影響を緩和し、揺動及び傾斜時においても原子炉の安定と安全な運転を可能とする。
【0054】
(1)本第1実施形態に係る原子力発電プラント100は、再循環ポンプ7の回転速度で原子炉1の出力を調整する。本第1実施形態に係る原子力発電プラント100は、強制循環の沸騰水型原子炉の場合で、計測した揺動及び傾斜において、反応度挿入指令と再循環ポンプの回転速度変化指令を調整し、揺動及び傾斜による炉心出力及び炉心流量へ影響を緩和ができる。
(2)本第1実施形態に係る原子力発電プラント100は、原子炉1の揺動及び傾斜による沸騰遷移が発生する限界出力の変化を考慮し、運転許可の領域の境界(領域境界)を調整し、安全な運転を可能とする。なお、沸騰遷移とは、沸騰状態が環状流から噴霧流へ遷移することであり、このときには燃料棒表面の液膜が消失して燃料棒表面温度が急上昇する。
(3)本第1実施形態に係る原子力発電プラント100は、原子炉1の揺動及び傾斜の計測データから、揺動及び傾斜を予測することによって、原子炉の出力制御装置の安定性を向上できる。
【0055】
本第1実施形態に係る原子力発電プラント100は、浮体式原子炉である原子炉1を安定的に運転することができる。
【0056】
[第2実施形態]
以下、
図4を参照して、本第2実施形態に係る原子力発電プラント100Aの構成について説明する。
図4は、本第2実施形態に係る原子力発電プラント100Aの全体構成図である。本第2実施形態に係る原子力発電プラント100Aは、前記した第1実施形態に係る原子力発電プラント100と比較すると、再循環ポンプ7を用いずチムニー30を設け所望の炉心流量を得ており、出力制御部23Aの運転方法が異なる。
【0057】
図4に示すように、本第2実施形態に係る原子力発電プラント100Aは、前記した本第1実施形態に係る原子力発電プラント100(
図1参照)と比較すると、以下の点で相違する。
(1)チムニー30が追加されている点。
(2)再循環ポンプ7とプラント制御装置17と再循環ポンプ制御装置18とポンプ回転速度設定器25と第1調整手段42aが削除されている点。
(3)原子力発電プラント100Aの出力制御部23Aが第4評価手段41dと第4調整手段42dとを有している点。
(4)出力制御部23Aで生成と調整された反応度挿入指令を制御棒位置設定器26に入力し、制御棒8を移動することによる、炉心出力を調整する点。
【0058】
第4評価手段41dは、自然循環による炉心流量を評価するとともに炉心流量の変化量を予測する手段である。第4評価手段41dは、第1評価手段41aで評価された原子炉1の再循環流路の圧力損失特性に基づいて、再循環ポンプなし自然循環原子炉の炉心流量の変化量を評価する。
第4調整手段42dは、炉心での反応度を変化させるための指令(反応度変化量指令)を調整する手段である。第4調整手段42dは、第4評価手段41dで予測された炉心流量の変化量に基づいて、反応度変化量指令を調整する。
【0059】
第2実施形態に係る原子力発電プラント100Aは、再循環ポンプ7と再循環ポンプ制御装置18とポンプ回転速度設定器25がないため、制御棒8の位置による炉心出力を調整する。制御棒制御装置19は制御棒8へ挿入または引き抜き指令を出力して、制御棒8の位置を制御する。その際に、出力制御部23Aは、出力制御部23の制御棒位置設定器26と制御室24と
図4に図示しない運転監視機能から制御棒8の挿入指令信号を入力する。
【0060】
以下、
図5を参照して、原子力発電プラント100Aの動作について説明する。
図5は、原子力発電プラント100Aの出力制御部23Aの動作説明図である。第2実施形態に係る原子力発電プラント100Aの出力制御部23は、制御棒位置設定器26の動作が異なる。本実施形態では、原子炉1の揺動及び傾斜が発生する場合であっても、特に制御棒位置設定器26によって制御棒8の位置を調整して制御棒8の反応度による炉心出力を制御することで、揺動及び傾斜による影響を緩和し、浮体式原子炉である原子炉1を安定的に運転するものである。
【0061】
図5に示すように、本第2実施形態に係る原子力発電プラント100Aにおいて、出力制御部23Aには、指示装置50から発電機出力設定値I50が入力され、発電機出力センサ13から発電機出力I13が入力され、圧力センサ4から炉心圧力I4が入力される。また、出力制御部23Aには、炉心出力モニタ3から炉心出力I3が入力され、流量センサ5から炉心流量I5が入力され、水位センサ6から水位I6が入力され、揺動傾斜センサ9から揺動傾斜量I9が入力される。
【0062】
本第2実施形態に係る原子力発電プラント100Aの出力制御部23Aは、前記した第1実施形態の原子力発電プラント100と同様に、ステップS10からステップS30の処理を行う。
【0063】
また、本第2実施形態に係る原子力発電プラント100Aの出力制御部23Aは、前記した第1実施形態の原子力発電プラント100と同様に、ステップS40からステップS44の処理を行う。
【0064】
ただし、本第2実施形態に係る原子力発電プラント100Aの出力制御部23Aは、ステップS44の後、炉心流量変化量を予測し(ステップS46)、炉心流量変化量に応じた反応度挿入指令を調整する(ステップS60)。
【0065】
次に、出力制御部23Aは、ステップS60で調整された補正反応度挿入指令と制御棒位置I9に基づいて、制御棒位置設定器26(
図1参照)で、制御棒8の挿入を指示する制御棒挿入指令を生成する(ステップS66)。出力制御部23Aは、ステップS66で生成された制御棒挿入指令を制御棒制御装置19(
図1参照)に出力して、制御棒制御装置19(
図1参照)に制御棒8の位置を調整させる。
【0066】
ここで
図5に示す出力制御部23Aの動作について補足する。制御棒位置設定器26は、制御棒8の反応度による炉心出力を制御する。その際に、出力制御部23Aは、炉心出力モニタ3と圧力センサ4と流量センサ5と水位センサ6と揺動傾斜センサ9と発電機出力センサ13とから信号を入力する。制御棒位置設定器26は、制御棒制御装置19へ制御棒8の挿入指令信号を出力する。
【0067】
出力制御部23Aは、発電機出力センサ13から入力した発電機出力から発電機出力設定値を引いて、発電機出力変更指令を計算する。出力制御部23Aは、圧力センサ4から入力した圧力による調整し、比例積分微分制御を実施し、炉心出力指令を計算する。出力制御部23Aは、炉心出力指令と炉心出力モニタ3から入力した炉心出力の差異から反応度挿入指令を計算する。出力制御部23Aは、揺動傾斜センサ9から入力した原子炉1の軸方向と軸に垂直な平面方向の加速度及び傾斜の変化量と炉心流量が変化しない条件で反応度変化量との関係をテーブル化しておき、反応度挿入指令を調整する。
【0068】
また出力制御部23Aは、炉心出力モニタ3から入力した炉心出力と流量センサ5から入力した炉心流量と水位センサ6から入力した炉心水位と揺動傾斜センサ9から入力した炉心2の軸方向加速度と利用し、シュラウド外側とシュラウド内側の静圧差異の変化量と再循環流路の圧力損失特性の変化量を計算し、炉心流量変化量を予測し、炉心流量変化量による反応度挿入指令を調整する。出力制御部23Aは、制御棒8の位置と制御棒8による反応度(制御棒価値)との関係をテーブル化しておき、補正反応度挿入指令と制御棒8の位置とから、制御棒挿入指令を計算し、制御棒制御装置19へ制御棒8の挿入指令信号を出力する。
【0069】
係る構成において、原子力発電プラント100Aでは、浮体式プラットフォーム31の上下方向及び水平方向の移動と傾斜とに伴って、浮体式プラットフォーム31に上下方向及び水平方向の加速度が加わる。そのため、炉心での反応度が変化する。そこで、本実施形態では、出力制御部23Aの制御棒位置設定器26(
図1参照)が、ステップS66で、炉心での反応度の変化が小さくなるように、炉心での反応度を変更するための制御棒挿入指令を生成し、制御棒制御装置19に出力することで、制御棒8の位置を調整する。
【0070】
本第2実施形態に係る原子力発電プラント100Aは、第1実施形態に係る原子力発電プラント100と同様に、浮体式原子炉の出力制御装置で揺動及び傾斜の影響を緩和し、揺動及び傾斜時においても原子炉の安定と安全な運転を可能とする。
【0071】
本第2実施形態に係る原子力発電プラント100Aは、制御棒の挿入量で原子炉の出力を調整する。本第2実施形態に係る原子力発電プラント100Aは、自然循環の沸騰水型原子炉の場合で、計測した揺動及び傾斜において、反応度挿入指令を調整し、揺動及び傾斜による炉心出力及び炉心流量へ影響を緩和ができる。
【0072】
本第2実施形態に係る原子力発電プラント100Aは、第1実施形態に係る原子力発電プラント100と同様に、浮体式原子炉である原子炉1を安定的に運転することができる。
【0073】
[第3実施形態]
以下、
図6を参照して、本第3実施形態に係る原子力発電プラント100Bの構成について説明する。本第3実施形態に係る原子力発電プラント100Bは、前記した第2実施形態に係る原子力発電プラント100Aと比較すると、出力制御部23Bの運転方法(特に、制御棒位置設定器26、抽気量設定器28、給水流量設定器29の運転方法)が異なる。
【0074】
図6に示すように、本第3実施形態に係る原子力発電プラント100Bは、前記した本第2実施形態に係る原子力発電プラント100A(
図4参照)と比較すると、以下の点で相違する。
原子力発電プラント100Bの出力制御部23Bが第4評価手段41dを削除し、第5調整手段42eを有し、給水流量設定器29と抽気量設定器28とを変更している点。
【0075】
給水流量設定器29は、炉心2での反応度を変化させるための指令(反応度挿入指令)に基づいて、原子炉1の再循環流量を調整する。給水流量設定器29は、炉心流量調整指令に基づいて、原子炉1の水位調整指令を計算し、給水流量の変化量指令を評価する。また調整された実際給水流量に基づいて、原子炉1の炉心水位変化量を予測し、第4評価手段41dと同じように炉心流量変化量を予測する。
第4調整手段42dは、第4評価手段41dではなくて給水流量設定器29で予測された炉心流量変化量に基づいて、反応度変化量指令を調整する。
【0076】
抽気量設定器28は、炉心2での反応度を変化させるための指令(反応度挿入指令)に基づいて、炉心2の入口温度を調整する。抽気量設定器28は、炉心2の入口温度の変化量指令を生成し、給水温度の指令を計算し、抽気量を評価する。
第5調整手段42eは、炉心での反応度を変化させるための指令(反応度挿入指令)を調整する手段である。第5調整手段42eは、抽気量設定器28で予測された給水温度に基づいて、炉心2の入口温度を評価し、反応度変化量指令を調整する。
【0077】
以下、
図7を参照して、原子力発電プラント100Bの動作について説明する。
図7は、原子力発電プラント100Bの出力制御部23Bの動作説明図である。
【0078】
図7に示すように、本第3実施形態に係る原子力発電プラント100Bにおいて、出力制御部23Bには、指示装置50から発電機出力設定値I50が入力され、発電機出力センサ13から発電機出力I13が入力され、圧力センサ4から炉心圧力I4が入力される。また、出力制御部23Bには、炉心出力モニタ3から炉心出力I3が入力され、流量センサ5から炉心流量I5が入力され、水位センサ6から水位I6が入力され、揺動傾斜センサ9から揺動傾斜量I9が入力される。また、出力制御部23Bには、制御棒制御装置19から制御棒位置I19が入力される。
【0079】
本第3実施形態に係る原子力発電プラント100Bの出力制御部23Bは、前記した第1実施形態に係る原子力発電プラント100と同様に、ステップS10からステップS35の処理を行う。
【0080】
また、本第3実施形態に係る原子力発電プラント100Bの出力制御部23Bは、前記した第1実施形態に係る原子力発電プラント100と同様に、ステップS40からステップS44の処理を行う。
【0081】
ただし、本第3実施形態に係る原子力発電プラント100Bの出力制御部23Bは、ステップS35とステップS44の後、ステップS35で生成された炉心流量調整指令に基づいて、再循環ポンプではなくて水位変更による炉心流量を調整する。給水流量設定器29は、ステップ35で生成された炉心流量調整指令とステップ44で評価された炉心再循環流路の圧力損失特性の変化量と揺動傾斜センサ9で計測された原子炉1の揺動傾斜量I9に基づいて、炉心水位の上昇又は下降を指示する炉心水位指令を調整する(ステップS82)。出力制御部23Bは、主蒸気流量と給水流量のミスマッチを識別する(ステップS84)。給水流量設定器29は、ステップS82で調整された炉心水位指令とステップS84で識別されたミスマッチに基づいて、給水流量の増加又は減少を指示する給水流量指令を調整する(ステップS86)。給水流量制御装置22は、ステップS86で調整された給水流量指令に基づいて、給水ポンプ15へ信号を生成し、実際変更する給水流量を給水流量設定器29にフィードバックする。給水流量設定器29は、フィードバックされた給水流量に基づいて、炉心水位変化量を予測し(ステップS88)、本第2実施形態の第4評価手段41dと同様に炉心流量変化量を予測する(ステップS46a)。出力制御部23Bは、ステップS46aで予測された炉心流量変化量に応じた反応度挿入指令を調整する(ステップS60)。
【0082】
給水流量の調整が開始されると、出力制御部23Bは、ステップS60で調整された反応度挿入指令に基づいて、炉心2内の蒸気体積率と炉心2入口の冷却水の温度と関連をテーブル化しておき、炉心2入口温度の指令を評価する(ステップS90)。抽気量設定器28は、ステップS90で評価された炉心入口温度指令と給水流量制御装置22から入力された給水流量とに基づいて、給水の温度の上昇又は下降を指示する給水温度指令を調整し(ステップS92)、抽気量の増加又は減少を指示する抽気量指令を調整する(ステップS94)。抽気制御装置21は、ステップS94で調整された抽気量指令に基づいて、抽気弁16へ開度信号を生成し、実際変更する抽気量を抽気量設定器28にフィードバックする。抽気量設定器28は、フィードバックされた抽気量に基づいて、給水温度変化を予測する(ステップS95)。
【0083】
次に、出力制御部23Bは、ステップS95で予測された給水温度に基づいて、最終的に反応度挿入指令を調整する(ステップS96)。
【0084】
次に、出力制御部23Bは、ステップS96で調整された最終反応度挿入指令と制御棒位置I9に基づいて、制御棒位置設定器26(
図6参照)で、制御棒挿入指令を生成する(ステップS98)。出力制御部23Bは、ステップS98で生成された制御棒挿入指令を制御棒制御装置19(
図6参照)に出力して、制御棒制御装置19(
図6参照)に制御棒8の位置を調整させる。
【0085】
ここで
図7に示す出力制御部23Bの動作について補足する。出力制御部23Bは、生成した反応度挿入指令を揺動及び傾斜により調整したら、補正反応度挿入指令を給水流量設定器29へ出力する。
【0086】
給水流量設定器29は、補正反応度挿入指令と揺動傾斜センサ9から入力した揺動傾斜量と炉心出力モニタ3から入力した炉心出力と流量センサ5から入力した炉心流量と、水位センサ6から入力した原子炉1の水位を利用し、補正反応度挿入指令に相当する炉心流量指令を計算し、この炉心流量指令に相当する原子炉水位指令を計算する。また、給水流量設定器29は、運転時水位制限を超えないように調整した水位変化量指令を計算する。出力制御部23Bで評価された主蒸気流量と給水流量のミスマッチと運転時水位制限途とに基づいて、水位変化量指令に相当する給水流量指令を計算し、給水流量指令信号を出力する。
【0087】
出力制御部23Bは、水位の運転制限に近づく又は給水流量の変化量指令は給水流量の変更速度の制限値を超えると、炉心水位の変更指令と実際水位変化量と相違が発生するため、給水流量設定器29は、炉心水位を予測し、炉心流量を予測する。出力制御部23Bは、炉心流量変化量による反応度挿入量を予測し、補正反応度挿入指令で足りない追加反応度挿入指令を抽気量設定器28へ出力する。
【0088】
出力制御部23Bは、追加反応度挿入指令に基づいて炉心入口温度指令を計算する。抽気量設定器28で、炉心入口温度指令と炉心出力モニタ3から入力した炉心出力と流量センサ5から入力した炉心流量と水位センサ6から入力した原子炉1の水位と給水流量を利用し、給水温度の指令を計算し、抽気量を計算し、抽気制御装置21へ抽気量信号を出力する。
【0089】
抽気量信号が制限値を超えると、抽気量指令と実際抽気量と相違が発生するため、抽気量設定器28は、給水温度を予測する。出力制御部23Bは、炉心入口温度を予測し、炉心入口温度変化量による反応度挿入量を予測し、追加反応度挿入指令で足りない最終反応度挿入指令を制御棒位置設定器26へ出力する。
【0090】
出力制御部23Bは、制御棒位置設定器26で、最終反応度挿入指令と制御棒8の位置から、制御棒挿入指令を計算し、制御棒制御装置19へ制御棒8の挿入指令信号を出力する。
【0091】
本第3実施形態に係る原子力発電プラント100Bは、他の実施形態に係る原子力発電プラント100,100Aと同様に、浮体式原子炉の出力制御装置で揺動及び傾斜の影響を緩和し、揺動及び傾斜時においても原子炉の安定と安全な運転を可能とする。
【0092】
また、本第3実施形態に係る原子力発電プラント100Bは、制御棒の挿入量に加え、給水量と給水温度で原子炉の出力を調整する。本第3実施形態に係る原子力発電プラント100Bは、自然循環の沸騰水型原子炉の場合で、反応度挿入指令において、反応度を給水流量と給水温度による部分的に挿入することによって、制御棒の移動を減少できる。
【0093】
本第3実施形態に係る原子力発電プラント100Bは、他の実施形態に係る原子力発電プラント100,100Aと同様に、浮体式原子炉である原子炉1を安定的に運転することができる。
【0094】
本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えることが可能であり、実施形態の構成に他の構成を加えることも可能である。さらに、各構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換が可能である。
【0095】
例えば、前記した第1実施形態に係る原子力発電プラント100(
図1参照)は、
図8に示す原子力発電プラント100Cのように変形することができる。
図8は、変形例の原子力発電プラント100Cの全体構成図である。
【0096】
図8に示すように、変形例の原子力発電プラント100Cの出力制御部23Cは、前記した第1実施形態に係る原子力発電プラント100(
図1参照)と比較すると、実測値から予測値を計算する予測値算出部32が付加されている点で相違する。
【0097】
出力制御部23Cは、
図2に示す処理を実行する。その際に、出力制御部23Cは、浮体式プラットフォーム31の揺動及び傾斜について、予測値算出部32で、揺動傾斜センサ9で計測された瞬時の計測結果から任意の時間経過後の揺動及び傾斜の予測値を予測する。瞬時の計測結果と予測を出力する。そして、出力制御部23Cは、ステップS44の評価及びステップS48の調整を行う際に、瞬時と予測データを利用する。したがって、変形例の原子力発電プラント100Cは、出力制御部23Cで行う調整として、揺動傾斜センサ9による実測値だけではなく、予測値も用いる。このような出力制御部23Cは、予測値算出部32で計算された予測値を用いて原子炉1の出力を調整することができる。
【0098】
また、例えば、前記した第2実施形態に係る原子力発電プラント100Aの出力制御部23Aは、第1評価手段41aで予測された炉心流路圧力損失特性の変化量と第2評価手段41bで予測された反応度の変化量、又は第4評価手段41dで予測された炉心流量を相互にフィードバックし、反応度変化量指令と炉心流量変化量指令を調整するように構成してもよい。
【符号の説明】
【0099】
1 原子炉(浮体式原子炉)
2 炉心
3 炉心出力モニタ
4 圧力センサ
5 流量センサ
6 水位センサ
7 再循環ポンプ
8 制御棒
9 揺動傾斜センサ(計測部)
10 蒸気加減弁
11 タービン
12 発電機
13 発電機出力センサ
14 復水器
15 給水ポンプ
16 抽気弁
17 プラント制御装置(出力制御装置)
18 再循環ポンプ制御装置
19 制御棒制御装置
20 圧力制御装置
21 抽気制御装置
22 給水流量制御装置
23,23A,23B 出力制御部
24 制御室
25 ポンプ回転速度設定器
26 制御棒位置設定器
27 加減弁開度設定器
28 抽気量設定器
29 給水流量設定器
30 チムニー
31 浮体式プラットフォーム
32 予測値算出部
41a 第1評価手段
41b 第2評価手段
41c 第3評価手段
41d 第4評価手段
42a 第1調整手段
42b 第2調整手段
42c 第3調整手段
42d 第4調整手段
42e 第5調整手段
50 指示装置
100,100A,100B,100C 原子力発電プラント
I3 炉心出力
I4 炉心圧力
I5 炉心流量
I6 水位
I9 揺動傾斜量
I13 発電機出力
I19 制御棒位置
I50 発電機出力設定値